FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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大遅刻しましたすみません!!
…え、まだ土曜日だって?いっけね、フライングしちまった☆

って、言えれば良かったんですけど、実はひそかに盆休み中に二話更新を狙ってたんでそういう意味ではある意味失敗です…。

本来の予定では今日の正午に今回更新。そして月曜になった深夜にもう一話を投稿する予定でした。

けど画策していた予定をオーバーしちゃったので二話目も予定通りにできるかは現時点で不明です。グダグダでホントすみません…。(汗)


第60話 天馬から妖精たちへ

跳んで、駆けて、跳んで、周囲を見渡してまた駆けて。大規模な都市の建物の上を伝いながら目的の人物の後を追っていたその少年は、長い時間その行動を繰り返していたのだが、しばらくして動かしていた足を徐々に緩め、そこから下を見下ろしながら、先程から頭に過っていたその思いを口に零した。

 

「…何で…どこにもいないんだ、ウェンディ…?」

 

中央の塔から出る時に階段を転げ落ちるというアクシデントからの復帰で思わぬ時間を使った後、すっかり目的である少女・ウェンディの姿を見失ってしまったシエル。そこから周辺を隈なく捜索し、距離や方向も考慮して探し回ったのだが、全くもって見つからない。そもそも都市全体をまず探しきれていない。あまりにも広すぎる。

 

「ニルビット族って、一体何人いたんだよ…?1000人どころじゃまだ足りない気がする…」

 

何人もの人がいて、何年もの年月を経ればこれだけの広大な都市を、しかも移動することも出来る強大な魔法として造り上げることが出来るのか、純粋な疑問と共に少年は落胆していた。これだけ広い都市から目的の人物を探し当てるのは本当に至難だ。

 

「せめてウェンディが言っていた心当たりっていうのが分かれば…いや、俺の知らないようなことなら結局その場所も分からないままだし…」

 

彼女自身が言っていたその心当たりについて考えようともしたが、そもそもニルヴァーナに関する情報は自分はほとんど持っていない。ウェンディ、もしくは彼女と共にいるシャルルだけが知っている何かがその心当たりになるだろうが…。

 

「…シャルル…?」

 

思い返してみて気付いた。そうだ、彼女には相棒であるシャルルが共にいた。ハッピー同様に背に翼を現して空中を飛行できる彼女が。つまり、場合によってはウェンディたちは空中を移動してその場所に向かう、もしくは探すことがあるということ。

 

「そうだよ!何で気付かなかったんだ俺!?」

 

頭を抱えながら結論に今更気付いたことに自分で自分に失望して叫ぶシエル。考えてみればすぐわかるような単純な事実に、どうして今の今まで気づかなかったのだろう。ナツみたいにとりあえずぶっ壊したり、兄の様にいざとなったら物理で解決するといった脳筋思考じゃないと自負していたのに…。

 

となると、捜索範囲は一気に広まる。本来なら空中も移動することを考えると、さらに探すのは難航するだろう。()()…であれば。

 

乗雲(クラウィド)!」

 

足元に意のまま移動できる雲を顕現して上昇。都市の全貌を見渡せる高度に達してから改めてその都市を見渡し、目的の少女を探し始める。建物で死角になっているとしても、ゆっくりと移動しながらその姿を探せば見つかるはず。広大な上に夜で目も効きづらいが、白い毛に覆われたシャルルの姿ならば目立つし、彼女の藍色の髪を見落とさない自信もある。

 

空からの捜索を行ってどれほど経っただろう。王の間から更に向こう側だろうか?方向を転換して反対側を探そうかと考えながら首を動かすと、視界の端に探し人の特徴である藍色と白が映ったことにシエルは気付いた。

 

「いた!」

 

都市の中でも目立つその二色に視線を集中すれば、都市の大通りにあたる道を駆けていく少女と白ネコの姿。表情を喜色に染めながら雲の高度を下げていき、彼女たちとの距離を縮めていく。

 

急に空から声をかけては驚かせてしまうだろうと思い、手ごろな距離の位置で雲から飛び降りて、雲自体も解除する。改めて目にすれば、ウェンディたちは駆けていた足を止めて、他にもその場にいるらしい誰かと話をしているらしい。

 

「ウェンディー!シャルルー!」

 

距離が近づいたところで口元に手を当てながら少女とその相棒の名を呼びかける。それに気付いた少女は反射的に振り向き、駆け寄ってくるシエルの姿を目にし、意外そうに狼狽し始めた。

 

「えっ?シ、シエルさん!?どうしてここに…!?」

 

「アンタ…追ってきたの…?」

 

シャルルがこちらに半目を向けながら呆れたように呟くが、それに対してシエルははにかむように笑みを浮かべながら「やっぱりちょっと心配だったから…」と返す。そして距離が近づくにつれ、ウェンディたちの他にいた者たちの姿もくっきり映り始めていた。そのうちの一人は、紫色を基調とした着物に近い装束――悠遠の衣――を身に纏っている緋色の長い髪の女性、エルザだ。

 

「シエル、お前も無事だったか」

 

「エルザも!それに…っ!?」

 

傷だらけではあるが大事には至っていない様子の彼女を見て安堵するのも束の間、もう一人いたその人物の姿を目にし、シエルは思わず息が止まるほどの衝撃を受けた。

 

 

 

青藍の短い髪に、右目の周りに紅の刺青が入った美青年。六魔将軍(オラシオンセイス)が拠点としていた廃村で存在を確認したその男の姿を。

 

「ジェラールッ…!!」

 

瞬間、驚愕と憤怒を顔に表して警戒の態勢を構える。向こうはこちらに対してどこか驚いたような表情を浮かべて呆然としている。攻撃するならば今だと、己の魔法を発動させようと魔力を集中する。

 

「待って!」

 

だが、敵意を込めた視線で睨みつけるシエルを遮るように、ウェンディが二人の間に入って、両手を広げながらジェラールを庇う。焦りや怯えの感情を宿しながらも割り込んできた想い人にシエルは一瞬たじろぐが、いま彼女が庇っているその男をみすみす放っておくわけにはいかない。

 

「どいてくれ、ウェンディ!君にとっては恩人かもしれないけど、こいつはエルザを…!」

 

「どきません!お願いです、私たちには今、ジェラールが必要かもしれないんです!だから…傷つけないで…!」

 

「けど…!」

 

ジェラールはウェンディにとっては恩人。それは彼女自身の口から聞いたことのため、それに関しては信じていないわけではない。だが、シエルの知っているジェラールは、楽園の塔で仲間を苦しめ、自分たちを掌の上で動かし、そしてエルザに深い悲しみを刻み付けた怨敵と言える存在。更に言えばどんな繋がりがあるか定かではないが、六魔将軍(オラシオンセイス)と行動を共にしていたことも目にしている。このまま放置していい存在ではない。

 

「私からも頼む」

 

「エ、エルザ!?」

 

しかし、ウェンディの前に立つ形でシエルに頼み込んできたエルザの言葉を聞き、彼は耳を疑い、激しく動揺を露にした。ジェラールに対してこの場にいる…いや、全世界の人間で一番因縁深い人物であるはずのエルザが、ジェラールを庇うような言動をするとは思わなかった。どう言うつもりなのか。楽園の塔でジェラールが行ってきたことを忘れたわけじゃないのに…と視線を向けるシエルに、エルザはジェラールの現状を語りだした。

 

「今のジェラールは記憶が混乱している…。私たちの事も、そしてウェンディの事も憶えていないらしい…」

 

「記憶が…?」

 

どうやらジェラールは楽園の塔の一件の際に発生した、エーテリオンの暴発に巻き込まれ、その衝撃で記憶をほとんど失ったらしい。基本的な魔法の使い方や、一部の事などは覚えているらしいが、それ以外は何も思い出せないとのこと。

 

元々は評議院に潜入していた中で、ニルヴァーナの隠し場所と封印解除の方法を聞き出すために六魔将軍(オラシオンセイス)にその身柄を保護されていたらしい。奴等にさらわれていた間に、ウェンディたちがブレインから聞いたとのことだ。

 

「シエル…ウェンディ…オレの知り合い…だったのか?」

 

知り合い。その単語に、シエルの表情は曇った。かつては互いに敵意を剥き出しにして戦い、そして一方的に痛めつけられて、下手をすれば殺されかけた相手だ。だが彼を恩人と呼ぶウェンディを前に正直に告げるのははばかれる。「俺とは敵同士だったよ」と一言だけ告げてそっぽを向くだけに留まった。

 

「…すまない…。思い出すことはできないが、その様子だと随分とヒドイことをしてしまったらしい…」

 

誰が見ても機嫌が悪そうに見えるシエルの態度に、ジェラールは己に向けられた感情を察したらしい。記憶を失ったことで人格にも影響が出ているのかと、以前とは別人のようにしおらしくこちらに謝罪を告げるジェラールを見て、どこか居心地悪そうに表情を歪める。謎の罪悪感が心の内から込み上げてくる。

 

「見ての通り、今のジェラールにこちらへの敵意はない。すぐには無理かもしれないだろう。だが今は、ジェラールも味方として、受け入れてくれないか?」

 

そしてエルザからの直々の頼み。恐らく記憶を失った状態のジェラールと、ニルヴァーナにいる間行動していたのだろう。まっすぐにこちらを見つめてくるエルザ。悲しげに、そして申し訳なさそうに視線を向けるジェラール。震えながらも懇願するようにこちらの様子を窺うウェンディ。傍らから変わった様子もなく、ただ一点とシエルを見据えるシャルル。

 

三者…ならぬ四者四様の視線を一身に受け、心の内で葛藤に苛まれる。数秒間せめぎあった後、固く目をつぶってこらえ、そして絞り出すようにシエルは「あ~~!!」と叫び声をあげる。ウェンディのみがそれに対して軽く肩を揺らしたことも気づかず、後頭部を右手でかきながらシエルは言葉を告げた。

 

「記憶がないんじゃ、今のジェラールに怒りをぶつけても空しいだけだ。それに、一番ジェラールに因縁があるエルザがそう決めたなら、俺から何か言う資格はねえ!」

 

それを聞いたエルザ、そしてウェンディの顔に安堵が浮かび上がる。対してジェラールは意外そうに目を見開いてシエルの方を見ている。あれほどの剣幕を向けていた少年が、不本意そうではあるが自分が同行していることを受け入れてくれたことに、驚愕したようだ。だが、続けざまに「だけど!」とジェラールに向けて指を向けたことで、シャルルを除いた他の三人は再び表情に緊張感を宿す。

 

「記憶が戻った際に、ウェンディやエルザ、それから俺の仲間たちに危害を加えるような真似をしたら、誰が止めようとお前を討つからな!」

 

記憶がない状態の今、敵対する気がないのならこちらも手出しはしない。だが危険が及ぶようならば容赦はしないという警告。それを告げられたジェラールは数瞬呆気にとられるも、すぐさまその表情を引き締め、まっすぐにシエルを見ながら返す。

 

「勿論だ。そのような真似はしないと誓う。もし破ったときは、どんなことをしてでも止めてほしい」

 

こちらを欺くための演技には到底見えない。つくづく敵だったころのジェラールと同一人物なのか疑わしい。ひとまずの衝突を避けることが出来たために、エルザから「ありがとう」と感謝の言葉が告げられる。エルザの意思を尊重したまでだと、どこか膨れ面でジェラールから視線を逸らした。

 

「私たちがアンタを探してたのは、ニルヴァーナを止める方法を知ってるんじゃないかって思ったからだけど…アンタ、もしかしてその方法も忘れちゃったんじゃないでしょうね?」

 

「そ、それは…」

 

話に区切りがついたことを察知したシャルルが本題に入った。ニルヴァーナの封印場所と解除方法を知っていたジェラール。ならばそれを止める方法も知っているはずだと思い立ったウェンディが、ジェラールをこの都市の中で探していたことになる。

 

だがその方法を知っているはずのジェラールの表情は暗い。方法がないわけではないし、微かに思い出した記憶ではニルヴァーナ自体を『自律崩壊魔法陣』で消滅させることが可能であり、それを実行した。

 

しかし、魔法陣を刻んだ対象を自動で滅する効果を持つその魔法は、ブレインがジェラールに教えたもの。ブレインによって魔法陣を解除するコードを入力せずとも、魔法陣そのものを無効化されてしまった。そしてジェラールの中に今ある記憶では、これ以外にニルヴァーナを止めるための方法が存在しない。

 

「これ以上打つ手がないんだ、すまない…」

 

「そんな…!」

 

「それじゃ、私たちのギルドはどうなるのよ!もう…すぐそこにあるのよ!?」

 

苦々しい顔で残酷な現実を告げるジェラールの言葉に、化猫の宿(ケット・シェルター)の二人の心は重く暗く沈んでいく。本当に打つ手はないのだろうか?この都市を止めることは最早不可能なのか?

 

「何か他に動力源があったりしないのか?こんなデカい都市を動かすには、何かしらのエネルギーが必要だろ?」

 

「…動力源…魔力を、どこからか…うっ…!」

 

何かしらヒントにならないかと、自分の推測をジェラールに伝えてはみるが、記憶を呼び起こすほどのものではないらしい。一向に状況が好転しないまま、時間だけが過ぎて行ってしまう。

 

 

そして、移動を続けていた都市が、突如ひと際激しい音と揺れを発する。都市全体が揺れ動くほどの振動と共に、進行していた方向から黒と白が入り混じった光が差し込んでくる。

 

光が発せられている方向へと駆け寄ると、黒白の光はニルヴァーナの元へと集まってきており、すぐ先にはネコの頭を模したテントのような建物を中心に、いくつか住居のようなものが存在する集落が見える。

 

「あれは…!!」

 

化猫の宿(ケット・シェルター)です!!」

 

集落を目にしたウェンディがその場所が自分のギルドであることを伝えた。到着してしまった。そして、集められている黒白の光。特殊な魔力が集っていることは明白だ。何か巨大な魔道砲を発射しようとしている風にも見えるその光景は、善悪を反転させるニルヴァーナを発射しようとしているようにしか見えない。

 

「間に合わない…っ!!」

 

砲撃を止めようにも、それを止めるための魔法を発動するのに時間がかかる。発動する前にもうニルヴァーナは発射されてしまう。

 

「やめてぇーー!!」

 

自分のギルドが、家族が、悪意を持った一撃に蹂躙される。最悪の未来が目前に迫った少女の叫びも空しく、黒白の光は化猫を飲み込まんと発射される。誰もが間に合わなかったと、絶望を抱えて標的とされたギルドの方へと目を向けている。

 

 

 

 

そして光が化猫を貫こうとした直前、天空から一筋の白い光が降り落ちて、脚の一本を曲げるように着弾。相当な威力を受けたことによって都市も傾き、照準を定めていたニルヴァーナの砲台も傾いて、黒白の光は建物と集落の上をギリギリ通過した。

 

大きく傾いたことで都市の中にいる者たちもどこかにしがみついたり、互いに支えあってその揺れにそれぞれ対応する。その合間にも魔力を使い切ったのか、ニルヴァーナから黒白の光は消え去り、化猫の宿(ケット・シェルター)は辛くもその難を逃れた。

 

「何が…!」

 

何が起こったのか。傾きが元に戻った後、周りを見渡していると、空から機械の駆動音が聞こえ始め、全員の視線は一様に上へと向けられる。そこには見覚えのあるものがあった。樹海の入り口付近で無残にも墜落させられてしまった空を駆ける天馬…。

 

「あれは…魔道爆撃艇…天馬(クリスティーナ)!!」

 

六魔によってボロボロにされたままだが、まさか飛べるほどの機能が残っているとは驚いた。船体はところどころ穴はあるし、右側の翼は元々のものとは違うもので出来ているようだが、樹海の入り口からここまで飛行できたことは驚嘆の一言だ。

 

「すげぇ…!」

 

「味方、なのか…?」

 

シエルもあの状態で駆けつけてくれたことに感動し、クリスティーナを見たことのないジェラールはエルザたちの反応から敵ではないと悟って言葉をこぼす。そして、その場にいる一同の頭に、その声は響いてきた。

 

《聞こえるかい!?誰か…無事なら返事をしてくれ!!》

 

「ヒビキ!?そっちも大丈夫か!?」

 

古文書(アーカイブ)の使い手である天馬の一人。エンジェルと交戦した際に負傷し、シエルがハッピーと共にニルヴァーナへと向かった際にはまだ意識を失っていたのだが、どうやら幾分か回復したらしい。

 

《シエルくん!?エルザさんとウェンディちゃんも無事なんだね!!》

 

《私も一応無事だぞ…》

 

《先輩!よかった!!》

 

シエルの声を聞き、そして近くにいるエルザたちの存在にも気づいたヒビキが喜びを表す。そして間髪入れずに行方が知れなかった一夜の声も聞こえてきた。…つか、あいつ今まで何をしてたのだろう…?

 

「どうなっている?クリスティーナは確か、撃墜されて…」

 

《僕たちは即席の連合軍だが、重要なのはチームワークだ》

 

六魔に撃墜された際に、翼は片方壊れ、船体もバラバラにされてしまっていた。だがそこは人数でカバーする。リオンの造形魔法で壊れた翼を補強し、船体はシェリーの人形撃、レンの空気魔法でつなぎとめている。そしてニルヴァーナの脚を撃った一撃は、イヴの雪魔法と、クリスティーナが本来持っている魔道弾と融合させた強力な一撃だ。

 

《だけど…脚の一本すら壊せないや…。それに…今ので…もう…魔力が…》

 

《イヴ!しっかりしろ!》

《こっちも、厳しいですわ…!》

《まだだ…もう少し…!》

 

戦線を離脱した者たちがほとんど。だがそれでもニルヴァーナを止める、ひいては六魔将軍(オラシオンセイス)と戦うという共通の目的のもとに集った連合軍として、出来る限りのことをしようと奮闘してくれている。

 

「ありがとう…みんな…!」

 

そしてその奮闘が、化猫の宿(ケット・シェルター)を守ってくれている。優しく強い仲間。そんな彼らの行動にウェンディは涙を浮かべながら感謝の言葉を口にする。

 

《聞いての通り、僕たちは既に魔力の限界だ。もう艇からの攻撃は出来ない》

 

艇をよく見てみると、徐々にその高度が下がってきているうえに、心なしか再び船体の破片が飛んでいるように見える。限界であることが目に見えて明らかに映っている。いつまで飛んでいられるかも分からない。

 

《僕たちのことはいい。最後にこれだけは聞いてくれ…!時間がかかったけど、ようやく“古文書(アーカイブ)”の中から見つけたんだ!ニルヴァーナを止める方法を!!》

 

都市の中にいる者たちに、衝撃が走った。止める方法を見つけた。古文書(アーカイブ)の中から見つけ出した、今度こそ確固たる手法。それを実行すれば今度こそニルヴァーナは止まるはずだ。

 

《ニルヴァーナに、脚のようなものが8本あるだろう?その脚…実は大地から魔力を吸収しているパイプのようになっているんだ》

 

ただ移動のためだけでにつけられたと思っていた巨大な8本の脚。移動以外にも魔力の供給を目的とした設計になっていたらしい。そしてそれを制御する魔水晶(ラクリマ)が、各脚の付け根付近にある。その8つの魔水晶(ラクリマ)を、同時に破壊することでニルヴァーナの全機能が停止するとのことだ。

 

《一つずつではダメだ!他の魔水晶(ラクリマ)が破損部分を修復してしまう》

 

「8つ同時にって…どうやって!?」

 

クリスティーナの一撃でさえ脚の一本も落とせないほどに頑丈だ。その脚の付け根にある魔水晶(ラクリマ)を8つ同時に破壊する。それも生半可な一撃では壊れないだろう。それぞれ離れた位置に存在するそれらを、同じ時間で、それぞれの魔導士が破壊を実行しなければ成功しない。

 

《僕がタイミングを計ってあげたいけど…それまで念話がもちそうにない…》

 

念話を通して同時に壊そうとするのは無理がある。しかし、ヒビキの古文書(アーカイブ)を駆使すれば、他にもやりようは存在する。場にいる者たち全員の頭上に、ヒビキから情報が送られている証のアップロードバーが出現する。その情報は時計だ。タイマーのような形で、頭の中に鮮明に映し出されている。

 

《君たちの頭にタイミングをアップロードした》

 

そしてバーの変動が完了した時、タイマーも作動を始めた。その時間は20分。ニルヴァーナの次の装填が完了する直前だそうだ。それまでに、各自分散して8つの魔水晶(ラクリマ)を破壊しなければいけない…。

 

《君たちならきっとできる!信じてるよ…!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《無駄な事を…》

 

その時、本来なら聞こえるはずのない声が頭に響いた。声には聞き覚えがある。六魔の司令塔であるブレインだ。しかし、その声質はどこか別人のように聞こえる。念話をつないでいる光の魔導士たちに一気に緊張感が走り出した。そして本来仲間内にしか繋げていないはずの念話を“ジャック”して割り込んできたことが分かる。

 

《オレはゼロ。六魔将軍(オラシオンセイス)のマスター・ゼロだ》

 

破壊を好み、全てを(ゼロ)にするブレインに隠されたもう一つの人格。それが六魔将軍(オラシオンセイス)のマスターを務めるゼロ。予想だにしていなかった存在の登場に、連合軍に大きな動揺が走る。

 

《まずは誉めてやろう。まさか、ブレインと同じ“古文書(アーカイブ)”を使える者がいたとはな…》

 

どうやらヒビキだけでなく、ブレインも古文書(アーカイブ)を使用できたらしい。そこからニルヴァーナの存在を見つけ出して、今回の動きを見せたという事か。

 

《聞くがいい!光の魔導士よ!オレはこれより、全てのものを破壊する!!手始めに、テメェらの仲間を4人破壊した。最初に破壊したのは…堕天使ペルセウス》

 

「っ!!?」

 

その名を耳にした瞬間、シエルは過去の中で一番といっていい衝撃を受けた。シエルだけじゃない。念話を繋げている者たちのほぼ全員がその言葉に耳を疑っている。

 

「ペルがやられた…だと!?」

 

《バカな…!?》

 

《その他には…滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)に、氷の造形魔導士、星霊魔導士。それとネコもか》

 

《ナツくんたちまで!?》

 

「ふざけんなっ!そんなのでたらめだ!!」

 

更にはナツたちまでもがゼロによってやられたという。自分が知る中で最強である兄や、強力な仲間たちが簡単に負けるわけがない。シエルが怒りに満ちた顔と声を上げながら念話越しにゼロに噛みつくが、本人はどこ吹く風だ。

 

《テメェら、魔水晶(ラクリマ)を同時に破壊するとか言ったなァ?オレは今、その八つの魔水晶(ラクリマ)のどれか一つの前にいる!フハハハハハ!!オレがいる限り、八つ同時に壊すことは、不可能だ!!!》

 

そして強引に念話を切ったのか、ブツンと言う音ともにゼロからの声はそこで途切れた。ヒビキからもその旨がこちらに伝えられる。

 

「ナツさんや、ペルセウスさんが…やられた、って…!」

 

「嘘に決まってる!!」

 

ゼロが言っていた言葉を反芻するウェンディに、すかさずシエルが顔を俯かせながら反論する。強く拳を握り締め、歯を食いしばり、体中を震わせながらその衝動をこらえている。しかし、その表情はひどく狼狽していて、目の焦点が合っていないようにも見える。

 

「やられるわけが…負けるわけがないんだ…!兄さんが…兄さんが簡単に負けるわけが…!!」

 

まるでそれは、自分に言い聞かせるているかのようだ。ゼロが自信満々に告げたその言葉を聞くと事実であるようにもとらえられる。頭で理解できてしまうからこそ、自分の心にそれはあり得ないと言い聞かせている。

 

「8か所の魔水晶(ラクリマ)を全て同時に壊す…となれば全員が手分けしてそれぞれの場所に行くしかないが…」

 

それを告げるのはジェラール。ニルヴァーナを止めるにはもうその方法しかないが、どれか一つはゼロが守っているとなると、彼に当たる確率は8分の1。この場にいるシエルやウェンディでは明らかに役者不足。ジェラールも本調子とは程遠い。エルザ以外では勝負にならないとみていい。だが、それ以前の問題が、彼らにはまだ残っていた。

 

「ちょっと待って!?8人もいない…!魔水晶(ラクリマ)を壊せる魔導士が、8人もいないわ!!」

 

それは魔水晶(ラクリマ)を破壊するにあたって必要な人手。根底的な問題だった。明らかに人数が不足している現状ではどうあってもそれを実施することが出来ない。

 

「わ…私…破壊の魔法は使えません…!ごめんなさい!」

 

さらに、ウェンディはサポート特化だ。シエルとの共闘では彼が攻撃を行い、それをウェンディが補佐していたから戦えていたが、攻撃のみが必要となる今回の作戦では、数には入れない。となると今いるのは、エルザ、シエル、ジェラールの3人のみ。

 

「こっちは3人だ!他に動ける者はいないか!?」

 

《マイハニー。私がいるではないか…。縛られているが…》

 

正直忘れかけていた一夜が真っ先に声を上げる。少々気になる言葉も聞こえたが、彼もその気になればパワーが存在する。これで4人。あと半数だ。

 

《まずい…僕の魔力が…!念話が…切れ…!》

 

ヒビキが念話を保つのもそろそろ限界だ。他に誰かいないのか、エルザが問いかけるが、クリスティーナ組はもう高度を保つことさえできず、徐々に落下していく。彼らの中から選出するのも難しい。

 

《グレイ…立ち上がれ…!お前は誇り高き、ウルの弟子だ…!こんな奴等に負けるんじゃない…!》

 

グレイに向けて言葉を贈るのはリオン。かつてはデリオラを巡って対立した二人。師匠(ウル)の教えを反故にしようとした自分と、対して思いに応えようとしたグレイ。その時に自分をも上回った弟弟子に、今は確かな信頼を寄せている。

 

《私…ルーシィなんて…大っ嫌い…。ちょっと可愛いからって、調子に乗っちゃって…バカでドジで、弱っちい癖に…いつも一生懸命になっちゃって…!死んだら嫌いになれませんわ…!後味悪いから、返事しなさいな…!》

 

悪態をつきながらもルーシィに発破をかけようとするシェリー。互いを憎たらしく思いながらも、根底では共に戦う者としての情が確かに存在している。涙混じりの声で彼女にそれを伝えようとしている。

 

「兄さん…負けないよね…?俺たちの声…きっと、届いてるよね…!?」

 

誰よりも兄の強さを信じて、疑わない弟。たとえ本当に倒れたとしても、そのままで終わるような存在じゃないはず。必ず立ち上がると、もう一度戦おうと奮起すると、自分が信じなくてどうする。

 

「ナツさん…!」

 

「オスネコ…」

 

「ナツ…!」

 

そしてこれまでも、遥か上に存在する敵を相手にして勝利を掴んだナツ。彼がここで倒れたまま終わるわけがない。彼に憧れた少女が、彼の成長を見てきた女性が、立ち上がることを望み、声を出す。

 

《聞こえるかい…僕たちの、声が…》

 

 

 

 

 

 

 

《聞こえてる…!!》

 

床を殴りつけたのだろうか、一つの炸裂音を響かせると同時に、消耗した様子を感じさせるも、力強い声で火竜(サラマンダー)の返事が念話を通じて聞こえてきた。それを聞いて、場にいる者たちの表情が明るくなる。

 

《8つの脚に、8つの魔水晶(ラクリマ)…!!》

 

続けて響いた声に、シエルの表情がさらに明るく、そして少しばかり目に涙が浮かぶ。聞き間違いようのない、憧れの兄の声。

 

《それを全部、同時に壊す…!!》

 

《運がいい奴は…ついでに、ゼロも殴れる…でしょ…?》

 

氷の魔導士、星霊魔導士もまた、立ち上がったことを示すように声を出す。落ちていく爆撃艇に乗っている魔導士たちが、安堵の表情を浮かべていることだろう。

 

《あと18分…急がなきゃ…!シャルルとウェンディのギルドを、守るんだ…!!》

 

そして破壊のための魔法を待たずとも、確固たる意志を宿して立ち上がるのは火竜の相棒。彼もまた己に為せることを行うために痛みを訴える身体に鞭を打って奮起する。その言葉に何かを感じたのか、シャルルは顔を下に向けた。

 

《も…もうすぐ念話が切れる…頭の中に、僕が送った地図がある…。各…魔水晶(ラクリマ)に、番号を付けた…全員がばらける様に決めて…》

 

ヒビキからの声が途切れると同時に、爆撃艇が崩れ落ちる音が、念話越しでも伝わってくる。それを耳にした者たちは、もう時間がないことを察した。ゆっくりと話し合って決める時間はない。魔導士たちは、早急に己が担当する番号を決め始める。

 

《1だ!》

 

《2!》

 

《俺は3!》

 

《4に行く!ゼロがいませんように…!》

 

まずは復活した魔導士達が我先にと指定する。最初は食い気味に指定してきたナツ。続けてグレイ、ペルセウス、ルーシィの順番だ。

 

《私は5に行こう。ここから一番近いと香り(パルファム)が教えている》

 

「教えているのは地図だ」

《そんな、マジでツッコまなくても…》

 

続いては一夜。アップロードされた地図と自分の位置関係から察知したのだろう。そして彼自身の言動に関する指摘もそこそこに、エルザがそれに続くように告げる。

 

「私は6に行く」

 

《エルザ!元気になったのか!》

 

「ああ、おかげさまでな」

 

ナツ達にとっては毒が治った直後ジェラールの元へと向かったために安否不明だった故か、彼女の声を聞いてナツが真っ先にそれに反応を示した。ウェンディのおかげという意味を込めて彼女の方に笑みを向けると、謙遜するように彼女は手を掲げてエルザに向けた。

 

「じゃあ俺は7に行くよ」

 

シエルは7を指定。残すは8のみだがほとんど決定しているものと言っていい。

 

「ではオレは…!?」

「お前は8だ…」

 

《他に誰かいんのか!?今の誰だ?》

 

残されたジェラールが口を開けようとすると、すかさずエルザがそれを遮って数字を指定する。ナツはまだジェラールが敵だと認識している。シエルのように敵対心を剥き出しにしてくるだろう。それを危惧しての措置だ。エルザが声を出さないようにと小声で伝えると、ジェラールは事情を理解して首肯で答えた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

シエルたちがいる場所から比較的遠く離れた場所。ゼロによって蹂躙されてからそう距離が離れていないところで集まっているナツたちは、最後の力を振り絞って飛行していた爆撃艇が墜落した音と共に、念話が切れてしまったことに少なからず動揺していた。

 

「お、おい!」

 

「…だめだ、念話が切れた…」

 

「限界…だったんだ…」

 

目覚めたと同時に、ヒビキからタイマーと地図の情報が頭の中に送られてきた。今も刻一刻とその時間は迫ろうとしている。悲嘆してばかりいる場合ではない。

 

「とにかく、ちゃんと8人いるみたいだ…!行こう!ゼロに当たったら各自撃破!みんな持ち場があるから加勢は出来ないよ!!」

 

身体を震わせながらもハッピーが告げる言葉に、全員が気を引き締める。チャンスは一回のみ。しかも誰かはゼロという圧倒的な実力者も相手に時間を気にしなくてはいけない。失敗すれば、今度こそ化猫の宿(ケット・シェルター)は闇に染まる。六魔将軍(オラシオンセイス)との本当の意味での最後の激突が、始まろうとしていた…。

 

「ナツ…」

 

それぞれの持ち場にそれぞれが向かおうと動き出した時、ペルセウスがナツを呼び止め、彼はそれに対して振り向く。

 

 

 

 

 

「限界を超えろ。でなければ、奴には勝てねぇぞ」

 

「…おう!!」

 

 

 

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爆撃艇が再び墜落していく光景を見て、それに搭乗していた者たちを案じながらも彼らも各々で動こうとしていた。タイマーと地図を確認しながら、機を見て行動を起こす必要がある。

 

「あとはゼロがどの魔水晶(ラクリマ)にいるかってことだけど…」

 

シャルルが懸念するのはゼロの存在。半端な者達ではゼロには決して敵わない。ペルセウスが向かった3か、エルザが担当する6ならば、可能性もあるだろうが、シエルとエルザはほぼ確信していた。

 

「多分、ゼロは1にいると思う」

 

「ナツさんのとこだ…!」

 

シエルの言葉にエルザも無言で首肯し、ウェンディは声を上げる。滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるナツは五感が竜並みに優れており、特に鼻はよくきく。ゼロの匂いを覚え、そこから地図の位置と照らし合わせたのだろう。そして自らゼロを倒すためにいの一番で1を選んだ。

 

しかし、一度はゼロに敗北しているナツが再び対峙して勝てるとは考えにくい。

 

「だったら加勢に行こうよ!みんなで戦えば…!」

 

「ナツを甘く見るな」

 

ナツ一人に託すより多数で攻めれば勝機はあるとふんだウェンディが提案するが、エルザによってそれは遮られた。

 

「あいつになら、すべてを任せて大丈夫だ」

 

普段から見れば、ペルセウスやエルザには及ばないナツだが、ここ一番という場面や、絶対に負けられない戦いの中において、彼は本来以上の力を発揮し、限界を超えていく。エルザは今回も、そのナツの可能性にかけて、すべてを託した。

 

シエル自身も、兄を追い詰めたゼロに一矢報いたいという気持ちがあったが、恐らく自分では敵わない。その代わり、奴らの目的であるニルヴァーナを止めて、その意趣返しを果たしてやろうという気持ちを持つことにした。心配げな視線を向けるウェンディに、安心するように笑みを向けて首肯することで、シエルも返事とした。

 

「私たちも持ち場に行くぞ。私は6、シエルは7、そしてジェラールは8だ」

 

「ああ!」

 

そう告げてエルザが、そして力強く返事したシエルも地図に従ってそれぞれの持ち場に向かおうと足を動かし始める。しかし、ジェラールは何かにとり憑かれたように立ち尽くしていて、動こうとしない。

 

「…ジェラール…?」

 

「…いや…何でもない…」

 

エルザに声をかけられて気付いた様子で、左手を顔に当てながらようやく彼も歩を進め始めた。足取りは重くフラフラとしていて少々危なげだ。大丈夫だろうかと内心感じながらも、エルザとシエルはそれぞれの場所へと向かい出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナツ…ドラグニル……!!」

 

まるで呪詛を呟くようにその名を口にしたジェラールに、二人は気づくことが出来なかった…。

 

 

 

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ここは1番魔水晶(ラクリマ)。シエル達の予想通り、ナツが向かっているその空間に、白い髪を垂らして、赤く染まったその目を細めながら、獲物を待ち構えていた。

 

「くっくくく…ニルヴァーナは止まらねぇ…。止められやしねぇ」

 

己に破壊される奴がどのような奴か想像しながら、ゼロは怪しく笑いながら言葉を告げる。そうだ、自分に勝てるような者は、壊せない者は存在しない。仮に隙をついて魔水晶(ラクリマ)を壊すことが出来たとしても、光の思い通りにはならない。

 

「テメェらをぶっ壊すのは、何もオレだけじゃねぇ。エルザあたりが当たって、壊されないことを精々祈ってやがれ、小僧ども…!」

 

その言葉に反応したかのように…こことは違う魔水晶(ラクリマ)が存在する部屋で、目のような二つの小さな光が、怪しく蠢いていた…。




おまけ風次回予告

ハッピー「シエルが選んだのって7番の魔水晶(ラクリマ)なんだよね?7って、大体ラッキーな数字だって言われてるの知ってる?」

シエル「もちろん。何が由来になってるのかは分からないけれど、昔から7は幸運だとか、安息を表す数字って言われてるね」

ハッピー「ナツが、イグニールがいなくなった日は777年7月7日だっていうし…」

シエル「他にも一週間は7日間…他にも七元徳っていう教義も存在するし…」

ハッピー「こうしてみると、意外に7って結構見られてる数字なんだね」

次回『(セブン)

シエル「そうだ、天気にも7に関連するものがあったな」

ハッピー「あ、そういえばそうだね!もしかしてその魔法もシエル使える?」

シエル「勿論!けど結構難しくてさ…かくかくしかじか…」
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