FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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新年、あけましておめでとうございます!
本年も当小説のご愛読を、何卒よろしくお願いいたします!

記念すべき今年最初の投稿となったこの回ですが、皆さんが恐らく気になっておられるエドラスのシエルとペルの兄弟。残念なことに、今回出ません。←

正式の登場は翌日に投稿する次回と言う事になります。

ちなみにこの回が投稿されている時点で…次回の進捗は既に完成済み。そして次々回の進捗はまだこれから執筆開始となっております。

最後に一言…この数日、超寒いっす…!


第76話 エクシード

エドラス―――。

 

シエルたちが生まれ、過ごしてきていた世界・アースランドとは別に存在する、謂わば向こう側の世界。

 

アニマと呼ばれる時空を超えて干渉する魔法によって仲間を奪われたシエルたちは、アニマによって空いた空の穴からエドラスへと渡り、彼らを探すために行動を続けていた…のだが…。

 

「よ!ちょっといいか?」

 

「ひぃいいっ!!?」

 

こっちの素性がばれないように変装…と言うか植物で体を覆って擬態しておき、森の中を宛もなく歩き続けていると、空に向かって流れる川の近くで釣りをしている男性を発見。エドラスの第一住人は、自分たちとほぼ同じ容姿をしている人間であったことに安堵しつつも様子を窺っていると、いつの間にか男性にそのまま近づいていたナツが声をかけてしまい、案の定擬態中のナツの姿を見たその男性は、得体の知れない生き物を見た恐怖に怯え切って悲鳴を上げた。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)ってギルドの奴ら探してんだ!どっかで見なかったか?」

 

「え、え!?ぎゃああああっ!!」

 

「あ、おい、待てって!!」

 

それに気付かず仲間の居場所を聞こうとするナツの言葉を聞いて、更に恐怖を感じた男性は垂らしていた釣竿を片手に、そのまま逃げていった。今現在変な格好をしていたのに妖精の尻尾(フェアリーテイル)と言うギルドと聞いたところで何の意味もない。案の定シャルルにナツは怒られた。

 

これだけに留まらず。先程の男性が王国に通報したら擬態も意味を成さない。変装の意味もなくなってしまう為一同は擬態を全て解いた。急いでみんなを探さなくては、と再び移動を開始したのは良かったのだが…。

 

「あ!魚だよ、ほら!」

 

「よーし!あれを捕まえて飯にでも…って…」

 

ツタで自然に出来た橋を伝って川を渡っている途中、その川の中からこちらに気付いて水面からその顔を覗かせているのが見えた。先程から腹の虫が鳴りっぱなしだったナツやハッピーが、それを捕まえようと意気込みを見せる…が、その魚が川の中から更にその身体を出すと、全貌が明らかになった。

 

 

その全長は、まるで家の一つや二つに匹敵するほどに巨大だった。

 

『デカーーー!!?』

 

あまりにも巨大。捕えて食糧に変えるとしてもかなり骨が折れそうだ。しかしナツは、その巨体に臆することなく3秒あれば十分だと告げて、巨大魚と対峙する。

 

「ちょっと待て!今俺たち魔法が…!」

 

「火竜の鉄拳!!」

 

思い出したようにシエルがナツに向けて声をかけるも、既にナツは拳を振りかぶって魚の脳天にその拳を叩きこむ。しかし、彼の右拳に普段は灯るはずの火は全く発生せず、基本火を発することでその威力を底上げするナツの攻撃は一切通らない。

 

「あれ?」

 

それを見て何かがおかしいことにようやく気付いたナツ。しかし時すでに遅し。魚に何故か存在する耳たぶのような謎の器官によって、彼の身体はペちんと言う効果音と共に叩き落とされ、川に落ちた。

 

「今エドラスにいる俺たちに、魔法を使うことが出来ないって…話したよね…?」

 

「したわよ!しかも二回も!」

 

念のためにシャルルにもう一度確認をとると、やっぱり話はしていた。つまり、ナツ(あいつ)がちゃんと聞いていないことが原因で起きた事故である。対抗できる手段は現状存在しない。つまり、今この場で出来るのは逃げることのみだった。

 

巨大魚に逆に食われないために必死に足を動かして逃げようとするが、その巨大魚は川から陸上に上がってきて、その後を追いかけてくる。重量の関係で、何十本もの木々がなぎ倒されて、後方から破壊音が止むことなく響いてくる。

 

「まだ追いかけてくる!!」

「魚の癖に水陸両用ってどうーなってんだ!?」

「知らないわよっ!!」

「どわぁああっ!魔法が使えねーとなるとこの先厄介だぞ!!」

「今頃気付くなんて遅いよナツー!!」

 

今も絶賛命の危険が伴っている状況だが、森の中とはいえこれ程までの騒ぎを起こしてしまうと、誰かに王国へと通報される可能性が高い。それでも何とか逃げてきた一同であったが、生い茂る木々の隙間を潜ってきた光景に変化が訪れる。徐々に木の量が減っていき、開けたところに出たと思えば…。

 

「げっ!?断崖絶壁!!」

「行き止まりですよ!?」

「ハッピー!飛んでくれー!!」

「魔法使えないんだってばぁ!!」

 

目の前に広がっていたのは切り立った崖。他に逃げられそうな場所もなく、唯一の行き場所である後方からは今なお巨大魚が迫ってきている。文字通りの崖っぷち。魔法も使えないとなると追い払うことも出来ない。

 

「みんな!俺が合図したらウェンディたちは左、ナツたちは右に避けるんだ!!」

 

勢い良く近づいてくる巨大魚の姿を見ながら指示を叫ぶシエルに、戸惑いながらも全員が反応を示す。そしてもう少しで食べられそうなほどの距離まで来たところで「今だ!」とシエルが声を張り、それと同時に全員が指示通りに、本人はウェンディたちと同じ方向に跳躍して回避する。

 

すると目当ての餌に逃げられた上に、切り立った崖から空中に投げ出された巨大魚は、そのまま戻ることも滞空することも出来ずに落下。ちょうど下の空中に流れていた川に落ちていった。

 

「ふぅ~…!何とか危機一髪…」

 

「くそ~!魔法使えねぇだけでこれか…!」

 

目前の危機からはとにかく脱せたことで、安堵の息を吐くとともに一同は思い知らされた。改めて今の状況が如何に不便かつ厄介であることを。そんな一同の中、ナツに向けてシャルルがわなわなと体を震わせながら口を開いた。

 

「アンタ…いい加減にしなさいよ…!変装もしてないのにこれ以上騒ぎを起こさないで!!」

 

「オ、オレのせいなのか…マジで!?」

 

「全部…って訳じゃないけど、今んとこほぼナツが発端だよな」

 

あまりピンと来てないのか、ショックを受けたように己を指さすナツに対して、若干苦笑気味にシエルがぼやく。行き当たりばったりで歩き始め、シエルがイタズラ目的で着ていた葉っぱから擬態を思いつき、その状態のまま考えずに釣り人に話しかけ、そして魔法が使えないのに下手に巨大魚を刺激した。文字にすると確かにほぼほぼナツが発端のようなものである。一部シエルの責も存在はするが…。

 

「王国の連中が私たちの存在に気付いたら、何をするか分からないのよ!?そうなったら、みんなを救出するどころか…私たちだってどうなるか分からないんだから!!」

 

「そ、そっか…何かよく分かんねーけどオレが悪ィんだな…」

 

「そこで何でよく分かんないのよ…!!」

 

ナツが珍しく落ち込みながら俯き、呟いた言葉に、さらに怒りの籠った声を発するシャルル。ちゃんと説明もしているのに、一向に理解せずに行動していながら心からの反省が見られないナツに業を煮やしている。

 

「しょーがないよ、ナツだもの。こういうもんだと思った方がいいって」

 

「限度ってもんがあるでしょうがーー!!」

 

どこか諦観を感じさせる表情でシャルルの肩の部分に手を置いたシエル。彼の告げた言葉に、シャルルがさらに烈火の如き怒りを爆発させたのは、言うまでもなかった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

再び森の中へと戻り、当てもなく歩き続けていた一行。先行するシエルとウェンディ、ウェンディに抱えられているシャルルの後方で、ハッピーが腹の虫を鳴らしながらもナツを元気づけていた。言葉選びはずれていたが。

 

すると先行していた三人が何かに気付いて声をあげ、上の方へと視線を移す。その先にいたのは、背中に荷物が入っていると思われる四角い箱を背負っている男性と老婆の二人組。商人の親子だろうか?それはともかく、またも目撃されてしまった。向こうの表情は何か衝撃的なものを目撃したと言いたげだ。

 

「え、えっと…オイラたちは道に迷っただけの旅の者です」

 

どうするべきか悩んでいるとハッピーがその親子に向けて説明する。一部を抜粋してはいるが間違ってはいない。エドラスの者たちと外見はほぼ変わらないことを考えるとその方が自然だ。おかしい部分は見当たらない。だが、彼らはハッピーが言葉を発したのを目にすると、顔から流れている汗を更に噴き出し…。

 

「ど…どうかお許しくださいませ!!」

 

「『エクシード』様!どうか命だけはご勘弁を!!」

 

二人してその場で(つくば)い、頭を垂れる。突如の奇行、そして『エクシード』という聞き慣れない単語を聞いて、一行の頭に疑問符が浮かぶ。こちらに向けてそう言ったように見えたが、誰の事を言っているのか…?

 

一行の中で唯一首を傾げることなく口を噤んでいるシャルルがいたことは、他の誰にも気づけなかった。

 

「あのよ~?」

 

「ぅわっ!ダメだよナツ!!」

 

「今更取り繕っても無駄だろ?」

 

未だに頭を下げている親子に対してフランクに声をかけるナツ。またも不審がられそうな行動ではあるが、完全に姿を見られた状態で取り繕っても無駄というのは、確かに一理ある。仲間の居場所、もしくは近くにある村や町の場所さえ聞ければ進展があるはずだ。そう思って聞こうとしたナツだったが、ハッピーが数歩ナツの元に近づいてきたのを見た瞬間…。

 

「「ヒィー!?お助け~~!!!」」

 

「…おいおい…」

 

恐怖に引き攣った顔を浮かべて悲鳴を上げながら、全速力で逃げ出してしまった。既視感を感じるが、先程とは全く異なる部分がある事は、見逃さなかった。

 

「あの人たち、妙な事を口にしてたな。『エクシード』…だったっけ?」

 

「それに、シャルルとハッピーを見て怯えてたようにも見えたよ?」

 

「ほれ!オレのせいじゃねぇじゃん!」

 

「それはそれだ」

 

またも有力な手掛かりを掴めず歩き出すシエルたち。掴めたことと言えば、ハッピーたちを目にして怯えてたことと、彼らをエクシードと呼んでいたこと。その呼称が何を意味しているのか、このエドラスの常識の一つなのだろうか?

 

「オイラ…そんな怖い顔してたかな…?」

 

「食われると思ったとか?」

 

「そういやハッピーずっと腹減ってたんだよね?捕食者の目になってたんじゃね?」

 

「お腹は今も減ってるけど、いくら何でも人間は食べないよ~!」

 

「だよね~」

 

普段怖がられるような経験がないハッピーが口にした疑問を起点に、冗談交じりに男子陣の会話が盛り上がる。どこか楽観的というか気楽すぎる印象だが、当てもなく歩き続けるのもさすがに辟易してきた部分があるからというのも加わっているだろう。次の住人と接触する際には、色々と気を配る必要がありそうだ。

 

「…ん?」

 

そんな事を考えていたシエルは、進めていた歩に突如違和感を感じた。何か地面とは違った、妙に柔らかいものを今、踏んだような…?

 

「シエル、どうかした?」

 

「…ごめん、みんな…今度は俺がやっちゃったかも…」

 

違和感を感じて歩を止めて、下に視線を移したシエルを不思議に思ったウェンディが声をかける。それに疑問を感じながらも他の者たちが同じように視線を下に向けると、シエルが踏んだと思われる足元には先程までの地面とは違い、大きなキノコの傘が存在していた。それも周囲に何個も存在しており、シエルが踏んだものを起点に、突如膨張を始める。

 

ナツ以外の全員が思った。イヤな予感がすると。その中でも、シャルルの目がどこか死んでいたような気がした。

 

 

 

ボヨーン!と言う音が聞こえるほどに、多くのキノコが一気に膨張して上に跳ね上がり、その勢いに巻き込まれて一行は空中へと投げ出された。

 

「だぁあーーー!!」

「やっぱり~~!!」

「何やってんのオスガキー!!」

「ホントすんませぇーん!!」

「また落ちるぅ~~!!」

 

各々が悲鳴を上げながら同じ方向に空を移動する。だが幸か不幸か、てっぺんが同じ性質のキノコが先行く先に何本も自生しており、かさに一同がぶつかって飛び跳ね、また次のキノコに当たって飛び跳ねる。何本か同じように跳ねて移動していると、巨大なカボチャを模した建物に屋根から落下してようやく勢いが止んだ。

 

「た、助かった…!」

「家の屋根を一つ、犠牲にしたけど…」

「全くもう…!」

 

落下してしばらくのびていた一同であったが、改めて建物の中を調べてみると、どうやら倉庫のようだ。日用品や薪に樽、奥の方には服も置いてある。

 

「今更どれだけ役に立つか分からないけど、とりあえずここで、変装用の服を拝借しましょ」

 

シャルルの意見に賛同し、各々倉庫の中を調べて服を探すことに。世界が違うとやはり文化も違ってくるのか、アースランドで見かけるものとは異なる様相の衣服が並んでいる。

 

「おおっ!面白ぇ服がたくさんあんぞ!」

 

「見てこれー!」

 

「う~ん、どれがいいかな…?」

 

普段異なるデザインの服をあまり着ないナツも、物珍しさから色々と物色している。ハッピーは既に決めたのか…と言うかどこにあったのかと不思議に思える、目の部分だけ穴が開いた兜をかぶっている。

 

「二人とも、こっち見ないでくださいね…?」

 

後ろから念を押すように告げたウェンディの声を耳にして、突如緊張感を覚えた。今の状況から察するに、ウェンディも変装の為に服を着替える必要がある。そして仕切りなどが存在しないこの倉庫の中では、必然的に同じ空間で実行しなければならない。

 

「(す、すぐ後ろで…ウェンディが着替え…!?ダメだ!やめろやめろ!考えるなぁ!!)」

 

胸の内側に沸き上がった欲を、頭を必死に振りながら振り払い、自分の変装用の服を探すことに集中するようにする。今後ろを振り返りでもしたら、それこそ彼女からの印象が悪化してしまう。更に言えばシャルルからの低い好感度も減る。確実に。

 

とにかく無心になりながらサイズの合う、かつ目立たないような色彩の服をチョイスしてそれに着替えようとするシエル。しかし、それに待ったをかける声が、意外な者から発せられた。

 

「お、おいシエル…お前、その服着るのか…?」

 

何故か顔を青くして引いているナツが言ってくる。それに対して今着替えようとしていたシエルが顔をキョトンとさせてその表情をナツに向けた。

 

「何か問題ある?」

 

問題…少なくともナツ、そしてハッピーから見れば問題だらけであった。色は白黒で目立たない色彩なのだが、何故かチェック柄がふんだんに使われたレザージャケット。さらにボトムスは暗い青と緑のグラデーションで占められたカーゴパンツ。

 

ハッキリと言おう。何でそんなものがあるんだというレベルで、ダサい服である。別の意味で目立ってしまうだろう。

 

「正気か…?」

 

「はぁ?いっつも同じデザインしか着ないナツにだけは言われたくないんだけど…?」

 

思わず正気を疑ったナツは、はっきり言って悪くない。年単位で同じようなデザインを身に纏ってはいるが、それでも感性は人並みだ。シエルがチョイスした服装が明らかに異常だとすぐに判別できるぐらいには。だがシエルは一切それに疑問を抱かず、寧ろナツの言葉を聞いて自分のセンスを疑われた事に対して機嫌を損ねている。

 

赤を基調とした長袖の服に胸元に橙のリボン、そして黒を基調に白いラインが入ったミニスカートという服装に着替え終わったウェンディも、シエルが選んだ服を見て思わずナツと同じ表情を浮かべた。やっぱりナツの方が正常らしい。

 

「えっと…他に気に入った服は、なかったかな…?」

 

「他?う~ん、これとか、あとこれなんかは選択肢に入れてたんだけど…」

 

他に選んだ服装にうまく誘導させようとしたウェンディ。しかし他の妥協案としてシエルが指さしで示した服も、今選んだものと比べて大して差異の無いデザインのものばかりだった。

 

「どれもこれも壊滅的だわ…何でわざわざ悪目立ちするようなものを選ぶわけ…!?」

 

「え、悪目立ち?そうは見えないと思うけど…」

 

「(シエル…今までの服どうしてたんだろ…?)」

 

思わず頭を抱えて目に見えて落ち込むシャルルの言葉に、信じられないと言いたげに目を見開いてシエルが手に持っている服を目に通す。本気で悪目立ちすると思っていない表情で首を捻るシエルに、これまでの彼の服がまともな部類だったことを思い返しながら、ハッピーは呆然とした顔で思わずにはいられなかった。

 

「ねえ、シエル…きっとこっちの方がいいと思うから、これにしてみない?」

 

「う~ん…(ウェンディが)そこまで言うなら…」

 

あんまり納得はしてくれなかったが、ウェンディが選んだという理由で、深緑を基調としたパーカーを羽織り、黒で足首が見え隠れする長さのジョガーパンツに履き替えることで落ち着いた。余談だが、シエルが今まで着ていた服のほとんどは、兄が着ていたお下がりである。

 

「ん?んんん!?」

 

「どうかしました?」

 

最後に着替えていたシエルを待っているのに退屈していたナツがふと窓の外にある者を見つけ、目の錯覚を疑って窓にへばりつき、それをよく注視する。ボトムスを着替え始めたシエルを見ないようにナツの方を見ていたウェンディが、気になって声をかけると、彼から驚きの単語が発せられた。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)だぁ!!!」

 

『ええ!!?』

 

ナツが窓越しに見たのは、植物の根っこをくり抜いたような建物になってこそいるが、その根っこに繋がった糸によって張られた旗に、妖精を象った紋章が確かに刻まれている。間違いなく、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマークだ。

 

「何か形変わってるけど妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ!間違いねー!!」

「あいさー!!」

 

「あ、ナツさん!」

「ちょっと!!」

 

「待って!?俺まだ着替えてる途中…!!」

 

見るや否や倉庫を飛び出して走っていくナツ。それを見て後ろに続くハッピー。慌てて追いかけるウェンディとシャルルを見ながら、もうすぐで着替え終わりそうだったシエルも慌てて追いかけた。

 

そして中に入ってみると、内装こそ大きく変化しているが、吸収されたはずのギルドのメンバーはほぼ全員がその場にいた。別世界に送られたとは思えない、日常のような風景である。

 

「みんな無事だ!!」

 

「呆気なく見つかりましたね」

 

「…ん?でも、なんか…」

 

ギルドのメンバーが無事だったことに嬉し涙を流すナツ。ウェンディも安心したように笑みを浮かべている。しかし、シエルだけは、いつも通りの風景に対して、逆に違和感を覚えている。ギルドの内装も外の風景もまるっきり違うのに、いつも通り過ぎる。

 

「ギルドも、みんなも、随分雰囲気違うよな…?」

 

「やっぱり?オイラもちょっと思った」

 

「細けーことは気にすんなよ~!」

 

「気にしませんか、そこ…?」

 

どこか感じる違和感。ハッピーもウェンディも、そこは気づいているようだ。ナツだけは嬉しさからその違和感に全く意識を向けていないが、やはりどこかおかしい部分がある。確かめるために、近くのテーブルに身を潜めて観察を始めた。

 

「何でこそこそしなきゃなんねーんだ?」

 

「よーく見て…」

 

シャルルに言われたように、まず違和感の一つである依頼板(リクエストボード)に目を向ける。そこには、水色で先端が巻かれた髪をしている、薄着の少女が立っている。だがその顔は…。

 

「ジュビア、これから仕事に行くから」

 

「気をつけてな」

 

どこか雰囲気が変わっているが、その顔と声は間違いなくジュビアだった。しかし髪型も違うし、普段敬語を使う事が多いジュビアにしては口調も妙だ。さらに…。

 

「ま、待ってよ!ジュビアちゃん!!オレも一緒に行きてぇな~…なんて…」

 

一人で行こうとしているジュビアに声をかけて同行しようとしているのは、黒い髪に垂れ目の青年。いつもなら服を脱ぎ捨てることがほとんどのグレイ。しかし、声をかけたそのグレイは、いくつもの服を着こんでボールのような体型に見えている。

 

「暑苦しい…。何枚着てんの、服?」

 

これにはナツだけでなく、他の面々も言葉を失った。服を何枚も着込んでいるグレイが、ジュビアに対してデレデレとして、そのジュビアは逆にグレイを冷たく突き放している。普段の二人を考えると考えられない光景だ。というか正反対だ。

 

「もっと薄着になってから声かけて」

 

「ひ…冷え性なんだよぉ!!」

 

「グレイの奴、ベタベタしすぎだろ」

 

「恋する男ってのは、熱心なものだね~」

 

そのまま遠ざかっていくジュビアを必死に追いかけるグレイを見ながら、ウォーレンとマックスはまるでいつもの事だと言わんばかりに会話している。本当は逆のはずなのに…!ナツも思わず「何だこりゃーー!!?」と絶叫している。だが、衝撃の光景はこれだけではなかった。

 

「なっさけねぇなァ、エルフマン」

「また仕事失敗かよ~?」

「恥ずかしいっス…」

 

どこか強者感あふれる雰囲気をしたジェットとドロイが、気弱そうな雰囲気になったエルフマンに説教している。聞けばジェットとドロイは最強候補なのだとか。あのシャドウ・ギアの中でもレビィのおまけみたいな二人が…!?

 

「仕事仕事ー!!」

「ナブは働きすぎだろぉ」

 

さらにはいつも依頼板(リクエストボード)の前をウロウロしているナブが、依頼書を取って意気揚々と仕事に向かう。悪いものでも食ったか、ナブ…?

 

「カナさん。たまには一緒に飲みませんか?」

 

「こっちへ来てくださいよ~!」

 

眼鏡をかけてどこか礼儀正しい口調のマカオと、いつもは咥えているキセルどころか、タバコすら咥えていないワカバが、カナを飲みに誘う。自分たちの知るカナなら、この誘いに乗らない訳がないのだが…。

 

「何度も申しているでしょう?(わたくし)…アルコールは苦手でございますの」

 

「「ぶほぉっ!!?」」

 

服装、佇まい、口調、どれをとってもTHE☆お嬢様な感じになったカナが、やんわりとそれを断った。あんな24時間365日酒を飲んでるイメージの酒豪だったカナが!?

 

「ビスビス~ん♡」

「んな~にぃ?アルアル~♡」

 

「ひや~~!」

 

極めつけには、万年両片想いを拗らせていつまで経っても初心な反応だったアルザックとビスカが、人目も気にせずイチャイチャしてやがる。互いを謎のあだ名で呼ぶほどにまでラブラブしている二人を見て、思わずウェンディの顔が一瞬で赤くなった。子供には刺激が強すぎる…!!

 

「ど、どーなってんだコリャア!?」

 

「みんなおかしくなっちゃったの!?」

 

「何もかもが、正反対だ…!!」

 

とてもじゃないが信じられない。それほどまでに、いつもと知るギルドのみんなと違い過ぎる。これもアニマの…ひいてはエドラスに無理矢理連れてこられた影響なのだろうか…?

 

「おい、誰だてめーら?」

 

すると、こちらに気付いた様子の一人の少女が、俗にいうヤンキー座りで覗き込みながら声をかけてきた。他の面々の変貌ぶりが凄まじすぎて気付けなかったが、声に気付いて視線を向けた瞬間、全員が更なる衝撃を受けた。

 

「嘘ぉ!?」

「マジ!?」

「まさか…!?」

 

その少女のセリフで他のものも気付いたのか、ジェットやドロイにグレイと言った面々が、こちらに気付き、睨みを利かせ始める。

 

「ここで隠れて何コソコソしてやがる」

 

その顔を、その声を、知らない訳がない。同じチームを組んでいる金髪の少女。服装は不良のような黒を基調としたものだが、間違いない。

 

 

ルーシィだった。

 

「ルーシィ!!?」

「「―――()()!!?」」

 

思い切りこちらを睨みつけ、口調や雰囲気はまさに不良少女となってるルーシィ。どこか威圧を感じる彼女の雰囲気に、シエルとハッピーは思わずさん付けをしてしまう。

 

「これは一体…どうなってるの…?」

 

「ど、どうしちまったんだよ…?」

 

「ルーシィさんが…怖い…!」

 

その異様な空気を纏ったルーシィは、隠れていたシエルたちの中から、ナツに視線を移すと「ん?」と唸り、彼の顔を凝視する。

 

「ナツ?」

 

顔を近づけてナツの名を呼ぶルーシィ。その様子に一瞬虚を突かれ、生唾を飲みこむ。他の面々も緊張感を漂わせてその様子を見ていたが…。

 

「よく見たらナツじゃねーか、お前!!」

 

「ぐもっ!!」

 

突如嬉しそうな声と表情でナツに抱き着いた。だが、腕力が上がっているのか抱きしめられたナツの関節が何度もグキリと音を鳴り響かせる。睨みをきかせて警戒していたギルドのメンバーたちも、一人がナツであることに気付いて、警戒を解き始める。ただ、服装が妙になっていることに疑問を抱く者たちもいるらしい。

 

「ナツ…今までどこ行ってたんだよ…!心配かけやがって…」

 

「…ルーシィ…?」

 

口調はどこか荒くなっているが、その声からは妙に寂しさを感じさせる。ルーシィがナツに対してこのような反応を示したのも稀だ。やはり取り残されて心配をかけさせたのだろうか…。

 

「処刑だー!!」

「んぎゃあーーっ!!?」

 

「出たー!ルーシィの48の拷問技の一つ!『ぐりぐりクラッシュ』ー!!」

 

「えー!?何それそんな技知らない!!」

 

「ナツさーん!!」

 

突然肩車の様にナツの肩に乗っかって固定したかと思えば、ナツの頭に両手の拳を押し付けてぐりぐりと捻りだした。何気に物凄く痛そうである。周りにいる魔導士たちがそれを見て盛り上がってるが、そんな技知らない。しかも同じようなのが48個もあるとか…。

 

「あまりいじめては可哀想ですわよ」

 

「うぅ…!」

「「いつまで泣いてんだテメーは!」」

 

ニコッと笑顔を浮かべながらルーシィに告げるカナに、ずっと泣きっぱなしのエルフマン。どっちもらしくない。本当にどうなっているのか。

 

「とにかく無事でよかった。ねっ!ジュビアちゃん!」

 

「うるさい」

 

一瞬本来のクールな様子でナツの無事を安心するも、すぐさまジュビアにデレっと話しかけて、冷たく一蹴されるグレイ。こっちもやっぱり真逆だ。

 

「これ…全部エドラスの影響なの?何から何まで逆になってるよ…」

 

「……(本当に、ただみんなが逆になってるのか…?)」

 

ハッピーが何度も衝撃を受けすぎて混乱している後ろで、これまでのメンバーの様子を見ていたシエルが、頭の中で独り言ちる。どこかに、他の違和感を感じる部分があるかもしれない。

 

「ナツー!おかえりなさ~い!」

 

だがカウンターから声をかけてきた女性は、服装こそ違うが、髪型も声も、恐らく性格も元と同じのミラジェーン。笑顔を浮かべながらこちらに手を振ってくる彼女の様子は、いつもの彼女である。

 

「いつものミラだ…」

「ある意味つまんないね」

 

今まで変貌が凄まじかったのもあり、少なくともナツたちにとってはミラジェーンの変化の無さは少々拍子抜けだった。すると、ナツたちと共に行動していたシエルたちに、今度はマカオとワカバが目を向けて「ところで…」と尋ね出した。

 

「そこのお子さんたちとネコは誰です?」

 

「…ネコ?」

 

だが尋ねた答えを聞く前に、ワカバはマカオが尋ねた内容の一部を聞いて反芻。瞬間、二人で顔を見合わせて「ネコ!?」と突然焦りだした。

 

「ネコがいますよー!!」

 

「どう言うこった!!」

 

「何でこんなところに“エクシード”が!?」

 

マカオ達だけではない。ずっとハッピーたちと行動していたシエルたちを除いて、ギルドの全メンバーがネコ…エクシードがこの場にいることに衝撃を受けている。警戒する者と怯える者。大きく二分されているが、ほぼ全員がその存在を好意的に受け止めていない。

 

「まただ…“エクシード”…」

 

エドラスであった者たちも、ハッピーたちをエクシードと呼び、恐れているように見られた。そう言えば、エドラスから卵の状態で送られたとシャルルは言っていたが、同じような種族が、この世界により多く存在しているという事か?

 

「あの…“エクシード”って、ここに来るまでに何度か聞いたんだけど、何か知ってるの?」

 

「は?何言ってんだよボウズ」

「知ってるも何も、常識ではないですか」

 

シエルが少しでも何かを知ろうとメンバーに尋ねてみるが、常識として認識されているらしく、望んだ答えは残念なことに得られなかった。エドラスに住んでいる他の人たちにとっても、そうなのだろうか?

 

「ぷはぁ!あ~暑かった暑かった…」

 

「ちょ、おい!このタイミングで(それ)外すな!!」

 

「だって蒸れるんだもん、これ…」

 

「じゃあ何で被ったんだよ!」

 

喋るネコ=エクシードと言う認識がされている状況下で、まだ誤魔化せると思っていた変装を自分から解除したハッピーに、シエルが比較的小声を出しながら彼に近づく。焦りを見せてハッピーに説教するも、彼は逆に文句を垂れている。だがこればっかりはシエルが正論だ。

 

「ホントそっくり!あなたたちって、エクシードみたいね」

 

だが、そんな彼らを気にも留めず、ミラジェーンがハッピーとシャルルに向けて、しゃがみながらそう言ってくる。後ろの方で他の面々が「みたいと言うか…そのものなんじゃ…?」と言ったような会話が繰り広げられるが、続くエルフマンも「姉ちゃんの言う通りだよ」と姉の言葉を肯定する。

 

「エクシードにそっくりなだけだよ」

 

「それもそうね」

 

「けどどう見てもネコに見えるけどな…」

 

本心なのか、彼らを庇ったのか、定かではないが一応は警戒を緩めてくれたと言ったところか。ジュビアもあっさりと、ウォーレンを始めたとした他のメンバーも渋々ではあるが納得した。

 

「ええっと…」

 

「とりあえず被り直しなさい。蒸れるのは我慢するのよ!」

 

「でも…」

 

「でもじゃない!!」

 

何と言っていいか分からなくなっているハッピー。そんな彼に兜を被り直すよう叱咤するシャルル。そんな二人をシエルは見ながら、頭の中でエドラスに関する情報や言葉を整理し始めた。

 

「(エクシード…この事に関しては特によく知っておく必要がありそうだ…)」

 

心の中で呟くシエル。今後、彼らのような種族が大きく関わってくるという予測は、見事に的中することとなった。




おまけ風次回予告

ウェンディ「ギルドのみんなが無事だったのはよかったけど、何だか色々とおかしくなってるね…」

シエル「だよな…グレイは厚着してるし、エルフマンは泣き虫だし、カナはお嬢様な感じで酒も飲まないし…」

ウェンディ「ルーシィさんは…怖いし…!」

シエル「いつもの通りなのはミラだけ…その上、まだ全員がこの場にいるわけでもないみたい。兄さんや、エルザにガジルも…」

次回『異世界の妖精たち』

ウェンディ「ペルさんたちも、みんな逆の感じになってる…のかな…?」

シエル「う~ん、兄さんやエルザが逆…あの二人がどこか弱々しくなってるのは、あんま見たくもないような…」

ウェンディ「想像がつかないよね…」
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