FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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大変長らくお待たせいたしました。
ようやく形に出来たものの、皆さんの納得がいく話の流れになっているのか若干不安です…。でもこれ以上重ねていくともっと時間がかかるのでちょっと次回にも回したりします。

集中力が高められる方法って…何かないですかね…?←


第89話 エドラス王都総力戦!

アースランドと隣り合い、存在している別世界、エドラス。似ているようで全く異なる要素を多く抱えているこの世界の特徴を、ざっと上げるだけでもキリがない。

 

空や木々の色。生息する生き物。人々に宿る魔力の有無。ギルドの存在意義。同じ人物が異なるものとして存在。エクシードと言う神の使いとされる種族。他にも様々であるが、今着目するべきアースランドとの相違点を上げるとすれば、この項目だろう。

 

それは浮遊する島々。王都が存在する巨大な大陸を除けば、多くの島が空中を浮遊して存在している。エクシードが住まう神の国・エクスタリアや、アースランドのマグノリアに住まう者たちを変換させた巨大魔水晶(ラクリマ)が存在しているのも、それぞれ一つの浮遊した島だ。

 

何故大きな島々が空に浮遊しているのか。どうやらエクスタリアの魔力で浮いているらしい。世界の魔力のバランスをとっているのだと、歴史書にも記されていた。

 

「そして今私たちがいる王都上空に、エクスタリアと魔水晶(ラクリマ)が浮いているのよ」

 

シエルとルーシィが得ていた情報を整理すると、シャルルから補足が入った。ちょうど王都の上空付近に二つの浮遊島があり、それぞれエクシードの国と仲間たちが存在しているということが判明する。

 

「その浮遊島に滅竜魔法を当てることで加速させ、エクスタリアに激突させるのが、王国軍の狙いなんです」

 

「そうすると…どうなるの?」

 

滅竜魔法を抜き取っていたバイロから聞いた王国軍の目的を話すウェンディ。抜き取った滅竜魔法の使い道に関することと言うのはすぐに分かるが、魔水晶(ラクリマ)をエクスタリアにぶつけることで何が起こるのか、と言う疑問が新たに浮かび、消耗がまだ見られる彼女を案じて日光浴(サンライズ)をあてていたシエルが尋ねると彼女は答えた。

 

「エクスタリアの魔力と、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔力がぶつかることで、弾けて融合し…永遠の魔力がこの国に降り注ぐって…」

 

それを聞いて、場にいるほとんどの者たちが絶句した。ぶつけられたエクスタリアと魔水晶(ラクリマ)の魔力が弾ける…つまり形の存在を維持できなくなるという事。そこから永遠に続く魔力が降り注げば、仲間たちを元に戻す方法は完全に失われる。

 

完全に消滅してしまう。

 

「(あの…クズ国王が…!)」

 

周りに悟られないように抑えてはいるが、この話を聞いていたペルセウスは内側から溢れ出ようとする激情を胸にしまい込もうとしている。それに気付いていたのは…。

 

すると、今いる部屋の出口の方からこちらの方に駆けてくる音が一人分聞こえてきた。

 

「誰か来やがった…!」

「敵…!?」

「注意しろ…!」

 

姿はまだ見えない。もしも敵だった場合はこの場で激突もあり得る。ペルセウスたち3人に、ウェンディの回復も一時中断したシエルも加わって警戒に移る。そしてその存在は足を止めることなくシエルたちがいる部屋に入って来た。

 

 

 

 

 

 

「イヤァァァァアアアアアアアッ!!!?」

 

その正体は顔を真っ青に染めてそこから汗も噴き出し、この世のものとは思えない何かを見たかのような絶望を露わにし、叫び声をあげて駆け寄る…と言うか逃げてきた桜髪の青年。とゆーか…。

 

「ナツかよ!!」

 

つい先程まで勢いよく外へと飛び出して言った青年が絶望を抱えて戻ってきたことにグレイからツッコミが入る。だが、それも耳に入っていないナツは駆けこんだ部屋の壁に一度激突すると、部屋の中を回転しながら動き回り、今しがた見てきた地獄絵図を口に出して叫び始めた。

 

「エルザが二人いたぁー!!何だよアレ!何アレ!?何なの!?怪獣大決戦か!?この世が終わるのか!?とうとうギルド全滅しちまうかぁ!?」

 

アースランドとエドラス、それぞれのエルザがぶつかり合っているところをたまたま目撃したのだろう。それを見て彼女に苦手意識を持つナツはありもしない想像を膨らませてしまっている。両手で頬を押えながら叫び倒していたナツだったが、ふと視線を移すとこの場にいなかったはずの存在に気付いた。

 

「グレイじゃねーか!!」

 

「しまらねーし、落ち着きねーし、ホントウゼェなお前」

 

ぐもっとこの場にいないはずの青年の姿を見つけて指をさして驚愕するナツに、呆れかえるグレイ。更にもう一人、シエルの兄である青年の姿を見つけるとその表情は更に焦燥を浮かべたものへと変化する。

 

「ペルもいんのかー!?こんなとこまで来たら危ねぇだろ!大丈夫か!?また血ィ吐いたりしてねーか!?」

 

「何の話だ…?」

 

思いっきり青ざめて焦りながらペルセウスの身を案じる言葉をかけていくナツ。これはどうやら目の前にいる二人がエドラス側の方だと勘違いしているものだと察知したシエルは、すぐさまナツに説明することにした。

 

「ナツ…この二人は俺たちが知ってる方…アースランドから来た方の二人だよ」

 

「何!?」

 

「色々あってこっちにいるんだ。エルザとガジルもな」

 

「エルザはさっきお前も見たから言う必要はねぇな。ガジルはみんなの魔水晶(ラクリマ)を探してるとこだ」

 

「ハッピーはそのガジルを連れて、魔水晶(ラクリマ)を止めに行ったわ」

 

先程までその場にいなかったナツに簡単な状況説明を行う。当事者として二転三転する状況下にいた自分たちはともかく、今までずっと魔力を抜き取られていたナツたちにとっては外界の状況はほぼ未知数だ。案の定驚愕を顔に表している。どこまで理解できたかは、不明だが…。

 

「あれ…?ホントだ!グレイさんとペルさんがいる!?」

 

すると、この場で最年少の少女から、全く悪気がない純粋な驚愕の声で告げられた言葉を聞き、グレイとペルセウスの表情がショックで暗くなった。

 

「え、もしかして…今気づいたの…?」

 

「うん…」

 

先程まで言葉も交わしていたと思っていたウェンディからのまさかのカミングアウト。シエルの確認にも否定せず、二人揃って今までここにいる存在を認識されていなかったらしい事実に、二人の体に影が生じ始めた。

 

「なあペル…ここ、地下で陽が当たんねーからかな…?オレ、影が薄く見えてきたぜ…」

 

「奇遇だな…俺も…影どころか、体が透けて向こうが映るように見えてきた…」

 

「あちゃあ…拗ねちゃった…」

 

少女からの予期せぬ精神攻撃に、二人とも涙を流しながらあらぬ方向を向いて呟くように嘆く。思った以上に深刻なダメージを受けた二人をシエルが宥め始め、ルーシィがショックを受けた二人に同情の目を向けた。

 

「もしかして、お前らがオレたちを助けてくれたのか!?ルーシィたちも無事だったんだな!!」

 

「あたしたちのことも今気づいたんだ…」

 

「わ、私ってば…一番最初に言わなきゃいけない事を…!あ、ありがとうございます!!」

 

「…いいって事よ…」

「…気にすんな…」

 

先程までの緊張感など忘れるほどの賑やかさが部屋の中に広がる。解放された滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)たちの意識に関しては少々不安はあるが、ひとまず現状は大丈夫と言えるだろう。

 

そんな中、唯一話に加わろうとせず顔を俯かせているシャルル。だがそんな彼女の様子を目にしたウェンディは、慰める様に彼女の体を抱き上げる。

 

「やっぱりシャルルも私たちを助けに来てくれた…ありがとう…!」

 

心の底から嬉しそうに、この場に来て自分たちを助けようと奮闘してくれたと分かる親友からの抱擁に、表情には出さずとも、どこか嬉しさと安堵がシャルルの心に生まれる。彼女たちの様子を見て、シエルは特に口を挟むことはせず、晴れやかに笑みを浮かべていた。

 

「どーでもいいけど服着ろよ、グレイ」

 

「うおっ!いつの間に!?」

 

「最初からだけどね…」

 

「ここ来るまで何で気づかねぇ…」

 

そんな彼らを尻目に、グレイの脱ぎ癖によるコントはいつも通りに繰り広げられていた。補足しておくと、ガジルによって魔水晶(ラクリマ)から元に戻った瞬間から、グレイの上半身は何も身についていなかった。

 

怪我の治療や魔力の回復、状況の整理などを終えた一同。進むべき方針は決まった。ギルドのみんなが変えられた魔水晶(ラクリマ)の、エクスタリア激突を阻止するべく、国王を見つけ出して止めさせることが優先事項となる。

 

魔法も使えるようになった今、国王を探し出すことも最早難しいことではない。ここからが反撃開始だ。勢いのまま一同は部屋を飛び出して城内を駆け抜ける。

 

「ぬぉっ!待て!そっちは怪獣が二匹もいる!!こっちだ!」

 

真っすぐに進もうとしたグレイやルーシィたちを呼び止めて、ナツが別の方向を指さしながら向かいだす。怪獣…エルザの事だろう。恐らくその方向にて激戦を繰り広げていると考えるべきか。

 

「エルザ…放っておいて大丈夫?」

 

「あのエルザだぞ?」

 

「相手もだがな…ま、大丈夫だろ」

 

エルザほどの実力者なら大丈夫…と言いたいところだが、相手をしているのは同じくエルザだ。正確には別人だから差はあるが、自分たちの仲間である以上、信頼は出来る。全員駆け出して、国王を探し始めようとしたが、ふとシエルは同行してこないウェンディとシャルルの様子が気になり、思わず足を止めて振り向いた。

 

「あれ?どうしたの、ウェンディ?」

 

足を動かさないウェンディの様子が気になり、シエルが尋ねた。シャルルも彼女を見上げてその様子を見ていると、意を決した様にウェンディは口を開いた。

 

「シエル、私はシャルルと一緒に、エクスタリアに向かおうと思うの」

 

その言葉を聞いて二人とも、特にシャルルが驚愕を見せた。「何で!?」と張り上げた彼女の声が響く。エクスタリアを標的として魔水晶(ラクリマ)の衝突を企てている王国軍の攻撃から、エクシード達を避難させる為らしい。

 

「私たちはその攻撃を止めるんでしょ!?」

 

「勿論止めるよ!絶対にやらせない!それは、シエルやナツさんたちを信じてるから!でも、王国軍は他にどんな兵器を持っているか分からない。万が一に備えて危険を知らせなきゃ!」

 

ウェンディの言葉はもっともだ。魔水晶(ラクリマ)を滅竜魔法を用いてぶつける。王国軍がその作戦のみを想定しているとは考えにくい。メインの作戦が破綻した際に、二手三手の力を蓄えている可能性は大いにあり得る。その危険性を考えて、ウェンディはエクスタリアへの避難警告をするべきだと提案しているのだろう。そしてそれが出来るのは、今の自分たちしかいない事も、分かっている。

 

「いやよ!戻りたくない!私…エクシードなんてどうなってもいいの!!」

 

しかし彼女は首を横に振る。エクスタリアで聞かされたこと、エクシードが人間をどう思っているのか、自分たちにどれほど非情な任務を一方的に与えたのか、それを思い出すだけで彼女は恐怖と怒りがぶり返される。同じ種族などと思われたくない存在の為に動くのなんてまっぴらだ。それが彼女が抱く、エクシード達への嫌悪感を作っている。だが…。

 

「人間とか、エクシードとかじゃないんだよ。同じ生きる者として…出来る事があると思うの」

 

膝を折って屈み、シャルルと視線を合わせながらかけられた言葉に、シャルルの心が大きく揺れ動く。エクシードなんて…そう思っていた彼女だが、思い浮かんだのは二人のエクシード。堕天と呼ばれ、追われていた自分たちを匿い、世話を焼いてくれた不思議な夫婦。ぶっきらぼうで口は悪いが、その奥からこちらを気遣っていたのが伝わる夫と、常に穏やかな笑みを浮かべて優しく話を聞いたり、大切な事を思い出させてくれた妻。

 

もしもエクスタリアに魔水晶(ラクリマ)がぶつかれば、きっとあの二人も…。

 

「同じ…生きる者…」

 

ウェンディの言葉は、シエルの心にも刻み込まれた。同じ生きる者。例え種族が違っても、人間を見下す者たちでも、その者たちが淘汰されようとしているのであれば、手を差し伸べ、助けようとする。以前から彼女はとても心優しい少女であることは知っていた。だが、自分たち滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)を抹殺…もとい連行させようとした国の者たちに対して、危険が迫っているから避難させようなどと、本来は考えられない感情だ。

 

それでも彼女はやろうとしている。今、生きている命を助ける為に、救う為に。自分がウェンディと同じ立場なら、きっとエクスタリアの危機など度外視し、仲間の身の安全だけを図った。眩しい。いざとなれば優先的なもののみを庇い、順位が低い存在から切り捨てることを厭わない自分にとって、ウェンディの姿勢はとても眩しく思えた。

 

「私がずっと傍にいるからね。怖くないよ。ね?」

 

「…分かったわ…」

 

そんな彼女の眩しさに心を動かされたシャルルは、観念したように返事をした。それを聞いたウェンディは立ち上がると同時にシエルへと振り向く。そして首肯を一つ。「こっちは任せて。だから、みんなをお願い」。そんな思いを伝えるかのように。

 

「二人とも、気を付けてね。俺たちも二人を信じるよ」

 

「シエルも!」

 

シエルも頷いて彼女に返す。そしてウェンディたちに背を向けて先に向かったナツたちを追いかける。後方からはシャルルが(エーラ)で羽ばたく音が聞こえることから、向こうも動き出したことだろう。大分時間を空けたためにどんどん先に進まれているだろう。そう考えていると、曲がり角の位置に、一人だけ自分を待っていた人物を見つけた。

 

「あ、兄さん!」

 

「ウェンディたちは?」

 

「別行動。エクスタリアに危険を知らせに行ったよ」

 

足を止めて、待っていた兄からの問いに簡潔で答える。彼女がとった行動にはペルセウスも少なからず驚いていたようで、「あんな目に遭わされたのに、か…」と少し目を伏せながらぼそりと呟いた。

 

待っていたのは兄だけであるの見て、他の三人は先に向かったことは察しがついた。時間も限られていることを考えると得策とも言える。

 

「俺たちも急ごう。国王のとこまで行ければ、止められるはず…!」

 

すぐさまナツたちを追いかけるために兄弟は駆けだす。しかし、シエルが言った一言を聞いたペルセウスはどこか顔を俯かせ、並走しながらもどこか思い詰めたような、苛立っているような面持ちを浮かべている。

 

「…?兄さん、どうしたの…?」

 

その異常に弟であるシエルが気付かない訳もなく、動かしている足を止めないまま尋ねた。同様にペルセウスも走る速度を緩めはしないが、数秒ほど沈黙を貫いたのち、弟に対する隠し事が出来なくなったのか、その重たかった口を開いた。

 

「シエル…今のうちに伝えておく…。俺はこのエドラスの、国王の首を落とすつもりでいる」

 

それは、弟のシエルを絶句させるに十分な、衝撃的なカミングアウトだった。国王の首を落とす。聞き間違いだろうか?それとも自分が思うものと別の意味があるのだろうか?衝撃的と言える兄の告白を聞いたシエルは、心中穏やかではいられなかった。

 

「そ、それって…どういう意味…!?」

 

「言葉の通りだ。国王を討ち取り、エドラスを終わらせる。ずっと前から決めていた事だ」

 

何かの誤りであってほしかったというシエルの願いも空しく、ペルセウスは淡々とも聞こえる声質で答えた。シエルはその様子に、かつての記憶が蘇ってくるのを自覚する。妖精の尻尾(フェアリーテイル)に来る前、兄弟である自分以外の何物も信じず、心を開こうとしなかった冷酷なあの時の兄。その時の彼と、極めて似ている。

 

更に、シエルは言葉に妙な箇所が存在することも疑問に感じていた。

 

「ほ、本気で…!?って言うか…ずっと、前…!?」

 

自分がエドラスを訪れてから4日ほどが経過している。恐らくペルセウスも同じぐらいの日数だろう。だが、その割にはエドラスの存在を、その目的を以前から知っていたかのような口ぶり。しかしその事に関しては、シエルはすぐに心当たりを思い出した。

 

このエドラスに送った、ミストガンと兄の関係。恐らく兄はミストガンからエドラスの事を事前に聞かされていたのだろう。だから自分たちと比べてエドラスの事について知っていることや王国の事についても把握事項が多かったわけだ。だがそれはそれとして、不可解な点はまだある。

 

「どうして、そこまでエドラスの憎むの…?そりゃあみんなを魔水晶(ラクリマ)にされたことは、俺だって許せないよ。けど、兄さんはまるで…それ以前から…」

 

ペルセウスがエドラスに向けている憎悪は、一朝一夕で積み重ねられたものとは違う。まるで長い間…それも年単位で蓄積されるほどの大きな憎悪。それ程の感情を向けられているエドラス王国が、一体兄に何をしたというのか。その答えを明かすように、ペルセウスは光を無くした目を真っすぐに向けて虚空を睨みながら、低く絞り出した声で告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この国が…世界が…リサーナの“仇”だからだ…!!」

 

「……リサー、ナ…の…かっ……!!?」

 

リサーナ。兄弟にとっても、そしてナツたちにとっても、忘れられない…忘れてはいけない人物の名を聞き、シエルは脳内の処理が徐々に遅れつつあった。まさか…ここでその名前を聞くとは思わなかった。そして彼女が、エドラスに関わりが深いことも、考えつかなかった。正直なところ、ペルセウスにも彼女の仇である事については確証があるわけではない。だが可能性は大いに高いことが裏付けられている。

 

まず、彼女はその命を落とした際、遺体すらも残らず空へと消えていったと、姉であるミラジェーンは言っていた。全身接収(テイクオーバー)に失敗し、暴走したエルフマンの攻撃を受けて吹き飛ばされた()()にしては、その消え方は不自然である。

 

怪訝に思ったペルセウスは、その当時から他のメンバーと比べて交流が多かったミストガンに聞いた話を思い出す。6年もの間、エドラスは何度もアースランドの魔力をとろうとアニマを開いてきた。その度にミストガンに閉ざされ、不発となっていたのだが、彼が感知しきれない、多数の小さなアニマが存在していた。

 

エルフマンからの攻撃で消耗し、意識を失ったリサーナは、その小さいアニマによって吸い込まれ、その身体を失った。憶測ではあるが、そう考えると辻褄が合う。

 

「そして…アニマを通ると同時に魔力化(マジカライズ)も完了し、この世界の魔力…魔水晶(ラクリマ)となって現れる。そこから消費していけば…」

 

「もう…影も形も存在しなくなる…」

 

ゾッとする内容だ。今しがたその可能性を聞いたシエルも、あるわけがないと信じたい思いとは裏腹に、その辻褄が成立してしまう非情な現実を理解してしまう。つまり、エドラスが開いていたアニマが、本当にリサーナを吸収して、魔力として使用したという事に…。

 

「失ってしまった命は、もう二度と帰ってこない…。俺たちから…ミラとエルフマンからあいつを引きはがした…。その元凶が、アースランドの命をただの燃料としてしか見ていないクズどもだ…」

 

己の仮説を立てた時、少しでもあり得る話となるのか、ミストガンにも確認をとった。彼は答えた。0とは言えない。寧ろその仮説が一番有力であると、声を絞り出しながら答えていた。

 

「その時に決めた。一方的に、理不尽に、あいつの命を勝手に奪っていったこの国を…滅ぼすことを…。リサーナの仇を討つことを…」

 

動かしていた足は気付けば二人とも止まっていた。目に浮かんでいた光を閉ざして冷たく言葉を紡ぐペルセウスの姿に、シエルは言葉が浮かばない。もう彼は後戻りできない位置に立ってしまっている。兵士や魔戦部隊長相手に戦っていた時に、もう何人もの命を彼は奪った。理不尽に奪われた怒りをぶつける様に。

 

シエルが感じたのは大きく分けて二つ。兄が不必要に他者の命を奪うことを良しとしない感情と、リサーナを奪われたことに対する憎悪に共感する感情。心の中で、その二分された気持ちがせめぎ合っているのだ。兄にこれ以上誰かを殺めてほしくない。だがリサーナを失った元凶に対して許せない気持ちもある。

 

それだけじゃない。兄の表情は、ちょっとやそっとの言葉では覆らないものと言える確固たる意志を感じる。どうあっても止められない。兄は、生前好意を抱いていた少女の弔いの為、かつてのような修羅となる覚悟をすでに決めている。それを止めることは、弟である自分でも出来ない。結果、シエルは何も言えず、兄の言葉に対して顔を俯かせることしかできていないのだ。

 

「…すまん…お前にそんな顔をさせたくはなかった…。伝えるべきじゃなかったかもしれない…」

 

シエルの表情が目に見えて暗くなった事に気付いたペルセウスが、後悔したように呟く。隠しておけば弟に疑念を抱かれ、いつかは問われると思っていた。故に今この場で自分がしようと思っていることを告白した。だがそれは逆に、弟の表情を曇らせることになった。

 

「お前の事だから、俺にこんなことをしてほしくないと思っているんだろう…。だがこれは、言ってしまえば俺の自己満足でしかない。手を汚すのは…俺一人でいい」

 

弟であるシエルにも、仲間であるナツたちにも、同じS級であるエルザにも、ペルセウスは自分同様の血塗られた道に踏み込ませないように告げる。シエルたちは兄のすることに関与することなく、仲間のために全力を尽くすことを勧める。

 

いつも兄の背中を追いかけていたシエルだったが、今目の前に見える兄の背中は、いつもと比べるとどこか遠く、そして暗いように見えた。「そろそろ急ごう。ナツたちも待ってる」と言って先に向かった兄を追いながら、シエルは葛藤する。

 

自分はどうするべきなのだろう。兄の道を助けるべきか、それとも体を張ってでも止めるべきか。今の彼に、その選択を決めることは出来なかった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

心の中で葛藤を続けながらもナツたちの後を追っていたファルシー兄弟。だが今、目の前に広がっている光景を、二人揃って死んだような目を向けながら見上げていた。

 

「兄さん…俺、今なら兄さんがこの国滅ぼすって言ってた気持ち…分かる気がするよ…」

 

「……こんな事で共感してほしくはなかった…。て言うか、共感しないでほしい…」

 

先程まで兄弟の中に流れていた暗い雰囲気が、更に真っ暗になりそうな状況だ。しかし、それは目の前にある、予想の範疇を遥かに超えた光景が原因である。

 

 

 

その正体は、城壁のような石のアーチで出来た入り口と、そこを起点に柵で囲まれた広大な空間に、きらびやかな明かりに照らされた様々なアトラクションの数々が詰め込まれた、夢のような空間。

 

「E-LAND(ランド)」とでかでかと電飾で作られた文字が迎え入れる、どこから見ても遊園地そのものであった。

 

「城の構造がアースランドと違い過ぎて混乱してたことは確かだけど…普通城の中に遊園地作るか?ふざけてんのか、ここの国王…!!」

 

「シエル、頼むからそんなくだらない理由で、俺と同じことしようとしないでくれ…」

 

若干シエルの中で兄の復讐に全力で加担してやろうかと言う思いが込み上げてくる。そんな弟の胸中を察したペルセウスは逆に抑えてもらおうと窘めた。復讐への加担をシエルにしてほしくないのもそうだが、城の中の遊園地がその行動の発端になるのも、色んな意味で嫌だからと言うのもある。

 

すると遊園地内から突如轟音が響き、こちらにまで届いてくる。先行したナツたちが何か戦闘でも起こしているのだろうか?と言う事は王国軍の誰かと激突している可能性が高い。

 

「俺たちも!」

「ああ!」

 

すぐさま気を引き締めて、敷地内へと駆けていく。目の前に広がっているのは、巨大な機の船型ゴンドラと、メリーゴーランドの残骸が床に広がっている光景。遠くの方に目を凝らすと、誰かが高速で宙を駆け巡るジェットコースターに乗っているのが見える。そして周辺には、仲間の氷の造形魔導士が、金髪リーゼントのピンク鎧の男と激突しているのが見えた。

 

「グレイ!」

 

「ペルにシエルか!?遅ぇぞ!!」

 

「ごめん!ナツたちは!?」

 

激突していたグレイの元にシエルたちが到着し、今の状況を聞こうと尋ねる。今グレイが相手しているのは魔戦部隊長の一人であるシュガーボーイだ。

 

「あいつ…あの剣は確か、斬ったはずだが…」

 

ペルセウスは、その男が一度自分が吹き飛ばした男であることを思い出す。その際に、奴が今持っている剣も半身を斬って使い物にならなくしたはずだ。だが、今彼が持っている剣は、多少の意匠は異なるが、あの時持っていた剣と同じ刀身のものである。

 

「あの飛んでる奴にナツが乗せられてる。あっちはルーシィに任せてあるが…中々うまくいってねぇらしい」

 

グレイの説明を聞いて宙を駆けているコースターを見ると、確かにナツが乗せられていて、そのコースターからナツを外そうとルーシィも上から乗っているようだ。そしてグレイは、目の前にいるシュガーボーイと対峙しているらしい。

 

「んーー、アースランドのシエルはともかく…厄介な相手がまた来たねぇ…」

 

一方のシュガーボーイ。一度は苦汁を舐めさせられた相手であるアースランドのペルセウスと再び対峙することとなり、内心は焦りを募らせている。エドラスのシエルが精神に徹底的に攻め立ててようやく足止めできる程のバケモノじみた男。正直言って今戦っても勝機はないと認識している。

 

この状況に対して兄弟がどう動くかによって、戦況はガラリと変わっていく。シエルはグレイから聞いたナツたちの現状と、こちら側の状況を整理し、どう動くべきなのかを瞬時に判断する。

 

「兄さん、ナツの方を任せていい?あの調子が続けば、きっと勝負にもならない。加勢に入ってほしい」

 

「確かに…。分かった、ナツの回収と向こうの敵は請け負う。そいつは任せた。ものを柔らかくする剣に気をつけろ」

 

シエルからの要請を聞いたペルセウスは、戦力の分配の面を鑑みて即座に納得し、真っすぐナツたちが振り回されているコースターの方へと向かう。そしてシエルは、シュガーボーイの動きに注視していたグレイの隣に位置どると、雷の魔力を右手に浮かべて握り潰し、全身に巡らせる。

 

「時間が惜しい。二人で一気に片付けるよ、グレイ」

 

「ちっと気に入らねぇがその通りだ。援護頼んだぜ」

 

一部が崩壊した遊園地内での戦い。雷を身体に巡らせた少年と手を合わせて冷気を発する青年が、個性の塊と言える鎧の男を蹴散らそうと、魔力を高めていく。その二人の様子を見ながらも、一番の脅威が過ぎていき、男は余裕を見せながら「んー」と笑みを浮かべていた。




おまけ風次回予告

ペルセウス「ようやく助けられたと思ったら、今度は乗り物に捕まったり、それ以前でも色々失敗したり、こっちに来て散々な目に遭ってねぇか、ナツ?」

ナツ「あ~最初は魔法も使えなかったからな~。メンドクセー!って思ったこともあったけどもう心配ねぇ!魔法だって復活したんだ、燃えてきたぞ!!」

ペルセウス「そーゆーポジティブ思考はお前の強みだがなぁ…。実際、どーやってあのコースターから脱出する気だよ?」

ナツ「あ、そうだった…オレ今乗り物の上だ…ウップ…!」

ペルセウス「大丈夫か、この後…」

次回『搾取と報復』

ペルセウス「しょーがねぇ。今俺そっちに向かってるから、それまで気張ってろ」

ナツ「なるべく…早く…!」

ペルセウス「じゃあ手っ取り早く神器全解放してこの辺りを一掃…」

ナツ「しまったペルの悪い癖が出たぁー!!(汗)」
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