FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

72 / 140
活動報告には未定って書いたけどまさか朝になるとは思わなかった…。まあ、小一時間ほど寝落ちしていたのが主な原因なんですが…。

それはそうと、アンケートへの多数の投票、まことにありがとうございます!一応まだ期間は設けているんですが、ほぼほぼ決定なんじゃないかな~って思うレベルで一位と二位の差が凄まじいですw 今から構想固めなきゃ…。


第67話 竜の誘い

連合軍の作戦が終了した日…もといウェンディとシャルルがギルドに加入してから、一週間が経過した。まだ加入したばかりと言うことで女子寮への加入手続きや、ギルド内での空気に慣れることから始め、そろそろ彼女も依頼を受けて仕事に向かう事を考えていることだろう。

 

彼女に想いを寄せている少年シエルは、今日マグノリアにある一つの露店の前で、まるで対面する人物の証言に疑惑を抱えるかのような様相…目を細めて口元に右手をつけながら、露店に並ぶ品々を見ていた。そんなただならぬ少年の様相を見ながら、店主である男性は顔に苦笑いを浮かべていた。

 

側から見れば並んでいる品に偽物が混じっているのを見極めようとしている少年と、それがバラされそうになって内心恐々としている店主の図だ。が、別に店主には後ろ暗いことがあるわけではない。シエルにもそんな意図はない。では何故店主が少しばかり顔を引き攣らせているのか…?

 

答えは単純。シエルが購入する品を決めきれずに長考している為だ。かれこれ一時間である。更に言えばこの店では一時間だが、その前に二件ほど同じぐらいの時間見て回っていたりする。

 

「(ウェンディに合いそうなもの…どれがいいだろうな…?)」

 

そんな彼が求めているもの…それはウェンディへの贈り物だ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の加入記念と言う名目で、シエルは彼女にプレゼントをしたいと考えている。少し前まではこのような行動もほとんど無かった。シエル自身もそれは自覚している。

 

だがそもそもは、前日のギルドでのある会話が発端だ…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「ジュビア、ちょっと話があるんだけど…」

 

「はい?なんでしょう」

 

その日シエルはギルドで、珍しく一人で行動していたジュビアに声をかけた。いつもならグレイの姿を見つけてすぐさま駆け寄るような彼女にしては珍しかったが、シエルにとっては今は好都合だった。その場で話を聞こうとしていたジュビアだったが「ここじゃちょっと…」と手を招いて端っこのテーブル席の方へと移動して、向かい合って座ったところでようやく話に切り出せた。

 

「シエルくんの方からジュビアに声をかけるなんて珍しいですね。どうかしたんですか?」

 

「…ジュビアには、話しておかないとって思って…」

 

いつもであればグレイとのことについて相談に乗ってもらったり、アドバイスを受ける為にジュビアがシエルに声をかけることが多い。だが今回は逆だ。シエルの方からジュビアへの用件があること自体が、彼女にとっては珍しい。何かあったのだろうかと言うジュビアの疑問は、次のシエルの一言によって一瞬で解決した。

 

「…好きな女の子ができたんだ…。その、色恋的な、意味で…」

 

顔を赤くして俯きながら呟いた彼の一言に、ジュビアも同様に顔を赤くして目を見開き、口元に思わず両手を持って覆った。同時に理解もした。何故自分にその話をしたのかも。

 

「え、えーと…こういう時どう言ったかしら…あ、えと、おめでとうございます?」

 

「俺も分かんないけど、取り敢えずありがとう…」

 

何やら混乱しているようだが、取り敢えずジュビアから言われた祝福に礼を返しておく。まだ成就したわけじゃないのに…。

 

「ちなみにお相手は?」

 

「この前入った新人の子…」

 

「あぁ、確か…ウェンディ、でしたっけ?」

 

ジュビアの記憶から、藍色の長い髪をしたシエルよりも幼い少女が浮かび上がった。そして自分と同じように女子寮に引っ越してきたこともつい先日なのでよく覚えている。しかしまだシエルは、ウェンディと連合軍としての作戦参加の際に会ってからそれほど日が経っていない。それを思わず口に出してみればシエルは再び顔を赤くして片手で顔を覆いながら「え、と…その…」と声を漏らすばかりだ。

 

だがジュビアは謎の確信を得ていた。出会って日が経っていないのにこれほどまであの少女に対する好意が明確に現れている。だがそれは、自分も似たような経験があったから察することが出来た。可能性があるとすればたった一つだ。

 

「ひょっとして…一目惚れ…?」

 

言われた瞬間シエルの肩が跳ねた。そして図星を突かれたことで頭の上に両手を持って行って抱える様にして机に突っ伏した。絞り出すような声で「改めて言われるとスッゲー恥ずい…!」とも言っているし、相当惚れ込んでいることがジュビアにはわかった。

 

自分よりも年下で、子供にしか見えない外見でありながら、普段のシエルはそれを感じさせない大人らしい一面が目立っていた。年上である自分よりもしっかりしているのでは…と何度思ったことか。

 

だが今の、一人の少女に対しての感情一つに振り回されているシエルを見ていると、普段と違って年相応の少年にしか見えない。その様子がどこか微笑ましいとジュビアは感じていた。

 

「シエルくんも男の子なんですね」

 

「…他の人には言わないでね…。バレてるような気もするけど…」

 

覆い隠した手の隙間から目を向けながら、赤くなっている顔のまま呟いたシエルの言葉に、笑みを零しながら「はい、ジュビアは応援してますよ」とジュビアは答える。グレイに関することには暴走気味になる上にリミッターなんて存在しないジュビアであるが、それに目を瞑れば基本は誠実で仲間想いの少女である。グレイに関する相談ごとによく乗ったこともある事に加え、その一点がシエルがジュビアにウェンディのことを打ち明けた理由の一つだ。

 

「それで…早速相談なんだけど…」

 

そして打ち明けたもう一つの理由は、ある意味本命である恋愛相談だ。これまでジュビアのみが相談を持ち掛けてきたのとは正反対で、今度はシエルからの相談と言うことになる。

 

相談の内容と言うのは彼女との距離の縮め方だ。物語の世界でどのように恋愛が進むのか、と言うのはある程度知っている。しかし知っているのと、それが最適なのか否かを見極めるのは全くもって違う。

 

六魔将軍(オラシオンセイス)と戦っている際は、度々行動を同じにすることが多かったから話すことも必然的に多くなっていたからよかったが、こうしてギルドの中にいると様々な魔導士がウェンディに接していく。明らかに下心を見せている奴らならともかく、ルーシィやレビィと言った面々と過ごしているのに割り込むわけにもいかない。

 

ただ普通に話をするだけでそれが出来るわけでもない。焦っているわけではないのだが、何かできることがあるのではないか?と考え、中々アイデアが思い浮かばなかったためにこうして相談をするのに至ったわけだ。

 

日頃は自分が相談に乗ってもらっている立場である故か、真摯にシエルの相談事に耳を傾けてジュビアは思案する。そして思いついたのか「あ!」と声を出せば、彼にこう提案をしてきた。

 

「ではプレゼントを贈るというのはどうでしょう?」

 

「プレゼント…?」

 

ウェンディはギルドに来てからまだ日が浅い。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に新たに加入した記念と言うことで、彼女が喜びそうな何かを用意してプレゼントする。知り合って間もない間柄でのプレゼントは、何かと怪しまれそうな気がするが、記念と言う形にすればそれも自然な形に出来る。確かにこれなら上手くいきそうだ。正攻法の上に工夫も施されている。

 

だがそうなると問題は、プレゼントする物の内容だ。彼女が喜びそうなもの…基本女性が欲しがりそうなものを安易に選ぶわけにもいかないが…。

 

「ジュビアだったら、何が欲しいの?」

「ジュビアですか?それは勿論、グレイさ…」

「ごめん、ジュビアにこの質問した俺がバカだった」

「せめて最後まで言わせてくださいっ!?」

 

参考として目の前にいる少女に聞いてみた…のだがちょっと考えれば想像が出来た返答を最後まで聞くことなくバッサリと切り捨てた。赤く染めた頬に両手を当てて答えかけたジュビアは、全身で驚愕を露にしながら、心の奥から叫んだ。

 

「そ、そうだ!アクセサリーとかどうでしょう!?」

 

明らかに白けた様子の目をこちらに向けるシエルを見て、ジュビアは彼の質問の意図を改めて汲み取って焦りを感じながらもその答えを導き出すことに成功する。ネックレスやイヤリング、ブレスレットと言ったオシャレなアクセサリーは確かに女性が好むことも多いし、普段よく身につける小物類は貰い物として困る心配もほとんどないと言える。

 

「アクセサリーか…」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ジュビアへの相談と数時間を優に超える長考の結果、ようやく目的のものを購入するに至ったシエル。丁重に包装紙で包まれたそれを手に持ちながらギルドへと歩を進めている。

 

「ウェンディ、喜んでくれるかな…?気に入ってもらえると良いな…」

 

今日起床してからまっすぐに露店商に向かって行ったため、ウェンディどころかギルドの者たちとはまだ誰とも会っていない。だが今シエルの脳裏には、自分が渡すプレゼントを受け取り、眩しい笑顔を浮かべながらシエルに礼を告げる少女の姿が浮かんでいる。

 

想像するだけでどうしても口元が緩んでしまい、気分も高揚してくる。誰かに見られたら十中八九怪訝な視線を向けられそうなものだが、その事実にシエルはまだ気づいていない。早くギルドに向かおうと、思わず動かしている足を速め駆け足気味になる。少しでも早くウェンディに渡したいという気持ちでいっぱいだ。

 

そして改築してからもう見慣れ始めてきたギルドの門を目に写したところまで来たところで、ちょうどそのギルドから出て小走りでこちらに来る者たちを目にして思わずシエルは足を止めた。

 

「あれ、ナツにウェンディ?」

 

まさにシエルが尋ねようと思っていたウェンディ。そして桜髪の青年ナツと、二人のそれぞれの相棒であるシャルル、ハッピーも共にいる。向こうも自分に気付いたようでシエルの名を呼んで彼の元で一度その足を止めた。

 

「お前、今ギルドに行くとこか?」

 

「うん、ちょっと買い物してて…みんなはどこ行くの、仕事?」

 

「ううん、ちょっと街の西にある荒れ地に行くところなの」

 

「西の荒れ地?」

 

何故そんなところに行こうとしているのか不明瞭だが、先程ギルドに来ていたグレイから凄い情報がもたらされた。何でも、マグノリアに今、ドラゴンを見たことがある人物が来ているらしい。

 

名前は『ダフネ』。街の中でドラゴンの事を得意げに話しているようで、最近会ったとも語っているとのこと。西の荒れ地にある『ライズ』と言う宿を滞在中の拠点にしているらしく、その人物からドラゴンの話を聞くために、魔法を教えてくれた親のドラゴンを探す滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の二人はそこに向かうところだったという。

 

「…もし本当だとしたら、凄い事だな…。そのドラゴンが、誰っていうのは?」

 

「そこまでは分からないみたいで…」

 

「けど、確かめてみる価値はあんだろ?」

 

「あい!」

 

魔法が溢れる世界でもドラゴンの存在は希少なものだ。数百年前は多くのドラゴンがいたとも言われているが、今の時代では目撃の情報が一切と言えるほど存在していない。故に人を引き付ける一種の魔力のような話題性が存在するため、ガセネタの可能性も捨てきれない。

 

だがそれでも、親を見つける可能性がある方に賭けたいというのが、ナツたちの想いだ。

 

「つうわけで、オレたちすぐにでも行かなきゃいけねーんだ。んじゃ行くぞ!」

 

「あ、待ってよナツー!」

 

「あっ、えっと、私たちもそろそろ行くね?シャルル」

 

「ええ」

 

ナツを皮切りにシエルに一言告げながら、4人はあっという間にその場を後にして西の方へと小走りで行ってしまった。「あ…」と声を漏らして去って行った一同…正確にはウェンディに手を伸ばしかけるが、残念なことに既に彼女の背中は遠くへと行ってしまい、届かなかった手を漂わせながらシエルは立ち尽くすことしかできない。

 

「……渡せなかった……はぁ…」

 

ドラゴンが絡んでいるとなればそちらを優先させたいという気持ちは分かる。だがそれはそれとして、先程まで浮かれていたシエルの気分は嘘のように沈み込み、トボトボと言う効果音がつくような動きで、ギルドへと足を運んで行った。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

それからしばらく時間が過ぎた。朝から数時間以上も長考してようやく選んだプレゼントを渡すタイミングを失ったシエルは、見るからに落ち込んでいますと主張する影のオーラを発しながらテーブルの一つに頭を突っ伏していた。

 

周りの魔導士が時々こちらに視線を投げかけてくるが、雰囲気が雰囲気だけにそれも少し憚れてしまう。話しかけてきたのはミラジェーンぐらいだ。だがシエル自身も大分ショックだったのか、単純に話すのを躊躇ったからか、「ちょっと、ね…」と言う一言以外ろくに発していない。

 

一部何となく気付いていそうな反応を示す者もいるが、今のシエルにはそれにすら気付かない。と言うか意識を向ける気力もない、と言うのが正しい。

 

「マスター、急ぎ報告したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 

「ん…?」

 

すると、ギルドに入って早々にマスター・マカロフの元へと足早に駆けつけて告げた鎧姿の女魔導士エルザ。真っ先にマカロフの元へと報告する様子を見るあたり、ただ事ではないことは明らか。妙な雰囲気にギルド内にいる魔導士のほとんどが、テーブルに頭を預けていたシエルも含めてそちらに注目した。

 

「今、マグノリアに妙な存在が潜伏しているようです。つい先ほど、私もその襲撃を受けました」

 

エルザが告げた内容は周りの魔導士たちを動揺させるには十分だった。この街中でエルザを襲撃する存在など、よほどの実力者か、無謀者のどちらか両極端。更に言えば街中と言う人気も多い場所でも堂々とかかってきたということは大胆とも見れる。その上少しばかり対峙した後、気付けば姿と共に気配も完全に消えていたという。

 

更に言えばその襲撃者は、エルザと同様に武器の換装を使いこなしてきたという。

 

「換装魔法を使う襲撃者…」

 

「無論、換装を使いこなす者は他にもいる。ペルもその一人だ。だが、私が気になるのはあの襲撃者から感じたニオイだ」

 

「ニオイ…?」

 

当時に感じたニオイ。その襲撃者から感じたそれは、獣のニオイと言うべきか…人の息遣いではなかったという。マグノリアの中で何やらまた妙な連中が動きを見せているという事だろうか。

 

「ならば、いずれ姿を見せる。焦らぬことじゃ」

 

「では、このままで良いと?」

 

「警戒は必要じゃが、気にすることもあるまい。相手がお前との対決を望むなら、いずれ現れる」

 

今現在で向こうの目的が分からない以上、一度襲撃されたエルザだけでなく、他の面々も襲撃を警戒しておく方が吉だろう。気を付ける様にしようという考えに、場にいる者たちは統一される。

 

「グレイ、ナツにも…あれ、グレイは?」

 

外出しているナツに伝えるよう願い出ようとして振り向いたルーシィは、先程までいたはずの青年がどこにも見当たらなくなっていたのに気づいた。周りの者たちもいつからいなくなっていたのか気付けていなかった。

 

すると、突如ギルドの床に波のような水があふれ始める。何だか一週間ほど前にも見たような光景…。

 

「グレイ様なら、行先も告げずにどこかへ行ってしまわれましたぁ…!!」

 

連合軍での作戦から帰還した後にグレイを思って流した時と同様の、洪水の涙を両目から溢れ出しながら、嘆きの声と共にそう説明をこぼした。仕事なのか?そう聞き返しても彼女すら分からないらしい。

 

「こんな時に一体どこ行ったんだよ…?」

 

ひとまず、行方も分からないグレイはともかく、ウェンディたちがギルドに戻ってきたら、襲撃者には注意するように伝えなくては。そう決めてシエルは彼らの帰りを待つことにした。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

既に外は夕暮れも過ぎ去って夜に差し掛かった時間帯。だが、待てども待てども、一向にウェンディたちが帰ってくる様子がない。

 

「遅い…遅すぎるぅ…!何でウェンディたち帰ってこないんだーーっ!!」

 

「落ち着けよシエル…」

 

全く帰ってこないウェンディを心配して、頭を抱えながら叫ぶシエルに呆れた様子でマカオが声をかける。相当心配しているという風に見られているが、彼女たちを心配しているのは何もシエルだけではない。

 

「だが、シエルの言うとおりだ。あまりにも遅い。もう帰ってきてもいい時間だぞ」

 

「ドラゴンの話を聞くだけだもんね。確かに遅すぎるかも…」

 

エルザやルーシィも、シエルほど取り乱してはいないがさすがにおかしいと思っているようだ。まだ明るい時間帯で向かって行ったにも関わらず、外が暗くなった今もなお帰ってこないなど。ナツ一人が向かったならまだしも、ウェンディたちが共にしているのだから尚更だ。

 

「昼間、私を襲撃した者の事も気になる。もしや、ナツたちも…」

 

謎の襲撃者に、帰ってくる様子の無いナツたち。無関係とも思えないエルザがその推測を口にしている。もう一つ言えば、ナツたち以外のものにも心配を向ける人物がいる。

 

「ジュビアはグレイ様が心配です。何だか胸騒ぎがして…グレイ様に何かあったんじゃないかって…」

 

昼間にギルドでグレイの様子を見てから、どうにもジュビアはグレイの身を心配している。どこかいつもとは違った様子に加えて、何も告げずにギルドからその姿を消した。帰ってこないナツたちとのことも相まって、嫌な予感がするようだ。

 

「それこそ気にしすぎじゃねぇか?」

 

「直接家に(けえ)ったかも知んねぇだろ?」

 

「恋する女の直感に、間違いはありません!!」

 

あんまり深刻そうに受け止めていないベテラン二人組の言葉に、恋敵を見るような形相で断言をするジュビア。その様子に思わず二人は恐々としてしまう。

 

やはりこのままギルドの中でじっとしてはいられない。シエル自身もどこか嫌な予感を感じ始めた。

 

「俺、探しに行ってくる!心配で気が気じゃないよ…!」

 

「一人では危険だ、私も行こう。ルーシィも来てくれ」

 

「オッケー」

 

たまらず名乗り出たシエル。そしてそれを一人では無理があると窘めながらエルザも同行を名乗り出て、ルーシィも同行させようとする。

 

「なら、ジュビアも一緒に!」

 

「オレもついていこう」

 

「いや…お前たちはここで待機していてくれ。ここは手薄にしない方がいい」

 

そうして、シエル、エルザ、ルーシィの三人が、ナツたちの捜索のために西の荒れ地へと向かい始めた。ギルドの面々がそれを各者各様の感情を込めた目で見送った。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

存在するのは植物どころか雑草一つすら生える様子の無い荒れた地面、そして所々から隆起した大きさのバラバラな岩の柱。ルーシィがグレイから聞いていたライズと言う旅人向けの宿がある場所はここのはずだったのだが…。

 

「何も見当たらない…」

 

「確か、この辺のはずなんだけど…」

 

そう、宿らしき建物が…と言うより、建物自体が見当たらないのだ。細かい場所が違っているのか?それを確かめるためにも一度乗雲(クラウィド)を使って上空から調べた方がいいだろうか?と考えたところで、ここまで閉口していたエルザが口を開けた。

 

「気をつけろ、二人とも」

 

「え?」

「どうかしたの…?」

 

「獣のニオイだ…」

 

エルザがその言葉を口にすれば、タイミングを見計らったかのように地面に魔法陣が出現。そしてそこから全身をフード付きのローブで覆い隠した人型の存在が現れる。

 

「な、何よこいつ!?」

 

「まさかあいつが、エルザの言ってた…!」

 

「ああ…襲撃者だ」

 

ナツたちが向かったと聞いていた宿があると思った場所に、エルザを襲い掛かってきた襲撃者の姿。やはり無関係ではなかったようだ。そして今この場に姿を現したということは、こちらに対して敵意があるという事。

 

「お前たちは離れていろ」

 

シエルとルーシィにそう告げながら、エルザは二対四枚の翼の装飾が特徴的である天輪の鎧に換装。同様に二本の剣を両手に換装した襲撃者と対峙する。そしてどちらからともなく剣を突き出し、つばぜり合う。

 

「目的はなんだ!答えろ!!」

 

そのまま押し込み剣を振り切れば、襲撃者が纏っていたフード付きのローブが切り刻まれる。だが、露になった頭を目にしたエルザはその驚愕を表情に表した。

 

 

 

その理由は、襲撃者の頭部が人間のものではなく、トカゲの頭そのものであったから。よく見れば、下半身には大きな尻尾も存在している。物語上で登場する二足歩行のトカゲの戦士『リザードマン』を彷彿とさせるような存在だ。

 

襲撃者もといリザードマンは、動揺でしばし固まっていたエルザに再び襲い掛かり、彼女にも負けない剣捌きを繰り出していく。

 

「加勢するよ、エルザ!竜巻(トルネード)気象転纏(スタイルチェンジ)!」

 

戦況が劣勢だと判断したシエルが彼女を援護しようと竜巻の魔力を細長い槍の形へと変えていく。風廻り(ホワルウィンド)(スピア)であのリザードマンを貫こうと照準を合わせようとすると…。

 

「シエル、危ない!」

 

ルーシィからの声が届き、反射的にその方向へと目を向ければ、エルザが対峙しているリザードマンとは別の個体が、シエルが作ったものと同じような風の槍を片手で構えながらこちらに投げようとしているのが目に映る。

 

「なっ!?くっ!!」

 

それを理解したシエルは標的を瞬時に変更し、風の槍を自分を狙うリザードマンへと投げつける。対して無効も風の槍を投げつけ、二つの風の槍は正面から激突し、その場で大きな竜巻となって相殺される。

 

「一体だけじゃなかったのか!?」

 

恐らく最初に出てきた個体同様魔法陣が出されて現れたのだろう。だがこの辺り一帯にどれほどの数が存在するかも見当がつかない。竜巻が発生している機に乗じて雷を纏ったシエルがリザードマンに急接近し、一体を素早く確実に仕留めようと考える。しかし、シエルの高速の攻撃は、同様に雷を纏ったリザードマンが同じ速度と威力で対抗し、防がれてしまう。

 

「こいつ…雷光(ライトニング)も使って…!?いや違う…!」

 

天輪の鎧を纏い二本の剣で戦うエルザに対して同じ二本の剣で対応。ルーシィの様子を見てみれば、近接戦闘を得意とするロキを相手に同じように近接戦闘で応戦。そして、自分に対しては、発動していた風の槍と、雷による身体強化。

 

「こいつら…俺たちと同じ能力をコピーしてる…!?」

 

相対している魔導士の属性に対して、同じ属性の力で対応するように自動的に組み込まれているように見える。見た目はトカゲで、言葉を発さず、機械的に行動する。意志のない人口生命体…ゴーレムと似た系統の存在であると推測が出来る。

 

「そういう事なら…カギを握るのはやり方、だな」

 

魔法の属性、威力はこちらと互角になる。ならばそれを超えるためにはどうすればいいか。オリジナルのシエルだからこそできる工夫である。まずは乗雲(クラウィド)を出してそれに乗り、リザードマンから距離をとった。すると、向こうも同じように雲を出現させてそれに乗り、距離をとろうとしているシエルを追いかけ始める。

 

隆起した岩の柱を避けながら空中をかけていく二人。後方を気にしながらスピードを上げていたシエルは、一瞥した後動きを見せる。

 

稲妻の剣(スパークエッジ)!!」

 

雷の魔力を刃に変えて右手に構える。勿論、後方にいるリザードマンも同様に雷の刃を構えるが、シエルはそれをリザードマンに向けはしない。気合の声をあげながら隆起した岩の柱を一本、雷の刃で通りざまに両断する。

 

そして斬られた岩の柱は、上の部分がそのまま崩れ始め、重力に従ってシエルが通った方向へと倒れていく。そこにちょうどいいタイミングでリザードマンが通りがかり、崩れた瓦礫が直撃。衝撃でリザードマンは下の方へと落下していく。

 

だがシエルの行動はそれだけで終わらない。リザードマンが瓦礫にぶつかった直後乗雲(クラウィド)を解除して雷光(ライトニング)でリザードマンの真上へと移動し、さらに纏っていた雷の魔力も解除した状態で、両手に魔力を集中させていく。

 

「さあくらえ!竜巻(トルネード)!!」

 

掌から横方向に巡る竜巻を発射。対するリザードマンもそれに対抗するように同様の竜巻を発射する。だが、シエルが上、リザードマンは下と位置関係上、下に向けて竜巻を撃ったシエルはともかく、上に向かって撃ったリザードマンは落下のスピードをさらに上げてしまって急降下。その勢いのまま地面に叩きつけられる。

 

地面が陥没する勢いで落下したリザードマン。これだけでもかなりの損傷だが、シエルの攻撃はこれだけに終わらなかった。自分自身が放った竜巻と、リザードマンが撃った竜巻によって起きた風を、改めて自分の手元へと集約させて作られた風の槍を右手に構えながら、口元に弧を描いて狙いを定める。

 

「同じ属性、同じ魔法でも、お前とは頭の出来が違うんだよ。トカゲモドキ!」

 

そして最後のトドメとばかりにリザードマンの胸目掛けて風の槍を投げつける。見事に命中し、刺さった部分から爆発のような突風が巻き起こって、リザードマンは破裂四散。無事撃破に成功した。

 

エルザとルーシィの様子も見てみると、二人ともどうやら各々撃破出来たらしい。謎の襲撃を退けたことで一息を吐いた…のも束の間だった。

 

突如辺り一体の空間が歪み始め、先程まで何もなかった空間に、巨大な物体が徐々にその姿を現し始めた。

 

「…え!?」

「はぁ!?」

「な、何だこれは…!?」

 

先程のリザードマンとは比較にならないほどの巨体、頭部や尻尾は似た系統であるようだが、何より差異を感じるのは両腕の様につけられた巨大な翼だろうか。その様相はリザードマンとは違う、純粋なドラゴンのよう。今まで影も形も見えなかったその存在を目の当たりにして、三人は口をあんぐりと開けて絶句している。

 

《ハイハイハイハイ!隠匿魔法解除!魔水晶(ラクリマ)コア、起動準備!各関節アンロック!神経伝達魔水晶(ラクリマ)、感度良好!》

 

すると巨大なドラゴンらしき物体から、妙にテンションの高い女の声が響き渡る。この物体…もしくは機械と言うべき存在を製作、操縦している人物なのだろうか?

 

火竜(サラマンダー)以外の不純物、とっとと出てけー!!》

 

その声と共に、ドラゴンの胸部分から、何かが避難するように飛び出てきたのがシエルには見えた。そしてよく目を凝らしてみると、翼を背中から生やした青ネコと白ネコにそれぞれ手を引かれてドラゴン型の機械から離れようとしている藍色髪の少女の姿が映った。

 

「ウェンディ!今助けるっ!!」

 

「え、ウェンディ!?どこ!?いた!?」

 

真っ先に気付いて雲に乗りながら少女たちの元へと向かったシエルに、ルーシィから驚愕の声が上がる。何であんな状況で遠目からなのに気付けたんだ…。

 

「おーい、みんな大丈夫かー!?」

 

「「シエル!」」

「オスガキ!」

 

気付いたすぐに接近出来たおかげか、特に大事がない様子でウェンディたちの救出に成功する。だが、あと一人、ナツの姿だけが見当たらない。

 

「ねえ、ナツは?何があったの?」

 

「じ、実は…!」

 

《ハイハイハイハイ!それじゃあ火竜(サラマンダー)の魔力、吸収開始!!…『ドラゴノイド』…起動!!》

 

雲の上に全員載せたところで質問したシエルにハッピーが答えようと口を開けるが、それを遮るように、再びドラゴンから声が響いた。火竜(サラマンダー)の…ナツの魔力を吸収と言ったか?

 

「まさかあの中にナツが!?」

 

「そのまさかだよー!!」

 

「エルザたちにも説明が必要だから、一度そこまで下ろしてもらえる?」

 

「分かった!」

 

『ドラゴノイド』と呼ばれた人工ドラゴン。それの起動による咆哮のような雄叫びの余波を何とか掻い潜り、シエルたちはどうにかルーシィたちの待つ地上へと到達することが出来た。その間にも中にいると思われる女がナツの魔力を得てドラゴノイドが完成したという話を声高々に宣言もしたが、シエルからすれば聞いてて気分が悪くなるような内容だ。

 

「お前たち、無事だったか!」

 

「ねえ、何がどうなってるの!?ナツは!?」

 

地上に着いてエルザとルーシィからそれぞれ今起きていることを問われると、ハッピーを起点として語られた衝撃の事実を三人は耳にすることとなった。

 

「捕まっちゃってるんだよ!グレイがダフネって奴と手を組んで、ナツを罠にかけたんだ!!」

 

『グレイが!!?』

 

突如姿が見えなくなっていたと思っていたグレイが、まさかここにきて、それも裏切りに等しい行為をしていたことに、声を揃えてその驚愕を表している。ダフネと言うのはドラゴノイドを操縦している女の事だろう。そのダフネに操られているのか、と言う疑問は残念ながら違うことが明かされる。

 

「操られてるわけじゃなくて、自分の意思だって…。私たちにも、よく分からないんです…」

 

一体どういうことなのだろうか。グレイは何考えてこのような事を起こしたのか。恐らく実際にその場にいたウェンディたちにも、それを理解することが出来ないだろう。

 

「っ!グレイ…!」

 

ドラゴノイドの頭部、そのてっぺんに腕を組んで佇み、こちらを見下ろしているグレイの姿を見て、いやが応にもそれが真実であることを場にいる者たちは理解させられてしまった。




おまけ風次回予告

シエル「ナツが捕まって、人工ドラゴンのドラゴノイドに取り込まれて、グレイも裏切って…何でこんなことになっちまってんだよ!?」

ハッピー「あのダフネって奴、物凄く勝手な奴なんだよ!ああいうのってマッドサイエンティストって言うんだよね?」

シエル「俺もそう思う。他人の魔力を勝手に使って、その成果をマグノリアの破壊で証明するとかほざいて、あったまくるぜ、全く!」

ハッピー「オイラも頭に来てるよ、絶対許せないよね、あれ!」

次回『ドラゴノイド』

ハッピー「だってあんなに体でっかい癖に空飛ぶんだよ!?空を飛ぶなんて卑怯だよ!許せないよ、ね!シエル!」

シエル「…あー、うん、ソウダネー。一旦魔法を使った自分鏡で見てみようかー」

5.5章で執筆してほしい、アニメオリジナル回のタイトルを選んでください

  • 虹の桜
  • ウェンディ、初めての大仕事!?
  • 24時間耐久ロードレース

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。