FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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連続投稿二回目!今回は急展開に次ぐ急展開が巻き起こる回になります。まあ、初登場のキャラいっぱいいますし。ガルナ島をすっとばしたせいで出番先送りになったキャラもいますし。

それとちょっと謝罪を。前回更新時に章管理で追加するのを忘れていました。今はもう修正していますが、混乱をした方、申し訳ありません。




それと、今回の話を読み終えた後、同時期に更新している活動報告の方に、お目通ししていただくようお願い申し上げます。


第45話 連合軍、集結!

闇ギルドの最大勢力・バラム同盟。

 

その一角を担うギルドの一つが六魔将軍(オラシオンセイス)

 

ギルドマスターの定例会で、4つのギルドからメンバーを選出して連合を組むことになった。そしてその中には、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の者達も加わっている。鬱蒼とした木々が生い茂る『ワース樹海』の中を走る豚車に、その代表メンバーが乗車していた。

 

「何でこんな危ない作戦に、あたしが参加することになったのー!?」

 

理解できないと言った様子で混乱しながら、顔に手をつけてルーシィは叫んでいた。乗っているのはルーシィだけでなく、最強チームの面々もだ。しかし最近チーム入りしたペルセウスのみ、この場にいない。

 

「オレだってめんどくせーんだ。ぶーぶーゆーな」

 

「最大勢力の一角を相手取る作戦をめんどくさいって……」

 

納得できないと言わんばかりのルーシィにグレイが言うが、六魔将軍(オラシオンセイス)と言う強大なギルドを相手に戦う作戦への参加を、面倒と感じるのもどうだろうか……。

 

「マスターの人選だ。私たちはその期待に応えるべきじゃないのか?」

 

ルーシィは怖がっているし、グレイは気怠そうにしているし、ナツは乗り物酔いになっている中、いつも通りの状態であるのはシエルとエルザ、そしてハッピーぐらいだ。こうして選ばれた以上はその務めを果たすべきと主張するエルザに対して、やはり恐怖心の方が上回るルーシィは乗り気ではない。

 

「でも、バトルならガジルやジュビアだっているじゃない」

 

「二人とも別の仕事入っちゃったからね」

 

「片方は泣きながら引きずられてったけど……」

 

出発する前、ギルド内でこちら側に同行しようとしていた片方(ジュビア)をイラつきながら引きずって仕事に向かっていったもう片方(ガジル)の組み合わせを思い出してシエルは笑みを引きつらせていた。どうしてもグレイと離れ離れになるのは嫌だったことがよく分かる。

 

「って言うかシエル……今回の作戦、ペルさんも参加するはずじゃなかったの?何でいないのよぉ……!」

 

「何かどーしても先に寄っておかなきゃいけないところがあるらしいって……現地で合流する予定だからそれまでは待ってて欲しいってさ」

 

この場にシエルの兄であるペルセウスがいない理由。それは今朝、ギルドに言伝を残してどこかへ外出したからだ。どこへ向かったのかはマスター・マカロフにしか知らせていないらしく、弟であるシエルさえも知らない。だが今向かっている集合場所で合流することは確かのようだ。

 

「てか……まだ……着かねー……の……か……?」

 

大分長い時間荷台に揺られていた影響で、ナツも限界が近そうだ。そろそろ着く頃じゃないかと思いながらも、ルーシィは今回向かうメンバーを改めて確認して「いつものメンバー」であることを実感する。

 

「その方がいいだろう?今日は他のギルドとの初の共同戦線。まずは同じギルド内の連携がとれている事が大切だ」

 

「あ、見えてきたよ!集合場所だ!」

 

話をしているとあっという間。樹海の中には似つかわしくないある建物に到着した。六魔将軍(オラシオンセイス)に対抗するために結成する連合軍の集合場所に指定されたのは、装飾や窓ガラスなど、至る所にハート形の意匠が施されている石造りの洋館。

 

「趣味悪いところね……」

 

豚車から降りて洋館の中に入った妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一行。外装もさることながら、内装もハート形をあしらわれている部分が多く、ルーシィが表情を歪めながら呟いている。

 

青い天馬(ブルーペガサス)のマスター・ボブの別荘だ」

 

「あいつか……」

 

マスター・ボブ。その名を聞いて思い出してしまうのは、女性ものの格好と化粧をした、ずんぐりむっくりの体型で、その上オネエ口調で話しかけてきた中年男性。それを思い出すだけで、グレイもシエルも寒気を感じた。

 

「ちょっと苦手だ、あの人……」

 

「ま、まあそう言うな。あれでも、うちのマスターが手を焼いた実力者だからな……」

 

「そうなんだ……」

 

「ま……まだ……着かねえのか……?」

「着いてるよ、ナツ……」

 

伊達にマスターを務めているわけでもない実力者、そして人格的にもいい人であるのは分かるのだが……生理的な意味で、苦手意識が強く感じてしまう事は否定できない。今でもあの熱い視線を思い出してしまうだけで、自分の身体が反対に凍える感覚を感じる。

 

「はい、到着!」

「「到着!」」

 

既に乗物から降りて別荘内に入ったにも関わらず、未だに酔いが覚めないナツを放っておいとくと、どこからか何人もの男性の声が別荘内に響く。タンバリンや手拍子を鳴らす音と共に「ハイハイ!」とテンションの高い声が続け様に響いてくる。

 

「ようこそ!」

「「ようこそ!」」

 

妖精の(フェアリー)……」

「「妖精の(フェアリー)……」」

 

尻尾(テイル)の!」

「「尻尾(テイル)の!」」

 

『皆さーん!!』

 

呆気にとられる妖精の尻尾(フェアリーテイル)。ホールの奥にスポットライトが当てられて、三人の人影を浮かび上がらせている。

 

「お待ちしておりました。我ら……」

青い天馬(ブルーペガサス)より」

「選出されし……」

 

『トライメンズ』

 

薄暗い空間の中に一つだけ照らされていたスポットライトが一度落ちると、先程まで暗かったホール内が再び明るく点灯する。そして露わとなったのは、『トライメンズ』と呼ばれる3人の男たち。

 

一人目は明るい茶髪のショートヘアに、正統派と言える顔立ちをしたイケメンの青年。

 

「『百夜のヒビキ』!」

 

二人目は金色のストレートショート。低い背丈に幼い顔立ちをした可愛い系イケメンの少年。

 

「『聖夜のイヴ』」

 

三人目は褐色肌で頭頂部で縛った黒い髪。背丈は一番高く、他の二人と比べると目つきが鋭いが、クールな印象を与えるイケメンの青年。

 

「『空夜のレン』……」

 

全員が左肩に青い天馬(ブルーペガサス)の紋章が入った黒地のスーツを身に纏っていて、輝くオーラを纏っているように幻視させられる。自分たちの個性を現すポーズをとっているのもその要因だろう。

 

「か……かっこいい……!!」

 

週刊ソーサラーでしか見た事のない美形揃いの一団を目の前に、ルーシィが顔を赤く染めている。中でもセンターにいるヒビキは、彼氏にしたいランキングでずっと上位に君臨している魔導士だ。それが目の前に現れたとなれば、彼女の気分が舞い上がるのも無理はない。

 

「しまった!服着るの忘れた!!」

「今さっき脱いでたよ、はいこれ」

「うぷ……」

 

「こっちはダメだぁ……」

 

ルックスも仕草も佇まいも完璧な青い天馬(ブルーペガサス)とは対照的に、妖精の尻尾(フェアリーテイル)から選ばれた男たちはと言うと脱ぎ癖で上半身裸になってるわ、酔いが抜けずに柱にもたれかかってるわ、まともな様子の少年は悪戯小僧だわで、月とスッポンである。

 

「噂に違わぬ美しさ……」

「初めまして。妖精女王(ティターニア)

「さあ……こちらへ……」

 

流れるようにエルザを囲み、彼女をエスコートするトライメンズ。表情には出ていないがエルザも戸惑いを感じており、されるがままとなっている。ヒビキに手を引かれ、迅速な動きでイヴとレンが用意したソファーに座らされる。

 

「おしぼりをどうぞ」

 

「お腹空いてない?」

 

「……いや……」

 

跪いておしぼりを差し出すヒビキ、テーブルを用意してすぐに彼女の隣に座るイヴからの対応に、エルザは生返事しか返せない。

 

「さあ……お前も座れよ」

 

「うわぁ……!」

 

そしてルーシィもまた、レンによってエスコートされてしまった。連合として集合したと思いきや予想もしていなかった展開に、男性陣は茫然としている。

 

「何なんだ、あいつらは……!」

 

「あー言うギルドなのかな、天馬って……」

 

あっという間に女性陣を連れてってしまった美形魔導士たちの様子に苛立ちを隠せないグレイと、魔導士ギルドにしては随分と異色に感じる対応の仕方に推測をたてるシエル。ちなみにナツはまだ顔色が悪い。

 

その後もイヴが上目遣いで庇護欲をかきたてられるような仕草と台詞を向けたり、レンがドリンクを差し出しながら何故かツンデレなセリフを吐いて対応する。

 

「さあ、長旅でお疲れでしょう。今夜は僕たちと……」

 

『フォーエバー♡』

 

終いにはトライメンズのリーダーのポジションなのか、ヒビキの声に続くようにして3人が手を差し伸べながら告げる。キザったらしい姿勢の美青年たちに、女性二人の反応は正直言って微妙だった。重要な作戦前とは思えない。

 

「君たち、その辺にしておきたまえ」

 

すると、奥の階段の上から聞こえてきたのは、低く甘い男性の声。まるで輝く光のような、華やかさも感じさせるようなその声は、聞くだけでその女性を虜にしてしまえるような……。現にルーシィも、その声を聞くだけで再び顔を紅潮させている。

 

「『一夜』様!」

 

「い、一夜……!?」

 

その人物もまた、青い天馬(ブルーペガサス)の魔導士らしい。レンから様付で呼ばれているという事は、相当上位に位置する者でもあるのか。だが、『一夜』と言う名を聞いたエルザは、何故か途端に顔を青ざめさせて、身体と顔を震わせている。

 

「久しぶりだね、エルザさん……」

 

「ま……まさか……お前が参加してるとは……」

 

エルザとも知り合いであるらしいその男性は、階段を一歩一歩降りながらホールへとその姿を現した。白に統一されたスーツ、左胸には青薔薇のコサージュを付け、セットした尖ったオレンジ色の髪をしている、が……。

 

「会いたかったよ、マイハニー。あなたの為の、一夜でぇす」

 

体格は寸胴短足で、角ばったデカい鼻と、青髭が残る、お世辞にも美形とは言えない……と言うか不細工と言ってしまえる顔立ちをしている。そんな男が、エルザに向けてウィンクをしながら告げた言葉が、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に衝撃を与えた。

 

『マイハニー!!?』

 

つまり、恋人という事だ。あのエルザがこんな男と交際している?と一瞬でも感じた疑問は彼女の様子を見て杞憂のものだと察した。顔中汗まみれでガタガタと震えながら、悍ましいと感じている様子で一夜に顔を向けていた。一夜から一方的に恋人扱いされているだけのようだ。それはそれとして、こんなエルザ見たことない。

 

「まさかの……」

『まさかの!?』

 

「再会……!」

『再会!!』

 

そして一夜はと言うと、階段のスロープを片足立ちで滑りながら、トライメンズの3人と謎の掛け合いを繰り広げている。そのクラッカーどこから出したそこの美形3人。

 

『一夜様の彼女さんでしたか!それは大変失礼を……』

 

「全力で否定する!!!」

 

勘違いをしている様子のトライメンズにすかさず訂正を申し出るエルザ。心底嫌なようだ。気持ちは大いにわかるが。

 

「片付けろ!遊びに来たんじゃないぞ!」

 

『ヘイ、アニキ!!!』

 

「さっき“一夜様”って呼んでなかったっけ……?」

 

「一貫してないんだね」

 

一夜から叱られてすかさずソファーとテーブルを驚く速さで片付けるトライメンズ。相当訓練されているような動きだ。呼び方は都度都度変わるみたいだが。

 

「君たちの事は聞いてるよ。エルザさんに、ルーシィさん……その他」

 

「雑っ!!」

 

紳士的に対応した女性陣に対してとは違い、男性陣には分かりやすいほどぞんざいだ。更には、ルーシィの方へと視線を向けると「クンクン」と鼻を動かして匂いを嗅ぎ……。

 

「いい香り(パルファム)だ」

 

身体を回転させながら彼女へと近づき、決めポーズと共にその指を向けた。先程の美形たちとは違い、正直悍ましさしか感じられない。

 

「キモいんですけど……!」

 

「スマン……私もこいつは苦手なんだ……。凄い魔導士ではあるんだが……」

 

「そんな風には見えないんだけど……」

 

鳥肌を立たせながら自分の身体を抱えて震え上がるルーシィ。そしてエルザでさえ苦手意識を持たせる一夜は、ある意味凄いと言えなくも無いかもしれない……。

 

青い天馬(ブルーペガサス)のクソイケメンども。あんまりうちの姫様方に、ちょっかいださねーでくれねーか?」

 

イケメンたちの行動に痺れを切らしたのか、ここでグレイが口を開いた。ここまで自分のギルドの女性陣を困惑させられては、黙ってもいられない。そんな彼の言葉に、青い天馬(ブルーペガサス)はグレイに睨むような視線を向ける。

 

「帰っていいよ、男は」

「「お疲れ様っしたー」」

 

そしてこの扱いである。代表した一夜の言葉に続く様に頭を下げて帰らせようとするヒビキとレン。さっきも感じたが男性陣への扱いがあまりにも雑だ。グレイの苛立ちが更に助長している。

 

「この作戦がどういうものか分かってんのか、こいつら?」

 

さすがのシエルも今の発言には思う所があったのか、こめかみをひくひくと痙攣させて青い天馬(ブルーペガサス)の女尊男卑な言い草に嫌悪感を抱いている。すると、トライメンズの一人であるイヴが、いつの間にかこちらに近づいてきていた。

 

「な、何?」

 

目を細めてどこか観察するかのようにじっとこちらを見てくるイヴ。戸惑い気味にシエルが尋ねると、徐に彼は言い放った。

 

「君、僕とキャラが被ってるよね?」

 

「は?」

 

その言葉を聞いて思わずシエルは呆けた。曰く、低身長で童顔、それもかなりの美形で、声もまだ幼さから脱却していない。言ってしまえば、二人とも可愛い系の美少年だ。

 

「絶対そうだ!僕のポジションを狙いに来てる!」

 

「ふむふむ、言われてみれば……」

「お前、イヴに似過ぎだろ」

 

「知らねーよ!!」

 

イヴの叫びを聞いてヒビキとレンもシエルの顔を観察してその内容に納得している。だが本人からすれば言いがかりだ。確かに自分の容姿を日常的に利用していることもあるが、別に誰かのポジションを狙ったりしたことなどないし、欲しくもない。

 

「決めた!君を今日から僕のライバルにするよ!」

 

「勝手に決めんな!」

 

だがシエルの主張も聞かずに、イヴはシエルに指を指して大々的に宣言した。迷惑極まりない話である。「あの子も変なのに絡まれたわね……」とルーシィのぼやく声が聞こえる。

 

「こんな色モンよこしやがって……やる気あんのかよ!」

 

「試してみるか?」

 

「ライバルの君にだけは負けないよ」

 

「ライバルじゃねえって!」

 

「ケンカか!?混ぜてくれーっ!!」

 

腕が立つように見えない振る舞いを見せる彼らの様子に苛立ちを隠せないグレイ。彼の発言をきっかけに、双ギルドの間に火花が走り出す。そしてこのタイミングで乗り物酔いから回復したナツが、ケンカと聞いて乗り気になる。早速不和が起きることを危惧したエルザがそれを止めようとするが……。

 

「エルザさん。相変わらず、素敵な香り(パルファム)だね」

 

彼女の背後から匂いを嗅ぎながら近づいてきていた一夜。その存在に気付いたエルザに鳥肌が走る。そして……。

 

「近寄るなっ!!」

「メェーン!!」

 

思いっきり彼を殴り飛ばしてしまった。やってしまった。よりによって仲裁役であるエルザが一番最初に手をあげた。ルーシィがそう思いながら仰天し、トライメンズも飛んでいく一夜を呆然とした様子で見ることしかできない。そして別荘の出入口の開かれた門から外へと飛んでいこうとしている一夜。

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼を、門の前に立っていた一人の人物が片手を差し出し、頭から突っ込んできた一夜を止める。それと同時に、一夜の頭部が氷によって包まれた。

 

「こりゃあ随分ご丁寧な挨拶だな」

 

一夜の頭を凍りつかせた魔力、そして遠目から見えるその人物のシルエットと声。一番最初にその人物に反応を示したのはグレイだった。

 

「貴様等は蛇姫の鱗(ラミアスケイル)上等か?」

 

露わになった姿は、右サイドに逆立った薄い水色の髪に、切れ長の目を持った青年。口ぶりからすると連合に参加するギルドの一つ、蛇姫の鱗(ラミアスケイル)の魔導士のようだ。

 

「リオン!?」

「グレイ!?」

 

「知り合いなの?」

 

「グレイと同じ師匠に、魔法を教えてもらった兄弟子なんだって」

 

名を『リオン・バスティア』。グレイに氷の造形魔法を師事した魔導士・ウルから、同じように造形魔法を教わった過去を持ち、ナツたちが以前ガルナ島のS級クエストに勝手に行った際に対峙した人物でもある。疑問の声を上げたシエルに、彼の事情をガルナで知ったルーシィが代わりに説明した。

 

「お前……ギルドに入ったのか?」

 

どこか嬉しそうにも見えるナツの問いかけに答えようとはせず、頭を凍りつかせた一夜をこちらへ向けて無造作に投げ捨てる。投げ捨てられた本人は「メェーン!」と言う悲鳴を上げてグレイたちの近くの床をワンバウンドした後、トライメンズの前で停止した。

 

「何しやがる!」

 

「先にやったのはそっちだろ?」

 

それは確かに。そんな感情を込めてシエルはエルザにジト目を向ける。それに気付いたのか、彼女は目を伏せて肩身を狭くしていた。

 

「つーか、うちの大将に何しやがる!」

「ひどいや!」

「男は全員帰ってくれないかな?」

 

一方で、自分たちのリーダーである一夜に危害を加えられたトライメンズからも、抗議の声が上がる。しかし、そんな彼らの抗議に返答したのは、この場にいる誰でもなかった。

 

「あら……女性もいますのよ?」

 

新たに聞こえた女性の声とともに、出入口から階段まで敷かれている赤い絨毯の一部が、一人でに膨らみ、動き出す。そして、ある人物に向けて頭の部分のサイドにリボンを一つずつ付けた人形と化した絨毯が襲い掛かった。

 

「『人形撃、絨毯人形(カーペットドール)』!!」

 

「あたしィ!!?……てか、この魔法……!」

 

襲われた人物……ルーシィが悲鳴をあげながらその場を退避し、そして今自分に仕掛けられた魔法に既視感を覚えた。その魔法を使う魔導士は、笑みを浮かべながらリオンの隣に立つようにして現れる。ボリュームのある長い薄紅色の髪を後ろから縛った、化粧が施されている女性だ。

 

「『シェリー』!あんたも蛇姫の鱗(ラミアスケイル)に!?」

 

「また俺が知らない人……」

 

『シェリー・ブレンディ』。彼女もまたシエルを除く今いる妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーとは顔を合わせた人物だ。リオンの下で数人の魔導士たちと共に彼の理想を叶えるため、妖精の尻尾(フェアリーテイル)側のルーシィたちと、ガルナ島にて対峙した、リオンを慕っている人物である。

 

「私を忘れたとは言わせませんわ。そして……過去の私は忘れてちょうだい」

 

「どっちよ!」

 

「私は“愛”の為に生まれ変わったの」

 

どうやらルーシィに因縁があるようだ。ガルナ島のクエストにはシエルは行っていないため、リオンとシェリー、彼らと自分の仲間たちの間にどのようなことが起きたのか推し量ることが出来ない。謎の疎外感を感じる。

 

「もっと……もっと私に香り(パルファム)を……!」

 

「く……来るな!斬るぞ!!」

 

懲りずにエルザに近づこうとしている一夜に、彼女は長い槍を構えて警戒を露わにする。

 

「リオン……!」

 

「グレイ……」

 

互いに睨みをきかせるグレイとリオン。

 

「君の相手は僕だよ。ライバル!」

 

「だから勝手に決めるな!!」

 

対抗心を向けるイヴに辟易しながら睨み返すシエル。

 

「かかってこいやー!!!」

 

嬉々としながらケンカを繰り広げようとするナツ。

 

男性陣ほぼ全員に敵意を見せるヒビキとレン。

 

「あなたは愛せない……」

 

「あたしも嫌いよっ!!」

 

露骨な嫌悪を互いに口にするシェリーとルーシィ。

 

3つのギルドの魔導士たちの雰囲気は一触即発。強大な闇ギルドに対抗する前に、無益な潰し合いが勃発してしまう。

 

 

 

 

 

 

「やめい!!!」

 

その雰囲気を、たった一声で払拭する声がホール内に響き渡った。その声の主は新たな人物。出入口の前で長杖を左手に持ち、スキンヘッドで体躯は大柄。今ここに集っているすべての魔導士の中で一番と思われる。そして顔つきも厳格なもので、数々の修羅場を潜ってきた実力者であることが一目見ると分かる。

 

「ワシらは連合を組み、六魔将軍(オラシオンセイス)を倒すのだ。仲間内で争ってる場合か」

 

「『ジュラ』さん……!」

 

「ジュラ!?」

 

その名前は、この場にいるほとんどの者たちが知っていた。『ジュラ・ネェキス』。蛇姫の鱗(ラミアスケイル)に所属する最強の魔導士にして、何とマスター・マカロフと同じ聖十大(せいてんだい)()(どう)の称号を持つ一人でもある。人呼んで『岩鉄のジュラ』。

 

「全くお前らは……どこにいても問題を起こさずにはいられないのか?」

 

そしてジュラの背後から後続するように出てきた人物に、シエルを始め、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の者たちが驚愕した。水色がかった銀色の長い髪のその人物は、自分たちがよく知る男。

 

「兄さん!何で、ラミアと一緒に!?」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のS級魔導士でシエルの兄であるペルセウスが、この場で合流を果たした。しかし気掛かりなのが、ジュラと同じタイミングでこの場に辿り着いたという事。

 

「兄さん……!?ってことは、こいつがペルセウスの弟?」

 

「え、知ってるの!?」

 

驚愕するリオンの言葉を聞き、兄と面識があるような口ぶりと感じたシエルが反応する。それに答えたのは、歩を進めながらこちらに近づいてくるジュラだ。

 

「ペルセウス殿は、ワシが達成できなかった例のクエストについて、わざわざ報告をしに来てくれたのだ」

 

「あ、そうか10年クエスト……!」

 

ペルセウスが一年かけて達成した10年クエスト。彼の前に一度、聖十(せいてん)の魔導士が受注し、自分では達成不可能と告げていた補足情報を思い出した。その魔導士と言うのが、まさかジュラの事だったとは。そしてその事実に気付いて驚いているのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)だけではない。

 

「10年クエストをクリアしただと……!?」

 

「話には聞いていたけど、彼が幻の魔導士・ペルセウス……」

 

「そんな魔導士の弟だったなんて、さすがは僕のライバル……!」

 

「だから勝手に決めんなって!」

 

トライメンズの面々。彼等もまた高い実力者の登場に衝撃を受けているようだ。イヴに関しては未だにシエルへの対抗心を燃やしているようだが。

 

「まさか君とここで会うとは思わなかったよ。久しぶりだね、ペルセウス君」

 

槍の矛先に襟を引っ掛けられて宙吊りになっている一夜が、彼の姿を視認してそう告げる。どうやらジュラのみでなく、一夜とも面識があるらしい。だが、彼らが聞いたのはそれ以上の事だった。

 

「いや、こう呼ぼうか。我が生涯のライバルよ……!」

 

「はあっ!?ライバル!!?誰が、誰のぉ!!?」

 

その発言に一番過剰に反応したのは弟のシエルだ。嘘だ、嘘だそんな事。自分が憧れてやまない偉大な兄のライバルが、美形とかけ離れた容姿をした変なオッサンだなんて、と失礼なことを叫びながらシエルが詰め寄る。問われたペルセウスは言いづらいのか何かを言い淀んでいる。

 

「だがちょうどいい。今回の作戦ではっきりさせようじゃないか。どちらが、エルザさんに相応しい真のイケメンであるかを……!」

 

「一夜……何度も言ってるが、俺とエルザは別にそんな関係じゃないぞ?」

 

宙づりになりながらもキラキラオーラを纏いながら決めポーズをする一夜に、おずおずと手を差し伸べて説明するペルセウス。ライバルと言っても恋愛関係での意味だそうだ。それも一夜が勝手に勘違いしている。

 

と言うか一夜と言いイヴと言い、ライバルと決めつけるの好きだな青い天馬(こいつら)……。

 

「兄弟揃って大変ね、あんたら……」

 

「他人事だと思って……」

 

ルーシィが同情するようなセリフをかけてくるが、当の本人たちからすればたまったものではない。本当にどうしてこうなった。

 

「ペガサスは4人、妖精は6人……。随分大所帯ですわね。私達は3人で十分ですわ」

 

「むぅ~!」

 

するとシェリーがルーシィに近づいてきてイヤミったらしく告げてくる。少人数でも十分に対抗できると言う自信の表れを誇示するような口ぶりだが、悪戯妖精(パック)と呼ばれている少年がそれをただ聞き逃すわけでもない。

 

「逆に言えば、六魔将軍(オラシオンセイス)に対抗できそうな魔導士が3人()()しかいないって意味にもなるんじゃないか?聖十(せいてん)の一人に戦力が集中し過ぎて、他に目ぼしい奴らがいないんじゃない?」

 

「なっ!何ですのこの生意気なお子様……!!」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべながら煽るシエルに、呆気なく嫌味を返されて、シェリーの顔が悔しさに歪む。ちなみにルーシィはその様子を見てざまあ見ろと言わんばかりに舌を出している。

 

「シエル、初対面に対してあまり失礼をするんじゃないぞ?」

 

「は~い」

 

先に煽ってきたのがシェリーとは言え、弟の小馬鹿にするような言動に、兄として一応の注意はしておくペルセウス。そしてついでにジュラに対して軽く謝罪を述べると、お互い様だとジュラの方も特に気にしていないようだ。

 

「ともかく、これで3つのギルドが揃った。残るは化け猫の宿(ケット・シェルター)の連中のみ」

 

4ギルドによる連合の内、あと一つのギルドだけが未だここに姿を見せていない。更に言えば、あまり名を聞いたことのないギルドで、どのような人物が来るかの見当もつかない。しかし、その残るギルド・化け猫の宿(ケット・シェルター)に関して、驚くべき情報が共有されることになる。

 

「“連中”と言うか……一人だけと聞いてまぁす」

 

未だにエルザの槍からぶら下がっている一夜のその情報に、ほぼ全員に衝撃が走った。バラム同盟と言う強大な闇ギルドたちの一角と対峙するための連合。その作戦にギルドから送られる戦力が、たったの一人……!?

 

「こんな危ねー作戦に、たった一人だけをよこすってのか!?」

 

「逆に言えば、対抗できると思える戦力が、一人だけ……?」

 

「ちょ、ちょっと……!どっちにせよ、どんだけヤバイ奴が来るのよぉ~!!?」

 

場は震撼し、一気に緊張感が漂う。謎の多い化け猫の宿(ケット・シェルター)。そこから派遣されるたった一人の魔導士。ルーシィの悲鳴混じりの叫びがホールに響く中、最後の一人を待つその場に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあっ!!」

 

可愛らしい悲鳴と共に、身体を床に叩きつける音が響き渡った。すぐさま全員の視線がその一点に集まる。床にうつ伏せで倒れこんでいるその小さい人物を見て、多くの者が先程の悲鳴と音が、転んだことによるものだと理解した。

 

「うぅ……痛ぁ……」

 

痛みをこらえながら両腕を使って立ち上がり、服に付いてしまった埃を払い落す。腰まで伸ばされた藍色の長い髪、口から漏れ出る声は高めの少女の声。小さい白い翼をあしらった飾りと、青と黄色のウェーブ柄が交互に描かれた独特なデザインのワンピースを纏い、胸元に大きな白いリボンを付けているその人物は、屈んでいた上体を起こす。その背丈は、この場にいる中で一番小柄だったシエルよりも更に下。一番小さいと言っていい。

 

「あ……あの……遅れてごめんなさい……」

 

内気な性格なのか、オドオドとしながら謝罪を始め、先程の痴態を恥じながら、自身の名を告げた。小柄な少女だ。しかし、彼女の右肩には青い三又の尻尾の猫を模したギルドマークが刻まれている。

 

化け猫の宿(ケット・シェルター)から来ました……『ウェンディ』です。よろしくお願いします!」

 

「子供!?」

「女……!?」

 

肩に刻まれた化け猫の紋章。そして彼女自身の口から告げられた化け猫の宿(ケット・シェルター)の名。最後の一人、誰もが予想だにしなかった幼い少女の魔導士。

 

「……ウェンディ……?」

 

初めて聞くはずなのに、何故か聞き覚えがあるような、既視感を感じるナツを含めて、まだ誰も知らなかった。この少女……『ウェンディ』との出会いが、今後の妖精の尻尾(フェアリーテイル)の未来を左右する大きな出会いとなることを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(かっ……!?可愛いっ……!!!)」

 

自分の技の一つである落雷(サンダー)をその身に受けたような衝撃を受け、大きく目と口を開いたこの少年も、まだ知らなかった……。




おまけ風次回予告

ペルセウス「ペガサスは一夜、ラミアからはジュラさん、そして化け猫の宿(ケット・シェルター)からは謎の女の子…人の事を言えないが、随分と凄い奴らが集まったな」

エルザ「一夜に関しては私も驚いた…。まさかあいつが参加しようとは…」

ペルセウス「色んな意味相変わらずだったしな…。他の奴ら…特にナツはこんな濃い面子と本当にうまくやっていけるのかどうか…」

エルザ「何とか私たちで、仲裁役を果たさなくてはな。それが比較的年長者である私たちの役目だ」

ペルセウス「確かに。シエルよりも年下の子も参加することだしな」

次回『ニルヴァーナ』

エルザ「ところで…先程からシエルが固まっているのだが、どうかしたのか?」

ペルセウス「ん?…何だ…?こんな様子は初めて見るぞ…!?一体何があった!?」
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