出来る限り一週間に一話。あらかじめ決めておいたルールで今も尚続けられていること、すごく感慨深いです。
けど書きたいシーン、頭に浮かぶシーンは未だ多々存在するので、何とかこれからも続けていきたいです。
仕事とか他にも色々なものに振り回されて遅れるかもしれませんが、よろしくお願いします!
樹海の一角。
「オレたち
「ぎゃほー!さて早いトコやっちまおーぜ、ガトー兄さん」
「そーだな、オレたち
「それさっき言ったぜ……ガトー兄さん」
「そうかい?ザトー兄さん……だが
「野郎どもやっちまえ!!」
よく分からない兄弟漫才(何故かどちらも兄のようだが)もそこそこに、ザトーの号令で一斉に囲んでいた魔導士たちが3人目掛けて駆け出してくる。しかし妖精たちに焦りはない。むしろようやくかかってきた闇ギルドの者たち相手に待ちくたびれていたと言わんばかりだ。
「うおおおおっらあっ!!」
迫りくる魔導士たちに対してすぐさま散開した三人。その内の一人であるナツが拳に炎を纏い、密集する地帯を殴りつけ、その位置に群がる一団を爆炎で吹き飛ばす。
「せっ!やああああっ!!」
辺りに土煙が舞い上がり、視界が悪くなった隙をついてナツの背後から一人の男が剣を振りかぶろうとするも、雷の速さでシエルが男の腹に拳を突き立て、そのまま後ろにいる集団へと自ら突っ込み、感電させる。
「おおおぉらよぉ!!」
それを遠くから見ていた一人が魔法銃を構えて照準を合わせたところを、グレイがその男の顔面を掴んで氷漬けにし、その勢いのままさらに密集している者たち目掛けて氷結の河を発動し、打ち上げる。
両腕に炎を纏って振り回すナツ。造形でいくつもの氷山を作り上げて一蹴するグレイ。そしてシエルはここぞとばかりに
「天候は雷……後!
樹海の中に突如として吹き荒れる雨風。闇の者たちは紙切れの如く吹き飛ばされ、次々と樹海の木々に叩きつけられる。これだけでも相手にとっては大きな絶望を与えられる仕打ちなのだが、雨風を耐えようとしている者には、雷光となったシエルが物理攻撃で追撃して更なる犠牲が増える。
「ナツ!グレイ!ボスザル二匹はそっちに任せる!残りの雑魚共は俺が引き受けた!!」
『なぁっ!?』
蹂躙しながら二人に告げた言葉に、当事者のみならず物陰に避難していたシャルルも衝撃で声をあげた。
「な、何言ってるのよあいつ!ただでさえこっちが数少ないのに、まだあれだけいる人数を一人で請け負う気!?」
初撃で大分数を絞れたとは言えまだ半数以上残っている。それらを全て一人で相手するのはあまりにも無謀だ。少なくともシャルルはそう思っている。他の二人と先程のように連携しながら対処する方が確実な方法だと思うのだが……。
「ふざけんな!お前ばっかおいしい思いすることになんだろ!」
「オレにもよこせー!!」
「そうじゃないでしょ!?バカしかいないの、このオスども!!」
やはり無謀と感じていたのはシャルルのみだ。後の二人は取り分を根こそぎ横取りされるとしか思っていない。とんでもないバトルジャンキー思考の男たちに、彼女の声を荒げた叫びが響く。
「別にそれでもいいかもしれないけどさ、ここでモタモタしていたらウェンディ達に何が起こるか分からないだろ?」
掴みかかるようにシエルに迫っていた二人は、本人から告げられた言葉に、不満を現した表情を引っ込める。シエルの魔法は多人数相手に真価を発揮する。奴等の中で実力の高いザトーとガトー相手にどれだけ対抗できるかは不明だが、タイマンで戦いなれているナツとグレイがそれぞれを相手にし、その他の者たちを先程の
手っ取り早く奴等を下し、六魔の居場所を突き止めて彼女たちを救出する。それがシエルが考えて導き出した結論である。これには不満気な顔をしていた二人も反論できない。反論したくても言葉が出てこない。その間に更なる増援が彼らの元へと一斉に襲い掛かってくる。
「ずっと無言って事は肯定と了承と捉えるね。そんじゃよろしく!」
「「あ!!」」
雷光を纏ったまま垂直に急上昇して消えたシエルに目を剥いて固まるナツたち。その間に再び雲を具現し、雷の魔力を射出。
「まだまだぁ!」
方向を転換し、後方から来ていた敵には
「
勢いよく投擲された風の槍が地に突き刺さり、そこを起点に激しい風が舞い上がる。近くにいた者たちは当然上空へと投げ出され、追い討ちに雷光の速さで打撃を食らって地に叩きつけられていく。
「おのれぇ……あのガキ!!魔導散弾銃でもくらいやがれっ!!」
魔法の効果で滞空しているシエルに向かって、スキンヘッドのサル顔魔導士が散弾銃を乱射する。少年の顔や胸目掛けて飛来してくる銃弾を確認し、シエルはその表情を微かに驚愕で染めた。そしてその表情を変えぬまま手を胸や顔の前に何回か動かす。その行動の意図が分からず、銃弾を当てたはずのサル顔魔導士は「は?」と間抜けな声を漏らす。そしてシエルが握っていた右手を開くと……。
「出来ちゃった」
その右手には男が乱射した魔法弾が一つ残らず収まっていた。まさか素手で受け止められるとは。自分の反応速度も速くできる
「ば、バケモノォ……!!」と引き攣った悲鳴を上げるその男は、雷光を纏ったまま急接近したシエルの踵落としを脳天に食らい、地に埋められた。
「はあ……しゃーねーな。ここはあいつの言う通り、あのボスザル二匹で我慢しとくか」
「うっし!さっさとぶっ飛ばしてシエルに加勢してやろーぜ!」
宣言通りに一人で魔導士たちを蹂躙していくシエルの姿を見て、残る二人は彼の提案通りにボスザル二人と向かい合う。対峙している方は、先程の少年も含めて完全にこちらを下に見ている発言に多少の苛立ちを感じながら、ナツたちに向き合っている。
「ザトー兄さん、あのチビもこいつらも舐めてやがるよ」
「みてーだな、いっちょやってやろうぜ、ガトー兄さん」
「あのチビもこいつらも舐めてやがるよ」
妖精二人とボスサル二匹。多数を相手に大暴れする少年を背景に、ぶつかり合いが始まった。
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結論から言えば、ボスザル二匹は他と違って確かに強かったが、ナツとグレイには遠く及ばなかった。周りの、シエルが倒したと思われるギルド員たち同様に、地面に横たわって再起不能の状態となっているザトーとガトー。倒した二人は多少消耗しているが、余力はまだまだ十二分にある。
「おっしゃ!ようやくぶっ倒したぞ!!」
「ふぅ、意外とやるじゃねーか」
両腕を掲げて高笑いをするナツと、思った以上に実力があった二人に対してひと息を吐くグレイ。だが彼らにとってこれは終わりじゃない。親玉は叩いたが、まだ他のメンバーたちが残っているはず。
「おいシエル、ボスザル共は片付けたぞ!今加勢に……ってこっちも終わってるーっ!!?」
まだまだ戦い足りない様子のナツが少年の方に振り向くと、彼も既に戦いを終えていた。彼の魔法によって再起不能になった魔導士たちの山の頂上に腰掛けながら、「おつかれー」とこちらに腕を上げて声をかけている。彼もまだ余力はあるようだ。
「嘘だろ……
「嘘だろ……
「それさっき言ったぜ、ガトー兄さん……」
こんな結果は万に一つも想像できなかったらしいザトーとガトーが、漫才をしながら今の現状に嘆く。特に一番弱そうに見えたシエルが、ギルド員の大半を災害級の魔法を連発させて蹂躙してくるとかどうやって予想しろというのか、と言いたくなる。
「な、何なのよこいつら……!相手はギルド一つだったって言うのに……!!」
木の陰に隠れて様子を見ていたシャルルはただただ驚愕していた。たった3人の味方が何十人もの魔導士で構成されたギルド一つを圧倒した光景。この世のものとは思えなかった。特に度肝を抜いたのは、大半の物量を受け持ち、宣言通りに全滅させた少年だ。
最初の印象は生意気なオスのガキ。凄い魔法を扱って大活躍していると、彼女の相棒である少女が言っていたが、あの大立ち回りを見せられれば否が応にも納得させられてしまう。
「さて、次は……」
屍の山から降り、ボロボロになったボスザルの片割れ、アフロヘア―のザトーの近くまで歩いてきたシエルは、彼の胸ぐらを右手で掴み上げる。
「
「言うかバーカ、ぎゃほほほ……」
当初の目的だ。闇雲に探すよりも確実に特定することが出来る。しかし彼らも六魔の傘下だ。そう従順になって教えるわけもない。予想通りとも言える返答にナツが顔に怒りを募らせて殴り掛かろうとしていたが、それよりも先にシエルが動いた。「そうか……」とだけ呟き、左手で彼の襟首を持ち直してから右手を離し、横たわっている状態の
「
彼の行動に敵も味方も意図が読めず首を傾げていると、右手で小太陽を創り、器用に何本もの光の矢へと変化させる。そして倒れている敵側に向かって黒い笑みを浮かべながらこう言った。
「誰でもいい。奴等の拠点の場所を吐いてもらおうか。拠点のこと以外の無駄口を叩いたら……無駄口一つにつき一本、
『何ィ!!?』
身体は動かないが口は動かせる者たちの声が響いた。ついでに味方も驚愕の表情だ。
「ま、マジで言ってんのかあのガキ!?」
「やるわけねぇ!ハッタリに決まってる!!」
自分たちのような闇ギルドの魔導士じゃあるまいし。しかもあんな子供がそのような拷問をするわけがない。そんな前提知識を持っている者たちがまるで自分たちに言い聞かせるかのように叫ぶ。だがしかし。
「無駄口叩いたな?んじゃ一本目」
何の抵抗も無く躊躇いも無く。特に感情的な表情も浮かべずに矢の一本を指で動かしてザトーの背中に本当に刺した。当然高熱の細長い光を差し込まれたザトーは「ぎゃほおっ!?」と痛みを訴える悲鳴を上げる。その光景に再び敵味方含めて驚愕の声が上がった。
「や、やりやがった!!ホントにやりやがったぞあのガキィ!?」
「あ、また無駄口。もう一本追加ね」
「ぎゃほほおっ!!?」
「あ、そう言えば一本刺す前、無駄口叩いたの二人いたな。追加で一本刺しとくか」
「ぎゃほほほほお~っ!!!」
あっという間に光の矢を三本刺されるザトー。苦悶の悲鳴を上げまくる自分たちのボスを何の躊躇も無く痛めつける子供の姿に
「ふ、ふざけんじゃねーぞクソガキぃ!!これが人に何かを尋ねるような態度かぁ!?」
「はいまた無駄口叩いたからもう一本」
「ぎゃあほおっ!?オレもかよお!!?」
痛みに悶えて苦しみながらも自分の仕打ちに対して反論するザトー。しかしそんな言葉もどこ吹く風。機械的にもう一本光の矢をブスリと差し込んで強制的に途切れさせた。
「テメェ、ザトー兄さんに何しやがんだ!」
「おいガトー兄さん!今は余計な事言わねーでくれ!!」
「無駄口二つ出てきたから二本追加ね~」
「あぎゃほぉうおーっ!!」
兄(?)に対する仕打ちに我慢ならなかったガトーがそう告げたためにさらに二本同時に刺されると言う事態に。いくら敵側の……闇ギルドの者たち相手だからってこれはもう見てられない。拠点の場所を聞き出すにしては度が過ぎている。そう思った味方側の内の一人、グレイが恐る恐るシエルを止めようと動いた。
「お、おいシエル……さすがにそりゃあやりすぎなんじゃ……」
「あ、また無駄口出てきたからもう一本……」
「いやオレ味方なんですけどーっ!!?」
しかしグレイの声を耳にした瞬間またも一本ザトーに矢を突き刺していく。ダメだこりゃ。誰が止めようと動いても全然聞きそうにないぞこれ。
「テメェ、ザトー兄さんに何しやがんだ!」
「さっき言っただろガトー兄さん!!!」
「あれそうだったかい?ザトー兄さん」
「三本追加~……」
「わ、分かった!分かりました、言います!!言いますからもう勘弁してくださいお願いしますぅ!!!」
どこか目が怪しく光っているように見えるシエルが、指を三本立ててザトーの背中を狙っているのを見ながら、恐怖で涙を流したスキンヘッドのサル顔魔導士は完全に心を折られて六魔の拠点の場所を告げた。彼も含め、
「あいつ……ここまでするような奴だったっけ……?」
「もうどっちが闇ギルドなのかわかりゃしないわ……」
あまりにも無慈悲な
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四方を滝で囲まれ、それによって流れてくる川と、それが集う池。その池に一つの小島が浮かび、滝側の洞窟に行けるように点々と岩の足場が設けられ、大昔に人が住んでいた形跡が残っている。
「ここがその村か……」
「ちっと時間がかかっちまったな……」
ようやくたどり着いた、と言いたげなこの反応。実を言うとここに来るまでにもう一つ戦闘があった。戦った相手はかつて、
しかし力を上げていたのはかつて彼と対峙したナツも同様であり、更に言えば現時点のエリゴールすらも大きく上回っていた彼の力によって、エリゴールは大敗を喫した。しかし以前の様にギルドマスターへの報復と、力を求めて凶行に走った狂気はなりを潜め、ナツの言葉を聞いて気付かされたとは言え、一人の魔導士としてナツという相手に勝とうと戦った彼は、どこか清々しい表情すらしていた。
激闘を終えて移動し、ついに
「ハッピー!ウェンディー!」
「ちょっと!敵がいるかもしれないのよ!?」
廃村があるのは滝の下。滝が流れる崖上の高台からナツが囚われている二人の名を呼ぶ。奴等の拠点という事は勿論誰かしらそこにいると仮定される。それを考えずに名を呼んだナツに、シャルルは焦りだす。だがもう遅い。ここに自分たちが辿り着いたことは恐らく気付かれた。敵がいつ来てもいいように警戒しながら、崖下の廃村まで降りる方法を考えねば。
しかしそれよりも速く、こちらへと攻撃を仕掛けてくるものが現れた。目にも止まらぬ速さでこちらに打撃を打ち込んできたその男は、先程もその驚異的なスピードでこちらを圧倒してきたレーサーだ。
「またあいつだ!」
崖下から超スピードで駆け上がり攻撃を仕掛けてきたレーサーの姿を見て一気に警戒する3人。一方のレーサーは自信に満ちた様子で木の枝に立ちながらこちらを見下ろしている。
「コイツの相手をしてる余裕もないのに……!」
「ここは任せろ!お前らは早く下に行け!!」
一刻も早くウェンディ達を助ける為にもレーサーの足止めを買って出るグレイ。それに応え、下に向かおうとする二人をこの男が見逃すわけもない。
「行かせるかよ」
枝から急降下してシエルとナツの動きを止めようとするレーサー。しかし、その足が彼等には届くことはなかった。
「おっ!?ぎゃ!!」
下りるために伝った木がグレイによって氷に包まれ、その影響で足を滑らせてしまい、背中から落下した。これはまたとないチャンスだ。レーサーが起き上がる前に崖下へと向かうため、すぐさまシエルたちは動く。
「今だ、
すぐさま移動するために浮遊する雲を具現し、向かおうとするシエル。そしてナツも、ハッピー同様
「シャルル!羽……あ……!」
だが先程レーサーから受けた一撃で、シャルルは目を回して倒れていた。直ぐの復帰は難しそうだ。レーサーが起き上がるよりも先に起きてくれることも無いに等しい。
「シエル、シャルルを連れて行け!」
「わ、分かった!」
「え、何!?」
正直迷ったが、ナツはグレイと共に残ることを選んだ。雲の上に乗るシエルにシャルルの身体を下投げで託し、託されたシエルはそのまま一直線で崖下の廃村へと向かっていく。その勢いで意識だけは戻ったシャルルが、突如感じた思わぬ急降下に悲鳴を上げる。
「てめぇ……このオレの走りを止めたな……」
「滑ってコケただけだろーが」
「何ならもっかいコケとくか?」
自分の走りを止められたことで苛立ちを感じるレーサーに、不敵に笑いながらグレイとナツは再び彼と向き合った。
一方崖下に到達し、雲を解除したシエル。回復した様子で
「ウェンディー!ハッピー!どこだー!?」
「ウェンディー!」
見渡す場所には二人の姿も、レーサー以外の六魔も見当たらない。どこかの屋内にいるのか。名前を反芻して彼らの姿を探す。すると、洞窟の中からその声は聞こえた。
「シエルー!!」
「この声は!」
「あの中よ!」
反響してこちらに届いたハッピーの声。方向から察するに、少なくともハッピーがあの洞窟の中にいることは間違いない。すぐさま岩の足場を飛び越え、洞窟の中へと二人は駆け足で入っていく。
「な……何だ、コレ……?」
足を踏み入れた瞬間、二人は言葉を失った。洞窟の最奥。儀式を行う祭壇のような飾りやいくつもの蠟燭に火が灯っているその空間。奥地には髑髏の杖を持つ男ブレイン。比較的近い場所で横たわりこちらに涙を浮かべた目を向けるハッピー。蹲り、涙を流して謝罪の言葉を繰り返しているウェンディ。それ以外に、六魔とも連合軍とも違う一人の人物が立っていた。
背は比較的高く、髪は短く色は青藍。上半身に纏っているのは黒のインナーのみ。後ろ姿でしか視認できないが、シエルはその人物に見覚えがあった。それも、記憶に新しくとても印象的な姿。
「お前は……!!」
その声に反応するようにこちらへと振り向いたその男。
右目の上下に紅い紋章のような刺青が刻まれた美青年。
それはシエル、そしてエルザやナツにとっても忘れることが出来ない因縁深い人物。
「ジェラール……!!?」
ジェラール・フェルナンデス。楽園の塔にてシエルを大いに苦しめ、圧倒した、天体魔法の使い手。エーテリオンの暴発に巻き込まれたはずのその男が、今ここに生きて存在していた。
「ごめんなさい……!っ……ごめん……なさいっ……!この人は私の……恩人……な、の……!!」
涙を流し、嗚咽混じりにその青年を見上げて告げるのは、ブレインによって連れ去られていたウェンディ。しかし、今のシエルに彼女のその言葉が届いたかどうかは非常に怪しい。
「ウェンディ!あんたまさか、治癒の魔法を使ったの!?何やってんのよ!その力を無闇に使ったら……!!」
シャルルはウェンディが告げた言葉に、今彼女の近くに立っている青年に治癒の魔法を使ったと想定し、声を荒げる。魔力の消費が激しい治癒の魔法。その力を頻繁に使えばその魔力の消費は激しい。
それを体現するように、涙を拭って謝罪の言葉を告げていたウェンディは意識を失い、そのまま倒れてしまった。それを見て彼女の名を叫ぶシャルル。それを耳にし、そして倒れこむ彼女の姿を目にし、シエルは衝撃を受ける。
そして唐突に蘇ってきたのは、楽園の塔でのこと。8年という歳月、かつての仲間を騙して塔を作らせ、ゲームと称して自分たちを暗殺ギルドの者たちと戦わせ、評議員に潜入し、エーテリオンと言う破壊魔法を利用して己が野望を叶えるため、エルザやかつての仲間、自分たちを己の掌で踊らせ、その心を弄んだ、今目の前にいる男の所業を……。
「ジェラール……お前ぇ……!!」
あの時感じた怒り、湧き上がった憎悪、それが再び蘇り、さらに彼の近くには倒れこんだウェンディの姿。心の奥底から噴火するように爆発した激情のまま、右手に雷の魔力を具現して握り潰す。すぐ横で少年の異変を察知したシャルルが驚愕して声をかけるのも相手にせず、雷光を纏い地を踏みしめて、一気に駆け出した。彼の目に映っているのは、討つべきその敵。
「ウェンディに何をしたァアーーーーッ!!!」
拳を振り被ってその青年を殴り飛ばそうとするシエル。地を蹴ってから肉薄するまでの時間はまさに一瞬。終始余裕の表情を浮かべていたブレインが、目で追えていないらしく突如消えたシエルに驚愕している。気付いた時には彼の雷の拳がジェラールを捉える……
よりも先に、ほぼ同時に掌を差し出していたジェラールの閃光の波動が、シエルを飲み込んでその身体を吹き飛ばした。
ほぼ反射的。己の身の危険を感じとったジェラールの本能がその身体を動かしていた。眉一つ動かさずに、何の動揺も浮かべないまま小さな少年の攻撃に即座に反撃を行った。
そして攻撃を受けたシエルは悲鳴を上げることもできないまま岩の壁に叩きつけられ、その勢いで崩れた瓦礫に半身を埋めることになった。
「……相変わらず、凄まじい魔力だな」
ようやく、シエルが攻撃を仕掛けてジェラールに反撃された事実を理解したブレインが、彼に向けてそう告げる。だが、声をかけてきたブレインに対して、ジェラールは腕を振るう。するとブレインの足元が突如崩落し、彼は驚愕の声をあげながらジェラールが作った穴に落ちて行った。
あっという間に二人を行動不能に陥れたジェラールは、シエルを案じて駆け寄るハッピー、ウェンディを案じて近くまで来たシャルル、そしてこの騒動の中で唯一目を覚まさず眠り続けているミッドナイトに目もくれることなく、真っすぐに洞窟の外へと歩いて行った。
「シエル、しっかりして!」
彼の後ろ姿を呆然と眺めて見送るシャルルは、ハッピーの声でその視線を外す。痛みをこらえながら瓦礫をどかし、先程自分に反撃したジェラールに苛立ちながらその名を呟く。
「くそっ……あいつ……!!」
頭を手で押さえながらシエルは辺りを見渡すも、既にジェラールの姿はどこにも見えない。あのまま放っておいたら何をしでかすか分かったものではない。無視するわけにはいかないとジェラールが行ったであろう洞窟の出口を睨みつける。
「あいつが何者なのか知らないけどね、今はウェンディを連れて帰ることの方が重要でしょ?」
シャルルもようやく混乱から立ち直り、現時点で優先すべきことを告げると、シエルの目は見開かれる。そうだ。今自分たちがここに来た目的は、ジェラールではない。
「エルザを助ける為……ウェンディを、連れて戻る……」
「……分かってるならよろしい」
表情を様々なもので埋めて歪め、気絶しているウェンディに視線を向ける。そして紡いだ言の葉を聞いたシャルルは、彼が理解していることを察し、それ以外に何も口には出さなかった。ジェラールを置いておくわけにはいかない。だが今は、エルザの命を助ける為にも、ウェンディの身の安全の為にも、彼女を連れ戻すことが先決だ。
「シャルル、ウェンディをお願い。ハッピーは俺を抱えてくれる?」
「あいさー!」
「言われなくても!」
そうと決まれば即行動。シエルをハッピーが、ウェンディをシャルルがそれぞれ白い翼で抱えて飛び立つ。とにかくまずは、ウェンディをエルザの元へと連れていくことが最優先だ。
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一方でレーサーと対峙しているナツとグレイ。だが二対一で戦っている彼らは苦戦を強いられていた。大木の幹に背中を叩きつけられたグレイは、高速で迫り蹴りをぶつけようとするレーサーの攻撃を、咄嗟に体を捻って躱す。
「おらぁ!!」
そこをすかさずナツが炎を纏って腕を振るうも、またも高速で動いて攻撃を避け、そのまま高い木の枝に着地する。ずっとこのパターンだ。超スピードで撹乱してくるレーサーの攻撃を受け続け、こちらの攻撃は瞬時に躱される。二人の攻撃は未だにレーサーの身体を一切捉えていない。
「オレのコードネームは“レーサー”。誰よりも速く、何よりも速く、ただ走る」
「くそ!あんのトサカ野郎……!っ!?」
忌々し気に木の枝で仁王立ちするレーサーを睨みつけているナツ。しかし突如目を見開いて後方を勢いよく振り向いた。何かを察知して衝撃を受けたような、驚愕の表情を浮かべながら。
「この……匂いは……!」
「よそ見とは余裕だな」
明らかな隙。それを突かない理由はない。瞬時に肉薄したレーサーの声に気付くも遅し。顔、腹、胸の順に拳と蹴りの乱打を受け、ナツの身体が後ろに飛んでいく。
「何やってんだクソ炎!!」
敵から意識を外して油断していたナツにグレイの怒号が飛ぶ。それに一言文句を言おうとしたナツは、目に映ったある光景にその言葉を飲み込んだ。
木々の隙間から見える空に、二匹の空飛ぶネコに抱えられた、小さな体の男女。それが飛行して横切るのを見たナツが、途端に表情を喜色に染める。
「ハッピー!ウェンディも一緒だ!」
「助け出したか!」
ナツの声で続いて気付いたグレイも、表情に喜色を浮かべる。上手くいったようだ。単身で乗り込んでいったシエルに若干の不安があったが、無事な姿を実際に目にすると安堵が強くなる。
「バカな!?中にはブレインがいたはずだろ!どうやって!?」
そしてもう一人、レーサーもまた彼らの姿を見て表情と声に驚愕を込める。自分たちの司令塔がいた仮説拠点から、何故無事に治癒魔法使いの女を助け出せたのか、彼には分からなかった。
「決まってんだろ!シエルがぶっ飛ばしたんだ!」
「あいつ……怒らせると相当こえーからな」
一方でナツたちはあの少年が勝ったことを疑わない。特にグレイには先程
「くそっ!行かせるか!!」
「シエル!避けろぉ!!」
慌ててレーサーは大木を伝って一気に駆け上がる。彼の意図を理解してグレイがシエルにそう伝えるも、対処するには遅すぎた。シエルが、グレイの声に反応しレーサーの存在に気付いた時には、四人揃って彼に蹴り落とされてしまった。このままでは激突する。それぞれバラバラの位置に落下しそうになるのを理解したシエルが即座に動いた。
「くっ、
落下中に自分の下方向へ雲を具現して受け止め、その後すぐに気絶したままのウェンディの元へと向かう。自分が普段移動するよりも速く移動できる雲で先回りしたため、彼女を地面にぶつけることなく受け止められた。一安心。
「ハッピー!シャルル!」
「問題ねぇ!急げ!!」
そして後回しにしてしまったネコ二匹は、いつの間にか駆け寄っていたナツによって受け止められていた。しかし先程のレーサーの攻撃で両者気絶してしまっている。
「行かせねえって言ってんだろ!!」
しかしそれを黙って見ている程レーサーも甘くない。即座にウェンディを奪い返そうと超速でこちらに向かってくる。
「アイスメイク……『
しかしその走りは、グレイによって再び止められた。シエルたちを庇うように前方に出たグレイが、高さ十メートル、横幅数十メートルはあろう巨大な氷の壁を造り上げる。その規模はさらに横方向に広がり、如何に超速を誇るレーサーであろうと向こうに行くことは出来ない規模になった。
グレイとレーサー、二人がいる氷壁の向こう側に隔てられたシエルたちは、それを見て驚愕に目を見開いた。
「「グレイ……!」」
「行けよ……!こいつは、オレがやるって、最初に言ったろ……!」
今発動した大規模な魔法で急激に魔力を消耗。それによって息を切らしながら告げたグレイ。二人がかりでさえ苦戦した相手に一人で、それも魔力を使い過ぎて消耗したばかりの状態で対峙すればただでは済まない。
「ならオレも残るぞ!シエルがウェンディを連れて行けば、エルザも……」
「いいから行きやがれ!」
ここでシエルだけがエルザの元にウェンディを送り届ければ、グレイに加えてナツもこちらに集中できるだろう。しかし、グレイはそれを拒否した。これは彼の意地でもある。
「ここは死んでも通さねェ!行け!!エルザの所に!!!」
彼の覚悟を込めた言葉。そして城壁を保つために両手を広げるその後ろ姿。悲痛と心配を込めた表情でそれを見届けながら、二人もまた決断した。
「ハッピーとシャルルは任せろ!シエルは急いでエルザのとこに行け!」
「ああ!絶対……エルザを助けてみせるよ、グレイ!!」
ナツに応えてからグレイに告げ、ウェンディを乗せた雲と共に出来る限りの最速でエルザがいる方角へと飛行していくシエル。そしてナツもまた、グレイに背を向けながら、両脇に気絶するネコ二匹を抱え、静かに告げる。
「エルザは必ず助かる……だからお前も!あんな野郎に負けんじゃねーぞ!!」
「……当たり前だ……」
それだけを聞いて、ナツもまた駆け出した。シエルが先に向かった、エルザの元へと。仲間たちを背にし、確かに希望を託したグレイ。そんな彼が相手するのは、二度も走りを邪魔されたことで、怒りを表す最速の魔導士。
「貴様……二度もこのオレの走りを止めたな……」
「何度でも止めてやんよ。氷は命の“時”だって止められる」
膝をついて憎らしげに氷の城壁に手を置いて、グレイが告げる言葉に歯を食いしばって怒りを募らせる。レーサーにとって最大の屈辱だ。誰も追いつけない、逃れられない自慢のスピード。それを止められ、自分が追い付けないものをただ眺めることしかできないことは。
「そしてお前は永久に追いつけねェ。妖精の尻尾でも眺めてな」
仲間の背を追わせやしない。ここで確実に、奴の自慢の足を凍らせて止める。決意を胸に秘めた氷の魔導士が、速さを求める祈りに挑む。
おまけ風次回予告
ナツ「チクショー!グレイの奴、カッコつけた上においしいところまで持っていきやがって!」
シエル「いや~あれだけの事をされたら、確かにウカウカしてられないよね。俺達も負けないようにしないと!」
ナツ「おうよ!まずはエルザを治したら、すぐにグレイんとこに戻って加勢に行くぞ!」
シエル「そん時にはもう終わってるかもよ?俺に加勢しようとした時みたいに」
ナツ「何だとー!?」
次回『笑顔の魔法』
ナツ「つーかお前、さっきから何ニヤニヤしてんだ?ちょっと気持ち悪ィぞ?」
シエル「きもっ!?べ、別にニヤついてなんかいねーし!(ウェンディと)二人きりだからってテンション上がってなんてねーし!?」
ナツ「…やっぱ気持ち悪ィぞ、お前…」