今話を書き終わったのが深夜3時半頃で、前書きを書く時間まで確保できませんでした…。少々で3時間もかからねえよな、普通…?
BoF編もついに佳境。後半深夜テンションのせいで文が変なことになってないか不安ですが、お楽しみいただけると嬉しいです。
あと、来週また休みです…。
神鳴殿、破壊により機能停止―――。
その情報は勿論カルディア大聖堂でぶつかり合う二人にも伝わった。その情報が記されたボードを見て、ラクサスは愕然とし、ナツは不敵な笑みを浮かべている。次々と情報は更新され、神鳴殿の
大聖堂の出入口を封鎖していた炎の壁も、先程までの勢いが嘘のように、今は完全に消失している。ペルセウスの魔力が必要以上に消費されたことが理由だろう。
「ギルドを変える必要がどこにある。みんな同じ輪の中にいるんだぞ。その輪の中に入ろうとしない奴が、どうやってマスターになるんだ、ラクサス?」
ボードから視線を外して俯くラクサスに、ナツが問いかける。いがみ合ったり喧嘩することもあるが、目の前に壁が立ちふさがれば、手を取り合って、みんなの力を合わせてその壁を壊す。そうして続けてきたギルドを変えることが必要か?差し出される手を振りほどく者が上に立つ資格があるのか?
その問いは、彼の咆哮と共に発せられた雷がかき消した。内側から噴き出した魔力が大聖堂の空気を揺らす。迸る雷を身に纏い、憤怒に染めた表情でナツを睨みながら告げる。どうやってマスターになるか?その答えはもう決まった。
「支配だ!」
最初から回りくどい駆け引きなど不要。そんな小細工を使ったところで、頑固ジジイや生意気なガキども、誰も彼もが自分に抗い、その心を折ったりしない。だったらどうすればいいか。簡単だ。実にシンプルで単純な答え。
全てを己が力に任せる事。圧倒的な力こそが己のアイデンティティ。それがラクサスの結論だった。
「いい加減にしろよ…そいつをへし折ってやれば、諦めがつくんだな!ラクサス!!」
「やれるもんならやってみろよ…!」
拳に炎を纏ってナツが飛び掛かる。それを見たラクサスは表情こそ歪めたままだが内心では余裕があった。神鳴殿を破壊しようとするペルセウスたちを追わせまいと足止めしてきた際とは違い、真正面からぶつかった場合は確実に己の方が上。それも明らかに目に見えるほどの差がついた状態だ。ただでさえ何度も勝負を挑まれては返り討ちにしてきた。勝敗は見るより明らかだ。
「火竜の…鉄拳!!」
事実、その拳は確かにラクサスの顔面を捉えるも彼の身体はピクリとも…
「ぐっ!?」
動かない、はずだった。だが実際に起きたのはその真逆。クリーンヒットしたことによってラクサスの身体は大きく吹き飛ぶ。予想していなかった事態にラクサスは体勢を立て直すのに時間を要してしまう。そしてその隙に…。
「火竜の翼撃!!」
両手から発した鞭のようにしなる炎が叩き込まれる。少しばかりおされてはいるがそれがどうした。直ぐにでも逆転は出来る、と言わんばかりにナツ目がけていくつもの雷の弾を発射する。しかしナツはそれを駆け抜けながら全て避けていき、ラクサスとの距離を詰めていく。
「うぉおおおっ!!!」
驚愕に目を見開くラクサスに、ナツが連撃を打ち込んでいく。それを防ぎ、弾き、さばくことで直撃を避けてはいるが、妙な感覚を覚えずにはいられない。思わぬ苦戦を強いられている事実に苛立ちを抱え始めたラクサスが、ナツの拳を受け止めて脚に雷を纏う。
「鬱陶しいんだよ!!」
怒号と共にナツの顎を蹴り上げ、彼の勢いを一気に止めた。しかし怯んだのも数瞬。のけ反った体の勢いそのままにラクサスの額目掛けてナツは頭突きをぶつけた。これにはラクサスも数歩後ずさる。
「どうなってやがる…!体が思うように動かねえ…!!」
いつもと比較すれば明らかに不調と思われる戦い方をしているラクサス。ナツを相手に苦戦気味となっている原因が何なのか、彼が思い出したのはナツよりも先に自分と対峙した存在、ペルセウスとの戦いの時。
彼が扱っていた神器の一つである木の枝を模した杖によって操作された根に、多くの魔力を吸われた光景がよみがえった。
「(あん時か…!!)」
本来であったら、ナツがラクサスを相手に互角以上の力で渡り合うことはなかっただろう。だが、ペルセウスに魔力を多く消費させられた状態で、ミストガン、ナツ、エルザと次々に実力者を相手に戦っていたことで、彼自身も気付かぬ程力を消耗させられていたのだ。
「おりゃあ!!」
思考していたラクサスだったが、その意識をナツによって呼び起こされる。気合の声と共に再び自分に挑みかかってくる青年に、いくら素での実力が遥かに上回っているとしても、消耗しきっている自分では分が悪い。
「どうしたラクサス!随分疲れてるみてえじゃねーか!!」
脚に炎を纏い回転しながら振るうも、腕でそれをガードしたカウンターで今度はナツが殴り飛ばされる。
「ほざけぇっ!!」
両手を前に突き出してここ一番の威力を誇る雷をナツに発射するラクサス。着弾と同時に爆発を起こし、黒煙が浮かぶ。口に弧を描いて勝利を確信したラクサス。だが、次の瞬間に起きたのはそれとは程遠い出来事だ。
煙幕を突っ切って、然程のダメージが見られないナツが急加速で迫ってきたのだ。それを見て驚愕しながらも追撃を放とうとしたが、一歩遅く。
「紅蓮火竜拳!!!」
両方の拳に紅き炎を纏い、ラクサスの身体の至る所に叩きこんでいく。ガードすることもままならず為す術もないまま、ナツが繰り出す連撃を受けて彼の身体は吹き飛ばされた。礼拝場の壁に轟音と共に叩きつけられるラクサス。それを見ながら荒く呼吸を繰り返すナツは、息を整えるとともに、昂ってた感情を落ち着かせる。
これまで一度も勝てたことのなかった、ギルドの中でも最強の名にふさわしい強さを持っていたラクサス。そんな彼を、ついに自分は打ち破ることに成功した、という事実を噛み締めながら。
「よっしゃーー!!だっははは!!見たかラクサス、オレの勝ちだぁ!!」
両腕を天高く上げ、そのまま己の腰に当てながら勝ち誇り、高笑う。本当は彼の知らないところでラクサスは大きく力を減少させていたからこその結果だったのだが、今この場にそれを教えられる者はいない。
「しっかし、やっぱ強かったなぁ…。最初のあたりとかはほとんど効いてるように見えなかったし…」
おかげで体中がやけに痛く感じる。それほどまでに彼は強かったのだ。そんな彼を上回れたのは、間違いなく自分の誉れ。そしてナツはラクサスが倒れこんだであろう壁の方を見ながら、この後に祖父であるマスター・マカロフからどのような審判を下されてしまうのか、彼なりに想像した。
「…心配すんなラクサス。じっちゃんにお前がしたことを許してもらえるよう、オレからも言っておくからよ。だから…」
「だから…何だ?」
「!?」
それはナツを大きく動揺させるには十分だった。打ち倒したはずのラクサスの声が響き、それから間を置かずして、微弱ながらも電流を発しながら、倒されていた体をゆっくりと起こす男の姿が見えた。
「まさかあんな程度で…オレを倒せたとでも思ったのかよォ、ナツ…?」
バチバチと音を鳴らしながら体中に電流を纏い、口元を怪しく吊り上げながらナツに目線を向けている。手ごたえは大いにあったのに、かつてはガジル、そして
「嘘だろ…何で…!?」
「何で?そいつは簡単な事さ…」
ナツがたじろぎながら呟いた言葉に答えるように、ラクサスは内側から発する電流の量を増やしていく。
「ジジイがうるせえから、ずっと隠してきたんだが…特別に見せてやろう、弱ってるとはいえここまでオレを追い詰めた褒美としてな…」
その言葉とともに、ラクサスの身体に変化が起き始めた。弧を描いた口元から覗いた犬歯は、ラクサスの言葉と共に牙と呼べるまでの長さに伸びる。さらに腕筋が肥大化して、袖が破れて露出し、前腕には竜の鱗のような模様が浮かび上がる。さらに筋肉の肥大化は進み、ラクサスの上半身に纏わっていた服はそれによって破れ切り、露出される。そして何より先程よりもはるかに上回る魔力をラクサスから感じさせた。
「ま、まさか…!!」
ここまでの変化を見て、ナツは理解した。同時に戦慄した。まさかずっと…自分がギルドに加入した約7年前からこの魔法を扱えていたのだと。
ずっと同じギルドに所属していた仲間が、
「『雷竜の――』」
「お前も
「『―咆哮』!!!」
口元に収束された雷の魔力。息を吸い込みながら集められたそれは、彼の咆哮となって大聖堂の天井まで届くほどの規模をもってナツに迫る。極太の波動のようにも見えるそれを前にし、そして今まで明かされなかったラクサスの魔法を目の当たりにし、ナツはその場から動くことが出来ず、雷の波動に呑まれてしまった。
石の床をえぐり取る程の絶大な威力。そしてそれは出入口にまで届き、その余波が外にまで広がる程であった。雷の光によって輝いていた空間が、しばし時間を置いて収まった時には、まともにその攻撃を受けたナツの姿は、どこにも見えなかった。
「ナツぅ…このギルド最強は誰だ?」
姿が無くなった青年に向けて放たれた言葉。だがそれを返すものは、どこにもいない、声も聞こえない。それを理解したラクサスは、狂ったように大きく笑いの声を上げた。
「ハハハハハッ!!粉々になっちまったら答えられねーかぁ!!」
哄笑が大聖堂に響く。長い間ギルドで共にしていたナツを消滅させたことに何の感情も抱かぬまま告げたラクサスの言葉に、返すものはいない…はずだった。
「仲間…じゃなかったのか?」
その声がしたのはほぼ真横。ラクサスの右方向からだ。反射的に目線を負うと、そこには見覚えのある人物が立っていた。元
「それを消して喜んでるとァどうかしてるぜ…。ま、消えてねえがな。コイツを消すのはオレの役目だからよ」
咄嗟にナツが咆哮に飲み込まれる寸前で救い出していたガジルは、ナツの腰に巻いてある帯を右手で掴み上げていた。到着したと思ったら大技を喰らおうとしていたところだったため、本人もさすがに肝を冷やしたのは誰も知らないことである。
「ガジル…んがっ!」
「また獲物が一匹…ククク…消えろ、消えろぉ…!オレの前に立つ者はすべて消えるがいい!!」
右手に掴んでいた帯を離したことで床に叩きつけられたナツを見ながら、ラクサスは笑み混じりに叫ぶ。まるで何かに憑りつかれた様にも錯覚する。
「ラクサスはオレがやる…引っ込んでろ…!」
うつ伏せになった体を起こしながらナツは再びラクサスと対峙しようとする。だがそれをガジルが黙って見ることはない。今目の前で対峙しているだけでも、彼がどれだけの力を有しているかが伝わってくるから。
「コイツには個人的な借りがあるんだよ。だが奴の強さは本物のバケモンだ。マカロフの血を引いてる上に、オレたち同様滅竜魔法まで使ってきやがる… クソが…聞いてねえぞ、イワンの野郎… 」
絶対にラクサスと戦う姿勢を解かないナツに対してガジルはあくまで冷静に彼を分析している。最後の部分は何やらボソリと呟いていたが、耳のいいナツでさえもよく聞き取れないほどの小声だったため、何を呟いたのかは不明だった。
「気に入らねえがやるしかねえだろ…共闘だ」
「んなっ!?じょ、冗談じゃねえ!!ラクサスはオレが倒すんだ!!つーかお前となんか組めるかよ!!」
かつては敵としてぶつかり合った
「ハハハ…!消えろ…消えろ…
「あれがてめえの知ってるラクサスか?違う、あれはギルドの敵だ!ギルドを守るために、ここで止めなきゃならねえ!!」
放電しながら狂った人形のように嗤い、うわ言を繰り返すラクサス。滅竜魔法を解禁して肥大化した肉体も相まって、その姿は最早自分たちの知ってるラクサスとはかけ離れている。ガジルの言葉でそれを再認識させられたナツは、目の前のラクサスの様子が信じられなかった。
今のラクサスを止められる者はほとんどいない。ほぼ全員が神鳴殿の反撃を受けて動ける状態ではない。ここで止めなければ、ギルドも街もどうなるのか分かったものではない。その為に、最早意地や手段を鑑みるのは限界だった。それが、ガジルが共闘を提案した理由。勝負という概念から外せなかったナツも、理解せざるを得なかった。それはそれとして…。
「お前がギルドを守る?」
「守ろうが壊そうがオレの勝手だろーが!!」
以前の
「この空に、竜は二頭いらねえんじゃなかったか?」
「いらねえな。だからまずは、一番邪魔な雷を起こす
「お前と組むのは今回だけだからな」
「当たり前だ!てめえとはいずれ決着をつける!」
互いに不敵に笑いながら話を進め、共闘することでどうにか落ち着いた。火竜と鉄竜、そして雷竜。3頭の
「「行くぞ!!!」」
声を揃えて合図した瞬間、ナツとガジルの二人がトップスピードでラクサスに迫る。それを待ち受けるラクサスには余裕が消える様子がない。勢い良く攻め立ててくる二人の拳の連打をガードしながらも、その場から動く様子がない。
ナツが左の拳で殴り掛かってきたタイミングでラクサスも左手を差し出し、その拳を真っ向から止める。それにたじろぐのも束の間、ラクサスはナツに雷を浴びせながらガジル目掛けて投げ飛ばす。それを左腕で受け止めながら後ずさり、ナツを己の背中に持ちあげる。
「
ガジルの声に呼応してナツは口を膨らませる。そしてナツの背中の重点に、ガジルは自分の左肩をセットした。すると…。
「火竜の咆哮!!」
「鉄竜棍!!」
咆哮の勢いをブースターにし、いつもよりも遥かに速度と威力が上がった自身の技をラクサスにぶつけようとするが、ラクサスは着弾する直前で跳躍する。それを見たガジルがすかさず手の棍を引っ込めて、後ろ回し蹴りの要領で左脚を「鉄竜剣」に変化してラクサスに振るう。しかし、ラクサスは迫りくる剣を拳に雷を纏った状態で殴り、弾き返す。
「なっ!?」
「『雷竜方天戟』!!」
態勢を崩されたところに、すかさずラクサスが方天戟の形に作られた雷を投げつける。直撃したガジルの身体は勢いそのまま、壁に叩きつけられる。それを確認したラクサスの後方に、柱を伝って上に登り、ラクサスの上を取ったナツが構えていた。
「火竜の煌炎!!」
左右それぞれから発した炎を合わせ、それをラクサス目掛けて投げつける。滞空していたラクサスがそれによって吹き飛ばされるが、特に支障を感じさせずに着地する。
「『鉄竜槍・
そこへすかさず復帰したガジルが腕を槍の形に変え、いくつもの槍を飛ばす。それを腕を交差してガードしていくラクサスに、今度はナツが空中から体に炎を纏って追撃してくる。
「『火竜の劍角』!!」
紅き炎を纏った状態で頭からぶつかるナツ。それを受けたラクサスの表情からは余裕は未だ消えず。一際深い笑みを見せながらナツの身体を弾き返す。そして両手を組み、その両手に電撃を纏うと…。
「『雷竜の顎』!!」
そのままナツ目がけて振り下ろしてくる。すかさずガードをして後ろに飛ばされながら、ナツは口を膨らませる。それに続くようにガジルもまた隣り合って同じように構えた。
「火竜の…!」
「鉄竜の…!」
「「咆哮ォ!!!」」
全てを焼き尽くす炎と、全てを削り切る鉄。二頭の竜が放つ
「雷竜の咆哮!!!」
火と鉄、雷が真正面からぶつかり合い、拮抗を生み出す。しかし拮抗も束の間、二頭分の力が加わった
着弾したことによって起きた爆発。それによって発生する煙。それが晴れた時にラクサスが目にしたのは、彼の雷によって体が痺れ、うつ伏せの状態から動けなくなっている二人の姿。
「まだ生きてんのかよ…いい加減くたばりなぁ…!!」
しかし形が残っていることが気に入らなかった様子のラクサス。彼は両手にそれぞれ雷で創った方天戟を顕現し、それぞれに照準を合わせる。
「これで…跡形もなく、消え失せろぉ!!」
二頭の
「「換装!!」」
そんな窮地を救ったのはその声の主たちだった。
ナツの前に立ったのは、青雷を生み出す雷帝の鎧に身を包んだ緋色の長い髪の女性。そしてガジルの前に立ったのは両端には翼を象った装飾が施された、鏡のように輝く光沢を持つ盾を構えた水色がかった銀色の髪を持つ青年。
「エルザ!!ペル!!」
それに気づいたナツの呼びかけが響くと同時に、彼らを守らんがために立ち塞がった者達に雷の方天戟が突き刺さった。衝撃で後方に弾き飛ばされそうだが、残された魔力を解放することでこらえる。
そして時間にして10秒ほどの長い時間。方天戟の勢いは止んで、完全に消滅。止めきることに成功した。しかし消耗も激しかったようでエルザは雷帝の鎧から普段の鎧へと戻ってしまい、両膝をついた。
「エルザ!」
「大丈夫だ…魔力を少し、使い過ぎただけだ…」
一方のペルセウスは盾自体に一切傷がないが、本人の消耗は中々に激しく、片膝をついて息を整える。
「な、何でオレを…」
「仲間を守るのに理由はねえだろ?…って、どっかで見た顔だな…?」
今度こそ二人を消滅させるつもりだったラクサスは土壇場で戻ってきたS級二人の登場に、一気に機嫌を損なう。忌々し気に睨みつけながら、ラクサスは己の魔法を防ぎ切った二人の様子を見ている。
「雷帝の鎧に…絶対防御の盾『イージス』か…。くたばりぞこないが…!!」
損なった機嫌は苛立ちに、苛立ちは怒りに、そしてその怒りが、彼の奥底に眠る更なる魔力を引き出していく。
「おまえら4人も、ミストガンも、ジジイもギルドの奴らも、マグノリアの住人も…!すべて消え去れェッ!!!」
咆哮と共に彼を中心として魔力が発せられる。その魔力は雷と光となって辺りに行き渡り、魔導士たちに否応なく畏怖を植え付ける。
「な…なんだこのバカげた魔力は…!」
余りにも膨大な魔力に戦慄しているガジル。だが他の3人は別の点に着目していた。知っているからだ。この魔力と同じものを。
「この感じ、まさか…!」
「じっちゃんの…!」
「ま、まずい…!」
そう、マスター・マカロフが使用した、あの魔法と同じ。
術者が敵と認識した者すべてが標的となる、超絶審判魔法・
彼の孫であるラクサスもまた、その魔法を使う資格があってもおかしくはないのだ。解放した魔力を一点に集めるため、左手は上に、右手は下に向けるように両手を合わせる。
「マスター・ジョゼを、一撃で倒した、あの…!!」
味方に対しては温かな光を与え、敵に対しては圧倒的な破壊力をもたらす
「よせ!ラクサス!」
エルザが制止させようと彼の名を呼ぶも止まらない。上に向けていた左は下に、下に向けていた右を上に、両手を動かすことで集中していた魔力がさらに膨らんでいく。
「街にいる無関係の者たちまで巻き込んで、本気なのか、ラクサス…!!」
雄叫びを上げて魔力を集中させるラクサス。ペルセウスの呼びかけにも反応する様子はない。もう彼の耳には、かつての仲間の声など届かない。
「やめてーっ!ラクサス!!」
その声は、場にいる誰にとっても予想外の声だった。大聖堂の出入口に佇むその声の主である少女。濃い青のショートヘアーを持つ、文学に精通する彼女の名は…。
「レビィ!?」
「何故お前が…!?」
「バカが!何しに来た!!」
レビィ・マクガーデン。ナツとガジルを、術式の壁から脱出させた彼女が、何故今ギルドを出てこの場に来たのか。それは、誰もが想像だにしない、とある事態を知らせる為だった。
「ラクサス!!マスターが…!!」
呼び留めようとする彼女の声も無視して、ラクサスはその魔力をどんどん高めていく。いまさら何を言われようと、止まる気は無い、その一心で…。
「あんたのおじいちゃんが…危篤なの!!」
その言葉が、この場にいる者たち全員の思考を、一時的に停止させた。魔力を貯めることに集中していたラクサスでさえ、正気を失っていたかに見えた目の色を取り戻している。
「だからお願い!もうやめて!!マスターに会ってあげてぇ!!」
悲痛な叫びと懇願。親であるマスター・マカロフの危篤の知らせ。ラクサスだけでなく、この場にいるもの全員に衝撃が走っていた。
「危篤…?」
「マスター、が…」
「…死ぬ…?」
「ラクサスゥ!!!」
エルザも、ペルセウスも、ナツも言葉が他に出ない。祖父であるマカロフの火急の事態に、ギルドを乗っ取ろうとするこの騒ぎをしている余裕はない。レビィの叫びが届いたのか、ラクサスが溜め込んでいた魔力が起こした光の奔流は徐々に小さくなっていく。そして…
「丁度いいじゃねえか。これでオレがマスターになれる可能性が、再び浮上したわけだ…!」
残酷にその言葉をラクサスは告げた。血の繋がった実の祖父が今にもその命を落としかねない事態だと言うのに、彼はどこまでも独善的な主張を続けていた。その返答にレビィは涙を流しながら息を呑み、ガジルやエルザもラクサスを睨みつけている。
「…何だ…この違和感…?」
ただ一人、ペルセウスだけがラクサスから妙な違和感を感じ取っていた。だが、その違和感がどれの事を指しているのか、自分でも察知できない。
「ふははははっ!!消えろ
翳していた両手を上に向け、あとは合掌の如く手を合わせれば発動する。もう後に引くことはない。全てを壊して最強のギルドを作るためにも…。
「そんな…!」
「お前は…何でそんなに…!!」
泣き崩れるレビィ、怒りの形相で睨むナツ。そんな彼らを意に介さず、とうとうラクサスはその手を合わせた。敵とみなしたもの全てを滅ぼす審判魔法。
「
その輝かしい光は、マグノリア全域を包んだ。大聖堂から発せられた、妖精の紋章を中心に刻んだ魔法陣から発せられるのは、一見すれば暖かな光。だが、術者が敵と定めた者たちを無慈悲にも裁くその魔法が行き渡る。
目の前に倒れる者、街の中で動けなくなった者、そして騒動も知らずに各々過ごす者。あらゆる者たち全てにあまねく光が届く。
光がすべて収まった時、大聖堂に、街中に広がるのは倒れ伏した敵たち。それを想像し、魔法の手ごたえを覚えたラクサスは確信した。
「はぁ…はぁ…はっ…ははは…!オレは、ジジイを超えた…!!」
立ち上る煙が晴れぬ中、ラクサスは震えながらも確かに告げた。発動できた。妖精三大魔法の一つを。マカロフの孫とばかり呼ばれてきた自分はもういない。祖父をも超えた魔導士であるラクサスの誕生であると…!
「ゴホッゴホッ…!」
その確信は、あっさりと打ち破られた。煙が気管に入ったことで咳き込む声が、所々から聞こえてきた。思わず目を向けてみれば、そこには先程の位置から全く変わっていない、そして容体も全く変化していない
「そ…そんなバカな…!!何故だ!何故誰もやられてねえ!!」
「皆…大丈夫か…?」
「オレは問題ねえ…」
「私も…平気だよ…」
「俺もだ…ナツ…も大丈夫そうだ…」
そう。大聖堂にいる誰一人として、倒されていないのだ。
「あれだけの魔力を食らって、平気な訳ねえだろ!!」
「ギルドのメンバーも、街の人も皆無事だ…。誰一人としてやられていない…」
愕然とするラクサスに現状をそう伝えたのは、彼にとって一番信頼のおける存在。ミラジェーンによって戦意喪失にされていた術式魔法の使い手、フリードだった。彼から教えられた事実に、困惑しながらラクサスは叫ぶ。確かに
「それがお前の“心”だ。ラクサス」
誰も倒さない。それがラクサス自身に宿っていた、本当の心だ。祖父であるマスター・マカロフから受け継がれていたのは力や魔力だけじゃない。仲間を思う心もまた、彼から色濃く引き継がれたのだ。そして
「(そうか…。これがあの違和感の正体だったのか…)」
心の内側では仲間を大切に思っていた。だが周りからのプレッシャー、素直になれない自分、色んなものが混ざり合って邪魔をして、それが今回の騒動を巻き起こすほどにまで、表面上だけ歪めた結果というわけだ。それをどことなくペルセウスは感じ取っていた。
「魔法に嘘は吐けないな、ラクサス。これがお前の“本音”という事だ」
「違う!オレの邪魔をする奴は敵だ!敵なんだ!!」
柔らかく微笑むフリードの言葉。それを必死に振り払おうと、ラクサスは拳を握り締めて、自らの心に言い聞かせようとする。
「もうやめるんだ、ラクサス。マスターのところに行ってやれ…」
「ジジイなんかどうなってもいいんだよ!!オレはオレだ!ジジイの孫じゃねえっ、ラクサスだっ!!ラクサスだぁあーーーっ!!!!」
咆哮と共に、再び迸るラクサスの電撃。それは石床にも行き渡り、それに亀裂を生じさせ、破片が浮かび上がる。まるで子供の癇癪のような叫びを聞いて、立ち上がる者たちが数名。
「今更何を言うかと思えば…」
「そんなこと、皆知っている…」
「思いあがるなバカ野郎…じっちゃんの孫がそんなに偉ェのか…そんなに違うのか…」
ペルセウスがイージスから換装して再びミストルティンを装備。エルザは破損した雷帝の鎧ではなく、攻撃力重視の黒羽の鎧に。そしてナツは身体から熱く紅い炎を吹き出して立ち上がる。
「血の繋がりに勝手に引け目を感じて勝手に吼えるな!!」
「血縁であろうとなかろうと、俺達ギルドは家族だろう!!」
「てめえらに…何が分かる…!!」
「何でも分かってなきゃ仲間じゃねえのか…!」
各人各様、それぞれの魔力を放出させる。そして、最初にラクサスへと走りだしたのは、炎を纏ったナツだ。
「知らねえから互いに手を伸ばすんだろォ!!ラクサス!!」
「黙れぇえええええっ!!!」
炎と雷。互いに拳に魔力を込めてぶつかり合う。大聖堂内を縦横無尽に駆けながら、互いに一撃を入れては返され、入れては返されを繰り返す。
「オレの前から消えろーー!!」
「お前はオレが止める!!」
何回目かの打ち合い。ラクサスの拳がナツよりも早く当たり、彼の身体は吹き飛ばされる。しかし、次の瞬間にラクサスの身体を拘束するものがあった。ペルセウスがミストルティンで操る根が左足を覆うように締め付けている。
「お前にギルドは渡さん!!」
「ペル…ッ!!」
忌々し気に睨むラクサスの横から、一振りの剣を振るってエルザが近づいてくる。その剣を雷を纏った拳で受け止めるが、攻撃力を倍加させているエルザの一撃に、のけ反らされる。
「私たちの帰る場所は、必ず守る!!」
「エルザ…!どいつもこいつもォ!!」
剣を受け止めた拳を上に打ち上げて彼女の態勢を崩し、そのままもう片方の拳を彼女のガラ空きとなった腹部に叩きこむ。床を転がっていく彼女に一瞥もせず、ペルセウスに向けて口から
「雷竜の顎ォ!!」
勢いよく組んだ両手で床に叩きつけられたペルセウスは息を激しく吐き出して痛みに耐える。さらに追い打ちをかけようとしてくるラクサスに、駆け出して詰め寄ってくる人物が一人。ナツが再び立ち上がって駆けだしたのだ。
「この…死にぞこないがぁ!!」
迫ってきたナツの顔面に一発、そして背中にもう一撃食らわせて地に叩きつける。だが、それでもナツは立ち上がろうと力む。もう体はボロボロ。魔力も尽きかけているというのに、ほぼ執念だけで戦おうとしている。
「ギルドはお前のもんじゃねえ…!よーく考えろ…ラクサス…!」
「黙れぇ!!『雷竜の崩拳』!!」
巨大な雷の拳を作り出し、ナツ目がけて撃ち出す。再び床を転がって投げ出されるナツの姿を見て、レビィにフリード、そして想像以上のダメージを抱えたガジルが息を呑む。
「ザコがオレに説教たぁ…100年早ェよ、アァ?」
蹂躙。まさにその言葉が似合う状況。圧倒的な力を前に妖精全員がもう立ち上がることもできない。そう思われても仕方ない状況で…。
まだ、立ち上がろうとする者が一人。
「ナツ…お前、まだ…!」
「もうやめて、ナツ…死んじゃう…!」
激しく呼吸を繰り返しながら、まだ立ち上がろうと踏ん張るナツ。しかし、ほとんど限界が近いのか、その足はフラフラで、再び倒れてもおかしくない。
「ガキがぁ~~…!!跡形もなく消してやる!!」
ラクサスが放とうとしているのは雷竜方天戟。しかし、先程から出したものとはさらに形状が異なる。言うなれば、方天戟からさらに改良された『方天画戟』。
「よせ!ラクサス!!今のナツにそんな魔法を使ったら…!!」
フリードが必死に彼を止めようとするが、聞く耳を持たない。迸る雷の方天画戟を、ナツに向けて彼は放った。
「『雷竜!方天画戟』ィ!!!」
ナツに動く気力は残されていない。防ぐことも、躱すことも不可能。フリードの慟哭、レビィの悲鳴が響く中、その一撃は無情にもナツを…
貫くと思われたが、彼を直前にして、不自然なほどに軌道が逸れた。外れたという次元を抜けて、ほぼ垂直にナツを避ける…否、その方向に引き寄せられるように。そこにいたのは、腕を鉄竜棍へと変えたガジル。その後方にはミョルニルを換装で装備したペルセウスもいる。
「ガジル!!」
「鉄…まさか自ら避雷針に…!?」
ラクサスの大技をその身にガジルが受け、後方にいたペルセウスと共にその雷を受ける。ミョルニルを介して両者のダメージも軽減し、負担は減らすことに成功した。それを目の当たりにしたラクサスはあと一歩のところを邪魔されて、愕然としている。
「ナツ!!」
そして、さらに別の方向から彼の名を呼ぶ声が聞こえる。エルザだ。彼女は今、耐火性能がある炎帝の鎧に身を包み、それとセットになっている炎属性の武器から、炎の魔法弾をナツに放った。それは見事に直撃。だがこの場にいる誰もが存じているだろう。彼に炎を与えることの意味を。
「あ、あいつ…ナツに、火を…!!」
最早全員、魔力が限界。全ての意思、想いは、この青年に託された。エルザから与えられた炎を食らい、先程のフラフラだった状態とは違う、確かに力の籠った状態で、立ち上がる。
「後は頼む…!」
「行け…!」
「お前が決めるんだ…!」
「おおっ!!」
仲間たちの激励に答え、その身体から今まで以上に炎を発する
「火竜の…!!」
「お、おのれ…おのれェエエっ!!!」
立つのもやっとの状態であるラクサスに、力が漲るナツが飛び掛かる。
「鉄拳!!」
拳。
「鉤爪!!」
回し蹴り。
「翼撃!!」
両手の炎の鞭。
「劍角!!」
頭突き。
「砕牙!!」
手の爪。
「炎肘!!」
肘からの炎による拳と…次々に叩きこまれていく。その光景を見ながら、ペルセウスは思い出していた。かつて弟が呼んでいた本に書かれていた、そして弟が目を輝かせながら読んでいたその一節を。
――その魔法、竜の鱗を砕き…
――竜の肝を潰し…
――竜の魂を狩り取る…
その魔法の名は滅竜魔法。繰り出されるは、竜を滅する最強の奥義…!
「滅竜奥義!!『紅蓮爆炎刃』!!!」
両手から発せられる高温の炎。その勢いはまるで、紅蓮の刃の如し。その刃に斬られし者、尽く爆炎の餌食とならん。
ギルドマスター・マカロフの実の孫にして、
「オオオオオオオオオオオォッ!!!!」
カルディア大聖堂…ひいてはマグノリア全域に、
次回『