時間の余裕も見て順調に書いてたと思ったら、いきなりキーボードがバグって対処に時間かかりました…。やけに処理も重くなったし…。
そして今回の更新でタグをまた一つ追加しました。ホントはペル対ラクサスの回更新の時に追加する気だったのにすっかり忘れてましたごめんなさい。
第40話 ペルセウスと言う男
マグノリアの収穫祭が終幕し、一週間が経った。バトル・オブ・フェアリーテイルによって荒れてしまったマグノリアは、ようやく落ち着きを取り戻したと言える。
しかし、ラクサスが破門された件については、
「納得いかねーぞじっちゃん!何でラクサスを追い出したんだ!!あいつだって仲間だろ!?喧嘩したって仲間だろ!!?」
このように抗議を続けるナツの言葉を、マスター・マカロフは腕を組んで黙しながら聞くのみ。尚も抗議を続けようとしたナツは、エルザから止められるまでずっとこの調子を貫いていた。
さらに、マカロフは孫の責任をとるためにマスターの座をおりると告げ、ギルドを出て行くと言い出す。メンバーたちは勿論説得した。それでも決意は固く一向に応じようとしなかったのだが…。
「ラクサスの罪をこれ以上重くしないでください。マスターが辞めた事を、ラクサスが知ったら…」
長かった髪を剃り落とし「ボーズ」となったフリードの姿勢と言葉に、何とか思いとどまってくれた。フリード曰く、昔の者達は反省の姿勢を見せる時には「ボーズ」にするのが定番だったらしい。確かにどこか懐かしいが…。
フリードと言えば、雷神衆のメンバーたちはラクサスが抜けた後もチームを存続、ギルドの者達とも少しずつ打ち解けようとしていた。エバーグリーンはリーダスに絵のモデルになることを志願したり(彼女の方から描くように迫っているとも言えるが)、ビックスローはやけにルーシィに話しかけている様子が見られる(ロキとの関係について茶化しているようにも見えるが)。
それから収穫祭が終わってから、エルザが一人で物思いにふける様子もよく確認されている。恐らく
「まさかお前の知人と同じ顔だとは…。すまんがワシも奴をあまり知らん。無口な奴だからのう…」
マカロフでさえ彼を詳しく知らない。有力な情報はなし、かと思われた。
「だがミストガンがギルドに来る時、ペルだけが起きていた時が度々ある。あいつなら知ってるかもしれん」
それを聞いた時、エルザは驚愕するとともに思い出した。ペルセウスは彼についてよく知っているらしかったことを。そして当人から聞いた内容は…。
「確かにミストガンとはいくらか話したことがある。あいつの頼みで詳しくは教えられないが、一つだけ。多分お前が知っている『ジェラール』はあいつとは全くの別人だ…遠からずだが…」
ミストガンはジェラールとは別人。本人から確かにそう聞いてはいたが、それにしては顔が同じように見えるのはどういう事だろう。彼女が抱える悩みが更に増長されるだけに終わってしまった。
ラクサスの破門についてショックを受けていたメンバーの中には、彼とわだかまりを持っていた者たちも多い。そしてそれはかの少年も含まれていた。可能性は十分にあると考えてた。しかしいざ本当にそれが現実になると、自分でも驚くぐらい衝撃を受けたそうだ。
「ラクサスについての記憶は嫌なものしかなかったのに、何でかな…?」
消沈としながら兄に語ったシエル。そんな彼にペルセウスはラクサスからの言葉を伝えた。破門されたことを祖父に告げられ、医務室から出てきた時の彼に頼まれた謝罪の伝言を。
「…そんなの…最後に言うなんてっ…!俺だって、酷い事言ったのに…謝りたかったのに…!!」
今にも涙を流してしまいそうな悲しそうな表情を浮かべながら、後悔混じりに言葉を絞り出した。目の前の弟がラクサスとどんな会話をしていたのかは何となく察知できる。彼はただ、ラクサスの強さに対しても憧れを持っていた。最強だと信じて疑わない兄に匹敵する実力を持っているラクサスにも憧れを持っていたことで、いつかは追いつきたい、追い越したい。その思いが彼に対する反抗的な態度を形作っていた。頭の中では彼を嫌悪しようと、心では皆と同じように仲間であると認識していた。
目の前に高くそびえる大きな壁が、乗り越えようとして何度も挫けそうになったその壁が、突然目の前から消えてしまった。そうなって初めて、彼はラクサスが自分にとってどんな存在なのかを感じることになった。
様々な出来事が起き、過ぎていった一週間。容体も持ち直して快方に向かったマカロフは、カウンターに胡坐をかきながら目の前に座っているペルセウスの報告を受けていた。収穫祭とそれを巡る騒動によって流されかけていた10年クエストについての報告である。
「ともかく、無事に達成してこのギルドに戻ってきた。それだけで立派じゃ、よくやったな、ペル」
「ありがとう、マスター」
笑みを浮かべながら激励の言葉を述べ、それに己も笑みを返す。1年という長い期間留守にしていたこともあって、心配していた部分もあるらしい。こうして面と向かって話すだけでも
「時に、これからどうしていくのか決めているのか?遠出が必須になる
「いや…しばらくは長期の仕事は控えようと思う」
ふいに尋ねてきたマカロフの質問に答えた内容は、彼を少なからず驚かせた。今までは依頼に行くたびに時間をかけて遠出をする放浪癖を持っていた彼が、そう断言することが意外であった。だが、次の言葉と共にマカロフの疑問は納得に変わる。
「シエルの傍にいてやりたい。寂しがってただろうし、今どんな風に仕事をしているのかも見てみたい」
「…そうか」
穏やかな表情を浮かべているペルセウスにマカロフは笑みを浮かべながら答えた。彼にとっては最後の血縁でもある弟の事を案じている様子が微笑ましかったのだろう。ギルドのメンバーは家族のような存在だが、その中でも幼少から気にかけていた弟の存在は彼にとってとても大きい。
「うぁあああんっ!!シエルゥゥ!たすけーてぇ!!」
その時だった。大声で泣き叫ぶ少女が自分の弟の名前を呼んだのを耳にし、驚愕と共に反射的に振り返った。そして目に映った。
「えーっと…何となく察しはつくけど一応聞くよ、何かあった?」
「ミス・フェアリーテイルコンテストォ!!家賃ゲットできなかったのよぉーっ!!」
苦笑しながら尋ねた問いの答えでシエルは納得した。というかやはりと言った感じだ。すっかり忘れられていたように感じていたミス・フェアリーテイルコンテスト。ちゃっかり集計はされていたのだ。だがルーシィが嘆いている理由はその結果。
1位:エルザ
2位:ルーシィ
3位:ジュビア
優勝はゴスロリ姿への換装で会場を大いに沸かせたエルザ。ルーシィは惜しくも2位であった。アピール途中で中断させられたにしては大健闘であったが、50万
「お願い!シエルが頼みの綱なの!何でもするから!どうかお慈悲を~!!」
「分かった、手伝う!手伝うから!ミスコン2位がしちゃいけない顔になってるから落ち着いて!!」
涙に濡れまくった顔を晒しながら頼み込んでくるルーシィに根負けし、シエルは了承した。取り敢えず
「頼りにされてるな、シエル。泣いて懇願される程とは」
「兄さん!」
「はっ!ペルセウス…幻の魔導士…!!」
シエルは純粋に兄が報告を終えてこちらに来たことに反応し、ルーシィは先程までの自分の醜態を彼に見られていたことに気付いた羞恥で顔を赤らめている。更に言えば顔写真すら公開されていなかった幻とまで言われたペルセウスを実際に目にして、落ち着かない様子にも見えた。
「そう言えばその声聞いて思い出したよ。君がルーシィだったか。
「そ、そんな…あたしただただ必死で…!」
噂でしか聞いたことのなかった魔導士からそんな言葉をかけられるとは思わず、謙遜の姿勢でルーシィは慌てる。そんな姿に一つ笑みを零すとルーシィに向けて右手を差し出す。その差し出し方は握手のようだ。
「弟が世話になってるみたいだ。改めて紹介させてもらおう。シエルの兄で、『ペルセウス』だ。ギルドでは『ペル』と呼ばれてるからそう呼んでくれ」
「あ、こちらこそ…ルーシィです。よろしくお願いします、ペル…さん」
どうやらエルザのように敬語はすぐには抜けない様子だ。落ち着いた性格に感じるシエルの兄であるが故か、弟同様どこか落ち着いているような印象を受ける。そんな風に考えていると…。
「そーだっ!思い出したぁ!!」
ガタンと言う音と共に突然立ち上がって叫んだのは桜髪にマフラーが特徴のナツ。突如響いた彼の声に驚愕するものも何人かいるが、大抵はいつもの事として気にしていない者ばかりだ。そして彼がなぜ急に立ち上がったのかと言うと…。
「ペル!今すぐオレと勝負だ!!色々終わったらするって約束だったろ!!」
「え、だからっていきなり!?」
大体予想は出来ていた。ラクサスが破門されたことに対するマスターへの怒りで頭から抜け落ちていたのか、10年クエストを達成して帰還した魔導士が相手にも関わらず勝負を仕掛けていく。
「そんな突然勝負吹っ掛けたらペルさん迷惑じゃ…」
「いいぜ、かかって来い」
「いいの!?」
ナツを制止しようと彼の前に歩み出たルーシィであったがまさかの即答でOKが。それに驚くルーシィをよそに、ナツは拳に炎を纏って飛び出した。巻き込まれると察知してシエルが元居た席に何食わぬ顔で座り直したのを見て、ルーシィもあわてて避難する。
「火竜の鉄拳!!」
繰り出された拳を左足を軸にして体を時計回りの形で回し、難なく避ける。そして勢いそのまま回転し、横方向から右足でナツの脇腹目掛けてソバットを打ち込んだ。
「ごぺぇ!?」
そして吹っ飛ばされたナツは錐揉み回転をしながらその先にある柱にビダーン!という音を出しながら正面を打ち付けられた。一発KOである。
「ええーっ!?」
「はい兄さんの勝ち~!」
以前エルザやラクサス同様に瞬殺された相手にペルセウスの名が加わっていたことは知っていたが、いざ現実に目の前でその様子を垣間見せられると仰天の方が上回る。現に驚きを声に出さずにはいられないルーシィであった。ちなみにシエルはテーブルに足をかけた状態で、ナツを瞬殺した兄の右手首を左手で掴み、上に上げている。勝者を示す
「ひっさびさに見たな、この光景も」
「また腕を上げたのではないか、ペル?」
勝負が決まった瞬間、笑いに包まれるギルド。勝者であるペルセウスにグレイとエルザが、懐かしみながら、そして賞賛しながら近づいてくる。
「一年近く迷宮にこもるようなサバイバル生活してたから、そのせいかもな」
「迷宮…!?」
物凄くさり気なく現実離れしたワードが飛んだような気がしたが、ルーシィの呟きを拾う者は残念ながら誰もいない。そしてふと、ルーシィは率直に思った疑問を投げかけてみた。
「そう言えば、あたしペルさんがどういう人かどんな魔法を使うか、あんまり聞いたことないけど…」
今この場に集まっているのは、昔からペルセウスの事を知る者たちがほとんどだ。彼についてどのような力があるのかを聞いてみようと質問を口にする…前に耳を大きくしてそれに食い付いたシエルが答えた。
「あ、気になる?やっぱ気になる!?そうだよね気になっちゃうよね教えてあげよう!!」
「え、急に何…!?」
「始まった…シエルの兄貴自慢…」
テンションがやたらと上がった様子のシエルに戸惑うルーシィ。その様子を見てグレイは昔から度々見かけるシエルの兄自慢にスイッチが入ったことを察した。一言二言じゃ収まりきらない程にこれは長くなりそうだ。ちなみに当の本人は目線を逸らしていた。どうにも居た堪れない、と言わんばかりに。
「兄さんが
「す、凄い…!凄いけど、興奮しすぎ…」
いかに兄がどれだけ凄い人物なのかを力説する様子のシエルは、普段と違ってどこか見た目の年齢に違わぬ印象を与える。改めて内容を纏めてみると自慢したくなるのも分かる内容ではあるのだが、シエルの輝かしい顔と圧の方が印象が強くて正直頭に入りそうにない。ちなみにグレイもシエルの様子を見て視線をそっぽに向けている。エルザはシエルの力説に目を閉じながら所々で頷いている。昔を懐かしんでるようだ。
「あれ?5年前って…シエルはギルドに来たの、確か3年前って言ってなかった?」
「うん、俺は3年ぐらい前だよ?」
「シエルは事情があってペルよりも遅くギルドに来たんだ」
ルーシィが挟んできた質問に、興奮気味だったシエルが落ち着いてキョトンとしながら答えると、エルザが補足してきた。「事情?」とルーシィが聞き返すと、まるで他人事のようにあっけらかんとした様子で彼は答える。
「俺、昔は病弱だったからポーリュシカ先生のところに真っ先に運ばれたんだ。そんで2年近くは療養でお世話になったんだよ」
何ともあっさりと明かされたシエルのカミングアウトに、ルーシィは目も口も明けて衝撃を受けた。「ぐもぉ」と言う擬音が聞こえてきそうな感じで。
「病弱って…そうだったの!?」
「そんな驚くこと?そりゃちっちゃい頃は寝たきりでもすぐ体調崩すし、身体は思うように動かないし、たまに喘息止まらなくて過呼吸になったりしたけど昔の話だよ」
「どう考えても重病患者―!!」
下手すりゃ死ぬだろとまで言われかねない程の虚弱体質だった過去をあっさりと明かす辺り、病気に関する感覚がマヒしているのでは。そう思わずにはいられない。ちなみにこの発言に関してはペルセウスから後でしっかり怒られることになる。今はその病に苛まれることはない、と言う考えではいざと言う時に危険だ云々と言う内容で。
「まあ今は俺の話は置いといて、兄さんの魔法についてだよね?」
「あ、うん、そうそう…」
正直色々と衝撃の事実を知って頭が追い付いていないのだが、それでも気にせず続けるようだ。と、ここでペルセウスはシエルからその説明を引き継ぐことを申し出てきた。自分の魔法ぐらいは自分から話す、と言う主張らしい。
「俺が使うのは換装魔法だ」
「あれ?それってエルザと同じ?」
「原理は確かに同じだが、ペルには、私にはできない…いやペルにしかない一つの特徴がある」
「換装」と言う単語を聞いてエルザに目線を移すルーシィに答えるように彼女が告げると、それを証明するようにペルセウスは右手に一つの剣を換装で呼び出した。炎のような意匠を持った紅い剣。その剣を目にしただけでルーシィは気付いた。過去に読んだ本の中で、炎を模した剣が記されている文献が存在していたことを思い出したと同時に。
「こ、これってもしかして…レーヴァテイン!?神話上にしか出てきてない武器じゃ…!?」
「火のない所に煙は立たぬ。神話として記された煙には、必ずこういう火元となる存在があるもんだ」
「これ…ホントのホントに…本物の神器ってこと、ですか…!?」
本の中でしか読んだことのなかった神話上の武器を目にして、驚愕と興奮を露わにしているルーシィにペルセウスは何て事のないように相槌を打った。そして説明も補足する。神器が実在した神々の魔力を取り入れた武具であること、特殊な質の魔力を持つ者でなければ手に持つだけで多量の魔力を消耗すること、そして今現在それが確認されているのが、世界でペルセウス一人しかいないことを。
「ちなみに私も、試しに一つ持たせてもらったことがあるが…5秒ももたなかったな」
「(って事は…5秒近くはもつことが出来たってこと…?)」
懐かしみながらどこか悔しさも感じる笑みを浮かべながら呟いたエルザにルーシィは心に留めたが呆然としていた。彼女も大概化け物染みてる。
「んがーーーっ!!こんなの納得できるか!もっかい勝負だペルーッ!!」
「また!?」
「懲りないなあいつも…」
すると柱にぶつけられてしばらく意識を手放していたナツが起き上がり、再び勝負を仕掛けようとしていた。が、その問いかけに彼は…。
「勿論神器と言うのも多種多様の種類があってな…」
無視して話を続けている。それを見てナツが怒らない訳がなく…。
「無視してんじゃねえぞコラーー!!」
全身から炎を発しながらペルセウス目掛けて突っ込んでくるナツに、ペルセウスはレーヴァテインをしまい、別の神器を呼び寄せた。その瞬間雄叫びを上げるナツの口が、何かで塞がれ、驚愕の表情と共にその声を途切れさせる。更に束の間、両手両足も同様のもので拘束され、終いには身体ごと宙に浮かび上がり、その何かは天井に突き刺さった状態からナツを宙づり状態にした。
「モゴ!フガフゴモグァーー!?(な!なんじゃこりゃーー!?)」
ナツに仕掛けられたのは単直に言えば朱色の鎖だ。だが、その鎖は縛り上げられているナツが触れている部分から同じ色の炎を発している。一応ナツには火が効かないので、実質ただただ頑丈な鎖に縛られているようなものである。あっさりと拘束状態にされたナツを見て呆気に取られているルーシィを尻目に、仕掛けた本人から説明が告げられた。
「軍神と謳われた神・テュールが扱ったと言われている鎖・『グレイプニル』だ。神話上では凶暴な獣神を封じるために作られたものとされてるが…ま、使い方はある意味正しいな」
「グガムグゴーーー!!(んだとコラーーー!!)」
拘束して宙吊りにされた挙句に獣と同等の扱いをされたことに気づいたナツがその状態のまま暴れてグラグラと揺られ続けている。グラグラと…。
「ム…ウ…!(う…ぷ…!)」
「酔ったの!?あれで!?」
「日に日に酷くなってない?」
「ったく、だらしねえ奴だ…」
乗り物にカウントするのも怪しい鎖でグラグラと揺れただけで酔うとかもう乗り物酔いのレベルではない気がしてきた。
「ペル~、ナツにはオイラから言っておいてあげるから、もう助けてあげてくれないかな?」
「そうだな、話の最中に勝負をかけるもんじゃないって言っといてくれ」
「あい!」
「手のかかる問題児の保護者みたいな会話してる…」
「クッ…!や、やめろシエル…ツボにはまる…!!」
ナツの相棒(兼保護者)であるハッピーからの要請でナツを縛り上げていた鎖は異空間へと消えていき、そのままナツは床に叩きつけられた。大丈夫なのだろうかとナツの身を心配したルーシィが覗き込むと、落下した衝撃ではなく、酔いが覚めずにそのまま床に蹲っている様子だった。
「大丈夫そうね」
「ルーシィも段々慣れてきたね…」
最初こそ色々驚きもしたが、何か月も共にしていればさすがに慣れてくる部分もあるのだろう…多分。
ふと、シエルはあることを思い出した。過去に気になる兄の話題を耳にしたシエルが、兄が帰ってきた時に聞こうと思っていたことを。
「そうだ、話変わるけど兄さん。『ジョージ』って知ってる?」
その名前を聞いて反応したのはエルザ、そしてギルドに長く滞在しているベテランのメンバーたちだ。
「ジョージだって!?」
「随分懐かしい名前を聞いたな…」
「けど何であいつが知ってんだ?」
「どこで聞いたんだよシエル?」
「ファントム戦の時にジョゼが言ってた。
戸惑いながらもシエルに尋ねてきたマカオに彼は答える。
『思い出すだけでも腹立たしい…憎たらしい…忌々しい…!ペルセウスと言うクソ野郎が、我々にした仕打ちが無ければな…!!』
『そいつの攻撃の後遺症で、ジョージは魔導士としても!男としても!再起不能の身体となってしまったのだ!!』
今でも思い出せる、向けるだけで人の命を奪えると錯覚するほどの憎悪と殺意を抱えたあのジョゼの様子を。その話を出したことで、更に会話に加わった者達がいた。
「その話、ジュビアも噂で聞いたことあります」
「うおっ!?どっから出てきてんだよ…」
音もなくグレイの背後から現れて参加してきたうちの一人は、水の魔導士ジュビア。
「ジョージ…確かマスター・ジョゼが思い出話をするときによく出てたな」
そしてもう一人は席こそ移動していないが、耳にした聞き覚えのある名前から加わってきた鉄の
「そんなに有名だったの、そのジョージって人?」
何気なく聞いてきたルーシィの問い。ジョージとはどんな人物なのか。それに対して彼を知っている者はこう答えた。
「バカみてぇに強かったが、人間性は最悪だったな…」
「力任せに暴れまくるわ、明らかに相手をバカにしてくるわ…」
「極めつけは女をとっかえひっかえしてたそうだ。しかも無理矢理」
「マスター・ジョゼからは強ぇって事はよく聞いたが、あとは興味なかった」
「えと…古株の女性魔導士の方からは、女の敵…だとか…」
「強い以外にまともな噂が一つもない!!」
聞けば聞くほど魔導士としては優秀だったそうだがそれ以外の面ではとんでもなく酷評のようだ。元ファントムの二人からでさえ散々な言われようである。ひとまず周りから反感を買うような所業ばかりしてきたというのは伝わった。
「けど
「暗黙の了解?」
「それって何なの?」
ジュビアから思い出したように告げられたその言葉に、グレイとルーシィが訪ねると、彼女は答えた。噂伝手でしか耳にしたことはないが、誰もが聞いたことのあるその決め事を。
「マスター・ジョゼの前では、『ペルセウス』と言う名前を絶対に口にしてはならない。口に出した人たちは、皆マスター・ジョゼによってギルドから消されたとも付け加えられました」
その言葉に、ほぼ全員が息を呑んだ。ジョゼにそこまで恨まれるようなことを、彼がしたという事か?そしてこれは、ジョゼの義息子であるジョージに、何かしらの攻撃を加えたことが原因。
「ペル…お前とジョージに何があったのだ?一体ジョージに、何をしたんだ?」
直接ジョゼからその事を聞いていたエルザが、先程から口を閉ざしているペルセウスに詰め寄るように聞いてくる。頭の片隅に存在していた疑問が、これによって明かされることになる…。
「悪ィ、全っ然心当たりねぇ…ジョージって誰…?」
ことはなかった。表情は困惑と疑問で染まり、頭からいくつもの疑問符を浮かべて言葉を発したペルセウスの様子にギルド内が騒然とした。驚愕で。
「知らねぇのかよ!!」
「あんだけ引っぱいといて!?」
「心当たりもないんですか、何一つ!?」
一気にペルセウスに対して詰め寄ってくる魔導士たちの質問に、腕を組んで記憶を絞り出そうとする。本気で分からないようだ。もしかして勘違いだったのではないか?
「確かジョゼは、6年前って言ってたから、前の場所にいた時じゃないかな?」
「前の…あの時のうちのどれか、か…」
正直彼ら兄弟にとっては思い出したくもない記憶だが、このまま放っておくのも寝覚めが悪い。6年前に起きた事と言うヒントを元にペルセウスは心当たりを探る。その様子を見て、半ば諦めムードが流れつつあった。
「やっぱマスター・ジョゼの勘違いだったんじゃねえか?散々憎んでた相手がこの様子じゃあ…」
「でも…確かに条件は一致するって…」
「少なくともバカみてぇに強かったつーその魔導士がそこらの奴にやられるか?ペルならともかく」
真偽も確定しない中でジョゼの勘違い説が濃厚となっていた…その時だった。
「あ、もしかしてあいつか?」
「思い出したの!?」
頭の上に電球が浮かび上がるような幻覚を醸し出しながら、ペルセウスは目処をつけた様だ。何があったのか、誰もがそれを聞こうと耳を傾ける。そして彼は語り始めた。
「ある依頼の帰り道だったな…」
────────────────────────────────────────
6年前。マグノリアの隣に位置するその街を一人の少年が駆けていた。受注した依頼を終えてギルドに帰還し、報酬の薬を受け取って病の弟に与える。そんな毎日を繰り返している彼は少年の頃のペルセウスだ。
「(早く…早く戻らなきゃ…!シエルの薬を、早く…!!)」
急がなきゃいけない。自分が遅れてしまえば、弟のシエルは命の危機に瀕する。その一心で彼は大通りから、ギルドの唯一の近道となる一本の路地裏へと入る。そこは彼がいつも通るルートだ。
だがこの日、その路地裏に先客がいた。
「やだ…!お願いだから、やめて…やめてってば…!」
一組の男女だ。女の方は10代後半ほど。栗色の腰まで伸びた長い髪をして、顔立ちも美人な上にスタイルもいい。街を歩いていたらほとんどの男たちは振り向くだろう。そして男の方は、長身で細身だがよく鍛えられた肉体が服の上からでも感じ取れた。赤く全方向に逆立った髪に、それなりに顔も整っている。だが、その表情は獲物を舐るようなあくどいものを浮かべていた。
「何を拒否する必要がある?オレはな、いずれこの国で一番のギルドである
「っ…今まで散々、色んな女の人を無理矢理交際相手にして…飽きたら捨てるって繰り返してきたあなたの言葉なんて…信じられるわけないでしょ!?もし本当だとしてもイヤよ!私には心に決めた人がいるのに!!」
壁際に女性を押し付け、逃げられない様に両手を掴んで拘束しているらしいその男の誘いを、頑として聞こうとしない。外見に似合わず気が強い性格のようだ。
「あのパッとしない野郎か?あいつこそお前を捨てたクズじゃねえか。いつまでたってもお前を取り返そうとしないのがその証拠だ…」
嗜虐的な笑みを浮かべながら告げたその言葉。本来ならそれで精神的に追い詰められるだろうが、彼女の心はそれでも折れることはない。
「それはあなたが…彼を私の目の前で一方的に痛めつけたからでしょう!?今も彼は入院して、回復の兆しもない状態なのに…!」
「あんな程度でぶっ壊れるような弱い男なら尚更だ。地位も、力も、金も、全てが揃っているオレの元に来る方が賢い選択だと思わねえか?」
無理にでも女性を連れ込もうとする男と、涙混じりに抵抗する女性。本来であれば女性を助けるべきと言う考えが、浮かび上がるものが多いだろう。だがこの時ペルセウス少年に浮かんだ感情は、全く別のものだった。
「(邪魔だな…こいつら…)」
淡々と、機械的に感じたその思い。彼にとって目の前の二人は善も悪もない。自分にとって弟の命を脅かす障害物に他ならなかった。
だからこそ行動した。すぐさまに。
「おい、あんたら」
「ああ?」
お楽しみのところを邪魔されて不機嫌になった男が、絶体絶命の窮地に救いの手を伸ばされた女性が、同時にその方向へと向く。その姿を目に映した時、男には笑みが、女性には落胆の感情が顔に浮かんだ。助けが来たと思ったのが、年端もいかない子供だったからである。
「そこどいてくれないか?急いで戻らなきゃいけないんだ。ハッキリ言って邪魔なんだよ」
少年が先に告げたのは道を開けてほしいと言う頼みだった。だが、それに素直に応じるという思考はこの男にはない。
「ヒャハハハハハハ!!おいガキィ、誰にモノ言ってんだ?急いで戻るぅ?んなもんてめえが違う道に行きゃ済む話じゃねえのか?」
男からその言葉を聞いた少年は、それによって理解した。この男は話を聞くような部類じゃないと。そして、これ以上の話は無駄であると…。
「ガキは帰ってミルクでも飲んでな。今からオレたちがするのは、ガキが見ていいもんじゃねえんだよ」
空いている手で虫を払うような動作を向ける男に、少年は少しずつ一歩ずつ歩を進めて近づいてくる。それを見た男は瞬間舌打ちをして顔を歪めて少年に言い放つ。
「おいガキィ。オレを知らないようだから教えてやる、よーく聞け?オレはなぁ…このフィオーレで一番のギルド
「どうでもいい。興味もない」
そう吐き捨てて少年は右手に紫の魔法陣を展開し、そして続けざまにこう告げた。
「どけよ。邪魔だって言ったんだ…!」
それに男が反応するよりも先に、少年の姿は消えた。そして次の瞬間、男の身体は少年が換装で顕現した紫電を発する大槌によって叩きつけられていた。
股間を。
「ポグゥゥウウッ……!!?」
今まで優れた魔導士として活躍し来たこの男、ジョージ・ポーラ。天才的な魔力を有していたこの男は、人生の中でも最大級の痛みを思い知った。まるで全てがスローになったかのように視界がゆっくり進んでいく。
そんなスローの時間が終わったのは、叩きつけられた大槌を思い切り少年が振り抜いて横の壁を粉砕するほどに叩きつけた瞬間だった。ジョージの拘束から逃れた女性は慌てて身を屈める。
「…チッ…無駄に時間を食った…」
苛立ち気味に告げた少年はその後、路地裏の奥にある自分のギルドへと駆け足で戻っていった。突如目の前で起きた光景に唖然としていた女性は駆け足で路地裏を抜けていく少年を見て、我に返った。
「…あっ、待って…!お礼…言いたかったのに…」
その後、この女性によって病院に通報が入りジョージは入院。そしてこの出来事の後遺症がもとで彼は魔導士を引退することとなった…。
────────────────────────────────────────
『なんつーえげつないことしてんだお前ぇ!!!』
語り終わったペルセウス目掛けて男性陣ほぼ全員の悲鳴混じりの叫びが木霊した。電流流れる大槌を股に叩きつけられる。自分が経験したわけでもないのに想像しただけで背筋も股も凍る感覚に襲われた。そして叫んだ男性陣の多くが自分の股を両手で押さえて若干内股気味になっている。ちなみにマスター・マカロフもその一人だ。
「今にして思えば、さすがに悪いことしたなーって思いは感じてるよ、いやホントに…」
「なんだろう…これ俺のせいでもあるのかな…?」
弟の病気が頭を支配するあまり同じ男としてどれだけその痛みが計り知れないのかは分かるだろうに…。ジョゼが言ってた魔導士としても男としても再起不能って…
ちなみに女性陣の反応はと言うとまばらであった。意味を理解していない者達は首を傾げ頭に疑問符を浮かべている。理解した者は唐突に告げられた下品なネタに顔を赤らめている。その中でも違う反応を示したのが二人いた。
一人目はカナ。何かツボにはまったようで大笑いしながら何度もテーブルを平手で叩いている。そしてもう一人はルーシィ。所在なさげに一同から目を逸らしていた。既視感を感じたらしい。
「一応ジョージが悪いと言うのが確定していたとはいえ…哀れだな…」
「意外とエグイ事すんな、ペル…」
「あい…」
エルザの呟きに、いつの間にか復活していたナツがハッピーと共にドン引きしていた。こんな大惨事を起こしておいて今まで忘れてたと言うのもどうなのか…。
「何か変な空気になったけど、切り替えよう!話切り替えようよ!」
「つか話もいいけど…お前らなんか忘れてねーか?」
「へ?」
この何とも言えない空気を払拭するためにシエルが腕を振って主張するのを見て、グレイが突如聞いてきた。何を忘れていたのか…ふと、シエルはルーシィと目が合い、そこでようやく思い出した。
「あたしの家賃!!」
「ルーシィの家賃!!」
同時に叫んだ。依頼を探すはずだったのにすっかり話し込んでしまった。既に昼時になろうとしている。依頼を決めなきゃ!準備をしなきゃ!と慌てふためきだした二人に苦笑しながらエルザが切り出した。
「仕方ないな。私たちも同行しよう。チームだからな」
「「マジで!?」」
それを聞いたナツとグレイが途端に嫌な顔をするが、それは「何か不満か?」と言うエルザの一喝で黙らせられた。
「はっはは、お前ら3人ともホント変わらねーな」
「なっ!私も入ってるのか…!?」
それを懐かしげに笑いながら告げたペルセウスに、エルザは意外と言った表情で返す。変わらない部分を見て、改めてギルドに帰ってきたと感じることが出来た。そして、ペルセウスは依頼を決めた様子のシエルたち、それに合流するナツたちを見て声をかけた。
「その依頼、俺も同行させてくれ」
帰還した一人の最強候補が、最強チームに合流した瞬間であった。
おまけ風次回予告
シエル「ふと気になったんだけどさ、ルーシィって料理するの?この前使わせてもらった台所、結構整ってたけど」
ルーシィ「そりゃあ一人暮らしだからね。炊事だけでもしておかなきゃ生活も困るし、ミラさんの料理も美味しいけど…一応有料だし…」
シエル「成程、節約術による賜物か…。それでもなお家賃に困っちゃうみたいだけど…」
ルーシィ「ナツたちがほとんど壊すから…。あ、そう言えばペルさんは料理できるのかしら?」
シエル「出来るよ。むしろ俺より上手いかも」
ルーシィ「そうなの!?」
次回『シエル、村を食う』
ルーシィ「すっごく気になってきた~!ねえねえ今度シエルたちの家に遊びに行ってもいい!?」
シエル「いいけど…不法侵入しないでね?」
ルーシィ「するかぁ!ナツたちと一緒にしないでよ!!」