FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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何だかんだで難産だった今回。あんまり長く…もとい先に進めなかったなぁ…。

時に…今週この小説のUAが急激に上昇するという、これまでも何回かあった現象が起きていたんですが…調べている内に分かりました。

何と!この時日間ランキングの100位圏内に入らせていただいておりました!!
これも読んでくださる皆様のおかげでございます!本当にありがとうございます!確認した時には総合40位でした!

しかもその効果でお気に入りの件数もぐんぐんと伸びて…いまや500件突破!凄く嬉しかったです!

これからも出来得る限り更新を続けていって、完結目指します!!


第86話 堕天使 vs. 魔戦部隊

轟音と共に城は崩れ、衝撃と共に兵は吹き飛び、それらを引き起こしているたった一人の青年には一切の傷どころか、疲れすら見られない。

 

青い三又の槍・トライデントが作る魔法陣から大波が発生し、そこら中にひびが入った王城内の兵士たちを更に流して数を減らしていく。

 

「バ…バケモノだ…!!」

 

「や、やはり…隊長たちに後を託すしか方法がないのか…!?」

 

膨大な量の水に流され、ようやく城の柱の一部にしがみつくことが出来るようなった兵士たちから、恐怖を前面に出した声が出てくる。その恐怖を向けられた青年が提示した、魔戦部隊の隊長がこの場に到着するにはまだ時間がかかる。その間にも城や兵士たちに攻撃を仕掛けて破壊し続ける男を少しでも食い止めようと、次々と槍や魔道具を携えながら兵士たちが抵抗を続けるが、今までの自分たちの魔法の常識を覆す…どころか粉々に打ち砕く人智を超えた力を思うがままに振り回す彼を、ほんの少しすら留めておくことも叶わない。むしろ、いたずらに被害を増やしているだけだ。

 

「隊長方は!?」

 

「ヒューズ様とシュガーボーイ様には既に連絡してある。エルザ様にも伝えたという連絡もあった」

 

「パンサーリリー様はまだ不明だが、これほどの騒ぎだ。恐らく自主的に向かっておられるはずだ」

 

「少しでもいい、これ以上城の被害を増やしてなるものか!!」

 

暴れまわる襲撃者の攻撃が届かない範囲で兵士たちが情報の交換を行い、更に城中の兵士たちが彼の元へと向かっている。誰も彼もが恐れながらも国のためにと決死の覚悟を持っての特攻。だがしかし、相手が悪すぎる。

 

「無駄な事だと、分からねぇわけじゃねぇだろ?」

 

十人を超す人数の兵士たちが一斉に襲い掛かっても一切動揺を見せず、ペルセウスは手に持っていた槍から再び水を放出。その水は先ほどと比べるとあまりに勢いが少なく、精々床が浸水した程度。その事を怪訝に思いながらも足を止めずにこちらに迫ってくる兵士たちを、見据えながら彼は石突を再び床に展開していた魔法陣に叩きつける。

 

すると、彼らの足元付近から気泡が突如現れ始め、数瞬が立つ頃には勢いよく人間一人を巻き込める量の水柱が吹き出した。間欠泉や噴水のような光景だが、その勢いはこれらを凌ぐとも言える。事実、あまりにも勢いが強すぎて、飲み込まれた兵士ごとそのエリアの天井が突き破られた。

 

「またさっきとは違う技を!?」

 

「一体、どれだけの手札を持っているんだ、あいつは!?」

 

それぞれの特性が異なる神器。そしてその神器の一つ一つが、使い方次第で様々な戦い方をすることが出来る。事あるごとに換装で別の神器を呼び出して、千変万化の戦い方をするペルセウスに、あらゆる意味で王国軍は翻弄されている。しかもそのどれもが下手をすれば簡単に命を奪われるほどの規模なのだから恐ろしい。

 

「遠くからなら狙えるか!?」

 

「多少威力は落ちるが、この際気にしては…!」

 

近接型の神器ばかりが目に入っていた為に、遠距離の魔法を用いて狙い撃ちにしようとする兵士もいたが、気付いた時には魔力で出来た光る矢によって彼らは逆に射抜かれていた。呻き声を上げながら倒れる兵士たちを確認しながら、彼は金と銀に分かれた、月が彫られた大弓・イオケアイラを今度は上空へと構える。

 

「降り注げ、月光の如く…」

 

20ほどの矢に分岐させてから空高くへと撃ち出せば、それぞれ別たれた光の矢は弧を描いて、城のあちこちを更に破壊していく。近距離ばかりじゃない。遠距離にも対応がされているという現実を見せられたことで、ただでさえ下がり切っていた兵士の士気はさらに低下していく。

 

「だ、ダメだ…!全くもって止められない…!」

 

「アースランドのペルセウス…!人間の所業とは思えない…!!」

 

ほんの少しも、それこそ小さい蟻ほどの誤差さえ変貌させることが出来ずにますます増えていく被害。最早兵士たちの心すら折れていると言っていい。そんな彼らの胸中など知りもせず…知ろうとも考えすらしない彼は大弓をしまい込むと、続いて銀の大剣を再びその手に出現させる。

 

「さて…王の場所だけでも分かれば直行したいんだが、皆目見当もつかねぇ。やっぱ上の奴等を叩いて聞きだすっきゃねぇか。それにはあと、どれだけ斬ればいいのか…」

 

手に持つ大剣を構えながら、今現在いる廊下の横の壁を斬り進もうとぼやいていたペルセウス。そんな彼の動きは、その耳にある音が近づいているのを感づいたことで一度止まり、その音の正体を瞬時に判断し、すぐさま対応した。

 

「はあっ!!」

 

その声をあげながらこちらに高速で突進してきたその存在を、銀の大剣で咄嗟に捌き、受け流す。縮地足を使ってきた兵士達よりもさらに速い。ペルセウスはすぐさま気付いた。この実力者は間違いなく今までの中でも一番強いと。だが、その存在の姿を視認するよりも速く、再び高速でこちらに攻撃を仕掛けてきた。

 

「速い…!」

 

少しばかり驚愕を顔に出しながら、大剣でその攻撃をいなすペルセウス。しかし、速度に特化しているらしい相手に頑強な大剣で挑むのは無理がある。5度目の攻撃を受け流すと同時に、彼は換装で手に持つ武器を交換した。その手に持つのは、橙色の炎を発する鎖。

 

「縛り上げろ、グレイプニル!!」

 

その鎖、グレイプニルを己の体を囲むように広げ、次の攻撃が来た際に捕えられるように態勢を整える。だが、その存在は鎖に突っ込む寸前で後方に跳躍し、ペルセウスとの距離をとった。速さだけでなく反射も相当なものらしい。

 

「報告を聞いた時まさかと思ったが、本当に全く違う武器に変えられるのだな」

 

彼を攻撃してきたその者の声と顔を見聞きした瞬間、ペルセウスは戦闘の間際とは言え、衝撃のあまり目を見開いた。

 

両手に持つのは、尖った先端と、そのすぐ近くの絵は金色の風を象った意匠となった長槍。しかしそれを構えているのは、自分と同じギルドに所属している緋色の長い髪を持った女性、エルザ。声も口調も酷似しており、服装と手に持つ武器が違っていなければ、本人と間違えてしまいそうだ。

 

「エルザ!?…いや、エドラス(こっち)のエルザってところか…。まさか敵側にいるとはな…」

 

「貴様こそ、アースランドのペルセウスと言うのは本当らしいな」

 

片方は己を囲っていた橙の鎖を魔力で操作して前方に広げながら、もう片方は持ち上げる要領でいつでも攻撃に転じられるように槍を構えながら、目の前にいる脅威の存在と対峙する。

 

「ペルセウス・ファルシー。マスターでもない、ただのギルドの一員だ」

 

「私は王国軍第二魔戦部隊隊長、エルザ・ナイトウォーカー」

 

「そうか…魔戦部隊の隊長の一人は、お前ってことか。ちょっとばかしやりづらいな…」

 

「これ程の被害を我々に与えている癖に、ぬけぬけと言えたものだな」

 

まさか仲間と同じ顔をした存在が敵側にいるという事に少しばかり苦虫を噛み潰したように顔を顰めるペルセウスを、嘲笑を浮かべながらエルザは非難する。今は恐らく王都全体もパニックになっているであろう惨状を作り出した男が言えるセリフではないと言いたげに。

 

「貴様の望む通りに出てきてやったんだ。ここまで我々をコケにしてくれたことを、後悔させてやろう」

 

目を据えながらエルザが呟いたと思いきや、彼女が構えている槍の先端が突如光り、今度は炎を模した装飾が施されたものへと変化する。

 

「換装…じゃない…!」

 

「『爆発の槍(エクスプロージョン)』!!」

 

その変化を瞬時に分析していると、彼女は槍の先端から爆炎を放出。対してペルセウスは鎖から発せられた橙の炎を自分の前に展開して威力を相殺する。爆炎の威力と規模を見た彼はすぐさま右手にトライデントを装備して、お返しとばかりに大波ほどの水を放出する。

 

「火には水。そんな浅はかな考えが通用するとでも?」

 

自慢の槍であればたとえ大量の水であろうと簡単に蒸発させられる。そう考えてもう一度爆炎を発射するが、その炎はあっさりと大波によってかき消される。

 

「何!?っ…『音速の槍(シルファリオン)』!!」

 

これに動揺を表したエルザは、すぐさま槍の形状を先程のものに戻し、その場を高速で退避。そこから再びエルザは高速でペルセウスに斬りかかろうとする。

 

「甘いな」

 

しかし、彼を囲むようにして間欠泉のように水柱が発生し、エルザは足を止める。あまりにも規模が違う魔法に少しばかりたたらを踏んだものの、長い間軍の隊長として戦った彼女は、すぐさま起こすべき行動を起こすことが可能。

 

「『封印の槍(ルーン・セイブ)』!!」

 

槍の形状を再び変化させ、彼が起こした水柱の壁を一閃。するとそこを起点として見事に水が上下に分かれ、ペルセウスがいるであろう場所へと通じる。だが、その勢いのまま突き出した槍の先に、対峙していた青年はいない。

 

「っ!?どこだ…!?」

 

姿を見失った青年の姿を探し、首を向けているが、その姿は見当たらない。避難できる場所などないはずだが…と、一つだけスペースのある空間がある事に思い至る。その方向、上へと視線を向けると、予想通り彼はいた。

 

右手には三又の槍を持ちながら、左手には先程までなかった紫電を纏った頑強な大鎚を持ち、紫の雷を迸らせている。

 

「(誘いこまれたっ…!?)」

 

気付いた時には既に遅い。ペルセウスはエルザが入ってきた方とは逆の水壁に紫電が迸っている大鎚を叩きつける。電気を通しやすい水は四方八方に目にも留まらぬ速度で駆け巡り、水壁を突っ切ったエルザにもその紫電が襲い掛かる。

 

「しまっ…ぐあああっ!!」

 

即座に退避することも対応することも間に合わず、彼女は駆け巡ってきた電撃を受けた。想像を絶する痛みに思わず片膝をついてしまうほどに。まさか、魔戦部隊の隊長であり、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちを何人も屠ってきた自分が、短時間での激突とは言え、苦戦を強いられ、片膝までつかされるとは。軍の人間として生きてきた中で、これほどの屈辱は初めての事とまで言える。

 

「換装、グラム!!」

 

「くっ!!『重力の槍(グラビティ・コア)』!!」

 

ペルセウスは銀の大剣を構え直して上空から降り下ろしてくるのを、エルザは重力を発生させるパワー型の槍に変化させて迎え撃つ。本来であれば最大級の威力を誇ると言っていいこの槍ではあるが、実際の重力を使用して叩きつけてくる上に、同じように重厚さを重視した大剣に加えて、容姿から想像しがたい贅力を持つペルセウスを受け止めるのは相当な力を要する。

 

現にエルザの足元は、ペルセウスを迎え撃った時点で陥没を始め、数秒もすれば下の階層に落ちてしまうほど崩壊しかかっている。

 

「ぐっ…うぉおおおおっ!!」

 

しかしそれに負けじとエルザは槍の力を最大限に引き出し、ペルセウスの大剣を押し返す。押し返したことで隙が出来たペルセウスに向けて、すぐさま槍の形状を再び変えたエルザはそこに追撃を重ねる。

 

「『真空の槍(メル・フォース)』!!」

 

槍の先端から暴風が発生し、彼の身体をそれによって吹き飛ばす。その影響によって彼の手から大剣が離れ、本人は長い廊下を飛ばされていく。

 

「フラガラッハ!!」

 

だがすぐさま、風の力を宿した短剣を出して己の体に風を纏わせる。壁や床に身体を打ち付けずに済み、体勢を立て直す。ちなみに、手から離れた銀の大剣は床に根深く突き刺さった。

 

「随分毛色が違うようだが、貴様の魔法、原理は私の『魔槍テン・コマンドメンツ』によく似ているようだ」

 

「槍の形状と一緒に本人の能力が変わるのは、俺より別の奴を思い出すがな」

 

ペルセウスもエルザも、今の攻防で互いの魔法について大分理解が及んだらしい。特にペルセウスはエドラスの魔法について説明を受けていたものの、その枠組みから外れているかのような彼女の槍に関して、魔法自体も使い手も相当なものであることを身をもって実感している。

 

「だが貴様は、このテン・コマンドメンツの本当の力をまだ見ていない。それに…」

 

一見すると互角。あるいはペルセウスが言って有利と言った状況。だが、エルザは勝利の確信があった。己の扱う槍にはまだ隠された力があり、その力を解放すれば確実に勝利を掴み取ることが出来る。更にもう一つは…。

 

「魔戦部隊長は一人じゃねーって事」

「んーー」

 

ペルセウスの後方からようやくの到着として現れたのは紫髪の白いメッシュが入った、小枝のようなタクトを持っている青年と、金髪のリーゼントにケツアゴ、そしてピンクの鎧に身を包んだ男。エルザと同じく魔戦部隊の隊長に名を連ねているヒューズとシュガーボーイだ。

 

「エルザと渡り合うなんて確かにスッゲェ強ぇみたいだけどよ」

 

「3人がかりとなれば、さすがに分が悪いと思えるんじゃないかな?」

 

彼らもまたエルザと比べれば劣るかもしれないが、隊長と言う立場についていることから生半可な実力者ではないことは確か。如何にペルセウスと言えどもこの数的不利には敵わないのではないか。今の魔戦部隊長達には、彼に負けるようなビジョンはなかった。

 

「まあでも、この城に一人で乗り込んだお前が悪いんだ」

 

ヒューズがタクトを掲げれば、彼の背後に控えていたらしい小型の機械がいくつも浮遊して狙いを定め…。

 

「ここで、大人しくなってもらおうかね」

 

シュガーボーイが腰に差していた、薔薇の形をした鍔が特徴の剣を引き抜く。共に浮かべているのは嗜虐的な笑み。同様の笑みを浮かべながらエルザも槍を構え直した。

 

「覚悟しろ。最早勝ち目などないぞ?」

 

三方向からペルセウスを取り囲み、どのような動きを見せても対処が効くように構える隊長たち。ここまでエドラス王国を翻弄してきたペルセウスの命運も、ここで尽きたか。

 

 

 

 

 

少なくとも、隊長たち()()はそう思っていた。

 

「勝ち目がない…?それが?」

 

一切緊迫した様子の無い、抑揚のない声で呟いたと同時に、彼の頭上…彼が立つ位置を囲むように大量の魔法陣が出てきたと思えば、今まで城の中を破壊してきた神器たちがそこから出現した。

 

その光景に余裕を思わせる笑みを浮かべていた隊長たちの表情が一瞬で凍り付く。それを意に介さず、ペルセウスは自分の足元付近に神器たちを一斉に発射。各々の力を持った強力な一撃が辺りを蹂躙し、辺り一帯の空間の床を完全に崩壊させる。

 

「ま、マジかよ!?あいつ自分ごとオレたちを落下させてきた!!?」

 

今の階層から更に何階か下にまで及ぶ崩壊。そこへの落下に魔戦部隊長も巻き込まれ、彼らはただただ驚愕に目を見張っている。あくまで直接的な攻撃ではなく足場を崩壊させるだけの攻撃だったが、この動揺はペルセウスが意図的に狙ったものだ。

 

崩壊する瓦礫を足場にして転々と飛び移り、床に突き刺さったままだったグラムを回収したペルセウスは、その勢いのまま、一番近くにいたヒューズに向けて振りかぶる。

 

「あっ!くそぉ!!」

 

焦りながらもタクトを振るえば、小型の機械がペルセウス目掛けて飛び掛かり、魔力と思われるエネルギーを放出しようと狙いを定める。だが、それよりもペルセウスが横斬りに大剣を振ると、いくつもあった小型の機械はどれも真っ二つにされて爆発四散。

 

「なっ!?」

 

更に動揺してフリーズするヒューズ。そこにペルセウスは再び大剣を振り、斬ると言うより刃の側面で叩きつける。彼の身体はそれで簡単に飛んでいき、庭園を横切って、別の建物の中へと叩きつけられる。

 

「ヒューズがあっさり…!?」

 

数的有利を作っていたはずが、一人を簡単に戦線離脱させられてシュガーボーイも動揺が走る。その隙を突いてペルセウスがシュガーボーイに向かって飛んでくる。ヒューズを飛ばした大剣を振るってくる彼に対して、シュガーボーイは自分の剣をぶつけてくる。

 

「オレの剣『ロッサエスパーダ』は…如何なるものも柔らかくしちまう…君のその剣も…へっ!?」

 

シュガーボーイが扱う剣・『ロッサエスパーダ』には、生物以外…無機物であれば魔法であろうと柔らかくすることが出来る。石も、鉄も、どんなものでも。だからペルセウスが振るってきた大剣であっても、柔らかくしてしまえば使い物にならなくすることが出来る…はずだった。今まで出来ていたはずの効果がまるで発動せず、鍔迫り合いを繰り広げられてる。

 

「俺の剣も…何だって?」

 

「そ、そんなバカなっ!?」

 

シュガーボーイの言葉に対して問い詰めるように声をかけるペルセウス。だがシュガーボーイはもう正常な思考が出来る状態ではない。競り合っていた剣にさらに力を込めると、ペルセウスの持つ銀の大剣は、ロッサエスパーダを逆に真っ二つに斬り裂いた。

 

そして絶望も交えた驚愕の表情を浮かべていたシュガーボーイは、直後左掌をかざしてペルセウスが飛ばした魔力弾に顔面を直撃され、横の壁へと叩きつけられることになった。

 

残るはエルザ。しかし、床の存在する最下層はもう近い。フラガラッハを換装で呼び出して自らの周りに風を発生。一度一番下の階へ着地を完了させる。

 

「ペルセウスゥ!!」

 

その直後、憤怒の表情を浮かべながら音速の槍(シルファリオン)で突撃してきたエルザの攻撃にも手に持った短剣で対処。逆にフラガラッハを彼女目掛けて投げつけ、右手にはレーヴァテインを装備する。

 

「くっ…!おのれぇ!!」

 

有利だったはずの状況をたったの一手を起点に逆転させられた。呼び寄せた魔戦部隊長も二人、何の抵抗も出来ぬまま戦闘不能にされた事にも怒りを隠せない。これ程までコケにされたことなど初めてだ。エルザは再び槍の形状を変えて彼に攻撃を仕掛ける。たとえどんな武器に向こうが変えようとも対処できるように。

 

封印の槍(ルーン・セイブ)!!!」

 

どのような魔法も斬り裂くことが出来る槍。これを用いれば、理解不能な彼の扱う武器であっても封じれる。そう信じて疑わず彼女は彼に向けてそれを振るった。

 

 

 

「換装、ダーインスレイヴ」

 

だが彼女のその自信は、一瞬で彼が変えた一振りの黒い剣によって打ち砕かれた。あらゆる魔法を斬り裂く封印の槍(ルーン・セイブ)が、逆に先端の部分を斬り落とされたことによって。

 

「…は…?」

 

これまで驚愕こそすれ思考が固まるほどの衝撃までは受けなかったエルザ。だが、今回に関しては未だかつてない程の衝撃と共に絶望さえ味わった。自分の扱う槍が…数多の反逆者をこの餌食にしてきた己の得物が…何の前触れもなく斬り落とされた。

 

そして目の前にいる青年は、勝者の誇らしさも、敗者に向ける嘲りも、一切感じさせない何の感情もこもっていない表情でエルザの顔の目の前に黒剣の先端を向ける。それによってエルザは息を呑み、体も硬直してしまう。

 

「勝負ありだ」

 

特に感情の高ぶりがあるわけでもない。軍の中でも強大な力を持っている自分たち魔戦部隊長を悉く打ち倒しておきながら、達成感も何もない、まるでこうなって当然とばかりの表情を浮かべているペルセウスに、エルザはどうしようもない怒りと悔しさが込み上げてきた。それと同時に、今まで軍の一員として国に仕えた者として、この現実に向き合う姿勢を彼女は見せる。

 

「殺すならさっさと殺せ…!貴様などに情けをかけられる筋合いは…!」

 

「そうはいかない」

 

だが、彼女のそんな姿勢は、言い切る前にペルセウス本人によって中断される。何を言い出すのか理解できないというような表情を浮かべている彼女に構わず、彼は次の言葉を発した。魔戦部隊を呼び寄せたことに繋がる、大元の目的を。

 

「国王の居場所を教えてもらおうか」

 

それを聞いたエルザは察した。この男が目的としているのは自分たちではなく、もっと上の存在だと。

 

「…知って…どうするつもりだ…?」

 

だが確認しなければならない。自分たちの王に近づこうとする者が、本当に自分が想像している通りの事を企んでいるのかと。その問いに対しても、彼は抑揚のない声で淡々と答えを示して見せた。

 

「簡単だ。あのロクデナシの国王の首を、斬り落とす」

 

「……!!」

 

確定した。この男は最初から、国王ファウストの首一つの為に単騎で突っ込んできたのだ。そしてこいつは、自分に王の首を差し出せと言ってるも同義の問いをしている。まさか、仲間を助けるために手っ取り早く大将首を取ることに思い立ったなど、考えつくことすら信じられないのに、実際にそれを実行してみせた。

 

「気は確かか…貴様…!!」

 

「狂ってるのは承知だ。だが、勝手に許可なく家族の命を取っていきやがったくそったれに(かしず)く程度の奴等に言われるのは癪だな」

 

明らかにこちらを見下している。それが分かっているのに、今のエルザには物理的な反撃をすることが一切できない。反撃しようものなら一矢報いる間もないまま斬り捨てられてしまうだろう。だが国王陛下に対して背信行為を働くような真似もごめんだ。国に対しての裏切りと同じこと。国に仕える者としてその選択も真っ先に排除している。

 

ならどうするべきか。頭の中で様々な解決策を考えていたエルザは、一つだけこの状況を打破できそうな要素があったことを思い出した。

 

「くくく…!」

 

それによって思わず笑いが込み上げた彼女に、ペルセウスは怪訝な目を向ける。何がおかしいと変化のない声を出したペルセウスに、彼女は嘲笑を浮かべて告げた。今に動揺に塗れた顔に変わるのが楽しみだと独り言ちながら。

 

「貴様がもしも、陛下の首を取ろうとしたのなら…貴様の弟は、どうなるのだろうな…?」

 

その瞬間、空気が変わった。

 

 

 

だがそれは、エルザが望んだようなものとは違った。

 

 

 

「――――っ!!?」

 

全身の鳥肌が、産毛に至るまで命の危険を告げるほどの悪寒。思わず彼女は呼吸が苦しくなり、全身から汗がにじみ出る。そして目の前にいる存在から目を逸らすことが、出来ずにいる。

 

そう。目の前にいる存在の纏う空気が、変わったのだ。

 

 

 

「おい…そいつは、一体…どういう意味だ…!?」

 

怒りと憎悪。まさしくその二つの感情のみが表情に現れ、纏う空気は並大抵の人間であれば向けられるだけで本当に死に至るほどの殺気。

 

エルザは間違えたのだ。弟を利用した脅迫は、彼自身の地雷を踏み荒らす行為に等しかったことを、彼女は知らなかった。

 

「シエルに何かしたんだとしたら…この世界中の全人類を根絶やしにすることも厭わねぇぞ…!!あ…!!?」

 

エドラスに住む者だからこそ、知らなかった。彼がどれほど家族を…特に弟を自らの命より大事に思っているかを。彼が家族の事に関して怒りを表せば、どれほどの恐怖を与えられるかを。彼が…闇の世界でかつて『堕天使』とまで言われるようになるほどの、強さと狂気を抱いていたことを。

 

さっきに気圧されて硬直するエルザに、答える意思がないと判断したペルセウスは、黒い直剣を上へと振り上げる。これ以上彼女に構っても時間の無駄と判断したペルセウスが、彼女の命を絶って他の者から王の場所を聞き出そうとするために。そしてそんな彼の動きを、呆然としながらエルザはそれを見ているだけ。最早、この場での死すらも受け入れていた。

 

 

 

 

 

 

だが、それは彼らの横から炎の魔力弾がペルセウス目掛けて飛来したことにより、彼はその動きを中断。ダーインスレイヴでその魔力弾を斬り裂いた。他の兵士が使っていたものとは違う、高威力のもの。恐らく先程の彼らとは別の隊長だとペルセウスは結論付けていた。

 

「他にもいたのか、魔戦部隊…っ!!?」

 

だが、それは彼の予想とは全く違った人物だった。事実、彼に攻撃を放ったのは魔戦部隊に所属している者ではない。

 

 

 

「眼前の敵を前にして呆けているとは、武力ばかりが取り柄のお前が、それさえも放棄するとは呆れるな」

 

「…ま、まさか…!()()まで、王国の…!?」

 

現れたその人物が、エルザに向けてあきれ果てるようにそう言葉を零す。だがそれは、今の今まで一切揺らぐことがなかったペルセウスの表情を、これでもかと驚愕と焦燥に染め上げた。

 

水色がかった銀色の短い髪に、切れ長の目元にはそれを強調するメガネ、身に纏っているのは白衣で、いかにも研究者と言った風貌。だが、右手には赤、青、黄色、緑の宝珠が一個ずつ房のようになって、それが先端についている長杖。左手には、エルザが持っていたであろう槍と同じタイプのものを持っていて、先程ペルセウスに向けた攻撃は右手の長杖によるものだと推測できる。

 

顔立ちは記憶より大人びているし、声だって低いが、ペルセウスは一目見て気付くことが出来た。彼が何者なのかを。

 

「シエル…なのか…!?」

 

「あんたにこう言うのも妙な感覚だが、()()()()()。アースランドの兄よ。エドラス王国魔法応用科学研究部にて、部長を務めている、シエル・オルンポスだ」

 

動揺を隠せないペルセウスに対して、淡々と正確には初対面である異界の兄弟に挨拶を投げかけるエドラスのシエル。ペルセウスにとって、今までのどの事実よりも予想外だった。エドラスで自分は妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスターを務めている。だが、その弟であるはずのシエルが、まさかの王国側の人間だと、信じがたい現実として、ペルセウスに襲い掛かってきた。

 

「シ…エル…!?」

 

魔法(ぶき)も失って茫然自失するのは勝手だが、今お前を失うのは国にとって無視できない損害だ」

 

シエルの登場によって意識が戻ってきた様子のエルザが目を見張ってシエルの方を向くと、相も変わらず彼女の癪に障る言動で告げる。だが、今の彼女はそれに反応することもない。どうやら相当堪えているようだと、シエルは心の中で思った。

 

「『アクアショット』!」

 

そしてその状態のまま、長杖の青い宝珠の部分を輝かせると先程とは違う水の魔力弾をペルセウスに撃つ。動揺を顔に出しながらも黒剣で斬り裂くペルセウスだが、シエルは魔力弾を撃つと同時に彼との距離を詰め始める。

 

「っ!」

 

長杖を振りかぶって彼を殴打しようとしたシエルに対し、ペルセウスは反撃も防御もせずに回避する。先程の魔戦部隊長と戦った時の覇気や異常さは微塵も感じられない。

 

「別人とは言え、()を傷つけるのはやはり気が引けるのか?兄貴」

 

続けざまに告げられた言葉に図星をつかれたのか言葉を失うペルセウス。それを横目にして、シエルは左手に持っていた槍をエルザに投げ渡した。

 

「この事態も想定に入れて製作していたテン・コマンドメンツの“レプリカ”だ。と言っても、機能は本物に劣りはしない」

 

「貴様が作ったものを手に、戦えと…!?」

 

「なら、その使い物にならなくなった本物を後生大事にするつもりか?」

 

どうやらシエルが持っていたのは、万が一エルザの武器が破壊された際の予備として作成していたものらしい。エルザからすれば、気に入らない男が製作した武器を手に戦うなど屈辱でしかないが、言い返せない正論を投げかけられたために、渋々ではあるがその槍を手に立ち上がる。

 

「奴は俺が相手をしておく。お前は別の場所に行け」

 

「別…?」

 

「広場の魔水晶(ラクリマ)が消失した。アースランドの他の仲間が元に戻したらしい。それと、捕えていた例の二人も、牢から脱出しているぞ」

 

「なっ…!?」

 

ペルセウスの襲撃によって意識を割かれていたが、この隙に広場にあった魔水晶(ラクリマ)がある者の手によって元の人間に戻され、さらにはアースランドのシエルとルーシィが脱獄していることが、モニターで確認していたエドシエルによって明かされる。その事に驚愕しつつも了承したエルザ。しかし、彼女には一つ懸念がある。

 

「だが、あのペルセウスは魔戦部隊長でも歯が立たない。貴様に倒せるのか?」

 

「倒すのは不可能だ。だが…」

 

ヒューズ、シュガーボーイ、エルザの3人がいても、あっという間に返り討ちにされた。遺憾ではあるが事実を伝え、魔科学班の部長であるエドシエルには荷が重すぎる相手ではないかと言う懸念。それに対して勝ち目はないことは、彼も承知。しかし…。

 

「負けることはない。俺が奴を狙い続ける限り」

 

彼の心情を大いに利用した、弟と同じ名と顔を持った非情なる科学者にその言葉と共に向けられた視線を受け、ペルセウスは表情を強張らせた。




おまけ風次回予告

シエル「そこら中から響いていた轟音と地響きが止んだ…」

ルーシィ「ひょっとして、ペルさんに何かあったのかしら?」

シエル「兄さんに何かあった、と言うより兄さんがどうしたのかが気になるなぁ…。音だけじゃ全然情報もないし、かと言ってウェンディたちも放っておけないし」

ルーシィ「いろんなところで混戦状態って感じ、よね…。何だか、城の外も騒がしいみたいだし」

シエル「兄さん…ウェンディ…」

次回『コードETD』

シエル「心配にはなるけど、今は出来ることをしよう!まずはウェンディたちだ!」

ルーシィ「そうね。ナツ…大丈夫、だよね…?」
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