FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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余裕をもって間に合わせました!こんな日、いつぶりでしょう…?←

最近、ふと原作の先の方を確認がてら読み直していたりしてるんですが…クロッカスにあるリュウゼツランド。あれ、X777年にオープンした施設だって、完全に頭から抜け落ちてました…。

どうしよう…43話で完全に建設予定扱いにしちゃってた…!しくじった…!
まあ、7年後に入ってから考えよう。←

ちなみに連絡しておくと、来週の更新は休みとなります。と言うか2月中は仕事が多忙につき、二話しか投稿の余裕がありません…。下手するとさらに減るかも…。それまでどうか、お待ちいただけると幸いです…。


第82話 希望の王都、悲痛の妖精

激しい駆動音を鳴らしながら猛スピードで荒野を駆ける一台の魔導四輪。それを運転している青年は、後部座席で酔いによりグロッキーになっている青年と同じ顔と声。エドラスにおけるナツだ。

 

「ナツ…!?こっちの…エドラスのナツ!?」

 

「ルーシィが言ってた通り、そっくりだな。で、アレがそっちのオレかよ?情けねえ」

 

驚愕と衝撃を受けているルーシィに目を向け、さらに後方にいる自分と同じ顔をしている、酔いでダウンしているアースランドのナツを見て、少しばかり呆れた様子を見せるエドナツ。同じ車内に同じ顔をした人間が二人いるのに、佇まいはまるで別人だ。

 

「こっちのナツさんは、乗り物が苦手なんです…」

 

「それでもオレかよ?こっちじゃオレは、『ファイアボール』って通り名の、運び専門魔導士なんだぜ」

 

アースランドのナツの様子を指摘されて同様に苦笑いを浮かべる仲間たち。その内のウェンディがエドナツに説明をすると、視線を前方に戻しながら自信満々と言った様子で語る。アースランド(知っている方)のナツはどんな乗り物に乗っても秒で酔うほど極端に弱かったのに対し、エドラス(この世界)のナツは逆に乗り物を乗りこなしてそれを仕事の一部に組み込む魔導士だそうだ。ナツが乗り物を乗りこなす…目の前に存在しているのに、現実離れしているようにシエルは感じた。

 

「そういえばこの魔導四輪、SEプラグついてないよ!?」

 

「SEプラグ…?」

 

「正式名称SELF(セルフ) ENERGY(エナジー)プラグ。運転手に装着して、魔力を燃料に変換する装置だよ」

 

エドナツの座る運転席を見たハッピーが、アースランドでよく見た装置がついていないことに気付いて声をあげた。基本アースランドでの魔導四輪は運転手の魔力を燃料に変換するためのSEプラグが付けられている。しかし、今エドナツが運転しているそれには、ついていない。

 

聞き慣れない単語を耳にして反芻したウェンディに説明をしながら、シエルも改めて後部から運転席を見てみると、確かにアースランドのものとは細部が異なっていることに気付く。そしてその理由も、少し考えればすぐに気付けるものだ。

 

「そっか…こっちじゃ人が魔力を持ってないから、SEプラグが必要ないんだ…」

 

「完全に魔法のみで走ってるって事?」

 

「なによ…車に関してはアースランドより全然進んでるじゃないの」

 

エドラスにはアースランドのように体内に魔力を有している人間が存在しない。だからルーシィが気付いたように、魔導四輪にはSEプラグはいらず、車自体に元から入れられた魔力で走行している。走行中の補給を必要としない点で言えば、シャルルが言った通りエドラスの方が優れているだろう。

 

だが、その話を耳にしながら、一切反応を示さず運転を続けていたエドナツは、突如前触れもなくブレーキをかけて急停止。慣性に従ってブレーキを踏んだ位置から大分前に進みはしたが、その場で停まってしまった。急な衝撃で身体を持ってかれそうになった一同の悲鳴が車内に響く。突如急停止したことにルーシィが文句を一言言ったが、それに介さずエドナツは口を開いた。

 

「…そうとも言えねえな…」

 

エドナツが口にした内容とは、先程までの車内での会話に対する補足だった。

 

「魔力が有限である以上、燃料となる魔力もまた有限。今じゃ手に入れるのも困難。だから、オレが連れてってやれるのはここまでだ。降りろ」

 

そして続けざまに告げた「降りろ」。王都まで連れて行ってくれるとばかり思っていた彼の冷たくも聞こえるその言葉に、乗せてもらったアースランドの面々が面食らう。エドナツが言うには、これ以上予定にないルートを走ってしまうと、ギルドに戻れるほどの燃料がなくなってしまうらしい。ただでさえギルドの場所を知らないうちに変えられたために、燃料の配分を考え直さなければならなかったのも理由だ。

 

「うおおお~~!!生き返った~~!!」

 

「早っ…!」

 

「もう一人のオレは物わかりが良いじゃねえか」

 

真っ先に魔導四輪から降りて大地を踏みしめながら声高らかに叫ぶナツを見て、呆然とするシエルたち。対してエドナツは何か勘違いしているのかそんなことを言っている。

 

「さ!降りた降りた!」

 

そして残るみんなもエドナツによって車外へと放り投げられる。投げられた側は、今どうやって外へと出されたのか理解する暇もなかった。ほぼいっぺんにやられた気がしたけど…本当にどうやって…?

 

「王国とやり合うのは勝手だけどよォ、オレたちを巻き込むんじゃねえよ。今回はルーシィの…『お前』じゃねえぞ。オレの知ってるルーシィの頼みだから仕方なく手を貸してやった。だが面倒はごめんだ。オレは…ただ走り続けてえ…」

 

こちらに…主にルーシィに目を向けながら淡々と話し、最後にはハンドルをその手で握りながら、エドナツは前を見据えて呟いた。やはりエドラスの魔導士たちは王国と戦おうという姿勢は一切ないようだ。

 

「オイ」

 

すると助手席側のドアの縁に腕をかけ、ナツが彼に声をかける。それに反応して視線を向けるエドナツであったが、その後アースランドのナツが起こした行動によって、その目が見開かれる。

 

「お前も降りろ!」

 

「バ…てめ…何しやがる!!」

 

運転席にずっと座っていたエドナツの襟首と腕を掴み、彼を外へと出して降ろそうとしている。彼の行動に気付いたエドナツが、驚きと焦りを表情に出しながら抵抗するも、素の腕力が上であるアースランドのナツを振り払えず、そのまま引きずられていく。

 

「同じオレとして、一言言わしてもらうぞ」

 

「よ、よせ…やめろ!オレを…オレを降ろすなァ!!」

 

手足を動かして必死に抵抗を続けるエドナツ。しかしそれも虚しく、エドナツは車外に引っ張り出され、呆然と見ているナツの仲間たち同様、地面へと降ろされた。そして、その影響で彼を見下ろす構図となり、ただエドナツに鋭い視線を向けながらナツは…。

 

「お前…

 

 

 

 

 

 

 

何で乗り物に強え?」

 

「そんな事かい!!」

 

「降ろしてまで言う事か!!」

 

関心と驚愕と疑問を入り混ぜた、点になった目を向けながら屈んで彼の顔を覗き込み尋ねた。本人以外からしたら至極どうでもいい疑問を。そんなことわざわざ引っ張り出してまで聞く必要があったのかと、こっちが疑問を抱かずにはいられない…。

 

「ひぐぅ…!!」

 

だが、その疑問も含めて、一気に吹き飛ぶような事態が起きた。魔導四輪から無理矢理降ろされたエドナツが、突如引き攣ったような、怯えたような弱々しい声をあげ、両腕で自分を庇うように体勢を変える。その変化に、ネコたちも、魔導士たちも意識を向けて頭に疑問符を浮かべていると、小刻みに体を震わせながら、注目されている本人は声を絞り出した。

 

「ご…ご、ごめんなさい…!()()にも分かりません…!!」

 

さっきまでの、性格的にはこっちのナツと特に変わらない口調をしていたエドナツが、弱々しい印象と声で、両目に涙すら浮かべながら返した。それを見た者たちは…ナツを筆頭に一斉に目を丸くする。え…こいつ、誰?って、言いたげに。

 

「…お、お前、本当にさっきの()()?」

 

「は、はいっ!よく言われます!!車に乗ると性格変わるって…!!」

 

「本来のエドナツはこれかぁーー!!」

 

ビクビクとしながら足を閉じて縮こまっているエドナツに、衝撃を受けながらもナツが確認してみると、今怯えているこの状態と違い、車に乗ると強気な性格になるということが分かる説明が告げられる。それを聞いて理解したシエルが真っ先に叫んだ。車に乗っているのが仮の性格で、本当はこの弱気なナツが本来のエドナツであると。成程、アースランドと真逆である。

 

「ひー--っ!!大きな声出さないでっ!!怖いよぉ…!!」

 

思わず叫んだシエルの言葉にすら怯え、両手で頭を抱えながら更に震えて縮こまるエドナツ。さっきと打って変わって情けない彼の姿を目の当たりにしたナツが、何か諸々のショックでフリーズしている。そんなナツの背後から、シエルによく似た悪い笑顔を浮かべたルーシィが「鏡の物真似芸でもする?」と煽ってきていた。昨夜の仕返しのつもりだろう。

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!で…でも、ボクには無理です!!ルーシィさんの頼みだからここまで来ただけなんです…!!」

 

体育座りで頭を縦に振り、謝罪を表しながら説明をするエドナツ。怯え方はオーバーだが、強気の状態でも今の状態でも、王国と戦おうと言う気はなかったことには変わらないらしい。まあ、ここまで怯えている者を無理矢理戦力にするために連れていくのも憚られると言うものだ。

 

「いえいえ、無理しなくていいですよ」

 

「こんなのいても、役に立ちそうもないしね」

 

「シャルル!」

 

オドオドとしているエドナツに対して、ウェンディが優しくフォローの言葉をかける。それを聞いて少しばかり安堵の表情を浮かべていたのだが、続けざまにシャルルが零した言葉に、今度は少しばかり落胆を込めて俯く。しかし彼女の言に関しては、彼自身も少なからず自覚はあった。

 

それはそうと、優しい雰囲気を持った幼い少女の姿に既視感を覚えたエドナツは、心当たりがある人物を思い浮かべて彼女に尋ねた。

 

「もしかして…ウェンディさんですか?」

 

「はい」

 

「うわぁ…小っちゃくて可愛い…!」

 

エドナツにとっての『ウェンディ』と言えば、自分よりも背が高い、大人っぽい印象を与える女性の方だ。そんな彼女が、違う世界ではまだ幼く可愛らしい印象の少女であることは新鮮だろう。まさしく子供に向ける眼差しで呟いた言葉だったのだが…。

 

「む…」

 

「ひぃ!?ごめんなさい!!」

 

「こらこら、睨まないの…」

 

分かっていたとしてもちょっと気に入らなかったシエルが、明らかに不機嫌な目をエドナツに向けたことで本人が再び萎縮。すぐさま気付いたルーシィが彼を窘めた。

 

「あ、あれ?ひょっとしてそっちはシエルさん…?」

 

「ん?ああ」

 

「シエルさんも小っちゃいんですね…!ちょっと怖いところは一緒だけど…」

 

まだ会ったことはないが、エドナツの知るシエル…エドシエルも恐らくは大人の姿。彼は記憶に残っているエドシエルと、今目の前にいるシエルを比較して少し驚きを表している。だが彼にとっては共通点があるそうだ。ボソッと言っていたがバッチリ耳に入ってる。睨まれることは無くなったが、シエル自身の表情は若干不機嫌のままだ。

 

「本当は優しいんですよ?シエルって」

 

「(アンタにはね…)」

 

「あ、それ、こっちのウェンディさんもよく言ってました」

 

「そ、そう…なんだ…!」

 

そんな中、意中の少女に笑みを浮かべながら褒められ、向こうのウェンディも同じことを言っていたという情報を耳にしたシエルは、途端に上機嫌に戻ったのか赤くなった顔を逸らして、緩みそうになる口元を見られないよう手で隠した。だがこの行動の意図は恐らく、一部を除いてバレバレである。

 

「それで、そっちがアースランドのボク()()

 

「どこに()()付けしてんだよ」

 

「オイラはハッピー!こっちがシャルルだよ」

 

「ふんっ」

 

ほぼ流れではあるが今更ながらに自己紹介が始まる。妙なところについた『さん』はともかく置いといて、エドラスから送られてきていたハッピーがシャルルも含めて紹介する。そして残った一人は…。

 

「あたしは、もう知ってると思うけど…」

「ひー----!!ごめんなさい!何でもします!!!」

「ぁぁ………」

 

「お前さ…もっとオレに優しくしてやれよ」

 

アースランド(こっち)のルーシィに言っても意味ないと思うぞ…」

 

名乗ろうとした瞬間、今までで一番ビビりながら愛車の魔導四輪の陰に隠れて、切羽詰まった声で叫び、主張した。これは恐らくあれだ。エドルーシィに散々いじめられて築かれた条件反射だ。だからアースランドのルーシィはほぼほぼ無関係と言っていい。言うならエドルーシィに…いやダメだ。二人揃ってエドルーシィに技決められるのがオチだ。

 

「こっちのルーシィさんは…皆さんをここまで運ぶだけでいいって…だから、ボク…」

 

すると愛車の陰に隠れながらも呟いた言葉を聞いて、一同が周りを見渡してみると、今いる場所から下方向に、まるでその一帯を埋め尽くすほどの巨大な都市が見えた。マグノリアよりも、もしかしたら広いかもしれないと思えるほど。

 

「これって…!!」

「もしかして王都…!?」

「大きい…!!」

 

エドラス王国王都。今までの街とは桁違いの規模。そしてエドナツのセリフから察するに間違いないだろう。

 

「クロッカス程じゃないと思うけど…かなりの広さだ…!!」

 

一度兄と一緒に、自分の国の王都に行ったことがあるシエルは、記憶に残っているその光景と規模を思い出しながら、まだクロッカスの方が広かった感覚を思い出す。だがそれはあくまで比較の問題。実際に街の中へと入れば、広大であることは確かだろう。

 

ちなみに彼の一言を聞いて、「シエルってフィオーレの王都にも行ったことあるんだ…」と心の中で驚いていたのは彼女のみ知る。

 

「何だよ、着いてんならそう言えよ~!」

 

「うわあっ!ごめんなさい!!」

 

既に王都に辿り着いていた事を知ったナツが、エドナツに満面の笑みを向けながら彼の肩に腕を回す。しかしそれさえもエドナツには恐怖だったのか再び怯えながら謝罪を口にする。どうにも絡みづらい。人知れずナツはそう思った。だが何はともあれ、これはとてつもなくついている。

 

「いいぞ!こんなに早く着くとは思わなかった!!」

 

「あの王都の中に、魔水晶(ラクリマ)に変えられたみんながいるんだな…」

 

本来なら三日かかると思われた王都に、一日で到着することが出来た。あとは魔水晶(ラクリマ)にされたマグノリアのみんなを探し出して、元に戻す方法を見つけるのみ。「さっさと行くわよ」とシャルルが一足先に坂になっている大地を下り始め、その後をウェンディが慌てて追い始める。

 

「俺たちも」

「あい!」

「じゃ、ありがとな!」

「あたしによろしく!!」

 

その後へ続くように、シエルたちも足を動かして王都へと進み始める。いよいよだ。仲間を取り返すためには、恐らく王国軍との激突は必至。ほぼ戦力がないこちらには分が悪いが、それでも譲る訳にはいかない。改めて心にそう刻みながら、シエルはウェンディたちを追う形で王都へと急いでいく。

 

と、近くで走っているルーシィとハッピーのみを目にしたシエルは、一人足りないことに気付いた。気になって後ろを振り向いてみると、まだ少し離れたところで何故か後ろを向いて立ち止まっているその一人…ナツを見つけた彼は、口元に手を添えた声を張る。

 

「おーいナツー!置いてくぞー!!」

 

「悪ィー!今行くー-!!」

 

何をしてたのだろうか。そう思いながら目を凝らすと、こちらを不安そうに、だが少しばかり驚いたような表情で見てくるエドナツを見て、少しばかり察した。彼と何か話をしていたのだろう。そしてそれは恐らく、無謀にも王国軍に戦いを挑もうとしている自分たちが、どこか信じられないと言ったような。

 

それでも自分たちは止まれない。後から追いかけてくるナツを確認したシエルは、再び王都へと足を向け始めた。

 

 

 

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エドラス王都城下町への侵入…と言うより、普通に堂々と王都に入ること自体は意外にも簡単にできた。魔力を独占し、魔導士ギルドを排した王国の統治下。そう伝え聞いていた自分たちにとって、その印象は目の前の光景と真逆だった。

 

町の空気は陽気そのもの。周りには魔法と思われる街頭やアーチ、外で元気そうに笑い声をあげながら、魔法で移動する木馬に乗ってはしゃぐ子供たち。行き交う人々も、ほとんどが笑顔を浮かべて、話に花を咲かせたりする者たちが多い。

 

「意外ですね。独裁国家の統治下って言うから…」

 

「もっと寂れたというか、くたびれてる町かと思ってた…」

 

「町の中にもあっさり入れたしな」

 

周りを見渡しながら城下を歩き回り、どこかに魔水晶(ラクリマ)が無いか探してみるも、思っていた印象とは正反対の賑わいに、逆に目を奪われるものが多々ある為、捜索も困難だ。

 

「ルーエンやシッカと全然違う…。遊園地みたい」

 

「こっちじゃ魔力は枯渇気味だったんだよね?少なくともここを見る限りは、そうは見えないけど…」

 

「魔力を奪って、ここに集中させているからよ。国民の人気を得るために、こんな娯楽都市にしたんだわ」

 

ルーシィ、そしてシエルの疑問に情報で理解しているシャルルが答える。呆れた国王だ。そのせいで魔導士が何人も犠牲になり、王都を除くほぼすべての街が衰退して寂れているというのに、それさえもお構いなしと言う事か。一国の…世界の王がとる政治とは思えない。

 

呆れたと言えば、町の子供たちも乗って遊んでいた宙に浮かぶ木馬。どっからか手に入れたナツが、何故かそれに乗って後ろからついてきている。どう見ても乗り物にしか見えないのだが…しばらくすると案の定酔っていた。

 

「ん?何か向こうの方が騒がしいですね」

 

「あ、ホントだ。凄い盛り上がり…」

 

「パレードとかやってんのかしら?」

 

するとウェンディが、横道の方に人だかりがいるのと、その人たちの歓声を見聞きして、仲間内にも伝える。先程遊園地みたいと形容していただけに、そのような催しがあっても確かに違和感はない。

 

「ちょっと見に行ってくるか!」

「あいさー!」

 

「アンタたち!遊びに来たんじゃないのよ!!」

 

そしてそんな賑わいを見せる催しがあったら反応してしまうのがナツである。相棒のハッピーも一緒になって一足先に行ってしまい、目的を見失いつつある二人にシャルルが叫んだ。

 

「何だ何だ?」

「待ってよナツ!」

「うわー!凄い人ごみ…!」

 

追いかけたルーシィやシャルルも一緒になって、大勢で賑わう人ごみの中を掻い潜って先へと進んでいく。ウェンディもその後を追おうとしたが、大勢の人を目にしたシエルが突如足を止めたのに気づき、不思議に思った彼女が振り向いて彼に声をかけた。

 

「シエル、どうしたの?ナツさんたち行っちゃうよ?」

 

どこか俯いている様子のシエルに、どんどん先に行ってしまうナツたちの方を指さしながら、ウェンディは彼を急かす。だが、シエルから帰ってきた返答は、思っていたものとは違った。

 

「俺、別のとこで待ってるよ」

 

「…え?」

 

予想していなかった彼のその答えに、ウェンディは目も口も思わず開いてしまった。一体どうしたのか。ウェンディが知る限りこのようなことを言うのは初めてだ。

 

「待ってるって…何かあったの…?」

 

「何かあったって言うより…何か起こすわけにいかないから、ね…」

 

思わず尋ねた彼女の問いに、左手で右の手首を掴みながら視線を下に向けて俯く。どういう意味の言葉なのかしばらく分からないままであったが、ふと少し前の事をウェンディは思い出した。シッカの街で突如シエルが起こした、兵士たちを吹き飛ばした爆発。未だ謎に満ちたあの能力を、軍相手ならともかく、恐らく一般人である王都の住人に意図せず発生させるわけにはいかない。

 

シエルが人ごみを避けるように待つと言った理由は、これしか浮かばない。

 

「ウェンディは行ってきなよ。ナツたちも見失っちゃうし」

 

「で、でも…」

 

「俺の方は気にしないで。じゃあ、また後で!」

 

そう言ってシエルは笑みを向けながら、ナツたちとは反対の方向へと向かっていく。困惑が強かったウェンディはそれを呼び止める間もなく、声をかけようとした時にはどこかで曲がったのかもう見えなくなってしまっていた。

 

走り去っていく直前に浮かべていたシエルの笑顔。あれはどう見ても、本心からのものではなかった。無理に浮かべたような、痛々しい印象を持つそれが脳裏に浮かび、ウェンディの胸の内が何かに締め付けられるように悲鳴を上げている気がした。

 

「ウェンディ、何してるの?」

 

シエルが去って行った方向を見ながら立ち尽くしていると、気になって戻ってきたらしいシャルルが彼女の背後に立っていた。声をかけられたウェンディは振り向き、彼女の名を力なく呟く。

 

「いつまでも来ないからはぐれたのかと思ったわよ…オスガキは?」

 

「え…っと…」

 

つい先程まで共にいた少年の事を言われ、言葉に詰まってしまう。どこまで言うべきか。どう言えばいいか。黙ってばかりいてもそれはそれで心配をかけてしまう。気付けば、彼女はそれを言葉にしていた。

 

「別のとこに…行くって…」

 

「……そう」

 

曖昧で要領も得ない、人によってはよく分からないと言った一言。だがシャルルはそれでもそれ以上何も聞こうとしなかった。長い付き合いであるウェンディの様子から、そして件の少年の事を思い返しながらある程度を察したからだろう。

 

「じゃあ早く行くわよ」

 

踵を返しながら、人ごみの方へと戻っていくシャルル。ウェンディもその後へとついて行くが、時折その意識は反対へと進んでいったシエルの方に持っていかれるのだった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ウェンディと一度別れた位置からそう遠くない隣接する民家の一つ。その屋根の上にシエルはいた。正確には、二つの民家の壁の隙間を伝って、登ってきたというのが正しい。

 

「ふぅ…改めて、魔法なしなのがどれだけきついのか実感するよ…」

 

乗雲(クラウィド)雷光(ライトニング)などで空中を移動できるシエルにとって、それが封じられることに対する不便性は他よりも少しばかり大きい。地道な方法は慣れているものの、魔法を使用することの方に慣れてきていた彼にとって、壁伝いに登る方法も少しばかり苦となっていた。

 

「さて…確かあっちの方に…」

 

ウェンディたちが向かって言ったと思われる方角に、屋根の上に立ちながら視線を向けると、人ごみが出来ていた最大の理由が、すぐに目に映った。

 

 

 

一言で言うならば、巨大な魔水晶(ラクリマ)だ。周りで警備している兵士たちと比べると、高さは優に10人分を超しており、シエルから見える限り、横幅もほぼ同じぐらいの長さだ。それがどれほどの密度になっているかは、最早確認のしようもない。

 

「まさかあれが…マグノリアの、ギルドのみんな…!?」

 

遠目から見てもはっきり視認できる巨大なその魔水晶(ラクリマ)。だが目を凝らしてみると、右側の方は切断されたかのように奇麗な断面が映っている。恐らくこれは一部分であり、まだこれと同等かそれ以上の魔水晶(ラクリマ)がどこかにあると予測できる。

 

その魔水晶(ラクリマ)の前に集まっているのは、まるで凱旋のように歓喜に盛り上がる王都の住民たち。そしてその歓声が一際大きくなる瞬間が訪れた。魔水晶(ラクリマ)の前に一つ置かれた魔水晶(ラクリマ)の半分ほどの高さの高台に登り、絢爛な装飾が施された長杖を片手に持つ、白髪に染まったうねりを持つ長い髪と、濃い髭を蓄えた老人。

 

身に纏う服は他の者たちと比べると、見るからに上質なものであるか分かる。十中八九、間違いないだろう。彼が両手を大きく広げると、歓声が一際大きくなった上、向こうのあちこちで「陛下ー!」という声が上がっている。

 

彼こそがエドラス王国の国王にして、マグノリアの住民と、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士を魔水晶(ラクリマ)に変えて奪った元凶。『ファウスト』である。

 

「エドラスの子らよ…我が神聖なるエドラス国は、アニマにより10年分の“魔力”を生み出した」

 

こちらにまで反響して聞こえる堂々とした声が、王都に住まう者たちすべての耳に届く。彼らは今、王国が素晴らしい魔法を用いて、自分たちの世界を救う為の魔力を生み出したと信じているのだろう。

 

その魔力が、アースランド(別の世界)の町や人間を奪い、それを元にして作られたことも知らずに。

 

「共に歌い、共に笑い、この喜びを分かち合おう」

 

他所の世界から勝手に奪い取ったもの。それを明かさず身勝手に行われる演説。そしてその言葉に心の底から湧き立ち、喜ぶ群衆。真実を知っている者たちからすれば、どちらも人を殺しておいて喜びたつ狂人にしか、見えなかった。

 

「エドラスの民にはこの魔力を共有する権利があり!また…エドラスの民のみが、未来へと続く神聖なる民族!我が国からは、誰も魔力を奪えない!!」

 

なおも続く演説。自然と己が拳を握り締めているのが分かる。あの場にいるであろう仲間たちも、恐らくはそうなのだろう。だが堪えなければ。今出て行ったところで、どうにも覆せることなど、出来やしないのだから。

 

民たちからの歓声を受けながら、国王ファウストは更にその言葉を続ける。そして張り上げていた声とは対照的な、少しばかり落ち着きを思わせる声で言葉を紡ぐ。

 

「そして、我は更なる魔力を手に入れると約束しよう」

 

 

 

 

その直後、ファウストは後方に存在する魔水晶(ラクリマ)に、右手に持った長杖を叩きつけた。

 

「これしきの魔力が、ゴミに思えるほどのなァ…!」

 

叩きつけたことにより、亀裂が走る魔水晶(ラクリマ)。その亀裂から、いくつかの破片が零れ、地へと落ちていく。

 

国王にとってはただの魔力。これからゴミになるであろうもの。

 

住民にとっては希望の象徴。この先10年の安寧を約束された結晶。

 

 

だが、自分たちにとってあの魔水晶(ラクリマ)は…ギルドの仲間…大切な家族…そのものである存在…。

 

 

それを、ゴミ同然のように、扱われた…。

 

 

 

「ッ……!!!」

 

シエルの中で、今まで以上の怒りと憎悪が湧き上がってくるのが分かる。今すぐにでも、あの忌々しい国王の顔を殴り飛ばしたいほどの衝動に駆られてしまう。限界まで目が開かれ、歯を食いしばり、それでも何も出来やしないと心に言い聞かせて堪える。

 

 

湧き上がる歓声。響く国王の哄笑。それを耳にしながら、握りしめる拳。彼の両掌から赤い血が溢れ出していることに、彼自身も気付くことはなかった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

日が暮れて、夕日が王都の街をオレンジ色に照らす中、仲間たちと合流したシエルはあるホテルの一室にいた。しかし、誰もが何を言う訳でもなく、静寂がその部屋を包み込んでいる。

 

時折シャルルが紙に何かを書く音と、思い悩むような彼女の唸り声が聞こえるだけだ。

 

シエルが彼らと合流した時も、全員がどこか心あらずと言った様子で、ルーシィがシエルを心配していたような言葉をかけ、それに対してどこか覇気のない返事で済んでしまった。

 

だが仕方ないと言えばそうだろう。昼間に目撃した国王の演説。傷つけられた仲間たち。それが頭の中を支配して、彼らから他の事に意識を向けるのを阻害している。

 

「やっぱり我慢できねえ!オレァ城に乗り込むぞ!!」

 

窓の近くに座りながら外の景色に目を向けていたナツが、突如その場を立ちながら口に出す。あんなものを見せられて、やはり我慢などできるはずがない。気持ちは大いに分かる。だが、そんな彼を制止させる者がいた。

 

「もう少し待ってちょうだい」

 

「何でだよ!!」

 

「ちゃんと作戦をたてなきゃ、みんなは元に戻せないわよ」

 

ずっとテーブルの上で、何かを紙に書きながら唸っていたシャルル。ナツの気持ちも分かるが、シャルルはその上で冷静に物事を考えている。いつものナツなら正面突破でもなんとかなる可能性はあるが、ルーシィ以外の全員が魔法を使えない現状では、あまりに無謀と言わざるを得ない。言い返す言葉も見つからないナツが、悔し気に唸り、シャルルに従う。

 

「みんな…あんな水晶にされちゃって…どうやって元に戻せばいいんだろう…」

 

場所は分かっても、戻し方もまだ分かっていない状況では、やはり迂闊には手出しできない。手詰まり。その単語が全員の頭の中に過る。一人(一匹)を除いて。

 

「直接聞くしかないわね」

 

「聞くって…まさか国王に…?」

 

「教えてくれるわけないよ」

 

「殴ってやればいいんだ!!」

 

シャルルが告げた方法。王国側の人間から聞き出すことだ。だが、国王を始めとして、軍の人間ならそう簡単に教えてくれるようには思えない。ナツはまた物理で解決させようとがなり散らすが、そんな彼らに「違うわよ」とシャルルが一言返す。

 

「一人だけいるじゃない。戻し方を把握していて、かつ私たちに教えてくれそうな奴が、王国に」

 

その言葉に、本人を除いた全員の頭の上に疑問符が浮かぶ。そんな人物が、確か存在していただろうか…?と首を傾げて考えてみるが、中々浮かばない。だが、ウェンディとハッピーが、同様に首を傾げているシエルを目にすると、ハッとした表情で思い出した。それを見てシエルが「ん?」と声をあげるよりも先に、二人の声が重なる。

 

「「あっ!エドシエル!!」」

 

その名前が出たことで、シエルも気付いた。異世界の自分の事であるために気づくのが遅れたが、気付いてしまえば説得力は確かだ。ちなみにナツは未だにピンと来ていない。ルーシィも同様だ。

 

「王国にスパイとして潜入して、魔科学研と呼ばれる部門のトップにいるエドラスのこいつなら、アニマの事も勿論把握しているでしょうし、ギルドの味方であることを伝えれば、悪いようにはしないはずよ」

 

「確かに!」

 

「希望が見えてきた!」

 

「えっ、エドラス(この世界)のシエルって、スパイだったの!?」

 

気付いた様子のシエルたちに向けて補足を説明するシャルル。ウェンディもハッピーも交えて表情を明るくしていると、シャルルの補足で初耳の情報を聞いたルーシィが困惑しながら聞いてくる。「そういやそうだった!」と彼女の質問に答えるタイミングでナツがようやく思い出した。

 

「エドラスの俺に会う事が必須なのは分かった。けど問題は…」

 

「どうやってエドシエルのところに行くか…よね…」

 

恐らくエドシエルの意向で、研究部門専用の研究室が、城のどこかに存在しているはず。彼がいるとしたらそこだろう。どこにあるかまでは把握できないが、そもそも城の中に入れなければ研究室を探すことも出来ない。兵士に見つからないようにするのも至難だろう。

 

「何かいい作戦無い、シエル?」

 

「う~~ん…」

 

ハッピーに尋ねられ、腕を組んで唸るシエル。こういう時、すぐさま状況を判断して作戦を組み立てられるのはシエルの得意技だ。今ある情報をもとにして、何が有効的なのかを割り出し、見つけ、組み立てる。その中で一番通用しそうなものは…。

 

 

 

「俺がエドラスの俺の生き別れた弟と偽って、どうしても会いたいと懇願して兵士に堂々と案内してもらう?」

 

「天才か!!?」

「確実に行けるねそれ!!」

 

「でもそれ、バレたら速攻で危ないんじゃ…」

 

「シエルも何だか自信なさげだし…」

 

対象が異世界の自分なら、自分自身の容姿を利用しようという魂胆だった。既にエドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)から面影がある、よく似ていると太鼓判を押されている。だからそれを活かして、面識もまだないけど実は存在していた弟として接触する、というもの。即興にしては凝ってんな、やけに…。

 

だがしかし即興故か、シエル自身も考えはしたが、どうにも自信がないらしい。顎に拳をつけて首を横に傾げながら口にしていたため、思いっきり不安要素を感じさせるものになってしまった。思いっきり推しているのはナツとハッピーのみである。

 

「却下よ。アンタ一人だけはリスクが高すぎるわ」

 

そして呆れながらジト目を向けて、シャルルがズバッとその即興作戦を切り捨てた。これにはシエルも、ウェンディたちも否定しない。苦笑を浮かべるだけである。ナツだけは「いい作戦だと思ったんだけどなー」と不貞腐れていた。

 

「それに、近づける方法なら既にあるわ」

 

だが続けざまに言いながら、今までずっと何かを書いていた紙を手に持って、それをこちらに見せてくる。それを聞いた全員が、紙に書かれたものに注目して目を見開いた。書かれていたのは王都の簡易的な地図。中心に王城。そこから北西の方角の町外れに、坑道が存在していて、そこに向かう地図になっている。

 

元々この坑道は、城からの脱出経路だったらしい。つまり城の地下へと繋がっていて、正門の警備をすり抜けて、城の中へと入り込むことが出来るそうだ。

 

「すごい!何で知ってるの!?」

 

「情報よ。断片的に浮かんでくるの。エドラスに来てから、少しずつ地理の情報が追加されるようになったわ」

 

歓声交じりに尋ねたウェンディにそう答えるシャルル。先程から書いていた途中で唸っていたりしたのは、その情報を整理して紙に映していたからのようだ。だが彼女のその言葉を聞いたハッピーは、目に見えて落胆をその顔に浮かべている。

 

「オイラは全然だよ…」

 

シャルルには少しずつ地理の情報が浮かんでくるのに、自分はさっぱり。結局使命の事も思い出せないまま。どうして自分にはそれが浮かんでこないのだろう。ハッピーはそれがより不安となって圧し掛かる。

 

「とにかく、そこから城に潜入できれば、何とかなるかも!」

 

「上手く行けば、味方を一人増やせるだろうしね!」

 

城への潜入経路は把握できた。唯一王国の中で味方に出来そうな人物も判明している。後はその場で随時的確な判断をしていけば、希望はある。

 

「うぉーし!みんなを元に戻すぞー!!」

「はい!!」

「あいさー!!」

 

そうと決まったら行動あるのみ。やる気に満ちるナツを筆頭に、ウェンディとハッピーもそれに続く。

 

「待って」

「今度は何だよ!?」

 

だがその勢いも再びシャルルによって遮られた。一度目と違ってちゃんと作戦も立てたのに止められて、目玉が飛び出るほどのリアクションをしながらナツが叫ぶ。

 

「出発は夜よ。今は少しでも休みましょ」

 

言われてみれば、王都に着いてから精神的に波乱が多く、心休まらずと言ったところだった。更に言えば夜の方が人目につけられにくい。逸る気持ちを抑え、確実に成功させるために、夜が更けるまで一行はその身を休ませるのだった。




おまけ風次回予告

ナツ「よーし!王都にもついたし、みんなの場所も分かったし、あとはエドシエルから戻し方聞くだけだぜ!燃えてきたぁ!!」

シエル「ちょっとは静かにしてよ!夜中は声の反響がより伝わりやすいんだから…!」

ナツ「心配ねえって!誰もいないとこから入りこみゃいいんだろ?簡単簡単!」

シエル「その誰もいないところに誰かが待ち構えていたら、一体どうするつもりなんだよ…?」

次回『真夜中の潜入作戦』

ナツ「そん時ゃあれだ!あの…エドシエルの生き別れの弟って誤魔化して…」

シエル「それ俺の事だから!つかその作戦却下されたじゃん!」

ナツ「んじゃこっちのオレの弟ってことで!!(焦)」

シエル「お前ホントにみんな助ける気あんのか!!?(怒)」
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