ほぼ原作の一話分が今作の一話として描写しないと収まりきらないボリュームに…。どうしてこんなにも長く書くことになってしまったのか…。それもこれもシエルが一目惚れしたせいです。(笑)
シエル「!?」
ワース樹海へ向けていの一番に駆け出して行ったナツと、それを追って次々と連合軍の魔導士たちも走って向かっていく中、比較的ペースが遅めの一団がある。
「ウェンディ!もたもたしない!!」
「だってぇ~!」
「オイラも!頑張るからねー!!」
シャルルに手を引かれて前のめりに走りながら、自信なさげな声をあげるウェンディ。その少し離れた後方から、シャルルに良いところを見せようと張り切った様子のハッピーが追いかける。
するとハッピーの更に後方から、猛スピードで迫ってくる者がいた。風を切って飛行するようなその音を聞いて、一番音に近いハッピーのみならず、ウェンディ達も後ろの方へと気を取られて振り向く。目に映ったのは、人が数人乗れそうな大きさの白い雲に乗り、急激な速度でこちらに追随してくる水色がかった銀の短い髪に、左目の上に金のメッシュが入った少年。
「二人とも、乗って!!」
「アンタは!」
「シエルさん!」
前方に見えたウェンディ達に向けてそう叫び、彼女たちの前方で急停止する。そのまま走るよりも、彼が扱う雲に乗って移動すれば、確実に早く目的地に辿り着ける。遅れを取り戻すことを優先し、シエルの説得に仕方なくと言った感じでシャルルが乗り込み、ウェンディも礼を告げながら乗った。
「よし、少し飛ばすよ。しっかり掴まってて!!」
二人が乗り込んだのを確認したシエルは、再び雲を発進する。人間では絶対出す事の出来ない速さで飛行する雲の上に乗るウェンディ達は、触れることができる雲をしっかりと掴んで、その速さに耐える。
「うわ~!シエルちょっとスピード落として~~!!」
その雲の最後尾部分を、置いていかれまいと必死にしがみついてきたハッピーがブラブラと身体を宙に揺らされている。だが残念なことに彼はその主張に従う気は無いようで、前方の集団に追い付こうと必死だ。ただし相乗りしている少女が耐えられる速度は意識しているが。
「凄い……!これが、天候魔法……?」
最初の内は猛スピードで巻き起こる風に目を閉ざして耐えていた少女が、しばらくして慣れてきたのか驚くべき速さで変動していく景色に目を奪われている。シエルの事を
「ちょっと……!皆、足速すぎ……!!うひゃあッ!?」
そしてまだ前方を先行しているらしいナツたちのスピードに着いていけず、既にへとへとの様子を見せながら弱音を吐いているルーシィを気付かぬうちに追い越し、その勢いで起きた突風で彼女に悲鳴をあげさせる。ついでにルーシィの近くまで一緒に並走してきたトライメンズも、物凄い速さで飛んでいく雲にそれぞれ驚愕の声をあげた。
「ちょ!?シエルー!!それあたしも乗せてよー!!」
「あ、ごめんルーシィ!あんまり余裕ないから戻れない!頑張って!!」
呼び留めようと必死に叫ぶ彼女の声に気付いて振り向くも、今引き返すのは時間の大幅ロスと考えて、謝罪しながら前進を進めて飛んで行った。その言葉と結果に、ルーシィはショックを受けて涙混じりに叫ぶ。
「ウェンディ達は乗せてってるのにー!?贔屓よ贔屓ー!!」
これが惚れた弱みと言うやつなのか、その理由だけで同じ女子の中で格差をつけるのかと、ルーシィはシエルに見せつけられた非情な現実にさらに悲しくなった。
「じゃあ僕が手を繋いであげるよ!」
「それともお姫様抱っこにする?」
「オレから……離れんじゃねーよ……」
「うざい!!!」
シエルに見捨てられた(と解釈して)所を、ライバルを自称するイヴが真っ先にルーシィにそう手を差し伸べる。それに続いてトライメンズの他二人もそれぞれ彼女をエスコートしようと声をかけるが、さすがに何度も似たようなことをされて、ルーシィは悲しみも忘れて一蹴した。
一方で最前線のナツ。後先考えずにワース樹海へとトップスピードで走る彼に、グレイとエルザがようやく追いついた。そして今いる切り立った崖から、一層木々が鬱蒼としているのを目にすることが出来る。
「見えてきた!樹海だ!」
「待てよ、ナツ!!」
「やーだねーっ!」
「馬鹿者!一人で先走るんじゃない!」
ナツの後ろから一人で先行く彼を落ち着かせようとするが、全くもって聞く耳を持たない。それどころか、彼らの言葉を別の焦りから出た言葉だと解釈したらしく……。
「へっへー!オレに先取られんのがそんなに悔しいのかよー!!」
あろうことかエルザに向けて挑発すると言う余裕ぶりだ。だが勿論これにエルザが何の反応も示さないことはなく……。
「貴様と言うやつは~~!!」
ナツにかける圧をいつも以上に増しながら怒りの声をあげる。さすがにビビったのか彼女から逃げるように慌てて前方を見ていなかったのがあだとなった。崖の方へと背中を向けていたため、既に地面が無くなった場所にナツはその身を投げ出した形となる。そして情けない悲鳴をあげながら、樹海の方へと背中から落ちていく。
「落ちたぞ、おい!」
「せっかちな奴め……」
それに呆れた様子を見せるグレイとエルザ。だが、次の瞬間何かが猛スピードで横切っていき、樹海へと落ちていくナツの方へと向かっていく。その何かに驚いて正体を確認する間もなく、それはナツの元へと辿り着いて地面に直撃する寸前に彼を助け出した。正体はシエルたちが乗る
「シエル!助かっ……うぷっ!
「ふぅ~ギリギリセーフ……」
ようやく追いついた。雲を操作するシエルに加え、ウェンディとシャルル、後方にハッピー、そして今しがた乗せて酔ったナツを加えて現在
「あの……ナツさん、大丈夫ですか……?」
「大丈夫だよ、いつものことだから」
「あい」
雲に乗った瞬間グロッキーになったナツを心配してウェンディが声をかけるが、見慣れた光景であるシエルが説明して、やっと止まったことによってよじ登ってきたハッピーが同意する。
「し、下まで着いたら……降ろしてくれ……」
「そしたらまた突っ走るでしょ?みんなが来るまでこのままな」
酔いが回って動けそうにないことを利用して、そのまま雲に乗りながらさっきと違ってゆったりとしたペースで奥へと進んでいく。崖の上にいたエルザたちがこちらに合流するのも時間の問題だろう。生い茂る木々が光を遮って薄暗い空気を作る樹海の中を進みながら、シエルはあるものを感じとっていた。
「妙な感じだ……」
「え、何が?」
樹海に入った瞬間、シエルが感じとったのは空気の変化。形容しがたいが、普段感じているものと比べて明らかに異質。良し悪しの区分けはともかくとして、確実に何かが違う事を感じとれる。ハッピーにはよく分かっていないようだ。
「確かに……この辺りから、何だか空気が全然違います……」
「ウェンディも分かるの?」
「この子は人一倍空気に敏感なのよ」
シエルが気付いた空気の変化に、怯えながらウェンディも同意を示す。彼女も気付いていたことに聞き返すと、こちらから視線を外しているシャルルが代わりに答える。いずれにせよ、警戒を怠らない方がよさそうだ。
「シエル、でかした!その場で待ってろ!!」
ゆっくりと進みながら一度木々の中から出て、植物が入らないような開けた岩場に出たタイミングでエルザたちが合流した。大分後ろの方だがルーシィたちの姿も見える。ナツが随分とヤバそうではあるが降ろしたらまた一人で行きそうなのでそのままである。
そして合流を果たした一同に、後方から巨大な影が差し込んだ。何事かと思い上空を見上げると、この場にいる全員を影で覆えるほどの大きさをした、船首を馬、左右の舷からそれぞれ一対二枚の翼がついた、青と白を基調したデザインの飛空艇が目に入った。
あれこそが『魔導爆撃艇・クリスティーナ』。噂の天馬。今回の作戦の要と言える存在である。
「凄い……!」
「おっきいね!」
「ちょっとは期待できそうね」
上空を飛行する巨大な
「よし、手分けして奴等の拠点を探すぞ」
「ん?何のことだ?」
「お前なぁ……」
しかし、彼らの感激の声はそこで止まった。突如何の前触れもなく、クリスティーナが内部から爆発を起こしたのだ。それも一回だけではない、あらゆる場所から何度も爆発を起こして破損していき、飛行を維持できなくなった艇は落下を開始する。
「そんな……!」
呆気に取られて両手を口元に持って来たウェンディの嘆きの声。それに呼応するかのように、クリスティーナは今彼等がいる場所からさらに下にある樹海へと墜落。そして大きな発光を起こしながら爆発した。
要であるはずのクリスティーナがあえなく墜落。その事実に呆気にとられ、言葉を失う連合軍。爆発によって起きた煙を眺めて困惑しながら、臭いで察知したナツを始め、煙の中からその存在を確認し、一斉に警戒を露わにしだした。
「誰か来たぞ!気ィ抜くなよ!」
「ひえーっ!」
「ウェンディ!!」
その中で戦闘に自信がないウェンディは、近くにあった岩の陰へ速やかに避難。その姿を隠し、シャルルに怒られていた。だが彼女以外にウェンディの方に意識を向ける余裕はない。火の粉混じる黒煙が徐々に晴れていき、その中に立つ者たちの姿を浮かび上がらせる。
別荘の中にて見せてもらった映像にあった、6人の男女。誰一人その映像と違わぬ容姿を持って、連合軍の前にその姿を現した。間違いない。
「こいつらが……!」
「けど、何故クリスティーナに……!?」
早速姿を現した今回の敵。だが、彼らを討つために準備された魔導爆撃艇、それに気付いて侵入、破壊に及べたのかが不可解だ。双方に睨み合う、若干の膠着状態を、敵側の司令塔である男、ブレインが連合軍の魔導士たちを一瞥して鬱陶しそうに呟く。
「フン、蛆共が……群がりおって……」
「君たちの考えはお見通しだゾ」
「ペルセウスは倒し損ねたけどー」
「ジュラと一夜はやっつけたぞー」
「何!?」
「バカな!!」
クリスティーナの発見、破壊を行った要因であるエンジェル。そして彼女に付き従う、他人の姿と思考をコピーする謎の小人二体が告げた内容に、天馬とラミアの魔導士は特に動揺する。それぞれのギルドにおける最強の戦力が、最初の段階で倒された。信じられない。だが真偽はともかくそれは彼らの心を揺り動かすのに十分だった。
そしてペルセウス。倒し損ねた……とは言っているが、現状彼がどのような状態になっているかは分からない。少なからず
「動揺しているな?聴こえるぞ」
「仕事は速ェ方がいい。それにはアンタら……邪魔なんだよ」
「お金は人を強くする、デスネ!いいことを教えましょう。“世の中は金が全て……そして……」
「「お前は黙ってろ、ホットアイ」」
目に見えて動揺する連合軍を見て、笑みをさらに深くするコブラ。連合軍に指を指して、敵意を向けて告げるレーサー。そしてホットアイは、金に執着して出来上がった持論を声高々に教えようとして前述の二人に遮られた。物凄く余裕を見せている。
だが余裕と言えば、一番隙だらけの人物が一人いた。映像に映っていた時と同様に、浮遊した絨毯に胡坐をかいて腕を組み、寝息を立て続ける黒髪の男……ミッドナイトだ。
「何か、眠ってる人いるんですけど……」
仮にも敵を目の前にして余裕綽々と言った様子の
「まさかそっちから現れるとはな」
広い樹海の中で、拠点、及び彼ら自身を探そうとしていたところに、一同勢揃い。当初の予定では拠点に追い込んで爆撃艇で一網打尽だったが、それが撃墜された今、最早作戦どころではない。撃墜された時は驚いたが、目当てとなる敵が今目の前にいる。その事実にナツとグレイが笑みを浮かべて互いに視線を合わせる。その様子を見て、シエルも動く準備を整えた。
「聴こえるぞ……!」
「「探す手間が省けたぜーーっ!!」」
真っ先に相手側へと攻撃を仕掛ける為、駆け出した二人。戦闘開始だ。相手は6人。人数ではこちらの方が多いが、多人数相手に力を発揮できるシエルはいつでも攻撃に移るため準備にかかる。
「天候は本日、一面曇り空!
天高く掌を突き出して辺り一面を灰色の雲が覆い尽くす。何人かが快晴だった空を一瞬で曇天にしたシエルの魔法に意識を向けるが、ブレインはそれを一瞥するとすぐに指示を出した。指示と言っても「やれ」の一言のみ。
「オーケー」
それを聞いてすぐに反応したレーサーが、一瞬でその場から消えた。
「モォタァ!!」
「「ぐあっ!!」」
そして残像も残さず、駆け出しているナツとグレイの背後に、身体を上下反対にした状態で現れると、そのまま横に回転して彼らを勢いよく拳と脚で吹き飛ばす。
「「ナツ!!グレイ!!……えっ?」」
吹き飛ばされた彼らを案じて名を呼ぶルーシィ。だが妙なことが起きた。何故か二重になって聞こえた自分の声。聞こえた方に視線を向けると、そこにいたのは何故かもう一人の自分。ルーシィは二人揃って突如現れたもう一人の自分に困惑する。
「ばーか!」
「な……何コレェ!?あたしが……え?ええ!?」
しかし片方のルーシィが唖然としているもう片方を鞭で攻撃する。何がどうなっているのかも分からないまま攻撃されているルーシィを見て、向こう側にいるエンジェルがほくそ笑んでいる。
「シェリー!」
「はい!」
遅れてリオンとシェリーも、ホットアイと対峙する。駆けて行くラミアの二人に対して、ホットアイは一度目を閉じると目元に左手の指二本を近づける。
「見えた……デスネ!」
そして開眼し、何かを発見した様子のホットアイが目元に寄せていた指を手と共に勢いよく前へ差し出すと、賭けていたラミアの二人の脚が突如地面に沈む。勢い良く沈んでいく自信の身体に異変を感じるよりも先に、ホットアイはそこから追撃していく。
「愛など無くとも金さえあれば!デスネ!!」
「な……何だっ!地面がっ!!?」
「愛の方が大事ですわ~!!」
あっさりと身体が沈み込むほどに柔らかくなった地面に体の自由を奪われ、その上で激しく動き出す地面に抵抗も空しく沈みこんでいく。
「(やっぱりどいつも規格外の強さだ……。けど、戦闘に参加していない、隙だらけの奴を攻撃できれば……!)」
この数瞬の戦闘だけで
「
「聴こえてるぜ、テメェの思惑」
矢を作り上げる直前、彼のすぐ横からその声が聞こえた。毒蛇と共にこちらに接近していたコブラがシエルの脇腹に蹴りを入れる。声に反応する余裕もないまま受けた衝撃に、大きく息が漏れる。気づかれていた?意識は確かに雲に向けるよう仕向けていたのに。
「その腹づもりで雲を出していたのも聴こえていたぜ」
頭によぎらせていた考えに答えるような口ぶり。まさか心の声が読める?それは確かエンジェルが呼ばれていた異名だったはずだが。
「あいつのはまた別だ。オレは聴こえるんだよ、テメェの思考も、息遣いも、筋肉の収縮から全て」
「出鱈目かよ……!」
動こうにも全て読まれて対応される。何もかもが通じずに対抗されるのは本当に厄介だ。ならば考える前に直感で動く!
「無理な話だ。聴こえるぞ、テメェのようなタイプは特に
獰猛な笑みを向けて余裕を表すコブラに、まずシエルは
「目潰し、からの追撃」
しかしそれをあっさり避けて、帯びている魔力を刃に変換。それをもう片方でも作り出して振り抜く。
「振り向き様に斬りかかる。それを2回」
「おおおっ!!」
雄叫びを上げながら右腕を大きく振り下ろすもあっさり手首を左手で掴まれて拘束される。
「声と動きを大きくしてオレの耳を撹乱……。
その死角から右の膝蹴り!」
体を大きく捻ってコブラから見えない右脚の攻撃を繰り出すが、これも防がれてしまう。
「(嘘だろ……!?全部……!!)」
「そう、全部聴こえてんだよぉ!」
動揺して一瞬体が硬直したシエル。その隙をついて彼の左側から大蛇が頭突きを食らわせて、その小柄な体を地面に転がす。戦いながら瞬時に状況を見極めて数パターンの動きを想定するシエルにとって、全てが筒抜けになるコブラはあまりに戦い辛く、逆にコブラにとっては手玉に取りやすい相手だ。様々な考えをめぐらす彼の更なる裏をかけばいいのだから。
「シエル!くっ……換装!舞え、剣たちよ!!」
大きく飛ばされたシエルを見て今度はエルザがコブラに攻撃を仕掛ける。天輪の鎧に換装し、いくつもの剣を操作してコブラがいる範囲を埋め尽くす。
「聴こえるぞ……」
しかし、ランダムに飛ばしたはずの剣の大群を、コブラは最小限の動きで次々躱していく。中には少しでもずれれば掠めたりするものもあるのに、一切のブレなく無傷だ。シエル同様に、エルザの攻撃も全て聴こえているようだ。驚愕しているエルザに今度はレーサーが彼女の隙をついて攻撃を仕掛ける。
「換装!『飛翔の鎧』!!」
スピードにはスピードで対抗する。チーターの耳を模した飾りを頭に、そして同じ柄のプロテクターを関節部分と胸当てにつけ、両手にそれぞれ剣を装備。速度重視に特化した鎧ーーー『飛翔の鎧』へと換装し、レーサーを追い立てて連撃を開始する。凄まじい速さで自分に肉薄してくるエルザを見て、焦ることなく、だが感心するようにレーサーが避けていく。
「おっ!速ェな、速ェことはいいことだ!!」
「だがな、聴こえてるぞ……
レーサーに対応していたエルザが意識を逸らしていたところを、その場からほとんど動いていなかったコブラが突き出した脚がエルザの腹部に直撃する。速さに対応したわけじゃなく、次の動きを聴いたことによって出来ることだ。今いる中では一番と言っていい実力者のエルザも、ギルド一つを相手に戦える魔導士を二人同時に相手するのは、さすがに不利のようだ。
「お前ー!!何寝てんだコノヤロウ!!起きろやコラァ!!」
一方で、最初にレーサーに蹴り飛ばされていたナツが、一向に起きる様子のないミッドナイトに苛立ち、勢い任せで咆哮を放つ。そのまま行けば直撃は必至。しかし炎の
「なっ!?何だ今の……魔法が当たらねェ……?」
「よせよ、ミッドナイトは起こすと怖ェ」
魔法が当たらず困惑するナツに、レーサーは再び攻撃を仕掛ける。後ろから、前から、横から、縦横無尽に駆け回って次々と拳や脚の攻撃をぶつけていく。
その後もグレイが攻撃を仕掛けようとすると、背後から小人二体がグレイに変身して逆にその攻撃を当てられたり、リオンとシェリーの連携攻撃を、ホットアイが土の波を起こして諸共飲み込んだり、ナツを行動不能にしたレーサーがすかさずトライメンズを追撃して、同様に倒したりと、圧倒してくる
次々と倒されていく連合軍を、ミッドナイト同様戦闘に参加していないブレインが笑みを浮かべて眺めていると、唯一拮抗して戦意を失っていないエルザに目線を移す。速度を上げて目にも止まらぬ速さで攻撃を仕掛けていく彼女だが、動きの全てが聴こえているコブラはどれも最小限の動きで躱していく。
「ほぅ……これがエルザ・スカーレットか……」
コブラの方が余裕を持って対応しているため、どちらに利があるのかは明らかだ。しかし、その動きを間近で見ていたブレインは、彼女の戦いに感心している。その言葉に込められた感情はどのようなものか……
「しめた!エルザがあいつを相手してる隙に……!」
「おっとそうはいかねぇ」
考えを聴いて攻めてくるコブラを、エルザが対処し、狙っているブレインもエルザの方に意識を向けている。攻撃するなら今だと構えるシエル。しかし急激な速さで彼の背後をとったレーサーに、背中を蹴り飛ばされて阻止される。更にそのスピードであらゆる方向から打撃を次々と撃ち込まれる。反撃をする隙も無い。
「ここはガキの遊び場じゃねーんだよ」
連撃を受けて倒れ伏したシエルに、レーサーはそう吐き捨てる。己の速さに対応もできない子供が、何故この場にいるのか理解に苦しむ。
「隙あり!!」
だが、エルザと対峙していたコブラが、突如エルザから距離を取って何かに動揺した様子を見せる。その隙をついて反撃に移ろうとしたエルザは、ホットアイが隆起させた地面によってその身体を宙に飛ばされる。
「コブラ!もたついてんじゃねーぞ!!」
それに気付いたレーサーがすかさず空中で身動きの取れないエルザに蹴りで追撃。一瞬の動揺から戻ってきたコブラは、レーサーの声ですかさず動いた。
「ちっ、『キュベリオス』!!」
右手を差し出して自身の身体に絡ませていた大蛇・『キュベリオス』に指示を出すと、その大きな身体を伸ばしてエルザの右肩に喰らいついた。エルザは悲鳴をあげながら両手から剣を手放し、その後大蛇に投げ出されて地面に叩きつけられる。
「キュベリオスの毒はすぐには効かねぇ。苦しみながら息絶えるがいい……」
蹂躙。まさに圧倒的。誰一人有効打を与えられぬまま、連合軍は一人残らず倒れ伏してしまった。これが最大勢力バラム同盟。その一角である、
「ゴミどもめ。まとめて消え去るがよい……」
動くことのできない連合軍を嘲りながら、今まで動かなかったブレインが最後の仕上げに手に持つ杖を構える。闇属性の魔法陣が杖についた髑髏の口ある
「『
「(させるか……!せめて、一撃……!!)」
痛みの引かない身体に鞭を打って、一矢報いようと力を籠めるシエル。右手に展開した雷の魔力を握り潰し、無理矢理にでも力を湧き上がらせる。
「レーサー!あの小僧、速さを上げて突っ込んでくるぞ」
「ほう?」
やはり彼の思惑はコブラに筒抜け。しかし読まれていようがもう実行する他ない。真っすぐに雷の如き速さで突っ込んで、ブレインの攻撃を阻止してみせる。
「
雷を全身に帯びて、立ち上がると同時に踏み込み、ブレイン目掛けて肉薄する。想像よりも素早い動きにブレインは僅かばかり動揺を見せる。しかし……。
「そらっ!」
「ぐぁあっ!?」
下の方向からレーサーに蹴り上げられ、ブレインにまで達することは出来なかった。速度を上げても、それ以上の速さで対応される。レーサー以上のスピードを出せなかったシエルに、ブレインから動揺は消え、嘲笑が浮かぶ。
「結構速かったぜ。さっきの侮辱は撤回してやる」
一方でレーサーはシエルの攻撃に素直に感心した。こんな子供が自分たちを相手に戦えるわけがないと思っていたが、今の攻撃はコブラが事前に把握して伝えなければ対応できなかっただろう。せめてもの敬意のつもりに、蹴り上げられて宙を舞うシエルの身体を、全力で向こうに蹴り飛ばした。最早悲鳴を上げることもままならないまま空を吹き飛び、地面に叩きつけられ、何度も跳ねて転がる。
そしてようやくそれが止まったのは、開けた岩場の中に唯一存在する隆起した岩にぶつかった時だった。
「うわぁ!?」
その岩の近くには、連合軍の中で戦闘に参加しなかった……否、出来なかった者たちが隠れている。二足歩行のネコのハッピーにシャルル。そして……。
「シ、シエルさん……!!」
凄惨たる光景を見て怯え震えながら、自分と一番年の近い少年の痛々しい姿を見て恐怖を抱きながらも、彼を案じてその名を呼ぶ少女。
「ん!!?」
その少女を遠くから目に映したブレインは目を見開いた。そして極限まで集めていたはずの魔力は、何故か途端にその勢いを弱め、辺りに霧散する。そしてその表情には、今まで感じなかった驚愕と動揺で染められていた。
「どうしたブレイン?」
「何故魔法を止める」
その手を止めて魔法を解除するほどにまで衝撃を受けた理由。それは今まで隠れていたーーー一人の少年の身を案じて乗り出し、現れた少女にあった。
「……ウェンディ……!!」
「え……?え?」
連合軍の魔導士のほとんどに興味を示さなかったはずのブレインが、戦闘に参加しなかった少女の名を告げる。それに対して、ウェンディはただ困惑することしかできなかった。
「間違いない……『天空の巫女』だ……!」
『天空の巫女』。
その聞きなれない単語に、
「何それ~……!?」
特にウェンディは、彼らに対する恐怖、自分自身がそう呼ばれていることによる困惑、様々な感情が入り混じって混乱している。
「こんなところで会えるとはな……これはいいものを拾った……。来い!」
そう言って杖を前へと差し出すと、先程の黒と緑が入り混じった魔力の波動を飛ばし、ウェンディ目掛けて迫っていく。
「させ……るか……!」
狙いがウェンディであることが分かっている以上、今の自分の体力を考えている場合じゃない。魔力を引き絞り、迫りくる波動に対抗する。
「
緑色に巡る竜巻が自身と岩、そしてウェンディ達を囲むように巡り、どの方向からでも対処できるようにする。簡単に手出しは出来ない。
「小癪な……!」
しかし、忌々し気に呟いたブレインが波動を操作すると、それに回転が加わって、シエル目掛けて横方向から襲い掛かる。無理矢理に竜巻を突っ切ってシエルが突き飛ばされ、竜巻が解除された。ハッピーとウェンディがシエルの名を叫ぶが、その間にも脅威は迫っていた。
シエルを突き飛ばした波動の先端が手の形に変わり、小柄なウェンディの体を掴み上げる。悲鳴を上げながら、彼女は身動きを取ることもできずに連れ去られて行ってしまう。
「「ウェンディー!」」
「っ……ウェン、ディ……!!」
為す術無くウェンディを連れ去られてしまったネコたちと、抵抗もあえなく破られてしまったシエルが彼女の名を呼ぶ。しかしそれで止まることはなく、シャルルとハッピーは連れ去られていく彼女を助けようと追いかける。
「何しやがる、この……!」
「金に……上下の隔て無し、デスネ!!」
ナツが阻止するために起き上がろうとするも、ホットアイによって地面を盛り上げられ、他の魔導士共々身を投げ出される。
「シャルルー!!」
「ウェンディー!!」
互いに手を伸ばして呼び合い、窮地を脱しようとする。そしてようやく届いたのか、ウェンディはそのネコの腕(前脚)を掴むことに成功した。
白ではなく、青いネコの方を。
「あ」
「あれ?」
「ちょ、アンタ!?」
気付いた時には既に遅し。
「きゃあああっ!!」
「ナツーーうわーー!!」
引きずり込まれた少女と青ネコ。髑髏の口にある
「ウェンディー!!」
「ハッピー!!」
消えて閉じ込められた相棒の名を呼ぶも、彼らにそれを応えることは出来ない。予想外であったが目的を達成したブレインは、今度こそ連合軍を仕留めにかかる。
「うぬらにもう用はない、消えよ!
杖から発せられる黒と緑に彩られた波動。無数に拡散されたそれは、上空から倒れ伏している連合軍目掛けて襲い掛かっていく。
「伏せろォーっ!!」
その号令に各自直撃を避けるために這う這うとなりながら対応していく。しかし約一名、少年一人のみが最早体に限界が来て動けそうにない。
迫りくる無数の波動。このままでは数人はその命を狩り取られてしまう。そんな窮地に、ある男たちが駆けつけた。
「『岩鉄壁』!!」
まず一人は、ホットアイが盛り上げて変色した地面を利用し、頂点部分からいくつも硬い石の柱を顕現させ、彼らに迫りくる波動を完璧に抑え込む。しかし、回避しきれない様子の少年に、隙間を縫った何本かが襲い掛かる。
「換装、イージス!!」
しかしそこでもう一人の男が、少年を背後に立ちはだかり、鏡のような光沢をした巨大な盾でその波動から守り切る。連合軍の絶体絶命のピンチを、たった二人で抑え込み、守り切った。
「間一髪……」
「皆無事だったか!?」
「ジュラ様!!」
「ペル!!」
倒されたと聞いていた
「兄さん……」
「随分やられてしまったみたいだな……大丈夫か?」
あちこちにケガやあざが出来た様子の弟を、悲し気な表情を浮かべながら安否を確認する。しかしそれに答えるよりも、シエルは先程まで奴等が存在していた場所に目を移した。そこにはもはや誰もいない。自分たちを圧倒してきた奴等も、そして守りたかった女の子も……。
「ウェンディ……!俺……守れなかったっ……!!」
両の拳を握り締め、歯を食いしばって俯く弟の姿を見て、何が起きたのかを大体把握した。励ましの言葉をかけようにも、何も思いつくことが出来ない。それは弟が抱く、今の自分への自責を刺激するだけになるのだから……。
「チクショウ……!チクショオ……!!」と涙を流して悔いを告げるシエルを、兄はただ見守ることしかできなかった。この最初の激闘、連合軍は完全に敗北した……。
おまけ風次回予告
グレイ「くそっ!まさか手も足も出ないままやられちまうとは、情けねぇぜ…!」
ペルセウス「俺もすぐに駆け付けられれば良かったんだが、あいつらの方がいろんな面で数枚上手のようだ…」
グレイ「ハッピーもウェンディも連れ去られちまうし、エルザは毒にやられちまうし、このままじゃ…!」
ペルセウス「焦る気持ちはわかるが、今は落ち着こう。そして、何をするのが最善か決めて、迅速に行動するんだ。ウェンディ達もエルザも助けるためにはな」
グレイ「ウェンディ…そういやあいつら、妙なことを言ってたな…」
次回『天空の巫女』
グレイ「連れ去られたのはそれが原因のようだが…」
ペルセウス「詳しく知っていそうなのは…一人だけいるな。そいつから聞いてみるとしよう」