FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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タイトルから察した方もいるでしょう。今回は本編をお休みして、本編で入れられるタイミングが見つからなかった番外編をお送りいたします。

どんくらいの長さにするとか全然決まってなかったのですが、普通に本編と同じ長さになっちゃいました。これ癖かな?

最後の方には、本作で初めて使用するアンケートを作りました。正確な情報はあとがきにありますのでそちらを参照ください。


え、今回遅刻するのにあたって連絡もなかった理由?ラストスパート目前で寝過ごしてました、ごめんなさい…。


番外編①

フィオーレ王国の一角にある町・マグノリア。

その町の代表的なギルドと問われれば、ほぼ全員がその名を答えるだろう。魔導士ギルド・妖精の尻尾(フェアリーテイル)。問題も多々起こすが数十年前からマグノリアと共に歩んできたと言っても過言ではない。

 

そんな妖精の尻尾(フェアリーテイル)には近年、若い者たちが…と言うより幼い者たちが魔導士として加入するというケースが、多くなっている。

 

「オイコラ、ナツ!今てめぇ何て言った?あ?」

 

「何度でも言ってやんよ!すぐ服を脱ぐ変態野郎!」

 

そんな幼い者たち…齢にして11~13程の少年が二人、互いを睨みつけながら憎まれ口を叩き合い、喧嘩に発展していた。一人は桜色の短い髪で白い鱗柄のマフラーを首に巻いた少年。もう一人は黒い短い髪で上に何も着ずに上半身を晒している少年。

 

一方をナツ、もう一方をグレイと言うこの少年二人はどことなく相性が良くないのか、その場にいあわせると高確率ですぐさま喧嘩に発展するような仲である。最初は口喧嘩。そしてヒートアップしていけば殴り合い。時には周りに被害を及ぼす魔法を使う始末。だが、そんな二人が喧嘩を始めても、周りにいる同じギルドの魔導士たちは止めようとはしない。

 

「また始まった」と呆れる者。程よい刺激に「もっとやれ~」と煽る者。どっちが勝つのか軽く賭ける者。様々だ。それもこれもこの二人が喧嘩をすることが日常茶飯事だからである。大人たちは勿論、子供たちもそれは百も承知である。

 

「ナツったら…またグレイと喧嘩してる…」

 

「あい、いつものことです」

 

その中に、ある一人の少女も含まれていた。白銀の髪をショートボブで切り揃えており、テーブルに座って両腕で頬杖を突きながら、呆れた様子でナツたちの喧嘩を遠目に眺めている。近くには小さめではあるが、人間の言葉を発する青いネコが、魚を咥えながら同じ感想をこぼしていた。

 

「また物が壊れちゃうな…」

 

「好きにやらせてやれよ、どうせ止まりゃしないんだ」

 

そのテーブル席の近くには、彼女と同じ髪色の少年と少女がそれぞれ一人ずつ。本を読んでいる大人しそうな雰囲気を持つ心配性な少年と、言動から分かる通り荒っぽい印象を与えられる少女だ。ギルドの仲間を家族と称している妖精の尻尾(フェアリーテイル)において、今挙げた3人は血の繋がった兄弟姉妹の珍しい例である。

 

その3人の中で末妹にあたるショートボブの少女――名はリサーナ――は、比較的仲がいいと自負している桜髪の少年が、若干押され気味になっている様子を見て少しばかり肩を竦めながらも、口元に笑みを浮かべてそこに両手を持ってくると…。

 

「ナツー!頑張れー!」

 

と、一言応援をかける。近くで聞いていた兄であるエルフマンが「リサーナまで…」とどこか落ち込んでいるような声色で呟くが、彼女は気にしない。いつも通りの日常、いつも通りの風景。今日一日もそんな風になるのかと思っていた。

 

「お~い、今戻ったぞー!」

 

「マスター!おかえりな…さい、ませ?」

 

所用で外出していた妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター・マカロフがギルドに帰ってきた。いち早くそれに返答をした鎧姿の少女・エルザが視線を出入り口に向けると、マカロフの他に見慣れない人影が映ったことによってエルザの言葉は途切れ途切れとなってしまう。

 

他の面々もそれに気付いたのか、各々首を傾げながらマカロフとその隣に立つ人影へと視線を移す。喧嘩をしていたナツとグレイも一時中断して揃って同じ方向へと目を向けている。

 

「今日から妖精の尻尾(ここ)の魔導士として過ごすことになった、新しい家族じゃ。みんな、仲良くするんじゃぞ」

 

大方の予想通り、ギルドに新しく加わることになった新人だった。歳はナツたちとほとんど差が見られない。また子供の魔導士か、と比較的古株の者たちからは半ば呆れるような視線を受けているが、それを向けられた本人は意に介そうとしない。

 

 

水色がかっていてサラサラした、うなじ辺りまで伸ばされた銀色の髪と、子供が抱えるにしては重すぎると思わせるような暗い影を表情に表していた、顔立ちがやけに整ったその少年。

 

遠目からその少年を見ていたリサーナは、何故かは分からないが彼から目を離すことが出来なかった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

X779年・妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 

 

ほぼ言われるがまま老人に連れてこられたそのギルドにて、自分がここに新しく加入して仕事をすることは何となく察しがついていた。そしてその予感も的中。見知らぬ存在である自分を連れて帰ってきたことによって、ギルドにいる魔導士たちの視線が自然と老人と自分に集中していることはいやでも伝わった。

 

目を伏せて視線を下に向けながらも、少年がそれを感じ取るのはあまりにも容易であった。

 

「さ、皆に挨拶ぐらいはせい。これからはお前の家の、家族になるんじゃからな」

 

顔をこちらに向けながらそう諭すように語り掛ける老人…このギルドのマスターであるマカロフにそう言葉をかけられた少年は、若干下に向けていた視線を上げて、ギルド内の魔導士たちにそれを向ける。彼の言葉の通りに、その時まで噤んでいた口もそのまま開いて言葉を発し始めた。

 

「名前は『ペルセウス』…。一応いくつか魔法は使えるし、こことは違うギルドでも仕事はしてたから、戦うことに支障はない」

 

一度向けていた視線を外しながらも、淡々とした口調で自分について語る少年、ペルセウスの言葉に、またも子供ながらに魔導士として戦う者が増えたことに関して、関心を示す大人たち。どのような魔法を使うのか、どこから来たのか、それから違うギルドとはどんなところなのか、色々と聞きたいことはあるがまずは一通り紹介を聞いてからだと、口を挟まずに一同が静寂を保っていると…。

 

 

これ以上話すことはないと言いたげに、ペルセウスは以降の言葉を一切発さずそのまま立ち尽くしていた。

 

「「終わりかよ!?」」

「短っ!!」

 

何とも短い自己紹介を済ませたことを察したナツとグレイ、そしてリサーナが声を揃えてそれぞれ叫ぶ。分かりやすいリアクションを示した3人に対して、他の面々はと言うとペルセウスに対する印象が不愛想な子供であると自然にインプットされた。横にいたマカロフも何て言っていいか分からないと言いたげな微妙な表情を少年に向けている。「もうちょっと何か言うことないかの…?」と表情そのままに問われたが「別に…」と素っ気なく返すあたり、何言っても同じだろう。

 

「で、仕事は何をすればいい?」

 

「む、早速か?その前にお前さんにギルドマークをつけねばならんのじゃが…」

 

「…わかった」

 

来て早々に依頼を受ける意思を示したペルセウス。だがその前に妖精の尻尾(フェアリーテイル)に加入したことを示すための登録作業が必要となる。それがまず必要だと伝えれば、素直に応じて受付嬢の元で簡単な手続きを行う。

 

そして最後の仕上げである妖精をかたどった紋章を、己の左頬に刻んでもらい、いよいよもって正式に妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員として登録された。これでするべきことは済ませた。

 

「それで、仕事は?」

 

「あそこにある依頼板(リクエストボード)の中から、自分で受けたい仕事を選んで、ワシか受付に持っていけば受けられるぞ」

 

依頼板(リクエストボード)を指さしながらマカロフが答えると、彼は微かに目を見開いて驚愕を表しながら、少しばかり声にも乗せて口を開く。

 

「…どれでもいいのか…?」

 

「そうじゃ」

 

あまり感情を表に出さないために分かり辛いが、少年は心底驚いた。自分で受注したい依頼を、一覧から見て自分で選ぶ。他のギルドでもやっているこの受注システムを、ペルセウスは初めてその目にしたからだ。前にいたギルドでは、自分から依頼を選ぶ権利など、少なくとも自分には存在していなかった。

 

多少戸惑いながらも、依頼を選ぶために依頼板(リクエストボード)へと歩を進め始めるペルセウス。だが、その進路をふさぐように突如彼の前に桜髪の少年が割り込んできた。

 

「なあなあ!お前、前のギルドでも仕事してたんだって?もしかして強ェのか?オレはナツだ!オレと勝負しろ!!」

 

「いきなり!?」

 

初対面にも関わらず早々になぜか勝負を吹っかけてきたナツ。唐突な展開にペルセウスが「訳が分からない」と言いたげな顔をナツに向けるが、本人は全く意に介さない。と言うか気付いているかも怪しい。周りの者たちもいつもの事だと特に気にしている様子はない。ツッコミを叫んだリサーナを除いて。

 

わざわざ勝負の相手になる意味もない。そう判断して、ペルセウスは遮ったナツの横を無言で通り過ぎようとする。

 

「おい!無視すんなよ!!」

 

そんな対応に勿論ナツが放っておくわけもなく、そのまま依頼板(リクエストボード)へと向かうペルセウスの後を追いながら叫ぶ。「勝負しろって言ってるだろ!逃げるのか!?」と言いながら止めようとするが一切反応を示さない。

 

ギルドの者たちは諦めた方がいいんじゃないか?とナツに言葉をかけるが、それも聞かずにめげずにペルセウスと勝負したいのか彼の腕をつかんでその足を止める。無理矢理止められたことによってただでさえ不機嫌そうに歪めていた表情をさらに嫌悪に染めながら、ペルセウスはようやくナツに反応を示した。

 

「なんで俺がお前と勝負しなきゃいけないんだ、俺に何のメリットがある?」

 

「メリット…?知らねーけど…とにかくどんだけ強ぇのか知りたいんだよ!!」

 

「俺はお前なんかと勝負する余裕はない。仕事に行くから邪魔するな」

 

そう言いながらナツに掴まれた腕を無理矢理振り払って、ペルセウスは今度こそ依頼を受けようと歩を進める。さすがにもう諦めるだろうと、彼はナツに背を向けて歩いていくがその考えは甘い。どうあっても勝負がしたいナツにとって、口だけで大人しくさせることは不可能に近い。怒りと苛立ちを隠そうとせず右の拳に炎を灯すと、勢いよく彼の背中目掛けて飛びかかる。

 

「いいから勝負しろーっ!!火竜の…!!」

 

実力行使。先制攻撃を仕掛けて是が非でも勝負に繰り出すことにしたナツにさすがのギルド内も目を見張る。しかし、同様に仕掛けてくると思わなかったペルセウスは半ば反射的に振り返ると同時に右手に青い魔法陣を展開してそこから身の丈を超す青い長槍を顕現する。

 

「換装…!?」

 

ペルセウスが扱った魔法に、エルザが真っ先に気付いて反応を示す。その魔法は自分と同じ系列のものであり、周りの者たちも年少組で頭一つ抜けた実力者であるエルザと同じ魔法を使用した少年に驚きを示している。そして…。

 

「ぐっふぉ!?」

 

そのリーチを活かして、こっちに飛び掛かってきたナツの横っ腹を長い柄で思い切りぶっ叩き、そのまま飛んで行ったナツの身体がギルドの壁に激突する。勢い余って壁が突き破られてしまうほどの威力だ。

 

「「ナツー!!?」」

 

一撃。瞬殺。そんな言葉が似合う呆気ない結末。リサーナとハッピーがギルドの外へと吹き飛ばされたナツの名を呼びながら彼の元へと駆け出していく。それを認識したペルセウスは、自分が思わずとってしまった行動を自覚し、バツの悪そうな顔を浮かべた。向こうから仕掛けたこととは言え、衝動的に自分より年下の少年を己の武器で叩き飛ばしてしまった。

 

ギルドの中にいる者たちから、ペルセウスに視線が集中する。誰もが浮かべている表情は驚愕。突如起こった出来事に対する困惑。静まり返ったその空間を感じて、ペルセウスは後悔が過った。同じギルドにいる者に危害を加えた。元の場所がもう存在しない中、今の自分の居場所はここになる。だが、今の自分の行いは、その居場所から追い出されてもおかしくない事件だ。居たたまれない心情を抱えたペルセウス。この後起こることを様々想定して表情を暗くする…。

 

 

 

「ぷっ…ふふ、あっはははは!!なっさけねーな、ナツ!あっさりやられちまってんじゃん!!」

 

だが、彼の耳に聞こえたのは長い銀色の髪をてっぺんに纏めた粗暴の印象を持つ少女、ナツの元へと駆け寄って行ったリサーナの姉であるミラジェーンの笑い声。彼女も周り同様最初は目を見張っていたのだが、ようやく我を思い出したように状況を理解し、その瞬間我慢できなくなったように大声で笑い始めた。

 

「だっははは!全くだ!」

「思いっきし吹っ飛んでったな!」

「やるじゃねーか新入り!」

「てかその武器凄そー!」

 

想定していた状況とは全く違う出来事。ミラジェーンの笑い声から起点として、ギルド内の大人や子供も混じって笑い声に包まれる。一部は除くが、大体がナツがあっさり返り討ちにされたことに対してツボに入った者たちだろう。

 

そんな光景を前にして、ペルセウスは思わず呆然。何だここは。仲間が吹き飛ばされて笑っていられる…前のギルドでは自分がその笑われる対象であったのに、感じる印象は全くの別物。侮蔑と嘲笑に塗れた過去の場所と違い、ここではただただ愉快そうと言う印象だ。

 

「ナツ、大丈夫?」

 

「く、くっそ~…!!」

 

「思いっきり飛んでったね」

 

そして外へと飛ばされていたナツは助けられたのか、腹部を押さえながらリサーナたちとそんな会話をしている。意外に平気そうだ。ギルド内の愉快そうな会話はこの頑丈さが理由なのかもしれない。それを抜きにしても妙な光景を見ている気分だ。

 

とりあえず追い出されるということにはならなさそうだ。一撃とはいえ勝負もしたし、これ以上邪魔をされることはないだろう。そう判断して、ペルセウスは今度こそ依頼板(リクエストボード)から依頼書を一つとってマカロフの元へと持っていく。内容は近場で被害が出てるという盗賊の退治と言う()()()()()()ものだ。

 

「あ!次はゼッテー負けねぇからなーっ!!」

 

受付を済ませて手早くギルドの門を出たペルセウスに気付いたナツが、リサーナに傷を診てもらいながら彼に向けてそう叫ぶ。それに振り向きもしないでため息を一つつきながらその場を後にして目的の場所へと向かっていった。

 

「……」

 

そんな彼の後ろ姿を見ていたリサーナは、何を思ったのか彼のあとを追う。それを見たナツが「え、おいリサーナ!?」と声をかけるが、「ごめん!ちょっと話だけしてくる~!」と言う言葉だけ残し、そのまま駆け足で彼を追っていった。一体何のつもりだろう。あいつにどんな用があるのだろう。なんだか面白くない、と言った様子でナツの表情が膨れ面になっていく。

 

「あれ?ナツ、そんな顔してどうしたの~?」

 

「な、何でもねぇよ!!」

 

「どぅえきとぅえるぅ~!」

 

「巻き舌で言うな!!」

 

それを見たハッピーがニヤニヤしながら揶揄ってくるのを赤い顔で反論するナツ。この揶揄い方は割と前からあったらしい。

 

「にしても、なんか不愛想な奴だな…ペルセウス…だったっけ?言い辛ぇ名前だな…」

 

「だが実力は確かのようだ。扱っていた武器も、あいつ自身も。態度はともかく」

 

「同感だな。素っ気ねぇあの態度は、なんか気に食わねぇ」

 

「(お前ら二人にだけは言われたくねぇ…)」

 

依頼へと向かっていったペルセウスの第一印象を目にしたグレイ、エルザ、そしてミラジェーンが口々にその感想を告げる。だが、グレイからして見ればエルザたちもそれぞれギルドに来た頃の態度はペルセウスとほぼ同等のものだった。口にしたらボコボコにされるので絶対言わないが。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ペルセウスがギルドに加入してから早数日。彼はほぼ毎日ギルドに来てはいくつも依頼を受けて全て成功させるという驚異的なスピードで実績を積み重ねていた。今までの年少組も大人顔負けの魔法で活躍をしたものだが、彼は以前の経験があった故か、他よりもさらに頭一つ抜けている印象だ。

 

だがしかし彼は今、自分がこなしている功績に反して、どこか苛立ちを感じた表情で、ギルド内のテーブルで軽食を食べていた。何故そんな表情を浮かべているのか、それは一人の少年が原因だった。

 

「ペルセウスー!!オレと勝負しろーっ!!」

 

こちらが食事中にも関わらず両手に炎を纏ってこちらに駆け出してくるナツの声を聞いた瞬間、彼のこめかみに青筋が数本走る。またお前か。あいつのせいでギルド内ではまともにゆっくりできる気がしない。他の誰も止めようとしないし、一部の注意も聞く気がないし、正直彼はナツが勝負を挑まなくなる可能性を完全に諦めていた。故に…。

 

席を立ちあがると同時に彼が向かってくる方向においてある椅子を脚で押し出し、ナツの脚へとぶつける。走っていたナツはそれを躱すことも出来ずにバランスを崩して前のめりに。慌てて態勢を立て直そうとするが、それよりも早くにペルセウスは倒れそうになっているナツの下に魔法陣を展開。そこから現れた紫電の大鎚が彼の身体を天井目掛けて吹き飛ばす。

 

「だぁあ~~~!?」

 

そのまま天井すれすれまで飛んでいき、重力に従って落下。今回も一撃瞬殺。最早周りの者たちは見慣れた光景とばかりに一切驚かずに談笑に戻ったり愉快そうに笑っている。だが笑いがこぼれる周りとは違って、ペルセウスの機嫌は全くもってよくなる気配がない。

 

それもそのはず。ペルセウスがギルド内でナツと出くわすたび、ナツが自分に勝負を吹っかけてくるのだ。最初は適当にあしらって立ち去ろうとしていたのだが、こいつは本当にしつこい。

 

朝、ギルドに顔を出せば「今日こそオレが勝つ!!」

依頼を終えてギルドに戻れば「ペルセウス!勝負しろ!!」

それを返り討ちにして依頼の報告をし、次の依頼に行こうとすれば「まだまだ!オレは負けねぇぞ!!」

挙句の果てに、夜になってギルドから帰ろうとすれば「絶対オレが勝つ!勝負しろーっ!!」

 

以上の様に、そんな事が毎日続いているのだ。一々相手していられないのだが、相手しないと延々と勝負勝負とうるさいので仕方なく相手している。ひどい時には依頼先まで来るのだから本当に執念深い。いつになったら終わるのかと何度思ったか。

 

「今日もペルセウスの勝ちか~」

「てか、ナツもよくやるよな~」

 

外野は外野で他人事としてしか受け止めていないのが尚更腹が立つ。ナツがしばらく伸びている間に、ペルセウスは残っていた軽食を平らげ、食器をカウンターの方へと持っていく。大抵の者たちは放ったらかしにすることが多いのだが妙に律義な彼はそれをしない。

 

「随分となつかれたのう、ペルセウス」

 

「どこをどう見たらそう見えるんだ…?」

 

どこか微笑ましげな表情を浮かべながらカウンターに乗って胡坐をかくマスター・マカロフにそう言われ、心底不服と言いたげにペルセウスは表情を歪める。冗談でも勘弁願いたいものだ。一方的に勝負を吹っかけられて、何度弾き返しても戻ってくる迷惑小僧に、なつかれてるだなんて考えたくもない。

 

「それと、今日はもう終わりにするから」

 

「ん?そうか、今日じゃったか。わかった」

 

マカロフからの軽口に似たからかいをかわし、簡単に一言を告げると了承を得て、そのままギルドの外へと向かっていった。

 

何日かに一度はそうだ。早めに依頼を切り上げてどこかへと向かっている。そうして彼がギルドを出て数分。ずっとのびていたナツが目を覚ましてギルドの中を見渡し始めた。

 

「くっそ~!アイツ…どこ行った!?」

 

「今日はもう帰っちゃったよ?」

 

「何ー!?どこ行ったんだー!!」

 

起きて早々ペルセウスと勝負することで頭がいっぱいのようだ。ハッピーが背中に小さい白い翼を生やしながら飛行してきて告げた言葉に、ナツは文字通り怒りを燃やしている。

 

「ふむ…そうじゃのぅ…ワシもちと用事もあるし、ちょうどいい。ナツ!」

 

すると何かを思ったマカロフが、ナツをおもむろに呼び出すと、不機嫌そうな表情を引っ込めないまま「何だよじっちゃん?」と聞き返す。それに対して笑みを浮かべながらマカロフはこう告げた。

 

「ペルセウスがどこに行ったか、教えてやろう」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

マグノリアの東に位置する森の中を、マカロフの先導に従ってナツと、その相棒であるハッピーが後からついていく。

 

「こんな森の中に本当にあいつがいるのかよ、じっちゃん。つかどこ向かってんだ?」

 

「着けば分かる」

 

答えを尋ねても先程からこれだ。ついていけば分かるとしか、今の彼はマカロフから聞かされていない。ナツの顔がさらに憮然と言いたげなものへと変わっていく。だが、彼が不機嫌そうなのはさらに別の理由があった。

 

「ハッピーはともかく、何でお前もいるんだよ?」

 

それはナツの隣に立って同じ歩調で歩く白銀髪の少女リサーナ。マカロフについていくためにギルドの外へと出たナツに、追いかける形で彼女も同行してきたのだ。

 

「だって、私も『ペル』がいつもどこに行ってるのか、気になるんだもん。それにペルってどことなく放っておけない感じがするし」

 

「…『ペル』って…ペルセウス(あいつ)の事か?」

 

悪びれた様子もなく答えたリサーナ。だがナツが気になったのは別の部分。彼の名前を少し縮めたような呼び方をいつの間にかしていたことが、妙に気になった。

 

「だって、ペル、セ…ウス?ってなんか呼びにくいし、それにミラ姉みたいに可愛い呼び方でしょ?」

 

「可愛い…?」

 

呼びにくいことはともかく、ミラ姉…もといミラジェーンが可愛いと言うイメージを持ってるのは同意しかねる。ナツにとってミラジェーンはエルザと並ぶ凶暴な女魔導士だからだ。可愛いとは程遠い。

 

「呼びにくいのは確かだけど、可愛いか、その呼び方?」

 

「せめて呼び名ぐらいは可愛げがあってもいいのではと、私も思わなくもないが…」

 

「つーか何でお前らもいんだよ!?」

 

ナツたちの後方から口を挟んだのは、何故かリサーナ同様勝手についてきたグレイとエルザだ。何でこの二人まで来てるんだ。一体何をしに来た。そんな言葉を言いたげなナツの声が森の中に響くと、彼らもまた悪びれる様子もなく答えだす。

 

「あいつ新入りのくせにやたらと目立ってんだろ?そんなやつがコソコソと何してんのか気になるじゃねーか?」

 

「ペルセウスは私と同じ魔法を使うらしい。そこを起点に徐々に私も興味を持ち始めたのだ。普段どのような事をしてるのかをな」

 

二人もそれぞれペルセウスの行動がやたら気になっている様子だ。もっともらしい理由を述べてはいるが、マカロフに誘われたのはナツだ。ギルド内で依頼もあったはずなのに、それを押しのけてこっちの方に同行するほどの理由なのだろうか?

 

「…本音は?」

 

「「暇だったから」」

 

「帰れ、お前ら!!!」

 

と、突如振り返ったマカロフに問われた二人が即答した。そもそも依頼を受けてすらいなかった。あまりにも適当な本音を聞いたナツは鬼のような形相を浮かべながら思わず叫んだ。ハッピーは特に表情を変えていないが、リサーナは苦笑いだ。呆れてものも言えない。

 

「しかしマスター。確かこの先には、ポーリュシカさんの住処しか、めぼしいものはなかったはずですが…?」

 

「おお、そう言えばエルザは来たことあったのう」

 

「え、ばっちゃん家?」

 

そんなコントのようなやり取りはさておき、エルザが思い出したようにこの先に関しての話題を出した。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の専属顧問薬剤師である老齢の女性、ポーリュシカ。彼女は極度の人間嫌いであり、人里から離れた自然の中で生活し、薬剤の精製や研究を行っている。

 

逆に言えば、彼女以外に人間が立ち入ってまで行う用が思い浮かばないのだ。エルザはマカロフに連れられて通ったことのある道だから、気付くことが出来た。

 

そんなポーリュシカしか人間がいない森の中で、ペルセウスが数日おきに行く理由は…。

 

「どっか身体でも悪ぃのか?」

 

「そんな風には見えなかったが…」

 

「ケガとかしてるのかな…?」

 

彼自身の身体の異常を治療するため?と言った可能性が浮上するが、それを耳にしているマカロフは肯定も否定もしない。気付けばあっという間に目的地、ポーリュシカの住処である内部を切り抜いた大木で出来た家の前に着いた。

 

「さて…あやつは恐らく…」

 

そうぼやきながらマカロフは門扉ではなく、横の方にある窓の方へと歩を進めていく。頭に疑問符を浮かべながらも子供4人も後に続き、立ち止まって振り返ったマカロフが目的である窓を指さすと、4人は横一列に並んでその窓から中の様子をのぞき込む。

 

「それで、そこからどうなったの?」

 

「空中に浮遊させていた魔力弾を、一気に全方向から叩き込んだんだ。巨体だった分、的もデカかったから全弾命中してな。そいつはもうピクリとも動かなくなった」

 

「凄い…!やっぱり“兄さん”はすっごいや…!」

 

そこから見えたのは目的の人物であるペルセウス。だが、ギルドでは全然見せたことのない穏やかで、時に自慢げな笑顔を浮かべながら、彼を“兄”と呼ぶ、彼によく似た更に幼い少年と楽しそうに談笑している様子だった。

 

「「(だ、誰だアレーー!?)」」

 

「別人のようだ…」

 

「あの子…ペルの弟かな…?」

 

「かな…?」

 

声には出さなかったがナツとグレイにはその様子が物凄く衝撃的だった。ギルド内では陰のある表情で不愛想な印象を持つペルセウスが、あんな明るい表情が出来たことに、驚きを隠すことが出来ない。その衝撃はエルザも同等だが、顔にもあまり出さずに目を見開く程度で済ませている。

 

そしてリサーナが気になったのは、ペルセウスと話しているもう一人の少年だ。彼と顔立ちはよく似ているが、その顔色は蒼白で良好には程遠く、笑みを浮かべているがどこか力を感じない。髪は短めで色はペルセウスと同じ。だがよく目を凝らすと、左目の上の部分に金色のメッシュが一筋入っている。そして会話の内容から察するに、ペルセウスの弟であることは間違いない。

 

見るからに病弱そうな弟が、ベッドの上に横たわりながら兄を話す姿を見て、女子二人とネコ一匹はすぐに合点がいった。ペルセウスは普段寝たきりになっている弟の見舞いをするために、数日に一回ここを訪れているのだと。

 

「ねえ、兄さん…新しいギルドの人たちって、優しい人たちなのかな?」

 

「え、ど、どうした、いきなり…?」

 

すると弟が突然零した質問に、思わず彼の肩がはねる。あまりギルドの中で、自分は交流を持たないようにしていることを明かせば、きっと弟の表情はさらに暗くなることが分かっている。まだ自分の中で妖精の尻尾(フェアリーテイル)に信頼しきれていない部分がある故に。

 

「ほら…兄さん、前のギルドって、あんな感じだったから…。もし優しそうな人たちが多いなら、みんなと仲良くなれるんじゃないかって…兄さんと同じぐらいの年の人たちもいるんだよね?」

 

「ああ、まあ、な…。少なくともあそこよりはいいとこだと、思う」

 

前のギルドでは、兄弟共々まともな生活が出来なかった。依頼は指定されたものしか受けることが出来ず、それが犯罪に問われるようなことであっても、拒否することを許されなかった。報酬としてもらえるのは弟の薬のみで、貰えなければ弟の命もすぐに危うくなる。

 

おまけにギルドの中では誰一人味方がいなかった。ペルセウスがこなした依頼で手に入った報酬は自分たちが使い、感謝の言葉でなく嘲笑と侮蔑を浴びせられることがほとんど。

 

だがここでは違う。笑い合うことがあっても侮蔑なんて一つもなく、依頼は自分に合った好きなものを選べて、報酬もちゃんと自分の分として受け取れる。何と言っても、ギルドの仲間を本当に大切にしていることがよくわかる。

 

そして何より、無条件で弟の病気を治すために、尽力してくれる。

 

「頭の中ではわかってるんだ。あいつらは前のとは絶対違うって…。本当の本当に、仲間と言えるかもしれない存在なんだって…」

 

だが、今まで虐げられるばかりだった人生。急激に環境が変わって、心の整理が未だに追いつかないのだ。一歩踏み出せば変わるはず。けどその一歩が果てしなく重い。

 

「けどいつか…本当の意味で仲間になれたら、そしてお前の病気が治ったら、その時は紹介するよ。『俺の、今の仲間だ』って」

 

「うん!楽しみにしてるね、兄さん!」

 

今はまだ踏み出すための勇気が足りない。それでももし、その時が来たのなら…その時は自慢の一つとして弟に語りたい。本当の意味で仲間が出来たということを。

 

 

 

 

 

「ところで兄さん…さっきから気になってたんだけど…」

 

「…なんだ?」

 

「あの人たち、新しいギルドの人?」

 

話も一区切りついたと思ったら、弟から部屋の窓の方を指さされて思わずそっちに視界を移す、すると、ペルセウスは言葉を失って目と口を全開にした。

 

 

 

 

 

そこには目から思いっきり涙を流している妖精の尻尾(フェアリーテイル)内でも見かけた同世代の魔導士たちが窓からこちらを覗いていた光景だった。

 

「お、お、お前ら!何でここにいる!?何で覗いてんだ!!そして何でもれなく全員泣いてんだ!!?」

 

どこから見られていたのかも分からないからか、恥ずかしそうに顔を赤く染め、彼らに向けて怒号を放つ。

 

「す、すまない…今までお前がそんな苦労をしていたと知らず、勝手なことを…!だが安心しろ、ペル!誰が何と言おうとお前は私たちの仲間だ!」

 

「何を安心しろと!?そもそも覗かれてる時点で何も安心できねぇよ!!」

 

左目から次々溢れ出てくる涙を拭いながら、涙声でそう告げるエルザ。エルザの安心しろと言う言葉は、ペルセウスにはどうやら違う意味として伝わっているようで説得力がないらしい。

 

「オ、オレは別に…泣いてなんか…ねーし…!ちょっと胸にググっときて、目の中の氷が溶けてきただけで、泣いてなんか、ねぇ…!」

 

「どんな誤魔化し方だよ!つか泣いてるのと同じようなもんだろ!何なんだよおまえ!」

 

グレイは泣いていると言ってもどこかこらえようとしている様子だ。だがしかしこらえきれずにボロボロと両目から止まることなく涙が出てきて、全く収まる様子がない。

 

『うぉおお~~~~~ん!!!』

 

「そしてお前らはやけにうるさいな!何て言ってるのか聴き取れねぇよ!!」

 

ナツ、リサーナ、ハッピーはどうやら涙腺が崩壊したらしい。噴水の様に両目から涙を噴き出して言葉を話すことすらままならない。

 

各者各様に涙している様子を遠目に見ながら、ペルセウスの弟、シエルは呆然としていた。こんなにも自分たちを思って泣いてくれた者も、その反応に対してツッコミを入れる兄も、初めての事だ。少し前まで感じることも出来なかったであろうことに、彼は自然と自分の頬が緩むのを自覚した。

 

 

 

「やっかましいよあんたたち!!用がないならとっとと帰りなぁ!!」

 

「せ、先生!?すみませんっ!!」

「げっ!ばっちゃん、怒ってんぞ!?」

「あれ!マスターいなくなってる!?」

「身の危険を察知して先に避難されたか!?」

「じいさん一人だけ逃げやがったなぁ!!」

「お、お邪魔しました~!!」

 

すると部屋の外から家主であるポーリュシカが怒り心頭と言った表情で入り込んできた。その様子を見て身の危険を察知した妖精の少年少女は一斉に窓から離れてギルドの方へと戻っていく。

 

 

 

「なんだか、賑やかで…いい人たちだったなぁ…」

 

それがこの少年、シエルが抱いた妖精の尻尾(フェアリーテイル)への第一印象。それから2年もの療養生活の合間に、窓から覗いていた彼らがシエルの見舞いによく顔を出すようになったのは、また別の話である。




今回の番外は、ペルが妖精の尻尾(フェアリーテイル)に加入した時の話でした。今後もちょっとした話…主に過去話で本編に入れるタイミングが分からないものを不定期で書くことがあります。その時はその時で楽しんでいただけると幸いです。

あと今後番外が増えたらそっちはそっちで別の小説枠としてまとめたいな…。


そして前書きにも書いたアンケートについてですが、二週間後から更新を始める幕間章は、主にアニメオリジナルの話を主軸に書く予定です。でも全部やると結構時間と話数がかかってしまうので、一話完結の回に関してどれか一つだけその幕間章で執筆したいと思います。
候補は同時期にやっていた3つから。一番多かったものを今回の幕間で、選ばれなかった残り二つは天狼島編前の幕間でアレンジを加えながら書いていきます。

では、また二週間後の幕間章で、お会いしましょう!

5.5章で執筆してほしい、アニメオリジナル回のタイトルを選んでください

  • 虹の桜
  • ウェンディ、初めての大仕事!?
  • 24時間耐久ロードレース
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