FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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今回は、色んな切りどころを模索したのですが、どうやっても微妙になってしまうため、微妙な終わり方になってしまっています。申し訳ない…。

勘のいい方はお気づきかもしれませんが、セリフが数名で被る際の表現は

二人の場合:「「セリフ」」

三人以上の大多数の場合:『セリフ』

と分けております。ちなみに呪歌(ララバイ)のセリフも『これ』にしていますが、他に良い表現が浮かびませんでした。(汗)


第7話 ナツ vs. エルザ

闇ギルド・鉄の森(アイゼンヴァルト)によるギルドマスターたちを狙ったテロ事件は、一躍ニュースとなり国中に知れ渡った。事件を食い止めた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の者たちによる被害も大きかったが、たった4、5人ほどで一つのギルドを壊滅するまでに追い込んだこともまた事実。世間の妖精の尻尾(フェアリーテイル)の知名度はまたさらに広がることとなった。

 

そして鉄の森(アイゼンヴァルト)の者たちは、最後に降伏したカゲヤマを含め、ほとんどの者たちが軍に逮捕されたらしい。唯一捕まっていないのは、ギルドのエースでもあったエリゴール。ナツによって戦闘不能になったものの、事件が収束した時にはすでに消息不明となっていた。もし、改心していなかった場合、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に復讐しに来るのではないかと懸念する者(主にルーシィ)もいるが、しばらくは問題とならないであろう。仲間が全員捕まった状態では、すぐに行動に移せるとは思えない。

 

そしてそんな事件の中心、と言うより鉄の森(アイゼンヴァルト)の壊滅と怪物・呪歌(ララバイ)の討伐に大いに貢献した妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士の一人であるシエルは現在…。

 

「本日も晴天なり。絶好の決闘日和だね~」

 

仕事場である妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドの前にてとある二人の人物を取り囲み、各々盛り上がりを見せる魔導士たちの輪の中に混じり、その成行きを見守っていた。囲まれている二人の人物とは、一人が桜色のツンツン頭と、白い鱗柄のマフラーが特徴的な青年、ナツ・ドラグニル。もう一人が長い緋色の髪と上半身の鎧姿が特徴的な女性、エルザ・スカーレット。今日ここで、『火竜(サラマンダー)』と呼ばれる滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)のナツと、妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の女魔導士である『妖精女王(ティターニア)』のエルザが、勝負を繰り広げるのだ。

 

「ちょ、ちょっと!!本気なの二人とも!?」

 

「あら、ルーシィ」

 

「本気も本気!本気でやらねば漢ではない!!」

 

「エルザは女の子よ?」

 

「怪物のメスさ…」

 

輪の外から今到着したらしい金髪のサイドテールの少女、ルーシィが数人を押しのけながら登場。まさか本気で二人が戦うことになることを考えていなかったそうだ。そんなルーシィとは対照的に、周りの魔導士たちはほとんどが止める気もなくむしろ待ち遠しそうにしている。

 

「だって…最強チームの二人が激突したら…!」

 

「最強チーム?何だそりゃ」

 

「あんたとナツとエルザ、それからシエルじゃない!妖精の尻尾(フェアリーテイル)トップ4でしょ!」

 

「え、俺も入ってんの?」

 

ルーシィが発した『最強チーム』と言う単語に疑問を示したグレイ。それに返したルーシィの告げたチームのメンバーに自分も加わっていたことにシエルはつい反射で聞き返したが、ルーシィの中では多数の魔導士を一気に撃破したシエルも最強枠に組み込まれているらしい。覆すことは出来なさそうだ。

 

「くだんねェ!誰がそんなこと言ったんだよ」

 

対してグレイは最強チームという呼び名はあまり好印象ではないらしく、鼻で笑いながら言い捨てた。だが、その言葉は運悪く耳に入ってしまったのだ。彼のすぐそばで笑顔を浮かべていた、最強チームの言い出しっぺであるミラジェーンに…。そして彼女は両手で顔を隠しながらすすり泣く。その行動だけで悪態をついていたグレイは察した。

 

「あ…ミラちゃんだったんだ…」

 

「あ~、泣かした~。皆~グレイがミラを泣かしたよ~」

 

ギルドの看板娘のような存在である彼女を泣かせてしまった罪悪感の方が勝り、事の重大さに気付いたグレイをシエルは見逃さず、その場にいる全員に聞こえる声でわざとらしくそれを伝えた。当然と言うべきか、グレイを睨むような視線を向ける者たちが何人も現れ、グレイの肩身が狭くなった。

 

「確かにナツたちの漢気は認めるが、“最強”と言われると黙っておけねえな。妖精の尻尾(フェアリーテイル)にはまだまだ強者が大勢いるんだ。オレとか!」

 

「最強の女はエルザで間違いないと思うけどね」

 

「最強の男となると『ミストガン』や『ラクサス』もいるしな」

 

「あとは『ペル』とか、あのオヤジとかか」

 

強者や曲者が多い妖精の尻尾(フェアリーテイル)において誰が最強であるかの議題がいつの間にか起こっている。女の魔導士ではエルザの名が筆頭のようだが、男の場合は次々と候補が挙げられている。

 

「私はただナツとグレイとエルザが一番相性がいいと思ったのよ…」

 

「あれ…?いつもエルザのいないところで二人が喧嘩するからって心配してませんでした…?」

 

今も尚涙を流しながら主張するミラジェーン。だがルーシィは彼女に、ナツたちへの同行を願い出た時の理由を思い出して、その時に行っていたことと全然違う主張内容に戸惑っていた。

 

「なんにせよ、面白ぇ戦いになりそうだな」

 

「そうか?オレの予想じゃエルザの圧勝だが」

 

「う~ん…」

 

拮抗すると予想するエルフマン、エルザの圧勝と予想するグレイ。それを聞いたシエルは唸る。何かを考えこんでいるかのように見えていて、ルーシィは思わず彼にどうしたのか尋ねた。

 

「いや…エルザが瞬殺して勝つのか、いい勝負を繰り広げた末にエルザが勝つのか、どっちかな~って思ってさ…」

 

「エルザの勝ちは確定!?てかどんな予想よ!」

 

何やらとんでもなくナツに失礼な予想を立てているシエルにルーシィはすかさずツッコむ。彼女の言った通り随分と異質な視点からの予想だ。

 

「こうしておまえと魔法をぶつけ合うのは何年ぶりかな…」

 

「あの時はガキだった。今は違うぞ!今日こそお前に勝つ!!」

 

「私も本気でいかせてもらうぞ。久しぶりに自分の力を試したい…」

 

エルザはその言葉とともに換装魔法を発動する。身に纏ったのは首から胸、そして二の腕の部分と太腿以外を包む、炎を模した意匠を占める赤と橙を基調とした色の鎧。

 

名を『炎帝(えんてい)の鎧』――。

耐火能力を持つ鎧であり、火の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるナツの炎の攻撃を半減することができるものである。周囲からもその事実に「それはやりすぎ」などの声が上がる。そしてナツとエルザの様子を黙して見ていた、ナツの相棒であるハッピーは…

 

「やっぱりエルザにかけていい?」

 

「なんて愛のないネコなの!?」

 

ナツとエルザ、どちらが勝つのか賭け事を主催していたカナの元に行き、ナツが勝つ方に賭けたのを変更してエルザが勝つ方に賭けようとしていた。相棒の意気込みよりも、現実的に考えて導き出される結果を優先したようだ。シエルと言いハッピーと言い、時としていとも簡単にえげつない行為を行うものだ…。

 

「あたしこーゆーのダメ!どっちも負けてほしくないもん!!」

 

「意外と純情なのな」

 

しかしルーシィの主張は当の本人たちには聞こえない。と言うより聞こえていても止まる気がない。自らの魔法の威力を半減されると分かっていても、いやむしろだからこそぶつけ甲斐があると主張するように、ナツは口元に笑みを浮かべる。

 

「炎帝の鎧かぁ…!そう来なくっちゃ!これで心おきなく全力が出せるぞ…!!!」

 

エルザを見据えながらも、ナツは己の両手に炎を纏わせる。互いに準備は万全。いつでも戦いの行動に移ることができる。どちらから動くことも無く、ナツとエルザは互いを見据えているまま。そして、ついに火蓋は切って落とされた。

 

「始めいっ!!」

 

いつの間にか審判としてその場にいたマカロフの合図とともに、ナツが始めに仕掛けた。炎を纏った右拳を喰らわせようとするが、エルザはそれを最小限の動きで回避。回避したことで隙が生まれたナツ目掛けて、手に持っている剣を横に払うも、咄嗟に屈んで躱される。

 

「お…?」

 

いつもならこの時点でナツが一撃を受けて終了、というのがほとんどだったのだが、カウンターを躱した時の勢いを利用して今度は右足の回し蹴りを繰り出す光景を見ながら、シエルは思わず感嘆の声を漏らした。しかしナツの蹴りはエルザの持つ剣の柄に受け止められ、次に上から下へと剣を振り下ろす。

 

「うおっとぉ!」

 

焦ったように声を上げて後方に回避するナツだが、そんな彼を逃すまいと距離を詰めようとするエルザに、火竜の咆哮を繰り出して迎撃。距離を開けながら攻撃を仕掛けて態勢を立て直す。一方のエルザは咄嗟に迫る咆哮に焦る様子もなく避けながら再び距離を詰めていく。避けたエルザを追うように咆哮の向きを瞬時に変更するナツであったが、それさえもエルザは避けていく。

 

ちなみにエルザが躱した火竜の咆哮は、勢い止まずに周りに集まっていたギルドメンバーの一部に襲い掛かり、慌ててメンバーたちは各々その場を離れているが、ナツもエルザも気に留めるほどの余裕はない。

 

「すごい…!」

 

「な?良い勝負してんだろ?」

 

「どこが」

 

「いや、今までのナツと比べると確かに良い勝負だよ…!」

 

エルフマンの言葉にグレイは反対気味だが、シエルは同意見であった。今、エルザと渡り合っているナツが、以前よりもどれほど成長しているかが伝わるのだ。そしてナツは炎の拳を、エルザは剣を振りかぶって互いにぶつかり合おうとする。どちらかが競り勝てば戦況は大きく傾くだろう。

 

 

 

だがその勝負は、周りの喧騒と二人の戦いの音をかき消すほどはっきりと聞こえた、本来なら大きく響くはずのない両手を打ち鳴らす制止の音で遮られ、止まってしまった。突然のことに戦っていた二人も含め、周りを囲んでいたギルドメンバー達も、先ほどまでの喧噪が嘘のように静まり返る。

 

「そこまでだ。全員その場を動くな。私は評議院の使者である」

 

音を打ち鳴らしたのは、言葉通り評議院とそれに従う者達が纏う正装に身を包み、その場にいるメンバー全員にその言葉を投げかけた人物。だが、覗く顔や両手は完全に蛙のものであった。はっきりわかりやすく言うと、二足歩行で人間と大して変わらぬ背丈の、人語を喋る蛙だ。

 

「評議院!?」

「使者だって!?」

「何でこんな所に…!?」

 

「あのビジュアルに関してはスルーなのね…」

 

本来なら人間の外見を蛙に置き換えたインパクトのある見た目なのだが、そこにはルーシィ以外誰もツッコまない。背丈は小さいが、二足歩行で喋る上に翼を生やして飛べるネコなら既にギルドにいるからなのだろうか…。

 

「先日の鉄の森(アイゼンヴァルト)の事件において、器物損壊罪、他11件の罪の容疑で…

 

 

エルザ・スカーレットを逮捕する」

 

「な、何だとぉおおっ!!?」

 

突然告げられたまさかの宣告に、いち早くナツが反応し、そう叫んだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

ナツとエルザの戦いで盛り上がってたはずのギルドの前は、嘘だったように静まり返っており、ギルド内にいるメンバーも、誰も彼もが先程の盛り上がりを見せず、意気消沈するもので占められている。

 

突如来訪した評議院の使者。そして鉄の森(アイゼンヴァルト)が起こした事件の際に発生した罪によってエルザは逮捕され、連行されてしまった。今までも評議院が頭を抱えるほどの騒動を起こしたことは確かにあったのだが、逮捕まで行ったのは初めての事。今までとは桁違いと言えることの重大さに、何かしらの言葉すらも発することもできない。

 

そんな中唯一言葉を発する…と言うより叫び声を発する存在がいた。

 

「出せっ!オレをここから出せぇっ!!」

 

「ナツ…うるさいわよ」

 

「出せーっ!!」

 

その存在はナツ。しかし、今彼の姿は魔法によって別の生物に変えられている。普段から身に着けている黒い上着と、鱗を模した白いマフラーを纏ってはいるが、桜色の鱗を持ち額と尻尾の先から火を灯しているトカゲの姿になっていた。そしてその姿のまま、上下反対にしたコップの中に閉じ込められている。

 

「出したらまた暴れるんじゃないの?」

 

「暴れねえよ!つーか元の姿に戻せよ!!」

 

エルザが連行された後、それを追おうとして派手に暴れ、ギルドメンバー総出でナツを捕らえようと追いかけた。今はカウンター前に座ってじっとナツの様子を見ているシエルも、ナツの後を追いかけ、「父ちゃんが捕まえた」と自慢げにトカゲを掲げるロメオに出会したのだった。

 

そしてトカゲの姿に変えられているのを利用して逃げ出さないように、簡易的ではあるがコップの中に彼を閉じ込めているというわけだ。

 

「そうしたらナツは『助けに行く!』って言うでしょ?」

 

「言わねえよ!誰がエルザなんかっ!!」

 

口では否定しているが、仲間である彼女をナツがこのまま放っておくはずがない。誰もがそれを知っているため、彼を自由の身にしようとする者はいないのだ。

 

「今回ばかりは相手が評議院じゃ、手の打ちようがねえ…」

 

「出せーっ!俺は一言言ってやるんだ!評議員だか何だが知らねえが、間違ってんのはあっちだろ!!」

 

「白いモンでも評議員が黒って言えば黒になるんだ。ウチらの言い分なんか聞くモンか」

 

評議院は魔導士ギルド全体よりも上位の存在。そして魔法界の全ての決定権を持つ。どれだけ身の潔白を証明しようと進言しても、彼らがひとたび罪だと断じればそれは世間からも罪と認識されてしまう。分かってはいるものの、やはり納得できる内容でもない。その上、先程も記述した通り散々問題を起こしてきた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の問題を、何故今回に限って逮捕にまで乗り出したのか。それも理解に苦しむ原因となっている。

 

「絶対…絶対何か裏があるんだわ…」

 

その裏が何なのかは分からない。しかし、確実に存在しているであろうことを、ルーシィは察知していた。ナツも両手を握り締めて歯を食いしばり、悔しそうに顔を歪めている。

 

そんなナツの様子は、シエルに一つの違和感を感じさせていた。何かが妙だと。先程から感じているトカゲになったナツに対する違和感。思わず視線をカウンターの上に胡坐をかいて座っているマスター・マカロフに移すと、その視線に気づいたのかシエルの方に同じように視線を向けたマカロフは、微かにニヤつくような笑みを浮かべた。

 

瞬間、シエルは自分が感じた違和感の正体に気が付いた。

 

「やっぱり放っておけないっ!証言をしに行きましょう!!」

 

「まあ待て」

 

我慢の限界に達し、徐に立ち上がって叫んだルーシィを、マカロフは制止する。しかしそれでとどまる彼女でもない。

 

「何言ってんの!!これは不当逮捕よ!判決が出てからじゃ間に合わない!!」

 

「今からではどれだけ急いでも判決には間に合わん」

 

「でも!」

 

あくまでその場に留まるよう制止するマカロフと、弁護すべきだと主張するルーシィ。口論が始まる中ナツは「出せーっ!!」と再び騒ぎ出す。そんな中次に動く者がいた。シエルが席を立ちあがり、コップの中に閉じ込められているナツに顔を近づけた。言葉を発するわけでもなく、ただただ小さなトカゲを見ている。

 

「おいシエル!オレをこっから出してくれよ!」

 

「いいよ?出してあげる」

 

すると、未だそう喚くナツに対し、シエルは一見無邪気な笑みを浮かべて答えた。その返事にマカロフを除く全員が一瞬理解することを放棄した。そして少しした後に「えーーーーっ!?」と言う驚愕の声の大合唱が響く。

 

「な、何言ってるのシエル、そんな勝手に…!?」

 

いつもの穏やかな笑顔を浮かべることもできず困惑に顔を染めているミラジェーンの言葉にも反応せず、囚われたままのナツから視線を外さないシエル。その先にいるナツはと言うとシエルの返事に笑みを…

 

「え…ま、マジで…!?」

 

浮かべることもせずに困惑…その上で何か焦っているかのようにも見える。

 

「そうだよ、出してあげるんだ。ナツが望むように…」

 

瞬間無邪気な笑顔は流れるようにいつも彼が浮かべる、悪戯をするときの笑顔に変わる。それを見たナツは脱出できるチャンスにも関わらず、彼から目を逸らして頬と思われる箇所を指の爪で掻く。それを見たギルドの面々はシエルとナツを怪訝の表情で見比べている。意図も意味も理解できない。そんな心情を表す表情を浮かべる者達ばかりだ。

 

だが、シエルだけはナツの様子に確信を得たように笑みを深くする。そして「マスター」と一言告げてナツから離れると、唯一シエルの言動に動揺しなかったマスター・マカロフが一つ頷き、右手ナツを閉じ込めていたコップに向けてかざし、魔力弾を発する。魔力弾が当たると同時にコップは床へと落ち、中にいたナツはトカゲに()()魔法を解除され、体が煙に包まれた。そして煙が晴れた時、そこにはトカゲから人間へと戻ったナツではなく…

 

『マカオ!?』

 

深い青色の髪持ったオールバックの男性。ナツと同じ属性である火の魔法「紫の炎(パープルフレア)」を扱う魔導士、『マカオ・コンボルト』であった。まさかの正体にシエルとマカロフを除く者達全員が驚愕している。対してマカオ本人はバツが悪そうな笑みを浮かべながら「すまねえな…」と謝罪を述べた。

 

「ナツには借りがあってよォ…」

 

この男性、マカオは以前記した通り、ルーシィが妖精の尻尾(フェアリーテイル)に加入した日にハコベ山にて、怪物・バルカンの討伐に向かったものの、最後の一体に接収(テイクオーバー)と言う魔法で体を乗っ取られていたところを、ナツによって助けられたことがある。無事に帰還し、息子のロメオに自慢の父親である誇りを証明できた恩を、いずれ返したいと考えていたのだ。それがトカゲに変身したナツに扮して、彼の代わりに捕まることである。

 

「しかし、よく分かったなシエル。声もナツと同じにしてたはずなのに…」

 

だがそれも、先程まで他の者達同様騙されていたはずのシエルが、なぜ最後の最後に気づいたのか、それがマカオにとっても、そして他のメンバーにとっても疑問だった。

 

「違和感は最初からあったんだ。ロメオは『父ちゃんがナツを捕まえた』と言ってたのに、当の本人はいつまで経っても姿を見せない。そこがどうしても引っ掛かって、そこからずっと様子を見ることにした」

 

最初に感じた違和感。そこからギルドのメンバーが意気消沈している中で、彼だけが叫び喚くトカゲナツ(正確にはマカオ)の様子を観察していた。最初こそ普段のナツと変わらず、仲間であるエルザを連れていかれて黙っていれない彼らしい主張が続いており、言動も彼そのものだったが、シエルはしばらくして一つの不可解な点に気付いた。

 

「俺が知ってるナツなら、魔法が使えようが使えまいが、まずこんな障害をぶっ壊して突破しようとするよ」

 

落ちていたコップを拾いながら告げたその言葉に思わず全員が納得した。確かにそうだ。「ここから出せ」と叫びはしていたが、彼らの知るナツは「こんなもんぶっ壊してやるぁ!」とコップを殴ったり蹴ったりして抵抗するぐらいはするはずなのに、全員がエルザが連れて行かれた事実に落ち込み、そこに着目する余裕が無かったのだ。結果、シエルは捕まっているトカゲはナツでは無く別の人物、そして入れ替わるタイミングが一番あり得るマカオだと推理したのだ。そしてそれは見事に的中。最初から入れ替わっていることに気づいていたマカロフに、後の処理を任せたと言うことだ。

 

「マジかよ…」

「すげえな…」

「私全然分からなかった…」

 

「って、ちょっと待って、じゃあ本物のナツは!?」

 

ルーシィが思い出したように叫んだ内容にほとんどの者が反応する。ナツは最初から捕まっていなかった。それはつまり誰もナツを止める者がいなかったと言うこと。そんな状態ならナツは一体どうするのか…マカロフを除くほぼ全員が(苦笑気味のシエルも含めて)青ざめる。

 

「まさかエルザを追って!?」

 

「シャレになんねえぞ!!アイツなら評議員さえ殴りそうだ!!」

 

ナツが起こすと思われる最悪の事態を想定し、動揺を隠せないメンバーたち。しかし唯一落ち着いた様子のマカロフが「全員黙っておれ」と発し、その動揺は一瞬で止まる。

 

「静かに結果を待てばよい…」

 

その一言を受けて、ナツを追おうとする者も、エルザを助けようとする者も現れなかった…。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「やっぱりシャバの空気はうめえ!!最高にうめえっ!!!」

 

翌日、ギルドにはナツもエルザも戻ってきていた。エルザから聞いた話によると、そもそもこの逮捕劇は一つの“儀式”だったそうだ。形だけの逮捕であり、魔法界全体の秩序を守るために、評議会としても取り締まる姿勢を見せておかなければならない。今回で言えば鉄の森(アイゼンヴァルト)による、呪歌(ララバイ)を使用したギルドマスターたちの殺害未遂事件。その際に鉄の森(アイゼンヴァルト)のメンバーたちとの戦闘、さらには怪物と化した呪歌(ララバイ)の討伐の際に駅や鉄橋、更には街すらも破壊してしまい、人的被害を抑えたとはいえ、破壊行為を正当化させたままにはしておけない。そのために起こした行動が、今回の事件で妖精の尻尾(フェアリーテイル)側のリーダー的な存在であったエルザの逮捕だった。

 

結果的に言えば有罪にはなるものの、罰は受けない。その日のうちに帰ることができたのだ。だが、裁判中にナツが評議院の支部を襲撃、エルザの変装(完成度は限りなく低い)をして身代わりになろうと助けに入ったことで、エルザはナツ共々一夜を牢の中で過ごすこととなってしまった。そして翌朝解放され、今こうして帰還することができたというわけだ。一夜とはいえ牢の中にいたナツは、炎の入った木製のジョッキ(耐火性能あり)を片手にギルド中を走り回って「自由って最高!フリーダームッ!!」と叫びながら火を吐き出している。やかましい上に危ない。もう少し牢に入っていればよかったのでは、と数人が思ったのは本人には内緒だ。

 

「結局形式だけの逮捕だったなんてね…。心配して損しちゃった‥」

 

「そうか!(カエル)の使いだけにすぐ帰る(カエル)!!」

 

「さ…さすが氷の魔導士…ハンパなく(さみ)ィ…」

 

日光浴(サンライズ)にあたる?暖かいよ」

 

シエルたちの議題もお騒がせさせた評議院とエルザたちの事に関して弾んでいるようだ。だが途中で合点がいった様子で呟いたダジャレにエルフマンは震えあがり、そんなエルフマンにシエルは体力と魔力の回復力向上だけでなく、温暖効果も加わっている自分の魔法を分け与えている。ほぼほぼいつも通りだった。

 

「そう言えば凄かったね、ナツとマカオを見破ったシエル」

 

「あ~確かに。何か推理小説呼んでる気分だった。『シャーロット』を思い出したわ」

 

ハッピーが別の話題を上げると、ルーシィがそれに反応する。シエルの行った推理が推理小説のシーンに被ったようだった。その瞬間、シエルの目が更に大きく見開かれることになる。

 

「もしかして『シャーロット・アーウェイの謎』シリーズ!?ルーシィも読んでるの!?」

 

「え、まさかシエルも!?」

 

探偵の『シャーロット・アーウェイ』が世界中を旅して数々の事件を推理で解決していくシリーズであり、時には魔法で巧妙に隠されたトリックをも見破り、謎を解き明かしていく世界的に有名な推理小説である。自分以外の愛読者を、自分と同じく本好きである魔導士の少女、水色のショートカットにバンダナをつけた『レビィ・マクガーデン』以外にも見つけたシエルは、いつの間にか話に加わったそのレビィと共にルーシィとその小説の話で盛り上がり始めた。

 

「じゃあ、あれは!?魔道具を使って自分の使う魔法を偽った犯人を見破った話!!」

「それも読んだ!やっぱルーちゃんもあの話は絶対外せないって思うよね!?」

「実は俺、シャーロットを読んでいくうちに、色んなとこに目が行くようになってさ!」

 

小説どころかまともに本も読まないグレイとエルフマンはと言うと、唐突に始まった理解不能な単語が行き交う会話に一切ついていけなくなった。

 

「ところで、エルザとの漢の勝負はどうなったんだよ、ナツ!」

 

「漢!?」

 

すると、今も尚走り回るナツに、エルフマンはシエルからもらった日光浴(サンライズ)に当たりながら、昨日行われた勝負の話題を持ち出す。女性であるエルザすら『漢』の括りにしたことでルーシィから思わず声が上がったが、そんなことはお構いなし。ナツは「忘れてた」と告げながらエルザの元へと向かっていく。

 

「エルザー!この前の続きだーっ!!」

 

「よせ…疲れてるんだ…」

 

すぐさま勝負の続きを提案するナツだったが、エルザは乗り気ではないようで、一言で断り、飲み物を口へ運ぶ。だがそれもお構いなしにナツは右手に炎を纏わせながら「行くぞーーっ!!」と飛び掛かった。

 

「やれやれ…」

 

そこからはあっという間だった。右手の拳で殴りかかってきたナツの攻撃を紙一重で躱し、彼の腹部にカウンターで拳を一発お見舞いする。それだけで彼の勢いは完全に止まり、そのまま前のめりに倒れて気を失った。

 

「仕方ない、始めようか」

 

「「終ー了ーーー!!」」

 

周りの者たちがあっさりと幕引かれた勝負に唖然とする中、エルザは彼との勝負を受ける意思を見せる。だが、立ち上がる様子がないナツを見て既に決着を察したシエルとハッピーは全く同じタイミングで終了コールをした。その瞬間、周りは一斉に笑いで包まれる。

 

「ぎゃはははっ!!だせーぞナツ!!」

「やっぱりエルザは強ェ!!」

「おいこの間の賭け有効か?」

 

「ふふっ」

 

一連のやり取りを、看板娘兼受付嬢であるミラジェーンは微笑ましそうに見ていた。だがその時、マスター・マカロフの様子が妙なことに気付いた。

 

「どうしました、マスター?」

 

「いや…眠い…。奴じゃ…」

 

すると、ミラジェーンに突如異変が起きた。立ち眩みを起こし、体のバランスをとっていられず、カウンターの向こうのスペースに横になるようにして倒れ伏す。その異常事態に彼女を心配する声は誰も上げなかった。いや、誰も声をあげられなかった、と言うのが正しい。何故なら…。

 

「これは…!」

「くっ…」

「眠…!」

「まさ、か…」

 

次々と、突如起こった眠気に抗えず、マカロフを除いた全員がその場に倒れ伏す。ある者はテーブルに上体を預けて、あるものは床に倒れこんで。共通しているのは、全員が深い眠りについていること。どのようなことをしても起きることがない、それほどの深き眠りに…。

 

ギルド内が寝息と寝言のみに包まれた中で、悠々と入り込んでくる影が現れた。

深い青の外套、頭部を覆い隠す黒いバンダナ、鼻と口を覆う深緑の覆面、身体の所々に巻かれた白い包帯。先端が魚の(ひれ)を模した謎の杖を片手に持つ、意図的に正体を隠していると主張するような風貌の人物。外見だけを見れば男性か女性かも見分けがつかない。ギルド内の面々が眠りについている中、彼は真っすぐに依頼板(リクエストボード)の元へと向かって歩く。

 

「『ミストガン』…」

 

半分ほど寝ている状態で彼の姿を視認したマカロフは、その人物・『ミストガン』の名を呼ぶ。ミストガンは依頼板(リクエストボード)に貼り出されている一枚の討伐依頼を取ると、マカロフの元へと向かいそれを見せる。

 

「行ってくる…」

 

「これっ、眠りの魔法を解かんか…」

 

実に簡素なやり取り。それを済ませるとミストガンは身体を翻し、ギルドの出入口へと向かう。だが、その直前にルーシィやグレイたちの近くでテーブルの上に突っ伏し、健やかに眠る様子のシエルを一瞥すると、微かに目を細めた。そして後は誰にも目を向けず、真っすぐに出入口へと向かっていく。

 

 

 

伍…四…参…弐…壱…

 

 

 

霧が立ち込める外へと姿を消したその瞬間、眠っていたほぼ全員の目がパチリと開いた。深い眠りから突如覚醒した、そんな感覚が全員に走る。しかし唯一ナツだけが未だ眠りから覚めずに、呑気にいびきをかいていた。

 

「この感じは…ミストガンか…!?」

「あんにゃろォ…!」

「相変わらず凄い魔法だね…」

 

「ミストガン…?」

 

ほとんどのメンバーは誰の仕業なのかを察したようだが、ミストガンの詳細を知らないルーシィは名前をオウム返しする。その疑問に答えたのはエルフマンだった。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強の男候補の一人だ…」

 

「何故かはわからないけど誰にも姿を見られたくないらしくて、仕事を取るときはこうやってギルドの中の全員を眠らせちゃうんだよ、いつも…」

 

「何それ、怪しすぎ!!」

 

「だからマスター以外、誰もミストガンの顔を知らねえんだ…」

 

次いでシエルも説明に加わり、その内容にルーシィは思わず正直な感想を零す。正体を隠した上で、万が一にも知られることのないように魔法で眠らせる周到ぶり。ギルドマスターであるマカロフ以外には、その素性すら明かされていない、と言うのが、ギルド内での共通認識だ。

 

 

「いんや…オレは知ってっぞ」

 

だがそれを否定する言葉が上方から発せられた。その声に全員の視線が、ギルド内の2階の方へと向けられる。その2階には一人の人物が柵の上に頬杖をついて、1階の者たちを見下ろしていた。

 

「『ラクサス』!!」

「いたのか!?」

「珍しいな…!」

 

「もう一人の最強候補だ…」

 

『ラクサス』と呼ばれたその人物。逆立った金髪の髪に、右目には稲妻のような傷跡が入っており、黄土色のジャケットの上から黒のファーコートを羽織っていた。さらには、側面に棘の付いたヘッドフォンを着けている。どのような人物なのか、ルーシィが疑問を尋ねるより先にグレイが短く説明をいれた。

 

「ラクサス…」

 

見下ろしている、いや見下していると言っていい笑みを口元に浮かべながらこちらを眺めている男を…シエルは睨むように表情を険しくしてラクサスを見上げていた…。




おまけ風次回予告

ナツ「くそ~!今日こそはエルザに勝てると思ったのに!!」

シエル「昔からエルザに負けるたびにそのセリフ言ってる気がするよ?」

ナツ「んなことねえよ!今回は油断したけど次こそはもう負けねぇ!オレは絶対にエルザに勝ーつ!!」

シエル「そのセリフもよく言ってる気がする…。『S級』のエルザに対して少しでも拮抗できただけまだ自信を持っていいんじゃないの?」

ナツ「ん…?それもそうだな、確実に強くはなってるんだ!オレは強ぇんだ!だっははははは!!」

シエル「あ~、選ぶ言葉間違えたかも…」

次回『S級』

ナツ「エルザだけじゃねえ!いつかはミストガンにもラクサスたちにも勝つんだ!!」

シエル「そうだね…。…俺もいつかは…」
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