FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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ついにニルヴァーナ編ラストの回!書いてる途中涙で画面が見えなくなるという非常事態に見舞われながらもなんとか書ききりました!

タオル、ハンカチ、ティッシュなどを用意してからお読みください!←自分からハードルをry)

そして次回の事ですが…本編をお休みさせていただきます。
…本編は。

ではどうぞ!


第65話 たった一人の為のギルド

魔導士ギルド・化猫の宿(ケット・シェルター)

ワース樹海の木々や自然に囲まれ、地理的に考えれば外界との交流を避けた排他的な集落と言う印象。だが実際はそのような事はなく、むしろ自分たちの先祖が作った負の遺産と言えるニルヴァーナを、破壊してくれた連合軍を快く迎え入れ、世話をするほどの良心的な人々ばかりだ。

 

一つのギルドとなっている集落の中心。大広場にて、奥地に立つ大きなネコの頭を模したテントを背にギルドの者たちが、それに向かい合う形で他ギルドから来た連合軍の魔導士たちがその場に集まっていた。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)青い天馬(ブルーペガサス)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)…そしてウェンディにシャルル…。よくぞ六魔将軍(オラシオンセイス)を倒し、ニルヴァーナを止めてくれた。地方ギルド連盟を代表して、この『ローバウル』が礼を言う」

 

連合軍にそう伝えたのは化猫の宿(ケット・シェルター)のマスターである『ローバウル』。口元と顎からは立派な白い髭、頭にはびっしりと鳥の羽飾りがつけられた頭巾。ニルビット族に伝わると思われている民族風の格好をした老人である。そして彼は先ほど伝えた通り、手を胸元に充て、深々と感謝を表すように礼を告げる。

 

「ありがとう。なぶら、ありがとう」

 

「どういたしまして!マスター・ローバウル!!」

 

“なぶら”と言う妙な口癖も交えて告げたローバウルに、真っ先に返事を返したのは青い天馬(ブルーペガサス)の一夜。食い気味に感謝の言葉を受け取り、彼の前へと誰よりも早くに飛び出してきたかと思えば、最早見慣れた…見飽きたともいうべきの謎のポーズをとりながら堂々と語り始める。

 

六魔将軍(オラシオンセイス)との、激闘に次ぐ激闘!!楽な戦いでは、ありませんでしたがっ!!仲間との絆が我々を…勝利に導いたのです!!!」

 

『さすが先生!!』

 

ビシッとポーズをとった一夜にトライメンズが一様に拍手で称える。ちゃっかりおいしいところを持っていく男だ。六魔の誰かと戦ってなどいたか?とルーシィが疑問を呟くが、そこは意外な人物が彼をフォローした。

 

「まあまあ、好きにさせてあげなよ。嘘は言ってないんだし」

 

「あれ?珍しいわね。シエルなら一言鼻を折るようなこと言いそうなのに」

 

笑みを浮かべながらグレイたちをたしなめたシエルを見て、ルーシィは意外そうな反応を示す。てっきり彼の事だから、六魔を倒すどころか戦ってすらいない一夜にそれを指摘して、伸びきった鼻っ柱をへし折るものかと思っていたから。

 

だが、シエルは知っている。一夜の力もあったからこそ、自分は魔水晶(ラクリマ)を破壊できたし、ニルヴァーナを止めることも出来たことを。その恩を思えば、多少の誇張は目を瞑っていいだろうと思っている。

 

「終わりましたのね」

 

「お前たちもよくやったな」

 

「ジュラさん…!」

 

「この流れは、宴だろー!!」

「あいさー!!」

 

そして喜びを表しているのは青い天馬(ブルーペガサス)だけじゃない。蛇姫の鱗(ラミアスケイル)妖精の尻尾(フェアリーテイル)も各々自分たちの勝利に喜びを露にしている。

 

「一夜が!」

『一夜が?』

 

「活躍!!」

『活躍!!』

 

「それ、ワッショイ!ワッショイ!」

『ワッショイ!ワッショイ!』

 

ナツの宴と言う言葉に反応し、青い天馬(ブルーペガサス)が真っ先に反応して踊り出す。テンションがやけに高いように見えるがそれに関しては誰も指摘しない。高揚した気分に水を差そうと考える者がいないともいえる。

 

「宴かぁ…!」

「脱がないの!!」

 

「フフ…」

「あんたも!!」

 

こっちはこっちで氷の造形魔導士の二人がまたも服を脱いでいてルーシィに突っ込まれてた。宴での脱衣芸を披露しようと考えて既にやってしまったか?

 

「さあ、化猫の宿(ケット・シェルター)の皆さんもご一緒にィ…?」

 

最早盛り上げ隊長のような位置に立った一夜が、化猫の宿(ケット・シェルター)の一同も誘い、さらに盛り上げようとする。それにつられてか、エルザとペルセウスを除いた妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーも、天馬と同じ踊りをしながら盛り上がる。楽しそうだ。

 

そんな楽しそうな光景を見て同じように気分が高まったのか、同じように連合軍として参加した少女ウェンディも「ワッショイ!」と一度だけ両手をあげながら飛び上がる。可愛い。だが、一度やった後は何かに気付いたのか顔を赤くして恥ずかしそうにその動きを止める。

 

動きを止めたのはウェンディだけではない。いの一番に盛り上がっていた一夜たちも、それにつられたシエルたちも、全員顔を唖然としたものに染めながら硬直していた。その理由は、化猫の宿(ケット・シェルター)の面々が彼らのハイテンションな様子とは正反対な、一様に目元を伏せ、俯いているような表情で全くと言っていいほど反応を示さなかったからだ。こんな空気を醸し出されては、喜びに盛り上がっているこっちが道化のように感じてしまう。

 

どこか空気が凍り付いたような感覚に連合軍が困惑し、神妙な顔つきで俯いているローバウルの様子に首を傾げながらウェンディとシャルルは横から彼を見ている。しばらくの間続いていた沈黙を破ったのは、盛り上がる連合軍を見ながらもその口を閉ざしていたローバウルだ。

 

「皆さん…ニルビット族の事を隠していて、本当に申し訳ない」

 

出てきたのは謝罪の言葉。ニルヴァーナがどういう魔法だったのか、それを作り上げたニルビット族とは、彼らの末裔である化猫の宿(ケット・シェルター)は、ウェンディたちを除いてそれを全員知っていた。それを知っていながら連合軍に一切を知らせなかったことに対する謝罪だろう。

 

「ンな事で空気壊すのかよ?」

 

「俺たちみんな気にしてませんって…」

 

「あい」

 

だが連合軍の者たちにとっては些末な問題である。確かにあらかじめ知っていればより有利に事を運べていたかもしれないが、結果的には作戦が成功したのだからそれで良しと言う考えの方が強い。終わり良ければ全て良しだ。

 

「マスター、私も気にしていませんよ?」

 

そしてそれはウェンディも同様だ。彼女も自分だけがギルドの秘密を知らなかったことに、特に機嫌を損ねたり、疎外感を受けていることはなく受け入れている。だがそれでも、ローバウルの表情は晴れないままだ。それはもう一つ、自分たちが明かしていないあることを伝えるため…。

 

「皆さん、ワシがこれからする話を、よく聞いてくだされ…」

 

今度は連合軍が彼の言葉に硬直する番だった。彼らが隠していた、隠さざるを得なかった、化猫の宿(ケット・シェルター)のもう一つの事実を…今語るとき。

 

「まずはじめに…ワシ等はニルビット族の()()などではない…」

 

「え…?」

 

「ニルビット族()()()()。400年前、ニルヴァーナを作ったのは、このワシじゃ」

 

その言葉は、最初に反応を示したウェンディだけでなく、連合軍全員を驚愕させた。400年前にニルヴァーナを作ったニルビット族。目の前にいるローバウルはその末裔の一人ではなく、当時のニルビット族その人なのだという。遥か昔に存在していたはずの人間が何故今も目の前にいるのか、それも含めてローバウルは語りだした。ニルビット族の真実を。

 

400年前、世界中に広がった戦争を止めようと、ニルビット族は善悪反転の魔法ニルヴァーナを作った。ニルヴァーナは彼らの国となり、平和の象徴として一時代を築いたという。

 

「しかし…強大な力には、必ず反する力が生まれる」

 

闇を光に変えた分だけ、ニルヴァーナはその“闇”を纏っていった。光と闇。二つの相反する力は互いを打ち消しあうことがあれど、傾くことはないバランスをとっている。人間の人格を無制限に光に変えることは不可能。闇に対して光が生まれ、光に対して必ず闇が生まれる。

 

「そう言われれば、確かに…」

 

それを聞いてグレイは思い当たる節があった。何よりも愛を尊重したシェリーが憎しみに染まって危害を加えてきていたのと入れ替わるように、金に執着を見せていたホットアイ(リチャード)が愛に目覚めて味方になった。光の魔導士が闇に落ちれば、闇の魔導士も光に変わる。

 

「人々から失われた闇は、我々ニルビット族に纏わりついた」

 

ニルヴァーナが光に変えた分、今までそれに蓄積されていた闇は行き場がなかった。行き場がなくなっていた闇がその矛先…流れる場所となっていたのは、ニルヴァーナに国を築いていたニルビット族。中立に立ち、平和を願い、そのための魔法を作り出したニルビット族の末路。ここまで聞けば大方の予想がつく。理解した一人であるウェンディは、信じられない…信じたくないと言いたげに動揺を露にしていた。

 

「地獄じゃ。ワシ等は共に殺し合い、全滅した」

 

彼は今でもその様子を思い出せる。その身に纏わりついた闇の感情に翻弄され、衝動のままに武器をとり、つい先刻まで笑顔を向けながら談笑していた者を、親しい友を、大切な家族を、何の躊躇いもなく命を奪い合う標的と定め、その手をかけた。

 

「生き残ったのはワシ一人だけ…いや、今となってはその表現も少し違うな…。我が肉体はとうの昔に滅び、今は思念体に近い存在…」

 

それはつまり、400年前からいくつかの年を重ねた後、自らの寿命も迎えたという事だろう。それでもなおこの時代まで思念体の状態で存在した理由。それは自らの過ちの象徴であるニルヴァーナを作り、一族を滅ぼした罪を償うため、そして力なき亡霊となった彼の代わりに、ニルヴァーナを破壊できるものが現れるまで、ずっと見守り続けた来たのだと。

 

「今、ようやく役目が終わった…」

 

ずっと硬い表情を浮かべながら語った話を終え、最後の一言と共に、ようやくその表情に笑みを浮かべた。400年余りの長い時間。ただただ見守ることしかできなかったその永久にも感じる時間は、ようやく終わりを迎えることが出来たと言わんばかりに。

 

「そ…そんな話…!!」

 

しかし、現実から大きく外れたその話に連合軍が言葉を失っている中、両手を強く握りしめながら俯き、ローバウルの語った真実を受け止められない存在がいた。今までずっと、彼ら化猫の宿(ケット・シェルター)の魔導士として過ごしてきたウェンディだ。不安そうに見上げるシャルルの視線も気づかずに、ぐっとこらえるような表情を浮かべている。

 

だが、ウェンディが言葉を発そうとしたその時、ローバウルは何かを一つ念じると、彼の身体が突如微かに光り出した。そしてその直後だった。彼の表情にリンクするように、悔いを抱えた表情から、穏やかな笑みを一様に浮かべていた化猫の宿(ケット・シェルター)の魔導士たちが、ローバウル同様に微かな光を発したと思いきや、一人、また一人と光と共にその姿を影も形もなく消してゆく。

 

「何これ…みんな!?」

 

「アンタたち!?」

 

「マグナ!!ペペル!!」

 

同じギルドにいた家族同然だった仲間たちが突如消えていく現象に、ウェンディとシャルルは勿論、連合軍の魔導士たちも一様に動揺している。

 

「何だこれ…人が消えていく!?」

 

「どうなってるんだ…!?」

 

「イヤよ…みんな…!!消えちゃイヤァ!!!」

 

まるで現実とは思えない光景を目の当たりにしながらも声を発したシエル、そしてペルセウスの動揺の声を耳にし、自分の錯覚ではないことを実質的に理解させられたウェンディは、涙を浮かべながら懇願するも、その願いは届かず笑顔を浮かべながら仲間たちは消えていく。

 

「騙していてすまなかったな…。ギルドのメンバーは皆…ワシの作り出した幻じゃ…」

 

「…!?」

 

「何だとォ!?」

 

消えていく仲間を目にしながら告げられた、ローバウルからの真実。ウェンディにはそれが残酷なものに聞こえた。家族として過ごした大事な仲間たち、ギルドのみんなが、本当は存在していない幻の存在。そしてそれは連合軍にとっても大きな衝撃を与えた。既に肉体は滅びたはずの老人が作ったその幻は、生きている人間と遜色の無い自我と意思、感情を有していた。

 

一人だけでも相当な魔力を有するはずだ。それをギルドとして構成できるほどの人数を、しかも人格は千差万別で作り出す。聖十大(せいてんだい)()(どう)と同等…下手をすればそれ以上の魔力の持ち主なのだろうか…。

 

「ワシは、ニルヴァーナを見守る為に、この()()()()で住んでいた…。7年前のある日、一人の少年がワシの所に来た」

 

7年前…少年…その二つの単語を聞いたとき、ウェンディは気づいた。その少年とはきっと、ジェラールの事なのだと。

 

『この子を預かってください』

 

そう告げながらこちらに向けた、あまりに真っすぐな眼にローバウルはつい承諾してしまったのだと言う。一人でいようと、決めていたのに…。承諾した後、再び旅立ってしまった少年にウェンディを託されたローバウル。だが、勿論最初は鬼門であった。ずっと一緒にいた兄のような少年が突如いなくなり、廃墟同然の建物に老人一人と言う場所で目が覚めれば、彼女はとても不安になっただろう。

 

『おじいちゃん…ここどこ…?』

 

『こ…ここはじゃな…』

 

『ジェラール…私をギルドに連れてってくれるって…!!』

 

正直、どう説明すればいいのか分からなかった。まだ幼い身で孤独な少女に、ここが廃村で、自分は亡霊であることを告げるわけにもいかない。非常に心苦しいが、彼女が膝を抱えて頭を埋めながら呟いた言葉を利用することにした。

 

『ギ…ギルドじゃよ!ここは、魔導士のギルドじゃ!!』

 

『本当!?』

 

『なぶら!外に出てみなさい!仲間たちが待っているよ』

 

咄嗟に出てきた嘘であったが、幼い彼女はそれを疑うことはしなかった。そして幻を駆使して廃村を集落に見せ、本来実在しない仲間を作り出した。全ては、幼くも孤独となった少女を、独りにしない為、彼女の不安や寂しさを、取り払ってあげる為。亡霊の優しい幻が作り上げた、たった一人(ウェンディ)の為に作られたギルド…それが化猫の宿(ケット・シェルター)なのだ。

 

「そんな話聞きたくないっ!!バスクもナオキも消えないで!!!」

 

彼女一人の為に作られたギルド。それを受け入れたくないウェンディは、耳を押さえながら涙混じりにそう叫ぶ。嘘であってほしかった。本当だったとしても、ずっと騙されてもいいから消えないでほしかった。頭の中で浮かぶ言葉は、目の前にいるローバウル()によって、それが不要であることを告げられる。

 

「ウェンディ…シャルル…もうお前たちに偽りの仲間はいらない…」

 

とうとう周りの幻たちがみんな消え、ローバウルただ一人を残すのみ。彼は諭すように笑みを向けて彼女を…正確には、彼女の後方を指さして告げる。

 

 

 

 

 

「本当の仲間がいるではないか」

 

そこにいたのは、六魔将軍(オラシオンセイス)を共に打ち倒し、ニルヴァーナを止めた連合軍の魔導士たち。彼が作り出した幻ではない、確かに存在している本当の仲間たち。もう少女は孤独ではない。強くて、優しくて、頼もしい仲間たちに囲まれた。400年もの役目を役目を終えた。7年前に託された少女の憂いも消えた。となればもう、亡霊(自分)の存在意義は皆無。後腐れなく、ここを去ることが出来る。

 

それを示すかのように、笑みを深くしたローバウルの身体が先程消えていった幻たち同様光を放ち始める。

 

「お前たちの未来は…始まったばかりだ」

 

「マスターー!!!」

 

老人の身体が徐々に透けていく。別れの時が近い。それを理解したウェンディはたまらず彼の元へと駆け出していく。しかし、彼女が前へと伸ばした両手がローバウルに届くことなく、彼はその姿を無くし、無数の光の粒子となって、空へと昇っていく。

 

───皆さん…本当にありがとう…。ウェンディとシャルルを頼みます…

 

天高くへと消えていく光の粒子。それと同時に、ウェンディの右肩に刻まれていた三又のネコを模した紋章も、光の粒子となって消えていく。もう幻で作られたギルドではなく、本当の仲間たちと歩めるようにと言う、マスター・ローバウルからのメッセージの様に…。そしてシャルルもまた、背中に刻んだ同じ紋章が消えているのを、涙を浮かべながら感じている。

 

「マスタァーーーーーー!!!!」

 

光の粒子が完全に空に溶けて消えたと同時に、ウェンディは膝からその場に崩れ落ち、天へと消えた親への慟哭を叫ぶ。大好きだった。本当の家族の様に思っていた。例え亡霊でも幻でも、確かに彼女は彼らと仲間だったのだ。

 

涙に濡れ、止むことのない嘆きの声を聞きながら、シエルは目を伏せながら、悲しみを思わせる表情を浮かべながら、彼女に声をかけようとする。

 

だが、言葉が出てこない。悲しみに暮れる少女を支えたい、慰めたい、そう心では思っているのに、口から彼女を立ち直させる言葉が出てこない。

 

彼女と自分は似ているようで違う。かつて自分も、今までいたギルドの者たちを失ったことがある。だが彼女とは根本的な部分で違う箇所がある。彼女が失ったのは確かに亡霊と幻だ。しかし、その心は本物であり、彼女は確かな愛を受けてそのギルドで育ち、家族と同じような繋がりを持っていた。一方で自分はそんな愛など皆無だった。自分はただ利用するための人質であり駒。実在する人間たちが同じギルドにいたというのに、仲間とも思えない者たちばかり。実の兄のみが、自分が信じられる存在であった。

 

だからこそ、彼女の深く傷ついた心を、悲しみを、本当の意味で理解し、寄り添うことが出来ない。自分が経験したこともないような出来事を受けたウェンディに、どんな言葉をかけても気休めにすらならない。自分では何もできないという無力感に苛まれながら、ただ慟哭するウェンディを、見ていることしかできない…。

 

 

 

そんな彼女の肩に、後ろから優しく手を置いた存在に、シエルを始め、全員が気付いた。

 

「愛する者との別れの辛さは…仲間が埋めてくれる」

 

それはエルザだった。彼女は知っている。ウェンディと同じ悲しみを。楽園の塔で奴隷として働かされた時も、敵になったジェラールと死闘を繰り広げた時も、そして作戦が終わった直後も、エルザは数多の大切な存在を、目の前で失い、そのたびに深く傷ついてきた。

 

だが、だからこそ知っている。どうやってそこから立ち直ってきたのか、仲間の存在が、どれだけ自分の助けになったのか。だから今度は自分が、自分たちがその助けになる。同じように深い悲しみを抱えたエルザの声で振り向いたウェンディに、彼女は優しく告げた。

 

 

「来い、妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ…」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

周りは一面大海原。巨大な帆船は穏やかな波をかき分けて順調に目的地へと進んでいく。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々を乗せた船の欄干に手を置きながら、ある一人の青年が桜髪と白い鱗柄のマフラーを潮風に揺らしながら、それを存分に堪能していた。

 

「ああ…船って潮風が気持ちいんだなぁ…」

 

そう、本来であれば乗り物全般に極度に酔いやすい体質のはずであるナツが、船の上にいながらその揺れと船ならではの解放感を味わっているのだ。普段であれば絶対に見られない稀有な光景である。

 

それもこれも、彼らと同じ船に乗船している少女、天空魔法の使い手であるウェンディのおかげだ。彼女の魔法の一つであるトロイアは、平衡感覚を養い、乗り物に酔わなく出来るものだ。今まさに、ナツはその効果を実感しているのである。

 

「うぉお~~!乗り物っていいモンだなぁ~~!!」

 

普段できない体験にテンションが上がりまくりのナツが、はしゃぎながら甲板を走り回る。魔法をかけた本人であるウェンディは微笑まし気にそれを見ていたが、船に乗る前に魔法をかけた時間と、今の時間帯に気付いて声をかける。

 

「あ、そろそろトロイアが切れますよ」

 

「おぶぅ…!」

 

言い終わるや否や狙いすましたかのように顔色を悪くして倒れこむナツ。もう一回トロイアを所望してきたが、この魔法は連続してかけると効果が薄れてしまうらしい。仕方ないのでナツにはしばらくの間我慢してもらおう。場にいる者たちの意志が満場一致になった。

 

「本当にウェンディとシャルルも妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来るんだね」

 

「私は、ウェンディが行くって言うからついていくだけよ」

 

「楽しみです!妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!」

 

エルザからの誘いを受けたウェンディ、そしてシャルルは彼女に応え、妖精の尻尾(フェアリーテイル)として今後は活動することを決めた。ハッピーからの返答の通り、シャルルはどこか理由をつけて素直な返答をしなかったが、ウェンディは素直に楽しみなようだ。

 

化猫の宿(ケット・シェルター)との悲しい別れがあった後、連合軍として組んでいた3ギルドは、それぞれのギルドへと戻っていった。

 

青い天馬(ブルーペガサス)は、主にエルザとルーシィに対してであったが、今度自分たちのギルドに遊びに来ることを歓迎。

 

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)は、ジュラからはマスター・マカロフによろしく伝える様にと、リオンからはグレイに脱ぎ癖を治すようにとそれぞれ伝えていた。ちなみにリオンは言ったそばから自分で脱いでいた。

 

ちなみに余談だが…いつどこで何があったのか、天馬のレンとラミアのシェリーが、別れ際に顔を赤くしながら見つめ合い、ツンデレな態度で会話をしているシュールな光景が繰り広げられた。イヴとリオンにそれぞれ呼び出されるまでずっとそのままだった。どぅえきとぅえるぅ。

 

「そう言えばルーシィ、エンジェルと契約してた星霊が、ルーシィのとこに来たんだって?」

 

「うん、そうなの。黄道十二門の星霊が、()()とも来てくれて…」

 

「3…人…?」

 

シエルの質問に答えた通り、今ルーシィには新しく三本の鍵がある。エンジェルが評議院に捕まったため、自動的に契約が解除されたのだ。本来であれば新しい所有者(オーナー)は自動的に鍵を見つけた者がそうなるのだが、先程挙げた黄道十二門の3体、双子宮のジェミニ、天蠍宮のスコーピオン、そして白羊宮のアリエスは、自ら人間界に赴いてルーシィを新たな所有者(オーナー)として望んだらしい。

 

更なる強化にルーシィ自身も喜んだが、シエルが気になったのは彼女が告げた単語だ。星霊の数え方は一体、二体。人間と同じ数え方はしないはずだ。それはシエルも知っているので疑問を感じたのだが、それを察したルーシィは聞かれるよりも先に答えた。

 

「前の数え方、やめたんだ。ほら、ロキとか人みたいでしょ?物みたいな数え方に、抵抗できちゃってね…」

 

はにかむように笑みを浮かべながら語った理由にシエルは納得した。なるほど、彼女らしい優しい理由だ。エンジェルとの戦いは、彼女自身の魔法や力だけでなく、心も成長するきっかけになったと言える。そういう意味では、自分も今回の作戦で成長できたのだろうか。

 

「シエルさん」

 

と、ルーシィと話していたシエルの元に、ウェンディが声をかけてきた。初めに会った頃と比べれば大分慣れてきたのか、彼女が突如話しかけてきても動揺することが少なくなってきた。嬉しくなるのには変わりないが。

 

「どうしたの、ウェンディ?」

 

そんな彼女に笑みを浮かべたまま答える。視界の端で、口元に弧を描きながら音もなくその場を離れたルーシィは敢えて放っておいて。すると、ウェンディは途端に眉根を下げて、少しばかり落ち込んだ様子で顔を俯かせる。一体どうしたのか、聞こうとした彼よりも先に、ウェンディは少し頭を下げながら告げた。

 

「その…ごめんなさい。手紙の約束…守れなくなっちゃって…」

 

それを聞いてシエルは気づいた。遠くに離れても手紙を送り合うと約束をした矢先、化猫の宿(ケット・シェルター)は実質的な解散となった。そのことに心底申し訳なさを感じていたウェンディは、こうしてシエルにわざわざ謝罪を告げに来たのだと察する。

 

「ウェンディが気にすることないよ。あれはウェンディの…ううん、誰かが悪いとか、そういう話じゃないし」

 

「でも…」

 

「それにさ、悲しい事ばかりじゃないよ?」

 

シエルのその言葉にウェンディは俯かせた顔をあげて「え?」と声を出す。別れは確かに辛い。だが彼女を誘った時に告げたエルザの言葉の通り、その辛さは仲間が埋めてくれる。その仲間の一人として、シエルは彼女に自分が告げた言葉の意味を伝える。

 

「ウェンディが化猫の宿(ケット・シェルター)で過ごした日々は、君が忘れない限り消えることはない。手紙を送らなくても同じ場所にいればその日一日で何が起きたか話すことも出来る。これから、新しい思い出を作っていけばいいんだ。俺たちと一緒に」

 

一つの約束は果たされなかった。だがそれとは別に、今度は共通の思い出を、シエルだけでなくギルドのみんなと作ることが出来る。それを想像すると、ウェンディは先程までにも感じていた期待とワクワクがさらに高まるような感覚を覚えた。

 

「ともあれ、今更になるけど…俺たちはみんな歓迎するよ。これからもよろしくね、ウェンディ!」

 

「はい!こちらこそ…」

 

落ち込んでいた気分も戻った様子でシエルの言葉に答えようとしたウェンディは、途中で何かに気付いて区切った。その様子に、シエルも疑問を感じて首を傾げる。

 

そして思い返していた。妖精の尻尾(フェアリーテイル)でもギルドの者たちは家族同然と言う間柄。自分にとってはほとんどが敬意も抱くべき人物であり、それを込めた接し方がほとんどだ。ナツやエルザ、そしてシエルも例外ではない。

 

しかし、彼女が思い出していたのは、ジェラールが連行される少し前の何気ない一言。

 

 

 

『ジェラールは呼び捨てなんだ…』

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるウェンディは五感が優れている。それは聴覚も例外ではなく、微かな音も拾うことが可能。彼が呟いた何気ない一言。聞こえた時は特に意識をしていなかったが、これからは同じギルドの仲間であり家族。それもシエルにとっても、ウェンディにとっても、同じ年頃の魔導士だ。今までは年上であり憧れだったからこその対応だったが、関係が変わり、彼自身もどこか現状に不満気と思わせるその一言。

 

それを頭の中で整理したウェンディは、小さな決断を行った。

 

 

 

 

 

 

「こちらこそ…よろしくね、『シエル』!」

 

明るい満面の笑みを向けながら、憧れの人から親しい仲間へ、そんな表現が似合う言葉をシエルに告げたウェンディ。それを見聞きした途端、シエルは一瞬虚を突かれ、だがその後に輝かしい目と頬を染めた表情で「うん!」と大きく頷く。

 

その様子を横目にしながら、彼の兄であるペルセウスは穏やかな笑みを浮かべながら見守っていた。少しばかりおせっかいも考えていたが、どうやら不要だったようだと心に留めながら、同時にこうも願った。

 

どうか弟の幸せが実り、それがいつまでも続いてくれるようにと…。

 

そして、ふと視線を向ければ、幾度も船旅からの帰りで見慣れた港町が、徐々に近づきつつあった。

 

「ハルジオンが見えてきたぞ」

 

そう言葉に出せば、ほぼ全員がその方向へと目を向ける。帰ってきたことを実感させられる光景を目にしながら、一同は話をさらに盛り上げていく。

 

「何か帰って来たって感じする~!」

 

「や、やっと着いた…のか…!」

 

「でもマグノリアまで今度は列車だよ?」

 

「アァ~~…!!」

 

「もういっその事置いてこうぜ?」

 

「まだしばらく我慢するんだぞ、ナツ?」

 

約一名が随分ヤバそうだが、彼らはここから更にギルドに戻った後の事を考え、楽しみに感じていた。

 

一つの冒険が終わり、悲しい別れと、新たな仲間、そしてその先には一体どんな未来が待っているのか…。

 

ウェンディと親しげに話し続けるシエルに業を煮やしたシャルルが何か文句を言いながら近づいていき、シエルが狼狽え、ウェンディは苦笑を浮かべながらなだめる様子を見ながら、ルーシィはウェンディとシャルルの未来が、明るいものであることを、人知れずに願うのだった。




おまけ風次回予告

ウェンディ「化猫の宿(ケット・シェルター)のみんなとお別れするのは寂しかったけど…私、これからは妖精の尻尾(フェアリーテイル)として頑張っていきます!」

シエル「気合十分だね。でも張り切りすぎずに、リラックスしていいからね?みんな気前のいい人たちばかりだから」

ウェンディ「ありがとう!でも、都会のギルドってあんまり来ることないから、ちょっと緊張しちゃって…」

シエル「そうだ、ギルドに着いたら俺が案内するよ!きっと驚くものがいっぱいあるよ?」

ウェンディ「本当?じゃあ、お願いします」

次回『天竜歓迎会』

ウェンディ「ライブステージに遊技場…外にはプールも!?都会のギルドってスゴいんだね!!」

シエル「都会って言うか…ウチぐらいなもんって言うか…(汗)」
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