FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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ようやく書き終わりました…。その割にはあんま長くないです、ごめんなさい…。
上手い事筆が乗らなかった…。

それはそうと、今週は天気が色んな意味で大変でしたね…。おかげで車の運転に細心の注意を払う必要が…怖い怖い…。

無際限吹雪(エターナルフォースブリザード)!この魔法を発動した周辺地域の交通は死ぬ!!みたいな感じでした。シエルが使いそうだ…。(笑)

シエル「勝手に決めんな。と言うか何だ、その言い回し…」

え?シエルぐらいの年齢の少年少女が好きそうなセリフでしょ?

シエル「よく分かんないよ。そんな“大半の若者たちが封じ込めた忌まわしき漆黒に染まりし記憶(パンドラ)の箱”を刺激しそうなセリフ」

…君さては絶賛発症中だろ?


第80話 ダブルーシィ

喜びを表して駆け出してきた、アースランドにいたはずのルーシィ。そんな彼女は、探し求めていたナツたちの傍にいた、自分そっくりの…もとい自分とまるっきり同じと言っても過言ではない少女の姿を見て衝撃を受けていた。

 

そしてそれは、エドラスに元からいる、ナツたちと共にいたルーシィも同様である。

 

「まさかこいつがアースランドの…」

 

「これが…エドラスのあたし…!?」

 

驚いているのは彼女たちだけではない。行動を共にしているシエルたちも同様だ。改めて見ると瓜二つと言える彼女たちもそうだが、アースランドのルーシィが何故ここにいて、魔法を使えるのか、その疑問の答えも分かっていない。

 

「いたぞ!あそこだ!」

 

だが王国軍は騒ぎを聞きつけたらしく、更なる援軍が彼らの前に現れ、囲んでくる。気になること、話しておくことは多々あるが、まずはこの場を切り抜けることが先決だろう。

 

「ナツ、早くやっつけて!!」

 

「どうやって?」

 

「あんたの魔法で!決まってんでしょ?」

 

こちらの事情を一切知らないルーシィは、こちらに迫ってくる王国軍の兵士たちに向けて指をさし、彼らを撃退するように告げる。しかしそれが出来ないことを知っているナツは、腕を組んで少々憮然としながら彼女に言うと、ルーシィは当然のような疑問を表す。

 

「それが、今俺たちみんな魔法が使えないんだよ」

 

「…は!?」

 

そんな彼女にシエルが簡単に今の自分たちの状況を話す。それを聞いたルーシィは、当然ながら衝撃を受けて目を見開く。

 

「つーか、お前は何で使えるんだ!?」

 

「知らないわよ!!」

 

ルーシィからすれば、どういう事だと言いたげな状況だが、それはシエルたちから見てもそうだ。誰一人魔法が使えない状況下において、どうしてルーシィだけが魔法を使えるのか。ルーシィ自身も心当たりはないようだが、それを詮索している余裕はない。

 

「ルーシィ、お願い!」

 

「あいつらをやっつけて!」

 

「ルーシィさんしか魔法を使えないんです!!」

 

今この場で唯一魔法を使えるのはルーシィのみ。エドラスの魔法(ぶき)を使いこなせていない他の者たちよりも、確実な戦力として数えられる。シエルやナツの話、ウェンディたちからの懇願。それを聞いて少しずつ状況を理解でき始めたルーシィの頭の中で、ある結論が導かれた。

 

 

 

「もしかして…今のあたしって最強…!?」

 

「いいから早くやれ!!!」

 

今までこれほどまでに頼られることがなかった、戦力的な意味で優越感を持ったことがなかったルーシィが、初めて感じた実感に酔いしれているのを、キレ気味にナツがツッコんだ。気持ちは分からなくもないけど状況が状況なんで取り敢えず早くしてくれません…?

 

優越感に浸っていたルーシィは、気を取り直して一本の金の鍵を右手に持ち、構える。その鍵に記されている紋章は牡羊座のものだ。

 

「開け、白羊宮の扉!アリエス!!」

 

「あ、あの…頑張ります…すみません…」

 

鍵に光が宿り、現れたのは星霊アリエス。牡羊座の星霊と銘うっているが、外見は白いウール素材のマイクロミニスカートを纏った、頭に小さい羊の角を持った美少女である。

 

「モコモコー!」

 

「スコーピオンに続いて二人目のニューフェイス!」

 

最初に王国兵を追い払ったスコーピオン、そしてアリエスは元々、六魔将軍(オラシオンセイス)の魔導士であったエンジェルと契約していた星霊だ。上記の二人にジェミニと言う双子座の星霊を加えた三人が、新たにルーシィの星霊として契約してから、今回がそれぞれ初の出番になる。

 

「な…何だこれは…!?」

 

「人が現れた!?」

「いや、魔物か!?」

「こんな魔法見た事ないぞ!!」

 

シエルたちから見れば星霊の召還自体は見慣れているものだが、エドラスの人間から見れば未知の光景だ。何もない場所から人とも魔物とも言えない生命体を呼び出した魔法を見て、明らかに動揺を露わにしている。

 

「アリエス、あいつら倒せる?」

 

「は、はい…!やってみます~!」

 

口調や佇まいからは気弱なイメージを彷彿とさせるアリエスだが、彼女も歴とした黄道十二門。所有者(オーナー)であるルーシィの期待に応えるためオドオドとしていた表情を切り替え、目の前にいる王国兵に攻撃を仕掛ける。

 

「『ウールボム』!!」

 

両手を引き、そこから桃色の綿を生み出して王国兵たちへと薙ぎ払うように投げつける。範囲は相当な広さ。だが柔らかそうなその攻撃が効果的なのかどうかという疑問がある。実際の効果はと言うと…。

 

「あ~~ん♡」

「優しい~!」

「癒される~!」

「あふ~ん」

 

目にハートマークを浮かべながら力なく兵士たちが綿に埋め込まれて飛んでいく。別の意味で効果覿面だった。喰らった兵士たちのリアクションは若干気色悪いが…。

 

「あれ?効いてるんでしょうか…すみません…」

 

「効いてる効いてる!続けて攻撃よ!!」

 

攻撃した本人さえも効果があるのか疑ってしまう光景だが、一応戦力を削げているので大丈夫だろう。テンションが上がっているルーシィの号令を受け、更にアリエスは行動を起こす。

 

「『ウールショット』!!」

 

「やられとるのに~」

「気持ちいい~!」

「もっとやって~」

 

突き出している右手からスポーツで使うボールほどの大きさの綿を弾丸のように撃ち出して、一人一人に当てていけば、その兵士たちがさらに綿の虜になって戦意を失う。まだ被害を受けていない兵士たちが一気に詰め寄ってきたときは、綿を壁のように出して自らを突っ込ませて、またも無力化。

 

確かに聞いているのだろうが、やっぱり兵士たちのリアクションが気色悪い…。

 

「みんな、今のうちよ!」

 

「こんな感じでよかったんでしょうか、すみません…」

 

ここまで行動を抑えていれば最早脱出は容易だ。機を見計らって、ルーシィは場にいる仲間たちに街の出口に向かおうと声を張る。

 

「これ以上にないベストプレーだよ!」

「モコモコサイコー!」

「ナーイスルーシィ!!」

 

「ああ…あたしも気持ちいいかも~!」

 

自信なさげなアリエスの言葉に超がつくほどのファインプレーだったことを返す仲間たち。自分の魔法によって難なくピンチを脱したことに、味わったことのない感覚を噛みしめて、ルーシィはともに街の出口へと駆け出した。

 

「これが…アースランドの魔法…」

 

その中で唯一、見たことのない魔法を垣間見たエドルーシィが、人知れず言葉を零したのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ルーエンの街から脱出を成功させた一行。兵士たちが来ていないことを確認し、街の外にある森の中へと身を隠し、ルーシィとの情報交換を行う事にした。

 

「しっかしお前…どーやってエドラスに来たんだ?」

 

「私たち、ルーシィさんも魔水晶(ラクリマ)にされちゃってると思って、心配していたんです」

 

「ホロロギウムとミストガンが助けてくれたのよ」

 

最初にルーシィの身に起きていたことについてだが、彼女が契約している時計座の星霊、ホロロギウムのおかげで、アニマの影響から免れたらしい。街をも呑みこむ亜空魔法からも逃れられるとは、本当に万能な星霊である。

 

だが無事だったものの、誰もいなくなってしまったマグノリアの光景に困惑し、何が起きたのかもわからない状態だったところに、ミストガンが現れたらしい。

 

「ミストガン…!?」

 

「ってことは、あいつも無事だったのか!」

 

ミストガンの名が出たことで、シャルルが大きく反応を示し、ナツも思わぬ人物も呑みこまれていなかったことに少なからず驚いている。そして、彼の名が出た時に、息を吞んだ反応をウェンディが起こしていたことに、シエル以外は誰も気付かなかった。

 

「で、一方的に事情を聞かされて…」

 

「ミストガンとエドラス(ここ)に来たって事…?」

 

「ううん、ミストガンは来てないの。あたしだけ飛ばされた」

 

まだミストガンは、アースランドに取り残されている他の仲間を探すために残っているらしい。そして彼から謎の丸薬のようなものを食べさせられた後、詳しく説明をしている時間がないと言いながら、半強制的にエドラスへと送られてきたそうだ。

 

「…で、誰か知り合いがいないかって、ずっと探してたのよ」

 

「何でミストガンはエドラスのこと知ってたんだろ…?」

 

「あいつは何者なんだ?」

 

「何も言ってなかったわ…」

 

聞けば聞くほど、ミストガンと言う人物に関する謎が深まる。少しぐらいの説明はしてくれてもよかったはずだが、それでも優先すべき何かがあったというのだろうか。そもそも、ハッピーやナツにとっては、ミストガンが何故エドラスの事について知っているのか、という疑問も残っている。

 

だが、シエルは知っている。正確には、これまでの情報から、彼の素性を少しばかり推測できていた。

 

「目的とかは分からないけど、何者かの推測はおおよそついてるよ」

 

「そうなの!?」

 

シエルの言葉に声を出して反応するルーシィ。他の面々も各々意識を向けている。シエルはこれまでの情報をもとに、ミストガンの正体についてたてた考察を話し始める。

 

「まず確認なんだけど、ルーシィはミストガンの素顔を見た?」

 

「あ!そうそう!最初見た時ビックリしたのよ!ミストガンの顔…ジェラールにそっくり…と言うか、そのものだった!!」

 

「ジェラールに!?」

 

マグノリアが消えた事や、別世界のエドラスについてで混乱する要素が多数あったことから意識が外れかけていたが、ルーシィは最初にミストガンの明かされた顔を見た時衝撃を受けていた。シエルたちも知っての通り、評議院に囚われてしまったジェラールと同じ顔を持っていたことに。それを聞いて、ハッピーもまた大きく動揺を示している。

 

「あ、そういやそーだったっけ…言われるまで忘れてたけど…」

 

「え、ナツ知ってたの!?」

 

「えっと、ほら、バトル・オブ・フェアリーテイルん時にな…」

 

だが同じように驚くと思われたナツから、実は見たことがあったという言葉を聞いて、思わずシエルがそのことに驚きを示す。ラクサスがきっかけで起きたバトル・オブ・フェアリーテイル。その際、ペルセウスと共闘する形でラクサスと対峙していたのだが、ラクサスの攻撃によって明かされたその素顔を、エルザと共に目撃して衝撃を受けた記憶が呼び起こされる。

 

大事な事だったから、と言うよりただ単に忘れかけていたのだが、まさか彼もそれを知っていたことに、少なからずシエルやルーシィは呆然とした。そしてハッピーだが、シエルは勿論、ウェンディとシャルルの反応を見て彼女たちもそれを知っていたことを思わせる者だったことを察し、理解した。「あれ…?この場で知らなかったの、ひょっとしてオイラだけ…?」と。

 

「ま、まあ今は知ってた知らなかったは置いといて…ミストガンはジェラールと同じ顔を持ってはいるけど、楽園の塔やニルヴァーナの時に会ったジェラールとは勿論別人だ。そして、化猫の宿(ケット・シェルター)に来る前のウェンディを助けてくれたジェラールと言うのは、ミストガンの事だった」

 

シエルのが告げた内容に、ウェンディから少しばかり話を聞いたハッピーとルーシィが驚きを示す。ここにきて、ウェンディが会いたがっていたジェラールと言うのが、まさかミストガンの事だとは二人も考えつかなかったのだろう。ハッピーが思わずウェンディに本当か聞いてみると、少しばかり悲しそうな表情を浮かべてウェンディは首肯する。

 

これを前提として、シエルが考察したこと。要所要所の会話に、ヒントは散りばめられていた。

 

まず上記の通り、エルザと過去に出会い、楽園の塔を建設してエーテリオンを落とし、記憶を失ってからシエルたちに力を貸してくれたジェラールと、ウェンディと一時期旅を共にし、その後ミストガンとして妖精の尻尾(フェアリーテイル)に加わっていたミストガン(ジェラール)

 

別々に存在するものの、顔も声も、()()すらも一致する二人。エドラスの事を知る前だったら、こんな偶然が本当に存在するのか、と疑問を抱えた事だろう。

 

だが、それが成り立ってしまう要素が、現に今目の前に存在している。

 

「今俺たちがいるこのエドラスには、俺たちが知るアースランドのルーシィとは別の、エドラスに住むルーシィがここにいる」

 

「……ん、あたし!?」

 

会話に入る余地がなく、と言うか内容がほぼほぼ意味も理解も不能だったために話半分で聞いていたエドルーシィが、シエルに指摘されて慌てて居住まいを立て直す。話には出したが、残念なことに彼女が会話に入る余地は、相変わらず存在しない。

 

「同じ空間に…もとい同じ世界の中でちゃんとルーシィ二人の存在が確立している。そしてそれは()()()()()も同じだとしたら…もう答えは出てるよね?」

 

「…あの人は…『エドラスのジェラール』…」

 

エドラス、アニマ、異世界の事に関する知識を有していたことや、アニマに飲まれず…どころかアニマを通じてエドラスに対象を飛ばすことが出来る。それを考えると、元々はエドラスで生まれた人物であると仮定すれば、辻褄が合う。

 

ほぼ全員がその説明で気づけたのだろう。特に彼を恩人と慕っているウェンディは、7年越しに判明した事実に、色々と腑に落ちたのかどこか表情を伏せながら呟いている。

 

「けど…何故ミストガンがアニマの事を知っていたのか…何でアースランドに来て…多分アニマを塞いでいた、けどそれが何故なのか…。そこまでは考えるには情報が少なすぎるけどね」

 

「ま、これ以上分らないことを考えても、仕方ないわね…」

 

あくまで彼もエドラスの人間である事が分かったというだけだが、今欲しい有力な情報とは少し違う。後回しにしても問題はなさそうだ。それはそうと、もう一つ気になることがあるとすれば…。

 

「どうしてルーシィだけが、こっちで魔法を使えるのか、ってことだね…」

 

後から来たとは言え、ルーシィも本来であればこのエドラスにおいて魔法が使えなくなっているはずだ。にも関わらず、何故彼女はここで魔法が使用できるのか。ルーシィは「う~ん」と考え込む仕草を見せると…。

 

「もしかしてあたし、伝説の勇者的な――」

「無いな」

「…いじけるわよ…」

 

瞳を輝かせながら、天からの光を幻視するように横目を向けて言うルーシィだが、その言葉を食い気味にしてナツにバッサリ否定され、涙ぐみながら拗ねた。

 

「正直…わかんないわよ…。ナツやシエルが魔法を使えないんじゃ、不利な戦いになるわね…」

 

現状で戦えるのはルーシィのみ。王国軍の兵士は圧倒出来たものの、ルーシィばかりに戦いを任せるとなると、色々と手こずることになりそうだ。不安げに呟いているルーシィは、そんな自分をじっと見据えてくる、自分と同じ顔の存在に気付いて、目を向けた。

 

「てめーら…本気で王国とやり合うつもりなのか?」

 

不利な状況だとしても、戦う姿勢を変える気のないアースランドの魔導士たちに、エドルーシィは思わず尋ねていた。そしてその回答は、迷いなく返ってくる。

 

「とーぜん」

「仲間の為だからね」

「約束だってあるし」

 

「…ホントにこれ、あたし?」

 

迷いなく返したナツ、ハッピー、シエルの言葉に、エドルーシィは押し黙る。そんな様子の自分と同じ顔をした彼女に、ルーシィは思わずぼやいた。

 

「魔法もまともに使えねーのに、王国と…」

 

「ちょっと!あたしは使えるっての!!」

 

エドラスでの魔法を使いこなせなかった彼らの様子を思い返したエドルーシィがそう呟くが、唯一元の通りに使えているルーシィが、立ち上がりながら抗議する。そしてそのまま、己が今一番の戦力であることを、胸を張りながら自信満々に宣言し始めた。

 

「ここは妖精の尻尾(フェアリーテイル)(現)最強魔導士のあたしに任せなさい!!燃えてきたわよ!!」

 

「情けねえが…」

「頼るしかないわね」

「あい」

「現状それが一番だし」

「頑張れルーシィさん!!」

 

事実、今王国軍の兵士に見つかったとして、まともに戦えそうなのは彼女だ。調子づいているのか、声援を送り続けるウェンディに応えていくつか決めポーズをとり始めてる。天狗になっているような気がするが、指摘する気も起きないので、そのままにしておこう。

 

「(不思議な奴等だ…。こいつらなら、もしかしたら本当に世界を変えちまいそうな…そんな気がするなんて…)」

 

そんな彼らの様子を見ながら、言葉に出さず、エドルーシィは胸中で独り言ちる。今までこんな奴等を見たことはない。彼らなら、もしかすると…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ルーエンの街から南東へと進み、辿り着いた街の名は『シッカ』。武器としている魔法に魔力を補充し、その街のホテルで一泊することに決めた一行は、とれた大部屋の中で周辺の地図を広げ、現在地と王都までの距離を再確認していた。ちなみに地図は、ホテルの従業員から貰ったものである。

 

地図を見るとルーシィと合流したルーエンから、今いるシッカまでの距離がそう遠く離れているように見えない。しかし、ここまで移動するには、割と時間をかけていた。そして王都までの距離は、妖精の尻尾(フェアリーテイル)からここまでの距離を、更に超えるほどの長さだ。

 

「王都までまだまだ遠いなぁ…」

 

「しかも、王国軍に見つからないように注意することを考えると、更にその分の時間を使うね…」

 

「到着までどのくらいかかるんだろう…」

 

一行の表情から、いかにこの先の雲行きが怪しいのかが分かる。早いところ仲間を助けたいが、その仲間の待つ王都まで、物理的な距離があまりにも離れすぎている。地道に徒歩で移動するしかできないのが、これほどまでに苦だとは。

 

「おい、見ろよ!」

 

「ん?…ってぇっ!!?」

 

難しい顔をして考え込んでいた彼らの元に、興奮気味な声でエドルーシィと思われる少女が風呂場から出てくる。だが、その方向に目を向けたシエルは、悲鳴のような声をあげるとともに、その顔を真っ赤に染めた。

 

「こいつとあたし、体まで全く同じだよ!!」

「だーっ!!そんな格好で出てくなー-!!!」

 

何も身に纏っていない全裸の状態でエドルーシィが出てきたところを、ルーシィが慌ててバスタオルをかけて隠すべきところを隠す。若干手遅れだったような気がするが。あとバスタオルのみの姿でもはしたないのには変わらないような…。

 

場にいる男子であるシエルはエドルーシィが出てきた瞬間首ごと目を逸らして対応したが、ナツは一切動じず、バスタオル姿のルーシィ二人を恥じらいもせずに見ている。いっそ清々しいぞこいつ。

 

「エドルーシィさん!!シエルもナツさんもいるんですよ!!?」

 

「別にあたしは構わないんだけどね」

 

「構うわ!!」

 

世界の違いか性格の違いか、一切恥じる様子の無い自分と同じ姿をしたエドルーシィに、ルーシィはやきもきしっぱなしだ。もしも彼女がこの場で裸を見せようものなら、自分の意思と関係なく自分の裸を見られているようなので、全力で阻止したいところだろう。

 

せめて思春期真っ盛りのシエルの前ではやめてあげてほしいところだ。真っ赤にした顔で「オレハナニモミテイナイ」とうわ言をループして、数秒前の記憶を思い出さないように自己暗示に必死になってるし。

 

「賑やかだね“ダブルーシィ”!」

 

「それ…上手い事言ってるつもりなの?」

 

やけに賑やかな二人のルーシィに、ハッピーが彼女たちを括った呼び方で例える。そんな彼にシャルルは呆れながら指摘された。一方ナツは、今になっても一切目を逸らすような気遣いをせずに、未だバスタオル姿のダブルーシィに目を向けている。

 

「何だナツ、見たいのか?」

「やめて!!」

 

揶揄い気味に自分のバスタオルをはだけさせようと指をかけて告げるエドルーシィ。勿論アースランドのルーシィはそれを見過ごさず止めようと声を張る。だが、次の瞬間ナツがとった行動は「ぷふっ」と吹き出して笑いをこらえると言うものだった。何がおかしいのだろうか。ルーシィはエドルーシィの方がスタイル良いとかいうボケをかましたいのかと邪推するが、実際は全く別の部分だった。

 

「自分同士で…一緒に風呂入んなよ…!!」

 

「「…言われてみれば…!!」」

 

何でわざわざ自分と同じと言える人間と風呂に入っているだと言う、考えてみれば奇妙な行動をとった二人に対して吹き出したらしい。確かにそうだ。どういう心境で入ってたんだこの二人。

 

「今頃そこ気付くのか…」

 

「それにしても、見分けがつかないほど瓜二つですね」

 

「まさかケツの形まで一緒とはな」

 

「そーゆー事言わないでよっ!!」

 

視線を逸らしたままだが会話だけは耳に入っていたシエルがぼやく中、ウェンディは改めてそっくりを超えているダブルーシィを見比べて感想を零す。強いて言うなら右手の甲にピンクのギルドマークがあるか、左の二の腕に黒い刺青が入っているかの違いぐらいだ。細かい体の部分まで共通しているという意味でエドルーシィが口にした言葉は、何度目になるか分からないが再びルーシィに声を張り上げさせる。

 

「お!鏡の物真似芸出来るじゃねーか!!」

 

「「やらんわ!!」」

 

「うわあ…息もピッタリ…」

「表情もポーズも一緒…」

「悲しいわね」

 

思いついたと言わんばかりにシャカシャカと鏡芸の真似を器用にやりながら提案するナツだが、当然ダブルーシィのツッコミによって却下された。タイミングが合い過ぎてシエル、ウェンディ、シャルルが何だか物悲しい空気のまま呟いた。

 

「てゆーかジェミニが出てきたみたい」

 

「ああ、言われてみればそうだね」

 

ハッピーの言葉を聞いてシエルも思い返し、納得する。他の人にそのまま変身できる力を持つ星霊のジェミニがいた時も、ルーシィやシエルに変身して、どっちがどっちか分からなくなる時があった。エドルーシィも気になった反応を見せると、ルーシィはジェミニの鍵を取り出して召還する。

 

「開け、双子宮の扉!ジェミニ!!」

 

「じゃーん!ジェミニ登場ー!!」

 

呼び出されたジェミニは既にルーシィに変身済み。星霊界から様子を見ていて、タイミングよく変身したかのようだ。ルーシィがもう一人増えて関心を示すエドルーシィ。3人揃って“トリプルーシィ”といったところか。

 

「すげぇー!これだけで、宴会芸のクイズに使えるぞ!!」

 

ナツがやけにテンション高く言うが、一体どんなクイズを…と考える間もなく、スーツ姿に着替えたハッピーがマイクを片手に高らかに司会を務め、ハッピーとトリプルーシィを除いた他のメンバーは、いつの間にか用意された匣型の解答席に座っていた。

 

 

 

「クイズ!『本物は誰だ!?』」

 

そして円形の台に乗って表れたのは、いつの間にか白いビキニ水着に姿に着替え、それぞれ1~3の札をつけた三人のルーシィ。パッと見はどれも同じに見えるが…。

 

「あたしがルーシィよ!」

 

溌剌とした元気な感じが印象の1番。

 

「あたしがルーシィよ」

 

比較的声が落ち着いたクールっぽい2番。

 

「あたしがルーシィよー!」

 

妙にハイテンションな感じの3番。

 

「さあ、本物は誰でしょうか!?」

 

ハッピーのセリフのすぐ後にウェンディとシャルル、一泊置いてシエルが1番を選択。そして少しばかり悩むそぶりを見せながら、ナツが3番を選択した。果たして正解は…!?

 

『これは芸じゃないっ!!!』

 

随分と長めのノリを経て、トリプルーシィのツッコミがナツに襲い掛かった。そもそもアースルーシィとエドルーシィは元から本物みたいなもので、変身しているジェミニのみが一応偽物と言う区分になるので、本物と言うのは少々語弊があるのだが…そこは置いておこう。

 

「息がピッタリ…」

 

「悲しいわね」

 

「と言うか、お二人さんそろそろ服着てくれませんかね…?」

 

「あ!忘れてたぁ!!」

 

声を揃えてツッコミを再び行っていたトリプルーシィのうち、ジェミニを除くルーシィ二人に、シエルが赤い顔のまま目を閉じて言うと、忘れていた様子のルーシィの声が部屋の中に木霊した。

 

 

 

ジェミニを閉門して星霊界に帰し、水色の寝間着に着替え終わったダブルーシィ。しかし、二人に戻ってもやはり見分けがつけにくい。普段着を着ている状態ならまだ判別が出来たが、同じ服で、髪を下ろしている状態だと、本当に分からない。すると、何か思いついたのかエドルーシィがルーシィに尋ねる。

 

「確か髪型をいじってくれる星霊もいるんだよな?」

 

「うん、蟹座の星霊!頼んでみようか?」

 

そうして呼ばれたのは、サングラスをかけて美容師の格好をした男性に見える、カニ要素が背中から生えた6本のカニの脚であるキャンサーだ。

 

「お久しぶりです、エビ」

 

「蟹座の星霊なのにエビ?」

 

「やっぱりそこにツッコむか~!さすがあたし!」

 

カニをモチーフとしながらも実用性のある散髪用のハサミを両手で持ちながら現れた彼の語尾に、さすがはルーシィと言うべきか、反応を示す。それもそこそこにエドルーシィからの要望で、長かった彼女の髪はすっきりするほどのショートヘアへと早変わりした。

 

「こんな感じでいかがでしょうか、エビ…!」

 

「うん、これでややこしいのは解決だな」

 

「でも…本当に良かったの?こんなに短くしちゃって…」

 

要望通りとはいえバッサリと切ってしまった事に、ルーシィはそう聞いてみると、エドルーシィの方は気にした様子もないまま、感じた疑問を尋ねる。

 

「アースランドでは髪の毛を大切にする習慣でもあるのか?」

 

「習慣と言うか…心構えみたいなもんかな?『髪は女の命』って言葉もあるし…」

 

「女の命…ねぇ…」

 

彼女の問いにシエルが代わりに答える。アースランドでは存在している言葉も交えて説明をすると、はにかみながら手を頭に持っていき、照れくさそうにする。だが、どこか悲しげな表情を浮かべながら、部屋の大窓の前に近づくと、また悲し気に心情を吐露する。

 

「こんな世界じゃ、男だ女だって考えるのもバカらしくなってくるよ。生きるのに必死で、髪なんかじゃなく、あたしの心ん中にある命を守るだけで精一杯だからな」

 

今まで彼女たちは何人もの仲間を王国に奪われてきた。その王国に、何度も追われ、逃げてきた。そんな日々の中では、命以外に執着するものが希薄となるのも、無理もないと言えるのだろう。

 

「でもこっちのギルドのみんなも楽しそうだったよ?」

 

「そりゃそうさ。無理にでも笑ってねえと心なんて簡単に折れちまう。それに、こんな世界でもあたしたちを必要としてくれる人たちがいる。だから例え闇に落ちようと、あたしたちはギルドであり続けるんだ」

 

ハッピーの問いに答えたエドルーシィの言葉を聞き、シエルは一つ、気付いた気がした。闇ギルドと聞くと、シエルはどうしてもアースランドに蔓延っていた、自らの為に他者を平気で傷つけるような奴らの集まりと認識していた。

 

だがこのエドラスでは違う。ここでの闇ギルドは、あくまで王国に…国王に逆らった者たちの事。闇として区分されているのはそこだけで、彼らの根本はアースランドの妖精の尻尾(フェアリーテイル)と極めて似ているのだと。

 

闇だから悪ではない。正規だから善ではない。ギルドであろうとすること、仲間を尊重すること、互いを支え合う事。正規でも闇でも、シエルが思い描く理想的なギルドの形とは、そう言うものであったことを。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)が闇ギルドであると聞いて少なからず受けていたショックは、人知れず払拭されたのだった。

 

「けど…それだけじゃダメなんだよな…」

 

「え?」

 

「いや、何でもねーよ」

 

ぼそりと聞こえない声量呟いたエドルーシィの言葉を、聞き取れた者はいなかった。夜ももう深い。一行はそのまま、眠りについて夜を明かすのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「信っじらんな~い!!何よコレーーー!!!」

 

翌朝。まだほとんどのメンバーが寝ぼけ眼の中、ルーシィの怒りを帯びた叫びが響いた。聞くと、エドルーシィが置手紙を残して逃げたのだそうだ。

 

『王都へは東へ三日歩けば着く。あたしはギルドに戻るよ。じゃあね、幸運を!』

 

「手伝ってくれるんじゃなかったのー!?もぉー!どーゆー神経してんのかしら!!」

 

「ルーシィと同じじゃないの?」

 

「うるさい!!」

 

地団駄を踏みながら怒り心頭と言った様子のルーシィに、何故か火に油を注ぐ様な発言をハッピーが零す。だが、エドルーシィ自体は、王国と戦う気は元々はなかったことを考えると、あり得ない行動でもない。

 

「まあしょうがないさ。王国と戦う事に関して、エドルーシィは消極的だったし」

 

「無理させられないですもんね」

 

「だな」

 

「あたしは許せない!同じあたしとして、許せないの!!」

 

比較的長く行動を共にしていたシエルたちは彼女の怒りを鎮めようと窘めるが、何より彼女自身が、エドルーシィの行動に納得がいかない様子だ。

 

「まあいーじゃねーか」

 

「よくない!ムキーーッ!!」

 

あっけらかんとしているナツに対して、まだまだ怒りが収まる様子の見られないルーシィ。「どうしよう…」と不安げな表情をシエルに向けるウェンディに、彼は苦笑を浮かべながら肩を竦めた。しばらく刺激しないでそっとした方が吉だと。

 

 

結局ホテルから出て、街にある書店に寄るまで、ルーシィの機嫌は斜めのままであった。




おまけ風次回予告

ハッピー「オイラって、一体何者なんだろ…?」

シエル「どうしたの、いきなり?」

ハッピー「だってさ、エドラスからシャルルと同じように卵で送られて、使命を与えられたはずでしょ?でもオイラには全然その情報が入ってこないから…」

シエル「うーん…その使命の事については、頑なにシャルルも話そうとしないもんね。気にはなるけど…」

ハッピー「オイラとシャルル…一体何が違うんだろ…?」

次回『自分は何者だ』

シエル「何が違うって…性別も色も好みも声も、何もかもが違うじゃん?」

ハッピー「オイラが聞きたいのはそーゆ―事じゃないんだけど…」

シエル「(そーゆー…何もかもが違うから、特別気にすることもないと思うけどなぁ…)」

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