FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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三回目!前々回と前回が程よい長さになったのに、今回はめっちゃくちゃ長くなってしまった…。

そして今回の更新でタグを二つ追加しました。何を追加したかは前回読んだ方は察しているはず。(笑)
反応も良くて嬉しかった、史上最高速度で感想が来てビックリしました。(笑)


第46話 ニルヴァーナ

正直言って、これは自分とは無縁の感情とばかり思ってた。

 

別に、異性に興味がないわけではない。自分だって健全な男子だ。同年代で可愛らしい女の子や、年上の魅力的な女性を見て、目で追ってしまう事だってあった。同じギルドにいる女性たちも、レベルが高いと考えたこともある。

 

しかし、互いに両片想いの感情を抱いているスナイパーの男女コンビ。同じチーム内でありながら男二人が女一人に思いを寄せて、二人とも同じようにフラれた三人一組(スリーマンセル)のチーム。最近では、元々敵対していたギルドの魔導士が、ある一人の魔導士に明らかなハートマークを飛ばしている様子を見て、面白おかしく眺めている。

 

自分にとって恋愛とは、そんな感情で終わるのだと思っていた。

 

いつだったか取材の記者に聞かれた時もそうだ。あの時は、兄がそう言った感情を向ける対象が、とある事情があっていなくなってしまった悲しい過去で流されがちだったが、自分自身がそう言った感情を持ったことがある、と言う自覚がなかったため、答えあぐねたのだ。

 

自分はそういう人間なのだろうか。まだまだ他の者たちと比べると迎える人生は長い。その中で出会いがあったとしても、自分は感じ取れないのだろうか。そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

今目の前にいる少女を、この目に映すまでは……。

 

 

 

化け猫の宿(ケット・シェルター)から来ました……『ウェンディ・マーベル』です。よろしくお願いします!」

 

頬を微かに赤くし、オドオドとしながら名乗る、腰まで伸びた藍色の長い髪を持った、可憐な少女を見て、自分の身体に落雷(サンダー)が直撃したかのような衝撃が走る。そしてそれと同時に、自分の顔に一瞬で熱が集まり、胸の中にある心臓の鼓動が早まる。

 

何だこれは。今までも異性を目に映すことは多かったし、何なら予期せぬ事故で裸体を目に映してしまったこともある。だが、これほどの衝撃は今までに感じたことがない。

 

「(かっ、可愛い……!何だこの子は……!?ま、まるで……!)」

 

シエルには見えていた。目の前に佇む藍色髪の少女の背中から、一対二枚の白い翼が生え、頭には輝く光輪を浮かべ、こちらに向けて慈愛の笑みを浮かべている光景を……。

 

 

 

 

 

―――まるで、この世に舞い降りた、天使か、女神……!!

 

 

 

 

 

※この小説は『FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~』です。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

連合軍の前に現れた最後のギルドの代表の一人。その姿を見て、一同は大きく驚いていた。

 

「「女!?」」

 

「「子供!?」」

 

この場にいる最年少だったシエルよりも更に幼く見える、更に言えば気弱な性格と思われる少女。『ウェンディ』と名乗った少女は、遅れて到着してしまったことに加え、先程何もないところで躓いて転んでしまったことによる羞恥で身を縮こまらせている。

 

「ウェンディ……?」

 

そしてそんな彼女の名を、どこかで聞いたことがあるような反応を見せるナツが反芻する。思いもよらなかった衝撃を垣間見た連合軍はほとんど言葉を失っている。

 

「これで全てのギルドが揃った」

 

「話進めるのかよっ!!」

 

誰も何も発せない空気の中堂々と告げるジュラ。さすがは聖十(せいてん)。大物足り得る胆力である。

 

「それにしても……」

 

「この大掛かりな作戦に、こんなお子様一人をよこすなんて……化け猫の宿(ケット・シェルター)はどういうおつもりですの?」

 

リオン、そしてシェリーが緊張して所在分からずにアワアワとしているウェンディに視線を向けながらそんな疑問を投げる。言っては何だが、好戦的と言う訳でもないのに、強大な闇ギルドの討伐作戦に一人だけ加わると言うのはあまり適切な判断とは思えない。

 

「あら、一人じゃないわよ。ケバいお姉さん」

 

そんなシェリーの疑問に答えるようにして現れたのはまた別の人物。

 

いや、人物と言うには正しくない。何故なら少女の後ろから出てくるようにして現れたその存在は、人間ではなかったからだ。

 

言ってしまえばネコだ。それもハッピーと同様二足歩行で、人語を話す白い毛皮で綺麗な目をしているネコ。ただしハッピーとは違って衣服を着ており、腕(前脚?)を組みながらすまし顔を浮かべている。

 

「ネコ!?」

「だな……」

「ハッピーと同じだ……!」

 

ハッピー以外に二足歩行で人の言葉を話すネコを見たことが無かった一同が、突如現れた白いネコに再び驚きを露わにしている。一番ハッピーと付き合いが長いナツでさえ驚いている。

 

「酷いですわ、ケバいだなんて……」

「そっち!?」

 

ちなみにシェリーは別のところで傷ついていた。

 

「『シャルル』!着いてきたの!?」

 

「当然よ。アナタ一人じゃ不安でしょうがないもの」

 

『シャルル』と呼ばれたその白いネコは、共に来た少女とは違ってやや強気なのか彼女に向かってそう告げ、視線を逸らす。

 

『ネコ!?』

「今頃!?」

 

そして今頃その存在に気付いたのかトライメンズの3人もそれぞれ何故かポーズを決めながら驚愕する。同じようなネコならハッピーもいたのだが、眼中になかったのか……。

 

「(キュピィーーーーーン……!!!)」

 

そしてそんなハッピーは、本日二人目であろう落雷(サンダー)に直撃したかのような衝撃を受けていた。更には両目にハートマークが浮かんでいる。同じネコ型の生物としてどうやら一目惚れしたようだ。

 

「エルザ、気づいたか?」

 

「その口ぶり……お前もだな?」

 

「ああ……あの子、ただの気弱な子じゃなさそうだ」

 

一方で、一夜を踏みつけにしていたエルザにペルセウスが耳打ちをしてきた。一部を除いた者たちは、幼い少女が作戦に参加することに疑問を抱いたり困惑している様子が目立つが、S級魔導士として名を馳せるこの二人は、別の印象を抱いていた。

 

二人とも感じている。目の前にいる少女が只者ではないことを。確かに魔力の量はさほど大きくはない。しかし、着目するべきはその魔力の質。一般の魔導士とは確実に異質な何かを秘めている。

 

化け猫の宿(ケット・シェルター)にどんな意図があるかは分からねぇが、もしかしたら彼女の存在がこの作戦の命運を分けるかもしれねぇ……」

 

実力者だからこそ共感が持てる視点。ペルセウスが呟いた推論に、エルザも首肯で答えた。見た目は確かに幼い。背丈もシエルより低いから、恐らくは彼よりも年下。この作戦に参加する魔導士で最年少だろう。弟も特殊な魔法を使うため、断定するには早計だ。

 

「……ん?」

 

そう思考していたペルセウスがふと隣にいる弟に目を向けると、妙なことになっていた。口を半開きにして頬を赤く染めており、その目は件の少女・ウェンディの方を捉えて離さない。ひょっとするとシャルルの存在に気付いてすらいない。普段の彼からすれば珍しい状態だ。

 

「シエル、どうした?……おいシエル、聞こえるか?」

 

「へッ!?」

 

兄の呼びかけにどこか上の空に近い状態だったシエルが、裏返った声で反応を返した。「な、何?何だったっけ?」と裏返った声が戻らないまま兄に尋ねてくる。やっぱりどこかいつもと違う。

 

「いや、ずっとあの子を見てボーっとしてたようだが……」

 

「っ!せっ!?そ、そうかなっ!!?そう見えた!?」

 

素直に先程までの状態を指摘されると、赤くなった顔に更に熱がこもって両腕を振り回しながら慌てふためく。本当にどうしたんだ弟よ。そして兄に背を向けて胸に手を当てながら何度か深呼吸を繰り返す。

 

すると、シエルの目にハッピーがキラキラした表情で何かを見つめて、その直後に何かショックを受けるような反応を見せた。ハッピーの視線の先に目を移すと、先程自分が見つめていたウェンディの近くに、ハッピーと同じ種族と思われるシャルルがいることに気付いた。顔立ちや佇まいを見るに、メスなのはよく分かる。

 

「ハッピー、お前もしかしてあの白い子が気になるの?」

 

「へ!?そ、そのぉ……」

 

ハッピーに近づいてしゃがみながら聞いてきたシエルの質問に、目に見えるように動揺を露わにし出すハッピー。だが、それも数瞬。顔を赤くして照れた様子で今自分が感じていることを、正直に吐露し始める。

 

「オ、オイラ……あんなにも可愛い子を見たの初めてだから……!心臓がドキドキしちゃってるよ……!」

 

「可愛い子……」

 

そのフレーズだけを抜粋して改めてシエルは化け猫の宿(ケット・シェルター)から来た二人……正確にはウェンディの方へと目を向ける。その姿を視界に入れるだけで再び鼓動が早まるのを感じる。激しく共感を覚えた。

 

「その気持ち分かるな……。俺も初めて見たよ、こんなに心臓がドキドキしちゃうぐらい可愛い子……」

 

「えッ!!?ま、まさかシエルもあの子を!?オイラのライバルなわけぇ!?」

 

「違ーよ!まず種族が違うだろーが!!隣の青髪の子の事だよ!!」

 

「なーんだそっか……隣の子の方か……え?」

「あっ」

 

とてつもない勘違いを口走ったハッピーに思わず自分も声を荒げてとんでもないことを口走った気がする。だがもう遅い。ハッピーの耳にはバッチリ聞こえていた。ついでに言えば確実にもう一名にまでその声が届いていた。

 

「何々~?あんたたちもしかして、二人揃ってそれぞれ一目惚れしたの~?」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべてそれを隠そうともせず、シエルとハッピーの元にルーシィが近づいてきた。普段はルーシィをおちょくったりしている二人が、今度は逆に彼女に揶揄われる立場になっている。

 

だが二人にそれを反論する余裕はない。未だかつて感じた事のない感情と衝動。これが本当に一目惚れなのか、まるで自分が自分じゃなくなったみたいだと、顔や胸に手を当てて逡巡としている二人に、ルーシィはさらに追い打ちをかけてきた。

 

「どぅぇえきとぅえるるるぅう~~!」

 

「オイラのパクリだーー!!」

「しかも本家(ハッピー)より三倍は巻き舌ーー!!」

 

ここぞとばかりに持ちネタを使って揶揄われる。しかも何で本家よりも巻き舌に拍車掛けてきてんだ。倍返しか?

 

「あ……あの……私……戦闘は全然出来ませんけど……皆さんの役に立つサポートの魔法は、いっぱい使えます……。だから……だから仲間外れにしないでください~……!」

 

「そんな弱気だからなめられるの!アンタは!」

 

「ご、ごめん……」

 

「だからすぐ謝らないの!」

 

「ごめん!」

 

「ハァ……」

 

あまり歓迎されてないのかと解釈したウェンディが少し涙混じりに主張する。それを見て呆然としている一同に対し、同じギルドであるシャルルから注意されている。引っ込み思案で弱気なウェンディと、堂々として強気なシャルル。正反対だが寧ろそれがいいコンビに見えてくる。

 

余談だが、そんな彼女の様子を見ていたシエルが再び顔を赤くして見惚れていたのは誰も知らない。

 

「すまんな……少々驚いたが、そんなつもりは毛頭ない。よろしく頼む、ウェンディ」

 

彼女の心中を察したエルザが、ウェンディを安心させるために最初に声をかけた。落ち着いた笑みを浮かべながら彼女を歓迎するように告げるエルザの姿を見て、自信なさげに蹲っていたウェンディはその状態のまま、表情を喜色に染めてエルザを見上げる。

 

「うわわ……!エルザさんだ……!本物だよ、シャルル……!」

 

「思ってたよりいい女ね」

 

さすがと言うべきか、妖精女王(ティターニア)として名の知られるエルザは、同じ女性として少女にとっての憧れと言える存在。今まで雑誌でしか見た事のなかった本物を目にし、感動しているようだ。

 

「ねえねえ……オイラのこと知ってる?ネコマンダーのハッピー!」

 

早速シャルルに話しかけるハッピーだが、当の彼女は興味がないのかぷいっとハッピーからそっぽを向く。だがそれだけの事では彼はめげない。

 

「照れてる……!可愛い~!」

 

「相手にされてないようにも見えるけど?」

 

「積極的だな……」

 

ほぼ同時にそれぞれ一目惚れを経験したはずなのに早速アピールをしていくハッピーにシエルは感心した。普段ならこの程度に凄みを感じることはないのだが、熱くなる顔と早まる心臓の音を抑え込んで異性に話しかけるには相当勇気がいる筈だ。今なら分かる。

 

「それならあんたも、あの子に話しかければいいんじゃない?」

 

「っ!?無理無理無理無理!会ったばっかでそんな馴れ馴れしくしたら一発で不審がられる!嫌われる!」

 

「大袈裟じゃない?いつものあんたはどこいったの……」

 

動揺するあまりに軽くキャラが変わって尻すぼみするシエル。その変貌にルーシィは最早何とも言えない表情を浮かべていた。頭と心の整理が全然追いつかない。自分でもらしくないことは分かるのに、どうしたらいいのか分からない。

 

「オレンジジュースでいいかな?」

「お前、正直可愛すぎるだろ……」

「おしぼりをどうぞ」

 

「あ、あの……」

 

「何なの、このオスども!」

 

シエルが頭を抱えている間に、その感情の矛先であるウェンディはトライメンズの3人にエスコートされ、戸惑うままにソファーへと案内されていた。それに気付いた時に先程まで存在しなかった(あくまで比較的だが)嫉妬と怒りを覚えたのは言うまでもない。

 

「あ、あいつら……呼吸するように連れ去っていきやがった……!翼引き千切ってただの馬にしてやりたい……!」

 

「落ち着けぇ!!」

 

怒りのあまり物騒なことまで口走ったが、そこはルーシィにツッコミと共に止められた。ダメだこいつ、早く何とかしないと……。

 

「あの娘……何と言う香り(パルファム)だ……。只者ではないな……」

 

「気付いたか一夜殿。あれはワシ等とは何か違う魔力だ……。エルザ殿とペルセウス殿も気付いているようだが」

 

「さすが……」

 

その一方で、妖精のS級二人以外に、ウェンディの秘めたる何かを感じとった者たちがいた。ジュラは言うまでもないが、一夜も見かけと性格によらず、青い天馬(ブルーペガサス)において上位に君する優秀な魔導士だ。肉体的な強さは然程ではないが、独自に開発したとある魔法においては、他の追随を許さぬほど。そんな強者と呼べるべき者たちは、真っ先に彼女の異質さに気付いていた。

 

「う~ん……ウェンディ……どこかで聞いたことがあるような……ないような……?」

 

「あん?お前、あの子の事知ってんのかよ?」

 

腕を組んでずっと何かを思い出そうと唸っているナツ。それを見ていたグレイが、彼女の事を知っているのかと尋ねてくる。しかし、いくら頭をひねっても、記憶を掘り起こそうとしても浮かんでこない。聞いたことはある気がするのだが……。

 

「思い出してくれねーか?」

「知るか!!」

 

考えても思い出せないのでグレイに変わりを頼むナツ。だが敢えて言おう。グレイのみならず他の誰に聞いたところで思い出せるわけがないと。結局いくら唸っても思い出せない。ナツはウェンディの……正確には彼女を取り囲んでいるトライメンズを怨嗟のこもった視線で睨むシエルの方に目がつく。

 

「なあシエル、お前なんか思い出してくんね?」

 

「だから他の奴が知る訳ねーだろ!」

 

懲りずに他の者たちに聞こうとしたナツの問いかけにシエルはようやく意識を外してナツの方を見る。先程までのナツたちの会話が聞こえていなかったので、勿論シエルには何のことか分からない。

 

「いや~ウェンディの事、なんか思い出せることねーか?」

 

「ウェッ!?お、もっ!?思い出す!?」

 

その話題がウェンディに関することと知ったシエルが再び動揺を露わにする。ナツだけでなくグレイも怪訝な顔を浮かべてシエルを見るが、彼は今現在混乱状態だ。「あんな可愛い子を一目見たら絶対忘れるわけない……じゃなくて思い出すってなんの事……!?」とぶつぶつと早口で呟きながらしばらく続き……。

 

「あ!き、昨日の晩飯はビショックイノシシで作った豚丼でした!!」

 

「何ー!?そんな美味そうなのを食ったのか!?ずりーぞシエル!!」

 

「だぁーっ!!ツッコむのもメンドクセー!!!」

 

妖精男子三人衆のコントが繰り広げられる謎の現象が発生した。何故思い出すと言う言葉から連想されたのが昨日の晩飯だったんだ。確かにメジャーな話題なのだが……。

 

それで気付いたのか否かは定かではないが、トライメンズに囲まれてたじたじになっていたウェンディが、ナツとすぐ近くにいるシエルへと目線を向ける。視線に気づいたナツが彼女の方へと向き、つられるようにしてシエルもそちらの方を見る。

 

 

 

 

 

 

 

そして、ウェンディは何かを思ったのかニコっとナツたちの方へと可愛らしい笑みを浮かべた。

 

「~~~~~!!!?」

 

直後、心臓を銃弾のような何かで撃ち抜かれ、声にならない悲鳴を上げて頬どころか顔全体が耳も含めて赤く変色させるシエル。ナツは特に何ともないので、シエルの突然の奇行に疑問符を頭の上に作ることしかできない。そしてマッハにも及ぶ速度で、シエルは少しばかり遠くにいたペルセウスの元へと向かい、彼女から死角になるような位置にその身を潜めた。兄のみならず、近くにいた者たち全員が何事かと驚愕する。

 

「なななな何だこれあんなの反則だ胸がうるさい顔が熱い頭が沸騰しそうだ死ぬのかな俺死んじゃうのかなどうにかなっちゃいそうでもそれが嫌じゃない自分がいるこんなの知らない怖い自分じゃなくなりそう訳分かんない分かんないあぁあぁあぁあ~~~……」

 

許容量(キャパシティ)オーバーヒート。可憐と言う言葉が似合う美少女の満面の笑みをその目に刻んでしまったシエルは、最早短時間での復帰は不可能になった。初めて感じた確かな恋慕は、漠然と第三者からの視点でしか見た事のなかったシエルには刺激が強すぎた。

 

顔全体を赤くして目を回し、自分の近くに避難してきた弟に困惑しながらも、ペルセウスは先程までシエルが視線を向けていたウェンディの方へと一度自分も向けてみる。

 

「な、何か変なことしちゃったかな……」

 

「やたらと男に微笑むからよ。あのガキに気があるって思われたらどうすんの?」

 

「そ、そんなつもりじゃ……!」

 

シエルが自分を避けたことで少し落ち込んだ様子を見せ、隣にいるシャルルに指摘されて自分の行いに気付いたのか慌てて弁明をしている。そして再び弟の方へと視線を戻すと、未だに息継ぎなしで今の自分の状態をうわ言のように繰り返している。そんな二人の様子を交互に視線を移しながら、ペルセウスは確信した。

 

「……ほぉ~……なるほど、そういう事か……」

 

先程まで疑問符が浮かぶばかりだった表情を、確かな確信を抱いたものへと変えながら呟いた。それを聞いていたエルザが「何の事だ?」と尋ねてくると、しみじみといいたげな表情で彼は答えた。

 

「いや、ついに春が来たんだなと思ってな……」

 

「春?今は秋だぞ?」

 

「エルザ……そーゆー意味じゃなくてね……?」

 

どこか噛み合ってないその会話に、ルーシィはすかさず遠慮がちにツッコんだ。

 

「さて……全員揃ったようなので、私の方から作戦の説明をしよう」

 

未だにウェンディに絡みにいっていたトライメンズを鶴の一声で撤収させ、ようやく本題の説明へと移行する一夜。何故かその際に再び決めポーズをとっていたのだが、もう敢えて指摘はしまい。

 

「まずは……六魔将軍(オラシオンセイス)が集結している場所だが……

 

 

 

 

 

―――とその前のトイレの香り(パルファム)を……」

 

「オイ!そこには香り(パルファム)ってつけんな!」

 

『さすが先生!!』

 

結局また本題は先送りとなった。そしてここでもトライメンズの一夜の呼び方が変化している。先程撤収する時も『かしこまりました、お師匠様!』だった。ここまで一貫性がないと寧ろ天晴である。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「ここから北に行くと、ワース樹海が広がっている」

 

トイレから戻り、ようやく本題に移った一夜が説明を始めた。ちなみに一夜のトイレが運よくクールタイムとなったのか、シエルの様子も今は落ち着いている。

 

そして一夜の話によると、そのワース樹海には古代人が封印したとされる、ある強大な魔法があると言う。その魔法の名は『ニルヴァーナ』。

 

「「『ニルヴァーナ』?」」

 

声を揃えて反芻したナツとルーシィを始め、聖十(せいてん)のジュラ、魔法に関して多く知識を持つファルシー兄弟でさえ、その名を聞いたのは今が初めてだ。誰もがその魔法の事を知らないらしい。

 

「ニルヴァーナって知ってる?てか魚いる?」

 

「結構」

 

どさくさに紛れてリボンを付けた魚をシャルルにプレゼントしようとするハッピー。本当に積極的だ。邪険にされていることに目を瞑れば……。

 

閑話休題。

 

そんなニルヴァーナとは、古代人が封印するほどの強力な破壊魔法……と言うこと以外は、どのような魔法であるかも含めてよく分かっていないらしい。そして六魔将軍(オラシオンセイス)は、そのニルヴァーナを手に入れるために、最近このワース樹海の近くにいるらしいという情報を掴んだとのこと。

 

「我々はそれを阻止するために……」

 

六魔将軍(オラシオンセイス)を討つ!!』

 

一夜に続くようにトライメンズも加わって、それぞれポーズを取りながらそう告げる。もうツッコむのも面倒だ。何も言わない方がいい。

 

「こっちは14人。敵は6人」

 

「だけど侮っちゃいけない……」

 

「この6人が、またとてつもなく強いんだ」

 

レン、イヴ、そしてヒビキへと繋ぐ様に説明が告げられ、そしてヒビキによって、何もない空中に丸型のモニターとキーボードのような二つの魔法陣を出現させる。

 

「『古文書(アーカイブ)』!」

 

「話には聞いたが初めて見たな、珍しい魔法だ」

 

一目見ただけでどの様な魔法なのかを確定するジュラとペルセウス。さすがだ。情報を検索、処理、そして圧縮して伝達することに特化した新しい方に区分される魔法。それが『古文書(アーカイブ)』だ。

 

「これは、最近になってようやく手に入れた、奴らの映像だ」

 

そして彼が表示したのは、六魔将軍(オラシオンセイス)と思しき、6人の男女の魔導士の姿だ。

 

まず一人目は、身の丈ほどもある体躯の、紫色の大蛇を伴い獰猛な笑みを浮かべる、逆立った赤茶色の髪を持った褐色肌の男。毒蛇を使う魔導士『コブラ』。

 

「悪そーなツラしてんなー、このつり目野郎」

「「お前も似たようなもんじゃねーか」」

 

自分を棚上げして感想を述べるナツに氷の魔導士二人がすかさずツッコむ。

 

「毒蛇……気に入らねぇなコイツ……」

「同感」

 

そしてファルシー兄弟からの評価もかなり悪いようだ。特にペルセウスからすれば蛇と言うだけで気分を害する。

 

二人目はライダースーツに身を包み、トサカのような尖った金のモヒカンと、鳥の嘴の様に鋭く伸びた鼻、目元にはバイザーゴーグルをかけている男。その名からしてスピード系の魔法を使うと思われる『レーサー』。

 

「ほぉ……何だっていーが、気に食わねぇツラだな」

 

「同感だな」

 

ここでも氷の魔導士二人が反応を示した。何かしらの本能が嫌悪感を抱いたらしい。

 

三人目は教会の修道服を身に纏い、ボリュームのあるオレンジのパンチパーマで、彫刻の様に角ばった顔をしている大柄の男。大金を積めば一人でも軍の一部隊を壊滅できる程の魔導士『天眼のホットアイ』。

 

「お金の為……?」

 

「下劣な……」

 

「(随分と顔が角ばってるな……ん?何かどこかで似たようなことが……)」

 

金の為に動くと言う情報に、シェリーとジュラが反応する。俗物と言う認識なのだろう。一方でシエルは心に留めるだけにしたが、ホットアイの彫刻のような顔立ちを、何故か初めて見た気がしない。

 

四人目は紅一点。白い羽を模した露出の高いワンピースを纏った、銀髪のおかっぱの女性。頭頂部の髪が不自然に円を描くほどに立っており、濃い青のカチューシャを着けている。心を覗けると言う女『エンジェル』。

 

「何か本能的に苦手かも……こーゆータイプ……」

 

映像を見ただけでルーシィは少し鳥肌が立った。出来れば関わりたくないと一目見ただけで感じる程に。

 

五人目は短い黒髪の男。浮遊している絨毯の上で胡坐をかき腕を組んで、寝ているのか、俯かせているその顔を見ることが出来ない。情報は少ないが『ミッドナイト』と呼ばれているらしい。

 

ミッドナイト(真夜中)……?妙な名前だな……」

 

これに反応したのはエルザだ。眠っているし名前も如何にもだと言う感想だ。だがそれは前者数人にも言えることのような気がする。特に最初の二人。

 

そして最後の六人目。白く長い髪を垂らし、コブラよりもさらに濃い褐色の肌、右手に魔水晶(ラクリマ)を口に入れた髑髏がついた杖を持った壮年と思しき男。顔には妙な黒い線がいくつも描かれている。六魔将軍(オラシオンセイス)の司令塔『ブレイン』。

 

「司令塔……実質は奴らのマスターってとこか……」

 

ブレインの説明を聞いてペルセウスがそう推測を立てる。6人しかいないギルドにおいて、司令塔がトップと考えても不思議ではないだろう。

 

「それぞれが、たった一人でギルドの一つくらいは潰せるほどの魔力を持つ。我々は数的有利を利用するんだ」

 

「あ……あの……あたしは頭数に入れないで欲しいんだけど……」

 

「私も戦うのは苦手です……!」

 

「ウェンディ!弱音吐かないの!!」

 

説明を終えたヒビキが告げた内容に、全くもって自信がない様子のルーシィとウェンディ。頭数では二倍以上の差を付けているのだが、その頭数に入れる気がしない。だが、その心配をする二人を安心させることも含めて、一夜が作戦の続きを説明し始める。

 

「安心したまえ。我々の作戦は戦闘だけにあらず。奴らの拠点を見つけてくれればいい」

 

「拠点?」

 

今はまだ六魔将軍(オラシオンセイス)の捕捉が出来ていないが、樹海には奴等の仮説拠点があると推測される。その拠点の場所を把握し、6人全員をその拠点へと集めることが今回の作戦の内の一つだ。

 

「集めるってどうやって?」

「殴ってに決まってんだろ!」

「結局戦うんじゃない……」

 

どこまでも思考がバーサーカーのナツ。集めると言う目的ならば手段は他にも色々ありそうだが……まあ、それがナツです。そして、奴らを拠点まで集めてどうするのかと言うと……一夜は天高く人差し指を掲げて、堂々とこう告げた。

 

「我がギルドが大陸に誇る天馬……その名も『クリスティーナ』で拠点諸共葬り去る!!」

 

その名前には一部の者に聞き覚えがあった。青い天馬(ブルーペガサス)が所有している天馬を模したデザインの巨大な魔導爆撃艇。これの超強力な攻撃によって、六魔将軍(オラシオンセイス)を即撃破する。これが最終的な目標となるだろう。

 

「てか……人間相手にそこまでやる……!?」

 

「そういう相手なのだ!」

 

わざわざ6人の魔導士を相手に、巨大な兵器と言えるクリスティーナまで使用するとは、ルーシィにとってはスケールが大きすぎる。だが奴等は人間として扱うには強大であり脅威。人の形をした兵器と呼んでも差し支えない。ならば目には目を、兵器には兵器だ。

 

「よいか!戦闘になっても、決して一人で戦ってはいかん。敵一人に対し、必ず二人以上でやるんだ」

 

ジュラからの忠言に一部を除く全員が首肯で応える。その一部とは、物凄く物騒な現状に涙混じりに震えるルーシィとウェンディ。そして更にもう一人……。

 

「おっし!燃えてきたぞ!!」

 

拳に炎を纏って掌にぶつけ、やる気を炎と共に漲らせるナツ。そして彼はそのまま別荘の出入口の扉を突進で突き破り、真っすぐ北の方向へと走っていった。

 

「6人まとめてオレが相手してやるァーーー!!!」

 

いつものように一人で真っ先に突っ走っていった。つーか……アイツ作戦全然分かってねぇ!!

 

「それがナツです」

 

「おいおい……」

「ひどいや……」

「扉、開けてけよ……」

 

この猪突猛進ぶりにはトライメンズも呆れ果てている。しかも別荘の扉は二枚揃って外側に吹っ飛んでいる。早速物壊しやがった……。

 

「仕方ない、行くぞ!」

 

「ったく、あのバカ!」

 

「うえ~ん……!」

 

先走って行ったナツを追いかけ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々がファルシー兄弟とハッピーを除いて追随していく。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)には負けられんな。行くぞ、シェリー!」

 

「はい!」

 

「リオン!シェリー!」

 

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)もジュラを置いてリオン達が先に追いかけていく。制止するようにジュラが名を呼ぶが止まる様子はない。

 

「オレたちも行くぞ!」

「うん!!」

「エンジェルかぁ♡」

 

青い天馬(ブルーペガサス)のトライメンズも更に続いていく。だが約一名、何だか集中しているように見えない……。

 

「あわわわ……!」

「ほら!しっかり!」

 

そして残された化け猫の宿(ケット・シェルター)。未だ恐怖心が宿って足がすくむウェンディを、シャルルが叱咤激励している。そこにすかさず同じく残っていたハッピーが声をかける。

 

「大丈夫!オイラがついてるよ!!」

 

シャルルにいいとこを見せようと奮起した様子で自信満々に告げるハッピー。カッコいいところを見せられるチャンス、逃すわけにはいかない!

 

「ウェンディ、行くわよっ!!」

 

だが悲しいかな、シャルルはハッピーには目もくれずウェンディの手を掴んで引っ張り、一行を追いかけていく。背丈に大きな差があるため、ウェンディの態勢が前のめりすぎて逆に走りづらそうなのは敢えて指摘しまい……。

 

「待ってよ~!置いてかないでよ~!!」

 

無視された上に置いてけぼりにされた事実から一瞬フリーズしていたが、すぐに我に返ってハッピーは彼女たちを追いかけた。あっという間に過半数が樹海へと走り去ってしまい、残っているのは兄弟二人と一夜にジュラ。このままでは出遅れてしまう。

 

「お、俺達も追いかけないと!」

 

「待てシエル」

 

どこか上ずった声ですぐさま追いかけようとしたシエルを、兄であるペルセウスが制止した。それに疑問を感じながらも振り向いた彼に向けて、兄は「よく聞けよ」と念を押してから話し始めた。

 

「今お前は、これまで生きてきた中で感じた事のないものに気付いたと思う。だが、今ここに俺達が集められた理由は、忘れていないよな?」

 

「え?そりゃ勿論、六魔将軍(オラシオンセイス)……だよね?」

 

質問に対する弟の答えに首肯してさらに彼は続ける。強大な闇ギルドの一角である六魔将軍(オラシオンセイス)。今まで彼らが相手した中でも、桁違いの強さと恐ろしさを持っている。勿論シエルもそれは承知済みだろう。

 

「けど、ついさっきまでの混乱と動揺で染まり切っていた状態で、満足にそいつらに対抗できると思うか?」

 

その言葉を聞いてシエルはハッとした。つい先程までたった一人の女の子を目にするだけでいつもの自分とは違う衝動に混乱し、頭の整理が追い付かなかった。あくまでもしもの話だが、もしその時と同じような、言ってしまえば気が緩んでしまった状態で六魔の誰かに遭遇したら?本調子で戦っても勝てるのか怪しいのに、結果は考えるまでもない。

 

「別に、その感情が悪とは言わない。むしろ人間にとっては重要なものだろう。兄貴としても、お前がそれを感じたことは嬉しく思う。だが今は、目の前の脅威に集中するんだ。気を緩めてその脅威に押し負けてしまっては、その感情を教えてくれたあの子にも危害が及ぶ」

 

シエルはそれに思わず、視線を下に移して手を胸に置いた。想像するだけで心臓が引き裂かれそうなほどに辛い。ヒビキによって見せられた映像の魔導士たちが、藍色髪の少女へ向けて無慈悲な攻撃を行う光景を、想像しただけで……。

 

それを現実にしないように、兄は忠告をしてくれたのだ。初めて抱いた感情を捨てることなく、だが今は、目前に迫っている悪を打ち倒す。

 

「ありがとう、兄さん。ようやく頭が冷えたよ」

 

シエルが浮かべた表情に、最早動揺も混乱もなかった。彼が今できることを、ここに呼ばれた目的を為すために動き出す。その顔を見て安堵の笑みを見せたペルセウスを背にし、シエルは今やるべきことを頭の中で整理する。まずは一人で突っ走ったあのバカ(ナツ)に追いつく。

 

乗雲(クラウィド)!!」

 

その魔法の名を叫び、彼の足元に数人分乗れるスペースがある白い雲が現れ、立っている少年をそのまま宙へと浮かび上がらせる。噂にしか聞かなかった天候魔法(ウェザーズ)を始めて見たジュラと一夜が関心の声を上げる。

 

「俺、先に行くよ。いいかな、兄さん?」

 

「ああ、すぐに追いつくから、気にするな」

 

兄弟の簡素なやり取り。それを済ませた後、シエルは雲を驚異的なスピードで飛ばし、北へと真っすぐ向かい始めた。その背中を見つめながら、ペルセウスは優し気な笑みと眼差しを向けている。

 

「そなたらは、互いに良い兄弟を持ったな」

 

「ああ、自慢の弟だよ」

 

微笑まし気に告げるジュラの言葉に肯定しながら彼は答えた。それはさておき、事ここにおいてはもう動くしかない。作戦開始だ。直ぐに追いつくと言った手前、早くに動かなければ長く待たせてしまう。

 

「さて、我々も行くとしよう」

 

「その前にジュラさん」

 

だが一刻も早く動くべきこの状況で、一夜はなぜか待ったをかけた。聞けば、聖十大(せいてんだい)()(どう)の一人であるジュラが、どれほどの実力者であるのか確認を取りたいようだ。

 

「その実力はペルセウス君のギルドのマスター・マカロフにも匹敵するので?」

 

「滅相もない。聖十(せいてん)の称号は評議会が決めるもの。ワシなどは末席。マスター・マカロフと比べられたら天と地ほどの差があるよ」

 

ジュラのその言葉は、この場にいるペルセウスに気を遣ってのものではない。彼自身の本心からの言葉である。大陸で最も優れた10人の魔導士に送られる聖十(せいてん)の称号。実際にジュラはその内の末席……つまり聖十(せいてん)で一番下に位置している。最も、つい最近その内の一席に座っていた一人が、除籍となり、場合によっては繰り上げの可能性も無きにしも非ずだが。

 

「だがそれでも、俺らからすればこの上ない頼もしい存在だよ、ジュラさんは」

 

「世辞はよしてくれペルセウス殿。現にワシは、全うできなかったクエストを貴殿に押し付けることしかできなかった未熟者だ」

 

確かに聖十(せいてん)では一番下かもしれないが、それでも大陸で見れば10番目。数多いる魔導士の中で10位と言うのは誇ってもいい数字だ。それでも謙虚な姿勢を崩さず、ペルセウスに押し付けてしまった(と思っている)10年クエストの事を引き合いに出してくる。だが、こればかりは仕方がないとペルセウスは考えていた。

 

「それはあんたが未熟だったからじゃなくて、そのクエストが……」

 

「うっ!?」

 

しかし、会話の途中でジュラは突如鼻を押さえてその場に蹲る。何もしていないはずなのに苦悶の表情を浮かべて何かに耐えている様子だ。目の前で謎の不調を起こし始めたジュラ。ペルセウスもその光景に驚愕を見せている。

 

「な……何だ……この臭いは……!!」

 

「臭い……?まさか!?」

 

その不調の原因が臭いだと聞いたペルセウスは気付いた。だが、それは信じられない事でもある。何故なら臭いに関する攻撃手段を持っている者は……。

 

 

 

 

 

 

 

味方である一夜ただ一人なのだから。

 

「その話を聞いて安心しました。マカロフと同じ強さだったらどうしようかと思ってまして……」

 

「一夜!一体これはどういうことだ!?」

 

困惑と怒りを混じらせた声で一夜に詰め寄ろうとするペルセウス。それを見た一夜は怪訝な表情を見せてペルセウスの方へと目を向けた。

 

「これは相手の戦意を喪失させる魔法の香り(パルファム)……なのに何故君には効いていない?今までこんな相手がいた情報もないはず……」

 

その言葉を聞いて、ペルセウスは妙な違和感を感じていた。彼の言い放ったセリフの中に感じられる妙な違和感、そして味方であるはずのジュラへの攻撃……。警戒を強め、ペルセウスは換装で三又の槍・トライデントを装備し、一夜に向けた。

 

「……一夜……本当にお前か……?」

 

その問いは一体何を意味しているのか。一夜はそれに答えもせず、一つ笑みを浮かべて腰に着けているホルダーから一つの瓶のコルクを外す。

 

「ピーリピーリ……」

 

謎の言葉を発しながら笑みを深くする一夜。いや、あれは本当に一夜なのか?その疑問を頭に巡らせていると、後方にいたジュラから更に悲鳴が上がる。その悲鳴に思わずペルセウスは振り向くと、体中に激痛が走って身を捩らせて苦しむジュラの姿が映る。今周りに漂っているこの香りが原因か……?

 

「更にこれは、あらゆる痛覚を刺激して、全身に激痛を走らせる香り……じゃなくて香り(パルファム)……だってさ!」

 

痛みに耐えられず倒れ伏すジュラ。そしてどこか子供らしい口調となって、その姿を煙に包ませる一夜……いや、一夜ではない。既にその姿を別のものへと変化させていた。

 

「ふう……」

「戻ったー」

 

その姿はまるで全身が水色の丸を基調とした二体の人形。簡素的な目と口のみが顔に描かれて、二体揃って両手と両足を交互に降りながら浮遊している生命体。

 

「あれは……!まさか一夜の姿をコピーしたのか!?」

 

「正解。さすがは堕天使、勘がいいゾ」

 

ペルセウスの言葉に答えるように姿を現したその人物を見て、彼は驚愕の表情を浮かべた。先程ヒビキの古文書(アーカイブ)に映されていた映像にあった、6人の魔導士の内の一人、白い羽を模した露出の高い服を着ている女……。

 

「エンジェル……!?」

 

「あのキタナイ男をコピーさせてもらったおかげで、アナタたちの作戦は全部分かったゾ」

 

「僕たちコピーした人たちの~」

「考えまで分かるんだ~」

 

策戦を説明する前にトイレに行って退室した一夜。恐らくその間にすり替わったのだろう。つまり作戦を説明したのもコピーされた一夜。こっちの思惑は筒抜けだったという事だ。その事実に気付き、ペルセウスは悔しさを滲ませている。

 

「それにしても、ジュラは倒せたのにどうしてアナタは何ともないのかしら?それも神に愛された賜物ってやつ?」

 

「……テメェに教えてやる義理はねぇ……!」

 

不可解と言わんばかりに首を傾げるエンジェルに対し、早くも味方を倒されたペルセウスは怒り心頭だ。それもこちらの懐にあっさりと侵入してきた上で。今にも目の前にいる女をこの槍で突き刺したい衝動を抑えている。

 

天使(エンジェル)と堕天使……相反する対面……いい絵になるゾ」

 

「その名前で俺を呼ぶな……!」

 

予期せぬ場所、予期せぬタイミングで光と闇がぶつかり合おうとする。しかし、余裕の笑みを浮かべていたエンジェルは手に金色に光るものを取り出して、残念そうに口を開いた。

 

「個人的にはこのまま倒してもいいけど、時間がないから失礼するゾ♡」

 

「逃がすと思うか!!」

 

トライデントを前に突き出して水の激流を巻き起こす。しかし、手が金色に光ったと思いきやエンジェルを優に超える高さまで、桃色の綿のようなものが立ちはだかる。一見するとすぐに洗い流されそうなそれは一瞬拮抗し、流すまでに少し時間を取った。

 

そして綿が流された時には、既に女も、人形のような小人二体もいずこかへと消えていた。

 

「まずい……後手に回った……!シエル、無事でいてくれよ……!!」

 

一夜、ジュラ。いきなり実力者を二人も下されてしまった連合軍。この激闘で最後に笑うのは、光か?闇か?




おまけ風次回予告

ハッピー「ねえねえシエル。オイラのお魚、シャルルに渡してきてくれないかな~?」

シエル「俺が渡してどうすんだよっ!?こーゆーのは自分でやらなきゃ意味ないじゃん!」

ハッピー「分かってないな~。シャルルの近くにはウェンディがいるんだよ?つまりシャルルに近づくことが出来れば、ウェンディにも近づけるんだよ!」

シエル「そ、そうか…!将を射んとする者はまず馬を射よ、ってことか…!」

ハッピー「よく分からないけど…多分そんな感じだよ!」

次回『六魔将軍(オラシオンセイス)現る!』

シエル「そういう事なら俺頑張るよ!他の男にプレゼント渡しを任せると言うダメなイメージもたれるかもしれないけど、ハッピーも頑張って!」

ハッピー「え!?ま、待って!やっぱ今の話無し~!!」
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