FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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ついに来ましたこの時が。ニルヴァーナ編で絶対書きたかったシーンベスト3に入るこの回。ちなみに他の二つは「笑顔の魔法」と、これから書く予定である最後の最後。

多くは語りません。どうか、お楽しみください。


第62話 RAINBOW

ニルヴァーナ発射まであと5分。クロドアによって満身創痍の重体とされているシエルが倒れていたころ、各魔水晶(ラクリマ)には次々と魔導士たちがそれぞれの持ち場に到着し始めていた。そのうちの一つである4番に指定された魔水晶(ラクリマ)には、星霊魔導士のルーシィが、満足に動かせない身体を壁に寄りかからせながら進み、同行した青ネコのハッピーとともに、ようやく到着した。

 

「ルーシィ、大丈夫?」

 

目の前の部屋の中心に佇む巨大な魔水晶(ラクリマ)を目の前に、消耗が明らかな様子で呼吸を続けながらへたり込んだルーシィを案じ、ハッピーが声をかけると、彼女は悔しそうに声を絞り出しながら答え始めた。

 

「見栄とかはってる場合じゃないのに…『できない』って言えなかった…!」

 

実はもう、ルーシィには魔力が全くない状態に陥っていた。ただでさえ、ウラノ・メトリアと言う超強力な魔法を使用したことで大きく魔力を消費し、回復しきらないままニルヴァーナへと移動し、ゼロと遭遇。彼女が抱えている余裕は皆無だった。魔水晶(ラクリマ)を破壊するほどの力を持つ星霊を呼び出すことすらできそうにない。

 

それでも彼女はただただ任せるばかりでいるのが嫌だった。自分も、ウェンディのギルドを守るために何かをしたい。こんなところで倒れていられない。見上げればすぐそこに存在する魔水晶(ラクリマ)を、体当たりしてでも壊さなきゃ。

 

「諦めない…!あたしは絶対に、諦めない…!」

 

残されている力がほとんど無くても、今持っている力で出来る限りのことをしてでも、諦めることだけはしたくない。誰かの力になりたいというルーシィの想いは…。

 

 

 

「「時にはその想いが力になるんだよ」」

 

とある双子を動かすほどの力となって、彼女の前に現れた。水色の肌をした人形のような外見をした双子の小人。双子宮の星霊・ジェミニが、星霊界から所有者(オーナー)とは違う星霊魔導士の為にルーシィの前に現れたのだ。

 

「あの時、聞いたからね」

「君とあの子の想いを聞いたからね」

 

「ジェミニ…!?どうしてあんたたちがここに…!?」

 

ただただ驚いてジェミニにそう尋ねるルーシィ。すると彼らの姿が煙に包まれ、すぐさま晴れると同時に、エンジェルと対峙した時と同じ状態のルーシィの姿となっていた。対象の人物の姿形をそのままコピーすることが出来る能力を持つジェミニ。目の前でルーシィの姿へと変身したジェミニに呆気にとられるルーシィとハッピーに、ジェミニは笑みを向けながら告げた。

 

「僕たちが、君の意思になる。5分後に、これを壊せばいいんだね?」

 

「ありがとう!」

 

想いは届いた。彼女の姿となって、彼女の力となって、彼女の想いを受け継ぎ、それと共にする。ルーシィとハッピーが涙を浮かべながら喜びを表しているのを背景に、ジェミニは笑みを浮かべながら頭の中に刻まれたタイマーに意識を向け、魔力の集中を始めた。

 

 

 

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残り時間は3分を切った。1番ではきっとナツとゼロの激闘はまだ続いているだろうし、各々も魔水晶(ラクリマ)の破壊を行うためにそれぞれの準備をしていることだろう。そう予測を立てながら、シエルは仁王立ちをしながら前方に突き出した手に魔力を集中させている。

 

「今更何かしようとしたところで無駄よ!常闇回旋曲(ダークロンド)!!」

 

叩きのめしても諦めようとしない少年に苛立ちを向けながら、クロドアが開いた口から黒緑の波動を発射。無防備の少年にそれが命中すると、シエルは苦悶の声を上げながら数歩後ずさってしまう。このまま倒れるか?とクロドアが期待の表情で少年を見下ろしていたが、彼の期待に応えず、シエルはそのまま踏みとどまり、同じ構えを行った。

 

「くっ…!このガキめ…!!」

 

苛立ちがさらに募り、それが声にも表情にも分かり辛いが浮かび上がる。だがシエルはそこに意識を向けることはない。これ以上クロドアの相手をしている余裕はないと、既に判断しているのだ。考えるべきは魔水晶(ラクリマ)の破壊のみ。

 

「(集中するんだ…!少しでも多く、みんなから、集めるために…!)」

 

既にシエルの魔力は限界寸前。これまでなら日光浴(サンライズ)を使用して自分の魔力を回復させることで繋ぎ止めることが出来た。しかし、残り時間を回復に費やしても満足な量は確保できない。その上クロドアはそれを食い止めようと邪魔してくるだろう。

 

だがシエルには、もう一つ状況を打破する方法を考えついていた。

 

その根拠は、ヒビキからの念話で伝えられたニルヴァーナに関する情報の一つ。八つの魔水晶(ラクリマ)は同時に壊さなければ、破損した箇所を別の魔水晶(ラクリマ)が修復してしまう。つまり、それぞれの魔水晶(ラクリマ)はそれぞれの脚とは別に、魔水晶(ラクリマ)同士でも魔力の経由で繋がっていると言うことだ。

 

ニルヴァーナは地面から吸収した魔力を、主砲に集中させて発射させることができる。全ての魔水晶(ラクリマ)が魔力を経由する繋がりを持っていて、それを主砲に集めている仕組みであることがわかる。

 

なら、魔水晶(ラクリマ)が存在する空間に漂う魔力は?微力とはいえ、それも吸収し各魔水晶(ラクリマ)に経由する魔力となっていたとしたら?

 

「(今俺の中にある魔力を基盤に…他の魔水晶(ラクリマ)を破壊するみんなの魔力を、あの魔水晶(ラクリマ)を通して少しずつ吸収する…!)」

 

魔導士が魔法を使った際に消費した魔力は、空気中に存在するエーテルナノを自動で吸収し、空いた器が満たされるまで供給されるのが、この世界の魔導士の身体の仕組みだ。

 

身体の本能に刻まれた機能のためそれを操作できる魔導士はほとんどいない。シエルがそれを実行できるようになったのは、天候魔法(ウェザーズ)の習得をしている際に、今から発動しようとしている技を練習してからのことだ。

 

この魔法の元となったあの気候を初めて見た時のことを、シエルは今でも思い出すことが出来る。

 

 

 

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まだ魔法を覚えようとして、様々な魔法の習得に躍起になっていた頃。マグノリアに降り続いていた豪雨が上がり、暗い雲の隙間から明るい日差しが差し込んできた光景を、ギルドのほとんどの者たちがそれを見てはしゃぐ様子とともに見ながら、シエルはただ呆然とそれを眺めていた。

 

『どうした、シエル?』

 

『兄さん。…僕、初めて見たよ…!今まで、本の中でしか知らなかった…!』

 

それは身体の調子が良くなって、比較的自由に動けるようになってから己の目で見ることが出来るようになった光景の一つ。初めて見た時はまさか本当に見られるとは思わなかったとまで言える。

 

『これから何度も見ることが出来るさ。晴れているのに雨が降ったり、冬になれば一面が雪に包まれたり、ここよりも更に外に出れば、雲の上に城が立っているような景色だって見れる』

 

兄から聞いたその風景に、更に目が輝くのを自分で感じることが出来た。その光景たちも見るのが楽しみだが、今は目の前に見えるものだ。雨が降り続き、そこから雲が晴れだして、日の光が当たることで初めて見れる。そんな“奇跡”のような光景。

 

 

 

あの7色の線で彩られたようなアーチのような天上の橋がかかる、選ばれた時間と場所でしか見れないような光景を…きっと自分は一生忘れない。

 

 

 

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あの時の、あの風景の様に、この技は奇跡をもたらすような技だ。消費する魔力も勿論多いが、それに相応しい効果を発揮することは確実にわかる。今のシエルでは扱えずとも、自分と共に戦っている仲間たちの力を合わせれば…!

 

「(頼む、みんな…!俺に力を…みんなと一緒に守れる力を、与えてくれ…!!)」

 

徐々にカウントダウンは過ぎていく。もうすぐ1分を切ろうとしているところだ。だが、それが逆にチャンスでもある。時間が近づいてきている、と言うことは各魔水晶(ラクリマ)を担当している各々も、それぞれの準備を始めようとしているところだろう。

 

少年は願う。今この窮地を脱するための、奇跡をもたらす力を…!

 

 

 

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2番魔水晶(ラクリマ)。そこを担当するのは黒い短髪の垂れ目の青年。晒した上半身は傷だらけではあるが、魔水晶(ラクリマ)を見上げる視線と、地につけている脚はしっかりとしていて、頭に浮かんでいるタイマーの時間と己の魔力を計算しながら、その時を待っている。

 

「そろそろか…」

 

そして、1分を切った頃、時間と合わせて最大の威力をぶつけるために、右の拳と左の掌を合わせ、凍てつく魔力をその手に集中させていく。

 

「失敗は出来ねえ…必ず成功させてやる…!」

 

クールな印象を与える佇まいと魔法。しかしその心の内は確かな熱さを秘めている青年、グレイ。彼が扱う冷たくも熱い氷の魔力が、空間に漂い出す。

 

その色は…青。

 

 

 

3番魔水晶(ラクリマ)。そこを担当するのは水色がかった銀色の長い髪をうなじあたりで縛って垂らした青年。天候を扱う少年を弟に持ち、神に愛された彼はその力に慢心せず、この場にいない仲間たちの身を、特に弟を案じながらも、彼らを信じて持ち場から離れずにいた。

 

「換装…グングニル…!」

 

対象の全てを貫く強大な紫の槍。右手にしっかりと握りしめるように構えながらその時を待ち、一点集中という言葉を体現するように魔水晶(ラクリマ)を見据えている。

 

「不安は拭えていない。けどここで俺が離れれば、この作戦は達成できない…」

 

先程の胸騒ぎから抱えていた不安は結局払拭は出来なかった。しかし、ここで自分がやるべきことを見失うわけにもいかない。今自分が出来るのは、もはや一つしか残されていなかった。

 

「ヒビキが託した希望を、俺たちが成し遂げる…!ただ、みんなを信じて、やり抜くだけだ…!」

 

覚悟を決め、己がなすべきことを成し遂げる。弟を、仲間を信頼し託すこと、それもまた信じるということの一つであると実感した青年・ペルセウスに応えた神の槍は、内側に抑えきれないほどの魔力を空間の中に発していた。

 

その色は…紫。

 

 

 

4番魔水晶(ラクリマ)。そこを担当するのは金色の長い髪を、今は側頭部から二つ結びをしている少女。魔力の枯渇したルーシィは、彼女の思いに応えて現れたジェミニと共に、魔水晶(ラクリマ)の破壊を試みる。

 

「「開け、金牛宮の扉!タウロス!!」」

 

共に口上を述べ、呼びかけに応じたパワー型の星霊であるホルスタイン柄の筋骨隆々の牛が自前の斧を意気揚々と構える。

 

「「頼んだからね、タウロス!!」」

 

MO()ー!お任せあれ、二人のナイスバディ!!」

 

同じ姿の少女二人に託された星霊一の力自慢。よりやる気を漲らせて構えるタウロスと、歓喜にはしゃぐ青ネコの声を聞きながら、ルーシィは心の中で懇願する。成功してほしいと願う。守り切ることを願う。その想いがジェミニが発した己の魔力と混ざり、さらに力と変わる。

 

その色は…黄色。

 

 

 

5番魔水晶(ラクリマ)。作戦が開始してしばらく、闇ギルドの者たちによって捕らえられ、手足を棒と一緒に縛られたまましばらく身動きが取れなかった、尖ったオレンジ色の髪をした小太りの男。だが縛られた状態のままでも懸命に体に鞭を撃って持ち場に向かい、先程ついに到着。そして、ここから彼の真骨頂が披露されることとなる。

 

「見せてやるぞ…我が力の香り(パルファム)を…!!」

 

ホルダーから試験官の一つを器用に取り出し、己の鼻の近くでコルクの蓋を取る。そしてその香りを鼻から吸収すると、何と一夜の身体が見る見るうちに盛り上がり、だらしないように見えた体が見違えるほどの筋骨隆々の体へと大変貌を遂げる。

 

「皆が期待してくれている…その期待に!必ずや!応えねば!!」

 

今や動ける魔導士はギリギリ。その中で自分にも白羽の矢が立てられた。普段は己をイケメンと自称し、どこか敬遠されがちな言動が目立つ彼ではあるが、その根底は青い天馬(ブルーペガサス)と言うギルドのために、その力を遺憾なく披露、発揮させようと、自分と志を共にする仲間たちの力になるため、想いに応えるために尽力する。

 

外見ではない。彼の心は、間違いなくイケメンそのものだ。

 

青い天馬(ブルーペガサス)の一夜!真の力を!今こそ見せる~!!!」

 

服の中に収まりきらなくなった筋肉を震わせ、晒された上半身に力を込めながら気合を入れる。同時に、彼の香り(パルファム)も彼の気合と共にその力をさらに発揮しようとする。

 

その色は…緑。

 

 

 

6番魔水晶(ラクリマ)。担当するのは、言わずと知れた妖精女王(ティターニア)。換装魔法で身体を光に包み、攻撃力を倍加させる黒羽の鎧をその身に纏い、その時を待つ。てっぺんで縛られた緋色の長い髪をたなびかせながら、彼女もまた己の魔力を高めていく。

 

「この一撃に…残された魔力をすべて込める!」

 

確実に一撃で破壊することが出来るだろう。そして、他の者たちも、ゼロと戦っているナツを、信じて力を奮う事が、今自分にできる唯一のこと。

 

「頼むぞ、ナツ…!」

 

誰よりも強くあろうと、そして信頼を心掛ける気丈なる女騎士。エルザが高ぶらせる魔力が、彼女の緋色の髪を揺らす風の様にゆらゆらと空間を支配していく。

 

その色は…赤。

 

 

 

8番魔水晶(ラクリマ)。場にいるのは幼い藍色の長い髪の少女。憧れの少年に教えてもらった想い、それを実現させるよう背中を押してくれた恩人。二人の期待に応えるために“天”を喰らい、その力を高めていく。

 

「ウェンディ…」

 

傍らでそれを見守るのは、彼女の相棒である白ネコのシャルル。今ウェンディの周りには、彼女が喰らいその力の証とも言えるような純白のそよ風が包むように吹きすさび、少女の髪と衣服を揺らす。しかし、まだ足りない。もっと集中して、少女は天を喰らい続ける。

 

「(力が…力が私の中に漲ってくる…!)」

 

この調子ならば。今まで戦うことを避けてきた優しい少女が、初めて破壊を行う。だがそれは何かを傷つけるためじゃない。自分の守りたいものを守るために、戦う為の力。

 

「(グランディーネ…力を貸して…!!)」

 

自分を育ててくれた母代わりの竜に想いを馳せながら、彼女のような力を守るために振るう心。彼女が喰らう天の力は魔水晶(ラクリマ)にも徐々に伝わっていく。

 

その色は…藍色。

 

 

 

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そして1番魔水晶(ラクリマ)が在する脚の付け根部分では、魔水晶(ラクリマ)がある空間の下の階層にまで激闘が続いており、二人の人物の戦いによって辺りの岩壁が破壊された跡が目立つ。その空間の一室で、仰向けになって倒れた状態でいるナツを、身体に時折感じる激痛をまるで気に留めない様子で、首を鳴らしながら仁王立ちで見下ろすゼロの姿があった。

 

「オレは六魔将軍(オラシオンセイス)のマスター・ゼロ。どこか一ギルドのたかが兵隊とは格が違う。」

 

二人の力はほぼ互角だった。ドラゴンフォースの力はゼロにも匹敵するほどのパワーを確かに誇り、制御不全(アンチリミッター)を発動させたことでリミッターなしの力を振るうゼロを相手にしても拮抗するほどに。現にゼロの方も至るところにナツによってつけられた傷が存在している。

 

だがしかし、ゼロには一歩及ばなかった。己に課したリスクも顧みず遠慮なしに攻め立ててくるゼロの猛攻に次第にナツは押されていった。かつてナツが振るった力は楽園の塔にてジェラールさえも圧倒するほどのものだったのに。バラム同盟の一角、そのギルドのマスター。ゼロの力には、やはり及ばないのか…?

 

「てめえごときゴミが、一人で相手できる訳がねーだろうが」

 

しかし、ゼロのその言葉を聞きながら、ナツは満身創痍の体を起こし、立ち上がろうと踏ん張っている。激しく息を切らしながら、四肢に力を込めてその身を起き上がらせようと力を入れている。

 

「一人じゃねえ…伝わってくるんだ…!」

 

「ん?」

 

「みんなの声…みんなの気持ち…オレ一人の力じゃねえ……みんなの想いが、オレを支えて…オレを、今ここに立たせている!!」

 

ナツには聞こえてくる。自分を信じて、それぞれの力で困難に立ち向かおうとする仲間の声が。自分たちにすべてを託して、ニルヴァーナを止めると信じてくれる仲間の気持ちが。自分と共に戦い、託してくれる仲間の想いが、伝わってくる。思い出せる。

 

エルザの毒を治すために自分とシエルを先に進ませ、一人残ったグレイ。

 

突然の願いを快く引き受け、エルザを治療してくれたウェンディ。

 

イカダに揺られて動けない自分を懸命に助けようとしてくれたルーシィ。

 

ニルヴァーナを止めようと、危険な“天の怒り”を使って王の間を破壊し落ちてったシエル。

 

毒にやられながらもコブラを倒すその時まで自分を抱えて飛んでくれたハッピー。

 

ブレインに嵌められ全滅しそうだったところを、その身をもって自分たちを庇ってくれたジュラ。

 

ゼロの危険性をいち早く察知し、重体のジュラを自分たちに任せて一人足止めを買って出たペルセウス。

 

最後の力を振り絞って初撃から化猫の宿(ケット・シェルター)を守り、ニルヴァーナを止めるための方法を自分たちに託したヒビキたち。

 

そして、全てを自分と言う希望に託し、今この力を発現させてくれた、ジェラール。

 

「仲間の…仲間の力が!!オレの体中を巡っているんだ!!!」

 

今ここにいる自分は、仲間の手によって導かれた自分。それは確かな大きな力となり、彼の炎のように燃える心は、ジェラールから託された金色の炎と混じり、彼の迸る炎と体を金色に輝かせる。

 

ナツ・ドラグニル。炎の竜の力を開放した彼の膨大な魔力は、彼が壊すべき1番魔水晶(ラクリマ)にも届き、ある魔水晶(ラクリマ)の元へと自然に流れ込んでいく。

 

 

彼が扱う赤き炎。そこにジェラールの咎の炎による金色が混じり、色を変える。

 

 

 

その色は…橙。

 

 

 

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「(来た!!)」

 

こことは違う7つの魔水晶(ラクリマ)から集まった、彼らが扱うそれぞれの魔力。一人一人の異なる色の魔力が、シエルが練り上げている魔力に集い、一つとなっていく。

 

集中するために閉じられた目をカッと開くと、前方に掲げていた両手に魔力が可視化され、それぞれの7つの色が混じりあったそれが、シエルの体を螺旋状に巡り始める。

 

「んなっ!?な、何だ!?何が起こっている!!?」

 

先程まで死にかけ同然の消耗を見せていた少年からとてつもないエネルギーを垣間見たことで、何かを仕掛けてきたら邪魔してやろうぐらいの気持ちでいたクロドアは、目玉が抜けた目の部分を思いっきり見開いている。

 

対してシエルは自分の狙いが上手くいったことに対する喜びを片隅に一度置いてから、このチャンスを逃すまいと更に集中力を高める。前に突き出していた両手をゆっくりと左右に動かし、自分の周りを巡る7色の魔力をそれぞれにまた集わせようと動かす。

 

「こ、これはいかん…!今すぐにでも止めなければ…!喰らえ、常闇奇想曲(ダークカプリチオ)!!」

 

さすがに危険だと断じたクロドアがシエルに向けて螺旋の波動を発射する。しかし、彼を守るように巡る7色の魔力にそれが触れると、あっさりと波動は消滅してしまった。

 

「ええっ!?どういうことだぁ!?」

 

全くもって予想外の出来事にクロドアの動揺は止まらない。だが、先程の光景を思い返すと、弾かれたことで消えたというより、あの魔力の中に吸い寄せられたと見た方がしっくりくる光景だった。つまり、今シエルの邪魔をしようと魔法を撃てば、それは逆にシエルの力として吸収されてしまうということだろう。

 

「(なんて厄介な魔法を…!)」

 

こんなとんでもない魔法を放たれたら自分も魔水晶(ラクリマ)も確実にもたない。どうすれば阻止できるか、唸りながら頭をひねると、彼は妙案を思いついた。そしてすぐに実行する。シエルの後方。つまり、魔水晶(ラクリマ)の正反対の向きに己のポジションを変えて、シエルに向けて叫び出した。

 

「撃てるものなら撃ってみろー!私はここだぞー!さ~こっちに向いて撃ってくるがいい!!」

 

要は魔水晶(ラクリマ)が壊されなければこちらの勝ちだ。シエルの攻撃が魔水晶(ラクリマ)から外れればもう一度それを撃てる余裕はなくなる。それを狙ってシエルを煽るクロドアだったが…。

 

「……あの~…聞いてます、坊ちゃん…?」

 

クロドアの声が耳に入っていないのか、あるいは聞こえているけど無視しているのか、全く動じることなくシエルの視線は魔水晶(ラクリマ)に固定されている。

 

「(あ…駄目だ…。こいつ、もうあれを壊すことにしか意識向けてねぇ…!!)」

 

まずい、非常にまずい。このまま放っておけば確実にシエルは魔水晶(ラクリマ)を破壊し、自分もその影響で同じく倒されてしまうだろう。もしもそうなれば、今度こそマスター・ゼロによって破壊されることは明白。嬉々としたような、狂ったような笑いを上げながら自分を壊そうとしてくるゼロの姿を脳裏に浮かべ、クロドアはこれでもかと青ざめる。皮膚がないから青くなるはずもないが。

 

そんな葛藤を続けていると、シエルの周りを巡っていた7色の魔力がすべて両手に集まり、辺りをそれぞれの色に光で染めていく。凄まじいほどの魔力が込められていると実感する。シエル自身も想像以上。そして確信していた。これなら行けると。

 

「予報する…30秒後の天気は、闇に染まった暗雲、(のち)…!!」

 

頭に浮かんだタイマーから残り時間がもう僅かだと教えられる。そして一切反応を示さなかった少年の声を聞いたクロドアが我に返り、シエルの方へと目を向けて反応する。

 

「光差し込む…希望の虹だ…!!」

 

予報は告げられた。後はその通りに天気を変動させる。それが天候魔法(ウェザーズ)を扱う自分の責務。両掌を合わせるように胸の前に運び、二つあった虹の魔力を一つに再び合わせていく。

 

「架かれ、『輝虹(レインボー)』!そして…気象転纏(スタイルチェンジ)…!!」

 

言葉に従うように前方で練り上げられた虹色の魔力が、シエルが差し出した右手に集いだす。膨大な量だった魔力が徐々に小さく…いや、密度が上がって集中していく。

 

「何が予報だ!そんなもの大外れにしてくれるわ!!」

 

対してクロドアは怖気づくことなく自らの立ち位置を再び魔水晶(ラクリマ)の前へと移す。そして大きく口を開けると、今までよりもさらに多くの魔力を集中させていく。

 

「こうなったら真っ向から迎え撃つ!私に残された力全部をもって貴様を打ち倒してくれるわ!!」

 

どうせこのまま失敗すれば、どのみちゼロによって破壊されるのだ。だったらゼロから授かったすべての力を放出して、シエルの大技を打ち砕く。

 

「みんなから分けてもらったこの力…絶対無駄にするわけにいかない…!!」

 

虹の輝きを凝縮した右手を握り締め、その魔力から感じる仲間たちの想いが、シエルの体にも伝わってくる。さらに迫りくる時間を見比べながら、シエルは右腕と右足を後方へと引き、拳を突き出す構えをとった。

 

輝虹(レインボー)』。奇跡のような光景とも言える虹をヒントに編み出したこの技。その特性はずばり、奇跡を起こせる自由性。7色に途中で色が変化する、七変化ともいえる虹の特徴から、その効果もまさにシエルのさじ加減によって大きく変わるのだ。

 

ある時はどんな攻撃も通さぬ結界の魔法。

ある時はどんなケガや病気も一瞬で治す超回復。

ある時は対象となる者たちの身体能力を一時、爆発的に上昇させる。

またある時は天に架かる橋の外見通り、空中で本当に足場にすることも。

 

そして今回発動した輝虹(レインボー)の特性。それは勿論、膨大なエネルギーを用いた、あらゆるものを破壊する特性。それが今、シエルの右拳に集約している。

 

「絶対にこれで決めるんだ!!」

 

両者意味合いは違えど秘められた覚悟は相当。残り時間15秒。最後の攻防が始まる。

 

 

 

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そして時間が迫った頃、各々の場所でもその動きを見せていた。

 

「時間だ!みんな、頼むぜ!氷雪砲(アイスキャノン)!!」

 

グレイが造り上げた肩に担ぐ大きなバズーカ砲から、氷の魔力の砲弾が撃ち出され、2番魔水晶(ラクリマ)に着弾。見事に粉砕する。

 

 

 

「貫け!グングニル!!」

 

ペルセウスが紫の槍を勢いよく投擲すると、高速で回転しながら迷うことなく3番魔水晶(ラクリマ)へと飛んでいく。そして、何の抵抗もなく貫通し、そこを起点にひび割れて、破裂。

 

 

 

『行っけーーーっ!!』

MO()ーー烈!!」

 

二人のルーシィ、そしてハッピーからの声掛けに応えたタウロスが斧を振り回しながら大きく跳躍。そして持ち前のパワーで4番魔水晶(ラクリマ)に叩きつければ、勢いよく崩壊する。

 

 

 

「キラメキ!無限ダーイ!!」

 

横に回転しながら飛翔し、全開の力の香り(パルファム)で勢いよく右拳を振りかぶって5番魔水晶(ラクリマ)を殴りつける一夜。サイズから壊せるか不安も否めないが問題はなく、殴った部分から罅が入り見事に倒壊。

 

 

 

「うおおおおおっ!!『黒羽・月閃』!!」

 

威力を倍増させた黒羽の鎧によるエルザの一閃。数多の強敵を相手にしてきたエルザにとって6番魔水晶(ラクリマ)を壊すことは造作もなく、真っ二つに切断されてそのまま粉々に砕け散った。

 

 

 

「『天竜の咆哮』ーッ!!!」

 

覚醒した天竜による初めての攻撃。それは彼女の膨らませた頬から口を通って発せられる白い竜巻。小さい体から発したとは思えない強大な威力の咆哮は、見事8番魔水晶(ラクリマ)を破壊することに成功する。

 

 

 

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「ううおおおおおおおっ!!滅竜奥義…紅蓮爆炎刃!!!」

 

金色の焔の刃を彷彿させるほどの炎を纏いながらゼロに迫るナツ。しかし、ゼロに焦りの表情はなく、両腕を時計回りの方向で廻しながら黒緑の魔力を集中させていく。螺旋を描くようにうねった魔力を纏いながら離していた両手を合わせようと近づける。

 

「我が前にて歴史は終わり…無の創世記が幕を開ける…」

 

発動したタイミングはともに同じ。迫りくるナツ。魔力を高めるゼロ。先にその攻撃を当てるに至ったのは…。

 

 

 

「『ジェネシス・ゼロ』!!」

 

ゼロの方だった。貯めこんでいた黒緑の魔力は技の名を告げた瞬間その色を禍々しい紫へと一瞬で変貌する。そしてその魔力から、無数の同じ色の手が伸び始める。

 

「開け!鬼哭の門!!」

 

その手の出所は、手と同じ数の無数の影。人としての顔を思わせる目と口は見えるものの、皆一様に苦しげな表情で、迫りくるナツへとその手を伸ばし、苦痛に歪むような声を発している。その様相はまるで怨霊…。

 

「無の旅人よ。その者の魂を、記憶を、存在を喰い尽くせ!!」

 

ゼロの言葉に従うように、無数の紫の怨霊たちがナツ目掛けて襲い掛かっていく。その量はナツの視界をほとんど埋め尽くすほどに多く、回避することは絶対に不可能であることを理解させられる。

 

「消えろ!ゼロの名の下に!!」

 

伸ばされた手によって体を捕まえられ、押し潰され、口で噛まれ、ナツは苦悶の声を上げながら必死に抵抗しようとするも、あまりにも多すぎる怨霊たちの前に成すすべなく流されていく。怨霊の波にのまれ、とうとうその姿を埋め尽くされ、ゼロが開いた鬼哭の門へと押し流されていく。

 

 

 

そして、最早声も届かないまま、ナツはその空間から完全に姿を消した…。

 

「これでお前も、無の世界の住人だ。終わったな」

 

次にこの技を使う時は、ナツも無の旅人の一人として立ちふさがる存在を喰い尽くすことになるだろう。それがどれなのかゼロに知る術はないが、これで光は完全に終わりを迎えたことになる。

 

 

 

 

 

だが、門が閉じたと思われた空間に罅が入り、そこから金色の光が漏れ始めた。その勢いは一瞬で増幅していき、目を見開いて状況を理解するときには、そこで大爆発が発生した。

 

「な、何だ!?」

 

何が起こったのか。今までこの最強の技を使って起きた状況の中で、一切心当たりがない現象。そして目の前に映ったのは、とても信じがたい光景だった。無の旅人である怨霊たちが、ナツが発する金色の炎によって苦しみ、次々と体を黒く焦がされて消滅していく光景。

 

先程までナツを捕らえようと腕を伸ばしていた怨霊たちが、ただただ苦しみもがきながら消えていく。まさか、自分の最強の魔法が燃やされて無効化されるなど、今目にしている光景であるにも関わらず信じがたい出来事が起こっている。

 

「うおおおおおらあああああああっ!!!!」

 

燃え盛る金色の炎。それを発しながら再び自分の方へと走りかけてくるナツの姿を見た時、ゼロは再び目を疑った。

 

 

彼の傍らに、(ドラゴン)がいたのだ。

彼が吠えると同時に咆哮を上げ、こちらに向けて明確な敵意を感じさせる、彼の何倍もの体躯を持った赤く強大な竜が。

 

─────(ドラゴン)を倒す為に…(ドラゴン)と同じ力を身につけた魔導士…

 

─────これが本物の、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)!!

 

咆哮を終え、ナツは再びゼロの元へと迫ってくる。その姿を確認しながらゼロはすぐさま反撃に移った。最大の技を無効化されたのには驚いたが、先程までの攻撃を受けてナツは今限界のはず。魔力が続く限り魔法を打ち込めば確実に勝てるはずだ。そう考えてすぐさま彼は魔力を練り上げようと腕を構えた。

 

 

「ぐっ!!?」

 

だが、瞬間突如己の体に激痛が走り、貯めようと考えていた魔力が霧散してしまう。ナツの攻撃はまだ届いていない。制御不全(アンチリミッター)の反動にしては、全身を襲うような感覚とは違い、胸の部分でひと際強い痛みを感じる。

 

「(まさか…あの時の…!!)」

 

ゼロは思い出した。激痛が走った胸の部分は、ブレインの時も、そしてゼロとして復活した時も同じ男の同じ剣によって斬られた箇所であることを。

 

こちらを睨みつける堕天使の姿を思い出して歯ぎしりを一つ起こしているうちに、ナツの拳はもうすぐそこまで迫っていた。

 

「しまっ……っ!!」

 

全力の拳によって顔を大きく殴り飛ばされる。そして発生した大きな隙。残り時間も見据えたナツは最後の最後、その強大な力を遺憾なく発揮させる。

 

「全魔力解放!!滅竜奥義…“不知火型”…!!!」

 

身体に纏う炎は、今までの中でも比にならぬほど多く、溢れ出る熱量も、今までのどの炎よりも熱く、巡り集った炎は、彼の背から生える炎の翼を思わせ、力を溜め込んだ足が彼の跳躍をさらに勢いよく増加させる。

 

 

「『紅蓮鳳凰劍』!!!!」

 

その跳躍は炎の出力で更に勢いがつき、そしてがら空きとなったゼロの腹部へと頭から炸裂する。その様相はまるで、天高く舞い上がろうとしている燃え盛る鳳凰を模した、巨大な(つるぎ)

 

その勢いは衰えず、空間の天井を次々と打ち破りながら突き進んでいく。

 

ゼロが発する苦悶の声、ナツが発する雄たけび。二つの正反対の声があたりに響きながらも、ナツはゼロと共に自らが担当している1番魔水晶(ラクリマ)へとまっすぐ突き進んでいく。

 

 

 

そして衝突。ゼロを挟む形で魔水晶(ラクリマ)に撃ち込まれた最大の技は、それと共に見事ゼロを撃破することに成功した。

 

「(ナツ…やはり期待以上の男だった…!)」

 

その瞬間を垣間見たジェラールは、その身を横たわらせたまま、笑みを浮かべて彼を見ていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「はぁあああああ…!!!」

 

そして右手に虹色の光を密集させて狙いを定める少年と、黒緑と赤い魔力を口に溜め込んでいる杖の激突も終幕が迫っていた。残り時間はもう数えるほど。互いに最後の一撃にすべての力を込めようとしている。

 

「受けるがいい小僧!これが私の、最大、最高、最強のォ…!!常闇奇想曲(ダークカプリチオ)叫声(スクリーム)!!」

 

発動する最大威力の螺旋の魔力。それを視界に入れながらも、シエルが狙うべきはただ一つ。ニルヴァーナを動かしている動力源、ただ一つ。

 

「闇に染まった雲の空…それを引き裂き、光をもたらせ…この一撃は、希望の明日へと繋がる未来への架け橋…!!」

 

右手に纏った虹の光が今度は勢いを強め、振りかぶったシエルの意思に従うように一気にその勢力を放出させようと動き出す。迫りくる螺旋の波動に対して、少年は思い切りその右拳を振るった。

 

 

─────残り5秒

 

 

「『纏虹拳(セブンスストライク)』!!!!」

 

勢いよく差し出された拳から、虹色の波動が放出される。それは徐々に形を変え、虹の輝きで巨大な拳を形作る。闇の一撃と光の一撃。それを象徴するかのような技同士が、正面からぶつかり合う。

 

「ぬおおおおおおおっ!!」

「うおおおおあああっ!!」

 

威力は拮抗。どちらも限界まで振り絞った一撃ゆえか。しかし、徐々にシエルが作り出した虹色に輝く拳が押し込まれようとしていく。

 

 

 

─────4

 

 

それを実感したクロドアは、一気に気分を舞い上げ、大声で笑い始めた。

 

「フハハハハハ!!このまま貴様を仕留められずとも、この状態を保てばニルヴァーナ発射は止められぬ!そうなれば、私の勝ちだ!貴様らの負けだ!我ら六魔将軍(オラシオンセイス)の!勝利だぁーーっ!!」

 

さらに勢いは強くなる。一瞬、虹の拳を発し続けるシエルの表情に苦悶が過った。

 

 

─────3

 

 

「っ!!」

 

だが、再び足に力を入れ、右の肩、拳にもより力を入れる。負けるわけにはいかない。ここで押し負けては、みんなからもらった力が無駄になる。そう、自分は一人じゃない。みんなと共に戦い、今みんなと共に、ここに立っているんだ!

 

 

─────2

 

 

『行っけぇーーーーーっ!!!』

 

 

少年の姿に、ここにはいない7人の姿が順々に重なり、その力をまた瞬間的に増幅させる。そしてより高く突き出された拳に呼応するように、虹の拳の勢いも強くなり、一気にクロドアが発していた螺旋の波動を飲み込んで、虹色の波動となって彼に迫る。

 

「んなっ!?そ、そんな馬鹿な、あ、あああああああっ!!?」

 

そしてそのまま遮ることも出来ず、大きく開かれた髑髏の口へと虹の波動が襲い掛かり、そこから彼の顔を真っ二つに叩き割った。

 

 

─────1

 

 

だが虹の波動はそれでも止まらない。7色の線が合わさって螺旋を描くように進んでいた波動はクロドアを起点に拡散。それぞれ7本7色の拳をかたどった波動へと変化し、7番魔水晶(ラクリマ)へと囲むようにして迫っていく。

 

そして、シエル側から見て右側に上から青、紫、黄色が、左側に下から緑、赤、藍色の拳が順番に突き刺さる。そして数瞬遅れて、6つの拳のちょうど中間の位置に、橙の拳が突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

─────0

 

 

 

膨大なエネルギーを一瞬のうちに内側から放出された魔水晶(ラクリマ)が、原形を留めることが出来ずに内側から爆発。その勢いで魔水晶(ラクリマ)は四散。ジャストのタイミングで魔水晶(ラクリマ)の破壊に成功したのだった。

 

「そ、そんなぁ…魔水晶(ラクリマ)が…壊された…!!」

 

その光景を、顔上半分のみに存在する目で確認したクロドアは悲しみの表情を浮かべながら、その顔をぐずぐずと崩していく。

 

「まさか私が…7人目の六魔将軍(オラシオンセイス)であるこの私が…マスター・ゼロから、直々にお力をいただいたこの…私がぁ…!あんな子供なんかにぃ…!!」

 

折角いただいたチャンスをふいにされただけでなく、まだ年端もいかない少年であるシエルに敗れたという現実。それに深く悲しみ、嘆きながら、クロドアは重力に従って落ちていく頭が地に落ちる間もなく崩れていき、そしてそのまま消滅していった。

 

「はあっ…はっ…っ…!ど、どうなった…?」

 

もしも全員が成功していれば、今自分が破壊した魔水晶(ラクリマ)が修復されることはない。魔力も体力も集中力も使い果たした。微かに残された気力だけで、シエルは先程魔水晶(ラクリマ)が存在していた場所へと首を動かして目を向ける。

 

 

 

轟音と地響きが辺りに響く中、破壊された魔水晶(ラクリマ)は元に戻る様子がない。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

各々破壊を請け負った魔導士たちも、轟音と地響きを起こしているニルヴァーナと、いつまでも修復しない魔水晶(ラクリマ)を確認して、作戦が成功したことを確信していた。

 

「やったのか?みんな、同時に…」

 

「…よかった、杞憂だったか…」

 

「「やったーーっ!!」」

「「MO()ー烈!!」」

 

「エルザさん、みんな…グッジョブ…!」

 

「ナツ…やったか」

 

喜びを噛みしめる者、安堵する者、実感があまり湧かない者。多様の反応を示す魔導士たちだが、自分たちのギルドが守られたことで、涙を浮かべて喜ぶのは化猫の宿(ケット・シェルター)から来た二人だ。

 

「止まった!ウェンディ、止まったわよ!!」

 

「うん!…ニルヴァーナが…止まった…!!」

 

一方で、1番魔水晶(ラクリマ)を破壊することに成功したナツもまた、自分が破壊した魔水晶(ラクリマ)が修復されないことを確認した。

 

それを見て確信した。全員が成功したことを。そして、もう一つの事実を。

 

「へへっ…」

 

「ナツ…?」

 

いつまでも直る様子のない魔水晶(ラクリマ)を見て、突如笑ったナツに疑問を感じたジェラールが彼の名を呼んで尋ねると、表情を変えないまま「そっか…」と呟き、視線をさらに上へと向ける。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

魔水晶(ラクリマ)が、直らない…ってことは…!」

 

そして同時刻、シエルも確信した。目の前にあったものが戻らない。全員が破壊することに成功したことを意味するその現象。そして、もう一つの事実に、シエルは気づいた。

 

 

 

 

「勝ったんだな、ナツ!!」

「勝ったんだな、シエル!!」

 

遠くに離れた別々の場所にいるシエルとナツ。だが、寸分違わず同時に、自分と別の激闘を制した仲間の勝利を、心から喜んだ。

 

 

 

 

 

が、その喜びも束の間。轟音と地響きが強くなり、シエルはその身体を正常に保てなくなる。立っていることも出来ずにいる中で、天井や床が次々と崩れ始めた。

 

「やばい…このままじゃ生き埋めにされる…!」

 

事態をようやく察知することが出来たシエルは、何とかして脱出を図らねばと焦り始める。すぐさま来た時の道を戻ろうと、這う這うの体となりながらもその道を目指そうとする。

 

 

 

「…え……?」

 

だが、シエルは思わず呆けたような声を上げてしまった。動かない。身体どころか、手足の爪先に至るまでどこを動かそうとしても言うことを聞かないまま、気付けばシエルはうつ伏せで倒れこんでいた。何をしているんだ自分は。このままではこの都市の中にずっと埋められたままになってしまう。動かなければ…!

 

「(うっ…全然…力が…早く…動か、ないと…でも…目が…!!)」

 

まるで身体全体に重りがかけられたように体は動かず、同様になった瞼を開いていられず、崩れ行き増えていく瓦礫と、未だ響く轟音を最後に、シエルの意識はそこで落ちてしまった…。




おまけ風次回予告

エルザ「ついに止まったのだな、ニルヴァーナが」

ペルセウス「ああ、ホントに大した奴だよ、ナツは。今回ばかりはシャレにならないと思ったが…」

エルザ「しかし、ゼロとの戦いでナツは激しく消耗しているだろう…。崩れていくニルヴァーナから、脱出できるのか?」

ペルセウス「ナツの心配ばかりもしてられないだろう。今まさに、俺たちも下手すれば無事で済まないような状況だ。…胸騒ぎも、何故か未だに消えねぇし…」

次回『約束したから』

エルザ「とにかく今は脱出に専念しよう。皆のことは、信じるしかない…」

ペルセウス「…そうだな…。大丈夫だよな、シエル…?」
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