Fate/abnormalize   作:Zinc3125

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初戦闘です。


二日目 夜:大墓公

 鈴村和彦はかつて聖杯戦争に参加し、かけがえのない仲間を得、狂える罪人を討ち、蕃神に挑み、そして敗北した。

 蕃神との戦いは友も恋人も全てを殺し、東京全てを吹き飛ばした。後に残ったのは、傷ついた自分と変質してしまった己のサーヴァント、そして蕃神のみである。

 彼は今でも敵の最後の言葉を思い出せる。

『いつか、戻ってくる』

 蕃神はそう言って、彼の目の前から消えた。

 その日から、彼の人生において自由という要素は消え去った。ひたすらに復讐のため、生きる毎日。蕃神が恐らくはまた東京に混沌を齎すということだけではない。単純に、彼の友人を踏みにじるような真似をした蕃神が許せなかったからだ。

 それゆえ鈴原は一つ、誓約を自らに立てた。勝つために、正義という甘さを捨てると。蕃神は狡猾で強大だ。それゆえ、綺麗事を言って手段を選んでいるようでは、負けて当然なのだ。

 そのことを阿弖流為、つまりはかつてのセイバーにして今のアヴェンジャーに話した時のことも覚えている。

『貴君はそれでいいのか?』

『問題ないさ。それに、僕らはあの事件のせいでかなりのダメージを負っている。…それこそ、十年かかっても癒えることが無いようなね』

『…承知した』

 それからだ。阿弖流為が時々悲しげな顔をするようになったのは。それでも鈴原は問題なかった。阿弖流為は変質しても鈴原のことを感情面においても、現実的な面においてもよく理解し、時として箴言をくれたからだ。それに、彼と話している時は、辛い記憶と自分の背負った責任感から逃れることができた。

 だから、東京で二回目の聖杯戦争が始まっても、鈴原はそこまで前途について心配していなかった。

 

 水夫服の少年と白亜の騎士に出会うまでは。

 

 少年の、視点が狭いながらも真っ直ぐな性格と、擦れた部分がありつつも彼を守らんとする剣士。彼らの幼く、不器用な、しかしそれでいて初々しい関係は鈴原にかつての仲間と郷愁を思い起こさせるには十分であった。

 

『在りし日の貴君に似ている』

 

 阿弖流為はそう言った。直前に鈴原はセイバーとキリエを見て羨ましいと吐いたが、しかしアヴェンジャーの発言で自らの言った言葉の意味をやっと理解する。

 

 郷愁が動悸に変わる。

 

 かつて決別したはずの自分。それが、また戻ってくる。即ち、それは自分が”悪”という強さを手放そうとしていることを意味する。

 これでは蕃神への復讐をするどころか、別の参加者に殺されかねない。実際、使い魔の探知によれば、ルーラーは他参加者に鈴原と阿弖流為の討伐を命じたようだ。彼等への対策も行わなければならない。

 有難いことに、風は鈴原の方に吹いているようだ。

 丁度今日の朝、初老の禿頭の男と音楽家の少年を一人ずつ捕まえることができた。彼らを阿弖流為の”餌”にすれば、短時間とはいえ魂喰いの補正を得ることができるだろう。

 そう、得ることができるのだが…。

「…」

 鈴原は気絶させた男二人を前に、何もできないでいた。阿弖流為が見かねたかのように話しかけてくる。

「貴君。あまり、こういうことを言いたくはないのだが、そこまで自分をいじめることはない」

「自分をいじめている?」

 鈴原は青筋が立つのを覚える。その怒りは、阿弖流為に向けられたものか。はたまた、自分に対するものか。

「無理なんかしてない。…阿弖流為。彼らを」

 しかし、鈴原は最後の言葉を未だ言い出せない。一旦咳払いをする。

「喰え」

 絞り出すような声。

 阿弖流為は男二人に近づき、だが立ち止まる。

「最後に聞く。本当に、いいのか?」

「それは」

 鈴原の答えは轟音と閃光にかき消される。

 

 彼が見たのは天から降ってくる、赤熱した神罰であった。

 

「今の一撃で恐山さんと天枯さんがお亡くなりになってないといいのですが…。ランサー、どうですか?」

 無論の事、志村は恐山と天枯を殺す気はない。彼はアヴェンジャーを"暗殺”できないかと考えたのだが...。これは牛刀を以て鳥を割くような真似だったらしい。

 彼はそれはそれとして、双眼鏡片手に、ワイヤレスイヤホンと同期したスマートフォンを通じてランサーと話す。

『サスガニツチボコリガハゲシスギテワカランナ。モウスコシマテ。タンチデキタラレンラクスル』

「早めに頼みますよ」

 彼がランサーから恐山と天枯の位置を特定したという連絡を受け取ったのは、セイバーと神宮で会う直前であった。神宮に向かわず、直接アヴェンジャーを叩きに行くべきかどうかは迷ったのだが、今の状況を考えるとセイバーと同盟を組んでよかったと思っている。

「セイバーさん。ランサーからの連絡と向うの工房次第ですが」

「アヴェンジャーへの陽動を行う。そういう話だったな」

 恐山と天枯が生きていることを確認できたならば、セイバーがランサーの支援砲撃の下、アヴェンジャーを陽動し、護衛達に救助に向かう。博打に近い作戦だが、アヴェンジャーの相手はセイバーくらいしかできないし、まかり間違ってランサーの砲撃が味方に当たってしまう可能性も考えなければならない。

「それで、貴方とキリエはどうする?」

 セイバーはキリエから囁かれたランサーの真名を思い出す。

(神の杖…)

 彼女は生前類似した兵器を見たことがある。強力なのは確かだが、地上にいる人間を防衛するのは無理に等しい。仮にアサシンの襲撃などがあったら、セイバーが陽動に出ている以上、キリエたちはなす術が無いだろう。

 かといってキリエを下手に連れていくのは、負担が大きい。

「私は、ここで待機しておきます。年のせいで、そこまで動ける自信もありませんしね。キリエ君はどうしますか?」

「俺はセイバーと一緒に行く」

 彼は決めたのだ。戦争とはどういうものかということを知らなければならないと。そのためには多少の危険は仕方ない。

「…私はお前を必ずしも守れない」

「ちょっとした怪我くらいなら、治癒魔術で何とかできるぜ。戦闘ならば、強化魔術で何とかなるだろ」

 セイバーは頷く。キリエの強化魔術は中々のものだ。いくつかの聖遺物などを使ったのだろうが、セイバーは彼の強化魔術で宝具を強化してもらっている。サーヴァント相手に効果を出すほどの代物なのだ、自身に使えばかなりの威力を見せるだろう。

「なら、大丈夫そうですね。…さて、そろそろ土埃が晴れる頃ですが。ランサー、どうですか?」

『…ミウシナッタ』

「何?」

 志村は動揺しつつも、すぐさま護衛に周囲に固まり防衛するように指示を出す。生きているならば、大方土埃に紛れて身を晦ましたのだろう。そうなると、相手がこちらへ奇襲をかけてくることは十分考えられる。分散していては各個撃破されて終わりだ。彼の判断は成程、正しい。

 

 相手が人外でなければ。

 

 集まりだした護衛の輪の中に、人の首が投げ込まれる。他の護衛の一人が、首を検分しようと走り寄って近づくが。

 彼は次の瞬間、首の下を残して紅い噴水になっていた。

 

「ああ、クソ。未だに、人が死ぬのを見るのは慣れない」

「貴君は無理して前線に来なくてもいいのだぞ」

「お前は僕がそう言う奴だと知っているだろう」

「それもそうだな」

 悪態と豪快な笑い声。先ほどまで護衛がいた大きな門の前に、鬼と青い髪の青年が立っていた。

「鈴原さんと…。アヴェンジャー」

 キリエは鈴原とアヴェンジャーに話しかける。鈴原は不愉快そうに顔をゆがめる。

「久しぶり。君は何だか正義ぶったことを言っていた奴じゃんか」

 鈴原の顔は返り血で汚れ、凄惨な様子だ。蒼く染めた髪と表情の様子から、それはアヴェンジャーよりも異形に感じられる。

 キリエは怯むが、踏みとどまる。

「俺もセイバーも正義とは一言も言ってないぜ」

「私は必要なことを必要な時にやるべきと言っただけだな」

 セイバーは出来るだけ話を長引かせようとする。キリエの顔は青く、周囲の護衛もさすがに動揺がまだ抜けきっていない様子だ。まともに動けるのは志村くらいであろう。こんな状況で戦闘に入ったならば、総崩れになりかねない。

 鈴原は、そんな彼女の思惑を見透かしたのだろうか。鼻で笑う。

「君は、しかし汚れた仕事をする気はないだろう?」

「…どういうことだ」

 セイバーは聞き返す。彼女は人殺しは平気でやる。戦争なのだ、それくらい出来ず、何とする。

「貴方方は勝つために魂喰いに手を出した。そこまでして勝ちたいということですかね。まあ、私は貴方の真意がわかりませんし、理解する気はありませんが」

 志村は呆れたように話す。彼にその気はないのだろうが、表情と相まって,その発言は煽りに聞こえる。実際、鈴原もそうとったようで、ますますその顔を憎々しげに歪める。

「汝ら、自らを日ノ本と呼称する土地の人間は他者を理解しようとせず、拒絶する」

「そもそも鬼と人間の間に理解もクソもないはずだがな」

「は、は。ははははは」

 アヴェンジャーは突如として笑い出す。その笑みは、鬼らしく心の芯から人を凍り付かせるようなもののはずなのだが。

 セイバーにはどこか、悲しみとも嘲りとも取れる奇妙な、しかし非常に人間らしいものを垣間見た気がした。

「汝、光の王よ。我がどう見えている?」

「…鬼だ。マスターも含めて人を喰らおうとする鬼」

 セイバーは繰り返す。

「成程確かに、我は鬼かもしれない。だが、それは汝らの認識によって歪められたものなのだ。我はともかく我が主を単なる”悪”と切って捨てるのは許さん」

 鬼は腰に佩いた身の丈程もある大太刀を構える。

「なあ、最後に一つだけいいか?」

 キリエは無論、戦いが不可避なのは理解している。これは最期の対話になるであろうことも。

「昨日の朝に会ったときも、そんなこと言っていたね。まあいいさ。冥土の土産として答えてあげよう」

 キリエはわざわざ感謝の意を述べてから、質問する。

「鈴原さんが言っていた、”悪”ってなんだ?そんなに、自分も毒に浸かりきらないと倒せないような相手なのか?」

「…しつこい奴だね。僕の所業から考えてみなよ」

 鈴原もそこまで言って、臨戦態勢に入る。言葉は尽くし、もはや不要ということらしい。

 それを見て、セイバーも剣を構える。

 

「これが、戦争…」

 キリエは、生唾を飲み込み。深呼吸を最後にする。それは戦争を知り、セイバーの隣に並び立つため。

 

「同盟を組んでいたっていいさ。戦おう、そうしよう、もとより、阿弖流為はそう言う奴だから」

 鈴原は顔をさらに歪ませ、指をつきつける。それは過去の自分を殺し、決別をつけるため。

 

「戦いの火蓋を切り、地獄の窯を開けましょう」

 志村はただ哄笑する。それは目の前の青年を殺し、次なるビジネスをつかむ第一歩とするため。

 

「「「さあ、戦争を始めよう」」」

 

 先手をとったのは同盟側だった。ランサーの砲撃が地を穿つ。

『タカガカミヨノエイユウイッピキ、ワガケンイニハカナワン』

 それは、黙示録の再現。人が人を罰するために生み出した、神罰の代行者。その砲撃は流れ星によく似て、赤黒く染まった大地に更に傷をつける。

 砲撃によって舞い上がる埃と硝煙の白い霧の向こうから志村の護衛達が突撃してくる。

「…無駄なことをするな」

 アヴェンジャーは呟く。

 護衛達の銃撃は決してサーヴァントに致命傷を与える一撃とはなりえない。それは単純に人の扱う武器がサーヴァントを傷つけるに足るだけの神秘を持ってないからだ。しかし、何事にも例外というのはある。

『ハタシテ、ムダカナ?』

 ランサーの砲撃はアヴェンジャーでなく、マスターたる鈴原に向けられていた。鈴原はかつて聖杯戦争に参加していただけあり、すんでのところで避け続けるがしかしアヴェンジャーに指示を出せる状況ではない。

「貴君、大丈夫か!」

 当然、アヴェンジャーは鈴原に降りかかる砲撃を防いだりするが、当然防戦一方である。

 そして、これこそが護衛達の狙いだった。

「そこだ…!」

 アヴェンジャーの動きが一瞬止まり、刹那、護衛達の弾丸が胸に叩きこまれる。本来なら、血の一滴も流れないはずだが…。

「成程。そういうことか」

「どうですか?我が護衛、”聖歌隊”の練度は」

 志村は誇らしげに言う。彼の護衛はただの護衛ではない。多くが、元代行者である。流石に埋葬機関の出身者は存在しないが、それでも数があればサーヴァントに対して防衛戦くらいはこなせる。

 そして、そこに標的を変えて、容赦なく叩き込まれるランサーの砲撃。

「悪くない…。だが、それだけだ」

 アヴェンジャーは独り言ちる。実際、彼の傷はそこまで大きくはない。当然の話だろう。やはり人間程度の扱う神秘では傷をつけるのは難しい上、代行者は死徒との戦闘のエキスパートであってサーヴァントとのそれではない。しかも、歴史の蓄積がある死徒と違ってサーヴァントと戦ったことのある人間は少なく、有効打を繰り出すことが難しい。

「それでも、私に傷をつけたことは称賛に値するが」

 アヴェンジャーは砲撃を交わしながら、護衛達を称賛する。彼は5、6メートルはあろうかという、ビルの廃墟を易々と飛び越え、鈴原の前へと移動する。今は鈴原を狙っていないとはいえ、やはりここは人の身には危険すぎる。

「貴君は一旦捕えてきた人々の元に戻り給え。あそこなら安全だろうし、彼らを守れるのは貴君しかいない」

「…迷惑をかけて、すまないな」

 鈴原は短く話すと、すぐさま踵を返して走り出す。

「これくらいの危機は何度も潜り抜けてきただろう。我と貴君は。…だから」

 アヴェンジャーはランサーの砲撃を大太刀で以て一刀の下、切り捨てる。

「汝らは一切皆殺しである」

「…!ランサー、撃ちなさい!」

 ランサーは更に砲撃を浴びせかけるが、アヴェンジャーはあたかも舞のように、華麗にランサーの砲撃を落としていく。その姿には余裕すら感じられる。

「大方、我らの奇襲によって作戦を変えたのだろうが。それで、ここまで追い込められるとは思わなかった。…田村麻呂の様だ」

 実際、形勢が逆転しても護衛達は志村の指示の下、ランサーと連携してアヴェンジャーへの攻撃を続行していた。

 だが、しかし。頼みの綱はもはや意味がなく、蝦夷の大英雄の前には追い込まれるしかない。

 護衛の幾人かは既に動けないほどの傷を負っている。戦線崩壊も時間の問題であろう。さしもの志村は脂汗をかいている。

 脂汗?

 果たして、彼がそんなものを意味なくかくだろうか?

 

「なあ、知ってるか?アヴェンジャー」

 少年の言葉が響き渡る。

「ヒーローは遅れてやってくるんだぜ」

 

 赤く染まった大地と黒い空を切り裂いて、青白い衝撃がアヴェンジャーに走る。

「漸く来たか」

 どうやら、先ほど此方がやったことをやり返されたらしいとアヴェンジャーは気づく。セイバーは砲撃に紛れ隠れていたようだ。

アヴェンジャーはしかし、セイバーの突撃をいなし、逆に彼女に対して切りかかる。

「さすがに読まれていたか」

 蒼い大剣と赤く染まった大太刀の間で火花が散る。

「ずいぶん安く買われたものだ。これでも我は北国全てを率い、朝廷に一度は勝利した人間なのだ」

 そうは言いつつも、アヴェンジャーはこの戦いで初めて焦りというものを覚えていた。セイバーの膂力は神代の人間たるアヴェンジャーを越えている。しかも、志村はさっきまでの怯えた表情から、いつもの余裕を持った態度に戻っている。なんという狸だろうか!

「ともあれ、形勢逆転だな」

 セイバーが蹴りを股座に入れようとするのをアヴェンジャーは体をひねってよけようとするが、体勢を立て直した護衛達とランサーの援護によって上手くかわせない。

 結局、腿に蹴りが当たる。

 その隙をセイバーが見逃すわけがない。

「その首、貰い受ける!」

「甘いっ!」

 阿弖流為は咆哮と共に剣圧で護衛の銃弾を吹き飛ばし、あろうことか砲弾すら吹き飛ばす。そして、それで飛ばされるのはセイバーもまた例外ではない。

 また、敗北への予感が志村を襲い、彼を疲労が襲う。

 だが、アヴァンジャーは構えを解かず、じっと土埃を睨みつける。

 

 淡い光が周囲に漂い、蒼い爆発が起こる。

「流石に、今のは痛かったな」

 土埃を払い、セイバーは立ち上がる。

「それは那羅延天の加護か?」

 物理的な衝撃はともかく、軽くとは言え神代の呪詛をも込めた一撃を受けて無傷だとは!

 セイバーは首を軽く鳴らしながら、面倒くさそうにアヴェンジャーに答える。

「そんなものは少なくとも、この私にはない。ただ、魔術も魔法もすでに私の時代では殆どが科学が征服していたからな。物理への強さに関して言うと、十分の一くらいはマスターのおかげだな」

 崩れたコンクリートの壁からキリエが顔を出し、緊張した様子ながら笑顔で親指を立てる。

「成程な。ならば、なおさら汝らを倒さなければならん」

 言葉は少ない。鉄の雨の下、凄惨なる斬り合いがまた始まる。

 しかし、本当に奇妙なことだが、殺し合いの中に在ってアヴェンジャーの心は戦いと別の方向を向いていた。先ほどの焦りがそうさせたのだろうか?いや、それもあるが、また別の種類のものだ。そう、それは...。

「…汝、汝は本物の化身でないならば、何のために戦っている?」

 何とも単純な疑問。ランサーからの砲撃がある故に、その言葉は半ば独り言である。

「弱き者を守るために。そして、かつて失われたものを取り戻すために」

 あり得ないはずの回答。そして、それはアヴェンジャーの心へと微かな声で、しかし確かに届く。

 それを聞いて、アヴェンジャーは微笑む。

「似た者同士、か」

 鬼と呼ばれたときは流石に血管が切れそうな程度には怒りを覚えたが、しかし昨日池袋で会ったときの予感は正しかったらしい。

 仮に、別の形で会えれば鈴原の良き友人となったことであろう。

 

『阿弖流為、やはり心配だ。今地上に戻ってきた。…苦戦しているのか?』

 念話で鈴原から連絡が来る。動揺しているようだ。そこら辺は初めて会ったときから変わらないな、と苦笑しつつアヴェンジャーは回答を返す。

『ああ、誠に残念なことに。どっちにしろ、中々手強い相手だ。だが、彼らを倒すことが出来れば優勝はぐっと近づくと貴君に言っておこう』

 彼は宝具開帳を暗に要求する。仮に発動すれば、恐らくはランサーとセイバーを分断できるだろう。

『わかったよ。…勝つぞ』

 念話が切れると同時に、五体に力が漲ってくるのを感じる。ご丁寧に令呪まで使ってくれたらしい。

 

「空暗く」

 アヴェンジャーはセイバーの剣戟を受け流しながら突如として何事かをつぶやきだす。

「戦火十年に渡り」

「志村、ランサーに更に砲撃をするよう言ってくれ!」

 セイバーは異常に気付いたようで志村に叫ぶが、激しい戦いの中でこれが届いたかどうかは怪しい。

「国破れ」

 だが、それは向うとて同じだ。話しながら剣を振るい、息をするのは体に負担がかからないわけがない。セイバーはここぞとばかりに攻め立てる。

「河紅く染まり」

 にもかかわらず、アヴェンジャーは詠唱をやめない。

「血類既に亡く」

「今度こそ首を頂く!」

 セイバーは渾身の力でアヴェンジャーの頭に向けて剣を叩き込む。だが、剣はアヴェンジャーに届くことはない。代わりに、彼女が見たのはアヴェンジャーの勝利を確信した笑顔だった。

「只、桜其処に在り」

 

 瞬間、アヴェンジャーから黒い光が噴出し、世界全てを塗り替えていった。




マスター:鈴原和彦

筋力:D
耐久:B
敏捷:C
魔力:D
幸運:B
体力:20

令呪2画

マスタースキル

聖杯戦争経験者:D
セッション時だと"緑目の怪物"。サーヴァントに等倍のダメージを与える。
英雄点に+5

暗殺技法:C+
セッション時だと"転落(パラダイス・ロスト)"。交戦フェイズ中に相手前衛に対し、奇襲攻撃を行える。

過ぎ去りし過去:C-
セッション時だと"聞く耳持たず"。善属性を持つもの全てに対し、物理防御と魔法防御に+3。

願い事
かつての仲間を奪った蕃神に復讐すること。
セッション時だと、全ての人間が自分に従う世界を作ることだった。

執筆者からのコメント

セッション時とかなり設定が変わっているキャラクターです。セッションだと彼は殺人鬼であり、触れたものを転移させる能力を持っていました。性格も好きなものの第一に絶望する表情が来る辺り、悪役らしい悪役だったと思います。
一方で小説だと手段を選ばない部分はあるものの葛藤するシーンを入れたり、かつての仲間に郷愁を感じたりと、それなりに善人っぽい感じになっています。
個人的にはセッションと小説の差は、仲間と出会ったことだったことなんじゃないかと勝手に妄想しております(つまり、根本だとあまり変わっていない説)。

制作者からのコメント

コンセプトは才能を追い求め続けてやんでしまった人間。セッションだと最初にヘイトを集める役です。何もかもに嫉妬してしまう、消えてしまえばいいのにという情動をキャラにした奴であり否定されることが前提のキャラ。
丑御前とのつながりは「生まれが悪かった」と「育ちが悪かった」って所ですね。
異常な環境で育ってないごく普通の力に溺れた青年だったって話は頭の中にあったけど出したかは謎。
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