FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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用事が多発して、もしかして間に合わないんじゃないかと思われた今回。

何とか書ききることに成功しました。まあ、もうちょっと先のところで切りたかったのが本音ですけどこの際仕方ない…。←

でもこのペースと、先の展開を考えると、エドラス編…下手したらニルヴァーナよりも長くなるんじゃ…。ペルとそのヒロインの再会がやたら長引くぅ!!←躊躇ないネタバレ


第79話 希望の鍵

エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)を離れ、一行は王都へ進む。案内役を買って出て追いついてきたエドラスのルーシィも加え、数日の徒歩移動。所々で騒がしくなったりハプニングも起きたりしたが、シエルたちは全員無事に初めての街へとたどり着いた。

 

「ほら着いたよ。見えるか?」

 

先導していたルーシィの声に従って前方を注視すれば、何も見当たらなかった荒野とは違って、屋根が丸みを帯びているものでほぼ統一された建物が密集している区域が眼前に広がっている。アースランドでは見たことのないタイプではあるが、確かに街のようだ。

 

「あの、来てくれて助かりました!」

 

「おかげでスムーズに進めてる気がするよ」

 

ウェンディとシエルがそれぞれルーシィに礼を告げると、性格上の問題か、彼女は照れてそっぽを向く。しかし拒否しているわけではないため、口ごもりながらもこう続ける。

 

「つ、ついてきな!魔法の武器も持たずにこの先旅を続けんのは無理だからな」

 

「ありがとよ!怖いルーシィ!」

「怖いルーシィ!」

 

「いちいち“怖い”とかつけんじゃねぇって!!」

 

素直とは言えない反応ながらも面倒見が良さそうな彼女の言葉。だがそれに、彼女にとっては悪意を感じる呼び方を懲りずに呼ぶナツとハッピーに、当然ながら彼女の怒りの声が響いた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

街の名前は『ルーエン』。花や植物の名前で統一されているアースランドのフィオーレ王国とは、また別の名付けられ方がされていることからも、改めてここが別の世界であることを主張している。

 

この街も例外なく、少し前までは王都を始めとした街と同様、魔法が普通に売買されていた。しかし王国のギルド狩りがあり、魔法の売買は禁止された。街の中にも、魔法を売っていたと思われる店が、今は封鎖され、長い間放置されていることが目に見えてわかる。今となっては所持しているだけで罪になるようだ。

 

「つーか、所持してるだけで罪って…」

 

「自分たちは独占してる癖に、横暴だよな…」

 

王国軍のみが魔法を使えるにも関わらず、他の一般人や魔導士たちに関しては魔法の所持を罪として定める。間違いなく独裁と断言できるその政治を行った王国に、未だ全貌が見えないながらも嫌悪を抱く。もっとも、仲間を勝手に魔力として奪われた時点で、いいイメージなど湧くこともなさそうだが。

 

「元から使える人はどうなるんですか?」

 

ルーシィの話を聞いて、ウェンディが気になった点を尋ねてみる。アースランドのルーシィやペルセウス、エルザが使う所有(ホルダー)系の魔法なら、その魔法を扱うアイテムが無ければ所持しているとは言えない。だがしかし、自分たちのような能力(アビリティ)系は元々道具いらず。この身一つで使用できる魔法だ。それはつまり、この世に存在しているだけで罪そのものと判定されてしまうものだが、弁明の余地なく処断されてしまうのだろうか。

 

「え?どうって…魔法を手放せばいいだけだろ…?つーか、『魔法を元から使える人』って、何だよそれ…?」

 

だがルーシィから帰ってきた答えは、質問の意図が伝わっていないようなものだった。帰ってきた言葉の中には、魔法は手放すことが出来るものであり、自分たちが知っている魔法が最初から使える者のことを、知らないと言いたげだ。質問をしたウェンディ、そしてナツも彼女のその返答に首を傾げるが、何かに気付いた様子のシエルが、ルーシィにもう一つ質問する。

 

「ねえ、ルーシィがカエルを追っ払った時に使ってたあの鞭って、魔法なの?」

 

「そうだけど…何で一々わかり切ったことを聞くんだよ…?」

 

特大サイズのカエルに襲われたところを助けてくれたときに使用した伸縮する鞭。魔力を帯びていたことから魔法アイテムの一種だとは思っていたのだが、ルーシィにとっては、彼女が愛用しているこの鞭自体が魔法と言う認識…正確に言えば、エドラスに住む者にとっての魔法の認識と言ったところか。これでシエルの推測は確信に変わった。

 

「なるほど…アースランドとエドラスでは、魔法の認識も違うのか…」

 

「どーゆー事?」

 

「私たちの知ってるものと違って、エドラス(こっち)の“魔法”は“物”みたいな感じって事…そうよね?」

 

ハッピーはシエルの言葉の意図が分からず首を傾げたが、彼と同じ確信を得た様子のシャルルがそれに続くように答える。確認をしてみれば、シエルもシャルルに向けて首肯する。

 

エドラスでは魔力が有限。それはつまり、アースランドの人間とは異なり、エドラスには体内に魔力を宿している者が一切いないという事だ。魔力を持っているのは魔水晶(ラクリマ)などの物質。それを武器や生活用品に組み合わせることで魔法の道具を造る。アースランドにおいては魔道具と呼ばれているものも、エドラスではそれらもすべて含めて“魔法”と総称されているそうだ。

 

「こっちの魔導士って、魔法の道具使うだけなのか?」

 

「少なくとも、エドラスの魔導士にとって、一般的な常識だと思う。例外がないとは言い切れないけど…」

 

エドラス側にとっては、魔力が宿った武器や道具が魔法そのもの。魔導士はそれを駆使する者。これまでのエドラス側にいた者たちの会話や説明からはそう予想されるが、確証はない。王国にはもしかすると、アースランドの魔導士のような魔法を使う者もいないと言い切れない。

 

そんな話をしていると、先導していたルーシィが、路地裏の影に隠れるように存在していた、地下へと続く階段の前に到着し、シエルたちに呼びかける。

 

「着いたよ。この地下に魔法の闇市がある。旅をするには必要だからね」

 

「闇市…」

 

王国が魔法の売買を禁止している為、隠れて魔法を売っている店も、勿論違法だ。だからこそ闇市と括られているのだが、ウェンディはその響きに少し顔を青くしている。その一方で…。

 

「しょーがねぇ!こっちのルールにのっとって魔法使うか!」

「あい!」

 

「郷に入っては郷に従え、って言うしね」

 

「順応…早いわね…」

 

男子陣は臆することなくルーシィの後に続くように、闇市へと続く階段を下りていこうとする。何の抵抗の素振りもない男たちに、シャルルは呆れを通り越して感心すら覚えた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「お~~!何か怪しいものがいっぱい並んでる…!」

 

「って言うかこの店、何かかび臭いわね…」

 

王国に見つからないように、目立たずに経営している店だけあって、中は薄暗く、陳列されている魔法らしき商品は、見慣れない上に個人的主観で見ると怪しいものが多い。中には魔力が入っているとは思えない骨董品も置かれているが、相当古いのか傷が入っていたりもしている。

 

「ぅおっほほほ~!そりゃなんてったって、歴史深い骨董品が多いですからなぁ~!カビとか、傷とか、ニオイとかは、所謂“味”と言うやつですよ、お客さん!」

 

「傷は分かるけど…カビやニオイは価値としてどうなんだ…?」

 

鼻にかけるだけの小さい眼鏡をした、店の印象とは違って随分明るくフランクな店主が、文句を呟いていたシャルルに声高らかに説明する。だがシエルが言った通り、カビやニオイがあるのは商品として良いのかどうか判断しかねる。ニオイはまだ…古さを思わせる、時代の流れを彷彿とさせるものであれば一部からの人気はあるだろう。だがカビはどう転んでも価値を下げてる気がする。

 

「“味”なんてどーでもいいんだよ。大事なのは使えるかどうか。結構パチモンも多いから、買う時はよく点検しな」

 

そして古き良き文化と言うのも、ルーシィにとっては二の次らしい。実用性第一な様子にシエルも自分で棚の中を見ながら周っているが、どんな魔法なのかを判別するのも難しい。

 

「こちらなんかいかがでしょう?エドラス魔法『封炎剣』!」

 

「ショボい炎だけど無いよりはマシか…」

 

ナツが選んだのは赤やオレンジの色合いで作られた、機械仕掛けの刃のない剣のようなもの。持ち手についているスイッチを押せば、刃の部分が炎となって放出する仕組み。『封炎剣』と言うらしい。

 

「これは『空烈砲』と言いましてなぁ…外見はただのカワイイ子箱ですが…!」

 

「わぁ!風の魔法だ!何かロマンチック…!」

 

ウェンディが選んだのは水色の出っ張りが両端についた、銀色の筒型の小箱のようなもの。小さくてカワイイという理由で選んだためシャルルから苦言を呈されたが、小箱を捻って真ん中から分断するように開けると、周囲に緩やかな風が起こり始める。名を『空烈砲』と言う。

 

ナツもウェンディもあっさりと決まってしまい、残るはシエルのみ。しかし棚を物色してもどの魔法がいいのか、やはり判断するのは難しい。ここは戦いで使えそうな特徴の魔法を店主に聞いてみることが最善手だろう。

 

「あのぉ…広範囲に攻撃できるものってありません?」

 

「広範囲、となればそうですね…こちらなどいかがでしょう?」

 

シエルのリクエストを聞いた店主が、ある棚から一つの魔法を取り出す。形は片方がコマのような、そこから細いもう片方に長い筒のようなものが取り付けられた形をしたもの。細い筒側の先端から紐のようなものが出ており、それを引っ張って使うのは想像がつく。

 

「ただのオシャレな形をした筒に見えますが、これは『電網砲』と言って、主に野生動物を狩る際に用いられるものです!」

 

「電…ってことは、雷属性?」

 

「はい!」

 

名前と説明から察するに、凶暴性の高いイノシシなどを狩る際、付けられている紐を引くことで、広い方の筒側から雷でできた網が放出。捕らえると同時に対象を感電させ無力化させるためのものだと言う。

 

戦いにおいても有効そうだ。そう判断したシエルは決めた。

 

「そんじゃ、俺はこれにしようかな」

 

「お客様、お目が高い!!」

 

一番時間がかかったがシエルもこれで決定だ。元より戦闘力がなかったハッピーたちの分を除いて、全員分揃ったことになる。

 

「よし!この三つをくれ!」

 

「はい!ありがとうございます!三つでしめて30000になりますが、おおまけにまけて27000あたりでどうでしょう?」

 

「あぁ…高ぇな…」

 

「なにぶん品物も少なくて貴重なので…」

 

そりゃあ魔法の売買が禁止されている中、入荷も望みが薄いし、買おうとする客も少ない。そんな中で生活するには、これでも限界なのだろう。そう考えるとこれ以上まけてもらうのは厳しい。

 

が、それ以前の問題があったことを、ルーシィが聞くまで、全員気付けなかったことが発覚する。

 

「つーか大事な事忘れてたけど…お前ら金は?」

 

『あ』

 

子供二人とネコ二匹が思わず声にあげて気付く。そう言えば…。そもそもエドラスではアースランドの通貨は使えるのだろうか?文化の違いがあるなら金銭の違いもある…ってことなら、持っていたとしても無意味だ。念のためにルーシィに確認して貰おうと、シエルは財布を取りだそうとする。

 

「えーっと確か財布…あっ!!」

 

だが、取り出そうと手を動かしたその時、彼はフラッシュバックのように思い出した。財布を入れていたのは外出の時に持ってくる荷物入れ。その荷物入れはアニマが発動する前、ギルドに置いてきた。そしてギルドごと人も物もアニマに吸い込まれた。

 

…つまり、今シエルは財布を持っていない無一文である。

 

「財布も荷物も全部アニマにとられたんだった…!ちくしょう、王国この野郎…!!」

 

「何で今頃になるまで気付かなかったんだろ…?」

 

「て言うか…王国への怒りの理由それでいいの、アンタ…?」

 

その場で膝をつき、床に右腕を悔し気に叩きつけながら怒り嘆くシエルの様子を、ハッピーとシャルルを始めとして、全員がポカンと呆けながら見ている。財布や荷物どころか仲間もほぼみんなとられてるんですがそれは…。

 

「ちなみにナツは?」

 

「ナッハハハハ!そんなん持ってるわけねーだろ!」

 

「笑いごとかぁ!!」

 

何とか気を取り直して顔だけ上げながらナツに尋ねてみると、本人は何故か堂々と笑いながら宣言する。よく無一文の状態で「魔法くれ」とか言えたよ…。

 

「私も…ポケットにビスケットしか…」

 

「むしろ何でビスケットが…?」

 

そしてウェンディは財布じゃなくて、何故かビスケットが入っていたらしい。おやつ用だったのだろうか?昔からよく耳にするあの童謡が頭の中に何故か流れてくる。一瞬彼女に和みかけたが、シエルはすぐさま疑問を口にした。

 

何はともあれ、アースランドの魔導士は揃いも揃って無一文と言う事だ。まあ、エドラスの通貨がアースランドと違った場合は、どのみち状況が変わらないし、しょうがないとも言える。とはいえ、このままでは魔法どころか、どの店のどの商品も買うことが出来やしない。

 

「よし、ルーシィ、払っといてくれ!」

 

「おいおい!」

 

とか色々と考えていたら、ナツが満面の笑みでとんでもないことを言い出した。自分のものでもないのにルーシィに全額負担させる気かよ。それも怒らせれば拷問技を仕掛けてくるようなルーシィにそんなことを言えば、また確実に技を決められるだろうに…。

 

と少しハラハラしながら考えていたシエルの推測は、意外にも外れた。

 

「……まあいい!ここはあたしが奢ってやるよ!!」

 

「え、本当にいいの!?」

 

何故か若干顔を赤くしながら、ルーシィはナツの言葉に応えた。とても意外だ。自分が同じ立場なら一度しばくと言うのに。どんな心境からそう決めたのだろう…。シエルが聞き間違いしたのかと確認をとってみると、腕を組んで目を閉じながら、「おう!」と堂々と返事する。本気のようだ。こちらとしては助かるが、疑問は残ったままだった。

 

 

 

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ちなみにその後ルーシィが払うと聞いた店主は、彼女からはお題をいただくわけにはいかないと、魔法を無料で譲ってくれた。何でも以前、王国軍にガサ入れされそうになった時に、助けてもらった恩があるとか。

 

少々申し訳なさを感じたが、厚意を受け取らないのも失礼と言う事でありがたくいただいた。勿論お礼は忘れずに。そして広いところに戻ってきた一同は、先程のルーシィに関しての話題で盛り上がっていた。

 

「あっちのルーシィと違って、怖いルーシィは頼りになるね!」

 

「だから怖いをつけるなって!」

 

「しかも、こっちじゃ結構“顔”って感じだもんな!」

 

「おかげでずっと世話になってるよ!」

 

「ホント助かりました!」

 

正直彼女がいなかったら、まともにこのエドラスでの身の振り方も分からずじまいだったろう。魔法も使えない今では余計に。この世界に来てから、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に会えたことは一番の幸運と言える。全員が彼女に感謝を表した。

 

「ところでさ…」

 

そんな彼女はと言うと、実は密かに気になっていた事について、シエルたちに聞いてみることにした。その気になっていた事と言うのは…。

 

「『アースランド(あっち)のルーシィ』ってヤツの話に、興味があるんだけど…」

 

向こうの世界のルーシィ(自分)の事についてだった。

 

 

 

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「ぷっはははは!あーっはっはっはは!!あははははは!あ、あたしが小説書いてんの!?ひー-っ!そんで、お嬢様で…鍵の魔法使って…!あーはっはっはっは!!」

 

街の中に存在するオープンカフェの中で、アースランドのルーシィについて、エドラスのルーシィは話を聞いていた。出てくる情報の一つ一つが、自分と一切結びつかないもので、たまらずルーシィはギャップがありすぎて逆にツボにはまって大笑い。机をバンバンと叩きながら笑い続けていた。

 

主に話を出していたシエルがそんな彼女の様子を呆然と眺めていたが、ナツが「やかましいトコはそっくりだな!」と笑顔で言うと、途端に笑いが引っ込んで「やかましい言うな!」とツッコミを返す。確かに根本は似てる気がする。

 

「そう言えばあっちのルーシィ、小説どれくらい書いたんだろ?まだちょっとしか読めてないんだよなぁ…」

 

「ん?ああ、何かデケェ封筒三つくらいはあったぞ?」

 

「え、まさか読んだの!?」

 

小説を書いているという話で思い出したシエルが呟いた言葉に、まさかのナツから答えが返ってきた。最初にルーシィの家に泊まりに行って以来彼女の書いている小説に目を通せていないのだが、何故ナツが細かい分量まで知っているのか。どうやらルーシィの部屋を勝手に物色している際に、机の棚の中に大事に取っておいてるものを見つけたらしい。それも最近。

…ルーシィ、色々とご愁傷様…。

 

「…なあ…あっちのあたしって、ナツ(こいつ)とどーゆー関係…?」

 

「どぅえきとぅえるぅって言いたいけど…実際はナツが無遠慮なだけ…」

 

一切気にすることなく部屋に勝手に入っているというナツの言葉に、笑いもすっかり引っ込んで真剣な表情をしたルーシィがシエルに耳打ちで聞いてきた。そんな彼はからかい半分で答えようとも思ったが、それにしては度が過ぎてると感じたために、ちょっとだけぼかした。

 

「さっき買ったコレ…どう使うんだっけ…?」

 

「バカ!人前で魔法を見せるな!!」

 

ウェンディが会話に参加せずに、さっきの闇市で買った(貰った)空烈砲をいじりながら呟いていると、気付いたルーシィはすかさず隠すように注意する。今現在、世界中で魔法が禁止されているため、周りの誰かに見られては不都合が生じる。ウェンディは注意された瞬間、すぐさま机の下に隠して見えないようにし、謝罪を口にした。

 

「でも、元々魔法は生活の一部だったんでしょ?」

 

「そうだよ…。王国の奴等、あたしたちから文化を一つ奪ったんだ。自分たちだけで独占するために…」

 

シャルルの質問に答えた通り、エドラスは王国だけでなく、かつてはどの街のどんな人も、その恩恵をあずかっていた。だが、減っていく魔力に恐れ、自分たちだけがその恩恵をあやかるために、自分たち以外の魔法の使用を禁止した。それに対抗しているのが、残る唯一の魔導士ギルドである妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ。

 

「じゃあ王国の奴等やっつければ、また世界に魔法が戻ってくるかもな!!」

 

ナツが言いきったその言葉に、ルーシィは思わず言葉を失った。今彼が言ったことの内容が、理解できないといった様子で。

 

「まあ結論から言えばそうなるね」

 

「なっ!何バカな事言ってんだよ!!王国軍となんか戦える訳ねーだろ!!」

 

それに同意したシエルも含めて、ルーシィはテーブル席から勢いよく立ち上がって思わず叫ぶ。こいつらは何を言ってるんだ。何人も仲間を奪った強大な王国を倒すことなど、できるわけがないはずなのに。

 

「だったら何でついて来たんだ?」

 

「それは…王都までの道を教えてやろーと…戦うつもりなんか無かったんだ…!」

 

あくまで自分は案内するだけ。少しずつ尻すぼみながら言葉を続けたルーシィは、きまずげに目を逸らす。だが、ナツから帰ってきたのは、あまりにも楽天的な言葉。

 

「そっか!ありがとな!」

 

笑みを浮かべながらストレートに礼を告げるナツに、ルーシィは再び言葉を失い、またも顔を赤くして目を背ける。どうも彼女は、真っすぐな言葉には弱いらしい。王国軍という強大な敵に、怖れも抱かず真っ向から対抗しようとする姿勢も、眩しく見えているのかもしれない。

 

 

 

 

「いたぞ!街の出入り口を封鎖しろ!!」

 

すると、オープンカフェの中に、目以外を覆い隠す兜と、軽装の鎧に身を包み長槍を持った集団が押しかけてきた。王国軍だ。それをルーシィが告げると、場は一気に緊張感が走り出す。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士だな!?」

「そこを動くな!!」

 

「もうバレたの!?」

 

王都からまだ距離が大きく離れている街の中とは思えない兵士の数に、驚きを露わにしながらもシエルたちは一気に警戒を強める。その一方で、王国軍の兵士たちは一網打尽にしようと一気にこちらへと攻め込んできた。

 

「よーし!早速さっき手に入れた魔法で!!」

 

ナツが自信満々の笑みを浮かべながら先程買った封炎剣を右手に構える。しかしそれを見たルーシィが「よせ!!」と制止するが、彼はそれを聞かずに一気に発動する。

 

「行くぞー!!ファイアー!!」

 

切っ先の方向を前方に構え、最大出力で炎を発射する。店の中で見た時よりも出力が大幅に上がった炎が、兵士たちに迫っていく。しかし…。

 

「『反射板』!構え!!」

 

隊長格と思われる一人の兵士の声に従い、5、6人の兵士が左手の小手につけられた宝珠型の魔水晶(ラクリマ)を前に突き出し、魔力で出来た盾が出現する。隙間なく展開された盾にその炎が当たると、一瞬吸収したかと思えばすぐさまその盾から威力が倍増した炎が、ナツの方へと返ってくる。

 

「は?えー--っ!!?」

 

高笑いをしていたナツは目の前の光景を前に思わず呆け、返ってくる炎に思いっきり巻き込まれる。炎に呑みこまれたナツの姿を見てルーシィが目を見開いて彼の名を呼ぶ。あれほどの熱量の炎を真正面から浴びて、無事でいられるわけがない。

 

 

 

 

「ぷはぁ!!ビックリした!何が起きた!?」

 

「はー-っ!!?こっちが何が起きたぁ!!?」

 

だがルーシィの予想とは正反対で、まるで炎に呑まれてなんかいなかったと言わんばかりの状態で、ナツが盾を展開している兵士たちを見て目を見開いている。だがルーシィにとってはそっちよりナツの方が目を見開くほどの衝撃だった。確かに今規模のでかい炎に巻き込まれたはず。だがその炎がナツの口の中に収束していったかと思えば、五体満足で火傷一つしていないナツが、焦った表情で立っていた。何が起きたはこっちのセリフである。

 

「な、何だ!?今あいつ…!」

「火を…食ってなかったか…!?」

 

しかし虚を突かれたのは幸いにも向こうも同じ。火を食ってその身に入れたことに対する衝撃が、兵士たちの行動を鈍らせたようだ。思わず前方にいる兵士たちが構えていた盾を解除してしまうほどに。

 

「今だ!喰らえ、電網砲!!」

 

その隙を突いて盾を解除してしまった兵士たちに向けて、ネットランチャーの形をした魔法を構え、紐を少しばかり強めに引っ張る。すると、電撃で作られた蜘蛛の糸のような形のネットが飛び出し、前方の兵士たちを感電させながら動きを封じる。ついでに動けなくなった前方側の兵士が邪魔で、後方側もこちらに近づけない状態だ。

 

「よし、今のうちに逃げよう!」

 

「その前にナツの奴どーなってんだ!?火を食ったよな!?何で無事でいられるんだ!?」

 

「俺も気になることはあるけど、話はここを切り抜けてから…!!」

 

すぐさま兵士から…いやこの街から出ようとルーシィに呼びかけるも、ナツに関する衝撃が大きすぎて状況が把握できていないらしい。シエルも王国の兵士が使った盾に関して疑問があるが、諸々の話は今の窮地を脱してからに限る。そう判断して行動に移そうとしたが、突如スポンと言う音が耳に入った直後、自分たちを取り囲むように竜巻が発生。一瞬で上空に打ち上げられた。

 

「何事だぁ~~!!?」

「これ空烈砲だー!!」

「何したウェンディー!!」

「ごめんなさ~い!!」

 

どうやら上手く扱えないまま空烈砲を使用しようとしたあまり、ナツと同じように最大出力を出してしまったらしい。それが竜巻を起こすほどの突風となって周囲を包み込み、彼らはそのまま上空をかけて、街の中にある一つの建物目掛けて墜落した。

 

「あの先だ!何としても捕えろ!」

「はっ!」

「他の奴等も逃がすな!特に()()()はまたとない好機だぞ!!」

 

彼らが墜落し行った先へと駆け付けながら、隊長格の男は指示を飛ばしていく。

 

 

一方でとある空き家の一つ屋根から墜落し、一時的にまくことが出来たシエルたち。しかし、周辺に王国兵が駆けまわっている為、動こうにも動けなくなっている。このままでは街を出られないだろう。

 

「なぁ、本当に大丈夫なのか、ナツは?」

 

「ん?ああ、火なら普段もよく食ってるし」

 

「お前…本当は人間じゃない何かなのか…?」

 

衝撃を受けていたナツに関する光景をルーシィが尋ねてみると、あっけらかんと答えてしまう事で、別の意味で心配になってくる。ちゃんとした説明が必要だと思い、シエルが変わりに簡単な説明をした。アースランドの魔法の一つであり、体から炎を発することが出来るうえ、炎を食べることが出来るようになるものだと。「言ってる意味がさっぱり分かんねえ…」とぼやいていたが、これ以外の説明が思いつかないため、ひとまず置いておくことに。

 

「しかし兵士でさえあんな魔法が一人一人使えるのか…。敵の魔法を跳ね返せるなんて…」

 

「ああ…『反射板』のことか。あれ、シエルの発明だよ」

 

「俺!?」

 

ルーシィの口から明かされたまさかの名前に、ギョッとした表情でシエルが叫んだ。シエル…エドラスの方で、魔科学研にいるスパイのシエルと言う事だろう。国王からの信頼の為に兵士全員に支給されている反射機能が入った盾。それが『反射板』だそうだ。他にもエドラスのシエルが開発して、兵士や隊長などに普及されている戦闘特化の発明は数多くあるらしい。

 

「なんつーめんどくせー事してくれてんだよ、エドラス(こっち)の俺…!!」

 

「一応、どんなものを開発して軍事利用するとかも、あたしたちに連絡はしてくれてたんだけどな…」

 

そりゃあエドラス妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちは彼の開発した魔法をよく知っているんだろうが、こちとらエドラスの一般的な魔法もよく分かっていないのだ。そんな立場からすればめんどくさいことこの上ない。

 

「ところでよぉ…オレの魔法、何か出なくなったんだけど…」

 

すると今度は、手に持っている封炎剣が、スイッチを押しても炎が出ないまま煙が噴出しているだけの様子を見て、ナツが困惑していた。

 

「ここじゃ魔力は有限だって言ったろ?全部の魔法に使用回数が決まってるんだ」

 

「これ一回だけか!?」

 

「出力を考えたら100回くらいは使えたんだよ」

 

魔法の中に備わっている魔力の量が威力を左右する。使う魔力が多ければ多いほど威力が上がるため、何の考えもなしに最大威力を放出したことが、今回のナツの失敗のようだ。ちなみに意図はなかったとはいえ、ウェンディの空烈砲もそうだろう。ご利用は計画的に、というやつか。

 

「不便だなァ、こっちの魔法…」

「ですね…」

「俺も使う時は気を付けないと…」

 

アースランドの時とは勝手の違う魔法に、三人は四苦八苦だ。ナツが思いっきり使い切る様子を見なかったら、正直シエルも最大威力を放出してすぐに魔力を切らしていたかもしれない。そう考えるとあの失敗は有益のものだったと言える。

 

「しかし、どうすっかな…。街の出入り口も封鎖されてるっつってたし…」

 

「別の出入り口は?」

 

「難しいな…」

 

シャルルが王国軍も把握できない出入り口がないか尋ねるが、恐らく全て漏れなく封鎖されていると考えるべきという意見だ。まだ王都までの距離も長いのに、ここで捕まってしまうのだろうか…?

 

「いたぞ!妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ!!」

『ギクッ!!!』

 

すぐ外の方から一人の兵士の声が聞こえた瞬間、全員が背筋を伸ばす。気付かれてしまった。すぐさま身構えるが、次に聞こえてきたのは、思っていたものとは違うものだった。

 

「放してよ!!」

 

「…ん?」

 

聞き覚えのあるその少女の声に、ほぼ全員が首を傾げ、戸口を少し開いて外の様子を覗き見てみる。そこには、数人の兵士に取り押さえられている一人の少女の姿があった。だがその少女とは…。

 

 

 

「こっちに来い!」

「お前は“ルーシィ”だな!!」

 

「確かに“ルーシィ”だけど!何なの一体!?」

 

金色の髪をサイドテールにしていて、スカートには何本もの鍵が入ったホルダーと、護身用の鞭を付けている、“ルーシィ”と呼ばれている少女。

 

「ルーシィ!?」

「あたし!?」

 

ナツやシエルがよく知る、アースランドのルーシィだった。今こっちにいるエドラスのルーシィも、自分と瓜二つの少女の姿を目にして、ナツたち同様に目を見開いている。アニマに吸い込まれたはずのアースランドのルーシィが、何故ここにいるのか。混乱はしているが、強く取り押さえられて痛がっている彼女を、放っておくわけにはいかない。

 

「助けねーと!!」

 

「オイ!」

 

自分の魔法が使えずともルーシィを助け出さなければ。その一心でナツは隠れている空き家から飛び出して、兵士たちの元へと駆け出していく。エドラスのルーシィ…エドルーシィがそれに待ったをかけるが、彼はそれで止まる気はしない。

 

一方で兵士に訳も分からないまま取り押さえられているルーシィは、何とか抵抗してホルダーから一本の金の鍵を取り出して構える。

 

「開け、天蝎宮の扉!!」

 

「ルーシィ、ダメだ!ここじゃ魔法は使えないんだよ!!」

 

何も知らないまま魔法を使用するルーシィに、シエルも思わず駆け出しながら彼女に呼びかける。ナツ一人じゃ難しくても、二人がかりなら…とピンチになっているルーシィを助けるために近づいていく。

 

「スコーピオン!!」

 

しかしその声も届かず、ルーシィはその口上を言いきってしまう。そしてそれに()()()手に持っているサソリの鋏を模した金の鍵が同じ色の光を放ち、彼女の近くにその星霊は現れた。

 

「ウィーアー!!『サンドバスター』!!」

 

紅白に分かれた色の髪をした褐色肌の男性の姿をした天蝎宮の星霊・スコーピオン。彼は腰から生やしたサソリの尻尾を模した鉄製のバズーカから、ルーシィを抑えている兵士たちに向けて砂嵐を発射する。

 

普段通りに発動されたルーシィの魔法を見て、シエルたちが呆然としている中、スコーピオンが発した砂嵐によって、兵士たちは何も出来ないまま吹き飛んでいく。ルーシィを取り押さえていた兵士は勿論、その兵士の声を聞いて駆け付けた他の兵士たちもまとめて。

 

「魔法…!?」

「発動した…!」

「何で…!?」

 

「こ、これは…!!」

 

自分たちが使えなくなっていた魔法をルーシィが発動できたことに、そしてエドルーシィにとっては夢にも見た事ない光景を目の当たりにし、絶句している。そしてその光景を生み出した星霊・スコーピオンは「これからアクエリアスとデートなんで」と言い残し、星霊界に帰って行った。

 

「ルーシィ…」

 

「!!みんな!!…会いたかったぁ~~っ!!」

 

ナツの声に気付き、こちらへ振り向いてナツたちの姿を確認した瞬間、涙を浮かべながら笑顔でこちらに駆け寄ってくるルーシィ。再会を喜んでいるのは目に見えてわかるが、こちらにとっては、衝撃と困惑の方が大きかった。エドラスで自分たちの魔法は使えないと思いきや、違和感なく使える者が出てきたのだから…。

 

そして両手を振って喜び、こちらに駆け寄ってきていたルーシィは、見覚えのある面々の中に衝撃的な人物が混じっていることに気付く。

 

「あたしー--っ!!?」

 

アースランド、エドラス、二つの世界のそれぞれで生まれたルーシィが、初の邂逅を果たした。




おまけ風次回予告

シエル「まさかルーシィが魔水晶(ラクリマ)じゃなくて本人の姿でエドラスに来てるなんて…」

ハッピー「しかもオイラたちと違って魔法も使えるしね。一体どーなってるんだろ…?」

シエル「とにかく、今の俺たちの中で一番戦力として数えられるのはルーシィだし、頼りにさせてもらわなきゃ」

ハッピー「でも…きっとルーシィの事だし調子に乗ると思うよ…?」

次回『ダブルーシィ』

シエル「それはそれでいいんだよ。煽てて気分を良くしてあげれば、やる気一杯!大いに頑張ってくれるからさ!」

ハッピー「シエル…『しばらくルーシィに全部丸投げしよう』って顔に書いてあるように見えるの、気のせい…?」
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