FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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中々浮かばなくて焦りましたが、割と余裕をもって投稿できました。

今回の話書いて改めて感じた事…。シエル(主人公)、物理的な意味で痛い目に遭い過ぎてる…。
いや、他意はないんですけど、頭の中で行動するキャラがもう誰も彼もがシエルをボコボコにしてくんですよ…。なんてヒドイ奴等なんだ!←一番ヒドイ奴


第53話 絆の光

─────何で…どうして出来ないんだ…!?

 

その一室は、微かな光しか差し込んでいない薄暗い空間。その中には息を切らして呼吸を繰り返し、顔に汗を滲ませて、疲労困憊と言った様子の少年が一人。

 

─────兄さんは、もっと小さい頃からどんな魔法も使えてたのに…!

 

その少年を中心として、周りに乱雑と散らばっているのは、魔法が記された書物…魔導書だ。それが何十冊も存在している。

 

─────どうして僕は…簡単な魔法もできないんだ…!どうして僕には…魔法が使えないんだ…!!

 

何度も読み返し、何度も試したものが多数。兄の仲間にも教えてもらった魔法も多い。だがそれら全て、少年には一切使用することが出来なかった。

 

 

 

天才的な兄に対して、弟である自分には魔法の才が、無かった…。

 

 

─────兄さんや…マスターが…言ってたこと…本当なの…?

 

 

 

 

 

─────僕は、他の人よりも圧倒的に魔力が少ないの…!?

 

齢にして僅か11歳。それが、少年シエルに突きつけられた、残酷な現実であった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

うつ伏せのまま川岸に倒れ伏し、動くことがままならない状態となっている少年を見下ろし、嘲笑を浮かべたまま言い放ったエンジェルの言葉。それに対してルーシィはただただ困惑していた。彼の魔法を初めて見た際に聞かされていた「世界の理さえ変える魔法」と言われた魔法を使うシエル。彼の魔力が、自分たちの中で一番少ない、と言うのはどういう事であるのか。

 

「ルーシィも聞いたことあるはずだよ?俺には天候魔法(ウェザーズ)以外の魔法が使えない、そしてそれを扱うにも、魔力の消費を抑えながら力を発揮できるようにしたって」

 

そう答えたのはシエル…に変身した状態のジェミニだ。思考もコピーするジェミニがシエルの記憶から読み取って、かつてルーシィがシエルの魔法の事について説明を受けたことがあることを思い起こさせる。そしてルーシィ自身もいくつか思い出していた。シエルに関する、妙に感じていた部分を。

 

『あいつは他の魔法に関してはからきしだ。だがこの魔法にのみ適性が見つかり、しかも本来よりも少ない魔力量で使いこなすことに成功している』

『待ってくれ、シエル!君の魔力量じゃ…!』

『俺、昔は病弱だったからポーリュシカ先生のところに真っ先に運ばれたんだ』

 

 

「生まれつきだった。他の人たちと比べても魔力が著しく低かったことで体調をよく崩し、健康体になっても全然魔法を身につけられない。天候魔法(ウェザーズ)に辿り着けなければ、きっと今も非力な子供のままだった」

 

飛び跳ねるようにシエルの魔力に関する話を思い出したルーシィに、ジェミニが教えるように語りかける。多人数を圧倒することが出来る天気を自在に変化させる魔法。それが扱えることは、間違いなく才能の一つだった。他の才を犠牲にして手に入れた力と言ってもいい。

 

最初の内は一つの技を使うだけでもすぐに魔力が切れていた。だがシエルは、試行錯誤と分析、改良などのあらゆる方法で己の魔法と自分の身体を馴染ませていき、今では本来の威力をそのままに、限りなく抑えた魔力量で発動できる領域にまで至った。今までの戦いでもその力は十分に発揮できていた。

 

しかしシエル自身も気付いていない点があった。それは今回の六魔将軍(オラシオンセイス)との戦いにおいて、彼は今までの中でも一番と言えるほどに魔法を多用していた。

 

真っ先に飛び出していったナツに追いつくために、ウェンディと合流して急速度の乗雲(クラウィド)

その後すぐに連合軍と六魔将軍(オラシオンセイス)の総当たり戦。コブラやブレインに向けて放った魔法の数々。

ウェンディ救出の為に遭遇した裸の包帯男(ネイキッドマミー)との戦闘。それも大多数を自分で引き受けて乱発。さらに六魔の拠点を聞き出すためザトーを拷問(光のハリネズミ化)するための光陰矢の如し(サニーアローズ)

拠点に着いた後も乗雲(クラウィド)を使用し、そこで再び見えたジェラールに向けての雷光(ライトニング)

ジェラールは逃がしたものの最優先すべきウェンディの救出には成功したため、そこから乗雲(クラウィド)で移動しながら日光浴(サンライズ)を使用してウェンディの魔力を回復。

エルザの解毒を済ませた後も、ニルヴァーナの影響を受けかけたウェンディを助けるべく、日光浴(サンライズ)を使用。

そして現在対峙しているエンジェルとの戦い。この戦いにおいてもシエルは攻守両面で様々な魔法を多用している。

 

そして極め付けは、最後にはなった大技である天変地異(ディザスター)だ。樹海の一角の風景を一変させてしまう災害と呼ぶべきこの魔法は、どう考えても使用者自身の魔力を大きく消費する。

 

「ただでさえ積もりに積もった魔力の消費、そしてそれにトドメをさしたのが先程の技。もうこいつには、一番弱い魔法すら出せる余力も残っていないゾ」

 

自らもボロボロになっている体に鞭を打って立ち上がり、手持ちの鍵の一つを取り出して加虐的な笑みを浮かべながら、エンジェルは全く動ける様子を見せないシエルを見下ろしている。そして彼に対してそのまま放置をするわけもなく、手に持った銀を鍵を構えて彼女は告げた。

 

「開け、彫刻具座の扉。『カエルム』」

 

呼びかけに応えて現れたのは、一見すると銀色の機械仕掛けの球体。中心には境目の様に横線が入っており、前方には目のようなレンズが見え、上には天使のような光輪が浮かんでいる。ロボットのように見えるが、れっきとした星霊の一体である。

 

「一思いに始末するのは簡単。でもそれじゃ面白くない。さっきのお返しに存分に痛めつけてから殺してやるゾ」

 

彼女がそう告げると、カエルムが光に包まれてその姿を変形させる。これはカエルム自身の能力だ。時には魔力を込めたレーザーを放つ砲台に。ある時は自身の大きさを超える長さの剣へと姿を変える。今変わったのは剣の姿。しかしその剣には刃がなく、切断の役割は持ち合わせていないように見える。

 

巨大な剣になったカエルムの取手をその手に取ったのはシエルの姿となったジェミニ。彼も口に弧を描きながら、うつ伏せとなっている少年へと歩を進めていき、剣の状態になっているカエルムを構える。

 

「やれ」

 

短い命令。それに忠実に応えるように、ジェミニがカエルムを振り被って右から左へとシエルの身体を撃ち飛ばした。勢いよく飛んだ小柄の身体は近くにあった大木に叩きつけられ、その元へと再び倒れ伏す。

 

「シエルッ!!」

 

ルーシィが少年の名を叫ぶも、ジェミニの攻撃が止むことはない。動くことのない身体をカエルムで叩き、悲鳴を上げることもしない少年の身体が転がる。だが、それを見ていたエンジェルは物足りなさを感じていた。死んでいるも同義の状態に陥っている者を甚振ったところで、面白みは薄い。

 

「う~ん、せめて意識だけでも戻せないか…」

 

そう呟いた彼女の意に応える為か、ジェミニがシエルの腕を掴み、川目掛けて顔が浸かる様にして投げ飛ばした。その光景にルーシィは、何度目か分からなくなるほどに目を見開く。しばらくして浸かったままだった頭を掴み上げて川から引き出せば、反応のなかった少年の咳き込みが響く。身体は兎も角、意識は戻ったようだ。それを確認して笑みを浮かべたエンジェルは、続けるように指示を出す。

 

「これ以上…好きにさせない…!」

 

人道から外れた行為を見ていたルーシィは、衝撃で呆気に取られていた状態から我を取り戻す。そして、手に持っていた斧を模した金の鍵を掲げ、その鍵で呼び出せる星霊を召喚する。

 

「開け、金牛宮の扉!タウロス!!」

 

MO()ーーー!!」

 

ホルスタイン柄の牡牛座の星霊であるタウロス。力自慢である彼を呼び出した様子を見て、エンジェルは一時標的を変更した。

 

「お願い、タウロス!シエルを助けて!!」

 

「お任せを!ナイスバディの頼みであればどんなこと…MO()?」

 

ルーシィからの懇願を快く引き受け、自慢のパワーを発揮しようと意気込むタウロスであったが、次の瞬間その目を点にした。何故なら…。

 

「おいで~モーモーちゃ~ん♡」

「ルーシィさぁ~~ん!!」

 

「きゃあーーーっ!!!」

 

タウロスが出てきた時点でシエルからルーシィの姿へと変身したジェミニが誘惑のポーズをとっていた。それにあっさりと引っかかって駆け足で近づいていったタウロスは、あっさりとカエルムを振るったジェミニの一撃で吹き飛ばされた。ガラ空きで油断しきっていたタウロスはその一撃をモロに受け、だが嬉しそうに叫びながら星霊界に帰ってしまった。

 

「タウロス!…え?」

 

あっさりとタウロスを撃破されたルーシィ。すると彼女の身体に突如力が入らなくなり、川の底に膝と両手をつく。著しく魔力を消耗してしまったせいだ。シエルほどではないが、彼女も魔力がとりわけ多いわけではない。だが強力な星霊を何度も召喚したことにより、彼女が想像していたよりも多く魔力を消費してしまったのだ。この状態では、しばらく満足には動けない。

 

「心配しなくても、こいつを片付けたら次はあなたを始末してあげるゾ」

 

最早脅威は何もない。そう言わんばかりにエンジェルはジェミニに、シエルへの攻撃を再開するように命じる。姿はルーシィのまま、微かに意識が戻ってきている様子のシエルに、ジェミニは一発蹴りを繰り出す。

 

「やめて…!!」

 

彼女の懇願に答える者はいない。武器となったカエルムを振るい、時には少女の姿で蹴りを入れたり拳を入れたり。自分の仲間が自分の姿をした敵に蹂躙されている姿を見て、ルーシィの心が張り裂けそうな痛みで叫んでいる。

 

「お願い、やめて…!!」

 

衝撃を受ける度に少年の苦悶の声が漏れる。もう彼も戦えない状態だ。だと言うのに必要以上に嬲られて、傷つけられて、痛めつけられている光景を見ていたくはない。

 

「もうやめてぇ!!」

 

上手く力を入れることが出来ない身体を必死に動かし、シエルに尚攻撃を加えようとしているジェミニ目掛けて駆け出す。それに気付いたジェミニが振り向き様にカエルムを振るい、彼女の身体を突き飛ばす。苦悶の声を漏らしながら、川の中へと再び落ちるも、痛みを堪えながら体を起こし、そして彼女は言葉を告げ出す。

 

「これ以上シエルを、傷つけないで…!大切な仲間なの…!!」

 

再び懇願するルーシィ。対してこれといった反応も示さないエンジェルたちにも気づかず、必死にルーシィはその言葉を口にする。

 

「その子…あたしに憧れてるって、言ってくれたの…!星霊の事、本当に大好きなの…!」

 

「!!」

 

反応をほとんど示さなかったジェミニが、ルーシィのその言葉に、目を見開いて反応する。

 

「あたしが星霊の事を話していると、目を輝かせて聞いてくれて…入ったばかりのあたしに色々教えてくれて…イタズラをしてきて、困ることも多いけど…どんなに弱音を吐いても幻滅しないで、あたしと星霊の力を信じてくれてる…!!」

 

自分がギルドに入ってから何かと気にかけてくれたり、憧れていた星霊の話にはよく食い付いて聞いてくれたり、趣味も合うものが多くて、気が付けばよく話をするような仲になっていた。たまにイタズラで揶揄ってきたり、今度は自分が揶揄う側になったりもするが、それでもシエルは、ルーシィにとってかけがえのない存在の一人だ。

 

「だから、これ以上シエルに手を出さないで…!これ以上…その子が憧れている星霊を、不幸にしないで…!!」

 

涙を流しながら懇願を続けるルーシィを見て、ジェミニの表情が徐々に困惑に包まれる。星霊として、今の言葉に思う所が存在しているように。対してエンジェルは、彼女が告げた言葉の一つが気になったようだ。

 

「星霊を不幸にしない…?それって、どういう意味?」

 

「…アリエスを解放してほしい…!あの子、前の所有者(オーナー)にいじめられてて…!」

 

それを聞いてエンジェルは肩を竦めながら呆れるように言葉を告げた。実際に呆れているのかもしれない。

 

「人にものを頼むときは何て言うのかな?」

 

「お…お願い…します…!」

 

仲間の為、星霊の為、強気な態度を変えなかったルーシィは、シエルを守るため、アリエスを助けるため、敵であるエンジェルに頭を下げている。それも躊躇なく。一見すれば意気地なしと思えるような行動だが、彼女は自分ではない誰かの為にその頭をすぐに下げられるとも捉えられる。

 

「アリエスとレオ(ロキ)を一緒にいさせてあげたいの…!それが出来るのは…あの子の憧れる星霊魔導士だけなんだ…!!」

 

絶望的な状況であっても、星霊の事を、仲間の事を想うことができる。世界中でも、こんな風に行動できる人間がどれだけいるのだろう…。

 

「ただで?」

 

「な、何でもあげる…!鍵以外なら、あたしの何でもあげる!!!」

 

悲痛な声と共に断言するルーシィに、ジェミニの困惑の表情が更に歪む。鍵を除くどれでも。彼女は確かにそう言い切った。一体彼女はどれほど…。

 

 

 

 

「じゃあ命ね」

 

だがエンジェルは無慈悲にもそれを切り捨てた。元からルーシィの懇願など聞いてやる義理はない。この場でルーシィの命を切り落とし、鍵を奪い、更には自分を大いに痛めつけた小僧も始末する。ルーシィの願いは、何一つ叶うことはない。それがエンジェルによって決められる非情な現実だ。

 

「ジェミニ、やりなさい!」

 

そしてそんな非情な一撃を命じられ、ジェミニはカエルムを振り下ろすために持ちあげた。命を刈り取る一撃を覚悟し、ルーシィが固く目を瞑ってその衝撃を受けようとする。

 

 

 

だがいくら経っても、ジェミニはカエルムを振り下ろそうとしない。持ち上げた状態のまま、静止している。それに対してさすがに妙だと感じとったエンジェルがジェミニの名を呼ぶと、声も体も振るわせながら、その口を開いた。

 

「『き、キレイな声が…響くんだ…』」

 

ルーシィの姿をコピーし、その記憶を読み取れるのがジェミニの能力。その記憶から読み取ったのは、淡々と羅列される情報だけではない。頭の中に先程から響く、穢れのない純粋でキレイな声。

 

『ママ!あたし、星霊大好き!!』

『星霊は盾じゃないの!』

『目の前で消えていく仲間を放っておけるわけないでしょ!?』

 

ルーシィの記憶にある言葉。その言葉を告げた心にも嘘偽りは存在しない。星霊の事を心から愛し、仲間として彼らと接してくれている。そしてそれは彼女だけではない。

 

『鍵が見えた時、まさかな、とは頭の中で思ってたんだけど、本物に会えるなんて…!』

『ルーシィ一人に負担をかけせるわけにいかないだろ…!俺にとってもロキは仲間だ!』

『俺も、ナツも、みんなもいる。みんながルーシィの味方で、家族だよ』

 

星霊魔導士ではない少年もまた、自分たちの事を心から大切に思ってくれている。星霊に憧れを抱き、星霊を愛する少女にも憧れ、仲間として心から信頼を置いている。二人とも星霊を愛して、互いも心から信頼し合っていることが、ルーシィからシエルへと姿を変えたジェミニには伝わってくる。

 

『だから今度はあたしが言うね。ナツもグレイも、ハッピーもエルザも、勿論あたしもいる。みんながいる。みんながシエルの、仲間で家族よ』

 

シエルとルーシィ。二人の魔導士のそれぞれの記憶から感じたキレイな声に、ジェミニはコピーした人物ではない、自分自身の心からあふれる涙を止めることが出来なくなった。

 

「『出来、ないよ…!ルーシィたちは、心から愛してるんだ…!!僕たち、星霊を…!!』」

 

思いもしなかった命令への反抗を聞いたエンジェルがそれに絶句し、自身の感情としてその想いを告げたところを垣間見たルーシィは、その言葉を聞いて感情が伝播したように名を呟いた。

 

「消えろォ!この役立たずがっ!!」

 

思い通りに動かなかったジェミニに対して苛立ちながら、エンジェルはジェミニを強制閉門する。その影響でシエルの姿をしたままだったジェミニの身体が揺らめきだす。それを見たルーシィが思わずジェミニに呼びかけると、刹那の間…ジェミニは涙に濡れた表情のまま、笑みを浮かべて彼女に告げた。

 

「『ごめんねルーシィ…そして、ありがとう…』」

 

そしてそのまま、彼は星霊界へと強制的に帰された。今の言葉がジェミニ自身のものだったのか、または自分が助けようとしたシエルのものだったのか、どちらのものかはもう分からない。

 

「ルー…シィ…!」

 

衰弱しきったような少年の声が耳に届き、ルーシィの意識はそちらに向いた。満足に態勢を動かすこともできないシエルが、こちらに顔を向けて呼びかけているようだ。ヒドイ怪我だが生きている。簡単に命を落とすことが無いように甚振られていたのが逆に助かったようだ。一安心と安堵する。

 

「うし、ろ…!」

 

だが、その安堵は次に続いた言葉と、背後から自分に近づいて首に両手をかけようとするその人物に気付いたことで消え失せた。微かに動かせる首と目でその姿を目にしたルーシィは驚愕する。青い天馬(ブルーペガサス)の魔導士であるヒビキが、怪し気に口元を吊り上げていたのだから。

 

「まさか…!闇に落ちたのかこの男!!あははははは!!」

 

恋人であるカレンを手にかけたエンジェルへの憎悪によって闇に落ちようとしていたヒビキ。それが進行し、ニルヴァーナによって本当に闇へと落ちてしまったのだろうか…?ルーシィはその事にショックを受け、シエルはヒビキがルーシィに手をかける光景を見ていることしかできず、エンジェルはそれを見て愉快に笑い声をあげている。光の者たちはもう誰も戦えない。もう、希望は失われてしまった…。

 

 

 

 

「じっとしてて…」

 

そんな懸念を、ヒビキの声は打ち砕いた。首に回していた手を彼女の肩に置き、その両手に黄金色の魔力を纏わせる。ダメージと疲労によって脂汗を顔に滲ませながらも、ヒビキの表情は闇に染まってなどいない光を感じさせる不敵な笑みだ。そう。彼がルーシィの元に来たのは、闇に落ちたことで彼女を始末しようとしたからではない。

 

 

 

「僕の魔法“古文書(アーカイブ)”が、君に一度だけ…超魔法の知識を与える…!」

 

それは、魔法による知識のアップロード。両手の位置をこめかみに変え、ルーシィの足元から金色に輝く、中心に五芒星が描かれた魔法陣が展開される。それと同時に、ルーシィの頭の中に次々と魔法を発動させるための知識が装填されていく。

 

「こ、これ何…!頭の中に、知らない図形が…!!」

 

唐突に膨大な量の知識を与えられることで脳の処理が追い付かず、眩暈を覚えるルーシィ。しかしそこは古文書(アーカイブ)の特性の一つなのか、パニックになりながらも、ルーシィの頭の中に一つ一つピースがはまる様に収まっていく。彼女の顔の周りを浮遊するいくつものアップロードバーがそれを物語っているようだ。

 

正直に言えば、あと一歩違えればヒビキは闇に落ちるところだった。しかし、そうならなかったのは、懸命にルーシィがシエルやアリエスの事を思って主張した言葉。仲間と星霊の為に、鍵以外の自分のどれかを捨てられる心を持つ彼女の言葉が、ヒビキに寄っていた闇を晴らした。

 

「(君と星霊…そしてシエルくんと言う仲間との絆。それが光となって僕を包んでくれた…。君ならこの魔法が…)」

 

彼を包んで闇を晴らした絆の光。その光を発することが出来た彼女ならば発動できる。星々に愛された者が発動することのできる超魔法を…。

 

「おのれぇ~~!カエルム!!」

 

エンジェルは本能的に察知した。このまま発動させられたら確実にまずいと。その前に封じなければ。そう感じてカエルムの形を砲台へと変化させる。一撃で仕留めなければ、少しでも間違えば確実にやられる。

 

「頼んだ…ルーシィ…」

 

アップロードバーの更新が次々完了していき、憑りつかれたかのように瞳から光を無くした状態のルーシィの足元から、螺旋に廻る魔力の奔流が湧きあがる。そして、最後のアップロードが完了した瞬間、世界は一変した。

 

 

 

一言で言えばそれは宇宙。銀河の中心に置いていかれたかのような、様々な色の恒星と、それらに照らされる様々な色に光った惑星が辺り一面に広がり、ゆっくりと星たちが宙空を漂う。

 

「何だこれ…。これを、ルーシィが…!?」

 

一部始終を眺めることしかできなかったシエルは、ただただ驚愕している。この世のものとは思えない光景を自らも作り出してはいたが、今目の前に広がっているのはそれを遥かに凌駕しかねない。

 

 

 

 

─────天を測り天を開き…あまねくすべての星々…その輝きをもって我に姿を示せ…

 

─────テトラビブロスよ…我は星々の支配者…アスペクトは完全なり…荒ぶる門を開放せよ…

 

 

彼の耳に届いてきたのは、まるでこの空間の全てから反響によって伝わるような、静かではあるがハッキリとした声。その声の主がルーシィであることは分かるが、別の何かに憑りつかれた様に口を開くその様子に、今の彼女が本当にルーシィであるのかも疑問を禁じ得ない。焦りを露わにしてエンジェルがカエルムに攻撃を指示するが、もう何もかもが手遅れだった。

 

 

 

「全天88星…光る!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウラノ・メトリア』!!!」

 

 

 

閉じられていたその目を開いたとき、瞳に映していたのは五芒星の魔法陣。

 

彼女が魔法の名を告げると共に、周辺に行き交っていた星の光が彼女の元へと一気に収束。

 

そして辺り一帯を縦横無尽に、88星もの光が駆け巡り、闇に身を落とした天使の身体を大きく蹂躙して吹き飛ばした。

 

 

唖然として口を半開きにするシエル。確信が現実となったことで笑みを浮かべるヒビキ。そして魔力の奔流が収まり、瞳に光が、そして意識も戻ってきたルーシィの目の前で、シエルの天変地異(ディザスター)を受けた時の倍ほどボロボロになったエンジェルが落下する。

 

「ヒイッ!?…あれ?」

 

状況が掴めずキョロキョロと辺りを見渡しながら、ルーシィは首を傾げていた。先程まで自分が何をしていたのか、そして何が起こったのか、全然把握できずにいる。気絶したのか川にまで伸びた木の根に背を置いて寄り掛かっているヒビキ。氷漬けにされたままのハッピー。そして陸地にて傷だらけで横たわっているシエル。意識があるのはシエルのみだ。

 

「シエル、大丈夫?」

 

「全身痛むけど、問題は無さそうだよ…」

 

「…あ、そうだ、ナツ!」

 

エンジェルを撃破した今なら、これ以上の危険に晒されることは現状ない。シエル自身の容態は心配だが、他にもすぐさま助けねばならない人物がいるのを思い出す。ずーっと(2話ぐらい)前から止まっているはずのイカダに揺られてグロッキーになっているナツだ。せめてイカダから降ろさなければ。思うように力が入らない身体を必死に動かし、イカダに乗るナツの元へと歩を進める。

 

「ナツ、今降ろすから…!」

 

近くまで辿り着いたルーシィがナツの身体を引っ張ろうと手を伸ばす。その後方に川の中からゆっくりと起き上がる影があった。

 

「負け…ない…ゾ…!!」

 

「!ルーシィ!」

 

その影を見たシエルが叫び、ルーシィは反射的に振り返った。もう立つことすら出来ない程に消耗し、ボロボロになったエンジェルが、カエルムに手をかけながらルーシィを睨みつけている。先程の超魔法を受けて尚、その戦意を失っていないようだ。いや、彼女ももはや限界であることは察している。だが、このまま呆気なく退場しては、六魔将軍(オラシオンセイス)の名折れ。

 

「一人、一殺…朽ち果てろぉ…!!」

 

絞り出すように声をあげ、砲台と変じたカエルムの光線がルーシィ目がけて放たれる。次の瞬間に訪れるルーシィの悲惨な光景を想像してシエルが声を張るが、もう間に合わない。人間の反応できない速度で迫ってきた光線がルーシィを…。

 

 

 

 

 

避けるようにして軌道を曲げ、彼女の後方にあったイカダを止めていた流木を撃ち抜いた。

 

「な…!外…した…まさか、あんたまで…!!」

 

カエルムもまた星霊。その星霊に対して心からの愛を示したルーシィを討つ事を、一体の星霊として拒否した結果であった。それを示すかのように二つの発光部分が赤く二回光り、カエルムは自力で星霊界へと帰って行った。支えと戦力を失ったエンジェルは、怒りに歪んだ顔を悲しげな表情に変え、前のめりになって川の中へと消えていった。

 

「ナツ!しっかりしなさい!!」

 

イカダを止めていた流木が破壊され、川の流れに従ってイカダが移動を再開。そのせいで縮まっていたナツとルーシィの距離が更に離れていく。意識があるシエルがイカダを止めることが出来ないか画策するが、身体も動かず魔法もほぼ使えない自分に出来ることは、皆無と言える。歯痒くて悔しくて、ルーシィに託すことしか今のシエルにはできない。何とか追いつき、互いに手を伸ばしてナツの腕を掴むことに成功するルーシィ。だが、引っ張ってイカダから降ろそうと動いたルーシィを、予想だにしないことが襲った。

 

引っ張り上げようとしていたところで、小さな滝のような段差がイカダを傾けて、ナツの腕を掴んでいたルーシィはそれに引っ張られて何故かナツと同じようにイカダに乗る羽目に。そして、そこから川の流れが急流に変わっていた。

 

「きゃあっ!?何よ、急流~~!!?」

 

悲鳴混じりのルーシィの叫びを最後に、ナツとルーシィの二人を乗せたイカダは勢い良くその場を離れていってしまった。運がいいのか悪いのか。ひとまず二人の無事を祈りながら、今の自分は自分に出来ることを考えて行動する。

 

「せめて、これだけでも…」

 

身体を無理に動かすことは出来ない。今の自分に必要なのは体力と魔力の回復。その為にはある魔法を発動しなければ。矛盾しているが、今後も続く激闘を潜り抜けるにはこれしかない。

 

日光浴(サンライズ)…!」

 

淡く優しい、体力と魔力の回復を増長させ、傷の修復力も少々とは言え増幅させる光を発し、自らの身体にその光を当てていく。優しい光に包まれながら、なるべく早い回復を望んで、シエルはその場で保っていた意識を失った。




おまけ風次回予告

ナツ「何か知らねーけど気付いたらまた一人倒されてるじゃねーか!シエルーシィだけズリーぞコノヤロー!」

ペルセウス「それまさか、シエルとルーシィのことか?何で名前繋がってるんだよ…。しかしあの女、やっぱり星霊魔導士だったんだな。ジェミニを見た時にまさかとは思ったが…」

ナツ「くっそー…!トサカの奴はグレイに取られるし、オレが先に戦ってたのに横取りしやがってェ…!」

ペルセウス「お前が戦ってたのはイカダとだろ?」

ナツ「イカダ!?じゃあイカダをぶっ壊せばオレの勝ちなんだな!?」

次回『破滅の行進』

ペルセウス「あ~、もうそれでいいからさっさとイカダを壊しとけ」

ナツ「よっしゃー!覚悟しろよイカダァ!火竜の…!」

ペルセウス「おっとトライデントが暴走したー(棒読み)」

ナツ「え、ちょっと待て!?急に波がおうっぷ…!!」
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