FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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パソコン、買い替えました。今までのと違ってサクサク動作が進んで凄い快適ですw

ただ付属で付いてたキーボードがやけに打ち間違いというか…他のキーを巻き込んで使いづらいので、これだけ変えようかなとか思ってたり…。

そして遅くなった原因はこの買い替えとデータ引継ぎなどで時間がかかったからです、ごめんなさい。


第58話 対魔の(つるぎ)

シエルたちがブレインと対峙しているのと時を同じくして、もう一人奮闘を続けている者がいた。コブラを下し、未だ行進を止めないニルヴァーナに相棒共々墜落して、現在乗り物酔いと()()している火竜(サラマンダー)

 

「何で…止まってねぇんだ…コレ…うぷ…!」

 

このニルヴァーナを動かしているのは、王の間にいるブレインだったはずだ。その王の間はシエルによって破壊され、ブレインも巻き込まれたはず。ナツの記憶で確認できるその事象は、確かに今動いているこの都市を止められる要因のはずだ。

 

だが彼は知らなかった。ブレインは今も尚健在でシエルたちと対峙しており、そのままの状態ではニルヴァーナを止めることが出来ないという事を。既に墜落してから数分は経っている。コブラと戦った際に喰らった毒も体に回ってきて、危険な状態だ。

 

更にナツの受難は終わらない。ナツの雄たけびによって耳に大きなダメージを受けたはずのコブラが立ち上がり、満身創痍の状態から彼にとどめを刺そうと迫ってきた。

 

「六魔の誇りにかけて…てめえを倒す…!」

 

息も絶え絶えで身体もボロボロ。それでもバラム同盟の一角を担うギルドの者として、ただでやられるつもりはないと言う意志の現れだろう。今のナツは毒が体に回り、加えて乗り物酔いもあるために動くことができない。毒竜の腕に変じたコブラの一撃が、倒れているナツの身体を貫かんと迫る。

 

「聴こえるぞ…テメェの命の終わりが…!消えろ!旧世代の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)がァア!!」

 

万事休すか。さしものナツも迫りくる攻撃に対して、目をつぶってその攻撃を受けるしかできることがない。訪れる痛みを想像して何も出来ないまま果てるのか。

 

 

 

 

 

 

その未来を否定するように、ナツを貫こうとしたコブラの腕は、二人の間に挟まるようにして突如出現した石の壁に阻まれた。それも並大抵の硬度ではなく、赤黒い霧を纏って威力を底上げしていた攻撃は、あっさりと弾き返される。

 

「何ィ!?」

 

弾かれたコブラ。そして九死に一生を得たナツも、突如起こった出来事に動揺を隠せない。だが、彼の窮地を救ったのが誰なのか、それはすぐさま響いた声によって明かされた。

 

「間一髪であったな、ナツ殿」

 

その声に反応しすぐさま目を移せば、そこには連合軍の中でも一、二を争う実力者である魔導士・ジュラの姿があった。二本指を立てて、岩壁を出現させることによって、その毒牙から守ったのだと推測できる。

 

「お、おっさん…!!」

 

聖十(せいてん)の…ジュラだと…!?」

 

あと少し早ければ一人を確実に倒せていたというのに、よりにもよって現れたのが聖十(せいてん)の魔導士。さらに彼の近くには妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士であるグレイとルーシィの姿もある。

 

コブラは悟った。最早自分に勝ち目など、塵一つ分さえ存在しないことを。

 

「手負いの者を相手に追い討ちをかけるのは少々気が引けるが…悪く思うな」

 

「っ…!くそぉお…!!」

 

心の底から悔恨を孕んだ声を発し、そしてジュラが掌を突き出すと同時に一部の岩の破片が浮かび上がり、こちら目掛けて一斉に襲い掛かる。そうしてコブラは何一つ抵抗することも出来ぬまま、その意識を失い、背中から地に倒れた。

 

「し…死んじゃった、の…?」

 

「気絶に留めた。しばらくは目を覚まさぬはずだ」

 

思った以上に威力を感じさせる技をその目にしたルーシィが思わず呟く。勿論ジュラにそのような意図はない。気絶こそすれど、命に別条が及ばない範囲で威力を抑えた。百戦錬磨の強者だからこそできる芸当である。

 

「んで?こいつは大丈夫なのか?」

 

気絶している状態のコブラに毒蛇のキュベリオスが悲しげな表情を浮かべながら寄り添っているのを一瞥してから、グレイがナツのほうへと歩み寄りながら尋ねる。目前の危機は去ったものの、今もなお毒と乗り物酔いのダブルパンチで容態は最悪の一言だ。特に彼にとっては乗り物酔いのほうがきつい。毒なら気合で抑え込めるが酔いは無理だ。無茶苦茶な理論だが、それがナツなので仕方ない。

 

「体調が悪そうだな」

 

「ナツは乗り物に弱いの。それに毒も受けちゃってるみたい…。ハッピーも…」

 

少し離れた場所でナツと同じように倒れ伏しているハッピーも、顔色が凄く悪い。こっちは純粋に毒でやられているようだ。戦っている間は何とか動けたようだが、今はその気力もないらしい。

 

「どうしよう…ナツの乗り物酔いはともかく、毒を治すにはウェンディしか心当たりがない…」

 

「都合よくここに来てるとも限らねぇしな…」

 

ナツたちが受けている毒は、最初にエルザが毒蛇に嚙まれた時に受けた毒と同等のもの。ならばそれを治すことができるウェンディがいれば…と話が展開しているが、彼らはまだウェンディがこの場にいるか否かも知らない。更に言えば、毒で消耗しながらも意識があるハッピーからもう一つの報告があった。

 

「実は…シエルも、毒を食らってるんだ…。オイラたちよりも先に毒が回っちゃって…」

 

その報告が場にいる三人を驚愕させるのは容易かった。王の間を破壊した雷の魔法を放ったシエルもまた毒を食らっていたこと。そして今周囲にそのシエルの姿が見当たらない…つまり場合によっては毒を受けたまま長時間過ぎていることが懸念される。

 

「ペルが真っ先に飛び出していったが…毒をどうにかできるわけでもねぇし…」

 

「うむ…如何したものか…」

 

現状の打開策をいくら考えても浮かび上がらない。仲間が毒に侵され、さらに行方が分からない者もいる。ニルヴァーナが止まる気配もない。打つ手は存在しないのか…?一行に諦観の空気が流れつつあったその時だった。

 

 

 

 

 

「ぐあああっ!!」

 

激しい轟音を立てながら爆発の様な崩壊をした建物の壁。そこから突き抜ける様に、苦悶の悲鳴を上げながら何者かが飛び出してきた。

 

「ひぃっ!?な、何!?」

 

引き攣った声を上げたルーシィ。一方のグレイとジュラは現れた人物の姿を見て、一気に警戒を強めた。

 

ブレインだ。六魔将軍(オラシオンセイス)の司令塔である彼が現れたことで咄嗟に身構えたが、すぐにその様子を見て表情を驚愕に染める。

 

「ぐ…うっ…!お、おのれ…!」

 

何事にも動じなさそうな普段の様子とは一変して、身体中がボロボロな上に、表情には焦燥が浮かんでいる。敵である彼が満身創痍となっている。一体何が起きているのか。聖十(せいてん)の魔導士であるジュラでさえも理解が追いつかない。

 

「誰かと戦ってるの…?」

 

「考えられるのは…多分あいつだろうな…」

 

疑問の声をあげた妖精二人の声を耳にし、ブレインの視線がそちらに移る。そして彼の焦りはさらに増長した。最悪の事態だ。ただでさえ今対峙している男に追い詰められているのに、更に他の敵がこちらに合流してきた。大した事のない魔導士がいくら来ようが問題は無い。だが一人は大陸最強の10人の一角。奴に加えてジュラまでもが向こうに加勢してはいよいよもって勝ち目は無い。

 

「よそ見してんじゃねぇよ」

 

思考に入っていたブレインの耳に入った声が、彼の顔を弾く様にその方向へと持っていった。それにつられ、ルーシィ達の視線もその声がした方へと向けられる。

 

ブレインが突き破った建物から現れたのは、剣身も柄も漆黒に塗られた様に見える、それ以外を除けば一見すると何の変哲もない一振りの剣を右手で持ちながら、コツコツと足音を立ててゆっくりと歩いて近づいてくる、水色がかった銀色の長い髪を揺らす青年。ブレインに確かな敵意を宿した鋭い視線を向け、表情は明らかに怒りを孕んだものを浮かべている。

 

「まさかまだ自分が余裕を持てる様な立場にいるだなんて、思いこんでんじゃねぇだろうな?」

 

その口から発せられた、不機嫌であることを察してあまりある低い声。それを耳にし、その姿を目にし、自分たちの仲間であるペルセウスがブレインを壁ごと突き飛ばした正体であることを、否が応にも理解させられる。

 

「な、なんかペルさん…怒ってる…?」

 

「そのようだな…しかし、それだけで六魔の一人を圧倒するとは…」

 

ルーシィが目にした事のない怒りの様相に恐々とし、ジュラはその上でブレインを圧倒している事実に感嘆している。それを裏付けるものは、やはり彼が右手に持つ剣が最たる理由だろう。外見からは想像がつかないが、あれもまた神器。それも、剣から発せられるその魔力はそれを踏まえても明らかに異質であることを感じる。

 

「『ダーインスレイヴ』だ…!」

 

「え?」

「む?」

 

グレイが呟いた一言…今ペルセウスが使用している神器の名前と思われる単語を口にし、ルーシィとジュラが二人揃ってグレイに視線を向ける。彼は知っている。今ペルセウスが扱っている神器がどの様なものか。

 

「ペルが使う神器の中でも、相当強力なやつだ。その分消費する魔力もデカイし、あまりにも強力すぎて、あいつ自身がそれを使う事を控えるほどにな」

 

「そう言えば聞き覚えがある。神話上の神々でさえ、その剣は手に余るほどの代物だったと」

 

昔からペルセウスのことを知るグレイからその説明を聞き、ジュラは思い出した。その剣は特定の使い手は存在せず、神々の手元を転々としてきた。その理由は極めて単純。使いこなせる神が存在しなかったのだ。

 

「え、神器って神様の武器なのに、神様でも使えないの!?」

 

「使えない…と言うより、制御できないっつった方が正しい…って聞いたな」

 

グレイはペルセウスから実際に話を聞いたことがある。かつて神器を生み出すことが出来る神が、あらゆるものを斬り裂く為の剣を作り上げた。しかし、「斬る」という概念を込めすぎた結果、その剣は一度鞘から抜けば、何かしらの生物を斬るまで絶対に鞘に戻ろうとはしない性質を備えたものとなった。

 

神々が戦争を起こした時も、ダーインスレイヴを手にした神が我を失ったかのように次々と命あるものを斬り伏せて、地獄のような光景を作り上げた…という一説も存在している。

 

「何それ怖すぎ!!ってか、そんな剣を何でペルさんが持ってんのよ!?」

 

「神器である以上、それを換装で扱えるペルは持つ資格がある。それに言ったろ。あいつ自身も滅多に使うことがねえと」

 

ダーインスレイヴについての話が進んでいる間も、ペルセウスは表情と気迫を変えぬまま、ブレインの方へと歩みを進めている。

 

「くっ…!はあっ!!」

 

髑髏の杖を構えて魔力の波動を放つブレイン。それをペルセウスは避けようとせず、真正面から迫りくる魔力の波動に対して剣を向ける。そしてギリギリまで近づいたところを瞬時に上から下へと斬り下ろすと、まっすぐと伸びていた波動は左右真っ二つに分かれ、徐々にその勢いを無くして消滅する。

 

「魔法を…斬った!?」

 

斬られた方のブレインは言わずもがな、ルーシィも驚愕の声を上げ、ジュラも少なからず驚きを表情に出している。ブレインに至っては先ほどから同じような光景を見せられて、最早気が狂いそうになっている。だがこれは、ダーインスレイヴだからこそできるものだ。

 

ダーインスレイヴのもう一つの特性は、魔力の宿ったものならばたとえ大気であっても斬り裂くことが出来るというもの。魔力の差に左右こそされるが、攻撃魔法も簡単に防がれ、防御魔法は意味を持たないものにされる。

 

あらゆる魔を斬る。魔法であろうと、魔導士であろうと。むしろ魔導士を相手にするならば、この剣はまさしく最強の神器となる。如何なる魔法にも、魔導士にも対することが出来る魔剣。

 

 

それが、対魔の(つるぎ)・ダーインスレイヴ。

 

「その特性上、いざという時じゃなければ絶対に使わないようにしていると、本人から聞いてるが…」

 

「いざって…たとえば今みたいな?」

 

一刻も早くニルヴァーナを止めるため。そう考えると確かにいざという時に分類されるだろう。だがグレイには確信があった。根本的に別の理由があることを。

 

「相手がそれだけ強い時、または時間がねぇ時もあるんだろうが…今回はやっぱあれだろ」

 

グレイが何かを示すかのように視線を投げかけると、ペルセウスを追いかけてきたであろう少年、それに追随する少女とネコの一団が、こちらに呼びかけながら走りかけてくる。

 

「シエル!ウェンディとシャルルも!!」

 

「あのヤロウが(シエル)に何かしら危害を与えた…となれば、あいつにとっちゃ、あの剣を抜く理由には十分になっちまう」

 

寧ろそれがなによりも最優先される理由になってしまうだろう。そうでなければ今もなお怒りに満ちた目をブレインに向けて居たりはしない。腰を落として剣を構え、すぐさまブレインに斬りかかる準備ができているペルセウスに、対峙している本人は大人しく受け入れる様子もない。

 

「このような事…認めん!認められるかぁ!!常闇奇想曲(ダークカプリチオ)叫声(スクリーム)!!!」

 

己の最大の威力を誇る魔法を髑髏の杖から発する。せめて僅かばかりでも抵抗する。()()()()に残された道はこれしかない。その一心で放った魔法に対し、ペルセウスは敢えて真っ向から突っ込んでいく。

 

そして尖っている先端目掛けて手に持っている剣の刃をぶつけると、何の抵抗も感じずに上下真っ二つに割れていく。そのまま魔法の波動を横目にブレインに肉薄。驚愕、焦燥、絶望といった感情に支配された表情で思考も身体も固まり、気付けばすべてが終わっていた。

 

 

 

「六マ」と言う六魔将軍(オラシオンセイス)のギルドマークが刻まれた胸板を、X字の剣閃が走り、そこから鮮血が噴き出す。最早ブレインに悲鳴を上げる余裕すらなく、そのまま背中から地に倒れこんだ。

 

「感謝するんだな。未遂で済んだからその程度にしてやったが…シエル(あいつ)が本当に消えていたら、てめぇはまともな死に方もできなかった…!」

 

勝負あり。

ブレインを斬ったことで満足したらしい魔剣も、ペルセウスの意思に関係なくその姿を消した。彼のストック空間が今の鞘の代わりになっているようだ。

 

「す、凄かった…!それと同時に怖かった…!」

 

「俺もダーインスレイヴ見るの、久々な気がするよ…」

 

「あの人…シエルさんと二人で戦っても敵わなかったのに…あっさりと…」

 

いつの間にかルーシィたちの近くまで合流したシエルたちも一緒になって、ペルセウスの圧倒的なまでの戦いに、色んな意味で身体を震わせている。気迫も神器も声も、何から何まで殺意がこもっているように見えたのだから仕方ない…。

 

「分かっちゃいたが、やりやがった。こいつ、六魔将軍(オラシオンセイス)のボスだろ?」

 

「うむ、見事という他あるまい」

 

司令塔であるブレインを下したことで、六魔将軍(オラシオンセイス)を指示するものが失われたも同然。これで連合軍の勝利にさらに一歩近づいたことになる。

 

「操作権を持つブレインを倒した。つまりこれで、ニルヴァーナも止まるはずだ」

 

「え、本当!?」

 

「よかった…!」

 

ブレイン自身が言っていた情報を頼りに整理し、さらに共有も兼ねてそう口にしたシエル。同じように聞いていたウェンディも、安堵の息を吐いている。だがシャルルはどこか納得がいかないと言いたげな表情だ。

 

「けど、こいつが化猫の宿(ケット・シェルター)を狙っていた理由は、まだ分かっていないのだけれど」

 

「何!?」

「それは真か!?」

 

それもまたブレインから…そして狙われているギルドから選出されたシャルルから判明した情報。ニルヴァーナが第一の目的地として目指していたのは、化猫の宿(ケット・シェルター)。何故狙ったのかを問い詰めようとしたが、ブレインはその情報を割ることはしなかった。今ならまだ聞けるだろうか?しかしどうせ止まるのなら同じことかもしれない。

 

「ぐっ…堕天使の力…これ程とは…!ミッドナイトよ…後は頼む…!六魔は決して倒れてはならぬ…!!」

 

まだ微かに意識が残っているブレインから、そのような声が漏れているのが聞こえてくる。周りの声に耳を傾けてはいない。今彼の脳裏にあるのは、最早唯一残っていると言える六魔の一人・ミッドナイトへの懇願。

 

「六つの祈りが消える時…『あの方』が…!!」

 

その言葉だけを言い残して、ブレインの意識は落ちた。気のせいだろうか、彼の顔に刻まれていた黒い線のような模様が、一本消えたような…?

 

「『あの方』…?」

 

その言葉を聞いた一同の中で、ペルセウスがその言葉を反芻する。誰かのことだろうか。司令塔であるブレインが、このギルドでの最上位の存在ではなかったのだろうか?その疑問に答えられる存在は、今この場にはいない。

 

「…妙に気になるな…。どういう事だ?」

 

「多少気になるとは思うが、とにかくこれで終わるのだ」

 

王の間は破壊され、司令塔のブレインも落ちた。残る一人…ミッドナイトの存在が気になるがそれもどうにかなるだろう。ニルヴァーナさえ止まればこちらのものだから。

 

 

 

 

 

 

「終わってねぇよ…これ、止めてくれぇ~…!!」

 

「あ、ナツのことすっかり忘れてた」

「な、ナツさん…!まさか、毒に…!?」

「オスネコもよ!全くだらしないわね!!」

 

しかしそこにグロッキー状態のナツが情けない声を上げながらそれを否定した。酔いから覚めないようだ。ついでにハッピーもずっと倒れこんでいてシャルルに叱咤されている。

 

「…あれ?ちょっと待って…?」

 

すると、何かに気付いたルーシィがそう声を出した。違和感を覚えたらしい。今起きているこの違和感を…。

 

「ホットア…じゃなくて、リチャードから聞いたけど、ニルヴァーナを制御するのは王の間って場所よね?」

 

「うむ、確かに言っていた」

 

「え、それってホットアイのこと?」

「実はかくかくしかじかでな」

 

ニルヴァーナの初期段階で光に染まった(愛に目覚めた)ホットアイことリチャードからの情報。味方となった彼から、噓の情報を掴まされるとも思えない。

 

「でも、王の間はシエルが壊して、もう機能はしていないはず…」

 

「そこはブレインも言ってたよ。操作権が自分に移って、王の間はいらなくなったって」

 

「そしてそのブレインが倒された。気絶した状態でも操作ができるとも考えにくい…なのに…」

 

そこまで言ったことでシエルを始めとして、全員が気付いた。ずっと感じていた違和感を。

 

 

 

 

 

 

 

まだニルヴァーナが止まっていないのだ。操作する場所も人物も、もう存在していないのに、この巨大都市はいまだに移動を続けている。

 

もしかしたら止めるための装置などは他のどこかに存在しているのではないかとも考えられるが確証もない。

 

「まずはリチャード殿が言っていた、王の間のあった場所へ行ってみるとしよう。手がかりがあるはず」

 

ジュラの提案に全員が頷き、そのまま移動を開始した。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

王の間が存在していた建物の中から、所々に存在する崩れた跡に注意しながら上へと進んでいくと、屋根が剝き出し状態になった部屋にまで辿り着いた一行。おそらくここが、残された中での最上階になる。

 

「見事に何もないな…」

 

「ここに来るまでの道も注意して進んでみたが…」

 

「それらしきものが、全然見当たらない…」

 

一縷の望みをかけて来たはよかったが、結局止める方法が見つからない。いや、そもそも明らかにおかしいのだ。操縦するための王の間が崩れて、操縦者のブレインが倒れたというのに、未だにこの都市は行進を続けている。ふと、シエルは最初にニルヴァーナが止まるはずと思っていたのに止まる気配がなかった時、もう一つ推測を立てていたことを思い出した。

 

「この都市…一度設定したら自動的にそこに向かうようになってるんじゃ…!?」

 

「自動操縦か!?ニルヴァーナ発射まで、セットされてるってことかよ!?」

 

そう考えると他の止める方法が分からずじまいだ。本当に他にないのだろうか?これだけの巨大な都市。一概に動かすとしても、何か動力源が存在していないとおかしい。王の間がそれとは違うとなると、もっと別のことに目を向けるべきか…?

 

「そんな!どうして…?」

 

「ウェンディ!?」

 

思考の渦に入っていたシエルは、切羽詰まった様子の少女の声を耳にして反射的に彼女の方へと振り返る。ニルヴァーナを止める方法が見つからないことへのショック…とはまだ違ったような印象だ。何か起こったのだろうか?確かめるためにも目を向けてみると…。

 

「解毒の魔法をかけたのに、ナツさんが…!」

「お、おお…!」

 

「…ああ…うん…」

 

コブラから受けた毒を治療したにも関わらず一向に元気になる様子がないナツに、ウェンディは動揺と混乱を隠せていない。だがこれに関しては…シエルは苦笑せざるを得なかった。ついでにシエルの後方にいた兄や仲間たちも同じ反応をしている。

 

「そんなに心配することじゃないよ。乗り物に極端に弱くて、酔ってるだけだから」

 

「乗り物酔い…?」

「情けないわね…」

 

この反応になるのも無理はない。そう言えば最初に飛び出していったナツを乗雲(クラウィド)に乗せた時もこうなっていたことを彼女は思い出す。すると、彼女は何か思いついたのか両手を構えて魔力を集中させ始める。

 

「だったら…バランス感覚を養う魔法が効くかも…。『トロイア』」

 

仄かに白く光るその両手で、ナツの顔を挟むように包み込む。包み込んだ瞬間、シエルが一瞬目を見開き、同時にナツを羨望と嫉妬を込めて睨みつけていたが、彼女は気づいていない。両手に纏った光がナツの顔全体も包み込んでいき、光が消えた瞬間、ナツは己の体の変化に気付いて即座に飛び起きた。

 

「お…お?おお!?」

 

未だ轟音を立てて行進を続けるニルヴァーナ。それによって激しく揺れる都市。そこに足をつけて立っているのに揺れを感じない、気持ち悪くならない。

 

「おおーーっ!平気だ、平気だぞっ!!」

 

乗り物の上なのに酔うことが無いという未知の体験に、ナツはテンションが上がりまくっている。心の奥から感じる歓喜のままにその場を何度も飛んだり跳ねたりしている。今までどんな酔い止めの薬も効かなかったナツの乗り物酔いを、あっさりと解決してしまえるとは…。ウェンディの天空魔法に、シエルは改めて驚かされた。

 

「よかったです、効き目があって」

 

「すげーな、ウェンディ!その魔法教えてくれ!!」

 

「天空魔法だし、無理ですよ…」

 

すっかり元気になったナツに安堵していると、両手で肩を持ってウェンディに頼み込むナツ。しかし元々は天空魔法の一つであるため、それが使えないと覚えることも出来ない。それでもめげないナツは次にシエルの方へと尋ねだした。

 

「これ…乗り物って実感ねーのがアレだな!よし、シエル!乗雲(クラウィド)に乗せてくれよ!今ならすっげー楽しめる気がする!!」

 

思い出すのは最初にシエルが乗雲(クラウィド)を完成させてギルドの皆に披露した記憶。あの時はシエルが楽しそうで、自分も同じような経験をしたいと一番最初に乗せてもらったのに、あっさり酔ってグロッキーになった。だが今ならそんな事にもならないと確信できる。だから試運転も兼ねて頼み込んだ…が…。

 

「んなことしてる場合じゃねーだろ、空気読め」

 

「!?…あい」

 

何故か滅茶苦茶機嫌が悪そうなシエルに絶対零度の表情と声色で却下された。その様子が例の女騎士を思い出させられ、思わずハッピーみたいな返事をしてしまう。でも何で怒られてるのか、ナツには皆目見当がつかなかった。

 

「あれ…絶対私怨が混じってますよね…?」

 

「間違いなくな。まさかこうも分かりやすくなるとは…」

 

後方でルーシィとペルセウスが苦笑混じりの声でそんな会話をしてくるのが耳に入ってくるが、結局ナツには何のことやらさっぱりである。

 

「しかし、どうすりゃいいんだ?発射から何まで全部自動になってるもの、どうやって止めるんだよ?」

 

「このまま放っておけば、こいつは確実に化猫の宿(ケット・シェルター)を攻撃する…。そうなれば…」

 

声を発したグレイとペルセウス。止めようにも止め方が分からない。このまま手をこまねいていればいずれ化猫の宿(ケット・シェルター)へと辿り着き、そしてギルドは…。

 

「私たちの…ギルドが…!」

 

考えたくもない想像をしてしまい、ウェンディの目から涙が零れ出す。打つ手もなく、このまま化猫の宿(ケット・シェルター)はニルヴァーナによって蹂躙されてしまうのだろうか…。

 

「止めてみせるよ、絶対」

 

そんな彼女に歩み寄り、表情に決意を宿したシエルがそう声をかける。それを聞いて目線をシエルに向けると、それを感じた少年は更に言葉を続けた。

 

「きっと止める方法はある。ウェンディたちのギルドは、絶対にやらせない…!」

 

まっすぐにこちらに目を向けて告げられた言葉に、ウェンディから溢れようとしていた涙は少し収まったように見える。彼女を励ますための虚偽ではない。決心にも似た約束ともいえる言葉。

 

「オレもだ。この礼をさせてくれ。必ず止めてやる…!」

 

ナツもまたトロイアの礼という名目で、彼女のギルド(住む場所)を守るために決意する。その言葉を聞いて彼女の目からは再び涙が流れ出した。絶望からの涙ではなく、希望を感じたが故のものを。

 

「止めるって言っても、どうやって止めたらいいのか分かんないんだよ」

 

「壊すとか?」

 

「またそーゆー考え?」

 

「こんなでけーもの、どうやってだよ?」

 

だが現状手詰まりなためか、物理的な考えに考えがシフトされてしまう。普段から物を壊しまくっているから可能性はあるだろうが、いかんせん今回は規模が規模だ。

 

「8本の脚を壊して機動力を封じるって手はあるぞ?俺の神器をフル動員させれば、ワンチャンいける」

 

「よし、オレもやらせろ!」

 

「滅茶苦茶な理論だな!?けど一理あるし…オレも一本ぐらいならヨユーか…」

 

「いや無理があるでしょ!?」

 

「そして何で乗っかろうとしてるのよこいつら!!」

 

するとペルセウスからの提案で、都市を移動させている脚を物理的に封じるという提案が出される。思いっきりごり押し重視の提案を彼がしたことにも驚きだが、ルーシィとシャルルから勿論却下された。兄に盲目的な尊敬を向けているシエルでさえ、無茶があると思わせる提案である。

 

「んじゃあ他に何かあんのかよ?」

 

「これだけデカい都市を動かすには、こことは別に動力源がある…って考えられるけど…」

 

「それも含めて、ブレインに聞くのが早そうだな…」

 

「簡単に教えてくれるかしら?」

 

シエルの推測が当たっているとも限らない。確実に何かを知っているはずのブレインから情報を聞き出す方がよさそうだが、奴の性格上素直に教えるとは考えにくい。

 

「もしかしてジェラールなら…」

 

「何か言った?」

 

「っ!ううん…何でもない…」

 

するとウェンディが何かに気付いたらしいが、どこか言い淀んでいるようだ。ルーシィに尋ねられたところで言葉を濁している。言いづらいことだろうか。

 

「私…ちょっと心当たりあるから、探してきます」

 

「ウェンディ!待ちなさい!!」

 

そして追及するよりも早くウェンディは今いる部屋を出るために、下の階段へと向かっていった。(エーラ)を発動したシャルルもそれに続いていく。おそらくこの建物の外に出るつもりだろう。どうしたのだろうか。一同がそう考えている中で、最も心配そうな表情を浮かべているシエルに、兄であるペルセウスは声をかけた。

 

「気になるよな?」

 

「え…うん…」

 

どんな心当たりを想定しているのかは不明だが、もし何か間違って、六魔で唯一残っているミッドナイトに遭遇してしまったら…。そう考えると、不安の気持ちがさらに高まっていく。

 

「だったら追いかけるといい」

 

「えっ?」

 

「六魔はもうほとんど残っていない。俺たちも俺たちでこれを止める方法を探る。ウェンディの方は、お前に任せたぞ」

 

思わぬところで兄から背中を押されたシエル。少しばかり言葉を失ったが、その後笑みを浮かべて「分かった、行ってくる!」と告げて、彼女の後を追うように階段に向かっていく。そして今降りようとしていたタイミングで…。

 

「シエル!」

 

背中を押した兄から呼び止められて思わず振り返る。何かほかに伝えることがあっただろうか。そう考えながら兄の様子を見ていると…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(頑張れよっ!)」

 

そんな声が聞こえてきそうないい笑顔と、右手で作ったグーサインを弟に贈る。察した。兄が一体何を狙ってシエルを送り出したのか。理解した瞬間、シエルの顔が茹蛸の様に真っ赤になった。

 

「なっ!?ちょっとそれどーゆー意味でうわあっ!!?」

 

動揺していて後ずさったせいで、近くに階段があることを忘れていたシエルはそのまま足を滑らせ、悲鳴を上げながら階段を転げ落ちた。何か断末魔みたいな感じで「バカ兄貴~!!」とか何とか聞こえたような気がしたが、気のせい気のせい。あの子はそんなこと絶対言わない。

 

「あの…今の何ですか…?」

 

「とりあえずろくでもないことを考えてることは分かったけどよ…」

 

「そんなことないぞ?」

 

呆れたような視線を向けて告げるルーシィとグレイの言葉もどこ吹く風である。やっぱ兄弟だこいつら…。

 

《皆さん、聞こえマスか?》

 

その直後のことだった。今、場にいる全員に向けて頭の中に声が響いてきたのは。

 

《私デス。ホットアイデス》

 

「リチャード!?」

 

どうやらこの場にいる全員に向けて念話を飛ばしているようだ。唯一誰のことかわからないナツはどこか警戒している。

 

「無事なのか、リチャード殿!?」

 

《残念ながら無事ではないデス…。ミッドナイトにはやはり敵わなかった…!》

 

念話の中でリチャードは、ミッドナイトに敗れたことと、このニルヴァーナを止める方法を伝えてきた。生体リンク魔法で動いているらしく、ミッドナイトを倒せば魔力の供給が止まり、都市も停止するはずだと言う。全員で力を合わせればきっと勝てるはず。

 

《奴は崩壊した王の間の真下にいマス。気を付けてください…。奴はとても…とても強いデス》

 

「リチャード殿…」

 

「この真下!?」

 

「おし、希望が見えてきたぞ!!」

 

リチャードの身を案じるジュラ。対してニルヴァーナを止める方法が見つかったことで希望を感じるルーシィたち。しかしその中で、ペルセウスだけはどこか違和感を感じていた。

 

「(何だ?この感じ…どこか妙な感じが…)」

 

《六つの祈りは残り一つとなりました…。皆さんを信じマス…!必ず勝って、ニルヴァーナを止めるの…デス…!お願い、します…ぐぅっ!》

 

「リチャード殿!!」

 

どうやら力尽きたらしく、念話が切れてしまった。気になることは多々あるが、ナツたちは既に真下の方へと向かいだしている。ペルセウスも、違和感を拭いきれないままだが彼らの後についていった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

王の間の真下。

そこは地下に存在する部屋のことだったらしい。重厚そうな二枚扉にそれぞれ顔が描かれたデザインの扉だ。

 

「あそこか!」

 

「よーし!!出てこい居眠りヤロォ!!」

 

気を急いて二枚扉の取っ手を引き、部屋へと突入しようとするナツ。しかし、扉を開け放とうとした矢先、僅かばかりに開いた扉から、不自然な閃光が溢れ出す。

 

「まずい!!」

 

「罠だーーー!!!」

 

状況が呑み込めず呆然とする妖精たち。いち早くそれに気づいたペルセウスとジュラの叫び。

 

そのすべてを呑み込んで、大規模の爆発が王の間の真下から発生し、爆音と爆炎があたりを包んだ。




おまけ風次回予告

シエル「王の間を壊しても、六魔が全員倒れても、それでもニルヴァーナが止まらない…!どーなってんだよこの都市はぁ!」

エルザ「それでもきっと止める方法がある。おまえ自身がそう言ったのだろう?」

シエル「それは、そうだけど…考えられる可能性が次々と外れてるから、なんかちょっと、自信なくなってきて…」

エルザ「可能性が0でなければ、きっとどこかにそのヒントがあるはず。シエルなら、それを見つけ出して割り出すことも出来るだろう?」

次回『ゼロ』

シエル「そう、だね。うん、そうだよ。ウェンディにも言い切ったんだ、最後の最後まで諦められるか!」

エルザ「その意気だ。ところで…何故そこでウェンディの名前が出てくる?」

シエル「あ、いや…それはですね…///」
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