FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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ゴールデンウィークが足りない…!←

合間合間に仕事が入っていたおかげで、満足な休み方が出来なかった記憶ががが…!

それと一つお知らせです。この休みを使って、別の原作を元にして作った小説のネタを、短編として投稿を始めました。本当はもっと多くの作品を投稿したかったんですけど、時間の都合上、まだ一作しかできてません…。

FAIRY TAILとは別のものとして作っているうえ、チラシの裏に投稿しているので、機会があるうえで知ってる作品とかだったら是非読んでください!


第92話 天候は氷砂糖

時は遡り…ヒューズと対するためにペルセウスがミストルティンの準備を進めている頃から、魔戦部隊隊長の一人であるシュガーボーイとの戦いを繰り広げているのは、天候を駆使する少年シエルと、氷の造形魔導士の青年グレイ。しかし彼らは、二対一の状態にも関わらず思わぬ苦戦を強いられていた。

 

「アイスメイク…槍騎兵(ランス)!!」

 

両手をかざして、複数の氷の槍を射出し、シュガーボーイを狙うグレイ。だが彼は右手に握っている剣を持ち直すと、迫りくる槍に対して剣を振りかざす。すると刀身が当たった氷の槍は当たった先から溶けた様に柔らかくなり、冷えた水滴となって、彼にダメージを通さない。

 

「んーー、冷たいねぇ…」

 

その光景、そしてシュガーボーイの余裕のある笑みを見ながら、グレイは苦虫を噛み潰したように表情を歪める。どんなものでも柔らかくすることが出来る剣。氷と言う固体のものを操る魔法である自分とは相性が悪いと言わざるを得ない厄介な剣だ。

 

だが今度は、シュガーボーイの背後に回った雷を纏ったシエルが、その高速を利用して拳を突き出す。シュガーボーイに気付いている様子はない。雷の速さに反応が遅れていると言っていい。だがしかし。

 

「はあっ!」

 

彼の突き出した拳は、ひとりでに不自然に折れ曲がった剣の刃が、シュガーボーイを守るように立ち塞がるようにして阻む。直剣に見えた剣がひとりでに曲がってシエルの物理攻撃を防ぐ。先程からこの繰り返しだ。

 

「くっ…!気象転纏(スタイルチェンジ)風廻り(ホワルウィンド)(スピア)!!」

 

またも防がれたことに悪態をつきながらも、すかさず竜巻の魔力を生み出してそれを槍の形に。そして攻撃を防いだ直後のシュガーボーイに向けて投擲する。だが、後ろのシエルの存在に気付いていたシュガーボーイは焦る様子もなく、風の槍を剣で受け止め、柔らかくなったのか曲線を描きながら風が散開。そよ風となってシュガーボーイへと吹き渡る。

 

「んーー、いい風だ」

 

氷と言う固形物ならまだ分かるが、竜巻と言う形がはっきりとしていないものまで柔らかくしてそよ風に変える…と言う言葉にしてみれば意味が分からない現象を目の当たりにして、さらにシエルたちの表情が険しくなる。

 

「どうなってんだよあの剣は…。自分で曲がったり戻ったり、俺の天気まで弱体化させたり、無茶苦茶だ…」

 

何度攻めようと彼自身に届かず、彼の持つ剣によってあらゆる攻撃が阻まれている。まるで意思を持っているかのように動く。それだけならばまだ少しばかり理解が追い付いた。だが、見るからに鉄でできた直剣が不規則に曲がって彼の身を守るというのは、実際に見ても理解が追い付かない。

 

「気になるかい?そう言えば、君はアースランドのシエルなんだよね?なら、そう思っても不思議じゃないか」

 

「どういう意味だ?」

 

「オレたちが知ってるシエルによって、この剣が作られたから…ってことさ」

 

シュガーボーイ…彼が知るシエル…と言うと思い浮かぶのは一人だけだ。エドラスのシエル。まだシエル自身は面識もなく、実際の為人は全く分からない人物。少なくとも兄は彼と対面していたと聞いたが、どのような人物なのか聞く余裕はなかった。

 

そんな彼が作った…と考えると、恐らくエドシエルが関わっている分野・魔科学を用いた魔法と言う事だろう。兵士たちに搭載されているなら隊長たちにも取り入れられていても不思議ではないと思っていたが、本来の物理法則も魔法の概念も超越した性能の剣を作り出すのは、果たして科学の範疇で出来る事なのだろうか…?

 

「お前…なんつー厄介なもん作ってんだ…」

 

「俺じゃなくてエドラス(もう一人)の俺に言ってよ、そんな事…」

 

思わずげんなりした表情をこちら向けて言ってきたグレイに、同じような顔を浮かべながら返答する。自分は科学は専門外の為、同じようにあれを作れと言われたって絶対無理だ。

 

「子供の姿とは言え、シエルを始末するというのは少々抵抗があるけれど…仕方ないよね。せめて、魔科学で強化された『ロッサエスパーダ・改』の本来の力を見せてあげるとしようか」

 

『改』が付いただけだろう。と言うツッコミを挟む間もなく、シュガーボーイが直剣を構え直して何かを操作すると、刀身が突如光りだし、物理攻撃を阻んでいた時と同様に不自然な変貌を起こし始める。まるでヘビや鞭のようにうねりながら刀身を曲げ、その長さも伸ばしていく。

 

「伸びた!?」

「マジかよ!!」

 

「さ~、君たちに避けられるかな~?」

 

ずっと守りに入っていたシュガーボーイの攻めの時。剣と言うよりも鞭を扱う要領で、長くしなやかになったロッサエスパーダを大きく振る。一つ目の横払いは二人とも避けることが出来たが、伸びた刀身が周囲のアトラクションや床に当たると、アトラクションは支えの部分が柔らかくなって傾き、床も重力がかかっているシエルたちが埋め込まれる程に柔らかくなる。

 

「性能はそのまま…範囲だけが広くなってる…!やばい!!」

 

床に沈みそうになる足、そしてこちらに倒れこんでくるアトラクションを目にして焦りを表情に見せるシエル。横を見てみるとグレイも同様に床に足をとられて埋まりそうになっているのが見えた。このままでは二人とも、柔らかくなった床と固いままのアトラクションに挟まれておしまいだ。

 

乗雲(クラウィド)!!グレイも掴んで!」

 

だがシエルは咄嗟に機転を利かせる。二人の頭上に人や物を載せられる雲をそれぞれ顕現し、その雲に両手を伸ばして掴むと、雲を操作して急上昇。上手く引っ張られて両者の埋まりかけた体が床から抜ける。そしてそれぞれの雲をシエルが操作して、倒れてきたアトラクションを避けた。

 

「あっぶねぇ…!サンキュー助かったぜ、シエル」

 

「その場しのぎでしかないけどね…」

 

グレイが雲から着陸して、周囲を見渡しながらシエルに感謝を告げる。何とか凌いだが、次も同様の攻撃を行ってきた時にはどう対処するべきかまだ見えていない。

 

「おやおや…E-LANDがメチャメチャだね。んーーひどいことするじゃないか、君たち」

 

「「やったのお前だろ!!」」

 

自分で作りだした惨状を目の当たりにし、落ち込むように溜息を吐きながらぼやくシュガーボーイだが、まるでこちら側が壊したと言いたげな言動に、思わず二人のツッコミがハモる。

 

「くそ…懐に入れりゃあんな野郎どうにでも出来るが、そこに行くまで骨が折れそうだな…」

 

遠距離の魔法では剣に阻まれる。虚を突いて物理攻撃を当てようにも彼の剣自身が意思を持っているかのように守ってくる。だとすれば通用するのは、彼が剣を振るう暇も与えない、彼と剣の間に存在する懐。だが、範囲の広い刀身と、彼自身の力量が、それを許してくれるとは考えにくい。

 

「ねえ、グレイ」

 

「あ?何だよ」

 

「グレイはさ…ジャンプと三半規管に、自信ある?」

 

シュガーボーイの攻略法を頭の中で考えていたグレイに、シエルが突如謎の質問を投げてきた。一体何を意味しているのか?それは自分とグレイを脱出させるために呼び出した乗雲(クラウィド)を自分の元に集め出した後の行動で発覚する。

 

気象転纏(スタイルチェンジ)!」

 

そう口にすると、シエルたちの前方の足元に用意してあった雲が突如10個以上に分裂し、別たれた雲たちはそれぞれ自分たちとシュガーボーイを囲むようにしてランダムの位置に配置される。床のみでなく、壁やアトラクションの一部。そして方向も内側に設置された踏み台のような形で。

 

「な、何だこりゃ!?」

「んーー…?」

 

唐突に起きた光景に、グレイもシュガーボーイも動揺を禁じ得ない。この雲が一体何なのか、シエルが何を狙っているのか、よむことが出来なくて理解が追い付かないと言える。

 

「行くぞ!」

 

そして声を張ると共に目の前にある雲に思い切り乗ると、しっかりとした足場になっていたはずの乗雲(クラウィド)は、まるでゴムのような瞬発する柔らかさを持ったようにシエルの足を沈める。そして元に戻る際にシエルの体を跳躍させた。

 

「『雲台跳躍(トランポリン)』!!」

 

飛び跳ねたシエルに驚いた様子の二人をよそに、シエルは飛んだ先にある壁に貼った雲に着陸して再び沈む。そして雲によって再び跳ねて、また別の雲に。それを使って跳ねて更に別の雲へと、次々と飛び移る。

 

「何を…するつもりなんだ…?」

 

味方であるグレイでさえ、シエルの行動が読めない。敵であるシュガーボーイはそれ以上だろう。ジャンプと三半規管。今、縦横無尽に雲を使って飛び回っているのがそれらを必須項目としている。それは分かったが、これによってシュガーボーイを攻略できるのか、と言う疑問が浮かぶ。

 

雷光(ライトニング)…!」

 

「ん!?」

 

無限に続くと思われた雲を使っての跳躍移動。シュガーボーイの後方左の雲に飛び移ろうとした瞬間、右手で雷の魔力を握り潰してその身に纏う。そして跳躍した勢いそのままに一瞬でシュガーボーイに肉薄して彼の左脇腹に右の肘打ちを打ち込んだ。

 

「んぐっふぅ!?」と言う悲鳴を上げながら、シュガーボーイはシエルと共に勢いよくアトラクションの一つへと突っ込んでいき、その影響で轟音を発生させた。

 

「す、すげぇ…!けど、シエルの奴大丈夫か!?一緒になって吹っ飛んでったが…」

 

状況の理解が追い付かないまま敵と共に飛んで行った少年の身を案じ、グレイはすぐさまその方向へと駆け出した。雲を踏むと弾力で跳ねてしまうので、避けるように気を配りながら。そして向かった先には、一部を貫通しながらアトラクションを破壊した跡の途中で、うつ伏せになって倒れているシエルの姿。

 

それを目撃して息を呑んだグレイは彼の名を呼んですぐさま駆け寄る。やはり勢いをつけた自爆特攻に等しい今の攻撃は、彼自身にも大きく負担がかかったのでは?嫌な予感を感じ、すぐさま彼の安否を確認しようと体を抱える。

 

「シエル!おい、シエル!しっかりしやがれ!!」

 

そしてうつ伏せになっていて見えなかった顔を見るために、身体を回してシエルの顔を見れる状態にする。そしてその少年の顔は…。

 

 

 

「はらほらくらら~~…」

 

「動き回って目ぇ回してんじゃねーか!!」

 

青くなっていて、目が回ったのかグルグルの模様がついているように見える状態になっていた。懸念があらぬ方向に裏切られて、思わずグレイは声をあげてツッコんだ。

 

「あ…グレイ…どう、見た…?一撃食らわせた、よ…」

 

「その一撃を食らわせるための代償が妙に重いだろ!!まるっきり自滅してんぞ!」

 

「けどその分…威力はあったでしょ…?それに慣れると…思ったより楽しい、し…うっ…!グレイもやってみなよ…?」

 

「ゼッテーやらねー!!」

 

グレイのツッコミを聞いて彼が追い付いてきていたことに気付いたシエルが、未だに戻らぬ視界にクラクラしながらも、若干弱々しくなっている声でようやくシュガーボーイに確実な一撃を与えることに成功したことを語る。だが、方法を見て、その結果も目撃したグレイはその後に続こうとは思えなかった。全力で遠慮した。

 

「でもまあ…確かに威力はとんでもなかった。あんだけぶっ飛んだならもう動けねぇだろ」

 

極限まで速さと瞬発をあげた上での死角からの攻撃。その結果がアトラクションをも吞み込むほどの規模。魔力が内包されているおかげで耐久力を高められるアースランドの人間ならともかく、全員が魔力を持たないエドラスの人間が受けては、ひとたまりもないだろう。

 

そんな予想をグレイが口にしていると、突如何の前触れもなく、今いる周辺にあちこちから植物の根が突き出て、辺りのアトラクションを縛り上げる様に伸び出した。

 

「今度は何だァ!?」

 

「これって…確かミストルティン…!?」

 

突如として起きた謎の現象を目にして、グレイはまだ自力で動けそうにないシエルを抱えてその場から全速力で避難。視界だけは回復してきたシエルは床を突き破って伸び始めている植物たちの正体に心当たりを見出して反応を示す。兄が操作する神器の一つに、この光景を生み出していたものを思い出しながら。

 

先程まで自分たちがいた部分は根が行き渡っていなかったため、どうにかその場所まで戻ってきたことで無事を確保できた。焦りのあまりに駆け出していた為、グレイは何度も呼吸を繰り返して息を整えている。そして、先程まで自分たちがいた場所…及び周辺付近以外の光景を見渡して、完全に回復したシエルも、落ち着いたグレイも思わず呆然となった。

 

「うわ~、もう元に戻せないなこれ…」

 

「城の中と言い、ここと言い、どんだけ暴れまわるつもりだ、ペルの奴?」

 

見るも無惨な光景にされた遊園地。その光景を引き起こした張本人と思われる兄に対してのグレイの言葉を聞いた時、シエルはここに来る前にしていた兄の話を思い出す。兄が元々エドラスの存在を知っていたこと、エドラスによって大切な少女が消えてしまった可能性が高いこと、そして兄がその仇を討つためにこの世界を滅ぼそうとしていること。

 

改めて考えても、まだ答えは浮かんでこない。目の前の事に集中しよう、と自分に言い聞かせながらシュガーボーイと対峙こそしていたが、落ち着いてその問題に改めて直面するとまだ迷いが晴れない。

 

「けど、ただでさえシエルにぶっ飛ばされた後にこの崩壊だ。あの野郎も無事じゃ済まねぇはず…」

 

崩壊した遊園地に半ば溜息混じりにグレイが呟いていると、奥の方から何かの物音が聞こえた。それは、先程グレイがシエルを見つけた方向と同じ…。

 

「な…!?まさか…!」

 

グレイもシエルも確信した。そして同時に驚愕もした。あれほどの崩壊に巻き込まれたというのに、まさか無事だったというのか…?次々と残骸の山が柔らかく変質しているのを目にしながら、少しずつゆったりと歩いてきているその影を目にして思わず息を呑む。

 

そして、左脇腹を押さえながら、そして響くダメージをこらえながらも、右手に持つ直剣で残骸を柔らかくしながら進んできていたケツアゴ金髪リーゼントの男は、その場に戻ってきた。

 

「んーー…!さっきのはかなり効いたよ…!アースランドの魔導士は、出鱈目なのが多いねぇ…。いや…この場合、君たち兄弟が…と言った方がいいかな…」

 

ダメージ自体は通ったが、倒しきるには至らなかったらしい。鎧にはヒビが入っているから十分効いているはずだ。少なくとも雲台跳躍(トランポリン)を利用した縦横無尽の動きは有効的。

 

「今度は仕留める…!もう一度!!」

 

迷っている場合じゃない。魔戦部隊の隊長を叩いておけば、自ずと魔水晶(ラクリマ)を爆弾代わりに使おうとしている国王の企みを止めることにもつながるはず。まだ設置した場所から消えていない雲にもう一度踏み込もうと駆けだした。

 

「もうその手は使わせないよ」

 

だがシュガーボーイは言うや否や、右手に持つ剣の刀身を再び伸ばし、まずはシエルが向かおうとしていた床にある雲に床ごと剣を当てる。すると必要以上に雲が柔らかくなって、床とほぼ一体の形へと変化してしまう。

 

「あっ!?」

 

シエルがその光景に思わず立ち止まってしまった間に、シュガーボーイは周囲に設置した雲たちにも同様に剣を当てて、さっきと違って使い物にならなくしてしまう。

 

「やべぇ…!一気に逆転された…!」

 

伊達に隊長を務めているわけじゃないという事か。少しばかり傾いた形勢がまたも逆転されてしまった。だが、伸びきっている刀身を見て逆に好機と判断したグレイは、両手を合わせて魔力を練り上げる。

 

氷槌(アイスハンマー)!!」

 

そしてシュガーボーイの頭上に氷のハンマーを出現させて、それで叩きつけようとするが、それを見たシュガーボーイは動じずにすぐさま刀身を戻してそれに対処する。氷のハンマーが溶けて冷たい水滴がかかる中、そこにすかさず追撃を重ねる者がいた。

 

竜巻(トルネード)!!」

 

「ん!?」

 

シュガーボーイの足付近を起点として、シエルが竜巻を発生。溶けかけている氷のハンマーも巻き込んで勢いよく風が辺りに吹きすさぶ。削れた氷と水滴が辺りに飛び散り、一瞬視界がそれに埋め尽くされた。

 

「どうなった…?」

 

徐々に晴れていく氷の竜巻。その中心にいたはずのシュガーボーイは一体どうなったかと言うと…。

 

 

 

 

 

 

 

「あ~~~れ~~~!目が回るぅ~~~!」

 

字面の割にはまだ余裕がありそうな抑揚のない声で、何故か甲冑の胸部分を地につけながらその場でフィギュアスケート選手張りの横回転をしている最中だった。

 

「何でだぁ!?」

「そうはならねぇだろ!!」

 

この光景には思わず敵側のシエルたちも大きく目を剥いて驚愕の声を発する。そうはならんやろ?なっとるやろがい。

 

「んーー、これはこれで楽しめるけど、あまり調子に乗らせるわけにもいかないね…それっ!」

 

そして回転が徐々に収まったかと思いきや、シュガーボーイは一つ気合の声を入れると、何と胸部分の甲冑を床につけた状態で滑走を始めた。

 

「え、うわっ!?」

 

そのままシエルに斬りかかるも、すんでのところでシエルは躱す。続けざまにグレイにも同様にするが、予測していた故か、これも躱される。しかし、目の前の奇行に対して動揺が激しく、中々反撃に移すことが出来ない。

 

「何だよあれ!一体どんな原理で滑ってんだ!?」

 

「まさかあの鎧も魔科学で作られてんのか!?」

 

足から何かを噴射しているわけでも、鎧に車輪がついているわけでもないのに、まるでスノーボードのように床を自由自在に滑走しているシュガーボーイに対して、当然と言うべき疑問が二人から発せられる。二人の周辺を滑走し続けるシュガーボーイは、それに一瞬考える素振りを見せると…。

 

「オレにも分からねぇ!」

 

「そ…そうか…」

「ならしょうがないか…」

 

清々しい程のドヤ顔で言い切ってみせた。どうやらシエルの想定していた魔科学とは一切関係ないらしい。あんまりにもハッキリ言ってしまっているシュガーボーイの様子に、二人はそれ以上聞かなかった。

 

「さっきから振り回されてるな、俺たち…」

 

「調子狂うぜ…いちいち相手にもしてらんねぇってのに…」

 

妙に食えない彼の性格。そして剣自体の厄介な性能のせいで二対一なのに事態の好転が上手くいかない。こちらの想像の斜め上に持っていく彼の行動もその一因だ。彼の動きでも対処できない事態に持っていければ勝機は見えるのだが…。

 

「いや…もしかしたら…」

 

シエルには浮かんでいた。上手くいくかの確証はないが、恐らくシュガーボーイが相当な隠し玉を用意していない限り追い込むことが出来る方法が。

 

「グレイ、しばらくの間、時間を稼げるかな?」

 

「…なんか考えがあんだな?」

 

シエルの急な申し出に、今度は問いの意味を聞くまでもなく確認をするグレイ。それに首肯で答えてみせれば、グレイは笑みを浮かべながら拳と掌を合わせる。

 

「おーっし、任せときな!」

 

そしてシュガーボーイに目を向けて攻撃の態勢を構える。その隙にシエルは、合掌するような形で胸の前に手をかざし、そこに水色の魔法陣を展開して魔力を高めていく。大きく魔力を消費する代わりに天高くにも魔法を作用する際に集中する時と同じような構えだ。

 

「何をする気かは知らないけど、やらせはしないよ」

 

そしてそれを目にし、すぐさま本命がシエルであることを理解したシュガーボーイは、滑走の方向を転換し、シエルへと狙いを定めて急接近しようとする。

 

「こっちのセリフだ!アイスメイク“(フロア)”!!」

 

だが滑走で近づいてきたシュガーボーイの進路を、床を凍らせてグレイが覆う。このまま進めば、滑りやすくなった氷の床を思い通りに進むことは出来なくなる。だが、彼に焦りはない。手に持つ剣がその焦りを払拭してくれるから。

 

「どんなに凍らせたって無駄だよ?このロッサエスパーダ・改なら!!」

 

そうして迫りくる氷を柔らかくしながら強行突破しようとするシュガーボーイ。だが、柔らかくなった氷の上を通った瞬間、彼は違和感を感じた。突如進んでいた方向とは別の角度に傾き始めたのだ。

 

「ん?」

 

「柔らかくても性質は変わらねえ。『氷の床は滑りやすい』って性質はな!!」

 

彼にとっては想定外だったのか、体勢を立て直すこともままならないままそのまま滑ってアトラクションの残骸へと突っ込んでいった。

 

「更にダメ押しだ!氷欠泉(アイスゲイザー)!!」

 

さらにシュガーボーイが滑って行った方向目掛けて両手を叩きつけ、床から間欠泉のように氷を突出させる。それが迫りくる中これまた焦りもしないで剣を伸ばして突き出し、ダメージを通さない。

 

「君も懲りないねぇ…“アイスボーイ”」

 

「変なアダ名付けんじゃねー!!」

 

ちょっとしたコントのようなやり取りもまじえながらも、シュガーボーイは伸ばした剣をシエルへと突き出し、その度にグレイが魔法でシエルに行き渡らないように一瞬のものとは言え防壁を作り出していく。氷自体は柔らかくなってしまうが、一瞬の勢いまでは殺せない。今しばらくの防戦一方ならば、こちらに分があると言う訳だ。

 

「(まだか…シエル…!!)」

 

だが、内包する魔力にも限りがある。連続で魔法を使っているおかげで、グレイ自身に疲労の色が見え始めているのだ。このままでは彼に限界が訪れて、その隙を突かれて二人揃ってやられてしまう。

 

だがそれよりも早く、シュガーボーイはグレイの隙を突いた。

 

「お疲れのようだねアイスボーイ…。そのおかげで…そら!!」

 

鞭のように剣をしならせて、グレイの後ろに渡っていた刀身で彼の背後から叩いてみせると、予想外の方向からの攻撃に、思わずグレイは倒れこむ。

 

「しまった…!!」

 

「残念だったね!これで終わりさ、シエル…いや“ウェザーボーイ”!!」

 

エドラスのシエルとの混合を防ぐために叫んだ妙なアダ名に反応する余裕もなく、グレイを通り越してシュガーボーイの伸ばした刀身がシエルへと襲い掛かる。危険を知らせるために彼の名を叫ぶも間に合わない。

 

 

 

そして伸びた彼の剣が、目を閉じて集中していた様子のシエルの胸を突き刺した。それに対して手応えを感じたシュガーボーイがニヤリと口に弧を描く。しくじった。グレイがシエルをみすみす攻撃させたことに後悔をしていると…。

 

 

 

 

剣を突き刺されたシエルが前触れもなく霧状となって消えた。

 

「そいつは蜃気楼(ミラージュ)。偽物さ」

 

「んなっ!?」

 

そしてそれと同時に、二人の横の方角にある残骸となったアトラクションに乗りながら、幻影同様に魔力を練り上げていた本物のシエルが得意気に笑みを浮かべながら口にした。それを理解した二人の表情は丁寧に逆転。シュガーボーイは自分が騙されていたことに驚愕と絶望を覚え、グレイは心の底から安堵した笑みを浮かべた。

 

「サンキュー、グレイ。おかげで、準備完了だ…!!」

 

すかさずシュガーボーイが伸びた刀身でシエルを斬ろうと動かすも、既に高め終えたその魔力を放出するのみに終わったシエルに、その攻撃が届くことはなかった。

 

吹雪(ブリザード)気象転纏(スタイルチェンジ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白銀ノ闇世界(ホワイトアウト)…!」

 

シエルがその技を告げた瞬間、シュガーボーイは己の目を疑った。瞬く間に広がる吹雪。目の前の光景すら覆い尽くす銀幕。急速に体温を奪われていくのを感じながら、シエルの姿も、グレイの姿も全く見えなくなってしまった。

 

「こ、これは…!」

 

「多少時間が掛っちまったが間に合ってよかった。これでお前はもう、自分から迂闊に攻撃することができなくなったはずだ」

 

視界が全く役に立たない、一面の銀世界を生み出す猛吹雪。あまりの勢いに、油断していると鎧に身を固めた己の体さえ持っていかれそうだ。そんな中、雪の中に紛れている敵の姿を捉え、ロッサエスパーダ・改を伸ばして攻撃を与えるのは至難の業。シエルの狙いはシュガーボーイのリーチの長い攻撃をさせない為。それには彼自身の認識範囲を狭めること。これで迂闊な攻撃をできなくさせたわけだ。

 

「だが読みが甘かったね…遠くじゃなくても、このロッサエスパーダ・改にかかれば…」

 

そう言いながら剣の長さをまた伸ばして振り回し、自分の周辺に降りかかる吹雪に刃を当てていく。すると無数に降ってくる雪が溶かされ、周辺の雪たちが水滴へと変貌する。その様子を見ながら、シュガーボーイは得意気に笑みを浮かべた。

 

「んーー、この通り、吹雪の中だろうと関係…」

 

だがしかし、水滴に変わった雪たちも含めて、際限なく吹き荒れる吹雪がまたもシュガーボーイの周辺を埋め尽くした。一瞬で光景が元に戻ったことで、ドヤ顔していたシュガーボーイの表情はポカンとしたものに変わる。

 

「逆だ。いくらその剣で雪を溶かそうと、この猛吹雪の中では関係ないし、意味がない」

 

吹雪の中を反響するシエルの声を耳にして、ハッと納得も混じえた驚きの表情を浮かべるシュガーボーイ。あらゆる抵抗も意味を為さない猛吹雪を前に、打つ手無しだと思い知らされた。確かに猛吹雪が続いている間は何も出来ない。だが彼は落ち込みこそすれ焦りはしなかった。

 

「けど…この猛吹雪だ。オレも君たちの姿は見えないが…君たちにもオレが今どこにいるのか分からないんじゃないかい?」

 

それは、視界を封じられている条件が互いに同じである事。こちらだけが見えなくて向こうが見えるならまだしも、これ程の規模なら恐らく発動者である自分自身も満足に見えていないはず。

 

「そうなんだよなー。あまりに真っ白だから俺も今どこにいるのか分からなくなってんだよ~」

 

「あれ?なんか軽くない…?」

 

予想通り、だったのだが、何やらそれを感じさせない、さほど問題と感じていない軽い調子で返答が帰ってきたため、シュガーボーイは若干たじろいだ。この余裕は一体どこから生まれるのだろうと。そしてそれは、本人の口から明かされることになった。

 

「俺自身は見えない。だから、俺に出来る事はもう存在しないよ。それは変えようのない事実。でもね…」

 

そう言って一つシエルが区切った直後、シュガーボーイの背後から、音もなく、迷いなく吹雪の中を進み彼に近づいてきた人物が、シュガーボーイの目に唐突に現れた。

 

「アッ…アイスボーイ!?」

 

「ガキの頃からこの程度の吹雪の中で過ごしたオレなら、テメーの場所も手に取るようにわかる…!」

 

不敵な笑みを浮かべながら現れたその人物・グレイは、彼にその姿を現した瞬間、両手を合わせて至近距離から己の魔法を放とうと狙う。そうはさせまいと、彼は刀身を戻した己の剣を振りぬいて返り討ちにしようとするが、その剣の軌跡に入ったのは、身代わりの術のように脱ぎ捨てられた彼が纏っていた上着のみ。

 

この時シュガーボーイが起こした咄嗟の判断は失敗だった。奇襲に対してオートで防いでくれるように設定されたロッサエスパーダ・改を、敢えて隙を作るように振りぬいてしまったことで、グレイに肉薄されてしまった。

 

「(しまった…!間違えた…!!)」

 

そして右手と左肘に、それぞれ氷で出来た刃を装着し、懐に入りこんだ好機を逃すまいと、連続で彼に斬りかかる。咄嗟の判断を誤ってしまった後悔が表情に現れてしまっているシュガーボーイに、もう打つ手はない。

 

「『氷刃・七連舞』!!」

 

「んがぁあああっ!!」

 

流れるように繰り出される氷の刃による七連撃。それは彼が纏った桃色の鎧をも打ち砕き、彼の身体を空中へと放り出す。

 

「あいつの意図はすぐに分かった。味方が誰も動けなくなっちまうような魔法を、意味もなく使う訳がねーからな」

 

役目を終えた氷の刃を解きながら、グレイは堂々とそう告げる。対してシュガーボーイはボロボロになりながらもまだ戦意を失っていないのか、握りしめている剣を使ってうっすらと見えているグレイを狙おうとする。だがその直後、吹き荒れていた吹雪の動きが急激に変化を起こした。

 

先程まで無差別に際限なく吹き荒れていた雪たちが、一か所に集まるように流れ出した。不自然な動きを見せている雪たちに疑問を浮かべながら、シュガーボーイもグレイも思わず雪たちが流れる方向へと目を向けてみる。

 

それを操るのは勿論シエル。そして彼の後方に、一帯を覆い尽くしていた猛吹雪の雪たちが集まりだし、徐々にその形を巨大な球体へと変えていく。突如出来上がっていく巨大な球体に二人とも驚愕を禁じえず、目を見開いてそれを目の当たりにしている。

 

「もういっちょ…気象転纏(スタイルチェンジ)…!!」

 

肘を曲げた状態で両手を頭の近くに持っていく姿勢を保ちながら、無数の雪の集合体を作り上げていくシエル。最初に球体を形作っていたものに、さらに上部に一回りだけ小さいほどの巨大な球体をもう一個作り上げる。とてつもなく巨大だが、その形には非常に見覚えがあった。

 

「『大雪男(スノーマン)!!』」

 

そう名付けられたそれは、とてつもなく巨大な雪だるま。戦いの最中に何故こんなものを作り上げたのか。最初、グレイはその考えが過ったが、シエルが意味もなく行動することは考えにくい。戦いにおいて何かを意味するものがあるはず。

 

「(このデカい雪だるまに、何か秘密があるってことか…!?)」

 

「これで本当に…終わりにしてやる…!」

 

魔力を相当使ったのか、シエルの顔に疲労が見える。だが、手負いとなったシュガーボーイには、あれほどの質量の雪だるまから繰り出される攻撃を避ける自信がない。自慢の剣で柔らかくするとしても限度がある。

 

「や、やめろ…やめるんだ、ウェザーボーイ!!」

 

「行っけぇーーーッ!!」

 

シュガーボーイの制止の声も聞き入れず、シエルの声に従って、巨大雪だるまが動き出す。その大きな巨体を傾けて、シュガーボーイの方へと倒れこんでいく。

 

「あ…ああ……!ああああーーーっ!!?」

 

あまりの恐怖で何も抵抗する素振りさえ見せない彼の叫び声が響く中、その巨大雪だるまは…。

 

 

 

 

「『ただの圧し掛かり(ボディプレス)』!!!」

 

無数の雪の集合体と言う点を生かして、質量に身を任せた圧し掛かり…と言うかただただ巨大な雪だるまをシュガーボーイの真上から押し付けた形に終わった。

 

「何の捻りも工夫もねぇ力押しだったぁーーー!!」

 

あれだけ大がかりな準備をしておきながら、披露した結果はまだかの力押し。予想の範疇をある意味遥かに超えた攻撃方法に、グレイの今日一番のツッコミが入った。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

大量の雪の中に、狙ったのか偶然か顔だけが雪の端っこから無事に出ている状態で身動きが取れなくなったシュガーボーイ。恐らく溶けるまでは全く動くことが出来ないだろう。持っていた剣も近くにあるとは思うが手から離れているようで、せかせかと雪を柔らかくして脱出することも出来ない。

 

「しかしいいのか?こいつ相手に、結構魔力使っちまったんじゃねーのかよ?」

 

「どうだろ…出来るなら温存したかったのは確かだけど、性格と外見に似合わず手強かったし、負けるよりはいいかなって…」

 

シュガーボーイ一人を倒すのに二人がかり。それもシエル自身が大幅に魔力を消費してようやくの勝利だ。何とか下せはしたが、これで王国の作戦が成功してしまったら全て水の泡。何とかそうならない事を祈るしかない。最後の最後に神頼みと言うのも情けないが…。

 

「シエルー!!」

「グレーイ!!」

 

すると、壊れたアトラクションの合間を潜り抜けて駆け付けて来たのか、ナツとルーシィ。そしてペルセウスと、見慣れない犬のような顔をした少女がこちらに駆け寄ってきた。少女は足を怪我しているらしく、ナツがおぶっている。

 

「兄さん!みんな!そっちは無事?」

「何とか全員な」

「ヨユーだよヨユー!」

「何がヨユーだよ。ボロボロじゃねーか」

「ああ!?」

「はいはい、ケンカは後にして後に」

 

ひとまず無事だったことに対して互いに喜び合い、ナツとグレイはいつものようにケンカに発展しかけるも、ルーシィによって止められた。魔戦部隊隊長は二人とも撃破できたらしく、ついでに幕僚長のバイロと言う老人も下したとのことだ。

 

「で、こっちの子は誰だ?」

 

「王国軍の人間だ。が…何やら向こうと揉めたみたいでな。ひとまずは敵じゃない。今はな」

 

犬顔の少女・ココの事が気になったらしいグレイからの問いに、ペルセウスが未だ半信半疑と言った様子で簡単に説明をする。今すぐ敵対の必要がないとはいえ、ペルセウスから見ればまだ油断できない存在のようだ。

 

「(シュガーボーイもやられた…!何て強さなんだろう…!!これが…アースランドの…!!)」

 

そんな少女は、ヒューズ、バイロに続いてアースランドの魔導士に敗れたシュガーボーイを目にし、ただただ驚きを現した。エドラスにおいて魔戦部隊の隊長は世界中の魔導士と比べても上位に君する実力者揃い。それが揃いも揃って敗れていくのは少なからず衝撃だった。

 

「ねえ君…それ、一体何?」

 

「え?あっ…これ…」

 

ナツにおぶられているままのココが、何かの鍵らしきものを持っているのを見たシエルが、気になったのか尋ねてみると、少しばかり答え辛そうな表情を一瞬みせた後、決心したようにシエルの方を見て答えた。

 

「これは…あなたたちの仲間が死んじゃう装置の鍵…!」

 

「何だそりゃ…!?」

「それって…魔水晶(ラクリマ)をエクスタリアにぶつける為の…!?」

「あ!あいつが言ってた鍵って、こっちかー」

 

ココの告げた鍵の正体に、声に出したナツたちを含めて、全員が驚愕を露わにした。ウェンディが説明をしていた、マグノリアにいた人たちから変えた魔水晶(ラクリマ)を滅竜魔法を使って加速させ、エクスタリアにぶつける為の装置。その起動の鍵が、今ココが持っているものだそうだ。

 

「成程。だからあのじーさんが血眼になって取り返そうとしたわけか…。偽物と言う線もなさそうだ」

 

「つまり、この鍵を壊せば、魔水晶(ラクリマ)使った攻撃も止められるんだな?」

 

一瞬何故彼女がその鍵を持っているのか、その鍵が本物なのか疑いはしたが、少し前に対峙したバイロが、必死になって鍵を取り返そうと躍起になっていたのを思い出し、彼の様子から、彼女がどうやって手にしたかまでは不明だが本物の可能性が高いと踏む。そして続くように、グレイもこの鍵がどのようなものであるか理解したようだ。

 

「いいの?俺たち、仲間を助けられればそれでいいけど、これって裏切りに…」

 

エドラス王国が全てを賭してでも手に入れようとしている永遠の魔力。それを手にするための作戦を台無しにしようとしていることに、敵側でありながらシエルは問いかける。自国の未来を捨てる選択をした彼女に躊躇いはないのか。だが、彼の言葉に「いいの!」と被せるように、迷いを振り切るように叫んだことで、シエルは言葉を途切れさせる。

 

「私は永遠の魔力より…みんなと仲良く暮らしたいよう…!」

 

魔力溢れる理想の世界を捨ててでも、今失われようとしている友を助けたい。魔力が満ちていることが幸せじゃなく、一人や二人でも、心から信頼できる…大好きな人と一緒に過ごせる世界こそが、本当の意味で幸せな世界。涙を目元に溜めて、それに気付けた少女は告げた。そして懇願する。国を裏切ってでも、歩みたい未来のために。

 

「だから…この鍵、壊して…!お願いします…!!」

 

涙が零れ落ち、懇願する様子のココの姿に、思わず言葉を詰まらせてしまうアースランドの魔導士たち。その硬直から最初に抜け出したのは、恐らく彼女と一番年が近い少年のシエル。

 

「よかった。エドラスにも…王国にも…君みたいに、本当に大事な事に気付いて、こうして動ける人がいて」

 

王国に仕える者たちは、全員が全員、自分たちが豊かに暮らせるなら他者の命など度外視している者たちばかりと思っていた。だが、目の前にいる涙する少女は違う。最初こそ永遠の魔力を理想的と感じただろう。だが、その為に友が失われることを知った時、長く葛藤しながらも彼女は友を選んだ。

 

エドラスから見れば紛れもない裏切りだろう。だが、仲間を何より慮る自分たちにとって、彼女のこの決断は自分の事のように喜ばしいことだ。そしてそんな彼女が、結果的にだが自分たちの仲間を助ける手伝いをしてくれている。

 

「凄く嬉しいよ。本当にありがとう」

 

純粋な満面の笑顔を向けながら感謝の言葉をココに向ける。涙を流していたココは目を見張り、目元に浮かべていた涙も止まる。思ってもみなかった言葉を聞いて、彼女は大きな衝撃を受けた。

 

今、ココの目には、シエルの笑顔がとても輝いて見えていた。

 

「ナツ、鍵を壊すの、任せてもいい?」

 

「おーし!任されたぞ!」

 

ココを一旦背中から降ろして彼女から鍵を受け取ると、それを壊そうとナツが拳に炎を灯し始める。これでひとまずは、魔水晶(ラクリマ)のみんなに迫る危機から遠ざけることが出来るはず。

 

「ま、待て…!ダメじゃないか、ココ…!そんな大事なものを…敵に渡しちゃ…!」

 

「シュガー…ボーイ…!」

「こいつ目ぇ覚ましたのか!?」

 

その時、雪に埋もれたままになっているシュガーボーイが目を覚まし、鍵をナツに渡したココに、かすれた声でそう声をかける。だが、今更彼が何を言おうと、誰も鍵の破壊を止めることは出来ない。

 

「気にすることないよ。ナツ」

 

「おお!」

 

仲間たちの誰もが鍵を必要としない為にナツは遠慮なく鍵を壊そうとその拳を撃ちつける。だが、一発で壊れると思っていたのに鍵はビクともしていない様子だ。

 

「あれ?」

 

「ふ、ふふふ…!だが残念だったね…その鍵は、ちょっとやそっとで壊れるような代物じゃ…!」

 

思わず疑問の反応をあげるナツに、首だけ出しているシュガーボーイが不敵に笑いながら説明を告げる。どうやら相当強度の高いものなのだろう。思ってもみなかった障害にナツは顔をしかめると…。

 

「おらおらおらおら!!」

 

「人の話聞きなよ、ホットボーイ!?」

 

シュガーボーイの説明の途中に連続で右の拳を鍵に撃ちつけていく。ココもポカンとした顔で眺めているが、仲間はみんな気にした様子はない。だってこれがナツの平常運転だから。

 

だが何度も殴り続けていくうちに、竜の紋章が象られた持ち手の部分に、僅かだがヒビが入った。

 

「お?」

「ヒビが!」

「壊せそうだな」

 

「んなぁーっ!!?」

 

かなりの強度があったはずの鍵が壊されそうになっている。その事実を目の当たりにして、アースランド側には笑顔が、シュガーボーイには驚愕と焦燥が浮かび始める。

 

「ナツ、その調子よ!」

「さっさと壊しちまえ」

「わーってるって!よーし!」

 

「ウワァー!!待て待て!待つんだ!壊しちゃいかーん!!」

 

順調に破壊できそうな雰囲気に盛り上がるナツたちだが、要所要所で叫び声を挟んでくるシュガーボーイに、無視してしまえば済む話だが、いい加減鬱陶しく感じてきたナツたちは顔をぶすっとしながら文句を告げた。

 

「何だようっせーな」

「今更何言ったって、あんた、何が出来んの?」

「こっちは仲間の命がかかってんだ。もうぶっ壊すのは決まってんだよ」

 

「いいから待て!そして話を聞け!その鍵は君たちにとっても必要なものなんだ!!」

 

必死になって止めようとする姿に最早呆れ果てかけていたが、最後に叫んだ言葉に全員が疑問を向けた。

 

「それ、どういう事?」

 

「と、とにかくまずはその炎をしまうんだ、ホットボーイ!!」

 

「質問してるのは俺だ!一分で説明しろ、でないと鍵を壊すぞ!」

 

「ぐっ…わ、分かった…!!」

 

その中でシエルが真っ先に尋ね、ナツの炎を消そうとしている彼の頼みを遠回しに却下することですぐさま催促する。鍵を盾に取られて口ごもるシュガーボーイだったが、壊されるわけにはいかないとその催促に応えた。

 

竜鎖砲―――。

ナツたちから取った滅竜魔法を濃縮して撃ちだす魔法であり、魔水晶(ラクリマ)の土台に打ち込み、エクスタリアにぶつけることも出来るが、滅竜魔法を濃縮したこの魔法を魔水晶(ラクリマ)自体に撃ち込めばどうなるか。それは今存在しているグレイとエルザが物語っている。

 

グレイとエルザが変えられていた魔水晶(ラクリマ)にガジルが滅竜魔法をぶつけることで、二人は元に戻った。同じ滅竜魔法が込められた弾で魔水晶(ラクリマ)を撃てば、当然その魔水晶(ラクリマ)に変えられた人たちは元に戻る。つまり、魔導士たちも市民も助けられる。

 

「んなモン無くても、オレが元に戻せるっつーの!!」

 

「いざとなったらウェンディもいる!」

 

「ついでにガジルもな」

 

何故かナツが怒りながら、そして何故かシエルが鼻を鳴らしながらそれぞれ自信満々と言った様子で宣言する中、忘れられているような気がしてペルセウスが補足を挟む。三人も滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)がいるなら、確かに竜鎖砲を使わずとも元に戻せるから不要だろう。

 

「何日かかるか知らねえだろ…?」

 

だが、シュガーボーイはニヤリと口元を歪めて告げる。明日になれば魔水晶(ラクリマ)の魔力化が始まり、エドラスの魔力となって空気に流れる。王国の作戦は、そうなる前にエクスタリアにぶつけること。三人もいれば確かに何人かは助かるだろう。

 

「だが全員は助からない!全員を助けたければ、君たちはこの鍵を壊してはいけない!!」

 

ここで妖精の尻尾(フェアリーテイル)は究極の選択を強いられることになった。全滅の可能性もあるが、仲間を全員助けられる可能性もある道と、確実に何割かを助けて、残った方を見捨てる道。しばし迷うような素振りを見せる一同であったが、彼の話を聞いて全員が方向性を固めた。

 

「ナツ、壊すのは一旦中止だ!みんなを助けられなくなる!」

 

「わ、分かった!」

 

全員を助ける為の賭け。それを決めて反対するものは誰もいない。シエルがすかさず鍵の破壊を中断するようナツに告げ、ナツ自身も落として壊さないようにしっかり両手で鍵を抱えた。

 

 

 

 

 

右手の炎を出したままで。

 

「「手の炎は消せーっ!!」」

 

思わずシエルに加わってルーシィもその行動にツッコミを入れる。ただでさえ炙ったりしたらヒビに作用したり変形したりする可能性があるのに何やってるんだと。

 

「壊しちゃいけないのよ!?なに壊そうとしてんのよアンタ!話聞いてた!?」

 

「だから壊さねぇように持ってんだろーが!」

 

「だったら炎を消せって!そんな手で持って劣化でもしたら装置が起動しなく…!」

 

まるで話を理解しているのか疑わしい様子のナツを責め立てながら手の炎を消すように迫る一同。ペルセウスまで焦りを見せて止めようと加わってるほどだ。ナツは少し焦りながらも周りの言う通りに左手に灯していた炎を解くとともに…

 

 

 

 

 

 

つい力が緩んで鍵から手を放してしまった。

 

「あ」

『え?』

 

その瞬間は…周りにはスローに映っていた。目の前の光景が信じられなくて、ほぼ全員が固まってしまっている。誰も咄嗟に動くことが出来なくて、重力に従って床へと吸い寄せられていく鍵を見ていることしかできない。そして…。

 

 

 

 

 

床に接触すると同時に、金属の破裂する音を響かせるとともに、鍵は木っ端微塵に砕け散った。

 

 

『ああああーーーっ!!!』

「鍵ーーーー!!!」

 

ほぼ全員の絶望の叫びと、信じられないといった様相のナツの叫びが辺りに響き渡る。やりやがった。絶対にやってはいけない事をやりやがった、こいつ。

 

「何つーことしてくれてんだナツゥ!!」

 

「これでみんな助けられなくなったらどーすんのよぉ!!」

 

「わざとじゃねーよ!さっきまで壊さなきゃいけなかったもんを急に壊しちゃいけねえって言われたら混乱するだろーが!!」

 

「そんな言い訳が通用するような状況だと思ってんのか!?いくらお前が日頃からバカとは言え、ここまでのバカだとはさすがに思わなかったぞ!!」

 

続々とナツを非難して責め立てる仲間たち。相当な怒りが伝わってくるものの、ナツ本人にとっても不服としか言いようがない物言いをしてくる為に、さすがに我慢できなくなっていた。

 

「オレばっかのせいにすんじゃねーよ!そもそもシエルが最初に鍵壊せって言ったから壊そうとしたんじゃねーか!!」

 

「一旦中止とも言っただろーが!責任転嫁すんなァ!!」

「ぐぼぉ!?」

 

怒りのあまりにシエルにも責任を負わせようとしたが、擦り付けられた本人から左頬に右ストレートを喰らう。

 

「アンタがいつもいつも気を付けないから大事な時にも余計な苦労がかかるんでしょーが!!」

「ごへぇ!?」

 

お次にルーシィから背中に飛び蹴りを食らわされる。いつも振り回されてる鬱憤晴らしも兼ねているのだろう。

 

「こーなったら責任もってみんなを戻せ!徹夜で戻せ!魔力が枯れ果てても全員戻るまで続けるんだぁ!!」

「がぁあぁあっ!!?」

 

更にはペルセウスから腕をガッチリ固められて肘や肩を極められるアームロックを食らわされる。肉体的にも精神的にも仲間からフルボッコにされてさすがにナツが可哀想に見えてきた。それ以上はいけない。

 

「ば、バカー!」

「何でだっ!?」

 

そして今の今までただ慌てているばかりだったココからにまで、脳天に両手のチョップを受ける羽目に。特に怒っているように見えない為、多分空気の流れで取った行動なのだろう。性格に似合わぬノリの良さが見えた気がした。

 

「し、信じらんねぇ…!ハッタリなんかじゃなかったんだぞ!?何やってるんだホットボーイ!!」

 

そして仲間内のみならず、一番絶望しているであろうシュガーボーイからも非難の声が上がる。色々な意味でフルボッコにされたところに言われたことで、ナツの表情に更なる怒りが乗りかかった。

 

「ああ!?そもそもテメエが早くみんなを元に戻せるって言わなかったからこーなったんだろーが、ケツアゴ野郎ー!!リーゼント燃やすぞコラァ!!」

 

「んががががが!!や、やめろぉ!髪は…自慢の髪だけはやめてくれぇ…!!」

 

両手で彼にリーゼントを掴みながら前後に振り回し、怒りのままに叫ぶナツ。大事な髪型を失いそうになった恐怖からか先程よりも弱々しさを感じる声でシュガーボーイは懇願した。

 

この場で口論しても仕方がないが、みんなを助けられそうだった方法を一つ失ってしまったことで全員の空気が重くなってしまっている。どうしよう…。そんな心の声が一つになりかけた時、この場で唯一怒りも取り乱しもしなかった人物が声をあげた。

 

「落ち着けよお前ら。まだみんなを助けることは出来るぜ」

 

それは、本来であれば一番この場のナツに文句を言うはずであるグレイだった。そう言えば妙に落ち着いている。何か理由があるのだろうか?そんな気持ちで仲間たちが顔を向けると、両手を合わせたグレイが氷であるものを作り上げた。

 

「忘れたのか?オレは氷の造形魔導士だぜ。何でも作れる」

 

それは、先程砕けてしまったものとまるっきり同じ鍵。氷で作られたものではあるが、形自体は完全に一致している、竜鎖砲の鍵だった。

 

『おおーーーっ!!』

 

絶望気味だった空気は一変。喜色満面の表情を浮かべるアースランドの魔導士たちの歓声が響き、鍵の所有権が本当の意味で敵側に移ったことを悟ったシュガーボーイは、自国の大失態を目に焼き写した後、敗北感を味わったまま白目を剥いて気絶した。




おまけ風次回予告

ルーシィ「敵の幹部みたいな奴等も三人倒したし、みんなをすぐに戻せる方法も見つかったし、いい感じじゃない?」

シエル「けど、肝心の兵器がどこにあるのか、あと警備体制とか、細かい問題は残ったまま。その辺をどうにかしないとぬか喜びになっちゃう」

ルーシィ「あ、それもそうね…。空の上にある魔水晶(ラクリマ)を狙う訳だから、空を飛ぶ手段も必要だし」

シエル「俺の乗雲(クラウィド)を使えば、みんなを乗せて飛ぶことは出来るけど…」

次回『終焉の竜鎖砲』

ルーシィ「ナツが顔を青ざめて首を横に振りまくってるんだけど」

シエル「…今回ナツのせいで危うく救出失敗になりかけたし、罰ぐらい受けてもらおうか」

ルーシィ「そうよね。まだ生温いけどそうしましょ」
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