FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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新年連続投稿3回目!無事に達成できました!!
書き終わる位置をどこにしようか迷ったんですけど、余裕もって書いていたおかげでちょっと長めに出来ました。最初に予定していたシーンまで、なんですがね…。

それとタグを一つ追加しました。エドラスの兄弟も登場したし、他の方々の小説を読んでいて、ちょっと挿絵が欲しくなっちゃいました…。けど僕画力の才能皆無なので、描いてもいいよと言う方、もしいらしたら連絡ください…。←


第78話 魔戦部隊と魔科学研

エドラスのどこかにある砂漠。一面が砂で覆われ、所々から岩の突起が現れたその空間に、地中から巨大な植物のツタが湧き出てきた。そのツタはある程度の長さまで伸びると、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章が刻まれた旗を、繋がっている糸を引いて、勢いよく張る。森の中に存在していたギルドは、数十秒のうちにその拠点場所を変更させた。

 

「野郎ども、引っ越し完了だ!」

 

「助かった…」

「無事転送できたみたいだな…」

「みんな、無事か?」

「あたたた…!」

 

少女ルーシィの声が一つ響くと、あっちこっちで倒れ伏している魔導士たちから安堵の声が次々と聞こえ始める。

 

「引っ越し…?」

 

「ギルドごと移動したのか…」

 

ナツとハッピーもうつ伏せで倒れているが、それ以外で深刻なダメージを受けている様子はなさそうだ。シエルやウェンディも近い場所で倒れていたが無事らしい。

 

「転送魔法陣って言ってたね。まさか建物ごと全員を…」

 

「スゴイ…」

 

大気が…と言うよりギルド全体が震えていたのは、この植物を模しているギルドを最大限に活用した移動の為だったわけだ。何やら巻き込まれた形になってしまったが、ひとまず自分たちも危うく妖精狩りとやらの餌食になるところだったのだ。幸運と思う事にしよう。

 

それはそれとして、何か自分たちがいる場所の下が柔らかい気がする…?

 

「てめー!何モタモタしてんだよ!危なかっただろ!!」

「うっさい!たまには自分でやってみろ!!」

「大体何でこんなに揺れんだよ!!」

「てめーが太ったからだろ!?」

「んだとコラァ!!」

「ああ!?やんのかコラァ!!」

 

「まあまあ二人とも…今は全員の無事を、喜びましょう…」

 

「ん…?」

 

またもルーシィとレビィ…険悪な二人が睨み合いながら喧嘩腰で口論している。そんな二人をやんわりと仲裁するペルセウスの声が()から聞こえてくる。何か違和感を感じたシエルは、ふと視線をその方向に向け、ギョッと目を見開いた。

 

「「けどマスター!こいつが…って、ああああっ!!?」」

 

その原因を、ルーシィとレビィも彼に目を向けたことで目撃した。それは、うつ伏せの状態になっているペルセウス。それだけならまだマシだ。問題は横になっている彼の上に、何かが間違ってシエルとウェンディが二人とも器用に乗っかってしまっている光景だった。互いへの怒りもあっさり吹き飛ぶ大惨事に二人の絶叫が木霊し、それにつられて視線を向けた他の面々も各々驚愕したり、絶句したりと、過剰な反応を示す。

 

「おいコラー!何やってんだクソガキども、さっさと降りろぉ!!」

「うちのマスターに何てことしてくれてんだ!ええ!?」

 

「ひええっ!?ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!」

 

怒髪天を衝くほどの怒りで迫り来たルーシィとレビィ。ただでさえ自分たちの世界の彼女たちと比べて段違いに怖くなっているのに、それが激怒しながら迫ってくる様子を見て、ウェンディが泣きながら謝罪し、すぐさまペルセウスから降りて立つ。ついでにシエルも同じように退いた。

 

「す、すみませんでした…。さっきまで気付かず…」

 

「すみませんで済むかコノヤロー!マスターは滅茶苦茶繊細なんだぞ!!ぶっちゃけ弱さの塊だぞ!!」

 

「ただでさえ病弱な上に、虚弱で貧弱で脆弱で最弱!弱さを決める大会があったら間違いなく世界一だぞ!!もっと優しくしろ!!」

 

「うん、分かった。分かったからあんたらも優しくしてあげて。マスターのメンタルが、まさに砕け散りそうだから…」

 

改めて謝るシエルに対して凄みながらルーシィたちは如何に彼が気を遣うべき存在か騒ぎ立てる。フォローのつもりなんだろうが、彼女たちの言葉の刃は間違いなくそのマスター本人の心臓に深々と突き刺さっている。自分がどいた時より明らかに消沈としているようにしか見えないのがその証拠。メンタルポイントはもう0よ。

 

「な…何だったんだ、さっきの奴は…」

 

「どうしちゃったのナツ…久しぶりで忘れちゃった?」

 

「んな訳ねーだろ!!」

 

ギルドの引っ越し、と言う大移動を行う直前…こちらに襲い掛かってきた妖精狩りと言う存在を思い出していたナツに、ミラジェーンが少しばかり心配そうに聞いてくるのを、エドラスでは普通の体型で、かつ口調が随分荒っぽくなってるリーダスが何故か否定する。

 

「あれは王都魔戦部隊隊長の一人…エルザ・ナイトウォーカー。またの名を、『妖精狩りのエルザ』」

 

その肩書をつけられた者の名前を聞き、ナツも、シエルたちアースランドの者たちも全員衝撃を受けた。ここに来てから、何度この衝撃を受けたか、最早数え切れていない。

 

「何だと…!?」

 

「エルザが…敵…!?」

 

王国に仕える魔戦部隊の隊長。それも妖精の尻尾(フェアリーテイル)にとっては、天敵とも言える妖精狩りと言う異名付き。それがまさかの、エドラスにおけるエルザだとは。心強い味方として彼女をよく知るシエルたちは、その現実を受け止めるのに長い時間を費やすことになった。

 

「どうしたんだよナツ。さっきかららしくないぞ?」

 

エルザが敵であることに言葉を失っているナツを訝しむグレイ。らしくない、と言うか今ここにいるナツは、エドラスの人間である彼らにとっては別人なのでそれも当然。しかしそれに気付いているのはアースランドから来た自分たちだけだ。

 

「マスター、(わたくし)の手を」

 

「ああ、ありがとうございます」

 

「カ、カナさんに手をさし伸ばされるなんて…!!」

「マスター…なんて羨ましい…!!」

 

メンタルへのダメージによって物理的にも精神的にも回復が遅れていたマスター・ペルセウスに、カナが彼を案じて右手を差し出す。それに応じて彼は彼女に支えられながらなんとか立つことに至る。後方でマカオとワカバが羨ましがっていたが、シエルからすればその光景は異常だった。

 

「いつも兄さんを避けていたカナが…本当に別人なんだな…」

 

「…そうね…」

 

自分が知る限り、カナは昔から、兄のペルセウスをどこか避けるように行動していた記憶が強い。しかし目の前にいる令嬢の服装をしたカナは、兄を一切避ける素振りもなく手を貸して、さらには彼にお淑やかな笑みを向けている。その彼女の行動が、改めてここにいるギルドのみんなが別人であることを教えているようだ。

 

自分たちが知るカナの意外な一面にウェンディが驚愕していたが、今はその話をする時ではない。それを察してシャルルが彼に同意を示し、グレイに気をかけられているナツへと視線を戻す。

 

「やっぱり外で何かあったのか?話してみろよ」

 

「そーだ!どこで何してたのか聞かなきゃいけなかったんだ!!」

 

「あー…だから…えーと…」

 

心配そうな表情で尋ねるグレイを押しのけて、ルーシィが再び圧をかけながら彼に聞くと、やっぱり煮え切らない態度でナツが唸る。

 

「あーもう、ホント焦れってぇなお前は!!」

「うひぃ!!」

 

「待ってルーシィ!」

 

そんなナツに再び掴みかかって技をかけようとするルーシィに、ナツの顔がまたこわばる。だが、そんな彼女の行動をシエルが止めた。その声に彼女は彼へと振り向き、不機嫌そうに歪めながら反論した。

 

「何だよ、ってか…さっきから気になってたんだけど…お前やけに親し気っつーか…馴れ馴れしくねーか?…どっかで会ったかよ?」

 

このまま勘違いされたままでいるのは都合が悪い。かと言ってナツではうまく説明することが出来ない。できていたら今頃こんなにややこしくはなっていないから。ここはシエルが、そしてウェンディやシャルルも手伝って説明をする他、思いつかなかった。

 

「その事も含めて話すよ。みんなにも。俺たちの事…そしてここにいるナツの事も…」

 

その話の皮切りに、ルーシィだけでなくほとんどのギルドメンバーが頭に疑問符を浮かべた。どういう意味なのか、ナツと何が関係しているのか。しかし、浮かべなかった一人であるモノクルをつけた青年…エドラスにおける兄は、彼の言葉に真摯に耳を傾ける。

 

「是非お願いします。君たちから聞きたいことも、私にはいろいろありますから…」

 

自分たちを纏めるマスターでさえ、彼らの話を聞こうとしている。それを見せられては、無碍にすることは出来なかった。全員が自分の話を聞いてくれると理解したシエルは話し始めた。自分たちの事を。

 

まず始めに、自分たちは皆エドラスではなく、違う世界から来た人間である事。ここにいるナツもその世界で生まれ育ったナツで、彼らがよく知るナツとは別人であること。今ギルドにいるほとんどの者が、同じ名前と顔の別人として存在していること。この世界に来た理由は、エドラスの王国が発動した魔法によって、自分たちの仲間…アースランドに存在する妖精の尻尾(フェアリーテイル)の者たちが、ギルドや街ごと吸収され、魔力にされようとしていること。

 

数少ない生き残りである自分たちが、彼らを助けに行かなければならない。今知っていること全てを、エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)の者たちに語った。

 

「つーと何か?お前らはアースランドとか言うもう一つの世界から…」

 

「仲間を救う為にこの世界(エドラス)に来たってのか?」

 

「そっちの世界にも妖精の尻尾(フェアリーテイル)があって…」

 

「向こうじゃエルザが味方だって!?」

 

「ざっくり言うとね」

「あい」

 

荒唐無稽な話ではあったが、ひとまずは信じてくれるようだ。エドラスのナツがどのような人物かはシエルたちは知らないが、エドラス側の者たちにとっては、アースランドのナツとは全然印象が違うらしい。似てるのは顔だけだそうだ。

 

「成程…ここエドラスと君たちがいたアースランドは…謂わば並行世界(パラレルワールド)の関係、と言ったところですか」

 

「うん、それについても合ってる」

 

「ふむ…」

 

顎に指をあてながら思案する…自分も普段とっている仕草で考えを口にしながら頭で情報を整理している様子のマスター・ペルセウス。自分が知っている兄はあまりこういう仕草をとらないので、何やら物悲しさを感じる。

 

「この子がそっちの世界の私…!?」

 

「ど、どうも…」

 

「ぷっ!小っちゃくなったなウェンディ!!」

 

一方でウェンディも、正式にエドラスの自分と対面する。向こうから見ればその辺りの男よりも背の高いウェンディが、可愛らしい小柄の少女の姿で存在しているのは新鮮。ナブが吹き出しながら揶揄い気味に言うと、機嫌を損ねたエドウェンディが彼を睨みつける。

 

「では、坊っちゃんは一体どちら様で?」

 

「坊っちゃんって…」

 

「な〜んかどっかで見覚えある気がするんだよな〜…」

 

ナツ、そしてウェンディと来て、残っているシエルが一体誰なのか、気になった様子のマカオが尋ねてきた。目を細めてこちらを見てくる…と言うか睨んでくるルーシィの視線と言葉に気圧されないようにしながらも、少年は自分の名を名乗ろうと口を開く。

 

「シエル…。それが君の名前…ですよね?」

 

だが、それに先んじてペルセウスが穏やかに微笑みながら彼の名を言い当てた。問われたシエルのみならず、ナツたちもそれなりに驚きを示してペルセウスの方を見ている。一瞬呆けはしたが、無意識のうちに首肯して彼に答えると、更に笑みが優し気に変わる。その名を知っている、と言う事はやはり…。

 

 

 

『…シエルゥ!?』

 

そしてギルド内でも、彼の名を聞いた魔導士たちのほぼ全員が驚愕と共に反芻した。「こっちも小っちぇのかよ!?」とか「見覚えあると思ったら!」「言われて見りゃ似てる!」といった声があちこちで聞こえる。その盛り上がりに若干圧倒されながらも、固まっているシエルの代わりと言った様子で、ウェンディがペルセウスに質問する。

 

「やっぱり、シエルもいるんですか?」

 

「ええ、私の弟です。そちらの世界ではどうなんですか?」

 

「そこはオレ達の世界と変わんねぇな」

 

どうやらペルセウスの弟であることは、アースランドでもエドラスでも同じのようだ。考えてみれば、ミラジェーンたち兄弟姉妹(きょうだい)もこっちと同じように血の繋がった家族で順番も同じだ。そしてメンバーの者たちが知っているという事はエドラスのシエルも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員なのだろう。

 

「あれが…シエル…」

 

ふと、そんな声が聞こえて視線を移すと、先程まで小さい自分の方に意識を向けていたエドウェンディがシエルに視線を固定し、愕然としたのか口を半開きにして目を見開き、1、2歩程後ずさっていたのが見えた。開けている口元に右手を持っていき、体を震わせているように見えるがどうしたのか?一足先に彼女に意識を向けたシエルがその様子に小首を傾げていると…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこか面影はある気がしたけど、やっぱりそうだったんだ…!小さい頃の姿は絵にも残ってないってマスターも言ってたから諦めていたけど、まさか現実で見れるなんて…!小さいシエル、凄く可愛い…!あ、でも可愛いだけじゃなくてどこかカッコよさもあって…あの子も将来シエルみたいになるのかしら…!って、ダメダメ!名前も顔もほとんど同じだけど、あの子は私の知ってるシエルとは違うんだから…!」

 

唐突な豹変。目を輝かせて頬を赤く染め、時折ウットリしながら手を合わせたり、赤くなっている頬にその手を持っていきながら見惚れたり、自分に言い聞かせるように体を左右に捻じってくねらせ振り払ったりと…先程までのクールな印象を持っていた彼女とは思えない恋する乙女のような反応を見せて一向に止まらないエドウェンディを目の当たりにし、シエルの目が点になった。二重の意味で衝撃を受けたらしい。

 

「あ〜、ウェンディのやつま〜たトリップしてるよ…」

「あいつシエルのことになると別人になるもんな…」

「わっかりやすいレベルでシエルのこと好きだよな、ホント…」

「しかも気付いてないのは、当の本人であるシエルだけときた…」

 

そして聞こえてくるのはそんな彼女をよく知っているらしいエドラスのメンバーたちの会話。彼らの話から推測…しなくてもよく分かるが、どうやらエドラスにおける自分は、エドウェンディに相当ベタ惚れされているようだ。大勢の仲間が周りにいながら、彼の事を考えるあまり妄想している程に。

 

と言うか…同じようなパターンを、ついさっきも見たことある。

 

「(俺とウェンディはグレイとジュビアのパターンかよ…)」

 

アースランドではジュビアがグレイに惚れていて、アプローチを仕掛けるも相手にされていなかった。だがエドラスではその二人の立場は完全に逆だ。そしてこのパターンは自分たちにも当てはまる。ウェンディに一目惚れして周りにも気付かれるほどにあからさまな反応をするシエル。だが周りには気付かれているが、当の本人に一切気付かれないという点では、悲しいことに当てはまっているのだ。

 

「シエル…まあ、なんだ」

 

「人生色々だよ」

 

「ここで慰めんな!虚しくなるだろうが!!」

 

それに気付いたらしいナツとハッピーが、ガラにもなく励ましの言葉を投げかける。だがそれが逆に虚しさを倍増させることになっているのだが、多分そこまでは気遣いできないだろう。つーか今更だが…ナツにまで気付かれているほどわかりやすいのか、自分は…。

 

更に悲しいことを付け加えると、遠回しに自分の恋慕がウェンディに気付かれたのでは?と不安になって彼女の反応を見てみたら、大人の姿をした自分の豹変に困惑こそしていたが、照れたような感情が一切見られない。…これ、絶対気付いてないな、とどこか安心しきれない…虚無に似た感情が心の中を侵食した。

 

目から涙が溢れるのを自覚しているシエルに、ナツが左の肩に、ハッピーが右のくるぶしにポンと手を置いたのが、余計に悲しくなった。

 

「大丈夫ですか…?」

 

「うん、大丈夫、気にしないで…」

 

「は、はぁ…」

 

終いには別人とは言え、兄の名と顔をした青年に心配される始末だ。何でこんなに悲しい思いをしなきゃいけないんだ。シエルのメンタルポイントももう0よ。

 

「つか、そっちのシエルは今どこにいんだよ。仕事か?」

 

ふと、ナツが気になっていた事柄を徐に口にした。それを聞いたギルドの者たちは、皆一様に顔を俯かせて落胆を見せている。まさか…と嫌な想像が過ったが、彼の実兄であるマスター・ペルセウスは顔を下に向けながらも、その仔細を答えた。

 

「仕事…と言えば確かに…当たらずも遠からずでしょう。死と隣り合わせの、危険な仕事です」

 

その答えは、アースランドの者たちに更なる衝撃を与える。一歩間違えれば命はないと言いたげなその仕事…いったい彼は今何をしているのか。頭の中で浮かびつつも口に出てこないその問いに、ペルセウスは続けるように説明する。

 

「二年と半年は前からです。シエルは現在、王国所属の専門研究部門・魔科学研と呼ばれる組織のトップにいます」

 

「王国の!?」

「つー事はシエルも敵か!?マジかよ!!」

 

兄が妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターを務めていることから、てっきり弟であるシエルも魔導士なのだと思っていたが、事実は異なっていたらしい。しかも王国の人間…つまり兄が所属するギルドの敵と言う事。だがナツが叫んだ内容に、ペルセウスは首を横に振る。

 

「正確には違います。簡単に言えば、彼は“スパイ”です」

 

「スパイ…?」

 

「王国に潜入して奴らの動きを内部から掴み、人知れずあたしたちに知らせる。マスターが考案し、シエルが自分で志願、実行に移した、王国にバレたら即処刑の超危険任務ってことだ」

 

スパイ。その単語を反芻したウェンディに向けて、ルーシィが続けるように答える。王国側と表向きには見えるが、実際は自分たちの仲間を有利に立たせるための諜報活動と言う事だ。スパイと聞いて琴線に触れたのか、ナツとハッピーの表情がどこかキラキラしてる。

 

「事前に知らされていた目印や、手紙の送り先を何度も変えながら、シエルは私たちに王国の動きを知らせてくれていました。そのおかげで、王国による私たちの被害も、随分と減ったのです」

 

被害が減った…と聞けば喜ばしいことだろうが、それでも完全に被害を無くすにまでは至らなかったらしい。周りの魔導士は、どこか悔しげな表情を浮かべている。だが理由はそれだけではない。ペルセウスが「ですが…」と表情に影を落として続けた言葉にあった。

 

「一年前に最後の手紙が来て以来、シエルとの連絡は一切とれていません。裏切者が出たという噂すら聞かないことから、生きてはいると思うのですが…」

 

最後の手紙…一年前にあった王国の情報を最後に、それからのシエルの連絡は途絶えてしまっているそうだ。いつも文末に次の手紙の届け先を暗号化して記している彼が、最後の手紙は何の捻りもない言葉で「情報を流せるのは、これで最後だ」と書かれていた。そしてそれに対する謝罪の言葉も。

 

「どうして手紙を送れなくなったんでしょう…?」

 

「敵地のど真ん中だから…と言うのもあるだろうけど、立場が上になっていくと、隠れながら情報を流すのに、リスクが大きくなりすぎたからって考えも出来る」

 

ウェンディが抱いていた疑問に、シエルが推測で代わりに返答をすれば、「恐らくは…」と同じ考えらしいペルセウスが首肯する。今や王国の組織の一つを束ねる立場だ。そんな中で諜報を行うにはバレるリスクの方が大きいだろう。

 

「そう言えば、マカガカン…とか何とか言ってなかった?」

「“魔科学研”よ」

「何だそりゃ?」

 

魔科学研…と言う名前の組織のトップに立っていると確かに先程説明された。言い間違えたハッピーの言葉をシャルルが訂正したが、名前自体聞き慣れていないナツが、アースランド側のみんなが抱いたらしい質問を代弁する。それに答えたのは、先程までトリップしたたもののクールさを取り戻したエドウェンディだ。

 

「正式名称は“魔法応用科学研究部”。シエルが王国に潜入した際に、国王からの信頼を得るために設立した研究部門よ。彼はそこの部長として名を連ねている」

 

「魔法応用科学…だから魔科学か…どういうものなの?」

 

「言葉の通り、私たちが普段使っている魔法を様々な手法で組み合わせ、さらに独自の魔法を作り出し、戦力の増強や生活基盤のレベルを上げるもの。妖精の尻尾(ここ)にいる時から、シエルが得意としていた分野よ」

 

エドラスに存在している魔法をさらに強力なものとする為に彼自身が考案、そして研究を続け、開発にも惜しみなく尽力していたという。その特技を生かして、今や王都を中心に王国にもその知識や成果が浸透しつつあるのだという。エドウェンディはギルドにいた時の彼の事もよく覚えていて、その姿を思い出しているのか再び頬を染めている。

 

「はあ~~、エドラスのシエルって頭良いんだなぁ…」

 

「何か、俺がバカだって言い方に聞こえるんだけど…」

 

おおよそ話の理解が追い付いてないらしいナツがぼやく。だが言い方が少々語弊があるのでフォローしておくと、それぞれのシエルはどちらも知力が高いが、畑違い…つまり得意な知識分野が異なる点だ。アースランドのシエルは文系。書物や物語で培った推理力の方が優れていて、観察眼も鋭い。一方でエドラスの方は理系。トライアンドエラーを繰り返して理論を確立し、機械いじりに関しては右に出る者はいないと言ったところだ。暗記力と計算処理能力が優れている。

 

「君の顔を見た時、正直驚きましたよ。幼い頃のシエルにそっくり…むしろ瓜二つですから…」

 

ペルセウスがシエルに向けて告げた言葉を聞いて思い返す。転送魔法陣が起動した時、咄嗟に彼の手を掴んで顔を合わせた際、彼は驚愕していた。今思えば幼い弟と同じ顔をした少年が目の前にいることに困惑した、と言えば納得も行く。そして気付いたのだろう。自分たちにとっては様子の違うナツに、弟と、もう一人の仲間によく似た子供たち。その組み合わせでここに訪れた彼らが、ただのそっくりさんたちではないことに。

 

「シエル…いや、君の事はシエルくんと呼びましょうか。少しお顔を見せていただいてもいいですか?」

 

「う、うん…」

 

二歩ほどこちらに近づきながら問いかけるペルセウスに、少々戸惑いながらもシエルは肯定を返す。そして更に距離を詰めて、右手をシエルの左頬に近づけた。見れば見るほど、幼い頃の弟そのものだと実感する。記憶にある彼と比べるとまだ素直な印象を与える顔立ち。だが目の前にいるシエルを見て、その記憶が鮮明によみがえってきたペルセウスは、愛おしそうに目を細めて見つめている。

 

「本当の事を言うと…潜入計画は、企画した時点で切り捨てていたんです。それを唯一気付いていたシエルが、一番効率的だと…」

 

仲間の命をみすみす捨てに行かせるような危険な計画。頭の中で浮かびはしたものの、ペルセウスはこれを頭の片隅に投げ捨てていた。だが血の繋がった兄弟の事。弟はその兄が考案した計画を聞き出し、自ら実行者として行動することを決めた。その成果は十二分に出ている。だが本音を言えば…。

 

「そんな危険な真似をせず、ただここで…ギルドの一員として、過ごしていて欲しかったんです。もう自分を追い詰める必要はないって…」

 

ペルセウスにとっては血の繋がった家族。ギルドの者たちにとっても大事な仲間。そんな彼が今も、味方のいない危険と隣り合わせの状況下に置かれていることを、本当は誰も望まない。彼が危険を冒すことで生き残れているのを、理解できていても…。

 

懐古の念を感じ、呟くペルセウスの様子を見て、シエルは彼に兄の姿を見た。目の前にいるマスターの兄ではない。王国に仲間共々吸収されたと思われる、己の実兄を。正確には別人だ。口調も佇まいも全く違う、だがその顔と声は同じ。シエルはそれに今もなお囚われているも同然の兄を思い出して、その口を震わせながら…。

 

「に、兄さ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅぐっふぉおっ!!!」

 

その名を呼ぼうとした瞬間、突如目の前の青年の口から赤い液体が飛び出し、シエルの顔面に真正面からかかった。はっきりと言葉にするなら、吐血した。

 

『えぇえーーーーッ!!?』

 

至近距離からその血を浴びたシエル以外の、アースランド側の4人がその光景に目をひん剥いて絶叫する。さっきまで普通に話して、何なら数秒前までもらい泣きしそうな光景を見ていたはずなのに、何で急にこんなホラー映像みせられてんの?唯一シエルが何の反応も見せないまま立ち尽くしているが、多分、今のシエル、目が死んでる。

 

「だぁー!?マスターが吐血したぁ!!」

()()()原因は何だ!?」

「きっと小っちぇシエルだ!懐かしくなってそのまま興奮しちまったから!!」

「やべぇ!マスターの顔色みるみる悪くなってる!!」

「ウェンディ!応急処置!今すぐ応急処置をぉ!!」

「は、はい!分かりましたぁ!!」

『いや小っちぇ方(そっち)じゃなくて!!!』

 

ギルド内は大騒然で大混乱。こっちのウェンディも巻き込んで阿鼻叫喚。彼らのやり取りや言葉から察するに、今に始まった事でもないらしい。病弱なのはやり取りからも外見からも話からも分かってはいたのだが、まさか時々とはいえ吐血するほど酷いものだったとは…。

 

「す…すみません…ご迷惑をおかけしました…」

 

「ホントだよ。滅茶苦茶ビビったかんな…」

 

「本当に大丈夫なんですか…?」

 

「ご心配なく…これくらい…大した事でも…ゴフッ…!」

 

「マスター、これ以上喋っちゃダメ!!」

 

テーブル席に腰を掛け、エドウェンディが用意した療養目的の為の魔道具らしい点滴を受けながら、蒼白になった顔を申し訳なさそうに歪めながらシエルたちに謝る。さしものナツも顔を青くし、ウェンディが不安そうな声で彼の身を案じる。それに対して強がっているものの、またも吐血しかけたペルセウスをエドウェンディが無理矢理安静にさせた。

 

「いつもすみません…ウェンディ…」

 

「そう思うなら無理はしないでって、何度も言ってるじゃない…」

 

「(エドラスでも治療はウェンディ専門なのか…)」

 

顔にべったりと血を浴びていたシエルは、貸してもらったタオルでそれを拭いながら思った。味方のサポートに特化した魔法を使うアースランドに影響されているのか、エドラスでもウェンディは治癒治療に秀でているらしい。何だか…苦労してそうだ…。

 

「こんな体でよくマスターなんてやってられるわね…」

 

「私は、代理に過ぎません。先代が王国に捕まり、処刑されたために、暫定で私がその席に座っているだけです…」

 

大惨事を目にして、シャルルが呆れながら呟いた言葉。それにペルセウスは自虐交じりに答えた。先代のマスターであった人物が王国軍に処刑された。その為に正式な引継ぎが行えず、現在ペルセウスがマスター代理としてこのギルドを引っ張っているとのことらしい。所詮は代理。肩書だけのものだと彼は言うが、他の者たちはそれを否定した。

 

「何度も言ってるだろマスター。あたしたちは、もう全員があんたをマスターだって認めてるんだ」

 

「そうです!あなたが我々を導いてくれなければ…!」

 

「今頃、私たちは全滅していたかもしれないんですから…!」

 

ルーシィを始めマカオにワカバ、誰もが彼をマスターと呼び慕っている。今更他にマスターになり得る候補が見つかるとも思えない。それが共通認識だ。ギルドの者たちに発破をかけられ、力ない笑みを浮かべる。

 

「そう言えば、魔導士ギルドって、王国から解散命令が出てるんだっけ…?」

 

「ええ、そうよ」

 

王国に狙われ、危うく全滅に。その話からエドウェンディから聞いていた内容を思い出したシエルは、改めて確認のためにも尋ねた。

 

エドラスでは魔力は有限。言いかえればいずれは無くなるものだ。そうなることを危惧したエドラスの王は、魔法を独占するために全ての魔導士ギルドに解散命令を出した。どのギルドも初めのうちは抵抗したが、王国軍の魔戦部隊を前に、次々と壊滅。残っているのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)のみ。

 

「向こうのエルザが隊長をやってるとこか…」

 

「君たちは…王都に向かうつもりですよね…。正直に言えば、あまりオススメは出来ません…」

 

仲間をエドラス王に吸収されているという話も聞いていたペルセウスは、恐らく彼らがその仲間を取り返す行動を起こすと予想し、その上で彼らを引き留めようとする。その言葉に、一切譲ることが出来ないナツが先んじて反論した。

 

「それでも行かなきゃならねぇんだ!仲間が待ってる!」

 

「王都にその仲間がいるはずだから、どうしても助けないと…!」

 

「早く助けに行かないとみんなが魔力に…形のないものになっちゃうんです!」

 

続くようにシエル、ウェンディがどうしても仲間の救出の為に行かなければならないことを伝えるが、それを聞いた者たちの表情は暗いまま。

 

「小っちゃい私やシエルには悪いけどさ、やめといた方が身のためよ…。さっきも話した通り、エドラスの王に歯向かった者の命はないわ。シエル…私たちが知ってるシエルだって、本当は凄く危ない橋の上にいるの…」

 

どうあっても国王に対して反抗の意思を見せる彼らに、エドウェンディは苦言を呈す。先程も話した通り、とてつもなく強大な国だ。唯一生き残っているギルドである妖精の尻尾(フェアリーテイル)も無傷だったわけじゃない。先代のマスターも処刑され、解散命令が出る以前の半分の仲間も失っている。

 

「逃げるのが精一杯なんだよ…」

 

「だから近づかねぇ方がいい。元の世界とやらに戻りな」

 

王国の脅威をよく知っている。潜入したシエルからの情報も途絶えてしまった今、戦うどころか逃げることさえ手一杯。そんな彼らだからこそ、囚われた仲間を諦めることを勧める。そうじゃなければ、命を無駄にするだけだから、と。

 

 

 

 

 

「仲間や家族を見殺しにするくらいなら、俺は死ぬことを選ぶよ」

 

決して大きくはないが決死の覚悟を秘めた声とその言葉に、エドラス側の魔導士たちは一瞬どよめくが、すぐさま言葉を失う。怯えるどころか、躊躇いもない。言葉の通り、仲間の身に何かあったとすれば命すら捨てかねないほどの決意。

 

「そうだ、だから教えてくれ!王都までの行き方!オレたちは仲間を助けるんだ、絶対にな!!」

 

ウェンディやシャルルさえ少年の躊躇いの無い覚悟に言葉を失っていた中、ナツのみがそれに同意を示し、彼らに懇願する。最早エドラスの者たちにも、彼らに牽制や注意を促そうとする者はいなかった。

 

「……レビィさん、現在地の情報と、王都までの方角と距離、徒歩での推定時間を教えてあげてください」

 

「ちょ、本気!!?」

 

「マスター…!!」

 

しばらく何も言わなかったペルセウスが、ギルドの位置情報を正確に把握できるレビィに王都までの行き方を伝えるように指示を出す。彼を解放しているエドウェンディも、動揺を露わにしながらその名を零す。

 

「恐らくもう、何を言っても聞きはしないですよ…。ならば、彼らに託してみようと思います。私たちの…そしてシエルの未来も…」

 

マスターであるペルセウスが決定したことに、アースランドから来た者たちはその表情を喜びに染める。エドラス側は完全に納得したわけではなさそうで表情を曇らせていたが、他ならぬマスターの決定を覆すことは出来そうにない。指示通り、レビィは転送魔法陣を扱った機械から、言われた通りの情報を教えるために動いた。

 

 

 

それと同時に、ずっと遠巻きから彼らのやり取りを見ていたリサーナがギルドの裏口の扉から出ていったことに、ナツ以外は誰も気付かなかった…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

エドラス王都―――。

国を…ひいては世界を束ねる王が住まう、謂わばこのエドラス最大の都市。その王都に存在するとある一室は、匣型の謎の機械が左右それぞれの壁に陳列されており、その数は10を超えている。そこから発せられているのか、空間の中は安定したリズムで電子音が鳴り、それとは別の電子音を鳴らしながら、数人の人間たちが宙に浮かぶいくつものモニターを操作している。

 

その中でも、部屋の最奥にある巨大なモニターと、その下に設置してある大型の機械を操作しながら、王都中の光景と思われる映像に目を通しているのは、水色がかった銀色の短い髪を持った、切れ長の目を強調するメガネと白衣を身につけている青年。

 

「シエル部長、例の作戦の為に必要となる魔法の量産進捗表のご確認を」

 

そんな青年に、紫色の髪をした女性研究員が近づき、自身が操作していたデータが添付されたリストが表示されている魔法陣を見せる。「ああ」とだけ返事をして青年がそのリストを5秒ほど凝視すると、女性研究員に視線を戻しながら答えた。

 

「このペースであれば問題はなさそうだ。有事の際も対応ができる。二日ほど経過を見て、余裕が見られれば生産数を上げることも視野に入れる様に報告してくれ」

 

「分かりました」

 

迅速な確認と的確な指示を受け、女性は再び持ち場へと戻っていく。その際に板のような機械を取り出してどこかに連絡を取り始めた。

 

「すみません、部長!『ヒューズ』様から“例のアレ”…をまたスゲェ強化を施してほしいとの依頼が…」

 

「あいつ…“例のアレ”と言えば通じるから、とか言ってきたんだな…。分かった、明日の午後一から取り掛かるから午前中に持ってくるように伝えてくれ。それと、わざわざヒューズの口癖を律儀に伝える必要はないぞ?」

 

「あ、すみません…気を付けます…」

 

今度は何か連絡を受けた赤茶色の髪の男性研究員から、『ヒューズ』と呼ばれた人物からの依頼を伝えられる。その内容に若干眉間に皺を寄せはしたが、律儀にも請ける様で彼にもその指示を飛ばす。依頼内容とは別に、男性研究員に移ってしまった口癖の矯正も忘れずに。

 

「ぐしゅしゅしゅ、今日も順調のようでしゅな…」

 

すると研究室として使用されている部屋の出入り口から、一人の老人が入室してくる。その老人は随分と小柄であり、顔は随分と老いが回っているのか目の上が垂れており、発している声もかすれた嗄れ声だ。眉毛は妙に長くて、三角形が出来上がるほど尖ってすらいる。

 

彼の名は『バイロ』。王国軍の幕僚長を長年勤めている老人だ。その立場はまさに国のナンバー2と言っていい。現に研究室にいるシエル以外の研究員は彼の姿を見てすぐさま挨拶をしている。

 

「…用件は?」

 

「つれないでしゅなぁ…。あなたの仕事ぶりは確かに陛下も私もお認めになっていましゅが、同じように研究を行う身としては親交を深めて損はないかと考えておりましてね…」

 

独特な笑い方をしながら語り掛けてくるバイロに、明らかに怪訝な視線を向けながら、何も言葉を発そうとはしない。だがその視線を受けてもバイロは気にも留めずまたも笑う。

 

「王国軍魔戦部隊の皆しゃんが、王都に帰還為されました。お顔を見に行かなくてもいいので?」

 

「必要ないだろ。シュガーとは連絡も取った、ヒューズは明日にもここに来る、あとの二人は俺がわざわざ出向いてまでの用件などないだろ。特にあの女と顔でも合わせたら、確実にまた突っかかってくる」

 

「ぐしゅしゅしゅ、相変わらずのようで」

 

表情も声色も特に変わった様子はない。ただただ目の前にあるモニターに目を配り、王都内での異常や欠陥を見落とさないように意識を向けている。そのまま語られたセリフに、またもバイロは不気味に笑った。

 

「まあ何にせよ、もうすぐ待ちに待った運命の日が来るわけです。我々の成果の集大成が、花開く時…」

 

垂れていて開きづらいその目を大きく見開きながら言葉を紡ぐバイロ。運命の日。その単語を胸の内に反芻しながら、青年は眼鏡の奥にある双眸を細めるのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「よぉーし…動くなよ~?とらぁ!」

 

広大な砂漠地帯。その一隅にて、ピンクの体皮に赤い斑模様が入って、背中に二枚のヒレと長い尻尾が存在する不思議なカエルを、何故か捕まえようと追いかけるナツ。それを見ながら呆れている子供二人とネコ二匹。一見するとこの集団の方が不思議だ。ちなみにナツは珍しいからルーシィへのお土産にするとか言っている。絶対喜ばねぇ…。

 

「王都まではまだまだかかるのかな…」

 

「さっき出発したばかりじゃない」

 

「5日は歩くって言ってたよね」

 

エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)にて、王都までの方角と道筋、そして時間を教えてもらった一行。そしてそれに従って出発したはいいが、早くもハッピーはくたびれ始めている。移動に最適な手段である(エーラ)乗雲(クラウィド)が使用できる気配がない中、徒歩で移動するしかないみたいだ。

 

「先が思いやられるわね…」

 

「けど、立ち止まってもいられないよ。約束だってしたしね」

 

「そうだね」

 

シャルルが悩ましげに呟いた言葉に、励ましの意味も込めてシエルが奮起し、ウェンディもそれに同意を示す。それはギルドを出発した後、まだギルドが見える位置での事。

 

『待って!!』

 

その声に反応して振り向くと、こちらに追いつくために走ってきた藍色髪の女性が見えた。エドラスのウェンディである。彼女の姿を見て、シエルが顔を赤くしてはいたが、周りは誰もそれに気付かなかった。…視線が顔じゃない別の部分に思わずいっていた事も含めて。

 

『何だ?今更止めてもオレたちは行くぞ』

 

『そうじゃ…ないの…』

 

少しばかり切れた息を整えながら、ナツの言葉に否と答えて、彼女はこう続けた。

 

『もしも王都に行ってシエルに会えたら、伝えてほしいの』

 

それを聞いて、一部が気付いた。彼女が何のために今自分たちを追いかけてきたのかを。

 

『「すぐじゃなくてもいい。私たちはいつまでも待ってる。だから…必ず生きて、ギルドに戻ってきてほしい」って…』

 

王都にいるシエルへの伝言。それは彼への信頼と、無事を祈るためのもの。危険な計画を途中でやめることになっても、無事に戻ってきてほしい。何より彼女が強くそれを願っているからこそ、彼らに託した言葉。それを聞いた彼らの答えは既に決まっていた。

 

『伝えるよ、必ず』

『私たちに任せてください』

『あい!』

『まあ、会えたらね』

『おう!戻る気なさそうだったらぶん殴ってくるぞ!』

 

『な、殴る必要はないわよ!?』

 

快い返事を聞けたことで、その顔に安堵を浮かべるエドウェンディ。だがナツが告げた言葉にだけ、驚愕と共にそこまですることないと意味を込めた言葉を告げる。マスターが言っていたように、託すことにしたのだ。大切な人や仲間たちの未来を…。

 

『お願いね…!』

 

安心したような、嬉しそうな穏やかな笑みを浮かべた彼女を思い出し、未だカエルを追いかけているナツを除いた4人は、更に気を引き締める。

 

「さ、長旅になるけど…絶対にみんなを助け出そう!」

 

「うん!それと、エドラスのシエルの事も!」

 

「オイラも頑張るぞー!」

 

奮起を声に出してやる気を見せる3人。シャルルはそんな彼らを何も告げずに見つめている。その胸中に抱いているものは果たして…。

 

「どわぁーー!!?」

 

すると、唯一会話に加わっていなかったナツが、急に素っ頓狂な悲鳴を上げる。思わず視線を移してみると先程ナツが追いかけていたカエルがそのまま巨大な化したような特大個体に、逆にナツが追われて、こっちに向かってくる光景だった。

 

「何あれデカー!!」

「きゃあああっ!!」

「これさっきもあったパターーン!!」

 

追いかけた拍子にあの特大カエルにぶつかり、追い払おうとはしたが魔法が使えない為結局不発。またも逃げるしかできなくなったらしい。完全に巻き込まれて5人全員が砂漠を全力で疾走する羽目になった。

 

「シエル、ウェンディ!!お前らは魔法使えねーのか!?」

 

「無理だって!使えてたら乗雲(クラウィド)とっくに出してる!!」

 

「私も使えませーん!!」

 

困惑しながら残る二人にも魔法の使用が出来るか聞いたが、やはり例に漏れず二人も使えないようだ。そうこうしている内に「ウゲロー!」と言う鳴き声を発しながら一行を押し潰さんとカエルが跳躍し、迫りくる。それに悲鳴を上げていると、カエルのいる上空に別の人影が見えた。

 

 

 

「どぉ…りゃああっ!!」

 

その人影が何者かを認識するよりも早く、その人物は手に持っている魔力で出来た鞭を振りかぶり、思い切りカエルへとぶつける。効果は絶大だったようで「ウゲローー!?」と悲鳴にも聞こえる鳴き声を発して、そのまま吹っ飛ばされた。

 

「おおっ!!」

 

それにナツが歓声を上げ、カエルを今しがた撃退したその人物は砂地をダイナミックに着地することに成功。その人物は、エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属している、この世界に元からいるルーシィだった。

 

「怖いルーシィ!」

「怖いルーシィさん!」

「怖いルーシィ!」

「略して合わせてコワルースリー!」

 

「喧嘩売ってんのかテメェら!特に最後ぉ!!」

 

ナツ、ウェンディ、ハッピー、そしてシエルが順々に彼女を呼ぶが、その呼び方は場合によっては確実に悪意を感じるものであったため、噛みつくように怒りを露わにした。特にシエル。これに関しては意味も分からん。

 

それはそれとして、吹き飛ばされたカエルはさっきの一撃で敵わないと悟ったのか、潔く逃げていった。それを見たルーシィは大したことがない奴だと、吐き捨てる。

 

「ありがとう、おかげで助かったよ」

 

「でも何でアンタが?」

 

さっきの訳が分からない呼び方はさておき、シエルは助けてくれたことに対して礼を告げる。一方で、シャルルはギルドに残っていたはずのルーシィが何でここにいるのか尋ねると、ルーシィは顔を赤くして彼らから目を逸らす。だが逸らした先にいるナツが笑顔を浮かべているのを見て、更に顔を赤くして彼女はもう一度目を逸らした。

 

「こ、この辺りは…お前らには危険だろうし…なんつーか、その…し、心配してるわけじゃねーからなっ!」

 

あれ?何このルーシィ、ツンデレかな?まあ、アースランドの方でも似たような反応をすることがあるにはあったと思うが、ここまで典型的なものは逆に新鮮だ。そんな彼女にナツは近づいて片手をルーシィの肩に持っていくと…。

 

「何だかんだ言ってもやっぱりルーシィだな、お前!」

 

「どんなまとめ方だよ!!」

 

「そーゆーツッコミとか!」

 

何か適当に聞こえるまとめ方をした。と言うかナツ、その言い方だとルーシィのアイデンティティはツッコミしか無いと言ってるように聞こえるが…。確かにルーシィに欠かせない要素、かもしれないけど…。

 

「ルーシィにこの怖いルーシィ見せたいね…!」

 

「どんな顔すんだろうなー?本物は…!」

 

「あたしは偽物(にせもん)かいっ!!」

 

ニヤニヤ顔をしながらこそこそと話をしていたナツとハッピー。しかししっかり聞いていたルーシィによって二人纏めて蹴飛ばされ、さらにナツに限ってはその身体を両腕で持ち上げられて、彼女の肩に背中をかけられて思いっきり反動をつけて反り上げられる。「技の12!『ボキバキブリッジ』!!」と言ってはいるが、言ってしまえばバックブリーカー(背骨折り)である。

 

「やっぱり怖い…!」

 

「これがあと5日も続くのか…」

 

「先が思いやられるわ、全くもう…」

 

思わぬ同行者も加えたエドラスの王都を目指す道中。だがしかし、目の前で繰り広げられるルーシィの拷問技ショーを受けるナツの様子を見ながら、残された3人は真っ暗に幻視する先の事に、不安を抱えるのだった。




おまけ風次回予告

シエル「しかしエドラスのルーシィ、ホント怖いというか、荒っぽいというか…俺たちの知ってる方とは随分違うよな…」

ナツ「そうか?こっちのルーシィも結構怖い気がするぞ?」

シエル「そりゃ、怖くさせるようなことをナツがするからそう思えるんだよ」

ナツ「いやいや、お前だって人の事言えねぇだろ…?むしろお前の方がルーシィを怖くさせてんじゃねーの…?」

次回『希望の鍵』

シエル「そう?面白い反応をしてくれるのは分かるけど、怖いとは違くない?」

ナツ「ああ、確かにそうとも言えるな」

シエル「そんなわけで怖いルーシィにもっと面白いことをしようと思うんだけど、ナツもどう?」

ナツ「お前さてはオレを盾にする気だなぁ!!?」
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