FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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間に合いました…。なんか、久々にすっごい達成感…!
予定よりも長くなったのに、やっぱり集中して、余裕を持って行動するのが一番ですね、はい。

今回、一部ちょっとツッコミどころがあるかもしれません…。面白いと思って衝動でかいた部分なので、否定的な意見があったらすぐさま修正します…。(思ったより神経質…。)


第61話 (セブン)

傷だらけの体に鞭をうち、目的の場所である魔水晶(ラクリマ)のある部屋へと辿り着く。念話で送られたヒビキからの地図で自分が選んだその場所。そう、知っていた。気付いていた。この場所に、奴がいることは…。

 

「まだ生きてやがったのか。何しにきた?クソガキ」

 

両手に手を回して組み、仁王立ちで獲物を待ち構えていたその男。六魔将軍(オラシオンセイス)のマスター・ゼロ。破壊したと思っていた目の前で絶え絶えの息を整えている火竜(サラマンダー)を前にして、疑問を投げかける。リミッターを解除していた状態とはいえ、あまりにもあっさりと、呆気なく倒されたこの小僧に、今更できることなどない。

 

「…へへっ…!」

「あ?」

 

だというのに、不敵な笑みを浮かべながらこちらを見据えてくる。先程のような敗北を微塵も考えていない、自信に満ち溢れた、熱い炎を幻視させるその顔で…。

 

「壊れんのはオレとお前か…どっちだろうなぁ…!?」

 

光を司るは、太古の支配者たる竜の力を宿した青年。

 

闇を司るは、破壊という言葉を体現した絶対的強者。

 

光と闇の最終決戦。ここに開幕。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

石のレンガで組み立てられた、長い通路を歩いて先へと進む。自分の位置と示された地図を見比べながら、7という数字が指定されたその部屋へと歩を進めていく。ゼロがいるのは、ナツがいの一番に指定して向かった1番。自分の元には敵がいないことが遠回しで判明している。

 

「着いた…ここか…」

 

通路を抜ければ、球状になっている似たような造りの空間。そして中央には、かつて幽鬼の支配者(ファントムロード)の本部が有していた魔導収束砲・ジュピターを発射するために備えられていた魔水晶(ラクリマ)と、似たものであるがさらに大きなもの。これが、ここ以外にも7つ存在しているということになる。

 

「そして、1番にはナツと戦っているはずのゼロが…ん!?」

 

瞬間、シエルはすぐさま何かを察知し、すぐにその場を飛び跳ねて回避。すると、ブレインも使用していた黒緑の波動が先程シエルがいた場所へと襲い掛かる。回避しなければ、その不意討ちにかかっていたことだろう。

 

「今のは…!?ゼロは1番にいるはずじゃ…!?」

 

ブレインと同じ身体、同じ魔法を共有しているゼロ。今の攻撃はゼロのものか?ナツが向かったはずの1番にいると予測していたが、外れてしまったのだろうか?

 

「ふっふっふ…。避けたか…随分と勘がいいな、小僧…」

 

空間に反響するように聞こえたその声。その声はブレインでも、ゼロでもない、別のもの。地の底から湧き上がるような低い声を耳にして、シエルはさらに警戒を強める。

 

「ゼロじゃない…?どこにいる、何者だ…!?」

 

死角から攻撃してきたであろう先程の攻撃。その追撃が来ても回避できるように周囲を注意深く察知する。しかし攻撃は訪れず、彼の耳に届いたのは先程と同じ声だった。

 

「貴様等は確か…ここを7番魔水晶(ラクリマ)と銘づけていたな?“7”…今の時代では幸運の数字として世に知れ渡っているという。しかし、貴様にとっては不運の数字となったようだな?」

 

姿も現さず、声だけを響かせる謎の敵。先程の念話をゼロ同様に聞いていたらしいその敵の姿を探すが、それらしき人物はどこにも見当たらない。

 

「何故なら貴様は…ここでこの私に打ち倒されるからだ…」

 

すると、辺りに響かせていたその声は、シエルの頭上付近から発せられるものへと変わる。反射的に上を見上げたシエルの目に、ようやくその敵の姿は映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この“七”人目の六魔将軍(オラシオンセイス)である、このクロドア様の手によってなぁ!!」

 

 

 

 

映ったのは、先端が髑髏になっている杖。ブレインが持っていた、魔水晶(ラクリマ)を咥えていた(今は無いが)あの杖が、言葉を発して浮遊しながらこちらを見下ろしていた。

 

 

 

 

 

「えぇーーーーっ……」

 

「なんだそのあからさまにガッカリしたような反応はぁ!!失礼だろ!!」

 

喋る髑髏の杖、クロドアが言うように思いっきり表情をガッカリと言いたげな暗いものへと変えて、低い声を絞り出しながらあからさまに落胆した様子を見せるシエル。あんまりともいえる反応に思わずクロドアは先程の重厚そうな声をかなぐり捨てて大声で主張した。

 

「いやさ…正直ガッカリ感が半端ないじゃん?見てみ?画面の前の読者さんの顔。『お前かよ…』って言いたそうにしてるよ…?」

 

「誰だ読者って!?訳わかんないけど…何か物凄く失敬だし、色々と危ない気がするぞ!?」

 

だが主張するクロドアに対して、何も無いはずのあらぬ方向を指さして視線を向けながら、遠回しにクロドアをおちょくっている。これが奴を動揺させる作戦なのか、はたまた本気でそう思っているのか、本人しか分かりえないだろう。

 

「てか、何でブレインが持ってた杖が動いて喋ってるんだ?あと六魔将軍(オラシオンセイス)って六人だろ、何だ七人目って?」

 

「それは先程、貴様の兄とその他にも言われたぞ…。揃って同じところに反応しおって…」

 

前々回でおんなじリアクションとツッコミをいれられたことを思い出しながらうんざりと言いたげな表情(分かり辛いが)をしながらそう返す。気持ちはわかるが、ひとまず今気にするべきところはクロドア自身の事ではない。六魔将軍(オラシオンセイス)を自ら名乗っているということは、ニルヴァーナを止める自分たちを邪魔する側だ。

 

「ここの魔水晶(ラクリマ)を守っているのがお前…って事でいいんだよな?」

 

「そうだ。マスター・ゼロお一人でも十分ではあるが、どのようなことが起こるかは分からないのでな…。この私にも機会が巡ってきたのだ…!」

 

質問したこと以上にすらすらとクロドアの口(髑髏だが)からここに至った経緯が語られる。化猫の宿(ケット・シェルター)をニルヴァーナで攻撃するために移動し、辿り着いた矢先、クロドアは破壊のみを重点に置いているゼロに、化猫の宿(ケット・シェルター)を狙っていた理由…ニルヴァーナを再び封印されないためであることを確認として口にした。しかし、それがゼロの苛立ちを生む原因となり、クロドアはゼロによって一度粉々にされてしまった。

 

しかし、初撃をクリスティーナによって妨害され、もう一度発射するための時間を稼がれてしまったゼロは、あることを思いついた。連合軍側の希望を、一片も残さず壊すことである。

 

「マスター・ゼロが敗れることなど万が一にも…いや、億が一にもあり得ぬことだが、あの方にとってはそれでは足りぬ…。全てのものを破壊することを望まれたあの方は、その億が一のことが起きたとしても、貴様らの思惑があっけなく砕け散ることをお望みだ…」

 

それはつまり、例えナツがゼロを倒して魔水晶(ラクリマ)を破壊できたとしても、クロドアがシエルを邪魔して魔水晶(ラクリマ)の破壊を阻止すれば、ニルヴァーナを止めることは叶わず化猫の宿(ケット・シェルター)は今度こそ蹂躙される。連合軍に残されている勝機を壊すことで、更に己の欲を満たすために、クロドアはゼロに復活させられたわけだ。

 

「先程はしくじったが、今度はもう失敗せぬ。マスター・ゼロの御為に、貴様をここで始末させてもらうぞ…!!」

 

「随分自信があるみてえだな。ブレインの時には手酷くやられたけど、俺もその時のリベンジ、させてもらうぜ…!」

 

一見すれば髑髏の杖。戦闘能力がそこまで高いようには見えないが油断は禁物。対象は細長いから一点を集中する魔法は躱されたり当たらない可能性もあるし、魔法自体がどれほどの威力か、どんな魔法を使うか、他の六魔と違ってすべてが未知数だ。残り時間も限られている。あまり長引かせるわけにもいかないから、相手の出方を窺うよりもまずはこちらから仕掛けてその迎撃を誘う。

 

「先手必勝、暴風警報!竜巻(トルネード)!!」

 

掌から緑色の竜巻を発射し、クロドアの元へと迫っていく。だがクロドアはこちらに襲い掛かってくる横方向の竜巻を前に表情をにやりとした不気味な笑みに変えて一言…。

 

「ブレイン、か…」

 

呟いたと同時にその姿は突如消え、竜巻は何も捕らえられずに通過する。思わず目を見張ったシエルは直後、背中から頭突きを食らわせたクロドアによってその体を吹き飛ばされる。

 

「つっ…速い…!?」

 

細長い体を活かした超スピード、と言ったところか。ならばこちらも速さには速さだ。すぐさま雷の魔法陣を手に浮かべてそれを握り潰し、敏捷力を上げる雷光(ライトニング)を発動させる。

 

「無駄だ、その技の対処法は既に知っている!」

 

だがクロドアは一声上げると同時に魔力の膜を展開する。そこを通過すると、シエルが体に纏っていた雷の魔力は途端に霧散。さらに落雷(サンダー)を発動させることが出来なくなってしまった。

 

「これは…ブレインがやっていた…!」

 

ブレインと激突していた際に雷光(ライトニング)を封じた雷の魔力のみを遮るバリア。まさかクロドアまでこれを使ってくるとは、と驚愕していたその時、更に攻めの手を激しくしてくる。

 

「これだけではない…常闇回旋曲(ダークロンド)!!」

 

呆気に取られているシエル目掛けて黒緑の波動を撃ちだしてきた。必死に回避するも怒涛の連射で反撃する隙も見当たらない。それも、ブレインが放ってきたものよりもさらに威力が上だ。

 

「ふははははっ!素晴らしい!これがマスター・ゼロからお譲りいただいた力…想像以上の破壊力!!」

 

「ゼロから…!?」

 

ゼロによって復活された際に、どうやら更に何かしらの強化を施されたようだ。本人には遠く及ばないであろうが、それでも彼の半分近くの実力を有しているといったところ。クロドア本人から自慢気にそのような推測が語られる。

 

「まだまだ終わらんぞ?常闇回旋曲(ダークロンド)!!」

 

そして続けざまに放ってきた波動をシエルは走りながら回避していく。その間に彼は小さな太陽を創り出して、逃げながらもそれを何本もの矢の形にしていく。そして波動の一つを回避した瞬間、クロドア目掛けてそれを放つ。

 

光陰矢の如し(サニーアローズ)!!」

 

光速で放たれた矢。ほぼ一瞬で貫くであろうその攻撃を視認し、慌ててクロドアはその場を急上昇で退避。速さに特化されていると実感していたが、まさかとっさとはいえ回避されるとは考えられなかった。

 

「あ、危なかったぁ…!おのれ小僧めが…!!」

 

焦りを見せながらも、途端に怒りを露にした表情で持ち直し睨みつける。そして多数の黒緑の魔力弾を乱射してシエルを蹂躙しようとするのを、慌てて彼はその場を跳躍して躱す。

 

「馬鹿め!私と違って空中を自在に飛べない小僧が!常闇奇想曲(ダークカプリチオ)!!」

 

しかし空中に身を置いたシエルの判断を嘲笑し、貫通力に特化した技を放つ。狙いは少年の中心、どてっ腹に風穴を開ける目的だ。その狙い通り、クロドアが放った螺旋の波動は表情を驚愕に固めるシエルの腹部を貫通した。そしてそのまま空間の石床に叩きつけられる様を見てほくそ笑みながら勝利を確信する。

 

風巡り(ホワルウィンド)…」

 

「え?」

 

すると、先程仕留めたはずの少年と同じ声が後方から聞こえてくる。油断していたクロドアが何の警戒もなく振り向いた瞬間…。

 

(シャフト)!!」

「ごぺぇ!!?」

 

後方から…正確には振り向いたことで位置関係が正面となり、シエルが振り上げていた風の棍で真正面から思い切り叩きつけられる。そして勢いそのまま真下の石床に思いっきり衝突して土煙を起こした。

 

先程クロドアの魔法で貫かれたシエルはそのまま音もなく消えていき、本物のシエルが雲の上に乗りながらしてやったりの笑みを返した。

 

「生憎空なら俺も飛べるんだよ。知らなかっただろ?」

 

その声を聞きながら、壊れて瓦礫となった石床から這い出て、怒りを表すかのように二つの空の目に光を灯す。それと同時にクロドアを中心に魔力が迸り、空間内の空気を揺らす。今までのはまだ奴の本気ではなかったのか…?笑みを引っ込めたシエルが、それを肌で実感する。

 

「舐めるなよ、小僧…!マスター・ゼロから授かった力が、この程度で終わるわけがなかろう…!」

 

雲の上にいる状態をキープしながら、シエルはクロドアの次の動きを警戒する。何が来ても対処ができるように、退避、迎撃、防御、それでも転じれるように。

 

「『常闇回旋曲(ダークロンド)七重奏(セプテット)』…!」

 

開かれた口の中から多くの魔力が放出され、それが七つに枝分かれする。そしてそれぞれ異なる方向から空を移動する雲に乗るシエル目掛けて攻め立てていく。顔に汗を滲ませながらも紙一重でそれぞれの波動を回避し、最後の一つも迫りくる上空から避けて、下降しながら躱した。

 

「まだまだ!『再演奏(アンコール)』!!」

 

だがその軌道を読んだクロドアによってもう一発波動が撃ち出され、反応して行動を起こす間もなく衝突する。雲が消滅し、宙に投げ出されたシエルに容赦することなく、髑髏はさらに追撃を重ねる。多数の魔力弾を発射してシエルを蹂躙しようとするも、咄嗟にシエルは吹雪(ブリザード)で迎撃。相殺させる。

 

「さらに気象転纏(スタイルチェンジ)かまくら要塞(スノウシェルター)!!」

 

再び魔力弾を撃ってこようとしたクロドアをすでに認識し、今度は防御に徹する。予想通り、発射された魔力弾は硬質なかまくらに一切傷をつけられていないが、クロドアに焦りはない。寧ろ不気味に笑みを浮かべながら次の技の準備を進めている。

 

「たかが雪の要塞で、これを防げると思ったか?常闇奇想曲(ダークカプリチオ)!!」

 

発射される螺旋の波動。本来であればどんな攻撃も通さない鉄壁であったはずのかまくらは、呆気なく穴を空けられて貫通。中で身を固めていたシエルにもその牙を剝く。

 

「うあっ…ぐっ…!!」

 

貫通されたところを目撃し、咄嗟に身を捻って躱そうとしたが間に合わなかった。シエルの左脇腹に少しばかり当たったようで、服と身が削り取られ、そこから赤い血が流れ出している。

 

「ふははははっ!その傷ではもはや満足に戦えまい!最早貴様に…勝ち目はないぞ、小僧!」

 

勝利を確信して高笑いを上げるクロドアを睨みつけるも、痛みをこらえて表情を歪めている今のシエルを見て髑髏が抱くのは、優越感のみ。そしてさらに魔力を練り上げながらシエルに近づくと、青白く光らせたと思えば、同じ色の雷撃がシエルに襲い掛かる。

 

「ぐぁああああああっ!!」

 

髑髏の高笑いと少年の悲鳴。誰も予測できなかった7番魔水晶(ラクリマ)での戦い。年若き光が闇に押し潰されようとしていた…。

 

 

 

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「っ!?何だ…?妙な胸騒ぎがする…?」

 

ここは3番魔水晶(ラクリマ)。7番で激闘を繰り広げている少年の兄が、頭の中で刻一刻と秒を刻むタイマーに意識を向けながら、脚を組んで瞑想をしていた。しかし、突如虫の知らせのように謎の胸騒ぎが起きたことを自覚した。

 

こういう時は決まって、唯一の肉親である弟の身に何か危険が迫っている。今までの経験で何度かそのようなことが起きていた。しかし、弟が名乗り出ていたのは7番。ナツがいの一番に選んだ、ゼロがいると思われる1番とは、距離も離れている。

 

だと言うのに、何故こんな胸騒ぎを感じたのか。今自分がこの場にいて、本当に大丈夫なのか、不安はどんどん高まっていく。しかし、残り時間はほとんど残っていない。この3番魔水晶(ラクリマ)は、位置関係上、最も7番から離れているといっても過言ではない。いくら神器の力を借りても、シエルを救助し、またこの場所に戻ってくる頃には、ニルヴァーナは発射されてしまう…。

 

「(シエル…!)」

 

もどかしい。だが今の自分にできるのは、弟を信じ、自分の持ち場で力を振るう事だけだった…。

 

 

 

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1番魔水晶(ラクリマ)での激闘。そこではやはりと言うべきか。ゼロの方が圧倒的優勢で立ち回っていた。炎を纏って攻撃を仕掛けてくるナツを、ゼロは確実に動きを見切って全て回避している。そして時折こちらから繰り出す攻撃は、確実にナツの体力を削っていく。

 

常闇奇想曲(ダークカプリチオ)!」

 

そして今もそうだ。全てを貫通する魔法を指先から発射し、更にはブレインの時には行えなかった操縦機能まで備わっている。時には地中に潜らせて真下から、時には空中を縦横無尽に飛ばして死角から。ナツの体を次々と甚振っていく。

 

「壊れんのはどっちかって?テメェに決まってんだろうがーーーっ!!」

 

制御を解除するまでもない。ペルセウスよりも圧倒的に劣る魔導士相手に、余裕の態度でナツを圧倒していく。

 

「火竜の…鉄拳!!」

 

だが何度目かになった攻撃に対して、ナツは真正面から拳に炎を纏ってそれを撃ち付ける。勢いが強いために身体が後方へと引きずられていくが、10秒近くの攻防を制して、その魔法を消滅させる。

 

貫通性の魔法を止めた。その影響で繰り出していた左の拳から血が噴き出しているが、止めただけでも大したものだ。ゼロは少しばかりナツへの評価を改める。ペルセウスほどではないが面白い戦いになりそうだ。

 

だが恐らく彼は知らない。自分だけが戦い、勝てば光側全員の勝利同然と思っている。その事実は全くもって違うことを。

 

「そういやさっき、言い忘れたことがあったな」

 

いきなり何の話だと、ナツが不機嫌そうに返事をする中、ゼロは愉快な笑みを浮かべながらナツに自分が()()()隠していたもう一つの事項を明かした。

 

「テメェらは8つの魔水晶(ラクリマ)を同時に破壊するためにそれぞれ分かれた。そしてここにはオレがいて、テメェを邪魔するために、破壊するためにこうしている。だが…他の場所に、もう一人いるんだよ。オレが用意しておいた刺客がな…!」

 

それを聞き、さしものナツも大きく反応した。ゼロが用意した刺客。本人ほどではないが強力な力を有しているその存在を聞かされて、他の誰かが自分同様に戦っているという事実を認識させられたのだ。

 

「確か…ここが1番って決められてたなぁ…。つーことは…7番。その魔水晶(ラクリマ)がある場所にそいつはいて、テメェの仲間を邪魔してるわけだ」

 

『じゃあ俺は7に行くよ』

 

その数字を聞いたときに真っ先に思い出した念話越しの会話。シエルがもう一人の敵と戦っている。それを理解した瞬間、ナツは思わず呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「何だ…だったら問題ねえな…」

 

静かに呟いた声だったが、ゼロはそれに首を傾げた。状況的には悪くなったはずなのにそれを感じさせないような、自信に満ちた声。少しばかり絶望するかと予想していたのに実際は真逆の反応を、ナツは返していた。

 

「だって…あいつは…!」

 

笑みを浮かべながら次の言葉を発そうとする。だがそこに、ナツ目掛けて魔法の攻撃が第三者から発せられた。消耗しているナツはそれを躱せず、そのまま後方に倒れこむ。勝負の邪魔をされたことで少々不機嫌になったゼロが「誰だ!?」とドスのきかせた声を上げながら振り向くと、そこには意外な、だが納得するには十分な人物が立っていた。

 

 

 

 

 

 

ニルヴァーナを復活させた張本人であり、もう一人の自分(ブレイン)が魔法を教えた人物の一人。青藍の短い髪をした美青年、ジェラール・フェルナンデスが、掌に炎の魔力弾を構えながら悠然と立っていた。

 

「ジェラール…!!!」

 

口元に弧を描き、ナツに向けて攻撃を放った。その行動を起こした理由を、ゼロは理解するのに時間がかからなかった。

 

「貴様…記憶が戻ったのか」

 

「…ああ」

 

エーテリオンに巻き込まれたことで記憶を失っていたジェラール。しかし、それが戻ったという問いに肯定を返した。それはつまり、エルザたちと敵対する側としての記憶まで戻ったということになる。そして、今この瞬間、ジェラールという存在がいることを許容できない人物がいた。

 

「ジェラァアアアアアル!!!」

 

ナツだ。楽園の塔で彼がしたことを、それが原因でエルザが深く悲しみ、泣いていたことを、彼は断じて許していない。憎しみと怒りのままに彼へと詰め寄っていくナツを、ジェラールは表情を変えないまま手に具現させていた炎をナツに放つ。

 

しかし、ナツには炎は効かない。火の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)である彼には、炎の魔法を逆に食らい、己の力とする特性が存在する。衝撃で後ずさりながらも主張を叫ぶナツに、静かながらもはっきりした声でジェラールは答えた。

 

「知ってるさ。思い出したんだ」

 

その声と言葉に、ゼロは妙な違和感を覚えた。炎が効かないことを知っていながら、何故炎の魔法を放ったのか。だが、それは彼の次の言葉で明かされた。

 

 

 

 

「『ナツ』と言う希望をな」

 

「何!?」

「ア?」

 

彼がこの1番魔水晶(ラクリマ)に来たのは、ナツの体力と魔力を回復させるためだった。記憶の中にある「ナツ」という希望にかけ、彼の力を最大限に引き出すために。だが、ジェラールもまた魔水晶(ラクリマ)の破壊のために自分の持ち場へと向かうはずだった人物だ。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

その担当する持ち場、8番魔水晶(ラクリマ)に向かっていたのは、何と羽を生やして飛行する白ネコに抱えられながら移動する、藍色髪の幼い少女、ウェンディだった。ほとんど魔力が残っておらず、体力も消耗した状態で苦し気に声を上げながらも、少女の体を抱えて飛ぶ力を緩めないシャルルに、ウェンディは感謝を告げる。

 

「ありがとう、シャルル。ジェラール…大丈夫かな…?」

 

「他人の事より自分の事よ。ホントに出来るの、ウェンディ?」

 

「うん!これは…私がやらなきゃいけない事なんだ」

 

心配そうに悲し気な顔を浮かべるシャルルに、ウェンディは決心した表情でそれに答える。ジェラールが担当するはずだった8番の魔水晶(ラクリマ)に、なぜ彼女たちが向かっているのか。それは数分程前の出来事に遡る。

 

 

左手に顔を置きながら時々苦しそうに呻き声をあげるジェラールを心配し、ウェンディが彼のあとを追って声をかけたことが発端だった。

 

『ジェラール、具合悪いの?』

 

『いや…』

 

彼女の問いには否定で返したが、ジェラールはウェンディから聞いていた彼女自身が扱う魔法について、思い出していた。彼女ならもしかすれば…。そう考えてジェラールは彼女に質問をしてきた。

 

『君は確か、治癒の魔法が使えたな?ゼロと戦うことになるナツの魔力を、回復できるか?』

 

『それが…』

 

『何バカな事言ってんの!!今日だけで何回治癒魔法を使ったと思ってるのよ!!』

 

申し訳なさそうに顔を俯かせるウェンディの代わりに、シャルルが憤慨しながら返答した。シエルが扱う魔力を回復させる魔法を、何度かかけてもらったおかげでいつも以上に治癒の魔法を使うことが出来たが、そのシエルと共闘する際にもサポートの魔法をいくつか、治癒の魔法も高頻度で使ったのだ。実を言うと、あと一回治癒をかける余裕も最早残っていない。

 

『これ以上は無理!元々この子は…!』

 

『そうか…』

 

それに対してジェラールは、特に落胆した様子も見せず、シャルルの言葉を遮って、更に言葉を続けた。

 

『ならば、ナツの回復はオレがやろう』

 

『『え?』』

 

顔を押さえていた左手をそっと下ろしながらジェラールは答えた。ナツという男の底知れぬ力を、希望の力を思い出したことを。ウェンディに治癒魔法をかける余裕がないのであれば、別の方法で自分が行う。そのための方法も、彼は思い出していた。

 

『君はオレの代わりに8番魔水晶(ラクリマ)を破壊してくれ』

 

『え、でも、私…』

 

『君になら出来る。滅竜魔法は本来(ドラゴン)と戦う為の圧倒的な攻撃魔法なんだ』

 

破壊するための攻撃魔法を使えない。そう思っていた自分にそう教えてくれるジェラールの言葉を聞いて、ウェンディは昼間にシエルから言われた言葉を思い出した。ウェンディの優しい性格で、攻撃よりもサポートや回復の方に比重がかかり、上手く扱えないのではないかという推測を。

 

『空気…いや、空を…“天”を喰え。君にも(ドラゴン)の力が眠っている』

 

『“天”を…』

 

 

 

その言葉を思い出しながら、到達した開けた空間。8番としていた魔水晶(ラクリマ)を前にし、内気で臆病だったウェンディは、その面影を感じさせない、まっすぐに前を見据えてやる気を奮い立たせている。

 

(ドラゴン)の力…私の中の…」

 

一度目を閉じながら、彼女は思い出していた。ある二人の人物から自分に告げてくれた言葉を。

 

『自分も戦ってでも助けたいなら、「守るために戦う」という想いを持ってみたらどうかな?』

 

「シエルさんが…教えてくれた…」

 

『空気…いや、空を…“天”を喰え。君にも(ドラゴン)の力が眠っている』

 

「ジェラールが…背中を押してくれた…」

 

そして、幼い頃にジェラールと別れ、その後に預けられたにも関わらず、本当の家族のように接し、自分を育ててくれた化猫の宿(ケット・シェルター)。そして自分のギルドを助けるために尽力し、今もなお共に動き、戦ってくれている連合軍。そして最大の敵、ゼロに自ら戦いを挑みに行った、ナツ。

 

彼らに守られてばかりではいけない。自分にはそのための力がある。想いを力にすることを教えてくれた、自分の中の可能性を信じてくれた、守りたい人たちのために…!

 

「自分のギルドを…みんなを…今度は私が守る!『守るために戦う』!お願い!グランディーネ!!私に力を貸してっ!!」

 

そして少女は、一つ深呼吸をし、長く、長く息を吸い始めた。いや、ただ吸っているのではない。空間の中にある空気を…“天”を喰らい始めた。

 

少女は天竜。天を喰らいし時、心優しき彼女の中に眠る、竜の力がその目を覚ます。

 

 

 

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一方。8番魔水晶(ラクリマ)から一番近い位置にあると言える7番魔水晶(ラクリマ)の中で、激闘を繰り広げていたはずのその空間は、今は静まり返っていた。激しい戦闘の跡を思わせる土煙で充満しており、その中で、荒く深呼吸をしている存在が一つ。

 

「ゼーッ…ゼーッ…!こ、ここまで手こずらせるとは…!ゼーッ…ハァ…」

 

その存在は喋り浮遊する髑髏の杖・クロドア。外傷はほとんど目立っていないものの、それなりに魔力を消耗したらしく、髑髏の顔でも分かるほどの疲労が見える。しかし、息を整え終えた後、視線の先に映るその存在を見て、彼は目元と口角を吊り上げていた。

 

 

 

その先にいたのは、全身が傷や痣だらけになり、特に左の脇腹が少しえぐれるという重傷を負った状態でうつ伏せに倒れる小さな少年の姿。

 

ニルヴァーナ発射まで残り5分。7番を担当していたシエルは、外見に似つかぬ強力な使い手である杖を前に奮戦するも、とうとう力尽きてしまった。

 

「ウワーハッハッハ!!しかしやったぞ!最早小僧は立ち上がることも出来まい!!私の勝ちだー!マスター・ゼロ~!やりました!私はやりましたよーー!!」

 

勝利を確信して一人大盛り上がりのクロドアの歓声。それを耳にしながらも、シエルは己の体を動かすことが出来ずにいた。

 

正直油断があったのかもしれない。ブレインの有した知識と、ゼロから渡された力が合わさり誕生したと言ってもいいかの存在が、半端な強さを持っているわけがないことに気付けなかった。その結果がこれだ。

 

ゼロと戦うことになるのがナツとなり、自分は魔水晶(ラクリマ)を破壊すればそれでよし。そんな考えもどこかであったのだろう。普段は物事を深く考える癖があるシエルのその慢心は、この敗北につながったのかもしれない。

 

これではゼロの思惑通りだ。ナツがゼロを倒し、魔水晶(ラクリマ)を破壊できたとしても、自分がずっと倒れ伏したままではニルヴァーナは止まらない。だが、身体は動く気配がない。ゼロでもない髑髏の杖を相手に敗れ、連合軍は敗北してしまうというのか…?

 

「(ちくしょう…!本当に…ここまで、なのか…?俺は…?)」

 

意識を保つことがやっと。抗う力も徐々に消えていく。重くなってきた瞼と、遠くなってきた意識に対抗することが出来ずに、そのままシエルはその目を閉じようとしていた。

 

「(ごめん…みんな…。ごめん…兄さん…)」

 

浮かんでくるのは消耗していると思われる仲間たち。ゼロによって負傷したと聞いた兄。そして…。

 

「(ごめん…ウェンディ…)」

 

自分にとって初めて、かけがえのない感情を教えてくれた少女の姿を、脳裏に浮かべながら、少年は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私たちの…ギルドが…!』

 

『止めてみせるよ、絶対』

 

 

 

「っ!!」

 

記憶に新しいその会話を思い出し、閉じかけていた瞼を開き、薄れかけた意識を無理矢理覚醒させた。そうだ。何を諦めている。約束したじゃないか、あの子と…!!

 

「ハーハッハッハッハ!ハーッハッハ…は!?」

 

大騒ぎしながら高笑いを続けていたクロドアは、目に入ってきた光景を信じられなかった。誰が見ても再起不能なボロボロの状態にされてもなお、痛みをこらえ、身体に鞭を打ち、四肢を使ってその体を起き上がらせようとしている。

 

「ば…バカな…!?こいつ本当に…人間か…!!?」

 

最早衝撃を通り越して恐怖すら覚え始めるクロドア。吹けばまたすぐにでも倒れそうな状態になっている少年は、脚をふらつかせながらも、息を激しく繰り返しながらも、しっかりとその脚を地につけ立ち上がる。そしてその目に宿した光は、これまで以上にひどく輝いているように見える。

 

「絶対…止めてみせる…!!確かな方法が、あるんだ…!!」

 

そして彼は思い返す。自らが育ったギルドに迫る脅威を想像し、涙を流した少女と交わした約束を。

 

「ウェンディたちのギルドは、絶対にやらせない…!!例え手や足がもがれても…絶対に!やり遂げる!!!」

 

「な…な…!?」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

1番魔水晶(ラクリマ)。楽園の塔での遺恨によるいざこざがあったが、ジェラールはナツに、己に宿った最後の魔力を炎とすることで、彼に大きな力を分け与えることに成功した。ジェラールの魔力を込められた、金色に輝く“咎の炎”。同じ罪を背負いながらも、罪に慣れている妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士は、本当の罪を自覚していた。

 

それは目を逸らすこと。そして誰も信じられなくなることだと。

 

咆哮と共に攻撃を仕掛け、今までとは段違いの力を発揮して、圧倒されていた時とは打って変わって優勢に攻め立てるナツ。

 

その力を垣間見たゼロは、ナツの体から溢れるその大きな力を、ブレインの記憶から割り出していた。圧倒的な力を有した(ドラゴン)に近い実力を発揮し、己の力の何倍もの力を発する、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の最終形態。

 

 

 

『ドラゴンフォース』

 

「そういや…オレも言い忘れてたな…」

 

一転して自分を圧倒してきたナツが徐に口を開く。怪訝そうな表情でそれに反応を示せば、こちらをまっすぐに見据えながらも、ジェラールによって結果的に遮られた言葉を彼は口にする。

 

「7番に向かったあいつは…絶対に負けやしねえよ。何故なら…」

 

この時、ナツも思い出していた。涙を流す少女に歩み寄り、必ず彼女のギルドを守るために約束を決心した、あの少年を。

 

 

「あいつには、負けられねえ理由がある。何に変えても、無駄に出来ねえ約束がある…!」

 

ナツは信じてる。少年の力を、可能性を、そして彼がどれだけ、想いの力を信じているのかを。

 

「シエルなら勝てる…。だからオレも…この力で、お前に勝つ!!」

 

仲間の勝利を信じて疑わず、自分は勝利へと前に向かう。決意と覚悟、それを裏打ちする(ドラゴン)の力。それを前にしてゼロはただただ笑う。嘲笑ではない。彼を強者と認め、高ぶる己の感情と力に高揚感を得ているからである。

 

「面白い!これならオレも全力を出せそうだ、来い!(ドラゴン)の力よ!!制御不全(アンチリミッター)!発動!!」

 

「行くぞぉ!!」

 

竜の力と無の力。互いに最大限に高まった力同士が、さらなる激闘を表すようにぶつかり合う。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「くぅ~~!!憎たらしい小僧めぇ…!!」

 

あまりにも眩しすぎる。闇の世界に身をやつしている自分にとって、憎たらしいことこの上ない。そんな瞳を宿したシエルに苛立ちを隠さずに、クロドアは己の力を再び解放する。

 

「いいだろう!こうなったら望み通り、手足も何もかもバラバラにしてやる!あの世で後悔するといい!小僧がぁ!!」

 

最早一撃食らうだけでも命に関わる。今やシエルの魔力は限界。魔水晶(ラクリマ)を破壊する余裕すら存在していない。このままいけば、確実にシエルには勝ち目はないだろう。

 

 

 

「(一つだけを…除いて…!)」

 

一つ深呼吸をして、少しばかり足を開き、両手を前方へと差し出してシエルは構えた。一つだけ。自分が扱える魔法で、一つだけ、この状況を打開できる術がある。

 

「(残されたのは…この技しかない…。お願いだ、みんな…!

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなの力を、俺に分けてくれ!!)」




次回予告

「絶対にこれで決めるんだ!!」

「時間だ!みんな、頼むぜ!」

「ただ、みんなを信じて、やり抜くだけだ…!」

「諦めない…!あたしは絶対に、諦めない…!」

「皆が期待してくれている…その期待に!必ずや!応えねば!!」

「この一撃に…残された魔力をすべて込める!」

「(力が…力が私の中に漲ってくる…!)」

「全魔力解放!!」

「消えろ!ゼロの名の下に!!」

「我ら六魔将軍(オラシオンセイス)の!勝利だぁーーっ!!」

次回『RAINBOW』

「予報する…30秒後の天気は、闇に染まった暗雲、(のち)…!!」
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