ただ作中でかなりハードル上げまくって、皆さんの期待に応えられているのか、と言う若干の不安がありますが、お気に召していただければ幸いです。
ではどうぞ!
投げ出された小柄な少年の身体。ホームに響く衝撃音。一人の闇の魔導士によって放たれた悪意ある魔力弾が、若き少年の芽を無情にも摘み取った。それが今、
「シ…シエルぅぅっ!!!」
現状を理解したルーシィの口から悲鳴と共に少年の名が放たれる。14歳にして残酷にもその命を散らされた少年。それを、自らのためなら他者の命さえも簡単に奪うような悪人の手によって為されたことに、少女はショックを隠し切れない。地に背をつけて倒れたまま動かない少年に駆け寄り、間違いであってくれと願う彼女であるが、確実に魔力弾が当たった胸の部分を貫通しているという事実を目の当たりにしただけだった。
「そん、な…っ!!」
何故こんなことが起きてしまったのか。彼が狙われていることに自分がもっと早くに気付いていれば、ナツやグレイと一緒にエリゴールを追わせていれば、そもそもシエルをこの場に連れてくることを止めていれば…そんなもしもを考えてしまうが、過ぎてしまった時を戻す方法はない。
「よっしゃぁ!まず一人だ!!」
「やっぱあの
「ここは遊び場じゃねぇんだよぉ!!」
「次は金髪の女を狙えっ!!」
少年一人を討ち取った
「…やった…のか…?なんか、手ごたえ無さ過ぎたような…」
「気にするこたぁねぇ!あの女だけが化け物だったからだよ!」
しかしシエルを魔導弾で撃った本人は一発で一人倒したことに実感が持てていない様子。自分たちの仲間を圧倒的な実力で薙ぎ払ったエルザに同行している魔導士としては、あまりにもあっさりとしているからだ。他の者たちは楽観的に考えているが、何故かその男は言い知れぬ不安感を拭えなかった。
「シエル、嘘でしょ…?こんな…!!」
次の標的に絞られていることにも気づけないほど、ルーシィはシエルの身体から目を離せずにいた。過ごした日はまだ数えるほどしかない。だがそれでも同じギルドで、同じ紋章をその身に刻む仲間が目の前で失われたショックは言い知れぬものだ。彼女の双眸から涙さえも出てき始めたその時…。
「大丈夫、心配いらないよルーシィ」
少女の後ろに立っていた青いネコのハッピーは普段と変わらぬ様子でそう告げた。
「だ、大丈夫って…何が大丈夫よハッピー!?エルザも!!だって、だってシエルが、撃たれて…!!」
「死んだと思った?」
「……え…?」
そして唐突にその叫びは止まった。今の言葉はハッピーのものでも、エルザのものでもない。彼らは口を動かしていなかったし、今彼女が聞いた言葉はハッピーたちの方を向いていた自分の後方から聞こえたものだ。しかしそこにはもう動かなくなった少年の身体しかないはず。恐る恐る振り返ると、その少年の身体は貫かれた胸部もそのままで…。
「そう判断するには早すぎたね~」
悪戯が成功したような笑みを浮かべ、口から言の葉を紡いでいた。瞬間、ルーシィは顎が外れるほどに口を大きく開き…。
『えええーーーーーーっっ!!?』
「な、なななな何で、生きて、え、ええっ!!?」
否、質問と言うには混乱の方が強すぎてまともな言葉になっていない。今も尚口をパクパクと開け閉めしながらシエルを指さした状態でいると、彼は「ふっふっふ…」と不敵な笑みを浮かべたかと思いきや、倒れていた少年の身体が徐々に透けていき、やがてその姿が完全に消滅した。
「き、消えた!?」
「幻影の魔法だったのか!!」
「本物はどこにいやがる!?」
「こっちこっち~」
シエルが突如消えたことにルーシィだけでなく
「ええっ!いつの間にあそこに!?」
「こんのガキャァ!!」
先程まで隣にいたはずの少年の姿が敵陣のど真ん中にあったことに驚きの声を上げたルーシィ。驚いていたのは向こうも同じだが、敵が近くに来たことで警戒心の方が強め、数人が至近距離で遠距離用の魔法を放ち始める。しかし、先程の魔力弾の時とは違い、避ける様子も反撃する様子もない少年の身体を魔法がすり抜けるようにして過っていく。
また一つシエルが笑みを零すと、再び身体が透けるようにして消えていく。再び消えたことで周りの者たちが見渡すと、彼らの後方から「どこ見てんの?」と声が聞こえる。両腕を組んで列車にもたれかかった状態で、シエルの姿が出現していた。
「ちょ、調子に乗んなよテメェ…!!」
シエルの一番近くにいた魔法剣士が彼を斬り裂こうと右手に持つ剣を少年目がけて振り下ろす。しかし、避けようとすらしなかったシエルの身体の切り口は、まるで粒子のように分解されており、ダメージが通った様子はない。勢い余ってシエルがいた部分の列車の壁に傷を作ったが、ただそれだけだ。下から見上げてくるシエルの口角が吊り上がって、己を馬鹿にしているように感じた魔法剣士は歯ぎしりをするほど苛立っている。
「くっそがぁ!!」
左から右へと横一閃で剣を振ったと同時にまたもや煙のように姿を消してしまったシエル。魔法剣士を含む
「どこ見てんの?こっちだってば~!」
「あれ、この声上から聞こえるような…?」
最初に気付いたのはルーシィ。何故か上の方から声が響くことを不思議に思い反射的にその首を上方向へと曲げてみると、確かにシエルはいた。「ヤッホー」と軽い感じで挨拶しているが、ただっぴろいホームの天井に逆さまの状態を保ちながら立っていた。
「えーーっ!?どうやって立ってんのそれぇ!!」
ルーシィだけでなく、
「シエル、いつまでも遊んでいないで真面目にやらんか!時間も限られているのだぞ!」
「おっとそれもそうだ。ごめんごめん、そろそろちゃんとしようかな…」
すると今までずっと無言でシエルが起こした騒動を見ていたエルザが、一つ溜息を零しながら彼に注意した。まだ放送は流れていないが、いつエリゴールによる
「わあっ!戻ってきたぁ!!今の何だったの、あれがあんたの魔法!?」
「『
ルーシィの疑問に代わりに答えたのはハッピーだ。
しかしルーシィはその説明を聞いて一つ疑問を感じた。確かに凄い魔法ではある。現に未だ半数ほど残っているギルドの魔導士を引っかき回して自分のペースを作り上げるほどに。しかしそれは己の保身に関してのみだ。列車の中でエルザが告げた『世界の
「シエルの本当の魔法は、こっからだよ…!」
その疑問にも答えるようにハッピーは告げた。ルーシィの真横にいたシエルはゆったりとした動きで歩きながら
「標的認定してくれたみたいだな、視線を向けてくれている…」
数十の魔導士、しかも己よりも多く年を重ねた者のみが集っている状況にも関わらず、一切の怯みも恐れも感じない。目を細めて笑みを浮かべる少年は自分の顔の前で上向きに右の掌を構えると、白い魔法陣を展開。同時に敵側の魔導士の一人が「今だ!」と叫ぶや否や、遠距離の魔法と一度は彼を撃ち抜いた魔力弾がシエル目がけて放たれようとする。それを見たルーシィが声を上げようとするが、先に動いたのはシエルであった。
「そう言えばさっき、
俺みたいなイカれた育ち方した
その言葉と共に魔法陣から放たれたのは白く発光する球体。その発行体の光は徐々に大きく膨らみ…。
「光に潰れろ!『
眩い光を、
「な、何これ!?眩しいっ!!」
「はいルーシィ、これ」
放たれた方向とは逆の位置にいたルーシィでさえその眩しさに目を閉じる。人間が直視できる光量を優に超える輝きに目を開けていられずにいたら、ハッピーの声とともに自分の耳と目の部分に何かがかけられた。思わず目を開けると、その視界は光を遮るサングラスによって目を保護されている。前もって持ってきていたのだろうかと困惑しながらも、ルーシィは自分同様にサングラスをかけているハッピーにお礼を言うために首を向けた。
「あ、ありがと…用意良いのねあんた…」
「持ってきておいて良かったよ」
「てかエルザも!?」
すると視界の端に見えた緋色の髪の女性エルザも、やけに凝ったデザインのサングラスを同じようにつけていたことにルーシィは思わずツッコんだ。ちなみに、エルザが纏っていた天輪の鎧が、最初の鎧姿に戻っていることにも今更になって気づいた。ちなみにそんなエルザはと言うと、ルーシィのツッコミに対して「オーダーメイドだ」と何故かどや顔で返答する。そこは聞いてない。
「ぎゃあああっ!!いってぇっ!!」
「光!?聖属性か、あんな
「何にも見えねぇ!何がどうなってんだァ!!」
「目が、目がぁあっ!!」
サングラスのおかげで難を逃れた妖精とは逆に、阿鼻叫喚に陥る闇の者たち。ルーシィはその様子とシエルが発した光に困惑を隠し切れない。思わず目を瞑ってしまったために、「シエルが魔法で光を発した」と言う事実しか確認できていない。
「い、今のってシエルがやったの?」
「そうだ。掌大の小太陽を、あの場で創った」
「太陽!?」
はるか上空のそのまた遠くに存在する天体――太陽を魔力で創り上げた。幻を投影したり太陽を作り上げたり。ますます彼の魔法が謎に満ちていく。しかし、ルーシィが動揺する間にもシエルの攻撃は止まらない。
「本日は晴天なり。しかしところにより光を埋め尽くすほどの雲が、空を遮ることでしょう…。『
天高くに向けて上げた右手から新たに灰色の煙、否、雲を創り出す。その雲は上昇を続けて、光で目を灼かれ苦しむ
「屋内に…雲…!?」
「また、より密集した雲の下では大雨が降る恐れがあります。お出掛けの際は傘を…忘れずに!」
作り上げ勢力を広げた雲に向けて、今度は青い魔法陣から現れた魔力を撃ち出す。すると雲の色が徐々に暗くなっていき、そこから突如無数の雫、つまり雨が降り出した。それも生半可な量と勢いではない。
「『
「いででででっ!?」
「今度は雨かぁ!?」
「何で屋内で雨が!!」
「俺まだ目が開けられねぇのに!!」
「つか開けてもどっちみち見えねぇよ!!」
まさに豪雨。次々と襲い来る無数の雨粒が、
「これってもしかして、天気を変えれる魔法…!?」
「その通りだ。あいつはその気になれば、掌サイズの太陽や雲から、この駅の中、いや遥か上空の天気を変えることだってできる。魔力を多く消費するが雨雲を晴らすことも、大雪を降らすことも」
人間が自然現象に干渉することは、本来なら不可能だ。しかし、その現象の一つである天候を自在に操り、変化させることができれば…?かつてルーシィが読んだ魔導書にそのような魔法があったが、それは多大な魔力を消費するために複数人が、長い時間をかけてようやく発動できる
「あいつは他の魔法に関してはからきしだ。だがこの魔法にのみ適性が見つかり、しかも本来よりも少ない魔力量で使いこなすことに成功している」
本来人間は自然に真っ向から太刀打ちはできない。如何に何十人の魔導士が襲い掛かってきても、ひとたび災害に見舞われればそこで全滅もあり得る。だからこそ彼の魔法は一対多にこそその本領を発揮できる。そして天候を変えられるということは、その地の環境も変えることが可能だということ。長年干ばつに苦しむ地域を雨の恵みがもたらされる土地にしたり、ぱっとしないただの山の斜面が広がる場所に大雪を降らせ、冬ならではの娯楽を楽しめる観光地に変えたりもできる。土地の環境が変われば自然と世界の流れも変わる。彼が依頼を受けて魔法を行使した場所を訪れ、その後の様子を直に見たエルザは確信したのだ。
シエルの魔法は『世界の
「それがシエルの魔法、『
「こ、こんなの…これこそ最強じゃない…!!」
エルザの、シエルの魔法の説明を聞いたルーシィは愕然とし、そんな感想を零した。天候を意のままに操り、多数の魔導士を蹂躙出来る魔法を使えるなど、彼こそが一番強力な魔導士なのではないかと。
だが彼女は知らない。一度エルザと手合わせをした際に、
「さてルーシィ、ここで問題です!雲→雨と来て次に出てくるものと言えばなんでしょう?」
と、ここでハッピーがやけにテンション高くルーシィに質問、と言うか問題を投げかけてきた。戸惑いながらもルーシィは未だに大雨で慌てふためく
「え?雲から雨と来て次って、そりゃあ…あ、まさか…!?」
察しはついただろう。大雨を降らすほどの密度の高い雲が漂っているのなら、勿論自然に起きるものでも脅威となり得るあの天候が起きることは必至。何より恐ろしいのは、『
ルーシィの予想は的中していた。ずばり『雷』だ。
「雷注意報発令。付近の方は速やかに避難されるようにお願いします。…避難できればの話だけど」
最後の言葉を皮切りに、大雨を降らす雲に向けてとうとうそれは発射された。雷の魔力と混じり合った雲がその色を漆黒に染め、黄色く光る稲妻を徐々に拡大させていく。そして膨張を続けていったその光は、やがて抑えきれなくなっていき…。
「『
自然界の災害の中でも上位に値する現象たる落雷を受けた者たちは、一人残らず意識を失った。誰もかれもがその場に倒れ伏し、一人たりとも立ち上がる者はいない。数十から百近くまでいたはずの
「終わったよ、エルザ」
「ああ、ご苦労だったな」
「な、なんか敵の方が可哀そうに思えて来ちゃった…」
片や武器だけでなく鎧まで換装を行うギルド最強の女、もう一方は天候を意のままに操り味方につける少年。彼らを相手にし、一方的に蹂躙された
「ごめん、一人だけ取り逃がしたみたい」
「え、逃げたやついるの!?」
それは気絶している者たちの中に、先程いたはずの者が一人見当たらないことに気付いたからだ。
「ルーシィ、逃げたと思われる奴を追ってくれ」
「え!?あたしがっ!?」
「頼む!」
「は、はいぃぃっ!!」
エルザからの唐突な頼みに動揺するルーシィだったが、鬼のような形相で睨まれた直後、掌を返してすぐさま駆けだす。ナツとグレイが向かった方向なら見つけられると考えて、ルーシィはハッピーと共にその方向へと向かっていった。その直後、ルーシィの姿が見えなくなったと同時に、エルザは突如力を失ったように片膝を地につけた。
「エルザ!」
「大丈夫だ、魔動四輪を飛ばしたのがこたえただけだ。すぐに動ける…」
魔動四輪で長距離を猛スピードで駆け抜け、さらに先程まで数十の魔導士を相手に蹂躙。体内に宿る魔力も体力も大幅に消耗した反動はやはり激しかったようだ。脂汗を滲ませて疲労の色を見せながらも、駆け寄ってきた少年に心配をかけまいと笑みを浮かべていた。
そのことをよく理解しているシエルは、右掌に白い魔法陣を展開させると『
「『
「すまない、助かるぞシエル…」
「俺はルーシィと一緒に逃げ出した奴、可能ならエリゴールを追う。エルザはしばらく休んでて」
その言葉を残してシエルは奥の方へと駆けて行った。そんな彼の背を見送ったエルザは、小さいその背中が頼もしく見えていた。
「あいつと最初に会った時は、これほどまでに信じられる存在になると思えなかったな…。あれほど心配をかけていたことが嘘のようだ…」
そしてシエルの背も見えなくなった時、手に持つ
「『天に愛されし魔導士』か…。本当にあいつは、天や神に愛されて生まれてきたのかもしれないな…」
呟くと同時にエルザは回復した体力で立ち上がり、駅周辺に集まる者たち、いや街にいる住人すべての者を
「『天に愛されし魔導士』?確か昔、そんな風に呼ばれた奴が闇ギルドの世界にいたって噂が…。あの
自分以外に話ができる者がいないホームの中で、カラッカは一人思考の渦へと入っていったのだった。
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シエルは一人、駅の通路を駆けていた。ルーシィと合流するよりも、まずはエリゴールが目的とする
しかし、そこに辿り着いたシエルが見たのは、全く予想だにしていなかった光景だった。放送機材を含む、放送室の内部が激しく損壊しており、さらにナツとグレイを追いかけた
「氷漬けにされてるなら、戦ったのはグレイだな。けど、この放送機材の壊れ方は、グレイがやったものにしては雑だし、氷につくはずの水滴もついてない…。やったのは
放送室の状況から割り出される情報を整理しながら推察する。駅にあるスピーカーで
「エリゴールには別の目的があるってことだよな?けど、一体何を…」
再び通路を駆けだしながら思案を巡らせるシエルだったが、その時彼の耳に妙な音が伝わった。強風の音だ。
「な!?こ、これは…!!」
風に包まれていた。自分がいるところだけではない。オシバナ駅全体を、竜巻のように渦巻く風が、延々と吹き続けて包み込んでいたのだった。
おまけ風次回予告
ルーシィ「天気を操る魔法って、使いようによっては世界の
シエル「征服って、昔の悪役じゃあるまいし…。それに多数の格下相手ならまだしも、天気をものともしない魔導士を相手にしたら、さすがに勝つのは難しいよ?」
ルーシィ「それでもあの魔法は相当強い魔法よ!依頼受けてもすぐに達成できたりするんじゃない?」
シエル「あ~、でも確かに畑の水やりを雨降らせてすぐに終わらせたり、砂漠地帯に雪降らせて雪遊び大会にしたりって依頼なら、結構受けてたような…」
ルーシィ「一見地味!でも物凄く大活躍!!」
次回『乙女の魔法』
シエル「じゃあルーシィならこの魔法をどんな派手な目的で使う?」
ルーシィ「え!?えっと…天候を次々変えてショーを開いて大儲け!!とか…?(汗)」
シエル「…さてはルーシィ、今月家賃ヤバい…?」