FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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ここ最近、投稿するたびにお気に入りの登録数が減っていく現象が起きているのですが…何が原因でしょうか…?
あれこれとちょっとネガティブに考えることが増えてきている今日この頃…。

でも何とか失踪せずに定期的な更新をしていきます。頑張るぞー!!


第37話 神鳴殿を破壊せよ!

マグノリアの収穫祭で盛り上がる、町民や近隣からの観光客などを含めた大勢の人たちが街中を行き交う中、その雰囲気とはかけ離れた雰囲気を放つ一人の人物が右肩を押さえながら、覚束無い足取りで何かを探すように移動している。一見すれば幼い子供にも見える少年の奇怪な行動に、その姿が目に入った者達は一様に妙なものを見るような視線を向けてくるが、少年は意に介さない。ただただ目的のものを見つけるまで、少年は立ち止まろうとはしない。

 

「空中に浮かぶ雷の魔水晶(ラクリマ)…神鳴殿…。あれを放っておいたら、多分、この街は…」

 

先程まで気絶したこの少年は、改めて見回した街を囲むように、空に佇む数百に及ぶ魔水晶(ラクリマ)を視認した。そしてその魔水晶(ラクリマ)一つ一つに、多くの魔力が溜め込まれていることにも気づいた。

 

あれら全てを破壊するには己の魔力では恐らく足りない。仲間の力が必要だ。その為にも、多くの仲間と一気に連絡を取り合うための手段が必要。その手段を持つ、とある仲間を探して、少年はフラフラになりながらも、途中で体勢を崩して転倒を繰り返してでも、その者を見つけ出す必要があった。

 

「どこに…今、どこにいるんだ…!!」

 

一歩一歩高台に通じる階段を上っていた彼は、最後の一段を登りきったところで、目の前に広がるその光景を前に、とうとうその目的の人物を目に映した。

 

「み、見つけた…!!」

 

少年が見つけたその人物が、この街の命運を左右していた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「オレと勝負しろやァ!!ラクサス!!」

 

右の拳に炎を纏いながら飛びあがり、ラクサスへと殴り掛かっていくナツ。それを紙一重で躱しながら、右の掌を向けて魔力を集中させて反撃に移る。

 

「てめえのバカ一直線も、いい加減煩わしいんだよ。失せろ、ザコがっ!!」

 

放たれる雷撃。それを避けながら接近していき、今度は右足に炎を纏ってラクサスへと振るう。

 

「火竜の鉤爪!!」

 

拳よりも威力の勝る、脚による鋭い一撃。しかしそれを難なく腕で防御し、彼の身体を振るって弾き出す。飛ばされながらも体勢を立て直して着地し、ラクサスの方へと目を戻す、と同時に彼が目前へと近づいて雷を纏った足で蹴り飛ばしてくる。だがこれだけでは終わらない。のけ反ったナツの右手首を左手で掴んでその場から動かさないように固定する。

 

「逃がさねえぞコラ」

 

空いている右手に雷を纏い、ナツの顔面へとその拳を何度も振るっていく。だが数発も撃った後に、捕まれていたナツの右手が、逆にラクサスの左手首を掴んで固定してきた。その事に一瞬たじろいていると、獰猛な笑みを浮かべながらナツは「逃げるかよ」と呟きながら開いている左手に炎纏いながらラクサスの顔面へと振るってくる。

 

「てっぺんとるチャンスだろ!!」

 

何度も挑んではあっさりと敗れてきたラクサスへのリベンジ。ギルド最強であることを懸けたこの戦いに絶対に勝ってみせるという気迫でナツはその拳を振るった。一度はその衝撃でのけ反ったラクサスであったが、ナツを掴む手に力を入れて再び何度も拳を打ち込んでいく。何発か殴れば今度はナツが固定し直して振るってくる。

 

互いにノーガード同然。炎と雷の拳を互いに叩き込んでいくだけとも言えるその勝負。それを途切れさせたのは、雷の方だ。掴んでいた己の左手を思い切り引いて自分の足元へと倒れたナツに、先程よりも威力のある一撃を叩き込もうとする。それを回避するために足を払おうと鉤爪を振るおうとするが、ナツの一撃を見切ったラクサスは体勢を保ったまま跳躍してそれを躱し、雷を纏った足で彼を踏みつけようとする。

 

「換装、『レーヴァテイン』!!」

 

しかしその攻撃は第三者によって遮られた。激しく燃える炎を象ったような意匠の紅き剣に換装したペルセウスから放たれた、剣と同じ色の業炎の波動がナツとラクサスを飲み込む。咄嗟にナツを放して防御に徹することしかできなかったラクサスを炎が包む。同様にナツも炎に巻き込まれるがそこは心配いらない。火の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるナツは、同じく火の魔法を無効化する。しかし…。

 

「ペルー!!邪魔すんな!ラクサスはオレが相手するって言ったろうが!!」

 

「俺はそれを了承してない。時間が限られているんだ。悠長にしてはいられないだろ」

 

「だからってオレごと攻撃すんなよ!レーヴァテイン(その剣)の炎は何故か食えねえんだからよぉ!!」

 

炎を喰らうことが出来、その分己の体内の魔力を回復、及び増強させることが出来る滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)。しかし、ペルセウスが扱う神器から出される炎を、何故か彼の身体は受け付けないそうだ。ダメージ自体はないようだが、己が食べられない炎をまともに受けるという経験はあまり気持ちのいいものではない。

 

「やってくれんじゃねえか…ペル!」

 

すると、声がした瞬間にペルセウス目掛けて一つの雷撃が放たれる。ほんの一瞬とも言えるその攻撃は、ナツが目視するよりも先に彼の身体に直撃する。身を案じて名前を叫ぶナツであるが、想像していた事態になっていない。紅炎の剣でその一撃を耐え凌ぐことに、彼は成功していたのだから。

 

「安心しろよ、てめえの事も逃がしゃしねえからよ」

 

ラクサスが獰猛な笑みを浮かべながらペルセウスの方を見据えている。対して彼も、一切表情を崩さずに、ラクサスの次の行動に対応しようと考えていることだろう。その事実に除け者にされていると判断したナツが、苛立ちに顔を歪めているのに二人とも気付いてすらいない。

 

「ラクサス!!」

 

するとナツでもペルセウスでもない人物が、ラクサスの名を呼びながら手に握る剣で攻撃を仕掛けてきた。二枚一対の黒い翼を模した鎧・黒羽の鎧に身を包んだエルザだ。ミストガン(ジェラール)の素顔によって動揺したままであった彼女だが、今優先すべきはラクサスの方であると言い聞かせ、反撃に加わってきた。

 

「あの空に浮いているものは何だ!?」

 

「神鳴殿…聞いた事あるだろ?」

 

S級魔導士であるペルセウス、ミストガン、そしてエルザなどはその存在を聞いたことがあった。空に何百と浮かぶ雷の魔水晶(ラクリマ)によって、街の全てが攻撃対象にされている。仲間を石にしたと思えば、次は街全体に危害を加えようとしている。「本当は自分も心が痛む」と、本心とは思えない笑いと共に告げる彼に対し、嫌悪を感じずにはいられない。

 

「貴様!!」

 

怒りのままに左足で彼に蹴りを入れるが、それは彼の掌によって防がれる。更に残り時間は二分。その事実を聞いただけで彼女に焦りの表情が浮かぶ。

 

「ナツ、あの魔水晶(ラクリマ)を壊すことは出来ないのか?」

 

「ダメだ!いや、壊せるんだけど、壊したらこっちがやられちまうんだよ!」

 

「なっ!生体リンク魔法か!?」

 

一個の魔水晶(ラクリマ)を破壊すれば破壊した威力と同等の魔力となって、本人に返ってくるようにかけられた生体リンク魔法が、どうしても全ての魔水晶(ラクリマ)破壊を躊躇わせてしまう。誰にも手出しは出来ない。それが神鳴殿の脅威。

 

「お前もオレの雷で消えろぉ!!」

 

掴んでいた足に力を込めながら、エルザの身体に電流を流して吹き飛ばす。だがその瞬間、彼女は換装を使って別の鎧をその身に纏っていた。色は青雷を彷彿とさせる明るい水色。所々には黄色い雷を模した模様。四肢に肩、胸を甲冑で包み、緋色の長い髪は三つ編みに纏められている。右手に持つのは青い柄と二又に分かれる仕組みになっている槍。

 

名を『雷帝の鎧』。雷属性の魔法の耐久力が上がり、自身が振るう雷の武器の威力を底上げすることが可能となる鎧である。

 

「そんなものでオレの雷を防ぎきれるとでも?」

 

エルザ目掛けて雷を飛ばすラクサスの攻撃を跳躍して躱し、エルザは槍を振り回してその矛先をラクサスに向ける。すると槍の先が二又に分かれ、その先に展開された魔法陣から青雷を発動してラクサスに飛ばす。

 

「防ぐだけではないぞ、ラクサス!!」

 

その青雷を左手に纏った雷で受け止め、その雷を今度は全体に纏う。彼自身の身体が雷になったかのように全身が放電して、その魔力を高めていく。一方で着地したエルザは前方に槍を構えて、青雷で作られた障壁を作り出す。迎え撃つつもりだ。

 

「防いでみろ、エルザアッ!!」

 

黄金の雷と青き雷。二色の雷がぶつかり合い、混ざり合って辺りに電光が走る。互角だ。ペルセウスのミストルティンによって魔力を消費しているにも関わらず、エルザと渡り合っているラクサスに、ペルセウス自身は内心少しばかり驚愕している。

 

「やるじゃねーか…」

 

「同じ属性の魔法同士がぶつかるとなると、その優劣を決定づけるのは…」

 

「魔力の高さ、そして技術と経験…だろ?」

 

「そして心だ!貴様もマスターから学んだはずだろ!!」

 

「学んださ。大事なのは力だってことをな…」

 

互いに構えを解かずに行われる会話。その話はほぼ平行線と言える。ラクサスは言葉を紡ぐ度に、歪んだ笑みで口角を吊り上げ、それを聞くたびにエルザの表情が険しくなっていく。祖父であるマカロフの想いを反面教師としているかのような物言いに、エルザの声に更に怒気が籠る。

 

「エルザ!何やる気満々になってやがる!ラクサスとはオレがやるっつってんだろ!!」

 

苛立ちを前面に出してエルザの後方からナツが告げる。それを聞いて振り向いた彼女は彼の顔を見た。彼が告げた決意は、最早言葉だけで揺るがすことは不可能。譲ることは出来ないという意思を感じるその表情を見たエルザは、笑みを浮かべながら「信じていいんだな?」と告げ、それに呆けたナツを尻目に大聖堂の出入口へと駆け出していく。

 

「オ、オイ!どこ行くんだよ!!」

 

出入口の前へと辿り着いて一度足を止めるエルザの背を見ながら、ナツは察した。神鳴殿を止めようとしていることを。だが、そんなエルザをラクサスは一笑する。今マグノリアの空には、雷の魔水晶(ラクリマ)が300個近く浮かんでいる。時間も残されていない。そんな状況で止めることが出来るものかと。そう告げるラクサスに、エルザは微塵の迷いもなく答えた。

 

「全て同時に破壊する」

 

「不可能だ!出来たとしても確実に命はないっ!」

 

そう。出来るわけがない。一個の魔水晶(ラクリマ)を破壊するだけでも、ビスカやジュビアは意識不明の重体となった。下手をすれば命に関わる。それを300近く同時に破壊することは、300人分の命を払うと同義。いくらギルド最強の女魔導士であろうとも…。

 

「だが、街は助かる」

 

出来る筈がないのに、何の躊躇いも感じさせずに彼女は外へと駆け出していく。本気で破壊するつもりだ。己が定めたゲームのルールを、再び壊そうとしているのだ。その様子に、思わず戦慄を覚えた。

 

「て、てめえ!!」

 

すぐさま追いかけようとするラクサス。だが、大聖堂の出入口の大きな門扉があった場所に、突如炎の壁が現れた。火の耐性が強いわけではないラクサスは、それを突っ切ることが出来ない。大聖堂に閉じ込められたと同義だ。そんな炎の壁を起こした原因は、ペルセウスが持つ紅炎の剣。何者にも消すことは出来ない神の力を込めた炎が外との繋がりを遮断している。

 

そしてその剣を持つペルセウスは、炎の壁の外側に出ていた。

 

「そこまで言ったんだ。ナツ、ラクサスの事はお前に任せた」

 

「ペル…てめえまで…!!」

 

エルザと同様、ペルセウスも神鳴殿の破壊を行うことを決断したようだ。S級魔導士二人が揃えば、300近くある魔水晶(ラクリマ)の破壊も不可能ではない。追う事すらも防がれたラクサスの表情はさらに怒りに歪んでいく。

 

「こっちも信じていいんだな、エルザ、ペル」

 

炎の壁で遮られながらも声を聞いた二人は、彼に背を向けたまま立ち止まる。

 

 

 

「可能か不可能かじゃねえぞ…!お前らの無事をだぞ!!!」

 

ナツのその問いにエルザは首肯で、ペルセウスは空いている左腕を高く上げることで応えた。元より命を捨てる気は無い。特にエルザは、ナツに一度救われた命を、粗末にする気は無かった。

 

「クソが…!こんな壁すぐにでも打ち破って…!!」

 

「火竜の咆哮!!」

 

雷を纏って炎の壁を消そうと試みるラクサスに、ナツが口から放出した咆哮が直撃する。既にいくらか消耗している両者は、意地でも相手の思い通りにさせまいと、睨み合う。

 

「オレは…お前を倒す…!」

 

「この…ガキがぁ…!!」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

大聖堂から少し離れた箇所。マグノリアの中央地点とも言えるその場所に、背中合わせで立っている存在が二人。一人は緋色の長い髪を持ち、翼のような装飾が施された鎧・天輪の鎧を纏う妖精女王(ティターニア)のエルザ。

 

そしてもう一人は左手に、自身の身の丈ほどの長さがある、上半分が金色、下半分が銀色を基調とし、中央を満月、そして端に行くたびに金には上弦、銀に下弦の月の刻印が入った意匠の長弓を持つ、神器使いのペルセウス。そして右手に番えられた魔力で出来た光の矢は、時が経つにつれて、先端が枝分かれして増えていく。

 

そしてエルザの方も、自身の周りに武器が次々と出現させている。今彼等は空中に浮かんでいる神鳴殿の魔水晶(ラクリマ)約300個を二人で全て破壊しようとしている。魔法剣を複数本同時に操ることを可能とした天輪の鎧。そして魔力の矢を扱うことで変則的な弓矢の使用を可能とする月と弓矢の女神・アルテミスが扱った『イオケアイラ』と呼ばれる弓を駆使し、複数の魔水晶(ラクリマ)を同時に破壊しようという算段だ。

 

だが問題が残っている。それは時間だ。残存する魔力を考えれば300の魔水晶(ラクリマ)を破壊するほどの数を揃えられるだろうが、残り二分を切っている現状、悠長に魔力を集中して数を揃えるには時間が足りない。

 

「ペル…今いくつだ…!?」

 

「今、100本目を出したところだ…エルザはどうだ…!?」

 

「私も、ようやく100だ…。全て破壊するには、あと50ずつ必要になる…!」

 

「…出せるには出せそうだが、時間がもうない…」

 

エルザの周りに顕現された100の武器。ペルセウスが番える100に分岐する矢。だがこれもまだ足りない。残り3分の1を稼ぐには、時間が圧倒的に足りない。出現できたとしても、間に合うかどうか…。

 

 

 

 

 

 

《おい!皆聞こえるか!!一大事だ、空を見ろ!!》

 

絶望的と言える状況の中、二人の頭に突如その声が響いた。二人にとって、久々に聞いたと言えるその声を主に、心当たりがあった。

 

「ウォーレン?」

「あいつの声…念話(テレパシー)か」

 

念話(テレパシー)を得意とするウォーレンの真骨頂。ほぼ街全体にいる魔導士たち全員にその声を届けることが出来ることだ。今彼はマグノリア中にいる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちに向けて、念話(テレパシー)を送っている。

 

《くたばってる奴はさっさと起きろ!ケンカしてる奴は、取りあえず中止だ!!》

 

彼が今どこにいるのか、何のために念話を飛ばしているのか、疑問に思う二人であったが、それを解消するかのように、ウォーレン自身からその答えになる説明が続けられる。

 

《あの空に浮かんでる物をありったけの魔力で破壊するんだ!!一つ残らずだ!あれはこの街を襲うラクサスの魔法だ!時間がねえ、全員でやるんだ!!》

 

ウォーレンの狙いは神鳴殿の破壊を全員に通達する事だった。だが疑問が残る。いつから意識を戻していたのかは定かではないが、ウォーレンも戦闘不能にされていたはず。なのにここまで詳細に神鳴殿の事を知っているのは何故なのか、と。

 

「ウォーレン、お前…何故神鳴殿のことを…」

 

《その声はエルザ!?良かった、戻れたんだね!!》

 

ウォーレンに尋ねたその疑問に答えたのは、彼ではなく別の人物だった。その声を聞いた瞬間、エルザは背中合わせに立つ仲間が明らかに反応したことにも気づく。間違いない。

 

「シエル!?そうか、お前が…」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

とある高台の上、そこに念話(テレパシー)を繋ぐウォーレンと、彼を探し出した少年・シエルがいた。

 

「昔、兄さんに話で聞いたことがあったんだ。覚えといて良かった」

 

ウォーレンを探しだして神鳴殿の説明、そして念話(テレパシー)で全員にその情報を共有する。それを思いつきすぐさま行動に移ったシエルが、今この状況を作り出した。それによってエルザが石化から解放されたことを知った魔導士たちからあまり多くはないが歓声と安堵の声が響く。

 

そしてエルザが無事に解放されていたことを知った者達は、必然的に他の者達がどうなったのかを聞く。全員命に別状がない事を知り、特定の女性たちに強い思いを抱く者達は、大きく安堵した。

 

「すまねえ、オレの念話(テレパシー)じゃギルドまでは届かねえ。これが聞こえている奴だけでいい!あの空に浮かんでいるものを…」

 

《ウォーレンてめえ!オレに何したか忘れたのかよ…!》

 

「マックス!!」

 

神鳴殿の破壊を優先するべく皆に呼びかけるウォーレンであったが、術式に嵌められた際に彼に敗北したマックスが、彼に突っかかった。怒りを滲ませるその声を念話越しで聞いたウォーレンは途端に慌てふためきだす。

 

「あん時はすまなかったよ…だって、女の子たち助けるために必死で…」

 

術式によって強制的に戦うことを仕組まれたとはいえ、感情的な問題ではそのまま水に流すことは出来ない。マックスの抗議を起点として、念話越しに彼らのたがいの抗議が始まってしまった。

 

《ドロイだ、聞こえるかアルザック!!》

《き、聞いてるよ…さっきはごめん…》

《ごめんで済むか!!不意打ちなんかかましやがって!!》

《てめえもだ、ワカバ!!》

《さすがにラキは許せないわよ!!》

 

念話越しに口論が飛び交い、諍いが更にますますヒートアップしていく。こんな事の為に念話(テレパシー)を使ったわけでもないのに…とウォーレンが悲しげな表情を浮かべている中、彼の肩を掴んで念話の繋がりを強固にしていたシエルの力が増すのを感じた。

 

「ゴチャゴチャうっさぁい!!喧嘩すんなら後にしろォ!!!」

 

『『お前が言うなぁ!!!』』

 

「お前が言うな!?俺がいつお前らの喧嘩に混ざったんだよ!」

 

《喧嘩してねえけど悪戯しまくってるだろうが!》

《オレのキセルに水ぶっかけたのまだ許してねえぞ!》

《この前の失敗談レビィにチクったのてめえだろ!?》

《お前が余計な事言ったせいでエルザからの睨みが痛えんだよ!》

《ナツの怒りの矛先、オレたちに向けさせんなぁ!!》

 

「…うん、返す言葉も無いな…」

 

ウォーレンの鼓膜が破ける程の大声で叫ぶシエルの主張を起点に更なる口論が勃発してしまった。売り言葉に買い言葉で魔導士たちに反論を叫び返すシエルであったが、これまでの数々の悪戯のツケが回ってきたのか、反論する余裕もないまま力なく呟くしかできなかった。そしてそのまま口論は尚も続いていく。

 

ちなみに両方から色んな怒号が飛び交うせいで、ウォーレンの耳が限界であることにはシエル含めて誰も気づかない。悲しいかな…。

 

《皆聞いて!!》

 

その口論は、ある一人の声によって一気に収束した。その声の主は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中でも新人に分類されるルーシィだ。

 

《今は喧嘩をしている場合じゃないの!このままじゃ、街の人たちまで危ないのよ!?みんなで協力して、マグノリアの街を守らなきゃ!!》

 

他の女性たち同様に石にされていたルーシィは、その間にどのようなことが起きたのか、話伝手にしか聞いていない。しかし、今やらなければならないことは、喧嘩による口論ではないことは、確実に分かる。

 

《皆で力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられる!それをあたしは、ここに来て教わった!あたしはまだ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入ったばかりだけど…このギルドを思う気持ちは、誰にも負けないつもりよ》

 

かつて幽鬼の支配者(ファントムロード)との戦いがあった時にも、何度も絶望したり、諦めかけたりした。だがそんな時にでも、ギルドの仲間たちが力を合わせ、目の前の壁を打ち破ってきた。自分を受け入れてくれた場所が、すごく暖かった。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は、ずっと昔からあたしの夢!あたしの憧れだった!!今でもそう…》

 

念話越しに聞いているシエルは、彼女の言葉を聞くたびに、その言葉を胸にしまっていく。恐らく他の者達もそうなのだろう。彼女が憧れていた、仲間を思う気持ちを大切にする、絆で結ばれたギルドの、家族の形を思い出す。

 

《お願い…皆力を合わせて…妖精の尻尾(あたしたちのギルド)を、マグノリア(あたしたちの街)を守ろう!!》

 

街全体に響くようにも聞こえるその主張。シエルは気付けばウォーレンの肩を掴んでいない左手を、己の左頬に近づけていた。妖精を象った妖精の尻尾(自分たちのギルド)を象徴するマーク。彼女によって改めて思い出した、自分たちの家がどれほど大切なのかを…。

 

「ルーシィ…」

 

 

 

 

 

《よく言った、新人!!》

 

その声を聞いた瞬間、シエルは息を呑んだ。街にいることは知っていた。だが、改めてその声を聞いて、本当にマグノリアに帰ってきているのだと実感した。それに気付かず、声の主は彼女へとさらに言葉を続けていく。

 

《いや、ルーシィ…と言ったな?自己紹介したいところだが、今はその時間も惜しい。諸々片付いてからでいいな?》

 

《え、えっと…?》

《ペルだー!!》

 

《ペルだって!?》

《帰ってきたのか!!》

《遅すぎだっての!!》

《今どこに!?》

 

聞きなれない声の人物が登場したことで困惑したルーシィの近くにいたらしいハッピーが、喜び混じりに騒ぐ声が聞こえてくる。それに始まってペルセウスの帰還に気付いた者達からの声が響くが、今の彼にそれを答えられる猶予はない。

 

《俺については後回しだ!それより、ここまで新入りに言われて情けなくないのか、お前ら!気に入らないことがあることは仕方ない、喧嘩だって日常茶飯事だ。けどな、今やるべきことを見失っちまうような奴等が、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士か?違うだろ!》

 

まるで挑発的。だが発破をかけるような物言いで告げるペルセウス。誇らしげに笑みを浮かべる兄の表情が目に浮かんだシエルは、その表情に喜色を浮かべる。そしてその言葉を聞いた魔導士たちも、心構えを次々と変えていく。

 

《同感だね。ここまで言われちゃ、やらない以外の手はないよね?》

《もう新入りじゃねえ。オレたちの誰よりも、妖精の尻尾(フェアリーテイル)らしいぜ!》

《ルーシィ、君の言うとおりだ。言い争いは後回しだ!》

《あそこまで言われちゃ、応えないわけにはいかねえ!》

《おかげで頭が冷えたぜ。どいつもこいつも…準備はいいかぁ!》

 

先程までいがみ合っていた仲間たちが、一人の少女の想いを聞いて、ようやく一つになった。思いを叫んだ少女は感涙を浮かべているだろう。それを予想して、シエルは自分の近くにある雷の魔水晶(ラクリマ)に目を移した。

 

《決着はあれ壊した後だ!》

《マカオ、お前にゃ無理だ!寝てな!!》

《んだとワカバ!ジジイの癖にはしゃぎ過ぎだよ!!》

 

「よし、やろう!俺達の街を守るために!!」

 

念話越しに聞こえてくる仲間たちの声を聞きながらシエルも準備にかかった。ウォーレンの肩から手を離した彼は竜巻(トルネード)を発動。そして気象転纏(スタイルチェンジ)によってその形を細長く変えていく。廻り風(ホワルウィンド)(シャフト)と形こそ似ているが、今度はその先端は鋭利な刃物のように鋭く尖っている。その姿はまるで、同じ長物の武器の一つで、突きに特化した槍の如く。

 

「『風廻り(ホワルウィンド)(スピア)』!!」

 

外すことが無いよう一点集中し、シエルは魔水晶(ラクリマ)に狙いを定めていく。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「北の200は、私とペルで引き受ける!!」

 

「残りは南を中心に全部撃破だ!頼んだぞ!!」

 

エルザとペルセウスの指示が飛び、街にいる魔導士たちは各々の魔水晶(ラクリマ)を狙って攻撃を仕掛ける。

 

《一個も残すなよぉ!!》

 

グレイからの声が響き、その攻撃の軌跡は地上から空中の魔水晶(ラクリマ)たちに向かうように描かれていく。

 

「行け、剣たち!!」

「射貫け、アルテミスの加護の矢よ!」

 

北側を中心に二分された200の魔水晶(ラクリマ)を半々したS級二人の武器や魔力の矢が意思を持ったように動き、武器は各々の元へ、矢は枝分かれした先から複数に何回も分離し、その数を増やす。

 

 

 

 

 

そして着弾。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちによる魔法が空中に浮かぶ全ての魔水晶(ラクリマ)を破壊し、マグノリアにその残骸が光の粒子となって降り注いだ。

 

街にいる者たちは花火だと認識し、目を輝かせているようだ。

 

「やったか…」

 

安堵の息をついて普段の鎧姿に換装したエルザが笑みを浮かべる。その背後で…。

 

「換装、ミョルニル!エルザ!」

「!!」

 

紫電の雷を発する大鎚を突如換装で呼び出したペルセウスが、その大槌を地面に叩きつける。それだけで彼女は意図を察した。神器を持てば魔力を吸われるため、エルザはペルセウスがミョルニルの石突に重ねてある両手の上からさらに己の両手を重ねる。

 

 

 

そして、黄色い閃光が、二人の身に襲い掛かった。

 

「ぐぁぁあああああっ!!」

「ぐっ…うううううぉおおおっ!!」

 

二人に襲い掛かる閃光が大鎚を伝ってその威力を吸収し、それでもなお抑えきれない分は地面に電流として流れていく。範囲はそれほど広くはない。一般の人的被害は皆無と言っていいだろう。そして二人合わせて200分の電流が収まった時には、立てない程に消耗しながらも、膝をついた状態で二人のS級は持ちこたえた。

 

「はぁ…はぁっ…!ペル、感謝する…。おかげで、まだ動くことが出来そうだ…」

 

「ふぅ…っ!神鳴殿はどうにか出来たが、まだやらなきゃいけないことは残ってるしな…」

 

恐らくラクサスはまだナツと交戦を続けているはずだ。ナツにラクサスを託したものの、彼の実力をよく知る彼らは、万が一のことがあることを危惧している。信頼がないわけではない。だが、今の彼がどこまで対抗できているのか、確かめなければ。

 

「皆は無事か?」

 

《…俺はもう、動けない…。兄さんとエルザは、大丈夫そう、だね…》

 

「一応はな。だがよくやった、シエル。それと他の皆もな」

 

《オレたちゃついでかよ…》

 

どうやらペルセウスたちを除いて、神鳴殿を破壊した者たちはまたしばらく動けそうにないようだ。無茶をする。その言葉を呟いたエルザに、グレイなどを始めとして、お互い様だと返す者たちがほとんどだ。その反応に、地に腰をおろしながらペルセウスは思わず笑みを零した。それにエルザが「どうした?」と問うと、彼は笑みをそのままに続ける。

 

「いや…本当にこのギルドは、最高だって思ってな」

 

「…私もそう思う…」

 

彼が微笑みながら告げた言葉に、エルザもまた笑みを浮かべて返した。その会話を聞いた者達もその話に入ってくる。

 

《ラクサスが反抗期じゃなかったら、もっとな》

《ははっ、言えてらぁ…》

《アルザック、大丈夫か?》

《ドロイ?…う、うん…ありがとう…》

 

本当に自分たちは恵まれた。強さよりも、規模よりも、仲間や家族との絆、繋がりを重視するこのギルドに入れたこと。その一員となれたこと。誇らしく思える。

 

そんなギルドを穢そうとした、反抗期を迎えている家族の一人に、そろそろ拳骨をお見舞いしてやる必要がある。

 

「魔力を少し回復させたら、すぐに戻るぞ…!」

 

「ああ。皆の頑張りを、無駄にはしない…!」

 

カルディア大聖堂の方を見据えながら二人はこの後にまた見えるであろう存在に、意識を集中させ始めた。マグノリアの街を巻き込んだバトル・オブ・フェアリーテイル。

 

いよいよ、終幕の時が迫る…!




おまけ風次回予告

ルーシィ「思ったんだけどさ、ナツやガジルが使う滅竜魔法って、元々竜迎撃用の魔法なんでしょ?エルザやラクサス、それとペルセウスさん?はよくナツを簡単に倒せるわね…」

シエル「魔法の強さ=魔導士の実力に繋がる訳じゃないしね。それに滅竜魔法を上回る魔法が存在していても何の不思議じゃないでしょ?兄さんが使う神器換装とか!」

ルーシィ「まだ見てないけど、神様の武器を使うって想像するだけでも凄いわね…!あれ、でもラクサスが使う魔法って、それに引けを取らないぐらい凄い魔法ってこと?」

シエル「正直俺も…雷に関する魔法を使うって事しか、知らないんだよね…」

次回『滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)

ルーシィ「そう考えるとラクサスって結構謎が多いのね」

シエル「そうだね…。もしかして、俺達も知らない何かが、ラクサスにはあるの、かな…?」

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