ライダーは生前やりたい放題やった自覚はある。それでも、願いが尽きないのが人の性というもの。受肉して、また暴れたいものだ。
「そう言いつつも、ライダーは割と既に好き勝手やってるよね」
「そうですか?あ、あとこれどうぞ」
ライダーはアカツキにビニール袋に入った何かを渡してくる。中には名状しがたい寿司のようなものが入っている。
「…何これ?」
アカツキは大概の物、それこそポリバケツの残飯なども食べられる自信はある。とはいえ、そうしたものを食べることに対して多少なりとも嫌悪感はある。
彼の第六感が目の前の寿司は残飯以上にやばいものであるとアラームを鳴らしていた。
「日本と言ったら、寿司!ということで、自分なりに朝海岸に落ちていたイカを拾って握ってみました」
「ねえ、ライダー。死んでから時間たった動物はやばいんだよ?バカな俺でも、知ってることなんだけど」
「大丈夫です。イカにはきちんと火を通しましたから」
アカツキは寿司らしきものをしげしげと眺める。米は近くの放棄されたスーパーのレンチンご飯を適当に火で温めたもので、冷たいところや逆に焦げている部分がある。そして、イカからは濃厚な淀んだ海の香りがする。
正直に言って、キツイ。これほどワサビと醤油を渇望したことはあっただろうか。
「そこまで言うならば、隗より始めよ、ということで。食レポしてみます」
ライダーは口に一気に放り込む。暫く彼は寿司を咀嚼していたが、徐々に険しい顔になっていく。
「なんですか、これ?米はボロボロ崩れるし、イカは固くて噛めば噛むほどイカの食べられないところみたいな味がする。…すいません、マスター。水を一杯ください」
「俺、マスターなんだけど。自分でいれなよ」
というか、イカの食べられないところみたいな味とは何だよと思う。烏口のことだろうか?しかし、そんな部分を食ったら口の中で出血大サービスが起きるだろう。
アカツキはいろいろ頭で突っ込みながらも、水筒から水(流石に煮沸してある)をコップに一杯入れて渡す。
「ありがとうございます…。げほっ、げほっ、おえーっ」
「ええ…」
「飲みこみました」
「マジか」
どう考えても、モノを飲み込む音ではなかったと思う。少なくとも、ライダーと同じ轍は踏むまい。アカツキは海岸からの物体Xを見て、決心する。
「マスター、これは食べない方がいいですよ」
「どの口が利くんだ」
アカツキは寿司をゴミ山に投げ捨てる。食べ物を粗末にしないというのは彼の信条だが、多分、烏やネズミが代わりに食ってくれるだろう。
「口の中が深き者みたいな匂いがしますねえ。お茶かなんかで洗い流せればいいんですが」
「うん、臭いね」
ひどい臭いだ。ライダーからはいつも吸入している粉末のせいか、独特のにおいがするが、今日はそれに輪をかけて酷い。
「マスターの朝ごはんも用意できてませんし…。セイバーあたりにたかりに行きますか?」
「別にいいよ。一食くらい抜いても問題ないし、それに借りを作りすぎるのはあまり好きじゃないんだ」
それに実のところアカツキはキリエのことがあまり好きでなかった。というよりも、彼はセイバー陣営のことが理解できなかったのだ。こういう物言いはあまりよくないが、すんでいる世界があまりに違う。
「こんにちは!!!」
後ろから、明るい声が突如として掛けられる。アカツキが振り返ると、目がしいたけのように光り輝き、そしてライダー以上にライダーらしい少女がいた。要は頭のねじが一本残して全て外れている。
「貴方方、もしかしてサーヴァントとそのマスターですか?テンション上がっちゃいます!」
「良く話しかける気になったね」
「そこのお嬢さんは意識が天国に到達しているんじゃないですか?」
ライダーの場合、向かう先は地獄だろうか?もしかしたら、アカツキ自身も地獄にいる可能性があるが、それを真面目に検討していては日が暮れるだろう。
「ところで、貴方のお名前は?」
「あっ、私吉川糸美といいます!時計塔は現代魔術科の出身です!」
話を聞くに、彼女はロードなる人物の制止を振り切って聖杯戦争に参加しに来たらしい。話を聞くに、一足遅かったようだが。
「それでですね、ちょっと悩みがありまして」
「私は説教師ですよ。悩み、聞きますよ?」
恐ろしいことに、ライダーは説教師をやっていた経歴がある。正体を知るアカツキからすると、これは人類史上最大のジョークだ。
「興味深いですね!手ぶらで時計塔に変えるわけにもいかないので、ちょっと貴方がどんな人生を送ってきたとかそういうこと聞きたいです!」
「素晴らしい高速詠唱ですね」
ライダーは苦笑しながら話す。彼は一応は呪術的な心得がある故に、多少はそういう話は理解できる。
やれと言われても今は、できはしないのだが。
「教えるのはやぶさかではないですが…。一つ条件があります」
「なんですか?私のできる範囲なら、何でもやりますよ!」
「ん?今なんでもするって」
「ライダー、ステイ」
アカツキは雑にライダーを手で制する。吉川はライダーの守備範囲から外れているが、まかり間違ってストライクゾーンだった場合、割と洒落にならないことになる。そのうちそういうことが必要になってくるかもしれないが、流石に白昼堂々そう言うものを見る趣味はない。
ライダーは冗談ですよ、と言って笑う。そして彼はしばし考えた後、手のひらを叩く。
「思いつきました」
「おっ、なんですか!」
「お茶とご飯をください」
吉川に崩れかけたビルの中に案内される。
「わあ」
「どうですか?すごいでしょう!」
ビルの中は外観と全く違った。その部屋の素晴らしさにアカツキは思わず声を上げる。彼は教養というものを持ってないと自覚するがゆえに、うまく説明できる気がしない。だが、貴族の家があるとするならば、そんな感じなのだろうと思う。
黒檀で作られた椅子と机。それから、小さいながらも愛らしいこげ茶のピアノ。それから、石造りの暖炉とその上の真鍮で縁取られた古い鏡。そして、机の上に置かれたボーンミルクの磁器に入れられた香り立つお茶と、バターをたっぷりに使ったスコーン。見る人が見れば、そこにある物品の値段の高さに仰天しただろう。
「魔術師ってのは金持なんだね」
アカツキはスコーンを早速齧りながら話す。なかなかの味だ。
「あれっ。驚くのそこですか!?」
吉川は不満げに話す。確かに外と一瞬にして風景が変わったことは驚くべきことなのだろうが、アカツキは理解できないことは意図的に考えないようにしてきた。考えてもわからないことは、他の人間に考えてもらったほうがいい。
「これは中々に高度な結界ですね」
吉川の顔がパアッと、それこそ音が聞こえてきそうなほど明るくなる。
「そうでしょうそうでしょう!私実は結界作成には少しばかり自信がありまして。小川マンションなるところの記録を参考にここを作ってみたんですよ!それで、実はそこに行ったことのある人に」
「よくわかんないけどさ。それで、ここの結界って何の役に立つの?」
アカツキはうんざりした様子で話しを遮りながら話す。恐らく、ここは建物をステルス化させる何かがあるのだろう。多分、普通の人間から隠れる分にはここは非常に有用だ。だが、相手は魔術師とサーヴァントという超常の相手。どこまで、こうした仕掛けが通用するかわからない。
「失敬な!ここは、私の許可した人間以外は入れないようになってるんですよ!」
「ライダー、本当?」
自信満々な吉川をよそにアカツキはライダーに尋ねる。
「…まあ。私の使っていた魔術基盤と違うので下手なことは言えませんが」
「俺、難しいことは分かんないから。簡単に言って」
「ここを廃墟と誤認させる魔術がありましたね?霊格が低いとはいえサーヴァントの私でも騙されました。それだけで、この結界は異常と言えます」
ライダーも対魔力を持ってるが、ランクは低い。しかしそれでも、サーヴァントの身で騙されるとなると余程である。
「ドイツ最強の剣士を呼び出せる触媒を起点にこの結界を作りましたからね!…あーあ。私もサーヴァント欲しかったなあ。アカツキさん、ライダー譲ってくれません?」
「やだよ。それに触媒だっけ?俺持っているし」
「本当ですか!?それを言い値でいいので売ってくれませんか?」
「それ、ダジャレ?寒いよ?」
アカツキと吉川の微妙にかみ合わない話を聞き流しながら、ライダーは考える。本来はマスターたるアカツキが拠点たる工房を作るのだろうが、しかし彼が魔術師でない以上それは期待できない。ライダーもこのクラスだと、工房を作るにはいささか力が足りないだろう。
ならば、ここを拠点にできるならそうしたい。これ以上の工房を作れる人間はそういないだろう。それだけで自陣営のアドヴァンテージになる。その旨を吉川に伝えると、彼女は喜色満面になる。
「寧ろ、こちら側がライダーさんたちに留まってほしいっていうか。生のサーヴァントを見られるなんて、興奮しますわー!」
「その言い方はなんか、気持ち悪いですね。…まあありがとうございます」
存外、吉川がこちらの意見を飲んでくれたことは意外だが、荒事がないならそれに越したことはない。
「ああ、後、お願いなんですが」
「他陣営を連れ込まないでほしいってことですよね?本当に、ほんっとうに残念ですけど、ここから通りがかる人たちを見るにとどめます…」
「ありがとうございます。その代わり、貴方の身柄は保証します」
まあ、切羽詰まったらその限りではないが。そうならないことをとりあえずは祈っておこう。
「うん?よくわかんないけど、この中にいる限りは敵襲はなくて、ついでにここを拠点とするとかそういう話でいいんだよね?」
アカツキがそう尋ねる。ライダーはそうであると口を開く。
「そこの宣教師さん曰く、そういうことらしいわね」
エプロンドレスの少女が、お茶を飲んでいた。
「なかなか良い茶葉ね。美味しいわ」
唖然とするライダー、アカツキと吉川をよそに、少女はお茶を上品に啜る。
「初めまして。私はライダーと申します」
ライダーはスカートの裾をつまんで、それらしく挨拶をする。作法に不調法はないはずなのだが、どうにも胡散臭く感じられる。
「マスターのアカツキ。ライダーの格好は気にしないでくれ」
「待ちなさい。君たちもこういう衣装は好きだろう?」
「ええ、大好きです!」
吉川は日本人というのに桃色がかった白髪に大きな紅いリボン、そしてカラーコンタクトでも入れているのか碧い瞳である。如何にも頭の弱そうな格好だが、似合っているのが腹ただしい。
「面白いことを言うのね。私は、アサシンよ。でも、エスと呼んでくれたほうが嬉しいわ」
彼女はライダーと同じように挨拶を返す。
「いいところのお嬢さんでしたか…。それで。我々に何か用でも?」
ライダーの目が細く、そして狩りをする獣の目に変わる。アカツキはそれを見て、不安を感じ声をかける。
狩りをするにしても、最低限の礼儀と作法は必要なのだ。...まあ、これもいざとなればチリ紙のごとく破り捨てることになるのだが。
「マスター。今はしませんよ」
「そう?ならいいけど」
ライダーは首を振り、吉川を一瞬流し目で見る。どうやら、彼女も同じ考えのようだ。即ち、目の前のエスと名乗る少女はアサシンにしては異常な点がある。気配遮断を持っているとはいえ、ハサンですら工房への潜入は難しいケースがある。
なのに、彼女は誰にも気づかれずにここにいた。彼女の機嫌が悪ければ、皆殺しになっていてもおかしくなかっただろう。
機嫌を損ねずに、しかし彼女の素性を聞きださなければならない。
「質問です。アヴェンジャーとフォーリナーについて何か知っていますか?そして」
「なぜ、一人かを教えてくれませんか!」
アサシンは顎に指を手を当てて、しばらくして彼女は口を開く。
「アヴェンジャーは知らないけど…。白い騎士がそろそろ倒しに行くんじゃないかしら?」
「それは重畳」
難所は強い相手にどうにかしてもらい、最後の成果をかすめ取ればいい。
「フォーリナーなら…。私の女王が知っているかもね。でも、居場所は教えてあげない」
女王という聞きなれない言葉にライダーは違和感を覚える。
「女王っていうのはマスターのこと?」
アカツキは問う。
「女王と私は表裏一体。彼女は私で、私は彼女」
魔術に疎いアカツキはともかく、ライダーと吉川も理解不能といった様子である。仮に女王をマスターとして解釈するとして、マスターの一部がサーヴァントと解釈できてしまう。
無論、類似したケースはかつて冬木でのアーチャーと一部マスターや、アメリカでの真キャスター陣営などがある。しかしいずれもサーヴァント側はどのような形であれ、いずれも死んだ人間であった。
要するに。
「貴方はまだ生きている人間なんですか?」
アサシンは薄く笑む。
「…それとも。マスター殺しをしたのですか?」
表裏一体。同じ"場所"にいると解釈するならば、その意味は…。
瞬間、アサシンの幼い顔が強張る。
「それは決してないわ。でも、そうね。私と戦えばわかるかもしれないわ?なんだか、激しい描写も少ないし」
ライダーはアサシンをまじまじと見る。その瞳は美しく、年不相応の賢さを湛えていた。彼は成程、と一人合点する。
「いえ、私は遠慮しておきます。これでも、私は子供たちの英雄でね」
「あら、素敵な人ね」
「生前の所業を考えると人でなしだけどね」
「アカツキさん、そんなこと言っちゃダメですよ!英雄は多かれ少なかれ影があるんですから!」
ライダーはやれやれといった風に首を振り、アサシンはおかしそうにくすくすと笑う。
「私、そろそろお暇するわ。他に聞きたいことはあるかしら?」
彼女はお茶のカップを静かに置く。
「そうですね。じゃあ、一つだけ。よく考えてから行動したほうがいいですよ。君からは危険な雰囲気を感じる」
案に魂喰いや部外者を襲うなとくぎを刺す。実のところ、ライダーはこう見えてアサシンを割と、いやかなり気に入っているのだ。
「ルーラーが見張り、善なるものが多い。それ以外の陣営は未だ影の中を動いている」
彼はセイバー程度しか会っていないが、地上に在って真っ向勝負で彼女に勝てる相手はそこまで多くないだろう。そも、あのステータスだけを見て、それだけで戦意を喪失する相手も多いだろう。そして、彼女はセイギの騎士様だ。悪には容赦しないだろう。
「悪いことはしないことですね」
「貴方、あの鼠色のおじさんみたいなに面白いことを言うのね」
アカツキとライダーはまた、誰だろうかと首をひねる。だが、アサシンは彼らの疑問を意に介する様子はない。
「でも、善悪なんて人によって変わる物じゃないかしら?」
禁止されていることを敢えて肯定するか、それともそれでも便利なものとして扱うか。それは、確かに究極的には主観でしか決められない類の物だろう。
「一般常識で考えた方がいい。ここは現代日本だよ?」
「魔術師は常識にとらわれてはいけないのですよ?」
「ちょっと黙っていて。もしかして、あんまり頭良くないの?」
アカツキは流石に苛立ったように話す。だが、吉川はそれを分かっていないようだ。そして、それはアサシンも同じらしい。
「一般常識とか頭がいいとかそんなこと、貴方の話でしかないじゃない。せっかく私は枠から外れられたのだから、思う存分楽しくいきたいわ!だから、踊りましょう!アカツキさん!」
アサシンは楽しげにスカートの裾を以てくるくると回る。そして、器用にライダーや吉川を避けて、アカツキの目の前に立ち、上目遣いで微笑みかける。
「悪いね。俺は鉛玉とダンスしたことしかないから、遠慮しておくよ」
「あら、つれない」
アサシンは甘い吐息を漏らしながら、残念そうに、しかしなおも笑う。
「第一、枠から外れるってどうするのさ?」
さっきは知らないうちに侵入を許したが、今度は問屋が卸さない。
アサシンは小馬鹿にしたような表情をする。
「あら?貴方はできないの。じゃあ。よーく見ておいてね。向こう側の世界へDIVE!」
そういうと同時に、彼女は暖炉の上の鏡に向かって走り出す。
瞬間、鏡の表面が波打ち、彼女の姿は消えていた。
「どういうことだ?」
銀盤の湖面は波打つことはもはや無い。アカツキは吉川を非難の目で見る。
「そんな目で見られたって困りますよー!そもそも、あいつアサシンなんですか!」
「本人がそう言っていたんだから、そう解釈するしかないじゃないか」
言い争いを見かねたライダーが割って入る。
「…申し訳ないが吉川さん。間借りさせてもらう身で言うのは何ですが、鏡は取り外しましょう」
そして、結界の改造も必要だろう。そうでなければ、アサシンの侵入は防げまい。吉川はそれを聞いて、右手を頭の前に持ってくる。
「りょーかいです!一日で警備を完璧にして見せましょう!」
ライダーは満足げに頷く。
「そして、マスター。我々は情報収集に行きましょう」
今回のアサシンとの接触でわかったのは、やはり情報が足りないということだ。
「この戦争は何か隠されている気がします」
「そうだね」
アカツキも、その点には同意しているようだ。
「ということで我々は早速ですが、探索に出ます」
すでに食事は終えている。動き出すにはいい頃合いだろう。
「わかりました!ラインのID教えるので、帰ってきた時はお願いしますね!」
吉川はスマートフォンを取り出し、アカツキを友達登録する。魔術師がいかに守旧的とはいえ、ここまで科学が発展しては最新技術を使えなければ話にならないのだろう。
「じゃあ、行ってくるから」
「気をつけてくださいねー!」
ライダーたちの二日目が始まる。
キャラクター名:吉川糸美
時計塔所属の魔術師。セッションだと宗教学科所属の大学生だった。
能力:見えない結界を張る能力
次ターン移動フェイズ中に公開で宣言し1行動を消費して発動。
この移動フェイズ中任意の場所は立ち入り禁止となり、新たに陣営が入ることが出来な(令呪を使用して移動した場合を除く。陣営一つにつき一画消費)。
執筆者からのコメント
セッションだと熊の人形を殴りつつ、歌いながら結界を張るヤベーやつでした。とはいえ、そこまでキャラが立っていて出番があまりないというのは少しもったいない気がしたので、レギュラーに格上げしました。
ただ、セッション時と比べてマイルドになってしまった気も...。