いや、本当は今日、余裕をもって投稿に移るはずだったのに、頭の中で考えていたプロットから徐々に徐々に分量が膨らんでいって…まーた最大文字数更新、その上一時間遅れとなってしまいましたよ、それでもギリギリだったけど…!!
けどここまでは絶対書きたい!って言う思いの方が強かったからこれでいいと思ってます。後悔はない!でも反省します!!そして次週は休みです!←
魔導士たちが術式内に閉じ込められて同士討ちをし、減ってきたところを雷神衆の三人が追い討ちをかけていくことで更に数を減らしていく中。マグノリアの街を、時には大通り、時には路地裏をランダムに徘徊して様子を窺いながら移動する小さな影・シエルはある人物を探していた。
今回の敵陣営であるラクサスと雷神衆。その中で、彼は優先的に撃破しておくべき対象を既に決めていた。雷神衆の紅一点、エバーグリーンである。
「ここにもいない、か…。誰かがいたことは明確なんだけど…」
気絶して倒れ伏す仲間たちを確認したシエルはさらに移動を続ける。何故彼が優先的にエバーグリーンを倒すべきだと判断したのか。まず一つに人質の解放だ。現在人質として石像にされている女性たち。そもそもの石像化の元凶はエバーグリーンによる石化の眼である。つまり今この時において石像となった者たちを戻すことができるのは、その力を持つエバーグリーンを於いて他にいない。
既にバトル・オブ・フェアリーテイルの残り人数は3人。ほとんどの者たちが敗れているこの状況において、残されているのはシエルのみと言っていい。そのシエルが今するべきこと、出来ることは何か?
最終的な目標であるラクサスを相手にするには、シエルは力不足だ。更に術式魔法を駆使するフリードは、シエルの
思考しながら捜索を続けていたシエルは、空中からのその攻撃を感知し、咄嗟に身を引いた。彼目掛けて飛んできたいくつもの光の針が、彼がいた場所に突き刺さる。避けなければこの針の餌食となっていただろう。
「あ~らあんただったの?生き残ってる最後の一人って」
針が飛んできた、そして声がした方向へと目を向ければ、目的の人物が建物の上から眼鏡越しにこちらを見下ろしているのが確認できた。いや、見下していると言った方が正しいか。
「あんたみたいな
「奇遇だな、俺もここでお前とぶつかれるのは好都合だったんだ」
目当てとしていたエバーグリーンが向こうから襲来してきたことに、シエル自身も口角が吊り上がるのを感じた。ここで彼女を倒すことができれば石像となった女性たちを助けることができる。シエルが告げた言葉にエバーグリーンは怪訝な表情に変えたものの、すぐに余裕を持った表情へと戻る。
「ついこの前、ようやく正式にギルドの一員として認められたばかりの癖に、調子に乗ってるそうじゃない?」
そして見下しながら言ってきた言葉にシエルは溜息を吐いた。何を言われるかと思えばそんな事か。ギルドの一員として認められて喜んだことは事実だ。だが調子に乗っているなどと決めつけられるのは不本意である。
「依頼でギルドの外にいた時に、あんたの事を度々聞いたのよ。最近になってよく耳にする噂…」
「『天に愛されし魔導士』…だっけ?」
「そっちもあったけど、私が言ってるのは別の方よ」
何回か自分が世間でどう呼ばれているのかを耳にしたことはあった。奇しくも兄と同じような呼ばれ方をされていることに、むず痒いような、それを聞いていた兄の反応を思い出して複雑な胸中を抱いた覚えがある。だが彼女が言いたいのは違う方だと言う。他に呼ばれた覚えが無かったのだが、何かあっただろうか?そう考えるよりも先に、エバーグリーンの方からそれは明かされた。
「『
それを聞いたシエルはどこか納得した。悪戯が大好きな、妖精に加わっている者。そう考えてみればこれ程己にはまっている異名も中々無いだろう。どこか他人事にも見える反応も気にせず、エバーグリーンは右手に持つカフが付いた扇子を畳みながら「気に入らないわね」と吐き捨てる。
「あんたと言い、
そう言いながらエバーグリーンは背中から蝶のような翅を顕現させる。そしてその翅で羽ばたきながら、無数の粉を出してシエル目がけて飛ばしていく。ただの粉ではない。翅を形作るものと同じ性質…鱗粉だ。
「『妖精爆弾グレムリン』!!」
その声と共にシエルの近くに漂っていた鱗粉が発光し、爆発。シエルの周囲を爆発と煙が包み込む。ほとんどの魔導士たちはたったこれだけの事ですぐに戦闘不能になった。だが、あの子供ならどうか?それに答えるかのように煙から小さい影は飛び出した。
「天候は曇りのち雷!
エバーグリーンの頭上に、小規模ではあるが雲を出現させてそこから雷を落とす。彼女は焦ることなくその雷を回避し、距離をとりながら空中を移動する。
「雷神衆である私を相手に雷を撃ってくるなんて、生意気なお子様ね」
「雷が通じないとは言ってないんだろ?ラクサスはともかく、お前たちなら通じるはずだ」
攻め立てていくシエルに対して、避けに徹するエバーグリーン。奇しくも両者、空中を移動する魔法を習得している者同士で、必然的に空中によるせめぎ合いが展開されている。彼女の行き先を想定して所々に雲を展開して部分的に雷を落としていくが、彼女はひらりと躱していく。街を覆うほどの雲を出現させて雷を落としていけば避けるのも容易ではないはずだが、それをしないのには理由があった。
「マグノリアにいる人たちを巻き込まないで戦うのは、あんたにはきついでしょ?」
エバーグリーンから放たれたその言葉に、シエルの表情は初めて歪んだ。広範囲に影響を及ぼすシエルの魔法は、多数の敵を相手にするには非常に有効だ。しかし今回のように、無関係の町民、及び収穫祭で別の街からきている観光客が集まっている今の街中では、それは逆に巻き込む可能性が高いという事。既にバトル・オブ・フェアリーテイルによって起きた同士討ちによって、いくつもの被害を起こしてしまっている。術式に閉じ込められるのは
「対して私は、躊躇なくあんたを攻められる…。『妖精機銃レブラホーン』!!」
腕を交差して鱗粉を発動させると、その鱗粉が鋭い針状へと変わる。最初にシエルを不意打ちしようとした光の針の正体はこれだ。そして百にも届く膨大な数の光の針がシエル目掛けて襲い掛かってくる。それを確認したシエルは
「
それを瞬時に緑色の魔法陣から出した竜巻を前方目がけて放ち、飛散させる。勢いの弱まった針の弾幕を突っ切って、更にシエルは進んでいく。だが、エバーグリーンの表情から余裕は消えない。
「意外とやるじゃない。でも倍ならどうかしら?」
空中で更に身を翻しながらエバーグリーンは宣言通り、針の数をさらに増やす。無数の域へと届いくのではと思われるその針を再び
「
だがその未来は訪れなかった。両手に発動した
「『
彼の背丈ほどの長さの風の棍が巻き起こす風によって、無数の光の針は一つ残らず吹き飛んだ。彼の身体には一切の傷さえも入っていない。予想だにしなかった現実に、エバーグリーンはここで初めて表情を驚愕に染めた。そして呆気にとられる彼女に反撃の隙を与えないまま、シエルは
「残念だったな妖精?俺の魔法が周りも巻き込んでしまうばかりだと思ってたんだろ?」
エバーグリーンを落とした屋根の上に降り立ちながら、シエルは得意気に告げる。個の力が強い相手に対して、
自分が知らなかったシエルの戦い方を垣間見たことで気が動転し、あっさりと攻撃を受けてしまったエバーグリーンは、起き上がりながらも苛立ちの表情を隠さずにシエルを睨みつける。少し前まで自分の方が明らかに実力が上だったのに、見下されているように感じて彼女は実に不愉快な思いを抱いていた。
「何よ、まさかもう勝った気でいるんじゃないでしょうね?一度だけ攻撃を当てられたからって調子に乗らないでよね」
服に付いた砂汚れを払いながら、彼女は毅然とした態度を戻して彼に告げる。そうだ、自分はまだ負けていない。多くの魔導士たちを相手に圧倒し、実力者であるエルフマンや女性たちを貶めたもう一つの魔法がある。
雷神衆には普段から扱っている魔法に加えて、二つ目の魔法を全員有している。それは各々目に宿しており、目に魔力を集中させることでその魔法を扱うことができるようになる。フリードは普段髪で右目を隠し、ビックスローは兜で目を覆い、エバーグリーンも眼鏡をかけて万が一暴走することが無いように保護している。と言っても、エバーグリーンはメインでもこの魔法を使用しているが、その効果は絶大だ。
「見た目だけなら、あんたも可愛い顔をしてるもんね…。だからこそ、その生意気な性格が美しさを台無しにする」
彼女にとっては、どんな醜いものさえも、石になり、彫刻となれば、美しき芸術として評価される。シエルも外見はエバーグリーンのお目がねにかなうが、己の神経を逆なでするあの性格だけが唯一と言っていい汚点。それすらも封じることができる一石二鳥の手が、自分にはあった。
「
そして彼女は眼鏡を外し、シエルの方へとその目を向けた。目を合わせた相手を石にする魔法・
「
「あ゛あ゛あ゛あ゛あああああぁぁぁぁぁああああっ!!?」
シエルは食らうことなく小さな太陽の膨大な光をエバーグリーンに向け放った。ほぼ一点…エバーグリーンが目を開けた瞬間にその目に向けて放たれた光は彼女の視界を封じてみせた。視覚を封じて戦うか、目を合わせて石になるか?彼はどちらも選ばない。選ぶのは、相手の視覚を潰すこと以外にない!
「目が!目ぇがぁ!!ああああああっ!!!」
「バカだな~。目を合わせてはいけないことが確実に分かってる相手に、対策を考えないとでも思ってた?天気の魔法を使う俺がこんな手段を使ってくること、考えつかなかった?」
最早自滅に近い形で己の魔法の一つを潰されたエバーグリーンは、思わぬ大ダメージを受けた両目を手で覆いながら屋根の上を転がっている。美しさもへったくれもない。あんまりにも惨めな様子に、シエルは
「ふ、普通子供がこんなえげつないことしてくると思わないでしょうが!あんたこんな卑怯な手を使って勝ち取った勝利が誇らしいわけ!?」
「目を合わせただけで相手を行動不能にできるお前には言われたくない」
若干視力が回復してきたのか、エバーグリーンがシエルがいる方向に顔を向けて目をつぶったまま怒鳴り散らしてくる。しかし、彼女の主張はシエルにはどこ吹く風だ。
「しょうがないじゃないの、私はこう言う魔法なんだから!てか
「でもこれ消したらエバーグリーンは俺を石にしてくるじゃん」
「あんたがそれを消さないと私が圧倒的に不利なのよ!不公平よ!」
「じゃあサングラス付けたら?」
「そしたら私の
「やなこった」
「はあ!!?」
ああ言えばこう言う、と言う言葉が圧倒的に当てはまる口論を続けていく中で、シエルが拒否の反応を示したことによりエバーグリーンの苛立ちはさらに募る。それを見たからか否か、シエルは彼女が見えてないにも関わらず明らかに見下すような視線を向けて、口角を上げながら言葉を並べ始めた。
「戦いにおいて如何に自分の有利な状況を作り出すか、如何に相手の攻めの手を封じるかが勝利の鍵だ。敵が有効的な攻撃手段を封じられているところを一気に叩く。試合とは違うんだ、誰に何と言われようと俺はこの
「ホンット可愛くないわねこのクソガキィ!!」
両者どちらも色々とメチャクチャなことを主張してはいたのだが、主人公らしかぬ表情と台詞にエバーグリーンがキレるのも無理はなかった。今なら世間から
仕方なく眼鏡をかけなおして、エバーグリーンは態勢を立て直すことに決めた。石化させる魔法を実質的に封じられたのなら、鱗粉の魔法で戦うしかない。そう考えて彼女は再び背中に翅を顕現させる。
「妖精機銃レブラホーン!!」
「
再びシエルに襲い掛かってくる無数の針。するとやはり、シエルは再び風の棍を作り出して針を突風で弾き飛ばす。だが今度は違う。シエルの全方位を囲むように鱗粉を撒き、それら全てを光の針へと変える。
「受けてみなさい!!全方位から襲い掛かる、無数のレブラホーンを!!」
この時点で彼女は勝利を確信した。先程のような奇跡が起きる筈もない。彼の持つ風の棍でも防ぎきれない膨大な針によって、串刺しになるのだと。だがその期待は再び裏切られることになる。
「
「ま、また!?」
それを聞いた瞬間エバーグリーンは驚愕した。まだ他に似たようなものが存在するのかと。驚く彼女を尻目に、右手に水色の魔法陣を展開させながら上に上げる。すると彼を囲むように吹雪が起き始め、包んでいく。すると同時にエバーグリーンが放っていた無数の針が彼を囲んでいた吹雪に被弾した。思わず彼女は目を凝らしてその様子を見る。
被弾したことによって起きていた煙が晴れると、そこには無数の針が串刺しにされた半円状の物体があった。エバーグリーンはそれを知らないが、外見を分かりやすく言えば穴のないかまくらである。そしてかまくらを形作る雪の壁に罅が走り、徐々に広がり、最後には完全に止まった針と共に崩れ落ちる。
その中から出てきたのはシエル。それも、一本たりとも針を受けていない無傷の状態だった。
「う、嘘でしょ…!?」
「『
驚愕の表情を隠せない彼女に、シエルは説明してみせた。エバーグリーンが先手として放ったグレムリンの爆発に無傷でいられたのも、瞬間的にこの魔法を発動していたからであった。彼女の使う技が尽く防がれてしまう。だが負けを認めるわけにはいかない。自分がこんな子供を相手に為す術もなく負けるなど、あり得ない。
「もう一度よ!妖精機銃…!!」
すると、彼女に異変が起こった。突如として彼女の翅が意志に関係なく消失。彼女は重力に従って屋根の上に落ちてしまう。
「な、何…!?何が起こって…!!」
どうして消えてしまったのか。その疑問はすぐに解けた。目の前に、いや街が映る視界全てがその答えを物語っていた。うっすらと街を覆う、先が見えるほど濃度は低いものの、確かに存在する、その気候が。
「ようやく広げられたか。『
そう、霧だった。マグノリアの街全体に、それほど濃くはない霧が広がっていた。町民や観光客は不思議がっているものの、不便と感じている者はいないようだ。中には大パレードである
「ま、まさかこの霧…あんたが…!?」
驚愕に目を見開くエバーグリーン。その問いにシエルは笑みで答える。本来であれば視界さえも遮る濃度の霧を発生させるのが、シエルの『
そこでシエルが繰り出したのは、範囲を広く、かつ濃度を低めにした霧を様々な場所に行き渡らせること。エバーグリーンと戦闘を開始した瞬間から、シエルは気づかれない範囲で徐々に
彼女が扱うのは鱗粉の魔法。鱗粉を撒布することで任意の攻撃に発展させることを可能にする。しかし、粉の一種でもある鱗粉は水に流されやすい。空中に漂う微粒子の水分が濃密に集った霧は、その鱗粉の機能を無効にする。
「
シエルがエバーグリーンを捜索していたもう一つの理由。それはシエルにとって、エバーグリーンは魔法の相性で、圧倒的有利に戦えるためであった。一切の攻撃手段を失ったエバーグリーンに、最早勝ち目はないに等しい。
「さあ、降参して石にされた皆を元に戻してもらおうか?それとも…」
そう言うと彼は、
「この状況でもなお、足掻いてみるか?」
どっちらが優位なのかは明白。しかし、彼女は降参をする気は無かった。形勢は不利でも、ある一点を除けば自分は優位に立てるのだから。
「ふっ、うっふふふ…!いいのかしら、このまま私を倒しちゃっても…」
尚も虚勢のように態度を変えない彼女に、シエルの表情は怪訝のものへと変わる。すると彼女の口からそれは説明された。
「私の
それを聞いたシエルの目が見開かれるのを、彼女は感じ取った。人質の命を優先しているのであれば、確実に揺れることは明白。想像通りであった。エバーグリーンの遠隔操作を使えば、遠くにいる石像を粉々に砕くことも可能。それを駆使して彼女は逆に脅しをかけてきた。
「今すぐこの霧を消して、私の前に跪きなさい!さもないと…!」
そんな彼女の言葉は自身の後方の壁が貫かれる音によって遮られた。恐る恐る振り返ると、そこには自分の耳のすぐそばにあった壁にそれぞれ風穴が二つ空いているのが見える。再び前を向くと、シエルが番えていた光の矢が二本減っていた。まさか撃ったのか、今、人質に危険が迫っている中で。更に言えば、今シエルが浮かべている表情は、明らかに怒りのものだった。
「脅しをかけられる立場かよ…?本当にそんなことをしてみろ。同じギルドの仲間であるからって、もう命の保証は出来ねえぞ…!?」
あの目は本気だ。彼女は直感的に感じ取った。選択を間違えたのだ。シエルにとって仲間の命はそのように軽んじられるものではない。命を奪うという事は、自分の命を奪われる覚悟も決めているという事。これまでの人生において、彼はそれを身をもって知ってきたのだ。だからこそ、彼は告げる。彼女が石像を砕くときは、彼女自身の命も、散る時だと。それを聞いて戦慄するエバーグリーンに、シエルは目線を外さない。最早彼女に残された道は、降参のみ…。
そんな窮地に、その人物は現れた。
「!?」
エバーグリーンに意識を向けていたシエル目がけて、彼女の後方の建物の上からシエルへと攻撃を仕掛けてくる。細剣を突き出してきたその人物の攻撃を避けるために、シエルは飛び退く。その為か、先程までシエルのいた位置の屋根に、その細剣は突き刺さった。黄緑色の長い髪に、赤い軍服を身に着けたその人物は…。
「くっ!フリードか!!」
雷神衆のリーダーにして、ギルドを囲む術式をも作り出した術式のスペシャリスト、フリード・ジャスティーンであった。
「フリード、いいところに!!」
「随分と苦戦していたな、エバ。いや…エバを相手に優位に戦えるようになったシエルを、見事と褒めるべきか…」
絶望から一転、表情を喜色に染めたエバーグリーンを一瞥してフリードはシエルに向き直す。そしてすかさずフリードはシエルとの距離を詰め、彼に細剣を突き刺そうとする。左に飛び退いてそれを躱したシエルに、更にフリードは追撃。すかさずシエルも反撃に移る。
「
右手に雷で出来た刃を作り上げ、シエルはフリードの細剣を受け止める。少しばかり鍔迫り合いをする両者。だが純粋な力で上回ったフリードがシエルを押し込み、後方へと飛ばす。態勢を立て直さねば、と考えたシエルが勢いのまま後方へと下がると、彼を囲むようにしてそれは発動した。術式だ。
「しまった!!」
手に持っていた
ルール:この術式の中は如何なる魔法も無効化する。
ルール:戦闘終了まで14歳の者が脱出することを禁止する。
「に、二重術式結界!?」
ギルド前に張られている二つの制限をかけた結界ではなく、術式自体が一つの術式を囲むように記されている。しかも14歳の者…シエルのみを対象とした術式だ。彼にとって都合の悪い術式が、どうして記されているのだろうか。
「オレは術式を最も効果的に利用しているにすぎん。まあ、お前がエバを戦っている間に二つ目の術式を書き切れるかどうかは、正直不安ではあったな」
実はフリードがこの場に来たのはつい先程ではない。シエルとエバーグリーンが交戦しているのを目撃し、彼女が思った以上に苦戦を強いられていることに気付いたフリードがシエルを術式の中に嵌める為、急遽追加の術式を書いたのだ。それが、シエルの年齢である14歳の者を閉じ込めるもの。
「これによってお前の魔法はもう意味を為さない。霧もじきに晴れるだろう。形勢逆転、だな」
迂闊だった。そう思わずにはいられない。この中にいる限りはあらゆる魔法が無効化される。つまり、
「物理的な攻撃ならば、与えることは可能だ」
するとフリードは自らが持つ剣をシエルの右肩へと突き刺した。痛みによって悲鳴を上げるシエルは、せめてもの反撃に左の拳をぶつけようとする。しかし、それは彼の左手によって受け止められ、腹部に膝蹴りを受ける。そして体を押し込まれたところを蹴りが炸裂し、術式の壁に叩きつけられる。
「天に愛されし魔導士と呼ばれたお前も、魔法が使えなければただの子供だ。…悪く思うなよ、これもラクサスの為だ…」
魔法が封じられ、鍛えているとはいえ子供の力では太刀打ちできずにへたり込む。もう少しで、石像にされた皆を元に戻せたのに。このゲームを終わらせることが出来たのに。悔恨を胸に抱いたシエルは後方にある術式の壁を右手で殴りつける。
その時ふと気づいた。
今シエルを囲っている結界は外側にシエルの脱出を封じる術式。そして内側に魔法を無効化する術式が張られている。つまり、その僅かな隙間は魔法の効果が及ぶという事だ。
「(賭けてみるか…?いや、どちらにしろ、これ以外にもう方法はない…!)」
フリードたちが見えない右手を後ろ手に、魔力を集中させていく。何の反応も返さなくなったシエルを怪訝に思っていたフリードは、その異常にすぐさま気付いた。術式の壁の隙間で魔法を発動させようとしてることに。神経を大幅に使うが、この一帯を覆うほどの魔法を扱えることが出来れば勝機はあるはず。なりふり構ってはいられない。シエルはもう覚悟を決めた。
「全てを吹き飛ばせ…強風、及び豪雨注意報…!
「『闇の
シエルの魔法は不発に終わった。焦りの表情を浮かべながら、すぐさま後方へと周ったフリードが、髪に隠された右目を黒く染め、細剣で瞬時に紫の文字をシエルの背中に刻み込む。彼がこの目を起動した際に対象の人物に文字を刻み込むと、その文字は現実となり、刻まれた者の感覚へと変わる。“気絶”と刻まれたシエルはその時点でその意識を手放し、壁にへたり込む。そして彼が気絶したことによって戦闘不能。戦いは終了とみなされ、術式が解除される。それによって、シエルは先程まで見えない壁が存在した空間をすり抜け、そのまま倒れ伏した。
「…ふぅ…。あと数瞬遅ければ、オレたちもただでは済まなかっただろう…」
「冷や冷やさせられたわね…。ホント、最後までむかつくガキだったわ…」
動かなくなったシエルの身体をエバーグリーンは軽く蹴飛ばし、彼の身体は路地裏の方へ落ちていく。それほど高いところからは落としてないため、命に別状はないだろう。
「これでバトル・オブ・フェアリーテイル…残り5人となったか」
「
シエルとの戦いが始まった時点では残り3人であったはず。それがどういう訳か人数が増えていることに、彼女は疑問を感じずにはいられない。だがその答えはすぐに判明した。
「―――が復活したそうだ。そして、残る二人も、ここに戻ってきている」
フリードから告げられたその事実に、エバーグリーンの目が見開かれる。残る二人は、やはりラクサスに屈する気は無いようだ。それに復活したあの女には、個人的に鼻を明かしてやりたい。
「ねえ、あの女は私に譲ってよフリード。あとはあんたやビックスローに譲るから」
「…好きにしろ。シエルのように油断していると、足元を掬われるぞ」
「分かってるわよ」
その会話を皮切りに、二人の雷神衆はその場を去った。路地裏に落ちた
────────────────────────────────────────
その情報はすぐさまギルド前のボードに記入された。
「エバーグリーン vs. シエル、中断」
「フリード vs. シエル 勝者フリード」
「シエル戦闘不能 残り5人」
「シエルが…負けちゃった!!」
「くぅ…!マジかよ…!!」
悲鳴混じりに叫ぶハッピー、悔しがり唸るナツ。だが、その空気に絶望はなかった。ボードに記されている通り、今ギルドから出られないナツとガジルを除いて、3人の魔導士が味方として行動していることは周知しているのだから。
「…あの天気小僧が戦ってたのは、眼鏡女だったはずだろ?」
情報しか入ってこないギルド内では戦闘の詳細までは判明しない。だが、中断と表記され、代わりにフリードがシエルと戦っていたことを鑑みると、彼が乱入してきたことが想像できる。
「恐らくエバーグリーンは、シエルと戦ったことで少なからず消耗している筈じゃ。そうでなければ、わざわざフリードが乱入するとは思えん…」
そしてそれはマスター・マカロフも察知できていること。フリードが乱入するほどにエバーグリーンを追い詰めていたシエルに、心の中で「よくやってくれた…」と称賛を送る。そして、今自分の背後で待機しているある人物の方へと向き直り、マカロフは命じる。
「シエルが作り出した好機、逃すわけにはいかん!反撃開始じゃ、頼んだぞ…。
エルザ!!」
「はいっ!お任せを!!」
幼少の奴隷時代に潰された右目は、今は義眼が嵌っていた。それが
────────────────────────────────────────
『おいお前…そう、お前だよ、ペルの弟』
突然後方から声をかけられた少年が振り向くと、そこにいたのは金色の短い髪と、特徴的なヘッドフォンを付けた青年。マスター・マカロフの孫であるラクサスが立っていた。
『えっと、何でしょうか…?』
この時の少年、シエルは今とは違ってまだ完全にはギルドに溶け込めず、どちらかと言えば内気な性格であった。親身に接してくれるギルドのメンバーには少なからず心を開いているのだが、ラクサスのようにほとんど関りを持たない者には畏怖の念を未だ持っていることがほとんどである。
『お前…今魔法を覚えようと練習してるんだってなぁ?化け物みてえな強さした、ペルの弟がねえ…?』
当時のシエルはまだ魔法を使えなかった。幼少の頃から数々の魔法を扱える神童と呼ばれた兄に対し、弟であるシエルは、本当に血の繋がりがあるのか疑われるほどに、魔法の才能が無かった。そう思われている時期だったのだ。
『出来の良すぎる兄貴がいる奴は苦労するだろうなぁ…。兄貴と比べられるのはうんざりだろう?』
『そ、そんなこと、ないです…。兄さんがとっても凄い魔導士なのは、僕もよく知ってるし、僕はそんな兄さんが…誇らしい、から…』
口を弧に描きながら尋ねてくるラクサスに、怯えながらもシエルは答えていく。その言葉は、恐れと怯えを抱えながらも、揺らぐことはない。それを聞いたラクサスは目線だけを横に逸らすと何かを小声でぼやく。よく聞こえなかったが「昔の自分」という単語だけは辛うじて聞き取れたような気がする。
『じゃあお前、何で魔法覚えようとしてるんだ?自慢の兄貴が守ってくれるんだろ?』
『その…兄さんのような魔導士に、僕もなりたいって…昔から、憧れていたから…』
『けど魔法使えないんだろ?まず魔導士自体にもなれるかどうかなあ…』
シエルはどうしてこんな意地悪な質問ばかりしてくるのか分からなかった。ただ正直に答えているだけ。憧れの兄のようになりたいという自分の心に従っている。だがそんな思いをどうして否定するような物言いをしてくるのだろうか。
『仮に魔導士になれて有名になったとしても、ペルの弟だから、S級魔導士の弟だから、そんな評価ばかりで埋め尽くされるぜ?』
その言葉を聞いたシエルは、どこか違和感を感じた。何だろう…。まるで実際にそう経験したような口ぶりに聞こえる。それには敢えて言及せず、シエルは本心のまま彼の質問に答えていく。
『そうなったら僕は…むしろ嬉しいです。兄さんが凄いから、その弟である僕も凄いと、色んな人たちに思ってもらえると思うから』
そう返した時、ラクサスは思わず驚愕した。自分自身ではなく身内と関連付けて評価される。そのことは自分を見てくれないという劣等感を抱く元凶とも言える筈なのに、彼はそれを兄が評価される喜びだと告げている。考えられない。兄に妄信的と言わざるを得ない。そんな彼の態度が…。
何故か眩しいと感じる自分がいる。ラクサスはそう感じていた。
『そうかよ…。まあ精々頑張れや。最強とまでは行かねえだろうが、兄貴のような魔導士になるんだろう?』
背を見せてその場を立ち去ろうとするラクサス。これ以上は話をしたところで意味を為さない。そう結論付けてその場を後にしようとした。
『どうしてですか?』
それを、少年の一言が引き止めた。言葉の意味が分からない。今のどこに対して尋ねる必要があったのか?それは、ラクサスにとって思わぬ箇所の事を示していた。
『兄さんは最強の魔導士なのに、どうしてそんな矛盾したことを言うんですか?』
今こいつは何て言った?
思わずラクサスは自問した。シエルの言葉が、それだけ衝撃を受けるに値する事であったからだ。だが、それにいちいち突っかかっていては気力の無駄だ。せめて答えるだけの事はしておこうと、ラクサスは内心の苛立ちを隠して向き直った。
『確かにお前の兄貴は強え。けどな、最強とまでは行かねえよ。何故なら、このギルドにはオレがいるんだからな』
『…あなたが…?もしかして、あなたが最強だと言いたいんですか?』
『それ以外にどう聞こえる?』
自信満々と言った様子のラクサスに、シエルはもう恐れを抱いていなかった。ただ、彼を突き動かしていたのは意地だった。
『じゃああなたは、兄さんに勝ったことがあるんですか?』
『…ああ、勿論だ』
『嘘を言いましたね?』
『っ!?』
唐突な質問、そして断言に、再びラクサスは目を見開いた。そして畳みかけるように言葉を紡いでいく。
『兄さんの強さは、僕がよく知っています。もしも兄さんが誰かに負けたというのなら、きっと大怪我をして帰ってくるはず。けれど、僕が見ていて兄さんが怪我をしていた様子は、一切ない』
日頃から兄の事をよく見ているからこそ、ラクサスが咄嗟にシエルを納得させる嘘をついたのを見破った。シエルの表情はだんだん不機嫌になっていった。自分の事ならまだいい。だが、兄をバカにされた様な気がして、シエルは目の前の男の事を許せなくなっていた。
『あなたは自分が最強だと豪語している。けれど、それを証明できる者はいるんですか?』
『んじゃあお前はどうなんだよ?兄貴が最強だって証明できる、確固たる証拠はあんのか!?』
『実績』
『なっ!?』
『実際に強さを目にして、形に見えるものも残してる。口だけで最強を語るあなたとは違う。僕には兄の本当の強さが見える。そんな兄だから、僕は兄のようになりたいと思う…!』
これだけでも、既にラクサスは感情を抑えることが難しくなっていた。自分が魔法を使えない七光りの子供に言いくるめられている錯覚。そして、ついに彼は、その火蓋を切って下ろしてしまった。
『だから僕は、兄さんのような魔導士になってみせる!いつかは、あなたも超えて、兄が最強であることを証明してみせる!!』
それが、ラクサスの逆鱗に触れた。
体中から魔力を雷に変えて放出する。そのまま憤怒の表情を向けて、自分よりも一回りも二回りも小さいシエルを睨んで見下ろしてくる。
その様子を見たシエルは、ラクサスへの恐怖の感情が一気にぶり返された。顔から大量の汗を流し、恐怖のあまり呼吸が上手く整えられない。
『魔法も使えねえちっこいガキが…いっちょ前のクチをききやがって…!!』
そのままラクサスはシエルへの睨みを一層強くすると、彼目掛けて雷が襲い掛かる。恐怖のあまりに立ち尽くして動けないシエルに、無慈悲にもその雷が炸裂。衝撃で起きた煙が彼の身体を包む。その煙が晴れると、そこにはシエルともう一人、ある人物が立っていた。
『俺の弟に…何をしようとした、ラクサス?』
その人物は雷が当たる直前にシエルの前へと立ち塞がり、彼の雷を止めてみせた。彼の兄であるペルセウスである。恐怖と安堵が混ざり、シエルは兄の背を見上げて「兄さん…!」と呟きながら涙を流している。一方のラクサスは怒りに満ちていた顔を引っ込めて口元に再び笑みを浮かべる。
『なぁに、ただお前の話でヒートアップしちまっただけだよ。けどあんまり態度がなってねえな。弟の教育はちゃんとしておいた方がいいぞ、ペル?特に礼儀作法とかな』
皮肉も交えながらラクサスは今度こそ背を向けてその場を立ち去った。姿が見えなくなった瞬間、シエルはその場に膝から崩れ落ち、両目から溢れんばかりの涙を流し始める。
『シエル、すまん…もっと早くに来れればよかったんだが…』
『に、兄さぁん…!ひっぐ…!!』
縋りつく弟を優しく抱きしめながら慰めるペルセウス。怖い思いをさせてしまった。魔導士ギルドに入るためにギルドに来たいと願う弟の為に連れてきたことは、本当に正しかったのだろうか、と彼は思わずにいられない。
全員がラクサスのような人物ではない。彼がよく知る者たちは、寧ろシエルに好意的に接してくれる。魔法が使えるように奮闘するシエルを支えてくれている。だがそれでも、今日のようなことが再び起こることもあり得てしまう。その時、自分はここにいてあげられるのか、不安でしょうがなかった。
『兄さん…僕、悔しいよ…!』
『…悔しい…?』
だが、弟の涙の理由は恐怖だけではなかった。疑問に思ったペルセウスがそれを反芻すると、シエルは涙を浮かべた顔のまま兄と向き合う。
『僕は…ううん、俺は悔しい!兄さんをバカにされて、怖がって、結局は兄さんに守ってもらっちゃった…!』
ただただ悔しかった。無力な自分が。ラクサスに口で反論が出来ても、魔法が使えない自分では実力で対抗することが出来ないことを。だが今は無理でも、練習を重ねて、魔法を覚えて、いつか兄に並び立ちたい。
『俺は、兄さんを守れるようになりたい!だから魔導士になる。
決意の表明。兄の背に隠れて怯えるだけの自分との決別。これからは自分が兄を守る。その力をつけるために、強くなることを決意する。その強い思いを感じ取った兄は、驚愕に染めていた表情を、優し気な笑みへと変える。
『ああ。何年かかってもいい。いつか俺のような魔導士になった時には、俺やみんなの事を、守ってくれよ…』
頭を撫でながら告げたその言葉に、シエルは力いっぱい頷いて答えた…。
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寝覚めは最悪だった。
それが今のシエルの感想だ。数年前のラクサスに植え付けられたトラウマと、兄に誓った決意。だが、今の自分はどうだ。ラクサスではなく、その親衛隊である人物に敗れ、どれだけの時間が経ったか分からない程に気を失っていた。状況を確かめたいが、未だその気力が戻ってこない。何より…。
「情けなさすぎる…!!」
その一言に尽きる。兄を守れるほどの魔導士になることを夢見たのに、蓋を開ければこの体たらくだ。もうすぐ帰ってくるはずの兄に、見違えるほど強くなった自分を見てもらおうと、あれほど修行を重ねたというのに…。
「…今の俺を見たら、兄さん…ガッカリしちゃう、かな…?」
己の不甲斐なさに涙を浮かべ、自己嫌悪に陥ってしまう。情けない自分の姿を客観的に見たシエルは、己をそんな風に評価せざるを得なかった…。
「いや、お前は立派に戦ったよ」
「!!」
突如、その声は聞こえた。それとともに、紫色のロングコートが彼の体に優しくかけられた。
「お前のその体の傷と、目からあふれる涙は、お前が力の限り奮闘した証だ。その雄姿を見ることは、残念ながら叶わなかったが、その証を示したお前を、俺は誇りに思う。失望など、断じてしない。」
嫌悪感を抱いていた自分の心に、すっと入ってくる、その言葉。聞き間違える筈がない。誰よりも彼と共にあったシエルには、その言の葉を紡ぐ人物を、知っている。
必死に声の方向へと目を向けると目に入ったのは、水色がかった銀色の長い髪は、うなじの部分で縛って纏めており、身に着けていたコートを脱いだことで、動きやすさを重視した軽装になっている。そして、整った顔立ちに、何より忘れてはならない妖精を象った紫の紋章を刻んだ、左頬。
兄に憧れを抱いた自分が、同じ位置に刻んだその紋章。
「後の事は俺に任せて、ゆっくり休め…」
優しく、だが確固とした決意を秘めた声と共に彼はシエルを背にして歩み始める。彼こそは
「ラクサスは、俺が止める」
バトル・オブ・フェアリーテイルに満を持して参戦した。
おまけ風次回予告
ラクサス「バトル・オブ・フェアリーテイル終了まであと10分を切った…。それでも降参する気は無しか…あの頑固ジジイめ…」
?????「随分苛立ってるようだな、ラクサス」
ラクサス「!!…くっくく…そうか、ようやくお出ましか…!随分と長いこと待たせてくれたぜ…ペル…!」
ペルセウス「心配はいらん。ここから先はもう長くはかけさせん。俺がお前を止めてやる…!」
次回『ペルセウス vs. ラクサス』
ラクサス「止めれるもんなら止めてみろ…!