FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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ギリギリですが間に合いました…。除雪作業がなかったらもっと余裕持てたり、長くできたのに…。

あと、次回予告だけまだ書けてないので、後で追記しておきます…。

今週エデンズゼロを読んでたら、前回出てたレーサー隊と呼ばれる政府軍の隊長?らしきキャラが、まんまソーヤーだったので目を見開きました。(笑)
ソラノはまだしも、こいつまで政府の組織にいるとは…ジェラール(ジャスティス)と言いソーヤーと言い、魔女の罪(クリムソルシエール)はいつの間に政府軍になったんだろう?←

【1/23 0:16追記】

次回予告の追加、完了でございます!


第81話 自分は何者だ

街の中をニコニコと笑顔を浮かべながら歩く金髪の少女。その後を続くのは彼女の様子を遠巻きから見るように視線を向ける三人の人間と二匹のネコ。ホテルを出発した時は明らかに苛立っていた少女ルーシィの変貌ぶりに、どこか呆れた様子でハッピーは口を開いた。

 

「もう機嫌直ってる…」

 

「本屋さんで珍しい本を見つけて、嬉しいんだろうね」

 

街の中にあった書店に立ち寄り、何か目を引くものがあったのか、それを購入してからずっとルーシィはご機嫌だ。鼻歌を唄いながら両手で一冊の本を抱え、先頭に立って歩を進めている。

 

「結局何の本を買ったの、ルーシィ?」

 

「こっちの世界の歴史書!あんたたちも、この世界について知りたいでしょ?」

 

「まあ…知っておいて損はないよね」

 

「オレは別に」

 

まだエドラスの事については未知の部分が多い。この先どんな知識が戦いの役に立つか分からない以上、知っておけば後々有利になるだろうと考えているシエル。それとは別に心の底から興味ないと主張しているナツは答えが素っ気ない。

 

「歴史書が物語ってるわ!この世界って面白い!!例えば、エクシードって一族について書いてあるんだけど…!」

 

「!!」

 

本を上に掲げながら、高まっているテンションのままルーシィが口にした言葉。それを耳にした瞬間、シエルは一瞬息を呑んでルーシィの持つ本にさらに意識を向ける。

 

「それ、どこに書いてあるの!?見せて!!」

 

「え、ええ。確かこの辺の…」

 

シエルが注目したのは“エクシード”。エドラスに来てからよく耳にしていた種族の名前だ。ハッピーやシャルルがそれにあたると思い、このエドラスにおいてどのような存在なのか、気にはなっていた。それを知れるチャンスが来たことに、シエルは思わず彼女に詰め寄って、本の内容を見せてもらおうと近づく。

 

「ぁ…そう言えば私も、エクシードって一族の名前を聞きました。凄く恐れられてる種族らしいですけど…」

 

「やっぱりそうなのね。ここにも書かれてるんだけれど…」

 

シエルの様子を見て少しばかり唖然としていたウェンディ。だが彼女もエクシードについて気になっていた為に、シエルと同じようにルーシィの持つ本の内容を見ようとする。

 

「だから興味ねぇって…ん?」

 

唯一、一切の興味を示さないナツが耳に指を入れながら呟く。すると彼の耳を、聞き慣れない機械の駆動音が刺激し、彼はそれに意識を向ける。ナツだけでなく、仲間たちも、街の人たちも同様に。音がするのは上空。そして周辺を突如、何か巨大な物体が飛行しているのか影が差し込み始める。それに気付き、視線を上へと向けてみれば、空中に浮かぶジェット噴射で移動を行うタイプの、巨大な乗り物が、影を作っていた正体だと分かった。

 

「飛行船!?」

 

街の一部を影が覆うほどの巨大な飛行船。自分たちを含め、街の人々が中々見られない乗り物に興味を示して上を見上げる中、飛行船を認知しているものの目もくれずに一転の方向へと駆け抜けていく集団がいる。全てが王国軍の兵士だ。

 

「急げー!」

「すぐ出発するぞ!」

 

「王国軍…!」

「隠れてっ!」

 

兵士たちが目に移り、警戒を強めるシエルたち。ウェンディがいち早く一行を柱の陰へと押し込んで共に隠れ、その甲斐もあってか、すぐにバレることはなかった。物陰から軍の様子を見聞きしてみると、街の上空に現れた飛行船は、どうやら王都に向かうらしい。

 

「あの巨大魔水晶(ラクリマ)の魔力抽出が、いよいよ明後日なんだとよ!!」

「それでオレたちにも警備の仕事が回ってきたのか!!」

「乗り遅れたら、世紀のイベントに間に合わねーぞ!!」

 

慌ただしく、飛行船の着陸場に集まってくる王国軍の兵士。その彼らの話を聞く限り、飛行船に乗らなければ、魔力の抽出を見ることが出来なくなる…つまり王都につけないということが分かる。

 

「巨大魔水晶(ラクリマ)って…」

 

「マグノリアのみんなの事だ…!」

 

「魔力の抽出が二日後…歩いて行ったら、確実に間に合わなくなる…!」

 

今から王都に向けて徒歩で行ったとしても三日はかかると言っていた。更に他の王国軍に見つからずにと言うのを考えるとさらに時間はかかる。そうなれば魔力抽出までに辿り着くのは不可能。抽出が始まれば、二度と元の姿に戻すことは出来なくなる。みんなを元に戻すため、助けるためにどうするべきか…。

 

 

 

「あの船奪うか」

 

その提案を告げたのはナツだった。船…つまり飛行船だろう。それを奪うと大胆にも言い切ったナツに、ウェンディをはじめ、ほとんどが仰天する。

 

「そこまでする必要ある!?普通『潜入』でしょ!!」

 

「隠れんのヤダし」

 

その内のシャルルが驚愕と共に言えば、ナツは何事でもないような調子で返す。隠れることを良しとせずに飛行船を奪う。過激な提案に思えるが…。

 

「そうだね。忍び込んでもし見つかりでもしたらリスクの方が高い。ナツに賛成だ」

 

「アンタまで…!?」

 

この中でも頭脳が秀でているシエルは、意外にもその提案に乗っかってきた。ナツが船を奪うと言った時も、シエルはたいして驚いたような反応を示さなかったため、元から否定的ではなかったのだろう。ナツはシエルの言葉に口元を吊り上げ、他の面々は意外な人物が賛成したことで、更に表情に驚愕を浮かべている。

 

「けどその為には、無駄なく迅速に行動する必要がある。急ごしらえになるけど、作戦通りに動いた方がいい」

 

表情を崩すことなく淡々と、シエルは一同を見渡しながら言う。それを聞き、驚いていたみんなも、やる気に満ちていたナツも、口を閉ざして彼の声に耳を傾ける。

 

「目指すは飛行船ただ一つ。ここから飛び出して真っすぐ突き抜けて、確保すること。勿論兵士は確実に邪魔をして塞いでくるから、戦闘及び切り抜け役は、ルーシィに任せたい」

 

「あたし!?ってそうよね…今、あたししか魔法が使えないもの」

 

「それで、俺とナツとウェンディは後続しながら、ルーシィのサポート。使い慣れてないエドラス(こっち)の魔法でも、それくらいはできるはずだ」

 

「おう」

「うん!」

 

「飛行船内部に到着したら、おそらく中にいる兵士もこっちを捕えようと襲ってくるから、可能な限り外へと追い払う。ただし…」

 

急ごしらえと言っておきながら、的確で効率を重視した作戦を口にしていくシエル。まず、今隠れている地点から最短距離で飛行船へと進み、ルーシィの星霊魔法でその道を塞ぐ兵士たちを撃退。魔法の質や威力自体はアースランドの方が進歩している節が見られるため、当然と言える。撃ち漏らしたり、隙を突いて攻撃しようとしてくる者たちは、シエルたち3人が援護で防ぐ。そして飛行船にいる兵士たちも、移動中の脅威を無くすために追い出すことも忘れない。

 

しかし、この件に関してはシエル自身から注意事項が追加される。

 

「最低でも2人。2人は飛行船に残しておく」

 

「全員じゃねーのか?」

 

「この中で、あの飛行船を操縦できそうなのがいるか?」

 

2人だけは兵士を残すという言葉に、代表して疑問の声をあげたナツの質問に、間髪入れずにシエルは答える。恐らく兵士に王都まで操縦させようという目論見だろう。自分たちで操縦できるならいいが、ただでさえアースランドの飛行船どころか、魔導四輪の運転経験さえ無さそうな人材しかいないのだ。現地人にやらせる方が早い。

 

「だとしても何で2人なの?操縦だったら1人でも出来ると思うけど…」

 

だがそうなるともう一つの疑問が浮かび上がる。ハッピーの言った通り、操縦自体なら別に2人も残す必要がないからだ。飛行船が複数人でしか操縦できないのならともかく、それが断定できないうちから二人に限定するのはどういうことか。

 

「その残った1人が素直に俺たちの言う事を聞くと思う?」

 

「ぶん殴りゃいーんじゃね?」

 

「そんな単純なわけないでしょ…」

 

そのハッピーの質問に、逆にシエルが問いかけると、真っ先にナツが握り拳を作りながら答える。すぐさまルーシィがツッコむが、シエルの問いかけはルーシィにとっても懸念として考えていたことだ。

 

「多分聞いてはくれないと思う…けど、それと何の関係が…?」

 

恐らく残された操縦する兵士は、自分たちが追い詰めようともこちらに反抗するだろう。場合によっては「自分を殺せば困るのはお前たちの方だ」と言って、国のための自己犠牲を払って敵を陥れる可能性だってある。シエルは、その可能性も視野に入れたうえで考えていた。

 

「1人だけ残したら、その兵士はどんな手を使ってでも俺たちの言う事に背く行動をとるだろうけど…言う事を聞かなかったときにもう1人の身が危ない状況だとしたら?」

 

『……え?』

 

先程から一切表情を変えずに淡々と口から出てくるその言葉。その意味を理解した時、ルーシィも、ハッピーとウェンディも思わず呆けてしまった。

 

「成程、もう一人は人質の為ね」

 

「ええっ!?」

 

対して、納得がいったようにシャルルは答えを零す。兵士として戦いに身を置いている者たちは自分への脅威には耐性がつけられている。だがしかし親しいもの、共に戦う仲間が危機に直面している場合はどうだろう。自分の行動次第で、仲間の生死が分かれるとしたら、その者は効率的な判断が出来るだろうか?

 

その者の人格にもよるだろうが、大半は仲間の命を選ぶ。自分一人ならばどうなっても構わないと国のために戦える者なら尚更だ。その心理を利用した作戦が、操縦者と、その操縦者を脅すための人質と言う事だ。

 

「人質を確保した後の脅迫は俺がやる。あとはみんな、兵士2人が妙な動きをしないか警戒して、飛行船で移動する。ひとまず最初はこんなものかな」

 

「いや…人質をとって脅迫するのが、“こんなもの”って…」

 

「お前…物騒なこと思いつくよな…」

 

結局終始感情の揺らぎもなく淡々と説明していたシエルの様子も相まって、仲間の為とは言えたてられた「飛行船強奪作戦」に、ルーシィもナツも軽く引いていた。気持ちは大いに分かるが…ナツ、その言葉はこの作戦のきっかけを作ったお前にブーメランとなって突き刺さってるぞ。

 

「けど…この作戦には、無視できない大きな問題が一つだけある」

 

「大きな問題…?」

 

最初に飛行船を奪う作戦の説明を終えたシエルが、補足として言い始めたことに、少しばかり顔を青くしながら苦笑いを浮かべていたウェンディが、表情を戻して言葉を反芻する。その大きな問題とは。彼はナツに視線を移して、その問題を提示した。

 

「ナツ…確認なんだけど、飛行船を奪って“乗る”ことを前提としているのは、分かってるよね?」

 

それはナツの体質だ。極度に乗り物に酔いやすい彼にとって、飛行船での移動中は大きな苦痛だ。それを味わってでも仲間の危機を脱することを優先とする覚悟があるのか、提案した身であるから勿論承知の上とシエルは思っているが、念のために彼に確認してみると…。

 

「ふっふっふ…忘れたのかシエル?ここにはウェンディがいるんだぞ。ウェンディのトロイアがあれば乗り物など…!」

 

「お前こそ忘れたのか?そのトロイアも…魔法全部が、ルーシィを除いて使えない事」

 

不敵な笑みを零しながら怖いものなどないと言わんばかりに宣言しようとしたナツ。だがしかし、それは元の世界であればの話だ。散々魔法が使えないことを身をもって思い知ったことが、どうやら頭から抜け落ちていたらしい。思わず表情が固まってウェンディへとその顔を向けると、ウェンディは彼に苦笑いを向ける。使えないのは、トロイアも例外ではない。

 

「…なあシエル…やっぱこの作戦、却下にしねーか…?」

 

「時間が惜しいから今更変更はなしだ。ルーシィ準備して」

 

「あ、うん…分かった…」

 

先程までの態度から掌を返して飛行船の強奪を止めようとシエルに要請したナツ。だがもちろんその要請が却下された。いそいそと電網砲を用意しながらルーシィに一言告げ、ルーシィも少々戸惑いながらも言葉に従う。今頃になってナツは後悔した。何で忘れてたんだろうと。

 

「行くよ!作戦開始!!」

 

飛行船に兵士たちが次々と乗り込んでいきそろそろ出発と言ったところで、シエルの号令と共にルーシィを先頭にして彼らは一気に走りだす。

 

「な、何者!!?」

 

「ルーシィ!!」

「任せて!開け、獅子宮の扉!ロキ!!」

 

突然こちらに向かって走り出してくるように現れた謎の一団に、兵士たちがどよめく隙を突いてルーシィは金の鍵を掲げて口上を叫ぶ。輝く鍵に導かれて呼び出されたのはスーツ姿の美青年であるロキ…

 

 

 

 

「申し訳ございません、姫」

 

「って…あれっ!!?」

 

ではなく、桃色髪のショートカットのメイド姿の美少女…乙女座の星霊バルゴだった。思わずルーシィだけでなく、後から続いていたシエルたちも、足が止まってしまう。

 

「ちょっと、どーゆー事!?」

 

()()()()()はデート中ですので、今は召喚できません」

 

「お…お兄ちゃん…?」

 

「はい。以前そのように呼んでほしいと、レオ様から」

 

「バッカじゃないのアイツー!!」

 

どうやらロキは完全私用の都合で召喚に応じれないため、代理をバルゴに頼んだらしい。鍵が違うのにどうやってそんなことが出来たのか疑問ではあるが、それが霞むくらいロキの自由奔放な…と言うかバカみたいな行動に、ルーシィは涙を浮かべて嘆きを叫ぶ。そりゃそうなる。

 

「あいつ、ルーシィだ!!」

「捕まえろ!!」

 

最初は混乱していた兵士たちも、先頭に立っているのがルーシィであることに気付くと、槍を構えて捕らえに来る。エドラスの方のルーシィと勘違いしているようだが、今はその事など些末な問題だ。

 

「どうしよう!?あたしの計算じゃ、ロキなら一気に突破も出来るかもって…!!」

 

「姫…僭越ながら、私も本気を出せば…」

 

当初の予定と食い違い困惑しているルーシィに対し、主の危機を察したバルゴが彼女の前に出て主張する。彼女の言葉…さては敵を一気に蹴散らせる力を、彼女もまた有しているという事か…?

 

 

 

「踊ったりもできます!」

 

「帰れ!!!」

 

そんなことはなかった。何故か敵前にて枷のブレスレットについている鎖をジャラジャラと鳴らしながら手足を動かして踊りだしたバルゴを、ルーシィは思わず怒りのままに強制閉門で星霊界に帰した。だが状況は結局バルゴが来てから変わっていない。兵士たちはルーシィ…そして後ろにいるシエルたちも含めて全員捕えようと迫ってくる。

 

「ルーシィ!他の星霊…タウロスとか、昨日呼べたスコーピオンとかは!?」

 

「無理!二人とも今日はダメな日なのぉー!!」

 

ロキは呼べない、バルゴは戦えないとなると他の星霊に頼む必要がある。だがこの状況を打破出来ると思われる星霊は、残念なことに誰一人呼べないらしい。アクエリアスも、水がない場所では不可能だ。

 

「ちょっと!作戦いきなり破綻してるわよ!?」

 

「こうなったらやるしかないか…」

 

頼みの綱と思われたルーシィは、まさかのトラブルにより戦力外だ。ならば作戦の一部変更をするしかない。シエルは事前に準備していた電網砲を両手で構え、ルーシィよりも前方に立つ。

 

「ナツ!ウェンディ!俺たちで道を切り開くよ!」

 

「しゃーねーけど、やるしかねーか!」

 

「大丈夫!使い方はばっちりだから!」

 

檄を飛ばしたシエルに、封炎剣を構えたナツと、空烈砲を手に突き出したウェンディが答える。少し難があるとはいえ、何もしないよりはマシのはずだ。それぞれ魔法(ぶき)を持ちながら、迫りくる兵士たちへと3人は駆けだしていく。

 

「二人は兵士を牽制!その隙に俺が動きを封じて、そこから突破するよ!!」

 

「おう!」

「うん!」

 

封炎剣と空烈砲による先制攻撃で兵士が怯んだところを、電網砲の網で行動不能にしてから飛行船へと乗り込む。すぐさま変更して周知させた作戦を実行するしか、ここを突破できる方法はない。その攻撃を行う為、距離を測りながらナツとウェンディが各々の魔法(ぶき)を振りかぶる。

 

「全体!『縮地足』用意!!」

 

『はっ!』

 

だが、まだ距離があるというところで、突如兵士たちが横一列に槍を前に構えながら並ぶ。後方にいるルーシィたちも、前線のシエルたちもその動きに疑問を抱くが、その動きを止めはしない。

 

「発動!突撃ー!!」

『えっ!?』

 

兵士たちの後ろにいるもう一人の兵士の号令と共に兵士たちが身につけている具足の踵から、魔力と思われるエネルギーが噴射され、並んでいる兵士たちが同時に一歩前に進むと同時に、人間とは思えない速さでこちらへと肉薄してきた。

 

「ウソー----!?」

「あれー----!?」

「いーやぁー--!!」

 

思わぬ光景に前線の3人が目を見開くも、次の瞬間には勝負が決していた。常人を超えた速度で突っ込んできた兵士たちに、3人は呆気なく弾き飛ばされてしまった。

 

「うわぁー!3人が全然ダメだぁ!!ルーシィよりはマシだけど!」

 

「ごめんなさーい!!」

 

作戦通りに動くどころか、普通に戦う事もままならない。唯一戦力に数えていたルーシィがまさかの戦力外になってしまったことが一番の計算外と言えよう。涙を流しながら謝罪を叫ぶルーシィをよそに、事態はより一層悪化していく。

 

「マズいわ!飛行船が!!」

 

狙いとしていた飛行船は既に離陸していて、今にもこの場を離れて王都に向かおうとしている。あれに乗らなければ間に合わない。だがしかし、弾き飛ばされた拍子に武器も手元から離れ、抵抗することも出来ずに仲間たちが兵士たちに取り押さえられ始める。

 

「う…くそ!!」

 

シエルが何とか拘束から逃れようとあがくも、それを良しとしない兵士が槍を近づけ、さらに動かれないように一人が彼の頭を地面に押さえつける。何とかして乗り込まないと。だがそんな想いを無情にも打ち砕くように、飛行船はスピードを出して、シッカの街から飛び立ってしまった。

 

抵抗も空しく。数の暴力で詰め寄られ、自分を含めて仲間も取り押さえられてしまう。最早この状況では、魔水晶(ラクリマ)になった仲間を助けるどころか、自分たちの身さえも無事では済まなくなる。

 

「抵抗するな!」

「大人しくしろ!」

 

「うあっ…痛っ…!!」

 

「クッソォーーッ!!!」

 

容赦なく自分たちを縛る兵士たち。小さな少女の痛がる声、青年の悔しげな慟哭。そして二日後には、人間としての姿も奪われた状態で、消滅させられる仲間たち…。

 

耳に届き、頭の中に浮かんだその事実が思い出され、シエルの中にふつふつと、怒りに混じった感情が湧き上がってくる。

 

 

 

自分や仲間たちを縛り付ける兵士たち、身勝手な理由で仲間を奪った王国、そして作戦を発案しておきながら、状況の打開どころか悪化へと導いた、自分の不甲斐なさ。

 

 

 

今や、魔法を使う力すら失われ、無力と化している自分自身…。

 

それらに対する…黒い感情が…。

 

怒りに混じった憎しみを、増長させていく。

 

 

 

 

「ん?何だ…これは…?」

 

何かの疑問を抱いたような兵士の声が聞こえたのは、その時だった。シエルの頭を押さえつけている兵士が、己の両手から謎の光が発せられていることに気付き、異常と感じたからである。よく見ると彼だけではない。シエルを直接掴んでいる者たちは、その部分に黄色く発光する謎の魔法陣を刻まれている。

 

「…あれ…って…?」

 

シエルはそれを目にして、既視感を覚えた。見たことのある魔法陣と、その光を。つい最近にも、似たようなものを見たような…。

 

そしてその光景は、場にいる仲間も、他の兵士も目にしていた。誰もがそれを異常に思い、謎めいたものとしてそれを眺めている。

 

「あ…!あの時の…!!」

 

その中で唯一、しっかりと覚えがあったのはウェンディ。彼女もまたその光景に既視感を抱いた。まだ妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士になるどころか、彼らと会ったばかりの時。そして、あの少年と共にとは言え、自らの意志で戦うことを決めた時と。

 

 

ブレインの魔法を無理矢理爆発させた時と、同じ魔法陣…!

 

「光が強く…!う、うわぁああっ!!?」

 

 

 

 

 

兵士の誰かが輝きが強くなっていく魔法陣を目にして悲鳴を上げた瞬間、魔法陣を刻まれていた兵士の体の一部を中心に、爆発が起きた。

 

光は街全体を照らすほどのもの。だが爆発自体は言うほどの規模はない。しかし、シエルを捕らえるために密集していた外側にいた兵士、そしてシエル自身もその体が爆発による勢いで吹き飛ぶ威力だ。突如爆発が起き、体を浮遊感が襲い掛かり、そのまま地面に叩きつけられたシエルが、うめき声と共に息を吐き出して咳き込む。

 

「ば、爆発した!?」

「あの子供、一体何をした!?」

「油断するな!まだ魔法を隠し持っている可能性がある!!」

 

シエルではなく、ナツたちを拘束している兵士たちは、今起きたことに対して更に困惑を叫んだ。一部は警戒を怠らないようにと注意を促す者もいるが、当事者たちには、その余裕はなかった。

 

「う…ああああああっ!!!」

 

それは…シエルを直接拘束していた兵士たちの悲鳴が、物語っていた。

 

「ど、どうした!…っ!?お、お前…腕が…!!」

 

悲鳴を聞いた兵士の一人が彼の安否を確認すると、思わず恐怖に引き攣った声をあげた。それは、シエルを掴んでいた左腕の状態。身につけていた鉄製の鎧が砕け散り、肘の部分で溶けたような跡となって途切れている。そして露出した前腕はほとんどが火傷を負っており、手に至っては原形が分からない程にひしゃげていて、言葉でこれ以上の形容は出来ないほどだ。

 

「な、何あれ…シエルが…やったの…!?」

 

敵側とはいえ、あまりにも凄惨な事態に陥っている兵士の様子を見て、ルーシィが目の前の光景が現実とはかけ離れているように思えた。それも、その事態に導いたのが、仲間である少年が関わっているかもしれないと考えれば、余計に。

 

「ケホケホッ…!これ…この前と…」

 

そしてシエル本人も、何が起きたのか半ば混乱しながら体勢を立て直そうとする。四肢をついて上体を起こすことは出来るようだが、二足で立ち上がろうにもうまく力を入れられない。更に言えば、兵士たちが阿鼻叫喚となって騒ぎ立てているのもその一因の一つだ。

 

「こ、こっちもだ!こいつは酷い…!」

「お、オレの槍も、先がなくなっちまってる!!」

「おい!一番の重傷はこいつだ!早く手当てを…!!」

「なっ!?…これ…両方、()()()()()()()()…っ!!?」

 

最早拘束が解けているシエルの方にさえ意識が向かないほどの大惨事。それも、会話の内容から察して、シエルは目にはしていないが想像が出来る無惨な光景が、近くで起きていることを理解した。

 

 

 

 

そしてそれを引き起こしたのが、他ならぬ自分であることを。

 

 

 

 

「(ブレインの時も…ジェラールの時も、そうだった…)」

 

ブレインの時は彼の魔法自体だった。内側から暴発したことで、幾許か威力が落ちていた。ジェラールの時は、意識が朧気だったため詳細は不明だが、それぞれ手足が血にまみれていた。彼の身体の高い耐久性ありきだろう。

 

 

だが今回はどうだ。鎧に身を包んでいる兵士ではあるが、魔力を持たない生身の人間。そんな彼らの体が、欠損してしまうほどの規模。厄介なのは、シエル自身の意思に全く関係なく発生していること。その条件も全く分からない。

 

 

更には、このエドラスでは魔法が使用できない。にも関わらず、シエルはそれを発生させた。魔法の一部であれば、同様に発生はしないはずなのに。どのような違いがあるのか、それもいまだ謎。そして、何より…。

 

 

 

 

 

「(この力は…俺に()()()()()()()ものを、例外なく爆発させるもの…!!)」

 

人だろうと、魔法だろうと、敵だろうと、味方だろうと。彼自身の意思に関係なく、彼に直接触れたものは、黄色い魔法陣を刻まれ、爆発の餌食となる。

 

何故こんな力があるのか。何のために存在しているのか。考えても考えても考えても、答えは一切出てこない。あるのは混乱と、己がこの力を抱えていることに対する、恐怖。

 

 

 

「(俺は……一体何者なんだ…!!?)」

 

 

 

他者であれば一切を傷つけかねないこの力を持っているのはどういうことか。下手をすれば命をも奪う力が何であるのか。シエルは、己と言う存在が、どういうものなのか、分からなくなっている。

 

地面にへたり込みながら、己の両手を見下ろし、シエルは答えの出ない自問を繰り返す。それに答えられる者は、この場にいない…。

 

「シ…シエル…?」

 

混乱に乗じて拘束が緩んだおかげで、未だ困惑する兵士たちから離れられたウェンディが、シエルの方へ一歩一歩近づきながら彼の名を呟く。彼女もまた、困惑しながらも、それ以上に混乱している様子のシエルを案じて、声をかけた。

 

「大丈夫なの…シエル…?」

 

「!!近づくな!危ない!!」

 

「っ!!」

 

彼女の声を聞いて気付いたシエルが、反射的にウェンディへと怒鳴り声をあげてしまう。恐れに引き攣った、高く裏返った声で近づくことを拒絶されたウェンディも、思わず表情に恐れを抱いて肩を震わせる。それを目にしたシエルは「あ…」と後悔を混ぜた悲痛な表情を浮かべ、だがそれでも目を悲しげに細め、歯を悔しそうに食いしばりながら、声を絞り出す。

 

「……ごめん…でも、ダメだ……俺に、触れたら…!!」

 

近づいてきた彼女から距離をとるように少し移動し、自分の体が万が一彼女に触れないように対処する。たとえその行動が、少女の表情に、更なる悲しみを帯びさせてしまう事になったとしても。

 

 

幸か不幸か、王国軍は今シエルを大いに警戒して、迂闊には動けない状態だ。触れただけで爆発してしまう。その結果をまさに味方の惨状で垣間見たことで、最大限の注意を払う事に、神経を集中しているのだろう。すぐにでもこの場を離れるべきだが、今のシエルの状態を考えると、難しい。

 

 

 

 

自分を、囮にするべきか…。その考えが頭に過って、実行に移すタイミングを考えていると…。

 

 

 

 

 

 

「ぬおおおおおっ!!」

 

何者かが動けずにいる自分の体を、全速力で駆けながら両腕で抱え上げて、街の外へと走り出した。その正体は…。

 

「なっ!?ナナナナナツゥ!!?」

 

「よく分かんねーけど逃げるチャンスだ!お前ら!取り敢えず街から出んぞぉ!!!」

 

一切の躊躇も逡巡もなく、触れたら爆発させる自分の体を担ぎ上げて全速力で逃げ出すナツ。困惑していた仲間も兵士も、その光景を見てようやく正気に戻り始めた。仲間はナツの名を呼びながら彼のあとに続き、兵士たちは逃げ出した魔導士たちを再び捕えようと動く。

 

「ちょっ、おまっ、何をやってんだ、ナツ!さっきの見てなかったのかよ!!?」

 

「あ!?見たけどそれがどーした!?ってか、お前魔法使えねーんじゃなかったのか!?」

 

「俺だって分かんないよ!つーか俺が聞きたいのはそーゆ―事じゃなくて!!」

 

兵士達の阿鼻叫喚になった様子は、ナツも勿論目にしていた。何だったら、さっきまで彼も目の前の光景が信じられないものであっただろう。今度は、ナツがその犠牲になってしまうというのに、何を悠長な…!

 

「俺に触ったら、今度はナツが爆発しちまうんだぞ!?そりゃお前の体は頑丈かもしれないけど、万が一なんかあったら…!!」

 

「じゃあお前今自分で走れんのか!?」

 

「それは……厳しいけれど」

 

せめて今すぐ自分を下ろせば、被害は増えないはず。だがそれもナツは却下するだろう。どうあっても、今ナツは恐らくシエルを放そうなどと言う真似は絶対にしない。仲間が動けなくなっているこの状況で、見捨てるに等しい行動は出来ない。

 

「体に触れたら爆発だ?んなことでお前を助けねー理由になるかっつーの!」

 

口元に笑みを浮かべながら、何事もないかのように断言するナツ。その言葉に、シエルは目を見開いて言葉を失った。自分自身でも己と言う存在が恐ろしく感じていたというのに、この青年は何て奴なのだろうか。自らの体が爆発するよりも、自分の身の安全を優先してくれると。断言さえする彼に、シエルはただただ呆然とした。

 

 

「つーか、いつまでも爆発しなくね?何でだ?」

 

「え?……そー言えば…何で?」

 

「言ってる場合か!!」

 

そうこうしてる内に、街の外に繰り出したところで、長い時間担いでいるのに結局爆発の予兆すら見られない状況に、逆に不思議がってナツが尋ね、シエルも訳が分からず疑問符を浮かべていたのを、追いついてきていたルーシィが思わずツッコんだ。

 

「どうしましょう!このままじゃ追いつかれちゃいますよ!?」

 

「だぁー!しつけーなあいつら!!」

 

しかし街の外へと出れたとはいえ、兵士たちはまだまだ追ってくる。街にいた時と比べると半数ほど減ったが、ほぼ戦う力を持っていない自分たちでは抵抗も出来ない。いずれ追いつかれるのは時間の問題…。

 

 

 

 

 

すると後方から、猛スピードで何かが轟音を立てて近づいてくるのを、彼らの耳が拾った。

 

「ん?何だ…?」

 

その何かはスピードを落とさないまま追ってくる王国軍のすれすれを通過して、彼らの態勢を崩し、逆に逃げるナツたちを器用に避けて、彼らの進行方向先へと出てから急停止する。赤を基調とした船の形をしたデザインの魔導四輪で、上部と前方席の扉に妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章が入っている。

 

「ま…魔導四輪…!?」

 

突如前方を塞いだようにも見えるその魔導四輪。しかし、運転席の窓から運転手と思われる人物が発した言葉は、彼らの想像とは真逆だった。

 

()()()()から聞いてきた。乗りな」

 

『おおっ!!』

 

ギルドの紋章…ルーシィの名…。恐らくこの人物は、エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバー。そして口ぶりから察するに、味方で間違いない。歓声を上げた直後に全員が乗り込み、確認した運転手はすぐさまギアをチェンジして、アクセルをふかす。

 

「飛ばすぜ、落ちんなよ?GO(ゴー)!!FIRE(ファイア)!!!」

 

勢いよく後輪が回り、摩擦によって発火したような錯覚すら思わせる程の勢い。そして勢いそのままに、先程同様の猛スピードを出しながら走り抜けていく。たった数秒で、もうシッカの街が見えなくなってしまうほどの速さだ。

 

「すっごーい!あっという間に逃げきっちゃった!!」

 

「助かったわ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「それにしても、凄いスピード…」

 

「お…おおお…!」

 

前方助手席にルーシィとハッピー。後方座席に右からナツ、シエル、ウェンディとシャルルを乗せた魔導四輪を運転するその人物に、各々感嘆や感謝の言葉を向ける。そしてナツは案の定乗り物酔いを起こしていた。

 

「王都へ行くんだろ?だったらどんな乗り物でも、オレたちの速さには敵わねぇ」

 

自信満々と言った言動の、桜色のツンツン頭をした、バイザーゴーグルをつけている運転手。どこか既視感を感じるような…と頭の中で考えていた一同は、その運転手がゴーグルを上げてその素顔を見せた瞬間、衝撃を受けることになった。

 

「クク…妖精の尻尾(フェアリーテイル)最速の男…

 

 

 

 

 

『ファイアボールのナツ』とは、オレのだぜ」

 

その顔はまさに、後方座席でグロッキーになっているナツと、瓜二つのものだった。『ファイアボールのナツ』…つまり、エドラスのナツである。

 

『ナツーーーー!?』

 

「お…オレぇ…?」




おまけ風次回予告

ルーシィ「エドラスのナツって乗り物を物凄く乗りこなしてるのね…!あまりにも反対でびっくりしたわ…」

シエル「…そうだね…」

ルーシィ「エドラスのあたしも随分違ってたし、そー言えば、他のみんながどうなってるのか、あたしあんま知らないわね」

シエル「…うん…結構みんな、違ってる…」

ルーシィ「あのさ…何となく気持ちは分かるんだけど…予告の時だけでも、ちょっと元気出してこ?ね?」

シエル「…ごめんね…」

ルーシィ「……(汗)」

次回『希望の王都、悲痛の妖精』

ルーシィ「あ、ほら!きっとウェンディも、シエルが元気な方がきっと嬉しくなるわよ!ほらぁ笑顔笑顔!!」

シエル「……ふふ」

ルーシィ「こんな悲しい笑顔見た事ない…!相当重症だわ…」
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