FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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ついに主人公シエルの魔法公開です!
ただ作中でかなりハードル上げまくって、皆さんの期待に応えられているのか、と言う若干の不安がありますが、お気に召していただければ幸いです。

ではどうぞ!


第4話 シエルの魔法

投げ出された小柄な少年の身体。ホームに響く衝撃音。一人の闇の魔導士によって放たれた悪意ある魔力弾が、若き少年の芽を無情にも摘み取った。それが今、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に一番新しいメンバーとなった金髪の少女、ルーシィの目の前で起こった現状だった。

 

「シ…シエルぅぅっ!!!」

 

現状を理解したルーシィの口から悲鳴と共に少年の名が放たれる。14歳にして残酷にもその命を散らされた少年。それを、自らのためなら他者の命さえも簡単に奪うような悪人の手によって為されたことに、少女はショックを隠し切れない。地に背をつけて倒れたまま動かない少年に駆け寄り、間違いであってくれと願う彼女であるが、確実に魔力弾が当たった胸の部分を貫通しているという事実を目の当たりにしただけだった。

 

「そん、な…っ!!」

 

何故こんなことが起きてしまったのか。彼が狙われていることに自分がもっと早くに気付いていれば、ナツやグレイと一緒にエリゴールを追わせていれば、そもそもシエルをこの場に連れてくることを止めていれば…そんなもしもを考えてしまうが、過ぎてしまった時を戻す方法はない。

 

「よっしゃぁ!まず一人だ!!」

「やっぱあの子供(ガキ)は大したことなかったぜ!!」

「ここは遊び場じゃねぇんだよぉ!!」

「次は金髪の女を狙えっ!!」

 

少年一人を討ち取った鉄の森(アイゼンヴァルト)はと言うと、エルザによって半数以上をやられた時とは打って変わって嬉々とした様子で騒ぎ立てる。自分たちの方にも多くの犠牲が出てしまったが、警戒すべきは実質一人。エルザ一人のみの状況にすれば少なからず状況を覆せると、彼らはそう感じていた。

 

「…やった…のか…?なんか、手ごたえ無さ過ぎたような…」

 

「気にするこたぁねぇ!あの女だけが化け物だったからだよ!」

 

しかしシエルを魔導弾で撃った本人は一発で一人倒したことに実感が持てていない様子。自分たちの仲間を圧倒的な実力で薙ぎ払ったエルザに同行している魔導士としては、あまりにもあっさりとしているからだ。他の者たちは楽観的に考えているが、何故かその男は言い知れぬ不安感を拭えなかった。

 

「シエル、嘘でしょ…?こんな…!!」

 

次の標的に絞られていることにも気づけないほど、ルーシィはシエルの身体から目を離せずにいた。過ごした日はまだ数えるほどしかない。だがそれでも同じギルドで、同じ紋章をその身に刻む仲間が目の前で失われたショックは言い知れぬものだ。彼女の双眸から涙さえも出てき始めたその時…。

 

「大丈夫、心配いらないよルーシィ」

 

少女の後ろに立っていた青いネコのハッピーは普段と変わらぬ様子でそう告げた。仲間(シエル)が失われた瞬間を見ていたというのに、あまりにもいつも通り。ルーシィは勢いよく振り向いて、ハッピーがかけた言葉が理解できないと言わんばかりに叫び出した。

 

「だ、大丈夫って…何が大丈夫よハッピー!?エルザも!!だって、だってシエルが、撃たれて…!!」

 

「死んだと思った?」

 

「……え…?」

 

そして唐突にその叫びは止まった。今の言葉はハッピーのものでも、エルザのものでもない。彼らは口を動かしていなかったし、今彼女が聞いた言葉はハッピーたちの方を向いていた自分の後方から聞こえたものだ。しかしそこにはもう動かなくなった少年の身体しかないはず。恐る恐る振り返ると、その少年の身体は貫かれた胸部もそのままで…。

 

「そう判断するには早すぎたね~」

 

悪戯が成功したような笑みを浮かべ、口から言の葉を紡いでいた。瞬間、ルーシィは顎が外れるほどに口を大きく開き…。

 

『えええーーーーーーっっ!!?』

 

鉄の森(アイゼンヴァルト)のメンバーと一緒に驚愕の声を上げ、ホームに響かせた。先程までピクリとも身体を動かさずにいた少年から一切苦悶のない表情で言葉が出てはそりゃあ驚きもする。ルーシィから絶望の感情は消え去り、驚愕と混乱が全面的に出された顔と声でシエルに質問を始めた。

 

「な、なななな何で、生きて、え、ええっ!!?」

 

否、質問と言うには混乱の方が強すぎてまともな言葉になっていない。今も尚口をパクパクと開け閉めしながらシエルを指さした状態でいると、彼は「ふっふっふ…」と不敵な笑みを浮かべたかと思いきや、倒れていた少年の身体が徐々に透けていき、やがてその姿が完全に消滅した。

 

「き、消えた!?」

「幻影の魔法だったのか!!」

「本物はどこにいやがる!?」

 

「こっちこっち~」

 

シエルが突如消えたことにルーシィだけでなく鉄の森(アイゼンヴァルト)の者たちも驚愕し、幻だったことに気付く。今のが幻ならば本体がいるはず。全員がその姿を探していると近くから声が響いた。やけに近くから聞こえたことを怪訝に思いながら各々がその方向に向くと、思わず彼らは「うおおっ!?」と驚き声を上げた。鉄の森(アイゼンヴァルト)の者たちが集う中心、ど真ん中にて「よ!」と右手を上げながら軽く応えるシエルの姿があったのだ。

 

「ええっ!いつの間にあそこに!?」

 

「こんのガキャァ!!」

 

先程まで隣にいたはずの少年の姿が敵陣のど真ん中にあったことに驚きの声を上げたルーシィ。驚いていたのは向こうも同じだが、敵が近くに来たことで警戒心の方が強め、数人が至近距離で遠距離用の魔法を放ち始める。しかし、先程の魔力弾の時とは違い、避ける様子も反撃する様子もない少年の身体を魔法がすり抜けるようにして過っていく。

 

また一つシエルが笑みを零すと、再び身体が透けるようにして消えていく。再び消えたことで周りの者たちが見渡すと、彼らの後方から「どこ見てんの?」と声が聞こえる。両腕を組んで列車にもたれかかった状態で、シエルの姿が出現していた。

 

「ちょ、調子に乗んなよテメェ…!!」

 

シエルの一番近くにいた魔法剣士が彼を斬り裂こうと右手に持つ剣を少年目がけて振り下ろす。しかし、避けようとすらしなかったシエルの身体の切り口は、まるで粒子のように分解されており、ダメージが通った様子はない。勢い余ってシエルがいた部分の列車の壁に傷を作ったが、ただそれだけだ。下から見上げてくるシエルの口角が吊り上がって、己を馬鹿にしているように感じた魔法剣士は歯ぎしりをするほど苛立っている。

 

「くっそがぁ!!」

 

左から右へと横一閃で剣を振ったと同時にまたもや煙のように姿を消してしまったシエル。魔法剣士を含む鉄の森(アイゼンヴァルト)の面々が「どこに行きやがったぁ!」とシエルの姿を探す。すると毎度のように「こっちだこっち~!」と声が聞こえてくるが、今度はどこを見渡しても少年の姿が見当たらない。遠目から眺めているルーシィも、シエルの姿が見えずに困惑している。

 

「どこ見てんの?こっちだってば~!」

 

「あれ、この声上から聞こえるような…?」

 

最初に気付いたのはルーシィ。何故か上の方から声が響くことを不思議に思い反射的にその首を上方向へと曲げてみると、確かにシエルはいた。「ヤッホー」と軽い感じで挨拶しているが、ただっぴろいホームの天井に逆さまの状態を保ちながら立っていた。

 

「えーーっ!?どうやって立ってんのそれぇ!!」

 

ルーシィだけでなく、鉄の森(アイゼンヴァルト)の者たちも気づいたようで、天井を床と同じ原理で仁王立ちしているシエルの様子に先ほどまでの怒りも忘れてただただ仰天している。普通であれば重力に従って頭から真っ逆さまに落ちるはずなのに、まるで重力が反転しているような錯覚すら覚える光景だ。先程とは違って、今度は攻撃を当てることすら難しい。いや、そもそも攻撃が当たってもまたダメージを与えられないのではないか、と言う疑念故か、もう敵側に攻撃しようとする者たちすら現れない。

 

「シエル、いつまでも遊んでいないで真面目にやらんか!時間も限られているのだぞ!」

 

「おっとそれもそうだ。ごめんごめん、そろそろちゃんとしようかな…」

 

すると今までずっと無言でシエルが起こした騒動を見ていたエルザが、一つ溜息を零しながら彼に注意した。まだ放送は流れていないが、いつエリゴールによる呪歌(ララバイ)の放送が起きるとも分からない。一刻を争うことを念押ししたことで、天井に立っていたシエルの姿は再び透けるようにして消えていった。先ほどから何度も見ている光景だが未だに慣れない。ルーシィが「今度はどこに…?」とあたりをキョロキョロとしていると真横から「ただいまー」と気の緩んだ声が聞こえる。一番最初にシエルが魔力弾を喰らっていた位置に、本人が怪我一つない体で戻ってきていた。

 

「わあっ!戻ってきたぁ!!今の何だったの、あれがあんたの魔法!?」

 

「『蜃気楼(ミラージュ)』って言うんだよ」

 

ルーシィの疑問に代わりに答えたのはハッピーだ。蜃気楼(しんきろう)と言う名の通り、己の幻を虚空に投影させることで相手の視覚を撹乱することができる。そして本体はその姿を見えなくさせることができ、次々と現れるシエルの幻影にいかに攻撃しようと本体に傷がつかなければダメージが通らない、と言う仕組みである。

 

しかしルーシィはその説明を聞いて一つ疑問を感じた。確かに凄い魔法ではある。現に未だ半数ほど残っているギルドの魔導士を引っかき回して自分のペースを作り上げるほどに。しかしそれは己の保身に関してのみだ。列車の中でエルザが告げた『世界の(ことわり)を変えることができる魔法』とは正直当てはまっていないように思う。

 

「シエルの本当の魔法は、こっからだよ…!」

 

その疑問にも答えるようにハッピーは告げた。ルーシィの真横にいたシエルはゆったりとした動きで歩きながら鉄の森(アイゼンヴァルト)の陣営へと近づいていく。一方の彼らはと言うと散々弄ばれたせいで子供が相手でも警戒心を解こうとしない。むしろ油断の一切を消して、シエルのみに視線を向けている。

 

「標的認定してくれたみたいだな、視線を向けてくれている…」

 

数十の魔導士、しかも己よりも多く年を重ねた者のみが集っている状況にも関わらず、一切の怯みも恐れも感じない。目を細めて笑みを浮かべる少年は自分の顔の前で上向きに右の掌を構えると、白い魔法陣を展開。同時に敵側の魔導士の一人が「今だ!」と叫ぶや否や、遠距離の魔法と一度は彼を撃ち抜いた魔力弾がシエル目がけて放たれようとする。それを見たルーシィが声を上げようとするが、先に動いたのはシエルであった。

 

「そう言えばさっき、子供(ガキ)の遊び場じゃないって言ってたな…。俺にとっちゃ十分遊び場だよ…。

 

 

俺みたいなイカれた育ち方した子供(ガキ)がやるような、『闇ギルド狩り』って言う遊びに関してはなぁっ!!」

 

その言葉と共に魔法陣から放たれたのは白く発光する球体。その発行体の光は徐々に大きく膨らみ…。

 

 

「光に潰れろ!『日射光(サンシャイン)』!!」

 

眩い光を、(鉄の森)に向かって無理矢理照らすかのように放出する。シエルに視線を向けていたすべての魔導士がその光を直に目に浴びてしまい、視覚を封じられてしまった。

 

「な、何これ!?眩しいっ!!」

 

「はいルーシィ、これ」

 

放たれた方向とは逆の位置にいたルーシィでさえその眩しさに目を閉じる。人間が直視できる光量を優に超える輝きに目を開けていられずにいたら、ハッピーの声とともに自分の耳と目の部分に何かがかけられた。思わず目を開けると、その視界は光を遮るサングラスによって目を保護されている。前もって持ってきていたのだろうかと困惑しながらも、ルーシィは自分同様にサングラスをかけているハッピーにお礼を言うために首を向けた。

 

「あ、ありがと…用意良いのねあんた…」

 

「持ってきておいて良かったよ」

 

「てかエルザも!?」

 

すると視界の端に見えた緋色の髪の女性エルザも、やけに凝ったデザインのサングラスを同じようにつけていたことにルーシィは思わずツッコんだ。ちなみに、エルザが纏っていた天輪の鎧が、最初の鎧姿に戻っていることにも今更になって気づいた。ちなみにそんなエルザはと言うと、ルーシィのツッコミに対して「オーダーメイドだ」と何故かどや顔で返答する。そこは聞いてない。

 

「ぎゃあああっ!!いってぇっ!!」

「光!?聖属性か、あんな子供(ガキ)が!!」

「何にも見えねぇ!何がどうなってんだァ!!」

「目が、目がぁあっ!!」

 

サングラスのおかげで難を逃れた妖精とは逆に、阿鼻叫喚に陥る闇の者たち。ルーシィはその様子とシエルが発した光に困惑を隠し切れない。思わず目を瞑ってしまったために、「シエルが魔法で光を発した」と言う事実しか確認できていない。

 

「い、今のってシエルがやったの?」

 

「そうだ。掌大の小太陽を、あの場で創った」

 

「太陽!?」

 

はるか上空のそのまた遠くに存在する天体――太陽を魔力で創り上げた。幻を投影したり太陽を作り上げたり。ますます彼の魔法が謎に満ちていく。しかし、ルーシィが動揺する間にもシエルの攻撃は止まらない。

 

「本日は晴天なり。しかしところにより光を埋め尽くすほどの雲が、空を遮ることでしょう…。『曇天(クラウディ)』!!」

 

天高くに向けて上げた右手から新たに灰色の煙、否、雲を創り出す。その雲は上昇を続けて、光で目を灼かれ苦しむ鉄の森(アイゼンヴァルト)たちの上空へと密集し形作られていく。駅のホームの中、つまり屋内に作られていく雲にルーシィは開いた口が塞がらない。

 

「屋内に…雲…!?」

 

「また、より密集した雲の下では大雨が降る恐れがあります。お出掛けの際は傘を…忘れずに!」

 

作り上げ勢力を広げた雲に向けて、今度は青い魔法陣から現れた魔力を撃ち出す。すると雲の色が徐々に暗くなっていき、そこから突如無数の雫、つまり雨が降り出した。それも生半可な量と勢いではない。

 

「『豪雨(スコール)』!!」

 

「いででででっ!?」

「今度は雨かぁ!?」

「何で屋内で雨が!!」

「俺まだ目が開けられねぇのに!!」

「つか開けてもどっちみち見えねぇよ!!」

 

まさに豪雨。次々と襲い来る無数の雨粒が、鉄の森(アイゼンヴァルト)に降り注ぐ。まるで彼らに染み付く虚飾の強さを洗い流していくかのように。太陽、蜃気楼、雲に雨。次々と自在に天気を変えていくシエルの魔法を見て、視界を遮る必要がなくなってサングラスを外したルーシィは気づいた。

 

「これってもしかして、天気を変えれる魔法…!?」

 

「その通りだ。あいつはその気になれば、掌サイズの太陽や雲から、この駅の中、いや遥か上空の天気を変えることだってできる。魔力を多く消費するが雨雲を晴らすことも、大雪を降らすことも」

 

人間が自然現象に干渉することは、本来なら不可能だ。しかし、その現象の一つである天候を自在に操り、変化させることができれば…?かつてルーシィが読んだ魔導書にそのような魔法があったが、それは多大な魔力を消費するために複数人が、長い時間をかけてようやく発動できる古代魔法(エンシャントスペル)であったはず。それを今、自分よりも年若い少年が一人で成し遂げていることが、彼女にとって信じがたい光景だった。

 

「あいつは他の魔法に関してはからきしだ。だがこの魔法にのみ適性が見つかり、しかも本来よりも少ない魔力量で使いこなすことに成功している」

 

本来人間は自然に真っ向から太刀打ちはできない。如何に何十人の魔導士が襲い掛かってきても、ひとたび災害に見舞われればそこで全滅もあり得る。だからこそ彼の魔法は一対多にこそその本領を発揮できる。そして天候を変えられるということは、その地の環境も変えることが可能だということ。長年干ばつに苦しむ地域を雨の恵みがもたらされる土地にしたり、ぱっとしないただの山の斜面が広がる場所に大雪を降らせ、冬ならではの娯楽を楽しめる観光地に変えたりもできる。土地の環境が変われば自然と世界の流れも変わる。彼が依頼を受けて魔法を行使した場所を訪れ、その後の様子を直に見たエルザは確信したのだ。

 

 

シエルの魔法は『世界の(ことわり)をも変えられる魔法』であることを。

 

「それがシエルの魔法、『天候魔法(ウェザーズ)』だ」

 

「こ、こんなの…これこそ最強じゃない…!!」

 

エルザの、シエルの魔法の説明を聞いたルーシィは愕然とし、そんな感想を零した。天候を意のままに操り、多数の魔導士を蹂躙出来る魔法を使えるなど、彼こそが一番強力な魔導士なのではないかと。

 

だが彼女は知らない。一度エルザと手合わせをした際に、蜃気楼(ミラージュ)を発動したのに一発で本物の位置を特定されて一撃を喰らったり、竜巻や吹雪の魔法を躱したり斬り裂いたりして距離を詰められて組み敷かれたりと、量に対しては強いが質に対してはまだまだ未熟な部分が多いと、シエルが当時身をもって思い知らされたことを。実際問題、エルザと同等かそれ以上の化け物はまだまだいるのだ。怖すぎる。

 

「さてルーシィ、ここで問題です!雲→雨と来て次に出てくるものと言えばなんでしょう?」

 

と、ここでハッピーがやけにテンション高くルーシィに質問、と言うか問題を投げかけてきた。戸惑いながらもルーシィは未だに大雨で慌てふためく鉄の森(アイゼンヴァルト)と、その面々を面白そうに眺めているシエルを交互に見ながら答えを出した。

 

「え?雲から雨と来て次って、そりゃあ…あ、まさか…!?」

 

察しはついただろう。大雨を降らすほどの密度の高い雲が漂っているのなら、勿論自然に起きるものでも脅威となり得るあの天候が起きることは必至。何より恐ろしいのは、『天候魔法(ウェザーズ)』ならその発動も魔力次第では自由自在であることだ。現に今彼は口元を裂けるように吊り上げたまま、右掌に展開した黄色の魔法陣に魔力を集中させている。

 

ルーシィの予想は的中していた。ずばり『雷』だ。

 

「雷注意報発令。付近の方は速やかに避難されるようにお願いします。…避難できればの話だけど」

 

最後の言葉を皮切りに、大雨を降らす雲に向けてとうとうそれは発射された。雷の魔力と混じり合った雲がその色を漆黒に染め、黄色く光る稲妻を徐々に拡大させていく。そして膨張を続けていったその光は、やがて抑えきれなくなっていき…。

 

 

 

「『落雷(サンダー)』!!!」

 

鉄の森(アイゼンヴァルト)の魔導士たち目がけて落ちた。黒雲から放たれた落雷は、視界がまともに機能していない彼らに避ける術はなく、その身にかつてない衝撃を受けてしまう。さらに言えば、彼らは先程の大雨で体中が水でぬれており、電気を良く通しやすくなってしまっているため、普通に受けるよりもダメージが甚大だ。ちなみにルーシィは彼らの身体が透けて内側の骨が見えたような気がしたと後に語ることになるが、真実か否かは誰も知らない。

 

自然界の災害の中でも上位に値する現象たる落雷を受けた者たちは、一人残らず意識を失った。誰もかれもがその場に倒れ伏し、一人たりとも立ち上がる者はいない。数十から百近くまでいたはずの鉄の森(アイゼンヴァルト)は一人の女性と一人の少年の、二人の魔導士によって全滅した。

 

「終わったよ、エルザ」

 

「ああ、ご苦労だったな」

 

「な、なんか敵の方が可哀そうに思えて来ちゃった…」

 

片や武器だけでなく鎧まで換装を行うギルド最強の女、もう一方は天候を意のままに操り味方につける少年。彼らを相手にし、一方的に蹂躙された鉄の森(アイゼンヴァルト)の者たちに、ルーシィは多少ではあるが同情を感じた。しかし敵側を全滅させたにも関わらず、エルザとシエルに気の緩みは感じられない。

 

「ごめん、一人だけ取り逃がしたみたい」

 

「え、逃げたやついるの!?」

 

それは気絶している者たちの中に、先程いたはずの者が一人見当たらないことに気付いたからだ。妖精女王(ティターニア)のエルザの存在を知って、声を張り上げてそれを他の者に知らせていた小太りの男。シエルが『豪雨(スコール)』を発動した時には他の面々と共に餌食となっていたはずだが、視界が悪くなった時に何かしらの手段、もしくは魔法を使って逃げ出したらしい。エルザもそのことについては既に把握していたようで、エリゴールの後を追っていったのではないかと推測をつける。

 

「ルーシィ、逃げたと思われる奴を追ってくれ」

 

「え!?あたしがっ!?」

 

「頼む!」

 

「は、はいぃぃっ!!」

 

エルザからの唐突な頼みに動揺するルーシィだったが、鬼のような形相で睨まれた直後、掌を返してすぐさま駆けだす。ナツとグレイが向かった方向なら見つけられると考えて、ルーシィはハッピーと共にその方向へと向かっていった。その直後、ルーシィの姿が見えなくなったと同時に、エルザは突如力を失ったように片膝を地につけた。

 

「エルザ!」

 

「大丈夫だ、魔動四輪を飛ばしたのがこたえただけだ。すぐに動ける…」

 

魔動四輪で長距離を猛スピードで駆け抜け、さらに先程まで数十の魔導士を相手に蹂躙。体内に宿る魔力も体力も大幅に消耗した反動はやはり激しかったようだ。脂汗を滲ませて疲労の色を見せながらも、駆け寄ってきた少年に心配をかけまいと笑みを浮かべていた。

 

そのことをよく理解しているシエルは、右掌に白い魔法陣を展開させると『日射光(サンシャイン)』と同様の白く発光する球体を顕現させる。しかしその光は鉄の森(アイゼンヴァルト)に放った激しく光るものとは違い、淡く安らぎを与えるような柔らかい光を持っていた。

 

「『日光浴(サンライズ)』。体の治癒力や魔力の回復力を向上させてくれる。これを持っていれば早く動けるようになる筈だよ」

 

「すまない、助かるぞシエル…」

 

日射光(サンシャイン)と同じように掌サイズの太陽の魔力の力を、対象の治癒力向上の目的で発動させる魔法『日光浴(サンライズ)』をエルザの手に持たせると、シエルは屈めていた身を起こしてルーシィが向かった方へと向く。

 

「俺はルーシィと一緒に逃げ出した奴、可能ならエリゴールを追う。エルザはしばらく休んでて」

 

その言葉を残してシエルは奥の方へと駆けて行った。そんな彼の背を見送ったエルザは、小さいその背中が頼もしく見えていた。

 

「あいつと最初に会った時は、これほどまでに信じられる存在になると思えなかったな…。あれほど心配をかけていたことが嘘のようだ…」

 

そしてシエルの背も見えなくなった時、手に持つ日光浴(サンライズ)に目を向けながら、その魔法の効果を実感する。体力と魔力がいつもよりも少し早く回復していくのを自覚しながら、様々な効果をもつ天候魔法(ウェザーズ)を身に付けていたシエルへの感心を強める。自分の意のままに天を操り、味方につけて力を振るう。彼の魔法はまるで神の力を借りているかのようにも思えた。そしてシエルが依頼に立ち寄った町や村に住む者たちが口々に言っていた彼の噂を思い出す。

 

「『天に愛されし魔導士』か…。本当にあいつは、天や神に愛されて生まれてきたのかもしれないな…」

 

呟くと同時にエルザは回復した体力で立ち上がり、駅周辺に集まる者たち、いや街にいる住人すべての者を呪歌(ララバイ)から離れさせるため、外へと向かっていった。倒れ伏す者たち以外、誰もいなくなったホーム。しかし、そのホームの床から一人の男が顔を出した。ルーシィとシエル(とハッピー)が追いかけて行った、鉄の森(アイゼンヴァルト)に所属する小太りな体形の魔導士――『カラッカ』だ。彼は床や壁と言ったところに潜ることができる魔法を使う。シエルが発動した豪雨(スコール)にうたれている際、一度避難するために一人床へと潜っていたのだ。しかしその後自分を除いてメンバーは全滅。一人で戦っても勝機はないと判断し、その場から妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーが誰一人いなくなるまで隠れ続けていたのだ。だが彼の耳に届いたエルザの最後に呟いた言葉が、頭から離れなかった。

 

「『天に愛されし魔導士』?確か昔、そんな風に呼ばれた奴が闇ギルドの世界にいたって噂が…。あの子供(ガキ)が…?でもあんなとんでもない魔法が使えるのなら、そうおかしい話でも…」

 

自分以外に話ができる者がいないホームの中で、カラッカは一人思考の渦へと入っていったのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

シエルは一人、駅の通路を駆けていた。ルーシィと合流するよりも、まずはエリゴールが目的とする呪歌(ララバイ)の放送を食い止めるために、その音を流す根源である放送室へと向かっていた。

 

しかし、そこに辿り着いたシエルが見たのは、全く予想だにしていなかった光景だった。放送機材を含む、放送室の内部が激しく損壊しており、さらにナツとグレイを追いかけた鉄の森(アイゼンヴァルト)の魔導士の一人である『レイユール』が、自身の指から伸ばした黒い帯の魔法ごと、全身を氷漬けにされていた。

 

「氷漬けにされてるなら、戦ったのはグレイだな。けど、この放送機材の壊れ方は、グレイがやったものにしては雑だし、氷につくはずの水滴もついてない…。やったのはレイユール(こいつ)の方…?ここで放送するつもりはないってことか…?」

 

放送室の状況から割り出される情報を整理しながら推察する。駅にあるスピーカーで呪歌(ララバイ)を放送するつもりだったにも関わらず、放送室の機材が破壊されているところを見るに、その目的は果たされないということになる。わざわざあれほどの規模で動いて主張していたにしては動向が妙だ。それにシエルは未だに()()()()()()()()()()()()ことにも違和感を感じていた。もしこの駅で放送する気がないのなら、新たな疑問点が生まれる。

 

「エリゴールには別の目的があるってことだよな?けど、一体何を…」

 

再び通路を駆けだしながら思案を巡らせるシエルだったが、その時彼の耳に妙な音が伝わった。強風の音だ。天候魔法(ウェザーズ)の使い手であるシエルは、自分が扱える天気に関する魔法に敏感である。先程まで聞こえていなかったその音を頼りに、彼は手近な窓から外の様子を見ると、そこには目を疑う光景があった。

 

「な!?こ、これは…!!」

 

風に包まれていた。自分がいるところだけではない。オシバナ駅全体を、竜巻のように渦巻く風が、延々と吹き続けて包み込んでいたのだった。

 

 




おまけ風次回予告


ルーシィ「天気を操る魔法って、使いようによっては世界の(ことわり)変えるどころか、世界征服とかできちゃうんじゃないの!?」

シエル「征服って、昔の悪役じゃあるまいし…。それに多数の格下相手ならまだしも、天気をものともしない魔導士を相手にしたら、さすがに勝つのは難しいよ?」

ルーシィ「それでもあの魔法は相当強い魔法よ!依頼受けてもすぐに達成できたりするんじゃない?」

シエル「あ~、でも確かに畑の水やりを雨降らせてすぐに終わらせたり、砂漠地帯に雪降らせて雪遊び大会にしたりって依頼なら、結構受けてたような…」

ルーシィ「一見地味!でも物凄く大活躍!!」

次回『乙女の魔法』

シエル「じゃあルーシィならこの魔法をどんな派手な目的で使う?」

ルーシィ「え!?えっと…天候を次々変えてショーを開いて大儲け!!とか…?(汗)」

シエル「…さてはルーシィ、今月家賃ヤバい…?」
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