FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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皆さん、大変お待たせいたしました。この回は結構急展開かと思われます。

今日も訳あって出勤でしたが何とか間に合わせることに成功しました、危なかった…。

そして前もって知らせておこうと思います。2月3月は仕事が繁忙期を迎えるため、後進速度が著しく低下致します。その合間にどれだけ進められるかも不明なままですが、少しでも先をお届けできるようにしますので、どうかよろしくお願いします…!


第34話 友の為に友を討て

周りは唖然とし、空気が静まる中、その青年だけは不敵に笑みを浮かべながら目の前の男を見る。その様子を見たラクサスもまた口元に挑発的な笑みを浮かべながら語り掛けてきた。

 

「ナツ…オレはお前のそういうノリのいいとこは嫌いじゃねえ」

 

「ナツ…」

 

「祭りだろ、じっちゃん?行くぞ!」

 

不安げに見上げるマカロフに普段通りの笑みを浮かべながら、ナツは言うや否やラクサス目掛けてナツは駆けだしていく。それを見たウォーレンは過去を思い返しながら駆けていくナツに叫んだ。

 

「お前…昔ラクサスにひどくやられたの、覚えてねーのかよ!」

 

「ガキの頃の話だ!」

 

「いや去年くれーの話だよ!!」

 

「去年はガキだったんだァ!!」

 

ああ言えばこう言うとはこの事か。今やれば勝てると信じて疑わずに、拳に火を灯してラクサスのいるステージの上へと飛び掛かっていく。

 

「だが…そういう芸のねえトコは好きじゃねえ…」

 

今にも拳が当たりそうと言える距離にまで近づいて尚、ラクサスの余裕の笑みは崩れない。雄叫びを上げながら振りかぶるナツの後ろ姿を見ながら、シエルは唐突に呟いた。

 

「…賭けようか。ナツが勝てるかどうか…」

 

「いや…」

 

「そんなの…」

 

反応したのは近くにいたグレイとエルフマン。提案したシエルも含めて、その表情は何かを悟ったように、いやに落ち着いている。何故なら…。

 

「まあ落ち着けよ」

「びぎゃあああああああああっ!!!」

 

「「賭けるまでもねえだろ…」」

 

「デスヨネー…」

 

あと少しで届く…と言う所でラクサスの放った雷がナツに直撃。瞬殺だった。こうなる未来が見えていたから、分かり切っていたから誰も乗る気は無かった。シエル自身も言ってみただけでこうなることは知っていた。

 

「いや一人くれー心配しろよ!!」

 

「あ~あ、折角復活したのに」

 

瞬殺されたナツは、哀れ全身黒焦げ状態で気絶し、床に倒れる。不調から復活して早々ダウンすることとなった彼の姿を見て達観した様子の3人にウォーレンはツッコミ、唯一相棒であるハッピーが呆れながらも傍に近づいた。

 

「この娘たちを元に戻したければ、私たちを倒してごらんなさい」

 

「こっちは4人。そっちは100人近くいる…うっわあ!こっちの方が不利だぜ!!」

『フリダーフリダー』

 

先程までのナツの行動などなかったかのように、ゲームの事前説明が続けられる。女性たちを石に変えたエバーグリーン、周りに浮遊させる人形たちに反芻させながら嗤うビックスロー。そして更に恐ろしいルールが説明される。制限時間は3時間。それを過ぎてしまうと、石になった女性たちは全員砂となり、二度と元に戻らなくなる、と言うものだった。

 

本気(マジ)、なのかよ…!?」

 

「…正気とは思えない…!」

 

グレイの言葉に続くように戦慄しながら呟くシエル。それも意に介さぬまま、ラクサスから説明が続けられる。フィールドはマグノリアの街全体。ラクサス、及び雷神衆のいずれかを見つけ出したらバトル開始とのことだ。

 

「ラクサス…ふざけおってぇ!!!」

 

遊びとして余りに度が過ぎる。家族の命を賭けたゲームを実行しようとするラクサスに、マカロフは巨人化しながら怒りを露わにする。

 

「だぁから慌てんなって…祭りの余興さ、楽しもうぜ…」

 

終始余裕を崩さぬまま、ラクサスはマカロフに告げると同時に指先から閃光を発し、ギルド内を眩い光で埋め尽くす。シエルの日射光(サンシャイン)程ではないが、それでも一同が目を開けていられぬ程の光量。ステージの外にいる魔導士たち全員がその目眩ましに遭いながら、ラクサスが最後に告げた言葉を聞き取った。

 

 

―――バトル・オブ・フェアリーテイル…開始だ!!

 

光が収まり、視界が回復した一同がステージを再び見やると、既にラクサスと雷神衆の姿はなく、石像にされた7人の女性たちのみが残されていた。説明された内容から考えれば、既に4人はマグノリアの中。その中で鬼ごっこをさせるつもりなのだろう。

 

「くそぉぉっ!姉ちゃんたちを助けねえと!!」

 

自分の姉を人質に取られ、一刻も早く助け出すために真っ先に駆け出したエルフマン。それに続くようにほとんどの魔導士たちが一斉にマグノリアの方へと駆けだしていく。女性たちを助け出すため、ラクサスたちを倒すため、様々な思いが交錯する中、ギルドに集っていた魔導士たちが一斉に外へとばらけていった。

 

「俺たちも行こう!」

「おお!」

 

「ワシが…ワシが止めてやるわ!クソガキがっ!!!」

 

シエルの声かけに続くようにしてグレイも駆けだす。そしてその前方を憤怒の形相で本来の大きさに戻ったマカロフも外目掛けて駆け出していく。

 

 

 

だが、出入口を通り抜けようとした瞬間、マカロフはまるで壁に激突したかのように「ゴチーン!」と言う音を立てながらその場で止まってしまった。それを見たシエルとグレイは面食らったように驚愕し、足を止める。

 

「何やってんだじーさん!」

 

「す、進めん…!何じゃ!?見えない壁じゃ!!」

 

「見えない壁?…なんて、どこにもないよ?」

 

見えない壁とやらに顔と両手を押し付けながら、外に出ようと力むマカロフ。しかし、シエルが手を伸ばしながらマカロフよりも前に出ると、何の抵抗もなく外に手は出ていく。見えない壁など存在しないかのように。だが、マカロフも外に出ようと必死のように見えるため、嘘やふざけているとも考えられない。前方から見えるとパントマイムのようだ。

 

試しにグレイが彼の頭を掴んで外側に引っ張り、シエルが背中を押し込んでみたが、頭も体も見えない壁から1ミリも外へ出る気配がない。何故かマカロフにのみこの見えない壁が存在しているようだ。

 

「っ…何だ…!?空中に文字が…!」

 

すると、グレイがふと見上げた先…マカロフを遮る見えない壁に浮かぶように、文字が表示された。だがその文字は大昔に使われた古代の文字。今記されているものは『ローグ文字』と呼ばれているものだ。

 

「これは…フリードの術式か…!」

 

「そうか…結界の一種。フリードが得意の魔法だ…!」

 

マカロフから明かされたその魔法の名に、シエルも覚えがあった。

 

術式。踏み込んだものを罠に嵌める設置魔法。術式に踏み込んだものはルールを与えられ、それを守らなければ出ることが出来ないもの。おそらくはギルドを囲むようにローグ文字で術式が書かれているのだろう。どの出入り口から出ても、術式が通すことを許さない。そして今ギルドを囲んでいるルールはこう書かれていた。

 

・ルール:80歳を超える者と石像の出入りを禁止する。

 

「何だよ!?この言ったモン勝ちみてーな魔法は!!」

 

「術式を書くには時間がかかる。故にクイックな戦闘には向いとらんが、罠としては絶大な威力を発揮する」

 

「範囲が広ければ、勿論書く時間も更にかかる…。マスターの参加を初めから封じるために書いたんだろうね…」

 

術式の破壊はどのような強力な魔導士でも容易ではない。聖十(せいてん)の称号を持つマカロフでさえもそれは叶わない。ルールは絶対。「年齢制限」と「物質制限」の二重の術式を作り上げるほどにまで技量を上げたフリード。それがまさか障害として立ち塞がるとは思わなかっただろう…。

 

「こうなった以上、オレたちがやるしかねえな…」

 

「そうだね、マスターの分まで全部叩き込まないと…」

 

「グレイ…シエル…!」

 

既に何人もの魔導士がラクサスたちを探し回っている。だがラクサスの実力はギルドの中でも随一。高い実力を持つ者達が当たらねばあっさりと返り討ちにされる可能性が高い。自惚れを抜きにしても、自分たちがそれを果たさなければ。二人の胸中にその思いが湧き上がる。

 

「あんたの孫だろうが容赦はしねえ…」

 

「ラクサスを倒す。そしてこのふざけた余興を終わらせる…」

 

歯がゆい思いを抱えるマカロフを背にし、二人はマグノリアの街へと駆けだしていった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

街中を走りながらラクサス、または雷神衆のいずれかを捜索するシエル。グレイとはすでに別行動をとった。固まって探すよりも手分けし、見つけた際に合図を飛ばして他と合流する方が効率的だと判断したからだ。

 

過去の事もあってラクサスにはあまりいい思い出はない。それを抜いても、今回の彼の行動はあまりにも常軌を逸している。早く探し出して止めなければ。その一心で走り抜けるシエルの耳に、一つの戦闘音が届いた。誰かが戦っているようだ。

 

「ラクサスか?それとも雷神衆の誰か…?」

 

距離は少し離れている。移動している間に戦闘音もしなくなって静かだ。音がした方へと向かっていると、路地裏を曲がった先にある人物の姿を見つけた。右目が隠れるほどの黒く長い髪、両手にそれぞれ拳銃を握っている西部出身の魔導士・アルザックだった。激しい戦闘をしたようで、ボロボロだ。

 

「アルザック!誰と戦ったの。もしかして勝った!?」

 

「シ、エル…」

 

ボロボロではあるが、戦闘不能のようには見えない。自分の姿を確認したアルザックは壁に体を預けながら彼の横を通り過ぎようとする。質問にも答えられない程消耗しているのか、案じたシエルは日光浴(サンライズ)を出しながら再び聞き出す。だが、右手を差し出して日光浴(サンライズ)を拒否しながらアルザックは告げた。

 

「…ごめん…」

 

謝罪。その一言のみ。意味も意図も分からなかった。結局彼と戦ったのが誰なのかも不明のまま。戦闘が起きた場所に向かえばわかるだろうかと、アルザックが来た方へと進んでいく。そして、開けた場所に辿り着いた時、シエルの目に映ったのは、信じがたいものだった…。

 

「え、何で…どう言う事だ…!?」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「ナツ!祭りは始まった!ラクサスはこの街(マグノリア)の中におる!!倒してこんかい!!!」

 

「おっしゃああああっ!!!」

 

一方、マスター・マカロフが術式で閉じ込められた妖精の尻尾(フェアリーテイル)。ギルドの中にはもう数人しか人はいなかった。確認できるだけでもマカロフを含め、先程まで気絶していたナツ。ナツの相棒ハッピー。ラクサスを恐れて物陰に隠れていたところを、マカロフに別の任務を託された直後のリーダス。以上の4人(3人+1匹)である。

 

目を覚ましたらラクサスを含めて他の魔導士たちが誰もいなくなっていた現状に戸惑い、マカロフに事態を聞こうとしたナツ。そんなナツにマカロフが告げた内容が上記のものだ。ラクサスを倒せるほどの強力な魔導士。エルザなら可能性も高いが、石像の状態ではそれも不可能。だがナツならば?滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)としての力を解放すれば、勝機も訪れるだろう。その可能性に、マカロフは賭けた。早速雪辱を果たすためにラクサスを探そうとナツは外へと駆け出していく…。

 

 

 

 

 

「待ってろラクサ…ブゥ!!?」

 

だが、マカロフも捕まった術式の壁に「ゴチーン!」と言う音と共に止められて、貼りついた。全く予想していなかった展開に、本人含めてその場の全員が驚愕の声を上げた。ここでルールをおさらいしておこう。

 

・ルール:80歳を超える者と石像の出入りを禁止する。

 

「どーなってんじゃあナツ!お前80歳か!?石像か!?」

 

「知るかァ!!何で出れねえんだよォ!!」

 

現在88歳のマカロフなら、条件に引っかかるからまだ分かる。しかしナツは外見年齢を見れば10代後半。明らかに80歳超えではない。ついでに今石像のわけもない。だと言うのに術式はナツの出入りを禁止している。どういうことなのか誰もが理解できなかった。相棒のハッピーが(エーラ)で浮遊しながら、外に出られないナツの周囲を旋回して首を傾げている。ハッピーは問題なく通れるようだ。ますます分からん。すると、ルールを記していた術式の壁に新たに文字が浮かび上がった。

 

「『バトル・オブ・フェアリーテイル途中経過速報』?ん…?」

 

ローグ文字で記されたその文にはこう書かれていた。「ジェット vs. ドロイvs. アルザック」と。ラクサスと敵対する側である3人が何故三つ巴で戦っているのか。理解する間もないまま、更に情報は更新された。そこには勝者としてアルザックの名が記されていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「な、何で…ジェットとドロイが…!?」

 

アルザックが歩いてきた方向に向かってみれば、そこにいたのは倒れ伏して気を失った状態のジェットとドロイの姿。瞬間、シエルは先程のアルザックが呟いた謝罪の言葉を思い出した。もしや、この二人と戦い、倒したのはアルザック?だが何故?推察している最中、シエルの耳に更なる戦闘音が届いた。乗雲(クラウィド)で上空へと昇り、マグノリアを見渡してみると、シエルは言葉を失ってしまった。

 

マグノリアの街の至る場所で、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士同士で戦っている。轟音と煙を発しながら、ラクサスも雷神衆も見当たらないにも関わらず、互いに魔法を使用し、本気でぶつかり合っている。

 

その光景に呆気に取られていたシエルは、一番近くで戦っているエリアを注視する。すると、一人の魔導士が吹き飛ばされた拍子に、見えない壁に背をぶつけてその場に倒れ伏した。この見えない壁にシエルは心当たりがあった。ギルドを出ることができないマスター・マカロフと同じだ。

 

「フリードの術式…!そうか…街の至る所に張り巡らせているんだ…!!」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士にのみ発動されているであろう術式が街中に存在している。そして恐らく術式に施された条件は「術式内にいる者で勝負し、勝った者のみが脱出できる」。或いはそれに近いものであることが想像できる。そこまで考え付いたシエルは拳を握り締め、歯を食いしばる。怒りと苛立ちを露わにした様子だ。その矛先は勿論、ゲームを仕掛けてきたラクサスたち。

 

「4人と100人近く…!?ラクサスたちを見つけたらバトル開始…!?ふざけやがって…!!」

 

思い出すのはゲームを始める前に行われた説明。だが、今眼下に広がっている光景はそれとはまったく違うもの。味方同士を強制的に争わせ、こちら側の戦力を意図的に消耗させている。これはただのバトルでもゲームでもない。

 

「これじゃまるで…共食いだ…!!」

 

妖精たちの共食い。これがバトル・オブ・フェアリーテイルに隠された本来の姿であった。グレイと別行動をとったのは結果的に最善の判断だったかもしれない。もしグレイと行動して彼ら同様に術式にはまってしまえば、グレイと潰し合うことになってしまったのだから。

 

術式にはまらない様に注意しながら雷神衆を探す事。それを最優先と決め、シエルは行動を再開した。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

時間が経過するとともに状況も大きく動いていた。ギルドを囲むように張られた術式にはバトル・オブ・フェアリーテイルの現状が逐一更新されて知らされており、そこには街中で仲間たちが戦いを始め、その結果による勝敗も知らされる。残り時間は2時間18分。だが残り人数は半数以下である42人にまで減少していた。

 

そして更に数分。戦況は大きく動き出した。術式のボードに「フリード vs. リーダス」、「ビックスロー vs. グレイ」、「エバーグリーン vs. エルフマン」の三つの戦いが記される。雷神衆が動き出したのだ。そして時間も経たないうちに、エバーグリーンによってエルフマンが戦闘不能にされたという情報が更新される。

 

「まさかエルフマンがやられるなんて…!」

 

「ぬうぅ…グレイはビックスローと戦ってやがる…!オレも混ざりてぇ…!!」

 

全身接収(テイクオーバー)をものにし、更に実力を上げたエルフマンがやられたことにハッピーが戦慄し、術式からなぜか出れないナツは刻一刻と変わる(本人にとっては)喧嘩祭りにウズウズしている。

 

そして更にはリーダスも、フリードによって戦闘不能にされたことが伝えられた。彼は石化された女性たちを解放させるために、東の森にいる顧問薬剤師・ポーリュシカの元に向かうようマカロフに頼まれていた。だが、感づかれたのか、フリードによって倒されてしまったようだ。

 

「どーしよー!これじゃ石にされた皆を治せないよー!!」

 

「治す事ねえよ、どうせハッタリだから」

 

頭を抱えて叫ぶハッピーにナツは冷静に返す。いくらラクサスと言えど仲間の命を脅かすような真似はしない。そう信じて疑っていないようだ。次々と潰し合いによって戦闘不能となっていく仲間の状況を見ながら、未だラクサスの事を仲間と言えるナツに、マカロフは自身の孫を信じきれない自分に対し少しばかり嫌悪感を抱くとともに、ナツに感嘆していた。だが、そんなナツの言葉に応えるかのように、彼らの後ろからその声は聞こえた。

 

「ハッタリだと思ってんのか、ナツ?」

 

後ろにいたのはラクサスだった。しかしそれは本体ではなく思念体。マグノリアのどこかにいるラクサスが、遠隔でこちらに思念体を送ってきたのだ。

 

「つーか何でオメーがここにいんだよ?」

 

「うっせえ!出れねえんだ!!」

 

どうやらラクサス自身もナツが未だにギルドに閉じ込められていることは予想していなかったようだ。マカロフはまだしも、何故ナツまで?彼にとっても理解が及ばなかった。と、それはひとまず置いておき、これまでの所業を行ったラクサスに対し、マカロフは怒りを滲ませて睨む。そんな祖父に睨まれていることも気にせず、ラクサスは挑発的な笑みを浮かべて語りかける。

 

「仲間…いやあんたは()()って言い方してたよな?ガキ同士の潰し合いは見るに堪えられんだろ?あ~あ…ナツもエルザも参加できねえんじゃ、雷神衆に勝てる兵はもう残ってねえよなぁ」

 

次々と潰し合い、やられていくガキたち。さらに動きを制限されているエルザやナツ。ラクサス、そして雷神衆に勝てる魔導士はもうほとんど残っていないに等しい。そうなれば、もう勝機は存在していないようなものだ。「降参するか?」と尋ねてくる孫に何も言い返せずに口ごもる。

 

「まだグレイやシエルがいるよ!グレイはナツと同じぐらい強いし、シエルだってナツといい勝負してたんだ!雷神衆になんか負けるもんか!!」

 

マカロフの代わりに反論したのはハッピーだ。日頃からナツと切磋琢磨しているグレイ。そして修行中の際に組手形式で戦い互角の力で食い付いてきたシエルを知っているからこそ、彼等ならばこの戦況を打破してくれる。そう思って彼は主張した。

 

ナツはグレイと同じと扱われて不満気に突っかかってきたが放っておく。

 

「グレイにシエルだぁ?ククッ、あんな小僧どもに期待してんのかよ」

 

「…あ奴等を見くびるなよ、ラクサス…」

 

二人を除けば実力の高い魔導士たちはもういなくなってしまったも同然。最早彼らに望みを賭けるしかないと、マカロフは覚悟する。

 

 

 

 

だが、現実は非情であった。術式のボードに勝者はビックスロー、グレイ戦闘不能、残り28人と記入された。グレイが負けてしまったのだ。

 

「ふはははははっ!だーから言ったじゃねーか!!」

 

ラクサスの高笑いが響く中、マカロフたちはその文字を見て愕然とする。希望を託した二人の内の片方が、一人も倒せずに敗れるとは…。

 

「嘘だっ!絶対なんか汚い手を使ったんだよ!!」

 

「ぬうぅ…!!」

 

非情な現実を否定するハッピー、参加できぬもどかしさと同じチームの仲間が敗北した悔しさに唸るナツ。その様子すらも、ラクサスは愉快と言わんばかりに口元を吊り上げている。

 

「あとは誰が雷神衆に勝てるんだ?」

 

「まだシエルが残ってるよ!」

 

「シエルねぇ…けどあいつ、さっきからずーっと名前が出て来ねえじゃねえか。気付かねえうちにやられちまってるんじゃねえか?」

 

嘲笑を交えながら告げるラクサスの言葉を胸の内で反芻し、マカロフは迷う。グレイは敗北が確定され、シエルは現在音沙汰無し。ラクサスの言うように既にやられてしまっているのだろうか?

 

「じゃ、じゃあガジルが…!」

 

「残念~!あいつは参加してねーみてーだぜ」

 

「オレがいるだろーが!!」

 

「ここから出れねーんじゃどうしようもねーだろ、ナツ」

 

後方で言い争う声にも耳を傾けながら、マカロフは決断した。こうすればもう、これ以上の不毛な争いを食い止めることができる。そして石にされた者達も救うことができる。

 

「分かった、もうよい…

 

 

 

 

 

 

降参じゃ。もうやめてくれ、ラクサス…」

 

「じっちゃん!!」

 

子を守るのが親の務め。そして今その子を守るためにできることは、敵側に頭を下げる事。その決意の表れである降参を告げたマカロフにナツが叫ぶ。これでいい。これで全てが丸く収まるのなら…。

 

 

 

 

 

「ダメだなぁ…天下の妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターともあろう者が、こんなことで負けを認めちゃあ…。どうしても投了(リザイン)したければ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターの座をオレに渡してからにしてもらおうか」

 

だがラクサスはそれを拒否した。見下す笑みを浮かべて告げたその内容に、マカロフは再び愕然とする。同時に理解した。このゲームの本当の真意を。強制的にマスターの座をラクサスに渡すように仕組むため、仲間の命と力を盾にし、脅迫してきた。

 

「女の石像が崩れるまであと1時間半…。リタイアしたければギルドの拡声器を使って街中に聞こえるように宣言しろ。『妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターの座を、ラクサスに譲る』とな」

 

マグノリアを拠点とし、代表とされるギルドのマスターが、その街、ひいては近隣住民の者たちにも伝わる様にそれを宣言してしまえばもう後には引けない。これはもう事実上のギルドの乗っ取りに他ならない。初めからラクサスの狙いがマスターの座であったことに気付いたマカロフは、その言葉に最早言葉を紡ぐことができなかった。

 

「よーく考えろよ。自分の地位と仲間の身、どっちが大事かをな」

 

それを最後にラクサスの身体にノイズが走り出す。思念体を解く前兆だ。にも関わらず怒りのままにナツはラクサスに殴りかかろうとし、振りかぶった拳はラクサスがいなくなったことで空をかき、勢いそのままに転がって行って柱に激突した。そもそも思念体だからどっちにしろ殴ることは出来ない。だと言うのにそれを実行するのはナツがナツたる所以だろう…。

 

「くそっ!オレと勝負もしねえで何が最強だ!何がマスターの座だ!!」

 

柱に激突して体の上下が反転したままナツは文句を垂れる。ナツは兎も角として、目的であるマスターの強制的な参加拒否、同士討ちを誘う罠、そして街中に周知させる様に誘う徹底ぶり。圧倒的に不利な状況を作り出しておいてマスターの座を寄越せと言うのは、傍若無人と言うにも有り余る。

 

「マスターの座など正直どうでもよい」

「いいのかよ!」

 

しかしマカロフにとっては然程問題ではなかった。彼にとって重大なのは、もっと別のこと。

 

「だが…ラクサスに妖精の尻尾(フェアリーテイル)を渡す訳にはいかん。この席に座るにはあまりにも軽い。信念と覚悟が浮いておる」

 

心に大きな問題を抱えている今のラクサスでは、マスターの座に就くのは不相応。今までの彼を見てきて、そして先代から教わったこの座に就くことの意味を鑑みる限り、簡単にラクサスに譲るわけにはいかないと、確固たる決意を表す。しかし、このまま公算もせぬまま時間が過ぎて行けば、石となった女性たちは砂となってしまう。ラクサスを倒せる者は他に見当たらない。ナツなら可能性はあるが外に出られない。万事休すか…。

 

 

 

 

と思われたその時、カウンターの奥で何かを漁る音が聞こえた。その音を聞いて一斉に一同はその方向を振り向く。「誰!?」と尋ねるハッピーの声に応えたのか否か、その人物はカウンターに肘を駆けながらその体を起こして姿を現した。ガジガジと言う音と共に鉄製の食器を喰らうその男は…。

 

「ガジルー!!」

「食器を食べんなー!!」

 

ラクサスから参加していないものとされていたもう一人の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、ガジル・レッドフォックス。カウンターを軽やかに飛び越えて、悠々と歩きながら出入口へと向かっていく。

 

「も…もしや…行ってくれるのか…!?」

 

「あの野郎には借りもある。まあ…任せな」

 

驚きを露わにしながらも期待を込めて問いかけるマカロフ。それを聞いたガジルは振り向きはせずとも口元に弧を描いて堂々と告げる。実は数日前にシャドウ・ギア、そしてラクサスを交えて少々騒動を起こしていたのだが、わざわざそれを詳しくは告げない。リベンジを果たす時が来たと、そのまま街に出てラクサスを倒しに向かう。

 

 

 

 

はずだった彼を、術式の見えない壁は「ゴチーン!」という音と共に遮った。それを見たマカロフたちは本日二回目の驚愕を露わにする。ついでにガジルも困惑している。

 

『お前もかーーーーっ!!!』

「な…何だこれはー!!」

 

・ルール:80歳を超える者と石像の出入りを禁止する。

 

くどいようだがもう一度表記させていただいた。ナツ同様に条件に合っていると思えないガジルまでもが対象にされているらしい。あるいは身体を鉄化させられるガジルは石像と判断された?だとしたら理不尽すぎる。結局なぜ彼までもが出られなくなっているのか、誰も分からないまま時はまたもや過ぎていく。

 

「何でお前まで出れねーんだよ!マネすんじゃねー!!」

「知るか」

「腹減ってきたじゃねーかコノヤロウ!!」

「それは本当に知らんわ!!」

 

何故か術式から出られない二人が言い争っているのをよそに、ボートに記された情報には残り人数が3人と表記される。まだ1時間以上も残っている中で、たった3人のみが残るという事態…残り3人?この人数は恐らく自分を含めてはいない。マカロフはギルド内を見渡してみる。

 

 

1人目:ナツ

 

2人目:ガジル

 

3人(?)目:ハッピー…?

 

「こいつ等だけじゃとーーーっ!!?」

 

ラクサスは戦ってすらいない中、同士討ちと雷神衆の手によって、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちが全滅してしまったと言うのか?最早戦える魔導士は残っていない。打つ手がない。マスターの座を…明け渡すしかないのだろうか…?

 

 

 

 

「オイラは頭数に入ってなかったのか…」

 

その時呟いたハッピーの言葉に、マカロフは意識を戻された。その言葉はまるで、残る3人にハッピーが含まれていないという意味。実は他に残りがいて、今やられてしまったのだろうか、と考えてボートを確認してみたが、残り人数は減っていない。だが、代わりに新たに更新された情報が、その言葉を意味を物語っていた。

 

「そうか…残っていたのだな…!」

 

その名を目にしたマカロフはひとまず安堵した。まだ希望は潰えた訳ではなかった。聡い彼の事だ。無用の争いを避けて逆転の機を窺っていたのかもしれない。

 

「なーんだ、やっぱやられてなかったんじゃねえか。適当言いやがってラクサスの野郎」

 

「勝てんのか?そりゃ、あいつのヤバさはオレも知らねえ訳じゃねえが…」

 

確証はない。だが、託すとすればもうこの者しかいない。相手は未だに欠員0。その内の一人でも打倒することができれば勝機はあるかもしれない。マカロフの想いは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の運命は、全て委ねられた。

 

「頼むぞ…もうお主しか、おらんのだ…!」

 

固唾を飲んで祈るマカロフ、笑みを浮かべて信じるナツとハッピー、詳しくは知らないが記憶を呼び起こして思案するガジルが見上げるボードに、その情報は記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エバーグリーン vs. シエル 戦闘開始」

 




おまけ風次回予告

シエル『マスター…ここの人たちっていつも喧嘩してるけど、仲が悪いんですか…?』

マカロフ『んー?お前さんにはそう見えるか?見てみろ、仲が悪い、憎しみを込めたような表情に見えるかのう?』

シエル『ううん…怒ってるように見えて…でも、楽しそう?』

マカロフ『仲が良いものは、時として喧嘩をすることで分かり合うものじゃ。お前さんにもわかる時が来る。喧嘩が嫌なら悪戯とかどうじゃ?』

シエル『悪戯…か…』

次回『悪戯妖精』

マカロフ「な~んてことを教えたら、すっかり悪戯小僧になってしまったのう、あやつも…」

シエル「大変だ、マスター!ナツがまた街で大暴れ!」

マカロフ「何じゃとぉ!?」

シエル「する前にエルザと引きずってきた~♪」

マカロフ「心臓に悪い悪戯はよさんかぁ!!」
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