FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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取り敢えず一話分は0時投稿できました。
もう一話分はもしかしたら少々お時間いただくことになるかもしれません…。

後皆さんに一つお詫びがあります。前回の前書きであと2話ぐらいで楽園の塔編が終わる、と表記したのですが…。


新ギルドに帰還する話を含めるの完全に忘れてました…。(汗)
と言うかあれ含めていいのかな?BOF編の序章の扱いの方がいいのかな、そのへんどうなんでしょう、誰か教えてくださぁい!


第30話 終焉の楽園

激しい振動、響く轟音、それら全てによって揺れ動く視界。楽園の塔最上階を目指して歩を進めていたシモンは、何度もその感覚に襲われていた。だが今しがた、一際規模が大きい揺れと音を感知し、立つことすら難しい状態となっている。

 

「さっきから塔全体の揺れが激しい…。それほどの衝撃が伴う戦いが繰り広げられてる、という事か…?」

 

最早この塔にいる敵はジェラールしかいない。そのジェラールとこれ程の戦いを行えるのはエルザか、それとも先に最上階へと向かって言ったナツか。どちらにせよ、エーテリオンが落とされてからそれなりに時間が経過している今では、この塔自体が保つかどうかも怪しい。

 

今現在楽園の塔はエーテリオンと言う膨大な魔力を吸収し、一点に留めている状態。だがそもそも、膨大な魔力を一点に留めておくというのはあらゆる危険を伴うものだ。高エネルギーが一か所に集まり切れずに暴発した場合、そこを起点として大規模な爆発を起こしかねない。

 

「エルザ、無事でいてくれ…!そしてナツ…頼んだぞ…!!」

 

エルザを救い、ジェラールを倒せる可能性を持っているのは、もうナツを置いて他にいない。シモンは彼を信じながらも、自分も彼らがいるであろう最上階を目指して再び歩き始めた。

 

 

だが彼は知らない。知る由もない。

今ジェラールと戦っているのも、先程の一番衝撃が強い爆発も、既に前線を退いたはずの少年が原因であることを…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

先程の爆発によって起きた揺れと光が収まり、水晶の破片があちこちで転がり音を立てる中、光の奔流に巻き込まれた一つの人影が再び動こうとしていた。

 

「うっ…さっきのは、一体…?」

 

緋色の長い髪を持つ女性、エルザだ。衝撃を浴びはしたが身体がその風圧によって飛んだだけで、それほど大きい被害はないようだ。爆心地となったジェラール、そしてその足元にいたシエルはどうなったのだろう?体を起こして辺りを見渡し、光にやられて眩んでいた視界が回復してきたことで、ぼやけていた部分もはっきりと映るようになる。

 

すると、先程よりも大分離れた位置に、その姿を確認することができた。水色がかった銀色の短い髪に金色のメッシュが入っている少年シエルだ。彼も何とか無事だったようだ。意識は失ったまま。もしかして先程の衝撃で微かに残っていた灯火が消えてしまったのか?最悪の想像が過ったエルザに答えを示すかのように…。

 

「…っ…お、れ…どう…なって…?」

 

少年が薄らと目を開いたのを見て、エルザは安堵した。どうやら無事だったようだ。魔力を激しく消耗し、外傷も多く受けたが最悪の事態は回避できたようでよかった。

 

すると、エルザの目は不思議な光景が映していることに気付いた。床に敷き詰めらている水晶の、破損した部分から目に見える何かのエネルギーが少しだけ、ほんのちょっぴりと言える量がシエルの身体に流れている。

 

本来魔力の回復は空気の中に含まれている魔力の源『エーテルナノ』と呼ばれる物質を、自動的に体内に吸収することで人間の中にある魔力の器が満たされていく。そして楽園の塔の中に吸収されたエーテリオンも濃密なエーテルナノの集合体。複数の属性を混ぜ合わせて凝縮されたそれは、本来別属性の魔力を吸収した際に体調を崩すことがある。故に基本は別属性のエーテルナノは自動的に体に吸収されないのだ。

 

今シエルの身体にも微量のエーテリオンの魔力が流れ込んでいるが、シエルが扱うのは天候魔法(ウェザーズ)。光、水、雷、風、土と言った複数の属性を併せ持つ魔法が使えるため、数多の属性を一度に吸収している。だからエーテリオンの魔力を身体に入れても、理論上は問題ないのだ。そのおかげでシエルは意識が戻る程魔力を回復できたということなのだろう。

 

「エーテリオンを身体に取り込むとは…」

 

ここ最近のシエルに、エルザは本当に驚きの連続だ。気象転纏(スタイルチェンジ)は本人が練習と特訓を重ねて作り上げたものであるからまだ納得できる。しかし“天の怒り”と言う暴走状態、先程起こした謎の爆発、そして今エーテリオンの魔力を微量ながら吸収している状態。並の人間ならばおおよそあり得ない現象を引き起こしている。

 

「(シエル…お前は一体…?)」

 

すると、エルザの耳に一つの音が入ってくる。水晶の床を力いっぱい踏みつけるその音の方向に振り向くと、先程の爆発を一番近くで受けていたジェラールが、怒りを顔に滲ませた状態で立っていた。さすがに先程の衝撃は彼も堪えたのか、魔法陣が入っていた部分は血が出ており、衣服もローブと上着がボロボロで、中に着込んでいるノースリーブのインナーが見え隠れしている。あの規模の爆発で五体満足の状態でいるジェラールの姿はエルザとって衝撃的であった。

 

「このクソガキがぁ…!一体何をしやがった…!!」

 

思わぬダメージを負い、ふらつきながらシエルの元へと歩み寄るジェラール。その顔の怒りは、今まで以上に殺意の歪みを表に出している。対してシエルは意識は戻ってきたものの、動けそうな気配はない。まずい。直感的にエルザは理解し、彼を止めようと動く。

 

「待て…やめろ、ジェラール!」

 

しかし彼女の身体は未だに思うように動かすことができず、ジェラール自身も最早シエルの憎悪でエルザが見えなくなっていた。エルザの声にも反応せず、真っすぐにシエルの元へと向かっていく。

 

「(や、やばい…魔力はちょっと回復したみたいだけど、体のあちこちが、痛みで動かない…!)」

 

そして体を動かせないのはシエルも同じだった。このまま為す術もなくやられる未来を想像して、シエルは歯噛みする。一方のジェラールはシエルの近くに辿り着くと今度こそ彼にとどめを刺そうと腕を上げる。そしてそれを振り下ろそうと…。

 

「いや、待てよ…?」

 

したところで、その動きはピタリと止まる。彼に攻撃を加えようとしたジェラールは咄嗟に先程の事を思い出した。怒りと憎しみにかられて出来なかった冷静な分析と判断。この直前にそれを改めて行う余裕が出来た。

 

先程シエルが起こした爆発。だが、その時シエルは確実に気絶していた。これは彼自身の意志とは関係なく発動した者、つまり無意識下によるもの。次に発動条件。どういう原理なのかまでは分からないが、左掌、右膝、右足、そして最後に触れた右手に現れた黄色の魔法陣。気絶した後になってジェラールがシエルに触れた部分だ。直接的に接触すれば発動するもの…逆に言えば触れなければ先程の爆発は起こらないという事。

 

あの爆発がどのような魔法であるのかは不明だ。天候魔法(ウェザーズ)にそのような技が無い事も知っている。だが彼は聖十大(せいてんだい)()(どう)として認められるほどの魔導士だ。知識の量も群を抜いている。だからこそ初見であるあの現象の中で、どのような性質を持っているかを見破ることができたのだ。

 

「対処法が分かれば簡単だ。触れずに攻撃すればいい…」

 

そう言いながら振り上げていた右腕を一度後ろに引くと、ジェラールの右腕に光の魔力が形を作られ、六つの小さい星が浮かび上がる。一度下に降り、再び上に振り上げると螺旋を描くように上空へと浮かび上がっていく。やがて星は空中で円を描くように同じ高さを旋回し…。

 

「天体魔法・『六連星(プレアデス)』!!」

 

腕を振り下ろすと同時に六つの星がシエル目がけて降り落ち、光の柱を発生させてシエルを吹き飛ばす。最早悲鳴を上げることもできず宙に投げ出されたシエルに、ジェラールは追い打ちをかけていく。後ろに手を引いて念じれば、彼の背後に九つの光の剣が浮かび上がり、それをシエル目がけて投げ飛ばす。

 

「『九雷星(キュウライシン)』!!」

 

容赦なく突き刺さり、シエルの身体を衝撃で吹き飛ばしていく。響く轟音、起こる衝撃、そして悲鳴混じりのエルザの叫び。それら全てが再び遠のく感覚をシエルは感じた。

 

結局ほとんど何も出来なかった。エルザを助けようと、ジェラールを食い止めようと勇んできた結果が、このザマか…。己の無力に後悔を募らせながら、吹き飛んでいた小さな体は…。

 

 

 

「おっと」

 

床に叩きつけられるより先に、誰かによって受け止められた。

 

 

「うおっ、ボロボロじゃねえか、大丈夫かよシエル?」

 

聞き覚えのあるその声に、遠のきかけたシエルの意識は再び覚醒した。自分の身体を羽交い絞めする時の態勢で抱え上げるその人物の顔を見ようと振り向き、その姿をシエルは視認した。

 

「ナ、ナツ…?」

 

桜色の短い髪を持ち、白い鱗柄のマフラーを身に着けた火竜(サラマンダー)。ナツ・ドラグニルがついにこの最上階に現れた。

 

「いや~大変だったんだぞ?急に光ったと思ったらなんか塔の見た目変わってるし、急いで登ろうと思ったのに揺れまくって道塞がったり軽く酔ったりして…うぷ…」

 

「思い出して酔うな…!」

 

塔が衝撃で揺れるだけで酔うってどこまで酔いに弱いんだこいつ、と叫びたかったが上手く声も出せない状態だ。一方のジェラールは遅れてきた本命に口元に弧を描いて満足そうな様子だ。

 

「ようやく来たか、ナツ・ドラグニル。随分と遅い到着だったようだな?」

 

「お前がジェラールか」

 

ゲームを開催した張本人との対面。ジェラールに鋭い視線を向けたナツに向かって、エルザは絞り出すように声を張る。

 

「ナツ、頼む!シエルを連れて塔から離れてくれ!もう自分で動くことも限界なんだ!」

 

「お、俺は大丈夫、だから…エルザを…!」

 

「そんなの分かってるよ」

 

シエルは自分よりもエルザを守ってほしい、とナツに懇願しようとするが、それを言い切る前にナツから答えが返ってきた。初めから自分がやることは、分かっている。

 

「エルザは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仲間だ。あんな奴に渡すわけがねえ。絶対に連れて帰る。エルザもシエルも、みんな揃って妖精の尻尾(オレ達の家)に帰るんだ」

 

強い決心…と言うものではない。彼にとってそれは、ごく普通で当たり前の事。そんな当たり前の事を実現する為に一見無茶と言えるようなことさえも迷わず行うことが出来る。そんな姿勢がシエルには眩しく見えた。

 

「自信満々のようだな。守れるか、仲間を?そのガキは殺す。エルザは生贄とする。そんなオレから同時に、守れるのか?」

 

ジェラールの言葉はもっともだ。ナツが戦いの中でシエルを守ろうとすればエルザを狙い、エルザを守ろうとすればシエルに攻撃するだろう。戦えない味方が二人もこちらにいるとなっては、ナツとしても動きづらい…。

 

「シエル、魔力はあとどれくらいある?」

 

するとナツは突如彼に聞いてきた。共に戦えるかの確認だろうか?しかし、今のシエルは微量のエーテリオンで少々回復できているとはいえ、現状で使える魔法はごく僅かだ。正直に答えるとナツはさらに聞いてくる。

 

曇天(クラウィド)はどうだ?」

 

曇天(クラウィド)…?それなら…大きさにもよるけど、数回ほどなら…」

 

曇天(クラウィド)を使っての策でもあるのだろうか?ナツはあまり物事を考えるということには向かない。だが戦闘においては思わぬ視点から勝機を見出したり突破口を見つけ出して勝利に繋げる事を得意としている。頭の回転と状況判断は早いのだ。何か良い案があるのだろうかと、ナツの言葉を待っていると彼は口元に笑みを浮かべていた。

 

「なら十分だな!」

 

客観的に見れば不敵な笑みにも見えるその表情。だが、シエルはそれを見て何故か安心できなかった。むしろ嫌な予感がする。何をする気だ、何を考えているんだ?その答えはすぐに判明した。

 

すぐさまシエルの体を肩まで持ち上げて、最上階から外へと繋がる穴に向けて走り出す。ここまで来ればもう誰でも分かるだろう。ナツの思惑が。「待て待て待てナツぅ!」と言う制止の声も無視して彼は勢いよく飛び上がり…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「後は任せろ!交代だぁああああっ!!」

「ぎゃあああああああああっっ!!?」

 

塔の外へと思いっきりシエルの体を投げ飛ばした。嫌な予感が的中したことと、突如起きた絶望に、シエルは両目から涙を流しながら悲鳴を上げて落ちていく。

 

「ええ!?」

「は…?」

 

ナツがやらかした思わぬ奇行(もしくは蛮行)にエルザもジェラールも開いた口が塞がらない。エルザに至ってはちょっと可愛らしい声で驚愕している。

 

「ナァァァアアアアツゥゥウウウウウウッ!!!覚えてろよぉおおおおおおぉぉぉぉ………」

 

今までの傷の痛みと疲労も忘れて絶叫しながら、遠のいていく声と共に落下していくシエル。それを持ち前の視力で見届けたナツは彼の姿が見えなくなると「よし!」と両手を腰に当てて満足げな表情。何がよしなんだ、おい。

 

「…噂以上の傍若無人っぷりだな。身動きできない仲間を海へと投げ飛ばして…正直軽く引いたぞ、ここまで酷いとは…」

 

「失敬だな。オレはちゃんとあいつが無事に降りれるように魔力があるかどうか聞いたじゃねえか。本当に酷いやつなら確認もしないで投げ飛ばすだろ、なあ?」

 

「「いや、そう言う問題じゃないだろ…」」

 

若干引き気味のジェラールの言葉に心外だと言わんばかりに口を尖らせる。だが何のフォローもできそうにない屁理屈に思わず敵味方の垣根を超えて声を揃えてツッコミが入る。それだけナツの行動がおかしいと言える証明だ。

 

「シエルのことなら心配いらねえ。あいつなら絶対無事に下に行ける」

 

行動は酷いが、仲間への想いは本物だ。絶対にシエルは己の力で無事に下へと辿り着く。それを信じて、今自分がやるべき事をやるだけだ。

 

「今度はオレが相手だ。エルザは返してもらうぞ…!」

 

「いいだろう。一度お前の力を見てみたかったんだ…。来い、ドラゴンの魔導士…!!」

 

体から炎と熱気を放つ火竜(サラマンダー)、ボロボロになっていた衣服を破り捨て、上半身がインナーのみとなりながらも笑みを浮かべるジェラール。楽園の塔における最後の激突、その火蓋が今、切って落とされる。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

それから数分後。楽園の塔周辺で荒れていた海は落ち着きを取り戻していた。そんな海の上をプカプカ浮きながら漂う一つの人影。どこか虚ろな目を浮かべているその少年はシエル。急降下状態で必死に曇天(クラウィド)を自分の下に展開しては勢いを弱め、海に着水する頃には飛び込み台から落ちる程度の威力にまで弱めることができた。

 

しかしその際の道中は生きた心地はしなかったし、必死になって曇天(クラウィド)を展開したから今度こそ魔力も空の状態だ。体全体が動かない。と言うか動く気にもなれない。

 

「今日だけで何度も死ぬかもって思ったけど…これが一番死に近かった気がする…」

 

取り敢えず無事に戻れたら覚えてろナツ…と心の中で決めながら、海上で待っていた仲間たちに発見されて引き上げられるまで、シエルは虚ろな目のまま楽園の塔、そしてその先の空を眺めて漂っていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「全くもう、一人で急に飛び出してどうしたかと思っちゃったわよ!」

 

海上を漂いながらも近づいてきた仲間たちに引き上げられ、シエルはようやく落ち着くことができた。と言っても、魔力が空になった状態ではほとんど動くことすらできない状況ではあるが。

 

「…なあ、大丈夫かこいつ?さっきから目が死んでるように見えるんだけど…」

「ネコネコに食べられてる魚みたいな目をしてるみゃあ…」

「上で一体何があった?…だゼ…」

 

心配を駆けさせたことでご立腹の様子なルーシィに反して、ショウたちはシエルの様子が飛び出す前と打って変わって別人のようになっている事実に、心配になっている。そんな彼の様子に何となく心当たりを感じたのはハッピーだ。

 

「ひょっとして、あのてっぺんのとこからナツに落とされた…とか?」

「…正解…」

 

それを聞いて一同が納得した。同時に同情した。何で敵であるジェラールではなく、仲間であるナツに危うく殺されかける事態になるんだ、と共感されるレベルだ。

 

「ナツはともかくとして、エルザは大丈夫だったよな?」

 

「…うん…しばらく戦うのも難しそうだったけど、ナツが戦ってる間は、大丈夫…」

 

仲間に心配され、先程の戦いを思い出し、そして胸の中に抱えていた愚痴を吐き出したことで虚ろ気味だったシエルの目は光を取り戻した。グレイに問われたエルザの安否を答えると、ひとまずは一同に安堵の空気が流れる。すると、楽園の塔に異常が発生した。

 

上空から何かの雄叫びのような声が響いたと思いきや、楽園の塔の中心が、何かが突き破ったかのように上から下へと爆発と轟音を起こしながら破壊される。そのおかげで塔全体から白煙が舞い上がり、下層の方は煙幕で包まれて何も見えない状態だ。何が起こっているのか戸惑いと共にどよめくショウたちに対し、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーはこの状況を理解していた。

 

「あれ、絶対ナツだ…!」

 

「うん、あたしもそう思う…!」

 

「暴れまくってんなあ、あいつ…」

 

ここまで暴れまわる必要のある強敵を相手に、きっと大丈夫だと信じたいところであるが、実際に何が起こっているのかは不明のままだ。シエルが落下していた時も、海上を漂っていた時も時折塔が揺れるほどの衝撃が起きていたが、その中でもこれ程の規模は恐らく一番だと思われる。

 

その証明なのか、今の衝撃を最後に楽園の塔は異常なほどに静まり返っている。だが、しばらくすると今度はまた違った異常が発生し始めた。白煙が晴れ切って姿を再び現した塔のあちこちから、水晶と同じ光が直線状に放たれ出す。まるで内側に溜め込んでいた何かがもうすぐ溢れ出して暴発するような…。

 

「あの光…凄まじい魔力を感じます…!」

 

「まさかエーテリオンが暴走してるのか!?」

 

「暴走!?何で!!?」

 

エーテリオンを楽園の塔が吸収した時点で、それを危惧していた者は何人もいただろう。27億イデアもの大きな魔力を一点に留めておくことは不安定。Rシステムを発動させればその心配もいらなかったのだろうが、ここまで来てしまえばそれも最早不可能。行き場を無くした魔力の渦はやがて弾け、その場で大爆発を起こす。

 

「ちょ!?こんなところにいたら、オレたちまで…!」

 

「中にいる姉さんたちは!?」

 

爆発に巻き込まれて自分たちまで危険な目に遭う未来が浮かんでしまう。そして爆心地と言える塔の中にいるエルザたちの身も危ない。だが、そんな危惧さえも覆る最悪の前提が残酷な現実を突きつける。

 

「誰が助かるとか助からないとか以前の問題だ…」

 

「ああ…。オレたちを含めて…全滅だ…!!」

 

シエル、そしてグレイの言葉は、一同に絶望を圧し掛からせた。今から遠くへ行こうとも逃れられない死に、彼らの空気は自分たちに降りかかる遠くない未来に対し、全てを諦めた絶望に包まれた…。

 

 

 

エーテリオン投下前にジェラールが示した楽園ゲームの結末。全員の死、勝者なきゲームオーバー。その結果がこのような形で示されることになろうとは…誰もが予想できなかっただろう…。

 

 

 

かくしてその時は訪れた。一際塔の輝きが強まり、その光は螺旋を描くようにして空の方へと向かう。爆発した。その事実にウォーリーやミリアーナは狼狽する。だが、いち早くグレイが気付いた。本来起こるはずのない不思議な現象に。

 

「エーテリオンが空へ…空中へ流れてる…!」

 

一か所に留まっていた魔力は、誰の被害も及ばない場所へと、空中へと流れ出ていく。もしかして助かったのか。誰もがそう考えていた次の瞬間、放出を終えて静まっていた衝撃の余波が塔を中心に発生し、水の球体で包まれた一同を付近の海ごと吹き飛ばす。

 

 

楽園の塔は、Rシステムは消えた。水晶色の光と共に、魔力は空へと流れゆき、外部にいた者たちの全てに影響を及ぼさず、完全に消滅した。だがそれは…。

 

 

 

「ナツー!!エルザァーー!!!」

 

 

 

彼らにとって大切な存在である二人の仲間も…消滅した可能性が存在するという事だ…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

勢いよく波に流されていき、水の球体に包まれた状態で、一同はとある浜辺に辿り着いた。その浜辺は楽園の塔…今は跡地であるが、そこから一番近い位置に存在するアカネビーチ。一行が楽園の塔へ向けて出立した場所だった。

 

生きて戻ることができた。しかし、その場にいる誰もが、表情に影を落としている。絶対に払ってはならない、大きな犠牲を払ってしまったからだ。

 

 

ショウたちにとっては8年以上仲間として共に生きてきたシモン。シエルたちにとっては家族のように過ごし、共に戦ってきたナツ。

 

そして、この場にいる全員にとってかけがえのない、共通の仲間、エルザ。

 

誰もがその場にいる者たちの無事を喜ぶことができない。彼らを救う事も出来ずに、自分たちだけがこの場に戻ってきてしまった後悔が大きく募る。受け入れられない現実に、涙を浮かべる者もいる。

 

「ごめん…」

 

謝罪の言葉を告げたのは、この場にいる中で最年少の魔導士。そしてこの場にいる中で最後に、ナツとエルザを助けられる可能性を持っていた少年だった。力を無くしたように膝から崩れ落ちて、波が押し寄せる浜辺に座り込んだその少年に、全員の視線が集まる。

 

「…俺が連れ戻すべきだった…。俺が…エルザたちを連れて脱出できる、最後の存在だったかもしれないのに…!」

 

あの時ジェラールと戦わず、エルザと逃げるべきだった。いや、そもそもエルザをジェラールのところに行かせたことが間違いだったかもしれない。ナツやシモンと合流してエルザを連れて逃げることができれば…そんな後悔が、今になってシエルに襲い掛かる。

 

自分のせいだと。自分が間違った判断をしたことで、仲間たちを失うことになったのだと、涙を浮かべ、嗚咽を交え、シエルは今いる仲間たちに詫びる。そんな少年を責めようとする者は、一人もいない…。

 

「しょうがないよ…あたしたちだって、動くこともできなくて…」

 

「ナツならきっと大丈夫だって…何があっても絶対、大丈夫なんだって…思ってた、のに…!!」

 

嘆き、悲しみ、彼らを失ったことによる慟哭は、心に大きな傷を残すことを表している。誰もがその悲劇に涙を浮かべ、誰もがその喪失感に打ちひしがれている。

 

 

 

失ったものはもう戻ることはない。一度は失った経験を持つ彼らにとって、その事実は絶望へと塗り替えられる…。

 

 

「……?…この、感覚は…?」

 

悲壮の空気を感じていた一同の、そんな絶望を払うきっかけは、水の魔導士であるジュビアが発端だった。突如何かに気付いたようにしゃがんで海の中に手を入れて集中する彼女に、全員の視線が刺さる。そして少しすると、ジュビアはある一点の方向へと顔を向ける。その表情は目を見開き、その目に映るものが信じがたいと言わんばかりに、驚愕に染まっていた。

 

「皆さん…あそ、こ…!!」

 

そして指を指した方向に全員が視線を向けると、全員がジュビアと同じ表情に一変し、その後、各々のタイミングでその表情を喜色へと染める。

 

 

 

同じ浜辺に、しかし幾分か遠くにその姿を現したのは、二人の人影。一人の青年が、もう一人の女性を横抱きにして仁王立ちしているところだ。

 

青年は桜色の短い髪に、首に白い鱗柄のマフラーを巻いており、女性は長い緋色の髪で、胸に白いサラシ、下半身は炎を模した意匠の袴。

 

 

楽園の塔のエーテリオンの暴走に巻き込まれたと思われたナツとエルザが、その命を保ったまま、彼らの前に現れていた。その姿を認識した時、一同は先程の空気を一転し、喜びを表しながら海の方へと駆けだしていく。

 

『エルザーーー!!!』

 

駆け寄って、己の名を呼ぶ仲間たちにエルザは、自分が生きていることに驚愕しているようだ。そして、己を抱えているナツに目を向け、さらにその目を見開く。まるで先程になって目を覚まし、状況を把握しようとしているかのように。

 

そこから、膝をつき、エルザを下ろしたナツが彼女に何かを語りかけているようだが、シエルたちは二人が無事であったことへの喜び、一刻も早く彼らの元に付きたいという一心で動かす足によって起きる水音で内容までは聞こえない。だが、彼女が浮かべる笑みと涙が、どのような言葉を紡いでいるのか、おおよそで感じさせてくれる。

 

涙を浮かべながらも、心からの喜びを思わせる笑みを、駆け寄ってきた仲間に見せるエルザに、ルーシィ、ハッピー、シエルが、真っ先にエルザの身体に抱き着いていく。

 

「よかった…無事だった…!!」

「どんだけ心配したと思ってんだよ!!」

「姉さん…!!」

 

「…みんな…」

 

自分たちの無事を喜び、涙を流す彼らに、エルザはさらに胸の奥が熱くなるのを感じる。そんな中で、シエルの涙混じりに自分の名を呼ぶ声が彼女の耳に届いた。

 

「約束…守ってくれて…よかった…!!」

 

「…!!」

 

彼のその言葉でエルザの頭にある一つのやり取りが蘇った。それは、シエルが斑鳩を撃破し、万全の状態でジェラールとの戦いに臨もうとしていた時。

 

『…エルザ…死なないでね…?』

 

『…勿論だ。決着をつけてくる』

 

実のところ、エルザはあの時心の中でシエルに謝罪をしていた。もしもの時はエーテリオンを利用してジェラールと共倒れになろうとし、その約束を反故にしてしまうかもしれなかったことを。そして、エーテリオンが暴走を起こしていた時、暴発による外部への被害を抑えるため、魔水晶(ラクリマ)と融合してエーテリオンの魔力をコントロールしようとした。その為に自分の身体は分解される可能性があることを承知で行ったことを。

 

その結果、どのような未来を辿ることになり兼ねなかったか、エルザは知っている。もう一つの未来を、見てきたかのように。否、彼女は実際に見たのだ。己の墓の前で悲しむ家族たちの姿を。自分の死を受け入れずに激昂するナツを、抑えようとする仲間たちを。そして、約束を守らずに死んでいった自分に、慟哭するシエルの姿を。

 

あの姿を、現実のものにするわけにはいかない。エルザは固く決意することにした。今度こそは…。

 

「仲間と交わした約束だ…絶対に、破りはしない…」

 

この場で真実は語らない。その代わり、今後の約束を、必ず果たすと誓う。仲間の為に死ぬのではなく、仲間の為に生きる。それが、幸せな未来に繋がると信じて…。

 

 

 

彼女の言葉に頷きながら笑みを浮かべて顔を上げたシエルの目に映ったのは、()()()()()涙を流して、こちらに微笑むエルザの姿だった。




※おまけ風次回予告

シエル「エルザが生きててくれたよぉおっ!!うわぁぁあああんっ!!(泣)」

エルザ「泣きすぎだぞシエル。その気持ちだけで、私は十分だ」

シエル「だって、だってさ、塔があんな風になったら、誰だって気が気じゃなくなるよ!ホントに、本当に生きてて…ううっ…!」

エルザ「やれやれ…。私としては、お前も生きていてくれたことに、安心しているんだ」

シエル「えっ…俺…?」

エルザ「ナツに海へと投げ飛ばされた時、本当に大丈夫なのだろうかと、心配したんだぞ?」

次回『強く歩け』

シエル「あ、そうだった、忘れるとこだった!ナツに目にもの見せてやらなきゃ!」

エルザ「ほ、程々にしておけよ?行動はともかく、ナツもお前を思ってだな…」

シエル「時にエルザ~ちょっと耳貸して~?(黒笑)」

エルザ「…?」
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