FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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二週間ぶりです。
今回は結構難産でした…。原作通りのままだと新鮮味ないし、変更できる箇所は~って考えながらやってると結果的に凄く長くなります。(笑)

あとこれ、多分小説書いてる人たちにとってあるある何でしょうけど、先の展開で書きたい箇所があっても、それまでの途中の展開で行き詰まる…。この回とかが顕著かもです。(笑)


第52話 星霊合戦

一つの河を挟んで睨み合う光と闇。その狭間にいる者を逆の属性へと変えるニルヴァーナの光を浴びて何の変異も感じさせないという事は、目の前にいる女性、エンジェルがその狭間に立っていない証。やはりそう簡単に六魔将軍(オラシオンセイス)の者が光に移ることがない。今この場においてニルヴァーナの光は意味を為さないのと同義だ。

 

「(ヒビキもナツも、今は戦えない…。戦えるのは、あたしとシエルの二人…でも、やるしかない!)」

 

少なからず不安はあるが、ここで退いては味方が危ない。自分たちが戦うしか切り抜けられる方法は無いのだ。

 

「私…ルーシィちゃんが持ってる鍵が欲しいの。君を始末して星霊をいただくゾ」

 

「そうはいかないわ!」

 

「簡単にやられると思うなよ…!」

 

笑みを浮かべながら告げるエンジェルに対し、表情険しく彼女に対して敵意を剥きだす二人。特にシエルは言葉を告げながら竜巻の魔力を両手に集めて放出しようとしている。

 

「ジェミニ、もっかいお願いね」

 

「「ピーリピーリ!」」

 

それを見たエンジェルが指示を出すと、小人に体が互いにぶつかり、その姿を再びシエルに変化させる。そして目の前にいる本物同様、両手を合わせて風の魔力を集中させる。

 

「竜巻注意報…竜巻(トルネード)!!」

 

横に廻って放出される緑の竜巻。二人のシエルが互いに向けて放ったそれが真正面からぶつかり合い、その余波で周囲に突風が巻き起こる。勢いよく吹き荒れる風のせいでルーシィが腕をこの前に出して堪えている中、シエルは先程放った竜巻の魔力を再び集め直す。

 

風廻り(ホワルウィンド)(シャフト)!!」

 

「無駄無駄。今の俺はお前と同じことが出来るんだぜ?」

 

集めた魔力で棍の形に作り直せば向こうも同様に行動してくる。棍同士でぶつかり合えば先程竜巻同士でぶつけ合った時と同じことの繰り返しだ。その事には勿論既に気付いている。だから…。

 

「せやっ!!」

 

自分の足元の川に、風の棍を思い切り叩きつけ、激しい水しぶきを起こす。直接的な攻撃で仕掛けてくると身構えていたジェミニは表情に驚愕を浮かべる。大きく舞い上がった水が互いの姿を遮断し、ジェミニ、そしてエンジェルから自分の姿が見えなくなる。

 

気象転纏(スタイルチェンジ)風廻り(ホワルウィンド)(スピア)!!」

 

そして棍の形をしていた風を槍へと変化させ、水しぶきの向こう…エンジェルが立っていた方向へと狙いを定める。ジェミニは星霊。召喚した星霊魔導士が大きくダメージを受ければ顕現することも難しくなると考えた。槍を握る右腕を大きく後ろに引き、エンジェルがいた場所目掛けて投擲する。

 

竜巻(トルネード)!!」

 

しかし、それをジェミニが阻止した。風の槍が飛んでいく延長線上に竜巻を発生させて、その槍を吸収。消滅させたのだ。防がれるとは思わなかったシエルは、思わず声をあげて驚く。

 

「ちょっとビックリしたけど、狙いが分かれば対処は可能だ」

 

「ジェミニの力を忘れたのかしら?コピーしている間は、思考すらも手に取るようにわかるんだゾ」

 

口元に弧を描きながらシエルの行動を見切ったエンジェルとジェミニが告げた通り、ジェミニは容姿と能力、そして思考すらも完璧にコピーすることが出来る。それによって、シエルが起こした行動の意図を先読みし、それを防いで見せた。

 

「今度はこっちからだ。吹雪(ブリザード)

 

笑みを崩さないまま掌を掲げ、妖精側に吹雪を発生させるジェミニ。急激に温度が下がって、自分の魔法による耐性が備わっているシエルは兎も角、後方にいるルーシィは己の身体を縮こまらせている。

 

「さ、寒いぃ…!!」

 

「くっ…!豪雨(スコール)で洗い流せればいいんだけど、下手したらそっちが凍らされる…!!」

 

雪に対して大雨。そうすれば雪を融かして威力を弱めることもできるかもしれないと考えたが、急激に下がった気温の中で豪雨(スコール)を使ったら、逆に雨粒たちが氷に変じて逆効果になる可能性もある。それを考えると迂闊に使用することが出来ない。

 

だが、洗い流して融かす。その言葉に、ルーシィは閃いた。今近くにあるのは川…つまり水。この条件下でのみ呼べる、特殊な星霊が存在する。

 

「あ、あたしに任せて!開け、宝瓶宮の扉!!」

 

持ち手は水瓶、先は流れる水を象った金色の鍵を川の水につけて魔力を解放。少々かじかんだが口上も完璧だ。その呼びかけに応えて現れたのは、明るい水色の長い髪をした、上半身は水着を着た女性。下半身は水色の鱗を持つ魚。片手には両手で扱うように作られた大きさの水瓶を持った、人魚とも呼ぶべきその存在。

 

「『アクエリアス』!!」

 

「あれが『アクエリアス』…!ルーシィが契約している、最強の星霊…!!」

 

少々目つきが鋭いが、美女と呼ぶのに相応しい容姿と佇まい。そして感じさせる威厳は他の星霊と比べても確かに上位に入るだろう。しかし、そんな彼女に関する難点がいくつかある…。

 

「やっちゃって!あたしたちも一緒で構わないから!!」

 

「最初からそのつもりだよ」

 

「最初からって…」

 

「え、ちょっと待って、今『あたし()()』って言った!?」

 

この星霊アクエリアス、綺麗な顔立ちに似合わずかなり苛烈な性格であり、所有者(オーナー)であるはずのルーシィに対しても不遜な態度で日常的に接している。その上言う事を聞かないわ、強制閉門されたわけでもないのに自分から星霊界に帰るわ、彼氏とデートするからしばらく呼ぶなと告げるわ、色んな意味で異彩を放っている。

 

そして最たる例は水を扱った超威力の攻撃を放てば、呼び出したルーシィも巻き添えを食らう事である。というよりルーシィを中心に攻撃していることが大半である。それは今回も同様であり、この場にいるシエルはほぼ無関係なのにアクエリアスの攻撃に巻き込まれることが確定してしまった。南無。

 

「全員まとめて吹っ飛びなァ!!」

 

澄まし顔だった表情を豹変させながら、水瓶を両手で持ち上げてそこから大量の水を放出させ始める。この規模なら確かにこの場にいる全員が簡単に吹き飛ばされるだろう。巻き添えを食らう事も覚悟してシエルはその衝撃に備えようとする。

 

しかし、それはジェミニとは別の金色の鍵を持ったエンジェルによって未遂に終わった。

 

「開け、天蠍宮の扉」

 

鍵先が二又のサソリの鋏を模したその鍵。その鍵で呼び出される星霊がどのようなものか、この場にいる全員が感づいた、しかもこの女…。

 

「天蠍宮…黄道十二門!?」

 

「しかもこいつ…二体同時に開門を!?」

 

「え…!?」

 

双子宮のジェミニに続いてもう一体の黄道十二門。しかも魔力の量が一定以上高くなければ為すことが出来ない二体同時の開門までも可能にしている。その事実に勢い良く攻撃を始めていたアクエリアスもまた、驚愕の表情を浮かべて静止する。

 

「『スコーピオン』!!」

 

「ウィーアー!!イェイ!!」

 

現れた蠍座の星霊・スコーピオン。その容姿は褐色肌で顔の整った男性の姿だ。髪は左が白で右が赤の坊主に近いほど短い髪。目はそれぞれ下の方に突起のような形で尖っている珍しい形。赤色を基調とした服を纏い、腰部からはサソリの尻尾を模した鉄製のバズーカを生やしている。呼び出された瞬間、両手の中指と薬指を除いた三本の指を立てながら腕を交差し、テンション高くポーズを決めている。

 

だが、敵側の星霊として現れたスコーピオンに、一番真っ先に反応したのは意外な人物だった。

 

「スコーピォおおん♡」

「「はいいっ!!?」」

 

先程まで場にいる全員を薙ぎ払う気満々の険しい顔と声を発していたはずのアクエリアスが、両手を組んで顔の近くに持っていき、甘えるような声と赤くした顔で近づいていった。唐突なアクエリアスのキャラ変貌に妖精側二人は驚愕の叫び声をあげる。だがそんなことも気にせず、アクエリアスはスコーピオンの身体にべったりとくっつきに行き、対してスコーピオンも少しばかり驚きこそすれど、そんな様子のアクエリアスを普通に受け入れている。一体何が起こってるんだ…。

 

「ウィーアー、元気かい?アクエリアス。久しぶりだな、イェー」

「私…さみしかったわぁ…!ぐすぐす」

 

「ま、まさか…あんたの例の彼氏って…!」

 

何が起きているのか全く理解できないシエルに対して、ルーシィは心当たりがあった。度々彼氏の話題をそれとなく聞いたことがあった。普段の彼女からは信じられないような態度を見て、まさかと思い尋ねてみれば…。

 

「そう、スコーピオン(このヒト)♡」

「ウィーアー!初めまして、アクエリアスの所有者(オーナー)。イェー」

 

「キターー!!」

「ってか、さっきとキャラ変わりすぎ…!!」

 

大正解だった。メロメロ状態になっているアクエリアスからの紹介に応え、ファンキーな見た目と裏腹に律儀に挨拶をするスコーピオン。まさかこんな場面で噂の彼氏とご対面とは思わなかった。と言うか本当にさっきのアクエリアスと同一人物なのかと衝撃を抱えていると、瞬間アクエリアスがシエルたちの元へと近づいて小声で伝えてきた。

 

「スコーピオンに余計な事言ってみろ…!てめえら、再起不能どころじゃねーぞ?分かってるな…あ…!?」

「「アイサー…!」」

 

伝えてきた、と言うか脅してきたである。思わずハッピーと同じ返事の仕方をしてしまうほどにまでドスの利いた声と圧を向けてきたためにから返事しかできなかった。マジの目だった。下手をうてば確実に彼女に始末される。そんな確信があった。

 

「ねぇん、お食事に行かない?」

「ウィーアー。オーロラの見えるレストランがあるんだ。そういう訳で帰っていいかい、エンジェル?」

 

「どうぞ~」

「えっ!?」

 

そしてアクエリアスはそのままスコーピオンとラブラブな雰囲気を醸し出しながら星霊界へと帰って行ってしまう。軽い調子でエンジェルが肯定して、気付いた時には既に遅し。引き止めようとするルーシィの声も届かないままその場から星霊カップルは消えてしまった。

 

「いやーーー!!」

 

ルーシィが信頼する最強の星霊、まさかの封殺。まともに戦ってもいないのに二体揃って戦線を離脱してしまった。あの様子だと鍵で召喚しても来てくれそうにない。思いもよらなかった事態に彼女の悲鳴が木霊する。

 

「つーか、星霊同士でカップルとか夫婦とか、アリだっけ?」

 

「アリなんじゃね?良く知らんけど」

 

思わず敵側である黄道十二門のジェミニにシエルが尋ねると、首を傾げながらそう答えた。その気になれば男女どちらにも変身できるジェミニには特に気にする話題でもないらしい。

 

「星霊同士の相関関係も知らない小娘は、私には勝てないゾ」

 

「っ!させるか!!」

 

ショックを受けて呆然としていたルーシィに近づいて攻撃を仕掛けようとするエンジェル。それに気付いたシエルが、すぐさま日射光(サンシャイン)を発動して、小さな太陽をエンジェルの前に投げつける。眩い光に目を覆う事しかできなくなったエンジェルは舌打ちを漏らして攻撃を中断。その隙をついて雷光(ライトニング)を発動し、物理的な攻撃を食らわせようとする。

 

「がはっ!?」

 

しかし、移動を開始したシエルの背に、同じ魔法を発動したジェミニが蹴りを叩き込んだ。またも思考を読まれた。飛び上がって移動しようとした矢先であったため、勢い余って川の中にシエルの身体が沈み込む。それに気付いてルーシィが彼の名を呼んで案じる。ジェミニが存在することで、数の利を封じられているのも同然。加勢をするべきであるのは重々承知だが、アクエリアス以上に強力な星霊は、ルーシィと契約している中にはいない…。

 

 

 

 

と考えたところで、それは否であると考えなおした。いる。アクエリアスに匹敵する最強の星霊が、もう一体。

 

「開け、獅子宮の扉!」

 

獅子の鬣をイメージした意匠の金色の鍵を天高く掲げ口上を叫ぶ。そして現れたのは獅子の鬣と耳を象った茶色の髪、目元には青いサングラス、そして全身に黒いタキシードスーツを纏った美形の青年。かつて人間と偽って妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士として行動していた、黄道十二門のリーダー。本名を獅子宮のレオ。またの名を…。

 

「ロキ!!」

 

「王子様、参上!」

 

「ろ、ロキ…!」

 

「久しぶりだね、シエル。あの時以来か…」

 

腕を組んで堂々と立ち、ルーシィに付き従う最強の星霊の一体が、彼女の呼びかけに応え参上した。川の中から上がってきたシエルがその姿を確認した時、最後に会った、ルーシィの星霊として生きていくことを誓った彼の姿を思い出して、表情を和らげた。

 

その様子を見て、困惑の感情を抱いている者がいたことは、誰も気付かない。

 

「お願い!あいつを倒さないとギルドが…!!」

 

「お安い御用さ」

 

ロキは女性にだらしがない一面を持ってはいるが、基本的にはルーシィに忠実だ。以前まで星霊魔導士を避けていた時とは一変して、ルーシィに対して呆れるほどの愛を表すような部分さえある。先程のアクエリアスの様に、自分の都合で戦線を離脱するようなことは起こり得ないだろう。

 

「クス…言わなかったかしら?大切なのは星霊同士の関係」

 

しかしエンジェルからは余裕が消えない。アクエリアスを封じるためにスコーピオンを呼んだように、レオ(ロキ)を封じるための手段も、彼女には存在していた。

 

「開け、白羊宮の扉」

 

その口上を耳にし、彼女が手に持っている羊を模した金の鍵を見て、ルーシィも、シエルも、ロキもその顔色を変えた。

 

 

 

「『アリエス』!」

 

「ごめんなさい…レオ…」

 

「…アリエス…!!」

 

薄桃色の毛先が膨らんだボブカットヘアーの頭部から生えた小さい羊の角。白いウール素材のマイクロミニスカートを纏った色白の美少女。そんな外見を持った星霊・『アリエス』の姿を見たロキに、明らかな動揺が走る。

 

白羊宮のアリエスは元々、3年前に命を落とした青い天馬(ブルーペガサス)の魔導士であるカレンと契約していた星霊だ。そして当時ロキ―レオ―もカレンと契約を結んでいて、アリエスに対する非人道的な仕打ちを見かねたロキが、自分の魔力を使って人間界に無理矢理顕現し、カレンが他の星霊を呼べないようにした。

 

そのおかげで仕事が出来なくなってしまったカレンは、3ヶ月ぶりに向かった仕事で二体同時開門に賭けるも失敗し、そのまま命を落としてしまった。アリエスを守るために行った行動はカレンを失う結果となってしまい、激しい後悔に苛まれ、更には3年もの間ロキは星霊界に帰還することを禁じられて、あわや消滅するという運命だった。

 

その事に関してはルーシィ、そしてシエルの奮闘によって解決したのだが、かつて同じ所有者(オーナー)の元に仕え、アリエスにとってはロキは恩のある相手でもある。そんな間柄の二人が、まさか敵味方として3年ぶりの再会を果たしてしまうとは…。

 

「そんな…これじゃ、ロキまで戦えないじゃない…!!」

 

「どうしてカレンの星霊だったアリエスが、こいつのところに…!?」

 

ただでさえ世界に12本の黄道十二門を3本。しかも、少し前には別の魔導士と契約していた星霊の鍵を持っているのか。次の契約者が現れるまでは自動的に星霊界に戻るのが星霊のルール。そこから世界のどこかにその星霊の鍵が現れ、次の所有者(オーナー)と契約されるまではフリーの状態になる。どこかで見つけたと考えるのが普通ではあるが、目の前にいる女は、それに区分されるわけがなかった。

 

「カレンを始末したのは私だもの。アリエス(これ)はその時の戦利品だゾ」

 

アリエスと契約しているカレンを殺し、自分の星霊とした。それがアリエスがエンジェルの元にいる真相であった。二体同時開門に失敗した時にほぼ自滅の状態に近かったそうだが、トドメをさしたのはエンジェル自身だと語られる。

 

エンジェルは今まで数々の星霊魔導士を己の手で始末し、その魔導士が扱う鍵を奪ってきた。そして彼女の今回の標的はルーシィ。ジェミニを通じて手に入れたルーシィの鍵の数は、今までの中でもずば抜けて多い。黄道十二門に至っては12本中6本、半数だ。自分から見れば大した魔力を持たないルーシィは、まさに棚から牡丹餅と言える獲物である。

 

「(カレンを…殺した…!?この女が…カレンを…僕の恋人を…!?)」

 

その会話を聞いていた一人の青年・ヒビキは先程から衝撃的な真実を与えられ続けていた。当時自分と恋人同士であったカレンが契約していた星霊・レオ(ロキ)がルーシィの星霊として現れたと思えば、もう一体のアリエスがエンジェルの星霊として召喚された。3年前に死んだはずの彼女の星霊が何故この場にいるのか、疑問を感じていたところに突きつけられた、カレンを始末したエンジェルの言葉。

 

大事な人だった。人間として難があったことは否定できない。それでも自分は彼女に確かな愛を感じていた。だが彼女の命はある日突然失われた。それは何故か?目の前にいる女が…星霊魔導士が、奪った…。あの女()()、星霊魔導士が…。こいつらのせいで…!

 

「(っ!?ダメだ…!憎しみに囚われたら、ニルヴァーナに心を奪われてしまう…!!)」

 

考えてはいけない。闇に落ちるわけにはいかない。黒く塗りつぶされそうになった感情を理性で無理矢理抑え込む。今のヒビキはそれで精一杯だ。

 

「折角会えたのに、こんなのって…」

 

このままロキをアリエスと戦わせることは出来ない。ロキの力に任せるよりも、彼の心を優先したい彼女は、ほぼ迷いなくその決断を下した。ロキを星霊界に戻すために鍵を差し出そうとするルーシィ。だが、その手をロキ自身が止める。

 

「見くびらないでくれ、ルーシィ。例えかつての友だったとしても…所有者(オーナー)が違えば敵同士。主の為に戦うのが星霊」

 

「例え恩ある相手だとしても、主の為なら敵を討つ」

 

星霊同士に憎しみの感情などない。寧ろ、彼らは互いを思って行動することが出来る間柄だった。それは互いに理解している。本来争うべき相手ではない。だがそれでも、主たちが敵対すると言うのであれば、仲間でも、友でも、主に仇なす敵として、この力を振るう。

 

「それが僕たちの…誇りだ!!」

「それが私たちの…誇りなの!!」

 

両の拳に王の光(レグルス)の光を纏った獅子と、両の掌を合わせて桃色のもこもことした煙を湧き出させた白羊が衝突を開始する。互いに主の為にその力を遺憾なく発揮させる。

 

「あっれ~?やるんだぁ?ま…これはこれで面白いからよしとするゾ」

 

「(違う…こんなの…間違ってる…!)」

 

しかしその光景は、ルーシィにとっては胸が張り裂けるほどに苦しいもの。アリエスの起こす桃色の煙がロキの身体を縛る度、光を帯びたロキの拳がアリエスの身体を穿つ度、少女は身体を震わせてその目元に涙を浮かべている。

 

「こんなこと…ロキにやらせるわけには、いかない…!」

 

友と戦い、友を傷つける。互いに傷つけてしまう光景に耐えきれず、いっそ自分の手でアリエスを行動不能にさせなければと、シエルは駆け出そうとする。

 

稲妻の剣(スパークエッジ)

 

しかしその行く手を、雷の刃を手に持ったシエルが遮った。邪魔をしてくる自分と同じ容姿をした星霊に風の棍を顕現させて振るいながらシエルは押し込もうとする。

 

「どけよ!ロキは…あいつは散々苦しんできたんだぞ!ようやく再会できた友達を手にかけさせるくらいなら、俺が…!!」

 

「『レオが本当にそれを望むかな?』」

 

「っ…!?」

 

一瞬、目の前にいる自分に化けた存在が、まるで素の状態で話しかけたような、そんな気がした。

 

「う~ん…さすがに戦闘用星霊のレオじゃ分が悪いか…。ジェミニ」

 

名を呼ばれたジェミニは、一瞬表情を歪めたかと思うと、鍔迫り合いの状態だった少年を蹴りで突き飛ばし、そのまま雷の剣を再利用して雷光(ライトニング)を発動。動揺してがら空き状態だった少年の鳩尾を殴り、その小柄な体を飛ばす。

 

気象転纏(スタイルチェンジ)風廻り(ホワルウィンド)(スピア)…」

 

「シエルッ!?」

 

そして竜巻の槍を作り出すとそれを構えてシエルに狙いを定める。それを傍目で目視したルーシィが悲鳴混じりの声で少年の名を叫ぶと、ロキも彼が今窮地に陥っていることを理解する。

 

「まずい…!」

 

「行かせないっ…!」

 

シエルの加勢に行こうとしたロキを、アリエスが行く手を塞ぐことで食い止めようと前に出る。それを見たエンジェルの笑みがさらに深くなる中、雷光(ライトニング)の効果で雷の属性を帯びた風の槍が、ジェミニによって投げ放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

180度回転しながら投げ放たれたそれは、一瞬のうちにジェミニの後方にいた()()()()()()()()()貫いた。

 

「なっ!!?」

 

竜巻と雷が混じった強力かつ高速な槍。アリエスの背中と、ロキの腹部を一瞬にして貫き、二人の身体に風穴が発生する。予想もしなかった展開と光景にルーシィは最早言葉が出てこない。

 

「あははっ!うまく行ったゾー!よくやったねジェミニー♡」

 

心から愉快に高笑いをするエンジェルに、ジェミニは口元に弧を描いてそれに応える。だが、ルーシィの目には消えかかっているロキとアリエスしか目に映っていない。

 

「すまない…ルーシィ…!!」

 

「…いい所有者(オーナー)に会えたんだね…。良かった…」

 

互いに消えゆく共に手を差し伸べながら、主の期待に応えられずに悔恨を告げるロキへ、今の彼が幸せであることを確信したアリエスが安堵の表情を浮かべる。そして互いに伸ばした手が触れることも無いまま、両者共に星霊界へと戻っていった…。

 

「どう?これが二体同時開門のメリット。一体に相手の意識を集中させておけば、その隙をもう一体でつける。強力なレオはこれでしばらく使えないゾ」

 

ルーシィが扱える星霊は、もうほとんどが無力化されている。特にロキやアクエリアスは戦闘特化。それが封じられているとなればここからの逆転は望みが非常に薄い。しかし、今のルーシィには、その事を考えられる余裕は無かった。

 

「…何で…味方の星霊も…アリエスもいたのに…?」

 

「何でって?その方が確実にレオを仕留めることが出来たから、かしら?」

 

「…信じられない…、分かってて、アリエスまで一緒に…!?」

 

「どうせ星霊なんて死なないんだし、いーじゃない」

 

「でも…痛みはあるんだ…!感情もあるんだ…!!

 

 

 

あんたそれでも星霊魔導士なのっ!!?」

 

味方の星霊でさえ傷つくことをいとわずに攻撃することに、何の罪悪感も感じさせない態度に、ルーシィは怒りを爆発させる。彼女は知っている。星霊が人間と同様に笑ったり、怒ったり、悲しんだり、悩んだり。人間と違って外傷による死とは無縁かもしれない。だがそれでも、受ける痛みは、抱える苦しみは、人間と何も変わらないことを。

 

それを感じさせるルーシィの叫びを聞いて、ロキたちを手にかけたジェミニは、まるで衝撃を受けたような表情で固まった。

 

「…熱くなっちゃって、バッカみたい。使えるものを効率よく使って、何が悪いの?」

 

だがしかし、エンジェルはそんなルーシィの主張を一笑に付した。背丈の低い少年となったジェミニの頭に手を置きながら告げた言葉に、ルーシィは内にある怒りをさらに増幅させ、ジェミニはその表情に影を落としてどんな感情を抱えているか分からなくなっている。高笑いをこらえもせずに続けているエンジェルに、ルーシィが怒りのまま新たな星霊を呼び出そうとし…。

 

 

 

 

 

 

「黙れ」

 

思わずその手が、口が止まった。決して大きくないはずの、呟くようなその声を耳にし、ルーシィの激情が、エンジェルの哄笑が、ピタリと止まった。その声は少年の声。今ジェミニが変身している少年のもの。思わずエンジェルが困惑気味に隣にいるジェミニを見るが、本人は自分ではないと否定のジェスチャーをしている。

 

それはつまり…とジェミニが先程突き飛ばした少年がいた方向へと目を向ける。何度も川の中に身を投じたことで髪も衣服も濡れたまま。足はしっかりと川の底を踏みしめて立っているが、肩や首はだらんと重力に従って垂れている。

 

そんな彼の首が上へ向くと、陰を帯びたその表情が露わになる。

 

「耳障りだ…お前の声は…」

 

瞳の光を無くした、能面のような無表情。それが今のシエルの様子だった。それを見た瞬間、ルーシィは背筋が寒くなった。こんなシエルを、ルーシィは見たことがない。彼に対して確かに感じる、恐怖の感情。だが、そこまで感じて、一つの可能性がルーシィの頭に浮上する。

 

「(シエルが…まさか、闇に落ちた!?)」

 

何かしらの負の感情をきっかけに、ニルヴァーナによって闇に落ちてしまったということ。星霊と星霊魔導士に憧れを抱いているシエルが、エンジェルのような、星霊を道具として扱う魔導士に対して失望し、その感情がニルヴァーナによって増幅させられた、と言う可能性がある。今の彼がどのような行動を起こすか分からない。本当に闇に落ちてしまったのなら、自分も、そして他の仲間たちにも危険が生じる。

 

「(な、何だこいつ…。これは…)」

 

だがその可能性は、エンジェルの中では皆無だった。何故なら、光も闇も経験をしたことのある自分には、確信があったから。今シエルが抱えている感情は、どう言うものなのか分かるから…否、正確には分からない。だが分からないことが、エンジェルにとってシエルがどのような状態であるかを確信させていたのだ。

 

「(今のこいつには、光も闇も無い…。どっちにも干渉されない…“無”…!)」

 

これは彼女にとっても得体のしれない事だった。正の感情を占めれば善に、負の感情を占めれば悪に、どちらか一方に反転させるニルヴァーナにも干渉できない無の状態。それが今のシエルなのでは、と仮説を立てる事しかできない。

 

気付けばエンジェルは、シエルから距離をとっていた。自分でも気付かない間に、本能的にシエルが如何に脅威であるかを察知していたが故の行動。今の彼と対峙するべきではないと身体が感じていたのだ。

 

 

 

 

 

「お前は、消えろ」

 

そう告げた瞬間、雷の速さで急接近したシエルは、まずジェミニの身体を蹴り飛ばす。今までの中でも最速と言えるその攻撃に反応する間もないままジェミニはその身体を川の中に落とす。

 

「ちっ!!」

 

慌てて自分の持つ鍵を使って別の星霊を呼び出そうとするエンジェル。だが、それよりも速く、身を翻した少年の右拳がエンジェルの腹部を捉え、殴り飛ばす。

 

「かっは…!?」

 

川の中から岸の上へと殴り飛ばされたエンジェルに向けて、今度は両手を前方に翳し、一瞬でいくつもの魔法陣を展開する。雨、竜巻、雷、雪、太陽、あらゆる天候の属性を司る魔法陣を、幾重にも…。

 

「な、何…これ…!?」

 

ルーシィに攻撃がいかないところを見ると、現時点ではエンジェルのみにその標的を絞っている。こちらの事をまだ味方と認識しているのか、それともエンジェルにしか意識が向いていないのか…。

 

「終わることなき天の裁き…荒れ狂う怒りのままに…場にいる全てのものを無へと誘え…」

 

淡々とした口調で詠唱を唱えながらも、その目線をエンジェルから外すことはない。まずい。直感でそう判断したエンジェルはすぐにその場を退避しようと試みる。しかし、それよりも早く、シエルが具現した魔法陣から光が発せられ、その射程内の空間の空模様だけが、不自然なほどに変化を繰り返していく。まるで、世界が終わりを迎える時は、このような空になっていそうな…!

 

「や、やめっ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天変地異(ディザスター)…!」

 

まさに災害。その言葉しか、ルーシィには出てこなかった。

 

吹き荒れるいくつもの竜巻。その中に迸る無数の稲妻。石をも即座に穿つほど容赦なく叩きつける雨。体の芯まで凍り付かせる氷点下の空気。時折無慈悲に行き交うのは凝縮した太陽の光線。

 

全ての生物を消滅させてしまえるような濃縮された災害の空間が、ワース樹海の一角を蹂躙した。

 

 

 

 

木々は倒れ、地面は抉れ、中には根元から消滅したような跡が所々に目立つ。もしもこの中に自分がいたらと思うと…そんな想像すらしたくない。

 

「(こんなとんでもない技を受けたら、さすがにあいつも…)」

 

ほぼ確実に命はない。いくら相手が闇ギルドの上位に存在するもので、星霊に対して非道なことを行っていた人物でも、自分の仲間が体一つも残さないような技で命を奪ったことに、言葉に出来ない感情を抱える。

 

 

 

「ぅ…ぐぅ…!」

 

「っ!?」

 

だがそんな感情が杞憂であったと証明される。なんとまだエンジェルは生きていた。衣服がボロボロになり、体のあちこちが傷だらけになっているが、戦意がまだあるのか立ち上がろうとしている。

 

「はぁっ!はぁっ!!あ…危ない、所だった…!!」

 

本来であれば彼女も無事では済まなかったが、エンジェルはシエルが天変地異(ディザスター)を発動した直前、銀の鍵で呼び出せる星霊を呼び出し、自分の盾とした。星霊に対しての愛情を持たないが故の咄嗟の行動により、辛くも危機を回避していた。だがそれでも防ぎきれなかった分を受けたことによって、相当なダメージを負ってしまった。もう一度同じような魔法を食らった場合は、今度こそ命はない…。

 

そう思考を巡らせた矢先、こちらに向けて歩を進める少年の、水をかき分ける音が耳に届く。またあの技を食らう訳にはいかない。最悪他の星霊やスコーピオンを使ってでも逃れなければ。その一心で鍵に手をかけながら後ずさるエンジェルの目の前に来ようとしている少年は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

岸に辿り着いた瞬間、前のめりに倒れ伏した。

 

「……!!っ…くっくふふっ、あっはははははっ!!!」

 

エンジェルはそれを理解した瞬間、恐怖や焦燥と言った感情は消え去った。代わりに湧きだしたのは、勝利への確信と少年への嘲笑。

 

「し、シエル…!?」

 

最早エンジェルは満足に戦える状態じゃない。そこまで追い込んだはずの少年は、倒れ伏したまま動かない。一体どうしたのか、ルーシィは転々とする状況に理解が追い付くことが出来ない。

 

「全く…本当バカな奴だゾ…。ただでさえ、おまえらの中で()()()()()()()()癖に、大技をバンバン使ったりするから…」

 

「えっ…?」

 

フラフラと立ち上がって見下しながらエンジェルが告げた言葉が、ルーシィの耳に、やけに鮮明に伝わった…。

 

 




次回『絆の光』
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