FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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まさか昼頃までかかるとはさすがに思いませんでした…。そのかわりボリュームはかなりあります。アニメほぼ一話分ってこんなにあったっけ…?←

大変お待たせしてしまいましたが、来週は更新お休みとなります。まあ、前回も言った通りドラゴノイド編は今話で終了なのでキリはいいんですがw


第69話 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士

『こいつを…オレごとぶっ壊せっ!!!』

 

多くの魔導士たちの攻撃を受けながらもビクともしないドラゴノイドの中で、張り上げたナツの声が響く。マグノリアの一角を破壊し、その位置で踏みとどまりながら告げた彼の言葉に、木の棒を構えているハッピーが抗議の声を出す。

 

「そんな事したら、ナツはどうなっちゃうんだよ!?」

 

『四の五の言ってんじゃねぇ!オレのせいでマグノリアがボロボロになっちまったら、寝覚めが悪ィだろうが!!』

 

ナツもマグノリアを破壊することを望んではいない。必死に抵抗しているようだ。だが、ドラゴノイドに向けられる攻撃は、尽くその巨体と強靭な外皮を前に防がれてしまう。このままでは街も危ない。だが破壊するに至る強大な攻撃を放てばナツ自身も本当に危うくなる。

 

「何か…本当に何か他の方法はないのか…?」

 

半ば潰れてしまった右手を自分の魔法である日光浴(サンライズ)、ウェンディの治癒魔法を二重にかけて治療を行いながら、シエルはドラゴノイドを見上げて呟く。多少のケガを負ってもナツならばいずれ再起できる。だがそれをふまえても彼を生かしたままドラゴノイドを破壊できる方法がないか、頭の中で考えを巡らせている。

 

《ああ~!!何と言うパワー!美しきこのパワー!あの時と…同じだわ…!!》

 

ドラゴノイドに攻めあぐねている魔導士たちを寄せ付けないまま強大な力を奮うダフネは、それを垣間見ることによって思い出す。彼女は見たことがある。一度だけ、この目で。

 

幼い頃にたまたま外に出ていた時の事。突如吹いた突風にあおられ、広大な草原を埋め尽くす影につられ上を見上げると、自分の何十倍もあろう巨大な体、一対の大きな翼、屈強で長い尻尾。どこまでも続いていくような大空をその翼で羽ばたいて飛行する存在に、ただただ目を奪われた。

 

何と言う恐ろしさ。何と言う猛々しさ。あんな美しいものを見たことはなかった。その日を境にもう一度見ようと同じ場所に何度も行った。だが竜は気まぐれ。同じ時、同じ場所に、その存在が再び現れる保証など一切ない。それを思い知らされた彼女は、一つの結論に至った。

 

《次にいつ会えるか分からないなら…自分で造るまで!!》

 

「そんなのって…!」

 

幼い頃に見た偉大な姿をしたドラゴン。それにもう一度会いたいが為に、歪んだ思想を持ってドラゴノイドを作り上げた。ドラゴンによって育てられた、親と言える存在にもう一度会いたいと願っているウェンディから見れば、同じ願いであるにも関わらず理解できない結論に至ったダフネに、沈痛な面持ちを浮かべている。

 

『くそぉー!!ふざけんなァ!!ドラゴンに会いてえのはテメーだけじゃねーぞ!!オレも、ウェンディも、ガジルも…!それをテメーは…!!』

 

《『ドラゴンなんていねぇよ』…》

 

同じように聞いていたナツの怒りが、ドラゴノイド越しにこちらにまで聞こえてくる。ウェンディ同様、ナツもまた純粋に親のドラゴンと会うという願いを持つ者だ。もっともな怒りを表すナツだったが、声を被せてきたダフネの言葉に、彼は途端、その声を止めた。だがそれは、ダフネからナツに向けられたものではない。

 

《『あれは全滅したんだ』…『目の錯覚だろ?』…『嘘つき』、『嘘つき嘘つき』!!誰にも信じてもらえず、笑われ、無視され…ドラゴンの存在を…あの力強さを…否定され続けた…!その悔しさ、アンタなら分かるだろ…?》

 

ナツは思わず同意しそうになった。いや、心のどこかで感じているのかもしれない。『ドラゴンなんていない』、『作り話だ』、『デカいトカゲがそう見えるだけ』…イグニールが目の前からいなくなった日から、心無い者たちに言われてきた侮蔑の言葉の数々。どれだけ主張しても、どれだけ怒ったり泣いたりしても、家族以外の者たちは、ほとんどがそれを信じなかった。

 

そういった意味で、ダフネは自分と同様の存在。今のナツはそう思わずにいられなくなっている。

 

《ハイハイ!そしてようやくここにお披露目できるように相なったわけ!!手始めにこの街ぶっ壊して、大陸中を飛び回ってやるわ~!》

 

言っていることが何だか滅茶苦茶だ。魔導士たちのほとんどがそうだっただろう。過去に見たドラゴンの姿をもう一度見たいがために、他者の何もかもを度外視し、ナツの自由も奪って、そして今やマグノリアを始めとしたあらゆるものに危害を加えようとしている。何度も好き勝手にさせるわけにいかないと考えたが、これほど何度も思わせるのも滅多にない事だ。

 

しかし咆哮を一つ起こすだけで、町全体にその余波が襲い掛かり、風圧と轟音が魔導士たちに襲い掛かる。本物のドラゴンを見たことが無いシエルには比較とする対象がないが、規模と威力、耐久だけを見れば、ドラゴン並みと言っても頷ける。

 

「ったく、オレも読みが甘かったぜ…」

 

すると、近くの高台の上から聞き覚えのある声がした。視線を向けてみると、そこに立っていたのは遠くの方で暴れまわるドラゴノイドを見据えながら、溜息をついて告げるグレイの姿だった。ギルドへと連れていかれていたはずの彼が、何の目的でここに来たのか。

 

「手短に真相を話す!信じるも信じないもお前らの自由だ!」

 

グレイから明かされたのは、今回の一連の騒動に関するものだった。

 

グレイがダフネと会ったのは、彼が仕事先で聞いた噂がきっかけだった。「人工的にドラゴンを造っている者がいる」というもの。グレイはその後すぐに接触し、ダフネからドラゴノイドの事について色々と聞いた。ナツを動力源にしようとしていること。ドラゴノイドを破壊するには、内部から滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の強力な力でなければ不可能であること。それだけが理由なら、ナツを渡さなければドラゴノイドはどのみち動くこともなかった。

 

だがグレイがドラゴノイドの破壊を目的としていたのは他の理由だった。ダフネの出身地である音無しの街。実は、ナツは7年程前…ギルドの魔導士になりたてだったころに一度、その街を訪れたことがあった。それも、ダフネが研究中だったドラゴノイドを放棄し、街の人たちの隠匿魔法(ヒドゥン)を解除できなくして、街を立ち去ったすぐ後に。

 

ナツは今も昔も、イグニールの事となると夢中になり、どこへでも突っ走って行ってしまう。その頃はそれがより顕著だった。ダフネのドラゴノイドが発する咆哮がドラゴンのものに近かったためか、ナツは同士討ちするドラゴノイドたちの声をイグニールのものと勘違いし、その街へと訪れたのだ。

 

しかし、その街にあったのはドラゴノイドの核の残骸のみ。ドラゴンどころか、街の人々も、何もかもが存在しなかった。そう、イグニールはいなかった。それに落胆していたナツに、ある存在が声をかけた。

 

それは隠匿魔法(ヒドゥン)を解除できなくなったことで、影と声のみでしか存在が確認できない街の住人の一人だった。その住人は、訪れた少年が滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)である事を知ると、ナツにこう頼んだ。

 

「ドラゴンを操る者を倒し、街にかけられた呪いを解いてほしい」

 

ドラゴンを操るなんてできるわけないと言いながら、もし見つけたなら倒してやると、ナツは約束した。影でしかその存在が見えない音無しの街の住人たちは、全てをナツに託し、いつまでも待っている…そう告げて、一度夜の闇へとその姿を消していった。

 

ドラゴンを操る者…ダフネを倒す為に、グレイはナツを一度ドラゴノイドに取り込ませ、それを破壊し、音無しの街の住人を助けようとしていた…これが、裏切ったと思われたグレイの行動の真実だ。

 

ちなみに何故グレイが、ナツが交わした約束の事を知っていたのかと言うと、イグニールの事になると見境がなくなるナツを心配し、仕事先まで様子を見に行っていたことがあり、その時の事も、見聞きしたからである。

 

「何でその話を誰にもしなかったんだ?みんなにも話せば、すぐにダフネの手がかりとか…掴めたかもしれないのに」

 

話を聞いた魔導士たちがそれに耳を傾けていた中、一早く質問をしてきたシエル。事前に誰かへとそのことを伝えておけば、わざわざ誤解を招くようなことをしなくて済んだはずだと、仲間を苦しめることもなかったはずだと考えている。

 

「ナツならもっと、簡単に壊せると思ってたんだ。それに、これはナツが交わした約束だ。オレから言うのは筋違い…あいつがじいさん辺りに何かしら聞かない限り、オレも黙ってるつもりだった」

 

ギルドの魔導士として、一度自分が請け負った仕事は、自分主体でやるべきと言うのが暗黙の了解。それは何気ない約束でも同じだ。ナツが倒すと約束したのなら、そこまでの道程もナツ自身が先頭でやるべき。だからグレイも、ナツが何かしらの行動を起こさない限りは協力もしないつもりだった。しかし…。

 

「あいつ…今の今まで、その約束を忘れてやがったんだ…!」

 

 

 

 

『はぁ…?』

 

そのまさかの真実に、シエルだけでなく治療のために近くで聞いていたウェンディ、そして彼女の傍らにいたシャルルも、揃って素っ頓狂な声をあげてしまった。彼らだけではない。他の者たちも、一部を除いて同様である。

 

「わ、忘れてたぁ?そんな大事な約束を…!?」

 

「全く…相変わらずにもほどがある…!!」

 

ルーシィは愕然として身体が真っ白になっているし、エルザは怒りと呆れが入り混じってプルプルと震えている。そりゃそうだ。これではずっと待っている街の住人達が浮かばれない。

 

「良かったぁ!ジュビア、グレイ様を信じてました…!!」

 

そして真相を聞いて天にも昇りそうな歓喜を表している者が約一名。ギルド内のほぼ全員がグレイを責めていた時にも、唯一グレイを信じ、裏切るわけがないと心から思っていたジュビアだ。彼女の周りだけなんか光っているように見える。

 

「そっか、それであの時…エルフマンの攻撃をわざと受けてたのか…」

 

西の荒れ地ではエルフマンに奇襲に近い一撃を受けて気絶したグレイ。だがあの時、彼にしてはあっさりとしすぎていたため、妙な違和感を感じていたのだ。だが、グレイの本来の目的を聞いた今、ダフネに不審がられずにギルドへと戻る演技だったと考えれば納得もいく。

 

「こうするより他に方法がなかった。だが、今はあのデカブツを何とかするのが先だ」

 

「何とかするったって…」

 

ドラゴノイドを破壊する、頼みの綱であるナツは、今も動力源として捕らえられている。どうすればそれが叶うのか。それを考えている一同であったが、周りにいる魔導士の一人が突如声をあげた。

 

「おい!あそこ、誰かひとり倒れてるぞ!」

 

「あれはケーキ屋の!」

 

その声で近くの全員が視線を向ければ、魔導士ではないコック帽とエプロン姿の一人の男性が、何かを両手で持ちながらうつ伏せで倒れているのが見えた。いち早くエルザが気付いたが、彼女が贔屓にしているケーキ屋の店主らしい。

 

「逃げ遅れたんだ!」

「カバーしろ!」

「助けに行くぞ!」

 

ギルドへと避難させたはずの街の住人に、逃げ遅れた者がいたらしい。すぐさまシャドウ・ギアの3人が彼に被害が向かないように駆け寄って行く。エルザ、そして傷だらけの様子を見たシエルたちも、その場へと向かって行く。

 

ドラゴノイド周辺で迎撃していた魔導士たちに対して『リザードマンver.(バージョン)3.1』とやらを多数放出させてくるダフネの声が響く。ドラゴノイドに加えて厄介なものまで増やされてしまったようだ。

 

「こんな時に何をしていたのだ!?」

 

「店、踏み潰されちまって…何とか、これだけは…」

 

「!これを、わざわざ…?」

 

エルザが店主の身体を抱えると、両手に持っていた皿とケースに乗っているそれをエルザに見せて告げる。エルザが昼間、ウェンディたちの歓迎の為に注文した、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章が中央に入った、かわいらしいデザインのホールケーキだった。

 

「新人さんを、迎えてやるんだろ…?あんなデカブツに…負けんなよ…」

 

外傷は多く、体力も消耗しているが、重体ではなさそうだ。しかし、意識は限界だったようで、手に持っていたケーキをエルザに手渡すと、彼は一度気を失った。そのまま運ぶのも傷に響くと考え、シエルが日光浴(サンライズ)を左手に出して店主へと近づける。

 

「俺が治療するよ」

 

「私も手伝う!」

 

優しい光を放つ太陽を近づけるシエルの隣で、ウェンディもまた両手をかざして別のところを治療しようと魔法を使う。だが、先程から多くの魔導士に治癒魔法を使っていることで、彼女自身の魔力も相当減っているはずだ。

 

「ちょっとウェンディ!アンタもう魔力が!!」

 

「大丈夫。日光浴(サンライズ)と同時に使うと、魔力を多く使わなくて済むみたい」

 

「頼むぞ、シエル、ウェンディ」

 

傷の治癒のみでなく、魔力の回復効果も備わっている日光浴(サンライズ)の近くなら、ウェンディも普段より少ない魔力で治癒魔法を使用することが出来る。シエルの右手を少しずつ治療している際に気付いたことを活かし、その力を惜しむことなく使っていく。

 

「その…私、梅干しが苦手で…」

 

「「梅干し?」」

 

「はい、弱点なんです」

 

唐突に自分の苦手なものを喋ったウェンディに、思わずシエルもエルザも声を揃えて反芻する。梅干しは苦手なのか…と記憶に刻みながら、シエルはウェンディが語るのを黙って聞いている。

 

「どんなものにも、必ずあるはずです、弱点って…。私、まだ妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入ったばっかりで、何もかも始まったばっかりで…もっと、もっとナツさんと笑ったり、みんなと笑ったり、泣いたり怒ったり、したいんです…!」

 

治療を続けながら、口調や声は穏やかなものでありながらも、真剣な面持ちで告げるウェンディ。周りにいる者たちは皆、その言葉に自然と耳を傾け、彼女のその真剣な表情を見て、心から同意を寄せている。

 

「助けて…ナツさんを…」

 

「ウェンディ」

 

治癒魔法をかけ続けていたウェンディ。言葉に力が入っていないのを察知したシエルが、すぐさま彼女の肩に手を置いて、魔法を止めるように促す。それによって思わず止めれば、ウェンディの身体が前のめりに倒れ掛かる。

 

「大丈夫か!?」

 

「バカ!だから言ったのに!!」

 

正面からウェンディの身体を支えるエルザ。そして彼女の元に駆け寄るシャルルが声をかける。額に汗を浮かべながらも、気を失わずにその身体を起こして、口を開く。

 

「けど…シエルの手も、まだ治ってないし…」

 

「俺の方こそ大丈夫だ。もう痛みもないし、自分でも回復できるから」

 

「でも…」

 

少しずつ二人がかりで治療したおかげか、指は戻り、青あざも消えて、外見だけ見ればほとんど元に戻ったとも言える状態だ。実を言えば握ったり開いたりすることは出来ないほどの痛みは残っていたりするのだが、言えば確実に心配をする少女には、絶対に告げないようにする。

 

外傷が目立たなくなった右手を、甲と平を返しながら見せてそれを表すが、こちらを見上げる少女の心配気な眼差しは一向に変わらない。

 

「ありがとう、ウェンディ。その気持ちだけでも、今は十分だ」

 

痛みなど感じさせないような笑みを向けてそう告げれば、表情はあまり変わらないままウェンディは俯く。納得はしていない様子だが、ひとまず彼女にこれ以上負担をかける心配はなくなるはずだ。

 

少しでも回復させるために日光浴(サンライズ)を更に作り出す。それに右手を当て続けながら残る問題に意識を向ける。

 

ドラゴノイドは内部から、それもナツでなければ壊すことが出来ない。しかし、マスター・マカロフの命令は、ドラゴノイドに攻撃しろと言う。グレイがみんなにも話したことをマスターに告げていないはずもない。命令の変更がないということは作戦を続行させるということ。

 

ドラゴノイドを攻撃することが、ナツがそれを壊すきっかけになる…?

 

「…もしかして…?」

 

シエルは気づいた。一つの推測に。そして、それと同時に、エルザもまた一つの推測に気付いた様子だ。

 

「エルザ、じいさんはオレに秘策を…」

 

「だと思っていた。皆まで言うな」

 

マカロフに秘策とやらを託されたらしいグレイがそれを伝えようとした時、既に気付いた様子であったエルザが止めた。そしてその身に光を纏い、纏っていた鎧を天輪の鎧へと換装する。

 

「お前たちは全力を持ってリザードマンを排除しろ!私はドラゴノイドを倒す!!」

 

「でもエルザ…!」

 

「ナツはどうするのさ!?」

 

「それがマスターの…つまりは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の意志だ!いいか!この街は何としても守る!!ギルドの…私たちの魂と誇りをかけて!!」

 

エルザがはっきりと口にしたその方針に、ルーシィやハッピーを始めとして動揺が走る。本気だ。彼女は全力でナツが取り込まれているドラゴノイドを打ち倒そうとしている。

 

「分かってるよ…オイラだって妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だ…!でも…!」

 

「オスネコ…」

 

頭で理解はしている。でも、相棒であるナツごと、ドラゴノイドを破壊することに関して、心から同意できないと、体を震わせながらハッピーは言葉を零す。

 

「ナツ…オイラ、仲間なのに…オイラが助けなきゃならないのに…!!」

 

襲い掛かるリザードマン。それに対する仲間たち。ドラゴノイドに対峙するエルザ。それらを見聞きしながら、右手の治療を続けるのと並行して、シエルは頭の中で考えを巡らせる。

 

「(ドラゴノイドを破壊するには…ナツの力が必要…)」

 

彼は思い出す。これまでの一連を。それ以前にあった時の記憶も。

 

『ドラゴノイドを動かすには、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の力がいるってね…』

 

『マスターからの命令なの!どんな手を使っても、あれを止めろって…』

 

『あれを破壊するには内側から…』

 

『どんなものにも、必ずあるはずです、弱点って…』

 

『ナツならもっと、簡単に壊せると思ってたんだ』

 

『こいつを…オレごとぶっ壊せっ!!!』

 

『火事…?ナツ…!?』

 

 

「あっ…!」

 

分かったかもしれない。最も効果的で、最も可能性の高い方法が。思い出すのは、一週間ほど前にあった、ニルヴァーナを巡る六魔将軍(オラシオンセイス)との戦いで起きた、ある一場面。

 

「そうだよ…エルザ、それじゃあれは壊せない…!」

 

「えっ?」

 

シエルの呟きを耳にしたウェンディが思わず反応を示す。彼女だけではない。シエルの近くにいたほとんどの魔導士がそうだ。しかしシエルはそれに意識を向けず、足元に一人分が乗れる雲を展開する。

 

「ミラ、ウェンディをお願い!エルザに教えなきゃ、あれを壊す方法を…!」

 

「分かったの!?でもどうやって?」

 

ミラジェーンに消耗しているウェンディを任せ、シエルはエルザが近くにいるドラゴノイドへと向かおうとする。方法を聞かれているが、説明している時間も惜しい。雲の高度を上げながらそれだけ伝えて一直線に向かおうとする。

 

しかし、その行く手を阻むように、更に取り押さえようとするように、リザードマンがシエル目掛けて飛び掛かる。

 

「シエル!!」

 

誰が名を呼んだのか理解するよりも前に、シエルは必死にその襲撃を躱そうと身構えた。

 

 

 

 

 

「ミストルティン!」

 

だが、シエルが行動を起こすより早く、聞こえてきた声とともに、周りの地面から植物の根が急激に伸び、シエルの周りどころか、周辺にて魔導士たちと対峙する全てのリザードマンを、胸の赤い核を貫く形で貫通。一瞬で全滅し、一片も残さず消滅する。

 

その現象を誰が行ったのか、誰もが確認せずとも理解できた。

 

「兄さん!」

 

「連絡をもらって超特急で帰ってきてみれば…思った以上に深刻な状況だな、こりゃ…」

 

一週間もの間依頼ついでに外出していたシエルの兄・ペルセウスがようやく帰還。やっと帰ってきただの、遅すぎだぞだの周りの者たちから声が上がるが、一応ミラジェーンから通信用魔水晶(ラクリマ)で連絡を受けてからすぐに帰路についた方である。

 

「で、今はいったいどういう状況だ?」

 

「イカれた科学者が人工ドラゴン造って、ナツが動力源にされていて、壊すにはナツじゃないと無理!」

 

「オーケー、把握」

 

「え、今のでわかったの!?」

 

説明を求める兄に向けて、簡潔に3行ぐらいで纏められた説明を叫ぶ弟。たったそれだけで真偽は不明だが理解したらしい。ルーシィの心からのツッコミが響く。

 

そうこうしている間にもエルザに攻撃されながらも暴れ続けるドラゴノイドが、また大きな咆哮を放ち、街中に衝撃波を撒き散らす。

 

「うるさーー!!」

 

思わず周りの魔導士全員が耳を押さえてしまうほどの騒音。だが、次の瞬間耳を押さえていた魔導士たちは、目を疑うような光景を目にした。

 

『チクショーー!!オレを壊せー!あ、いや!全部ぶっ壊してやんぞー!!じゃなくて!うぉおおおっ!!』

 

ドラゴノイドの動きに同調するように、ナツが錯乱したような叫びをあげる。それと共に、ドラゴノイド自身の動きも、頭を両翼で抑えたり、首を振ったりして、まるでナツ本人の動きとシンクロしているかのような様子を見せる。

 

「やべぇぞありゃあ…!オレには見える。ナツの魂が、あのデカブツに吸収されそうになってるのが…!」

 

その異常をより詳細に感じ取っているのは雷神衆の一人、ビックスロー。普段からつけている鎧兜のような鉄仮面を外し、彼の目に宿った魔法が、ナツの魂の様子を鮮明に映し出している。聞く限り、猶予はほとんどないに等しい。

 

『壊せー!じゃなくて、壊してー!!お?うおおっ!意味分かんねぇーっ!!』

 

足元では街を破壊し、頭と翼は、自分で自分の発する言葉が分かんなくなっている様子。ナツ自身の意思が、ドラゴノイドに同化しつつあるという事か。

 

「邪魔をするなぁ!!」

 

その様子にナツの名を呼びかけて接近しようとするエルザだったが、それを阻むように現れたリザードマン。奴等にかまっている暇はないと言わんばかりに、循環の剣(サークルソード)で一気に薙ぎ払い退ける。

 

が、さらに場の者たちを混乱するような出来事が、ドラゴノイドに訪れる。

 

『ほらーエルザ怒ってんじゃんよ~。知ったことかよ!あいつも潰しちまえっての!何言ってんだよ、仲間だろ?関係ねーよ!ぶっ壊せってんだよ!…うるせぇっての!!ヒトの頭の上で揉めてんじゃねぇーっ!!!』

 

…何言ってんだ、あいつ?と、何も知らない者からすればそんな感想が浮かぶだろう。実際、ドラゴノイドから比較的穏やかなものと、不機嫌そうなものと、怒りのこもった表情と口調で、妙な一人漫才をしながら叫んでいる。ナツが憑依していると言っても同義なほどにだ。

 

「ど、どうしよう…今頃になって、ニルヴァーナの影響が…!?」

 

「んなわけないでしょ!!」

 

「だとしても遅すぎだろ」

 

善悪を反転するにしても、口調が色々とバラバラだし、もう一週間ほど前に壊した魔法だから、その線はほとんどないと言っていい。ハッピーの推測はシャルルとペルセウスにあっさり否定された。

 

ちなみに、シエルはペルセウスに状況を伝えた直後に、ドラゴノイドの元へと向かって行った。

 

「ともかく、デカブツの方はシエルたちに任せるとして…俺たちはこっちだな」

 

そう言ってペルセウスが振り向けば、更に増援となるリザードマンの集団がこちらに駆けてくるのが見える。まだ増援の余力が向こうに残っていたのか。周りはイライラとしながらも迫りくるその集団を迎え撃とうと構える。

 

すると、突如街にある川のあちこちから、激しい水しぶきが爆発したかのように沸き上がり、街中に水と氷でできたカーテンが空に浮かび上がる。そしてカーテンからつららへと姿を変化させると、つららの雨となってリザードマンに降り注ぎ、その姿を一体残らず消滅させていく。

 

『うぉお~~!?つめてーーー!!』

 

少なからずドラゴノイドにもダメージがあったのか、ナツの声で悲鳴を上げながら狼狽している。この魔力の感じ、感じたことのあるものだ。氷と水の合体魔法(ユニゾンレイド)…それが出来るとすれば。

 

「まさか、グレイとジュビア?」

 

「ぶっつけ本番で成功させたってことか…!」

 

「どぅえきてえるぅ~!!」

 

街中に及ぶ範囲、そして威力も見ての通り。研鑽をしても一生完成させられなかった者たちもいる中、一発で、それも練習もなしに成功させた二人。本当にあらゆる意味で相性が抜群なのではないかと思えるレベルだ。互いを信頼していなければ、決してできるようなものではない。

 

「さて、あとは…」

 

 

 

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『やかましい!!うおおお!何かムカつく、モヤモヤすんぞ!だからこの街をぶっ壊せ!いやダメだって!』

 

グレイによってリザードマンが全滅したことによって、ドラゴノイドの中にいるナツが気を悪くしたのか、怒りの形相でその場で地団駄を踏みながらまたも一人漫才を繰り広げている。さっきビックスローが言ってた魂の同化が進行している影響だろうか。

 

「ナツー!!」

 

「シエル!?何をしに来た!?」

 

そんな彼の元に、雲で浮遊しながら彼の眼前にまで近づいてきたシエルがその名を叫ぶ。ドラゴノイドの周辺にいたエルザもそれに気付いて、彼に声をかけた。

 

「分かったんだ!こいつを止められる方法を!エルザが考えていた方法よりも、効率的なやつ!」

 

「何!どんな方法だ!?」

 

シエルの容態を考えて、ドラゴノイドの相手を一人で担っていたエルザだったが、シエルが告げた内容に目を見開いて、それを耳にしようとする。だが、シエルはエルザの質問に直接答えず、これから実行するかのようにナツの方へと顔を向けて呼びかけた。

 

「ナツ!今から俺の言葉を、絶対聞き逃すなよ!?」

 

突如として言われたシエルの言葉に、ドラゴノイドとほぼ同化しているナツは思わず、気になったのかシエルの方へと視線を向けている。どうやらまだ意識はナツ本人のようだ。好機を逃すわけにはいかないと、シエルは大きく深呼吸をするように息を長く吸い始めた。何をする気か。エルザもナツも、そして街中にいる魔導士たちが固唾を飲んで見守る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつまでそんなドラゴンもどきに捕まってるままでいるんだ!!お前の炎はマッチの火かぁ!!」

 

マグノリア中に、怒りをはらんだようなシエルの大声が響き、内容を理解した魔導士たちが、ほぼ全員一様に目を見開き、口を開けて、唖然と言った表情を浮かべるほどの衝撃を受けた。あのエルザやペルセウスさえ、虚を突かれたように言葉を失っている。

 

 

 

『何だとコノヤローー!!!』

 

同じように虚を突かれて言葉を失っていたナツが、一番最初にフリーズから戻って来たらしく、怒りの声をあげる。ドラゴンのような外見の巨体に凄まれれば恐怖もさらに上がるようなものだが、生憎シエルにはそれは通用しない。

 

『マッチって何だ!あんなもん小腹も満たさねぇちっぽけな火じゃねーか!!』

 

「そうだよ!そのマッチだ!肝心な時にお前が出せる炎は、マッチレベルだって言ったんだ!!」

 

『ああ!?』

 

何か…グレイと喧嘩してる時のナツを思い出させるような妙にレベルの低い罵倒である。それによって怒りをさらに燃え上がらせるナツもナツだが…。

 

「どうしたんだよ、ヒドイよシエル…あっ!!」

 

すると、突然の悪口を聞いてそれを咎めようとしていたハッピーが、何かに気付いた様子で声をあげた。それを見たルーシィやペルセウスは、何の事なのか気付けていない。

 

「いつも関係ないもんばっかり壊しまくるくせに!」

『あ!?』

「壊すことしか能のないくせに!」

『ああ!?』

「みんなの迷惑も考えないで一人で突っ走って!」

『あああ!?』

「自分で交わした約束まで、今の今まで忘れてたぁ!?お前の頭なんかドラゴンじゃなくて鳥だよ鳥!いや、いっそ鳥以下だぁ!!」

『そこまで言うかテメェーーー!!?鳥より下って何だよ!つーか、何で鳥?』

 

出るわ出るわナツへの悪口の数々が。今の今まで溜め込んでいたのかと言わんばかりに、洪水のごとくシエルの口から溢れ出てくる。外見だけなら子供っぽい主張に見えるのだが、普段のシエルからは想像できない…。

 

「シエルの言うとおりだ!口先だけのつり目野郎め!」

『グレイ!?』

 

すると今度は、別の方向からグレイがナツに向けて叫び出した。シエルの数々の暴言に同意するどころか、更に重ねてきた。

 

「手も足も出ないまま、デカい図体に溶け込んで、いつまで一人漫才やってやがる!!」

『んだとコラァ!?』

「てめぇが交わした約束を忘れやがって…!それでも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士かぁ!!そんなドラゴンもどき、とっととぶち壊せぇ!!」

 

シエルに続いてグレイにまで散々な言われようをされ、ナツが表情に困惑を浮かべている。何でここまで言われなくちゃいけないのだろうか…。

 

ちなみに、そんな二人の様子を見ていたルーシィが、ハッピー同様に何かに気付いた。

 

《ハイハイ、それが狙いだったの?グレイ・フルバスター。でももう手遅れってわけ。何故なら、火竜(サラマンダー)君は魔力と共に、その意識ももうほとんど吸収されているんだから》

 

グレイの言葉を聞いたダフネが、彼の本当の目的を察知した。何かを企んでいるということは彼女もどこか疑っていたが、やはりこちらに不利になるような行動だったと、どこかで予測していたのかもしれない。

 

『壊せりゃとっくにやってんだよ!あんな垂れ目野郎ぶっ潰してやんよ!』

 

他ならぬグレイにバカにされたことが、相当癪に障ったらしい。更に怒りを募らせていると、今度はシエルともグレイとも違う声が聞こえた。

 

「オイラ、ナツを見損なったよ!!」

『何ィ!?』

 

彼の相棒である青ネコのハッピー。彼までもがナツに向かって叫び始めた。勿論、内容を聞いたナツの怒りがさらに増える。

 

「だってそうじゃないか!今までどんなピンチでも必ずぶち破ってきたじゃないか!!『オレごと壊せ』なんて聞きたくないよ!!」

 

「そうよ!みんなが…妖精の尻尾(フェアリーテイル)のみんなが!アンタを必要としてる!だから必死に頑張ってるのに、仲間の想いに応えないナツなんて、ナツじゃないよ!」

 

『っ…!!ルーシィ…てめぇまで…!ひっでーな!踏み潰すぞコラ!』

 

何やら妙な事になってきた気がする。ハッピーとルーシィも何かに気付いたらしいが故にこのような事をおこしているのだろう、しかしペルセウスは未だに意図が読めずにいる。頭に疑問符を浮かべているばかりだ。

 

「皆の言うとおりだ!手もなく捕らわれたまま、お前は簡単に諦めた!」

 

『オレがいつ諦めた!?いや諦めろ!じゃねーっつの!!』

 

「『オレごと壊せ』と言ったな?それが諦めだと言っている!そしてそれは、弱音以外の何物でもない!ならば望み通り、その巨体ごと葬り去ってくれる!!」

 

更にはエルザまでもがナツに対して煽るような、技と怒りを増長させるような言葉が告げられる。それに更なる力となって変換されたのか、胸にある赤い宝玉からスパークが発生したかと思うと…。

 

『やってみろやコラーーー!!!』

 

咆哮と共に巨大な叫び声を上げると、まるでナツそのものが巨大化し、火竜の咆哮を使えば…と言えるほどに特大な炎のブレスが口から発射された。幸い、怒りに燃え上がった結果首を上に向けていたことで、街には直撃せず虚空へと炎が飛んでいったため、人の被害はないに等しい。

 

今までのナツでも、これほどの規模は出せたことが無い。シエルは人知れずほくそ笑んだ。いい調子だ、だがもう一押しと言ったところだ。

 

『すんげぇ~…!』

 

自分で出したブレスの威力に驚愕して唖然としているナツ。それを、再びエルザが声をかけて引き戻す。

 

「自らの命を小さく見る者は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)には必要ない!」

『んだとコラ!!』

 

下手をすれば街全体を飲み込みかねない威力のブレスを目にしても、全く動じず更に言葉を続ける。ある意味それが一番すごいような気がするが…。

 

「そんな中途半端な者に気高き竜は会いたいとは思わんぞ!会って懐に飛び込んだところで、殴り返されるのがオチだ!」

 

そして換装を用いて、エルザは黒を基調とした魔神を彷彿とさせる意匠の鎧である煉獄の鎧をその身に纏い、セットとなっている大剣を構えながら堂々と告げた。勿論、彼女の言葉に対してナツが何も反応しないわけもなく…。

 

『ふざけんな…!このパワーならエルザに勝てんじゃねーか!?…はっ!!おもしれーっ!!かかってこいやエルザ!!今日こそお前に勝ーつ!!!』

 

最早完全に同化してるんじゃないかと疑いたくなるレベルで、ドラゴノイドの動きや表情が動く。さっきまで支離滅裂だった言葉の端々が、徐々にナツの本来のものへと戻ってきてるようにも聞こえる。

 

「おいおい…あれ、ホントに大丈夫なんだよな…?」

 

それはそれとして、完全にドラゴノイドと同調している気がすることに対して、今やってることが効果的なのか分からないペルセウスが呟くと、同じように言葉を告げる者たちが。

 

「聴こえるぞ…!今のは限りなく本音に近い…!」

「デスネ!!」

 

「何呑気に構えてるのよ!」

 

何故か少し前に激突した六魔のメンバーの真似をしているハッピーとルーシィに、シャルルが思わずツッコミを入れる。本当何でこんな状況でそんなことしてられる…。

 

《あらら…!?ちょっと、勝手に動くな!!》

 

『ホラホラ!ビビったかエルザぁ!オラァ!』

 

「貴様と言うやつはぁ!!」

 

地団駄を踏みながらエルザを挑発し、調子に乗っているようにも見えるナツ。しかし、怒りの形相でエルザが胸の赤い宝玉に一度攻撃を当てると、途端にドラゴノイドは恐怖をその顔に浮かべる。

 

『うおお~~っ!!?やっぱコエーーー!!!』

 

どこか泣いているようにも見えるナツの表情と声。だが、まだまだだ。もっと…!

 

「どうしたナツ!そのデカい体はただの飾りか!?それともエルザの攻撃を喰らいたくなくて閉じこもってるつもりか!?」

 

『ううおおおおおおっ!!ふざけんじゃねーぞコラァーーー!!!』

 

最大級の怒りを表す声と共に、彼の感情の高ぶりと比例した熱い炎が、ドラゴノイドのあちこちから勢いよく漏れ出て噴射される。そして岩のような色をしていたドラゴノイドの身体は、赤い炎を滲ませて、深紅へと変化させていく。

 

《ちょっと!魔力の吸収が、要領超えすぎてる!?何で急に!!》

 

『どいつもこいつも!好き勝手こいてんじゃねぇぞぉおおーーーっ!!!』

 

夜にも関わらず、街を赤い光で包み込み、その熱量は、離れていてもよく感じ取れる。荒ぶる感情がそのまま炎と化して、彼を捕らえるドラゴン型の檻を焼き尽くすほどの勢いを見せる。

 

「ったく、イカれてるぜ。折角忠告してやったっていうのによぉ…。暑苦しい奴が余計に暑苦しい姿になりやがって」

 

魔導士たちが集まっている場所に、そう言葉を零しながら現れたのは、ナツとウェンディ同様に滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるガジルだった。今までギルドの中にいたはずだが、騒ぎを聞きつけてここに来たというのだろうか?

 

『ガジルゥ!?』

 

「手間ァかけてんじゃねぇ!!滅竜奥義!『業魔・鉄螺旋』!!!」

 

言うや否や、空中を跳躍して両足をドリルへと変化させながら激しく回転させる。そして胸の赤い宝玉をうまく狙い、回転による摩擦でその宝玉を破壊。そこから勢いよく炎が噴出される。

 

そして、核の部分である宝玉が壊され、そこに閉じ込められていたらしいナツの姿がようやくそこから現れた。

 

「上手くいったみたいだ」

 

「シエル、大丈夫だったか?」

 

「平気だよ。挑発して怒らせただけだし」

 

「ああなることを、分かった上でか?」

 

ドラゴノイドの機能がほぼ停止したとみてもいいため、雲に乗っていたシエルが元居た場所へと戻ってくる。すぐさま安否を聞いてきた兄に笑顔で答えながら、最後に尋ねられたことについても首肯で正解を表していた。

 

「ルーシィ!あの馬野郎を呼べ!ありったけの火を矢に集めて、ここにぶちこめぇ!!」

 

すると、赤い宝玉があった場所から、ガジルの声がこちらに届いてくる。それだけで、ルーシィを始め、誰もが彼の狙いを察知することが出来た。

 

「ナイス、ガジル!あとは任せて!」

 

「であるからして~もしもし!」

 

すぐさまサジタリウスを呼び出し、火の魔法を使える者たちに向けて、力を貸してもらうように懇願する。これは最早、あそこにいるダフネの命運は決定づけられたようなものだ。炎の技を使えないシエルと、あるにはあるが今回に関しては力になれそうにないペルセウスは近くでその様子を眺めているだけだ。

 

「ナツがそう簡単に動力源としてされるがままになるわけがない。それを理解できなかったのがあいつの敗因だな」

 

「だね。まあ、今からの事を考えると、ちょっと気の毒に思えるよ。同情も心配も一切する気ないけど」

 

何やら呑気に兄弟が会話している間にも、各々準備が整った様子で魔法の発射をスタンバイしている。

 

《ちょー!タンマタンマ!これ以上魔力は吸収できないってぇ!!》

 

過去一番と言った様子で焦りの声をあげるダフネだが、もう何もかもが遅い。サジタリウスが放った数本の矢へ向けて、レビィ、アルザックとビスカ、リーダス、カナ、マカオ、エルザがそれぞれ炎に属する魔法を放つ。

 

「受け取って!ナツ!!」

 

そして集った炎は数本の矢を巻き込んで、巨大な炎の矢と化してナツのいる場所へと直撃する。その余波でドラゴノイドが悲鳴を上げながら炎に焼かれていく。だがナツは違う。火の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)である彼に炎を与えることが、何を意味するのか、全員が知っている。

 

勢いよく燃えた炎をものともせず、それらを口の中へと勢いよく喰らい尽くしたナツ。炎を喰らう事で、魔力の回復、及び増加をすることを可能にした彼に、最早敵はいないと言っていい。

 

「食ったら力が湧いてきた!!」

 

そして勢いそのままに、激しい炎を身体から発しながら雄たけびを上げる。それによって、ドラゴノイドに更なる炎が移り、その造られた身体を焼き尽くしていく。

 

「“怒り”…それこそ奴の最大の力の源」

 

その光景を遠目から見ていた魔導士たちの元に、ゆったりと歩きながら、マスター・マカロフがその言葉と共に近づいてきた。

 

「自らを解放し、困難に立ち向かい、それを打ち破る原動力…。それには、ナツを怒らせるのが一番なんじゃよ」

 

「そうか、だからシエルは敢えて…」

 

「ナツを怒らせる…その方法はいろいろあるけど、これが一番効果的なんだ♪」

 

シエルが実行する前に思い出したもう一つの事は、ナツと共にコブラと対峙した時だ。怒りによって最大限の力を発揮したナツが、コブラの心の声まで聴く魔法でも聞き取れない激情のままに圧倒していたこと。その時に、自分がナツを怒らせたのとほぼ同じ方法を使えばいい、と考えついたのだ。

 

作戦を実行した際、「ナツを怒らせろ」と言う秘策を授かったグレイは、すぐさまシエルの意図に乗った。ハッピーやルーシィも、シエルやグレイの様子を見てすぐさま気付いたそうだ。ナツを怒らせることが効果的であることは、エルザも言わずとも気付いていたらしい。

 

「者共!!よーく見るがいい!!妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士が、邪を祓うぞい!!」

 

マカロフの声を耳に入れながら、ドラゴノイドの方へとよく目を向けてみる。先程顔の部分に鉄拳で突き破りながら入っていったナツが今度は頭の部分を突き破って出てくる。そして、操縦をしていたダフネの元へと、とうとう到着し、その席へと入り込んでいく。燃え上がる激情のままにダフネのあの手この手をすべて壊しながら迫りくる姿を垣間見て、ダフネは恐怖に引き攣った表情でナツを見た。

 

「何でも隠しちまう技、使ってみろよ…。どんどん力が湧いてきてんだよ…!テメェの魔法じゃ隠し切れねぇ程になぁ!!」

 

そう言いながら炎を発し、更に勢いは膨れ上がる。その時ダフネは確かに目にした。ナツの後ろに控えるかのように、赤い炎を思わせる身体、強靭な爪、大きく広げた翼、そして剥けられる強大な牙。何という恐ろしさ、何という猛々しさ、あの時見たものよりも上回るほどに、圧倒的な存在感。

 

「(ああ…やっと、会えた…!)」

 

恐怖、畏怖、あらゆる怖れを抱きながらも、彼女はそれ以上に感激した。あの時見たものは、やはり本物だった。造る事でしか会えないと思っていた存在に、また会えた。自分が行きついた結論を実現こそできなかったが、その根底にある願いは、叶えられた。

 

「イグニールに謝りやがれぇ!!ドラゴンもどきがぁあっ!!!」

 

炎を纏った鉄拳を受けたドラゴノイドの頭は、その衝撃を受け止めきれずに、全体と共に大爆発を起こして崩壊した。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「結局、ドラゴノイドの弱点ってのは…」

 

「動力源である、ナツそのものだった…か」

 

夜もすっかり明けて、崩壊したドラゴノイドも含めて太陽がマグノリアを照らし出す。ダフネを担いでその場に立っているナツを見据えながら、シエルはグレイとそんな風に結論を呟いていた。怒るたびにオーバーヒートを起こす動力源など、確かに弱点そのものだ。

 

「グレーイ!テメェよくもやってくれたな!?」

 

「元々テメェのせいだろーが!!」

 

突発的に昨日の出来事を思い出したのか、ナツが担いでいたダフネを放り投げてグレイに突っかかる。しかしグレイからすれば元々大事な約束も忘れていたナツの方が原因だろ、と言いたい話である。結局いつも通りの喧嘩の始まりである。

 

「そうだ!あとシエル!お前散々好き放題言ってくれやがったな!?」

 

「あ、あれ?ガジルが日頃愚痴ってた内容そのまま言っただけだよ?」

 

「おい!さらっと人に擦り付けてんじゃねぇ!!」

 

「んだとガジルコラー!!」

 

「信じんな!!」

 

ナツを怒らせるために色々と口にしていた暴言を、息をするように嘘をついてガジルに擦り付ける。怒りで単純になっているナツが本人に食って掛かると、ナツとグレイ、ガジルの三つ巴で喧嘩が勃発した。見慣れた光景に一人加わったことで、周りの魔導士から笑い声が起こる。

 

「みんな楽しんでるみたいだけど、あんまりいじめたりしちゃダメよ、シエル?」

 

「節度はわきまえてるよ。それに、俺は仲間の幸せの為なら、どんなことだって利用するやつだからね」

 

眉根を下げながらも笑みを浮かべているミラジェーンにそう言うと、彼女は「あらあら」と少し肩を竦めた様子で返す。だが自分をこんな風に言ってはいるが、大事なところでは仲間の為に、仲間以外のものを犠牲にしてでも尽力し、戦おうとしていることを知っている。治りかけている彼の右手も、その証拠の一つだ。

 

だがミラジェーンはこうも思う。ギルドの仲間たちは、誰か一人でも欠けるようなことがあってはいけない。だからこそ、自らが守ろうとしているものの中に、自分の事も入れてあげてほしいと。残された者の辛さを、彼女は痛いほど知っているから。

 

「あっそうだ…!」

 

シエルがふと、周りに視線を向けてみると、エルザがウェンディたちに歓迎のケーキをプレゼントしているところを見た。そこで思い出した。昨日は自分も、彼女に同じようなものを贈ろうとしていたことを。

 

「こ、壊れたりしてないよね…!?」

 

彼女に贈ろうとと考えていたプレゼントが入った包装紙を懐から取り出し、恐る恐る中身を確認する。店の前で見た時と変わらないまま包まれていたのを確認したシエルは、ほっと胸をなでおろす。

 

「ウェンディ、実は俺からも…歓迎の印に」

 

そして、ケーキを受け取って嬉しそうな表情を浮かべているウェンディに、シエルは近づきながら彼女に贈るプレゼントを両手に抱えてそれを示す。

 

「え、シエルも、私に…!?」

 

エルザに続いて渡されるとは思わなかったのか驚いた様子を見せながらも、渡されたケーキを一度エルザに預かってもらい、彼女はシエルから手渡されたそのプレゼントを受け取る。「開けてみてもいい?」と聞かれれば勿論と言う意思も込めて首を縦に振る。

 

「わぁ…!シエル、ありがとう!」

 

開けた中身をその目にすると、気に入ってくれたのがよく分かる笑顔でお礼を告げてくれた。その笑顔が眩しくて、飛び跳ねて喜びそうになるのを押さえながらも「どういたしまして!」と返す。贈って本当に良かった。心からそう思える。

 

波乱のある二日間となってしまったが、今回の件で、更にギルドの家族に絆が芽生えたと思える。これからもその絆が失われないように、もっともっと、強くなっていこうと改めてシエルは思った。

 

目の前の少女を、自分の力で守れるように…。




おまけ風次回予告

シエル「ナツー!大変だよー!」

ハッピー「とんでもないことになっちゃったんだ!」

ナツ「ん?どうしたんだよ二人揃って?」

ハッピー「落ち着いて聞いてよ?実は…!」

シエル「オイラたち、入れ替わっちゃったんだ!!」

ナツ「…は?」

ハッピー「ハッピーの姿をしてるけど、俺はシエルだし!」

シエル「オイラがハッピーなんだよ~!どーしよー!!」

ナツ「いや…今時そんなことで引っかかる奴いるかぁ?」

シエル・ハッピー「「ホントだってばぁ!!」」

次回『チェンジリング』

ナツ「まあ、とりあえずメシでも食って落ち着けよ。なんか食いたいもんあるか?」

シエル「勿論肉ー!」
ハッピー「勿論魚ー!」

ナツ「…どうせやるなら最後までやれよ、お前ら…」

5.5章で執筆してほしい、アニメオリジナル回のタイトルを選んでください

  • 虹の桜
  • ウェンディ、初めての大仕事!?
  • 24時間耐久ロードレース
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