FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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今回は今までの中でも一番多い文字数となって、正直間に合うか不安でした。(汗)
同じ量の文字数を書いていくとなるといつの日か間に合わなくなりそうで怖い…。

話は変わりますが、フェアリーテイルの作者である真島先生の新作「エデンズゼロ」のアニメ化が発表されましたね。勿論ファンとしてはうれしいことですが、若干早くないかな?と言う感想が最初に出てきました。
ある漫画やアニメを見ていたせいか、もうちょっとストック出してからでも良かったんじゃないかな~って思いが過ります。主に銀〇とか〇魂とかハッピーの中の人がゲロインやってたあのアニメとか←

長々と書いても仕方ないのでここまでにします!(笑)
取り敢えず、アニメは楽しみ!!声優陣も気になるぞー!


第5話 乙女の魔法

「何だよ、これ…!!」

 

オシバナ駅すべてを包むように吹き荒れる風の檻。何故今このような状況になっているのか。駅全体を包むほどの大規模な風は恐らく魔法によるもの。そしてその魔法を扱える可能性があるのは、エリゴールしか思い当たらない。だが、呪歌(ララバイ)を放送するつもりだったエリゴールがわざわざそれを行う目的が読めないのだ。

 

「ともかくあの魔法を近くで見てみないことには何も分からない…!」

 

遠目から見るだけではその魔法がどのような効果や性質を持っているのか、自分たちにどんな影響を及ぼすのか分からない。駅の入り口に戻って確かめるしかない。そう思い立ったシエルはすぐさま自分が来た道をたどるようにして戻り始める。

 

「シエル!」

 

通路内を駆けていき、ホームまでもう少しというところで、前方から自分の名を呼ぶ声が聞こえた。先程までシエルの魔法によって回復を行っていたエルザと、放送室で戦闘を繰り広げていたと思われるグレイだ。

 

「エルザ、グレイ!外を見た!?」

 

「ああ、知ってる。エリゴールの仕業だ」

 

「それから、奴らの本当の目的も分かった。じーさんどものいる定例会の会場だ」

 

二人とも駅を包んでいる風については既に知っており、尚且つ詳細も既に把握していたようだ。特に後半のグレイからの情報にはシエルも絶句した。オシバナ駅の先は、終点である『クローバー』の街だ。今日まで行われている地方ギルドマスターたちが集う定例会の会場がある街もそこだ。鉄の森(アイゼンヴァルト)がオシバナ駅を占拠したのは、クローバーへと向かう交通手段を封じ込め、誰にも邪魔されることなく目的を達成するため、そして万が一のためにもその目的を悟られないようにするカモフラージュだった。現に、今自分たちは、大規模に動く鉄の森(アイゼンヴァルト)につられてオシバナ駅に入り、そこをエリゴールの魔法・『魔風壁』によって全員閉じ込められて、身動きが取れなくなってしまったというわけだ。

 

そんな鉄の森(アイゼンヴァルト)の本当の目的は、呪歌(ララバイ)の音色をギルドマスターたちに聞かせて全滅させること。そのために呪歌(ララバイ)を持ったエリゴールのみが単身クローバーの街へと向かっていったのだ。エルザたちは、その魔法を解除するために呪歌(ララバイ)の封印を解いた『解除魔導士(ディスペラー)』と思われるカゲを探し、捕らえるために動いた。

 

「そういうことか、どうりで…」

 

鉄の森(アイゼンヴァルト)、もといエリゴールの本来の目的を察したシエルは、これまでの彼らの目的を知って納得する。放送がかかるまであまりにも時間がかかっていたのは、自分たちをここに縛り付けるための時間稼ぎであった。ならば今やるべきことはこのオシバナ駅、及び魔風壁からの脱出となる。状況の確認と目標の決定を完了したシエルはエルザたちと共にカゲを追うべく再び通路を駆けた。

 

それからそう時間を置かずに、突然駅中に響くような破壊音が聞こえた。

 

「近いぞ、向こうだ!」

 

「分かりやすくて助かるね」

 

「全くだな…」

 

破壊音が聞こえた方向に向かうため、3人はすぐさま方向を切り替えた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ほら、約束通りエリゴールの場所を教えろ」

 

予想通り、その破壊音を繰り出したのはナツだった。カゲ――もとい『カゲヤマ』が扱う、影を自在に操り攻撃する魔法をものともせず、一般の魔導士では考えられない破壊力を持った滅竜魔法で圧倒し、彼を満身創痍へと追い込んだ。戦いを始める前に取り付けたであろう約束を果たそうとするナツであったが、カゲヤマは負けた立場には似合わない笑みを浮かべて告げた。「エリゴールはもうこのオシバナ駅にはいない」と。その言葉にナツが怪訝な表情を浮かべていると…。

 

「ナツー!それ以上はいい!彼が必要なんだ!」

 

エルザが駆け寄りながら彼に呼びかけた。両隣にはシエルとグレイの姿も見える。外の状況とエリゴールの本来の目的を把握していないナツはエルザのその言葉に疑問符を浮かべる。

 

「でかした、クソ炎!」

「後は任せて!あと避けた方がいい!」

 

「は?」

 

立て続けに告げられたグレイとシエルの言葉(とくに後者)にますます彼の疑問が膨れる。が、後者の言葉の意味はすぐに察した。いつの間にか魔法剣を握り締めたエルザが己目がけて飛び掛かってくる。悲鳴混じりに謝りながらも反射的にナツが避けると、エルザは元々狙っていた、ナツの後方にいたカゲヤマの首元すれすれの位置に剣を突き立てていた。

 

「つべこべ言わずに魔風壁を解いてもらおう…」

 

鋭く細めた目で睨みながらカゲヤマにそう命じる(脅す)エルザの様子に、本人は勿論ナツまでもが恐怖に怯え慄いている。「やっぱエルザは危ねぇ!!」と騒ぎ立てるナツに、グレイが「黙ってろ!」と一言だけ投げかける。シエルはシエルで「Noと言ったら切り傷が一つずつ増えてくことになるよ~?」とエルザの後方から、何故か楽しげな表情で囁くように呟いてカゲヤマの恐怖をより倍増させている。なお倍増していたのはカゲヤマだけでなくナツの方もだが…。

 

「わ、わか…っ…!?」

 

恐怖に負けたのか、エルザの命令に従う意思を見せたカゲヤマだったが、その言葉は途中で途切れた。突如目を一度だけ見開いたかと思いきや力を失ったかのように体が倒れこみ、気絶してしまう。その様子にエルザだけでなくその場の妖精の魔導士全員が驚愕する。さらに言えば、カゲヤマの背中にはエルザの持っているものとは違う短剣が突き刺さっていた。

 

そしてその短剣を突き刺したと思われる犯人――カゲヤマの背後の壁から魔法で出現していた魔導士・カラッカは自分の仲間を手に掛けたことに対して動揺と後悔を表情に出していた。エルザが倒れこんだカゲヤマの身体を支え、グレイがそこに駆け寄る。カゲヤマをこのまま死なせるわけにはいかない。シエルもようやく状況を理解し、即座に日光浴(サンライズ)を発動させてカゲヤマの身体に光を当てる。気休め程度にしかならないかもしれないが、少しでも彼の容態の悪化を食い止めるためだ。

 

「カゲ、しっかりしろ!お前の力が必要なんだ!!魔風壁を解けるのはお前しかいないんだ!!死ぬな!!」

 

エルザが必死に呼びかけるも、カゲヤマからは全く反応がない。日光浴(サンライズ)の光を当てながら少しずつ背中に刺さっている短剣を抜いているシエルの目には、出血が止まる様子のない現実が映っていた。

 

「血が止まらない…!」

「マジかよ、くそっ!!」

 

目を覚ます様子もないうえに、シエルの口から呟かれた現実に、グレイの表情も歪む。するとカゲヤマが気絶してから動く様子のなかったナツに変化が起きた。

 

「仲間じゃ…ねえのかよ…!

 

 

 

同じギルドの仲間じゃねえのかよォ!!!」

 

拳を握り震わせ、怒りによって高められた魔力が全身から炎として迸る。妖精の尻尾(フェアリーテイル)は、ギルドの仲間は家族も同然。少年だった頃からそう教えられて、喧嘩はすれどもその教えと事実を胸に刻み込んで過ごしてきたナツにとって、あまりにも簡単に仲間を切り捨てることを選択した目の前の男に、怒りを隠せない。

 

己の行動に後悔していたカラッカは、そんなナツの怒りと言葉に怯み、壁の奥へと身を隠す。しかし、ナツは決してそれを逃がしはしない。

 

「このヤロォオッ!!!」

 

握りしめた右の拳に炎を纏わせ、カラッカが潜んだ壁を殴り壊す。そしてすぐさま開いていた左手でカラッカの襟首を掴むと床に叩きつけた。壁が崩れる音を響かせながら、ナツは怯えるカラッカを睨みつけながら、腹の奥底から出るような声で叫んだのだった。

 

「それがお前たちのギルドなのかっ!!!」

 

ナツの怒りの声は辺りに響く。日光浴(サンライズ)を当ててカゲヤマの治療をしていたシエルにもその声と言葉は耳によく届いた。

 

「カゲ、しっかりしないか!!」

 

「エルザ、ダメだ…意識がねぇ…。シエルの魔法でも、これじゃ意識が戻るまでに時間がかかる…」

 

シエルの治療を受けるカゲヤマの意識を何とか戻そうとエルザは何度も呼び掛けるが、応える様子はない。血が少し止まりつつあるので回復はしているようだが、それでも万全には程遠い。するとシエルはもう一つ日光浴(サンライズ)を顕現させ、先に持っていたものと合わせて二つの発光体をエルザとグレイ、それぞれ二人に差し出す。

 

「二人とも…カゲの背中に、なるべく近づけておいて…。ちょっとずつだけど、回復するはずだから…」

 

「大丈夫か?」

 

「俺は平気。でもちょっとだけ待ってて…」

 

一度に二つの日光浴(サンライズ)を出すのは、彼にとっても魔力の消費が多い。グレイに心配の声をかけられたが、それに対してシエルは一言だけ返すとナツが押さえつけているカラッカの元へと歩み近づく。そして彼の顔の前にかがんだと思いきや、右手に落雷(サンダー)に用いた雷の魔力を纏わせて近づける。それを見てさらに恐怖を感じるカラッカに対し、シエルは淡々と問いかけた。

 

「答えろ、カゲを刺したのは誰かの命令か?それともお前の意志か…?」

 

「あ、うあ…ひぃい…!」

 

「答えろ…!!」

 

外見は確かにこの中でも一番年が若い少年。だがその少年の顔に映っていたのは確かな怒り、そしてその中に少年が持つには分不相応ともいえる憎悪に似た黒い感情。自分たちの仲間の半数を戦闘不能にした少年の表情にさらに恐怖を感じながらも、涙目混じりにカラッカは叫ぶように主張した。

 

カゲヤマを刺したのは、彼の意志で行われたものではなかった。エルザたちが魔風壁を解くためにカゲヤマの力を借りる作戦を聞いた鉄の森(アイゼンヴァルト)の魔導士である『ビアード』―エルザに挑むも一撃で返り討ちにあった実力者―に、「カゲヤマを始末しろ」と指示され、葛藤しながらも実行したとのことだった。

 

「オ、オレもホントは…やりたくなかった…!でも、もし作戦が失敗したらどのみち終わりになるって言われて…!」

 

「結果的に、仲間よりギルドの目的をとったわけか…」

 

涙混じりに呟くカラッカの言葉に、嘘偽りは感じられない。本意ではないことはシエルにも理解できた。しかし一つ歯ぎしりをすると、雷を纏っている右の腕を振りかぶり、カラッカ目がけて振り下ろす。それを見て彼は反射的に目を強く閉じた。ナツによって崩れた壁の音よりも小さくあるが、十分に強い音が辺りに響く。その音の反響はやがて静まり、それに続いて声が伝わった。

 

「よそのギルドについてあれこれ言うつもりはない…けど…自分たちの欲望のために仲間を蔑ろにするような奴等を…俺はギルドと認めねえ…!!」

 

声の主であるシエルは、握りしめた右拳をカラッカの顔…の左側の床にめり込ませながら、カラッカを睨みつけていた。言葉も、表情も、感情も、カラッカから見るシエルはただの子供とは程遠くかけ離れた存在だった。

 

後方から「お邪魔だったかしら…?」と、ようやく合流を果たせたルーシィの困惑の声が響くまで、シエルはずっとそこから動こうとしなかった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「エリゴールの狙いって、定例会だったの!?」

 

日光浴(サンライズ)を当て続けながらカゲヤマを運び、そのまま駅の入り口まで事情を把握していなかったナツとハッピー、そしてルーシィに説明をしながら戻ってきた一同。全員に情報の共有ができたものの、未だ魔風壁を唯一突破できる手段を持つカゲヤマは気絶したままであり、エリゴールが自身の身体を浮遊させる魔法を用いて空からクローバーへと向かったことをエルザは伝えた。そして未だに風の結界は勢いが衰えることすらなく、駅全体を囲んでいるままである。

 

「この魔風壁をどうにかしねえと、駅の外には出られねえ…もし出ようとすれば…」

 

「ぎゃあああっ!!」

 

グレイが説明している途中に、狙ったのか否か、外に出ようと魔法で魔風壁を攻撃したナツが逆に弾かれて転がってくる。「こうなる…」とグレイが続け様に言葉を零し、ルーシィはその現状に身を縮こまらせていた。

 

「あ、でも風の魔法なら、風の魔法をぶつければ何とかなるんじゃない?」

 

「ん?と言うと?」

 

「シエルよ!シエルの天気の魔法なら、風の魔法で相殺できるはず!」

 

ルーシィが思いついたのは、つい先刻に見たシエルの魔法『天候魔法(ウェザーズ)』だ。天候を自在に操る彼の魔法なら、風の魔法も使えるはず。そう思い至りシエルの方向を向いたルーシィだが、既に彼は動いていた。両手を前方にかざして緑色の魔法陣を展開。そこに徐々に風が集まっていき、一定量のものが集まった瞬間…。

 

「警報発令。『竜巻(トルネード)』!!」

 

彼の両手から発射されたのは、魔風壁の風の流れと逆向きに流れる大きな竜巻。その風圧にシエルと気絶しているカゲヤマ以外の者たちが思わず目元を覆う。そして竜巻は魔風壁とぶつかり合い、風と風が摩擦することによって火花すら起こる程の強い衝突を見せる。その光景にルーシィが笑みを浮かべ、グレイとエルザもその行く末を見守っている。しかし十数秒の拮抗もむなしく、シエルが編み出した竜巻は魔風壁の勢いに敗れてやがて縮小し、遂には消滅してしまった。一同の表情に落胆が映る。

 

「ごめん、俺じゃ無理だこれ」

 

「諦めが早い~!」

 

魔風壁の勢いが弱まった様子はない。おそらく何度試しても結果は同じだろう。シエルが出した『竜巻(トルネード)』も一般的に見れば強力なのだが、エリゴール程の魔導士がほとんどの魔力を使って繰り出した魔法には敵わない。さらに言えば、シエルは鉄の森(アイゼンヴァルト)との戦闘とカゲヤマへの治療で魔法を多用している。魔力量を多くすれば可能性はあるかもしれないが、そうなるとシエルの魔力がもたない。

 

結果、シエルの魔法でも魔風壁の突破は不可能だと、彼は判断した。しかし、他の者にとってはそれは死活問題だ。

 

「くそぉおっ!!こんなモンつきやぶってやるぁっ!!」

 

魔風壁を突き破るために次々と炎を纏った攻撃をぶつけていくナツ。だがその度に彼の攻撃は風に弾かれ、その体を地に転がし続ける。力ではどうにもならない。それを理解したとしてもナツは止まらない。その身で風を破るために何度も何度も喰らいつく。

 

「急がなきゃマズイよ!あんたの魔法で凍らせたりできないの!?」

 

「できたらとっくにやってるよ…」

 

万事休す。その場にいる者のほとんどがそう思わざるを得ない状況。このままでは死神(エリゴール)の手によってギルドマスターたちが死の音色の餌食となってしまう。絶対に食い止めなければいけないのに、止めに行くこともできない。絶望の空気が流れ始めていた…。

 

「ホントどうしたもんかな~、魔風壁(これ)…」

 

だがあまりにも場違いな声色を発する少年にルーシィが気付いた。

 

「ちょっとシエル!あんた状況分かってんの!?何よそんな緊張感無い声出して!!」

 

「え?」

 

魔風壁から出られず、エリゴールを追うこともできない状況下において唯一切羽詰まった様子のなかったシエルに業を煮やしたルーシィの声に、シエルがきょとんとした表情になる。その表情が更にルーシィの苛立ちを増やすことになったが、シエルの次の言葉に彼女を含めて、グレイとエルザも言葉を失うことになる。

 

「ああ、大丈夫だよ。エリゴールが呪歌(ララバイ)を吹くことは絶対にできないから」

 

「は…?」

 

一体何を言っているのだろう、と言いたげに3人(とついでにハッピー)の視線がシエルの方に集中する。するとシエルは何を思ったのか自分のズボンの右ポケットに手を突っ込み、まさぐる様に動かす。そして取り出したものは…。

 

 

「テレレレッテレ~!『呪歌(ララバイ)』~!!」

 

『ええーーーーーーーっ!!?』

 

木製で出来た先端が三つ目のドクロで象られた笛、集団呪殺魔法の魔笛・呪歌(ララバイ)だった。カゲヤマが封印を解いて手に入れ、エリゴールの手に渡っていたと思っていたそれを何故シエルが持っているのか、4人(3人+1匹)は驚愕の声を上げて目と口を開け放っていた。

 

「なんであんたがそれ持ってんのー!?」

 

「つーか本物か、本物なのかそれ!?」

 

高々と上げられた笛を指さしながらシエルに尋ねるルーシィとグレイ。だがエルザだけは最初こそ戸惑いの声を上げたものの、彼が呪歌(ララバイ)を持っている原因に心当たりがあった。

 

「そうか…蜃気楼(ミラージュ)か…」

 

乾いた笑いを零しながら納得したかのようにエルザが呟く。そう、実はオシバナ駅のホームに乗り込み、鉄の森(アイゼンヴァルト)の者たちと対峙していた時、シエルは既に魔法を発動させていた。自分の姿を隠し、幻影の自分を投影させる蜃気楼(ミラージュ)。これを駆使してホームに入って立ち止まったと見せて幻影の自分をその場に置き、本体は音も姿もなく回り込んでエリゴールに接近。そしてエリゴールの懐にある呪歌(ララバイ)を確認して掠め取りその場から離れる。後は機を見計らって元の位置に戻ってきた、と言うことだ。ちなみにその機とは鉄の森(アイゼンヴァルト)を散々揶揄ってエルザに一喝された時のことだ。

 

「今エリゴールが持ってる呪歌(ララバイ)は、俺が蜃気楼(ミラージュ)で作った偽物。触ることができるように作ったけど、勿論吹いたとして音色は出ないし、むしろ息を吹きかけたら霧散する。だからエリゴールがそれに気づいて戻ってきたときの対処も考えてたんだけど…」

 

「クローバーに向かったことで、未だにバレていないということだな」

 

「そうみたい。ここまで鈍いとは思わなかったよ~」

 

随分な言われようだ。だが何はともあれこれでギルドマスターたちに現時点で被害が及ぶことはない。

 

「やるじゃねえかシエル!」

「ええ、お手柄よ!」

「あい!」

 

口々に賞賛する仲間にはにかみながら答えるシエル。若干の照れが加わっているが、本人としても胸を張れる出来事だった。そしてエルザはと言うとそんなシエルに近づき…。

 

「本当によくやったな、お前を仲間に持てたことを、誇りに思う」

 

(かった)ッ!?」

 

頭を胸に抱きよせるも、彼女の硬い鎧に頭をぶつけられ、シエルは痛みのみを感じる結果となった。これでエリゴールは目的を果たすことはできない。呪歌(ララバイ)を巡る騒動はこれで解決…かと思ったがそうもいかない。

 

「けど、どのみちこの魔風壁をどうにかしないことには、結局のところ時間稼ぎなんだよね…」

 

「あっ…そっか…」

 

カゲヤマはまだ目を覚まさない。目を覚まして魔風壁を解いてもらう前に、もし呪歌(ララバイ)がすり替えられていることに気付いたエリゴールが戻ってくれば、何をされるか分かったものではない。どのみちその解決法を探さなければ手詰まりなのに変わりはないのだ。改めてその事実を確認するだけに終わってしまったことに一同が落胆していると、ナツが再び魔風壁に挑んで転がってきた。

 

「お前まだやってたのかよ!」

「早くしねえとじっちゃんたちが危ねえんだろ!?」

「話聞いてなかったのか!」

 

どうやら魔風壁の突破が頭を支配して話を聞いていなかったらしい。グレイがナツの目線をシエルが手に持つ呪歌(ララバイ)に移させると、彼の動きがピタッと止まった。

 

「何でお前(それ)持ってんだー!!?」

「もっかい説明しなきゃダメ…?」

「そうみたい…」

 

シエルたちは先程の説明をナツにも行ったが、やはり状況はあまり改善していない。結局は魔風壁を何とかしなければいけないことに、変わりはないとナツは叫ぶ。何か方法はないかと何度も廻った疑問を考えていると、ルーシィの方に視線を向けたナツが案を浮かべた。

 

「そうだ!星霊っ!!」

 

「え?」

「ん!?」

 

『星霊』と言う単語に、星霊魔導士であるルーシィだけでなくシエルも反応したが、気にせずナツは続けた。曰く、先日エバルーの屋敷で本来星霊のみが通れる星霊界の(ゲート)を通じて場所を移動できたとのこと。あれと同じ原理を使えば外に出られるのでないか、と言う案だった。だが、その案は星霊に一番詳しいルーシィが否定する。星霊界では人間は息ができないため、滞在すると死に至る。さらに言うと(ゲート)を開くことができるのも星霊魔導士のみ。駅の外に星霊魔導士がいなければその手段も不可能なのだ。

 

「ややこしいな~、いいから早くやれよ!」

 

「出来ないって言ってるでしょ!?もう一つ言えば、人間が星霊界に入る事自体が重大な契約違反!あの時はエバルーの鍵だったから良かったけどね…」

 

「え、そのエバルーってやつも星霊魔導士だったの…!?」

 

ルーシィが星霊魔導士の決まりに関して説明してもナツは首を傾げるばかり。そしてシエルは割とどうでもいいところに過剰に反応しているが、ルーシィはこの際もう気にしないことにした。

 

「エバルーの…鍵…

 

 

 

あーーーーっ!!」

 

すると、話にあまり加わらなかった青猫のハッピーがついに口を開き、大声を上げる。小さい体に似合わぬ大声にその場の全員が体を跳ねさせた。一体どうしたのだというのだろう…?

 

「ルーシィ!思い出したよ!!」

「な、何が…?」

「来る時言ってた事だよぉ!!」

 

それはオシバナ駅に向かう魔動四輪で移動している時の会話だった。ハッピーはルーシィに何か伝えなければいけないことがあったが、思い出せずにずっと唸っていたのだ。「ルーシィが変、魚は美味しい、ルーシィは変」などと本人に対して失礼な言葉の羅列であったが。そして完全に思い出したハッピーはと言うと、背中に背負っている荷物の袋から一本の鍵を取り出した。星霊を呼び出すための金色の鍵である。

 

「それ…『バルゴ』の鍵!?ダメじゃないっ!勝手に持ってきちゃー!!」

 

「違うよ、バルゴ本人がルーシィへって…」

 

「ええっ!?」

 

「エバルーが逮捕されたから契約が解除になったんだって。それで今度はルーシィと契約したいって、オイラん家訪ねてきたんだ」

 

「アレが…来たわけ…」

 

ナツたちが先日行った依頼の際に潜入した屋敷の主であるエバルー。実は彼も星霊魔導士の一人だった。当時彼が契約していた星霊が乙女座、もとい『処女宮』の星霊・バルゴ。黄道十二門の星霊の一体である。普段はメイドとしてエバルーの屋敷に常駐し、いざと言うときには彼の警護にも回っていたのだが、数々のエバルーの悪事が世間に露呈。その罪で逮捕されたことによって自動的に契約が解除になったそうだ。

 

鍵で呼び出さなければ人間界に来れないと思っていた星霊が何故ハッピーの元に来たのか、と言うか何故ハッピーの(ナツも同居しているが)居住している場所が分かったのか、色々疑問点が浮かぶが、今は置いておこう。ついでに言うとバルゴの名を聞いた瞬間、黄道十二門の星霊だと気付いてシエルの表情がより一層輝かしいものになったが、それについても置いておこう。

 

「嬉しい申し出だけど、今はそれどころじゃないでしょ!?脱出方法を考えないと!!」

 

「でも…」

 

今大事なのは魔風壁から脱出すること。尚も言葉を続けようとするハッピーにルーシィが彼の両頬をつねって黙らせながら「ネコは黙ってニャーニャー言ってなさい!」と不気味な色のオーラを纏いながら言い聞かせた。

 

「こいつも時々怖いな…」

「意外と強えんだぜ!」

「バルゴ…見たかったのに…」

 

そんなルーシィに若干引き気味のグレイ、どこか感心するナツ、そして別の意味で落胆しているシエルと、反応は様々だった。だが、そんな反応は落ち込んで涙を流しながら呟いたハッピーの言葉で一変された。

 

「だって…バルゴは地面に潜れるし…魔風壁の下を通って出られるかなって思ったんだ…」

 

「な、何!?」

「マジかよ!?」

「本当に!?」

「…?」

「あっそうか!!」

 

風の及ばない地中を通っての脱出。バルゴがそれを可能にするという事実に(ナツを除く)全員が驚愕の表情を浮かべる。シエルは驚愕半分、期待半分ではあったが。

 

「やるじゃないハッピー!!もう何でそれを早く言わないのよぉ~!」

 

「ルーシィがつねったから」

 

「ごめんごめん、後で何かお詫びするから!しますから!させていただきます!!とにかく鍵を貸して~!!」

 

先程まで黙ってろだの言ってた様子と一変して掌をかえしたルーシィは、ハッピーを抱きかかえて喜びのあまり踊り出す。だがそのすぐにハッピーの指摘に途端に再び別方向へと掌をかえして、小さい青いネコに土下座をするというシュールな絵面を晒していた。あまりの醜態にさすがの男三人も軽く引いていたことには幸か不幸か気づかなかった。

 

 

そうしてハッピーから鍵を受けとったルーシィ。全員の視線を受けながら鍵を前方にかざすも、何か戸惑っているように口を噤んでいる。

 

「早くやれよ!」

 

「分かってる…けど…」

 

現時点での脱出方法はこれしかない。星霊魔導士である自分にとって、契約する星霊が増えるのも喜ばしいことだ。ならなぜ彼女は躊躇っているのか、それは身に受ける視線の一つが原因だった。

 

「(ものすっごい期待の眼差しで見てきてる~!!)」

 

その視線はシエルだった。彼女が星霊魔導士と知ってから何度も見てきた彼の様子。彼は妙に星霊魔導士と星霊に対して強い憧れを持っている。だが、今から自分が呼び出すのはエバルーの屋敷にいたメイドの姿の星霊。噂に常々出ていたゴリラのようなメイドとは、彼女の事なのだ。エバルー好みの不細工と言っていい顔立ちに、一回りも二回りも巨大な体躯。先程ハッピーを訪ねてきたという話を聞いた時も、ゴリラの様な見た目のメイドが頭の中を過ったのだ。そんな星霊を、これほどまでに夢見る子供のような眼差しを向ける少年に見せるとなると罪悪感を感じたが、四の五の言っている余裕はない。心の中でシエルに謝罪しながらルーシィは覚悟を決めた。

 

「我…星霊界との道をつなぐ者…汝、その呼びかけに応え、(ゲート)を潜れ!」

 

まだ契約していない星霊を呼び出すための口上を唱えると、彼女を包むように足元から現れた魔法陣の光が溢れ出す。そして、人間界と星霊界の(ゲート)をつなぐ最後の仕上げが行われる。

 

「開け!処女宮の扉!バルゴ!!」

 

その呼びかけに応えるように現れたのは、ルーシィの記憶にあるゴリラのようなメイド…

 

 

 

ではなく、ルーシィと変わらぬほどの背丈と細身ながらもグラマラスな体型を持つ、メイドの衣装を身に纏い、両手首にそれぞれ切れた鎖が繋がれた枷のようなブレスレットを着けた、薄桃色のショートカットに色白の肌、そしてハイライトはないが大きくパッチリと開かれた青い瞳を持つ美少女。乙女の名に恥じぬ容姿を持つ星霊であった。

 

「お呼びでしょうか?御主人様」

 

「……誰…?」

 

その前で初めて見る星霊の召還に感動に打ちひしがれている後方のシエルをよそに、ルーシィは茫然とした様子で呟いた。記憶にあるゴリラの見た目とかけ離れた姿で現れてはその反応も無理はない。

 

「よおマルコ、激やせしたなお前」

 

「バルゴです。あの時はご迷惑をおかけしました」

 

「やせたって言うか別人!!!」

 

ルーシィ同様バルゴの姿を見たことがあるナツは、ルーシィほど驚きもせずに雑談している。別人のような変化であるはずだが激やせで済ませられるものなのだろうか…?

 

「あれがバルゴか~!!乙女座の星霊なだけあってキレイな人~!!」

 

「まあ、確かにかわいらしいじゃねえの」

 

前の姿を知らぬ男二人は少年、または青年らしい会話を繰り広げている。特にシエルは期待通りだったようで、何やら目が光っているようにも見える。

 

「あ、あんたその恰好…」

 

「私は御主人様の忠実なる星霊。御主人様の望む姿にて仕事をさせていただきます」

 

以前は契約していたのがエバルーだったために、エバルーが望む容姿で過ごしていたらしい。本来の姿と言うものが確立していないようだが、契約を結ぶ直前の容姿が今の姿であることが大半なのかもしれない。

 

「前の方が迫力あって強そうだったぞ?」

 

「そうですか?では…元の姿に…」

 

その時事件が起きた。ナツの率直な感想に応えるべく、エバルーとの契約時同様の姿に一瞬で変身したことで、ルーシィだけでなく、シエルとグレイも悲鳴を上げた。予想外の方向から全く覚悟ができていない状態でゴリラのような姿になったバルゴに、ルーシィが「余計なこと言わなくていいの!やせた方でいいから!!」と叫ぶと、またも瞬時に先程のスリムな姿へと戻った。こんな短時間に劇的ビフォーアフターできてしまっていいのだろうか…。

 

「グ、グレイ…俺、疲れてるのかな…?今、キレイだったお姉さんが、一瞬ゴリラに変身したように見えたんだけど…?」

 

「え、あ、ああ!そうだな!オレも見えたんだけどきっとオレも疲れてるんだよな!気のせいだよ気のせい!!」

 

先程まで輝く眼差しと表情を見せていたシエルが一瞬にして絶望に叩き落されたかのように呟く様子に、グレイも現実逃避とフォローを同時に行う器用な真似を披露しながらシエルを励ました。だが少年の夢は無情に打ち砕かれることになる。

 

「いや?確かに体が大きくなったぞ?強そうだった」

 

「「…!!」」

 

「エルザ、それ以上はやめてあげて!!」

 

エルザの一言に現実から逃げれなかった男二人は、ショックのあまり言葉を失った。しかし、これ以上構っていては時間がもったいない。ルーシィがバルゴに契約を後回しにする許可を得た上で協力を要請する。その際本人の希望でバルゴからの呼び方が「御主人様」→「女王様」→「姫」と巡り巡って定着した。ちなみに余談だが女王様と呼んだ理由はルーシィのスカートにつけられた彼女自身の護身用の鞭を目にしたからである。何を期待していたこいつ。

 

「では、行きます」

 

バルゴが魔力を開放すると、床に穴を空けながら彼女は潜りだした。先程のショックから戻ってきたグレイとシエルがその能力に関心を示す。ちなみにルーシィはナツやシエルの様にエルザに頭を胸の装甲に叩きつけられていた。褒めているつもりなのだろうが、誰かダメージしか入らないことを指摘できるものはいないのだろうか…。一方でナツは倒れ伏していたカゲヤマを起こして背負い始めた。

 

「何してんだ、ナツ」

 

「オレと戦った後に死なれちゃ、後味悪ィんだよ」

 

その言葉に意識が少し戻り始めたカゲヤマが僅かに反応した。敵として戦った相手だとしても、見捨てることはできない。場合によっては敵の自尊心を傷つける行為ではあるが、それを咎める者はこの場にはいなかった。

 

そして無事に魔風壁の外へと出ることができた一同。呪歌(ララバイ)は手元にある。エリゴールはまだ戻ってきていない。これからどう行動すればいいか考えなければいけないが、ひとまず魔風壁によって町全体が強風で煽られているため、離れる必要がある。だが、そこでエルザは気づいた。

 

「ん、ナツはどこだ?」

 

「ハッピーもいねえぞ」

 

忽然と姿を消した二人(一人+一匹)。一体どこに行ったのか戸惑いを見せたが、長い付き合いであるエルザたちはすぐに予想がついた。

 

「そうか…ナツは恐らく…」

「あれだけ妖精の尻尾(ウチ)を侮辱されて、黙っていられるわけもないか」

「だろうな」

 

その会話を聞いたルーシィはようやく気付いた。ナツがハッピーを伴って向かうであろう場所は…。

 

「ま、まさか…エリゴールを…!?」

 

たとえ相手が目的を達成できない状態だとしても、家族を手に懸けようとした者を、仲間を大切にしない者たちを、このまま見過ごすことはできない。それが彼らの知るナツ・ドラグニルと言う青年だ。彼らは空を駆ける。死神との決着をつけるため。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)鉄の森(アイゼンヴァルト)の、一つの呪歌を巡る戦いは、終局を迎えようとしていた…。

 




※おまけ風次回予告

シエル「初めて目にした星霊魔法…!感動したな~!!」

ルーシィ「ホントに星霊や星霊魔導士に憧れてたのね。けど、どうしてそんなに憧れていたの?」

シエル「だってさ!人間とは違う、人間とは別の知能や意志を持った存在と絆を結んでいる、そんな星霊魔導士について書かれている本を初めて読んだとき、感動しちゃったんだよ~!」

ルーシィ「目、目が眩しい…!って、あれ?そう言えばシエル、プルーは見たのよね?あの子も星霊なんだけど、仔犬座の」

シエル「それは俺も知ってるよ。でも二コラに関してはよく本で見かけたりするから、正直そこまで珍しく感じなくて…」

次回『強く生きる為に』

ルーシィ「二コラに関する本?そんなのあったかしら…?」

シエル「何てタイトルだったかな~?あ、そうだ、プルーの犬にっ…」

ルーシィ「はいストーップッ!!」
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