FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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新年あけましておめでとうございます。
と言ってももう4日ですが(笑)
本年も本小説をどうぞよろしくお願いします!

さて実は、新年になって初投稿の今回。大晦日の年末連続投稿の事も考えて本来日曜の投稿が月曜まで伸びてしまったのですが…1/3(日)に、とんでもないことが起きました…。

先週のUA数が1620。
そして今週…正確には一日分のUA数が1274…。(23時までの時点)


…何があった?(汗)
ふと見てみたらビックリしましたよ。1時間の間にUA100行くなんて初めてでした。今回最大文字数更新したことが霞むレベルで…。

でもお陰様で累計UA30000突破しました。新年早々縁起がいいと考えておこう!


第4章 バトル・オブ・フェアリーテイル
第32話 HOME


波乱に満ちたアカネリゾートへのバカンスから(約一名除いて)無事にマグノリアへと帰還を果たしたシエルたち。一週間ぶりの我が家(ギルド)は一同が唖然とするような変貌を遂げていた。自分たちが出発する前は、建設途中の部分も多かった、一度は壊される羽目になったギルドが…!

 

「完成したのか!?新しい妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!」

 

以前の木で造られたものとはまた違い、石と煉瓦を基調とした一つの城のようにも見える建物として、新たなギルド妖精の尻尾(フェアリーテイル)が完成していた。それも以前のギルドよりもさらに大きく建てられており、背の低いシエルは鐘楼部分のてっぺんを見上げるだけで首がつりそうになった。

 

早速外塀に囲まれた入り口から入ると、建物の前の開けた空間には長椅子と長机が一定間隔で置かれ、パラソルまでもが設置されている。そこにはギルドの魔導士たちが談笑をしながら食事を嗜んでいる。見た目から見れば完全にオープンカフェだ。

 

「よぉ、お帰りィ」

「ビックリしたろ?これがオレたちの新しいギルドだぜ」

「てかあれ?何でナツ大怪我してんだ?」

 

帰還したシエルたちが近くにいることに気付いた何人かの魔導士が、オープンカフェの長椅子に座ったままどこか自慢げに話してくる。本当にビックリした様子で呆けたナツにグレイが尋ねる。

 

「何だよナツ、言葉も出ねえか?」

 

「だ…だってよう…前と全然違うじゃねーか…」

 

「そりゃそうだよ。新しくするって話もあったし」

 

上に上げ過ぎてつった様子のシエルが、首を回しながらナツにそう返した。それでもナツはどこか納得いかない様子。

 

「入り口にはグッズショップまで!?」

 

「うわー!『マックス』が売り子やってる!!」

 

「いらっしゃい!つーかお前らか。おかえり~」

 

次に目についたのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)関連のグッズが販売されている屋台形式のショップ。黄土色のオカッパ頭をした砂の魔導士、『マックス・アローゼ』が店頭に立って販売している。彼はマスター・マカロフからの命令で販売業の修行の為にギルドを留守にしていたが、ギルド新築のタイミングと修業完了のタイミングがちょうど合わさり、こうして新設のショップを開店できたそうだ。実は週刊ソーサラーに掲載されるほどには有名な魔導士でもある。

 

ちなみにショップでは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)特製Tシャツ、リストバンド、マグカップ、タオル、オリジナル魔水晶(ラクリマ)などなど、多くの種類を取り扱っている。

 

「中でも一番人気はこの魔導士フィギュア。一体3000J(ジュエル)

 

「いつの間に作ったんだこれ?」

 

マックスが取り出したのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属する魔導士が1/10スケールの大きさにされた精巧なフィギュアだ。本物そっくりな出来栄えに、どこに作る時間があったんだと疑問を感じずにいられない。

 

「見てー!ルーシィのフィギュアもあるよー!」

 

「えーーっ!!?勝手にこーゆーの作らないでよー!!」

 

ハッピーが手に取ったのは、金色の鍵を持ちながら片足立ちでポーズをとっているルーシィのフィギュア。知らない間にグッズのモデルにされたことで、ルーシィは羞恥から顔を赤くしている。

 

ちなみにキャストオフも可能で、外側に付けられた衣服部分があっさりと外れるとあら不思議。白い水着姿のルーシィに早変わりし、彼女の羞恥の悲鳴が響き渡った。せめて許可とろうぜマックス…。

 

勿論フィギュアはルーシィだけではない。ナツやエルザを始め、シエル、グレイ、ミラジェーンなどの有名所は余さずフィギュアとして作られており、売り上げも高いのだそうだ。

 

「ホントよく出来てるな~。自分の姿をしたフィギュアを見る機会が起きるとは思わなかった…あ、メッシュも入ってる!細か!!」

 

「一切妥協はしてないよ。売るからには細部までしっかり…ん?」

 

シエル自身は自分のフィギュアの出来に文句はないようでまじまじと手に取って眺めている。そんな様子を見て自慢げに、誇らしげに語るマックスだったが、ふと何かに気付いたようにシエルを凝視している。

 

「すまんシエル、ちょっとフィギュア見せてくれ」

 

「え?まあ売り物だし、良いけど…」

 

フィギュアを返されたマックスはそこから本物とフィギュアのシエルをしばらく見比べる。正確には顔の部分だろうか。「あれ…おっかしいな…?」と言う呟きが聞こえてくるが、それがどういう事なのかシエルには分からない。

 

「シエル、悪いな。お前のフィギュア、どうやらミスった部分があるみたいだ。作り直さなきゃ」

 

「そうなの!?そんな風に見えなかったけど…」

 

「オレも正確に作ったつもりだったんだけど…もう少し修行すべきだったか…?」

 

実際に本物と見比べて、何やら無視できない欠陥があったようだ。シエル本人からすればそんな部分は無かったのだが、実際に見比べたマックスが言うのだから間違いないだろう。どこか妙ではあるが、しょうがないと、シエルは己に納得させた。

 

「ついでにオレのも作り直してくれよ。最初から裸なのはおかしいだろ?何なら服だけでもいい」

 

「私もだ。甲冑には本物の鋼を使うべきだ。そもそも私の肌はこんなに硬くないぞ…」

 

「「ええ~…」」

 

するとシエルと違って己のフィギュアの出来に不満を持ったグレイとエルザが便乗してきた。だが二人とも中々に無茶な要望をしてくる。エルザの場合は仮に本当の鋼を使用したとして、何かの拍子に切創事故が起きかねないし、大抵のフィギュアには粘土や樹脂を使うため、どうしても人肌より硬くなってしまうのは無理もない。グレイ?脱いでいるイメージの方が強いからに決まってる。

 

そしてお次はギルドの中。門を潜るとそこに広がっていたのは、酒場と併設されたエリアが一階と二階を合わせた広々とした空間に、新築さながらの清潔な雰囲気が出されている。綺麗になった一階のフロアに、ルーシィを始め皆高評価のようだ。

 

「どーしたよ、ナツ?」

「前と違う…」

 

ただし約一名(ナツ)だけどこか納得のいっていない様子だ。

 

「ルーちゃん、おかえり~!」

 

「あ、レビィちゃん!」

 

一行が帰還したことに気付いたルーシィの親友でもあるレビィが彼女に声をかける。新しくなったギルドに感激している一同を目にし、レビィはギルド内を案内していく。

 

まず最初に移動していくと、ウェイトレスの服装が変わっていることに気付いた。服の部分が胸の半分から足の付け根部分までしかなく、ロンググローブとロングブーツも身に付けてはいるがそれが逆に色気を醸し出している。顔を赤くしたシエルやルーシィ、特に恥じらってないエルザがこれに反応する。

 

「随分大胆になったな…」

「可愛くていいじゃないか」

「マスターの趣味かしら…」

「違ってる…」

 

酒場の奥の扉から出ると、何と屋外プールがつけられている。先に入っていた者たちが全員水着姿で一同を迎えた。グレイとシエルはどこか呆れた様子だ。

 

「何でプールがあんだ?」

「これもマスター発案?」

「違ってる…」

 

更には地下に遊技場が搭載。ダーツやルーレット、すごろくのようなボードゲームまで存在していた。まるでアカネリゾートの縮小版が建てられたみたいに見える。エルザは感心しているようだが、ルーシィはどこかギルドの概念から離れてる気がしている。

 

「ほう…楽しそうだな」

「至れり尽くせりね…」

「違ってる…」

 

様々な反応が返ってきているが、ナツは新しい要素を見るたびにどこか不機嫌になっている。前との変わりようにどこか違和感を感じているようだ。

 

「そして一番変わったのは2階!誰でも2階に上がって良いことになったの!」

 

「2階に上がってもいいの!?」

 

新築された2階には、確かにS級魔導士ではないメンバーが上がっていて、こちらに挨拶してきた。話を聞いたルーシィは顔を輝かせていたが、ナツだけでなくシエルまでもはどこか複雑そうな顔をしていた。

 

「誰でも…2階に…。そう、なんだ…」

 

2階に上がれる=S級魔導士と言う方程式が頭に刻まれているシエルにとっては、あまり吉報とは言えない様子だ。それに気付いたのか、レビィは「S級クエストに行くにはS級魔導士の同行が条件」と言う補足とフォローを入れた。それを聞いたことで、多少気持ちを持ち直したようだ。

 

「帰ってきたか、バカタレ共」

 

レビィの案内を受けていた一同に声をかけてきたのは、このギルドのマスター・マカロフ。そしてそのマカロフの隣には、彼らにとって非常に見覚えのある人物が立っていた。

 

「新メンバーのジュビアじゃ。かーわええじゃろぉ?」

 

「よろしくお願いします!」

 

長かった髪はショートヘアーに、全体的にほとんど体を覆った暗い色だった服も、深い青色と白を基調とした肩出しのワンピースに帽子と言う明るい服装となり、満面の笑顔と少しばかり高めになった声が、今までの暗かった彼女の印象を大きく変えている。

 

「ははっ!本当に入っちまうとはな!」

 

「ジュビア、アカネでは世話になったな」

 

「シエルの手紙で話は聞いておる。仲良く頼むわい」

 

「もっちろん!」

 

元は幽鬼の支配者(ファントムロード)の魔導士であったが、楽園の塔での事件にて味方として尽力してくれた旨を事前に知らせてあったおかげで、特に支障もなく妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入れたようだ。入ったばかりの今では全員が全員すぐに受け入れられるわけではなさそうだが、今の彼女を見れば時間の問題だろう。

 

「皆さんのおかげです!ジュビアは頑張ります!!」

 

「よろしくね!」

 

「恋敵…!!」

「違うけど…」

 

満面の笑みで張り切るジュビアは、ルーシィに声をかけられた途端どす黒いオーラと睨みをルーシィに向ける。…うん、受け入れられるだろう…そう信じるしかない…。

 

「それにしてもジュビア、随分印象変わったね?」

 

「!!」

 

そんなジュビアはシエルに話を振られると、ルーシィに向けていたオーラを引っ込めて、何かを思い出したような、驚いたような反応を見せる。

 

「そ、そうなんです!その、新しくギルドに入るなら…ジュビア自身も、新しくなるべき、だと思って…!…どうですか…?」

 

どこか慌てた様子にも見えるが、ジュビアは心機一転と思い切ってイメチェンをしたと公言する。そして、その場で体を一回転させて一同に向けて感想を求めてきた。マスター・マカロフは鼻の下を伸ばしていたが、それが答えなのだろう。

 

「うん、明るくていい感じだと思う!ねえ、グレイ?」

 

「は?オレ?」

 

「(き、来た!!)」

 

自分の感想もそこそこに、突拍子もなくグレイに感想を促すシエルに、本人は急に振られた話題に呆気にとられた。そんな様子を肩を震わせながら、前に手を組んで固唾を飲みながら答えを待つジュビア。実はこの状況、ジュビア自身が求めていたものだ。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

それは楽園の塔の事件が終わった翌日、アカネリゾート内でのことに遡る。傷の治療を終えて安静にし、気分転換で散歩と称して外に出ていたシエルの元に、ジュビアが訪れていた。

 

「どうしたのジュビア?グレイならまだ部屋にいると思うけど」

 

「勿論後ほどお伺いします。ただ、シエルさんに聞きたい事があって…」

 

ジュビアが気になっていたのは、楽園の塔の中に潜入する際のほんの僅かなやり取り。シエルが呟いた「魔力だけで雨を降らせる」と言う言葉だ。彼は自分に関して何か知っているのだろうか?そんな期待を抱きながらシエルの返答を待つ。すると彼は思い出したのか「あ〜あの時か…」とぼやく。どうやら知っているようだ。期待はさらに高まる。

 

「…まず確認なんだけど、ジュビアって物心ついた時から周りで雨が降ってたりしなかった?」

 

「っ!はっはい!何か知ってるんですね!?」

 

「まあまあ焦らない」

 

生まれてから最近に至るまでずっと悩まされてきた、自分の雨女としての体質。その原因が、克服した後とは言え発覚するかもしれない。今すぐにでも聞きたいとばかりに詰め寄ってくるジュビアを、特に焦りもしないでシエルは宥める。

 

「俺も、ある本に書いてあった事を思い出しただけなんだけどね?天候魔法(ウェザーズ)を習得するにあたって、天気に関する本を読み漁ってた時にある項目を見つけたんだ」

 

───この世界の人間の中には、生まれながらに魔の優れた者が存在する。

───その者、他よりも魔力を多く持ち、幼少の頃より神童として持て囃される事が多く、さらに極めれば世界をも動かせるほど。

───しかし、高すぎる魔は童には御し難く、心が未熟のうちは外部にさえその影響を及ぼす。

───かつて水の魔に優れた者は、水のエーテルナノを刺激し、無意識のうちに雨を降らせる力を有していた。

 

「ね、ジュビアに当てはまるでしょ?元エレメント4(フォー)でもあるし」

 

「た、確かに…!でも子供の頃ならまだしも、ジュビアは成人しています。最近まで影響されていたのは何故…?」

 

「う〜ん、魔力は精神力…心が源である説もあるから…子供の時から今になるまで心が強くなれなかったきっかけがある、とか…?」

 

物凄く、心当たりがある。幼少の頃から雨を降らせてしまう体質は、周囲の気分を暗くさせ、心ない言葉をかけられたり、自分だけが幸せになれなかったり、嫌な思い出に塗りつぶされている。そんな過去もあって、彼女は成人する前に己の幸せを諦めた。自分には友も愛も不要だと決めつけた事で、彼女の心は雨雲の様に暗く影を落としていった。

 

それが逆に、彼女の雨女としての体質を長引かせる大きな要因となった。

 

「けどそれも今はコントロール出来てる。正確には魔法という形で制御の基礎はできていたけど、最後の仕上げである心のコントロールができる様になった、と言うのが俺の見解。」

 

心のコントロールと言っても、簡単に言えば心が満たされている状態と思えば簡単だ。プラス、もといポジティブな感情はより良い方向に身を結ぶ事が多い。そうなれるきっかけがあったはずだと、シエルは告げた。

 

「心が…満たされる…」

 

その言葉を反芻してジュビアは頬を赤く染めながら思い浮かべる。黒く短い髪に少し外に垂れた目、鍛え上げられた上半身を晒しながらも不敵な笑みを浮かべ、低く甘い声で自分の名を呼ぶ、白馬の王子様……随分美化なイメージだがグレイの姿を。

 

「心当たり、あるみたいだね?」

 

「はわっ!?そ、そそそそれはその…何と言いますか…!!」

 

「グレイも隅に置けないな〜ホント〜」

 

「ええっ!?な、何故グレイ様だと!?」

 

何故って…気づかれないと思ったのか?素直にシエルはそう思った。グレイ“様”と明らかに特別扱いの上、事あるごとにグレイの行動に悶えるわ、彼と言葉を交わすだけでルーシィを「恋敵」と敵視するわ、むしろこれで気づかないのは相当の鈍感である。

 

 

その鈍感とはグレイ本人と、ついでにナツなのだが…。

 

「これも何かの縁だし、手伝おうか?グレイとも割と付き合いは長いほうだしね」

 

「え、良いんですか!?是非!!」

 

親切心…が無いこともないが、シエルはこれを機にグレイとジュビアをくっつければより面白くなりそうだ、とほぼ面白半分でジュビアに協力を持ちかけると予想通り食いついた。まず手始めにギルドを訪ねる前に印象を明るくさせて、後ほど来るグレイの反応を確かめる作戦を伝えた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

こうして実行されたこの作戦。予定通りシエルを起点としてジュビアのイメチェンについて話題に出し、半ば無理矢理にグレイの反応を聞き出す。脈絡もなく話を振られてはいるが、傍から見ても不自然な部分はない。

 

「まあ、いいんじゃねえの?似合ってると思うぜ」

 

あまり大袈裟な反応と言うわけではなかったが、ジュビアにとってはそれだけでも至福だった。組んでいた手を解いて口元に移し、嬉しそうに感涙すら浮かべて「ジュビア、嬉しい…!!」と打ちひしがれている。

 

シエル自身は思ってたより薄めな気がすると感じたがまだ最初の一回目だ。ひとまずは大健闘と言うところだろう。グレイが見えない位置からグーサインをジュビアに見せると、涙を流しながら同じサインを返してきた。謎の行動に「何してんの…?」とルーシィは小声でツッコんだ。

 

「もう一人の新メンバーも紹介しておこうかの。ホレ!挨拶せんか」

 

ジュビアの紹介も済ませると、マカロフがある人物へと話しかけるように告げてきた。ジュビアの他にもいたのか、とマカロフの方向へと一同は振り向く。少々離れた位置に、こちらに背を向けていたために何者なのか分からなかったが、「ガジガジ」と硬いものを咀嚼する音と共に振り向いたその人物を見て、一同に衝撃が走った。

 

「え!?」

「オ…オイ、嘘だろ!?」

「何でコイツが…!?」

 

そこにいたのは信じがたい人物。黒く長いハリネズミの様に逆立った髪と、獰猛な肉食獣を彷彿とさせる赤い目、そして所々に着けた釘を模したピアスが特徴的なその男。

 

「ガジル!!?」

 

「一体どういうことだよ、マスター!!」

 

「待って!ジュビアが紹介したんです!」

 

幽鬼の支配者(ファントムロード)において最強の魔導士と呼ばれていた鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)鉄竜(くろがね)のガジル。そして妖精の尻尾(フェアリーテイル)を襲撃し、レビィたちシャドウ・ギアの3人に深手を負わせた犯人である魔導士の姿を視認し、身構えるナツとグレイ、マカロフに説明を求めようと詰め寄るシエルに対して、慌ててジュビアが一同を宥めようとする。すぐさま激突するという流れは防げたが、ジュビアを除いた面々からはガジルに対して好印象はないに等しい。

 

「ジュビアはともかく、コイツはギルドを破壊した張本人だ」

 

「まあまあ。あん時はこやつもジョゼの命令で仕方なくやった事じゃ。昨日の敵は今日の友って言うじゃろーが」

 

「うん…私も全然気にしてないよ…」

 

怒りを現すエルザの言葉に、マカロフは依然として落ち着いている。マカロフの意思を尊重するように、後方の机に隠れながらレビィもルーシィに告げるが、やはりガジルに植え付けられた恐怖は拭われていない。遠くから様子を見ているレビィと同じチームメンバーのジェット、ドロイの二人はガジルに対しての敵意を抑えてすらいない様子だ。

 

「冗談じゃねえ!!こんな奴と仕事できるかぁ!!」

 

「安心しろ。慣れ合うつもりはねえ」

 

ガジルに詰め寄りながら文句を叫ぶナツに対して帰ってきたのはそんな言葉。売り言葉に買い言葉だ。案の定素っ気ない態度にナツはさらに怒りを募らせている。そんなナツに気付いているのか否か、立ち上がってナツを睨みながらガジルはさらに続ける。

 

「オレは仕事が欲しいだけだ。別にどのギルドでも良かった。まさか一番ムカツクギルドで働く事になるとはうんざりだぜ」

 

「んだとォ!!?」

 

尚も続く睨み合い。滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)と呼ばれる二人ではあるが、龍と言うより犬に見えると周りから思われていることにも気づかない。呑気に魚を食べるハッピーに至っては「ネコより程度が低い」とまで言われてる。散々な言われようだ。

 

「ガジルくんっていつも孤独で、ジュビアは放っておけなくて…。あ、あの…!!好きとかそういうんじゃないんです!!」

 

オドオドアワアワとしながらグレイにガジルの事を弁明するジュビアだが、多分ガジルを睨んでいる今のグレイの耳には届いていない。

 

「道を間違えた若者を正しき道に導くのもまた老兵の役目。彼も根はいい奴なんじゃよ…と信じたい…」

 

「おい、願望入ってたぞ、今」

 

「それがマスターの判断なら従いますが、しばらくは奴を監視してた方がいいと思いますよ」

 

「…はい」

 

どうやらマカロフも許可はしたものの実はまだ不安のようだ。エルザからの忠告に冷や汗を垂らしながら返事する。この先大丈夫なのだろうかと、シエルは思わずにいられなかった。

 

すると、ギルドの明かりが突如切れ、窓にもカーテンが引かれていき、辺りは薄暗く変化する。そして入り口から正面を向いて奥の空間の幕が横に引かれて証明が灯るとステージが現れ、そのステージにギターを持つギルドの看板娘、ミラジェーンの姿が現れた。何が起きたのか唖然としていたが、他のギルドのメンバーに促されて一同は各自近くの席に座る。

 

「あれ、ミラだ」

 

「よぉ、ただいま、ミラー」

 

《お帰り。ではナツ達が帰ってきたのと、新築祝いも兼ねて、歌いま~す》

 

軽く挨拶を交わし、そのままミラジェーンは手に持っているギターで音を奏で始める。それと同時に酒場の空間は一気に客席のムードへと変わり、魔導士は観客へと変わる。観客たちのミラジェーンを呼ぶ歓声に一瞬包まれ、落ち着いたバラード調の曲が流れるのにつられて少しずつ静かになる。

 

───あなたのいない~机を撫でて~♪影を落とす~今日も一人~♪

 

マイクによって広げられる彼女の歌声と演奏。一部盛り上がりを見せる魔導士もいる中、曲調に合わせて静かにうっとりと耳を傾ける者もいる。

 

───星空見上げ~祈りをかけて~♪あなた~は同じ今空の下~♪

 

同じように曲を聞きながら、マスター・マカロフは帰還したシエルたちの無事を喜んだ。それと同時に、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属する子供たちが順調に育ちつつあることを実感し、このギルドの未来を考えるべき時かもしれぬと思う。

 

───涙こらえ震える時~も闇にくじけそうな時でも~♪

 

かつてとある魔導士を大切な人として持つ者がいた。その者は今日も明日とも知れぬ危険な仕事に向かい、いつ別れが訪れるかどうかも分からぬもどかしい日々を送っていた。それでも信じて帰りを待つ。そんな思いを込めて、その者は魔導士に歌を贈った。そしてその歌は今も尚こうしてあらゆる魔導士たちの間に広まっている。

 

───忘れないで~♪帰る場所が~♪帰る場所があるから~♪

 

今の自分たちも、仕事と言うわけではないが危険な戦いを乗り越えて今ここに帰ってきた。歌を贈る者たちの想いに応えて、ここにこうして帰ってきたのだ。それを実感し、改めて耳から胸へ、そして心へと刻み込む。次の仕事に向かう時も、この歌による約束を守るために…。

 

───待ってる人~が~いるから~♪

 

歌い終えたミラジェーン。彼女に送られる賛辞と歓声。それらに応えて一礼をしながら照明は一度落とされる。どうやら他にステージで披露する者がいるそうだ。

 

「いいぞ~!次は誰だ~!?」

 

その声に応え落とされていた照明が再び点灯する。先程までミラジェーンがいたステージに代わる様にして現れたのは…

 

 

 

 

白いスーツ姿とテンガロンハットに、黒いサングラスをかけたスタイルでギターを持ったガジルだった。全員絶句した。

 

「ガジルー!?」

「ええーーっ!?」

「な、何だぁ!?」

「何やってのあいつ!?」

 

先程までガジルに対して睨みをきかせていたナツやシエルでさえ、ガジルの奇行に困惑を示している。と言うかあいつにスーツ姿似合わねえと思うのは自分だけか?

 

《オレを雇ってくれるギルドは、数少ねえ》

 

「うわ!何か語りだしたぞ!!」

 

会場が絶句してどよめきを生み出していることも気にせず、ギターを鳴らしながら語りだす。だがその音はお世辞にも上手いとは言えない…。

 

《飢えた狼だって、拾われたら懐くモンだぜ。例えかつての敵だったとしても、友と思い、歌ってみせよう…》

 

「ギター下手いけど何気に良い事言ってる…」

「頑張れガジルくん!」

 

楽器の技量はともかく言葉は結構深みある。しかも言葉の節々から妖精の尻尾(フェアリーテイル)を仲間として扱っているように思える部分もある。そのことを伝えたかったのだろうか?だがこんな方法で来るなんて誰が予測できただろうか…。

 

《オレが作った曲だ。『BEST(ベスト) FRIEND(フレンド)』…聴いてくれ》

 

「聴くかそんなもん!」

「つか何でスーツで決め決めなんだ!!」

 

歌い出してもいないのにいきなりヤジを飛ばされ物を投げられ大ブーイングだ。それすらも気にせずギターで曲を奏で始めてマイクで歌を紡ぎ出す。

 

《カラフルカラフル~シュビドゥバー♪恋の旋律~鉄色メタリック~♪》

 

楽器だけでなく歌も下手だった。とんでもない不協和音に聞こえるそれに、ほとんどの観客が真っ白になって罅が走るような感覚が襲い掛かる。しかし一部には気に入った者もいるようで「やるじゃねえか!」「いいぞー!!」と盛り上げる観客もいる。耳大丈夫か?

 

そんな一部を除いた観客一同から物を投げられても歌は続いていく。と言うか所々で「シュビドゥバー」を混ぜているのだが一体意味あるのか?

 

「こんな酷ェ歌初めて聞いたぞ!!」

 

すると様々なヤジを聞いても止まらなかったガジルが、ナツが耳を塞ぎながら叫んだ内容に反応し、ナツの顔面にギターを投げつける。そしてナツに向けて何かを叫んでいるようだが、何故か口にハーモニカを咥えながら叫んでいるので聴こえるのはその音だけ。だがナツにはなぜか通じたようで…。

 

「やんのかコラァ!!」

「シュビドゥバー!!」

 

互いに向けて飛び蹴りを放って激突し、そのまま喧嘩に発展し始めた。突如起きた喧嘩にマカロフが目に涙を浮かべ始めている。すると、ガジルと掴み合ってたナツの顔に酒の入ったコップが投げられ、当たってしまう。

 

「物投げたの誰だコラァ!!」

 

「ナツ!てめえ暴れんじゃねえ!!」

 

ガジルの喧嘩で暴れまくるナツに対して、我慢が出来なくなったグレイが立ち上がって叫ぶ。が、その拍子にイチゴケーキを堪能していたエルザの身体にぶつかって彼女の手からケーキが床に落ちてしまう。

 

「私の…イチゴケーキ…!」

 

だが悲劇はこれで終わらない。暴れるナツたちに更に我慢できなくなったエルフマンが走ってきて、ケーキを踏みつぶしてしまう。

 

「てめえら!漢ならギャーギャー騒ぐんじゃねえ!!」

 

「やかましい!!」

 

彼なりに注意しようとしたエルフマンは、哀れにもケーキの恨みで怒ったエルザに蹴り飛ばされてしまった。そこから更にナツとガジルは暴れまくって辺りを壊しまくり、その喧嘩に巻き込まれて他の魔導士たちも喧嘩をおっぱじめて大乱闘。新調したはずのギルドがいきなり荒れまくる大惨事だ。

 

「あらあら…もうバラードを歌ってる場合じゃなさそうね」

 

ガジルと変わったために舞台裏に引いていたミラジェーンが騒動に気付き、再びステージに姿を現す。すると変身魔法でバラード用に来ていた衣装を、音楽フェスで着る大胆な服装へと様変わり。穏やかに鳴らしていたギターを、今度は荒々しく弾き鳴らす。

 

《ロックで行くわよぉ!!》

 

「いよっ!待ってましたぁ!!」

 

「あ、あいつだけずりぃ!!」

「オレも乗せろぉ!!」

 

一転してロック調の曲を歌い出すミラジェーンを、天井近くにまで乗雲(クラウィド)に乗って上がっていたシエルが囃し立てる。それを見た下にいる男たちが喧嘩しながらシエルを羨ましがって叫んでいるが、気にしない気にしない。

 

喧嘩が続いたり、叫んだり、酒を呑んだり、騒いだり。結局前の時のギルドと変わらないような日常風景を改めて見まわしたナツは、先程まで不貞腐れていた表情とは一変。嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 

「こーゆー方が妖精の尻尾(フェアリーテイル)らビィ!?」

 

だが横から飛んできたガジルの攻撃をモロ横顔に喰らって再び喧嘩へと戻っていった。新築に伴い以前と変わった部分は多々あるが、やっぱり根幹的な部分は前と変わらない妖精の尻尾(フェアリーテイル)なんだと、ミラジェーンが奏でるロックに盛り上がりながらシエルは改めて感じた。その後、見かねたマスター・マカロフが巨大化して止めるまで、この大騒動は続いたのだった。

 

 

 

 

ちなみに、音楽系統はともかく白いスーツやサングラスのファッションは結構カッコよかったと感じたシエルの、ガジルへの好感度がほんのちょっとだけ上がったのはまた別の話。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「みんな注目ー!発表がありまーす!」

 

散らかったギルドを片付け、何とか昨日の状態に持ち直した翌日。ギルド内に集まる魔導士たちに向けて、ミラジェーンが二通の手紙を右手に持って掲げながら、響く声で呼びかける。発表という言葉も相まって、一様に魔導士たちの視線はミラジェーンへと向けられた。その視線を感じながらも、ミラジェーンは笑顔で今回の発表を告げ始めた。

 

「実は先日、ペルから連絡があって…

 

 

 

 

 

 

今回受けた10年クエスト、無事達成したと報告がありました!」

 

それを告げた途端、ギルド内は一瞬驚愕による静寂に包まれる。話があまりよめないルーシィが声を出そうとした瞬間、その静寂は一気に破れて歓声に包まれた。

 

「遂にやったか!」

「凄えぜ、あいつ!」

「マジかよ!」

 

「本当にやりやがった、ペルの奴…!」

 

「ぅううううおおおっ!!オレも負けてらんねええっ!!」

 

「えっ…ええっ!?」

 

ナツだけでなく、普段は興奮することが少ないグレイさえもどこかテンションが上がっている様子に見える。ますます分からない。喜びを露わにしていないのは自分や、先日加入したばかりのジュビアにガジルぐらいだ。ジュビアも自分同様キョトンとしているし、ガジルは興味なさげだ。

 

「それでみんな宛の手紙が来たんだけど、依頼先の村人達の厚意で少し長く滞在するけど、幻想曲(ファンタジア)までには戻るって伝えてほしいって!」

 

「そうか、もうそんな季節か」

「ペルが依頼に行ったのもそん時じゃなかった?」

「もう一年前か~」

 

季節?幻想曲(ファンタジア)?聞き慣れない単語が飛び交って疎外感を受ける。自分も妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入ってそれなりの期間が過ぎたが、それでもまだ知らないことも多くある。こういう時大体説明をしてくれるのはシエルだ。彼に聞いてみようと姿を探すと…。

 

「シエル、みんな何の話、をって、あれ?」

 

先程までいたはずの場所に彼の姿が無いことに気付く。どこに行ったのか改めて探そうとしたら…。

 

「ミラ!!本当に!?帰ってくるの!!?」

 

「ええ。あなた宛の手紙も来てるわよ」

 

「あれ、いつの間に!?」

 

ミラジェーンがいた場所から随分離れた席に座っていたはずのシエルが、気づいたら手紙を持つミラジェーンの元に着いていた。そしてミラジェーンが持つ二通の手紙の内の一通を受け取り、逸る気持ちを抑えきれずに開封して即座に読み出す。周りの喧騒に目もくれずに一心不乱にその手紙を目に焼き付ける。

 

「帰って、来るんだ…!もうすぐ…!」

 

普段は落ち着いている印象の強いシエルが、待ち遠しいと言わんばかりに喜びを噛み締めている。アカネリゾートに着いてすぐの彼もそれなりにはしゃいでいたが、それすらも上回る盛り上がりだ。話を聞けるのだろうか?すると「こうしちゃいられない!」と突如叫んでギルドの外へと走りだしていく。

 

「ちょっちょっとシエル!?どこへ行くのよ!?」

 

「ごめーん!修行してくるー!!一日でも、いや一秒でも早く、更に強くならなきゃ!!」

 

呼び止めるルーシィにシエルはそう叫んで答えた。普段の彼からは想像がつかない変わりようだ。ペルと言う人物が何か関係しているのだろうか?

 

「シエルに負けてらんねえ!オレたちも修行だ!ハッピー!!」

「あいさー!!」

 

「ええっ!!ナツまで!!?」

 

一体なんだと言うんだ二人して。シエルに着いていく形でナツまでギルドの外へと駆けだしていった。他の者たちはそれを一切止めようともせず、寧ろ共感を覚えているような反応ばかりだ。この際誰でもいいから説明してもらわないといけない。

 

「あの…ペルって、一体誰なんでしょうか?妖精の尻尾(このギルド)にそんな人いました?」

 

「ああごめんなさい。ルーシィは知らなかったのね。ペル…私たちはそう呼んでるけど、ペルセウスって言うのが本当の名前で、S級魔導士でもある、私たちの仲間よ」

 

「ペルセウス!?それって、幻の魔導士って呼ばれてる、あの!!?」

 

ペルセウスと言う名前には、ルーシィも心当たりがあった。週刊ソーサラーを始めとしてありとあらゆる雑誌がその正体を追っている幻の魔導士。所属ギルドも年齢も不祥。魔法も詳細は明らかとされていないが、その魔法はまさに、天や神に愛されし者が扱う魔法と言われている。

 

そのペルセウスが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士!?未だかつてない衝撃の事実を聞かされたルーシィの反応とは別に、周りの者たちは「幻って呼ばれてたのか、あいつ」と笑い混じりに話が盛り上がる。

 

「知らないのも無理はないわ。ペル自身があまり自分の素性を公表させられるのを嫌っているから、避けていることも多いの」

 

「そうなんですか…。そのペルセウスが帰ってくる、って今までどこ行ってたんですか?なんか、10年クエストって言ってましたけど…?」

 

「S級クエストはもう分かるわよね?S級クエストよりもさらに難しい、『SS級クエスト』というものがあってね?」

 

「S級の上!?」

 

この時点でルーシィは次元の違いを思い知った。勝手に行くことも罰の対象となった高難度のS級の更に上のクエストが存在するなど、想像すらできない。だが、話はそれだけに留まらなかった。

 

「ペルが行っていたのはさらにその上。10年間どのギルドの誰もが達成できなかったクエスト。通称『10年クエスト』」

 

「じゅっ、10年間誰もぉ!!?」

 

最早スケールが違い過ぎた。ここ10年間で誰もが達成できなかったクエストが存在するという事実でもう眩暈がしそうなのに、よく考えてみれば、ペルセウスはそんなクエストを達成したというのだ。しかも一人で。

 

更に話を聞いてみると10年クエストとして登録される前に聖十大(せいてんだい)()(どう)の魔導士がそのクエストに挑戦したらしい。その魔導士は無事に帰還したのだが…「自分では達成することは不可能。魔力の量ではなく、質によって選ばれた魔導士でなければ、このクエストは永久に解決できぬであろう」と言わしめた程の難易度だそうだ。

 

「そ、そんな、とんでもない魔導士が…ウチにいたなんて…は、ははは…」

 

話のスケールが壮大過ぎてルーシィの脳内キャパシティがオーバー寸前のようだ。以前ギルドの最強候補の話がどうのという話題はあったが、もうペルセウスで確定ではなかろうか?とさえ思えてしまう。

 

だがルーシィは知らない。そのペルセウスさえも凌駕しかねない最強候補がもう一人いることを…。

 

「そ、そんな凄い人と…シエルってどんな関係ですか…?個別に手紙来るほど、仲良いんですか、あの子?」

 

乾いた笑いを零しながら、ギルド全員を一括した手紙一通に加えて、シエルに個別で手紙を書く優遇ぶり。どんな関係性があるのだろうかと疑問を抱くのも無理はない。だが、ミラジェーンから帰ってきた反応は笑顔だ。それも微笑ましいものを見つめる時のような。

 

「勿論よ。だって…」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

少年は駆けて行く。街の外の森を突っ切り、広がった野原をただひたすらに。襲い掛かってくる猛獣を軽くのして未だスピードを緩めずに駆けて行くシエルの後方から、唸り声に近い雄叫びを上げながら近づく者が一人いた。

 

「うおおおおおおっ!!追いついたぞシエル!!」

 

「ナツ!お前もか?」

 

「おうよ!ペルが帰ってくるって聞いたら、いてもたってもいられねえだろうが!」

 

シエルのすぐ後ろにまで追いついたナツは同じスピードで駆けながら、彼に気合の入った返事をする。ナツもまたペルセウスの帰還に胸が膨らむのだ。エルザやラクサス同様のS級魔導士の彼の強さを知っている以上、自分も更に強くならなければいけない。そんな一心で共に走り抜けていく。後からついてきたハッピーが、思ったよりも速く進む相棒に(エーラ)によるスピードが追い付かずに少々バテているレベルだ。

 

「ペルが帰ってきたらまずは勝負だ!そして、今度こそペルに勝ってやる!!」

 

「無理だよ、ナツじゃ」

 

「んだとコラー!!」

 

闘志を燃え上がらせて意気込みを叫ぶナツへの、淡々としたシエルの返答。それを聞いたナツはあっさりと怒りを示す。だが、シエル自身もこれは譲れない。ペルセウスの強さは彼がよく知っている。ずっと見てきた。彼の活躍を聞いてきた。魔法にとって重要な、心の強さも垣間見てきた。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来るより前から、ずっと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって、俺の“兄さん”は妖精の尻尾(フェアリーテイル)でも最強の魔導士だから。俺が追い付くまで、誰にも負けるわけがない…!」

 

果てしない高みに存在する己の兄・ペルセウス。どんなにその高みに行くまでに時間がかかろうと、憧れである彼の元に絶対に辿り着いて見せる。ギルドに来てから夢見た目標は、そう簡単に打ち破れるものではないのだ。その思いを感じ取ったのか、ナツは一度怒りを収めて歯を見せながら「そっか!」と笑みを浮かべる。

 

「だがオレは勝つ!ゼッテーにペルに勝つ!だから今シエルにも勝ーつ!!」

 

「あっ!ズリィぞナツ!!待てえっ!!」

 

「ああっ!二人とも待ってよ~!!」

 

いつの間にか競走に発展する少年と青年を、翼を広げながら猫が追う。その風景は誰の邪魔も入らない空間。兄に一歩でも追いつく為に、水色がかった銀色に、()()の金のメッシュが入った髪を揺らしながら、前の青年を追い越そうとさらに加速していくのだった

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「ペルのフルネームは『ペルセウス・ファルシー』。シエルの実のお兄さんだもの」

 

「シッ!?シエルの…おにいさぁあん!!?」

 

ミラジェーンから明かされた二人の関係に、ルーシィの驚愕の声が響き渡る。それを耳に入れながら、マカロフは一人思い出していた。

 

「(あれから…もう、5年経つのか…)」

 

 

 

忘れもしない5年前の事。私用で近くの街に訪れていたマカロフは魔力が不自然に揺れる感覚を感じた。揺れの原因を探るためにその場所に行くと、それはとある闇ギルドの拠点だった。だが、そのギルドの面々は全滅。一人を残して、誰も生き残ってはいなかった。

 

その残った一人こそ、今妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいるペルセウス。他の人間の残骸があちこちで転がっている中で、中央にて唯一の肉親であろう弟のシエルを抱えているところだった。

 

『こ、これは…』

 

突如入ってきた知らない人物。それから弟を守るために彼を庇うように動いた、当時少年だったペルセウスの姿、そして抱きかかえる弟の身体をよく感知し、マカロフは声をかけた。

 

『その子は弟か?早く診てもらわんと、命に関わるぞ』

 

その言葉に、兄は面食らったように驚きを露わにする。彼は、既に弟が死んだものだとばかり思っていた。だが、マカロフの言葉は弟が生きていることを示唆していた。生きてるのか?その問いにマカロフは笑みを浮かべて答えた。

 

『うむ。微かにじゃが魔力を感じられる。だが一刻を争うじゃろう。何ならワシが、信用してる医師の元へ連れてってやろう』

 

『…ほ、本当に…!?』

 

涙ぐみながら安堵した彼は、自分と会うまでに多くの苦しみを受けた事だろう。兄弟はお互いの為に命すら賭けられるほど信頼し合っている。改めて自分にできることは、彼ら兄弟の親として、その未来を守ることだと思い馳せるのだった。




おまけ風次回予告

ハッピー「妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強決定戦をやるとしたら、シエルは参加するの?」

シエル「俺?そりゃあ行けるところまでは行きたいなって思うけど、最強になるのは絶対に兄さんだ!」

ハッピー「シエルってナツとは違うベクトルで揺るがないよね。ナツったらエルザやラクサス、ペルにだって勝つつもりでいるよ?」

シエル「エルザやラクサスならともかく、ナツが兄さんに勝とうだなんて1000年は早いよ!」

ハッピー「じゃあシエルはナツと戦ったら勝つ自信はあるかな?」

次回『バトル・オブ・フェアリーテイル』

シエル「どうだろう…その時の運にもよるけど、まずナツが突っ込んでくるところを竜巻(トルネード)で迎撃して、その合間に豪雨(スコール)降らせて炎を軽減して、最後に台風(タイフーン)…あれ、意外といける?」

ハッピー「シエルの中のナツのヒエラルキーが想像以上に低いことは分かったよ…」
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