FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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何度も何度も隔週投稿になってしまって、本当にごめんなさい…。けど今回はその分、気持ちボリュームを多めにして書き上げました!

けど今回…かなりショッキングな描写がありますので、ちょっと心の準備をしておくことを、オススメします…。あ、でもショッキングなのはプロローグの時もあったか←

来週からは比較的投稿できるはず!!


第85話 襲撃者

王城で謎の爆発が発生する少し前。ペラ、ペラと紙を捲る音だけが、今その空間を支配しており、その発生源である本に書かれている内容を無言で、しかし目をしっかりと通して確認するのは、年齢よりも幼い外見をした少年。

 

「……ふぅ…」

 

本の内容に最後まで目を通したようで、それを閉じながら一息を吐く。少年シエルのその声が耳に入ったルーシィが、「どう?」と彼の状況を尋ねてみる。

 

「情報を整理すると…まず、ハッピーたちが“エクシード”と言う事は推測通り。エドラスにおいて“神”の使い…すなわち“天使”のような存在であり、人間よりも上位。“神”と言うのがシャゴットと言うエクシードの女王で…彼女の言葉は例え生死を別つことであっても絶対であり、人間の数を管理するのが仕事。その口で“死”を宣告されればそれは絶対。逃れることは許されない…」

 

重要な要点のみを搔い摘み、ルーシィへの説明も兼ねて口に発する。牢部屋の中ではほとんど時間が有り余っているようなものだ。ならばいつどんな時でも脱出した際に行動が出来るように、歴史書に書かれている情報を整理して取り入れる余裕に利用する。その狙いが成就したようだ。

 

「改めて聞くとホント理不尽な掟よね。全く、バカバカしいわ!」

 

「ほう?よく調べたものだ、この世界の事を」

 

その時聞こえたのは、聞き馴染みのある女性の声。それを耳にして目を向けてみると、よく見知った緋色の長い髪の女性が映り、牢部屋の鉄格子を開けてこちらに入ってくる。

 

「「エルザ!」」

 

身の丈ほどの長い槍を片手に携えたその女性エルザ・ナイトウォーカーの姿を見た二人は、思わず彼女の名を呼んだ。だがシエルは、よく知っている人物と同じ姿をした彼女に、一度頬を殴られた記憶も蘇ってきて、僅かに身をこわばらせている。

 

「みんなは無事なの!?」

 

「ああ、全員無事だ」

 

「良かった…」

 

ルーシィの問いにエルザが答えると、他の者たちが無事であったという事に心からの安堵を表し、息を吐く。だが、エルザから見れば牢に繋がれ、敵である自分を前にしながらも安心しきっている様子の彼女の様子は異質に見える。

 

「よくそんな顔が出来るな。自分の置かれている立場が分かっているのか?」

 

「ああ…うん、そうだね…。顔も声も…あたしたちの知ってるエルザと同じだから、つい気が緩んじゃって…」

 

顔や声、姿、喋り方に至るまで、アースランドにて共に過ごしてきたエルザと酷似している。その事実が、立場上敵同士であると理解していても、どこか安心感を抱いてしまう。

 

「もう一人…そちらのシエルは逆に怖がってるようだが?」

 

「…別に。会って早々殴られてイライラしてはいるけどね…」

 

知っている人物と同じ顔をした者に出合い頭に殴られた恐怖が蘇るものの、それを表立っていう事はせず、目を逸らしてシエルは答える。しかしその強がりは気付かれているようで、エルザはシエルの様子を見てほくそ笑んでいる。

 

「そういうあんたこそ…そっちの俺の事が、随分気に入らないみたいだけど?」

 

「気に入らないなんてものじゃない…」

 

別人とは言えシエルだと認識した瞬間に殴ってくるような状態だ。詳しい事情を知らずとも確実に好感情を抱いてはいないことを察することは出来る。それを尋ねてみれば、エルザは笑みを潜め、顔を下に向けて呟く。

 

「あいつがここに来てから、あいつが作った発明とやらがあちこちで活躍する中、逆に私たち魔戦部隊の成果は目に見えて減っていった。その上私が妖精共を追っていると決まってすんでのところで逃げられるようにもなった。妖精共を探知できる魔法を作成したにも関わらずだ…!そして失敗の原因はすべて私に擦り付けられて、何度陛下に対して恥をかかされたことか…!!」

 

そして目を吊り上げ、強く拳を握り締めて体を震わせると同時に、腹の底から込み上げるような怒りに滲んだ怨嗟の声を彼女は発する。安堵の表情を浮かべていたルーシィが、目を見開いて縮こまり、シエルも別の意味で彼女に対する恐怖心が高められることに。

 

その後もブツブツとエルザからエドシエルへの怒りに満ちた愚痴が延々と語られていく。やれ口を開けばこちらをおちょくるようなことばかり、やれ自分と同じ隊長であるヒューズやシュガーボーイと呼ばれる人物たちは自分の魔法を強化してもらったりすることで懐柔されたり、やれ自分たちや幕僚長を差し置いて一番陛下に信頼されてる人物という噂が王都内で広まったり、と私怨がほぼほぼの、しかし有力と言えなくもない情報がどんどん出てくる。そりゃ理不尽に殴られる理由も理解しやすい。納得はしないが。

 

「知ってはいたけど、とばっちりじゃん…俺…」

 

大方そうなんだろうな、と思ってつい溜息混じりに出てきたシエルの言葉。だが、それを聞いたエルザは意外にも落ち着きを取り戻して、冷静な態度のまま彼らに告げる。

 

「それについては否定しない。だが、どのみちお前たち二人は抹殺が決定されている。今更どう扱おうと同じ事だろう?」

 

「「!?」」

 

あっさりと紡がれたその言葉を、シエルとルーシィは理解するのに数秒かかった。それを気にすることもなく、彼女は更に続けていく。

 

「エクシードの女王(クイーン)からの命令だ。お前たちは女王の下した決定に従って死ぬことになる。私としては、()()()を甚振る期間が短くなってしまったことは残念に思うが…命令とあらば、止むを得ん」

 

「な、何言ってるの…!?本気なの、エルザ!?」

 

こちらを排そうとすることに一切の躊躇を感じられない言動に確かな動揺を表すルーシィ。エルザと言う人物が言わないと思う言葉、そこから見られる非情さ。彼女の知ってるエルザとは、全くもって違う部分を見て、信じられないと言わんばかりに。

 

「本気?そもそも私がお前たちを生かす理由が、苦しみを与える以外に何がある?」

 

まるで見下すように目を細めてそう言えば、ルーシィは再びを虚を突かれたように言葉を失う。この言動であらためて思い知らされる。彼女が、自分たちの知る彼女とは別人だという事実を。

 

「ルーシィ、こいつは、俺たちの知る…俺たちの仲間であるエルザとは違う!俺たちの事を、ただただ邪魔者としてしか見ようとしていないんだ!」

 

「で、でも!あたしたちの知ってるエルザと、根の部分は同じのような気がするんだ…!エルザは人の不幸を笑える人間じゃ…!」

 

目の前にいるエルザの言動を見て、シエルは自分たちの仲間とは中身が似つかない敵としての印象を覚え、ルーシィはそんな彼女も仲間と同じ部分が彼女にはあるという異なる意見を互いに向ける。その内のルーシィの言葉を遮って、エルザは徐に彼女の頭…正確には髪を左手で、無理矢理に掴み上げる。

 

「痛ったっ…!」

 

「ルーシィ!」

 

唐突に髪を掴み上げられたことで苦悶に満ちた声を出し、苦痛に顔を歪めるルーシィ。それを見たシエルはすぐさま彼女を助けようと立ち上がるも、エルザが右手に持つ長槍の先端をシエルの目の前に持っていき、「動けば先に死ぬのはお前だぞ?」と彼を止める。そして口元を吊り上げながら、再び彼らに冷たく言い放った。

 

「お前たちの仲間であるエルザの事など、私は知らないし、関係ないことだ。多少意外だとは思ったが、精々それだけ。シエルが言ったように、私はお前たちと仲間などではなく、抹殺の対象としか見ていない」

 

そこで一度区切り、エルザは掴み上げているルーシィの頭を、横にある石壁に叩きつける。「あぐっ!」と言う痛みに堪えるルーシィの声を聞いて、シエルは目を見開き、槍を向けられていることも構わずそれを掻い潜ってルーシィを助け出そうとする。だが、すぐさま反応したエルザが、槍の先端をグワっと広げると、四つに分かれた先端の内側にびっしりとつけられた牙のようなものでシエルの体は捕まり、そのままエルザは鉄格子の方へと、彼の小さい体を投げる。

 

「が…かはっ…!」

 

「シ、エル…!!」

 

鉄格子を背にして力なく倒れたシエルを見たルーシィが掴み上げられたまま彼の名を呼ぶも、エルザの力は未だに緩む気配がない。

 

「それにもう一つ言えば…私は人の不幸など大好物だ。“妖精狩り”の異名通り、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちを何人も殺した」

 

嗜虐的に笑みを浮かべ、シエルを放した長槍を構え直して、ルーシィへと狙いを定めるエルザ。最早彼女がルーシィの命を奪う事など、容易くできると言わんばかりの状況。それに対し、ルーシィは痛みで閉じていた瞳を開き、涙で滲ませてエルザの方に目を向ける。浮かべている涙は、死への恐怖によるもの…ではなかった。

 

「エルザの顔で…エルザの声で…そんな事言うな…!!」

 

強くて、かっこよくて、怖いと思う事も多いが、仲間からも頼られて、一方で可愛いものや甘いものが好きな乙女の一面がある、アースランドで共に過ごした妖精女王(ティターニア)のエルザ。そんな彼女と同じ顔と声を持つ者から発せられた残酷な言葉に、彼女は涙した。

 

「…じゃあな、ルーシィ」

 

そんなルーシィの言葉に一瞬反応を見せたものの、構わずエルザはルーシィ目掛けて槍を引き、貫こうと勢いをつける。鉄格子を背にして動けない状態であったシエルが悲鳴交じりに止めようと声も張るが、今の距離では間に合わないし、止める手段もない。このまま、ルーシィが彼女の槍の餌食になるのを見ているだけ…。

 

 

 

 

 

 

 

と思われた瞬間、ドゴォオーーン!!と言う轟音と共に、城全体が唐突な揺れを発した。

 

それによってエルザは槍の狙いを狂わされ、ルーシィではなくあらぬ方向にそれを突き刺す結果となる。そして狙われていたルーシィも、バランスを崩したエルザが手を離した為に床に投げ出され、何とか立ち上がろうとしたシエルも同様に足をもつれさせて倒れ込む。

 

「っ…!何事だ!?」

 

誰もが予想できなかった唐突な出来事。これが、静寂を保っていたエドラス城内を混沌へと誘う、エドラスの歴史上最大の激戦の狼煙となった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「な、何だ一体!?」

 

「正門の方からだ!!」

 

「爆発…!?」

 

そしてそれは勿論、城内を警備していた兵士たちに、瞬く間に周知された。城全体を…ひいては王都全体を響かせるその爆発は、確実に王都内にいる全兵士の警戒心を一気に最大に引き上げる。特に、正門から近い兵士たちはすぐさまその異常の原因を確認する為に、駆け足で爆発が起きたであろう正門の方へと向かう。

 

「何が起きた!?」

「分からん!今オレたちも確認に来たとこで…!」

「正門前にいた奴らは!?」

 

発生源があると思われる正門前に、続々と周辺に配置されていた兵士たちが集まって来る。肝心の正門を警戒していた兵士たちからは、魔科学研から支給された板型の通信用魔水晶(ラクリマ)で呼びかけても全く応答がない。状況が全くもって把握できない中、実際に目視で確認するしか方法はない。

 

そして正門に近づくと、そこは正門を潜った後に広がる玄関に当たる大広間。しかしそこは現在、様々なものが入り混じった土煙に包まれて、視界が役に立たない状態だった。このまま闇雲に進んでは危険だが、ここで足踏みしても原因は分からないまま。

 

「オレがまず様子を見てくる。後はお前も後方からついてきてくれ。残りはこの場で待機だ」

 

「分かった」

 

一人の兵士が勇敢にも煙の中に入って様子を見ようと言って先行し、その兵士についてくるように言われたもう一人の兵士も、他の者たちを置いて煙の中に入っていく。徐々に近づいてくるはずの正門。警戒しながら一歩一歩その中を歩いていくと、前方にいた兵士が何かに気付き、後方の兵士に向けて片腕を上げて制止させた。

 

「どうした!?」

「しっ!今、何か音が…」

 

制止させた前方の兵士に思わず声を張って尋ねると、どうやら何かの物音を拾ったらしい。警戒を更に強めて音に意識を向けてみると、こちらの方に近づいてくるコツコツと言う音が確かに聞こえてくる。足音だ。つまりこの爆発を何らかの方法で起こした人物である可能性が高い。そう考えて槍の持つ手にさらに力を入れ、構えていると…。

 

 

 

 

「「!?」」

 

煙で見えなかった奥から突然影に覆われた何かがこちらに突っ込んでくる。そして気付いた時には、その何かが持っていた、紫色の巨大な武器らしきものを二人揃って叩きつけられ、吹き飛ばされた。悲鳴をあげながら兵士二人は後ろへと飛んでいき、煙の前で待機していた兵士たちの元へと戻っていく。

 

「な!?どうした、中で何があった!!?」

 

様子を見に行っていたはずの兵士が唐突に吹き飛ばされてきたことに動揺を隠せず、狼狽する兵士たち。そんな彼らの胸中を一切無視し、未だ舞い上がっていた煙の一部が、紫の電流によって徐々に霧散し、晴れていく。その様子を垣間見た兵士たちが更に困惑を表しながら大広間の方向に視線を向ける。

 

そして煙が晴れると同時に、ようやく兵士たちは正門の爆発から、起きていた現象についての答えを理解した。誰かが立っている。頑強な造りをした紫の大鎚を片手で持ち、こちらに向けて一歩一歩近づいてきている、灰色のローブとフードを被った人物。それこそが、この騒動を起こしている張本人だとすぐに理解した。

 

「な、何者だ貴様!?」

 

「ここがどこか…そして己が何をしているのか、分かっているのか!?」

 

何者かはまだ分からない。だが、奥に微かに見える、正門を警備していたであろう兵士たちが為す術なく吹き飛ばされた後と思われる様子を垣間見て、更なる警戒を強め、槍を向けながらその人物の行動を制限しようとする。だが、槍を向けられているとは思えない程に逆に落ち着きを見せているその人物は、フードに隠した鋭い眼光を宿す目を兵士たちに向けると…。

 

「無論だ。なんせ俺の目当ては…この国、世界と…それを支配するくそったれな王の…終焉だ…!」

 

怒りと憎悪をこれでもかと詰め込んだような低くドスの聞いた声で告げた男(声の低さで断定できる)の言葉に、兵士たち全員が息を呑みこむほどに絶句する。正気の沙汰とは思えないその言動は、彼らを動揺させ、次の行動を制限するには十分だった。

 

その隙を…狙ったわけではないがつき、男は大鎚を自分の頭上へとゆっくり上げると、そこから紫色の雷を迸らせる。まずい。あれは放っておくわけにはいかない。それを頭で理解しても、目の前にいる狂人を自分たちでは止められないことを、場にいる兵士たちは本能で悟った。

 

「国王はどこにいる…」

 

「…え…」

 

呟くように口にしたその声に、一人の兵士が恐怖に塗れながらも呆けた声で返す。そしてその男はフードの中の目を両方ともカッと見開いて、手に持つ大鎚を更に振りかぶりながら叫んだ。

 

 

 

 

 

 

「国王を出せぇぇぇえええッ!!!」

 

激情に身を任せた紫電の怒鎚(いかづち)。大広間の床を叩き割り、場には紫電が迸り、操る男以外の全てに、無慈悲な雷が襲い掛かる。壁や床を焼き焦がし、辺りの窓が全て割れるのは勿論、場にいた兵士たち全員に、叩きつけた衝撃による風圧や、流れ来る紫電の餌食となって紙の様に吹き飛んでいく。

 

その恐るべき一撃による被害は、一瞬などでは終わらない。大広間全体を覆い尽くすかのように紫電は広がり、少なくとも5秒、その場の全てを尽く蹂躙する。最早数秒前の絢爛な様相は見る影もなく廃墟同然。だがこの光景に変貌させた本人は、一切気を晴らせた様子もなく、吹き飛んでいった一部の兵士たちの方に目を向ける。

 

その中の一人は、己がどうやって吹き飛ばされたのか、目にすることは出来ても理解が追い付かず、混乱と恐怖で頭の中が埋め尽くされている。

 

「(な、何だ…!?何なんだこいつは…何の魔法…!?そもそもあれは魔法か…!?見たこともないし、こんな魔法が使える奴が、何故王国軍の中にいなかった…!?)」

 

エドラスに存在する魔導士ギルドは国王の命令で全て解散。残されたギルドは一つのみで、そのギルドの魔導士も、魔戦部隊と比べれば取るに足らない力と魔法しか持たない奴等ばかり。厄介とすれば先代が処刑された際に新たに就いたマスターが、軍師として、司令塔としての能力に秀でていることぐらいだ。

 

だと言うのに、目の前にいる男はたった二撃で城の中、引いては兵士たちに多大なダメージを与えている。ハッキリ言えば、あり得ないのだ。そんな存在が王国軍以外にいることが。

 

「もう一度聞くぞ。国王はどこだ?」

 

あまつさえ、そんな存在が国王の命を狙い、城に攻めてくるなど、考えつくわけがない。だが、ここで自分が仕える王の場所を告げるという背信行為など、断じてできるわけがない。誰が答えるものか、と死ぬ覚悟を決めて顔を上げると、先程の一撃で捲れ上がったフードから明らかになった男の素顔が、彼に更なる衝撃を与えた。

 

先程から見え隠れしていた目は黒く、怒りや憎悪と言ったもので更に濃く染まっているように見えるが、問題は別のところだ。顔立ちはよく整っており、髪は水色がかった銀色。それを背中に届くほど伸ばしており、うなじの位置で縛っている。そして左頬には紫色の妖精を模した紋章が刻まれていた。

 

その紋章を兵士は知っている。王国軍なら、特に魔戦部隊ならことさらに知っているだろう。だが同時に、何故と言う疑問が浮かんだ。その人物は本来、このような場所に単騎で乗り込めるような実力もないし、そんな無謀を起こす性格でもなかった。だが、間違いなく、この男は…!

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の…マスター・()()()()()…!!?」

 

エドラスにおいて唯一残された魔導士ギルド。そのマスターである男が、何故この王城に攻め込んできているのか。その兵士にとって、彼の素性そのものが、混乱の極みを招く存在であった。

 

「…ああ…そう言えばそんな事言ってたっけか…。ま、この際どう思われようが関係ねぇな…」

 

だが伝え聞いていた印象とは異なり、どこか面倒と言いたげな反応を示して息を吐く。すると、別の方向から鎧や槍によって起こる金属音をいくつも鳴らしながら、十数人ほどの兵士たちが迫ってきていた。

 

「あ、あいつはペルセウス!?」

「まさか…襲撃か!?」

「奴一人とは思えん、仲間がいるはずだ、警戒しろ!!」

 

こちらに走ってきながら、襲撃者と思われるペルセウスの顔を確認した兵士たちが各々口を開いて迫ってくる。そんな兵士たちに対し、ペルセウスはやはり動揺せず、右手で握っている紫電の大鎚・ミョルニルを再び構え直す。

 

「全体!縮地足用意!!」

『はっ!!』

 

だが、彼から少し離れた場所で横一列に並んだ兵士たちが同じように槍を構えて、己の具足に魔力を溜め始める。それを目にしたペルセウスは、すかさずミョルニルを換装でストック空間に戻す。一番近くにいた兵士がその現象に再び目を見張る間にも、槍を構えて並んでいた兵士の準備は整っていた。

 

「発動!突撃ー!!」

 

具足の踵から出てくるのは魔力による噴射。真っすぐにこちらへ向かってくるその速度は、対応が不可能とも言えるものだ。このスピードで横切られれば、無事では済まない。

 

 

 

だがそれは、使う側にとってもそうだった。

 

「イージス」

 

ペルセウスの前に出現した鏡の光沢を持つ盾。そのイージスに真正面から突っ込んできた兵士たち。だが、ペルセウスは盾に守られたため無傷。そして兵士たちのうち、4人は何が起きたか分からないまま、頑丈を通り越したイージスに、逆に制御不能のスピードで突っ込んだために槍は原型が分からない程に壊れ、本人たちも衝撃によってあっさりと気絶してしまい、その場に倒れ伏す。

 

「な、何!?」

「どうした!?一体何が…!!」

 

イージスを通り抜け、ペルセウスの背後に回る形になっていた残りの兵士たちは、仲間の身に何が起きたか理解が及ばず、思わず好機と捉えられる状況をふいにして彼らに呼びかける。だがその致命的な隙をペルセウスが放っておくわけもなく、一瞬で右手に緑色の装飾が施された柄が特徴的な短剣を手に持つと、後方にいた二人の兵士たちを通り抜けざまにそれぞれ一閃。彼らは鎧など無視して斬り裂かれ、その場に倒れ伏した。

 

「なっ…!」

 

「あ、あり得ん…!あのペルセウスに、これほどまでの力があるはずが…!!」

 

彼らが知っているペルセウスと言えば、頭脳は非常に厄介なほど特化しているが、生まれつき病弱なため、戦力としては一切数えられない存在、のはずだ。だが、正門と大広間の崩壊、そして縮地足を使用した兵士たちをあっさり返り討ちにする実力。報告に聞いていたとものとは正反対の、むしろ下手をすれば魔戦部隊に及ぶと言える実力を見せてくる。一体どうなっているのか。全く理解が及ばないまま、ペルセウスは顕現していた短剣を一度しまい、今度は身の丈を優に超す、全体的に灰色の鉄に染められた大剣を手に持ち、奥に見える兵士たちを見据える。

 

『っ!!?』

 

それを見て、兵士たちは思わず後ずさった。あれほどの実力差を見せつけられれば生物としては当然と言える。しかし、兵士である彼らにとっては、それは恥ずべき行動だ。

 

「ひ、怯むな!陛下がおられるこの城の中で、好き勝手な真似をさせるな!!」

『おおー!!』

 

小隊の中での隊長枠と思われる兵士が檄を飛ばすと、兵士たちも自らの体に鞭を打って奮起する。それを見たペルセウスは少しばかり感心した様子を表に出した。

 

「その意気は買ってやる価値のあるものだ。けど…一々相手にはしてられないな」

 

そう言うや否や、ペルセウスはその場で大剣を両手で持ち上げると、突っ込んでくる兵士たちには目もくれず、その場で高く跳躍する。高く飛んだことで驚愕する兵士たちを尻目に、彼は両手に持った大剣で己に迫ってきた天井目掛けて三回振りぬくと、石造りのはずの天井は豆腐のようにスパッと斬れ、三角形の穴を作り出す。

 

『ええ~~~~っ!!?』

 

信じられない光景を見た兵士たちが、一様に目を見開き、驚愕の声をあげる。その間にもペルセウスは器用に斬り裂いた穴から上の階へと登り、斬り抜かれた天井は兵士たちの方へと落ちていく。

 

「た、退避ぃ!!」

 

さすがにこれに対して真っ向から、と言うものは現れず、落ちてきた天井だった瓦礫から、蜘蛛の子を散らすように退避する兵士たち。何とか押し潰されるという未来は回避し、焦りを露わにする。

 

「な…なんて奴だ…!」

 

「あの…あいつは、本当にペルセウスなんでしょうか…?」

 

「そりゃあ、あの顔はそうだろう!…と、言いたいところだが、確かにペルセウスにしてはおかしすぎる…。顔だけが似ている別人のよう…そうか…!」

 

小隊の隊長が焦燥としながら彼が去って行った天井を見上げていると、兵士の一人がずっと抱いていた疑問を尋ねる。その疑問は小隊長も気にしていたことのようで、顔こそはペルセウスそのものだが、聞いていた情報と一切合致しない事ばかり起きるために困惑していた。だが、その疑問の答えに、その小隊長は己で辿り着いた。

 

「奴はペルセウスだが、エドラスの魔導士ではない!アースランドのペルセウスだ!」

 

彼が答えたその言葉に、兵士たちは驚愕の声をあげる。魔水晶(ラクリマ)にしたはずのアースランドの魔導士に、まだ生き残りが…しかも、あのような人知を超えた力を抱えながら存在していたことに、動揺を隠せなかった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

そして天井を斬り裂いて上の階へと登ったペルセウス。彼は個人的に国王への用件があると同時に、もう一つの目的も達成する必要がある事を思い出す。

 

「雑魚の兵士ばかり相手にしても意味がない…。やはり隊長格をなるべく早く叩く必要がある。それなら…」

 

魔戦部隊の隊長とやらを戦闘不能に出来れば、自分がどれだけ脅威のある存在なのかを王国軍に知らしめることが出来る。魔法の武器のみを扱うだけの者たちに後れを取らない自負もあるが故の思考。そして、その為には魔戦部隊長に存在を認知される必要がある。と言う事で…。

 

「取り敢えず…」

 

視界を横に向けると剥き出しになっていて王都の様子が見れる、石柱が何本も立っているのを確認したペルセウス。そして両手に灰色の大剣――銘は『グラム』――を構え直しながら、彼は突如その刃を石柱に向けながら駆けだす。

 

「そらよっ!」

 

天井さえも豆腐のように斬り裂いてみせた大剣。それを石柱に向ければどうなるか、明白だろう。一切の抵抗も見せずに次々と柱は灰色の刃によって両断されていき、支えを失ったその廊下の天井が崩壊を始めていく。

 

「き、貴様何をしている!!?」

 

その音を聞いて駆け付けたらしい新たな兵士たちがペルセウスへと向かっていく。それを視認して胡乱気に舌打ちをすると、ペルセウスは大剣グラムを持つ手を振り上げて、一度後ろに引く。何をするつもりなのかすぐさま理解した兵士たちが慌てて場を退避しようとするも、手遅れだった。

 

「でやぁぁあああっ!!」

 

力任せに前方に向けてグラムを振り下ろすと、床は抵抗なくあっさりと斬り裂かれ、その勢いは兵士たちの足元にまで及ぶ。そして足場を維持できなくなったその床もまた、新たな崩壊を招き始める。

 

「し、城を破壊する気か!?この男ー!?」

 

退避することも間に合わず崩壊に巻き込まれる兵士の一人がそう言えば、唯一安全圏に避難したペルセウスは兵士に聞こえさせるように声を張って呼びかける。

 

「城だけじゃねぇ!俺はこの国…ひいてはエドラスと言う世界を滅ぼす気でいる!!」

 

崩壊に巻き込まれながらも聞こえてくるその言葉に、一同は虚を突かれたように目を見開いて、言葉を失った。そんな彼らの胸中も一切無視し、彼は一方的に言葉を放つ。

 

「俺を止めたいと言うなら、王国軍にいるという魔戦部隊とやらをこっちに向かわせろ!!あるいは、テメェらが捕えているアースランドの魔導士たち!魔水晶(ラクリマ)にされた奴等も全員含めて無事に解放しろ!!そのどちらかを果たさない限り、俺はこの城を、そして王都をいつまでも破壊し尽くす!!」

 

そこで一度言葉を区切ったペルセウスはグラムをしまい、紅の炎を模した剣へと換装する。そしてその剣に炎の魔力弾を溜め込み、今いる位置から狙える一番高い部分の屋根目掛けて発射。着弾してすぐに、その部分はごうごうと紅の炎に包まれた。

 

「こんな城なら、半日もあれば瓦礫の山に変える事なんて…造作もねぇぞ!!!」

 

脅迫にも似た警告。城全体を本気で破壊することが出来るという、自らの力と意思の表明。彼の姿を目にしていた者たちは、一様に混乱と恐怖、怒りと激情と言った感情を抱え始める。

 

「ふざけたことを!」

 

ペルセウスのいる位置に、再び兵士たちが押しかけてきて、彼を取り囲もうと迫ってくる。だが、それが暖簾に腕押しであることを、残念な事に彼の力の上澄みしか見ていない者たちは気付かない。

 

「換装、『フラガラッハ』」

 

その言葉と共に、炎の剣レーヴァテインを持っていない左手に、緑の柄を持った短剣・『フラガラッハ』を呼び出す。そして迫ってくる兵士たちに向けてそれを投げつけると、槍を構えて駆けてきた兵士たちの槍や鎧諸共次々と貫通し、一直線上にいた兵士たちの体に風穴を開けた。

 

「…え…?」

「あがぁあっ!!?」

「な、何だ…何が起きた!?」

 

いい加減に見飽きた反応だと毒づきながら、一仕事を終えたフラガラッハを魔力で操作し、緑色の旋風を起こしながら、弧を描いてペルセウスの元へと戻っていく。この神器は太陽の神と謳われたルーが使っていたものであるが、風に関する神の恩恵を受けている為、いかなる鎧も砕いて貫通することが出来る性能を持っている。

 

一瞬で絶命し倒れ伏す者、体の一部を失い痛みに悶える者、運よく直撃を免れ目の前の光景に慌てふためく者、様々な反応を示す兵士たちに、睨みつけながら言葉を紡ぐ。

 

「言っただろ?俺を止めたければ魔戦部隊長とやらを向かわせろと。それとも、死んででも俺を止めたいというのなら…望み通りにしてやるが?」

 

右手に持つ紅炎の剣をぶら下げ、左手に持つ風の短剣を逆手にして前方に向けながら彼は問いかける。大人しく言う通りにするか、もしくは死ぬか。圧倒的な実力差を持つペルセウスだからこそ投げかけることが出来るその問いかけは、彼らの耳に一切入らない。それほどまでに、兵士たちの焦燥は極致に至っている。

 

「な、何故だ…!?」

 

だからこそ、兵士の一人は逆に問うた。

 

「何故こんなことが出来る…!?こんな…何の躊躇いもなく、侵略同然のことが出来るんだ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…?」

 

その問いに、ペルセウスは今まで以上の怒りを感じた。それによって瞬発的に発せられた魔力の質は、魔力を持たないエドラスの人間でさえ、恐怖のどん底に叩き落とすほどの脅威を表している。

 

「テメェらが、それを言うか…!?」

 

瞳孔が開ききり、憤怒と憎悪以外の感情は既に抜け落ち、新たに殺意と呼ぶべきものが全面的に押し出された表情を浮かべながら、ペルセウスは地獄の底から這い出るような、これまで以上に低い声で告げ始めた。

 

「勝手に俺たちの世界から魔力を奪い、勝手に俺たちの家族を形の無い物にして、俺たちの世界からも、自分たちの世界からも、何もかもを奪って、搾って、目障りならば躊躇なく殺して、挙句の果てには…許可なく奪っていった俺の家族を、ゴミと罵って、考えなしに砕きやがった…テメェらが…!!!」

 

溢れる憎悪、込み上げる怒り、高められる殺意、それらすべては形となって現れる。彼の右手に持つ炎を模した剣が、ペルセウスの心の高ぶりを表すように紅の炎を発し、彼の身体を超すほどの勢いで燃え上がっている。

 

「ふざけんじゃねぇぞ…!奪うだけ奪っただけのくせに…数と力に任せて蹂躙してきたくせに…いざ、奪われる側、蹂躙される側に周ったら、掌返して正論をぶつけてきやがんのか…?」

 

この時になって、兵士はようやく気が付いた。自分が恐怖のあまり口にした言葉は、失言だったと。彼にとっては地雷を踏みぬく言葉であったと。だがもう遅い。弁明をしたところで彼は止まらない。むしろ弁明をすれば、彼を更に逆上させることになる。

 

「テメェらはクズの集まりだ…!命をとられる覚悟もねぇくせに、平然と奪って、捨てて、踏みにじる…!命を奪われる覚悟もねぇ奴等が!人の命を、軽々しく奪うんじゃねぇエッ!!!!」

 

左手にあった短剣は、すでに消えている。ペルセウスは激昂に染まった表情のまま、兵士たちに向けて昂られたその炎を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

「『()(えん)(ばん)(じょう)』!!!!」

 

それと同時に放出される、全てを焼き尽くす紅の炎。最早逃げることも叶わず、彼らはその炎に呑みこまれた。それでも炎の勢いは止まない。近くの床や壁、天井を焦がすのみならず焼き尽くし、部分によっては溶解さえしてしまうほどの熱量。その周辺で警戒を続けていた兵士たちも、理解する間もないまま、炎に呑まれて消滅していく。

 

 

 

ペルセウスの周りは、もう城の一部ではなく、地獄絵図の一つと化していた。

 

「……くそっ…!」

 

行き場のない感情を炎に込めた後に残るのは、その結果でも変えられない、この国の犯した所業。どれほど兵士を屠ったとしても、隊長格を潰したとしても、世界を滅ぼしたとしても、もう戻ってくることのない、大切な存在。

 

失った者はもう戻ってくることはない。それが分かっていても、彼は止まることが出来ない。自らの繁栄のために、他者の犠牲を厭わない奴等を、討ち滅ぼすまでは。

 

「こんな奴等の為に…リサーナは…」

 

フラッシュバックしてくる、彼女の笑顔。彼女を失った後の姉と兄の姿。そしてその真相に行きつく情報をくれた覆面の親友。そして今もなお姿が見えない最愛の弟。

 

「…………」

 

ひどい虚無感に襲われながら、ペルセウスは立ち尽くす。この復讐を果たした先にあるものは、果たして…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「おいおい…マジかよ…。スッゲェとんでもねぇことになってんじゃん…!」

 

「んー-、これはまた…随分と手酷くやられたもんだ…」

 

城の一部が地獄絵図と化し、その中心にて唯一無傷で立っている青年の姿を遠目で確認にした二人の魔戦部隊隊長は、柄にもなくそんな月並みな言葉しか発せられなかった。国王軍に逆らうだけでも連行され、幽閉されれば御の字。下手をすれば即処刑だ。

 

だがこれ程の惨状を起こしたとあらば、彼一人の命では到底払いきれないエドラスにおいて最大級の罪だ。

 

「んで?あいつを止めたきゃ、どうしろっつったっけ?」

 

「はっ!魔戦部隊長の皆さんを向かわせること、あるいはアースランドの魔導士を、魔水晶(ラクリマ)化した者たち含めて全員を解放せよとのことです」

 

近くにいた兵士にペルセウスが提示した条件をヒューズが確認すると、的確に情報が伝達されているようで、兵士は流暢に答える。

 

「カハッ!んじゃあ、やることは実質一つしかねーよな?」

 

「ここまで好き勝手させられて、黙ってるわけにもいかないしねぇ…」

 

正面から堂々と襲撃を仕掛けられ、既に何十人もの兵士を無力化されている。王国軍としてのメンツもかかっている今、動かない訳にはいかんとヒューズもシュガーボーイも戦闘態勢を整えながら向かい始めた。

 

 

 

 

 

「襲撃者だと!?数は?」

 

「それが…一人と…」

 

「一人!?たった一人で、城に乗り込んできたのか!?いや、そもそも一人でこれ程の惨状を作り出せるというのか!?」

 

捕らえたアースランドの魔導士を始末しようとしていたエルザは、襲撃者が起こしたという爆発によって一度彼らを放置し、事態の沈静化の為に兵士からの報告を聞きながら急ぎその場へと急行する。だが、その兵士から聞いた報告に、エルザは開いた口が塞がらない状態だ。

 

「アースランドのペルセウス…!?つまり、捕えている方のシエルの兄…。弟を取り返すために単騎で突っ込んできたのか?いや、それにしては妙だ…」

 

考えを巡らせて、彼の狙いを模索するも、予想がつかない。弟が収監されている城内を暴れまわる理由も予測が立てづらい。だが、一つだけ思いついている策はある。

 

「もし万が一の場合は、弟を人質として目の前に晒してやる…。いかに強大な男であろうと、正気ではいられまい…」

 

分は自分たちにありと言わんばかりに笑みを浮かべながらエルザは駆ける。彼女の思い描くその奇策は、吉と出るか、凶と出るか…。

 

 

 

 

 

「襲撃者によって、捕らえに行った兵士はほぼすべて撃退され、死傷者も出ている模様!奴の狙いは、陛下の首と言う発言も…!すぐに避難の準備を!!」

 

一方で国王ファウストに緊急の報告と避難の提案をしに来た兵士たが一人。王の玉座に座りながら黙して耳を傾けていたその老人は、広げていた両の手を握り締め、目を血走らせながら唸り始める。

 

「何故だ?」

 

「…へ…?」

 

「何故ワシが、わざわざ避難しなければならぬ?」

 

思ってもみなかった返答をした国王に、兵士は思わず呆けた声を発してしまうが、そんな些末事を指摘したりせず、ファウストは言葉を続ける。

 

「ここには、最大の兵力、最大の武力、最大の化学力、そして最大の魔力が備わっている!たった一人の襲撃者に対し、ワシがここから離れる理由など、あるか?」

 

「そ、それは…しかし、その襲撃者…普通ではなく…」

 

この王城を差し置いて安全な場所など他にはない。そう言い切ってしまうほどの意味を宿した言葉と共に問われるも、兵士は襲撃者がどれほどに危険であるかを伝えようとする。だが。

 

「襲撃者など恐れるに足らず!魔戦部隊、魔科学班を含む全戦力に通達せよ!我がエドラス王国に歯向かう愚か者を、完膚なきまでに叩きのめせ!!

 

 

 

我等の力を、その襲撃者に知らしめよと!!」

 

「は、ははっ!!」

 

万に一つ、負けることはない。絶対的な自信の現れ。いざという時には、現在抽出を続けている滅竜魔法の魔力もある。たかが一人の襲撃者が、どこまで抗えるものか。高みの見物。その言葉が似合う様子の国王は、この先の栄華の未来のみを見据えていた。

 

 

 

 

 

「さっきから、一体何が起こってんのかしら…てか、見つかったりしないわよね…?」

 

大きな揺れが起きてから、何度も城全体を揺り動かしている謎の地響き。それに対して恐怖を抱えながらも、エルザが鍵をかけ忘れていたおかげで牢からの脱出に成功したルーシィとシエルは、兵士に見つからないよう、囚われの身となってるはずのナツとウェンディを探していた。

 

「…一応、ここには兵士もいないみたいね…。行くわよ、シエル!…シエル…?」

 

柱や壁の陰に隠れながら進んでいたルーシィ。兵士の姿も見えなかったことで先に進めると確信したルーシィがシエルに声をかけるが、シエルからは反応がない。怪訝に思い彼の方を振り向くと、先程城の一部を地獄絵図へと変えた紅の炎を見た時から、固まってその場を動かず、その光景を視線に固定していた。

 

「あれは…間違いない…レーヴァテインだ…!」

 

「レーヴァテイン…?って事は…まさか!?」

 

兵士たちにとっては大惨事であろう。だが、この時のシエルにとって、兵士たちを焼き払ったあの炎は、一つの希望を生み出した確信の要素となった。

 

「そうだ…いる!兄さんが…魔水晶(ラクリマ)にならず、今ここに…!!」

 

目元に涙を浮かべ、実兄の無事を心から喜ぶ弟。何故彼もエドラスで魔法が使えるのか、気になる部分はあるが、それも含めて、ナツたちの救出の為にも、彼との合流を最優先するべきと作戦を変更。すぐに移すため、彼らは再び行軍を始めた。

 

 

 

 

 

「上の方で、何があったんでしょう…?」

 

「ぐしゅしゅしゅ…他の事を心配される余裕がおありでしゅかな…?」

 

一方でどこかの地下空間。そこでは四肢を繋がれた状態ではりつけにされている滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の二人。その二人に憎たらしいニヤケ顔を浮かべながら装置を向けるのは、魔力の抽出の一時的な全責任を請け負ったバイロ。既に何回か魔力の抽出をされて、二人とも顔に疲労の色が見える。

 

だが、先程から上の方で激しい戦闘と思われる音が響いており、否が応にも意識を向けてしまう。ウェンディは心配を前面に出した表情を浮かべているが、ナツは反対に笑みを浮かべている。

 

「大丈夫だ!ウェンディ!きっとオレ達の仲間の誰かが助けに来たんだ!きっとここにも来る!だから諦めんな!!」

 

「ナツさん…はい!!」

 

「ぐしゅしゅ…威勢だけは人一倍のご様子…」

 

仲間と言うと、ルーシィか、シエルか。だが魔法を使えたのはルーシィだけのはず。可能性は低いと思えるが、ナツは心から仲間が来たことを信じている。それを聞くと、本当に希望が見えてきたように思えてくる。だからウェンディも諦めない。ナツが諦めない限り、その影響を受け、彼女もまた諦めようとはしない。

 

「ぐおおおおおっ!!絶対に…諦めねぇぞぉーーっ!!チクショーーーー!!」

 

再びバイロに魔力を吸収されていくナツ。それに苦痛の叫びをあげるが、彼の目には、諦めと言う文字は一片も入っていなかった。

 

 

 

 

 

「うわぁ!何これ!?城が滅茶苦茶になってる!?」

 

「誰のせいかは分かんないけど…ウェンディたちは、無事なんでしょうね…!?」

 

そして、天高くから舞い降りるのは、白い一対二枚の翼を背中から生やした青い毛のネコと白い毛のネコ。友の元へと飛び立つために、心の形を羽に変え、今度は絶対助けると誓う。

 

「とにかくみんなを探さないと!行くわよ、()()()()!!」

 

「あいさー!!」

 

決意を新たにしたネコたちは、まだあちこちで破壊音が響く城の中へと入っていく。混沌極める王城は、続々と変化していく。

 

 

 

 

 

 

「…余計な邪魔をしてくれる…」

 

城の一室・研究室で、王城内の様子を映し出したモニターは、その襲撃者の姿をしっかりと映し出している。それを見ながら、眼鏡の奥にある切れ長の目を細め、その青年は悪態をつく。

 

「俺があんたを止めてやるよ…()()…!」




おまけ風次回予告

ルーシィ「ペルさん…助けに来てくれてるのはいいけど、さすがにやりすぎ~!ナツたちが可愛く見えてきちゃう!!」

シエル「これ…多分だけど相当ブチ切れしてる時の暴れっぷりだよ…。まあ、でも無理もないか…仲間のみんな、勝手に取られてるんだもん…」

ルーシィ「それにしてもペルさん、あたしたちと同じようにアースランドに一度残されてから、こっちに来たのかな?てっきりみんな同様魔水晶(ラクリマ)にされてるのかと…」

シエル「それは俺も気になってた。俺たち兄弟二人とも…一体どうしてだろ?」

次回『堕天使vs.魔戦部隊』

シエル「あれ、ちょっと待てよ…?」

ルーシィ「どうしたの?」

シエル「俺たち同様、兄さんが俺たちも魔水晶(ラクリマ)にされてると思って、遠慮なしに暴れてるとしたら…?(汗)」

ルーシィ「それって…あたしたちも死と隣り合わせ(巻き添え)の可能性!!?(汗)」
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