FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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今回は続いた集中力!←
欲を言えばもっと文字数増やしたかった…。でも書きたいとこまでは書けたんでよしとしますか…。

そう言えば来週からゴールデンウィークですが…残念ながら去年のように連続投稿はちょっと難しそうです…。やりたいことが少々他にありまして…。その分、遅れないように頑張って次話は完成させます!!


第90話 搾取と報復

エドラス王都、王城内に存在する魔力で動くテーマパーク。それが簡潔にE-LANDを表した言葉と言える。

 

エドラス軍の第三魔戦部隊隊長であるヒューズは、このテーマパークに存在しているアトラクション全てを操る魔法を、手に持っている『コマンドタクト』を用いて使用してくる。遊園地内に設置してあるアトラクションはすべて、彼の掌にあると言っていい。

 

前後に揺れる巨大な船・バイキング、ゴーカート、メリーゴーランドの模型馬、そして通常の10倍まで速度を上げられるジェットコースター・『ヘルズコースター』もその例だ。いま、ナツが乗せられているのもそうであり、どんな者が乗っても5分で気持ち悪くなってしまう。ナツは10秒もしないうちにグロッキーになったが。

 

「ナツ!しっかりして!!」

 

魔力の操作によって何もない空中にレーンを作り出し、滑走していくコースター。乗客が落下しない為のセーフティで降りることも出来ないナツを解放させようと、上に飛び移ったルーシィが必死に外そうとするが、固く留められているそれを外すことが出来ず苦闘している。

 

更にその上、ヒューズのタクトによってコースを縦横無尽に変えられていき、ルーシィは次々と己にかかるGの変化にどうすることも出来ず、逆にナツにしがみつきながら悲鳴を上げることしかできない。そして最終的には急な坂を滑り落ちる様に降下していき、広い池のような水溜まりへとダイブさせられた。その様子が面白かったのか、ヒューズは愉快そうに彼らの醜態を笑っている。

 

「た…助かった…」

 

グロッキー状態で水没したコースターに身を預けながら、ようやく止まったことに対して安堵を見せるナツ。全身がずぶ濡れになったルーシィは、どこか虚空を見るような目をしている。

 

「見てみアレ!」

 

そこに腹を抱えて笑いながら指をさすヒューズに気付き目を向けると、『ベストショット』と書かれた木枠で囲ったモニターに、グロッキー状態のナツに涙を流して叫びながらしがみつくルーシィと言う一瞬の様子が映し出される。どうやら滑走中に撮られたらしい。

 

「ご丁寧にどうも…」

 

色々と癪に障る演出に、ルーシィから怒りが混じった声が漏れ出た。散々好き勝手に振り回された上に、必死になっていた所をとられて笑い物にされたらイラつくのも無理はない。

 

「カハハ!スッゲェだろ!?これがエドラスの魔法だよ。こんな素敵な魔法がもうすぐ消えるだなんてさ、考えたくもねえじゃん?」

 

見る者に夢と希望を与え、楽しませること、喜ぶことを教えてくれるもの。そんな魔法が世界から消えるとなると、どれほどの悲しみが生まれることだろう。だから彼らは必死に魔力を集めている。他の町から、他の世界から、魔法をかき集めて繋いでいる。それだけ、魔法を失う事は恐怖以外の何物でもない。ヒューズを始めとしたエドラスの者のほとんどがそう思っていることだ。

 

「だから…殺すのか…?」

 

そんな彼の言葉に、項垂れていたナツがそう聞き返した。ヒューズも、ルーシィもそれに気付いて、身を預けていたコースターから離れて水の中を一歩一歩歩いてヒューズに近づくナツに視線を向けている。

 

「オレたちの仲間も、エクシードも…てめえらの都合で殺すのか…?」

 

「そうだよ。永遠の魔力を手にするための贄なんだ」

 

「ふざけんな…!!」

 

永遠に尽きない魔力。それを手にするために、別世界の人間も、天に住まう神のような存在も、一切躊躇もなく消そうとする。自分たちが恵まれるように、容赦なく実行しようとする彼らの言に、ナツは静かにその怒号を発した。

 

「オレの仲間は今生きてる…!エクシードも生きてる…!魔力があろうがなかろうが、大事なのは生きてるって事だろ…!!」

 

両方の拳から炎を灯し、その炎は腕を伝って背中へ、やがて全体へと行き渡り、彼の身体を赤く照らす。確かな怒りを表す炎。仲間を奪い、命の危険に晒されたこと、自分たちの都合で躊躇い無く他者の命を奪おうとしていること、本当に大事な事を、何一つわかっていない者たちへの怒りを燃やしながら、濡れた体を乾かしていく火竜(サラマンダー)は鋭い目つきを更に鋭くさせながら睨みつけた。

 

「命だろーが!!!」

 

激しい炎を発しながら憤怒の表情で睨みつけてくるナツを前にしても、ヒューズはまるでその言葉を聞き流しているかのように淡白な反応しか示さない。それが更にナツの怒りを焚きつけ、彼に攻撃を起こさせる。

 

「火竜の咆哮!!」

 

含みのあるような笑みを浮かべているヒューズ目掛けて口から勢いよく炎を放出する。先程ナツの攻撃を垣間見た時はエドラスの者と比べてあまりにも突飛したものであったそれに困惑するばかりであったが、一々驚くこともなくなってきた。だからこそ、対処もしやすくなっている。遊園地内のアトラクションを操作していた彼のタクトがナツの炎に向けられると、真っすぐヒューズに向かっていた炎は途端に横に逸れてヒューズを捉えることなく通り過ぎた。

 

「ナツのブレスが逸れた!?」

 

「何しやがったんだ…!?」

 

彼がタクトで操れるのは遊園地内のアトラクションのみと考えていた為に、それ以外の…ナツの攻撃魔法が彼の意思に従ったような挙動を見せたことで少なからず動揺を表している。対してこの光景を生み出した本人であるヒューズは得意気な顔を浮かべていた。

 

「驚いてるみたいじゃん?『コマンドタクト』が操れるのはこのE-LANDにある施設のみ…。前まではそう言われてた」

 

ルーシィたちの予測通り、本来では遊園地内のみ限定の魔法だったらしい。それがどうして、ナツの魔法までも操作できているのか。それは、あの男の存在が一因となっていた。

 

「細かいところはスッゲェ難しくて頭に入んなかったけどよ。オレのこの魔法(ぶき)は、魔科学の力を新しく手にしたことで、更にスッゲェ魔法に進化したってわけだ!」

 

「魔科学…まさか、エドシエル!?」

 

アトラクションを操作している原理が、その中に内包されている魔力を介して行っていること。つまり魔力が宿るものを自在に操作することが出来るよう調整できる。その点に着目したエドラスのシエルが、魔科学の技術を利用してアトラクション以外の魔力が宿るものも一時的に操作できるように改良させたのが、今現在ヒューズが持っている改良型のコマンドタクトである。

 

「あいつか…!」

 

ナツは思い出す。味方と信じていたのに冷たい目と言葉で自分たちの望みを突っぱねただけでなく、元々の自分たちの仲間の事も一切顧みない様子を見せ、ウェンディの心に深い傷を作った青年を。それによって抱えていた怒りがさらに増幅されていく。

 

「オレの魔法は進化した。魔力があるものならどれでも…つまり魔力そのものを操ることが出来る…!つまり、どんな魔力であろうと、全てはオレの意のままに出来るって事じゃん!!」

 

まるで己が全能となった時のように今の状況に酔いしれながら、ヒューズがタクトを掲げると同時に、どこからともなくアトラクションの一部と、遊園地内に潜めてあったらしい小型の飛行物体を呼び寄せる。

 

「魔科学の恐ろしさをその身に味わって、華々しく散るがいいじゃん!!」

 

先程ナツを苦しめたヘルズコースターに加えて、エネルギー砲を発射するいくつもの小型機械が総動員でナツとルーシィに襲い掛かる。ナツは迫りくるコースターを体術で壊していき、ルーシィは襲い掛かってくるエネルギー砲を、悲鳴を上げながらも避けていく。

 

「くそっ!コンニャロウが!!」

 

エネルギー砲を撃ってくる小型の機械に対して、ナツが右拳を振ると同時に勢いよく炎が放出される。だが小型の機械たちがそれに呑まれて焼き尽くされてもヒューズは動じず、迫ってくる炎を操って方向を転換。ルーシィの方へと照準を変える。

 

「ちょっ!?イヤァーーッ!!」

 

エネルギー砲をよけれたと思っていたルーシィが、次に迫ってきた炎を見て青ざめながらも飛びのく。だがその影響で再び顔から水溜まりの中にダイブする羽目になった。

 

「ルーシィ!てめえよくもルーシィを!!」

 

「半分、アンタのせいでしょうが…!」

 

危うく焼かれるところだったルーシィを見てナツが目を吊り上げてヒューズを睨む。その一方でルーシィはそもそもの元凶と言えるナツに対して、沈んでいた顔を上げながら若干苛立ちを吐露している。そんな二人の様子を見て、ヒューズは再び腹を抱えて笑っていた。

 

「!(そう言えば…ここ、水…!?)」

 

だがふと、今自分たちがいる足場が水溜まりであることに対して、ルーシィはある一つの項目に気付く。そう、水だ。水場であるという事は、彼女の中でも最強格の星霊を呼ぶことが出来る。

 

「ナツ、伏せて!!」

 

ヒューズの攻撃に再び備えようと構えていたナツにそう一言告げると、ルーシィはその水溜まりにその鍵をつけて口上を口にした。

 

「開け、宝瓶宮の扉!アクエリアス!!」

 

水色の長い髪を持った人魚の女性の姿を象った水瓶座の星霊。金色の鍵が光ったかと思いきや、何もないところから別の生命体が出てきたことで、ヒューズの顔に驚愕が浮かぶ。

 

「お願い!」

 

「分かってる」

 

ルーシィのその懇願に、珍しく素直に応えようとするアクエリアスは、両手に持った水瓶から勢いよく水を噴射させようと振りかぶる。だが、少しばかり棒立ちしていたヒューズが咄嗟にタクトを振るうと、今ルーシィたちが立っている水溜まりの様相が一気に変化する。

 

水がアーチを作るように外側から内側へと噴水のように動きだし、そこを通るかのように何本もの光が行きかう。まるで水上ショーのような光景。本来であれば見惚れてしまっても無理はないのだが、その真っただ中にいる彼らにそんな余裕はない。更に言えば、今までになかった不測の事態が発生している。

 

「水が…操れない…!?」

 

水を自在に操作できるアクエリアスの力でも、水上ショーを起こしているこの水溜まりを操れない。最強の力を持った星霊の力が通用しないという事実に、ヒューズを除く全員が困惑している。

 

「言っただろ?魔力のあるものは、全部オレの魔法(ぶき)だってな」

 

ただでさえ遊園地内の施設はすべて彼の掌の上。その上で魔科学によって強化されたその魔法に抗う術は、彼らには存在していなかったに等しい。

 

「ルーシィ!伏せろぉ!!」

 

勢いよく迫りくる噴水と光の矢。魔導士たちと星霊は抗うことが出来ずに、勢いよく迫って来た奔流に飲み込まれた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「う~ん…」

 

様々なものが破壊され、残骸の山となった光景を見ながら、この遊園地を統括している立場であるヒューズは頭を指でかきながら眉をひそめている。水上ショーに使用する噴水と光の矢を使って奴等を吹き飛ばしたはいいが、そのせいなのかどこまで飛んで行ったのかも分からない程に遠くまで行ってしまったらしい。

 

「スッゲェ派手に吹っ飛んでいきやがって…アースランドの魔導士ってのは、言う事もやる事も一々大袈裟だな…」

 

溜息を吐きながら面倒そうに彼はそう呟く。だが落胆してもいられない。まだ生きているんだとしたら放っておくと後々また厄介な事を起こしかねない。手間をとらせられるが、しっかりと死んでいることを確認しなければ。

 

「しゃーねぇな。探しに行くか」

 

 

 

 

 

 

「お前が探す必要はねえよ」

 

一歩その足を、飛んでいったと思われる方角へと向けて踏み出した瞬間、ヒューズの後ろからそんな声が聞こえてきたために、一瞬で彼はその顔に冷や汗を浮かべ、勢い良く振り向いた。

 

そしてその声の主は、彼の望みとは裏腹にヒューズの頭の中に浮かんだ人物その人。右手には木の枝を模した緑色の珠が先端についた杖を持っている、王城を大規模に破壊し尽くし、魔戦部隊隊長3人を相手に圧倒した、エドラス側から見ればまさに最凶最悪の魔導士。

 

「ナツがお前如きにやられるなんざあり得ねえとは思うが、あっさりとこの場で見逃す理由も存在しねえ」

 

彼の後方からゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくるその魔導士、ペルセウスの姿を見た時、ヒューズは正直心の底から大いに焦った。だが、必死に心を落ち着かせた彼は若干の焦りを残しながらも、口元に弧を描いて自信を取り戻す。

 

「カハッ!さっきはあっさりとやられたけどよぉ…いくらお前が相手でも、ここでオレと会ったのは運が悪かったな…!」

 

そう、恐れることはない。この遊園地は自分のホームグラウンド。自らの魔法を最大限に発揮することが出来る場所。この場で戦う事は、自分の勝利を確定させているものだ。さっきの手痛い屈辱を晴らすには、最高のシチュエーションでもある。

 

「どうせアースランドの魔導士のお前を生かしておく理由もないんだ。このオレの魔法の全戦力を使って、お前をぶっ殺してやる!!」

 

出し惜しみは絶対しない。そんなことをしたらやられるのは自分の方だ。それがよく分かっているからこそ、早速ヒューズはタクトを振るってペルセウスへの攻撃を開始する。どこからともなく数多のアトラクションや、浮遊する機械、先程の噴水と光の矢も総動員となって、ペルセウスへと襲い掛かっていく。

 

「本当はもっと早くに着いていた」

 

唐突に関係のない話を始めたペルセウス。その言葉に、思わずヒューズは呆けた声で反応を示した。

 

「ちょいと準備に時間がかかって、気付いた時にはナツたちがいなくなってた…。あいつら見つけたら謝んねえとな…」

 

一体何の話をしているのだろう。この状況にあっても、まだ自分の方が優位に立っているとでも思っているのか。だんだん苛立ちが強くなってきたヒューズは、構うことなくアトラクションたちへの攻撃を続行させる。そして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「出番だ。ミストルティン」

 

彼の手に持つ杖、その緑の珠が光った瞬間、遊園地の敷地内のいたるところから、床を突き破って植物の根が何十、何百の単位で現れ、ペルセウスに迫っていたあらゆる無機物たちを貫き、縛り、阻害し、拘束や破壊を行った。

 

「はあっ!!?」

 

その光景を見たヒューズは思わず引き攣ったような声で叫ぶ。だがこれだけに留まらない。彼の周り、ヒューズの周り、否、遊園地全体に現れたその根が、ありとあらゆるアトラクションへと迫り、まとわりついて締め上げ始める。例外があるとすれば、シエルたちが激突しているであろう入り口付近と、ナツたちが飛んで行ったと思われる方向のみ、その被害を受けていない。

 

「な、何だよこれ…!?木の根っこ!?」

 

ミストルティン。周辺の植物を操って急速に成長、変化を促すことで攻防の手段とする神器。ナツたちの窮地にすぐさま助けに入れなかった理由は、ヒューズが扱う魔法の遊園地を無効化するため、ミストルティンの力を使って、王城周辺の街路樹の根をここまで伸ばすのに時間がかかったからだ。

 

そして徐々に伸ばした根っこたちがようやく近くまで来た瞬間、ペルセウスはこの場に姿を現した。何の準備もしなければ、()()()()()苦戦していたであろうために。

 

「こ、こんなもの…!」

 

焦りはしたものの、ヒューズは冷静になるように努め、手に持つタクトを再び振るう。ペルセウスが魔法で操っている気の根っこも魔法の一つ。ならば魔力が宿っている。つまり自分のタクトで操れない訳がない。そう思って根を操ろうとする。

 

だが、どれだけ振るっても、根はほどけるどころか、所々を更に締め付け始めている。その影響であちこちのアトラクションが潰されそうになっているのか悲鳴を上げ始めている。

 

「何で…何で操れないんだよ!?オレは、オレの魔法は全てを…!!」

 

全くもって理解が追い付かず、ヒステリックな声で叫びたてて何度もタクトを振るう。だが何をしても根も操れず、元から操れるものたちも動かせず、彼の抵抗は何一つ状況を動かせない。

 

「どうやら、エドラスの魔法や科学力は、アースランドの神には到底敵わないものだったようだな」

 

「か、神…!?」

 

「俺が使いこなす武器は、アースランドにかつて存在していた神々の力が込められている。他の魔力ならいざ知らず、神の力を使いこなすには、お前たちの技術は追いついていないってことだ」

 

アースランドに存在する神器を、換装と言う形で行使できる存在でさえ、同じ世界にはペルセウスを除いて他にいない。それが別の世界…それも魔力を持っている者が誰もいない世界の住人が開発した魔法や科学では、再現も出来ない上対応する技術も存在しない。シュガーボーイの武器であるロッサエスパーダが、ペルセウスが使った神器の一つ・グラムを柔らかくできなかったのは、そうした神の力が理由となっているのだろう。

 

「ふ…ふざけんな!何が神だよ!エクシードでもねえ、地上(アースランド)で魔力に困らずのうのうと生きてきたテメェが、偉そうにしてんじゃねえ!!魔力があれば偉いのか!?失う事のねえ魔法を使える奴は何してもいいってのか!?」

 

最早抗う術を持たない。だがヒューズは、恐怖も忘れて、ただただ怒りが込み上げ出していた。いつ失われるか分からない、希望と夢に溢れた魔力が存在する世界。アースランドは魔力を失う心配とは皆無の世界にいるくせに、自分たちは何故失う怖さを味わわなければいけないのか。

 

「オレたちから、楽しくて、夢があって、希望に満ちた魔法を…奪っていいって言うのかよ、てめえらはぁ!!?」

 

怒りや妬み、憎しみと言った感情が吹き出して叫び続けていたヒューズ。そんな彼の姿を冷めた目で見ていたペルセウスは木の枝の杖を振るうと、ヒューズの足元から木の根が飛び出して、彼の右足から右手、そして顔にまで伸びていき拘束。口元を抑えて何も喋れないようにした。

 

「っ!?……っ!!」

 

何かを叫ぼうとしているようだが、その言葉は木の根に阻まれて一切意味のあるものとして出てこない。右手を縛られたことでタクトがその手から離れて床に落ちたが、それを拾うことも叶わない。

 

「じゃあ、お前らには奪う権利があるのか?」

 

低く冷え切ったペルセウスの問いかけに、ヒューズの体は拘束されている部分も関係なくガチっと固まる。彼への恐怖がぶり返したのか、それとも紡いだ言葉に対して思い返すことがあったのか。それに意も介さず、ペルセウスはヒューズに問いかけていく。

 

「今この瞬間、俺に為す術もなくやられるような奴が、体内に魔力を持たず、アースランドの魔導士数人に国全体が揺るがされるような奴等が、他人のものをとっていくしか生きていけないような奴等が…何故アースランド(俺たち)より上に立ってると思ってる?」

 

一歩一歩、問いかけながらヒューズに近づき、彼を見下ろす位置にまで着いたペルセウスが、光の無い目で彼の恐怖に染まった顔を見下し、冷たく低い声で言い放つ。

 

魔力の価値を知らない地上人?

自分たちは選ばれた民族?

 

所詮他所から黙って取っていくことでしか生きられない寄生虫の如き行動を起こしている奴等が、よくものうのうと言えたものだ。

 

「上に立っているから奪っていいのか?俺たちの世界の魔力も、俺たちの世界に生きる人々も。失ったことも奪われたこともねえ奴等が、今まで搾取する側だった奴等が、いっちょ前に被害者面してんじゃねえよ」

 

畳みかけてくるその言葉に対し、口を閉ざされたヒューズはその有無に限らず何も言い返せない。その目には涙さえ浮かべている程に。生まれて初めて、彼は命の危機と言うものに直面した。今までは自分が何もかも奪う立場であったが故に知らなかった。今この時初めて、自らが命を奪われるという感覚を、思い知らされたのだ。

 

「理不尽に奪われるというのがどういうことか、お前らにも味わわせてやるよ。お前らが他の奴等にしてきたことを、そのままな…!」

 

今まで冷たく言い放ってばかりだったペルセウスの言葉に初めて怒気がこもり、杖に付いた緑色の珠が再び光を放つ。そしてその直後、それに呼応して、遊園地を締め付けていた根がさらに伸び、さらにアトラクションの悲鳴を響かせる。

 

「っ!!(ま、まさか…やめろ!やめてくれよぉ!!)」

 

ペルセウスが何をしようとしているのかを察知したヒューズが、叫べない状態でもがき、目で彼に何かを訴えているが、彼はそれを目にしても止まりはしないし、止める気もない。きっとペルセウスにヒューズの声が届いていたとしたらこう言っていただろう。

 

 

 

 

 

「その言葉を、お前らに奪われた人たちが言ってきたとき、お前らは素直にやめたのか?」と。因果応報。今ペルセウスが彼らに行っている仕打ちは、まさにそれを彼らに対して体現させたかのような行いだ。褒められたことではない事は、彼も分かっている。それでもやらなければいけなかった。それが、奴等に奪われた者たちの思いを込めた、せめてもの報復だ。

 

 

 

そしてヒューズの願いは届くこともなく、神の力を得た木の根は容赦なくあらゆるものを押し潰し、ほとんどの遊園地のアトラクションが破壊され、轟音を立てて崩れ落ちていく。

 

「ーーーーーーーーーーー!!!(うわぁああああーーーーーっ!!!)」

 

目元の涙を流しながら、エドラスの夢と希望を詰めた楽しさの象徴が見るも無残に崩壊する光景を目にし、ヒューズは地獄を見たかのような絶望に打ちひしがれた。何も出来なかった。何をすることも許されなかった。それほどまでにペルセウスが冷酷で、圧倒的で、こちらに対する積年の憎悪を募らせていたから。

 

そしてその凄惨たる光景を作り出したペルセウスは、特に感情を揺り動かしたりせず崩壊して瓦礫の山と化した遊園地を眺めている。エドラスの国民に愛されてきたこの場所も、気付かないうちに消えてしまっていた同郷の者たちが糧になっていたのではないかと思うと、如何にこの世界が異常であるかが理解できる。

 

そんな異常な部分を取り除くには、やはり…。

 

「…これでこいつはもう、戦線に復帰できない…が、念には念だ」

 

そして一切感情を揺らがせることもないまま、ペルセウスはヒューズが右手から落としたタクトに近づくと、右足で思い切り踏み潰し、真っ二つに折った。遊園地内ほぼすべてが機能を停止したとはいえ、それを操作する道具を破壊しても損はないだろう。

 

何なら、今ここでヒューズの命を散らしておくことも考えていた、が…。

 

「ショックで失神した、か…」

 

涙を流した状態で白目を剥き、ピクリとも動かなくなったヒューズ。首元に手を当てると脈はあったので、死んではいないと断定できる。さしものペルセウスもこれ以上彼に何かをする気は失せたのか、ミストルティンを操作してヒューズを拘束していた木の根をしまわせて、解放する。支えを失ったことで前のめりに倒れこんだが、ペルセウスはそれを一切気に留めることなく、ナツとルーシィを探そうと、彼らが飛んで行った方向へと歩き出した。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

飛ばされた方向から推測し、捜索を続けていたペルセウス。辿り着いた先は、ミストルティンの範囲から外していた施設の一つ。名を『モンスターアカデミー』。本来この施設はモンスターの学園生活をのぞいてみようという目的で作られたアトラクション。お化け屋敷の一種だ。

 

「結構歩いたと思ったが、どこまで行ったんだ…?」

 

いかにもおどろおどろしい雰囲気のある入り口から入ったペルセウスは、未だに見つからない仲間二人の姿が中々目につかず、あちこちを歩いていた。一体どこまで飛ばされてしまったのだろう。もしや、今いるところよりもさらに遠くだろうか?あるいは間違えてミストルティンの範囲に入ってしまったとか…考えたくもない。

 

「この部屋はどうかな…?」

 

教室の一つと思わせるその一室の前まで来たペルセウスは中の様子を見ようと引き戸を開ける。その中では、魔力を操作して動くモンスターたちの模型が、教室内の机の席に座っている。だが、真っ先に彼の目がいったのは別の部分だった。

 

「は~い♡お兄さ~…あ」

 

髪を後ろで二つ結びにし、何故か水着姿に着替えたルーシィが、色仕掛けのポーズをとってこちらに見せつけている光景。こちらを誘うような撫で声を発していたものの、入ってきた人物がペルセウスだと気づくと、呆けた声を発して一気に顔色が青くなっていく。

 

「ペル…さん…!あ、いや、これはその…!!」

 

青くなった顔でどうやって弁明しようという焦りから言葉がたどたどしくなるルーシィ。見つかった仲間が何故か色仕掛けの格好で現れたことで虚をつかれた表情で固まっていたペルセウスだったが、ようやく我に返って彼女に言葉をかけた。

 

「ルーシィ…」

 

「は、はい…!」

 

 

 

 

 

 

「風邪ひくぞ」

 

「妙な優しさが逆に心に刺さる~~!!」

 

怪物たちの学校の中に、色々と空回りしたルーシィの嘆きの叫びが響き渡ったが、ペルセウスは無事ルーシィと、物陰に隠れていたナツと合流を果たした。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

魔科学研が使用する研究室。

コードETDに使用する滅竜魔法の魔力抽出が完了し、それによって動かすことが出来る兵器・『竜鎖砲』の最終的な点検を完了させた部長のシエルは、今作戦とは別に、あるデータを基にして新たなる魔法を製作していた。

 

「シエル部長、それは…?」

 

「アースランドの兄貴…ペルセウスには大幅に被害を出されてしまったからな。あいつがこのまま籠っているわけもないとを考えて、次に遭遇した際の奴への打開策を作ってる」

 

紫髪の女性研究員から尋ねられた問いかけに簡単ながら説明を答えるエドシエル。王城内で盛大に暴れまわったペルセウスのデータは、王城内に設置していた映像魔水晶(ラクリマ)、そして自ら対峙して手に入れた。その戦闘と魔法のデータをもとに一から新たな魔法を製作している。研究員にはどのような効果の魔法なのか想像もつかないが、恐らく自分の考えつく領域を超えているのだろうと言う事だけは漠然ながら理解できた。

 

「竜鎖砲のメンテナンスを終えたところなのに…何と言うか…スゴイですね…」

 

「やれるだけの事をしてるだけに過ぎんさ」

 

キーボードのような魔法陣に触れる手を休めることなく、それによって次々浮かび上がる文字列や画面から目を離すことなく、集中力を大きく要するであろう作業中に話しかけられても一切作業を狂わせず、その状態で会話の受け答えまで出来ている。言葉にするだけで彼がいかに優れた人材であるかが分かってしまうほどだ。

 

せめて邪魔にならないようにと離れた研究員の顔は、最早人間に向ける目とは大きく異なっていたことは、本人含めて誰も知らない。

 

「……よし、あとはこの項目を埋めれば…」

 

どうやらずっと製作に尽力していた作業が佳境を迎えているらしく、ラストスパートをかけようと再び画面に向き合う。そして魔法陣に打ち込む手を再び動かそうと…。

 

 

 

 

「シエル部長!緊急事態です!!」

 

「きゃあ!?な、何!?」

 

動かそうとしていたところを、突如研究室になだれ込むように突入してきた赤茶色の髪の男性研究員が、焦りを前面に出した顔で報告をしてくる。唐突の出来事でシエルの近くにいた女性研究員を始めとして、室内にいたほとんどのメンバーが肩を跳ねさせて驚いていた。

 

「何があった?」

 

そんな彼に一切驚いた様子もなく、少々呆れ気味に溜息を一つしてから、振り向いて問いかけるシエル。だが、その内容は、彼にも予想できなかった内容だった。

 

 

「幕僚長補佐であるココさんが、竜鎖砲の鍵を奪い取り、城内を逃走中とバイロ様から!!」

 

「!?」

 

それを耳にした瞬間、普段と比べて珍しく、シエルの表情が驚愕のものとなった。目を見開いて、今男性研究員が告げた言葉に理解が追い付いていないかのような衝撃を受けている。勿論、他の者も言わずもがなだ。

 

竜鎖砲の鍵を奪われた。それだけでも一大事だが、アースランドの魔導士ではなく、味方であるココと言う少女がその犯人であること。なぜ彼女が?今すぐにでも竜鎖砲を撃てば、永遠の魔力が完全に手に入っていたというのに。

 

「……モニターからココの位置を割り出す。見つけ次第『通信札』で近場の兵士たちに連絡することも怠るな。絶対に取り返すぞ」

 

『は、はい!』

 

数秒ほどの沈黙の末、絞り出すような声を発しながら室内の研究員に指示を飛ばすシエル。それを聞いた者たちは、すぐに中央にあるモニターのチェックを始める。

 

すると、何かを叩きつける音が室内に響き渡り、何事かと研究員たちがすぐさま振り向く。その音の正体はシエル本人。特に何も載せていない机の上を、彼が腕で叩きつけていた音だ。苛立っている。他の者にしてみれば珍しくない行動だが、普段喜怒哀楽をあまり表に出さない魔科学研部長にしては、レア中のレアと言えるべき感情の変化だ。だが、状況が状況の為、それに注視しようとする者はおらず、すぐさまモニターのチェックに入る。

 

「(どいつもこいつも…もう少しと言うところで邪魔しやがって…!!!)」

 

声には出さなかったが、彼自身の…エドラスの望みがもうすぐ果たされるというところで、悉く妨害を入れられる事態の連続に、シエルは怒りを募らせている。滅多にない出来事が発生していて研究員たちが混乱する中、シエルは鍵を奪ったココを必ず見つけ出す、と決意するかのように、モニターのチェックを始めた。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

───痛い…!痛いよう…!!

 

垂れた犬の耳のような帽子と、犬に似た顔立ちをした少女、ココは王城内を走り回る。駆けていく彼女の脚は、魔法による攻撃を受けたのか、両方とも傷と火傷の痕でボロボロの状態だ。走るだけでビキビキと痛みが襲い掛かってくる。

 

───走るのがこんなに辛いのは、初めてだよう…!!

 

竜鎖砲を起動しようとしていたバイロ、そして国王のファウストの前に、裸足で常に走りまわっていた少女は、目標の近くに友と認識している魔戦部隊長の一人・パンサーリリーがいることに気付いた。もし今起動すれば、彼もただでは済まない。だから、彼女は竜鎖砲の起動を止める様に嘆願した。だが…。

 

『それがどうした?』

 

『大局の為の犠牲はつきものなのだぞ!あんなエクシードくずれ、どうなっても構わんのだ!!』

 

尊敬する王が、直属の上司が、永遠の魔力の為に、平気な顔で仲間であり友であるパンサーリリーを見捨てようとしたこと。それがいやで、彼を失いたくなくて、思わずココはバイロから鍵を奪い取って逃げてしまった。

 

───私だって永遠の魔力が欲しい!でも、リリーが死んじゃうのはイヤだ!!

 

自分がしたことは本当に良かったのか。友一人を助けたいがために、国全ての想いを無為にしてしまって良かったのか。だが、今戻れば確実にその友は死ぬ。それも彼女にとってはイヤだった。

 

───どうしよう…!どうしよう…!!

 

彼女は走る。ただ走り続ける。常に彼女はそうしてきた。友のために、鍵を抱えてただ走る。

 

 

 

 

 

「やっぱ全然ダメかぁ~、お色気作戦。何かこう、色気が足りないんだよな~」

 

「まだ言うか!てゆーか、結局服戻らなかったし、どーしてくれんのよ!!」

 

「いいから早くシエルたちのとこに戻るぞ。魔水晶(ラクリマ)の衝突を止めるためにも」

 

 

 

 

───誰か…誰か!リリーを…助けて!!

 

走り続ける彼女に、誰も予想しえない運命の出会いが待ち受けていた。




おまけ風次回予告

ペルセウス「敵が来ると思って、相手の動きを封じるための色仕掛け、か…。でもルーシィ、あんま向いてないみたいだな?」

ナツ「そーなんだよ~。やっぱ足りないんだよな色気が!何がとは言えないけど、やっぱ足りない!」

ペルセウス「あとでルーシィにシバかれるぞ、それ。だが不思議なもんだな。ルーシィ、ルックスもスタイルも申し分ないから、圧倒的に失敗する要素が少なそうだが…」

ナツ「いやいや、ペル相手には失敗してたじゃねぇか」

次回『星の大河は誇りの為に』

ペルセウス「俺の場合はちょっと慣れてんだ。事故でミラの裸を見ちまったこともあるし」

ナツ「そーだったのか!?ちなみにどんな感じだった!!」

ペルセウス「二年以上前の事だったが…何故かミラとばったり出くわした直後の記憶が無くてな。気付いたら医務室のベットの上に…」

ナツ「お、おう…色々察したわ…」
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