FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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シエル「FAIRY TAIL!前回までは!」

ルーシィ「闇ギルドの三大勢力・バラム同盟の一つである六魔将軍を、あたしたちを始めとした連合軍で倒すことになったの」

「聴こえるぞ…!」

ハッピー「合流を遂げる連合軍。その集合場所で、オイラとシエルはそれぞれ運命の出会いを果たしたんだ…!」

「まさに愛…デスネ!!」

グレイ「だが奴等は既にオレたちの作戦を察知して先手を打ってやがった。最初は全員による激突をしたものの結果は完敗…。エルザは敵の毒にやられ、ウェンディとハッピーまで拐われちまった」

「こやつがいれば…奴を復活させられる…!」

ペルセウス「エルザの毒を治すには、ウェンディの力が必要だとシャルルに聞いた俺たちはすぐさま行動に移った。手分けして奴等のアジトを探し、ウェンディとハッピーを奪還。シエルの乗雲(クラウィド)で移動時間を大幅に短縮できたおかげか、エルザの毒も治すことができた」

「速ぇ事はいいことだ」

エルザ「だが、ウェンディの力で復活した遂げたジェラールが、ニルヴァーナを起動。すぐさま反撃に移り、各地で激闘が行われた。その甲斐あってか、レーサー、そしてエンジェルの二人をまずは討ち取ることに成功する」

「…死んでないゾ…」

ナツ「けどニルヴァーナは復活しちまって、タコみたいになって動き出しやがった。上等だ!ニルヴァーナに乗り込んで、奴等もぶっ飛ばして止めてやんぞ!」

「ボクたちには勝てないよ、絶対に…」

シエル「やってみなきゃ分かんねぇ。光のギルドの底力、見せてやる!!」


はい、と言う訳でいつかはやってみたかったアニメ冒頭の前回までのあらすじ風w
久々に遅刻した癖に何言ってんだって感じですけど、大体前半部分が終わったんで後半突入の意味も込めました…。

鍵括弧前に名前のないセリフ…誰がどのセリフを喋ってるのか、書いてないのに分かってしまえる辺り、真島先生のキャラの付け方が凄いって度々思いますw


第55話 空と駆ける火竜と青猫

8本の脚で行進を続けているニルヴァーナの上で、空中と王の間、それぞれ二か所の空間で対峙する二組の影。

 

空中で対峙するのは白い翼を生やした青ネコが抱える桜髪の青年と、紫の翼を広げた大蛇に乗る赤茶色の髪と褐色肌の男。

 

王の間で対峙するのは水色がかった銀色の髪に二筋のメッシュが入った少年と、長い白髪を持った壮年の男。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のナツとシエル、六魔将軍(オラシオンセイス)のコブラとブレイン。それぞれ互いに敵対する者に対してその敵意の視線を向けている。

 

「くっ…おのれ小童が…」

 

余裕を感じさせる笑みを浮かべる少年に向けて忌まわし気に顔を歪めて睨むブレイン。ナツの方に意識を取られていたコブラ共々不意を突かれ、まんまと攻撃を当ててきた少年に対して苛立ちを隠せていない。

 

「くそっ!オレとしたことがあの小僧の接近に気付かねぇとは…!」

 

「シエルのやつ、いつの間にあんなとこに行ってたんだ…!?」

 

「よく分からないけどチャンスだよ!オイラたちでヘビの方を相手すれば、あっちをシエルが倒してくれる!」

 

ニルヴァーナを動かしているのは恐らくブレイン。そのブレインを撃破するためには、コブラの妨害を突破しなければいけない。だが、そのブレインとシエルが対峙しているとなれば話は別。妨害に来たコブラを逆に足止めし、シエルにブレインを撃破することを託すと言う戦い方が出来る。

 

「聴こえてるぜ。まあ、聴かずともやることは変わりゃしねぇがな…」

 

だがその考えはコブラには筒抜け。そして、ブレインが目の前の少年への対応を思考しているのも既に熟知している。

 

常闇回旋曲(ダークロンド)

 

前触れなくブレインが放った黒緑の波動を、シエルは一瞬目を見開きながらも素早く回避。次いですぐさま反撃に出ようと魔力を込めていたところを、さらに魔力弾による追撃をブレインが仕掛けてくる。

 

「ちっ!雷光(ライトニング)!!」

 

迫りくる魔力弾の弾幕を敏捷を上げて全て回避。そのままブレイン目掛けて特攻を企てて突撃していく。

 

「聴こえてるぜ!」

 

しかし、あと少しの所を、コブラを乗せたキュベリオスの尻尾が横払いで止める。思わぬ攻撃を受けたものの、シエルはすぐさま体勢を立て直して再び攻めに転ずる。

 

「コブラ、奴らを始末しろ」

 

「あいよ、キュベリオスのエサにちょうどいい!!」

 

コブラが告げると共にキュベリオスが動き、その大きな口を開いてシエルの進行方向を的確に塞いでブレインへの攻撃を次々と遮る。どうやらどうあってもブレインは相手する気がないらしい。先程のシエルへの攻撃に苛立って自分の手で始末をつけると考えると思っていたが、それをしない理由があるのだろうか。

 

だが別の見方をすればこれは好機だ。各自分散して戦うより、ナツと二人がかりでコブラにかかり、足止めできている方が対峙してもう片方が随時ブレインに攻撃を仕掛けていく戦法を行える。キュベリオスによる噛みつきの攻撃を躱しながら、徐々にブレインから距離をとってコブラ共々引き離していく。そうすれば…。

 

「火竜の…!!」

 

ブレインに隙が出来たことに気づいたナツが攻める。拳に炎を纏って、ハッピーと共にブレインに狙いを定めてその攻撃を食らわせようと振り被る。これでブレインの方にも再びダメージが…。

 

「甘ぇよ!」

「ぐおっ!?」

 

シエルの方を攻めていたキュベリオスが、尻尾を使って後方にいたナツ目がけてコブラの身体を飛ばす。そしてその勢いでコブラはナツを突き飛ばして、ブレインへの攻撃を阻止した。

 

「嘘だろ!?」

 

距離も離れて、目には映らなかったはずのナツの攻撃さえ防いで見せたコブラ。そして彼の身体を飛ばした大蛇もまた長い身体をしならせてシエルの左足首を巻きとって拘束。それに気付いて状況を理解する間もなく、勢いよくナツが飛ばされた方向にその身体を投げ飛ばす。宙へと投げ出されながらも身体を翻しながら乗雲(クラウィド)を具現し、ナツたちと隣り合って滞空する。

 

「くっそ~!アイツが邪魔だな!」

 

「アイツはこっちの動きも考えも全部聴き取って対処してくる。作戦を考えても筒抜けになるし、体の動きまで感じとる。本当に()りにくい奴だ…!」

 

コブラの魔法はあらゆるものを聴くと言うもの。人の声は勿論、息遣い、思考、筋肉の収縮、そして遠方の微かな音も拾う。最初に激突した時も、シエルはコブラのこの魔法で手酷くやられた。

 

「そいつの言う通りだ。てめぇらの動きは聴こえている。オレに攻撃は当たらねぇよ」

 

「ああそうかよ、だったらこいつはどうだ!!火竜の煌炎!!」

 

挑発気味に笑みを向けて告げるコブラに向けて、ナツが両手を合わせて炎を集わせる。そして膨れ上がった炎の球体をコブラ目掛けていくつも投げ放つが、コブラとキュベリオスはそれを何の苦も感じさせない動きで次々と避けていく。

 

「一発も当たらねーっ!?」

 

「どういう事ーっ!?」

 

「全部聴き取られてるって言ったよな、俺!?」

 

炎の雨あられを振り落とせばどれかは当たると踏んでいたナツだが、結果とはしては着弾ゼロ。思いもしなかった結果に叫ぶナツたちに、上空に曇天(クラウディ)を出しながらシエルのツッコミが響いた。ちなみに雲を上空に展開した理由は保険の為である。

 

「このヤロッ…ぐほっ!?」

 

ナツの攻撃を全て躱したコブラに苛立ちを隠さず突っ込んでいく。だが、そんな攻撃をまんまと食らう訳もなく、接近してきたナツにキュベリオスが尻尾で彼の顔面を勢いよくはたく。

 

「落ちろォ!」

 

そしてそのまま真下目掛けて振り下ろし、ナツたちは勢い良く落下していく。落下すれば乗り物の上。戦えなくなってしまう。ハッピーに懇願するように叫んで体勢を立て直し、落下直前で持ち直した。

 

「危ねぇ!ナイス、ハッピー!」

 

「ん?あいつ、どこ行った?」

 

先程までコブラたちがいた方向に視線を向けると、既にその姿は見えなくなっている。どこに行ったのか、考えながら視線を元に戻すと、音もなく近づいてきていたキュベリオスが今にも食らいついてくる寸前の所だった。慌てながらもハッピーは急旋回してその攻撃を回避する。

 

「逃げろ逃げろ!狩る楽しみが増えるってもんだ!」

 

「くそっ!余裕かましやがって…!」

 

笑みを浮かべて悠然と追いかけるコブラと、焦燥しながらそれから逃れるナツ。対照的な空中での逃走劇を繰り広げる中、突如ナツたちがいるエリアに大雨が降り始める。

 

「うおっ!雨!?」

 

「シエルの魔法だよ!!」

 

突如降り出した大雨に慌てながら古代都市の建物の中に入り込むナツとハッピー。そして一方のコブラは大雨を降らせた原因である少年の方へと視線を向ける。その少年は雨を降らせた後すかさず次の一手に移っていた。

 

「天候は雨時々雷…!落雷(サンダー)!!」

 

けたたましく鳴り響く雨音。そして黒雲へと変える雷の魔力によって轟く雷鳴。普段と比べてその音はやけに大きく響いている。雷たちは所々に落ちるものもあるが、コブラを狙って落ちてくる雷は未だ存在しない。だがそれがシエルの狙いだ。

 

激しい雨音と雷鳴。この二つを辺り一帯に起こすことで、コブラの発達した聴覚を阻害する。微かな音すら拾うことが出来るコブラには、この騒音は確実に耳障りだ。その状況下でわざと雷の直撃を避け、いつ仕掛けてくるかも不明瞭にする。そうすればふとした瞬間にコブラへ攻撃を当てることが可能のはず。

 

「(と、考えてるようだが…オレには全部聴こえているぞ…!)」

 

しかし、コブラの方が上手だった。雷の落下地点もタイミングもランダムに仕掛けていたにも関わらず、自分を狙って落ちてきた雷を紙一重で、最小限の動きで回避する。

 

「くっ…どうなってるんだよお前の耳は!!」

 

「残念だったな、しかしよくここまでぽんぽん作戦を思いつくもんだ。オレが相手じゃなけりゃうまくいってただろうな」

 

耳を封じる作戦も失敗してシエルに、再びコブラを乗せたキュベリオスが襲い掛かる。乗雲(クラウィド)を駆使してそれを避け続けるが、動きを聴かれているせいでどこまでも攻め続けてくる。対してシエルは他に有効打が無いか模索するも、コブラに読まれていることを前提にするせいでどれも有効的と考えられない。一番手っ取り早いのはコブラから逃れてブレインの元へと向かう事だが、それも許してくれそうにない。

 

既に雷も雨も止んだ中で、シエルは都市の中のある建物の中へと追い込まれる。こうなれば賭けだ。入り組んだ建物の中を縦横無尽に駆け巡ってから脱出し、コブラが追いかけてこない内にブレインへと直行する。決めて即実行しようと雲のスピード上げたその時だった。

 

「そこだ食らえ!火竜の咆哮!!」

 

「うおわあっつぅ!!?」

 

聞き覚えのある青年の声と共に激しい炎を口から吐き出したナツが何故かこちらに襲い掛かってきた。慌てて急ブレーキをした後「何してんだお前えっ!!」と怒りの表情で叫ぶシエルを見たナツもまた、目的とは違う人物に攻撃していた事実に気付いて表情に困惑を示している。

 

「は!?何でシエルがここに来てんだ!?」

 

「あいつに追い回されてたんだよ!どういうつもりだ!!」

 

「オレはそいつに不意打ちかましてやろうと思ってだな…!」

 

そのまま困惑と怒りに任せて口論に発展する二人。そしてそれを両者の死角から迫る影が一つ。

 

「聴こえてたぜ!!」

 

「んがっ!!」

「うわっ!!」

「ぐえっ!!」

 

二人と一匹の細かい居場所を聞き取っていたコブラの膝蹴りが妖精全員を突き飛ばした。完全に掌で踊らされている。ナツが不意打ちしようとしていたのも聴いていたし、そんなナツのいる場所にシエルはまんまと誘導されていたことも彼の口から明かされる。

 

「それと小僧。入り組んだ建物の中でオレを突き離そうとしただろうが、どのみちお前の雲を飛ばす音が聴こえりゃ見失う事もねぇよ」

 

「それも既にバレてた…!」

 

「あとネコ。オレが女に嫌われるタイプが何だって?」

 

「そっちも聴こえてた!!?」

 

何もかもお見通し。地獄耳なんてレベルじゃない。実に厄介極まりない魔法を使う事を、改めてシエルたちは思い知らされた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

一方同時刻。ナツとシエルを先に行かせたルーシィとグレイも、8本の足で行進を続けるニルヴァーナの上に存在する古代都市へと足を踏み入れていた。超破壊魔法と思われていたニルヴァーナに、こんな街が存在するとは。それも廃墟ばかりで大分年数も経っていることが分かる。それを口に出したルーシィの言葉に、肯定の返事をする者がいた。

 

「その通り、デスヨ。ここは『幻想都市ニルヴァーナ』」

 

強調するような語尾で話すその男の声を聞き、二人は揃って声の下方向へと振り返る。そこに立っていたのは3人の男たち。

 

「グレイ、ルーシィ、お前たちも無事ここに来れたか」

 

「そなたたちもここにいたとは心強い」

 

「ペルさん!!」

 

「それにリオンとこのオッサンと…!」

 

妖精の尻尾(自分たちと同じギルド)のS級魔導士であるペルセウス、蛇姫の鱗(ラミアスケイル)最強であり聖十(せいてん)の一人であるジュラ。ここまでなら彼らも分かるが、問題はもう一人だった。六魔将軍(オラシオンセイス)の一人として、敵対していたはずの大男、ホットアイが彼らと共に行動していた様子に、ルーシィたちはただただ困惑する。

 

「あ~待て待て。大丈夫だ。今は敵じゃねぇ」

 

「世の中、愛!…デスヨ」

 

「「ウソォ!!?」」

 

ひとまず誤解を解くために味方になったことを伝えるペルセウス。それを証拠づけるように、両手を大きく広げて高らかに告げるホットアイの様子を見て、二人は別の意味で驚愕していた。そりゃあ、あんなに金金と言っていた人物が慈愛に満ちた顔で愛を語るなど別人レベルの変貌である。グレイに至ってはジュラは悟りの魔法を使えるのでは?と邪推する始末だ。…ジュラのどこを見てその考えに至ったのかは敢えて言うまい。

 

これ以上混乱させないためにもホットアイはニルヴァーナの影響で善の心に移ったことを簡単に説明した。それを聞いてルーシィたちもようやく納得する。善と悪が入れ替わったことによる影響であると理解できたからだ。

 

そしてグレイから、シェリーも一度ニルヴァーナの影響を受けて闇に落ちたことを伝えられる。レーサーと対峙していたグレイは、途中で兄弟子であるリオンと合流。リオンの起点によってレーサーを撃破することに成功するも、レーサーは懐に隠していた強力な爆弾魔水晶(ラクリマ)を起動。それを使ってグレイたちを道連れにしようとする。

 

グレイ、そしてシェリーを庇ってリオンがレーサーごと崖から落ち、その爆発に呑まれてしまう。間違いなく命は保証できない程の轟音を立てていたその爆発に、愛する人を失ったシェリーは負の感情を抱えてしまった。誰のせいでリオンを失ってしまったのか、目に映った弟弟子であるグレイにシェリーは襲い掛かり、次いでグレイの仲間である妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士も手にかけようと動く。

 

しかし、結果から言えばグレイも、そしてリオンも無事だった。リオンはレーサーの身体に巻き付いていた爆弾魔水晶(ラクリマ)を寸前で剥がし、爆発の余波からは氷の壁で逃れていた。リオンが生きていたことを知ったシェリーからは負の感情が消え、ニルヴァーナによる反転がリセット。今は魔力を大きく消耗したために、リオンと共に樹海の中に残っているのだと言う。

 

閑話休題。

 

「それで、幻想都市ってどういう事?」

 

「ここは、かつて古代人『ニルビット族』が住んでいた都市…デスヨ」

 

そして話題はニルヴァーナに存在する古代都市の事へと変わる。

 

今から約400年前。世界では各地で戦争が頻繁に起こっていた。中立を守っていたニルビット族はそんな世界を嘆き、世界のバランスをとる為の魔法を作り出した。それが光と闇をも入れ替える超魔法。平和の国の意味を持つ、ニルヴァーナの名が付けられた。そして今この場所こそが、ニルビット族が作り出し、生活をしていた国ニルヴァーナ。

 

「皮肉なもんだな…。平和の名を持つニルヴァーナが今…邪悪な目的の為に使われようとしてるなんてよぉ…」

 

「でも…最初から“光を闇に”する要素を付けなかったら、いい魔法だったのにね」

 

「元々そのつもりだったのかもしれねぇ。だが、強力な魔法には何かしらの副作用があるものがほとんどだ。人の心を入れ替える魔法なら、尚更な」

 

「うむ…古代人も、そこまでは計算していなかったのかもしれんな…」

 

元は悪しき心を正しきに移すための魔法。だがその性質上、逆の作用が働いてしまう事は、仕方のないことだったとも言える。人間はどうしても、両極端ではその存在を保つことが難しい。

 

闇の中にいれば、どこを見渡しても延々と暗闇が続くばかりで道が見えない。だからこそ僅かばかりでも光を欲する。

 

逆に強い光の中にいれば、目に激しい刺激を受けて、満足に目を開けていられない。故に影を作り出して己の身を守る。

 

光と闇。一概にどちらかが全てとも言えない。ニルヴァーナと言う魔法は、まるでそれを物語っているようだ。

 

「とにかく、これが動いてしまった事は大変な事デス。一刻も早く止めねばなりません…デスヨ」

 

改めて事態を重く受け止めた一同は各々肯定して決意を固める。すると、都市の中央に存在する最も高い建造物の周りを囲む燭台に魔力が通ったのか、火がともり灯りとなる。

 

中央の「王の間」にいるブレインが、そこからニルヴァーナを動かしている。その間、ブレインは他の魔法を使うことは出来ない。これは叩くチャンスだ。

 

「動かすって…どこかに向かってんのか?」

 

「恐らくは…。しかし私は、目的地を知りませんデス」

 

「そうさ」

 

8本の脚で行進する時点でどこかに移動していることは察していたが、六魔将軍(オラシオンセイス)であったホットアイですら、今どこに向かっているのかは知らないそうだ。どこに向かっているのだろうか、その議題を上げるよりも先に、新たな介入者が現れた。

 

「父上の考えはボクしか知らない」

 

都市の建物の一つ、その屋根からこちらを見下ろして言葉をかけてきたその人物。短い黒髪、赤い目とそこから伸びた長い下睫毛。更に特徴的なのは濃い紫の唇。声こそ初めて聞いたものだが、姿はこの場にいる全員が知っている。最初の激突の際も、浮遊する絨毯に胡坐をかいて終始眠っていたその人物…。

 

「ミッドナイト…」

 

真夜中の意を持つコードネームを携えた六魔将軍(オラシオンセイス)の一人である。

 

「ホットアイ、父上を裏切ったのかい?」

 

「違いマスネ。ブレインは間違っていると気が付いたのデス」

 

「…何?」

 

建物から飛び降り、着地するミッドナイト。だが、気づけばミッドナイトの姿は、別の場所に現れては消えるを繰り返しながら、その位置を所々で変えていく。

 

「父上が間違っている…だと…?」

 

気だるげにも聞こえていたミッドナイトの声に、微かに怒りを込めた圧が加わる。そして、彼の場所は気付けば、彼らの背後へと変わっていた。

 

「いつの間に!?」

 

「つーか…父上って何だよそれ…!」

 

「こいつら、親子で闇ギルドか…?」

 

家族で同じギルドに加わるというケースは珍しくもないが、親子揃って闇ギルド…それも三大勢力の一角の一員と言うのも稀有であると言える。

 

「人々の心は魔法で捻じ曲げるものではないのデス。弱き心も、私たちは強く育てられるのデス」

 

ニルヴァーナによって心が移ったホットアイだが、闇に身をやつしている間にも感じた事実なのだろう。確固たる決心を持った表情で、ミッドナイトと向き合い己の心中を語りかける。

 

が、それに対するミッドナイトは一度目を見開いて、己の魔力を解放する。一同が驚愕する中、その異常は都市に存在する建物たちが何よりも雄弁に物語った。まるで何かに切断されたかのように周囲の建物は上下に綺麗に割れて崩壊し、辺りを土埃で埋め尽くす。そして、ミッドナイトの攻撃の範囲の中にいたペルセウスたちはと言うと…。

 

「な、何が起きたんだ…?」

 

「ひえー…」

 

「ホットアイが俺たちを助けてくれたみたいだな…」

 

「地面を陥没させて、咄嗟に庇ってくれたのだろう」

 

不自然に陥没した地面の中に避難させられたことで、ミッドナイトの攻撃からは逃れられたようだ。どのような魔法を使うのか、唯一知っているホットアイだからこそ瞬時に対応できたことだろう。

 

「あなた方は王の間に行ってくださいデス!六魔導士の力は互角!ミッドナイトは私に任せてくださいデス!!」

 

「…君がボクと勝負を?」

 

先手必勝とばかりに土の波を巻き起こし、ミッドナイトへと迫らせるホットアイ。それに対して腕を振りかざして波を拡散させる。六魔将軍(オラシオンセイス)の魔導士同士でぶつかり合うと言う展開。グレイとルーシィには、目の前の光景がつい先程まで信じられなかったものになっている。

 

「ホットアイ、お前…!」

 

その中で、ペルセウスは彼の身を純粋に案じている。善悪が反転してからホットアイとは数々のシンパシーを感じてきた。何事も無ければ友になれる可能性もある。そんな彼はペルセウスに背を向けながら、彼を送り出そうと魔力を集中させている。

 

「さあ!早く行くデス!!そして…私の本当の名は『リチャード』…デスヨ」

 

ホットアイ…否、『リチャード』が名を明かすときにのみこちらに笑顔を向ける様子を見て、ペルセウスも後を託すことを決めた。

 

「真の名を敵に明かすとは…本当におちたんだね、ホットアイ…」

 

「愛に目覚めた私にコードネームは必要ないデス!覚悟!!」

 

そのやり取りを最後に再び強力な魔法ぶつけ合う二人。その余波を感じながらも、陥没した地面から抜け出し、王の間と呼ばれる中央の建物へと視線を移しながら、ペルセウスは仲間に呼びかけた。

 

「リチャードを信じよう。俺達がニルヴァーナを止めるんだ…!」

 

それに3人は首肯で答え、ペルセウスを先導として激突を背に駆け出した。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「オラァ!!」

 

炎を纏った拳で振り被るも、ひらりと躱されて空を切る。先程からずっとこの繰り返しだ。最早躱している側のコブラも、あまりに学習しないナツの行動に逆に困惑している始末だ。

 

「くっそ~!当たんねぇ!!」

 

「シエルが言ってたけど、本当にオイラたちの動きが聴こえてるの!?」

 

「さっきもそう言ったよ…」

 

呆れ顔を浮かべながら浮遊する雲の上に乗ってシエルが溜息混じりに呟く。一向にコブラの魔法の説明を把握せずに突っ込んでは避けられ、突っ込んでは避けられの繰り返し。隙をついてシエルが遠隔から攻撃を仕掛けたりもしているが、それさえもコブラは聴き取って回避したり防いだりするので未だに決定打を当てられていない。日射光(サンシャイン)でコブラの視界を封じながら戦うと言う手も考えたが、耳頼りのコブラには逆効果だ。

 

「そうだ、心の声が聴けるから動きも分かる」

 

「心の声か…」

 

「だったら…これが聴こえるか!!」

 

するとハッピーが徐にそう叫び、何かを心の中で考えだす。心の中の声なので辺りは静寂に包まれる。

 

 

 

その中で、彼の腹の虫が響き渡ったような気がした。

 

「テメェが魚好きだって事はよーく分かったよ」

 

「ホントに聴こえてるーー!!オイラ魚の事だけ考えてたっ!!」

 

ただただ魚の事を考えていたハッピーに、シエルはある意味納得した。だが、魚好きであることを知らないはずのコブラが言い当てたのは、確かに心の声を聴ける証拠だろう。

 

「ぬおぉーっ!!じゃ次オレなー!!」

「よく当たるよ!!」

 

「オレの魔法は見せモンか…?」

 

どこか遊ばれてる気がするコブラ。だが割と律儀らしく、ナツが心の中で考えている声に集中して聴こうとする。少しばかりの時間が経った頃…。

 

「ぷっ!」

 

突如コブラは吹き出し、そして腹を抱えてこらえるように笑いだした。

 

「く…くそ!意外に面白ェギャグじゃねーか、うはははっ!!」

 

「よっしゃウケた!!じゃなくて確かに聴こえてんな」

 

「え、何、今心の中で何て言ったの、気になるんだけど?」

 

思っている以上にツボにはまったらしく笑い続けるコブラを見て、シエルは逆に気になった。本当に何を考えたんだろうか。

 

「後で教えてやるよ。シエルもやってみろよ、すげぇぞ?」

 

「え、いや俺は…」

 

「いいからいいから!」

 

コブラの聴く魔法の脅威は身をもって味わっているのだが、ナツに勧められて自分なりにどうするか考えてみる。そして、コブラが聴いているであろう自分の心に、あることを中心に思考を始める。

 

 

 

 

「何だとテメェ!言わせておきゃあふざけやがってェ!!」

 

「「急にキレたぁ!?」」

 

ナツたちが見たことないような怒りに満ちた顔で怒鳴り散らし始めた。心の中で何を言ったんだ。ナツたちがシエルに聞いてみると、イタズラをするときの笑顔を浮かべ、指をある方向に向けながら答え始めた。

 

「あのヘビに関する悪口をとにかくいっぱい考えてやった」

 

「ヘビかよ!!」

 

コブラを乗せて浮遊しているキュベリオスの悪口を延々と考えていたらしい。心なしかそのキュベリオスの顔がどこか悲しそうに見えるが、ショックだったのだろうか?そして自分の相棒であるキュベリオスを悪く言われたことで、コブラは自分のこと以上に怒りを感じたらしい。

 

「目つきが悪くて何が悪い!体色が毒々しくて何が悪い!体がデカいことも!そこが寧ろコイツのいい所なんだろうが!!それから『翼を広げて飛ぶなんて最早ヘビじゃなくてモンスターみたいだな』とか言いやがって!いいじゃねーか、ロマンを感じて!つーかそれなら、そのネコが飛んでることの方がよっぽどおかしいだろーが!!」

 

「んだとー!?ハッピーの悪口言うんじゃねーよ!!」

 

「え、今の悪口?」

 

やけに饒舌になってキュベリオスがいかに魅力的なのかを語り叫ぶコブラ。それに乗じてネコが空を飛ぶことに対して異議を唱えたことを悪口と解釈したナツが突っかかるが、本人(ネコ)はさして気にしていないようだ。

 

「兄さんだったら小一時間はディスれるだろうけど、それはともかくやっぱり厄介な魔法だ…」

 

「ねえ、オイラいい考えあるんだけど、それも聴こえてるのかな?」

 

「『右に行くって考えてから左から攻撃』」

 

「「えーっ!!?」」

 

コブラの魔法の脅威を再確認したところで、どうやって奴と対峙するかを再び思案するが、やはり筒抜けだ。思考のプロセスを聴くコブラにとっては、どのような裏も通じない。その本質ごと全て聴き取ることが出来るのだから。

 

「お!成程な。色々考えてるな?三つ、四つ…小僧にも引けを取らねぇ作戦もあるが…筒抜けだ」

 

「ズリィぞ、てめえっ!!」

 

これは本格的に勝ち目が見つからない。ナツも戦いにおいては頭の機転が回る方だが、それすらも聴き取っているコブラには無意味。どうすればいいのか。思考しながら戦闘を行う癖のあるシエルには、コブラとまともに戦うビジョンすら浮かべられない。

 

「こうなったら正面から行くしかねぇ!!」

「あいさ!作戦T!」

 

「「『突撃(TOTSUGEKI)』ー!!」」

 

「ちょ、おいいっ!!?」

 

思考の渦に囚われかけていたシエルは、直情で突撃していったナツたちに反応が遅れ、制止も追いつかずに置いていかれる。真正面からかかってもコブラには同じことのような気がするが…。

 

「右フック。左キック。続けて右回し蹴り」

 

動き自体も聴き取って対応してくるコブラ。これは最初の激突の時にシエルもやられたパターンだ。その時に取った行動すらも聴き取って全て対処してくる。やはり勝てないのか、この男には…!

 

「返しの右ストレート…っ!」

 

が、ここで異変が起きた。確実に躱したと思っていたはずの右ストレート。しかし、コブラの左頬には、微かにナツの炎による火傷がついていた。それに気付いた直後、驚愕に目を見開くコブラの右頬に、ナツの炎を纏った左の拳が叩き込まれた。見紛うことないクリーンヒット。コブラも、そして距離をとった場所で見ていたシエルも、目を疑った。

 

「当たった!?何で!?」

 

混乱するシエルをよそに、ナツの進撃はさらに続く。身体を投げ出されたコブラを慌てた様子でキュベリオスが拾うが、コブラはナツの攻撃を躱すことが出来ずに顔への右拳、左拳、そして腹への蹴り。さらに縦横無尽にナツの炎を纏った攻撃を次々と食らっていく。

 

その間、ナツはまるで目の前にある障害をただただ破壊しようとする猛獣のような勢いで攻撃を叩き込んでいる。その様子を見てシエルは察した。

 

「まさか、何も考えていない…!?直感だけで攻撃している!?」

 

普通の戦いならば相手の裏をかき、予測できない攻撃を仕掛けたり、策を用いて戦う者の方が有利だ。真っすぐに直情的な攻撃を仕掛ける者は、すぐに対処されてしまう。

 

しかし、コブラの場合はその真逆。あらゆる攻撃方法を考えるからこそ、その思考を読まれてしまい、どんな裏も見抜かれて阻止される。だが、思考を全て投げ捨て、ただただ直感で攻撃を仕掛けられた場合、何も聴こえない状態からの攻撃は寧ろコブラにとって一番の脅威。

 

理屈は分かる。だが、そんなことを本当に実践できる者など一体どれだけいるだろう。少なくともシエルには不可能だ。否、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の中でも、ナツを除いてあとどれくらいいるのかわからない。下手すればナツだけかも。

 

「バカなのか賢いのか…こんな奴は初めてだぜ」

 

そしてそれはコブラも把握している。ナツの右拳を右手で受け止めながら、彼はナツの計り知れない力を認める。そして彼の右手は…否、両手は人間だったものからその形を変え始める。

 

「成程な…小細工じゃどうにもならんか…」

 

それと同時にナツが纏った炎が消えていき、コブラの変形した手からは赤黒い霧が発生し始める。

 

「ぐあっ!?て、手が…!」

 

突如何かに焼かれたような痛みを訴えてコブラからナツが距離をとる。そして再び彼の姿を見ると、そこには驚愕の変化を遂げたコブラがそこにいた。

 

変形した両手は人間のそれではない。彼の髪と同じ赤茶色の、竜の鱗と尖った爪を持った、まさに竜の腕。そしてそこからナツの手を侵食した赤黒い霧を発生させている。

 

「『毒竜のコブラ』…本気で行くぜ」

 

竜の形となった腕。そこから噴き出す毒の霧。そして『毒竜』…。それはナツたちにとって衝撃の事実を十分に語っていた。

 

「こいつまさか…滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)!?」

 

毒の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)。それこそがコブラの正体であり、真の力だった。

 

 

 

 

 

 

「毒の…ドラゴン……スレイヤー…!?」

 

そしてその事実により驚愕を覚えているのは、雲の上に乗っている少年だ。

 

 

毒。

 

 

蛇。

 

 

スレイヤー系…つまり、毒を食らう。

 

 

赤黒い…血の色…。

 

 

 

 

 

逃れられない…

 

 

 

 

 

 

死の運命(さだめ)

 

 

 

 

 

 

 

 

───────大丈夫…何も心配することはない…。

 

 

 

 

 

 

 

───────君の病気を治す為の薬です…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────お兄さんの為にも…決まった数と、決まった時間…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────ワカッテイマスネ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

飲まなきゃ…兄さんの為に…!そうじゃないと、兄さんはずっと…!

 

今ならまだ帰って来ない…。帰ってくるまでにはすべて終わる…!

 

 

 

僕がいるから…僕がいなければ…ずっとずっと囚われのまま…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕がいるから生きているせいでどうせ治らない死んだほうが兄さんの幸せがでも怖い死ななきゃいけない迷うな死にたくないダメだもう決めた事これをのめばおわるそうおわるなにもかもおわってしまういやだしにたくないだめだめかんがえるなしぬんだそうだこれがいちばんのほうほうこれがぼくがにいさんいやだこわいこわいこわいこわい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────ワタシノイウコトガキケマスネ…?

 

 

 

 

 

 

 

「うああああああああああああああああああああああっっ!!!!!」

 

響く絶叫。

 

絶え間ない慟哭。

 

焦点がぶれ、鼓動は早まり、不規則に息が続かない。

 

今自分はどうしてる?ここはどこだ?立っているのか?座っているのか?

 

俺は、僕は、どうして死んでいない?

 

兄さんの為に決めたんじゃなかったか?その決断をしたんじゃなかったのか?

 

頭を抱えていくつ振っても答えが出ない。

 

何故、どうして、自分たちがこんな目に、幸せになってはいけない?

 

全て終わる。あの時終わったはず、分からない、兄さんの為に自分は…。

 

 

 

「な、何だ…これは…!?」

 

コブラは、何年ぶりになるであろう感情を思い出した。恐怖だ。それは目の前に対峙する火の魔導士にも、天気の小僧に対してでもない。

 

天気の小僧の心に、瞬時にして浮かび上がったいくつもの声。ほとんどがその少年の声だったが、時折聞き覚えのない男の声が聴こえてきた。

 

「(声色は、低めの優男って感じだ…。だが、確実に分かる…この声の主は…異常すぎる…!!)」

 

聴こえてきたのは声だけ。だがその声だけでコブラは恐怖を覚えた。安心感を感じさせるように優しい声色で話しかけるその男。だが、その言葉に従った瞬間、安らかとは程遠い未来から逃れられなくなる、そんな感覚を覚えた。

 

「(あの小僧…一体、何者なんだ…!?)」

 

そんな男を知りながら、今こうして生きていられる少年に、コブラはあらゆる意味で、戦慄を感じていた…。




次回『毒を()む』
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