FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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最近めっちゃくちゃ寒いです。布団にこもりたくなります。そのせいで執筆が中々捗らなくなります。あ、ごめんなさい、言い訳ですねこれ…。

大体1話は1万字前後を目安にしているので、今回とかほぼほぼジャストになってるはずなんですけど、やっぱりこの前までの膨大な字数を目の当たりにしているせいでボリュームが少なく見えてしまう…どうしよ…。

ちなみにですが、来週の更新は休みになります。これ、エドラス入る時年越してない…?(汗)


第73話 ギルダーツ

ギルドの一階は大騒ぎ。ジョッキを片手に笑い、はしゃぎ、飛び跳ねて。いつも喧騒に包まれているギルドにとっては見慣れているはずのその光景は、何やらいつにもまして拍車をかけているように見える。

 

「うわっ…!いつも以上に盛り上がってる…!」

 

「お祭りみたいだね、シャルル!」

 

「ホント騒がしいギルドね…」

 

屋上から降り、その空間へと戻ってきたシエルたちは、目の前に広がる超ハイテンションな魔導士たちの姿を見ながら、若干引き気味に言葉を紡ぐ。ウェンディだけはより賑やかなことが好ましいのか、嬉しそうだが。

 

「あら、みんな戻ってきたのね」

 

「そりゃあこんな大騒ぎが聞こえたら見にも来ちゃうよ」

 

その声を聞いて気付いたのか、ミラジェーンがシエルたちへと振り向いて声をかけた。一階フロアの中の声が、屋上にいる自分たちが耳を塞ぎたくなるほどの声量で叫び声が届けば、そりゃ様子を見たくもなる。

 

「あの、ギルダーツって聞こえてきましたけどあたしたち会ったことなくて…何者なんですか?」

 

「ああそうか、ルーシィはもちろんだが、シエルも面識なかったか」

 

代表してルーシィがギルダーツの事を質問すると、日向ぼっこから戻ってきていたシエルに気付いた兄のペルセウスが、会話に加わる形で代わりに答える。3年前から妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいるはずのシエルが会ったこともないという本人たちにとって謎多き人物。気になるのも当然だ。

 

「単刀直入に言うと、ギルダーツは妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の魔導士よ」

 

「最…強…!?」

 

「それって、エルザやペルさんよりも強いってこと!?」

 

続けるように答えたミラジェーンの言葉のうち、“最強”と言う単語にシエルが虚を突かれたように目を見開き、ルーシィも驚愕を表しながら確認する。シエルからすれば、兄を差し置いて最強と言わしめる魔導士がいたということ自体が衝撃だが、その他ならぬ兄と、近い実力を持つエルザの発した言葉に、その衝撃はさらに大きくなる。

 

「私たちなど足元にも及ばんさ」

 

「それどころか、二人がかりでかかったとしても勝てる気がしない」

 

「ど、どんだけヤバい人なのかしら…!?」

 

S級魔導士として各方々からその名を轟かせている最強候補と言われたペルセウスとエルザ。そんな二人が組んで挑んでも、そのギルダーツに勝てるビジョンが浮かばないというのだ。規格外にも程がある。戦慄するルーシィの横で、自分の兄がそれほどまでの戦力差を認めていることに関して、シエルは衝撃と動揺から、何も言葉が浮かんでこない状態にさえなっている。

 

「それにしたって、みんな騒ぎすぎじゃないですか?」

 

「無理もねぇよ。帰ってくるのは3年ぶり…シエルがこっちに来るちょっと前から外にいたんだからな」

 

帰ってくること自体が3年ぶり。だからシエルが彼と面識がないのも納得できる。だがそれとは別にもう一つの疑問が浮かんだ。3年もギルドの外で、一体何をしていたのかと言うこと。

 

「ルーシィは知ってると思うけど、S級クエストの上にSS級クエストって言うのがあって、更にその上に10年クエストがあるの」

 

評議院を通してギルドに出される依頼は、その内容によっていくつかの難易度に区分される。一般の魔導士なら誰でも受けられるものとは違った高い難度のクエストは、ミラジェーンの話にも出ていたが、本来はS級魔導士、もしくはマスターに許可された、S級魔導士に同行する者たちしか受注できない『S級クエスト』。

 

それよりも更に上の難易度に設定されている、S級魔導士でさえ簡単に受注の許可が下りない『SS級クエスト』。そこから更に上に設定された、依頼の発行日から10年間誰も達成できたものがいない、通称『10年クエスト』が存在する。ちなみに10年クエストの中には、ペルセウスが1年間かけて単独で達成したものもあった。

 

「ギルダーツが行っていたのは、俺が受けたやつよりもさらに上の難易度。

 

 

 

 

 

通称、『100年クエスト』だ」

 

『100年クエスト』―――。

これまでの説明から最早想像するのに難くない。100年と言う長い年月、誰も達成が出来なかったクエストを指す。今までも感じた驚愕や衝撃などと比べ物にならない別次元の話に、各々もそれぞれ言葉を失った。

 

《マグノリアを『ギルダーツシフト』へ変えます!町民の皆さん!速やかに所定の位置へ!!繰り返します!》

 

「それにしても騒ぎすぎじゃないかしら?」

 

外から拡音機越しに町全体に聞こえる様に流された放送がこちらにも聞こえてくる。様子を見るに、街中の方もかなり大騒ぎしているようだ。ギルド内だけでなく街の方までとは珍しい。

 

「『ギルダーツシフト』って言ってたけど…何のこと?」

 

「外を見てみろ。一発で分かる」

 

放送内容を耳にしたシエルが、気になった単語を兄のペルセウスに尋ねてみる。だが口元に弧を描いた兄から返ってきたのはそれのみ。百聞は一見に如かずと言う事か。その言葉通りに、出入り口からマグノリアの様子を見るために外に出るシエルたち初見組。すると、マグノリアを代表する巨大な教会・カルディア大聖堂の鐘が一回鳴らされた直後、目を疑うような光景がその目に映った。

 

ある区域は地面がせりあがり、ある区域は横へとスライドされ、街を行きかう河は橋の部分で壁が上がって一時的にその流れを止める。更に、ギルドの出入り口から真正面には、今まで存在しなかったはずの石タイルで出来たスロープのついた一本道が現れ、そこから街が真っ二つに割れた状態でそれぞれが密集。一本道からは絶対に登れないほどの高低差を残す。

 

「ま、街が…割れたぁーーっ!!?」

 

マグノリアの東にある森から、この妖精の尻尾(フェアリーテイル)を繋ぐ、街を分割にしてまで作られた一本道の出現。それがギルダーツシフトと呼ばれる、マグノリアのもう一つの姿である。

 

「う、嘘だろ…!?マグノリアが、真っ二つ…!こんなの知らなかったぁ…!!」

 

「俺も初めて見た時は夢かと思ったよ…」

 

愕然と言った様子で、3年近く住んでいた街のもう一つの姿を初めて見たシエルが、声を震わせながら告げる姿を見て、どこか遠い目をしながらそれに兄が同意する。きっと今の弟とほぼ同じ気持ちだったことだろう。

 

「ギルダーツは『クラッシュ』と魔法を使う」

 

「触れたものを粉々にしちゃうから、ボーっとしてると民家も突き破って歩いてきちゃうの」

 

「どんだけバカなの!?その為に街を改造したって事!?」

 

エルザとミラジェーンのそれぞれの説明を聞いたルーシィは、もう頭がおかしくなりそうだった。たった一人の男の為に広大な街を真っ二つにするような改造、どれだけの費用と時間を必要としただろう。そんな事をするくらいなら普通は本人に厳重の注意を払ってもらおうと考える。だがそれでも恐らく解決しなかったのだろう。街の被害額を毎回積み重ねるぐらいなら、いっそ一度の多額の出費を覚悟して今後の被害を最小限に抑えようと決定し、実行したのがこのギルダーツシフトか。

 

「すごい…!すごいね、シエル!!」

 

「は、はははは…うん、ホントすげぇよ…すげぇバカだよ…」

 

「全くもって同意だわ」

 

純粋に感動を覚えているのか、高揚した感情のままシエルに同意を求めてくるウェンディ。だが、そんな可愛らしい彼女の姿も映らないほどシエルは目の前の事実が衝撃的過ぎた。乾いた笑い零しながらつい出てきた本音はちゃっかり周りに聞こえており、同様に呆れた様子のシャルルがすぐさま同意を示した。

 

「来たーっ!!」

「あい!!」

 

そして並外れた視力を持つナツが、ギルドに繋がる一本道をゆっくりと歩いてくる人影を見つけ、喜びを露わにして声をあげる。それによって他の者たちも気付き、今か今かとその帰還を待ちわびる。

 

3年と言う長い期間。それも向かったクエストは100年もの間、誰一人達成できなかった史上最高難易度のクエスト。少なくとも彼を知る者が、この帰還を喜ばない訳がない。そして長い一本道を歩き終わり、とうとうその人影は開かれたギルドの門扉を潜り抜けた。

 

「…ふう…」

 

真っ黒なロングコートを羽織り、背中に荷物袋を背負いながらくたびれた様子で一息を吐くその男性。茶髪のオールバックで無精髭が目立つ、失礼だが一見するとどこにでもいそうな無気力なおっさんと言う印象だ。

 

「(こ、これがギルダーツ…見た感じは普通のおっさんに見えるような…。けど、マカオ達と比べるとどことなく雰囲気、と言うかオーラみたいなのが明らかに違う…)」

 

外観を見ただけでは判別が出来ない。隙だらけのような佇まいにも見えるが、一流の達人は敢えて隙を作ることで相手の油断を誘い、そこからすぐに反撃に移したり、意識せずとも長年の経験をもとに、体が危険を察知して、無意識のうちにその脅威を退けると言った戦い方をする者もいる。

 

断定はできない。だが、彼から微かに感じる魔力やオーラと言ったものから、最強の名に相違ないものを感じているのも事実。

 

「ギルダーツ!オレと勝負しろォ!!」

「いきなりソレかよ!?」

 

帰ってきたものに対して早速勝負を吹っかけるナツ。長い間ギルドを留守にしていたのだから少しは労ってやれと言わんばかりにエルフマンからツッコミが入るが、ナツも、そして吹っかけられたギルダーツもそれに意識を向けはしない。後者に至ってはまだボーっとしているのかナツの声に反応せず立ち尽くす。

 

「おかえりなさい」

 

「む?」

 

だが、迎えの言葉をかけたミラジェーンに気付いた彼は、雰囲気そのままに頭に疑問符が浮かんでいるような表情で彼女に尋ね始める。

 

「お嬢さん。確かこの辺りに妖精の尻尾(フェアリーテイル)ってギルドがあったはずなんだが…」

 

「ここよ。それに私、ミラジェーン」

 

「…ミラ?」

 

彼女のその言葉に、ギルダーツは一瞬理解が遅れて首を傾げる。自分の記憶の中にある生意気な少女の姿をしていたミラジェーンと、今目の前にいる穏やかな笑顔が似合う女性。随分雰囲気が変わったが、言われてみれば面影がある。それに気付いたギルダーツは気だるげだった表情から一変して目を見開いて反応を示す。

 

「おお!随分変わったなァお前!!つか、ギルド新しくなったのかよー!!」

 

「外観じゃ気付かないんだ…」

 

雰囲気の変わったミラジェーンとギルドの様子を、先程とは打って変わってはしゃぎながらキョロキョロしながら叫ぶギルダーツ。外見からは想像しなかった子供っぽい反応だ。

 

「ギルダーツ!!」

 

すると彼の名を呼びながら走り駆け寄ってくる一人の青年。ミラジェーンと違い、3年前とそれ程雰囲気が変わっていないその姿を見たギルダーツは、今度はすぐさま気付いた。

 

「おおっ!ナツか!久しぶりだなァ」

 

「オレと勝負しろって、言ってんだろーー!!!」

 

言うや否やギルダーツ目掛けて拳を振りかぶり、飛び掛かるナツ。エルザやペルセウスが相手の時にもよく見かけた光景だ。そして従来通りならこの後も共通。飛び掛かってきたナツに対して、右手を差し出し腹にかけ、彼の身体を掴むと器用にその場でナツを何回も縦に回転させる。そしてそのまま勢いを利用して上に放り投げると、ナツは背中から大の字で天井にめり込んだ。いつものやつ(瞬殺)だ。

 

「また今度な」

 

今までも魔法を使わずに素手で返り討ちにされて瞬殺されることは多々あった。だがあまりにも流れるような動作でナツを戦闘不能にした彼の力の片鱗を目の当たりにし、初めて会った者たちを中心に再び驚愕が支配する。

 

「や、やっぱ…超強ェや…!」

 

しかしやられた方のナツは相も変わらず圧倒的な強さを見せるギルダーツの姿を見て目を輝かせる。自分も力をつけてきたが、それでもまだまだ壁は高い。だがそれが逆に、彼の強さへの意欲に火をつける。

 

「変わってねぇな、オッサン」

「漢の中の漢!!」

 

ナツだけじゃない。彼と同じ年代の男子にとって、そんなギルダーツの強さは少なからず憧れだ。第一印象からは繋げにくい、最強の魔導士と呼べるべきその強さは、一種のカリスマの一つとも言える。

 

「いやぁ、見ねぇ顔もあるし…ホントに変わったなァ…」

 

彼のいなかった3年で、ギルドが新しくなったり、抜けたメンバーや、新しく加わったメンバーもいる。そう言った変化を実感しながら、ギルダーツは己に向けられる視線を向ける者たちを一通り見渡していく。

 

「…ん?んん…!?」

 

すると、何かに気付いた様子で口を結び、目を細めてある者の元へとギルダーツは歩み寄る。その視線の先にいたのは、水色がかった銀色の短髪に、金のメッシュが入っている少年。

 

「え、な、何…?」

 

そう、シエルだ。数日のすれ違いでようやく初めて邂逅に至った二人。しかし、顔を互いに合わせること自体初めてであるはずなのに、ギルダーツは何故かシエルの顔をじっと見てくる。見定めるような視線を向けてはいたが、もしかして癇に障ったのだろうか?と、内心焦りながら生唾を飲み込んで彼と目を合わせているシエル。そんな彼に対してギルダーツは…。

 

「…ぷっ!」

 

何故か途端に吹き出して、口角を吊り上げた。どこかその表情はにやけているように見えていて、シエルはその顔を浮かべた意図が分からずポカンとなる。

 

「だーっはっはっはっは!!お、お前まさか()()か!?3年経ってんのにちっちぇままじゃねーか!!つか寧ろ、より縮んでねぇ!?」

 

そして何やらツボに入った様子で大笑いしながらシエルの肩を何度も叩いてくる。正直めっちゃ痛い。相当面白いのか肩を叩いていた右手を腹部に持ってきて、目には涙さえ浮かんでいるようにも見える。

 

「まあ、気にすることねーよ!幸い顔はいいんだ!子供っぽく見える奴って言うのもきっとそれなりにモテるさ、多分!」

 

「え、えーと…?」

 

呆然としている間に何やら変な方向に話が進んでいるような気がする。弁明する余裕すらも考えられないシエルに、見かねた兄が助け舟を出した。

 

「ギルダーツ。ペルセウスはこっちだ」

 

「え?」

 

明らかに勘違いしている様子のギルダーツに一発で分かってもらうために、本物のペルセウスがシエルの隣に立って彼に声をかける。すると、さっきまで抱腹絶倒寸前だったギルダーツの表情が、一瞬で目が点になったようなものに変わる。

 

「そいつはシエル、俺の弟だよ。何回か話はしただろ?」

 

「…弟?それって、病気で寝たきりだったっていう…?」

 

「ああ。この通り快復して、今は妖精の尻尾(ここ)の魔導士だ」

 

その説明を聞いてようやくギルダーツは自分の勘違いに気付いた。「あ~…」と声を漏らしながらバツが悪そうに頭をポリポリとかいて、ギルダーツは改めてシエルの方に目を合わせる。

 

「悪ィなボウズ…じゃなくて、シエルだっけか?昔のペル(兄貴)とあまりに似てたから、間違えちまった」

 

浮かべる表情は笑み。だが先程とは違い、己の間違いを反省した苦笑に近いもの。それを見て、そして言葉を聞いて、困惑するだけだったシエルは未だ戸惑いを残しているものの、我に返って両手を少し上げながら返した。

 

「あ、そんな、気にしなくても…ビックリしちゃっただけだし…」

 

たった数分の間だが、この男性についてどのような人物なのか、かなり分かってきたような気がする。強さを見れば確かに最強格だ。全貌を見たわけではないからまだ断定できる要素は少ないが、兄の言っていた自分より遥かに上に位置するという言葉も嘘ではなさそうだ。複雑だが…。

 

内面に関しては、今のところで言うと素直と言う印象。周りから見た体裁を気にせず、心から感じたことが表にすぐ現れて示す。そんな感覚。だが取り繕うともせずありのままの自分を出しているというのも、周りからの憧憬を受ける一因なのだろう。

 

「ギルダーツ」

 

「ん?おお、マスター!久しぶり!」

 

ある程度の会話が終わったところを見計らって、マスター・マカロフが彼に声をかける。呼ばれたギルダーツはその姿を見て再び顔と声に喜色を浮かべて反応を示した。

 

「仕事の方は?」

 

「ん~…がっはっはっはっは!!」

 

3年と言う長い間赴いていた100年クエスト。その結果の話をマカロフが尋ねてみれば、徐に頭に手をかけながら笑いだすギルダーツ。その様子を見て何かを悟ったのか、何も聞き返さずに無言でマカロフは目を閉じた。その様子を見て、シエルが首を傾げていると、ひとしきり笑ったギルダーツは告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ。オレじゃ無理だわ」

 

その言葉に、ギルド全体から衝撃が走った。何と、結果は失敗。誰もが認める妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の魔導士、ギルダーツをもってしても無理と言わせしめるそのクエスト。ナツはもちろんのこと、グレイやエルフマン、彼をよく知る者も、知らない者も、誰もが信じられないと言った様子で動揺する。

 

「オッサンでもダメなのか…」

 

「引き際の見極めも漢!!」

 

100年間誰も達成できないと言われる最高難易度のそのクエスト。その情報に関しては一切明かされてはいない。シエル自身ですら、この100年クエストは噂程度にしか存在を知らなかったのだ。

 

だからこそ感じる。100年クエストとはどのような依頼なのか。誰であれば達成できるのか。

 

 

「100年クエストはまだ早い。やめておけ」

 

「あっれぇー!?ワクワクしてるように見えましたぁ!!?」

 

何かエルザがルーシィに釘を刺している会話が聞こえてくる。彼女も同じように考えたのかもしれない。だがガルナ島の前科がある為にエルザの気持ちもよく分かる自分が存在したりする。

 

「そうか…主でも無理か…」

 

「スマネェ…名を汚しちまったな…」

 

「いや、無事に帰ってきただけでよいわ。ワシが知る限り、このクエストから帰ってきたのは、主が初めてじゃ」

 

失敗してしまったとはいえ、今までの受注者たちは恐らくその場で命を落としてしまったのだろう。だが今回、ギルダーツは生きて帰ってきた。それだけでもマカロフにとっては十分すぎる。もしも彼すらも失っていたら、また一つ大きな悲しみとなっていただろうから。

 

「オレは休みてえから帰るわ。ひ~疲れた疲れた…」

 

命も左右される超難度のクエストから戻ってきたとは思えない、気の抜けた声を出しながらギルダーツは歩きだす。行先も不明だが、恐らく長旅での疲れもあるのだろう。誰も止めようとせずに見送る中、彼は徐にナツへ声をかけた。

 

「ナツ、後でオレん家来い。土産だぞ~っ」

 

その言葉と共に豪快に笑いながら歩を進めるギルダーツ。彼の言葉を聞いてナツの表情がまた明るくなっていく。先程から思っていたが、随分親し気だ。ナツからはともかく、ギルダーツの方も、なんだかナツに対して一段と好意的に見える。

 

「んじゃ、失礼」

 

と、歩を進めていたギルダーツの先にあったのは、出入り口である門扉ではなく、横側の壁。

 

「あ、ちょっと出口はそっちじゃ…」

 

このままだとぶつかると思い、シエルが声をかける。しかしそれを言い切るよりも先に、ぶつかろうとしていた壁が突如光って凹んだと思いきや、途端に破裂して粉砕(クラッシュ)。ギルダーツが通れるサイズの穴を作り出し、作った本人は全く気にせずそのまま歩いて行った。

 

「ええーーーっ…!!?」

「あらあら」

「扉から出てけよ!!」

 

どこか掠れるような驚愕の声を上げながら目をひん剥いて唖然となるシエル。ルーシィも言わずもがな。ミラジェーンは困ったような笑みを浮かべ、ウォーレンが全員の声を代弁した。成程。これがギルダーツシフトの必要性の証明か。

 

「へへっ!土産って何かな~!楽しみだなっと!!」

 

「何でお前まで真似すんの!?」

「負けず嫌いだからな」

 

何故か負けじと火竜の鉄拳でギルダーツが空けた穴の隣を突き破り外へと出ていくナツ。何でわざわざ壊したんだというシエルのツッコミに、これまた何故か冷静なペルセウスが答えた。こっちからしたらはた迷惑以外の何物でもない。

 

「それにしても、ギルダーツってやけにナツと仲が良く見えるね」

 

「ああ。歳も実力もかなり差はあるが、ギルダーツはナツをえらく気に入ってるそうだ」

 

「ふぅ~ん」

 

ナツたちもギルドを出た後、シエルは気になっていた彼らの様子について兄に話を聞いてみる。自分はギルダーツの事をほとんど聞いたことが無かったため、ナツとあれ程までに仲が良さそうに見えたのは新鮮だった。実際兄から見ても、ギルダーツはよくナツの勝負に付き合ったり、釣りやキャッチボールと言った遊びに誘ったり、ギルドの仲間としてはやけに距離感が近く見えたらしい。

 

歳の差や、彼らの性格から、それはまるで親子を彷彿とさせるような。

 

「(兄さんの元に並び立てるようになっても、更に高い壁が、見えたような気がする…)」

 

最強の魔導士は自分の兄。そう信じて疑わなかった。だがそんな兄が自分を凌駕すると断言したギルダーツの存在。兄を目標にしていたシエルにとって、彼と言う存在はイレギュラーだ。目標にしていた兄に追いついたとしても、その遥か上に存在するギルダーツが、己の前にそびえたつ。

 

気が遠くなりそうだ。そんな胸中を抱えたシエルの心の声とは裏腹に…。

 

 

 

 

彼自身の口元は、彼も気付かないまま弧を描いていた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ギルダーツが住処としている家は築数十年は建っているであろう所々がボロボロになった一軒家だ。規模も小さいが、人一人が住むには困らない範囲。立地場所は川辺が近い見晴らしのいいところである。

 

「よぉ!」

「お邪魔しまーす!」

 

「おお、来たか」

 

ギルダーツに招かれて、ナツとハッピーが今しがたその家に到着し、扉を開けると同時に挨拶をする。家主であるギルダーツはウッドチェアに腰掛けながら彼らを歓迎した。

 

「はぁ~ここ来んのも久々だなぁ~」

 

「3年ぶりだもんね」

 

「んで、土産って何だ?」

 

ギルダーツがいない間は一切手を付けていないために、ナツたちもこの家を訪れるのは3年ぶり。懐かしさも噛みしめながら、ギルダーツが恐らく海外から持ってきたであろう土産に、期待が高まっていく。

 

「それはともかく…おめえ、あれからリサーナとはうまくやってんのか?ん?」

 

「はぁ?」

 

「照ぇ~れやがってぇ、そんなんじゃペルに横から取られちまうぞぉ?がっはははは!!」

 

ギルダーツが話題に出したのはリサーナのこと。ナツと仲が良い印象が強く、度々いい雰囲気になっていたのは知っている。しばらくすると、いつの間にかペルセウスがその中に加わり、何かと彼に構うリサーナの様子を見てナツが不貞腐れるのをからかったことも記憶に新しい。

 

だが、彼は知らない。そう、3年不在にしていて、今日帰ってきたばかりの彼は、知る由もなかった。

 

 

 

 

「リサーナは死んだよ。2年前に」

 

「…なっ……!?」

 

からかい気味に浮かべていた笑みは一瞬で引っ込み、愕然と言った様子でギルダーツは絶句した。まさか…リサーナが…?自身が覚えている範囲ではまだ幼さが残っていたあの少女が、死んだ…?本来であれば信じがたいこと。信じられないことだ。だが、ギルドに帰ってきたときに迎えた彼女の姉の変貌を思い出したギルダーツは、どこか合点を覚えてしまった。

 

「ま、マジかよ…そうか、それでミラの奴…うおおっ、スマネェ、ナツ…」

 

「そんな話なら帰んぞ」

 

「ナツってば!」

 

突如突き付けられた現実による衝撃で、頭を抱えるギルダーツ。対して素っ気ない様子で家を出ていこうと踵を返すナツにハッピーが呼び止めようとする。しかし、ナツの足を止めたのはギルダーツの言葉。だがそれは制止のものではなく、本来ナツに伝えようとしていた土産話だった。

 

 

 

 

 

「ナツ、仕事先で…ドラゴンに会った」

 

ドラゴン。その言葉で、衝撃と共にナツは振り返る。そしてギルダーツが語るのは、ナツが探し求めている赤い炎の竜ではない。黒い…絶望を体現させたような、人類の敵となるドラゴンの話だった…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

その日の夜。結局仕事に行くことなく一日を終え、自室に帰ってきたシエルは就寝前に何か本を読もうと本棚を探っていた。魔導書でも読み返そうと目当ての本を引き抜くと、それが引っ掛かったのか、隣にあった一冊の本も一緒に引き抜かれ、床へと落ちた。

 

「あ、いっけねいけね…」

 

すぐに屈んで、落ちた本を本棚に戻そうとするが、その本の表紙を見て、シエルの動きはピタッと止まった。それは奇妙なタイトル。

 

そこに書かれていたのは星霊や星霊魔導士の事について。思えば、自分が星霊やそれに関することに興味を示し、憧れを抱いたきっかけもこの本だ。

 

「懐かしいなぁ…!確かこれ、元は父さんが大事にしていた本だっけ…」

 

ここで自分の目に留まったのは何かの偶然か運命か。元々読もうと思っていた魔導書を本棚にしまい、シエルは星霊に関して書かれたその本を読むことにした。何度も何度も読み返してきたこの本。店に売られていた様子は一切なく、今は亡き父も、その父や祖父母、先祖から大事に扱われてきた本だと言う。まるで筆者がタイトルに込めた名の如く、脈々と受け継がれてきた一冊の本。

 

星霊の事のみではない。いずれ世界に牙を剥くという、黒い竜の事や王家が保管しているとされる謎の扉のこと。正直今のシエルが読んでも何もピンとは来ない。だがその内容は、妙に頭の中に入ってくる。

 

 

 

 

最後の一節は『大いなる魔力満ちる時代の子へ。太陽と月が交差する時、十二の鍵を用いてその扉を開け』

 

 

 

そして本のタイトルは『TO OFFSPRING(我が子孫たちへ)




おまけ風次回予告

シエル「何て言うか…色々凄かったな、ギルダーツ…」

ナツ「そうか?まあ、確かにスゲー強ェけどよ!でもその分燃えてくるもんがあるだろ?」

シエル「強さだけじゃなくてさ…なんか色々と規格外な感じがするんだよ。俺、柄にもなくただただポカンとしてた気がするし」

ナツ「ん~そんなもんかぁ?ギルダーツっていつもあんな感じだから、規格外って言われてもピンとこねぇ」

次回『消えゆく街』

シエル「あ、そっか!成程な!!」

ナツ「どうした?」

シエル「ナツが周りのもん色々ぶっ壊す規格外な部分は、ギルダーツに影響されたんだ!!」

ナツ「そーだったのかーーーっ!!?」
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