FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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ギリセーフッ!(前書きと予告はアウト)

文字数多くなるの分かっていながら、何故か余裕を持ったペース配分が出来なかった…。どうやったらやる気になれるんだろ、僕の体…。

でも書きたい部分まで何とか書けたので、次回はきっとエドラスに突入できる!はず!←


第74話 消えゆく街

妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の魔導士であるギルダーツが帰還し、更に日にちが過ぎた日の事。分かりやすい日付の詳細を言えば、ウェンディたちが加入してからちょうど二週間が経過したところだ。

 

「ただいま~!」

 

「あら、おかえり二人とも。仕事はどうだった?」

 

「特に問題無く済んだ。ま、あの程度ならどっちかだけでも十分だったろうが」

 

カウンターで頼まれているであろう分の酒を注いでいる最中だったミラジェーンの元に、周辺の魔物討伐依頼から帰ってきたシエルとペルセウスの兄弟が報告も兼ねて声をかける。チーム全体で行動することもあるが、最近は兄弟二人で仕事に向かう頻度がよく増えている。

 

「それにしても…」

 

ちらりとシエルが後ろに振り向きながらぼやいた先には、昼間で、特に理由も無いはずなのにギルド内でどんちゃん騒ぎをしている数人の男性たちの姿。まあ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)においては日常茶飯事の光景だが、自分たちのように仕事に行かなくてもいいのか?と言う疑問が浮かび上がる。

 

そんな彼らにジョッキを片手に持ったカナが怒りながら注意するが、彼女も昼間から酒を何杯呑んでいるのやら。自分は迷惑をかけていないだろう、と言うのが彼女の主張らしいが。

 

「いつもの事だけど陽気と言うか、騒がしいというか…」

 

「それが妖精の尻尾(ここ)のいいところよ」

 

「シエルもよく分かってるだろ?」

 

「まあね」

 

キッチリと規則通りで仕事をするよりか、あのように迷惑のかからない範囲で自由にしていられるというのは、ギルドの利点の一つだ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)はそれが顕著すぎるような気もするが、兄も言うように、そこがまたいい事でもあると思っている。

 

「777年7月7日?」

 

すると、違う方向から聞こえてきたのはルーシィの声。つられるようにそっちへ視線を向けると、彼女だけでなくウェンディも同じテーブル席に座っており、近くにはシャルルもダージリンティーが淹れられたカップを両手で持っているのが見える。

 

「私やナツさんに滅竜魔法を教えた(ドラゴン)は、同じ日にいなくなってるんです」

 

(ドラゴン)を倒す為に特化した滅竜魔法を扱える滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)。ナツやウェンディ、ガジルと言った魔導士たちは皆、親代わりであった(ドラゴン)からその滅竜魔法を教わった。その(ドラゴン)は突如各々の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)たちの前から姿を消したのだが、その日と言うのが先程ルーシィが反芻した日なのだ。それも3人とも。

 

「偶然ってわけじゃないとすると…その日付じゃなければいけなかった理由がある…?」

 

耳を傾けて、自分も気になったのかあらゆる可能性を考え始めるシエル。手を顎の近くに持っていきながら過去に聞いたことのある情報を照合しようとするが、これと言って思い当たりそうなことは浮かばない。777年の7月7日。数字が7で占められたこの日付が、(ドラゴン)たちに何か関係があるものなのか…。

 

「遠足の日だったのかしら?」

 

「何でっ!?」

 

「…ルーシィさんも、たまに変な事言いますよね?」

 

似たような仕草をしながら呟いたルーシィの推測を聞き、思わずシエルはその場でズッコケた。ウェンディもウェンディで苦笑いを浮かべている。(ドラゴン)たちの遠足って何だ。もしそうなら何でウェンディたちに何も言わずにいなくなった。そんな理由ならとっくの昔に帰ってくるはずだろ。色々と言いたいことは頭に浮かんだが口には出さなかった。めんどくさいしあほらしい。

 

「火竜イグニール、鉄竜メタリカーナ、そして天竜グランディーネ…だったか?」

 

その場で倒れこんだ姿勢でいたシエルの体を起こしながら、同じように会話が聞こえていたペルセウスが口にする。ナツたちをそれぞれ育てた(ドラゴン)たちの名前を。

 

「それなりに国内や、時には大陸内の外国に赴くこともあるが、てんで情報は見つからない。異大陸にいるのだとしたら、可能性はあるだろうが…」

 

「異大陸…」

 

フィオーレ国内、そしてそのフィオーレも内包するこの大陸のどこにもいないとなると、別の大陸にいるのではないかと言う可能性。(ドラゴン)であれば、その気になれば確かに海を渡って異大陸にも行ける。もしそうだったとしたら…。

 

「グランディーネ…今、どこにいるんだろう…?」

 

自分を育ててくれた天竜の名を呟くウェンディ。今どこにいるのか、急にいなくなった理由、聞きたいことや話したいことは色々とある。誰にも知りえない疑問に答えられる者は、残念なことに今ここにはいなかった。

 

「シャルル~!!」

 

すると、赤いリボンを巻き付けた魚を両手で持ちながら、ハッピーがシャルルの元へと駆け寄ってくる。そしてテーブルへと器用に飛び乗りながら彼女の近くに辿り着いた。

 

「これ、オイラがとった魚なんだ。シャルルにあげようと思って」

 

「いらないわよ。私、魚嫌いなの」

 

シャルルに好意を抱いているハッピーは、彼女へのアプローチの為に自身の好物である魚をプレゼントしようと準備していたらしい。だが、対するシャルルの返しはどこか素っ気ない。それにもめげずに、ハッピーは再び彼女に声をかける。

 

「そっか…じゃあ何が好き?オイラ今度…」

 

「うるさい!!」

 

しかしハッピーの言葉を遮り、シャルルは彼の拒絶を示した。唐突なその叫びと剣幕に、思わずハッピーも二の句を継げなくなる。

 

「私に、付きまとわないで!」

 

そのまま椅子を伝ってテーブルから降りると、ハッピーを遠ざかる様に出入り口の方へと歩いていく。

 

「シャルル、何もそんな言い方…」

 

さすがに見かねたシエルがシャルルにそう言葉をかけると、歩を止めて彼の方へと勢い良く振り向く。その顔に確かな苛立ちと怒りを込めた視線を向けられたシエルは、思わず口を閉ざした。シエルに対しても、自分に声をかけることを拒絶するかのように。

 

「シャルル!ちょっとひどいんじゃないの!?」

 

口を閉ざし、シエルが何も言わなくなったことを確認したシャルルは、そのまま外へと再び歩を進め始める。彼女の態度にウェンディが諫めるように彼女を叱るが、それに対しても彼女は何も反応しないままギルドの外へと出て行ってしまった。

 

「あ、待ってよシャルル~~!!」

 

一人出ていくシャルルを、慌ててハッピーが追いかける。ハッピーも一緒になってギルドから出ていく様子を、悲しそうな表情でウェンディたちは眺めるしかできない。

 

「何かシャルルって、ハッピーに対して妙に冷たくありません?」

 

「シエルにもどこか素っ気ないが…ハッピーに対しての方がやけに顕著なのは確かだな」

 

思えばシャルルの態度は、ウェンディ以外にはほぼ同じようなものだ。だが、相棒のウェンディに必要以上に近づくシエルはともかく、同じ種族と思われるハッピーに対してこうまで露骨に嫌悪を示すのは不可解だ。何がそこまで気に食わないのだろうか…。

 

「シャルル…」

 

心配するような声色でウェンディは相棒の名を呟く。視線は彼女が出ていった出入り口の方へと固定されたまま。ずっと長い間共にいた親友の事だから、心配するのも当然だろう。

 

「大丈夫かな、二人とも。もうそろそろしたら雨が降ってくるのに」

 

「え、雨…?」

 

同様に不安げな声と共に告げたシエルの言葉に、思わずルーシィが窓の外を見てみる。そこから見える上空には、確かに雲が集まってきているように見えるが、それを見るだけで雨が降ると確信することは難しいだろう。

 

しかしそこは天候魔法(ウェザーズ)を使える魔導士。微かな空気の流れを察知し、数時間や数分先の天候をピタリと当てることが出来る。地味にこのおかげで洗濯物などの通り雨で被害を出しやすい事態を回避してきたこともある。

 

「ホント戦いだけじゃなくて、日常でもすごく便利よね、アンタの魔法…」

 

「実際重宝はしてるよ。けどあらかじめ言っとけばよかったな…二人とも傘持ってないし…」

 

長く共にしているから忘れかけていたシエルの魔法の利便性を再認識して呟いたルーシィに、返事すると同時にシエルは少しばかり後悔する。誰も予測できなかったのだから仕方ないと言えば仕方ないが、シエルの言葉を聞いたウェンディは、目を見開いて思わずその脚を動かした。

 

「私、シャルルを探してきます!!」

 

「あ、ウェンディ!?」

 

心配になったウェンディがシャルルを探すためにギルドの外へと駆け出していく。思わずそれを制止しようと手を差し伸べるシエルだがそれに気付かなかったウェンディはそのまま出入り口を通り外へと出る。それだけならシエルは止めようともしないのだが…。

 

「…ウェンディも…傘忘れていってる…」

 

雨に打たれて風邪をひくであろうシャルルを心配して駆けだしたと言うのに、そのウェンディまで肝心な傘を忘れてしまった。ルーシィとペルセウスはその光景を見て何も言葉が出てこない。そしてその二人は何を言う訳でもなく、シエルにその視線を向ける。その意味を、シエルが理解できない訳がなかった。

 

「俺、傘届けに行ってくるね…」

 

「ああ、行ってらっしゃい…」

 

妙な空気となってしまったが、シエルもウェンディたちの後を追いかけるため、ギルドの外へと向かった。無論、傘は人数分持ちながら。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

外へと出てから少し時間が経った頃に、その雨は降りだした。先程の空模様とは打って変わった本降り。町全体を覆う暗雲から降りしきる無数の雫。町の中にある建物も街路樹も、通りに存在する石畳も濡らすその雨の中を、傘も持たずにキョロキョロと見渡しながら、ウェンディは探しているその存在の名を呼んでいた。

 

「シャルルー!シャルルー!どこなのー!!」

 

心配になって飛び出したはいいが、慌てていたのもあり傘を置いてきてしまったウェンディ。だが既に髪も服も雨に打たれてびしょ濡れになっているこの時では、気にしてもいられない。視線を前に戻してもう一度目を凝らしてみると、ようやく目的としていたその存在が目に入った。

 

「シャルル!やっと見つけた!」

 

「ウェンディ…アンタ、傘もささずに。風邪ひくわよ」

 

「シャルルもでしょ?」

 

前方からトボトボと言った様子で歩いていたシャルルに駆け寄り、お互いさまと言った会話を交わしながら、シャルルに視線を合わせるように膝を折って屈む。そして表情は少し怒り気味だ。シャルルがギルドを出る前に取っていたハッピーの態度に対して、彼女は怒っている。

 

「シャルル。私たち、ギルドに入ってそんなに経ってないんだから、もっとみんなと仲良くしなきゃダメだと思うの」

 

「必要ないわよ。アンタがいれば、私はいいの」

 

「もぉっ!またそーゆー事ばかり…!」

 

窘める様にウェンディが言うものの、シャルルは頑として聞き入れようとはしない。ギルドに加入してから約二週間。ウェンディ以外の者に対するシャルルの壁は未だに厚い。それも、彼女本人がその壁を下げようとしないことも一因だ。だがウェンディにとっては、友であり相棒であるシャルルがいつまでもギルドに馴染めずにいるのは放っておけないことである。考えを改めようとしてくれない彼女に、ウェンディは頬を膨らませた。

 

「まあまあ、話はギルドに戻ってからでもいいんじゃない?」

 

そんなウェンディたちの元に、声をかけながら歩み寄ってくる一人の少年。彼女たちの間の横から、開いた傘を一本差し出して彼女たちを雨から守る。もう片方の手で自分の分の傘を開きながら、彼はこちらを向いた彼女たちにもうひと声をかけた。

 

「こんな雨の中にずっといたら、本当に風邪ひくよ、お嬢さん方?」

 

「シエル…わざわざ追ってきてくれたの…?」

 

自分たちに傘を差しだしてきた少年の姿に気付いて、目を見開いてウェンディは驚きを露にする。戸惑いながらも差し出された傘を受け取りながら「ありがとう…」と礼を告げ、笑みを向けたシエルが「どういたしまして」と告げると、もう一本持っていた小さめの傘をシャルルに差し出す。

 

「…何なのよ、アンタは…」

 

顔を下げて、どこか絞り出すように出した声に、シエルは疑問を浮かべたような反応を示す。

 

「オスネコもそう!アンタもそう!付きまとわないでって言ったのに、どうしてそこまで構おうとするのよ!?」

 

「シャルル!」

 

まるで、悲痛な叫びを聞いてるかのよう。壁を作っているのにそれを乗り越えようとしつこく構ってくる彼らに対する苛立ち。自分の中にある何かを壊されそうになっている者の訴え。宥める様にウェンディが止めるが、怒気を孕んだシャルルの表情は変わらない。

 

「シャルルとも仲良くしたいからだよ。同じギルドの仲間になったのに、いつまでも距離があるのは、何だかイヤなんだ」

 

表情を変えることもなくシエルが告げた言葉を聞き、今度はシャルルが目を見開いて呆然とする。しかしすぐに表情を俯かせながら、彼女はシエルから視線を逸らした。

 

「アンタが仲良くしたいのは、ウェンディの方じゃないの…?」

 

「…ウェンディと仲良くなりたいのは、嘘じゃないよ。けど、ウェンディの友達を放っておいても、本当に仲良くなっただなんて言えないだろ?」

 

友達。その言葉を聞いてシャルルは再び言葉に詰まった。正直、今のシャルルはシエルに対する印象が混乱している。

 

生意気そうな第一印象。それに違わぬ生意気な部分がある癖に、ウェンディ(片想いの相手)や自分に対しては妙に素直。

 

悪人相手には無慈悲な一面がある癖に、仲間に対しては自分がどうなろうとも守り、励まし、必死に戦う。

 

イタズラを仕掛けることもあるのに、今この状況下では妙な優しさまで見せている。更に言えば、彼は心の底から仲間に対する思いやりが見え隠れしているのだ。ウェンディへのアピールの為の打算ではないかと邪推することも多くあったが、それを含めてもここまで彼が自分が張る壁を壊そうとすることに、真剣な目を向けるだろうか。

 

分からない。シエルと言うオスガキが、シャルルにとっては本当に分からないことだらけだ。今までの言動とも相まって、シャルルの心に、彼に対する苛立ちがさらに溜め込まれていくのを、彼女は実感した。

 

「…ん?」

 

彼女の内なる葛藤をくみ取れぬまま誰もが口を閉ざしている内に、もう一つの影が、シエルたちに近づいてくるのを、いち早くウェンディが察知した。

 

「誰…?」

 

全体的に正体を隠すような服装。降りしきる雨の中、先程のウェンディたち同様傘もささずにゆっくりとこちらに歩み寄ってくる人物。バンダナと覆面でその顔を隠し、背中に何本もの杖を背負ったその人物を見て、ウェンディたちは首を傾げ、シエルも少しばかり疑問符を浮かべている。

 

だが、少し思い返したところで、シエルは彼の正体に心当たりを得た。

 

「ひょっとして…ミストガン…!?」

 

「ミストガン…?」

 

噂で少しだけ聞いたことのある、ミストガンの話。外見だけを見れば正体を絶対悟らせないその特徴を、口にしていたことを思い出した。杖を何本も背中に背負い、自分の正体を覆い隠しているという、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のS級魔導士。兄と同じ立場の一人。

 

だが、今までギルドに訪れる際は必ず全員を魔法で眠らせていたミストガンが、堂々と姿を現した。一体、何が起きているのか。目を見張っているシエルたちの元に近づいてきたミストガンは、シエルを一瞬だけ一瞥ししてから、ウェンディの方へと視線を移し、隠された口を開けた。

 

「ウェンディ…」

 

「「え…!?」」

 

その一言で、シエルとウェンディは、同時に気付いた。そしてそれはシャルルも同様に。それは、つい最近も聞いたことのあった、ある人物と同じ声だったから。

 

「まさか君がこのギルドに来るとは…」

 

そう言いながらミストガンは、己の顔を覆い隠すターバンと覆面を外し、その顔を表した。短い青藍の髪、そして右目の上下に刻まれた赤い紋様の刺青が入った美青年。その正体を、シエルたちはよく知っている。

 

「なっ…!!?」

 

「ジェラールッ…!!?」

 

その顔は、ニルヴァーナを巡って六魔将軍(オラシオンセイス)と激突した際に、記憶を失った状態でありながら、自分たちに協力してくれた…そしてそれ以前起こした大罪によって評議員に連行されたはずの、ジェラール・フェルナンデスだった。

 

「ミストガン…じゃ、ないのか…!?でもジェラールは…!!」

 

「ど…どういう事!?アンタ確か捕まって…!!」

 

「それは私とは別の人物だ」

 

困惑を大きく露にする3人に、顔を表したジェラールは告げる。だが、彼の顔は確かにジェラールそのものだ。特徴的である右目の赤い刺青も、本人のものと同じである。それが赤の他人であるはずがないと思えるが、彼は再び告げた内容に、再び絶句することになる。

 

「シエル、君の予想は当たっている。確かに私は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のミストガンだ」

 

彼が噂から予想したことは正しかった。目の前にいるのは、S級魔導士の一人であるミストガンその人であると。しかし、彼らはさらに驚くべき事実を耳にする。それは一度シエルに向けていた視線を、再びウェンディに向けながら告げたこと。

 

「だが7年前は…()()()()の事はよく知らず、ウェンディには『ジェラール』と名乗ってしまった…」

 

「…えっ…?」

 

7年前…ウェンディの前からグランディーネがいなくなり、一人になっていた時期。そしてその後の旅を経て化猫の宿(ケット・シェルター)に預けられた年代。思えば、違和感に気付けるはずだった。

 

シエルが知っているジェラールの経歴は、8年前にエルザを追放し、そこから数か月前まで楽園の塔の建設にあたっていた。ウェンディが彼と会った時と、時期がかぶっている。

 

ゼレフの亡霊に囚われていたはずの彼が旅をしていたことなど、本来はあり得ない。ではウェンディが助けられたジェラールは一体何者なのか。その答えは、今ハッキリと明確にされた。

 

 

()()だったのだ。顔も名前も、声も同じと言う奇妙ではあるが、全くの別人。

 

「ま…まさか…!」

 

その事実に気付いたウェンディ。彼女の目からはじわじわと、雨に紛れながら涙が浮かび上がってくる。それにミストガン(ジェラール)が頷いて工程を表し、彼女の答えに確信を持たせた。

 

「あ…あなたが…!7年前の…あの時の、ジェラール…!!」

 

記憶を失ったことで、忘れられたと思っていた。もう二度と、暗闇の中に入った彼とは会えないと思っていた。だが真実は違った。彼は闇の中になどいなかった。今、ここに存在し、本当の意味で再会を果たせた。自分の事も、覚えていてくれた。

 

「ずっと…ずっと会いたかったんだよ…!!」

 

混乱が頭の中を占めながらも、嬉しさで心が溢れ、目から涙が溢れ出てくる。傘が彼女の手から離れ、石畳に落ち、転がっていく。

 

「ウェンディ…」

 

溢れ出る涙を両手で拭うも、次々と双眸から溢れ出す。せめて自分がさしている傘で彼女を雨から覆う。しかし、まさかジェラールと言う人物が二人存在するとは。自分が知っているジェラールが作り出した、ジークレインと言う思念体が存在したことを考えると、何とも数奇な運命である。

 

「会いに行けなくて、すまなかった…。だが、今は再会を喜ぶ時間はない…」

 

ミストガン(ジェラール)は泣いている彼女に申し訳なさそうな表情を浮かべて謝罪を口にする。しかし、その次に告げた言葉を聞いて、ウェンディも、シエルとシャルルも反応を示す。

 

「今すぐ…っ…!!」

 

苦悶の表情を浮かべると同時に、彼の身体が少しふらついた。何とか踏みとどまったようだが、苦し気な彼の表情は変わらない。心配になってシエルが声をかけるも、ミストガン(ジェラール)はそれも応えずこう口を開く。

 

「今すぐこの街を離れるんだ…!!」

 

そして随分と消耗しているのか、雨に濡れたその石畳に膝をついて蹲る。それを見たウェンディは解放をしようと声を荒げて名を呼ぶが、今の彼は一刻も早くこの事実を伝えようと更に言葉を続けた。

 

「私の任務は失敗した…!ペルと約束した日数さえ、稼ぐことも出来なかった…!」

 

「はっ…!?(何で、そこで兄さんの名前が…!?)」

 

思わぬ人物から聞いた兄の名前に、シエルは何度目になるか分からない驚愕をその顔に浮かべる。

 

「周辺にいくつも発生させたことで、“アニマ”は更に大きくなりすぎてしまった…。最早私一人の力では抑えられない…。

 

 

 

 

 

 

間もなく、この街(マグノリア)は消滅する…!」

 

その言葉を理解するのに、時間の有無は関係なかった。彼は一体何を言っているのだろう。アニマ?消滅?この街が…マグノリアが?

 

「ど…どういう事…?全然意味分かんない…!!」

 

同じように理解できないでいるウェンディが、混乱しながらも彼に問いかける。しかし、ミストガン(ジェラール)から告げられるのは同じ解答。何もかもが終わる。消滅は、確定しているのだと。

 

「せめて…君たちだけでも…!」

 

「待てよ…じゃあ妖精の尻尾(フェアリーテイル)は…!?ギルドや、街のみんなはどうなるんだ!!?」

 

シエルから叫ぶように問われたその言葉に、ミストガン(ジェラール)の言葉が詰まる。口を噤み、その答えを出さないようにしている。

 

「どうなるの!?ジェラール!!」

 

いつまでも答えないミストガン(ジェラール)に、ウェンディも問いかける。顔を俯かせて無言を貫いていた彼も、もはや避けられないと悟り、その答えを口に出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員…死ぬという事だ…!」

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「雨やまないなぁー…」

「ね」

「ジュビアのせいじゃないと思う…」

「誰もそんな事言ってねーよ」

 

その頃の妖精の尻尾(フェアリーテイル)では、延々と降りしきる雨に、どこか消沈とした雰囲気が漂っていた。仕事に行く気にならず、ギルド内で暇を持て余す者がほとんだった。

 

「くかー」

「いつまで寝てんだ、ナツ」

 

椅子に座りながら、先程からずっと寝ているナツの様子を見て、エルフマンがどこか呆れた視線を向けている。それを見たグレイがマジックペンを取り出してニヤつきながら近づいていく。

 

「顔に落書きしちまおーぜ」

 

ナツが寝ているのにかまけてグレイがナツの顔に黒い髭のような落書きを書いていく。シエルがやりそうなイタズラだが、どこかクオリティが低い。それを見て、ルーシィが苦笑気味にグレイを止めようとしている。

 

「グレイ…シエルじゃないんだから、子供みたいなイタズラやめなよ…」

 

「誰が子供だコラ」

 

そう言いながら更に書き足し、目元がパンダのように黒く塗りつぶされ、額の左側には赤く怒りマークが書かれる始末。

 

「こ、子供以下だわ!!シエルでもやらない!!」

 

あまりにもひどい有様に思わずルーシィが叫んだ。すると、それで目が覚めたのか、ナツは突然飛び起きる。

 

「ケンカか!?オレも混ぜろぉ!!」

 

「あ~あ、何寝ぼけてんのよ…」

 

どうやら彼女のツッコミを喧嘩の最中と勘違いしたらしく、やる気満々の状態でナツが構える。しかし、対してルーシィは一瞬虚を突かれるも、呆れた様子で返し、そのまま手鏡で今の自分の顔をナツに見させる。

 

「なっ!?誰だ、これ書きやがったのは!シエルか!?」

 

「こんなのシエルでもやらないわよ。同じような誰かさんなら別だけど」

 

真っ先に悪戯妖精(パック)と揶揄される少年の仕業を疑ったナツだが、ルーシィから教えられたその言葉を聞いて、ようやく理解した。同じような誰かさん。自分だったら似たようなことをする相手、と言えば…。

 

「テメェか、グレイ!?」

「やんのかコラァ?イビキがガーガーうるせぇからお仕置きしてやったんだよ!!」

「んだとコノヤロー!!」

 

そしていつもの様にケンカに発展するナツとグレイ。最早見慣れた光景だ。それを少し離れた光景から、グレイのみを熱い視線で見つけめているジュビアも、最早見慣れた光景の一部だ。

 

「ぷはぁっ!雨の日は彼氏とデートに限るねぇ!!」

 

酒樽に入った酒を飲み干しながら満足そうな顔で彼氏(アルコール)を堪能する、酒好きのカナ。この日ずっと飲んでいるように見えて、ちょっと数えるだけでも5樽は飲み干していた気がする。

 

「その彼氏、一体何()目だよ、カナ」

 

そんな彼を見かねて、呆れた声色で声をかけるのはペルセウス。ナツとグレイの喧嘩を遠目でずっと見ていたのだが、カナの尋常じゃない飲酒スピードを見てそっちに意識を持ってかれた。

 

「うっ!?ぺ、ペル…!」

 

しかし、ペルセウスがカナに声をかけると、肩をびくつかせて、どこか顔色を青く変色させて恐る恐る振り返る。

 

「あんま独り占めすんなよ。他の客だって呑みに来るだろうしな」

 

「わ…分かってるよ…残せばいいんだろ、残せば…」

 

ペルセウスとしては普通に声をかけたつもりなのだが、何故かカナは彼からジリジリと距離をとり、生返事をした後にそのまま逃げるように違うテーブルへと移っていった。無論、酒樽は持参したまま。だが、そんなカナの行動を見て、ペルセウスは困ったような、戸惑うような表情で目をぱちぱちと瞬いた。

 

「あらあら、()()カナに避けられちゃたわね」

 

「…なあ、やっぱり俺何かしたか?カナ(あいつ)だけ妙に俺から遠ざかろうとしてるよな…?」

 

黒いダウンコートを上半身に纏ったミラジェーンがそんなペルセウスに声をかけ、彼女に向けてペルセウスは困惑気味に尋ねる。10年クエストから帰還してから初めてだが、ペルセウスは何故かカナによく避けられることが多い。それも露骨に。嫌われている…と言う訳ではなさそうだが、カナがペルセウスに話しかけられた際の反応は、どちらかと言うと怯えに近い。

 

しかし、ペルセウスは避けられているという事実は理解しているが、その理由はてんで分からないのだ。加入したての頃はペルセウス自身が周りを避けていたことはあったが、あれが理由なのか、と考えたこともあったが、慣れていけば普通に接していた時もあったためそれは違うだろう。

 

強いてあげれば、あそこまで露骨に避けられるようになったのは、780年の年明けの頃からだったというくらいだ。

 

「う~~ん…どうかしら?」

 

「お前…やっぱ何か知ってるだろ…?」

 

どこかいい笑顔ではぐらかしたミラジェーンの表情から、確実にカナが自分を避ける原因に心当たりがある事は察せる。だが、絶対にそれを明かそうとはしないのだ。あんまり避けられてばかりの日が続くのもあれなので、どうにかできないかと思っているが、解決は先になりそうだ。

 

「ところで、こんな雨の中どっか出かけるのか?」

 

「うん、ちょっと教会まで」

 

「教会?…!」

 

外出向きの服装で傘も持っているのを目にしたペルセウスが話題を変えながら聞くと、教会と言う単語を返すミラジェーン。何故?と言う疑問が一瞬過ったが、今の時期と彼女たちが教会に向かうこと自体を認識した結果、ペルセウスも気付いた。そんな彼を見て、一瞬悲しげな表情を浮かべながら無言で首肯し、ギルドの出入り口へと、ミラジェーンは歩いていく。

 

「…そうか…」

 

誰に告げるでもなく漏れ出たひと言。彼も忘れてはいない。忘れるわけがない。あの日が近づいていることを。

 

「エルフマン、行くわよ!」

 

「姉ちゃんからも言ってやってくれ!こいつら、この前仕事でヘマしやがってよォ!」

 

シャドウギアのメンバーであるジェットとドロイに、どこか熱い説教をしていた弟のエルフマンに声をかけるミラジェーン。するとエルフマンは噂で聞いていた彼らのこの前の失敗を姉に告げた。魔物の討伐に向かったものの、先に大ぶりの攻撃をもろに食らって戦闘不能になってしまい、結局レビィ一人で倒して、仕事を片付けたらしい。

 

結果的にリーダーとは言え女の子一人にすべてを任せてしまったことに、しかも二人揃って片想いしている相手に、カッコ悪いところを見せてしまったばかりか、そのしりぬぐいをさせてしまった事実に、耳が痛いし情けない。ジェットもドロイも何も言い返せない。

 

「ジェットもドロイも、頑張ってると思うわよ?」

「「ミラちゃ~~ん♡」」

 

「それなりに!」

「「ヒデェ!!!」」

 

これが上げて落とすという事か。いや、それとも飴と鞭か。…と、そんな事はどうでもいいとして。

 

「ミラさんとエルフマン…こんな日に教会へ、何だろう?」

 

わざわざ雨が降っている中で教会に向かう理由があるのか?そんなルーシィの疑問に、他のメンバーたちは心当たりがあったのか、彼女の一番近くで古代文字で書かれた叙述書を読んでいたレビィが言葉を出した。

 

「あ、そっか…もうすぐ、リサーナの命日だったね…」

 

「リサーナ…!そっか、それでミラさんたち…」

 

「ルーちゃん、知ってたの?」

 

その名前を聞いてルーシィはすぐさま思い出した。数日前にシエルから聞いた、二年前の同じころの時期に、仕事先の事故で亡くなった、ミラジェーンたちの妹。命日が近づくと、姉と兄である二人は教会に通い出すのだという。

 

「シエルとも、仲良かったって聞いてるけど…」

 

「うん。正確に言えば、ペルやナツとよく一緒にいたよ」

 

「ナツも?」

 

そう言えば、シエルはリサーナが死んだとき、ナツも悲しんでいたと言っていた気がする。今もなおグレイと喧嘩を続けているあのナツが、昔は女の子と仲良くしていた、と言うのは少々意外だ。

 

「シエルやナツと仲も良いし、何だかルーちゃんにちょっと似てたなぁ、リサーナは」

 

「そーなの?」

 

「うんうん!あ、そうだ…ここだけの話…実はペルって、リサーナの事が…」

 

にやけながらコソコソ話をするように掌を口元に添えてルーシィにだけ聞こえるように告げようとするレビィ。だが、それに耳を集中しようとしていたルーシィは、彼女の背後を見て、ギョッと目を見開いて硬直した。その様子を怪訝に思い、レビィが声をかけようとするが、その前に彼女の後ろから届いた声にそれは遮られた。

 

 

 

 

「随分盛り上がってるみたいだな二人とも。誰が誰にどうしたって…?」

 

その声を聞いてレビィも理解した。ヤバい奴に聞かれたと。壊れた絡繰り人形のような動きと音で首を後ろに向けてみると、満面の笑顔を浮かべていながらも、真っ黒なオーラを放出させたペルセウスが佇んでいた。「え、えっとです、ね…?」と歯切れ悪く言葉を紡ぐ彼女の肩に、ぽんと手を置けば、レビィだけでなくルーシィまでもが恐怖で肩を震わせる。

 

「怖がることないだろ?気にせず話を続ければいい」

 

正直に言おう。無理だ。一つでも失言したら自分の身がどうなってしまうのか分からない状態で、レビィはこれ以上下手な事を言えなくなってしまった。目線だけでルーシィに助けを求めるも、目を閉じて首を横に振り、無理であることを伝えることしかできなかった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

未だ降りやむ気配のない雨の中、ミストガン(ジェラール)が告げた非情な現実に固まっていた思考が戻っていくのを感じる。戻ってきた思考で考えついたこと。それを実行するために、シエルはいち早く行動に移した。

 

乗雲(クラウィド)!!」

 

傘を投げ捨てて、足元に展開した搭乗可能の雲。それに乗り込んだシエルを見て、ウェンディが真っ先に声を上げた。

 

「シエル!私も行く!」

 

「言うと思ってた、乗って!」

 

「ウェンディ!?」

 

シエルの行動の意図を察知して頼み込んだウェンディに、その行動に移ることを予感していたシエルが即座に了承。そしてシエルと同じ雲の上に乗ったウェンディをシャルルが呼ぶと、ウェンディは振り向きながら叫ぶ。

 

「みんなに知らせなきゃ!!」

 

「行ってはいけない!君たちだけでも、街を出るんだ!!」

 

今彼らに危機を知らせても、まず間に合わない。下手をすれば、ウェンディたち二人も共に消滅してしまう。だがそれでも、彼らはその言葉に従う訳にはいかない。

 

「仲間を置いて逃げるだなんて、冗談じゃない!!」

 

「そうだよ!私たちだけなんてあり得ない…!」

 

揺らぐことのない決意を込めたその声を聞いて、ミストガン(ジェラール)は言葉を失う。自分よりも小さい子供たちに、これ程の固い意志があるとは…。

 

「私はもう、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員なんだから!!」

 

「行くよ、ウェンディ!兄さんやみんなを、絶対に死なせるもんか!!」

 

その言葉を最後に、シエルは雲を斜め上に滑空させ、最短ルートでギルドへと向かう。その姿はもう、既に見なくなっていた。

 

「シエル…ウェンディ…」

 

不安げに子供たちの名を呟くミストガン(ジェラール)。するとある異変に気付いて、彼は上空へと目線を向ける。

 

「ダメだ…もう、何もかもが遅い…!」

 

予想を遥かに超える速さ。マグノリアを覆っている雨雲が、ある場所を中心に渦巻いて、巨大な穴を形成している様子を見て、ミストガン(ジェラール)は力なく呟くことしかできなかった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「ったく、あいつの話題が出るとすぐそっちに話が移る…」

 

とりあえずレビィに釘は刺しておいたからもう滅多に自分の片思いに関する情報が広まることはないと考えているペルセウス。だが、あの行動自体が図星をついているという事に、本人は気づいていないのだろうか。

 

「リサーナの事か?」

 

「ん?…お前まで聞いてくんのか…」

 

彼の声が聞こえてらしき打尋ねてきたエルザの問いに、ペルセウスは溜息を一つ吐く。正直何度彼女とのことに関して話題をぶつけられたかは、最早数えるのも諦めた。それほどまでに聞かれてきたのだ。しかし、エルザには他の者たちの様に茶化しで聞こうとする意図はない。

 

「いや、すまない。他人事とは思えなくてな…」

 

そう返してきた彼女の言葉を聞き、彼は理解した。エルザもまた、ある意味では、大切な人と二度と会えない別れを経験したという事実が共通している。彼女の近くにいたスナイパーコンビであるアルザックとビスカが、いつものように両片想いをこじらせて初心な反応を見せているのを見る限り、エルザも思い出したのだろう。彼女の大切な存在の事を。

 

「おい、エルザにペル、ちょっとぉ」

 

「はい、マスター」

「どうした?」

 

すると、テーブルの一つに胡坐をかきながら、書類と思われる紙を数枚、自分の前に広げていたマスター・マカロフが二人を呼び寄せる。それに応えて近づいたペルセウスたちに、マカロフが仕事に関して意見を求めてきた。

 

「例の100年クエストの件なんじゃがな…色々検討したんじゃが、やっぱり他に回そうと思う…。異論はないか?」

 

「賛成だ。ギルダーツでも手こずる依頼だし、ギルド間の共同も視野に入れるべきかもしれん」

 

「私も妥当だと思います」

 

ギルド最強の魔導士であるギルダーツでさえ匙を投げた100年クエスト。そう考えると1ギルドのみが請け負うには負担が大きすぎるという考えだ。実力者である二人にも、それに関して反論はないらしい。

 

「それとペル、主からの頼み事じゃが、町長と話し合った結果、5日後ぐらいから実行できるそうじゃ」

 

「5日後…ギリギリだな…」

 

「…何の話だ?」

 

次に話題に出したのはエルザにも心当たりのない内容。ペルセウスからマスター・マカロフに何かしらの願いをしていたようだが、彼女には心当たりがない。もっともな疑問を尋ねられたペルセウスは少しばかり唸りながら、彼女に端的に説明することにした。

 

「そうだな…まず一言で言うなら…。

 

 

 

 

 

『マグノリア一斉引っ越し計画』」

 

 

 

「…は?」

 

思わずエルザの目が点になった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「シエル、空が…!!」

 

「あんなの自然じゃあり得ない…くっそ!!」

 

トップスピードで雲を飛ばすシエルの後ろで、振り落とされないように掴まっているウェンディが、上空の様子を見て彼に状況を知らせる。いよいよもってまずい。今までで見たことのない空模様だ。

 

まるで台風の様に雲が集まって渦巻き状になり、その中心に空いた巨大な穴から、白い閃光が時々発せられる。しかもその穴の下には、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドホームだ。

 

「っ…!!これは…!!」

 

さらに焦りを増長させるのは、周りの光景。マグノリアの外から、石畳や建物が次々と浮かび上がり、白い光となって上空へと溶けていく。この世のものとは思えない光景に、思わずウェンディが息をのんだ。

 

「兄さーん!!みんなぁーー!!」

 

ギルドの前に到達し、乗雲(クラウィド)から降りてその扉をくぐろうとする二人。残りの短い距離を全力で走りながらも、少しでも、一人でも多くの魔導士たちに声を届けようと張り上げる。

 

「みんな今すぐ、街を出るんだ!!」

 

「大変なの!!空が…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その声が届くことはなかった。

 

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のホームが、突如陽炎のようにその姿を歪ませ、てっぺんの鐘楼がある箇所から、白い光となって粒子と化し、消えていく。

 

それに伴って、周りの建物も白く光り、上空へと吸い込まれるようにして消え始めた。

 

「な、何これ!?」

 

「兄さん!!」

 

消えていくギルドを見て兄も巻き込まれることを察知したシエルが危険も顧みずギルドへと飛び込もうとする。すぐさまウェンディがそれを止めようと名を呼ぶが、それと同時に、ギルドからひと際強い白光と共に突風が吹き荒れる。

 

「きゃあっ!!」

 

「っ!ウェンディ!!」

 

その突風で飛ばされながらも、同じように飛ばされたウェンディを助けようと、シエルは彼女に手を伸ばす。それに気付いたウェンディもまた彼が伸ばす手を掴もうと必死に手を伸ばして距離を縮める。あと数メートル、数センチ、数ミリと距離を詰めていた瞬間。

 

 

 

「うわっ!?」

 

「シエッ…きゃああ!!」

 

再び吹き荒れる風。そして辺りを埋め尽くす白い光。あと少しで触れようとしたところで、再び離れる二人の距離。

 

 

そしてその突風はやがて、街全体を飲み込む竜巻となり、その竜巻に呑みこまれたあらゆる物質を白い光の粒子に変えて、上空へと昇らせる。

 

 

眩いほどの白光が辺り一面を包み込み、全てが収まった頃には、空に空いた巨大な穴も塞がっていた。

 

 

 

 

 

 

そして、真っ白な大地と、その大地から湧き出る謎の白い気泡。それ以外に何もない空間の中で、少しばかり意識を失っていた()()()少女が目を覚ました。

 

 

「…嘘…?ギルドが…消えた…」

 

目の前に見える光景は、まるで現実とは思えなかった。何もかもが失ったかのような、あらゆる全てが抜け落ちた光景。

 

さっきまで目の前にあったギルドも、周りにあった街も、そして傍にいたはずの少年も。

 

 

全て、消えてしまった。

 

「そんな…一体、何が起きたの!?」

 

何もなくなってしまった空間で、少女は一人狼狽える。

 

「シエル…シエルは!?シエルー!!どこぉー!?」

 

さっきまで一緒にいたはずの少年が、どこにも見当たらない。それだけじゃない。街の人たちもみんな。

 

「誰か…あれ?何で…?何で私だけ、ここにいるの…?」

 

そして気付いた。考えてみれば、おかしな現象に。街も人もすべて消えていた。《自分以外は》。自分だけが残っていた。

 

「街もギルドも全部…シエルだって消えちゃったのに…どうして私だけが…!」

 

何もかもが消滅した空間に、少女はたった一人、残された…。

 




次回『エドラス』
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