何だか随分と待たせてしまっているようで…お気に入りがやたらと減っていて物悲しさを覚えます…。
更に悲しいことに毎日毎日仕事の量が増えて言って全く片付きません…。来週の土曜も仕事…更新は休み…エドラス編終わるのいつになる…!?(泣)
昼間は魔法に溢れ、遊園地のような活気を見せていた王都。さしものこの場所でも、もうすぐ日が変わろうとしている深夜の頃になれば、人もおらず静寂が街の中を包み込む。本来であれば、街中に人など出てくることがない時間帯。だが、暗く静かな王都の中を、外へと向けて数人の影が駆けていた。
先頭には白い毛を持った二足歩行のネコ。その後ろを、それぞれ成人している男女と成人未満の男女、そして青いネコが追随する。
「坑道の入り口は、この先もうすぐよ!」
自らに与えられていた情報を頼りに書きだした地図を見ながら、先頭の白ネコ・シャルルが言葉を紡ぐ。しばらく彼女の進む通りについて行くと、木枠で通路が支えられた岩の通路…坑道の入り口が確かにあった。彼女の言っていた通りだ。
「ここか…?」
「ええ、間違いない」
「よ~し!」
シエルが確認のために尋ねると、確信を持った答えをシャルルが告げる。それを聞いたナツは、早速乗り込もうと坑道の中へと足を踏み入れる。
「待って」
「またかよ!?三回目だぞ!!」
しかし夕方の時同様先走って動き始めるナツをシャルルが制止し、対してナツも抗議のように声をあげる。
「逸る気持ちは分かるけど落ち着いて。明かりが無ければ進めないわ」
使われなくなってから随分時が経っている通路だ。勿論そんな道に明かりとなるものが置いてあるわけもなく、坑道の中は暗闇。故に道標を探すための明かりが必要となる。彼女のその説明を聞いたナツは意気揚々と右手を構えると…。
「そんなもん…オレに任せろ!!」
己の魔法で火を起こせば、明かりなどいくらでも作れる。そう思い至って前へと突き出す。しかし、その手には火の粉一つさえ起らず、それを目にして気付いたナツが「あ」と声をあげて固まった。
「ほら忘れてる。今の私たち、魔法が使えないのよ」
どうにも使えていた時の癖が抜けていないようだ。しばらく居心地悪そうに固まっていたナツは苛立ちながら近くにあった小石を蹴り飛ばし、坑道の奥へと飛んで行った石が、どこか虚しく反響音を響かせる。
「魔法を使えるのがルーシィだけじゃ、やっぱりちょっと頼りないね」
「悪かったわね、頼りなくて」
「あっ、ごめん、聞こえちゃった…?」
ナツやシエルが魔法を使えていれば、戦力的にも、今の明かりについても問題なかったのだが、意外と汎用性が少ないルーシィのみが魔法を使える状況に、ハッピーがぼやく。そんな彼の言葉はしっかり耳に届き、何かを持ってきたルーシィが声をあげるとハッピーは途端に狼狽する。
「ルーシィさん、それは?」
と、ルーシィがどこからか持ってきたそれに気付いたウェンディが尋ねれば、得意げに笑いながら彼女はそれを示した。
「
「へぇ~、それで?ナツも今出せないその火は、どうやって調達するの?」
「そ…それは…」
両手に掲げて坑道の入り口から見えていた高床式の小屋を指し示し、残りは火のみが必要なところまで準備を整えていたことを語る。気が回ることは十分伝わったのだが、その松明を活用するための火が、結局どこにもないために、腕を組んで半目を向けながら告げたシエルに、ルーシィは言葉を詰まらせた。やっぱりノープランだったらしい。
そして彼らがとった方法と言うのは、木の板の上に細い木の棒を押し付けて回し、摩擦熱で発火させる原始的なもの、通称『キリモミ式』だ。ナツとルーシィがそれぞれ必死に両掌を使って木の棒を回し続けている。その様子を、板と棒の数の関係上、余ったウェンディとネコ二匹が眺めている。
「何でオレがこんな事しなきゃなんねぇんだよ…!」
「仕方ないでしょ…!?無くなって初めて分かる魔法のありがたみってとこよね…!」
坑道の入り口前でやる事にしては随分地味で手間のかかる作業だ。しかしアースランドの方でも魔法が発見される前の時代、この原始的な方法で古代の人々は火をつけていたのだ。その発想力と行動は、現代の人間から見れば凄いと思わせるものだ。
現にナツは力の入れ方を間違えたのか、棒の先が折れてしまい投げ出してしまった。
「んがー!全然ダメだ!」
「思ったより難しいものなのね…」
体感的にはかなりの時間を使ってこの作業を行っている。だが一向に火がつく気配がないため、ルーシィの方も半ばお手上げと言いたげの表情だ。
「ルーシィはともかく、火の魔導士のナツが火を起こせないって言うのも、なんだかおかしな話だなぁ」
「う、うっせ!つか、お前どこ行ってたんだよ…?」
坑道の入り口の森の中から、先程まで姿を消していたシエルがそう声をかけながら出てきた。「ちょっと探し物~」と言いながら森の中に入っていき、残された者たちが首を傾げていたものだ。それは見つかったらしいのか、先程まで持っていたなかった何かを両手にそれぞれ持っているのが見える。
「魔法も使えない。先人の知恵も上手くいかない。だったら俺たちに出来ることと言えば…今ある物で簡単にやりこなす工夫さ」
そう笑みを向けながら、彼はそれぞれの手に持っていたものを掲げてナツたちに見せてみる。それは…。
「紐を巻いた棒と…」
「石ころ…?」
右手に持っていたのは長さ10cm程の紐を、同じ長さの棒の両端に結びつけた棒。左手に持っていたのは少しへこみのついた握り拳大程の石。これがシエルの言う工夫に、どう関係しているのか?
ルーシィが火起こしに使っていた棒を受け取り、その棒を紐に通して一巻きしている形に。その状態で再び板の上に棒を置き、更にその上から石のへこんでいる部分を棒に固定、そこから紐のついている方の棒を前後に動かしていく。
「ここをこうして、それをあとは早く動かせば…!」
「さっきと比べると確かに点きそうだけど…」
「出来んのかよ?」
場にいる全員がシエルの火起こしを、ナツとルーシィがやっていた方法と比べると確かにやりやすそうなその方法を半信半疑で眺めている。
しばらく黙々と紐がついている方の棒を動かして摩擦させていると、少しへこみがついた板から少しばかり煙が出始める。
「あ、点きそうですよ!」
「よし、このまま…!」
声に出たウェンディ、そして他の面々も目を見張ってそれを見る中、シエルは棒を動かす速度をさらに上げる。最初は煙、その量は少しずつ増えていき、小さく火花が発生。そこから更に続けていくとついに摩擦していた部分が着火。成功した。
「点いた!」
「やった!」
「マジで!?」
その様子を見た一同が歓喜と驚愕に湧き立ち、着火させた少年はそれなりに腕を動かしたからか額の汗を腕で拭いながら一息つく。その間に、ルーシィが用意していた松明に火をつけると布の部分に燃え移り、染み込ませた油の力もあって十分な明るさを保ち出した。
「松明完成ー!!」
「やり方一つで簡単に出来るようになるもんだね」
「やるものねオスガキ。どっかの誰かとは大違い」
「いーじゃねぇか、シエルが出したんだから」
火のついた松明を掲げながら喜ぶルーシィ。工夫一つで簡単に火をつけたことにハッピーもシャルルも感心し、一言付け加えて呟きながらナツの方へと目を向けると、バツの悪そうな顔で目を逸らす。
「シエル、カッコよかったよ!」
「へっ!?い、いや~このくらいは~!あはははは…!!」
シエルが松明に火を移したため、種火となった方の板と棒の火消しをしていると、横からウェンディが顔を輝かせて彼を誉める。ストレートながらも彼を喜ばせるには十分すぎるそれは、途端にシエルの顔を赤くさせ、誤魔化すように視線をそっぽ向けてわざとらしく振舞ってる。
「ん~…」
「どうしたの?」
もう一本の松明を手に持ち、ルーシィが持っていた方から火を移して灯したナツが、勢いよく燃えている赤い炎を一点に見つめて何か唸っているのを、ハッピーが尋ねる。すると何を思ったのかその火を大きく口を開いてに含み、食べてしまった。思わずハッピーを始めとして場にいる者たちが驚くが、すぐにナツの意図は理解できた。
「あ、そっか。火を食べたらひょっとして…」
火を食べることで魔力や体力の回復、及び強化が可能であるナツの魔法。魔法が使えなくなったエドラスと言えど、火を食べることが出来たという事はその性質自体は適応されているのでは?と言う事は、火を食べた状態なら魔法を使えるのでは?と言う推察だ。もごもごと口を動かして飲み込んだナツ。魔法は使えるようになったのか?
「ここんとこが熱くなってきた」
胸と腹のちょうど中間部分を指さしながら答える。もしかしたらもしかするかも。ハッピーの期待がさらに膨れ上がる。
「それ魔法な感じ!?」
「感じ…かもしれねぇぞ!!」
「いいかもいいかも!行ってみよう、復活の狼煙!火竜の鉄拳!!」
ルーシィも加わって期待の眼差しを向けながら、いよいよ滅竜魔法の復活と言いたげに囃し立て、ナツのやる気に火が灯る。
「おう!行っけー-!!」
強く握りしめた右の拳を引き、思いっきり突き出して炎を纏った拳を突き出すナツ。そしてその拳は…。
火の粉一つとして出さないまま、虚空を切っていた。
「……はぁ…ダメか…」
火を食べても結局魔法は使えずじまい。期待外れとなった結果に、ナツは肩を落として落胆した。
「そう都合よくはいかないか~」
「そーゆーの、悪あがきって言うのよ」
同じように落胆を込めた苦笑いを浮かべたシエルと、初めから予感を感じていたシャルルがナツとすれ違いざまに口を挟んで坑道の入り口へと歩き始める。ちなみにナツが持ってた松明は、シエルが改めて火を点け直して持っていた。
「こっちの火食ったら、魔法が使えると思ったんだよ!!」
そんな言葉を叫びながら、落ち込んでいたナツが復活して、先に進んで言った仲間たちの後を追い始めた。
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松明による明かりがあるおかげで奥へ奥へと進むことが出来ているが、坑道内の様子を見ると随分長く使われていないことがよく分かる。支えとなる木枠が一部腐食してとれていたり、作業に使われていたと思われるスコップやつるはし、酒が入っていたと思われる空き瓶の残骸などが散乱していて、荒れ放題と言う言葉がまさに似合う。
すると、地図を広げて先頭を歩いていたシャルルが突如立ち止まり、それを見たウェンディも、同じように立ち止まった。
「この先、照らして」
シャルルの言葉の通りに、ウェンディが持っていた松明で前方の先を照らし出すと、一見すれば何枚もの板と岩で封鎖された行き止まり。板の一枚には、作業の際の目印なのか、「KY-2c」と彫られている。
「ここよ」
どうやらこの先に、王城へとつながる道が続いているらしい。試しにルーシィが二回ほどその岩壁をノックしてみると、随分と鈍い音が耳に響く。かなりの厚さがあるそうだ。
「しかもこれ、魔法でコーティングされてる」
「これじゃ進めねーぞ」
「でも間違いないわ。この先に脱出経路があるはずなのよ」
他の道は見当たらず、シャルルの情報ではここで間違いないはず。だったら壊すしかなさそうだ。幸いナツたちはともかく、ルーシィになら、壊せる方法が存在する。
「こんな時こそあたしの出番よ!開け、金牛宮の扉!タウロス!!」
牡牛座のマークが入った金の鍵を掲げ呼び出したのは、ルーシィが呼べる星霊の中で一番のパワーを誇る筋骨隆々の体をした、ホルスタイン柄の牛。彼ならば分厚い石の壁であろうと破壊することが可能であるはず。
「そりゃあ
「思いっきりやっちゃって!!」
「やっちゃいます!!」
拳を鳴らしながら石の壁へと歩み寄り、タウロスは左の拳を引いて思い切り突き出し、壁を破壊し始める。強靭な膂力と剛腕によって生み出されるその破壊力は、ただの力押しとはいえ木枠で補強された石の壁を容易く粉砕していく。
「おおっ!スッゲェ!」
「いや~それ程です!」
純粋なパワーによる活躍を目の前にし、感心の声をあげるナツに対して鼻が長くなったように見えるルーシィがどや顔を決める。何回か拳を振りぬいたことにより、壁は最早跡形もなくなり、破壊の後には奥へと続く通路が現れた。シャルルの情報通りだ。
「ざっとこんなもんです、ルーシィさん!」
「ありがとう、タウロス!」
「
一仕事を終えて自慢げでいるタウロスに対して彼女がお礼を告げる。だが、ルーシィのその言葉に、タウロスは物足りなさそうな反応を見せた。何かおかしかったのか?そんな思いを込めて一応ルーシィが確認をとると…。
「感謝の印に、是非と
「そのエロい目はやめてってば…」
個人的に如何わしいお礼を期待してスケベな目線を向ける彼を、ルーシィはすぐさま強制閉門で星霊界へと返した。頼もしいのだがこの性格はやはり未だに慣れる気がしない。
「ちゃんと城の地下に繋がってればいいけど…」
「情報は正しかったもの。この先だってきっと…」
確かに存在していた脱出への
浮かない顔をしているのはシャルルだけではない。彼女と同じ種族であるハッピーも同様だ。
「ん?どうした、ハッピー?」
「……ねえ、何でオイラには“情報”ってのが無いんだろう?」
ハッピーが浮かない顔をしていた理由。それはシャルルが頭の中に浮かんでくるという情報の事。彼もまたシャルルと同じようにエドラスから送られ、使命を受けて生まれたはずの存在。だが、エドラスに来てからハッピーの中には、与えられた使命どころか、シャルルが受け取っているようなエドラスの情報さえも、一切浮かばない。
「その話はしない約束でしょ?」
「…あい…」
そんな彼にシャルルはエドラスに来る直前にした約束を話に出して、これ以上の事を言わせないようにする。それは分かっているが、ハッピーにとってはただ不思議で疑問に感じずにはいられないというのが本音。
「私にもわからないわ。アンタみたいなケースは」
とは言え、シャルル自身もまだ分からないことが多い。例外など存在しないはずの自分たちと言う存在において、ハッピーのように何一つ情報が与えられていない存在がいるとは、送られる情報の中にもなかったから。
「ハッピーの気持ち、ちょっと分かるよ」
するとシエルが、ハッピーに向けて言ってきた。ハッピーの例とはまた別ではあるが、シエルも直近で似たような思いを感じたことがある。
「どうして自分は他とは違うのか…。自分が一体、何の為に生まれたのか…。他にある物が無くて、他に無い物があって、自分って一体何なんだろうって感覚」
シエルがずっと疑問に感じていること。自分自身の中にある、謎の爆発を起こす力。今の今まで…それこそこの一年の間に何度も発生したその力は、一体いつから自分にあったのか。そもそも生まれた時から本当は備わっていたのか。だがそれに答えられる者がいない故に、得体が知れなくて不気味さを感じている。
ベクトルは違うが、ハッピーが感じているものは、それに似て非なるものではないかとシエルは思った。
「何だ。んなもん、簡単じゃねーか」
だがシエルとハッピーのその疑問と思いを、ナツはたった一言で一蹴した。その言葉を聞いて二人は、俯かせていた顔をあげ、彼に目を移す。
「ハッピーはハッピーだし、シエルはシエルだろ?それ以外に何があるって言うんだ?」
何てことない、と言いたげに口元を吊り上げて言い切ったナツ。それに対して二人は反論することが出来なかった。いや、そもそも反論できる要素がなかったとも言える。解決されていないように思えて、本当の意味で大事な部分はそうあるべきではないか、ナツの言葉からはそう感じ取れた。
「さ、そろそろ先に進みましょ」
彼らの悩みを幾分か払拭したナツに、どこか笑みを向けながらルーシィが言う。あまり長くここで時間を費やすのも意味がない。彼らは再び歩を進め始めた。
道なりに行動の通路を進んではいるものの、代わり映えがしない上、所々が長時間放置された故の風化によって削れている部分も目立つ。
「今にも崩れそうだな…」
「ふ、不吉な事言わないでよ!」
「でも、本当に古い坑道ですね」
「放置されてから十年以上は経ってそうだ」
「お化けとかいるかな…?」
あまりにも静かな上に薄暗い場所であるからか、良くない想像が飛び交い始める。崩れでもしたら生き埋めになってしまうし、奇妙な存在などが出てきたとして、対処できるかもわからない。すると、徐に歩を進めていたナツが立ち止まり、とある一点を見つめ始めた。
その表情は、何か衝撃的なものを目撃したかのような顔。
「ど、どうしたのナツ…!?何かあった…!?」
某叫びのような悍ましい何かを見る表情になったルーシィが彼に問うと、松明を持っているシエルに「ちょっとこっちに近づけてみろ」と指示を出す。言われるがままシエルがナツの近くに明かりを向けると、彼は横の壁の方へとゆっくり近づいていく。
「な…何何何何何よぉ~!!」
「動くなよ…?」
真剣な眼差しと声で彼らに告げるナツ。一体彼は、何を見たというのか。その答えはすぐに明かされた。
「『ウホ!ウホホホホ!ここはオレ様の縄張りだぁ!!ウホホホホホ!!』」
明かりを利用して恐竜のような影絵を作り出して遊び始めた。さっきまでの緊張感が一気に霧散するような空気が流れ始める。そして近くで松明を構えていたシエルは、何も口に出さずに右足を上げると、「ふん!」と言う声と共に遊んでいたナツの両手を石壁に踏みつけた。
「いってぇ~!?何すんだいきなりィ!?」
「縄張りの主が邪魔だったから踏み潰しただけだ」
痛みに悶えてシエルに詰め寄るナツに対して、一気に緊張感を無くされて苛立っていたシエルが答える。だからっていきなり踏み潰すことはないだろと抗議したが、遊んでいたナツが悪い、と満場一致で決定された。ナツの味方は誰もいなかったのだが、当然である。
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「こっちよ……う~ん、次はこっち……そこ曲がって……あ、そこ左よ」
そこからは順調に進んでいき、シャルルの正確な指示の通りに歩を動かす。そして最後に木枠で補強された場所から随分と開けたところに出たと思いきや、とてつもなく広大な地下空洞の中へと出てくることが出来た。
「何か広いところに出たわね…!」
「どうやら、ここから城の地下へと繋がってそうね」
分かりやすい大空洞。辺りは自然に発生していると思われる、青や緑に発光するキノコが所々に存在している。そしてシャルルの言葉の通りなら、城のすぐ真下の位置になるのだろう。
「原理は分かんないけど、シャルルがいてくれて本当に助かったよ」
「私にも分からないわよ。次々と情報が浮かんでくるの」
「ありがとう、シャルル」
「礼を言うならみんなを助けてからにして」
ここまではシャルルにもたらされる情報のおかげで進むことが出来た。だがここからが本番。城の中に入ってからは、兵隊たちに見つからないように研究室へ。そしてそこでエドラスのシエルとコンタクトをとり、
「いざって時は、あたしの魔法があるんだけどねー!」
「あんま期待できねーけどな。シエルの作戦の方がマシだ」
「ぅぐっ…!!」
自信満々と言った様子でルーシィが堂々と告げるが、シッカの街でのことを根に持っているらしいナツが無気力気味にぼやく。ナツからすれば、エドシエルの生き別れた弟設定で演技する彼の作戦を応用する方が効果的に感じるらしい。
「忍び込んだところを見つかったらどのみち不審がられるけど…何とかするか…」
「ハッピー、行きましょ」
「……あい!」
小声でナツが言ってた作戦についてのリスクが存在することをぼやくシエルが通り過ぎる中、ハッピーはウェンディに言われ、決意を新たに彼らの後を追いかける。
だがその時、背後から白い触手の形のようなものが飛んできて、ルーシィの上半身を拘束する。唐突な出来事にルーシィは悲鳴を上げるも、避けることは叶わなかった。
「「ルーシィ!?」」
「ルーシィさん!?」
「な、何…これ…!?」
白いものは粘り気があり、気付けば別の方向にも伸びて彼女の動きを完全に封じる。触手と言うより、餅のようだ。しかもルーシィだけでは終わらない。
「っ!ウェンディ危な…うわっ!!」
「シエル!?きゃあ!!」
「シエル!ウェン…ふぉぼっ!?」
ウェンディを狙って飛んできた餅から身を挺して庇いシエルが、それを見て動揺したところを背後からウェンディが、そして更には何故か唯一口元にまで餅が飛んできたナツまでもが、同様に拘束される。
「う…動けない…!」
全く身動きが取れなくなった状態。そこに、鎧が揺れる音を響かせながら、こちらへと近づいてくる集団の姿が目に入る。ルーエン、シッカでも見かけた王国軍の兵士たちが、数十人もどこからともなく現れ、シエルたちを拘束している餅を、魔法と思われる杖で持っている者が計8人、それ以外は全員槍を構えて、こちらに突き付けている。完全に包囲された状態だ。
「兵隊!?」
「何でこんな坑道にこれだけの!?」
長い間廃棄されていたはずの坑道、そこから繋がる城の地下。そこに配するにしては不自然と言える規模の兵士の数。何故見つかってしまったのかと疑問を口にする者がいるが、シエルはある種確信していた。
「(こいつら…俺たちがここに来ることが分かっていた…!でも何故…!?)」
事前に予見していなければ絶対にこのような対処を行えない。にも関わらずピタリと自分たちの思惑を読まれていた。だとしたらどうやって。瞬時に頭を回転させたシエルは、思い至ってしまった。最悪の想像を。
『私は向こう側の世界『エドラス』から来たの』
『私たちには、エドラスの知識や自分の使命が刷り込まれてる』
『情報よ。断片的に浮かんでくるの。エドラスに来てから、少しずつ地理の情報が追加されるようになったわ』
『最後に…私とオスネコがあなたたちを裏切るような事があったら…躊躇わず殺しなさい』
そしてシエルの視線は、思わずシャルルの方へと向けられる。彼女の表情にあったのは困惑。彼女自身も、想定していた事とは違う出来事が起きていることに衝撃を受けているらしい。と言う事は、考えられるのは…。
「(シャルルを介して…シャルルを含む俺たち全員が嵌められた…!?)」
シャルルが告げた侵入経路は本物だった。だが侵入計画自体がもし、王国軍に筒抜けだったとしたら?
「こいつらがアースランドの魔導士か」
頭の中で情報を整理していると、彼らの耳に聞き馴染みのある女性の声が届いた。それは自分たちが知っている彼女と、ご丁寧にしゃべり方まで酷似している。
黒を基調としたビキニアーマーを装備に、少しうねりのある緋色の長い髪を、後頭部のてっぺんで纏めているその女性。知っている彼女とは恐らく別人。しかし彼女が誰なのか、すぐに
「エルザ!!」
王国軍第二魔戦部隊隊長…妖精狩りのエルザ・ナイトウォーカー。このような状況での、まさかの邂逅となった。
「ナツ・
聞き馴染みのないファミリーネーム。恐らくエドラスのナツとルーシィの事だろう。こちらのエルザも、知っている人物と何の違いもないアースランドの魔導士たちの姿を見て、少しばかり驚いている様子だ。すると、囚われている魔導士の中で、エルザはシエルを目に移すと、「ん…?」と声を出して彼の方へと近づいていく。
突如自分の方に近づいてきたエルザを見て、自分たちが知る彼女と重なって見えたシエルは、敵であることが分かっていてもどこか警戒が緩み始めていた。
「貴様…まさか
エルザから出てきたその言葉に、本人は勿論、仲間たちも僅かばかりに驚きを表した。パッと見るだけではエドラスの仲間たちも気付けなかった少年の正体に、少しばかり凝視しただけで気づけるとは思わなかった。シエルと言う名が出たことで、兵士たちにも少しばかり動揺が走っている。
「ふっふふ…これは滑稽だな。あの憎たらしい引きこもり男が、別の世界ではこんな子供の姿とは。とは言えよく似ている…」
彼らの反応から正解であることを察したエルザは、途端に表情に嘲笑を浮かべて、明らかにシエルの姿をバカにする言動を口にしている。やはり元の世界とは幾分か違うのか、と少しばかり落胆を抱えながらも表情には出さずに気丈に振舞っていたシエル。だが、見下すような目と笑みをさらに深くしたエルザを視認した時…。
彼女は何の前触れもなく、右の拳でシエルの左頬を思い切り殴った。
「シエルッ!!」
「
「エルザ、どうして!?」
突如少年が殴られた事で悲鳴を上げるウェンディ、対してナツとルーシィはそれぞれ、唐突なエルザの行動に怒りと困惑を表す。一方で殴られたシエルは口を切ったのか左の端から血が出てきていて、エルザに向けて困惑、苛立ち、悲しみが入り混じった表情で彼女を見上げる。それを見たエルザは更に機嫌を良くしたような表情を浮かべながら…。
「貴様を甚振りたい気持ちはまだあるが、残念な事に時間がない。連れていけ」
「はっ!」
時間がないという理由と共にシエルたちを拘束している兵士たちに命じると、餅の魔法を所持している兵士たちが彼らの連行を始め、その影響で全員立っていられず倒れ、引きずられていく。
「はばへー!」
「エルザ…!話を聞いて!!ねえ!」
「ウェンディ!!」
「ナツ!ルーシィ!シエル!」
連行されていく魔導士たち。そんな彼らを、何故か拘束されていなかったネコたちが、助けようと駆け出していく。しかし手放され、落ちていた松明を間にし、彼らの行く手をエルザが阻む。身長差の影響で彼らを威圧的に見下ろす彼女の視線に、思わず二匹の足が止まってしまう。
突破できそうにない。助け出せないのか、同じように捕らえられるのか。そんな考えをしていたハッピーの予想は、まさかの形で裏切られた。
「エクシード…」
「「え…!?」」
何度もエドラスで聞いてきたその種族の名前を口にするエルザ。そして次の瞬間、周りにいたほぼすべての兵士たちが…シエルたちを連行している者たち以外の全兵士が、ハッピーたちに向けて片膝をつき、左手に胸を当てて首を垂れる。兵士だけでない。エルザも同様だ。まるで目上の者に…それこそ国王に対して行うような敬礼にも似た構え。
「おかえりなさいませ。エクシード」
エクシード。ネコのような見た目を持つ彼らに向けて告げられた種族の名。シエルが予感していた内容は、的中していたことになる。
しかし、魔戦部隊の隊長であるエルザが、最大限の敬意を示すような種族であることは、全くもって予想が出来なかった。
「ハッピー…シャルル…あなたたち一体…!?」
目の前の光景にただただ困惑し、絶句するアースランドの仲間たち。その中で、シャルルの耳に届いたウェンディの声、目に入った彼女の顔。それを理解し、そして予感したシャルルは、大きな動揺を露わにしていた。
「侵入者の連行。ご苦労様でした」
まるで彼女にかけられた言葉に、何か強い後悔を感じているような彼女の様子に、ハッピーは彼女に対して困惑を向けていた。
────────────────────────────────────────
「んがっ!!」
「きゃ!!」
乱雑に蹴り飛ばされて、その空間に入った途端に上から歪な形の鉄格子が降り、青年と少女を閉じ込める。青年の方はすぐさま体勢を立て直して、自分を牢の中に今閉じ込めた一人の青年に向けて突っかかる。
「…んの野郎!みんなはどこだぁ!?」
「みんな?」
「シエルとルーシィさんと、シャルルとハッピーです!!」
捕まった方の青年と少女…ナツとウェンディは、自分たちを閉じ込めた青年に向けて他の仲間たちの所在を聞き出そうとする。それを聞いた青年は、ウェンディが告げた仲間たちの名前の一つに反応を示す。
「シエルだぁ?…ああ、ガキの方か。確かにスッゲェ似てたな!あれがシエルかよ、ウケる!!」
「答えてください!!」
紫色の短い髪に、右側のみが白いメッシュがかかった軽薄そうな青年は、恐らく知っているであろうシエルと言う名前の人物と、連行された少年の顔を脳内で見比べ、面影があるのに気づいたのか愉快そうに笑っている。しかしそれが癪に障ったのか、ウェンディは珍しく声を荒げる。
「確かエルザが、あいつを甚振って遊びたがってるから、最悪死ぬことはないんじゃねぇかな?で、ルーシィってのはあの女の事だろ?悪ィけどそっちはマジで用が無いんだ。処刑されんじゃね?」
片方は玩具代わりに、もう片方は容赦なく処刑。どのみち未来が見えない仕打ちに、ウェンディは顔を青くして言葉を失っている。対して、ナツの方は手に掴んでいる鉄格子に、勢いよく額をぶつけて、目の前の青年も、そばにいる兵士たちも少なからず驚かせる。
「ルーシィに少しでもキズをつけてみろ…!!てめえ等全員…灰にしてやるからな!!!」
強い勢いでぶつけたことによって血が出てくるも、彼は一切気に留めない。ルーシィの…仲間の命を危険に晒されていることに対して、大きな怒りを表している。親の仇を見るかのように睨みつけながらも、睨まれた本人は「おお!スッゲェ
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魔科学研が活動する研究室。その中にある机の上に書類をいくつか並べながら、一人の青年がそれに目を通して、思案をしていた。
「全てここにある計画通り、か…」
数年前…それこそ彼が魔科学研に…王国軍に入るより前に、
それを朝早くに耳にした彼は、記憶の中に入っていたその計画が、寸分の狂いもなく進行されていた事に対して、どこか不気味さを感じてすらいた。だが、結果的にこの計画は自分たちの為にもなる。大いに利用させた貰おうと改めて決意し、その場から立ち上がる。
すると、まるでタイミングを計ったかのように一人の兵士がノックを叩き、研究室へと入室してきた。
「シエル部長!
「分かった、今向かう」
切れ長の目をその兵士に向けながらも、広げていた書類を丁寧にまとめ、束となったそれを机の端に置いておき、彼は研究室から退出した。
書類に書かれていたのは、エクシードと言う種族の、子供たちに刷り込まれた使命について書かれていた。一部の文字が横線二本によって消されており、突如の変更があったことを表している。
『
消されていた文字は…『抹殺』
おまけ風次回予告
ナツ「これか?それともこうか!?ん~違うなぁ…」
シエル「何やってんの、ナツ?」
ナツ「ほら!今のオレたち魔法が使えねーだろ?けどもし魔法が戻った時、元の通りに戦えなかったら困るからよ。今のうちに戻った時の練習してるんだ!」
シエル「けど、なんだか納得がいってないんだ?」
ナツ「そーなんだよ、何かが違うんだよな~」
次回『あなたは違う』
シエル「例えばどんな感じ?」
ナツ「そうだなぁ…こう本当ならメラメラと燃えるような…グレイ相手にも一撃で倒せる攻撃とか…エルザやペルにも…!」
シエル「ナツ…それは戻った時の前提が違うからだね…」