FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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ここ最近で一気に冷え込んできましたね。キーボードを打つ手がかじかんでうまく打てなくなってきています…。大丈夫かな…。

ドラゴノイドの話を更新している癖にこんなこと言うのもあれですけど…頭の中でエドラス編の話の構想ばかりが浮かんできちゃって、「ああ…早くエドラス編書きてぇなぁ…」って考える時が多いですw

12月から多分スタート…出来ると良いなぁ…。←


第68話 ドラゴノイド

月明かりのみが場を照らす夜の荒れ地。人工型のドラゴンと称されたドラゴノイドの頭に乗りながら、月を背にしてこちらを見下ろしてくる青年。同じギルド、同じチームとして共に戦っていたグレイが、ドラゴノイドを作り上げたダフネに協力し、ナツを罠にかけたと聞いたシエルたちは、その様子を見ながら言葉を失い彼を見上げている。

 

「グレイ!貴様が本当に妖精の尻尾(フェアリーテイル)を裏切ったと言うなら、理由(ワケ)があるはずだ!!」

 

何の理由もなしに長年いたギルドを裏切るような行為をするとは思えない。彼の行動にはそうさせるだけの理由があるはずだ。しかしそれを尋ねたエルザに、ドラゴノイドから近くの岩場に飛び降りたグレイが告げた答えは、仲間たちをさらに絶句させる冷たいものだった。

 

「ねえよ。そんなもん」

 

「何…!?」

 

彼の言葉は本当なのか。だとしたら尚更理解が出来ない。グレイがダフネに協力するメリットが…ナツを貶めること以外に存在していないというのだろうか?

 

《ハイハイハイ!こうして私の研究の成果が実を結んで、ドラゴノイドが完成したってわけ!お前たちはそれを祝福すればいいんじゃなぁい?》

 

すると、ドラゴノイドが起動する際にも聞こえてきた女の声が、先程同様拡声器越しに聞こえてきた。やはりこの女がダフネで間違いないのだろう。

 

「速やかにナツを返せ!!」

 

《それは出来ない相談ね。このドラゴノイドがナツ・ドラグニルの魔力を吸い取って動いてるって、知ってんでしょ?その魔力を吸い尽くすまで、ナツ・ドラグニルは返してあげな~い》

 

「魔導士にとって、魔力は命にも等しいものなんだぞ…!?」

 

その魔力を吸い尽くすということは、ナツの生命力が枯渇するまで永遠に動力源として利用することだ。最悪の場合は魔力を吸い尽くされて、ナツが命を落とす可能性も大いにあり得る。

 

「どうしよう…このままじゃナツが…!」

 

「何とかあれを止めて、ナツを取り返さないと!」

 

「邪魔するつもりならやってみろよ。もっとも、お前らごときの力じゃ、チャージ完了までもたねぇだろうがな」

 

手遅れになる前にナツを助け出そうと意志を露わにするが、それに答えるようにグレイが挑発してくる。今までの彼からは想像もつかないような言葉が自分たちに向けられていることに、年単位で彼と過ごしてきたエルザやシエルの表情はさらに歪む。

 

「っ!ドラゴンマニアが高じて、人工的にドラゴンを作り出そうとしている、危ない魔導士がいるって…聞いたことがあるけど…!」

 

「それがあなたなの!?」

 

思い出したようにシャルルが口にした噂。明らかに目の前にいる人工ドラゴンとそれを作り出した女を示しているのは明白だ。ウェンディも気付いたようでその事実確認を伝えると、再び拡声器越しで質問に回答する。

 

《その失礼な噂はこう変わるわね。『天才科学者ダフネが人工的にドラゴンを作り出すことに成功した』ってね》

 

「最終的にナツの力に全部頼った癖に、過大評価も甚だしいぞ!」

 

《科学の“か”の字も知らないお子ちゃまに何と言われようと知ったこっちゃないわね。完成に至るまでは、本当に長い道のりだったわ》

 

ナツを動力源としないと動かせないようなものを作ったくせに、随分と自己評価が高いダフネに対して叫んだ嫌味も、どこ吹く風として返される。だがそれ以上に、ダフネが語りだしたドラゴノイド完成までの道のりは場の者たちの言葉をさらに失わせるものだった。

 

まず第一歩は人工ドラゴンの卵の孵化に成功したことから始まった。孵化したドラゴンたちの実験データをとるために、ダフネは自分が住んでいた街を何とそのドラゴンたちに襲わせた。街として規模もそれなりにあり、住人も多数存在していたことから、データをとるのには最適だった。それだけの理由の為に。

 

だが、その街の住人たちは、彼女自身も含め、皆自分の存在を感知させなくするための魔法――『隠匿魔法(ヒドゥン)』――を使うことが出来た。住人たちはこれを使用することによって、誰一人人工ドラゴンの犠牲になることなく、その身を隠すことが出来た。

 

しかしダフネにとっては、実験データの取れない街や住人など用無し。自分の邪魔をした罰と称して隠匿魔法(ヒドゥン)を自発的に解除できなくさせた。そして隠匿魔法(ヒドゥン)で姿を隠した住人を感知できない不完全なドラゴノイドも、互いに同士討ちをさせることによって遠回しに処分させた。

 

街の住人は姿を消され、人工ドラゴンも全滅。そして全ての用がなくなったダフネも、街を去った。その一日で何もかもが見えも聞こえもしなくなってしまったその街は、やがて『音無しの街』と呼ばれるようになったと言う。

 

《その後も研究を続けた私は、ついに気付いたの。ドラゴノイドを動かすには、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の力がいるってね…》

 

そして滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるナツがいるマグノリアにまで足を運んだ。全ては、己の目的であるドラゴノイドを完成させるため。だがその過程において、自らの価値観のみ尊重し、他者の犠牲などに一切罪悪感を持っていない様子の彼女に、とてつもない異常性を感じずにはいられなかった。

 

《ハイハイハイ!ナツ・ドラグニル…火竜(サラマンダー)よ!!命を賭して働くがいいわ…。この私と、私の野望の為に…燃え尽きろぉ!!》

 

ダフネが叫ぶと同時に何かを操作したのか、ドラゴノイドの胸の部分に埋め込まれている赤い宝玉と赤い眼が光り、その巨体を動かし始める。動かしたのは足一つ。一度浮かせてから地面にもう一度叩きつける。だが巨体故にその行動のみで辺りに衝撃を生み出し、砂煙が地上にいるシエルたちに襲い掛かる。

 

「何すんのよ!危ないでしょ!!」

 

「大きいうえに、物凄く迷惑な感じが…!」

 

砂煙によって目や口を閉ざして堪えることしか出来ない。近場にいる自分たちの存在など眼中にない…あったとしても、そこらへんにいる虫程度の認識での行動で、周囲に及ぼす被害など顧みないさまが、ルーシィの言うように激しく迷惑だ。

 

「貴様!こんなものを作り上げて、一体何をしようと言うのだ!!」

 

《ハイハイハイ!私の野望…それは究極のドラゴノイドを完成させることよ!これもまだ試作品に過ぎないの。まずは現段階での能力を、テストテストー!!》

 

そう言うともう一度ドラゴンの足を、今度は何度も上げ下げを繰り返して、周辺の地面を破壊し、砂煙を超し、振動を響かせる。悲鳴を上げながらも必死に妖精たちは回避に専念せざるを得ない。

 

《ハイハイハイ!脚部の動作がぎこちないわね!ハイハイハイ!徒歩での移動は無理っと!!》

 

「迷惑!物凄く迷惑な奴!!」

「オイラ知ってるよ!!こう言うの“マッドサイエンティスト”って言うんだ!!」

「最早“マッド”を通り越して“バッド(最悪)”なサイエンティストだよ!!」

 

これ以上暴走させればいつナツが魔力を吸い尽くされるか分からない。何とかして止めなければいけないが、中にいるナツの安全を確保したうえで止めるには、力づくで行うのは難しい。

 

「中にナツさんがいるんじゃ、迂闊に手出しできません…!」

 

「そう?別にいいんじゃない?」

 

「いやいや、そういうわけにも…」

 

ナツの身を危険に晒すわけにもいかないと言葉を出すウェンディ。だが、彼女の傍を飛行するシャルルはあっさりと、別に力づくでもいいのではないかと意見をぼやく。いくらナツが人並み外れた耐久力を持っているからと言えど、さすがに度外視して攻撃を与えるわけにも…と、考えて今までのナツの頑丈さを垣間見てきた瞬間が、シエルの脳裏によみがえってくる。シャルルに一度は言いかけた否定は徐々に薄れていき…。

 

「…なんか、ナツならアレが大爆発しても問題なさそうな気がしてきた…」

 

「シエルまでぇ…!」

 

信頼故か、ただ適当なだけか、ナツへの随分と大雑把な定義づけを苦笑をまじえて口にするシエルに、思わずウェンディが泣きそうな声で告げた。だって本当にそんな目にあってもケロッとしてそうだもん、あいつ。

 

「グレイ…これがお前の望んだことか…!?」

 

慌てふためき、どうすればいいか思いあぐねているこちらをただ見下ろして眺めているグレイに目を向け、エルザが独り言ちる。何故グレイはダフネのようなバッドサイエンティストの目的に加担し、協力を申し出たのか。彼女の独りよがりな言動から見れば、そんな気を起こすことはあり得ないというのに。

 

すると、住宅街の存在する方向から、猛スピードでこちらへと走ってくる魔導四輪が一台。それには、運転席に一人、乗車席に一人、そしてその乗車席の上・ルーフに仁王立ちをしているものが一人の、計三人の男が到着する。

 

「グレイてめぇ!!」

「とんでもねーことしでかしてくれたなぁ!!」

「漢として、貴様をギルドに連れ戻す!!」

 

マカオ、ワカバ、そしてエルフマンの三人がそれぞれグレイに告げ、ルーフに立っていたエルフマンがすかさず彼へと飛び掛かる。対してグレイは少しばかり目を見張り、抵抗する間もなくエルフマンのビーストアームによる一撃を腹部に食らい、その場で気絶する。

 

それを横目で見ていたシエルは、その光景に妙な違和感を感じたが、現時点でそれに気付くことは出来なかった。

 

「悪く思うなよ、マスターの命令だ」

 

エルフマンが言いながら、グレイの身体を抱える。エルザがマカオ達から話を聞いてみると、マスター・マカロフもどこからかダフネの情報を掴んだらしく、ドラゴノイドへの処分は、グレイの話を聞いてから決定するとのこと。その為、エルフマンたちがグレイをギルドへと連れ戻す役割を与えられたとわけだ。

 

「じゃあ、その間に俺たちはこいつの足止めを…って!?」

 

ドラゴノイドがこれ以上の動きをしない為にも足止めをしようと考え動こうとした瞬間、向こうもその動きを見せ始めた。大きな一対の翼を広げ、羽の部分が光り輝きだす。そしてその大きな翼を羽ばたかせると、徒歩での移動が出来なかったドラゴノイドの巨体が空中に浮かび出した。徒歩がダメなら飛行で。それを体現したかのような光景に、場にいる者たちは驚愕を表す。

 

「飛ぶなんてずるいぞーっ!」

 

「あんたが言わない!」

 

普段から思いっきり空中を飛行しているハッピーの発言は放っておいて、ドラゴノイドが飛んで行った方向を目にしたウェンディが気付いた。

 

「大変!あの方角は…マグノリアに向かってますよ!?」

 

「あのデカブツで、今度はマグノリアを壊すつもりか!?」

 

「おのれ…!!」

 

罪のない無関係の街や、その住人達にまで危害を及ぼそうとしているダフネの所業に、更に怒りが込みあがるのを感じる。このまま奴の思うとおりにさせるわけにはいかない。

 

「ルーシィたちは、ギルドに戻って皆に出動を要請してくれ」

 

「ハッピーたちの(エーラ)があればすぐに街に戻れるし、街の人たちを安全な場所に避難させてほしい」

 

マグノリアの街を守るために、ギルド全員で協力する必要がある。何が起きても対処できるように、先に街へと戻れる彼女たちに伝達と避難誘導を託す。だがそうすれば、ドラゴノイドは好き勝手に暴れまわるだろう。勿論そちらを放置する気もない。

 

「俺が、あのドラゴノイドの翼を止める」

 

目標は飛行している人工のドラゴン。実際のドラゴンを見たわけではないシエルだが、紛い物の存在に自分が扱う天候魔法(ウェザーズ)が通用しないはずがない。止められないとしても、足止めをすることは叶うはずだ。決意を込めた返事をすれば、ウェンディもルーシィも、それ以上の言葉を発することは出来なかった。

 

「…分かった…!行くよ、ハッピー!」

「アイサー!」

 

「私たちも行くわよ、ウェンディ」

「うん!…シエル、気を付けてね…!」

 

少女たちはそれぞれ翼を広げたネコたちと共に、そしてシエルは自分が具現化した雲にエルザと共に乗り、それぞれ街と、同じ方角を進むドラゴノイドを目指す。エルザがシエルと共に乗ったのは、彼女もドラゴノイドを止めようと志願したからだ。

 

「お前たち!グレイの事、頼んだぞ!」

 

「アイサー!」

「どっちもナツを頼んだぜー!」

「漢として!!」

 

「任せてくれよ!!」

 

並走してドラゴノイドへと近づいたマカオたちにグレイを託し、シエルは雲の高度を上昇。一気にドラゴノイドへと近づいていく。

 

「前方、竜巻注意報!竜巻(トルネード)!!」

 

ドラゴノイドの行く手を阻むように、両手を突き出して放てばその巨体をも押し出すほどの強風で巡る竜巻が発生。一定速度で進んでいたドラゴノイドの速度が、著しく低下しているのが見えた。

 

「エルザ!」

 

「ああ!」

 

速度が下がったところを見計らって、エルザが換装で直剣を呼び出しながら飛び掛かる。そして剣を振り上げた瞬間、間に入るようにエルザと同様の直剣を手に持ったリザードマンが現れる。

 

「またお前か!?」

 

「まだ残ってたのかよ!?」

 

再び現れたリザードマンに面食らいながらも、シエルは別の方向から仕掛けてくる存在に気付き、横方向に巡ってくる竜巻を雲を駆使して躱す。こちらにも同じ奴が現れた。

 

「くそっ!こいつに構ってる余裕はないのに…!!」

 

乗雲(クラウィド)を操作しながら次々と撃ってくる竜巻を躱していくうちに、最初の竜巻を突っ切ってドラゴノイドの進軍が再開されてしまう。

 

「もう一度だ!今度は曇天(クラウディ)追加!」

 

ドラゴノイド上空に灰色の雲を展開させれば、向こうのリザードマンも同様に雲を展開させ、いつもよりも密度の高い雲が一面を覆う。そしてシエルは雲を使ってドラゴノイドの正面へと進んでいけば、リザードマンも同様にシエルを追いかける。

 

竜巻(トルネード)!そして上空には落雷(サンダー)!!」

 

再びドラゴノイドの進路を阻害する竜巻。そしてそれに加えて雲からいくつも降り落ちる雷。シエル一人が発生するよりも規模が大きいそれは、リザードマンも同じように発生させたことによる影響だ。

 

やはりリザードマンの方には知能がないようだ。眼前の敵と同じ能力を扱ってそれを駆使して敵を倒すことにしか能がない。自分を作り上げた主人の足止めをしている自覚もないまま、シエルによって利用されている。

 

「構ってはいられないけど、利用することは出来るっぽいな、こいつ」

 

《ハイハイハイ、エルザ・スカーレットと違って、こっちのお子ちゃまの力は寧ろ邪魔になるのね…だったら!!》

 

拡声器越しにダフネの声が聞こえたのも束の間、シエルと対峙していたリザードマンが突如ひとりでに姿を消した。何をするつもりなのか警戒するとともに様子を見ていると、ドラゴノイドの背中から、竜巻と雷を突っ切って、三つほどの影がこちらに迫ってくる。

 

その影はそれぞれ、槍、大剣、斧を手に持ったリザードマン。それぞれが雷の光を纏いながら突っ切って飛び出してきたのを見たシエルは思わず目を見開き、その三体の攻撃をよける。

 

「こいつら…みんな雷光(ライトニング)の状態でエルザの武器を!?」

 

全員が手に持っているのはエルザが使用しているものと同じ形状の武器。そして身体に纏っているのは自分が使う敏捷性を上げて空中も移動できる魔法の効果。その二つが合わさった状態のリザードマンが三体と言う厄介極まりない相手を見て、シエルは激しい焦りを感じた。

 

《これまでの戦いでしっかりとらせてもらったデータを組み合わせて作った、ver(バージョン).2.5を超えるリザードマンよ?名付けてリザードマンver(バージョン).2.8…その恐ろしさを感じながら、地に堕ちると良いわ…!!》

 

身勝手で迷惑極まりないが、こういった人工生命体を作らせることに関しては、確かにダフネは優秀と言える。シエルの雷光(ライトニング)による敏捷の増加と雷の付加(エンチャント)。それに加えてエルザが扱う武器による攻撃。極めつけに物量差。シエル一人で相手にするのは明らかに分が悪い。エルザも自分が今まで使用した武器を装備している複数のリザードマンによって苦しめられている現状。一気に形成が悪くなってきた。

 

「くっ!雷光(ライトニング)!!」

 

相手のリザードマンの攻撃に対応するにも、まずは自分にも同じ措置を施し、回避に専念する。既に二度目の竜巻による足止めは突っ切られてしまい、ドラゴノイドは元の速度…どころか突っ切るためにさらにその場での改良を施したのか、速くなっている。このままではマグノリアに着くのは時間の問題だ。

 

「くっそぉ!!」

 

気象転纏(スタイルチェンジ)による攻撃を繰り出しながら迎撃を行うも、それぞれが避けたり防いだりで対処してくるうえ、さらに接近をして距離を詰められる。ドラゴノイドからも距離が離れる一方だ。

 

光陰矢の如し(サニーアローズ)!!」

 

太陽の光を矢の形へと変えて撃ち出せば、さすがに反応が遅れたのか身体の数か所を貫かれるリザードマン。それを確認したシエルは、これに突破口を見出す。

 

「徹底的に、光陰矢の如し(サニーアローズ)を撃ち込んでやる!こちとら、なりふり構っていられねえんだ!!」

 

いつも以上に光の矢を具現化させて、迫りくるリザードマンたちに連射していく。拡散さあせて逃げ道も与えずに撃ったおかげか、三体のリザードマンは次々と光の矢によって貫かれ、串刺しにされていく。激しい消耗が積み重なったおかげか、それとも急所に当たったからか、次々とその身体を消滅させ、シエルの脅威は取り除かれた。

 

何とか勝てた。しかし、その勝利を掴むために相当消耗をさせられた。身体に纏っていた雷の魔力が霧散し、重力に従って少年の身体が落下していく。

 

「くっ…乗雲(クラウィド)…!」

 

その途中で何とか生み出した雲によって墜落は免れた。だが安心してもいられない。マグノリアの方に大分近づいてきたドラゴノイドを追いかけるため、シエルは再び雲を操作し始めた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

シエルがドラゴノイドに追いついた頃、既にマグノリアまで目と鼻の先の距離まで詰め寄ってきていた。シエル自身との距離はまだある。エルザもまだ足止めを受けて苦戦しているところだろう。

 

「どうすれば…ん…?」

 

するとシエルは、ドラゴノイドから異変のようなものを感じ取った。胸の赤い宝玉が激しく点滅し、警報のような音が響いている。さらには、ドラゴンの口から激しく白煙が漏れ出した。まるで、人工ドラゴンの体内で火事が起きたような…。

 

「火事…?ナツ…!?」

 

ナツはドラゴノイドの動力源。ナツのエネルギーによってあれは起動することが出来ている。だが、そのエネルギーが強すぎれば、器となるドラゴノイドはそれを受け止めきれずに異常を起こすことがあるのでは?それはつまり、ナツがあのドラゴノイドでも消費しきれない魔力を発すれば、あるいは…。

 

シエルが推察していると、先程まで異常をきたして蛇行していた飛行が再びその体勢を持ち直していた。だがシエルは確信した。戦っているのは、ナツを助けようとしている者たちだけではない。囚われているナツ自身もまた、ダフネの思い通りにならないように、戦っている。

 

「そうだよ、ナツがこんなことで挫けるわけがない…。ナツがあんなやつに屈するはずがない…!」

 

どんな時でも、どんな敵にも、ナツは諦めずに食らいつき、そして勝利してきた。今回もきっと、ナツは最後まで諦めるつもりはないだろう。そんな姿に、シエルはいつの間にか影響を受けていたのかもしれない。自分も諦めない。ナツをドラゴノイドから解放して、一緒にギルドへ帰る!

 

「ナツを返しやがれ!イカレ科学者ぁーッ!!」

 

雲を操作してスピードを上げ、ドラゴノイドの前方へと再び位置どるシエル。そして右手に雷の魔力を具現させ、その状態のまま自分が乗っている雲の中に手を突っ込む。そして雷光(ライトニング)を発動させる時と同様に、その魔力を握り潰した。

 

すると、シエルの身体のみでなく乗雲(クラウィド)にも雷の魔力が迸り、少年とほぼ一心同体の状態へと変貌する。

 

「これでも、喰らえぇー!!」

 

そしてそのまま右拳を突き出しながら、雷の力によって急上昇した速度でドラゴノイドの鼻先目掛けて激突する。一人の人間と大型の人工ドラゴン。どちらが押し出すかなど一目瞭然だが、シエルはそれを速さでカバーする。大きく上昇させた速さと勢いを持って、少しでもドラゴノイドを押し返そうという考えだ。

 

数秒ほどの拮抗。大きく迸る雷の魔力が暗い夜空を照らし出し、明るく染めていく。

 

 

「ぐあっ!!」

 

だが、軍配が上がったのはドラゴノイドだった。雷の魔力も雲も解除され、シエルはマグノリアの街へと弾き返された。

 

《あ~ら残念。時間切れぇ…》

 

そしてマグノリアに着いたドラゴノイドはランディングの要領で減速をしながら、マグノリアへと着陸していく。どうせ破壊する街だからと言う意思の現れか、数件ほどの建物がそれに巻き込まれて爆炎を発生させている。

 

「う…ぐっ、あ…!!」

 

奇しくもエルザがシエルが落下していた場所の近くに、同様に落下していたらしく、横目に彼女の姿が見える。しかし、彼女に声をかける余裕は今のシエルになかった。その理由は、今のシエルの右手だ。

 

高速で勢いをつけ、自分の何十倍ともいえる巨体に激しい激突を行ったことにより、シエルの右手は親指を除いてあらぬ方向に折れ曲がり、甲の部分もいくつか骨が折れている。その影響で内出血が発生。所々が青く変色し、痛々しいものとなってしまっていた。

 

《ぺしゃんこにしてあげるわ、エルザ・スカーレット!!》

 

ドラゴノイドの巨体が動けない状態のエルザに近づいていき、その足で彼女の身体を踏みつぶそうとする。エルザもシエルも、何も出来ないまま蹂躙の幕開けを受けてしまう…と思われたその時だった。

 

「『ブラストブリット』!!」

「『スティンガーシュート』!!」

 

後方から、エルザを狙っていた足を押し返すように、スナイパーコンビであるアルザックとビスカの射撃魔法が撃ち込まれる。しかもそれだけではない。ドラゴノイドの身体目掛けて、別の場所にいる魔導士からも攻撃が仕掛けられる。

 

「『魔法の札(マジックカード)“爆炎”』!!」

「『水流斬破(ウォータースライサー)』!!」

「『砂の槍(サンドスピアー)』!!」

 

カナ、ジュビア、マックスの魔法がそれぞれ炸裂。その後も様々な魔導士からの攻撃が放たれ、ドラゴノイドはその動きを一時的にとはいえ止めている。

 

「お前たち、一体何を!?」

 

ドラゴノイドが脅威とは言え、ナツが中に入っているドラゴノイドに一斉に攻撃を仕掛ける仲間たちに、エルザは驚愕を表しながら問いかけた。

 

「マスターからの命令なの!どんな手を使っても、あれを止めろって…」

 

「マスターの…!」

 

ルーシィから返ってきたのはギルド内でマスター・マカロフより告げられた命令だった。マグノリアは妖精の尻尾(フェアリーテイル)と共に歩み、生きてきた街。それを必要以上に破壊させることは絶対に許されない。だからこそ、何をしてでもドラゴノイドを止めることを最優先にしろと言う。

 

「それが…マスターの命令…?」

 

「シエルッ!?その手、どうしたの!!?」

 

エルザの介抱をルーシィに任せ、シエルの様子を確認しに来たウェンディが、彼の右手を見た瞬間、切羽詰まったように声を張り上げる。それにつられてギルドのメンバーが視線を移せば、痛々しい状態になっているシエルの右手を見て、言葉を失ったり、心配の声をかけたり、自分の事のように痛がったり、各々反応を見せている。

 

「ちょっと、無茶して…。日光浴(サンライズ)で、治せると思うから、心配しないで…」

 

「心配しないわけないよ!待ってて、今私が治すから…!!」

 

「ウェンディ!アンタだってこれ以上使ったら危険なのよ!?」

 

シャルルによれば、ここに来る前にもリザードマンによって傷ついたエルフマンたちの治療のために大きく魔力を消費したらしい。ウェンディの天空魔法はただでさえ魔力の消耗が激しいから、これ以上使わせると、命にまで関わる。

 

「シャルルの言うとおりだ…ケガなら俺でも治せるから、ウェンディは自分の心配を…」

 

「シエルだって自分の心配をしてよ!ニルヴァーナの時だって…シエルの方が…!」

 

「お前たち、今はそれどころではないぞ」

 

ヒートアップしかけた二人の口論を冷静に窘め、エルザはナツが中にいるドラゴノイドの方へと向き直す。

 

「ナツ!マスターの命に従い、我々は全力でドラゴノイドを止める!!その前に…お前の意思を確かめたい!!声を聞かせろ!!」

 

マスター・マカロフの命令とはいえ、今から行うのは普段の喧嘩とは違う、ギルドの仲間一人を対象にした一斉攻撃。抵抗は存在する。もしもナツにそのことが原因で取り返しのつかないことになれば、手遅れだ。

 

だからせめて、ナツ自身がそれにどう感じているのか、エルザは知りたかった。

 

 

 

『へへっ…ああ…聞かせてやんよ…』

 

ドラゴノイドの中から聞こえてきたのは、ダフネとは違う、聞き慣れたナツの声。確かに聞こえた、互いの声が。

 

「ナツ…」

 

『いいか!耳の穴かっぽじってよーく聞きやがれ…!』

 

自分を止めようとしてくる仲間たち。身動きもほとんどとれない空間の中で、ナツは仲間たち向けて己の意思を口にした。決して揺らぐことのない、彼自身の覚悟に満ちた答えを。

 

 

 

 

 

 

『こいつを…オレごとぶっ壊せっ!!!』




おまけ風次回予告

シエル「唐突だけどさ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)って聞いたら、みんなは真っ先に何を思い浮かべるのかな?」

ナツ「は?みんなって、誰の事だよ?」

シエル「ギルドのみんなとか、街の人たち、あとは大陸中にいる人たちとか、みんなだね」

ナツ「どうだろうな~?オレは勿論大事な家族だって思ってるぞ」

シエル「俺もそうだね。あとは本当の居場所…それから凄く楽しい人たちって感じだな」

次回『妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士』

ナツ「あとは喧嘩だ!あれがないと妖精の尻尾(フェアリーテイル)って感じもしねぇよな!」

シエル「こういうナツみたいな人もいるから、人によっては問題児の集まり、いろいろぶっ飛んだ奴ら、壊してばかりの集団とか思い浮かぶんだろうなぁ…」

5.5章で執筆してほしい、アニメオリジナル回のタイトルを選んでください

  • 虹の桜
  • ウェンディ、初めての大仕事!?
  • 24時間耐久ロードレース
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