FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

83 / 157
新年三日連続投稿、二回目になります。

お待たせしました、ついに今回エドラスのシエルたち兄弟が登場です!
さらにエドラスでのウェンディ(ヒロイン)も!あと、僕が作中で一番好きなキャラも!←何気に初公言。


けど…まあ…色々な意味でどんな反応が来るのか、今から楽しみです(笑)
自分で言うのもなんですけど…今回かなり内容が濃くて、反応するべきポイント盛り沢山で…。文字数も2万超えちゃってますし…。(笑)


ちなみに進捗報告。現時点で翌日更新予定の回。大体半分くらいは書いてます。…多分、半分…。←


第77話 異世界の妖精たち

エドラスにアニマによって吸収された妖精の尻尾(フェアリーテイル)の仲間たちを探しに異世界にまで来たシエルたち。そこで妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章を掲げたギルドの姿、そしてギルドの面々を見つけることに成功…したかと思ったのだが…。

 

「ん~~?」

 

黒を基調としたノースリーブの服を着て、髑髏の髪飾りをつけた少女、ルーシィが椅子に座ったナツの顔をじろっと凝視している。顔立ちは可愛いのに妙に威圧的で、ナツは思わず顔を引いている。

 

「ルーシィさんが怖い…」

 

このルーシィを筆頭に、今ギルドの中にいるメンバーのほとんどが、普段とどこか正反対の性格に変貌しているのだ。特にルーシィが不良少女そのものになってしまっているせいで、ウェンディが顔を暗くさせてしまっている。

 

「さあ言えよ。散々心配かけやがって、どこで何してたんだよ…!?」

 

「何って言われてもなぁ…」

 

「取り敢えず最初から…そうだな、エドラス(こっち)に来てからの事を順に説明すればいいんじゃない?」

 

視線はきついがナツの身を案じていたという事は察することが出来る。何を言ったらいいか答えあぐねているナツに、シエルがフォローも兼ねてそう伝えると、頭を捻りながら言葉に出し始めた。

 

「えーっと…まずはアレだ。森ん中に落ちて、ずーっと歩いて…そっからアレしてまた歩いて…そんでアレがアレで…」

 

「ほとんど“アレ”しか言ってねぇじゃねーか!ホントハッキリしねぇなお前は!!」

「ぐもぉ!!」

 

だがナツの理解力と説明力では納得させられる訳がなかった。もうほとんど“アレ”ばっかりの説明に業を煮やしたルーシィが、片方の腕と脚を両脚で固定しながら、こめかみに肘を押し付ける。勿論、ナツは再び苦悶の声をあげた。

 

「出たー!今度は『ぐりぐりヒジクラッシュ』!!」

 

「“ヒジ”がついただけじゃん…」

 

ネーミングセンスの欠片も感じられない拷問技の名前に、どこか脱力気味のシエルが呟く。だがこんな気分になるのは他の要因もある。

 

人目も憚らず終始イチャコラしているアルザックとビスカ。ジュビアに隙あらばアプローチを仕掛けるも、一切相手にされずに突っぱねられるグレイ。そして「次の仕事ー!!」と叫びながら再び依頼書を取っていくナブ。変化を受ける前の計五人がこの光景を見たら何て言うだろうか…。

 

そう言えば落ち込むグレイにマカオ達が話しかけていたが、どうやらリオンもジュビアにアプローチをしているらしい。面識あったっけ、あの二人?

 

「技の35!『えげつないぞ固め』!!続けて技の28!『もうやめてロック』!!」

 

こっちはこっちで更に大変だ。次々とルーシィの拷問技…と言うか関節技を決められて、ナツがずっと悲鳴を上げている。二つ目に行った技に至っては、ホントにナツが「もうやめて!」って叫んでる。つーかあれ、ただの逆エビ固めじゃ…?

 

「ルーシィさんが怖い…!!」

 

「俺もだんだん怖くなってきたよ…」

 

何か流れでテーブル席に座って飲み物をいただいているウェンディとシエルがぼそりと呟く。色々と状況について行くだけで精一杯だ。

 

「逃げんな、ナツ!どこに隠れた!?出てこい!新技かけてやっからさ!!」

 

隙を突いたナツが気付けば避難して、姿が見えなくなっている。ルーシィが嬉々としながら叫んでいると、ナツではなく別の人物が彼女に対して返答してきた。

 

「うるさいよ、このクソルーシィ!!」

「何だとコラァ!!」

 

「え、あれまさかレビィ!!?」

 

ギルド内の一角で何やら機械をいじっていた青髪の少女レビィ。文系寄りの彼女にしては珍しい上、スパナを片手にルーシィに怒鳴り散らす様子は、普段の彼女を知ってる身からは想像もできない。

 

「メンテ中だって言ってんでしょうが!この怪力ゴリラ女!!」

「だったらさっさとやれよぉ!このヒョロヒョロメカニックが!!」

 

本当は凄く仲の良かったはずのルーシィとレビィが、ナツとグレイのような喧嘩を繰り広げている。しかもあの感じは一度や二度の感じではない。魂入れ替わってるのか?チェンジリングか?

 

「ルーシィさんが怖い…!!」

 

「レビィも何か怖い…」

 

これがナツとグレイだったら殴り合いに発展するものだが、そうなる前にマカオとワカバが各々を宥めることで止まった。何やらレビィの技術がなければこのギルドは…と言う言葉が聞こえたが、どういう意味だろう?謎は増える一方だ。

 

「あれ?そう言えばエルザさんがいないみたいだけど…」

 

「ホントだ。それに兄さんも…あとガジルも見当たらない…」

 

すると、ギルドの中を見渡していたウェンディが気付いた。一緒に吸い込まれていたはずのエルザがいない。それを聞いてシエルも、自分の兄の姿、ついでにもう一人見知った人物が見当たらないことに気付く。確か彼らも同様だったはずだが…。

 

「ペルたちはともかくエルザとか冗談じゃねぇ」

 

「ねえねえ、こっちではエルザってどんな感じなのかな?」

 

「そりゃおめぇ…やっぱ逆なんだろうよ」

 

「つーか何してんの…?」

 

「ナツさん…」

 

気付いたらシエルたちが座っている席のテーブルの下に隠れていたナツ。近くにはなぜか一緒に潜んでいるハッピーが。話を聞いていたのか態勢をそのままにして会話に加わってきた。椅子から外れてその場に屈んだシエルとウェンディから、それぞれ声をかけられるがナツは気にしない。

 

「エルザの逆ってどんな感じさ?」

 

「ん~、そうだな…」

 

ハッピーに問われ、ナツは自分なりの逆のエルザを想像してみる。どんな感じになるのかというと…。

 

 

『バカモノー!!お前は何度言ったら分かるんだってーの!!』

 

『ごめんなさい!ごめんなさい!もう二度と、ナツさんの足は引っ張りません!!』

 

何か失敗ばかりするエルザがナツに叱られて、土下座しながら何度も謝っているイメージ。そして常に先を行くナツに尊敬を抱いている、と言ったものだった。

 

「それ単にナツの願望だよね?」

 

「んだとぉ?じゃあハッピー、お前はどうなんだよ」

 

「オイラはこう思うよ?きっと…」

 

思い切り普段のナツがエルザ相手に考えている願望を加えた想像に、ハッピーが苦言を申し立てる。ならハッピーはどう思うのか?問うてきたナツに、自信満々と言った様子で彼は答えた。

 

 

『ハッピー様!この(わたくし)が、必ずお守り致します!!』

 

『おう心強いぞ!行けぇ我が(しもべ)エルザよー』

 

『ははぁ!!』

 

強大な魔物から全力でハッピーを守り、ハッピーの剣となり盾となって忠誠を誓うエルザ。その後ろで、思い切りハッピーは休日の様にくつろいでいるイメージだった。

 

「いやいや…お前の願望の方が酷くねぇか…!?」

 

「どっちもどっちな気がする…」

 

そんな五十歩百歩な願望まみれの想像をしていた二人に、思わずシエルは呟いた。どっちも反対と言える印象とはどこか別な気がする。

 

「じゃあお前はどうなんだよシエル?」

 

「そうだよ。そこまで言うならシエルの想像を言ってみてよ」

 

「お、俺?そうだな…」

 

言われるがままシエルは想像してみた。エルザと言えば…そしてそれが反対になるとしたら…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

夜の荒野。そこに佇み一点に前を見据えている緋色の長い髪の女性。見慣れた鎧姿に身を包んでいる彼女を、そして自分達を取り囲むのは、数百を超える、この辺り一帯で活動してる盗賊団。

 

「行くぞ!私に続け!!」

 

『おお!』

 

シエル達が彼女の声に従い、一足先に駆け抜けたエルザに続いていく。それを合図に盗賊達も雄叫びをあげながらこちらへと迫り来る。最初の一団がエルザの元に辿り着き、一斉に襲いくるが…。

 

「はぁああああっ!

 

 

 

 

 

 

エルザパーンチ!!」

 

武器を呼び出す…こともせず、手甲がつけられた右拳を振りかぶり、盗賊達を殴り飛ばす。拳一つの威力とは思えない壮大な破壊力が、敵を紙切れのように吹き飛ばす。

 

「このアマァ!」

 

仲間をやられて逆上した盗賊達が、今度は後方から迫ってきた。しかし彼女はそれに怯むこともなく…。

 

「エルザキックー!!」

 

すぐさま後ろに振り向きながら回し蹴り。迫ってきていた敵のみならず、彼女の蹴りで起きた衝撃波が更に後続していた者達を吹き飛ばす。

 

「な、なんて強さだ…!」

「これが妖精女王(ティターニア)のエルザ…!」

 

「オレに任せろぉ!!」

 

たった二撃で多くの仲間を倒された事でさしもの盗賊達も怯む。だが、彼らの後ろから大きな地響きを鳴らしながら現れた男を見て、盗賊たちの表情に喜色が浮かぶ。その男の大きさは、一般的な人間の大きさを優に超え、2倍…いや3倍はあろう背丈と恰幅をしている大男。

 

「おおっ!頼むぞ!!」

「団一番の力自慢!!」

 

見るからに強そうなガタイ。シエルやナツのみならず、圧倒していたエルザでさえ、警戒心を強めて真っ直ぐに大男を見据える。それを気にせず、大男は人間一人を容易く掴めるその大きな手を振り下ろし、「潰れろぉ!!」とエルザめがけて張り手を食らわせようとする。しかし、エルザはギリギリまでその一撃を引きつけると、相手が巨体であることを利用して寸前で躱すと同時に、大男の懐へと潜り込む。

 

「何ィ!?」

 

避けられると思っていなかった大男が目を見開いている間にも、エルザは素早い動きで大男の背後に回り込み、背中から横腹を両手で掴み、何と二、三倍の体重はあるはずの大男の体を声を張りながら持ち上げた。

 

「エールーザー…!!」

 

「うわぁあああああああっ!!?」

 

そしてそのまま勢いに乗って、自らの体を後ろに反り、その影響で大男の体も後ろから横へと変わっていく。そしてその勢いは止む事なく…!

 

 

 

「ジャーマンスープレックスー!!!」

 

大男は後頭部から地面に叩きつけられ、衝撃に耐え切ることができずに白目をむいて気絶した。盗賊団一の力自慢と謳われた男が、攻撃が届かず、一撃で倒された光景を目の当たりにし、敵側の士気はもはや完全に失われた。

 

「ば、バカな!」

「あ、あの女バケモンだ…!!」

「逃げろ!全員逃げろぉ!!」

 

そして盗賊団は一人残らず蜘蛛の子を散らすように逃げていった。恐怖に引き攣り、涙に塗れながら逃げていく男達は、二度とエルザに逆らおうと考えはしないだろう。

 

「おお!すっげぇ!!」

「やったー!」

「さすがはエルザね」

「カッコいいです!!」

 

彼女の活躍を見ていた仲間達は、その戦いぶりに感激を示している。それほどまでに凄い活躍だったと言える。だが、唯一声を出さなかったシエルが、さっきから気にしていた事を彼女に尋ねた。

 

「でもエルザ、さすがにあの数の相手に武器を使わなくて、良かったの?」

 

その質問に、エルザは一瞬キョトンとしたように目を見開き、すぐにそれを閉じて笑みを浮かべると…。

 

「武器?ふっ…

 

 

 

 

 

 

 

 

武器などいらぬ!!!」

 

カッと目を見開き、力を込めたと思えば、彼女が身に纏っていた鎧にヒビが入り、膨張された上半身の筋肉が現れて鎧が粉々に砕ける。更に下半身の筋肉も膨張してスカートが破れ、彼女の体は上下の水着のみの姿と変わった。

 

「信じられるのは…己の肉体のみだ!!!」

 

「えぇえーーーーーーっ!!?」

 

どこか野太くなった声を張り上げ、筋骨隆々と変貌したエルザがポーズをとりながら宣言した。衝撃的な光景と発言に、シエルの驚愕の叫びが木霊するのだった…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「首から下が別人になってるよ!!何でそんな風になっちゃったの!?」

 

「いやぁ…エルザと言えば武器と鎧で、その反対って考えたら……何故かここまで暴走してた…」

 

「本当に何でこうなっちゃったの…?」

 

終えたところで思わずウェンディからのツッコミが入った。彼女の言う通りだ。逆に武器を使わない、と言う項目からどこまで進んだら体一つで全てを退けるムキムキエルザが出来上がるのか。自分の想像力が理解できない。シエルの心境はその一言に尽きる。だがしかし…。

 

「何だぁ…シエルの想像力も大した事ないよね」

 

「だよな。いつものエルザと大して変わんねーじゃん」

 

「お前らいつものエルザにムキムキの(こんな)イメージ抱いてたのか!?本人がいたらぶっ殺されるぞ!!?」

 

ナツとハッピーが呆れながら告げた言葉は衝撃を与えた。あのマッスルポーズをとっていたムキムキエルザを見ていつもと変わんないとかどんな目をしてるんだ。いや、そもそもナツ達の中ではエルザってこうなのか!?

 

「う~ん…私はこう思います!」

 

シエルに続いてウェンディも自分なりに想像してみた。彼女が言う逆のエルザのイメージは…。

 

 

『ウェンディの為に腕によりをかけた。さ、遠慮なく食べろ』

 

『わぁ~~!!ありがとうございます!いただきます!!』

 

パティシエの格好をしたエルザが、大きさが様々なイチゴのホールケーキを大量に作って、ウェンディを出迎える。超巨大なケーキの上に一緒に乗っていたウェンディは、美味しそうなケーキの数々に両手を上げて大喜び、という内容だった。

 

『そう来たか!!』

 

今までとは大分毛色の違う想像に、場にいた男子全員の目から鱗が落ちた。成程、エルザはケーキを()()()ことが大好きな一面がある。その逆になるという事は、ケーキを誰かに()()()()()事が好きなエルザになると言うものだ。同じスイーツ好きなウェンディならではの発想である。

 

「揃いも揃ってつまんない事妄想してんじゃないわよ」

 

みんな一緒になってエルザの逆バージョンを考えていたら、シャルルに呆れられてこんな言葉をかけられた。ぐうの音も出ない。こんな事して何になる、と言われればそこまでと言えてしまう。

 

だが純粋に、この場で唯一会話に参加しなかったシャルルだったらどう考えるのか気になったシエルは聞いてみた。

 

「ちなみにシャルルだったらどう思う?」

 

「答えるわけないでしょ!!」

 

気になって聞いては見たが、やっぱりそうですよね〜と思ってしまう答えだった。素直に答えてくれるわけでもないし、そもそもつまんない事って本人が言ってたし。

 

「全く…」

 

 

 

 

 

 

 

 

『無礼者がぁー!!』

 

「!!?」

「シャルル…?」

「い、いえ…何でも無いわ…」

 

唐突に目を見開いたシャルルを心配してウェンディが声をかけてきたが、彼女はそれを明かさなかった。と言うか本人も困惑している。今、メイドの姿をしていたエルザが、どこかから現れて自分を始めとした数人を手刀で吹き飛ばした光景が、何故か唐突に浮かび上がった。どう言う事?

 

「でも、逆の感じのエルザさんって…」

 

「実際のとこ、どうなんだろ…?」

 

今エルザがどこにいるのかも分からないが、彼女のエドラスの影響を受けていたとしてらどうなっているのだろう?今自分たちが浮かべていた想像が当てはまっているのか否かも、断定できない。

 

「ナツ、見ーっけ!」

 

するとテーブルの下に隠れていたナツがとうとうルーシィに見つかった。そして腕を掴んで引っ張り出すと、新技をかけるために腕を大きく振って張り切る。だがさすがに何度も痛い目にあわされているナツも、我慢してばかりはいられない。

 

「やめろって!いい加減にしねーといくらルーシィでも…」

「へ~?やろうってのか…?」

 

ルーシィに抗議してやめるようにそう口にするが、その瞬間察知したルーシィが、据わった目で睨み返す。そして口元を吊り上げて不敵な笑みを浮かべたかと思うと…。

 

「上等だよ。ゴラァ!!」

「ぐっばぁ!!?」

 

元の彼女から想像もつかない肘や蹴り、拳、一つ一つが重たい打撃をもろに食らい、ナツは為す術もなく倒れ伏す。いつの間にこんなに強くなったんだルーシィ…。

 

「ナツー、生きてるか…?」

 

「一応…生きてっけど…死にそう…!!」

 

「根性足りねーんだよお前は」

 

相当やられた様子のナツに声をかけるシエル。生死の確認という内容が少々大げさではあったが、ナツ自身も相当ダメージがでかいようだ。そして勝者であるルーシィが、倒れているナツの上に座りながら得意げに言った。

 

「さあ言え!どこで何してやがった、あ?」

 

「だから…それが…ハッピー…助けて…!!」

 

最早ナツの心は折れたも同然だ。完全にルーシィに対して恐怖した彼は彼女の質問にうまく答えられず、相棒であるハッピーに助けを求める。

 

「…さっきからこの仮面が蒸れて力が出ません」

 

だがしかしあっさり相棒に切り捨てられてしまった。ここで歯向かったら次は我が身だとよく理解しているために。ハッピーが無理ならシエルは?と言いたげにナツの視線が今度は彼の方に向けられる。

 

「ゴホッゴホッ!あーちょっと今日は風邪気味みたいで調子が悪いなー」

 

「は、薄情者どもぉ…!!」

 

勿論シエルからも見捨てられた。こういう時は決まって保身を優先する二人に、かすれた恨み節を口から発することしかできなかった。哀れ、ナツ…。

 

 

 

 

 

「ルーシィ!またナツをいじめて!ダメじゃない」

 

その声を聞き、そして声の人物を目にした時、シエルは時が止まった感覚を覚えた。シエルだけじゃない。ナツも、そしてハッピーも同様だ。

 

「ちぇ、わーったよ…」

 

掴んでいたナツの胸倉を話しながら悪態をつくも、その少女の声に素直に従うルーシィ。自由の身となったナツだが、その視線は声の主である少女に固定されている。

 

「そんな、ま…まさか……!?」

 

目の前に見える少女の姿を見て、シエルは自分の目と耳を疑う。そんな彼の様子を見て、ウェンディは何が起きているのか分からずに困惑している。

 

「お、戻ったのか」

 

「おかえりなさい」

 

エルフマン、そしてミラジェーンに笑顔で迎えられたその少女は、彼ら姉弟と同じ髪色で、比較的短いショートヘア。そして目は、ミラジェーンのものとほぼ同じ。年齢は()()ナツと同じぐらいに見られる。

 

 

 

 

 

 

「―――リサーナ!」

 

「ただいま。ミラ姉、エルフ兄ちゃん!」

 

迎えられた少女・リサーナは、そんな姉と兄に笑顔を向けながら告げる。最後に会った時と比べると、失ったと思った2年間の成長は確かに見られるが、彼女は紛れもなく、自分たちが知らない間に死んだと聞いたはずの少女、リサーナ・ストラウスだった。

 

「リ…リサーナ…!?」

 

「嘘…?」

 

思わぬ人物を目の当たりにし、ナツとハッピーも言葉を失い、目元に涙を浮かべている。そしてその視線を向けられているリサーナはそれに気付かず、兄に説教しているジェットとドロイにいじめないようにと注意している。

 

その声や動作、顔立ち、そして恐らく性格も、何もかもが、二年前までずっと一緒にいた、姉のようだった彼女とそっくりで…。シエルの目元にも涙が浮かび上がり、今にも溢れそうになっている。そして思い出す。あの時の何気ない日常だった、彼女との日々を。

 

『シエル、こんにちは!』

 

『あ、こんにちは、リサーナさん』

 

『もぉ、“さん”はいらないっていつも言ってるのに』

 

『ご、ごめんなさい…まだちょっと、慣れなくて…』

 

まだ彼女も比較的小さかった頃。ポーリュシカの元で療養しているシエルの元に何日か置きに数人の魔導士が訪ねることが多かった時期だ。当時まだ控えめな性格だったシエルは、兄以外の者たちに対してどこか他人行儀と言う印象の対応をしていたため、今の様にリサーナからもっと親しげに話してほしいと言われることもしばしばだった。

 

兄弟姉妹(きょうだい)の中でも末妹であったリサーナにとって、シエルと言う存在は気付けば弟同然の存在。どこか姉っぽく振舞って世話を焼いたり、こうして彼の元に頻繁に来るのも、兄に次いで多い。他愛ない話や、ギルドでのこと、仕事の事や、そこでの兄の様子。リサーナが一つ話すたび、シエルの表情は輝いてきているのを見て、彼女は更に気分を良くして話題を増やす。

 

そうすることで時間はあっという間に過ぎていき、気付けば朝から始まった話はもう昼過ぎ近くにまで及んでいる。

 

『あ、私そろそろギルドに戻らないと』

 

『もうそんな時間でしたか…』

 

まだまだ話したいことは多くあったが、いつまでもここにいてはギルドにいる姉と兄を心配させる。さらに人間嫌いであるここの責任者であるポーリュシカも黙ってはいないだろう。名残惜しいが、またいつでも訪ねに来ることは出来る。

 

『それじゃもう行くね?シエル、お大事に』

 

『あっちょっと待って!』

 

そして帰ろうとして立ち上がったリサーナに、シエルは待ったをかけて呼び止める。その顔は少しばかり赤くなっており、リサーナはそれを見て首を傾げる。

 

『え、えと…ぉ…ね…』

 

『ね?』

 

何度もこの部屋に来てくれたリサーナ。そんな彼女がいつか言っていた。「お姉ちゃんみたいに思ってもいい」と。それを聞いて思い切って考えた。ペルセウスに向けて「兄さん」と呼ぶように、姉として振舞おうとする彼女を、兄が好感情を抱いているリサーナを「お姉ちゃん」と呼んだら、どんな反応をしてくれるのだろう。

 

気恥ずかしさが勝って口ごもってしまうが、それでも何とか振り切って彼はその口を開く。そして…。

 

 

 

『よぉー!シエル来たぞー!!』

『きたぞー!』

 

バタンと大きな音を立てて戸を開け放ち、大声を上げながら少年ナツ、そして小さい羽で飛ぶ青ネコハッピーが訪れた。唐突に大きな音を立ててやってきた二人に、シエルもリサーナも大きく肩を震わせた。

 

『もうナツ!ビックリするでしょ!』

 

『あ、悪ィ悪ィ』

 

普段リサーナに頭が上がらないナツは彼女に叱られると、バツの悪そうな顔を浮かべてこちらに謝る。家の奥の方からポーリュシカの怒鳴り声も聞こえてきて、彼らの表情がさらに怯えでこわばった。緊張感が一気に失われ、シエルに思わず笑みがこぼれる。

 

焦ることはない。無理に呼んでもきっと気を遣わせてしまうだろう。だが少しでもそんな未来が来ればと、その一歩を踏み出すためにシエルは告げた。彼女が望む言葉を。

 

『あの…また来るのを…待ってるからね、リサーナ!』

 

『!…うん!勿論また来るよ!!』

 

いつか、本当の意味で姉弟のようになれたら。その願いも微かに込めながら、距離を詰めた。あの時向けた笑顔も、時が過ぎて色々変わっていく中で、唯一変わらず、彼女に似合うものであり続けていた。

 

だが結局、一度も彼女を姉と呼べないまま、彼女はこの世から消えてしまった。

 

 

 

 

そう…思っていた。

 

「まさか…でも…!」

 

彼女に関する過去の記憶がフラッシュバックし、楽しかった思い出、失った時の悲しみ、あらゆる感情が思い返され、シエルは自分も気付かぬ間にその脚を動かしてリサーナに少しずつ近づく。

 

「リサーナ……姉ちゃ…!!」

 

「「リサーナァーー!!」」

「ひっ!?」

 

「ゴールァ!!!」

「「はぶぁ!!?」」

 

そして彼女に今まで呼べなかった呼び方を告げようとシエルが口を開くも、一足先にフリーズから立ち直ったナツとハッピーが、号泣しながら彼女目掛けて飛び出す。だがしかし、それを顔を険しくしたルーシィから、二人纏めて顔面目掛けて蹴りを喰らって阻止された。

 

「お前いつからそんな獣みてーになったんだぁ、ああ?」

 

「だっで…リサーナが生きて…そこに…!!」

 

「何言ってんだ、お前?」

 

蹴り飛ばされて再び胸ぐらを掴まれながらルーシィに問い詰められるナツ。だが、彼女から受けた蹴りとは違う理由で涙を流しながら、リサーナに指を向けて涙混じりに呟く。だがルーシィからすれば、ナツのこの言葉は理解できない様子だった。

 

感極まって泣き続けているナツを、今度はグレイが肩を回しながらテーブル席へと運んだ。こっちに来てから妙にグレイは親し気だ。語り合おうとか、友達だろ?とか、前の彼からは想像もつかないほどに。けどグレイにしてはずっと厚着しているためか、「服脱げよ…」とナツがぼやいている。

 

「ねえシエル…リサーナさんって、この前シエルが話してた…」

 

「…うん、ミラたちの妹…死んだ、はずの…」

 

ナツたちが思い切り蹴飛ばされたことで後に続くタイミングを完全に失い、呆然としながら立ち尽くしていたシエルの元に、ウェンディが耳打ちをしながら尋ねる。確かに二年前、依頼先で命を落としたはずだ。他ならぬ実姉たちが、打ちひしがれながら話していたのだから。

 

いなくなったはずのリサーナが、成長した姿で、内面はほとんど変わった様子もないままどうして存在しているのか?ナツの方へと視線を向けていた彼女が、こちらに気付いたのか微かに驚愕を見せている様子を、涙に目元を濡らしながらシエルは改めて答える。これに関しては、シエルにもどうなっているのか予測が立てられない。

 

「みんなが逆になってるわけじゃないって事ね」

 

するとシャルルがその解答を導き出せたのか、話し始めた。まず、ミラジェーンは服装以外には何一つ変わった箇所が見当たらない。他の者たちが顕著に変更しているのに、逆に不自然だ。更に…。

 

「決定的なのは、アレ」

 

そう言ってシャルルが指をさした方向にいた人物に、示された三人は驚愕した。藍色の長い髪を持った、肩とへそを出している大胆ながらも胸元にリボンを付けた服を着ているのは、スラっとした高身長で抜群なスタイルを持つ、だが物凄く見覚えのある女性。

 

「あの子、少しお前に似てね?雰囲気とか近いよな?“ウェンディ”」

 

「そう?」

 

「隣のボウズもどっかで見覚えあんな」

 

他の魔導士たちに確かに“ウェンディ”と呼ばれたその女性。同じ髪の色だし、大人っぽくなった顔立ちは、最早大人に成長したウェンディと言っても間違いない。

 

「私ーー!?」

「(な、何だあの超絶美人っ!!?)」

 

勿論そんな彼女を見た小さい方のウェンディはまるで未来の自分を見たような衝撃を受け、隣にいる少女に惚れているシエルは想い人が色々成長したような姿を見てもっと衝撃を受けている。何なら顔も真っ赤だ。

 

「って、ちょっと待て…?何でウェンディが…?」

 

と、ここでシエルは気付いた。自分たちはてっきりここにいる魔導士たちを、エドラスに吸収されたために逆に変化した仲間たちと思っていた。だが真実は違う。

 

「逆…じゃなくて()()のよ。この人たち…私たちが探しているみんなじゃないわ」

 

別人。エドラスで生まれ、育ち、今も尚このエドラスで暮らしている、顔と名前が同じであるが、アースランドにいた彼らとは全くの別人。それがこの妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいる者たちの素性だ。

 

「別の世界にいる、別の世界の妖精の尻尾(フェアリーテイル)…?それってまるで、並行世界(パラレルワールド)じゃないか…!」

 

「そう思ってくれた方がいいわ」

 

並行世界(パラレルワールド)と表現したシエルの言葉はほぼ正解と言っているようなものだ。エドラスには独自の文化と歴史があり、ふとした拍子で魔導士ギルドが…妖精の尻尾(フェアリーテイル)が存在することだってあり得る。同じ世界を歩んできた歴史が、ある分岐点で枝分かれし、そこから何千何万の時を経て、世の中や生き物、人さえも、顔と名前は同じの別人として存在することだって、あり得ないとは言い切れない。

 

その結果と言えるのが、今自分たちが目の当たりにしている、エドラスに存在していた妖精の尻尾(フェアリーテイル)なのだ。

 

「じゃあ!オレたちの知ってるみんなはどこに行ったんだよ!?」

 

「知らないわよ!それをこれから見つけるんでしょ?」

 

ルーシィに腕を掴まれて「ごちゃごちゃ何言ってんだァ?」と問われていることも気付かず、ナツがそう聞いてくるが、これに関してはシャルルも分からない。

 

「見つけると言ってもどうやって?何の手掛かりもないんじゃ、結局は…」

 

「手掛かりなら、ありそうな場所に心当たりがあるわ」

 

つい先程までみんなの場所が分からずに当てもなく森の中を彷徨っていたのだ。それを思い出してシエルが彼女にそう尋ねるが、シャルルから出た答えはその停滞した状況を打破するものだった。

 

「王都よ!吸収されたギルドの手掛かりは、王都にあるはず」

 

王都…つまり自分たちの仲間を吸収し、魔力としようとした王国の本拠地。そこに辿り着けさえすれば、恐らく仲間がいるであろう居場所も目星が付く。そう判断し、シャルルはハッピーの手を引っ張って一刻も早くこのエドラスのギルドを出ようと動き出した。

 

その時だった。ギルドの奥の部屋へと通じる扉が開けられ、そこから一人の人物が出てきたことに、場にいる全員がその方向に目を移して、驚愕に目を見開いたのは。

 

「皆さん…」

 

その人物が声を発すると、真っ先に答えたルーシィが驚きながらもその人物を呼んだ。

 

「マスター!!」

 

「え、マスター!?」

「じ、じっちゃん…!?」

 

マスターと呼ばれたその人物。ギルドのメンバーも次々に驚きながらその呼称で彼を呼ぶ。所々から「起きてもいいのか!?」や、「無理すんなよ!!」と言った彼の身を案じる声が聞こえる。マスター…つまりマカロフの事か?とアースランドから来たみんなもその人物へと意識を向ける。

 

「ご心配なく…何やら、いつもより賑やかなようでしたが…?」

 

「心配しないわけないだろ!!」

 

マスターと聞いてマカロフを予想していたが、声は年若い男性のものだ。どこかで聞き覚えがあるような気がする。メンバーに囲まれて労られているその男性を目にした時、アースランドのメンバーが…特にシエルが言葉を失った。

 

「なっ!?」

「えっ!?」

「あの人は…!!」

 

髪の色は水色がかった銀色。その長さは肩の位置まで伸ばされておりうなじあたりで縛られている。顔立ちは整っているが妙に青白く、一目見るだけで健康体とは程遠いことが分かる病弱の印象。右目のあたりには白縁のモノクルが装着されており、左手には妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマークが描かれた魔水晶(ラクリマ)が先端についた杖を支えとして持っている。

 

だがその顔を、見間違えるはずがない。顔色は良くないが、一目見るだけでみんなが気づいた。

 

 

 

「兄…さん…!?」

 

その顔はまさしく、シエルの兄であるペルセウスだった。周りのメンバーに介抱され、遠慮こそしているが、時折口元を抑えて数回咳をすることが頻繁のため、無理をするなと言われても仕方がない。

 

「おや?ナツくん。帰ってきていたんですね…無事で良かったです…」

 

自分が知っているペルセウスとは違い、力無い、穏やかで弱々しい声色でナツの帰還を喜んでいる事を示している。だが、言葉をかけられたナツはエドラスでの彼の姿に、大きく困惑してばかりだ。

 

「ペ、ペルが…マスター…?ぐへぇっ!?」

 

「はぁ〜〜!?今何つった、ナツ!!なんだその馴れ馴れしい呼び方はよぉ!?」

 

「ぎ、ギブギブ……!!!」

 

衝撃で思わず心の声が漏れ出たナツ。それを聞いたルーシィに、再び関節技を決められて、またもや苦悶に満ちた顔と声を発した。

 

「ルーシィさん。ナツくんと仲が良いのは結構ですが、程々にしてくださいね」

 

それを見ながら、再び穏やかな声でルーシィを窘めているペルセウス。彼もまたエドラスでは立場や性格は勿論、更には体質まで大きく異なるようだ。病弱体質。それを聞いた時、シエルは己の過去を思い出す。アースランドで育った自分は生まれつき病弱だった。しかしエドラスにおいては、兄の方が体が弱いらしい。世界の理と言えばそこまでだが、何と皮肉な事か。

 

「――…?じゃあ、やっぱり…」

 

「リサーナ?」

 

「う、ううん、何でもないよ」

 

何かに気付いてハッとしたリサーナと、彼女の名を呼んだミラジェーンの会話は、シエルたちに届かなかった。

 

「つか、ホントに起きてて大丈夫なのかよ、マスター?」

 

「ええ、ご心配なく。それより…ケホッケホ…」

 

「お、おい!!」

 

見るからに辛そうだ。顔色も悪いし、支えとしている杖がなければ満足に歩くことも出来ないだろう。すぐに彼が療養しているらしい部屋に連れて行くように誰かが言うが、ペルセウスはそれを手を上げて静止し、口元に持ってきていた手をそのままにして言葉の続きを告げた。

 

「大丈夫です…。それよりも、皆さん…また胸騒ぎが起きています…」

 

弱々しい印象を持ちながらも、その目に力強い意志を宿しながら、周りのメンバーを見渡し告げる。その言葉の無いように、場にいる魔導士たち全員が、突如緊張感を発し始めた。比較的近い位置に立つグレイが、彼の告げた言葉の意味を真っ先に汲み取る。

 

「それって…!」

 

 

 

 

 

「ええ…『妖精狩り』が、来ます…」

 

冷や汗にも見えるその雫を一滴現しながら口にした言葉を耳にしたギルドの者たちは、騒然としだした。『妖精狩り』と言う物騒な言葉。それを知らぬものは、エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)には一人もいない。

 

「そこのネコ!どこ行く気だ!外はまずい!!」

 

「「え…?」」

 

ギルドの者たちがマスターと呼ばれているペルセウスに集中している隙を突いて、ギルドの外に出ようとするシャルルとハッピー。しかしそれを見てルーシィはすぐさま彼らを止める。怪しい彼らを逃がさない為ではなく、彼らの身に起きるだろう危険から遠ざけるために。

 

「マスターが言うんだ、間違いねぇ!!」

「チクショウ!!」

「もうこの場所がバレたのか!?」

「王国の方たち…また(わたくし)たちを追って…」

「「エライ事ですよーー!!」」

 

一気に騒然としたギルドの中で、その会話を聞きながらシエルは予測する。妖精狩り…妖精は恐らく妖精の尻尾(このギルド)の事だ。それを狩ると言う事は、彼らに仇なす存在。そしてその妖精狩りは、王国側の人間である事も察することが出来る。

 

「王国…?」

 

「私たちを、アースランドに送り込んだ奴等よ…」

 

「…オイラたち…妖精の尻尾(フェアリーテイル)の敵なの…?」

 

そして同時に、シャルルたちエクシードを送り込んだのも、王国であることが判明する。これで色々と繋がってきた。エクシードが恐れられている理由。王国は何故か妖精の尻尾(フェアリーテイル)を狙っている。だからこそ、彼らはエクシードと言う存在に対して、非常に警戒したり怯えていたりしていたのだ。

 

「妖精狩りだぁあーーっ!妖精狩りが来たぞぉーっ!!」

 

「知ってるよ!」

「もうマスターが気付いてるって!」

 

「え!?そ、そうか…さすがはマスターだ…!!」

 

ここで出入り口から仕事に出ていたナブが帰還と共に知らせてきた。しかし既にペルセウスから周知されていたために、マックスとウォーレンにそれぞれ指摘される。大急ぎで知らせに来たのに若干不発に終わって、ナブは微妙にショックを受けていた。

 

「転送魔法陣はまだなのレビィ!!?」

 

「今やってるよクソルーシィ!!」

 

「遅いって!妖精狩りが来るんだぞ!!」

 

「だから分かってるって!!」

 

メンテナンスをしていた機械を操縦席に座りながら操作し、転送魔法陣と呼ばれたものを起動しようとしているレビィ。一刻も早く実行しなければと焦り、それが元で口論が始まる。だが口論しているよりも、起動することに集中してほしいと、ジェットとドロイが騒ぎ立てる。

 

「転送臨界点まで、出力40%!!」

 

そこからギルド全体、いや周辺に至るまで地震にも勘違いするほどの揺れが発生する。それだけでなく、地面にある無数の小石が、徐々に上へと浮かび上がっていく。出力が上がるたびに、石だけでなく周りのテーブルにある食器やジョッキも同様に浮かび上がる。

 

「大気が…震えてる…!!」

 

「王国の狙いは何だ…?どうして妖精の尻尾(ここ)まで標的に…?」

 

空気の流れに敏感であるウェンディが、この異常を一番よく察知している。シエルもまた、その大きな空気の乱れは察知していた。そしてそれ以上にまだ解消していない疑問がある。同じ世界に存在する魔導士ギルドの妖精の尻尾(フェアリーテイル)を、何故狙うのか。

 

「そんなの決まってるじゃない」

 

「(私…!?)」

「(大人ウェンディ…!!)」

 

シエルが口にした疑問に答えたのは、エドラスに元からいた大人のウェンディ――通称をつけるとするならエドラスのウェンディ…エドウェンディだろうか――だ。周りが慌てふためいてる中、落ち着いて堂々と立ちながら、彼女たちから見てナツについてきた子供であるシエルたちに、自分たちの事を説明する。

 

「王の命令で全ての魔導士ギルドは廃止された。残ってるのは世界でただ一つ…ここだけだから」

 

魔導士ギルドの廃止。唯一残っている命令違反のギルド。その言葉を聞いて、シエルもウェンディも理解が追いつかなかった。いや、理解したくなかったというのが正しい。だが、彼女はそんな彼らに、非情な現実を叩きつける。

 

「知らないでナツについてきたの?つまり私たちは…

 

 

 

 

 

 

闇ギルドなのよ」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)が…闇ギルド…!!?」

 

闇ギルドの存在を許せないシエルにとって、たとえ異世界でも、自分の居場所である妖精の尻尾(フェアリーテイル)が闇ギルドとして扱われていることに、言いしえないショックと衝撃を味わうことになった。

 

「来るぞおっ!!」

 

誰かが、その言葉を叫んだ瞬間、窓の外からそれは見えた。ギルドとしている植物のような建物を優に超える大きさをした、角の形をした耳に、ギザギザの形をした大きな口。手足の先は随分細いが、体に匹敵する翼が一対二枚、背中から生えている。アースランドではまず見かけたことのない、得体のしれない怪物が、ギルドめがけて突進してくる姿が。

 

「な…何だアレは!?」

 

「妖精狩り…!?」

 

あれが、妖精狩りと呼ばれている存在…?否、よく見ると、怪物の背中に、長い得物のようなものを携えた人影が見える。恐らく怪物は移動手段であり、真に妖精狩りと呼ばれているのは背に乗っている人物の方だろう。

 

「よし、臨界点到達!ショックアブソーバー稼働!!転送魔法陣…展開!!!」

 

するとレビィが操作していた転送魔法陣の準備が終わったらしく、操作席の左右に置かれていたレバーを勢いよく引くと、大気の揺れがさらに強くなり、ギルド内にいる者たち全員が宙へと浮かび上がる。

 

「今度はなんだぁ!?」

「か、体が~!」

「浮かんでくよぉ~!!」

 

唐突な浮遊感に襲われて徐々にその身体を浮かび上げられるナツたち。エドラス側の者たちもそれは同様だが、何度も起きているようで彼らは彼らで対処も心得ている。

 

「皆さん!何かに掴まってください!!っ…うわっ!!」

 

「危ない!!」

 

マスターであるペルセウスがメンバーに指示を飛ばし、各々が近くのものに手を伸ばして掴もうとする最中、浮かび上がる際にテーブルに足を引っかけて、態勢が大きく崩れかける。それに気付いたシエルがいち早く彼に手を伸ばし、ペルセウスが杖を持っていない右手を掴む。

 

「大丈夫!?」

 

「す、すみません…ありがとうござい…っ!?君は…!!」

 

「へ…?」

 

助けられたことに対して礼を告げようとしたペルセウスは、シエルの顔を見てその表情を驚愕に染める。どんな意図がそこにあったのか聞こうとするも、より振動は大きく、激しくなっていき、それをこらえるので精一杯だ。

 

「転送開始!!」

 

「きゃあ!!」

 

「あっ!ウェンディ、掴まって!!」

 

レビィの声を合図に、更に揺れは激しくなり、視界も白く眩い光を放ち、目も開けられなくなる。ちなみにナツは、激しい揺れを自覚した途端、乗り物酔いが起き始める。

 

そして気付けばシエルたちは、全て白い光に包まれた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

自らが搭乗し、最初の一撃を見舞うために移動目的としても従えていた怪物・『レギオン』によって、目的のギルドを押し潰そうとした。しかし、その攻撃が当たる寸前、巨大な植物のツタのようなギルドは、一時的にそのツタのように地面へと潜り込み、その姿を一瞬にして見えなくさせてしまった。

 

「転送…!?チッ、()()か…」

 

忌々し気に舌打ちを一つしたその人物は、まるで水着とも言えるような大胆な格好ながらも、佇まいからは一縷の隙も与えない、まさに女騎士と言う言葉が似合う女性だ。しかし彼女の機嫌は今悪い。これでもう何度目になるか分らないほど、標的の大元であるギルドを取り逃がしてきたのだから。

 

「んー、本当…逃げ足の速い妖精だねえ」

 

そんな彼女の耳に、聞き慣れた声が届いた。視線をそちらに向けるとそこには見知った人物がいた。金髪のリーゼントヘアに、特徴的な二つに分かれたケツアゴ。更には身に纏う鎧甲冑はピンクで統一されている。個性の塊だ。

 

「『シュガーボーイ』、いたのか」

 

「んーー惜しかったねぇ、妖精狩り(フェアリーハンター)

 

「やはり奴が作ったポンコツは信用ならん。場所を特定したところで、どれだけ速く動いても寸前で逃げられる」

 

「気持ちは察するけど、彼が作った発明品はどれも一級品さ。妖精たちの場所だって、一度だって外したことはなかっただろ?」

 

『シュガーボーイ』と呼ばれたピンク甲冑の男は、苛立ちを抑えないで文句を零しているその女性を落ち着いた口調で窘める。男は思う。いつにも増して機嫌が悪そうだと。

 

「それに奴等も転送できる回数は残り少ない。一匹残らず狩れる日が来るのは、時間の問題っしょ」

 

「だと良いがな…」

 

フォローも交えてそう説明はしたものの、やはり損ねた機嫌は戻らないようだ。「んー…」と肩を竦めて、困ったようにシュガーボーイは口元に弧を描く。

 

「それと、例の巨大アニマ作戦、成功したらしいよ。それで、魔戦部隊長は全員王都に戻れってさ」

 

「アースランドの妖精の尻尾(フェアリーテイル)を滅ぼしたのか!?」

 

その話題に変えた瞬間、彼女の空気は少しばかり緩和したように見えた。国全体に関する朗報を聞けたのだから、ある意味では当然だ。正確には吸収したという事になるが同じようなものだろう。国王が行う事はスケールが大きい。

 

「吸収されたアースランドの魔導士はどうなった?」

 

「王都さ。巨大な魔水晶(ラクリマ)になっているよ」

 

「素晴らしい。それならエドラスの魔力は、しばらく安泰だろうな」

 

報告を聞いた女性の機嫌は、先程とは違ってよくなっているのが分かった。シュガーボーイにとってもこの朗報はとても喜ばしい。ひいては国、いや世界全体の繁栄に関わってくるのだから。彼女同様に彼も気分がよくなると言うもの。

 

「んー?」

 

するとシュガーボーイが懐にしまっていたあるものに反応が出る。小型の板のようなものに、いくつものボタンが配置されており、その上には円状に無数の穴があけられた形の機械だ。その内の、いちばん左上にある緑色のボタンを押してみれば、光が数瞬ごとに点滅し、電子音を響かせていたその機械の反応が止まる。いや、正確には起動した。点滅していた光が、今度は途切れることなく光り続けているのがその証拠。

 

「んー、こちらシュガーボーイ」

 

《シュガーか。こちら、『魔科学研』だ》

 

起動した矢先に自らの名を告げると、その機械越しに青年らしき声が返ってきた。だがその青年の声を聞いた瞬間、シュガーボーイは表情を凍らせた。余裕綽々と言った穏やかな笑みで固まってはいるが、実際の心境はその真逆。その最たる理由は、先程まで戻っていた機嫌が再び斜めに傾き、こちらを射殺すような鋭い視線を向ける女性にある。

 

「んー、君か…お疲れ~。一体どうしたのかな…?」

 

《なに…妖精の尻尾(フェアリーテイル)の奴等はどうなったのか、報告を貰いたくてな》

 

「あー…それは巨大アニマの件、かな?」

 

《寝ぼけたことを言うな。妖精狩りと言う名前負けした称号を持った奴の仕事に関してだ》

 

更に視線が鋭くなった。それに比例するように、シュガーボーイの顔からいくつもの汗が噴き出してきている。それに気付いているのかいないのか、通話の先にいる相手は更に言葉を続けてくる。

 

《それにアースランドの奴等に関しては、俺も全面的に作戦に加担している。その結果をわざわざお前に聞く必要があるか?》

 

「…ない、ね…」

 

《…はぁ…その様子だと、また失敗したようだな。これで何度目だったか…》

 

どうにか誤魔化せないかと言う彼のちょっとした優しさは残念ながら裏目に出た。ちょっとした問答とシュガーボーイの声色から察し、妖精狩りの幾度目の失敗を把握する。本人からの殺意の目線がさらに強くなって、最早シュガーボーイの顔色は真っ青を通り越して白くなってきている。

 

「んー…それでも確実に奴等を追い詰めてきてはいるんだよ…?あと数回…いや、次こそはきっと…いや絶対妖精を狩り尽くせると思うんだ…!」

 

《どうかな。いつも惜しいところで、すんでのところで、ギリギリ取り逃がす。何度も繰り返したことで、どれだけ陛下の期待を裏切ったことになってると思う?》

 

「な、なにもそこまで言わなくても…!!」

 

必死に彼女をフォローしようと言葉を選んでいるのに、通話先の青年と言ったら、一体いくつ彼女の地雷を踏みぬくつもりなのだろうか。地雷原の上でタップダンスでもやってるのかこいつ…!?しかも視線をそのままにしてレギオンの上から飛び降りて着地する音が今聞こえた。その時点で、シュガーボーイの顔は魂が抜けかけていると同義である。

 

《あの女がいくら失敗しようが俺は構わないが、そんな奴を臣下に置いている陛下の心中も察してほし…》

 

「あっ!!」

 

通話先の青年の言葉を遮って、シュガーボーイの横から彼が手に持っていた機械をその女は奪い取った。シュガーボーイがそれに引き攣った声をあげることも意識を向けず、殺意に満ちた目を浮かべながら機械越しに限界まで低くなった声で話し始めた。

 

「おい。さっきから聞いていれば随分な言いがかりだな…。元はと言えば、貴様のポンコツに原因がある可能性の方が高いんじゃないのか…?」

 

自信過剰でいるわけではないが、妖精狩りと言う名前は何も、安易につけられたものではない。その名に恥じぬほど、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちを何人も屠ってきた。数の利さえも圧倒して返り討ちにしてきた。

 

だがしかし、この男が開発したという機械に従って妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドを攻めに行く時。その時に限っていつも、奴等が到着すると同時に転送魔法陣で逃げられる。こいつが今の地位になってからずっとだ。

 

()()()()()もあって、やはり裏切っているのではないか。謀反を企てているのではないか。何度も国王に進言したものの、取り入ってもらえなかった。王国軍全体の向上や、望み通りの開発を手掛けた彼の頭脳と忠誠は、最早国王からの絶対的な信頼を勝ち取っていたが故。

 

だからこそ気に食わないのだ。まるで自分を蹴落として、国王からの信頼を勝ち得たような出世街道を歩いているこいつが。あまつさえ…。

 

《…何を言うかと思いきや、責任転嫁も甚だしいな。俺が開発した妖精共の位置情報探知機能は、完璧なものであると自負している。実際に、奴らの居場所を特定し、一度でも外れたことがあったか?》

 

この態度だ。国王には一切歯向かわずにどんな無理難題も眉一つ動かさないでやってのける奴だが、他に対しては一切譲らず、自らの意見を変えることはほとんどない。ごく稀に己に非があれば素直に詫びるものの、腹の立つことに彼の言通りに実行したことはほぼ全てが良好に事が運ぶため、次第に彼に反論できるものがいなくなってしまった。最早自分が唯一と言ってもいい。

 

それはそれとして、彼女にとっては彼のその言葉の一つ一つが癪に障り、如何にも自分は間違っていないと、失敗の要因には一切関係ないと断言している。何かにつけて自分を貶めているように聞こえることも付け加えて。

 

《俺が行うのは奴らの居場所を特定すること。その後の事は前線に出るお前の仕事だろ?妖精を前にして取り逃がしてしまうのは、ひとえにお前の詰めの甘さに他ならないとしか思えない。俺に文句を通すのなら、次こそは妖精の奴等を仕留めてからにしろ。妖精狩りなどと言う大層な飾りが外れ落ちる前にな》

 

「き・さ・ま・と・い・う・や・つ・はぁ~~~!!!!」

 

殺意と怒りと憎悪と言った負の感情のオンパレードのオーラを全体から発しながら、彼女は手に持っている通話用の機械を握りしめる。握力だけで握り潰せそうで、小型の機械に徐々にヒビが入りだした。

 

「アーーーッ!!ストップストーップ!ホント壊れるからやめて!?それ高いんだから!!」

 

竜虎を幻視するような二人の会話をオロオロとしながら眺め聞いていたシュガーボーイは、自分が持つ小型の機械を破壊されそうになって、若干涙目になりながら必死に彼女を止めた。とんだとばっちりである。

 

「ふんっ!…いいだろう、次は絶対に失敗はない。必ず妖精(ハエ)共を根絶やしにして、貴様の鼻をあかしてやる…!!」

 

《…精々、陛下を失望させるな》

 

「貴様に言われるまでもない」

 

シュガーボーイの叫びを聞いて踏みとどまった様子の妖精狩りが、彼に向けて機械を投げ返して宣言する。それに帰ってきた言葉に、彼女は怒りを込めた目を向けながら答えた。

 

「んー…君さぁ…能力はホント一級品だけど…せめてもうちょっと言葉を選んでくれない…?」

 

《俺は事実しか述べるつもりはない》

 

「いやだからそれが…んーもういいや…」

 

ひとまず手元に帰ってきた機械に向けて懇願してきたシュガーボーイの言葉を、たった一言で一蹴し、逆に彼を説き伏せて…と言うか説得を諦めさせた。こんな彼でも国王に対しては本当に別人レベルで礼儀正しいのだ。

 

「けどあんまり彼女を苛めないでくれよ。彼女もウチにはなくてはならない存在なんだからさ…」

 

《俺とてあいつと事を構えるほど時間を無駄にしたくない。あいつが何かにつけて俺に突っかかってくるんだ》

 

「その原因が君にもあるんだけどさ…ま、程ほどにしてよね…。何たって彼女は魔戦部隊隊長でも最強格…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()・ナイトウォーカー』…妖精狩りのエルザだからね」

 

レギオンに乗り直し、一足先に王都へと戻っていく緋色の長い髪を持ったその女性、『エルザ・ナイトウォーカー』を見送りながらシュガーボーイは告げる。彼女は武力で言えば王国の中でも一、二を争う人材。彼女以外に、妖精の尻尾(フェアリーテイル)を排除させるにふさわしい者はいない。

 

「君と同じように、この国になくてはならない存在だよ。“魔法応用科学研究部”…通称魔科学研の部長…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()・オルンポス』…」

 

王都の中に存在する、機械で囲まれた研究室。その中で大型の機械から発せられるシュガーボーイの声を聞きながら、白衣に身を包んでいる、水色がかった銀色の短い髪と切れ長な印象を与える眼鏡をかけた青年、王国の中でも随一の知力を持つ人材が、それに答えることなく、左手の指で眼鏡の位置を整えるのだった。




おまけ風次回予告

ハッピー「エドラスに元からみんながいて、そのみんなが色々と逆の感じになってたなんて…」

シエル「こっちのウェンディがこの場にいるのに向こうにもウェンディがいるから、世界自体が別でも、同じ世界の中に存在することは出来るみたいだね。ってことは、俺やナツも、それぞれエドラスで過ごしている存在がいるってことか…?」

ハッピー「エドラスのナツやシエルかぁ…オイラに言いなりになってるナツとかだったりするのかな~?」

シエル「エルザの逆バージョン考えてた時の影響受けてないか?(汗)」

次回『魔戦部隊と魔科学研』

ハッピー「シエルはどう思う?エドラスのシエルってどんな感じかな?」

シエル「多分…ウェンディみたいに大人の姿になってるとは思うよ。ただ…」

ハッピー「ただ?」

シエル「こっちの兄さんが病弱なのに近くにいない…まさかの兄弟じゃないのか…それとも…?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。