FAIRY TAIL ~天に愛されし魔導士~   作:屋田光一

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ちょっと危なかったけど間に合いました!!
ワンシーン程カットしてますが、それは次回に移します。←

そしてこの更新で、小説書き始めてから二年が経ちました。あっという間!!まだエドラス編なのがビックリ!!来年天狼島終わってないかもしれない!!←

取り敢えず一話一話を長く書くように努めて…第100話あたりでエドラス編が終わるのが、目標であり理想、ですかね…。


第93話 終焉の竜鎖砲

「バイロ様、ココ様両名の姿がモニターに映りません!」

「通達した部隊との通信、繋がりません!全滅した可能性が…!」

「E-LAND内のモニターの復旧不可能!やはり映像魔水晶(ラクリマ)が破壊されたかと!」

「入り口前のモニターのみ復旧しましたが、ほぼ真っ白で何も映っておりません!」

 

魔科学研が在する研究室内で、次々と巻き起こる映像のトラブル。魔水晶(ラクリマ)が破壊されたらしく一切その映像を映さなくなってしまったものや、白い何かに覆われて全く様子が映らないもの、映っていても探している鍵を所有している者たちが一向に映らなかったりと、どれも空振り続きだ。

 

「破壊される前の映像記録に映っていたこのツル…E-LANDごと映像魔水晶(ラクリマ)を壊したのか、兄貴、いや…ペルセウス…!!」

 

周りの研究員が混乱して対処しきれない中、残されている情報すべてに目を通して今の状況を打破しようと頭を巡らせるのは、魔科学研の部長の座についているエドシエル。だが、そんな彼をもってしても、現状で判明できているのは記録されていた映像が途切れる直前に映った、不自然に動く植物のツル。

 

そのツルを操作していたと思われる、異世界における己の兄にあたる人物の姿が頭に過り、彼の表情は更に険しいものに変わる。普段どんな時も感情を荒げたりはしないはずの彼がこれほどまで苛立ちを見せているのも珍しく、近くにいる研究員たちは、エドシエルが相当頭にきていることを察知して恐々としてる。

 

「(コードETDを実施するには竜鎖砲は必要不可欠。それを起動するためには専用の鍵が無ければ不可能…だと言うのに、何をしているのか理解できていないのか…ココの奴…!!)」

 

周りを恐々とさせる程に彼が不機嫌を現している理由は至極単純。エドラス王国の悲願とも言うべき永遠の魔力を手にするための一手を、アースランド側のものではなく、味方であるはずのココが奪い取って逃走を続けていること。裏切りにも等しい行為を何故行えるかが理解できない。

 

「このままでは埒が明かん…。E-LAND周辺以外の映像にココの姿は?」

 

「見当たりません…!」

 

「と言う事はE-LAND内で潜んでいる可能性が高いな。アースランドの者共も含めて…。鍵を壊されるという最悪の事態が起きていないといいが…」

 

これまでの苦労をすべて無に帰させる結果だけは避けたいところ。一番いる可能性の高い遊園地の区画へ自ら向かおうと立ち上がる。ここを見つけ出し、鍵を絶対に取り戻さねば。

 

「あ!シエル部長!こちらのモニターを!」

 

「ココが見つかったか!?」

 

「いえ、ココさんではなく…!!」

 

研究員の一人が確認していたモニターの一つをエドシエルに指し示すと、そこに映っていた場所と人物たちを見て、思わず彼は目を見開いた。

 

「あいつ…!」

 

純粋な驚愕を現した表情。そこに映っていたのは…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

時は少し遡り…竜鎖砲の鍵をグレイの魔法で再現することで、使用権を完全に手にした喜びもそのまま、シエルたちは魔水晶(ラクリマ)にされた仲間たちを助けようと動き出そうとしていた。

 

「よっしゃあ!そんじゃ鍵使ってみんなを元に戻すぞー!!」

 

グレイが鍵を作れるという事で奪われる心配もなくなったことを理解したナツが、戦闘だって仲間を助けようと駆けだした。しかし…。

 

「ちょっと待ちなよ」

「ぐぅえっ!?何で止めんだよっ!?」

 

そんなナツを彼が常に身につけている白い鱗柄のマフラーを引っ張ることで止めたのはシエル。早いところ仲間を助けないといけないのに出鼻を挫かれたことで疑問を叫ぶ。

 

「その鍵で動く装置…竜鎖砲だったっけ?の場所…分かるの?」

 

それに答えたシエルの問いに思わず目を更に開けて「あ」と言葉を零すナツ。やっぱり。大事な事を考えもしないで勢いで突っ走ろうとしてたらしい。

 

「そう言えば…肝心の装置の場所が分からないままだったわね…」

 

「まあ、それに関しちゃ知ってそうな奴がこの場にいるが…」

 

よくよく考えれば、竜鎖砲がある場所はナツだけでなく、シエルたちアースランドの魔導士全員が存ぜぬ情報である。鍵を手にすることは出来ても場所が分からなければ使うことは出来ない。だが、幸運にも今こちらには、協力的になってくれた、王国軍だった少女・ココと言う存在がいる。

 

「えっと…あの鍵を取っちゃってから、私、ずっとまっすぐ走ってたよう。その後にお姫様とぶつかっちゃったから、多分そこに戻って真っすぐ行けば着くと思う」

 

「あ、あそこね!」

「「(お姫様…?)」」

 

そしてココからは期待通りの情報がもたらされる。初邂逅の際にルーシィと曲がり角でぶつかってしまった場所。そこに一度戻り、ココが来た方向へと向かえば竜鎖砲がある場所に辿り着くと言う事になる。

 

何やら気になる単語でルーシィを呼んだココについて、シエルとグレイが首を傾げたのは別の話。

 

「よーし、分かったぞ!じゃあ早速…!!」

「まだ待てよ」

「ぐえっ!?」

 

場所が分かったことで迷うことがなくなったナツが再び駆け出そうとするが、再びシエルがマフラーを引っ張って止めた。今度はなんだ。

 

「多分だけど、竜鎖砲の前は警備の兵士が多数いる。今の俺たちなら全員蹴散らせるかもしれないけど、正面突破はリスクも大きすぎる」

 

「何でだよ。全部ぶっ飛ばせばいいだろ?」

 

竜鎖砲は向こうの作戦の要。決して失ってはいけない装置である以上、それを守る警備の数も今まで以上だろう。今の自分たちの戦力ならそれを突破できる自信はあるが、それとは別にリスクも大きい。それは…。

 

「竜鎖砲ごとぶっ飛ばされたら本末転倒だからだよ」

 

『それは確かに』

 

「何でこっち見て言うんだ!!」

 

目の前にいる破壊の化身(ナツ)が勢い余ってその竜鎖砲も壊しかねない可能性が少なからずあるからである。鍵を壊した前科があるから尚更だ。

 

「その事なんだけど…竜鎖砲がある部屋の扉は『対魔専用魔水晶(ウィザードキャンセラー)』で出来てるから、魔法による突破は無理だと思うよう…」

 

対魔専用魔水晶(ウィザードキャンセラー)?」

「何だそりゃ?」

 

すると向こう側に詳しいココから別の情報が告げられる。『対魔専用魔水晶(ウィザードキャンセラー)』と言うのは外部からの魔法を全部無効化させる魔水晶(ラクリマ)のことであり、どんな強力な魔法も阻む性質を持っている為、魔法による力押しは通用しないのだそうだ。

 

「そんなのやってみなきゃ分かんねえだろ?」

 

「やってみてダメだったらどうすんのよ…」

 

「ナツ、もうお前シエルからの指示が出るまで動くな、おすわりしとけ」

 

「オレは犬かっつーの!!」

 

あまり話を理解していないナツが、相変わらず力押しで通ろうと考えている為、ペルセウスからまるで犬扱いのような言われようをされていることに憤慨ことに。そしてシエルはと言うと、どうすればその部屋に入れるのか考えてはいるが、魔法が通じないとなると良い案はあまり浮かばない。

 

ココが開けるように頼み込む…と言うのは、彼女が既に王国に反旗を翻したことが周知されているだろうから効果はない。魔法の余波のみを利用して強行…どの範囲までが魔法としてカウントされるかも不明の為却下。兵士をおびき寄せてその隙に侵入…も、扉を開ける方法が分からなければ結局徒労だ。色仕掛け…は多分失敗する。

 

「魔法が関係しない兵器とか生き物で扉を破壊…いや、そもそもそんなものないか…」

 

「生き物…あ!!」

 

次々と口に出しては切り捨てていたシエルが最後に呟いた項目を聞いて、ココが何かを思いついたように声をあげた。それにはシエルだけでなく、他の面々もココの方へと視線を映して注目する。

 

「だったらレギオンがいるよう!凄く体も大きくて力も強いから、扉も壁も壊せると思う!!」

 

「レギオン…?」

 

ココが提示したのは、レギオンと言う生き物を活かすと言うもの。レギオンとは、王国軍が主に空中移動の為に飼育、指導を行っている巨大な生物の事であり、王国軍の隊長や、レギオンの指導を行っている部隊などが搭乗する許可を持っている。各人に一体ずつあてがわれていて、育成の仕方にもよるが、基本主人と定めた者の指示は絶対に聞くのだと言う。

 

「もしかしてそれ、エルザ…ナイトウォーカーにもいるの?」

 

「うん!」

 

彼女の話を聞いてシエルにはレギオンについて心当たりがあった。ナイトウォーカー…エドラスのエルザが、エドラスに存在する妖精の尻尾(フェアリーテイル)に襲撃してきた時に窓の外から見えた、彼女が乗っていた巨大な生物。あれがレギオンと言う生き物だと。

 

「成程あいつか…確かにあの大きさなら、扉よりも壁を壊した方が早いかも!」

 

「お、行けそうなのか?」

 

「多分ね!」

 

光明が見えだしたような口ぶりを見せるシエルを見て、グレイがそれを察した。レギオンの力を借りることによって竜鎖砲の部屋内に突撃する。この際コソコソと動いても意味がないだろう。だが問題は、主人の指示には忠実だが、それ以外からの指示を聞いてくれるかどうか。ルーシィが不安気に呟いていると、それを拾ったココが笑顔を浮かべながら言い放った。

 

「大丈夫!私も自分のレギオンがいるから、その子にお願いするよう!」

 

「結構、上の立場にいたんだな…」

 

一般の兵士にはあてがわれないであろうレギオンを、ココもまた育てているらしい。彼らは知らなかったが、彼女は幼くして幕僚長補佐についた人物。魔戦部隊長や魔科学研部長には及ばないが、それなりに地位は高い。

 

「おし!じゃあそのレギオンってとこに…!」

 

取り敢えずレギオンを手に出来れば仲間を助けられる、と言う結論に至ったナツはそのまま駆けだ…そうとしてピタリと止まってシエルの方へと振り返る。その目に映っていたのは三度(みたび)彼のマフラーを掴んで止めようと手をさし伸ばしかけた状態で静止しているシエルの姿。

 

「お、さすがに学習したみたいだね」

 

「そりゃ何度も引っ張られりゃあな…。今度はなんだよ…?」

 

これまで二度にわたって走りだそうとしたらマフラーを引かれて止められたナツ。勝手に走り去ろうとした時に止められて首が締まる経験を何回もしてしまえば、さすがに懲りて立ち止まることを覚えたようだ。

 

「ここから二手に分かれようと思う」

 

唐突にシエルから提案された内容に、場にいる全員が首を傾げた。ここでどうして二手に分かれる必要があるのか。ココのレギオンを連れて、竜鎖砲の部屋に全員で特攻を仕掛けた方が確実なのではないかと思う者もいるが、あくまでシエルがこの行動を提案したのは万が一を考慮しての事だ。

 

確実に味方に出来るレギオンは一体のみ。もし仮に竜鎖砲の部屋の前にも別のレギオンが座していたら…?他の強力な魔法でレギオンさえも落とされてしまったら?レギオンがいると思われる空間に、別の兵士たちが警備していたら?

 

そんな万が一の際に一々後手に回ってしまってはハッキリ言って手間だ。そこでシエルが考えたのが…。

 

「ココをメンバーに入れたレギオンの確保をする班と、なるべく竜鎖砲の部屋の近場で遊撃する陽動班。陽動班に気をとられている内にココたちがレギオンを連れて竜鎖砲の部屋に突撃。その際に残りも部屋に入って、グレイが鍵を作り、竜鎖砲で仲間を助ける。取り敢えず簡単に作戦を挙げるとこんな感じかな」

 

「お、おお…?つまりどーすりゃ良いんだ…?」

 

「てめえの場合は、そのへんで暴れて、部屋の壁壊したらそこに行けってことだよ」

 

「おおっ!成程、簡単じゃねーか!!」

 

簡単に立てたシエルの作戦に全く理解が追い付かなくて顔をしかめていたナツ。代わりにグレイがナツにも分かりやすいように説明を代弁して伝えたところ、ようやく理解してくれた。自然な流れでナツを陽動班前提としたようにも聞こえるが、どのみちその方が適役なので誰も反論しない。

 

「グレイも陽動班をお願いできる?」

 

「鍵の係オレなんだが…遊撃でいいのか?」

 

「だからこそだよ。レギオンで突撃してきたメンバーに何かあると思わせて、その裏を突く。その代わり、部屋から一番近い場所で暴れててほしい」

 

「成程な。任せろ」

 

自動的に陽動班に組み込まれたナツに次ぎ、相手側の裏をかくという目的でグレイも陽動班に。鍵を作れるグレイがレギオンと共にはいらなくてよかったのかと言う疑問は、その思惑があったために納得へと変わった。

 

「で、あとは…どっちでもいいんだけど…」

 

「俺がレギオンの方に行こう」

 

残るはシエルたち兄弟とルーシィ。この3人に関してはどちらでも問題はないと思うが、数時間前まで王城内を暴れていたペルセウスは、意外にもレギオンの確保班に志願した。

 

「俺が暴れると、兵士を引き付けるどころか離れさせて、変わりにエドラス(こっち)のシエルが止めに入ってくる。そうなると思うように動けない」

 

「こっちのシエルってそんなに厄介なのか?」

 

「俺が()()()を無遠慮に傷つけられると思ってるのか…!?」

 

「それが理由かよ!!」

 

そしてその理由はエドシエルだった。倒されはしないが、どうしても己の弟に顔が重なってしまって思うように戦えない。そんな彼をおびき寄せてしまう事を考えると陽動班では足を引っ張ってしまうと言うのが彼の主張だ。まさかの理由にグレイが声をあげてツッコんだ。

 

「ココはそれでもいい?」

 

「うん、大丈夫だよう!」

 

その一方でペルセウスに一度は剣を向けられたことで、ココに彼に対する苦手意識がある事を懸念したルーシィから心配の声をかけられる。だが、意外にもここの表情からはペルセウスに対する恐怖はほぼ無くなっていた。一安心だが、なんだか不思議だとルーシィは思った。

 

 

 

最後に陽動班にはシエル、レギオン確保班にはルーシィが入り、二つの班でそれぞれ向かう事に。ココの先導でルーシィとペルセウスが向かい、シエルたち3人も、ナツが記憶を辿ってココと最初に会った場所へと駆け出していく。

 

「確か…お、ここだ。で、確か向こうから来て、ルーシィとぶつかったんだ」

 

「じゃあこの先が…」

 

覚えていられているか不安だったがひとまず大丈夫そうだ。ナツが指さした廊下の方向に竜鎖砲が設置されている部屋が存在していることになる。

 

「よし。じゃあ道すがらで王国兵を見かけたら、各自で暴れ始めよう」

 

「よーっし!燃えてきたぞ!」

「派手にやりゃ、いいんだな?」

 

少しでもココたちのレギオン確保がスムーズにいくように、各々魔力を高めて臨戦態勢に入る。一人王国兵を見つけて大技を放てばすぐさま別のところからも集まってくるだろう。混乱している状況であれば向こうも余裕はなくなるはず。3人は竜鎖砲があると思われる先を目指して通路を駆けだして…

 

 

 

 

 

行こうとしたところを、前方に鎧のこすれる音を立てながらこちらに歩いてくる人物の姿が見えた。

 

「こんな所にいたのか…」

 

疲労からか呼吸を合間に入れながら、その言葉をこちらにかけてきたのは、緋色の長い髪を持った女性エルザだ。だがその服装は、大胆な黒いビキニアーマー。エドラスのエルザが纏っていたものだ。

 

「っ!?エドラスの…エルザ!?」

「まさか……!!」

 

彼女は確か、自分たちの仲間の方である、アースランドのエルザと対峙していたはず。それがここにいて、自分たちを恐らくは探していた。と言う事は…

 

「オレたちのエルザが…負けたのか…!?」

 

信じがたい事実を証明する存在を前に、愕然としていたナツ。そんな彼が言葉を零した直後、彼はエルザによって吹き飛ばされた…。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

「着いたよう!お姫様、お兄さん!」

 

「こいつが…」

 

「お、思ってたより…!」

 

一方、レギオンの確保のために別行動をとっていたペルセウスたちは、ココの案内に導かれて、軍が所有しているレギオンの待機場所へと辿り着いた。作戦が上手くいっているのかは定かではないが、ここに来るまでにほとんどの王国兵とは遭遇しなかった。

 

何人かとは偶然出くわしたものの、ペルセウスによって一瞬で無力化されたため、ほぼ被害はなしと言っていい。そして、目前に広がる、背中に一対の翼を持った巨大な生き物たちを目の当たりにして、想像以上の体躯を持ったレギオンたちにルーシィが委縮している。

 

「こんな大きな生き物を飼ってるって…本当なのかしら、王国軍…!!」

 

「じゃなかったらここにこんな数いないだろうな…」

 

どうにも信じがたいと言った反応を示すルーシィに対して、ペルセウスは特に動じた様子もなく先に進んでいくココの後をついて行く。「こっちでーす!」と走って先導する彼女の後をルーシィも追いかけると、一体のレギオンの前で立ち止まり、振り返ってルーシィたちに説明した。

 

「この子が、私が担当しているレギオンです!」

 

ココの声で反応を示し、一声鳴いてその紹介に応えるココのレギオン。正直他の個体とあまり区別はつかないのだが、長年担当しているからこその違いが分かるのだろう。迷いなくその位置に来る辺り、信頼関係もあるように見える。

 

「『レギピョン』!私、この人たちの力になってあげたいの!陛下や、他のみんなを裏切っちゃうことになるけど…私、どうしてもリリーを…この人たちを助けたい!だからお願い!力を貸して!!」

 

主人と言える少女が涙を浮かべながらも訴えた己の心情。それを聞いていた彼女のレギオン…個体名『レギピョン』は、一瞬何も反応を示さなかったものの、まるでその願いを聞き入れたかのように力強く鳴き声を上げる。その答えも彼女に伝わったのか「ありがとう!」と笑顔を浮かべて感謝の言葉をココは告げる。彼女が言ってるのだから、協力してくれると認識してもいいようだ。

 

「上手くいったの?」

 

「うん!手伝ってくれるって!」

 

ココに念の為尋ねてみれば、笑顔で頷きながら返答が返ってきた。良かった。これであとはシエルが言っていた通りに竜鎖砲の部屋へと向かえば、みんなを助けられる可能性が上がる。

 

すると、その様子を見ていたペルセウスは徐にココの前に立つように近くへと寄ってくる。

 

「ココ…さっきはすまなかった」

 

「え?」

 

そして上半身を前へ傾け、頭を下げて謝罪を口にした。一瞬、何故謝られているのか理解できていないココとルーシィだったが、彼がココと会ってからの態度についてだと理解するのに時間はかからなかった。

 

かつてペルセウスは、大切な人をエドラスに奪われた。そして今、再びより多くの仲間たちを奪われようとしている。そんな国に対する憎悪や怒りで、そこに属するもの全てを敵とみなしていた。

 

だが、ココは魔力を求めるあまりに他者を顧みない国に属する者としては珍しく、近しい友の事を優先し、結果的に仲間たちを救うきっかけを与えてくれた。今も、自分たちに積極的に協力してくれている。

 

だから、けじめをつけなければと思った。レギオンと言う自分たち王国が所有する強大な生き物にも協力を仰いでくれる彼女に対して、今までの非礼を詫びないままでいるのは一人の人間としていただけないと考えたために。

 

「だから改めて、謝らせてくれ。そして、俺たちの仲間を助ける手助けをしてくれて、本当にありがとう」

 

「そ、そんな…お礼なんていらないですよう!!」

 

先程までの行動の侘びに加え、感謝までかけられて、ココは慌てて彼にそう返す。その様子をルーシィが笑みを浮かべながらただ眺めている。安心したというのもあるだろう。自分の仲間であるペルセウスが、目の前の少女と和解できたことに。

 

「……でも、ちょっと良かった。お兄さんに、敵だなんて思われなくなって…」

 

「あ~…ホントすまない…」

 

「あ、えと、そういう意味じゃなくて!!」

 

心の底から安心したように呟かれた少女の言葉に、罪悪感が少し蘇ったペルセウスが再び謝ると、何故か焦ったようにココがそれを訂正する。今の言葉が一体何の意味を持っていたのか。少しばかり首を傾げると…。

 

 

 

 

 

「だって…優しい方のシエルの、お兄さんには…悪い子って思われたく、ないなあ、なんて…」

 

 

 

「「……ん?」」

 

両手の人差し指をツンツンと合わせながら、頬を赤く染めて顔を俯かせながらも、照れくさそうな笑みを浮かべて呟いている犬顔の少女を目にして、ペルセウスだけでなく、ルーシィも思わず目が点になった。

 

優しい方のシエル…文脈から察すると、アースランドの、少年の方のシエルだろう。その際の名前の呼び方に…どこか熱が籠っているように、聞こえたような…?

 

「や、やっぱり何でもないよう!さ、二人とも!レギピョンに乗って!シエルたちのところに急ごうよう!!」

 

そんな二人の反応に気付いた様子のココは、少々慌てた様子で必死に誤魔化し、二人をレギピョンの背中へと案内しようと先んじて乗っていく。すぐさま後に続くべきなのだろうが…ペルセウスたちには、今正直それどころじゃなかった。

 

「ルーシィ…気のせいかもしれねえが、まさかココって…」

 

「あ、やっぱペルさんもそう思います?確かに、あの顔を見たら、無理もないような気もしますけど…」

 

ココのさっきの様子。明らかに今まで見ていた彼女の様子とは打って変わっていたように見えた。と言うか、あの表情は予想が正しければ完全にシエルへのそれを現わしているのと同義だ。まさかあの短い間で…?と思えなくもないが、とうの感情を向けられた少年も、一瞬で今の対象に心を奪われた存在なのだから無いとは言い切れない。

 

我が弟ながら恐ろしい男…と思うと同時に、この先に起こってしまいかねない惨事を考えると、若干気持ちが落ち込みかけた。

 

「(取り敢えず、ウェンディには絶対知らせないようにしないと…面倒な事になりそうだ…)」

 

別行動の為に何も知る由がない第一義妹候補の事を案じながら、ペルセウスはレギピョンの背中へとルーシィと共に向かった。

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

レギオン確保班が無事に事を進めている間、陽動班の作戦は結果的に失敗に陥っていた。作戦を開始しようとしていた矢先に現れたエドエルザの手によって、3人は捕えられてしまい、国王がいる竜鎖砲の部屋へと連れ込まれていた。

 

「エルザ、鍵を持ってきたというのは誠か!」

 

「破壊されたようですが、ご安心を」

 

右手には一振りの直剣とグレイが繋がれた縄、左手にはシエルとナツをそれぞれ繋いだ縄を持って捕えた者たちを引きずり、広大な空間の天井近くまで届きそうな巨大な装置…竜鎖砲のすぐそばで佇んでいた国王ファウストの問いに彼女は答える。

 

「こいつが鍵を造れます」

 

ファウストの前へ無造作にグレイを放り投げ、鍵を作れる存在だと説明をするエルザ。意識はまだ残っているらしいグレイは、どうすることも出来ない状況に悔しさを滲ませている。

 

「こやつは!?」

 

「アースランドの魔導士です。滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の仲間ですよ」

 

見慣れない魔導士の姿を見たファウストが驚きに目を見張り、それと同時に広場にあった魔水晶(ラクリマ)が消えたことに関係している事にも当たりをつける。多少の魔力を無駄にされたとも言えるが、目前に迫った永遠の魔力と比べれば些末な事。そう判断して、広場の件に関してはこれ以上深くは尋ねようとしなかった。

 

「まあよい。さっさと竜鎖砲を起動させろ」

 

その命令に従って、エルザはまずグレイの拘束の縄を剣で斬って解放。そして彼が他のおかしな真似をしないように、左手でシエルを抱えながら彼の首元に剣を突きつける。目が覚める様子はない。

 

「立て、氷の魔導士。妙な真似はするなよ。竜鎖砲を起動させるんだ」

 

やむを得なく、エルザが命令する通りに、竜鎖砲に近づくグレイ。そして、想像していたものよりも大掛かりになっている竜鎖砲を見上げた。

 

「早くしないか」

 

シエルの首元に近づけている剣を更につきつけながらグレイを促すエルザ。それに「仕方ねえか…」と悔しげに呟きながらも、両手を合わせ、氷で竜鎖砲の鍵を作り上げる。敵である国王や王国兵たちは、思わず立場を忘れてその魔法の異質さに感動の声を漏らす。

 

その様子に悪態をつきながらも、グレイは氷で作った鍵を鍵穴に差し込み、右に回して竜鎖砲の起動を行う。言われるがままにしているように見えるが、その内心、グレイはチャンスを窺っていた。

 

起動したら素早く照準を変え、滅竜魔法の力を直接魔水晶(ラクリマ)に激突させる。そうすれば、仲間を全員助けられるはずだ。

 

鍵穴がある部分から、高くそびえる竜鎖砲全体にエネルギーの光が発され始め、やがては城全体…いや、広大な王都全体が揺れるほどの振動が発生し始める。屋内にいるグレイたちには知る由もないが、竜鎖砲の発射の為に、城全体が変形を始めているのだ。マグノリアのギルダーツシフトを彷彿とさせるほどに。

 

「陛下!」

 

その時、部屋の入り口から数人の兵士たちを連れて、白衣姿の眼鏡をかけた青年が駆け足で入って来た。映像魔水晶(ラクリマ)から、グレイたちを連行していたエルザの姿を確認していた魔科学研の部長・エドシエルである。

 

「おお、シエルか!見よ!竜鎖砲は起動した!これで我らの悲願は達成されるぞ!!」

 

高揚した気分のまま、国王ファウストが自慢気にこの状況を語る。鍵は見当たらなかったはず…と怪訝な顔で呟いた彼であったが、竜鎖砲の鍵穴に刺さっている鍵が、鉄製ではなく氷で出来ているのを見て、別の魔法で作られたものだと瞬時で判断した。

 

「(成程…最悪の状況は免れ、時間をロスしたものの、計画は順調に進められていると言ったところか…)」

 

冷静に分析を続けている間にも、部屋の内部さえ変形を始め、竜鎖砲の形状も徐々に変貌していく。天井は開き、装置からは砲身のようなものが伸び始め、天高くを狙う用意を進めていく。濃密な魔力エネルギーが赤い光となって空へと放たれていき、その異様な空気を醸し出している。

 

「(照準はどうやって変えるっ!?)」

 

そしてそれが進んでいくうちに、グレイの表情には焦りが見えだした。竜鎖砲の照準を変える方法が見つからないのだ。どこで変えるのか、操作する方法は、辺りを見渡してはいるが、一向に見つからない。

 

「発射用意!!」

 

声高らかに叫ぶファウスト。このまま行けば、彼らの思う通りに仲間が武器にされ、そして奴等のエネルギーとなって消滅させられてしまう。

 

 

「ここまでだ…。

 

 

 

 

 

 

 

ナツ!シエル!」

 

「おう!!」

「ああ!!」

 

その時、突如エルザがシエルの拘束を斬り、傍らに倒れていたナツにも向けてその名を叫ぶ。それに対してどよめく兵士たちをよそに、解放されたシエルが魔法陣を展開。

 

「砂漠じゃないけど、砂嵐に注意!砂嵐(サーブルス)!!」

 

解放された少年が魔法陣から砂嵐を発生。部屋全体に行き渡るほどの規模で吹き始め、兵士たちの視界を奪っていく。

 

「火竜の咆哮!!」

 

そしてその砂嵐に向けてナツが口から炎を放出すると、直撃した砂嵐を入り混じって、その場を中心として大爆発が発生。兵士たちのほとんどが余波で紙切れの如く吹き飛ばされる。

 

「な、何が起きている…!?」

 

「(疑似的な粉塵爆発…!?いや、それよりも…あいつは…!!)」

 

唐突に起きた出来事に理解が追い付かないファウスト。起きた現象を分析しながらも、今向けるべき要点を別のところに向けるエドシエル。だが、次に発生した出来事を、この場にいるほとんどの者が予想できなかった。

 

「発射中止だーっ!!」

 

ファウストの近くにいた兵士数名を斬り伏せ、彼の背後に回って首元に剣を突きつけたのは、まさかのエルザ。魔戦部隊長のまさかの凶行に、周りの兵士は勿論混乱。ファウスト自身も突如の乱心に困惑している。

 

「エルザ!?貴様…!!何の真似だ!!」

 

「…違う…」

 

その中で唯一、魔科学研の部長のみが、この行動を起こしたエルザの正体を看破した。その呟きは周りにも聞こえたらしく、どういう意味なのかをファウストが問いかけるよりも早く、エルザの体が突如として輝き出す。そして光が収まった直後、彼女の黒いビキニアーマーは、妖精の紋章を象った鎧を身に変わっていた。

 

「私はエルザ・()()()()()()!アースランドのエルザだ!!」

 

最初から、彼女はエドラスのエルザではなかった。戦いの最中でエドラスのエルザ本人の装備を奪ったのだろう。そして彼女の姿に化け、竜鎖砲の照準変更を狙っていた。味方と思っていた人物が別人だったことで、ファウストの表情は先程とは打って変わって焦燥に満ち始めている。

 

「悪ィ、危なかった。機転を利かせてくれて助かった!」

 

「かっかっかっ!これぞ作戦D!騙し討ち(DAMASHIUCHI)の“D”だ!!」

 

「もうちょっとマシな作戦名にしようぜ…」

 

そして勿論、アースランドの魔導士たちも彼女が味方の方であると本人から聞いていた。最初はエドラスの方と間違われたことで一度ナツがぶっ飛ばされたが、その後すぐさまこの騙し討ちを利用して竜鎖砲の起動、及び照準変更のチャンスを狙っていたわけだ。

 

そして今、敵の国の王の首元に刃を添え、いつでもその命を奪える状態。多少のトラブルはあったものの、こちらにとって大いに有利な展開だ。

 

「竜鎖砲の照準を魔水晶(ラクリマ)に合わせろ!」

 

「言う事を聞くな!今すぐ撃てぇ!!」

 

剣を突きつけられながらも、竜鎖砲の発射を優先させて声を張り上げるファウスト。自分の状況を顧みず、国の為を貫いているようにも見える。

 

だがそんな彼の前に、数本の輝く矢がセットされ、それを構えていると思われる少年が、残虐にも見える笑みを彼に向けている。

 

「余計な口挟まないでくれるか王様?こいつで縫い上げちまうぞ?」

 

太陽の光で出来た矢を近くまで持っていき、今すぐにでも発射されれば無事では済まないだろう。それを目にした兵士たちは、更に動揺を走らせる。

 

「うう…」

「ど、どうする…!?」

「卑怯だぞてめーら!人質をとるなんてー!!」

 

「それがどうした?」

 

「オレたちは仲間の為なら、何だってするからよぉ」

 

国王と言う一国のトップを人質にとるアースランドの魔導士たちを非難するも、一切揺らぐことなく堂々と宣言するグレイとナツ。シエルとエルザも、一切表情を変えたりはしない。仲間を助ける為、仲間以外の全てを捨てても必ず成し遂げる。それがこの妖精の尻尾(フェアリーテイル)のとてつもない原動力の源だ。

 

「早くしないか!」

 

「……」

 

更に剣を近づけて照準の変更を促そうとするエルザ。対して兵士たちは王をとるか、繁栄をとるかで迷いを生み出している。その中で、恐らくこの場で一番の決定権を持つ魔科学研部長に、兵士たちの視線が集中する。彼に対して、どうすればいいのかと言う指示の催促にも見える。

 

「陛下。一つだけ、お伺いしてもよろしいですか?」

 

青年の問いかけに、問われたファウスト、そして周りの者たちも少なからず怪訝を抱えた表情へと変わる。どういうつもりなのだろうか。

 

「陛下は、自らの命と、この世界の未来。どちらを優先としてお考えで?」

 

「決まっておる!この世界の未来!エドラスの、永遠の繫栄だ!…ぐう!」

 

「何のつもりかは分からないが、早く照準を変更せぬか!」

 

彼が問いかけたのは今のこの状況に関する究極の二択。そしてファウストは世界を選んだ。自らの命がここで尽きようとも、王としてこの世界を栄えさせる覚悟を示した。その問いかけも煩わしく感じたエルザが再び剣をファウストに近づけるも、エドシエルは一切動じない。

 

「では陛下は…例え御身が果てようとも、エドラスが永久(とこしえ)に、魔力溢れる世界であることを望むと?」

 

「そう言っておる!やれ、シエルよ!!ワシの事などよい!撃て!!エクシードを滅ぼす為に!!」

 

長い間夢見てきた、魔力が枯れることのないエドラス。それを実現するまでに費やした長い時間をふいにするくらいなら死んでも構わない。一国の王としての覚悟は見事なものだが、臣下としては国王の命を優先して考えるべきことだろう。一部の兵士も、今に照準の変更を行おうと待機している程だ。だからこそ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「承知いたしました。陛下の御心のままに」

 

 

彼の冷たく聞こえる声で告げられたその内容に、誰もが己が耳を疑った。

 

「なっ…何っ!!?」

 

真っ先に声をあげて信じられないと言いたげな表情を浮かべたのは、国王に剣を突きつけているエルザだ。傍にいるアースランドのシエルも、ナツやグレイ、周りの全兵士に至るまで、その言葉の理解が、追いつかなかった。

 

「聞こえたな、全兵士達よ。照準変更はなし。このままコードETDを続行。巨大魔水晶(ラクリマ)をエクスタリアに激突させる」

 

「シ、シエル部長…!?」

「しかしそれでは…陛下が…!!」

 

「その陛下のご命令だ。二度も言わせるな」

 

仕えるべき主の命の危機にも関わらず、淡々とした口調で主が望む未来のために指示を飛ばすエドシエル。兵士たちにも混乱が走る。だが彼はその国王の命であると一向に譲ろうとはしない。誰から見ても、異常としか思えなかった。

 

「ほ、本気か!?国王を人質に取られて、何でそんな平気な顔でいられる!?そんな簡単に見捨てられる!?」

 

「見捨てる?違うな。陛下は自らの意思でそのお命を世界に捧げようとしているのだ。ならば、その意思に応えるのが俺の役目」

 

「そんなのは詭弁だ!王の命を…仕えるべき方を守ることが、お前たちの役目ではないのか!?」

 

エドラスの自分が、まるでいとも簡単に国王を見捨てたことに驚愕を叫ぶシエル。その問いの答えに焦燥の顔を浮かべて反論を叫ぶエルザ。特にエルザの反論は、周りの兵士たちにとっても共感できるものだろう。仕えている王の命を何より優先するのが、臣下である自分たちの役目なのでは、と言う想い。しかしその言葉を聞いてもなお、冷徹な魔科学研部長の表情に揺らぎはなかった。

 

「…何か勘違いをしているようだな。王の命を守るのが臣下の役目?何よりも、自分よりも、王を優先することが忠臣?俺は違うと断言できる」

 

竜鎖砲の操作をしている兵士たちの元へとゆっくり歩きながら淡々と告げる言葉に、周りの兵士たちはまるで彼を恐ろしいものを見るかのようにどんどん距離を離していく。だが、それにさえ反応を示さず、彼は続けた。

 

「王を守るのが臣下ではない。我々臣下の役目は、王の務め、王の望み、王の願いを守る事だ。そして今、王は自らの命を捨ててでも、このエドラスが未来永劫栄えるために行動せよと仰せだ。ならば俺は、王の望みを、夢を叶える為に行動する。それが、王の為、ひいては国のためになるのだから」

 

傍から見れば異常にも見えるだろう。だが、兵士たちの中には、彼が堂々と告げた言葉に、気付かされた者も少なからずいた。例え王が力尽きても、王の遺志を継ぐことが、国を導く力となり、道標となる。彼の言葉は、それに気付かせてくれた。

 

「安心しろ。この場で陛下の命が果ててしまった際は、その一切の責任は全て俺が負おう。俺がそう指示したと言う形にすれば、兵士であるお前たちに、一片たりと責は生じない」

 

そして、国王がこの場で命を散らすことを前提として、兵士たちには全くの責任を負わせないという旨を宣言する。国王を死に至らしめた十字架を背負う事も辞さない。そう言いたげな彼の姿勢に、最早兵士の中で反論出来る者は現れなかった。

 

「イカレてやがる…!野郎…マジで国王を見捨てるつもりかよ…!!」

 

「どいつもこいつも…何でそんな簡単に、仲間や王様を切り捨てられるんだ…っ!!」

 

彼と敵対関係にあるグレイは、国の為と言う名目で王を見捨てた彼に心の底から恐れを抱き、ナツはそんな彼の非情さを見て怒りに打ち震えていた。何よりも仲間や家族を優先する彼らとは、決して相容れない覚悟故に。

 

「本気で言っているのか!?一国の王の命を差し出して、その後の国がまともに機能すると思っているのか!?」

 

王の遺志を継いだからとて、王の望みを叶えたからとて、その後の国が安泰である保証はない。王がいなくなった後、誰が導くと言うのか。その想いを込めたエルザの叫びが木霊する。

 

「一時期は混乱するだろう。だが、自らの命をもって民の生活を確かなものに導いた陛下の功績は、後世に語り継がれる。この世界に生きる人々、一人一人が王の意志を胸に刻めば、国が滅ぶことはない」

 

だが暖簾に腕押し。エルザの主張も全く意に介さない。彼は完全に、国王よりも国の未来に比重において、ただそれを実行しようとしている。

 

「まあ、お前たちにはわからないだろう。滅びを告げられた俺たちの苦しみなど、国としての覚悟など、言葉と脅しだけを用いて、未だに陛下の命を絶とうとしない甘い考えを持ったお前たちには」

 

あまつさえ、未だにエルザがファウストの命を奪おうとしない事に対して挑発すらしてきている。殺せるものなら殺してみろ、と言いたげに。命を奪う覚悟もないからこそ、望む通りの結果に傾かないと、言外で告げられている感覚を、エルザは覚えた。

 

「くく…くっはっはっはっはっ!!そうじゃ、それでよい!!見事よシエル!まさにお前こそ、このエドラスの為に、ワシの為に最善を尽くす忠臣!!責など負わせるものか!ワシが亡き後も、おぬしのような者がおれば、エドラスは安泰!いや、おぬしこそが永遠の魔力に満ちたエドラスを導く、歴史にその名を遺す英雄となるのだ!!ワシはお前のような忠臣を持てたことを、生涯の誇りに思うぞ!!」

 

「勿体なきお言葉…恐縮至極に存じます」

 

最早ファウストに、死に対する恐怖は微塵もない。死した後も、エドラスの為に確実に動くであろう忠臣を得ていた事。そしてその繁栄の未来が約束されていることに、喜びの感情の方が勝っている。最早我らの勝利は確定。そう確信できる程に、ファウストは舞い上がっていた。

 

「(狂っている……!!)」

 

そんな彼らを眺めていたエルザの胸中に現れたのは、その一言だった。

 

「発射用意、完了しました!!」

 

「照準は?」

 

「変えておりません」

 

「よし、撃て」

 

「させるかぁーーーっ!!」

 

竜鎖砲発射の準備を進めていた兵士の一人がシエルに告げると、淡々とした口調で彼は指示を飛ばす。その瞬間、止めようと駆けだしたナツ、それに続くグレイが魔法を使って力づくでも止めようとするが、すかさず4色の珠が付けられた長杖を構えたエドシエルによって、彼らを包囲するように岩の壁が床からせりあがる。

 

「くそっ!」

「やべぇ!」

 

動きを封じられた二人。しかしエドシエルはそれに安心感を覚えず、もう一つ岩でできた壁を違う方向にせり上げる。するとその岩の壁に光で出来た矢が数本突き刺さった。

 

「防がれた…!!」

 

アースランドのシエルの光陰矢の如し(サニーアローズ)。だがまるで予知していたかのように、エドラスのシエルは防ぎきってしまった。

 

「撃てぇ!!エクシードを滅ぼせぇ!!」

 

捕らわれている立場とは思えぬほどに生き生きとしたファウストの哄笑が響く。事ここに至っては最早彼を捕らえている理由も存在しない。だが、エルザはエドシエルから言われたある内容が頭の中で鮮明に残っていた。

 

『言葉と脅しだけを用いて、未だに陛下の命を絶とうとしない甘い考えを持ったお前たちには』

 

仲間の為なら何だってするとほざきながら、命を奪う事に躊躇を示す甘い考えの奴等だと言われているようで。大事な仲間に対する感情は、そんな甘い考えが優先される程度のものであると馬鹿にされているようで。人道的に踏み入ってはいけない事だと頭で理解はしていても、剣を握り締める右手に、思わず力がこもる。

 

「(止むを得ん…!!)」

 

そしてエルザは決めてしまった。狂ったように笑いながらエドラスの未来を夢見て「エドラスに栄光あれ!」と叫ぶ国王の首に、その直剣の刃を押し込もうとする。

 

「(エルザ…!!)」

 

その様子を、シエルは焦りを顔に現わして横目で見ている。せめて、仲間を危険に晒した元凶の首を取る。そう考えついたのかと心で思いながら、シエルは改めて前方にいる別世界の自分へと視線を向ける。

 

「……えっ?」

 

だが、その視線を向けた途端、シエルは己の目を疑った。何故なら…彼の表情は…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「スカーレットォーーッ!!!」

 

その時、空間の天高くから、聞き覚えがある、だが決して違うその声を耳にした。怒りと憎しみに燃えるようなその怨嗟の叫びと共に、己と同じ髪と顔をした存在へと、槍を振るう。

 

エルザだ。今度こそ、エドラス側のエルザ・ナイトウォーカーが、ここにきて乱入してきた。勢いよく振り下ろした槍に対処するため、ファウストにかけようとしていた刃を防御に移す。

 

その時、誰かが何かを呟いたような…小さい声が耳に入ったが、気にしている余裕はなかった。

 

「陛下の拘束が解けた!」

「好機だ!このまま発射しろ!!」

 

「撃てぇーーい!!」

 

まさかこのタイミングで。そうエルザが思ったのも束の間、とうとう発射された竜鎖砲。竜骨の頭を彷彿とする弾丸と、その首の下が骨のような鎖となっているその砲撃は、竜の咆哮のような雄叫びと共に舞い上がり、巨大な魔水晶(ラクリマ)が存在する浮遊島の土台へと噛みつくように突き刺さった。

 

「接続完了!!」

 

「エクスタリアにぶつけろォーー!!」

 

 

「やめろーーーっ!!!」

 

事態は最悪。何一つとして好転しなかった竜鎖砲を使った作戦。このまま、仲間の体が戻ることなくその命を散らしてしまうのか。

 

 

 

 

 

 

そんな絶望が頭に過った瞬間、部屋の壁が突然何かによって破壊された。

 

「みんなー!!乗って!!」

 

その何か…青い体に頭には二本の巨大な角、大きな二対の翼を持った巨大な生物。シエルは見覚えがあった。王国軍が使用している生き物、レギオンだ。

 

そんなレギオンから、何故かルーシィの声が聞こえてくる。

 

「ルーシィ!ナイスタイミング!!」

 

「る、ルーシィだと!?あれが!!?」

 

「お前…こんな姿になっちまったのか!?」

 

「ゴチャゴチャ言ってないで早く乗って!!」

 

連れて来たと思われる少女に目星がついていた為、すぐさまシエルは乗ろうと駆けだす。事情を知らないエルザはただ困惑していたが、何故か話を聞いていたはずのナツも、どこかボケに感じる反応を示して、実際には背中に乗っていたルーシィが怒りながら乗り出してきた。

 

「何故あの小娘がレギオンを…!?」

 

突如現れたレギオンに乗った見知らぬ少女。ファウストの困惑も最もだ。だが、そのレギオンを操る者の正体は、ルーシィのすぐ後ろに乗っていた。

 

「私のレギオンです!!」

 

「ココ……!!」

 

唯一アースランドの味方をしているココ。ルーシィ、ペルセウスと共に確保班として動いていた面々が合流してきたのだ。

 

「聞いていた作戦と違うが、何があった!?」

 

「ごめん、色々と誤算が生じて…!!」

 

「んなこと今はいいから、止めに行くぞ!!」

 

計算外の事が生じまくって、予定が大幅にずれてしまったが、今は考えている余裕はない。ココの指示を聞いて飛び上がったレギピョンは、そのまま竜鎖砲が繋げられた浮遊島が向かう先、エクスタリアへと向かいだす。

 

レギオンの勢いは誰にも止められず、狼狽える兵士たちをよそに飛び立っていく。

 

「とにかく今は…激突を止めなきゃ、絶対に!!」

 

「うおーーーっ!!急げぇーーー!!!」

 

繋がれてしまった破滅の鎖。仲間の命か、世界の繁栄か。アースランドとエドラスの、二つの世界をかけた激突は、最終局面へと向かっていた。




おまけ風次回予告

ナツ「魔水晶(ラクリマ)はゼッテーぶつけさせねえ!絶対止めてやんぞぉ!!」

シエル「みんなの命もかかってるし、危険を承知でエクシードを助けに行ったウェンディの気持ちも、無駄にさせない!!」

ナツ「仲間も、ネコたちも、全員守り切らねえと意味がねえんだ!やるぞ、シエル!!」

シエル「当たり前だ…!あいつらの好きにさせてたまるかってんだ!!」

次回『故郷を守るため』

シエル「王国軍も自分の国のために戦ってるって言うなら…」

ナツ「オレたちはオレたちの家族のために戦う!!」

シエル「……けど、(あいつ)は…本当に国のため…?」

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