FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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前書きでお先に謝罪します。
この小説の主人公シエル、今回も魔法が公開されません…。

次回で彼がメインで活躍するのですがそれまでお待たせする形となります。
楽しみにされている方はすみません…。

それではどうぞ!


第3話 死神と妖精女王(ティターニア)

オニバス駅の一つ先に、クヌギ駅と言う場所が存在する。魔動四輪でクヌギ駅近くの高台に辿り着いた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一行は、そこから封鎖されたクヌギ駅とそこに群がる人々の様子を見ていた。

 

目の前に広がる光景と人々の話から察するに、鉄の森(アイゼンヴァルト)の者たちが突如現れ、列車を乗っ取ったらしい。さらに大鎌を持った男がその集団を率いていたという目撃情報から、その男が鉄の森(アイゼンヴァルト)のエースであるエリゴールであるとも推測できる。

 

「馬車とか船じゃなくて列車か…。レールの上しか走れないから、向かった先がだいぶ絞られるけど…」

 

「あい、なんで列車にしたんだろうね?あんまりメリットないし…」

 

魔動四輪の後方座席の窓から外の様子を窺っていたシエルの指摘にハッピーが同意する。同様に様子を窺っていたルーシィも首肯することで二人の意見に同意していた。しかしメリット自体は少ないが0ではない。レールがある分迷いなく進めるためにスピードに関しては移動手段の中でもダントツと言っていい。

 

「何らかの理由で奴らは急がざるを得ない、ってことなんじゃねぇのか?」

 

座席の奥の方で会話を聞いていたグレイはそれに着目している様子だ。向かった先が露見するよりも機動力の方を優先した、ということであれば、鉄の森(アイゼンヴァルト)は早急に自分たちの目的を達成するために動いている、と考えるのが筋だろう。ちなみにいつの間にか衣服を脱ぎ捨てていたことに関してはルーシィ以外誰も反応しなかった。

 

「でも、もう軍隊も動いてるし、捕まるのは時間の問題じゃない?」

 

「…だといいんだがな…」

 

クヌギ駅を封鎖していたのは王国の軍隊。一つの闇ギルドが公に動いていたため、軍も黙っていられなかったようだ。鉄の森(アイゼンヴァルト)の確保には軍も動いている、と言う事実を見てルーシィは軍隊によって確保されると予想していたが、言葉を発したエルザはもとより、グレイもシエルもそのような都合のいい話が起きるとは思っていないことが表情から見てとれた。だが、今は時間が惜しい。エルザは自分の言葉を皮切りに再び魔導四輪を発進させた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

クヌギ駅からさらに先に存在するのは、『オシバナ』と言う名前の街。その街の駅に向かって猛スピードで街を駆け抜ける魔導四輪が一台あった。

 

「エルザ、とばし過ぎだぞ!!『SEプラグ』が膨張してんじゃねぇか!!」

 

呪歌(ララバイ)の笛を吹かれれば、大勢の人が犠牲になる。音色を聞いただけで人の命が奪われてしまうんだぞ!」

 

運転席にて長い緋色の髪を強風でたなびかせ、右手首に装着しているSEプラグ―『セルフエナジープラグ』の略称で、運転手の魔力を燃料として変換するためのもの―が猛スピードを維持するためにチューブが膨張するほどの魔力を吸収させていることも意に介さず、運転手であるエルザはさらにスピードを上げようとしながらグレイに答えた。

 

一刻も争う事態に焦っているともとれる行動だが、エルザの意見はもっともだ。大勢の犠牲を出す前に己の身を削ってでも食い止めなければならない。だが、食い止めるためにも削る身は控えなければならぬ場合もある。

 

「気持ちは分かるけど、そんなにスピード出しちゃいざって時にエルザの魔力が…!」

 

後方の座席から顔を乗り出してエルザに呼びかけるのはシエルだ。彼自身もエルザがいかに強力な魔導士であるかは知っている。だがそんな彼女でも魔力を事前に使い果たしてはただでは済まない。それでも…。

 

「構わん。いよいよとなれば棒切れでも持って戦うさ。それに、お前たちもいるしな…」

 

彼女は断固としてスピードを緩めることも、無茶を止めることもしない。いざとなれば魔法を使わずに戦うことも仲間を信じて後を託すことも厭わない。その決意を目の前で見たシエルは言葉を失い、己の力不足を痛感した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

オシバナ駅の前には、クヌギ駅以上の人だかりができていた。駅の中からは黒煙が上がっている。おそらく鉄の森(アイゼンヴァルト)が襲撃したことによって起こったことなのだろうが、駅員は街の住民を不安にさせないために、『脱線事故が起きた』と拡声器を使って駅に近づかせないように何度も呼び掛けている。しかし、住民の中には襲撃を受けたことを噂伝手で聞いたらしく、話題に出すものが現れ始めている。

 

その駅前の人込みをかき分け、エルザを筆頭に妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーが拡声器を片手に持った駅員の元へと近づいた。

 

「君、駅内(なか)の様子は?」

 

「な、何だね君グハッ!?」

 

その内の一人、エルザが駅員に尋ねたかと思いきや、逆に聞き返そうとした駅員に向けて頭突きを放って気絶させた。続けて別の駅員に駅内で起きていることを尋ねてまわり、すぐに答えられない者を順に頭突きで気絶させていく。即答できる人しか必要ないのか、と少し離れたところでナツを背負いながらその様子を見ていたルーシィは、自分の顔が引きつっていることも気にせず呟いた。

 

「ごめんなさい駅員さん、俺たちこういう者なんだけどさ~、これ以上お仲間の人たちを寝かせたくなかったら、駅内(なか)で何が起きているのか教えてくれないかな~?」

 

「あ、はい…」

 

「お前、順応早くねぇか…?」

 

一方でシエルが最初にエルザから頭突きを喰らった駅員を起こすと、しゃがんだ体勢のままで自分の左頬にある妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章を指さして身分を証明しながら、遠回しで「これ以上エルザに駅員たちを気絶させられたくなかったらさっさと状況を教えろ」と半ば脅迫的な説得で駅員から中の様子を聞き出した。先程のエルザの常軌を逸した行動で思い知ったのか、それとも躊躇うだけ無駄だと悟ったのか、流されるがまま駅員はシエルに話を始めた。

 

自分たちがエルザの行動で固まっている中で唯一行動を起こしたシエルに対し、グレイが疑問と共に突っ込んだのは言うまでもない。

 

「エルザ、もう俺が聞いたからそれ以上はいいよ!」

 

「本当か!?よし、移動しながら教えてくれ!お前たちも行くぞ!」

 

「おう!」

「あい!」

 

「てか、コレってあたしの役!?」

 

次々と聞いては気絶させを繰り返して、駅員の山を足元に築いていたエルザにシエルが呼びかけると、すぐさま反応し、駅の中へと走って入っていく。シエルがそれに並走し、あとからグレイ、(エーラ)を発動したハッピーが続く。酔いが抜けずにグロッキー状態が続くナツを背負っているルーシィを気遣うものは、残念ながら誰もいなかった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

駅員からの話によると、予想通りオシバナ駅は鉄の森(アイゼンヴァルト)によって占拠されていた。軍の小隊が突入したのだが、まだ戻ってきていない。鉄の森(アイゼンヴァルト)の者たちも出てきていないことを考えると、いまだ戦闘が続いているのか、あるいは…。

 

「やはり、か…」

 

言の葉を紡いだエルザ、そして妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーが見たのは、軍の小隊の面々が全員傷だらけで意識を失い、あちこちに倒れ伏している光景。疑いようもない、全滅だった。

 

「相手は闇とは言え魔導士ギルド丸ごと一つ。小隊程度じゃ話にならねぇか…」

 

魔導士ギルドは言うまでもなく所属する者すべてが魔導士、魔法のエキスパートだ。魔法を上手く使う者がいないと思われる軍隊に太刀打ちできるとは到底思えない。その上、今回の場合は相手が相手である。

 

「やはり来たな…妖精の尻尾(フェアリーテイル)のハエ共」

 

通路を抜けた先のホームに、その者たちはいた。何十、いや下手をすれば百に達しているとも見える数の人間の姿。その全員がこちら側を見下しているような視線を向けている。この者たちが闇ギルド・鉄の森(アイゼンヴァルト)。そしてその集団の最奥、停車している列車の上に座っている男が見えた。

 

左の方のみ流した、逆立った銀髪。上半身は首に巻かれた黒い襟巻き以外は身に着けておらず、その露出した上半身と、両目の下に青い刺青。そして一番目を引くのは『死神』の象徴と言うべきか、右肩に担いだ大鎌。他の者たちとは明らかに次元が異なる圧を持っている。間違いようがない。この男こそが鉄の森(アイゼンヴァルト)のエースであるエリゴールだ。

 

「な、何この数…!?」

 

「あそこにいるのが…」

 

「エリゴールってやつだな…」

 

予想を超える数の魔導士を目の当たりにしたルーシィは怯み、エリゴールの姿を直に確認したシエルとグレイは冷静に彼の佇まいを警戒している。他のメンバーは兎も角として、エリゴールを相手にするには少しでも多く彼に関する情報を見極めねば確実に後手に回るからだ。しかもナツは、目前に敵となるギルドを前にしても、まだ体調が回復していない。

 

「ナツ、起きて!仕事よっ!!」

 

「無理だよ、列車→魔導四輪→ルーシィの乗り物酔い3コンボだもん」

 

「あたしは乗り物かいっ!?」

 

ナツを床に横たえて、大きく体を揺らして起こそうとするルーシィだが、一向に回復する様子はない。長時間様々な乗り物で酔っていた分回復も遅れているらしいのだが、ここまでナツを背負ってきた自分まで乗り物扱いされたルーシィは、ホーム内に響く声量で不服そうに叫ぶ。ちなみにその叫びを聞いたシエルはルーシィの顔面が取り付けられた列車、四輪車、船などを脳内に瞬時に思い浮かべたのだが「どれも乗りたい気がしない」と結論付けていた。そんな今の状況に似つかわしくないことを考えていたことは本人以外誰も気づいていなかった。

 

妖精(ハエ)がぁ~…!お前らのせいで、俺はエリゴールさんにぃ…!」

 

「落ち着けよカゲちゃん」

 

すると前方にいた、黒い髪を後頭部で纏めた男が恨みがましそうに睨みながらドスを聞かせた声で唸る。他の仲間に『カゲ』と呼ばれているところを察するに、エルザの話で聞いた呪歌(ララバイ)の封印を解いた魔導士とは彼の事と推測できる。さらに言えば、ナツが列車内で遭遇したのも彼の事だろう。ずっと体調を崩した様子のナツが、『カゲ』の声を聞いた瞬間反応を示したことをとっても。

 

「貴様らの目的はなんだ!呪歌(ララバイ)で何をしようとしている!?」

 

エルザの問いかけを聞いたエリゴールは「まだ分かんねぇのか?」と一言告げると、突如その体を宙に浮遊させた。浮遊する直前に風が吹き抜けるような音が聞こえたため、風の魔法で己の体を浮かせたと分かる。

 

「駅には何がある?」

 

浮遊した状態のまま、彼はホームに設置されているスピーカーのてっぺんに着地する。広範囲に音を届けることができるその機械を見て、エルザは奴等の目的を悟った。

 

呪歌(ララバイ)を放送する気か!?」

 

その叫びで、グレイ、ルーシィ、ハッピーに戦慄が奔る。今、このオシバナ駅の前には何千もの住民が集まっている。更に音量を上げれば、街中にその音を届かせることも可能だ。それは大量無差別殺人を可能にしているとも言える。

 

「これは粛清なのだ。権利を奪われた者の存在を知らずに、権利を掲げ生活している愚か者どもへのな…。この不公平な世界を知らずに生きるのは罪だ…よって『死神』が罰を与えに来た…!」

 

「そんなことをしたって権利は戻ってこないのよ!そもそも、連盟から追い出されたのも悪いことばっかしてたからでしょ!?」

 

あまりにも身勝手な主張に、恐れも忘れて怒りの声をルーシィが上げた。いわば因果応報。悪事に手を染めたが故に今まで得ていた権利を剥奪されただけだというのに、粛清だの不公平だの聞いて呆れる。しかしそんな主張も彼は意に介さない。

 

「ここまで来たら、欲しいのは”権利”じゃねぇ…”権力”だ!権力があれば、全ての過去を流し、未来を支配する事だってできる!」

 

権力もとい力。力さえあればすべてを意のままにすることができる。かつての様々な権力を有した者たちがどんな非人道的なことを行っても裁かれなかったように。最早魔導士としての誇りを捨てたと言ってもいいエリゴールも、その力の一部を欲していた。

 

「呆れ果ててモノも言えない…愚かなのはどっちだよっ…!!」

 

怒り、そして憎悪を込めたようにいつもとは違う低い声を絞り出すシエルは、エリゴールを睨みつけながら両の拳を強く握りしめ、衝動を抑えているようにも見える。だが、エリゴールに意識を集中させていたことは仇となった。

 

「残念だったな妖精(ハエ)どもぉ!闇の時代を見ることなくあの世行きとはっ!!」

 

カゲと呼ばれた男がかがみ、己の影に手を突くと、その影が意思を持ったように伸び始め、こちらへと迫る。突如として放たれた先制攻撃に、妖精の尻尾(フェアリーテイル)は反応が遅れてしまった。最初に狙われたルーシィ目がけて腕の形をとった影が掴みかかろうと…した瞬間だった。

 

「その声…やっぱりお前かぁ!!」

 

ルーシィの足元でずっと倒れ伏していたナツが起き上がると同時に右手に炎を纏わせ、影の腕を引き裂いた。それを見て、味方側は表情を喜色に染め、己の攻撃を防がれた男は忌々し気に睨みつける。そして鉄の森(アイゼンヴァルト)の者たちは下品な笑みを浮かべながらも、いつでも戦闘に移行できるよう身構え始めた。

 

「ナイス復活!」

 

「おーおー、何かいっぱいいるじゃねぇか!」

 

「おはようナツ。分かってるだろうけど、あいつら全員敵だから」

 

シエルが挨拶と共に告げた言葉に口角を吊り上げ、左掌に右拳を叩きつけると不敵に「面白そうじゃねぇか…!」と臨戦態勢に入った。次いでグレイ、シエル、エルザも敵側を見据えていつでも戦いに入れるようにする。

 

「こっちは『妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強チーム』よ!覚悟しなさい!!」

 

ルーシィのみ敵側に対して啖呵を切っているが、気のせいだろうか?戦いに加入する気がなさそうなのは。あと『最強チーム』は確かエルザ、ナツ、グレイの3人でシエルとルーシィは加わっていなかったような?表情に出していないが、シエルはそう思わずにいられなかった。

 

「後は任せたぞ。身の程知らずの妖精(ハエ)どもに、鉄の森(アイゼンヴァルト)の…闇の力を思い知らせてやれぃ」

 

だがエリゴールは戦いに加わらず、魔法で浮遊しながらホームの窓を突き破ってそのまま飛び去ってしまった。その行動に思わずルーシィが驚愕するが、何故かそれをシエルが、()()()()()()()()()見ていたことを誰も知らない。

 

「ナツ、グレイ、二人で奴を追うんだ。お前たち二人が力を合わせれば『死神』エリゴールにだって負けるはずがない」

 

「「むむ…」」

 

エルザが二人に対して指示を出す。恐らくエリゴールはこの駅内で呪歌(ララバイ)を放送しようとしている。それを阻止するために、エリゴールに太刀打ちできる可能性が一番高い彼らに頼んでいるのだが、当の本人たちは仲の悪い二人で協力することに消極的であり、「何でこいつなんかと…!」と言わんばかりに互いを睨みつけている。

 

「聞いているのかっ!!」

 

「「あいさー!!」」

 

だがエルザの一喝で瞬時にその態度を一変。肩を組んで二人揃ってハッピーのように返事をした。

 

「ここは私たちでなんとかする、行け!!」

 

「「あいあいさー!!」」

 

「最強チーム解散!?しかもこの数を女子と子供の3人だけで!?」

 

「あ、オイラ外された」

 

再度エルザの指示と喝によって肩を組んだままエリゴールが向かったであろう隣のブロックへと二人が駆けだす。その際にエルザが告げた言葉に、男の魔導士数十から百を相手に一見非力な女子供3人で挑むという無謀に慄くルーシィ。ちなみに戦闘能力の低いハッピーは事実だと分かってても戦力外扱いしたルーシィに少し不服そうな表情を向けていた。

 

「二人逃げたぞ!!」

「エリゴールさんを追う気か!?」

 

鉄の森(アイゼンヴァルト)の面々も、突如離脱した二人の狙いに気付いたようだ。その様子を見た者たちの中で先に動いたものが二人。

 

「まかせろ!この『レイユール』様が仕留めてくれる!!」

 

「オレも行く!あの桜頭だけは許せねぇっ!!」

 

指からいくつもの黒い帯を繰り出して上の階層へと飛んで行った『レイユール』と、自らの影の中に沈み高速で移動を開始する『カゲ』の二人だ。エリゴールの邪魔をさせないためにすぐさま行動に移したところを見るに、鉄の森(アイゼンヴァルト)の中でも指折りの実力者と見受けられる。

 

「こいつ等を片付けたら、私たちもすぐに追うぞ」

 

「了解」

 

「だ、大丈夫なのかしら…?」

 

残された妖精側の4人(3人+1匹)と闇側の多数。エルザとシエルはその状況に物怖じしていないようだが、ルーシィのみ未だ不安を抱えている様子だ。

 

「女二人と子供(ガキ)一人で何が出来んのかな?」

「しかし女の方はいい女だぜ、二人とも…!」

子供(ガキ)の方も売るとこによっちゃ値が張りそうだ、とっ捕まえようぜ」

「待て待て、まずは脱衣ショーを見てからだっ…!」

 

「下劣な…!」

 

対して鉄の森(アイゼンヴァルト)の方は下品な笑みをこらえもせずに好き勝手欲望に塗れた会話を繰り広げている。聞くに堪えない下劣な内容にエルザの眉がいつも以上に吊り上がっている。一方でルーシィは「可愛すぎるのも困りものね…」と何やらトリップしているところをハッピーに戻ってくるように言われていたようだが、エルザもシエルも気にしないことにした。

 

「これ以上妖精の尻尾(フェアリーテイル)を侮辱してみろ。貴様等の明日は約束できんぞ…!」

 

その言葉と共にエルザが前方に突き出した右手から魔法陣が、そしてその数瞬後に先程まで存在しなかった一振りの片手剣が出現した。

 

「剣が出てきた!魔法剣!?」

 

「珍しくもねぇ!!」

 

「こっちにも魔法剣士はぞろぞろいるぜぇ!!」

 

エルザ同様に今まで存在しなかったそれぞれの剣を持ちながら、鉄の森(アイゼンヴァルト)の者たちがエルザ目がけて斬りかかる。だが、彼女との距離がすぐそこにまで迫った瞬間、男たちは吹き飛んだ。彼女の持つ剣の一閃によって彼らの身体は宙を舞い、持っていた剣のほとんどは二つに割れてしまう。次に待ち構えていた者たちには、エルザ自身が駆けだして距離を詰め、またも一閃。目にも止まらぬ速さで次々と鉄の森(アイゼンヴァルト)を蹴散らし、その数を減らしていく。

 

「ちぃ!遠距離魔法(とびどうぐ)でもくらえ!!」

 

近接では不利と感じた一部の魔導士が数人、遠距離から攻撃する魔法でエルザを狙い撃つ。だが彼女は高く跳躍してそれを回避し、剣の両端に魔法陣を展開、したかと思いきや剣の姿はまるで変形するかのように身の丈以上の長さのある槍へと変わる。

 

「槍になった!?」

 

ルーシィの驚く声が響いたその瞬間も、彼女の手は止まらない。遠距離から攻撃をしてきた魔導士を、リーチの長さを活かした薙ぎ払いで一掃。他にも魔法剣士や遠距離専門の魔導士も同時に槍による一閃で吹き飛ばしていく。

 

だが、それでもなお近づいてくる者がいることに気付くと、手に持っていた槍が瞬時に二振りの片手剣――双剣へと変貌。両の手に持つ剣が更に敵を薙ぎ払う。双剣に変わったことに鉄の森(アイゼンヴァルト)側の後方にいた魔導士が驚きの声を上げたと思いきや、その手に持つ武器が更に変わり、大男でも持ち上げるだけで精一杯だろう大ぶりの斧を振り回して蹂躙していた。

 

「こ、この女…なんて速さで『換装』するんだ…!」

 

『換装』。

魔法剣の原理は、持ち主の魔力で作られた別の空間にストックされている武器を持ち出す、というものだ。その武器を持ち換えることを『換装』と呼ぶ。だがその換装にかかる時間は使い手によって変動し、エルザのようにほぼ一瞬でそれを成せる魔導士は少ない。その上…。

 

「エルザのすごいトコはここからだよ…!」

 

「エルザ…?」

 

ハッピーが呟いた『すごいトコ』。そう、彼女の魔法の真髄はその換装の速さではない。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の最強の女魔導士と呼ばれる彼女の実力を知っているハッピー、そしてシエルは、今からその魔法を披露した際のルーシィの反応が楽しみでもあった。一方の鉄の森(アイゼンヴァルト)側の魔導士も、エルザの名に反応を示していた。まるで聞き覚えのある名前を思い出そうとしているように。

 

「まだこんなにいるのか…。面倒だ、一掃する」

 

さすがに数の多さに嫌気がさしてきた様子のエルザがそう言うや否や、足元に魔法陣を展開し、彼女が身に纏っている鎧が輝いて魔法剣を換装させるときと同じように別空間へと消えていく。

 

「おおっ!なんか鎧が剥がれてく!!」

 

魅力的な女性が身に纏っているものが消えていく現象に釘付けになる男たち。しかしその間にもエルザのその身には別空間から現れた別の装備が纏われていく。魔法剣士は通常、“武器”を換装しながら戦う者の事を言う。対してエルザは武器だけでなく、自分の能力を高める“魔法の鎧”の換装も行いながら戦うことが可能だ。

 

「それこそがエルザの魔法…『騎士(ザ・ナイト)』!!」

 

シエルの言葉で締めくくられた時には、エルザが身に纏っているものは文字通り変換されていた。背中から伸びるのは二対四枚の天使のような翼、膝下まで下ろされたロングスカート、籠手と具足、そしてヘアバンド型の冠にも一対二枚の小さな翼があしらわれている。そして彼女の周りを囲み守るように、いくつもの剣が宙に浮いていた。

 

名を『天輪(てんりん)の鎧』。通常一、二本しか装備できない魔法剣を、同時も何本を操ることを可能にする鎧である。

 

「舞え、剣たちよ…!」

 

エルザの周りを漂っていた剣たちが、彼女の指示に従うように一斉に彼女を中心に廻り始める。

 

「『循環の剣(サークルソード)』!!」

 

そしてその回転が徐々に速くなり、目では追いつけない速度となった瞬間、エルザが剣たちを一気に広げ、取り囲んでいた魔導士たちを一掃。全体の半数以上が再起不能となった。

 

「こんのヤロォ!俺様が相手じゃあ!!」

 

後方にて待機していた魔導士の一人が両手に光を纏いながらエルザに飛び掛かる。だが、その攻撃は当たらず、手に握られた剣でカウンターをくらい、近くの壁に叩きつけられていた。ギルドの中でも実力者である彼であったが、エルザにかかっては一撃であった。

 

「ま、間違いねぇっ!コイツぁ妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の女!『妖精女王(ティターニア)』のエルザだ!!」

 

「すごぉぉーい!!ちょっとホレそー!!」

 

まさに圧倒的。一切相手の攻撃を受けずに数十の魔導士を地に伏せさせた『妖精女王(ティターニア)』。その姿にルーシィはテンションを最高潮に上げており、残っている鉄の森(アイゼンヴァルト)の者たちは戦闘が始まる前と打って変わって恐怖に怯えていた。

 

「あ、あんな女に勝てるわけねぇ!」

「ビアードさんも一撃だぞ!?」

「どうしろってんだぁ!!」

 

「おーおー、派手にやったおかげでビビりまくってるね~」

 

同じ魔法剣士では敵うわけもない、遠距離から攻撃してもすぐに距離を詰められ潰される、おまけに鎧の効果によって何倍も力を増幅できるとなっては、もはや彼らの勝利は絶望的だった。しかし、それでも完全に諦めたわけではなかった。

 

「あっちの女は無理でも、もう一人か子供(ガキ)の方なら…喰らえっ!!」

 

一人の魔導士が魔法剣と同じ仕組みで、何もない空間からライフル―――魔力で出来た弾を撃ち出すもの―――を取り出して、あらかじめ込められていた魔法弾をシエルに狙いを定めて撃ち出した。シエルの死角となる場所からの攻撃に、その場にいた全員の反応が遅れた。

 

「あっ、シエル、危ない!!」

 

「え?」

 

気づいたルーシィの声にシエルが反応して、弾が放たれた方向に振り向いたが既に遅かった。彼の胸の部分に魔力弾が直撃し、その勢いで小さな体が宙に浮いた。しかし弾の勢いは止まらず、前方から当たったそれは背面から飛び出し、彼の身体を貫いたことを示していた。

 

その光景を垣間見たルーシィはまるで時が遅く進んでいるように見えたらしい。先程のエルザの活躍で上がっていた気分は一気に冷め、目の前で背中から叩きつけられるように倒れいく少年を絶望が混じった眼差しで見ることしかできない。そして背中に地をつけたまま、少年の身体はピクリとも動かなくなってしまった。

 

「シ…シエルぅぅっ!!!」

 

悲鳴を上げながら少年に駆け寄るルーシィ、恐怖から一転し歓喜に満ちる鉄の森(アイゼンヴァルト)、どこか安堵した様子で溜息をつくエルザの異名を思い出していた一人の魔導士。

 

そして凶弾に貫かれ倒れ伏した少年を…

 

 

 

 

エルザとハッピーは()()()()()()感じぬ眼差しで眺めていた。

 




おまけ風次回予告


ルーシィ「エルザの魔法、キレイでカッコよかったな~!特にあの鎧姿!」

シエル「他にも百種類以上が存在して、それにセットとなる武器とかもストックしてるって聞いたな~」

ルーシィ「ナツもグレイも見せてもらったし、ハッピーもよく使ってるし、あとは本当にシエルだけになったわね。『世界の(ことわり)も変える魔法』…どんな魔法なんだろ~!」

シエル「うっ…なんかやけにハードルが上がってる…。大袈裟なんだよ、エルザぁ…」

ルーシィ「そんだけエルザにも認められてるってことでしょ?胸張ればいいじゃない!」

次回『シエルの魔法』

ルーシィ「そう言えば、あんた胸貫かれてなかった!?大丈夫!?」

シエル「それも含めてあれやこれも全部まとめて次回に発表!!」

ルーシィ「実は結構ノリノリ…!?」
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