この回にて、今年最後の投稿となります!けど予定していたよりもストーリーの進み具合があんまり…。
余計な部分を省くべきか、話数増やしてでも細かく書くか…悩みどころだ…。
そして次回…来年一発目の投稿についてですが、1日~3日の三日間、連続での投稿を考えております。この年末の間で頑張って書き上げる必要がありますが、必死こいて頑張ります!
さて、今回の話の展開…どんな反響になるかな…?
見渡す限り、真っ白の大地。そこからあちらこちらから湧き出ては、空に向かってゆっくりと上がっていく無数の気泡。
そこはもう、先程まで多くの人が住む一つの街であったことなど、微塵も感じさせない更地へと変わり果てていた。
「ギルドが…消えた…」
周りに存在したいたあらゆるものが抜け落ちた、何もないまっさらな光景を目にし、呆然とした少女はその呟きを零す。
ギルドだけではない。街も、そこにいた人間たちも、先程まで共にいた少年も。全て残らず消えてしまった。
「シエル…シエルは!?シエルー!!どこぉー!?」
声を張り上げ、少年の名を呼ぶウェンディの声が、街があったはずの空間に空しく響いて消えていく。
「他の人たちは…誰か、誰かいないの!?誰かぁーっ!!」
誰か一人でも。残っている人がいないか呼び掛けても、それに応えてくれる者もいない。空しい現実を叩きつけられ、声を張り上げていたウェンディは、力なく白い地面に膝をつく。
そして少女は気づいた。確かに周りには誰もいない。人も物も、何一つ失った街の中で、自分以外は何も残っていない。
そう、
「あれ?何で…?何で私だけ、ここにいるの…?」
自分の両掌を見下ろしながら、他には何も存在していないはずの空間に、自分と言う存在が確かにいる事実。安堵よりも困惑が強く、はっきりとこみあがってくる。
「街もギルドも全部…シエルだって消えちゃったのに…どうして私だけが…!」
両目に涙が浮かぶ。たった一人だけ、街の残骸であるこの空間に取り残されたことによって、孤独に押しつぶされそうな感覚を味わっていた。考えても何故なのか分かるわけもなく、その場で佇むことしかできない。
そんなウェンディの意識を別の方向へ向けるきっかけを与えたのは、彼女が佇んでいるすぐ近くの地面が、突如膨らみ、盛り上がる現象だった。意外にも地面は柔らかいのか、砂を搔き分けるような音と共に、徐々にその地面の膨らみは大きくなっていく。
「ひっ!」
何かが飛び出してきそうな奇妙な現象を目にし、ウェンディは怯み、後ずさる。そして、膨らんでいた地面はついに破裂し、その中に埋もれていた存在が、その地面から飛び出した。
「な、何だぁ…?」
状況が理解できない困惑した表情でそこから出てきたのは、桜髪のツンツン頭と白い鱗柄のマフラーが特徴的な青年、ナツだった。
「ナツさん!!」
「あ、ウェンディ…あれ、ここどこだ?」
目の前にいたウェンディに気付いた直後、周囲の景色をキョロキョロと戸惑い全開で見渡している。彼からすれば何が何だかさっぱりだろう。だが、ウェンディはナツの心情を汲み取るより先に、激しく安堵を浮かべた。
「(私以外にも、残ってた…!!)」
自分だけではなかった。少なくとも、何もかもがなくなった空間に一人投げ出されたわけではなかったことに、安心を覚えて、先程とは違う意味の涙が浮かぶ。
「何も…覚えてないんですか…?」
「寝てたからな」
状況が理解できていない様子のナツに質問してみると、埋まっていた半身を地面から抜き出しながら、あっけらかんと答える。今の今までギルドで寝ていたと思いきや、いきなり見覚えのない…と言うかほぼ何もない空間で目を覚ましたと言ったところだろう。改めて、ウェンディにここがどこなのか、ギルドのみんなを知らないか聞いてみると、ウェンディは目元に浮かべた涙を拭う事もなく彼に今起きたことを説明した。
「ここ…ギルドですよ…」
「は?」
「突然空に穴が空いて…ギルドも街も…みんな吸い込まれちゃったんです…!!」
だが、ナツはウェンディの説明を聞いて納得するどころか、彼女の言葉の意味が理解できていなかった。正直言うと、「何を言ってるんだこいつ?」と言いたげに顔を困惑に歪ませている。
「本当です!!一緒にいたシエルも消えちゃって…!残ったのは私たちだけみたいなんですよ!!」
信じてもらえていない様子を察したウェンディが、必死にこれが真実であることを伝える。しかしナツの表情や反応は変わらないまま…それどころか…。
「…ウェンディ…どっかに頭ぶつけた?エライこっちゃぁ…」
「ちーがーうー!!」
思いっきり憐みの目を向けながら、ウェンディの頭部を優しく両手で持ち、ケガとかコブとかがないか彼女の身を心配するように声をかける。だが彼女は正気だ。全然信じてくれないナツに両腕を振りながら必死に主張するも、状況は変わらないままだ。だが、ここでふとウェンディは気づいた。他の面々は皆いなくなったのに自分とナツだけが残っている。この二人に共通する特徴が、一つだけあった。
「もしかして…
「そうよ」
ウェンディのその言葉に同意を答えたのは、自分たち同様、吸い込まれていなかった存在。白い一対の翼を背中から出して浮遊しながら、ウェンディの相棒と言える白ネコ・シャルルが彼らの元に来ていた。
「シャルル!よかった、無事だったんだね!!」
「まあね」
「
「シャルル…」
「そりゃ聞き捨てならねぇなぁ。他のみんなはどうでも……って!本当に消えちまったのか!!?」
深刻な様子で語るシャルルの言葉から、ようやくウェンディが言っていたことが真実であることに気付いたナツが激しく動揺を表す。そんな彼の問いにウェンディが振り向いて首肯すると、ナツは慌てて周りを見渡して誰かいないか呼び掛ける。だがしかし、それに応えられる存在はもちろんいなかった。
「消えたわ。正確に言えば、アニマに吸い込まれて消滅した」
「アニマ…」
続けてシャルルから明かされたその説明にある、一つの単語。『アニマ』と言うものにウェンディは心当たりがあった。7年前に共に旅をしていた
「さっきの空の穴よ。あれは向こう側の世界…『エドラス』への門」
「『エドラス』…?」
今度は一度たりとも聞いたことのない単語が飛び出してきた。全くもって聞き馴染みのないうえに、向こう側の世界、と表現されたもの。彼女が一体何を言っているのか、ウェンディは困惑するしかできない。
「お前、さっきから何言ってんだよ!みんなどこどおぉはっ!?」
「ナツさん!?」
シャルルの話す内容に理解が追い付かなかったナツが、彼女に怒りを表して、詰め寄ろうとすると、ちょうど彼が歩いていた地面が突如盛り上がり、彼が出てきた時同様に膨らみだす。その拍子にナツが後ろ側に倒れこむが、ウェンディとシャルルはナツを一瞥してすぐに、近くで盛り上がっている地面に視線を集中させる。
他にも残っている者がいたという事か?そんな思考が過った彼女たちの目に、地面から出てきたその正体が映った。
「お、俺…一体、どうなった…?」
「っ…!シエル!!」
「お前もか!!」
「なっ…!?」
それはアニマによってともに消えてしまっていたはずの少年、シエルだった。思わぬ少年の登場に、三者三様の衝撃が周りで発生している。その中でも、ウェンディは再び目元に涙を浮かべて、「よかった…シエルも無事だった…!」と言葉にしながら口元を手で覆っている。
「(ど、どういう事…!?何で
それとは対照的に、シャルルは目の前の光景にただただ困惑していた。アニマに吸収されない特殊な魔力を有しているのは、シャルルが知る限り
「ウェンディ!ナツにシャルルも!…他のみんなは?」
「お、落ち着いて聞けよシエル!実はここがギルドで、みんな消えちまって…えっと…あれ…あれ?何だっけ?」
「お前が落ち着け」
視界に映ったウェンディたちの姿を確認し、シエルは状況を把握するために周囲を見渡していると、慌てた様子でナツが説明をしようとするが、ウェンディやシャルルからされた説明でほとんど分かっていない状態のナツが言ったところで結局ほぼ何も分からなかった。終いには逆にシエルにツッコまれる始末。
「ここがギルド…ってことは、俺たち以外はみんな…!?」
空に空けられた穴によって、今この場にいる者たち以外の住人達は吸収されてしまったようだ。起きていた非常事態の凡そを把握していたシエルの問いに、ウェンディが首肯で答える。
「私とナツさんは、
まだ説明を聞いている途中だった。ウェンディの言葉を聞いてそれを察した少年は、ウェンディと共にこの状況に一番心当たりがあると思われるシャルルに視線を移す。
「…オスガキがどうして無事だったのかまでは、私にも分からないわ。けど…」
始めにシエルに関してはシャルルにとっても想定外であることを前提し、シャルルは今一度質問に答え始める。それとほぼ同じタイミングで、シャルルと同じように白い翼を背中から出した青ネコの声が響いてきた。
「ナツ~~!!何これ~!街がぁ~~!!!」
遠くの方から慌てた様子でこちらに飛んでくるハッピーを見て、人間たち3人は安心した。ある程度予測はしていたが、シャルルと同じ種族と思われるハッピーも、アニマの被害から免れていたようだ。
「私は向こう側の世界『エドラス』から来たの」
シャルルが告げたその事実に、ナツたちだけでなく、後から来たハッピーも言葉を失った。更にこれだけには留まらない。
「そこのオスネコもね」
「…え?」
シャルル、そしてハッピーは、エドラスと言う向こう側の世界から来た。衝撃の事実。それ以外の言葉が見つからない中、理解が追い付かないシエルがどういう事だと尋ねてみれば、恐らく一番動揺しているであろうハッピー、そしてシエルたちから目を逸らし、淡々と告げた。
「この街が消えたのは、私とオスネコのせいって事よ」
その言葉は、更に彼らに衝撃と混乱を与えた。街一つを飲み込み、消し去った魔法の残滓が空に未だに漂っており、雲に稲妻をいくつも走らせる中、シャルルは更に続けた。
『エドラス』―――。
今シエルたちがいるこの世界“アースランド”とは別に存在する、もう一つの世界。そこでは今、魔法が失われ始めていた。
アースランドとは違い、エドラスの魔法は有限…使い続ければ、いずれ世界からなくなってしまうものだった。その枯渇してきた魔力を救う為に、エドラスを統べている王は、別世界であるこのアースランドに目を付けた。無限の魔力が存在するアースランドから、魔力を吸収する魔法を開発したという。
それこそが、“超亜空間魔法・アニマ”。
空に穴を空け、街も人も呑みこみ、魔力と化させた魔法である。
魔法を開発し、計画を実行に移したのは6年前。アースランドの至る場所にアニマは展開され、魔力を吸収しようとした。だがしかし、思うような成果は上げられなかったらしい。何者かが、アースランドに開いたアニマを閉じて回っていたことが原因だそうだ。
口には出さなかったが、シャルルにはその何者かの見当はついていた。ジェラール…否、ミストガン。ウェンディから以前彼の話を聞いた時に、まさかとは思っていたが、実際に彼と対面して確信した。間違いなく、アニマを閉じていたのはミストガンであったと。
「だけど、今回のアニマは巨大過ぎた。誰にも防ぐ術などなく、ギルドは吸収された」
「何で
粗方の説明を聞いた後、ナツが疑問としていたことを聞いてきた。アニマは世界中のいたるところで展開された。他にも魔力が集う場所はあるはずなのに、何故マグノリアが、
「アニマはこの世界から魔力を吸収するもの。どうせ吸収するなら、より多い方がいい…てことは…!」
「
シエルがシャルルの話から立てた推測。それを聞いてウェンディも気付いた。より多くの魔力を吸収するために、より多くの魔導士を抱えている魔導士ギルドである
「随分勝手な奴らだなァ!オイ!みんなを返せよこのヤロウ!!」
魔力が多くとれるから。そんな理由で街の人もギルドの仲間も、ただの魔力として吸収されたことを身勝手かつ傲慢なものとして解釈したナツが怒りに燃えて空に叫ぶ。しかし、それで勿論向こうに声が届くわけでもなし、届いたとしても手に入れた魔力を手放そうと考えたりはしないと思われる。ナツの怒号は虚空に消えるしか道はなかった。
「そ…それがオイラとシャルルのせい…なの…?」
「間接的にね」
不安そうな声で聴いてきたハッピーの問い。間接的、と言うのはシャルル達が抱えている別の使命についてだ。その別の使命をエドラスの王国から与えられてこの世界に送り込まれたらしい。
しかし、それに否定を提示したのは、彼らを長年相棒として接してきたナツたち。
「そんなハズない!アナタ…卵から生まれたのよ!この世界で!!」
「ハッピーもだ!オレが見つけたんだ!!」
ハッピーはナツが。シャルルはウェンディが、それぞれ外で卵を見つけ、育てて孵化させたことで出会った存在だ。それぞれの名前も、ナツとウェンディ、それぞれがつけたもの。エドラスから使命を与えられて送り込まれるというのは、本来ならあり得ない話なのだ。
「先に言っておくけど、私はエドラスには行ったことがないわ。ウェンディが言う通り、この世界で生まれ、この世界で育った」
だがシャルルもそれは承知している。シャルル自身とて、その身で自分を送り込んだ世界に行って使命を貰ったわけではない。生まれた時から備わっているのだ。エドラスに関する知識を、自分に課せられた使命を、卵から生まれた時から、それを全部知っているはず。それがシャルル達のようなネコの種族だ。
「なのに…アンタは何で何も知らないの!?」
同じようにエドラスから送り込まれた、シャルルと同じ種族であるはずのハッピー。しかし彼には、エドラスの知識や使命を、一切知らないかのような言動をしている。だから、シャルルはハッピーに苛立ちを抱いていたのだ。
勢い良く振り向きながら指をさして糾弾するが、ハッピーは戸惑いを隠せないまま、何も言えないで俯く。ハッピー自身、シャルルの様にエドラスの知識や使命などが刷り込まれているわけではない。彼も困惑しているのだ。なぜ彼女と同じ知識が自分の中にないのか。
「とにかくそういう事。私たちがエドラスの者である以上、今回の件は、私たちのせい」
落ち込み俯いているハッピーを睨んでいたシャルルが、半ば諦めたように背を向けて告げる。
「さっき、別の使命って言わなかった?シャルル」
「……それは、言えない…」
体を震わせながら、ウェンディからの問いに一言で返すシャルル。恐らく彼女にはとても言えないようなものなのだろう。シエルはシャルルの様子から、それだけは感じ取ることが出来た。
「教えてシャルル…オイラ、自分が何者か知りたいんだ…」
「言えないって言ってんでしょ!自分で思い出しなさいよ!!」
自分の素性が未だにはっきりと判明しないハッピーが尋ねるも、シャルルからの答えは同じだ。特に彼に対しては当たりも強い。結局何も知れずにいるハッピーは、再びその顔を俯かせる。
すると拳と掌を勢いよく合わせ、唐突にナツは告げた。
「おーっし!んじゃ、話もまとまった事だし、いっちょ行くか?エドラスってトコ!」
「まとまってないわよ!!」
「そもそもナツ、今の話理解できた?」
どのあたりを聞いて話がまとまったと解釈したのだろう。いやきっとナツの事だ。細かいことを考えるより動いた方がいいとでも判断したのだろう。すると、ハッピーから、気の抜ける様な腹の虫が鳴り響いた。神妙な雰囲気が霧散して一気に脱力感が漂う。
「ナツ…オイラ…不安でお腹空いてきた…」
「そりゃ元気の証だろ?」
不安そうにナツを見上げるハッピー。そんな彼に対して、笑顔を浮かべながらナツは告げる。絶望的と言えるこの状況において、その明るさはある意味強さだ。
「エドラスにみんながいるんだろ?だったら、助けに行かなきゃな」
穴が開いていた空を見上げながら口にするナツの言葉を聞き、シエルとウェンディがシャルルに実際はどうなのかを尋ねる。恐らくはいるだろうとのことだ。
「だけど、助けられるかは分からない。そもそも、私たちがエドラスから帰ってこれるのか、どうかさえ…」
「ま、仲間がいねえんじゃ、こっちの世界には未練はねえけどな。イグニールの事以外は…」
「俺の居場所は、兄さんやギルドのみんながいるとこだ。どのみち取り戻さなきゃ、ここにいる意味はない」
「私も」
たとえ戻ってこられなかったとしても、仲間たちを助け出せれば、今いる世界でなくても構わない覚悟を全員持ってる。ナツも、シエルも、ウェンディも、その決意は変わらないようだ。
「みんなを助けられるんだよね、オイラたち…」
腹の音を鳴らしながら、ハッピーはまた不安そうに呟く。それを聞いたシャルルは少し口を噤みながら、ブツブツと言葉を出していく。
「私だって、まがりなりにも
そう言ってシャルルが提示した約束事は、全部で4つ。まず一つ。シャルルがエドラスに帰る。それはつまり“使命”を放棄するという事になる。向こうで王国の者に見つかる訳にはいかないため、全員変装をする事。
「オレもか?」
「全員って言ったじゃん。でも何で嬉しそうなの…?」
「シャルルはそれでいいの?」
変装と聞いてどこか嬉しそうな様子のナツに呆れながらシエルはぼやく。使命を放棄してもいいのかとウェンディに問われるが、元から全うする気がないのか、もう決めた事だと返答する。
次に二つ目。これはハッピーに対してだ。シャルルとハッピーにエドラスから与えられた使命について、詮索しない事。またも不安そうに腹を鳴らしていたが、ちゃんと返事はしていた。
三つ目。シャルル自身もエドラスについては、与えられた情報以外に何も知らない。細かいナビゲートは出来ない事。これに関しても3人は了承した。そして最後の項目。これについては、今までの約束の、どれよりも深刻なものだった。
「最後に…私とオスネコがあなたたちを裏切るような事があったら…
躊躇わず殺しなさい」
これに関しては、シエルたちは勿論、ハッピーも言葉を失った。裏切る。本当にこの先でそれが起きるのか。だとしても、仲間であるシャルル達を…ましてやナツたちにとっては相棒である存在を殺すことなど、できるはずがない。
「オイラ…そんな事しないよ?」
ごぎゅるるるるるるる…
「てか、腹うるさい!!」
あんまりにも不安になりすぎて滅茶苦茶鳴り響くハッピーの腹の虫。要所要所で鳴らされたためか、シャルルは思わず叫んだ。渋々と言った様子でこの項目を胸にしまい込んだシエルたちは、目を合わせて小さく頷いた。
それを確認したシャルルは、背中から白い翼を顕現し、宙に浮かぶ。
「行くわよ。オスネコもナツを掴んで。オスガキは…雲に乗れる魔法があったわね。それでついてきて」
「空を飛んで向かうのか?」
「私たちの翼は、エドラスに帰るための翼なのよ」
シエルに問われて答えた、自分たちの翼の存在理由。それを聞いたハッピーが再びその言葉を失う。しかし、彼の相棒であるナツは、親指を立てて向けながら、自信満々に相棒に言葉をかける。
「行こうぜハッピー!お前の
「…あい!」
そして、少女を掴む白ネコ、青年を掴む青ネコは、それぞれの翼で飛び立ち、それに追随する形で雲に乗った少年が続く。本来の時間はまだ昼間。それがまるで、太陽さえも抜け落ちたような薄暗い空に、三つの影は上を目指して上昇していく。
「オスネコ!魔力を解放しなさい!!」
「あいさー!!」
普段のスピードから更に一段階上へ。一気にマックススピードへと至った二匹と、それに抱えられる二人に追いつくために、シエルも己の魔力を更に込める。
「行くぞ…!!」
普段は己が耐えられるスピードより上の速度を出すことがないが、雲を横に、その真上に四肢をついて堪えることで、限界よりも上の速度に到達。先行している二組との距離を縮めていく。
「アニマの残痕からエドラスに入れるわ!私たちの
「おう!!」
雲がある高度まで到達し、巨大な穴の中へと入っていく三つの影。時折こちらを阻もうと迸る稲妻を潜り抜け、更に速度を上げながら上へと昇っていく。
「今よ!!」
シャルルの合図を聞き、ハッピーとシエルも一気にその穴へと突き抜ける。それによって刺激されたのか、穴からは眩い白光が発され、幾重もの円状の光の輪が空一面に広がる。そして10に満つか否かという数の光輪が広がった後、それらは収束されるように穴の中へと戻っていき、一際眩い光となって影たちを照らす。
その光景に言葉を失いながらも、一行はその光に包まれて、穴から湧き出してきた光の通路をくぐっていく。目を開けていられないほどの光量を目にし、固く目を閉じていた一行は、その光が収まると同時に、目を開けた。
「眩しっ…!ん…?おおっ!!」
その先に広がっていたのは、まさに先程とは違う別世界。
空の色は黄色と緑を混ぜたようなグラデーション。眼下に広がる光景には、空に浮かぶ島がいくつも存在し、恐らくい昼間と思えるほど明るい割に、月のような小惑星と思われる星がいくつも空に浮かび上がっている。島の一つ一つには森があるようだが、緑ではなく紫だ。自分たちが知っているあらゆるものとは異なる。
「ここが…エドラス…!!」
「オイラのルーツ…!」
想像だにしなかった、まさしく異世界。翼で飛行を続けながら、それぞれの相棒を掴んでいるネコたちは、衝撃を受けながらその言葉を零した。
島が浮き、見た事ない生き物が空を飛び、不思議な木や植物が群生していて、極めつけには川が空を流れている。
ネコたちだけでなく、人間の魔導士たちも、全く見たことのない珍しい光景に心を躍らせて興奮している。
「ちょっとアンタたち!気持ちは分かるけど、観光に来たわけじゃないんだから、そんなにはしゃがないの!」
「ぁはは、そうだね…」
「悪ィ悪ィ…」
最初は圧巻されていたが、気を取り直したシャルルが場にいる全員に注意を怠らないように忠告する。「全く…」と言いたげに溜息を吐きながらシャルルがぼやくと、ウェンディはこの場にいる存在に、妙な物足りなさを感じてふと周りを見渡した。
「どうしたのよ?」
「ねえ、シエルはどこ?」
ウェンディが呟いた言葉に、尋ねたシャルルも、そして聞こえたナツたちも思わず周囲を見渡した。そう言えば。一緒に来ていたはずのシエルの姿が、どこにも見当たらなくなっている。
「ホントだ。どこ行っちゃったんだろ?」
「まさか迷子か?ったく、あいつもしゃーねぇなぁ…」
同じようにキョロキョロと見渡すハッピー。対してナツは呆れたような表情を浮かべながらぼやいている。ほぼ一本道だったのに迷子も何もないと思うが…。
「も、もしかして、シエルだけ元の世界に置いてかれちゃった…!?」
「まさか…と断言も出来ないのよね…」
ウェンディは彼が実は一人だけアースランドに取り残されてしまったのではと考えてしまっている。さすがにそれはない…とシャルルも言いたかったのだが、如何せん情報があるとは言えシャルルもエドラスに関して何でも知ってるわけではなく、どの事柄に関しても絶対とは言えないのが現実である。
と、何の前触れもなく、二匹のネコ達に生えていた背中の翼が突如光って弾け、解けてしまった。
「「うあああああっ!!?」」
「「きゃああああっ!!?」」
勿論そんな状態で滞空を維持できる訳もなく、二人と二匹は重力に従ってそのまま落下。途中にあった風船のような弾力の謎の植物を何個も突き破って減速し、一番下にあった巨大な、同じ種の植物に、一部が埋まりながら墜落した。特に深刻な怪我はなさそうだ。
「きゅ、急に翼が…!」
「どうなってるの…?」
「ングー!ムグー!」
仰向けになって弱った様子のハッピー。横たわって困惑するウェンディ。そして器用に頭から上半身が埋まり、脱出できずにもがくナツ。何故急に
「言ったでしょ。こっちじゃ自由に魔法は使えないって」
下半身を植物に埋めながらも、腕を組んで堂々としながら説明を繰り返すシャルル。それを聞いて改めて魔力を感じようとすると、確かに
「あっ!ひょっとして、シエルも私たちのように落ちちゃったってこと…?」
「時間にやけに差があったけど、もしかしたら、ね」
落下する前に見かけなかった少年も、もしかしたら自分たちと同じような目にあってるのでは?そう結論に至ったウェンディに、シャルルも断定はしないが可能性は視野に入れる。そんな話をしている間に、ナツがようやく埋まっていた植物から脱出を果たした。
「ぷはっ!さ~て!みんなを探しに行くかぁ!!」
────────────────────────────────────────
探しに行くと意気込んでみたものの、周囲にはアースランドとはまるっきり違う植物に囲まれた森の中。どこから探せばいいのか、そもそもギルドのみんながどこにいるのか。全くもって手掛かりがない中では、それすらも難しいだろう。
「みんなも探さなきゃですけど、シエルも見つかりませんね…」
「何ならオイラ達、先に進んじゃってるもんね」
「まあシエルの事だし、きっと大丈夫だろ!」
「理由になってないわよ、それ…」
宛てもなく歩きながら、時折はぐれた少年の姿を探しながら、植物だけでなくモニュメントのような形の木も生い茂る森の中を歩いているが、仲間やシエルのみならず、エドラスに住んでいるであろう人間の姿すら見当たらない。
森ばかりで人里などなさそうに見えるが、どこに王国の目があるかも分からない。変装だけでもするべきだとシャルルは告げるが、この森の中でそれが出来そうなものはないだろう。
するとその時、ガサガサと音を立てて、一行の近くの木陰が揺れ動いた。「何だ?」とナツがその方向へ視線を向け、他の者たちも同様に移す。一番近くにいたウェンディが動物か、あるいは人だったりしないかと近づいていく。すると…。
「ウワァ~~~!!!」
「きゃぁーーーっ!!」
木陰から勢いよく、雄叫びと共に木の葉っぱで全身を隠した謎の生き物が飛び出した。突然の事でウェンディが悲鳴を上げ、彼女のツインテールの二房の髪がその驚愕を表すようにピンと立つ。
「ウェンディ!」
「うわあ!何あれぇ!!」
「このヤロォ!!」
突如襲い掛かってきたその謎の生物に、他の者たちも驚愕する。その中でもナツがその生き物を追い払おうと駆けだして、拳を振りかぶり…。
「ぁあって、え!?ウェンディ!?」
『へ…?』
襲ってきたはずの謎の生き物が、そんな声を上げながら突如硬直したことで、ナツの拳も、他の者たちの動きも止まる。と言うか、今の少年のような声、物凄く聞き覚えが…。
「その声…まさかお前…」
目を細めてナツが問いかけてみれば、その生き物はどこか気まずい雰囲気を漂わせて、顔の部分と思われる、目の部分のみが空いた大きめの葉っぱを、お面の様に取り外す。
そこから現れた顔は、水色がかった銀色の短髪に、左目の上部分に金色のメッシュが入った、整った顔立ちの少年だった。その表情はどこかバツの悪そうなものを浮かべている。
「「シエル!!?」」
「やっぱお前かよ!!」
はぐれていた少年とまさかの合流。ウェンディとハッピーが驚愕に目を剥く中、ナツもまた愕然とした顔を浮かべた。
「何をアホなことしてんのよアンタは!!!」
「ぐもぉ!?」
こんな時にこんな場所で妙な格好をしながらイタズラを仕掛けてきたシエルに対し、シャルルが、目を吊り上げて怒りを表しながら彼の右頬に両脚にドロップキックを叩きこむ。小さい体とはいえダメージは大きかったのか、思わずシエルはその場に倒れこんだ。
「だ、大丈夫…?」
「うん…あと、ごめん…驚かせて…」
すごく痛そうな攻撃を受けたことで心配したウェンディからそんな声がかかる。なんて優しい子だろう。非があるのは明らかに自分なのに。
「つーかお前こんなとこで何してんだよ?」
「こっちに来たと思った瞬間、
「やっぱりシエルも魔法使えなくなってるんだね」
移動に関してはシエルはこれ以上ない有効的な魔法があったのだが、彼も同じように魔法を使えない状態。となると、色々と不便である。ハッピーは明らかな落胆を見せていた。
「けど落ちてるとき、誰も気付かないで先に進んでいっちゃってたから、せめてナツとハッピーには仕返ししようと思って待ってたんだけど…」
「間違えてウェンディに仕掛けたってこと?呆れた…」
「っておい!オレたちだけかよ!!」
どうやら自分が落ちたことに気付かずに先に行かれたことを気にしていたようだ。だが結局ウェンディを一瞬とはいえ怖がらせてしまったことに、思いっきり罪悪感を覚えている。シャルルが肩を竦めて溜息を吐きながら呆れている。ちなみにナツたちに対しては物凄く悪意を感じた。
「それにしてもよく用意したよね、この格好…」
「森の中だし、簡単なものだけどね。そこら中に落ちてるから作りやすかったよ」
一方でハッピーが気にしたのはシエルが纏っていた葉っぱたち。全身を覆い隠すように貼り付け、所によっては蔓で縛ったりと、思ったよりクオリティが高い。
「確かに、シエルだって全然気づかなかったよ…」
ふとウェンディが零したその言葉。それを聞いたナツは、頭に電球が浮かんだように閃いた。
────────────────────────────────────────
「ナツ…これはないと思うよ…?」
「がははははっ!」
ナツが閃いたもの。それはシャルルに散々言われていた変装のアイデアだった。シエルの分はそのままにして、今彼らが来ている服の上から、大きめの葉っぱを巻き付けて姿を隠したり、服っぽく見せたり、ハッピーに至ってはただでかい葉っぱを数枚巻き付けてるだけで、原型が見えなくなっている。ちなみにウェンディだけ葉っぱじゃなくて、何故か果物が擬人化したような格好だ。
「こういうの変装じゃなくて“擬態”って言うんだよ!!」
「いーじゃねーか!要は誰にも見つからなきゃいいんだろ?気にすんなっつーの」
ハッピーを始め、ほぼほぼナツの案は不評だ。しかし確かに見つかりにくいという点ではある意味的を射ているというべきか…。
「ごめんなさい…私が余計な事を言ったから…」
「いやいや…そもそも俺がこんな格好をしなければ…」
傍から見れば植物に身を包んだ珍妙奇天烈コスプレ集団だ。そのきっかけを作ってしまったことに罪悪感を感じて謝罪を告げるウェンディとシエル。物凄く顔色が悪くなっている。
「センスは悪いけど、アイデアとしてはいいわね」
「……いいんだ…?」
だが意外にも、シャルルからの評価はそれなりだ。ナツの言う通りバレなければ現常無問題と言ったところだろう。葉っぱがやけに群れてハッピーが文句を垂れているのを、シャルルが叱咤するのを聞きながら、合流したばかりのシエルは考えていた。
この異世界での珍道中…この先大丈夫なのだろうか?と…。
おまけ風次回予告
シエル「それにしても、ハッピーとシャルルがまさか異世界から来た種族だなんてなぁ…。今までも気になる部分は色々あったけど…色々と納得したよ」
ナツ「そうか?別に何だろうとハッピーはハッピーだと思うけどなぁ」
シエル「ナツから見りゃあそりゃそうだろ。それにしても、ハッピーたちの他にも、もしかして同じような存在が俺たちがいた世界に、いるのかな…?」
ナツ「それってネコがいっぱいいるってことだよな?ハッピーの友達とか増えんのかな~?」
次回『エクシード』
シエル「けど何だか、ハッピーもシャルルも、この世界じゃ恐れられてる存在みたいだよ?ほら、あの人たちも」
ナツ「んん?何か怖がるようなとこ、ハッピーにあったかぁ?」