FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

55 / 157
お先に謝罪しておきます。
予定していた展開よりも随分文字数多くなって中途半端なところで切れてしまいました。

もう一つ言うと次回の投稿は二週間後になります。

ニルヴァーナ編…ナツ、じゃなくて夏の合間に終わるかなぁ…?後半のオープニングが思いっきり夏題材なんだけどなぁ…。

一週間で数話も投稿出来てる方々が羨ましい上に尊敬します…。


第51話 共同の天、対立の星

黒い光の柱が屹立する位置を目指して、数人の男女は樹海の中を駆けて行く。青い天馬(ブルーペガサス)のヒビキを先頭に、シエルたちは先走っていったナツたちを追っている最中。色々と話はあるようだが、彼らを追いかけながら話した方が無駄に時間を使わずに済む。

 

「もう一度聞くようで悪いけど、シエルくんはニルヴァーナの事を、本当に何も知らないんだね?」

 

「ああ、名前すら今回の作戦で初めて聞いたよ。ましてやどんな魔法かなんて…」

 

シエルとしては、先程ウェンディが自分を責め続けて黒い感情に苛まれているように見えたのを、何とかしてあげたいと言う一心からの行動をしたつもりだ。それが、ニルヴァーナがどういう魔法であるかを知っているのか否かに繋がるとはどういう事だろう。何でそう判断したのか、ルーシィが聞くと驚くべき答えが返ってきた。

 

「本当のことを言うと、僕はニルヴァーナという魔法を知っている」

 

ほとんどの者たちがその答えに目を見開いて驚く中で、シエルは納得のいく表情を浮かべていた。それもそうだ。知っていなければ、自分に対してニルヴァーナという魔法がどのようなものかを知っていたのでは?と聞いてくるわけがない。

 

ではなぜ今になるまで誰にも言わなかったのか?それはこの魔法の性質に問題がある。意識してしまえば余計に危険であり、マスター・ボブからヒビキのみに説明された。他の参加者である一夜も、レンとイヴも知らされていない。

 

「どういう魔法なんだ、ニルヴァーナは…」

 

「とても恐ろしい魔法さ…。光と闇を入れ替える。それがニルヴァーナ」

 

光と闇を入れ替える。

それが意味するのはどういうことなのか。一同に困惑が広がる中で、一人その言葉を聞いた覚えのある者がいた。

 

「それ…ブレインって人も言ってました。どういう意味なのかは分からなかったけど…」

 

シエルの斜め後ろを追随しながら走るウェンディは、ブレインにさらわれていた間に彼の口からも同じ言葉を聞いていた。しかしブレイン自身も詳細を話そうとはしなかったため、具体的なことは彼女も分からない。彼女も含めて、自分以外に誰一人知らないことを認識しながら、ヒビキは説明した。

 

光と闇が入れ替わる、と言ってもそれは最終段階の話だ。まず封印が解かれると、今起きている通り黒い光が上がる。その黒い光は手始めに、光と闇の狭間にいる者を逆の属性へと変える。例えば、強烈な負の感情を持った光の者はその負の感情に支配されて闇に堕ちる。

 

「今だから言うけれど、シエルくんがウェンディちゃんを元気づけてくれなかったら、僕はウェンディちゃんを気絶させていた」

 

『え!?』

 

続けざまに告げられたカミングアウトに全員が声をあげた。このようなことを言えば、彼女を大切に思うシャルルが真っ先に抗議するが、先程のニルヴァーナの説明を聞いてその言葉の理由を察することが出来た。

 

「さっきウェンディが持っていたのは“自責の念”…。それも負の感情の一つだったから?」

 

「その通り。あのままじゃ闇に堕ちていた可能性もある」

 

自分のせいで。その自責が彼女に負の感情を持たせる要因となった。それを放置したままニルヴァーナの光に当たっていれば闇に堕ちていたかもしれないとヒビキは推測している。もしそうなっていたらと思うと…。起こり得たかもしれない可能性にウェンディは脳裏に嫌な想像を浮かべてしまう。

 

「あくまで可能性だよ。今ここにいるウェンディはそうなっていない、でしょ?」

 

そんなウェンディに走る速度を合わせて隣についていたシエルがそう言って再び励ました。その言葉に彼女の心は落ち着き、そしてはにかむような笑みで彼に首肯した。

 

「ちょっと待って!それじゃ“怒り”は!?ナツもヤバいの!?」

 

「…何とも言えない…。その怒りが誰かの為なら、それは負の感情とも言い切れないし…」

 

ジェラールに対して激しい怒りを表していたナツ。怒りもまた負の感情と言えるが、怒りと大きく括られたものの中にも、他者を思う義憤、無関係の者へと向けられる八つ当たりなど、善とも悪とも言える区分けが存在している。一概に今のナツの抱く怒りを負と断定することもできない。

 

「どうしよう~!意味が分からない…!!」

「あんたバカでしょ」

 

どうやらハッピーには全く理解が追い付いていないようだ。要約すれば、今現在の様にニルヴァーナが封印から解かれた時に、正義と悪とで心が動いている者は、今の性格とは真逆のものになってしまう、という事だ。正しい心を持つ者が負の感情を抱いていれば闇に染まり、悪しき心を持つ者が自らの行いに罪悪感を感じていれば光に染まる。

 

「それが、僕がこの魔法の事を黙っていた理由。人間は物事の善悪を意識し始めると、思いもよらない負の感情を生む。

 

『あの人さえいなければ…』

『辛い思いは誰のせい?』

『何で自分ばかり…』

 

それら全てが、ニルヴァーナによりジャッジされるんだ」

 

「質が悪いな…。全部ニルヴァーナのさじ加減って事かよ…」

 

自己を防衛するために、誰しもが一度は抱えてしまうような感情ばかり。その感情を抱いて心を揺り動かしてしまうだけで、ニルヴァーナの光はその者達の心を闇に移してしまう。シエルの言う通り、質が悪い魔法だ。

 

「そのニルヴァーナが完全に起動したら、あたしたちみんな悪人になっちゃうの…?」

 

「でも…逆に言えば、闇ギルドの人たちも悪い人からいい人になっちゃいますよね…?」

 

「確かに…善悪が反転してしまうなら、闇ギルドの奴等がわざわざ狙う理由が分からない…」

 

単純に善と悪が反転するような魔法を、何故闇ギルドの者たちが狙うのか?しかも、ウェンディはブレインからニルヴァーナの性質を知ってるかのような言葉を聞いている。尚更分からないが、ヒビキにはその答えに心当たりがあった。

 

「原理的にはそういう事も可能だと思う。ただニルヴァーナの恐ろしさは、それを意図的にコントロールできる点なんだ」

 

それが闇ギルドの奴等がニルヴァーナを狙う最大の理由。コントロールさえ出来れば、光の者たち全てを闇に引きずり込むことが可能。そしてもしもこの反転魔法がギルドに対して使われれば…仲間同士での躊躇なしの殺し合い、他ギルドとの理由なき戦争といった、人道から外れた狂気によって起きる事態が簡単に為せてしまう。

 

「一刻も早く止めなければ、光のギルドは全滅するんだ」

 

ここに来てようやく実感させられた。ニルヴァーナという魔法の脅威と、それが闇ギルドに渡ればどのようなことが起きてしまうかという危険性を。一刻を争う。早くナツとエルザに追い付き、共にニルヴァーナを止めるべく行動しなければならない。

 

「今のナツがどんな状態かも気掛かりだな…。ジェラールに対する怒りが、負の方向に向いてしまった場合…」

 

「そのせいでナツが闇に堕ちちゃったら…!!」

 

先走って飛び出したナツがニルヴァーナの影響を受けてしまった場合どうなってしまうのか、彼をよく知る妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々は、その姿を想像できてしまった。

 

 

『誰でもいいからかかって来いやーっ!!全員ぶっ飛ばして、全部ぶっ壊してやっぞコラァーーーッ!!!』

 

「ええっと…」

「いつもと大して変わらない気がします…」

「エルザが一喝したらすぐに光に戻ってきそう…」

 

燃え盛る炎をバックに額に“悪”と言う字が浮かんで衝動のままに暴れ回るナツ。うん、普段とそう変わらない。

 

「皆さん、ナツさんに対してどんなイメージが…」

 

「正義も悪も関係ないって事ね…」

 

化け猫の宿(ケット・シェルター)の二人も、これにはあまり言葉が出てこない。特にナツに対して憧れを抱いていたウェンディは、そんなナツが闇に堕ちたところで大した問題に見えないと判断されたことで色々と複雑そうである。

 

「ま、まあナツが闇に堕ちたらどうなるかは兎も角、今の俺達も油断しないように気を付けておこう」

 

「そうだね。手遅れになる前に、ニルヴァーナを止めないと」

 

現段階でも心が揺れ動けば、光と闇が入れ替わってしまう。今この場にいる者たちに闇に堕ちた者がいないのを見ると、そう簡単に傾くことはないだろうが、恐らくそれは向こう()も同じ。闇の者たちが光に行くことがないことを前提にし、味方が闇に堕ちる前にニルヴァーナを止めるべくさらに足を速く動かす。

 

しかしこの時彼らは知らなかった。考えてもいなかった…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

闇の中で唯一人、光の道へと目覚めた者がいた事を。

 

「世の中は愛に満ちています!!おお!愛!!!何と甘美で慈悲に溢れる言葉でしょう!!この世に愛がある限り!不可能は無いの…デスヨ…!」

 

その者の名はホットアイ。六魔将軍(オラシオンセイス)の一人であり、金に対して異常ともいえる執着を見せていた、ギルドでも一番の大男。しかし今の彼はその金への執着を一切捨て去り、滂沱の如く涙を両目から流し、菩薩のような笑顔を浮かべながら、愛という言葉にただただ感動して声をあげている。

 

ペルセウスとジュラがそれを見てフリーズしていることも気付かずにホットアイはさらに語る。生き別れた弟を探しすのに必死だったこと。金があれば弟を見つけられると信じていたこと。だが今しがた、それは過ちであることに気付いたことを。

 

「さあ!争う事はもうやめにする…デスヨ。そして、私のかつての仲間の暴挙を止めましょう!!彼らに愛の素晴らしさを教えるの…デスヨ」

 

「…えーと…」

「何が何…だか…」

 

そして涙と笑顔と感動を抑えず、フリーズしていた二人を纏めて腕の中に抱き留め意気込むホットアイ。彼の目から溢れ出る涙が二人の頭部に滝のように当たっているのを感じながらも、唐突なホットアイの変化に理解が追い付くことは出来なかった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

更に一方で、ジェラールの存在に気付き、彼がいるであろう光の下へと向かっていたナツは現在、大ピンチを迎えていた。

 

「お、お前…グレイ…!!」

 

蹲って立つこともままならない状態となっているナツ。そんな彼が見上げるのは、こちらに嘲笑を向けて佇む、いつもとは様子が豹変した様子のグレイ。何が起こっているのか、それは今彼等が立っている場所が大いに関係してた。

 

「お…おぷ…揺れる…!」

 

ゆるやかに流れる小川。その上をゆっくりと流れに沿って揺れ動くイカダ。そう、乗り物の上、ナツにとって何よりも弱点となる場所であった。

 

「かかったな、ナツ。確かお前の弱点は乗り物だ」

 

「て、テメー…何をしやが…!」

 

「うぜーんだよ。とっととくたばりやがれ、乗り物酔いのツリ目野郎…なんてな…。いつもの喧嘩ってヤツも、これで終わりだ…!」

 

動くこともままならないナツの頭を踏みつけながら、氷で作り上げた槍を構え、突き刺そうとするグレイ。仲が悪く喧嘩することも多々ある二人であったが、今のグレイは普段では全く見られない様子を見せている。彼に何が起きたのか疑問を浮かべる余裕もないまま、ナツに氷の凶刃が襲い掛かる。

 

 

その寸前に、一本の矢が氷の槍を貫き、粉砕した。

 

「誰だよ!?」

 

思わぬ横槍を入れられたグレイが、苛立ち混ざりに矢の飛んできた方向へいくつもの氷の槍を射出する。宙を駆ける槍たちはその刹那、今度は光で作られた無数の矢によって貫かれ、一本残らず消滅した。

 

「何してんのよ、グレイ!」

 

「であるからして~もしもし」

 

ルーシィの召還に応じて現れた人馬宮のサジタリウス。そしてシエルの光陰矢の如し(サニーアローズ)による射撃であった。仲間の凶行を横目で確認し、いち早くそれの阻止を行うためだった。

 

「お、お…!シエルー…シィ…うぷ…!」

 

「名前呼んでから吐きそうになるの、やめてくれないかしら!?」

 

「つか“シエルーシィ”って何だ…?勝手に繋げんなよ…」

 

折角助けたのに何だか色々と不本意だ。ルーシィは泣きながら、シエルは困惑しながらナツの言動にそう主張した。

 

「てかヒドいよグレイ!いくら何でもやりすぎだよ!!魚横取りされたとかなら分かるけど!!」

 

「魚なんかで命とる方が理不尽だろ!ここはやっぱ肉だ!!」

 

「どっちもどっちよ!!」

 

川から突き出ている折れた木にぶつかってイカダが止まる中、その上に乗っているグレイの行動にハッピーが抗議の声をあげる。しかし後半はどこか共感しづらい。ついでにシエルも。いくら食べ物の恨みが恐ろしいからとは言え…。

 

「っせーんだよテメーら。ウゼーっての。ナツ(こいつ)片付けたら相手してやっから邪魔すんじゃねーよ」

 

めんどくさそうに告げたと思いきや、どこかあくどい笑みを浮かべて続けたグレイの言葉に違和感を感じずにはいられない。まさかニルヴァーナによって闇に堕ちた?だとしたら分かるが、それでもまだ違和感が消えない。

 

「な…流れる…揺れ、てる…」

 

「止まってるからしっかりしなさい!」

 

「ナツ!今助けるよ!!」

 

イカダの動きは止まったはずなのに微妙な揺れで未だ酔い続けているナツ。それを助けるために(エーラ)を発動してすぐに駆け寄ろうとするが、そこをグレイがすかさず手を差し出してハッピーの身体を氷に閉じ込めた。

 

「オスネコ!」

 

「ハッピーに何すんだ!」

 

困惑を隠せないままシエルが彼に問いかける。しかしその問いに答えるつもりなのか、または別の思惑があるのか、グレイが口にしたのは妙なものだった。

 

「ハッピーは空を飛ぶ。運べるのは一人。戦闘力は無し。情報収集完了」

 

「は…?」

 

「何言ってるのよグレイ…しっかりして…」

 

これが闇に堕ちた者の姿なのだろうか。仲間であったハッピーに関する情報を羅列して呟きながらこちらの様子を見てきている。明らかに様子がおかしいことは分かるが、ニルヴァーナと本当に関係があるのだろうか?

 

「グレイから見たシエル。イタズラ好きのイタズラ小僧。割とコワいもの知らず。ペルセウスの弟…へぇ、こいつが…」

 

「…?お前…」

 

シエルの方へと視線を移して再び羅列を呟き始めたグレイ。その中の一つに、シエルは更なる違和感を感じた。例え闇に堕ちたとしてもグレイとは極めて異なる、違和感を。

 

「天気を変える魔法の使い手。星霊と星霊魔導士が憧れ…ほう?」

 

さらに続けていくと、今度はルーシィの方へと視線を向ける。そしてそこからは同様だ。

 

「グレイから見たルーシィ。ギルドの新人。ルックスはかなり好み。少し気がある」

 

「へあ!?な、なによそれ…!」

 

「見た目によらず純情。星霊魔導士…成程こいつか…」

 

唐突に明かされたグレイの暴露に思わずルーシィの顔が赤くなって鼓動が早まる。さっきグレイも言った通り意外と純情な部分がある。そしてそんな彼女にもお構いなしに、先程シエルが憧れを抱いているという星霊魔導士が彼女の事であることに気付くと、彼女に照準を向けて魔法を放とうとする。

 

「させるか!!」

 

それを雷の魔力を纏ったシエルが肉薄し拳を振るう。それに気付いたグレイはいち早く造形で氷の盾を展開し、それを防いだ。仲間に向けて攻撃を仕掛けたことに、後方にいるヒビキを除いた一同は驚愕に目を見開いた。

 

「シエルさん、何を!?」

 

「グレイから見たウェンディ。化け猫の宿(ケット・シェルター)の魔導士。女の子供。かなり臆病。ナツが何か知ってるらしいが詳しくは不明…ちっ、こっちが持ってるよりもさらに少ねぇな…」

 

その勢いで前方に出たウェンディの姿を見てまた何かを呟いたが、思ったようなものではなかったらしい。どこか期待外れと言いたげな表情だ。しかし、シエルは目の前にいるグレイに対してある種の確信を抱いていた。

 

「お前、グレイじゃないな?」

 

「グレイじゃない!?」

 

「やはりそうか。妙な部分が多く見られたから、もしやと思ってたけど…」

 

シエルが呟いた一言にルーシィが真っ先に声をあげて驚き、唯一その様子を見せなかったヒビキがシエルの言葉に同意した。だが考えても見ればそうだ。ニルヴァーナが善悪を反転させるのは、現時点において光と闇の狭間にいる者。自分が知ってるグレイは、そんな簡単に負の感情に揺れるような男ではない。では、目の前にいるグレイは何者か。

 

「もうバレたんだ。その姿を元に戻したらどうだ。それとも…

 

 

 

 

 

 

 

 

どっかで隠れて見てる、お前の“所持者(オーナー)”に出てきてもらうか?」

 

それさえも確信している様子のシエルの言葉に、今度はヒビキも含めて全員が驚愕した。対してグレイは、口元に弧を浮かべながら感心するかのようにその口を開く。

 

「へ~?星霊に憧れてるって言うだけの事はあるなぁ…」

 

クツクツと笑いを交えながら呟いたその言葉。だがそれは末の方へ行くに連れて、どこか声色を高くしていく。終いには一度俯かせて上げたグレイの顔。そこに映るグレイの目は、黒目の中心に白い瞳孔という、本来の彼のものとは異なる目となっていた。

 

『ピーリピーリ』

 

そしてグレイの姿が一度煙に包まれると、その姿を変化させていた。その姿は、今この場にも存在している金髪の少女。

 

「あ、あたし!?」

 

そう、ルーシィだ。しかし今この場でルーシィに変身したところで、何のメリットがあるのか分からない。

 

「君、頭悪いだろ?そんな状況でルーシィさんに変身しても騙される筈がない」

 

「そうかしら?あんたみたいな男は女に弱いでしょ?」

 

現にヒビキも最早呆れている様子ではあったが、どうやら変身したルーシィの目的はどうやら別にあった。不敵な笑みを浮かべながら、変身した方のルーシィは自分の服の裾を両手で掴む。その時のある人物の行動は早かった。一瞬にして目の前にいる方のルーシィの思惑を察知し、理解して顔を赤く染めながらも…。

 

「く、曇天(クラウディ)!!」

 

「ありゃ?」

 

たくし上げてその豊満な胸を晒そうとしたルーシィの大切な部分を、先手を打って灰色の雲を顕現させて隠した。どの角度から見ようが見えない様に。

 

「「ええーーっ!!?」」

「はわわわわ…!!」

「きゃあ!ギリセーフ!シエルナイスゥ!!」

 

その光景を見てようやくその現実を理解した一同の三者三様の反応が木霊する。ヒビキとサジタリウスはどこか残念そうな声をあげ、ウェンディは大胆にも自分の身体を晒そうとした偽ルーシィの行動にただただ恥じらいを感じ、そしてルーシィは自分の痴態を晒されそうになったところを阻止されて、羞恥を表しながらも心からシエルへの感謝を叫んだ。傍から見れば阿鼻叫喚である。

 

「何?あんた妙なところで律儀なのね?年頃の男ってこーゆーの興味あるんでしょ?」

 

「どこぞのケダモノと一緒にすんな!それに仲間の姿を借りて痴女みたいなことされるのは色々と見過ごせねーだろ!!」

 

「何か聞き捨てならない事言ってない!?」

 

イタズラ好きと言っていたからてっきりこういう色仕掛けにも乗ってくるかと予想していたらしいが、それは偏見である。一応シエルも健全な男子ではあるが、なんかこう、色んな意味で尊厳が損なわれそうだと感じたようだ。

 

あとこれでルーシィの裸に釘付けになったところをウェンディに見られたとしたら色々と終わる気がした。直感で。

 

「ありがとうシエルくん…おかげであっちのルーシィさんに、ペースを乱される事態を避けることが出来た…!!」

 

「も、もしもし…!!」

 

「表情と言葉が一致してねーよ、お前ら…」

 

「このオスどもは…」

 

一方でヒビキは、言葉こそ偽ルーシィの行動によって起きる不測の事態を回避できたことに感謝を告げながらも、その表情はどこか悔し気と言うか遺憾を感じさせる歪んだものを浮かべていた。ついでに後方のサジタリウスは敬礼をしながらも下唇を嚙んで涙を流している。大丈夫?闇に堕ちたりしないか?

 

「はわわわわ…!」

 

そしてウェンディ。雲によって大事なとこは隠れてたはずなのに未だに衝撃から抜け出せてないようだ。幼い彼女にはこれでも刺激が強かったらしい。

 

「ま、いいや。星霊情報収集完了。へえ、スゴイ…結構鍵持ってるんだ?」

 

ここで偽ルーシィの本来の目的と言える言葉がここで明かされた。どういう原理かは不明だが、どうやらルーシィが持っている星霊の鍵の情報が目的だったらしい。更にはもう一つ別格の情報もおまけでついてきている。魔力はさほど高くないと言うのに、星霊王と謁見まで果たしているらしい。歴史上でもそのような魔導士が一体何人いただろうか。

 

「それじゃサジタリウス。お願いね?」

 

偽ルーシィが呟くと、衝撃的な出来事が起きた。彼女の言葉通りに、突如サジタリウスが味方であるはずのヒビキを狙って射撃。数発の鋭い矢が彼の身体を抉った。

 

「サジタリウス!?」

「何よ!この裏切り馬!!」

 

「ち、違いますからして…!それがしはこんなこと…しようとは…!!」

 

突如として凶行に走ったサジタリウス。だがそれは本人も多いに困惑を露わにしている事態だ。自分と契約している星霊であるサジタリウスが、自分の意思とは関係なく行動させられた?

 

「ヒビキさん、今治療を…!」

 

「っ!ウェンディ!!」

 

思いがけずダメージを受けたヒビキを回復しようとウェンディが駆け寄るが、異変に気付いたシエルが高速で移動し、ウェンディを抱えて横に跳ぶ。その勢いでウェンディから悲鳴が漏れるが、彼女が向かっていた位置に、サジタリウスの矢が数本襲い掛かった。これもまた本人の意思とは関係のない行動である。

 

「あんたまさか、あたしの星霊を操って…!?」

 

「そう、今のあたしはあんたと同じことが出来るのよ」

 

姿や能力はルーシィと同じ。そして契約に従ってその力を行使する能力もまた、本物である彼女と同等らしい。今のサジタリウスは、自らの意思に反して、身体が味方である本物のルーシィたちに牙を剥いてしまっている状態だ。

 

「くっ…!シャルルはウェンディを連れてこの場を退避!ルーシィ、サジタリウスを閉門するんだ!」

 

「待って!私もサポートなら…!」

「ウェンディ!ここは言う通りにするわよ!!」

 

「確かに、こいつヤバイ…!サジタリウスを強制閉門!!」

「申し訳ないですからして、もしもし…」

 

状況を判断してすぐさまシエルがそう指示を飛ばす。変身した相手の能力を行使できる敵に対して、ウェンディがこの場にいるのは危険すぎる。そして今操られている状態のサジタリウスをこの場に残すのも厄介だ。そう考えて出した指示に従い、シャルルはウェンディの身体を抱えてすぐに飛び上がり、ルーシィはサジタリウスの鍵を手に持って彼を星霊界に帰す。ここからどう形勢を覆すか、考えるよりも先に、向こうのルーシィが動き出した。

 

「開け、人馬宮の扉。サジタリウス」

 

「お呼びでありますか~もしもし!…ってあれ?」

「えーーっ!?」

 

「しまった、考えてみりゃそうだ!」

 

失敗した。本物さながらの口上を告げて鍵を差し出せば、先程星霊界に帰ったはずのサジタリウスが向こうのルーシィの召喚に応じて現れる。ルーシィの能力を丸々使用できるのなら、本物同様呼び出すことも可能だ。その可能性に気づけなかった自分が情けない。

 

「これは一体…如何なることで、もしもし?」

 

「あんたを呼び出したのはあたし。だから、今はあたしがあんたのオーナーよ♡」

 

「確かにその通りでありますがもしもし…」

 

しかも今度は本物が呼び出した星霊を操るのではなく、向こうが呼び出した状態だ。その命令による力は先程よりも強力になるだろう。これ以上放置するのはマズイ。姿や声、喋り方が本物と同等の為に抵抗はあったが、仕方がない。

 

「ルーシィごめん、ちょっと気分を悪くさせる!」

 

「え!?」

 

驚愕の声をあげる本物のルーシィ。それを尻目に、雷を纏ったシエルがサジタリウスに指示を出そうとしている偽者のルーシィに蹴りを放つ。咄嗟に体を庇う事しかできなかった偽者は忌まわし気にシエルを睨みながら後方に飛ばされ、向こう岸に着地する。だが口元に弧を描いたかと思うと「こっちの方が使えそう…」と呟き、再びその姿を煙で包んだ。

 

「まさか…!」

 

その拍子にサジタリウスの姿も消えていき、ルーシィは再び姿を変えようとするその存在が、誰に変身するのか予測がついた。そしてその予想は当たる。先程自分と同じ姿をしていたその存在がいた場所には、目の前に背を見せる少年と同じ姿となっていた。

 

「今度は俺か。そこまでして他人の姿でいるのが好きか?黄道十二門の一体・『双子宮のジェミニ』!!」

 

「『ジェミニ』!?」

 

本物のシエルが告げた正体に、ルーシィは驚愕の声をあげた。シエルの記憶から呼び起こされたのは、六魔将軍(オラシオンセイス)の一人、紅一点である女性に付き従っていた二体の小人。その小人はあの乱戦の中でルーシィ、そしてグレイの二人の姿に化けて、こちらを撹乱してきた。

 

あの時は乱戦状態の上、戦いが終わった時にはウェンディが連れ去られていたために考えられる余裕も無かったが、次々と姿を変えていくその存在を、シエルは本で読んだことがあった。それが双子宮のジェミニ。二身一体の黄道十二門が一体である。

 

「この方が何かとやりやすくてさ。それに、使える手札が多そうな奴ほど、色んな状況に対応できるだろ?」

 

シエルの姿をした偽者…ジェミニが本物同様のイタズラをするときの笑みを浮かべながら、掌に小さな太陽を創り出す。そしてその太陽は彼の動きに合わせて分裂し、形状を細長くしていく。

 

光陰矢の如し(サニーアローズ)…!?くっ…!」

 

自分が出せる最速の技を先手で発動されて焦りながらも、シエルは雷光(ライトニング)の効果で速くなったことで回避するために身構える。

 

だが、ジェミニの狙いは目の前の本物ではなかった。

 

「ホントは、サジタリウスに任せりゃ確実だったんだけどな~」

 

そうぼやきながら上空の方へと視線を向けるジェミニ。確かその方向にいたのは…!

 

「お前…どこを…誰を狙って…!?」

 

「そんなの決まってるだろ?」

 

目を見開いて尋ねるシエルに対して、同じ姿のジェミニがあっけらかんとしながら答える。光速の矢で狙うのは、先程退避させた少女と、相棒のネコ。ネコの方は兎も角、少女の方は自分の主人の仲間が捕えていた貴重な存在。それを奪い返すためには邪魔となる存在は消さねばならない。そう判断して、一番効率がいい光の矢を選んだ。

 

狙いを定めて矢を番え、右手を突き出せば発射される。収集中の情報をもとにして行動すれば初めて扱うものでもコピーした魔導士と同じ要領で扱える。逃がしはしない。淡々と思考を巡らせてその腕を動かして矢を発射する。

 

「ふざけんなぁあっ!!!」

 

直前。憤怒の表情を浮かべた本物の拳が、偽者の左頬を捉え、その身体を大きく吹き飛ばした。雷を纏った状態の中でも、今までで最速。最早一瞬の出来事。歯を食いしばって己と同じ姿をした存在を睨みつけるシエルに、ジェミニは痛みをこらえながらも起き上がって気怠そうに口を開いた。

 

「いっつつ…!どうもお前は集めた情報とは微妙に違う動きをするなぁ…。グレイやルーシィが見てきた俺は、ここまで感情を爆発させては……ああ、成程…?」

 

困惑のようにも見える表情を浮かべながら随時シエルの情報を取り入れていくジェミニ。だが、その途中で今の怒りに納得がいくような情報が更新されたのか、その顔をイタズラをするときの顔へと変貌させる。見慣れた自分の顔ではあるが、この時ばかりはその顔にも苛立ちさえ覚えてしまう。

 

「もういいゾ。ニルヴァーナが見つかったって事は、あのガキの役目も終わってるって事だゾ」

 

「それもそっか」

 

すると、ルーシィたちから見て向こう岸の木陰から、一人の人物が現れる。それはシエルがジェミニを従えていると推測した人物と同じ。銀色の髪を持つ、六魔将軍(オラシオンセイス)の紅一点。心を覗ける女、エンジェル。彼女が姿を現しながら告げた言葉を聞いたジェミニは、納得した様子を見せながらその姿を三たび煙で包む。

 

そして現した姿は、最初の乱戦で姿を見せていた二体の小人。ジェミニ本来の姿である。

 

「「ピーリピーリッ!」」

「は~いシエルくん、ルーシィちゃん。エンジェルちゃん、登場だゾ」

 

六魔将軍(オラシオンセイス)…!」

 

「ようやくお出ましか…」

 

やけに馴れ馴れしく挨拶してくるエンジェルに、ルーシィもシエルも警戒を強くする。ジェミニ一体だけでこちらのペースをかき回されたことにより、やはり向こうの方が戦力が上であることを実感させられる。

 

「先程シエルくんが言い当てた通り、このコたちは相手の容姿・能力・思考全てをコピーできる双子宮の星霊・ジェミニ」

 

「『ジェミー』だよ~」

「『ミニー』だよ~」

 

「あいつも…あたしと同じ星霊魔導士…!!」

 

自分と同じく星霊魔法を扱う魔導士。闇にその身をやつしながらも天使(エンジェル)を名乗り星を操るその女に、天に愛された少年と、星を愛する少女が覚悟を持って対立する。




おまけ風次回予告

シエル「よくよく考えてみたら、俺今、スゴイ現場に立ち会ってることになるよね?」

ルーシィ「へ?スゴイって…どういうこと?」

シエル「だってさ、ルーシィは既に黄道十二門の半数・6体と契約してるんでしょ?そんで向こうの星霊魔導士も黄道十二門複数体持ってるから…世界に12本しかないはずの金の鍵がどんだけこの場に揃ってるのって思うわけ!!」

ルーシィ「それは確かに分かるけど、やけにテンションたっかいわね…」

シエル「どうしよう…このまま順調に12本の鍵が同じ場所に揃ったら…!」

次回『星霊合戦』

シエル「あ〜ヤバい!想像しただけで身体中震えてきた!何か開きそう、世界の扉が開きそう!!」

ルーシィ「多分あんたが言ってるのは、開けちゃいけない世界の扉じゃないかしら!?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。