FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

48 / 157
お待たせいたしました!ついに始まるニルヴァーナ編!そしてGWの奇数日隔日投稿開始です!スケジュール半端なく忙しそうだけど頑張りまーす。(遠い目)

そしてこのニルヴァーナ編を皮切りに話数がべらぼうに多くなりそうな気がする…。来年天狼島行けるのか…?


第5章 六魔将軍(オラシオンセイス)討伐作戦
第44話 バラム同盟


港町ハルジオン――。

漁業と航行などで盛んとなっているこの街に、最近とあるレストランがオープンされた。

 

その名も『8isLand(エイトアイランド)』。この店ではシェフが魔法料理を創作して振舞っており、開店直後からそれなりに客足も多い。その魔法料理自体も有名だが、何よりも従業員の対応が優秀であることも人気の高い理由だ。

 

その内の一人は一見するとただの子供。髪は所々が逆立っていて、水色がかった銀色。左目の上部分には金色のメッシュが二筋。開かれた黒い大きい目や顔立ちは実年齢よりもさらに幼く感じさせるが、将来美形になることが確約されていると断言できる。

 

そんな少年は白いシャツに黒いベスト、そして腰には黒いソムリエエプロンを身につけて、大人も顔向けの真っすぐな姿勢で両手にトレイを持ちながら料理を運んでいる。

 

「お待たせいたしました。ご注文いただいた『ラッテアピッツァ』と、付け合わせのサラダでございます」

 

「お、ありがとう!」

 

営業に欠かせない、子供らしさを感じさせる満面の笑みを浮かべながら完璧とも言える言葉遣いと佇まい。彼から料理を受け取った男性客のお礼に、会釈をしながら「どうぞごゆっくり」と速やかに席を離れて次の業務へと戻っていく。

 

少年の名はシエル。現在この「8(エイト)アイランド」の従業員でウェイターを務めている。まだまだ新人であるが、他の者よりも頭一つ抜けていることは明らか。彼のウェイターとしてのサクセスストーリーは、まだまだ始まったばかりだ……!

 

「って!何やってんのよあたしたちはっ!!」

 

突如としてそう叫びながらトレイを床に叩きつけたのは従業員の一人であるウェイトレスの女性。金色の髪を二つ結びにし、頭にはホワイトブリム。服は白いレースが裾にあしらわれた明るいオレンジ。腰には白いエプロン。そして脚には白の二―ハイソックスをつけている。名前はルーシィ。

 

「何って、仕事だよ?」

 

「こんなの全っ然魔導士の仕事じゃないじゃない!!ってかこの恥ずかしいコス何!?」

 

「しょうがないじゃん、仕事服なんだから」

 

「男のあんたはいいわよっ!割と真面で!ってか、思いっきりあたしたち魔導士じゃなくてウェイター業扱いされてるんだけど!!?」

 

「……誰に?」

 

実は彼らは従業員を募集依頼を出したギルドから派遣された魔導士だ。魔法料理を作っているここのシェフの意向で、ウェイターたちも魔法を使える者達が望ましいと、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に依頼がかかったのだ。そしてこの場にいる魔導士たちは二人だけではない。

 

「文句ばっか言うなよルーシィ。オレたちも手伝ってやってんのに」

 

「客の料理食うなー!!」

 

シエル同様のウェイター衣装と、いつものマフラーを巻いているナツがルーシィに注意するが、運んで来た骨付き肉の定食を注文した客の前でつまんでいる。待っていた料理を店員に食われて絶句している客が可哀想だ。

 

「たまにはウェイターの格好もいいもんだぜ」

 

「服着てから言って!!」

 

ドリンクを運びながらグレイもそう話しかけるが、彼の場合はその恰好を既に脱いでおり、着けているのは自前の下着と蝶ネクタイのみ。ある意味いつもより変態味が増してしまってる。二人揃って営業妨害もいいとこだ。店側なのに。

 

「今日も忙しそうだね、ルーシィ」

 

「そう思うんならあんたもこいつら止めてよ!」

 

そしてシエルはと言うといつものようにツッコミを入れるルーシィの様子を見て呑気にぼやく始末。普段は彼も比較的常識人ポジにいる筈なのに自分一人にだけ負担かかせてるとはどういうことか。

 

「おいおい、誰の家賃の為にやってんだ?」

 

「あう……ごめんなさい……」

 

しかしそんな彼女もグレイから家賃の事を話に出されて押し黙るしかできなかった。話に聞く通り、ルーシィの家賃不足で良さそうな依頼が無いかを探し、見つけたのが今回の依頼だ。発見した昨日の時点でどうしてこんな依頼が受注できるのか色々と不可思議な点はあったらしい。だがそれはそれとして、店員をずっと裸同然の格好にさせるわけにもいかないので……。

 

「グレイは通報される前に服、着直しておいてね」

 

「お、おう……」

 

氷の魔導士も背筋が凍る、絶対零度の眼差しを向けて忠言することで言う事を聞かせた。いそいそと脱ぎ捨てていたウェイター服を着ながら、グレイは「あとあれ見てみろ……」とルーシィにある方向へと目配せさせると、彼女の表情は唖然といった様子で固まった。その理由は……。

 

「注文を聞こうか」

 

ルーシィと同じデザインのウェイトレスの服に身を包み、緋色の長い髪をポニーテールで一つに纏めたエルザが、テーブルに片足を乗せて男性客に迫りながら尋ねてくる。

 

「何が欲しいんだ?さあ、言ってみろ……」

 

「え、ええと……!!」

「ほ、欲しい……!!」

「そりゃもう……!!」

 

どこか蠱惑的な姿勢と声で迫ってくる美人店員に、顔を上気させて鼻息を荒くしながら興奮するのを抑えられない。そして気付けばテーブル席に座っていた男性三人は叫んでいた。

 

『料理全部くださーい!!!』

「そうか、それは助かる。礼を言わせてもらうぞ」

『こちらこそ~!!!』

 

「あんな、ノリノリなやつもいる……」

 

「あたしも、頑張ります……」

 

「無理はしないでね……」

 

まさかのフルオーダーを獲得した。色気を存分に利用した、傍目から見ればこずるい接客に見えるが、これでエルザ自身が普通に注文を取っているつもりだと本気で思っているのだから不思議だ。多少の問題が発生しようがエルザが度々フルオーダーを獲得すれば、きっと黒字だろう。だが、店を間違えてないか?それだけがどうも不安点だ。

 

「すいませーん、注文いーですかー?」

 

「!はい、ただいまお伺いいたしまーす!!」

 

すると後方にいる女性客からオーダーが入り、すぐさま反応したシエルが尋ねに行った。素早い対応の速さにルーシィは再び苦笑して「あの子もノリノリね……」と零している。

 

「『モンドハンバーグセット』を一つ。ライス付きでお願い」

 

「ウチは『ゴールデンオムレツ』と『ゼノブレッド』でー!」

 

「かしこまりました。モンドハンバーグセットはソースをつけることもできますが、いかがいたしますか?おすすめは『メールソース』になりますが」

 

「じゃあそれでお願いね」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

注文を聞きながらさりげなくおすすめの付け合わせの説明、そしてお礼と共に営業スマイルを向けることも忘れない。事実幼さが抜けない可愛らしいと言える顔立ちをしたシエルの満面の笑みは、向けられた女性客の顔を赤く染めるほどの威力だ。

 

「……なんか、初めてにしてはやけに小慣れてない……?」

 

「ルーシィ、『蒼天ミートソース』と『ホーリーソーダ』あがったぞ」

 

「あ、はーい!」

 

やけに接客に慣れているように見えるシエルを見ていたルーシィに、厨房側から声がかかる。ホールスタッフとして接客している6人(5人+1匹)に加えて、調理スタッフに入って、白のコックコートを着ているペルセウスだ。手際よく作ったと思われる料理をトレイに載せながら、ルーシィは厨房から顔を覗かせているペルセウスの様子を見て、口元が引きつるのを自覚した。

 

「ところで……ペルさん、大丈夫ですか?」

 

何故そんな言葉をかけたのか、それは今の彼の表情に理由がある。一言で言えば、目の下に大きな隈が出来ていて、心なしか顔がげっそりとしているのだ。今回調理スタッフに彼が入ったのは客にこの顔を見せるわけにはいかないと言うのも一つである。だがそもそも何故こんな事になっているのかというと……。

 

「ああ……昨日、シエルが初めて接客の店員を経験できると張り切ってな。憧れの一つでもあって、失敗したくないからと、俺を相手に数十パターンのシュミレーションを最低十回ずつ練習してたんだ……。深夜3時は軽く超えてた気がする……」

 

「たゆまぬ努力と尊い犠牲の結晶だった!?」

 

シエルは幼少の頃、同じ年頃の子供たちがやっていることすら出来ない病弱な身体だった。そのこともあって、兄と同じ魔導士のみならず、演劇の役者や飲食店のスタッフなどと言った、人前に立つような仕事にも同様に憧れを抱いている。

 

だからこそなのか、憧れていた接客業を仕事の依頼とは言え、経験する機会となった今回、シエルは万が一の事も考えて様々なパターンを考えた。どんな客が来るのか、トラブルが起きた時対処できるのか、その客の好みは分かるか、おすすめは何か、ありとあらゆる状況にも対応できるように練習してきた。兄を道連れにして。

 

「それで何故か妙に板についた感じなんですね、シエル……」

 

「あいつが楽しそうなら俺も本望さ……」

 

「けど、そんな寝不足で調理スタッフって……危なくないですか?」

 

刃物や高温のものを取り扱う調理という工程において、判断ミスを誘発される寝不足の状態では満足なものを作れるとは思えないのだが、本当に調理場の方を手伝っていいのか、というルーシィの疑問はもっとも。それに対してペルセウスは若干うつらうつらとしながら……。

 

「まあ……体が覚えてるから……何とかなる」

 

睡魔に苛まれているような眠たげな表情と声をしながらも、まな板にセットしたキャベツを目にも止まらぬ速さでせん切りしながら呑気に答えるペルセウス。物凄く危ないようにしか見えないのに、本人は一切そんな様子を見せずに続けている。兄弟揃ってどこかぶっ飛んでいるように感じずにはいられない。あともう一つ強いて言うなら……。

 

「ペルさんがこんな状態なのに、同じ時間しか寝れてないシエルは、何であんな元気なのかしら……?」

 

そう言ったルーシィの視線の先には、会計を済ませて店を後にする客に向けて、寝不足とは思えない輝かしい笑顔を浮かべながら挨拶をするシエルの姿だった。

 

「ありがとうございましたー!またのご来店をお待ちしております!!」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「いやー、お疲れ様。スっかし最近の子は働きモンだねぇ。またいつでも来なさいよ」

 

すっかり日も暮れた夕方。閉店時間を過ぎた店の裏口前にて、8(エイト)アイランドのオーナーシェフの老人、マスター・マカロフの知己でもあるヤジマが笑顔で、今日来てくれた魔導士たちを労ってくれていた。

 

「はい。今日は勉強になりました」

 

「貴重な体験をさせてもらって、ありがとうございます!」

 

一同を代表してエルザが(気に入ったのかウェイトレスの制服を着たまま)その言葉に返し、続けてシエルが満足そうに笑みを浮かべながら告げる。後方の木箱には疲れ切った様子のグレイ、勝手に料理を食べまくって腹が膨れたナツ、業務から解放されてうたた寝しているペルセウスがそれぞれ座っている。

 

「ミラちゃんの気持ちが少しは分かったよ……」

 

「ふぅ~食った食った~!」

 

「あんた店のモン食べすぎ!!」

 

グレイやペルセウスはともかく、ナツに至っては何度も料理を作り直す羽目になって色々と手間どったり食材の無駄になってしまった。ルーシィに注意されるがナツは反省する気なしだ。その態度が更にルーシィの怒りを増長させる。

 

「そう怒ることないよルーシィ。ナツの分の報酬だけ店に返せばそれで済むし」

 

「んなー!?そりゃねーだろ!!」

 

「自業自得よ!!」

 

そんなナツに対して、シエルは悪戯の笑みを浮かべながら告げた。絶望したかのような表情でナツはすぐさま抗議するが、誰もナツには味方しない。

 

「それにしても、評議会が大変なことになってる今、レストランを開くなんて思い切ったことしましたね、ヤジマさん?」

 

「ん~……ワスはもう引退スたからね~」

 

「引退!?」

「「評議会!?」」

 

8(エイト)アイランドのオーナーであるヤジマは元々、評議員の一人だ。そんな彼がレストランを開いてオーナーになったと聞いた時、実はシエルは疑問を感じていたのだ。評議員として潜入していたジークレイン……もといジェラールと、ウルティア。彼らによって評議会は一度機能不全となった。それで立て直しをしなければいけないこの時期に、何故より時間を割く飲食店の経営を始めたのかと。その理由は簡単だった。もう彼は評議員を辞めていた。

 

ちなみにナツとグレイは、彼が評議員であることすら知らなかった。

 

「この二人はともかく、あんたヤジマさんが引退したの知らなかったの?」

 

「……そう言えば最近、評議員の話怖くて聞こうとしてなかったような……」

 

それを聞いたルーシィは思わず呆れた。“天の怒り”と言うシエルの暴走状態による被害に関連した事件がきっかけで、評議会に関する話題を無意識に避けていたことさえ自分でようやく気付いたようだ。

 

「ズーク……いや、ズラールだったかの?」

 

()()ラールです……」

 

「そう!そのズラールとウルティアの裏切りで、大変な失態(スったい)をスたからねぇ。今は新生(スんせい)魔法評議会を立ち上げるべく、各方面に根回ススとるみたいよ」

 

ジェラールと言う名を聞いてシエルは思い出していた。楽園の塔の頂上にてジェラールと対峙した時の記憶。手も足も出なかった。少しでもエルザの助けになればと挑みかかったのを嘲笑うように、シエルの攻撃をものともせず圧倒してきた。

 

「君たちにも本当に迷惑をかけたね。申ス訳ないよ」

 

「いえ……ヤジマさんは最後までエーテリオン投下に反対されていたと聞きました。行動を恥じて引退など……」

 

「ワスに政()は向かんよ。やはり……料理人の方が楽スいわい」

 

魔法でフライパンを取り出しながらそう思い返す。評議院にいる時は、重責や討論などで肩身も狭かったのだろう。今は大分生き生きとしている表情にも感じる。

 

「時に、スエルくん」

 

「……()エルです……」

 

「“天の怒り”に関する()置の(はなス)はもう聞いてるかな?」

 

ヤジマが語ったのは、今後彼が“天の怒り”を使用して被害が出れば、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を破門されてしまうことになったあの書状。それを決定づける評議についての話だった。一度機能不全となってしまった評議会だが、彼に送られた決定自体は未だ続行されているそうだ。さらに、当時9人の評議員で決められた賛否の結果も、以前と今では大きく異なってくる。

 

「反対スたのは3人。ズラールとウルティア、そしてワスだった。つまり、今や君の破門を反対する者は、評議員にいなくなってしまったと言っていい」

 

これは忠告だ。シエル自身が“天の怒り”による暴走を引き起こすことのないように、本人も、そして周囲にいるメンバーも十分に注意しておくことが必要となる。そしてこれを心に刻むべきは、シエルのみではない。

 

「そしてナツくん、グレイくん」

 

名を呼ばれた彼らは二人揃って体を震わせる。元評議員だと聞かされて想像以上にビビっているようだ。それも気にすることなくヤジマは彼らに念を押した。これから評議院は新しくなり、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を弁護していたヤジマもいない。もはや評議院には、自分たちの味方はいないと同義であると。

 

「その事をよーく考えて行動スなさい」

 

「はい……!」

「「行動スます!」」

 

シエルは言葉を噛み締めながら、ナツとグレイは慌てて首を縦に高速で振りながら返事した。その答えに満足したのか、ヤジマは笑みを浮かべて頷いている。

 

そして夕焼けで赤く染まるハルジオンを、ヤジマに見送られながら馬車に乗って帰路についていった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ヤジマからの依頼を達成した翌日のギルド。メインステージの前にて、光筆(ヒカリペン)で大きく描かれていたのは、闇ギルドの組織図だ。中心に大きく括られた三つのギルドから、複数のギルドに線が枝分かれされている。改めて見ると、膨大な数の闇ギルドが存在していることが示唆されている。ちなみに書いたのはリーダス。控えめながらも主張していた。

 

「闇ギルドの組織図……?なんでまた?」

 

「近頃、動きが活性化しているみたいだからね。ギルド同士の連携を強固にしないといけないのよ」

 

元S級魔導士であり、看板娘のミラジェーンから説明を受けていたルーシィは、あまり実感が湧いていないようだ。実際に闇ギルドによる被害がここ最近増えてきており、妖精の尻尾(フェアリーテイル)にもその報告がされている。組織図の中に大きい括りがあるのに気づいたグレイが、その疑問を声に出した。

 

「この大きい括りはなんだよ?」

 

「ジュビア、知ってます。闇ギルドの最大勢力・『バラム同盟』」

 

闇の最大勢力と言われている『バラム同盟』は、『六魔将軍(オラシオンセイス)』、『冥府の門(タルタロス)』、そして『悪魔の心臓(グリモアハート)』と呼ばれる強大な三つのギルドから構成されている。それぞれがいくつかの直属のギルドを持ち、闇の世界を動かしているらしい。そして、それとは別に、いくつかの闇ギルドが独立していて、ラクサスの父であるイワンがマスターをしている大鴉の尻尾(レイブンテイル)がその一つだ。

 

「あれ?鉄の森(アイゼンヴァルト)って……!」

 

「そうだ、あのエリゴールがいたギルド」

 

見覚えのある闇ギルドの名前にバツ印がされていたのにルーシィが気付いて声を上げた。既に壊滅したギルドではあるが、かつては呪歌(ララバイ)と言う集団呪殺魔法を用いて、ギルドマスターたちを殺害しようとした鉄の森(アイゼンヴァルト)だ。六魔将軍(オラシオンセイス)と線で繋げられており、そこの傘下だったことが分かる。

 

他にもメンバーの中には覚えのあるギルド、かつては正規だったギルド、更に雷神衆が評議員からの依頼で壊滅させた『屍人の魂(グールスピリット)』と言うギルドも六魔将軍(オラシオンセイス)傘下だそうだ。

 

「あ、無音の丘(サイレントヒル)って確か……」

 

「王都でシエルがボコった一団のギルドだな。こいつらも六魔の傘下だ」

 

数日前に王都で迷ったシエルが、成り行きで叩きのめしたギルドの一団も、同様の傘下であったことをペルセウスが説明する。因縁のあるギルドが六魔将軍(オラシオンセイス)の傘下である確率がやけに高い。しかもこれだけじゃなく……。

 

「ジュビアもガジルくんも、ファントム時代にいくつか潰したギルドが、ぜ~んぶ六魔将軍(オラシオンセイス)の傘下でしたー」

 

「笑顔で言うな、笑顔で……」

 

可愛らしい笑顔と声でサラっと恐ろしい過去を暴露するジュビア。グレイは苦笑交じりに返すことしかできなかった。前のギルドの話とは言え、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちは散々六魔将軍(オラシオンセイス)に喧嘩を売っているのと同義の行動をやらかしていることになる。それを考えたら恐怖心が湧いてきた。そうルーシィが考えていると、一つ気になった点を見つけた。

 

「ん?このギルドって、独立してたとこなの?」

 

その言葉に全員の視線が集中した。ルーシィが指を指して示していたのは、大鴉の尻尾(レイブンテイル)の近くに記された、どのギルドとも線が繋がっていないギルド。そして既に壊滅したのか、バツ印が書かれていた。名は『鮮血の毒蛇(ブラッディヴァイパー)』。

 

「ああ、そのギルドは隠れてた闇ギルドだ」

 

「隠れてた?」

 

その問いに答えたのは古株であるマカオだ。何でも、表向きにはほかの正規ギルドと変わらず、評議院にバレない範囲で、裏では闇の仕事を請け負っていたことが判明したギルドだそうだ。それが判明したのは5年前……ギルドに所属していた魔導士たちが、襲撃されたのか全滅していた。その後評議院での内部調査で、悪事のほぼすべてが明るみに出たという。当時のマスターは逃亡したのか、消息不明らしい。

 

「何、そのおっかないトコ……!」

 

「色々と分かんねーことだらけなんだ。どこの傘下だったかの情報もねーし」

 

「そこのマスターが生きてんなら噂にもなるはずなんだが、全くそれも聞かねーしな」

 

マカオ、そしてワカバからの説明を聞いたルーシィは再び恐怖で縮み上がっていた。もし仮に六魔将軍(オラシオンセイス)の傘下だとしたらどうなるのだろう。いくつも傘下ギルドを潰していて、怒っているのだろうか、恨みを買って襲われて、巻き添えを食らってしまわないだろうかと、不安になってしまう。

 

「ルーシィ、お前確かアカリファで、『裸の包帯男(ネイキッドマミー)』ってギルドを相手に一人で返り討ちしてなかったか?」

 

「返り討ち、とはちょっと違うんですけど……でもそれが何……はっ!!」

 

途中からどこか静かだったペルセウスから、アカリファで自分がしたことを確認される。初めは何故そんなことを聞かれるのか疑問だったが、話の流れから推測して、嫌な予感を感じとった。そして視線を闇ギルドの組織図に戻すと、シエルがルーシィに見えるように指を指していた。

 

 

そしてそこには確かにあった。「六魔将軍(オラシオンセイス)傘下・『裸の包帯男(ネイキッドマミー)』」が。

 

「オーマイガーーッ!!!」

 

思いっきり自分も六魔将軍(オラシオンセイス)に喧嘩売っていたことが判明したルーシィの絶望の叫びが響く。ある者は同情、ある者は畏怖、そして一部からは羨望の眼差しを受ける中、彼女自身は項垂れて、ギルドの床に四つん這いの姿勢で落ち込んだ。この世の終わりでも見たかのような絶望感だ。

 

「き、気にすることねーって!ルーシィ!!」

六魔将軍(オラシオンセイス)は、たった6人しかいねーらしいぜ!?」

「どんだけ小せぇんだよって!なぁ!?」

 

ルーシィを励ますと同時に六魔将軍(オラシオンセイス)がどれほど規模が小さいギルドであるのかを教える周りの魔導士たち。物凄く必死だ。その甲斐あってか(?)ルーシィの顔色に僅かだが希望が芽生え始める。

 

「呑気なもんだ。逆に言えばたった6人で、最大勢力の一角を担える実力者が揃っているという事だぞ。しかも、他の二つと違って数年前に出来たにも関わらずな」

 

だがそんな気分も、呆れた様子のペルセウスから告げられた残酷な現実で打ち砕かれた。容赦ないように聞こえるが事実そうであるのだから、誤魔化したところで何の得にもならない。ルーシィだけでなく、励ました魔導士たちもその現実に落胆の様子を見せているが、一部の魔導士は別のところに着目していた。

 

六魔将軍(オラシオンセイス)って、数年前に出来たギルドなのか?」

 

「うん、割と最近の方って聞いてるよ。悪魔の心臓(グリモアハート)は数十年前。そして冥府の門(タルタロス)は百年近く前から存在が確認されてるけど、そんな二つと同列に並べてるから、規模や年数は宛にならない」

 

「シエルくん、詳しいですね……」

 

たった6人しかいない上に、他二つと比べて年季も短い。だがそれでも最大勢力の3ギルドとして闇のみならず、光の者達にもその名を知らしめている。そう考えるだけでも脅威と言えよう。ちなみに冥府の門(タルタロス)が何気に百年近く存在しているという情報は、ほとんどの者が愕然としていた。

 

「その六魔将軍(オラシオンセイス)じゃがな……。ワシらが討つ事になった!!」

 

するとギルドの出入口から、定例会に参加していたマスター・マカロフが、その言葉と共に帰還した。今しがた話題に出していた六魔将軍(オラシオンセイス)。それを相手に戦うと宣言したマスターの言葉に、場にいた者たちのほぼ全員が驚愕で目を見張り、息を呑んだ。

 

「お帰りなさい、マスター。定例会、如何でした?」

「違うでしょ!!」

 

そんな中笑顔で通常運転のミラジェーンは改めて大物だと実感できる……。

 

「マスター……一体どういう事ですか?」

 

騒然となるギルド内。代表してエルザが尋ねると、マカロフは語りだした。今回の定例会で上がった議題が、何やら動きを見せている六魔将軍(オラシオンセイス)。無視はできないという事になり、どこかのギルドがそれを叩くことになったのだそうだ。

 

「またビンボーくじ引いたな、じーさん……」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)がその役目を……?」

 

「いや……今回ばかりは敵が強大すぎる。ワシらだけで戦をしては、後々バラム同盟にここだけが狙われる事になる」

 

話を聞いて辟易とするグレイと、流れを感じて尋ねてくるジュビア。だが、最大勢力の一角ともなると、一つのギルドのみで対峙するには荷が重すぎる。

 

「そこでじゃ……我々は連合を組む事になった」

 

『連合!!?』

 

地方ギルドマスターたちの協議の結果で決まった、連合軍の結成。それが六魔将軍(オラシオンセイス)への対抗する手段だ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)だけではない。青い天馬(ブルーペガサス)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)化猫の宿(ケット・シェルター)と言う、計四ギルドからメンバーを選出して、六魔将軍(オラシオンセイス)を討つ即席のチームを作る。

 

「(天馬も蛇姫(ラミア)妖精の尻尾(ウチ)に匹敵する有名所だ……!化猫の宿(ケット・シェルター)……は、聞いたことないけど……)」

 

「オレたちだけで十分だろっ!てか、オレ一人で十分だ!」

 

「馬鹿者。マスターは後々の事を考えてだな……」

 

連合を組む他ギルドの名前を聞いて、錚々(そうそう)たる顔触れが揃う予感をシエルは感じていた。一つは聞き馴染みはあまりないが、この連合に参加するという事は半端なところではないだろう。しかし、連合の意味と意図を把握できていないナツが一人で相手をしようと意気込んでいるのを見て、エルザがそれを注意している。

 

六魔将軍(オラシオンセイス)がどんだけやばい奴らなのか知らないからそんな事言えるんだよ……」

 

「知ってても関係ねーよ!6人全員オレが相手してやる!!」

 

「話聞いてなかったのかよテメーは……」

 

これは頑として聞かなさそうだ。彼を納得させるため、彼にも分かりやすくシエルは六魔将軍(オラシオンセイス)がどのような者たちなのかを説明することにした。

 

「じゃあナツ。想像してみようか……」

 

「ん?」

 

「エルザがずーっと楽しみにしていたケーキを誰かに食べられて物凄く不機嫌です。目についたナツを犯人だと思って、襲い掛かってきました。それが6人います。そのレベルのヤバさが今から相手する六魔将軍(オラシオンセイス)です」

 

淡々と説明口調で告げたシエルの言葉に意気揚々としていたナツは、一転してその顔を絶望に染めた。よーく分かったみたいだ。

 

「そんなの全ギルド束になっても勝ち目ねーじゃねーかぁ!地獄だぁ!!この世の終わりだァアーーーッ!!」

 

「……おい……」

 

自分を例え話に置き換えられて、何故か勝手にスケールを大きくさせられたエルザ本人は怒りよりも先にショックを感じた。冗談抜きで世界が終わると騒ぎ立てるナツを、大袈裟だとたしなめるものが誰もいないことが更にショックである。更に言えばグレイも同レベルの絶望を抱えた顔になっているのもその一因だ。

 

「てか……ちょっと待ってよ……相手はたった6人なんでしょ……?何者なのよそいつら……本当にエルザレベルのヤバい奴らが勢揃いなの……!?」

 

「ルーシィ、お前もかっ!!?」

 

小さい規模でありながらもこれほどまでに場を震撼とさせる最大勢力の一角・六魔将軍(オラシオンセイス)。その者達の目的は一体何か。そしてこの連合軍の結成、今回の作戦をきっかけに……。

 

 

 

 

今後の未来を左右する出会いが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に待ち受けていた。

 

 




おまけ風次回予告

ハッピー「六魔将軍(オラシオンセイス)が、怒ったエルザ6人分ってシエルが言ったせいで、ギルド内での共通認識が広まっちゃったね…」

シエル「ナツに危機感を持ってほしくて適当に設定したはずだったんだけど…迂闊だった。妖精の尻尾(ウチのギルド)でのエルザがどんだけ恐れられているのか思い返すべきだったな…」

ハッピー「何かエルザもショック受けてるみたいだし、この後連合軍で合流するの、大丈夫かな?」

シエル「ま、まあ何とかなるよきっと。エルザにはあとでケーキ買ってあげて元気でも出してもらうし」

ハッピー「さり気なく賄賂で解決しようとしてる!?」

次回『連合軍、集結!』

シエル「折角だしハッピーも買っといたら?きっとご機嫌になってくれるよ」

ハッピー「…じゃあオイラは…プレゼントの魚用意しておかなきゃ…!」

シエル「え、誰に…?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。