FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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間に合いました!年内で楽園の塔編完結!
色々と考えましたが次回予定の新ギルド帰還の話は、次章のはじめと言う扱いにすることに決めました。ほぼ閑話を挟む余裕もないですけれど…w

今年最後の一日、降雪は如何だったでしょうか?地元のニュース見たら最低気温-3.1℃、積雪量43センチだと記録されたそうです。ヤベェ…。

これが今年最後の投稿。今話に入っているシーンに涙した人も多いでしょう。

その感動が台無しになってないか不安ですが、どうぞお楽しみいただけると嬉しいです。
そして今年5月から書き始めてここまで来れたこと、大変嬉しく思います!ありがとうございました!また来年も本作品をよろしくお願い致します!よいお年を!


第31話 強く歩け

アカネリゾートが所有するリゾートホテル、そのスイートルームは現在妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名義で一週間貸し切りとなっている。その一室のベッドの一つで、大きないびきをかきながら三日間ずっと寝ている人物が一人。火竜(サラマンダー)の異名を持つ魔導士、名はナツ・ドラグニルだ。あちこちに包帯で巻かれた状態のまま眠りこけて丸三日。同室の仲間たちはそんな様子を呆れた様子で見ていた。

 

「大丈夫か、こいつ?」

「三日間寝っぱなしだしね、いつ起きるのか…」

「ナツ!ルーシィがメイドのコスプレで、歌って踊ってみんな引いてるよ!」

「そんなんで反応されて起きてもらってもヤなんだけど…」

 

呆れた様子のグレイとシエル。そしてハッピーがナツにかけたカオス極まりない状況を騙った嘘に、ダシにされたルーシィが苦言を呈していると、声は聞こえていたのか「ぷ」と寝ながら吹き出して、ルーシィから心外とばかりにツッコミが入る。

 

「もうしばらく休ませてやろう。仕方ない状況だったとはいえ、“毒”を食べたに等しい」

 

「エーテリオンを食ったんだっけか?だんだんコイツも化け物じみてきたな」

 

ナツはジェラールとの戦いの最中、エーテリオンが含まれている魔水晶を直接食らったそうだ。炎を食べることで魔力の回復、増幅を行える滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)。エーテリオンに含まれている炎の魔力を喰らって力に変えようとしたらしい。しかし、エーテリオンには炎以外の属性も多分に含まれているため、下手をすれば自滅になりかねなかったのだが、彼はそれを乗り切った。自らが喰らったエーテリオンのエネルギーを取り込んで、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)としての力を覚醒させた。その覚醒させた力で、ジェラールを見事打ち倒したそうだ。

 

その結果、今のように三日間寝たきりの状態であるのだが、魔水晶(ラクリマ)に体を融合させて仲間を守ろうとしたエルザに説教できる立場なのだろうか、と彼女は思った。そしてふと、ナツ以外にもエーテリオンを取り込んでいた人物がいたことを思い出した。

 

「そう言えば、シエルは大丈夫なのか?お前もエーテリオンを取り込んでいただろう?」

 

「ああ…俺の方は特に…。むしろ斑鳩やジェラールにやられた傷の方が多くて、その辺り分かんないし…」

 

ナツやエルザ同様に包帯に巻かれた部分が多いシエルは、苦笑しながら自身の容態を口にする。彼の場合はエーテリオンを摂取した副作用よりも、それ以前に負った傷の方が重大だった。斑鳩との戦いによって出来たほとんどの傷は慈雨(ヒールレイン)で治癒できたものの、最後に彼女から受けた一撃、そして時間を空けてジェラールとの激闘。負担がかからない訳が無かった。

 

「ナツの事言えないじゃないの、あんた…」

 

「シエル、お前もしかしてナツ(こいつ)同様の化け物みたいになってたりしてねえか?」

 

「…じゃあ試してみようか?滅竜魔法!日光竜の~」

 

「ただの日射光(サンシャイン)じゃねえか!!」

 

何だかんだでシエルもナツとほぼ同じように無茶をしたと認識したルーシィとグレイからそんな風に言われてしまうシエル。だが、シエルはそれでめげない。むしろナツみたいに、と言うグレイの言葉にピンと来て立ち上がり、グレイ目掛けて右手に持つ日射光(サンシャイン)をかざしながら、滅竜魔法っぽい言い回しを言おうとして、視界を腕で覆ったグレイに突っ込まれた。その様子を傍目で見ているルーシィはおかしかったのか声を上げて笑っている。

 

「今回の件では皆にも迷惑をかけたな。本当に…何と言えばいいのか…その…」

 

「もう…そのセリフ何回言ってるのよぉ」

 

エルザはこの三日間の間、機があれば仲間たちに謝罪を述べている。自分たちがエルザの力になりたくてなっただけだし、放っておくこともできなかった。だから謝られる必要など一切ないのだが、エルザ自身、どうしても気になってしまうらしい。いずれは過去の事として平然としていられるようになることを祈ろう。

 

時に、エルザは一人姿が見当たらない人物がいることに気付いた。ファントムのエレメント(フォー)であったにも関わらず共に戦ってくれた少女の姿が。

 

「そう言えばあの娘は?」

 

「ああ…ジュビアか。もう帰っちまったよ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に一刻も早く入りてぇとか何とか」

 

エルザが大きく関わっていた出来事に、尽力してくれたジュビア。少なくとも今この場にいる妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーからの信頼は厚いだろう。特に反対意見を申し出る者もいなかったため、彼女は一足先にギルドに入るために向かったそうだ。

 

「そうか…。聞けば世話になったようだし、私からマスターに稟請しても良かったのだがな…」

 

「あ、多分その心配はないと思うよ。ジュビアに、マスター宛で手紙を渡しておいたから。あれを見せればきっとマスターも悪いようにはしないよ」

 

「そうだったの?用意良いわね…」

 

実は彼女が妖精の尻尾(フェアリーテイル)に向かう前に、ジュビアからシエルに話を持ちかけられた。ある一つの事柄に関してジュビアはどうしても気になることがあったらしい。その話を終えた後、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入りやすくするために手紙を用意し、マスター・マカロフに渡すようにと彼女に告げていたのだ。

 

ちなみに、ジュビア自身にシエルからちょっとしたアドバイスも与えられたのだが、それについては後程という事で。

 

「そう言えば、エルザの方こそ寝なくていいの?」

 

シエルがふと思い出したように話題を変える。楽園の塔の事件が終結した翌日、エルザから聞いた話に一同は愕然としたことを覚えている。エーテリオンの渦巻く魔水晶(ラクリマ)の中に自ら入り込み、その魔力をコントロールして空中へと逃がしたことを。一歩間違えればそのまま体が消滅してしまった事実に、シエルが泣きながら怒って「嘘つきぃ!」とポカポカ殴り掛かってきたのを見て、エルザはより一層罪悪感を感じたとか。

 

そんなこともあってか、エルザの方もまだ休息が必要なのではないかと心配の声をかけるが、エルザ自身は見かけほど大した怪我ではないそうだ。

 

「エーテリオンの渦の中では、体は組織レベルで分解されたはずなのだがな」

 

「分解…奇跡の生還すら生温いレベルじゃん、それ…」

 

さも大したことではないかのように語っているが、本当にちょっとでも間違えればそのまま死に直行だったわけだ。改めて事の重大さに気付かされたシエルは、再び身体を震わせている。一方でグレイはエルザに感心すると同時に、同様の症状に陥っているナツを比較する。

 

「何はともあれさすがはエルザだな。勝手に毒食ってくたばってるマヌケとはえらい違いだ」

 

「今何つったァ!!グレーイ!!!」

 

すると今の今まで起きなかったナツが、グレイの自分を貶す言葉によって目を覚ました。勢いよく怒りを現しながら起き上がったナツに驚く様子も無く「素敵な食生活デスネって言ったんだよバーカ」と言い返してナツの言葉を詰まらせる。珍しく反論できないようだ。

 

「てかお前、フクロウの餌になってなかったか?食う方か?食われる方か?どっちだよ食物連鎖野郎」

「え、食われたの?あの梟男に?グレイその話詳しく」

「うぬぬぬぬぬぬぬ…!!」

 

詰め寄りながら問いかけてくるグレイの言葉の中に、初耳のからかい甲斐のある情報を見つけたシエルは詳細を聞こうとする。二人がかりで自分を貶めようとしてくる様子に、ナツは言い返せずに唸り続け…

 

「くかーー」

「「寝たーー!!」」

「絡む気ねえなら起きんじゃねえ!!」

 

パタリと再び寝始めた。言い返せなくなって不貞寝した感じではなく、力尽きて再び眠りに入ったように。ただ単にグレイの発言に怒って起きたのはいいが、身体の方は未だに休息を求めていたようだ。随分器用な身体だと感じながらも、一部始終を見ていたルーシィの笑い声、そしてそれにつられるように、ハッピーやシエル、グレイまでもが声を上げて笑う。スイートルームの一室は楽しげな喧騒に包まれた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

その後、エルザがショウたちを連れてきて、改めて互いに紹介、そして交流を深め始めた。特にナツと彼らはほとんど面識が薄く、互いについてほとんど知らないことが多い。ハッピーを取り戻すために一度は衝突したが、ジェラールに騙されていたことに気付いた後は、事前に聞かされたシモンの説明もあって誤解も解けた。

 

ちなみにシモンの事だが、残念ながら楽園の塔で命を落としてしまったそうだ。エーテリオンの爆発に巻き込まれたからではない。ナツがジェラールと戦っている中で、塔を壊そうとしたことに怒ったジェラールが大技を発動。ナツの前に立って庇おうとしたエルザの更に前に立ち、二人を身を挺して守りきり、事切れた。エルザからその話を聞いたショウたちは悲しんだが、かつてシモンがずっとエルザの力になれることを、エルザの為にできることを望んでいたことを知っていたため、彼が最期にエルザを守れたことに、少なからず救われただろう。

 

シモンが残してくれた未来を進んでいく。過去は未来に変えて歩き出す。今日の一歩は明日に繋がる一歩になると、エルザは彼らに語り、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に誘った。行く宛もないだろうし、何よりエルザ自身が、今度は共にいたいと感じているから。

 

 

そして残された宿泊期間の間で一同は親交を深め、寝食も共にしていた。カードの魔法が使えるショウの話を聞いて、同系統の魔法が使えるカナの話を伝えたり、ミリアーナはハッピーと特に仲良くなろうと積極的に話をしたり遊んだりしていた。

 

そしてウォーリーだが、意外にもシエルと一番意気投合したと言える。何でも彼には兄がいるそうだ。奴隷として一緒に囚われた後、離れ離れになってしまったようだが、もし今も生きているならば会いたいと若干涙ぐみながら話す彼に、シエルも自分の兄弟を話をした。兄弟がいる者同士、シンパシーを感じる部分が多かったのが理由なのだろう。

 

 

そしてチェックアウト…つまり滞在期間最終日の前日の夜。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の男性陣は自室にて談笑に浸っていた。とうとう明日はショウたちを連れてギルドに戻る日だ。思い出すと本当にあっという間だったと語る。まあ、初日の夜にショウたちの襲撃、エルザは連れてかれ、その後は丸一日楽園の塔で激闘に次ぐ激闘だったのだ。ほぼ二日分はビーチにいなかったに等しい。妙に早く感じる時の流れを自覚しながら、もうそろそろ休もうかと誰かが切り出そうとしたその時。

 

「あ、みんなここにいたのね!」

 

「ルーシィ、どうかした?」

 

「お腹減ったの?魚食べる?」

 

「減ってないしいらないし!」

 

突如部屋に入ってきたルーシィに全員の視線が向く。ハッピーのボケとそれに対するツッコミと言ういつも通りのやり取りもそこそこに、ルーシィはここに来た用件を告げた。

 

「それよりも、さっきエルザがね…」

 

ルーシィの話によると、ショウたちの姿がどこにも見当たらないと、エルザが慌ててルーシィの元に訪ねきたらしい。妖精の尻尾(フェアリーテイル)へと一緒に向かう予定だったはずの彼らが突然何も言わずに姿を消したという事実に、3人も驚愕を露わにしている。探したほうがいいのだろうかと、すぐさま動こうとすると…。

 

「それなんだけど、エルザは『花火』の用意をしてくれって…」

 

「花火…もしかして…!」

「…なるほどな、そういう事か」

「んじゃ、派手に上げとかねえとな!」

「あい!」

 

「?」

 

花火。その言葉だけで全員がエルザの意図を察した。唯一心当たりのないルーシィのため、準備をするために外に向かう道中で、シエルは彼女に説明した。これから行う花火の準備について。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「本当にオレたち、やっていけるのか…?外の世界でよ…」

 

「みゃあ…」

 

「やっていかなきゃ!これ以上姉さんに、迷惑はかけられない」

 

夜更けのビーチで、小舟に乗って出立しようとしているのは、ショウ、ウォーリー、ミリアーナの3人。エルザと共に過ごした彼らは、何も告げずに3人で旅に出ることに決めた。ギルドでの生活も興味はあったし、何より大切なエルザ(仲間)と今度こそ共にいられることは魅力だ。だがそれでも、彼らはこの道を選ぶ。自分たちの自由を、見つける為にも。

 

「行こう!姉さんたちがオレたちに気付く前に出発するんだ!」

「だな!何とかなるゼ!!」

「元気最強ーー!!」

 

波止場から縄をほどき、小舟を止めるものが無くなったところで、今にも出発をしようとしたその時…。

 

「お前たち!」

 

3人の耳にその声は届いた。振り返らずとも誰かは分かったが、彼らは振り向かずにいられなかった。噂をすれば何とやら。出来れば見つかりたくなかったエルザに、あと少しのところで見つかってしまい、彼らの表情に焦りが見える。

 

一方のエルザは、真っすぐにこちらに目を向けたままそれ以上は何も語らない。引き留めに来たのかどうかは分からない。けれど、誰が何を言おうと、もう自分たちが決めたことを阻まれたくはない。ショウは意を決して彼女に伝え始める。

 

「オレたちはずっと塔の中で育ってきた。これから初めて外の世界に出ようとしている。分からないことや不安なことがいっぱいだけど、自分たちの目で、この外の世界を見てみたい」

 

塔の中の世界しか知らない自分たちは、夜がこれほど明るくなることも、物の売り買いや外の常識、何もかもが初めての事ばかりだ。不安は募るが、彼らはもう誰かに頼って生きる事も、誰かの為に生きるのも望まない。

 

「これからは自分自身の為に生きて、やりたいことは自分の手で見つけたい。それがオレたちの自由なんだ」

 

決意は固い。彼らは彼らにとっての自由を、自分たちの手で掴み取りたいと断言する。ショウだけじゃなく、ウォーリーとミリアーナも気持ちは同じようだ。その決意を感じ取ったエルザは、予感していたのか安堵をつく。

 

「その強い意志があれば、お前たちは何でもできる。安心したよ…」

 

笑顔を浮かべながら己の身体に光を纏い、換装魔法でその装備を変える。純白の地に金色の鳥を象った刺繍が所々に刻まれた、将軍格が身に着けている印象の豪華な鎧に、国王を彷彿とさせる絢爛な赤い外套を肩から棚引かせた衣装。そして左手には妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章が入った旗を持ちながら、彼女は彼らに言葉を告げた。

 

「だが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を抜ける者には、三つの掟を伝えねばならない。心して聞け」

 

「ちょ…抜けるって入ってもねえのに…!」

 

加入することも叶わなかったのに抜けるものとして扱われていることに戸惑うウォーリーにも構わず、エルザは告げる。ギルドを抜ける、旅立つ者に送る三つの掟を。

 

一つ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の不利益になる情報は、生涯他言してはならない。

 

二つ、過去に依頼者に濫りに接触し、個人的な利益を生んではならない。

 

「三つ!例え道は違えど…強く力の限り生きなければならない!決して自らの命を、小さなものとして見てはならない!」

 

毅然とした様子で掟の内容を伝えていたエルザは、三つ目を伝える中で、涙が溢れるのをこらえようとしていた。永遠に別れるわけではない。望まずに離れるわけではない。彼らが自由に生きていくためにも、自分がこの別れを惜しむわけにはいかない。

 

だが、この掟を伝える中で、胸にの中にある感情が、掟の内容に共鳴し、涙となって溢れ出てくる。二つの掟に戸惑いを表していた3人も、エルザの様子と三つ目の掟の内容に、つられるように涙を流し始めていた。

 

「愛した友の事を、生涯忘れてはならない!!!」

 

今この時が、これからの旅路が、エルザと言う友と離れ、自分たちが望んだ道を進むもの。苦難や困難、予測の出来ない事態、そんなことも多々あるだろう。そんな中でも彼らは、命の限り強く生き、そして過去を共にした友の事がいたことを、忘れないでほしい。

 

それが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士として、そして彼らの友としてのエルザからのメッセージ。それを理解したショウたちも、そしてそれを送ったエルザも、涙をこらえることは出来なかった。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)式壮行会!始めェ!!」

 

『おおっ!!』

 

エルザの号令に続いて彼女の後ろに現れたのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバー。妖精の尻尾(フェアリーテイル)式壮行会。これこそが、エルザが用意を頼んだ花火の意味だ。

 

「お前らーー!!また会おーなーっ!!」

 

大声でショウたちに告げたナツは夜空に向けて三発、口から火球を吹き出すと、その日の弾は上空で花開き、炎の花火を形作る。その光景に涙を浮かべたまま、ショウたちは感嘆の声を零した。

 

「氷もあるんだぜ」

「あたしは星霊バージョン!」

「三人の旅路が快晴であることを願って!」

 

両手を合わせて上げられた氷で作られた十字型の花火、星霊の鍵の魔力で上げられた綺羅星が無数に散りばめられた花火、淡く輝く太陽の力で上げられた純白の優しい光を拡散させた花火を、妖精たちは次々と打ち上げる。煌びやかで、眩しくて、目を奪われるような光景に見惚れてしまう。

 

「私だって本当はお前たちとずっといたいと思っている。だが…それがお前たちの足枷になるのなら…この旅立ちを、私は祝福したい…」

 

「逆だよぉぉエルちゃぁん!」

 

「オレたちがいたら…エルザは辛い事ばかり思い出しちまう…!」

 

色とりどりの花火に見送られながら、小舟は旅立っていく。旗を天高く掲げて見送り、言葉を贈るエルザに、仲間たちの感極まった叫びが返ってくる。その言葉もまた嬉しく、そして彼らと言う存在が、エルザにとってはかけがえのないものである。

 

「どこにいようと、お前たちの事を忘れはしない。そして、辛い思い出は明日への糧となり、私たちを強くする。誰もがそうだ。人間にはそうできる力がある。

 

 

 

 

 

強く歩け。私も強く歩き続ける…!この日を忘れなければまた会える。元気でな…!」

 

「姉さんこそ…」

「バイバイ、エルちゃーん!」

「ゼッタイまた会おうゼ!約束だゼ!!」

 

 

「約束だ」

 

互いに目に浮かべる涙。それを照らすは妖精たちの花火。心に咲けよ、光の華。小さな小舟で自由に巡り、旅立つ彼らに祝福を。

 

呪いの枷に縛られていた女王とその仲間たちは、再び離れることになろうと、今度は心で繋がっている。どうか彼らの行く先が、希望と自由に溢れんことを。

 

妖精たちが上げる花火と、女王が届ける旗と言葉。光輝くそれらに見送られ、彼らの旅はここから始まった…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

アカネリゾートでの宿泊も終え、一行はマグノリアに帰還するために、まずは船にて港町ハルジオンへと向かっていた。もう陸地は見えないところまで来ており、辺りは一面大海原が広がっている。船の欄干に腕を置いて海の向こうを見ながら、緋色の長い髪を風に揺らしているエルザの胸中は如何ほどのものか。

 

別れは済ませた。彼らの旅立ちを見送ったのは自分だ。しかしそれでも、一抹の寂しさは拭い切れなかったようだ。

 

「エルザ、ずっとあのままだね…」

 

「声をかけると普段のエルザなんだけど、誰もいないときはああしてるよね」

 

「やっぱあいつらの事、気にしてんのかな…」

 

影からその様子を見ているのはルーシィ、ハッピー、グレイ、シエルの四人(三人+一匹)。今度こそ共にいられると思った者たちが旅立ったことを、やはり気にしているのだろうかと、どこか心配そうに眺めている。時の流れと共にその寂しさも和らいでいくのだろうが、どれほどの時を要するのか…。

 

すると、エルザの元に意を決してシエルが歩み寄っていく。その姿を見たルーシィたちはエルザの寂しさを紛らわせる考えがあるのだろうかと、どこか期待しながら様子を窺う。

 

「エルザ、大丈夫?」

 

「シエルか。何だかみんな、私を心配してくれてばかりだな。すまない…」

 

「謝らないでよ」

 

エルザの謝罪の言葉に笑みを浮かべながら返すシエルは、エルザに隣り合うように欄干に腕を置いた。船の上という事で乗り物酔いになっているナツを除いて、今日は仲間たちが気を遣って話しかけることが多い。どこか申し訳なくなると同時に、嬉しくも思っている。

 

「ショウたちはきっと元気でやれるよ。俺が言わなくても、エルザなら分かると思うけどね」

 

「…ああ。そうだな、私が不安な気持ちでいては、ショウたちに失礼だ」

 

心配する気持ちが微塵もないわけじゃない。それでもきっと大丈夫だ。8年以上前から、彼らの事はエルザもよく知っているのだから。寂しさを抱え込んだままでもいられない。その意志は感じ取れたシエルはエルザの方に向き直すと…。

 

「エルザ…伝えたいことがあるんだ。とっても大事な話…」

 

真剣な表情と眼差しでそう告げた。きょとんとした表情のエルザとは対照的に、陰で見ていた野次馬たちはシエルの顔と言葉で一気に盛り上がりを見せる。

 

「は!?お、おい、まさかシエルが、マジで!?」

「嘘でしょ?全然気づかなかったけど、ほ、本当に…!?」

「で、でぇきてるぅ…!?」

 

場合によってはその騒ぎようで気付かれかねないが、距離があまり近くないからか野次馬たちの声は二人に届いていない。顔を紅潮させ、口元をニヤつかせながら事の顛末を見守っている。そして件のシエルは懐にしまってあった一枚の紙をエルザに手渡した。その紙の正体を色々想像して、野次馬たちのテンションはさらに上がる。そこにかかれていたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この前エルザが並んでまで買ったプレミアムイチゴショートケーキ喪失事件。犯人はナツだったんだ」

 

手掴みで満悦の表情を浮かべながら、後方にてマスター・マカロフと重要な話をしているであろうエルザが見てないことをいいことに、彼女が大事にとっておいたケーキを食べているナツの絵だった。手紙の文が書かれていたのではなく、絵が描かれていた。しかも補足として加えられた「ちなみにその絵はリーダスに描いてもらった」と言うシエルからの情報も相まって、その絵が現実であることを決定づける。

 

瞬間、エルザが紙を持つ手に力が入り、そこを起点に紙に皺が走る。陰で見ていた野次馬たちは先程のテンションと打って変わって、驚愕と焦燥が入り混じった表情のまま青ざめて絶句する。その時三人(二人+一匹)はこう思った。

 

「何で今それを言ったんだ!?」と。

 

 

「…ほ~う…?」

 

先程までの一抹の寂しさはどこへやら。僅かに顔を俯かせ、魔力と髪を揺らし、彼女の髪と同じ緋色のオーラを全身から発する幻覚まで見えるような激情を露わにしていた。

 

「今まで言えなくてごめん…。何時言うべきか迷ってたんだけど、こんなに遅くなっちゃって…」

 

「いや、お前が謝ることなど一つもない。むしろありがとう。伝えてくれて…」

 

文言とは裏腹にエルザの様相は先程から全く変わっていない。心なしか、声の抑揚がやけに強調されているようにも聞こえる。『触らぬ神に祟りなし』と言うことわざが存在するが、今まさにエルザは触れるべきではない神に等しい存在となってしまっている。

 

だがそんな状態にした張本人はそんなエルザを刺激しかねないリスクなどない訳で…。

 

「よかった~エルザからそう言ってもらえて~。あ、そうだ。ナツと話するならハルジオンに着いてからの方がいいよ?今船酔いで話どころじゃないしさ」

 

「そうだな、そうさせてもらおう…改めて礼を言うぞ、シエル」

 

その言葉を最後にエルザは甲板を後にした。唯一残されたシエルは周りに野次馬として見ていた仲間たち以外に誰もいないことを確認した後…。

 

 

「計画通り」

 

主人公がするとは思えない闇ギルドの魔導士顔負けのあくどい顔を浮かべて呟いた。この少年、最初からこれが狙いであった。その事実に気付いた野次馬たちは思い出した。シエルはナツに楽園の塔の最上階から投げ飛ばされたトラウマがあったことを…。

 

どうやって絵とか用意したのだろうとか、何でそれを知っているのだろうとか、気になることは多々あるが、ひとまず彼らに今できるのは…。

 

 

 

 

ハルジオンに着けばただでは済まないことが確定したことを唯一知らない犯人(ナツ)に、十字を切って祈りを捧げるだけだった。遠回しに死んだことになっとるやんけ。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ちなみにその後…。

 

「着いたー!!陸地だー!!」

 

「ナツ、着いて早々済まないが、この事について話がある」

 

ハルジオンに着いて乗物から解放されて盛り上がるナツの背後にエルザは近づき、シエルから貰った絵を示してナツに見せる。途端、ナツの顔が一気に青を通り越して真っ白になった。この時点でもう未来は確定した。

 

「い、いや、これはその…エルザのだって知らなくて、その上腹が減りすぎて我慢できなくて…!」

 

必死に弁明をするナツであったが、エルザはそれに耳を傾けることなく、己の最強装備である煉獄の鎧とセットで付けられる大剣を手に持ったまま、低い声で彼に告げた。

 

「最後に言い残すことはあるか…?」

 

 

 

 

 

 

「トッテモオイシカッタデス…!」

 

 

その日、港町ハルジオン全域に火竜(サラマンダー)の断末魔が響き渡り、遠くにいたものは一斉に振り向き、近くで様子を見ていたものは一様に惨状から目を背けると言うちょっとした事件が発生した。

 

 

ちなみに相棒(ハッピー)は二度目の十字を切ったとか何とか。




おまけ風次回予告

ルーシィ「ねえ、あんたその絵どうやって用意したのよ…」

シエル「リーダスは知ってるでしょ?絵画魔法(ピクトマジック)を使う絵描きの魔導士。彼に描いてもらったんだ」

ルーシィ「書いてもらったのはリーダスだってことは分かったけど、ナツがケーキ食べてる最中のシーン、どうやって再現してもらったのよ…」

シエル「日頃からギルド内をよーく見てると、色んなネタ…じゃなくて事件を目撃しやすいんだ~(笑)」

ルーシィ「今ネタって言ったわよね、絶対!!?」

次回『HOME』

シエル「さ~て新築されたギルドは一体どんな事件が待ってるんだろうな~?」

ルーシィ「事件起こる前提で話さないでよ…って言うか、シエルとはまた違った嫌な予感が…!」
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