二週間連続土曜出勤、さらに棚卸と言う激務付きの過酷スケジュールの後でしたが、書けました!書ききりました!!そんで眠いです!!←
お待たせしている間にUAやお気に入り登録がさらにどんどん増えていって、今回反動によって大幅減少するんじゃないかと言う恐怖もありますが、とにかく今後も更新は続けていきます。
それと、予定より更新が遅れている際は、活動報告に目を通していただけると幸いです。急な遅延の際は、大体そこで連絡させていただいておりますので。
王城内を圧倒的な力をもって破壊し続けていたペルセウス。そんな彼を止めようと動いたのはシエル。同じ名前と似た顔を持ちながら別人として区分けされる、エドラスのシエルだ。
実力だけを鑑みれば、実際の戦闘力においては前線で魔戦部隊として戦うエルザたちの方が上。そしてペルセウスはそんな魔戦部隊の隊長が3人いてもなお圧倒してきた、まさにバケモノ級の強さ。しかし、そんな彼を前にして、エドラスのシエルに焦りは一切ない。寧ろ焦っているのはペルセウスの方だ。
「(落ち着け…あいつは俺の弟じゃない…。シエルであることは間違いないが、俺と言う存在の弟は、あいつ一人だけ。奴は別人だ…!)」
己の前に現れた『シエル』と言う存在。自らの命よりも大切に想っている弟の異世界での人物と言う事実は、頭の中で別人と分かっていても、面影から自分の知るまだ年若い弟の姿を思わせる。
そしてその動揺は、本人も感じ取っていることだ。
「早く行け、エルザ。状況は更に動くことになる。ヒューズとシュガーは少しすれば復帰できるはずだ」
「……せいぜいしくじるなよ…」
ペルセウスに視線を集中させながら、後方にいるエルザにそう言葉をかけるシエル。癪ではあるが自分に出来そうなのはそれだけだと自覚し、エルザは二人に背を向けて脱獄した二人の捜索を開始する為に駆け出した。
「逃がすか…!」
黒い直剣を握り直して、背を見せるエルザに斬りかかろうと踏み込むペルセウスだが、それよりも早くエルザとの直線状にエドシエルが立ちはだかり、彼の足を止めさせる。
「それはこちらのセリフだ。暴れたいなら、俺が相手になろう。邪魔に思うなら、兵士や隊長たちにしたように叩きのめせばいい」
「っ…!!」
仏頂面の表情を変えないままではあるが、彼の言葉はまさに挑発。実際にエドシエルを一瞬で吹き飛ばすほどの力をペルセウスが持っているのは確か。だが、ペルセウスの胸中がエドシエルを撃退することを許容しようとしない。最早エルザの姿は見えなくなった。
「…お前がシエルだというのなら、国王が今どこにいるのか教えてくれねぇか?」
「我ら王国に…そして陛下に仇なす敵の要望など、一切聞き入れる意味などない」
同じシエルであるなら兄である自分に何かしら情報を明かしてくれないかと考えて尋ねはしたが、暖簾に腕押し。兄弟ではなく敵として認定され、突っぱねられてしまった。さらにエドシエルは手に持っている長杖の先端のうち、黄色の珠を輝かせながら構える。
「陛下に仇なす者はすべて…俺の討つべき敵だ…!」
その言葉と共に先端から現れたのは、鋭く尖った岩の数々。まるで槍の矛先のように鋭いそれを、前方に杖を差し出すと同時にペルセウス目掛けて発射させる。
「『ソルムランス』!!」
猛スピードで迫り来る岩の槍たちを、手に持っている黒い直剣を用いて全て漏らさず斬り砕く。シエルと言う人物からの攻撃で少々動揺しているものの、それを加えてもペルセウスにとっては十分対処できるものらしい。
「仕方ねぇか…!」
追加で更に飛ばされてきた岩の槍を斬り砕きながら、前へと走ってエドシエルとの距離を詰める。迷っている場合じゃない。エドラスの王国に属するものは敵。目の前にいるシエルもそれは例外じゃないと言い聞かせて、ペルセウスは長杖を構えている青年に斬りかかろうと振りかぶる。
だが、こちらを睨むようにして目を向けているその青年の顔が、一瞬、自分に笑顔を向ける幼さが抜けない弟の顔とシンクロした。
「っ…!!」
そのたった一瞬は、剣を構えていた彼の動きを完全に止めてしまう。振りかぶった姿勢のままで、映像を一時停止させたかのようにピタリと体を硬直させる。そして表情は、苦々しいものを口にしたかのように歪んでいた。
「やはり、弟と同じ顔の存在は斬れないか」
対して、こうなることを予測していた青年は、長杖の緑の珠を輝かせると、そこから風で作られた刃を作り出して、固まった状態のペルセウスにその先端を振りかぶる。
「『ウェントスエッジ』!!」
咄嗟に身体を後ろに引いたことで直撃は避けたものの、同様で顔に脂汗を滲ませたペルセウスの右腕を風の刃が掠り、傷を作る。だが、その傷を抜きにしても、ペルセウスはエドシエルとの戦いにおいて勝負にならないことを理解させられた。実力云々ではなく、ペルセウスの心が彼に攻撃することを拒否している。
そんな彼の心の隙を突いて、エドシエルは逆に攻め手を激しくさせてきた。
「『イグニスショット』!!」
すかさずエドシエルは赤い球を光らせて、そこから炎の魔力弾を撃つ。後方に飛びのいていたペルセウスが、先程の岩の槍同様その魔力弾を斬り裂く。その魔力弾を斬ったことで、手に持っていたダーインスレイヴは満足したのか、彼の手からそのまま消える。武器を失ったことで不利に見えるが、ペルセウスにとっては好都合だ。
「換装!トライデント!!」
すぐさま海王の槍を換装で呼び出して床に石突を叩きつける。するとその場に浮かんだ魔法陣から湧き出てきた大量の水が、ペルセウスとエドシエルの間を遮断する壁となって阻む。目くらましのつもりか、とエドシエルはすぐさま理解し、青い球を光らせて己の身に水の膜を張る。
「『アクアスフィア』」
そしてその状態のまま水の壁を飛び越える様に突っ切り、奥の方へと出る。乗り越えた先に目に映ったのは、既に粒ほどの小ささでしか確認できなくなるほど遠くへと逃げていくペルセウスの背中。エドシエルから遠く離れるために逃げに徹することを決めたが故の行動だ。
本来敵前逃亡と言うのは褒められた行動ではないが、ペルセウスがエドシエルを相手にまともに攻撃すらできないことがこの逃亡を決断させた一番にして最大の要因。その為であればこの行動さえも躊躇なく行うことが出来る。
「(この際、聞き出すのはやめだ。
減った選択肢から、すぐさま起こすべき行動を決定する。目的の一つであった国王は、最早自分自身の手で探すしか方法はないと断定し、探しにかかる。更に言えばエドシエルから得た情報から、こちらの仲間が二人、囚われていたようだが牢を脱したという事を知っている。候補は検討がついている。
「(多少面倒になるが仕方ない。国王か、ナツたちか、どちらかを見つけ出さないと…!)」
頭の中で整理しながら王城内をかけていたペルセウス。だが、その時後ろから何かが噴射され、風切り音が鳴り響いた。更に言えば、その音は徐々に大きく…否、こちらに近づいてきていることが分かった。
その音に思わず後ろを向けば、踵の部分から魔力を噴出して、高速移動をしているエドシエルがこちらに追いつこうとしているのが見えた。全速力で走って距離を取れたと思いきや、一気にその差を埋められる。さらにエドシエルは距離が縮まってきたことを確認し、ペルセウスの背中を飛び越えようと床を蹴って彼の頭上へと跳び上がる。
「なっ!?」
「縮地足」
兵士にも導入しているその魔法を活用して彼の真上を取ったエドシエルは、次に手に持っている長杖の緑の珠を輝かせると、再び風で作られた刃を作り出してペルセウスに狙いを定める。
「ウェントスエッジ!!」
「っ!フラガラッハ!!」
風で出来た刃に対して、風の力を宿した短剣を呼び出して対抗。共に風の力を使用している為か、短剣と長杖は触れていないにも関わらず鍔迫り合いを起こしている。上を取っているエドシエルの方が優勢に見えるが、力量は互角だ。
「しっ!そこだっ!」
共に弾かれ、空中で身動きが取れない隙を、ペルセウスはすぐさま突いた。エドシエル本人ではなく、長杖の先の部分に短剣を投げつけ、四つの珠が付いていた部分を切り取った。これで少なくとも、エドシエルの主な攻撃手段は封じたに等しい。
「これなら攻撃もままならないだろ…?」
「…それはどうかな?」
事実的な勝利に対する余裕か、それとも安堵か。口元を弧に描いて口にしたペルセウスの言葉に、感情も揺らがせず淡々とエドシエルが告げれば、彼は長杖を持つ手を前に出しながら一言呟いた。
「『修復回帰』」
その瞬間、切り取られていたはずの長杖と、落ちていた珠の部分が白く光り、二つの光が合わさる様に、珠の方がひとりでに浮き上がって長杖の光に吸い込まれていく。そして光が弾けるように消えた時には、ペルセウスが短剣で切り落とした長杖は元通りになっていた。
「元に戻った…!?しかもこんな短時間で…!!」
エドラスの魔法は一部を除き、アースランドの者たちが扱うものと比べると随分水準が低いと認識していた。全てが
だが、今エドシエルが見せた、短時間による破損の修復は、アースランドの中でも希少と言える。今まで見てきたエドラスの魔法の中でもずば抜けていると言っていい程に。その動揺を感じ取ったのか、エドシエルは元に戻った長杖を構え直しながら丁重に説明を始めた。
「魔法応用科学。通称を“魔科学”と言うが…俺はその分野において前線に立っていると自負している。王国軍に加わり、研究を重ねて魔法を超える魔法を作り上げ、この国に貢献してきた」
先程見せた縮地足を始め、兵士や隊長にも普及されている強力な力。元から備わっていた力にさらに改良を重ねる。魔法と科学、本来相容れないその力を重ねたことによって出来上がったその技術は、王国軍を著しく強化させた事実。
「そして、この『エレメントゥムロッド』は、俺が携わった魔科学の全てを結集して作り上げた、謂わば集大成…」
彼が告げた言葉を現すかのように、先端についた四色の球全てが光ると、彼の後方にそれぞれ四色の魔力の光が顕現し、浮かび上がる。ペルセウスがその光景に目を見張ると同時に、彼は長杖を突き出してその魔力弾たちを撃ちだした。
「『クワトロショット』!!」
地水火風の四元素の弾が同時に襲い掛かる。舌打ちを一つしながらペルセウスは手に持っている短剣を振り、その力で起こした風を防御壁にして防ごうとする。火をかき消し、水を切り裂き、風を同じ力と認識して取り込んで防いだはいいが、唯一崩しきれなかった地の力がペルセウスに着弾。ダメージは大したことないが、今の技に対する脅威は十分に感じ取れた。
四つの属性全てを同時に打ち出すことによって、多様の守りを打ち崩すことが出来る性質を発揮している。今ペルセウスが発動させた風の力に、地の力は相性が悪い。他の三元素の力をかき消す際に微かとは言え守りを削がれたことも加味すると、大幅な脅威という他ない。
「(こいつを放っておけば後々厄介だ…!だが、俺には…!!)」
魔科学と言う分野のエキスパートが作り上げた魔法。その脅威を捨て置けば王国軍の優勢を覆すのは難しい。何より厄介なのは、それを操るのがシエルであるという事。自分の弟とどうしても重ねてしまうペルセウスでは相手に出来ないという点を見れば、彼以上に最悪な相手はいないだろう。
「考え事とは余裕だな?『クワトロランス』!!」
先程とはさらに異なり、地水火風の力で作られた槍がペルセウス目掛けて撃ち出される。容赦なく苛烈に、戸惑いを見せる兄と違って一切の躊躇も遠慮もなく、白衣の青年は攻め立てる。先程ペルセウスが起こしていたものとは違う魔科学研部長の攻勢による轟音が、王城内に響き渡った。
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王城内で反響する音と、響き渡る振動を感知しながら、早足で王城内を周っていくその女性。妖精狩りの異名を持つエルザは苛立ちを現しながらも、先程脱獄したと聞いた例の二人を探し回っていた。
「あいつ…あのペルセウスを本当に抑えられているんだろうな…?その割には城の中を破壊して回っているように感じるぞ…!」
癪に障る口ぶりでペルセウスの足止めを買って出たエドシエルの様子を思い出して再び苛立ちを増長させると同時に、先程から感じる破壊と思われる音と振動を起こしていると思われることに、彼は本当にペルセウスを抑えられているのか疑惑を抱いている。
実際にはペルセウスを逃がさないように攻め立てている為に致し方ない被害なのだが、元からエドシエルに好感情を抱いていないエルザには、その発想は浮かばない。
だが、今はそちらを気にしても仕方ない。道中でペルセウスに武器を斬られた上に吹き飛ばされたシュガーボーイを見つけ、エドシエルから受けた伝言を伝えてある。通信が可能な板状の機械を介して、ヒューズにも連絡してくれることも聞いた。自分は今、自分が出来ることをするだけだと、エルザは更に歩を速めて目的としている二人の姿を探す。
「!…見つけたぞ…!」
思わず彼女は口元に弧を描いた。運がいい。剥き出しとなっていた通路の死角。柱の影を少しずつ移動していたらしいその二人の姿を、偶然にもエルザは見つけることが出来た。距離は少しばかり遠いが、気にすることはない。エドシエルから受け取ったテン・コマンドメンツのレプリカを構え、本物同様に扱ってみる。すると、彼女の意思通り速さに特化された
「不本意な上に癪に障るが、確かに本物と大差はないようだな。せいぜい利用させてもらおう…」
本物同様に使うことが出来ることに安心したような、不服に感じるような、複雑な心境を吐露しながら彼女はその場を思い切り踏み込み、駆け出し始めた。少しばかり離れていた少年少女の距離は、あっという間に縮まっていく。
「っ…!何だ、この音…!?」
「何だか…近づいて…?」
その異常に二人も気付いたようだがもう遅い。一早く気付いた様子で驚愕を顔に表した少年目掛けて槍の一閃をお見舞いしようと振りかぶる。降りぬいた一閃。その一撃は残念ながら反射的に身を捩って直撃にはならず。だが高速で突進してきたことによって衝撃は躱しきれなかったらしく、その少年は外側の柱に叩きつけられる様に吹き飛んだ。
「シエル!?…って、エルザ!?」
突如シエルを突き飛ばした彼女の姿を確認したルーシィの驚愕の声が聞こえる。二人が脱獄できた原因を思い返せば一つだけ。だがそれも、ここで彼らを抹殺すればすべて過ぎたことに出来る。アースランドのペルセウスの事は懸念だが、抹殺の命令はエクスタリアの女王からのもの。背くわけにはいかない。
「襲撃の合間に逃げられると思っていたか?残念だったな」
その言葉にシエルたちの表情が強張る。逆転の一手を取れるはずだった状況から一転。またも逃れられない脅威に晒され、万事休すと言う状況。ようやく逃れられたと思っていた絶望が再び襲い掛かってくるのを幻視する。どうすればいい。どうすることも出来ないのか。二人の頭の中にそんな諦めに似た思いが過った。
「シエルー!ルーシィー!」
そんな時だ。上空から自分たちを呼ぶその声が聞こえたのは。それを耳にして二人はすぐに誰なのか気付いた。同じように聞こえていたエルザは困惑を見せている。チャンスだ。
「ルーシィ、跳ぶよ!!」
「えっ、ちょっと!?」
「何っ!?」
そして何の躊躇もなくシエルはその場から吹きさらしになっている庭へと飛び降りる。その思い切りの良さに困惑と恐怖を見せながらも、彼を信じてルーシィも目を閉じながら彼に続く。突然の奇行にエルザが目を見開いて驚愕するが、既に二人は空中だ。
だがシエルは確信していた。今の声の主が、自分たちを助けるために駆けつけたことを。上空を見上げれば見えてくる。一対二枚の白い翼を広げて空を駆け、こちらに真っすぐ向かってくる青ネコと白ネコの姿が。
「ハッピー!シャルル!」
エクスタリアに帰還した、と伝え聞いていた仲間たち。その二人が友を助けるために、今まで広げられなかった翼を顕現して、彼らの元へと戻ってきたのだ。
「もう大丈夫だよ!オイラが助けに来たから!!」
一足先に落ちていくシエルに向かって、猛スピードで追いつこうと迫るハッピーの声を聞き、シエルの笑みが深くなる。彼を信じてその落下に身を任せ、そんなシエルをようやく追いついたハッピーは掴み…
損ねて横切っていき、王城の壁へと顔面から激突した。
「えーーーっ!!?」
笑みを浮かべていたシエルの顔が一気に驚愕と絶望に移り変わり、目前に迫った死を確信させられてしまった。どうしてこうなった。自分の予想では颯爽と現れた青ネコによってこの危機的状況を脱することが出来たはずなのに。
「ちょっ!?シエルがー!!」
「ハッピー!しっかりしなさい!!」
反対に危なげなくルーシィをキャッチしたシャルル。一人落ちていくシエルを見てルーシィも目をひん剥き、シャルルは激突してしまったハッピーに檄を飛ばす。
「ぎゃあーーー!!?」
もう地面まで目と鼻の先。勢いよく飛び降りたくせに情けない最期を晒すことを後悔しながら、シエルは目に涙を浮かべて絶叫した。今更ながらに手足をばたつかせて助かろうともがくも何もかもが遅い。そして…
地面まであと僅か10cm。すれすれと言える距離でシエルの体は急停止した。
「ごめん…久しぶりで勢いつけ過ぎちゃった…」
「……っ!!今ので絶対…寿命何年か縮まった……!!」
ギリギリ救助に間に合ったハッピーが苦笑交じりに謝るも、シエルは死に直面したスリルと恐怖で怒りも湧かず、普段とは違った弱々しい泣き言を呟く。心なしか、声もすごく震えてる。
「と、とにかく助かったわ、ありがと…。てか、あんたたち、羽…!」
「心の問題だったみたい」
シエルもひとまず無事(?)に助けられたことでルーシィから感謝の言葉がシャルルにかけられる。それと同時に、魔法が使えなかったはずの彼らの背中に
エクスタリアでひと騒動が起きた後、とあるエクシードの夫婦に匿ってもらい、そこで魔法が使えなかった原因に気付いたハッピーとシャルル。だがその話は、今のシエルたちは知りえない事であるため、シャルルはその一言で済ませた。
「これは…一体…!その者たちは女王様の命令で抹殺せよと…!!」
一足先にエルザのいる高度まで戻って来たシャルルに向けて、明らかに動揺を露わにしたエルザからそう問われると、極めて冷静な態度を示しながらシャルルは「命令撤回よ」と一言のみ返す。
「しかし…いくらエクシードの直命でも、女王様の命令を覆す権限は無いはずでは?」
この場を切り抜けるために、エクシードと言う立場を利用してシエルたちに手出しさせないようにしたのだろう。だが女王と言う絶対的な存在からの命令となれば、いくらエクシードと言えどそう簡単には命令の変更が出来ないらしい。遅れて戻ってきたハッピー、そしてそのハッピーに掴まれているシエルも、彼女の言葉を聞いて押し黙る。
「その者たちを、こちらにお渡し下さい」
女王の命令に従って抹殺しなければならない。その確固たる意志を感じさせる剣幕と、それとは裏腹に敬意を向けている者に対する礼儀を感じる言葉。それを向けられたシャルルは、なお動揺を見せずに返してみせた。それも、予想の斜め上を行く対応を。
「図が高いぞ、人間。私を誰と心得る?」
ルーシィを掴む手をそのままに、真っすぐエルザにその目を向けながら、威厳ある態度を示して告げたその言葉に、他の面々は目を点にした。
「私は
エルザから見て、光る太陽を背に堂々と告げた己の立場。それを認識した瞬間。エルザは勿論、ルーシィとハッピーも衝撃のあまり絶句した。シエルだけは何故か口元を引き攣らせた。
「はっ!申し訳ありません!!」
想像以上の無礼に気づき、エルザはすぐさまその場に跪き、頭を垂れる。ポカーンとしているルーシィとハッピーを置いといて、シャルルはエルザに問うた。
「ウェン…二人の
「西塔の、地下に…」
西塔。そう言えば王城を囲むように東西南北の塔と、巨大な塀が存在していたのを思い出す。その内の西側の塔に二人がいるという事だろう。
「今すぐ解放しなさい」
「それだけは…私の権限では何ともなりません…」
「いいからやりなさい!!」
「はっ…!しかし…!」
リスクを負わず、敵側に仲間を解放させるために声を荒げるシャルル。魔戦部隊隊長と言えど踏み込めない領域であるが故に渋っているようだ。それでもどうにかしてやらせようともうひと声シャルルが飛ばそうとしたその時だった。
「エルザ!そのエクシードは“堕天”だ!!」
突如耳に入ってきたのは低い男性の声。目を向けてみれば、鎧甲冑に身を包んだ、黒豹を思わせる顔をした大柄の男。自身の部隊の兵士を引き連れながら襲撃者の対応に向かっているところであった第一魔戦部隊長・パンサーリリーが、伝え聞いた情報を叫んでいた。
堕天。エクシードを天使と揶揄しているエドラスにおいて、それはエクスタリアを追放された謂わば裏切り者に等しき称号。その情報を知らされたとあっては、最早これ以上敵側に仲間を解放させる手は使えない。
「逃げるわよ!」
「ちょっとあんた!姫なんじゃないの!?」
「追放されたならもう立場なんてないのと同じってことだよ!」
こちらに迫ってきていたパンサーリリーと兵士たちから逃れるため、ひとまず西の方向へとシエルたちはその場を逃げるように離れる。嵌められたことでエルザが怒りに震えていたことは、シエルたちも気付かぬところだった。
「とにかく、改めてありがとう、二人とも」
大分離れたところまで来たところで、シエルは助けに来てくれたシャルル達に、感謝の意を伝える。その言葉に対してシャルルは「怒ってないの?」と先程とは違ってどこか落ち込んでいるような態度で尋ねてきた。何の事だろう?
「捕まったのは私たちのせいだし」
「こうして助けに来てくれたなら、それ以上に言う事ないよ。ね、ルーシィ?」
「うん!全然怒ってないよ!」
そもそも、シャルル自身は裏切ろうと考えてすらいなかった。与えられた情報に従い、仲間を救う手立てを考えていた。それが罠だったとしても、それはイコールシャルル達のせいになるなど、シエルたちは一切思っていない。
最初から、シエルたちはハッピーたちが裏切ったなどと考えてすらいなかったのだ。
「それよりも、シャルルが女王の娘って方が驚きなんだけど!」
「オイラも知らなかった」
ふとルーシィが、先程シャルルが堂々と名乗っていた、エクスタリアの王女であるというカミングアウトに驚いたことを口にする。ハッピーも知らなかったと彼女に同意するように言うが…。
「え?あれってハッタリだと思ってたんだけど、俺」
「そうよ。ハッタリ。決まってんじゃない」
「「え!?」」
実は口から出た出まかせだったらしい。シエルがそれを聞いた時に口元を引き攣らせていたのも、考えればすぐ気づくハッタリに対し、笑いをこらえていたからである。悪びれる様子もなく真実を告げたシャルルに、ハッピーは何故か笑みを浮かべる。
「その顔何よ、ハッピー」
「ううん、いつものシャルルだな~って思って」
「う…うるさいわね!」
その時ふと、シエルとルーシィは気付いた。色々な事があって気付けなかったが、シャルルがハッピーを名前で呼んでいたのだ。今までは『オスネコ』と、どこか距離を感じる呼び方だったのに。何か彼女が心を開くきっかけがあったのだろうか。
そう考えると、思わず二人は笑みを浮かべ、同じことを思っていることに気付いた二人は更に向かって笑みを深めた。
「それより早く、ウェンディとナツを助けに行くわよ!」
「あ、シャルル。その前にちょっといいか?」
西塔の地下に閉じ込められているという情報は手に入れた。あとはそこに向かうのみ。と思って向かおうとした瞬間、シエルから何故か待ったがかかった。ウェンディたちを早く助けたいと逸るはずのシエルが何故止めるのか?疑問を感じていると、彼はその理由を明かした。
「実は今、ここに兄さんが来てるみたいなんだ。城があちこち崩れてたのが見えたと思うけど、きっと兄さんだと思う」
「え、ペルもいたの!?確かにやけに壊れてると思ったら…」
「それで、あんたの兄の話を出したのは、何を狙っての事?」
今、城にペルセウスがいること。そのペルセウスが王城内を暴れまわっていることを伝えるとハッピーからは驚愕、シャルルからはその上でシエルの考えを催促するような言葉が発せられる。シエルはシャルルからの催促に素直に返答した。
「すぐにでもウェンディたちを助けに行きたいけど、魔法…戦える手段が一切ないままで行くのは危険すぎる。でもここには魔法を使えているらしい兄さんがいるから…」
「成程ね。合流して、ペルセウスを先頭に正面から突破。そのままウェンディたちも助け出そうって魂胆ね」
考え得る限りの最強の味方が近くにいるのなら、合流しない手はない。それをシエルの説明の途中で把握したシャルルが、続けるように言葉を零す。二人の説明に似た問答でルーシィとハッピーも納得を示した。しかし、問題が一つある。
「でも、ペルさんは今どこにいるのかしら?」
「…そこなんだよな…」
兄がいそうな場所が、先程とは異なって把握できない事だ。空を飛行できるエクシード二匹が戻ってきてくれたことで、機動力は大幅に上昇したのだが、合流するべき人物の場所が割り出せないのは痛手だ。何故か兄が起こしているはずの分かりやすい破壊音や振動がピタリとやんでいるのもその一因である。
空を移動しながらペルセウスを探すことを決定した4人。だが、その時後方からいくつもの飛行音と、ネコの鳴き声のような音が聞こえ始める。
「何?この音…?」
全員がそれに気付いて振り向いてみると、上空から、屈強な体をした空を埋め尽くさんばかりのネコたちが、各々隊服らしき服に身を包み、武器を構えながら翼を広げてこちらに迫ってきていた。
「見つけたぞ!堕天ども!!」
彼らもまたエクシード。その中でも黄色い毛の、どこかで見た顔と聞いたことのある甘い声を発するネコが、周りのネコたちに指示を飛ばしながら大多数でこちらを追い詰めてくる。武器を持っている向こうに対して空中に留まり続けるのは危険。すぐさま降りようと下へと視線を向ける。
だが地上の方には、全兵士に通達されたことで滞空している自分たちを待ち構える様に夥しい数の兵士たちと、復帰したらしい二人を加えた、全魔戦部隊隊長がこちらを見上げている。
「くそ!逃げ道すら見つからない!!」
せめて魔法が使えれば…。ルーシィの星霊魔法は、未だに両手を拘束している餅のようなものによって封じられている。使えたとしても数えきれないほどの戦力を相手にどこまで戦えるのかも分からない。シエルの
「空にも…地上にも…どうすればいいの!!?」
救助や合流どころか、自分たちの安全確保もままならない四面楚歌。絶体絶命のピンチに、シエルたちは直面していた。
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土埃が舞い上がり、封じられていた視界。だが青年は焦りを見せずに手に持った長杖を用いて風を発し、その煙幕を払う。追いかけていた異世界における兄の姿を探すために見渡すが、再び姿を眩ませたのかどこにも見当たらない。辺りは火で焼けた後、風で崩れた後、果てには植物の根があちこちから伸びていたりと、激しい魔法の応酬があったことを示唆させる光景が広がっている。
「何度目になるかな、この展開…」
姿を眩ませたのは一度や二度ではない。彼の追撃から逃れるために何度も戦線を離脱しようとしていたペルセウス。その為にエドシエルが繰り出した魔法を反撃で撃ち落としたり、目くらましに利用したりと工夫したが、すぐさま対応するエドシエルがその姿を探し当てていた。
そろそろ辟易としてきたものの、現状彼を倒しきるに至らない力のみを有している青年、シエル・オルンポスに出来るのは、彼の動きを縛り付けること。その為ならば大がかりであろうと姑息であろうと、使える手はすべて使うつもりだ。その一手を打つために、彼は再び長杖を構えてその魔法を発動させようとする。
だが、そのタイミングで彼が携帯している板状の通信機に、着信が入る。最重要と言えるべき襲撃者への対応を行っていたエドシエルは、少々苛立ちながらも左上のボタンを押してそれに応える。
「こちらシエルだ。何の用件だ?」
通信先は魔科学の恩恵を受けている小隊の隊長。数個しか作っていないこの小型通信機の使用権限を持つ数少ない存在だ。そしてその小隊長から届いた連絡は、彼に驚愕を与える内容であった。
《お取込み中失礼します、シエル部長!!陛下から『コードETD』の発動命令が下りましたため、至急お戻りください!!》
『コードETD』。その単語を聞いた瞬間、確かな異常事態であることを瞬時に理解した。
国家領土保安最終防衛作戦。恐らくエクスタリアからエクシードが降りてきたのだろう。ペルセウスの事も気がかりではあるが、通信先の小隊長が言うように、すぐにでも戻った方が良さそうだと判断したエドシエルは、姿の見えないペルセウスに「悪運の強い…」と捨て台詞のように吐き捨てながら、縮地足を用いて、持ち場に向かって行った。
エドシエルの姿が見えなくなったところで、天井に張られていた何本もの植物の根の一部が動き、その隙間からペルセウスが顔だけを覗かせてその場を離れたエドシエルの姿を確認する。
「(ようやく振り切れた…。何やら気になる単語を言っていたが、ともかく今は置いておこう。しかしどうするか…?)」
恐らくだが、シエルが向かった先にはすべての元凶である国王がいるはず。だが、エドシエルが近くにいる状態で国王を討ち取るのは難しい。こっからどう動くべきなのか、判断に迷っていた。
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あちこちから聞こえる角笛の号令。城壁から立ち上がる王国の紋章を入れた多くの旗。ただならぬ事態が起きていると認識できるが、それが何を意味するのかまではさっぱりだ。気になる点があるとすれば『コードETD』と呼ばれる謎の単語がそこかしこで飛び交っていることくらいか。
「何か危ない予感がする…!」
「建物の中に入るわよ!」
不安そうにつぶやくルーシィ。その間に兵士が行き届いていない建物の一つを見つけたシャルルがひとまずの避難場所としてハッピーたちと共に向かう。その間にもまるで照明器具のような形をした巨大装置を起動し、水色の光を照射して兵士たちは空中に照射を始める。
そう…
その光の照射はやがて一点を巨大な光の膜で包み込む。その光の膜の中に入れられているのは、ハッピーたちを追いかけてきた、エクシード達だ。
「狙いはエクシード…!?」
「どういう事!?人間にとってエクシードは、天使や神様みたいな存在でしょ!?反乱ってこと!?」
光の中に包まれたエクシード達は皆一様に苦しみ始め、動きも縛られているようだ。起きている事態の理解は追いつかないが、この混乱は利用できる。隙を突いてウェンディたちの救出の為にも、ペルセウスの捜索、合流の為に建物の中の捜索を開始する。
「陛下。エクシードの
「うむ」
連絡を受けてすぐさま作戦に必要な魔法道具の発動結果に目を映した魔科学研部長が、報告すると共に中庭のバルコニーに立っている国王ファウストの元へと到着する。その返事を一つ返しながら、ファウストは上空にいるエクシード達の様子を見つめている。
「女王様が黙っていない」と恨み節を残しながら、大多数のエクシード達の姿は徐々に縮小していき、やがてはネコの形を模した巨大な
「この世に神などいない!」
不安を前面に出す兵士たちに呼びかける様に、ファウストはその声を張って、全兵士たちに自らの言葉を伝え始める。自分たち人間のみが有限の魔力の中で苦しみ、エクシード達は無限の魔力を謳歌している。何故すぐ真上の国に…こんなにも近くにある“無限”を、自分たちは手に入れられないのか。
「支配され続ける時代は終わりを告げた。全ては人類の未来の為、豊かな魔法社会を構築する為、我が兵士達よ!今こそ立ち上がるのだ!!」
エドラスを束ねる王たるものの言葉。それは兵士たちにとって何よりも奮起させるに十分なもの。エクシードに対して畏まり、怯えるだけの社会を終わらせ、人間による人間中心の世界を作る。ファウストの思いは、次第に兵士たちの意欲にも火を点け、燃え上がらせ始めた。
「コードETD!『
その宣言を皮切りに兵士たちから歓声が沸き上がる。恐れることはない。自分たちの未来のために神や天使を必ずや落とす。そんな意思の現れが、集団となってさらに燃え上がる。
例えエクスタリアの軍事力がとてつもないものだとしても、こちらにはそれに対抗できる手段として、滅竜魔法の抽出を進めているところだ。
もう後戻りはできない。自分たちが滅びるか、天使たちを掃討するか、二つに一つ。
「襲撃者の件はいかがいたしますか?」
「コードETDを成功させれば、最早何をしたところで我らの勝利は覆らん。全てにおいて、今の作戦を優先せよ」
「承知いたしました」
唯一の懸念であるペルセウスさえも後回しにされるほどの最重要作戦が、今開始されたのだった。
おまけ風次回予告
シエル「ひとまず、ハッピーとシャルルが無事に戻ってきてくれて一安心だよ」
シャルル「安心するにはまだ早いわよ。ウェンディたちを助け出した時が、本当に安心できる時なんだから」
シエル「勿論助けるよ。本当は今すぐにでも行きたいけれど…」
シャルル「今のあんたじゃ助けられるものも助けられないから、ペルセウスの力を借りるんでしょ?」
シエル「うん。情けないけれど、それが現状の最善だとも思うからね」
次回『合流せよ、妖精たち』
シエル「それはそれとしてだけどシャルル、ハッピーの事…」
シャルル「今は合流することを考えなさい。それ以外に余計な事は考えない事!///」
シエル「…了解(何かあったんだね、やっぱ)」